説明

希土類元素の回収方法

【課題】高価な薬剤や溶媒等を使用することなく、効率的にかつ高い回収率で希土類元素を回収することができる希土類元素の回収方法を提供する。
【解決手段】希土類元素を含有する水溶液に硫酸イオン以外の水溶性塩類を共存させ、次いで、アルカリ金属硫酸塩を添加して希土類元素の硫酸複塩沈殿を生成させる。水溶性塩類は、水和して上記希土類元素を含有する水溶液中の自由水を低減させることが可能な塩類であり、塩化物、過塩素酸塩、塩素酸塩、臭素酸塩、臭化物、過ヨウ素酸塩、ヨウ素酸塩、ヨウ化物、硝酸塩から選択される1種以上で、2価の陽イオンを有する塩類で、塩化ニッケルであることが好ましく、その陰イオン濃度として4〜10mol/lで共存させる。アルカリ金属硫酸塩は、硫酸ナトリウムであることが好ましく、添加することにより水溶液中の硫酸イオン濃度を50g/l以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類元素の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類元素は、電子配置が通常の元素とは異なるために物理的に特異な性質を有し、水素吸蔵合金、二次電池原料、光学ガラス、強力な希土類磁石、蛍光体、研磨材等の材料として利用されている。
【0003】
特に、近年では、希土類−ニッケル系合金が高い水素吸蔵能力を有すことからニッケル水素電池の負極材の原料として多量に使用されるようになってきており、希土類の重要度は以前にも増して高くなってきている。
【0004】
しかしながら、希土類はほぼ全量輸入に頼っている現状があり、またニッケル水素電池等の成形品には寿命があるため、それらスクラップ品から高価な希土類元素を効率的に回収する方法の確立が望まれている。
【0005】
希土類元素の回収方法としては、一般的に、希土類元素を含有したスクラップを鉱酸等の酸に溶かした水溶液から回収する湿式法が知られており、この湿式法には溶媒抽出法と沈殿法がある。
【0006】
具体的に、希土類元素を相互分離して各々の元素に分離する場合には溶媒抽出法による精密分離が用いられる(例えば特許文献1参照)。しかしながら、希土類元素は化学的な性質がよく似ているため、溶媒抽出の装置には多くの段数を必要とする。また、有機溶媒を使用するため、火災等に配慮した設備を必要とすることや、排水中のCOD(化学的酸素要求量)が上昇して排水処理の強化が必要になる等、コストが増加する傾向がある。
【0007】
一方、ミッシュメタルのような、含有される希土類元素が複数存在し相互に分離する必要がない場合には、安価に回収できる沈殿法が工業的に利用しやすい。この沈殿法には、蓚酸沈殿で回収する蓚酸沈殿法(例えば特許文献2参照)や、希土類硫酸塩とアルカリ硫酸塩との硫酸複塩沈殿を生成して回収する硫酸複塩沈殿法(例えば特許文献3参照)が知られている。
【0008】
しかしながら、蓚酸沈殿法の場合には、排水中のCODが高くなり、上述した溶媒抽出法と同様に排水処理のコストが高くなる傾向がある。
【0009】
一方で、硫酸複塩沈殿法では、蓚酸沈殿法と異なり排水中のCODを上昇させない。しかしながら、この硫酸複塩沈殿法では、重希土類元素の溶解度が極めて高いために十分な回収が困難であること、また、軽希土類元素についても溶解度が高く、液中に少なくとも0.0n(g/l)のオーダーで残留し、完全に除去することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平07−026336号公報
【特許文献2】特開平09−217133号公報
【特許文献3】特開平09−082371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、高価な薬剤や溶媒等を使用することなく、効率的にかつ高い回収率で希土類元素を回収することができる希土類元素の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上述した目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、希土類元素を含有するスクラップ等を塩酸等で溶解した水溶液に硫酸イオン以外の水溶性塩類を共存させた上で、アルカリ金属硫酸塩を添加して希土類元素の硫酸複塩沈殿を生成させることにより、効率的に高い回収率で希土類元素を回収できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明に係る希土類元素の回収方法は、希土類元素を含有する水溶液に硫酸イオン以外の水溶性塩類を共存させ、次いで、アルカリ金属硫酸塩を添加して該希土類元素の硫酸複塩沈殿を生成させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高価な薬剤や溶媒等を使用することなく、軽希土類元素、重希土類元素ともに、効率的にかつ高い回収率で回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】アルカリ金属硫酸塩の添加による液中硫酸イオン濃度に対する液中の希土類元素濃度(残留濃度)の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る希土類元素の回収方法の具体的な実施形態(以下、本実施の形態という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない限りにおいて適宜変更することができる。
【0017】
本実施の形態に係る希土類元素の回収方法は、例えばニッケル水素電池や電子機器のスクラップ品等を溶解させて得られた希土類元素含有水溶液から、高価な薬剤や溶媒等を用いることなく、効率的にかつ高い回収率でその希土類元素を回収することを可能にするものである。
【0018】
具体的に、この希土類元素の回収方法は、希土類元素を含有する水溶液に硫酸イオン以外の水溶性塩類を共存させ、次いで、アルカリ金属硫酸塩を添加してその希土類元素の硫酸複塩沈殿を生成させることを特徴とする。
【0019】
希土類元素を含有する水溶液は、重希土類元素や軽希土類元素を含有する、例えば塩酸酸性の水溶液である。より具体的には、例えば、重希土類元素や軽希土類元素を含有する電池や電子機器等のスクラップ品を硫酸以外の鉱酸、具体的には塩酸等で浸出して得られた浸出液を用いることができる。なお、例えば塩酸等により塩酸酸性溶液とした場合においても、その塩酸濃度としては0.0n(mol/l)オーダーであり、後述する水溶性塩類の共存時における水溶性塩類の陰イオン濃度等には寄与しない。
【0020】
水溶液中に含有され回収の対象となる希土類元素としては、特に限定されるものではなく、例えば、希土類元素のうち重希土類元素としては、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)等を挙げることができる。
【0021】
また、希土類元素のうち軽希土類元素としては、スカンジウム(Sc)やランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)等を挙げることができる。
【0022】
本実施の形態に係る希土類元素の回収方法では、この希土類元素を含有する水溶液に、硫酸イオン以外の水溶性塩類を共存させる。そして、このように希土類元素を含有する水溶液に硫酸イオン以外の水溶性塩類を共存させた上で、後述するようにアルカリ金属硫酸塩を添加して希土類元素の硫酸複塩を生成させる。このような回収方法によれば、高価な薬剤や溶媒等を使用することなく、効率的に高い回収率で希土類元素を回収することができる。
【0023】
ここで、希土類元素を含有する水溶液に硫酸イオン以外の水溶性塩類を共存させることによって高い回収率で希土類元素を回収することが可能となる原理について説明する。
【0024】
まず、希土類硫酸複塩(MLn(SO))の溶解度は、溶解度積Ksp(定数)=[M][Ln][SO](M:アルカリ金属、Ln:希土類)で表され、硫酸複塩の溶解度は、[M]、[SO]の上昇(濃度上昇)により低下する。
【0025】
しかしながら、従来行われている硫酸複塩沈殿法では、上述した溶解度積により、水溶液中に残留する希土類元素の濃度を低下させるには限度があった。すなわち、水溶液中からほぼ完全に希土類元素を回収することができなかった。
【0026】
これに対し、本実施の形態に係る希土類元素の回収方法では、上述したように、水溶液中に硫酸イオン以外の水溶性塩類を共存させる。このことにより、その水溶液中においては、共存させた水溶性塩類の溶解に対して水溶液中の自由水、すなわち他の物質やイオン等と結合していない水が使用されるようになる。すると、水溶液中の自由水が低減され、その後のアルカリ金属硫酸塩の添加により希土類元素の硫酸複塩生成反応が生じると、生成される硫酸複塩は見かけ上少量の水に溶解するのと同じこととなり、水溶液に対する硫酸複塩の溶解度が低下することになる。このように、本実施の形態においては、硫酸イオン以外の水溶性塩類を共存させることにより、水溶液中の自由水を低減させることが可能となる。そしてこれにより、硫酸複塩の溶解度を著しく低下させ、効果的に硫酸複塩沈殿を生成させて高い回収率で希土類元素を回収することができ、水溶液中の希土類元素の残留濃度を低減させることができる。
【0027】
希土類元素を含有する水溶液に共存させる水溶性塩類としては、硫酸イオン以外のものであれば特に限定されないが、上述した原理を考慮すると、水和して水溶液中の自由水を低減させることができるものである。その中でも、溶解度が高いこと、電離度が高いこと、電離生成したイオンへの水の配位数が高いこと、硫酸複塩を分解しないこと、を満足する水溶性塩類が好ましい。すなわち、水と配位し易いという点で、溶解度が高い塩類であることが好ましく、イオンの数だけ水和するようになるため、電離度が高く水溶液中でイオンとなり易い塩類であることが好ましい。また、多くの水と配位することができるという点で、水の配位数が大きいイオンに電離する塩類が好ましい。さらに、硫酸複塩を分解しない塩類であることにより、生成された希土類元素の硫酸複塩を効果的に回収することができる。
【0028】
特に、上述した性質を有する水溶性塩類として、塩化物、過塩素酸塩、塩素酸塩、臭素酸塩、臭化物、過ヨウ素酸塩、ヨウ素酸塩、ヨウ化物、硝酸塩から選択される1種以上であることが好ましい。これらのような水溶性塩類を共存させることにより、水溶液中の自由水を効果的に低減させることができ、生成される硫酸複塩の溶解度を低下させて高い回収率で希土類元素を回収することができる。なお、塩化物である塩酸は、希土類元素の硫酸複塩の溶解度を高める作用をする可能性があるので、水溶性塩類として塩化物を用いる場合には塩酸以外のものとすることが好ましい。
【0029】
また特に、上述した水溶性塩類のうち、水溶液中の自由水の脱水力が高く、希土類元素の硫酸複塩を分解しない陽イオンを有する塩類を用いることが好ましく、具体的には2価の陽イオンを有する塩類を用いることが好ましい。例えば、2価の陽イオンとして、Ni、Co、Cu、Mn、Fe、Zn、Cd、Ca、Mg等を有する水溶性塩類を用いる。これらの2価の陽イオンは、水和力が高いため水溶液中の自由水と水和して、その自由水を効果的に低減させることができるとともに、生成した硫酸複塩を分解することがない。1価の陽イオンの場合では、水和力が低く、一方で3価以上の陽イオンの場合では、別の硫酸複塩を形成して希土類元素の硫酸複塩を分解する可能性がある。
【0030】
水溶性塩類は、水溶液中において、その陰イオン濃度として4〜10mol/lで共存させることが好ましい。共存する水溶性塩類が陰イオン濃度で4mol/l未満の場合では、水溶液中の自由水を低減させる効果が乏しくなる。一方で、共存する水溶性塩類が陰イオン濃度で10mol/lを超える場合は、その水溶性塩類の溶解自体が困難となる。
【0031】
なお、水溶性塩類を水溶液中に高濃度に共存させる、例えばその陰イオン濃度として上述した4〜10mol/lの範囲のうちでも高濃度に共存させる場合には、特に溶解度の高い水溶性塩類を用いることが好ましい。具体的には、例えば水溶性塩類として塩化物系の塩類を用いる場合を例にすると、NiClよりもLiCl、CaCl、MgCl等の溶解度の高い化合物を用いることが好ましい。これにより、水溶性塩類の溶解を適切に行うことができ、所望とする濃度に調整することができる。
【0032】
以上のようにして希土類元素を含有する水溶液に硫酸イオン以外の水溶性塩類を共存させると、次に、その水溶液にアルカリ金属硫酸塩を添加して硫酸複塩生成反応を生じさせ、希土類元素の硫酸複塩の沈殿を生成させる。
【0033】
アルカリ金属硫酸塩の添加量としては、特に限定されないが、上述したように、希土類硫酸複塩(MLn(SO))の溶解度が溶解度積Ksp(定数)=[M][Ln][SO]で表され、硫酸複塩の溶解度は[M]、[SO]の上昇により低下する。このことから、アルカリ金属硫酸塩の添加量を多くすることにより、硫酸複塩の溶解度が低下して、水溶液中に残留する希土類元素の濃度を効果的に低減させることができる。
【0034】
特に、希土類元素として重希土類元素と軽希土類元素とを含有した水溶液に対しては、アルカリ金属硫酸塩を硫酸イオン濃度として27g/l以上となるように添加することが好ましい。軽希土類元素の溶解度は重希土類元素の溶解度に比して低い。そのため、アルカリ金属硫酸塩を添加すると、まず軽希土類元素の硫酸複塩生成反応が起こって硫酸複塩の沈殿物が生成される。しかしこのとき、アルカリ金属硫酸塩を硫酸イオン濃度として27g/l以上となるように添加することにより、生成された軽希土類元素の硫酸複塩の沈殿物に重希土類元素が共沈するようになる。このように、アルカリ金属硫酸塩を硫酸イオン濃度として27g/l以上となるように添加することによって、軽希土類元素と重希土類元素との共沈殿物を形成させることができ、軽希土類元素だけでなく重希土類元素も硫酸複塩の沈殿物として一括して効果的に回収することができる。
【0035】
また、アルカリ金属硫酸塩の添加量に関しては、希土類元素を含有する水溶液に硫酸イオン濃度として50g/l以上となるようにアルカリ金属硫酸塩を添加することがより好ましい。これにより、軽希土類元素に関しては、略完全に硫酸複塩の沈殿物として回収して水溶液中の残留量を無くすことができるとともに、重希土類元素に関しても、軽希土類元素の硫酸複塩に共沈させて約9割以上の高い回収率で回収することができる。
【0036】
なお、アルカリ金属硫酸塩を硫酸イオン濃度として100g/lより高い濃度となるように溶液中に添加させても、それ以上に回収率の向上はほとんどない。したがって、経済性の観点も考慮すれば、アルカリ金属硫酸塩の添加量の上限値は、硫酸イオン濃度として100g/l以下とすることが好ましい。
【0037】
本実施の形態に係る希土類元素の回収方法においては、上述のように、アルカリ金属硫酸塩を添加する前の水溶液において、硫酸イオン以外の水溶性塩類を共存させて水溶液中の自由水を低減させている。したがって、このような水溶液に対して上述したような添加量となるようにアルカリ金属硫酸塩を添加することにより、硫酸複塩の溶解度が低下した状態で硫酸複塩が生成されることから、より効果的に非常に高い回収率で希土類元素を回収することができる。
【0038】
添加するアルカリ金属硫酸塩としては、特に限定されるものではなく、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等を用いることができる。その中でも、操作性が良好である等の利便性が高いという観点から硫酸ナトリウムを用いることが好ましい。また、アルカリ金属硫酸塩は、固体状のものを添加することに限られず、上述した添加量となるように調整したアルカリ金属硫酸塩を含む水溶液を添加するようにしてもよい。
【0039】
また、本実施の形態に係る希土類元素の回収方法では、アルカリ金属硫酸塩を添加することに限られず、硫酸アンモニウム塩や硫酸アミン塩等を添加してもよい。このように、硫酸アンモニウム塩や硫酸アミン塩等を用いた場合でも、硫酸イオン濃度として上述した所定濃度となるように添加することにより、高い回収率で効果的に希土類元素を回収することができる。
【0040】
アルカリ金属硫酸塩を添加して希土類元素の硫酸複塩を生成させるにあたり、その水溶液の温度条件としては、特に限定されない。ただし、アルカリ金属硫酸塩を添加して反応させた後の溶液中の残留希土類元素濃度と水溶液の温度とは、負の相関関係がある。そのため、高い温度の水溶液中で反応させることが好ましい。これにより、より効果的にかつ効率的に、希土類元素を回収することができる。
【0041】
具体的には、水溶液の温度条件として、50℃以上とすることが好ましく、80℃以上とすることがより好ましい。このように水溶液の温度として50℃以上、より好ましくは80℃以上に昇温して硫酸複塩生成反応を生じさせることにより、水溶液中の希土類元素を高い回収率でかつ迅速に回収することができる。なお、水溶液を100℃を超える温度とした場合、熱源や設備投資のコストが高まり工業的には実用的ではない。そのため、水溶液の温度の上限値としては、100℃以下とすることが好ましい。
【0042】
また、希土類元素の硫酸複塩生成反応においては、アルカリ金属硫酸塩を添加した後に攪拌操作を行うことが好ましい。攪拌操作は、希土類元素の硫酸複塩生成に重要な操作であり、特に水溶液中に重希土類元素と軽希土類元素とを含有する場合においては、上述した軽希土類元素の硫酸複塩に対する重希土類元素の共沈を促進させることができ、軽希土類元素、重希土類元素ともにより高い回収率で回収することができる。
【0043】
具体的に、攪拌時間としては、特に限定されないが、20分以上攪拌することが好ましく、60分以上攪拌することがより好ましい。
【0044】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係る希土類元素の回収方法は、希土類元素を含有する水溶液に硫酸イオン以外の水溶性塩類を共存させ、次いで、アルカリ金属硫酸塩を添加してその希土類元素の硫酸複塩沈殿を生成させる。このような希土類元素の回収方法によれば、水溶液中に共存させた水溶性塩類によって水溶液中の自由水が低減され、アルカリ金属硫酸塩を添加して生成される希土類元素の硫酸複塩の溶解度を効果的に低下させることができる。これにより、高価な薬剤や溶媒等を用いることなく、効率的にかつ高い回収率で希土類元素を回収することができる。
【0045】
また、この希土類元素の回収方法では、硫酸イオン以外の水溶性塩類を共存させた希土類元素含有水溶液に対して、特に、アルカリ金属硫酸塩を硫酸イオン濃度として50g/l以上となるように添加することにより、軽希土類元素、重希土類元素ともに、より高い回収率で効果的に回収することができる。
【0046】
この希土類元素の回収方法は、上述したように、例えば電池や電子機器等の希土類元素を含有する使用済み製品について、これを例えば塩酸等で浸出して得られた浸出液を対象として行うことができる。そして、その浸出液に硫酸イオン以外の水溶性塩類を共存させてアルカリ金属硫酸塩の添加による硫酸複塩沈殿を生成させることで、使用済みの電池等から、低いコストでかつ複雑な処理を行うことなく、高い回収率で希土類元素を回収することが可能となり、産業上の利用価値は極めて高い。
【0047】
なお、本実施の形態に係る希土類元素の回収方法は、上述した実施の形態に限定されるものではない。
【0048】
例えば、上述した希土類元素の回収方法において、アルカリ金属硫酸塩の添加に併せて、種晶として希土類元素の硫酸複塩沈殿物を水溶液中に予め添加しておくようにしてもよい。このようにして、希土類元素を含有し硫酸イオン以外の水溶性塩類を共存させた水溶液に希土類元素の硫酸複塩沈殿物を種晶として添加して硫酸複塩生成反応を生じさせることで、その種晶に基づいて新たな硫酸複塩沈殿が生成するようになるので、より効率的に高い回収率で希土類元素を回収できる。特に、水溶液中に重希土類元素と軽希土類元素とを含有する場合には、種晶を添加しておくことにより、軽希土類元素に比して溶解度の高い重希土類元素の共沈を促進させることができ効果的である。
【0049】
また、希土類元素を含有する水溶液が、重希土類元素と軽希土類元素とを含有する水溶液である場合には、その水溶液中の軽希土類元素の重希土類元素に対するモル数の比率(軽希土類元素のモル数を重希土類元素のモル数で割った値)が3以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましい。これにより、軽希土類元素の硫酸複塩沈殿に重希土類元素をより効果的に共沈させることができ、軽希土類元素、重希土類元素ともに、その回収率を高めることができる。
【実施例】
【0050】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
軽希土類元素としてランタンを含有し、重希土類元素としてイットリウムを含有する水溶液200mlを用いて試験を実施した。具体的には、ランタン濃度が25mg/l、イットリウム濃度が72mg/lである塩酸酸性水溶液を用いた。また、水溶液中に水溶性塩類としてNiClを、ニッケル濃度が150g/lであり、塩化物イオン濃度としては5.1mol/lとなるように溶解させた。
【0052】
次に、この水溶液の液温が80℃となるように昇温し、80℃になった時点で水溶液中の硫酸イオン濃度が50g/lになるように硫酸ナトリウムを添加し、攪拌機で十分に混合しながら、希土類元素の硫酸複塩沈殿を生成させた。その後、5Cの濾紙を用いて固液分離を行い、濾液を回収した。
【0053】
(実施例2)
軽希土類元素としてランタンを含有し、重希土類元素としてイットリウムを含有する水溶液350Lを用いて中規模試験を実施した。具体的には、ランタン濃度が7mg/l、イットリウム濃度が14mg/lである塩酸酸性水溶液を用いた。また、水溶液中に水溶性塩類としてNiClを、ニッケル濃度が200g/lであり、塩化物イオン濃度としては6.8mol/lとなるように溶解させた。
【0054】
次に、この水溶液の液温が60℃となるように昇温し、60℃になった時点で水溶液中の硫酸イオン濃度が60g/lになるように硫酸ナトリウムを添加し、攪拌機で十分に混合しながら、希土類元素の硫酸複塩沈殿を生成させた。その後、5Cの濾紙を用いて固液分離を行い、濾液を回収した。
【0055】
(比較例1)
軽希土類元素としてランタンを含有し、重希土類元素としてイットリウムを含有する水溶液280Lを用いて試験を実施した。具体的には、ランタン濃度が330mg/l、イットリウム濃度が6000mg/lであるpH1の硫酸水溶液を用いた。この比較例1では、実施例1及び実施例2とは異なりNiCl等の水溶性塩類を共存させなかった。
【0056】
次に、この水溶液の液温が80℃になるように昇温し、80℃になった時点で水溶液中の硫酸イオン濃度が60g/lになるように硫酸ナトリウムを添加し、攪拌機で十分に混合しながら、希土類元素の硫酸複塩沈殿を生成させた。その後、5Cの濾紙を用いて固液分離を行い、濾液を回収した。
【0057】
下記表1に、実施例1、実施例2、及び比較例1の濾液中のイットリウム濃度及びランタン濃度を示す。なお、始液中のイットリウム濃度及びランタン濃度については、各実施例及び比較例において異なっているため、始液中の希土類元素の含有量から希土類元素の硫酸複塩に分配された率を回収率として試算した。また、各希土類元素の分析にはICP分析法を用いて行った。
【0058】
【表1】

【0059】
希土類元素を含有する水溶液に硫酸イオン以外の水溶性塩類を共存させた水溶液を用いた実施例1及び実施例2においては、軽希土類元素であるランタンの回収率だけでなく、重希土類元素であるイットリウムの回収率も高い値を示した。特に、塩化物イオンが多量に溶け込んだ水溶液を用いた実施例2では、重希土類元素のイットリウムの回収率が96%と著しく高くなった。
【0060】
一方、希土類元素を含有する硫酸水溶液を使用した比較例1においては、軽希土類元素の回収率は95%と高い値であったものの、実施例1及び実施例2と比較するとその回収率は低下しており、また、濾液中に残留している軽希土類元素であるランタンの濃度は、実施例1及び実施例2と比較して50〜100倍程度高い値となり、希土類元素が残留し易い結果となった。
【0061】
また、比較例1では、重希土類元素であるイットリウムの回収率が21%と極めて低い値が示され、高いイットリウム回収率を示した実施例1及び実施例2との回収率の差は歴然であった。また、そのイットリウム残留濃度も260mg/lとなり大量に残留した。
【0062】
以上の結果から、希土類元素を含有した水溶液に硫酸イオン以外の水溶性塩類を共存させた状態でアルカリ金属硫酸塩を添加することによって、従来のように希土類元素を含有した硫酸水溶液に対してアルカリ金属硫酸塩を添加する場合と比べて、希土類元素の回収率を大幅に高めることができ、水溶液中の残留する希土類元素の量も効果的に低減できることが分かった。
【0063】
(実施例3)
実施例3では、上記実施例1と同様にして希土類元素を含有する水溶液を調整し、水溶液の液温が80℃となるように昇温した。そして、この水溶液に対して、アルカリ金属硫酸塩である硫酸ナトリウムの添加量を硫酸イオン濃度として20g/l〜70g/lとなるようにそれぞれ変化させて添加し、攪拌機で十分に混合しながら、希土類元素の硫酸複塩沈殿を生成させた。その後、5Cの濾紙を用いて固液分離を行い、濾液を回収した。
【0064】
得られた濾液中におけるイットリウムとランタンの残留濃度を測定し、各硫酸ナトリウムの添加量に対する残留希土類元素の濃度の推移を調べた。図1に、残留濃度の測定結果を示す。
【0065】
図1に示される結果から分かるように、硫酸イオン濃度で50g/l以上となるようにアルカリ金属硫酸塩を添加することによって、軽希土類元素であるランタンをほぼ完全に硫酸複塩の沈殿物として回収して水溶液中の残留量を無くすことができ、重希土類元素のイットリウムについても約9割以上の高い回収率で回収できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素を含有する水溶液に硫酸イオン以外の水溶性塩類を共存させ、次いで、アルカリ金属硫酸塩を添加して該希土類元素の硫酸複塩沈殿を生成させることを特徴とする希土類元素の回収方法。
【請求項2】
上記水溶性塩類は、水和して上記希土類元素を含有する水溶液中の自由水を低減させることが可能な塩類であることを特徴とする請求項1記載の希土類元素の回収方法。
【請求項3】
上記水溶性塩類は、塩化物、過塩素酸塩、塩素酸塩、臭素酸塩、臭化物、過ヨウ素酸塩、ヨウ素酸塩、ヨウ化物、硝酸塩から選択される1種以上であることを特徴とする請求項2記載の希土類元素の回収方法。
【請求項4】
上記水溶性塩類は、2価の陽イオンを有する塩類であることを特徴とする請求項3記載の希土類元素の回収方法。
【請求項5】
上記水溶性塩類は、塩化ニッケルであることを特徴とする請求項4記載の希土類元素の回収方法。
【請求項6】
上記水溶性塩類を、その陰イオン濃度として4〜10mol/lで共存させることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項記載の希土類元素の回収方法。
【請求項7】
上記アルカリ金属硫酸塩を添加することにより水溶液中の硫酸イオン濃度を50g/l以上にすることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項記載の希土類元素の回収方法。
【請求項8】
上記アルカリ金属硫酸塩は、硫酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項記載の希土類元素の回収方法。
【請求項9】
上記希土類元素の硫酸複塩沈殿を生成させる際、上記水溶液の温度を50℃以上として反応させることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項記載の希土類元素の回収方法。

【図1】
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