説明

希土類系酸化物超電導体及びその製造方法

クラックの発生を防止し、かつ面内配向度と方位性等の結晶性並びに表面平滑性に優れた中間層の上に高い臨界電流密度(Jc)を有するRE系超電導層を形成する。配向性Ni基板の上に、希土類元素の1種または2種以上を金属含有量で20〜60mol%を添加したセリウム系酸化物からなる中間層をMOD法により形成し、この酸化物層上にMOD法により高いJcを有するRE系超電導層を形成する。上記の中間層は、Ceの有機金属化合物溶液に、Gd、Y及び/またはYbの各有機金属化合物溶液を混合した混合溶液を配向Ni基板上に塗布して塗膜を形成した後、仮焼熱処理を施し、Ar−H2の雰囲気中で950〜1150℃の温度で、50〜500Paの圧力下で焼成を行うことにより形成する。この中間層の上にTFA−MOD法によりYBCO超電導層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、酸化物超電導体及びその製造方法に係り、特に超電導マグネット、超電導ケーブル等の機器への使用に適したテープ状の希土類系酸化物超電導体(RE系超電導体)及びその製造方法の改良に関する。
【背景技術】
希土類123系酸化物超電導体(RE−123系超電導体)は液体窒素温度における磁場特性が、Bi系超電導体(Bi−Sr−Ca−Cu−O系超電導体)に比べて優れているため、実用的な高い臨界電流密度(Jc)を高磁場中において実現することが可能であり、この線材の実用化に成功すれば、高温領域での優れた特性に加えて、貴金属である銀を使用しない製法が可能であること及び冷媒に液体窒素を使用できることから冷却効率が数十〜数百倍に向上するため、経済的に極めて有利である。この結果、従来経済性の面から適用不可能であった機器に対しても超電導線材を利用することが可能となり、超電導機器の用途及び市場が大幅に拡大することが予測される。
RE−123系超電導体(特にY−123系超電導体、Y:Ba:Cu=1:2:3のモル比)の結晶系は斜方晶であり、このため、通電特性において材料の特性を発揮させるためには、結晶のCuO面を揃えるだけでなく、面内の結晶方位をも揃えることが要求される。その理由は、僅かな方位のずれが双晶粒界を発生させ、通電特性を低下させるためである。
上記のY−123系超電導体の結晶の面内配向性を高め、かつ面内の方位を揃えながら線材化する製法は、薄膜の作製法と規を同一にしている。即ち、テープ状金属基板の上に面内配向度と方位を向上させた中間層を形成し、この中間層の結晶格子をテンプレートとして用いることによって、Y−123系超電導体の結晶の面内配向度と方位を向上させることができる。
さらに、超電導体のJcは、中間層の結晶性と表面平滑性に依存しており、下地の状態に応じて敏感にその特性が大きく変化することが判明している。
上記のテープ状金属基板の上に面内配向した中間層を形成した2軸配向金属基板の製造技術として、SOE(Surface−Oxidation Epitaxy:表面酸化エピタキシー)法、ISD(Inclined Substrate Deposition)法、IBAD(Ion Beam Assisted Deposotion)法とRABiTS(Rolling Assisted Biaxially Textured Substrate)法が知られており、無配向又は配向金属テープ上に面内配向度と方位を向上させた中間層を形成することにより、10A/cmを超えるJcを有するY−123系超電導線材が数多く報告されている。
この内、IBADやRABiTS法における中間層の形成は、PLD(Pulse Laser Deposition;パルスレーザー堆積)法等の気相法による真空プロセスを使用しており、IBAD法ではハステロイ/YSZ/Yの組み合わせが、一方、RABiTS法ではNi/CeO/YSZ/CeO等の組み合わせが一般的に2軸配向金属基板として用いられており、緻密で平滑な中間層膜を得ることができるという利点を有する(例えば、非特許文献1参照。)。
上記の中間層の材料については、種々検討が行なわれており、この中でもCeO中間層はYBCO層(Y−Ba−Cu−O系超電導層)との結晶格子の整合性がよく、かつYBCO層との反応性が小さいため最も優れた中間層の一つとして知られており、数多くの結果が報告されている。
上記のように、金属基板上にYBCO層を形成する場合、中間層としてCeOは優れた性質を有するが、CeO膜は金属基板との熱膨張の相違等によりクラックが発生し易く厚膜化できないという問題があり、例えば、RABiTS法では配向性Ni基板の表面の中間層内にYSZ(イットリウム安定化ジルコニア)を介在させることが行われており、図2に示すように、配向性Ni基板(10)の表面にCeO膜(11)、YSZ層(12)及びCeO膜(13)を順次形成し、この上にYBCO層(14)を形成する必要があった。
【非特許文献1】 A.Goyal at el.,Physica C,357−360(2001)903.
【発明の開示】
本発明は、上記の難点を解決するためになされたもので、クラックの発生を防止し、かつ面内配向度と方位性等の結晶性並びに表面平滑性に優れた中間層を金属基板上に形成することによって、この中間層上に超電導特性に優れた希土類系酸化物超電導層(RE系超電導層)を形成したRE系超電導体を提供することをその目的とする。
本発明の他の目的は、クラックの発生を防止し、かつ面内配向度と方位性等の結晶性並びに表面平滑性に優れた中間層を金属基板上に所定の圧力及び温度範囲内の焼成により形成することによって、この中間層上に超電導特性に優れたRE系超電導層を形成するようにしたRE系超電導体の製造方法を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の第1の態様のRE系超電導体の一実施例を示す断面図である。
図2は、RABiTS法による従来の希土類系酸化物超電導体の断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以上の問題を解決するために、本発明の第1の態様であるRE系超電導体は、図1に示すように、金属基板(1)の表面上に、セリウムに希土類元素Re(Reは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu、Yb、Ho、Tm、Dy、La、Erのいずれか1種を示す。)から選択されたいずれか1種または2種以上の元素を金属含有量で5〜90mol%添加したセリウム系酸化物からなる中間層(2)を形成し、この中間層上にRE系超電導層(3)を形成するようにしたものである。
また、以上の問題を解決するために、本発明の第2の態様であるRE系超電導体の製造方法は、金属基板の表面上に、セリウムに希土類元素Re(Reは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu、Yb、Ho、Tm、Dy、La、Erのいずれか1種を示す。)から選択されたいずれか1種または2種以上の元素を金属含有量で5〜90mol%含有した混合物を液相プロセスにより塗布し、0.1Pa〜大気圧未満の減圧下で900〜1200℃未満の温度範囲で焼成してセリウム系酸化物からなる中間層を形成した後、この中間層上にRE系超電導層を形成するようにしたものである。
本発明のRE系超電導体によれば、金属基板上の中間層を、特定の希土類元素(Re)を所定量添加したセリウム系酸化物により形成することにより、中間層におけるクラックの発生を防止することができ、かつ面内配向度と方位性等の結晶性並びに表面平滑性に優れた中間層を金属基板上に形成することができる。その結果、この中間層上に超電導特性に優れたRE系超電導層を形成することが可能となる。
また、本発明のRE系超電導体の製造方法によれば、金属基板の表面上に、セリウムに特定のReから選択されたいずれか1種または2種以上の元素を所定量含有した混合物を液相プロセスにより塗布し、雰囲気制御下で所定の温度範囲で焼成してセリウム系酸化物からなる中間層を形成するため、中間層におけるクラックの発生を防止することができ、かつ面内配向度と方位性等の結晶性並びに表面平滑性に優れた中間層を金属基板上に形成することができる。その結果、この中間層上に超電導特性に優れたRE系超電導層を形成することが可能となる。
本発明のRE系超電導体及びその製造方法においては、金属基板の表面上に、セリウムにReを添加した中間層を(雰囲気制御下で)形成し、この中間層上にRE系超電導層が形成されるが、この中間層には、超電導体と反応性が小さく、結晶格子間隔の差の割合(ミスフィット)が小さいこと、さらに下地の全属元素の拡散を防ぐ機能が求められる。この観点から中間層に適する結品構造としては、蛍石構造、希土類−C構造またはパイクロア構造のいずれかの結晶構造が選択される。また、Reの添加または含有によりCeO単層で生じていたクラックの発生が抑えられるため、金属基板上の中間層は単層化が可能になる。
以上の場合において、Y−123系超電導体結晶のa軸の格子定数3.88Åと上記酸化物結晶格子の間のミスフィットは8%以下となるが、このミスフィットは組成により変動し、可能であれば1%以下であることが望ましい。
以上の第1の態様における中間層に添加されるRe量及び第2の態様における混合物に含有されるRe量は、金属含有量で5〜90mol%、好ましくは、20〜60mol%の範囲内で選択される。
Re量が少ない場合にはクラック発生の防止効果が小さく、Re量が多くなるとYBCO層及び金属墓板との反応性が高くなるため、中間眉としての効果が小さくなるためである。特に、Re量が60mol%を超えると異相が晶出し易くなり、表面の平滑性が失われ易い。
上記の第1の態様における中間層の形成方法としては、PLD法、e−beam蒸着、スパッタリング等の物理蒸着法、化学気相堆積(CVD)等の化学蒸着怯、酸化物自己配向化ブロセスであるIBAD法、ISD法等の気相プロセスやMOD(Metal−Organic Deposition;有機金属塩塗布熱分解)法等の液相プロセスを介した種々の成膜法の使用が可能であるが、製造の容易さ及び製造速度の点からMOD法またはPLD法の使用が好ましい。
また、上記の第2の態様における中間層の形成方法としては、液相プロセスを介した種々の成膜法の使用が可能であるが、製造の容易さ及び製造速度の点からMOD法が採用される。
上記のMOD法は、非真空プロセスで製造する方法として知られており、本発明の場合、中間層を構成する各金属元素を所定のモル比で含むトリフルオロ酢酸塩(TFA塩)を始めとするオクチル酸塩、ナフテン酸塩等のCe及びReの金属有機酸塩の混合溶液を基板上に塗布した後、焼成することが行われる。
MOD法による中間層の焼成は、0.1〜大気圧未満(例えば800Pa)の減圧下で行なわれ、特に10〜500Paの圧力範囲で焼成することにより結晶化温度を低下させることができ、1000℃以下の低温で中間層を焼成することが可能となる。このことは金属テープを基板とする場合、下地金属元素が中間層内部へ拡散する速度を低下させる点で有効である。0.1Pa未満の焼成では膜がエピタキシャル成長する前にランダムな結晶化を生じてしまい、中間層の配向性が著しく低下する。さらに、好ましくは50〜500Paの圧力範囲が採用される。
中間層の焼成温度は900〜1200℃未満の温度範囲で行なわれる。焼成温度が900℃未満では2軸配向膜を得ることが困難となり、また1200℃以上では焼成時に膜が分解し目的の酸化物を得ることが困難になるためである。特に、中間層の焼成温度が950〜1150℃の範囲が好ましい。
金属基板としては、Ni、Agあるいはこれらの合金等、例えば、Ni−VやNi−W合金等からなる2軸配向金属テープや無配向のNi、Agあるいはこれらの合金等やSUS、ハステロイ、インコネルなどの耐熱合金からなる金属テープを用いることができる。
中間層を金属基板上に形成する場合、配向金属テープでは上記中間層の形成法として述べた全ての方法の適用が可能であり、基板自体が配向性もたない無配向金属テープに対しては、IBAD法及びISD法が適用される。上述のように、中間層をMOD法またはPLD法により形成する場合には、金属基板として高配向性の金属基板を用いることが好ましい。
また、NiまたはNi基合金等からなる金属基板に直接中間層を形成する場合、焼成時の雰囲気はAr、Nガス中にHを0.1〜10%加えた還元性雰囲気ガスを使用することが好ましい。H濃度0.1%未満で成膜した場合には、Ni表面にNiOが生成して中間層膜がエピタキシャル成長することを著しく阻害し、また、10%を超えた場合には、ガスの還元力が強くなり過ぎるため目的とする酸化物が得られなくなるためである。
上述のように、MOD法で形成した中間層と金属テープとの間に、PLD法やスパッタ法などの気相プロセスを用いて成膜した0.2μm以下の配向制御及び拡散防止層を設けることもでき、さらに、MOD法で作製した中間層の上にCAP層として0.2μm以下のCeO、Ce−Re−O膜をPLDまたはスパッタ法で成膜して表面の平滑性を向上させることも有効である。
また、MOD法により中間層膜の前駆体膜を金属基板表面へ塗布する回数は、何等制限されず、所望の膜厚を得るために塗布−仮焼(乾燥)の処理を複数回実施する手法を採用することもできる。
以上のようにして金属基板上に形成した中間層上に、超電導層を形成する方法としては、PLD法、e−beam蒸着等の物理蒸着法、CVD法等の化学蒸着法等の気相プロセスや中間層と同様にMOD法等の液相ブロセスを介した成膜法など様々な方法でその成膜が可能である。
特に、本発明による中間層は、上記超電導層の形成方法の内、TFAを仮焼した前駆体(TFA−MOD法)やe−beamやPLD法などのFを含有した前駆体(ex−situ法)をテープ表面に成膜した後、これを本焼してYBCO膜を形成する方法に対して非常に有効である。これらのプロセスにおいては、前駆体膜にFを含んでおり、かつ焼成時に水蒸気を使用するため、仮焼および本焼成時にHFが発生し、従って、中間層の耐酸性が問題となるが、本発明による中間層はCeベースの酸化物であるため耐酸性に優れている。
本発明における中間層は、クラックの発生を防止することができるため厚膜化が可能であり、上述のRABiTS法のようにYSZ層を介した多層構造の中間層を形成する必要がなく、セリウム系酸化物層上にRE系超電導層を直接形成することができる。
以下本発明の実施例及び比較例について説明する。
【実施例1〜4】
Ce、Cd、Y及びYbの0.2mol/Lの各ナフテン酸溶液を用いてCe−Gd、Ce−Y、Ce−Yb及びCe−Gd−Ybの各混合溶液を作成し、この混合溶液を10mm×5mmの大きさの{100}<001>配向Ni基板上にスピンコート法により塗布して塗膜を形成した。このときの回転数は3,000rpmであった。この塗膜を施した基板に大気中で200℃×15分間の仮焼熱処理を施し、さらに、Ar−H(2%)の雰囲気中で1,000℃×1時間の焼成を施して中間層を形成した。
次いで、上記の中間層の上にトリフルオロ酢酸塩を用いたMOD法(TFA−MOD)によりYBCO(Y−123)超電導層を形成した。
超電導層は、Y、Ba及びCuの各元素を所定の比率で含むトリフルオロ酢酸塩の混合溶液を中間層の上に塗布し、水蒸気を含んだ酸素雰囲気中で250℃×15時間の仮焼熱処理を施した後、水蒸気を含んだAr−O(500〜1,000ppm)酸素雰囲気中で760〜800℃×1〜3時間の焼成を施して形成した。
以上のようにして形成した中間層の面内配向性及びクラック発生の有無、YBCO成膜後のYBCO層の配向性及びクラック発生の有無、中間層のピーク強度及びJcを、各混合溶液の組成比とともに表1に示した。
【表1】

比較例1〜2
中間層の原料溶液として、CeまたはYの0.2mol/Lのナフテン酸溶液を用いた他は、実施例1と同様の方法により、配向Ni基板上に中間層及び超電導層を形成した。結果を同様に表1に示した。
【実施例5〜8】
CeOにGd、YまたはYbを添加したCe−Gd−O、Ce−Y−O、Ce−Yb−Oの各焼結体をターゲットとして、PLD法により{100}<001>配向Ni基板上に中間層を成膜した。このときの成膜条件は、波長248nmのKr−Fエキシマレーザーを用い、Ar−H(1〜4%)雰囲気中で基板温度を500〜800℃、成膜時の圧力を0.1〜500mTorrとした。
中間層上の超電導層の形成は、実施例1〜4と同様にして行なった。
以上のようにして形成した中間層の面内配向性及びクラック発生の有無、YBCO成膜後のYBCO層の配向性及びクラック発生の有無、中間層のピーク強度及びJcを、各焼結体の組成比とともに表2に示した。
【表2】

比較例3〜4
CeOまたはY焼結体をターゲットとした他は、実施例5〜8と同様の方法により中間層及び超電導層を形成した。
結果を同様に表2に示した。
以上の実施例及び比較例の結果から明らかなように、MOD法またはPLD法によりセリウム系酸化物層からなる中間層を形成し、この中間層上にMOD法によりRE系超電導層を形成したRE系超電導体は、中間層にクラックを発生せず、中間層及び超電導層の配向性に優れるとともに、高いJc値を示す。これに対して、CeまたはYからなる酸化物層を中間層とした場合には、中間層におけるクラックの発生あるいは超電導層の配向性の低さから、いずれも極めて小さいJc値を示す結果となる。
【実施例9〜17】
0.2mol/Lの金属濃度のCe、Gd、Y及びYbの各有機金属化合物溶液を準備して、表3に示す金属モル比を有する混合溶液を作成し、この混合溶液を10mm×5mmの大きさの配向Ni基板にスピンコーティング法で塗布して塗膜を形成した。
【表3】

この時の回転数は3,000rpmとした。この塗膜付基抜に仮焼熱処理を施した後、Ar−H(2%)の雰囲気中で900〜1150℃の温度範囲内の温度で、10〜500Paの圧力範囲内の圧力で焼成を行い、100〜600nmの膜厚の中間層を配向Ni基板上の形成した。各実施例の焼成温度、焼成時圧力及び膜厚を表4に示す。
【表4】

表4において1.01E+0.5Paは1.01×10Pa、即ち大気圧を示す。
次いで、上記の中間層の上にトリフルオロ酢酸塩を用いたMOD法(TFA−MOD)によりYBCO(Y−123)超電導層を形成した。
超電導層は、Y、Ba及びCuの各元素を所定の比率で含むトリフルオロ酢酸塩の混合溶液を中間層の上に塗布し、水蒸気を含んだ酸素雰囲気中で250℃×15時間の仮焼熱処理を施した後、水蒸気を含んだAr−O(500〜1,000ppm)酸素雰囲気中で740〜800℃×1〜3時間の焼成を施して形成した。
尚、上記実施例においてCAP層を中間層上に有するものは、MOD法で成膜した中間層上にCeO膜(膜厚0.05μm)をPLD法によって形成したものである。
以上のようにして製造したRe系超電導体の中間層の配向度、クラック発生の有無及び中間層のピーク強度並びにJcの値を表4に同時に示した。
以上の実施例の結果から明らかなように、本発明の方法によれば、中間層にクラックの発生は認められず、かつ良好な配向度が得られ、使用した原料の有機酸塩の種類にも依存しない。
また、YBCOの成膜による中間層のビーク強度の変化はほとんど認められず、YBCO層と中間層は化学的に安定であり、反応防止層として適応できることが明らかである。さらに、Jc値は全ての条件で高い値を得ることができる。
比較例5〜9
0.2mol/Lの金属濃度のCe、Gd及びYの各有機金属化合物溶液を準備して、表3に示すようにCe、Gd及びYの各有機金属化合物溶液並びにCe−Gd混合溶液を用いて実施例9〜17と同様の方法により配向Ni基板上に塗膜を形成した。
以後、上記の実施例と同様にして、この塗膜付基板に仮焼熱処理及び焼成を行い、100〜300nmの膜厚の中間層を配向Ni基板上の形成した。各比較例の焼成温度、焼成時圧力及び膜厚を表4に示した。
次いで、実施例と同様の方法により、上記の中間層の上にTFA−MOD法によりYBCO(Y−123)超電導層を形成した。
以上のようにして製造したRE系超電導体の中間層の配向度、クラック発生の有無及び中間層のピーク強度並びにJcの値を表4に同時に示した。
以上の比較例の結果から明らかなように、CeO単層(比較例5)では、中間層にクラックが生じ、中間層のピーク強度もYBCO成膜後に著しく低下することにより、Jc値を示さない。
また、Gd単層(比較例6)またはY単層(比較例7)では、YBCO本焼時に中間層とYBCO仮焼膜が反応しYBCO膜が成長せず、中間層ピークも大幅に低下することにより、Jc値を示さない。
さらに、中間層の焼成温度または焼成時の圧力が本発明の範囲から外れると(比較例5a、6、8b及び8c)、中間層が表面まで成長せずYBCOが配向しないため、Jc値を示さないか極めて小さい値となる。中間層の焼成温度が1200℃の場合(比較例9)には、中間層自体が分解してJc値を示さない。
【産業上の利用の可能性】
本発明による希土類系酸化物超電導体及びその製造方法は、超電導マグネット、超電導ケーブル等の機器への使用に適したテープ状の希土類系酸化物超電導体に有用である。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板の表面上に、セリウムに希土類元素Re(Reは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu、Yb、Ho、Tm、Dy、La、Erのいずれか1種を示す。)から選択されたいずれか1種または2種以上の元素を金属含有量で5〜90mol%を添加したセリウム系酸化物からなる中間層を形成し、この中間層上に希土類系酸化物超電導層を形成したことを特徴とする希土類系酸化物超電導体。
【請求項2】
中間層中の希土類元素Reの添加量は、金属含有量で20〜60mol%であることを特徴とする請求項1記載の希土類系酸化物超電導体。
【請求項3】
中間層は、MOD法またはPLD法により形成されたことを特徴とする請求項1または2記載の希土類系酸化物超電導体。
【請求項4】
金属基板は、2軸配向性の金属基板であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項記載の希土類系酸化物超電導体。
【請求項5】
希土類系酸化物超電導層は、中間層上に直接形成されたことを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項記載の希土類系酸化物超電導体。
【請求項6】
金属基板の表面上に、セリウムに希土類元素Re(Reは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu、Yb、Ho、Tm、Dy、La、Erのいずれか1種を示す。)から選択されたいずれか1種または2種以上の元素を金属含有量で5〜90mol%含有した混合物を液相プロセスにより塗布し、0.1Pa〜大気圧未満の減圧下で900〜1200℃未満の温度範囲で焼成してセリウム系酸化物からなる中間層を形成した後、この中間層上に希土類系酸化物超電導層を形成することを特徴とする希土類系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項7】
混合物中の希土類元素Reの含有量は、金属含有量で20〜60mol%であることを特徴とする請求項6記載の希土類系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項8】
混合物の塗布は、MOD法により行なわれることを特徴とする請求項6または7記載の希土類系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項9】
中間層は、50〜500Paの圧力範囲の焼成により形成されることを特徴とする請求項6乃至8いずれか1項記載の希土類系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項10】
中間層は、950〜1150℃の温度範囲の焼成により形成されることを特徴とする請求項6乃至9いずれか1項記載の希土類系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項11】
金属基板は、2軸配向性の金属基板であることを特徴とする請求項6乃至10いずれか1項記載の希土類系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項12】
希土類系酸化物超電導層は、中間層上に直接形成されることを特徴とする請求項6乃至11いずれか1項記載の希土類系酸化物超電導体の製造方法。
【請求項13】
2軸配向性の金属基板の表面上に、セリウムに希土類元素Re(Reは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu、Yb、Ho、Tm、Dy、La、Erのいずれか1種を示す。)から選択されたいずれか1種または2種以上の元素を金属含有量で20〜60mol%含有した混合物をMOD法により塗布し、Ar、Nガス中にHを0.1〜10%加えた還元性雰囲気ガス中で、50〜500Paの圧力範囲及び950〜1150℃の温度範囲で焼成してセリウム系酸化物からなる中間層を形成した後、この中間層上に希土類系酸化物超電導層を形成することを特徴とする希土類系酸化物超電導体の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/100182
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506027(P2005−506027)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006406
【国際出願日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【出願人】(000002255)昭和電線電纜株式会社 (71)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】