説明

希土類金属回収材および希土類金属回収方法

【課題】低濃度の希土類金属であっても容易・簡便かつ安価に回収できる希土類金属回収材および希土類金属回収方法を提供する。
【解決手段】希土類金属Yを含有する検体から希土類金属Yを回収するべく、希土類金属Yと結合可能なリン酸基11を有する核酸10と、核酸10のアミノ基12に架橋した複数の反応基21を有する架橋分子20と、架橋分子20の一端に結合した固相30と、を備えた希土類金属回収材X、および、当該希土類金属回収材Xと、希土類金属Yを含有する可能性のある検体とを接触させる検体接触工程と、核酸10のリン酸基11と希土類金属Yとを結合させる結合工程と、結合工程を行なった希土類金属回収材Xに溶出液を添加して希土類金属Yを溶出させる溶出工程と、を有する希土類金属回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類金属を含有する検体から希土類金属を回収する希土類金属回収材および希土類金属回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類金属(レアアース)は、ランタン(原子番号57)からルテチウム(原子番号71)までの15元素のランタノイド、および、スカンジウム(原子番号21番)、イットリウム(原子番号39)を加えた17元素の総称である。希土類金属の多くは優れた物理的性質などを有しており、永久磁石・二次電池・自動車の排気ガス浄化用触媒・コンピュータや情報通信機器等の工業生産品の材料として、或いはエレクトロニクス製品の性能向上に必要不可欠な材料として、幅広く使用されている。現状では希土類金属はその産出地域が限られている。仮に希土類金属の調達環境が悪化すれば、前記工業生産品の製造に大きな支障を来たすと考えられる。そのため、例えば永久磁石の加工時に発生する磁石粉末や情報通信機器などの廃棄物から希土類金属を回収してリサイクルすることが強く望まれている。
【0003】
従来、希土類金属を回収する方法として、合成した有機リン化合物を利用して回収する方法(例えば特許文献1、非特許文献1)、および、生物由来の物質を利用して回収する方法(例えば特許文献2)が公知である。
【0004】
特許文献1に記載の方法は、脂溶性リン酸化合物としてビス(2−エチルヘキシル)ホスフィン酸を含む溶媒を使用し、溶媒抽出後のpH値が3以上となるように抽出時のpH値を調整して希土類金属イオンを分離抽出する技術である。
【0005】
特許文献2に記載の方法は、淡水性藍藻類スイゼンジノリ由来の糖誘導体を用いて希土類金属を回収する。本方法では、糖誘導体を含有する水溶液に当該希土類金属イオンが存在すれば当該水溶液がゲル化することを利用している。
【0006】
希土類金属は、ジエチルヘキシルリン酸を含む疎水性支持体に覆われた樹脂に吸着させることができる。そのため、このようなリン酸化合物を固定化したカラムを利用することで、希土類金属を回収することができる(非特許文献1)。
【0007】
一方、近年、希土類金属とバクテリアの相互作用についての研究が行なわれている。例えば非特許文献2には、希土類金属がバクテリアの細胞表面の特定領域(multiple phosphate site)に特異的に吸着することが開示してある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−100622号公報
【特許文献2】国際公開第2008/062574号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】TRISKEM INTERNATIONAL、product sheet LN/LN2/LN3 resins、[on line]、[平成23年1月5日検索]、インターネット<URL:http://www.triskem-international.com/en/iso#album/ft#resine#ln#en.pdf>
【非特許文献2】Yoshio Takahashi, Mika Yamamoto, Yuhei Yamamoto, Kazuya Tanaka 著、'EXAFS study on the cause of ecrichment of heavy REEs on bacterial cell surfaces'、Geochimica et Cosmochimica Acta 74、2010年、第5443-5462頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の希土類金属の回収方法では、有機溶媒による多段階抽出を実施しないと希土類金属イオンを分離回収できないため、手間を要しかつ回収コストも嵩む。
特許文献2に記載の希土類金属の回収方法では水溶液のゲル化が必要であるが、このゲル化を引き起こすためには、1mM以上の希土類金属イオンの濃度が必要である。そのため、水溶液中に存在する希土類金属イオンが1mMに満たないような低濃度の希土類金属イオンを沈殿させることができない。
【0011】
大量の磁石粉末や廃棄物から希土類金属を回収する際には、希土類金属を含む多量の検体溶液を扱うこととなる。この場合、例えば希土類金属を、非特許文献1に記載したリン酸化合物を含む樹脂を固定化したカラムによって回収しようとすれば、多量のカラムが必要となる。当該カラムに含まれる樹脂は一般に高価であるため、当該カラムを大量に使用すれば、希土類金属の回収コストが嵩む。
【0012】
また、非特許文献2のように希土類金属とバクテリアの相互作用を利用すれば、希土類金属を濃縮して回収することができると考えられる。しかし、バクテリアの細胞表面に希土類金属を吸着させたとしても、当該希土類金属を溶出する際には、抽出溶媒によってバクテリアが死滅する。そのため、バクテリアを利用して希土類金属を回収しようとすれば、繰り返しバクテリアの培養を行なう必要があるため、煩雑であり、回収コストが嵩む。
【0013】
従って、本発明の目的は、低濃度の希土類金属であっても容易・簡便かつ安価に回収できる希土類金属回収材および希土類金属回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
即ち、上記目的を達成するため、以下の[1]〜[8]に示す発明を提供する。
[1] 希土類金属を含有する検体から前記希土類金属を回収するべく、前記希土類金属と結合可能なリン酸基を有する核酸と、前記核酸のアミノ基に架橋した複数のアルデヒド基または複数のスクシンイミドエステル基の何れか一方を有する架橋分子と、当該架橋分子の一端に結合した固相と、を備えた希土類金属回収材。
[2]前記架橋分子が、グルタルアルデヒド、フタルアルデヒド、スベリン酸ジスクシンイミジルの群れから選択される一種または複数種である上記[1]に記載の希土類金属回収材。
[3]前記固相が、セルロース系の材料を主成分としてある上記[1]または[2]に記載の希土類金属回収材。
[4]前記核酸がDNAである上記[1]〜[3]の何れか一項に記載の希土類金属回収材。
[5]前記DNAが白子由来である[4]に記載の希土類金属回収材。
[6]前記希土類金属がランタノイドである上記[1]〜[5]の何れか一項に記載の希土類金属回収材。
【0015】
希土類金属はリン酸化合物との親和性が高い。また、核酸にはリン酸が豊富に含まれており、生体物質の中でも特にその含有量が高い。本発明の希土類金属回収材は、核酸中のリン酸と希土類金属を結合させて希土類金属を回収する。
【0016】
本希土類金属回収材では核酸を固相上に固定する。核酸を他物に固定する技術として、例えば核酸をキトサンに結合させることが公知である。この場合、核酸のリン酸基はキトサンに覆われてしまうため、希土類金属との結合能が失われていた。一方、本発明の希土類金属回収材では、架橋分子を介して他物(固相)と核酸とを結びつけている。当該架橋分子は、少なくとも二つのアルデヒド基、或いは、少なくとも二つのスクシンイミドエステル基を有しており、これら反応基が核酸のアミノ基に架橋する。この場合、本発明のように架橋分子が反応基を複数有する場合に核酸および架橋分子を安定して結合させることができ、これによって核酸が固相上に安定して存在することができる。このような架橋分子としては、二つのアルデヒド基をその分子の端部に有するグルタルアルデヒド、フタルアルデヒド、或いは、二つのスクシンイミドエステル基をその分子の端部に有するスベリン酸ジスクシンイミジルを使用するのがよい。これら架橋分子の一種または複数を固相に結合させるが、固相に固定する架橋分子の種類や態様は種々変更するとよい。架橋分子の種類を変更することにより、希土類金属回収材の希土類金属結合能力に差異が生じることから(後述の実施例)、所望の希土類金属と相性のよい架橋分子を固定すれば、当該希土類金属を効率よく回収することができる。
【0017】
固相は、例えば紙などのセルロース系の材料を主成分としたものであれば、固相を容易かつ安価に入手することができる。また、核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)を使用すれば、核酸の分解が起こり難くなり安定した状態で希土類金属回収材を使用することができる。DNAの供給源としては、例えば魚類の精巣である白子などがよい。当該白子は、大部分が産業廃棄物として破棄されていることを鑑みると、産業廃棄物の有効利用となり、かつ安価に入手することができる。
【0018】
本発明の希土類金属回収材で回収され得る希土類金属として、ランタノイドがある。ランタノイドは、スカンジウム・イットリウム・ランタン・セリウム・プラセオジム・ネオジム・プロメチウム・サマリウム・ユウロピウム・ガドリニウム・テルビウム・ジスプロシウム・ホルミウム・エルビウム・ツリウム・イッテルビウム・ルテチウムの17元素の総称である。
【0019】
ランタノイドイオンは、核酸のリン酸ジエステル結合を効果的に加水分解することが知られている(Makoto Komiyama, 'Sequence-specific and Hydrolytic Scission of DNA and RNA by Lanthanide Complex-OligoDNA Hybrids.' J.Biochem. 118, p665-670(1995))。そのため、ランタノイド(希土類金属)の回収に核酸を利用することは、従来行なわれていない。しかし、本発明の希土類金属回収材のように、複数の反応基(アルデヒド基或いはスクシンイミドエステル基)を有する架橋分子を介して核酸と固相とを結びつけることで、核酸の希土類金属に対する結合能を失うことなく、容易・簡便かつ安価に希土類金属回収材を構築することができる。特に、本発明の希土類金属回収材では、非特許文献1に記載してあるようなリン酸化合物を含む樹脂を固定化した高価なカラムを使用しないで希土類金属を回収することができるため、希土類金属の回収に要するコストを大幅に低減することができる。
さらに、核酸の希土類金属に対する結合能を失うことなく固相に核酸を安定して固定化できるようになったことで、希土類金属回収材を繰り返し再利用して希土類金属を回収することができるようになる。
【0020】
[7] 上記[1]〜[6]に記載の希土類金属回収材と、希土類金属を含有する可能性のある検体とを接触させる検体接触工程と、前記核酸のリン酸基と前記希土類金属とを結合させる結合工程と、前記結合工程を行なった希土類金属回収材に溶出液を添加して当該希土類金属を溶出させる溶出工程と、を有する希土類金属回収方法。
[8] 前記溶出液が、0.04〜0.5Nの無機酸である上記[7]に記載の希土類金属回収方法。
【0021】
本発明の希土類金属回収方法では、希土類金属回収材によって捕捉できた希土類金属を、溶出液によって溶出して回収することができる。この場合、例えば、希土類金属が吸着した希土類金属回収材を溶出液に接触させて希土類金属を溶出させるだけで簡便かつ容易に希土類金属を回収することができる。この場合、溶出液によって多段階の抽出を行う必要がなく、検体中に低濃度の希土類金属しか含有しない場合であっても、当該希土類金属を容易に回収することができる。
【0022】
当該溶出液として、0.04〜0.5Nの無機酸を使用すれば、希土類金属を他の金属より濃縮程度の高い状態で分離して効率よく回収することができる(後述の実施例参照)。このように本発明の希土類金属回収方法では、低濃度の溶出液を使用して希土類金属を優先的に回収できるため、安価に希土類金属の回収を行なえる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の希土類金属回収材を示す概略図である。
【図2】本発明の希土類金属回収方法の概略を示す流れ図である。
【図3】実施例1〜3の希土類金属回収材においてランタノイドイオンの分配係数を算出したグラフ
【図4】溶出液である硝酸の濃度を変更したときのネオジムおよび鉄の溶出濃度の変化を測定したグラフ
【図5】溶出液である塩酸の濃度を変更したときのネオジムおよび鉄の溶出濃度の変化を測定したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の希土類金属回収材は、希土類金属、所謂レアアースを簡便かつ安価に回収するものである。希土類金属は、例えば永久磁石の加工時に発生する磁石粉末、情報通信機器などの廃棄物などから集めた検体から回収する。当該検体は、希土類金属を含有する可能性のある試料であれば使用できる。本明細書における「希土類金属Yを含有する可能性のある検体」とは、希土類金属を含有していることが予め判明しているか、希土類金属を含有していると考えられる試料のことである。当該検体の態様は限定されるものではないが、通常、液体状の試料を使用する。
【0025】
図1に示したように、希土類金属回収材Xは、希土類金属Yと結合可能なリン酸基11を有する核酸10と、核酸10のアミノ基12に架橋した複数の反応基(アルデヒド基或いはスクシンイミドエステル基)21を有する架橋分子20と、架橋分子20の一端に結合した固相30と、を備える。
【0026】
(希土類金属)
本発明の希土類金属回収材で回収され得る希土類金属Yとして、本明細書ではランタノイドについて説明する。ランタノイドは、スカンジウム(Sc)・イットリウム(Y)・ランタン(La)・セリウム(Ce)・プラセオジム(Pr)・ネオジム(Nd)・プロメチウム(Pm)・サマリウム(Sm)・ユウロピウム(Eu)・ガドリニウム(Gd)・テルビウム(Tb)・ジスプロシウム(Dy)・ホルミウム(Ho)・エルビウム(Er)・ツリウム(Tm)・イッテルビウム(Yb)・ルテチウム(Lu)の17元素の総称である。特に、ジスプロシウムやネオジムは永久磁石の材料として重要である。
【0027】
(核酸)
核酸10は、安定性や分解され難さなどを鑑みるとDNAを使用するのがよい。DNAを用いる場合には、公知の方法を用いて細胞もしくは組織より抽出されたDNAを利用することができ、更には、鎖状若しくは環状のプラスミドDNAや染色体DNA、これらを制限酵素により若しくは化学的に切断したDNA断片、試験管内で酵素等により合成されたDNA、又は化学合成したオリゴヌクレオチド等を用いることができる。本発明で使用する核酸10においては、塩基配列はどのような配列であってもよく、配列の長さも問わない。
DNAの供給源としては、DNAを含有するあらゆる生体試料や培養細胞を適用することができる。例えば、産業廃棄物として破棄されることが多い魚類の精巣である白子であれば、安価に入手することができる。
【0028】
(架橋分子)
架橋分子20は、核酸10のアミノ基12に架橋できる複数の反応基21を有する分子であればよい。具体的には、架橋分子20は、グルタルアルデヒド、フタルアルデヒド、スベリン酸ジスクシンイミジルの群れから選択される一種または複数種とすればよい。例えば、特定の希土類金属Yを効率よく回収したい場合には、これら架橋分子20のうちの一種類を使用して核酸10を固相30に固定する。あるいは複数の希土類金属Yを回収したい場合には、これら架橋分子20のうちの複数種類を使用して核酸10を固相30に固定する。このように固相30に固定する架橋分子20の種類や態様は種々変更することが可能である。しかし、架橋分子20の種類や固定化の態様はこれらに限られるものではない。
上述した三種類の架橋分子20は、二つの反応基21をその分子の端部に有する分子構造となっている。これら反応基21が核酸10のアミノ基12に架橋している。本発明のように架橋分子20が反応基21を複数有する場合に核酸10および架橋分子20を安定して結合させることができ、これによって核酸10が固相30上に安定して存在することができる。
【0029】
(固相)
固相30は、架橋分子20の一端を固定することができる材料で形成すればよく、例えばセルロース系の材料を主成分とするものがよい。当該材料は、例えばセルロースを主成分とする繊維や、セルロースを主成分とする樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びこれらの類似体)を使用することができるが、これらに限られるものではない。
【0030】
セルロースを主成分とする繊維を固相30の材料として使用した場合、当該繊維は、天然繊維及びこの天然繊維を再生した再生繊維を含むように構成することが可能である。この場合、例えばセルロースを主成分とする繊維の配合割合が、100〜50%程度となるように構成するとよい。即ち、セルロースを主成分とする繊維は、植物繊維をそのまま乾燥、粉砕したリグニンやヘミセルロース等の他の成分を含んでいるものも適用できる。また、植物繊維をアルカリ処理で脱リグニンした後に乾燥・粉砕したもの、パルプや古紙を粉砕したもの、更に細かく粉砕しミクロフィブリル化したもの等が使用できる。
【0031】
固相30の形態としては、例えばシート状・板状・箱状・円筒状など、種々の形態をとり得る。好適な固相30としては、公知の濾紙を使用することができる。
【0032】
本発明の希土類金属回収材Xのように、複数の反応基21を有する架橋分子20を介して核酸10と固相30とを結びつけることで、核酸10の希土類金属Yに対する結合能を失うことなく、容易・簡便かつ安価に希土類金属回収材Yを構築することができる。
【0033】
<希土類金属回収方法>
図2に示したように、本発明の希土類金属回収方法は、上述した希土類金属回収材Xと、希土類金属Yを含有する可能性のある検体とを接触させる検体接触工程Aと、核酸10のリン酸基11と希土類金属Yとを結合させる結合工程Bと、結合工程Bを行なった希土類金属回収材Xに、溶出液を添加して希土類金属Yを溶出させる溶出工程Cと、を有する。
【0034】
希土類金属Yを含有する可能性のある検体は、例えば液体試料(検体溶液)を使用する。この検体溶液は、例えば、永久磁石の加工時に発生する磁石粉末や情報通信機器などの廃棄物に濃硝酸や濃塩酸などの無機酸を添加して希土類金属をイオン化させたものである。
【0035】
検体接触工程Aでは、例えば希土類金属Yを含有する可能性のある検体溶液に、シート状の希土類金属回収材Xを浸漬させる。このとき、複数枚のシート状の希土類金属回収材Xを検体溶液に浸漬させるようにしてもよい。
結合工程Bでは、所定の時間、検体および希土類金属回収材Xを接触させる。結合工程Bでは、核酸10のリン酸基11と希土類金属Yとが効率よく結合するように、振盪・加温・曝気などを行なうとよい。
溶出工程Cでは、検体溶液から希土類金属回収材Xを引き上げ、溶出液中に当該希土類金属回収材Xを浸漬し、希土類金属Yを溶出させる。このような溶出液として、硝酸、塩酸などの無機酸が挙げられる。溶出液としてこれら無機酸を使用する場合、0.04〜0.5Nの濃度とすれば効率よく希土類金属Yを溶出させることができる。
【0036】
これら一連の工程は、通常、室温で行なわれるが、必要に応じて30〜50℃程度に加温すれば、希土類金属Yの溶出を迅速に行なうことができる。
【実施例】
【0037】
本発明の実施例について説明する。
【0038】
〔実施例〕
以下のようにして本発明の希土類金属回収材Xを作製した。
核酸として、サケ精子由来DNA(和光純薬製:カタログ番号047−17322)を使用し、10mM TrisHCl、1mM EDTA pH8.0溶液に溶解して5mg/mlとしたものをDNA溶液とした。
架橋分子20は、グルタルアルデヒド・フタルアルデヒド・スベリン酸ジスクシンイミジルを使用し、固相30は、ブロッティング用ワットマン濾紙(GEヘルスケアジャパン株式会社製:3MM)を使用した。
【0039】
グルタルアルデヒド25%溶液(和光純薬製:カタログ番号079−00533)をDNA溶液に1/10量加え、撹拌後ワットマン濾紙に滴下した(実施例1)。
フタルアルデヒド(和光純薬製:カタログ番号035−13961)は10%メタノール溶液をDNA溶液に1/10量加え、撹拌後ワットマン濾紙に滴下した(実施例2)。
スベリン酸ジスクシンイミジル(Thermo社製:カタログ番号21555)1%DMSO溶液をDNA溶液に1/10量加え、撹拌後ワットマン濾紙に滴下した(実施例3)。
何れも室温で1時間以上乾燥し、蒸留水で洗浄・乾燥後、評価に用いた。この条件でDNA結合効率は80%程度である。
【0040】
〔比較例〕
比較例として、キトサンに核酸を固定した回収材を作製した。核酸は実施例1と同様のものを使用した。
0.3gのキトサン1000(和光純薬製:カタログ番号039−14422)に0.05N塩酸30mlを加えた。完全に溶解し、ゲル化するまで一晩室温放置した。0.025N NaOHを徐々に加えてpH5にした後に、蒸留水を加えて50mLにした(キトサン水溶液)。
氷冷したDNA溶液に等量のキトサン水溶液を滴下し、4℃で一晩放置後することで、DNAをキトサンへ吸着固定化させた沈殿物(比較例の回収材)を得た。この条件でDNA結合効率は95%以上である。
【0041】
(評価1)
実施例1〜3の希土類金属回収材X、および、比較例の回収材について、希土類金属Yが結合可能なリン酸基があるか否かを、モリブデンを用いたリン酸検出試薬であるBioMol Green(BioMol社製:カタログ番号AK−111)によって評価した。実施例1〜3の希土類金属回収材Xおよび比較例の回収材に、BioMol Greenを数滴滴下し、約1時間放置した後、蒸留水で洗浄し、残存する色素により評価を行なった。
【0042】
実施例1〜3の希土類金属回収材Xでは、いくつかの緑色のスポットを検出することができたが、比較例の回収材では緑色に染まることがなかった(データは示さない)。これより、実施例1〜3の希土類金属回収材Xには、希土類金属Yに結合可能なリン酸基があり、比較例の回収材には、希土類金属Yに結合可能なリン酸基が存在しないことが確認された。
【0043】
(評価2)
ランタノイドイオンの結合評価
ランタノイドイオン(ランタンからルテチウムまでの15種類の元素のうち、安定同位体が存在しないプロメチウムを除いた14種類)を各1ppm含む混合溶液(pH3)に、実施例1〜3の希土類金属回収材Xおよび比較例の回収材をそれぞれ0.2g浸漬し、2時間振盪した。ICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析装置:アジレントテクノロジー株式会社製)を用いて、吸着されない各ランタノイドイオンの濃度を計測することで分配係数を算出した。当該計測および算出は製造業者の指示に従って行なった。
【0044】
比較例の回収材では、分配係数Kd(L/g)は0.005未満であり、ランタノイドイオン吸着能がないことが判明した。
【0045】
一方、実施例1〜3の希土類金属回収材Xでは、算出されたランタン(La)とルテチウム(Lu)に対する分配係数Kdから、DNAの架橋分子20(グルタルアルデヒド・フタルアルデヒド・スベリン酸ジスクシンイミジル)の種類により以下のような希土類金属結合能力の差が判明した(図3、表1)。
【0046】
ランタノイドイオンの結合保持量(分配係数の大きさ)としては、実施例2の希土類金属回収材X(フタルアルデヒド:Kd≧2.2)と、実施例3の希土類金属回収材X(スベリン酸ジスクシンイミジル:Kd≧0.6)が優れていた。
ランタノイドイオンの識別能力(分配係数のイオンによる違いが大きいほどランタノイドイオンの識別能力が高い)としては、実施例1の希土類金属回収材X(グルタルアルデヒド)と実施例3の希土類金属回収材X(スベリン酸ジスクシンイミジル)が優れていた。
以上より、総合的にはスベリン酸ジスクシンイミジルを用いて固定化した実施例3の希土類金属回収材Xが両方の能力に秀でていることが判明した。
【0047】
【表1】

【0048】
(評価3)
ランタノイドイオンの溶出評価
スベリン酸ジスクシンイミジルによりDNAを固定化した濾紙(実施例3)0.8gを充填したカラムに、表2,3に示した15種類のランタノイドイオンを各5ppm含む混合溶液1mL(pH3.5)を注入し、それぞれのランタノイドイオンを濾紙上のDNAに結合させた。ランタノイドイオンの溶出は、溶出液として0.03N、0.04N、0.1N、0.5N、1N硝酸溶液16mLを順に前記カラムに注入することによって行なった。また他の溶出液として塩酸でも同様に溶出を行った。硝酸溶出液および塩酸溶出液について、ICP−MSを用いて各ランタノイドイオンの濃度を計測し、溶出されたランタノイドイオンの割合を算出した(表2:硝酸溶出液,表3:塩酸溶出液)。
【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
0.03N硝酸・塩酸で溶出した場合は、イッテルビウム、ルテチウムの溶出割合が4割未満であった。
0.04N硝酸で溶出した場合は、イッテルビウム、ルテチウム以外のランタノイドイオンの6割以上を溶出可能であった。
0.04N塩酸で溶出した場合は、イッテルビウム、ルテチウム以外のランタノイドイオンの8割以上を溶出可能であった。
0.1N硝酸・塩酸で溶出した場合は、イッテルビウム、ルテチウム以外のランタノイドイオンの8割以上を溶出可能であった。
0.5N硝酸・塩酸で溶出した場合は、何れのランタノイドイオンの9割以上を溶出可能であった。
【0052】
この結果、0.04〜0.5Nの硝酸および塩酸を溶出液として用いれば、良好にランタノイドイオンを溶出できるものと認められた。特に0.5N硝酸・塩酸は、溶出効率に優れているものと認められた。
【0053】
(評価4)
ネオジム磁石成分の分離評価
スベリン酸ジスクシンイミジルによりDNAを固定化した濾紙(実施例3)0.8gを充填したカラムに、ネオジム磁石成分を模した組成として、鉄11ppm、ネオジム5ppmを含む混合溶液1mL(pH3)を注入し、それぞれを濾紙上のDNAに結合させた。
【0054】
0.07N硝酸10mLで溶出し、さらに2N硝酸10mLで溶出したところ、吸着したネオジムの85%以上を0.07N硝酸で溶出可能であることが判明した(図4)。鉄は0.07N硝酸では25%程度しか溶出できない。このように0.07N硝酸で溶出した場合、ネオジムは鉄に比べて3倍以上濃縮された状態で回収できることが判明した。
【0055】
他の溶出液として、0.04N塩酸16mLで溶出し、さらに2N塩酸10mLで溶出したところ、吸着したネオジムの95%以上を0.04N塩酸で溶出可能であることが判明した(図5)。鉄は0.04N塩酸10mLでは6%程度しか溶出できない。このように、0.04N塩酸で溶出した場合、ネオジムは鉄に比べて15倍以上濃縮された状態で回収できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、希土類金属を含有する検体から希土類金属を回収する技術に利用できる。
【符号の説明】
【0057】
X 希土類金属回収材
Y 希土類金属
10 核酸
11 リン酸基
12 アミノ基
20 架橋分子
21 反応基
30 固相

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類金属を含有する検体から前記希土類金属を回収するべく、
前記希土類金属と結合可能なリン酸基を有する核酸と、
前記核酸のアミノ基に架橋した複数のアルデヒド基または複数のスクシンイミドエステル基の何れか一方を有する架橋分子と、
当該架橋分子の一端に結合した固相と、を備えた希土類金属回収材。
【請求項2】
前記架橋分子が、グルタルアルデヒド、フタルアルデヒド、スベリン酸ジスクシンイミジルの群れから選択される一種または複数種である請求項1に記載の希土類金属回収材。
【請求項3】
前記固相が、セルロース系の材料を主成分としてある請求項1または2に記載の希土類金属回収材。
【請求項4】
前記核酸がDNAである請求項1〜3の何れか一項に記載の希土類金属回収材。
【請求項5】
前記DNAが白子由来である請求項4に記載の希土類金属回収材。
【請求項6】
前記希土類金属がランタノイドである請求項1〜5の何れか一項に記載の希土類金属回収材。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の希土類金属回収材と、希土類金属を含有する可能性のある検体とを接触させる検体接触工程と、
前記核酸のリン酸基と前記希土類金属とを結合させる結合工程と、
前記結合工程を行なった希土類金属回収材に溶出液を添加して当該希土類金属を溶出させる溶出工程と、を有する希土類金属回収方法。
【請求項8】
前記溶出液が、0.04〜0.5Nの無機酸である請求項7に記載の希土類金属回収方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−172232(P2012−172232A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37488(P2011−37488)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】