説明

希土類化合物熱光変換システム

【課題】熱源から光エネルギーを直接取り出し可能で、また、前記熱源として低温度廃熱を用いることが可能な希土類化合物熱光変換システムの提供。
【解決手段】希土類化合物を環境下の常温よりも高い温度まで加熱し、5d軌道に集まった電子を、該軌道よりも低いエネルギー準位で空席のある4f軌道に遷移させることにより両者のエネルギー差に相当する光エネルギーを取り出すシステムで、光エネルギーが紫外線であることを特徴とする。光エネルギーを取り出した後に温度が下がった希土類化合物を、放冷等により環境下の常温程度まで温度を低下させ元の状態に戻し、これを再度加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は希土類化合物の熱光変換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外線領域の発光デバイスとしては、ZnO、GaN等多くの化合物がある(非特許文献1,2)。また、熱からエネルギーを取り出す方法として、熱を電気に変換する熱電素子が存在する。
【非特許文献1】Solid State Communications, Vol.103,No.8,pp.459−463,1997
【非特許文献2】NATURE VOL 386 27 MARCH 1977 pp.3549
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来の発光デバイスの化合物からは、該化合物の温度変化により熱エネルギーから光エネルギーを直接取り出すということはできなかった。また、上記従来の熱電素子は、本発明とは原理が異なり、発光はしないし、また、200℃以下では使用できてない。
本発明は、上記従来技術では不可能であった、熱エネルギーを光エネルギーに直接変え得る、また、100℃乃至200℃程度の低温度廃熱から、有効にエネルギーを取り出し得る希土類化合物の熱光変換システムを提供することを解決すべき目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1発明の希土類化合物熱光変換システムは、
希土類化合物を環境下の常温よりも高い温度まで加熱し、5d軌道に集まった電子を、該軌道よりも低いエネルギー準位で空席のある4f軌道に遷移させることにより両者のエネルギー差に相当する光エネルギーを取り出すシステムである。
したがって、第1発明の希土類化合物熱光変換システムによれば、希土類化合物を加熱して該化合物の温度を変化させたとき起こる、電子のエネルギー準位間の遷移を利用して、光エネルギーを直接取り出すことができる。
第2発明の希土類化合物熱光変換システムは、
第1発明の希土類熱光変換システムにより光エネルギーを取り出した後に温度が下がった希土類化合物を、放冷、空冷、水冷またはペルチエ素子等と組み合わせた方法により、環境下の常温程度まで低下させて希土類化合物を元の状態に戻し、これを再度加熱して5d軌道に集まった電子を4f軌道に遷移させることにより両者のエネルギー差に相当する光エネルギーを取り出すシステムである。
本発明で使用する希土類化合物では、環境下の常温(以下「常温」という。)以下で希土類元素の電子は配位する原子の2p軌道に遷移する。これを加熱し、例えば、160℃程度にすると、配位する原子の2p軌道に遷移した電子が、希土類元素の常温での状態から、数eV上にある軌道をほぼ埋めるほど移動する。この変化は可逆的な変化であり、第2発明によれば、希土類化合物の温度を循環的に変化させ、高温時に光エネルギーを取り出せば、熱源のある限り作動する、循環的エネルギー供給システムができるのである。当該熱源には、高温度の廃熱とともに、100乃至200℃の低温度廃熱も利用できるため諸分野の廃熱の有効活用によりエネルギー効率の向上が可能である。
一般に希土類原子においては、電子が存在する軌道としてはf-軌道のエネルギーが最も高く、その数eV上にあるd軌道には電子は存在しない。本発明者らの開発したX線原子軌道解析法(XAO法)を使用して、希土類化合物の電子密度を測定したところ、驚いたことに、f軌道に余席があるにも関わらず、その数eV上にあるd軌道に電子が満席になるまで詰まっていた。常温から100Kまで冷却すると、f電子が配位する分子に移動することは既に本発明者らが発表しているが(非特許文献3)、逆に常温より温度を上げると、配位する分子の電子が希土類原子の前記d軌道に大量に移動したのである。このことは、常温より上まで希土類化合物を加熱し、前記d軌道に集まった電子を、空席のあるf軌道に遷移させると、両者のエネルギー差に相当する紫外光が取り出せることを示している。
【非特許文献3】MOLECULAR PHYSICS,1985,VOL.54,No.6,1293-1306
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
以下、本発明を具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。
【実施例】
【0006】
(1)図1では、配位する分子のひとつである配位分子中の2p電子のエネルギー準位と、5d(j=3/2)軌道のエネルギー準位が近いことを示している。
(2)配位分子中の2p電子が、100K乃至200Kで5d(j=3/2)軌道に遷移する(図21))。
(3)(2)の後、エネルギーの近い対称性が同じである(量子力学的に許容される)5d(j=5/2)軌道に遷移し(図22))、その軌道を満たす。軌道の上の数字はその軌道を占有する電子数(上限は1)である。5d(j=5/2)G8軌道は4重に縮重した軌道であるので、ここには最大4個までの電子が存在でき、この図では合計1x4=4個の電子が存在し、満席状態である。
(3)これまで空席であった5d(j=5/2)G8軌道に電子が、配位する分子から遷移してきたので、本来なら4f(j=5/2)G8軌道の方が4f(j=5/2)G軌道よりエネルギーが低いのであるが、全く同じ方向に伸びる軌道に負の電荷を持つ電子が満席まで詰まったため、4f(j=5/2)G8軌道が不安定になり、エネルギーが高くなっている(図23))。これは逆に5d(j=5/2)G8軌道に電子が存在することを強く支持する結果である。この図の下から上に向かう矢印(4))はエネルギーが相対的に低くなった、4f(j=5/2)G軌道から4f(j=5/2)G8軌道に、熱励起により電子が遷移することを示している。(この場合、両軌道を占有する電子数の比から、両者のエネルギー差は、68meVと見積もられる。) したがって、エネルギー発生の仕組みは、希土類化合物内での、温度による分子内電子遷移を利用するものである。そのため、外部から5d(j=5/2)G8軌道と4f(j=5/2)G8軌道のエネルギー差に相当するエネルギーを供給することなく、紫外光が取り出せる。
室温以下では、希土類元素4fG8軌道のエネルギーは、同G7軌道より低いが、希土類元素の4fG8電子の一部がB原子のp軌道に移動する。このp電子が他のp電子と共に、温度上昇に伴い、希土類原子の5dG8に遷移し、同軌道をほぼ満席になるまで占有する。この電子を数eV下にある、Ce4fG8軌道に遷移させれば、その差のエネルギーが取り出せる。この後、結晶を冷却すれば、エネルギーサイクルは完成する。ただし、光を放出した希土類化合物はエネルギーを失い、温度が低下するので、冷却過程は省略することもできる。尚、X線解析法によってのみ、各原子軌道を占有する電子数を特定することができる。また、この解析法はわれわれが独自に開発したものであり、今後一般への普及を図る予定であるが、現在は他の人には同様の解析はできない。
【産業上の利用可能性】
【0007】
本発明の熱光変換システムは、従来の紫外光の利用法のすべてに応用可能であるが、100乃至200℃程度の低温度廃熱は、工場、発電所等の大規模な廃熱から、家庭からの小規模な廃熱にも適用できる。社会のあらゆるところに存在する廃熱の、徹底的な活用が可能になれば、エネルギー問題および地球環境問題の解決に大きく寄与する。また、発光する紫外線を、太陽光発電システムの光源として活用すれば、太陽光がえられない時間・場所での太陽光発電が可能になる。たとえば、温熱水の通る下水道に本システムを設置すれば、家庭の下水道から取り出される紫外光を照射して発電することにも利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】室温における希土類化合物の配位分子と希土類元素の原子軌道の、一般的なエネルギー準位の関係を示す図である。希土類元素に配位する分子(この場合はB原子(ホウ素原子))中の2p電子は、希土類元素の原子軌道の中で、電子により占有される軌道のうち、最もエネルギーの高い4f軌道よりも、電子に占有されていない軌道のうちで最低のエネルギーを持つ5d軌道の方により近いことを示している。この図は立方対称場の図であるが、近似的にはこのような関係は、希土類原子を含む化合物で一般的に見られる関係である。低温(室温から100Kまで)では、Ce-4f電子がB-2p軌道に遷移(移動)する。希土類元素の4f電子軌道は7種類の方向を向くことができるので、配位分子の数も鉄原子等のd電子系に比べると多いという特徴がある。このため、配位分子からの電子の供給は容易である。
【図2】希土類化合物における電子構造を示す説明図である。室温よりも希土類化合物の温度が高くなると、低温とは逆にB-2pにあった電子が1)5d(j=3/2)軌道に遷移した後、同じG8の対称性をもつ、2)5d(j=5/2)G8に移動する。しかし、全く同じ方向に伸びる5d(j=5/2)G8軌道に電子が満席になるまで詰まったので、3)これまで安定であった4f(j=5/2) G8軌道が不安定になり、5d(j=5/2)G8軌道に電子と軌道の伸びる方向の異なる4f(j=5/2) G軌道と、エネルギー準位の逆転が起こることを示している。図2中の数字は、X線回折法により求めた各軌道を占有する電子数であるが、各軌道の電子数からこの過程を推定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類化合物を環境下の常温よりも高い温度まで加熱し、5d軌道に集まった電子を、該軌道よりも低いエネルギー準位で空席のある4f軌道に遷移させることにより両者のエネルギー差に相当する光エネルギーを取り出すシステム。
【請求項2】
前記システムにより光エネルギーを取り出した後に温度が下がった希土類化合物を、放冷、空冷、水冷またはペルチエ素子等と組み合わせた方法により、環境下の常温程度まで低下させて希土類化合物を元の状態に戻し、これを再度加熱して5d軌道に集まった電子を4f軌道に遷移させることにより両者のエネルギー差に相当する光エネルギーを取り出すシステム。
【請求項3】
請求項1、2記載の光エネルギーが紫外光であることを特徴とする請求項1、2記載の光エネルギーを取り出すシステム。

【図1】
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【図2】
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