説明

希土類金属錯体及び発光性樹脂組成物

【課題】有機溶媒への溶解性及び有機樹脂との相溶性に優れ、また有機樹脂中での分散状態が安定な希土類金属錯体及びこれを含有する発光性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】例えばトリス(1,3−ジフェニルプロパンジオナート)[5−(ヒドロキシジイソプロピルシリル)−2,2’−ビピリジン]ユウロピウム(III)であるような反応性シリル基を含有するビピリジン誘導体を配位子とする希土類金属錯体。
【効果】希土類金属錯体は、有機溶媒や樹脂との相溶性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な反応性シリル基を有する希土類金属錯体及びこれを含有する発光性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類元素は、蛍光体や永久磁石、ガラス着色剤、固体レーザー材料等で工業的に使用されており、重要な元素である。蛍光体向けでは酸化物として使用されることが主であるが、近年はバイオアッセイや発光デバイス用に水や有機溶媒への溶解性を有する希土類金属錯体を使用する研究が盛んである。
【0003】
一般に希土類金属塩は水溶性であり、有機溶媒への溶解性は高くない。そこで、有機化合物からなる適切な配位子を設計することにより所望の有機溶媒への溶解性を向上させることができる。溶解性は有機樹脂に希土類金属錯体を分散させて使用する場合にも重要な因子であり、例えば単量体混合物や未硬化の樹脂組成物に所望の比率で分散させるためには有機化合物への十分な溶解性(又は相溶性)が必要である。照明学会誌2009年第93巻第11号790〜793ページ(非特許文献1)では、アルコキシシランのゾル−ゲルポリマーに希土類金属錯体を分散させているが、単量体であるアルコキシシランへの希土類金属錯体の溶解性が低い場合には得られるゾル−ゲルポリマーが不透明になり、発光特性も低下することが記載されている。
【0004】
配位子には、更に金属錯体の構造を安定化させる役割がある。配位子と金属イオンとの軌道相互作用により配位の強さは調節されるが、それとは別に配位子化合物中のドナー原子の数を増やしていわゆるキレート配位子とすることによって配位子と金属イオンの結合定数を大きくし、錯体を安定化することができる。
【0005】
発光性の希土類金属錯体における有機配位子には、もうひとつの重要な役割がある。一般に希土類金属錯体の発光機構は、配位子が励起光のエネルギーを吸収して一重項励起状態となり、更に系間交差による三重項励起状態を経て金属イオンへエネルギー移動が起こり、希土類金属イオンのf−f遷移により発光する。従って、効率良く発光を起こさせるためには適切な配位子のデザインが必要である。
【0006】
希土類金属錯体を有機樹脂のような固体マトリクスに分散させて使用する場合、初期の分散性が重要であることは上述したが、分散状態の長期的な安定性もまた重要である。特に固体マトリクスの網目が大きい場合や熱可塑性樹脂をマトリクスとする場合には、時間の経過と共に錯体がマトリクス内を移動するため錯体が凝集して結晶化し、結果として初期分散度が低い場合と同様に発光特性が低下する。また、錯体がマトリクス表面からブリードアウトしたり、他材料との界面で偏析することによっても発光特性が低下する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】照明学会誌2009年第93巻第11号790〜793ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、有機溶媒への溶解性及び有機樹脂との相溶性に優れ、また有機樹脂中での分散状態が安定な希土類金属錯体及びこれを含有する発光性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、有機溶媒や樹脂モノマーへの溶解性が高く、また有機樹脂等の固体マトリクスに結合して固定化できる、特定の構造を有する反応性シリル基含有希土類金属錯体を見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は以下に記載する反応性シリル基含有希土類金属錯体及びそれを含有する発光性樹脂組成物を提供する。
請求項1:
下記一般式(1)又は(2)で表される反応性シリル基を含有する化合物を配位子とすることを特徴とする希土類金属錯体。
【化1】


[式中、R1及びR2は同一でも互いに異なっていてもよく、水素原子、下記一般式(3)で表される反応性シリル基、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状の1価炭化水素基、及び環構造中に窒素原子、硫黄原子、酸素原子のうち一種以上を含む炭素数1〜20の1価の複素環式置換基から独立に選択される置換基を表す。また、R1及びR2が炭化水素基及び複素環式置換基の場合は、構成する任意の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が更にフッ素原子、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状の1価炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、又は炭素数6〜20のアリーロキシ基で置換されていてもよく、上記炭化水素基及び複素環式置換基が芳香族置換基である場合には、下記一般式(3)で表される反応性シリル基で更に置換されていてもよい。但し、R1及びR2のうち少なくとも一つが下記一般式(3)で表される反応性シリル基であるか又は化合物全体として下記一般式(3)で表される反応性シリル基を含有する。
−SiRXYZ (3)
(式中、RX、RYはそれぞれ独立に、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状の1価炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数1〜20のアシロキシ基、水酸基、ハロゲン原子、水素原子、メルカプト基、アミノ基、シアノ基、シアナート基、イソシアナート基、チオシアナート基、及びイソチオシアナート基から選択される置換基を表し、これら置換基は炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていてもよく、アミノ基の水素原子は一部又は全部が更に炭素数1〜20の1価炭化水素基で置換されていてもよい。RZは炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数1〜20のアシロキシ基、水酸基、ハロゲン原子、水素原子、メルカプト基、アミノ基、シアノ基、シアナート基、イソシアナート基、チオシアナート基、及びイソチオシアナート基から選択される置換基を表し、これら置換基は炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていてもよく、アミノ基の水素原子は一部又は全部が炭素数1〜20の1価炭化水素基で置換されていてもよい。)]
請求項2:
下記一般式(4)で表される請求項1記載の希土類金属錯体。
(L1mM(L2n (4)
(式中、L1は上記一般式(1)又は(2)で表される配位子を表す。L2はハロゲン化物イオン又は下記一般式(5)又は(6)で表されるアニオン性配位子を表す。Mは希土類金属イオンを表す。mは1又は2であり、nは希土類金属イオンMの価数に相当する正の整数である。)
【化2】

(式中、Ra、Rc及びRdは同一でも互いに異なっていてもよく、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状の1価炭化水素基、又は環構造中に窒素原子、硫黄原子、酸素原子のうち一種以上を含む炭素数1〜20の1価の複素環式置換基を表す。Rbは水素原子、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状の1価炭化水素基、又は環構造中に窒素原子、硫黄原子、酸素原子のうち一種以上を含む炭素数1〜20の1価の複素環式置換基を表す。Ra、Rb、Rc及びRdは構成する炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていてもよい。)
請求項3:
上記一般式(4)において、Mがサマリウム、ユウロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、セリウム、プラセオジム、ネオジム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、イットリウムより選択される請求項2記載の希土類金属錯体。
請求項4:
請求項1〜3のいずれか1項記載の希土類金属錯体を含有することを特徴とする発光性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の希土類金属錯体は、有機溶媒や樹脂との相溶性に優れており、種々の媒体に均一に分散して良好な発光特性を示す。更に反応性シリル基を有しているので樹脂内部に固定化することができ、長期間の安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の希土類金属錯体は、下記一般式(1)又は(2)で表される下記一般式(3)の反応性シリル基を含有する化合物を配位子とする希土類金属錯体である。
【化3】


−SiRXYZ (3)
【0013】
上記式(1)及び(2)において、R1及びR2は同一でも互いに異なっていてもよく、水素原子、上記一般式(3)で表される反応性シリル基、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状の1価炭化水素基、及び環構造中に窒素原子、硫黄原子、酸素原子のうち一種以上を含む炭素数1〜20の1価の複素環式置換基から独立に選択される置換基を表す。また、R1及びR2が炭化水素基及び複素環式置換基の場合は、構成する任意の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が更にフッ素原子、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状の1価炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、又は炭素数6〜20のアリーロキシ基で置換されていてもよい。また、上記炭化水素基及び複素環式置換基が芳香族置換基である場合には、上記一般式(3)で表される反応性シリル基で更に置換されていてもよい。但し、R1及びR2のうち少なくとも一つが上記一般式(3)で表される反応性シリル基であるか又は化合物全体として上記一般式(3)で表される反応性シリル基を含有する。
【0014】
上記一般式(1)における置換基R1及び上記一般式(2)における置換基R2の具体例としては、水素原子、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状の1価炭化水素基として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、へキシル基、シクロへキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、トリフルオロプロピル基、ノナフルオロヘキシル基、トリデカフルオロオクチル基等のアルキル基やフルオロアルキル基、ビニル基、アリル基、メタリル基、ブテニル基等のアルケニル基、フェニル基,トリル基、ナフチル基、トリフルオロメチルフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、p−トリエトキシリルフェニル基、m−トリエトキシリルフェニル基、p−(ジエチルシリル)フェニル基、m−(ジエチルシリル)フェニル基、p−(ジイソプロピルシリル)フェニル基、m−(ジイソプロピルシリル)フェニル基、p−(ヒドロキシジイソプロピルシリル)フェニル基、m−(ヒドロキシジイソプロピルシリル)フェニル基等の非置換又は置換アリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、メチルピペラジニル基、モルホリニル基、ピリジル基、ピラジニル基、トリアジニル基、キノリニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基、チイル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、オキサジニル基、ジイソプロピルシリルピリジル基、(ヒドロキシジイソプロピルシリル)ピリジル基等の炭素数1〜20の複素環式置換基の他、上記式(3)で表される反応性シリル基が挙げられる。
【0015】
上記式(3)において、RX、RYはそれぞれ独立に、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状の1価炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数1〜20のアシロキシ基、水酸基、ハロゲン原子、水素原子、メルカプト基、アミノ基、シアナート基、イソシアナート基、チオシアナート基、及びイソチオシアナート基から選択される置換基を表し、これら置換基は炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が更にフッ素原子で置換されていてもよく、アミノ基の水素原子は一部又は全部が炭素数1〜20の1価炭化水素基で置換されていてもよい。また、RZは炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数1〜20のアシロキシ基、水酸基、ハロゲン原子、水素原子、メルカプト基、アミノ基、シアナート基、イソシアナート基、チオシアナート基、及びイソチオシアナート基から選択される置換基を表し、これら置換基は炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が更にフッ素原子で置換されていてもよく、アミノ基の水素原子は一部又は全部が更に炭素数1〜20の1価炭化水素基で置換されていてもよい。
【0016】
このような置換基RX、RYの具体例としては、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状の1価炭化水素基として、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、トリフルオロプロピル基、ノナフルオロヘキシル基、トリデカフルオロオクチル基等の直鎖アルキル基やフルオロアルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の分岐アルキル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基等の環状アルキル基、ビニル基、アリル基、メタリル基、ブテニル基等のアルケニル基、フェニル基,トリル基、ナフチル基、トリフルオロメチルフェニル基、ペンタフルオロフェニル基等の非置換又はフルオロ置換アリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロポキシ基等のアルコキシ基やフルオロアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基等のアリーロキシ基、アセトキシ基、トリフルオロアセトキシ基、ペンタフルオロプロパノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等のアシロキシ基やフルオロアシロキシ基、水酸基、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、水素原子、メルカプト基、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基等の非置換又は置換のアミノ基、シアノ基、イソシアナート基、チオシアナート基、イソチオシアナート基等が挙げられる。
【0017】
また、置換基RZの具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロポキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基やフルオロアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基等の炭素数6〜20のアリーロキシ基、アセトキシ基、トリフルオロアセトキシ基、ペンタフルオロプロパノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等の炭素数1〜20のアシロキシ基やフルオロアシロキシ基、水酸基、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、水素原子、メルカプト基、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基等の非置換又は置換のアミノ基、シアノ基、イソシアナート基、チオシアナート基、イソチオシアナート基等が挙げられる。
【0018】
上記式(3)で表される置換基の具体例としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、ジメトキシ(メチル)シリル基、ジエトキシ(メチル)シリル基、ジメトキシ(エチル)シリル基、メトキシジメチルシリル基、エトキシジメチルシリル基、フェノキシジメチルシリル基、メトキシジエチルシリル基、エトキシジエチルシリル基、メトキシジイソプロピルシリル基、エトキシジイソプロピルシリル基等のオルガノキシシリル基、トリアセトキシシリル基、ジアセトキシメチルシリル基、アセトキシジイソプロピルシリル基、ベンゾイルオキシジイソプロピルシリル基等のアシロキシシリル基、トリヒドロキシシリル基、ジヒドロキシ(メチル)シリル基、ジヒドロキシ(エチル)シリル基、ジヒドロキシ(フェニル)シリル基、ジヒドロキシ(ナフチル)シリル基、ヒドロキシジメチルシリル基、ヒドロキシジエチルシリル基、ヒドロキシジイソプロピルシリル基、ヒドロキシ(メチル)フェニルシリル基、ヒドロキシジフェニルシリル基等のヒドロキシシリル基、トリクロロシリル基、ジクロロ(メチル)シリル基、ジクロロ(tert−ブチル)シリル基、ジクロロ(シクロペンチル)シリル基、ジクロロ(シクロヘキシル)シリル基、クロロジメチルシリル基、フルオロジメチルシリル基、クロロジエチルシリル基、クロロジイソプロピルシリル基、ブロモジイソプロピルシリル基、ヨードジイソプロピルシリル基等のハロシリル基、ジメチルシリル基、ジエチルシリル基、ジイソプロピルシリル基、ジイソブチルシリル基、ジ−sec−ブチルシリル基、ジシクロペンチルシリル基、ジシクロヘキシルシリル基等のヒドロシリル基、メルカプトジメチルシリル基、メルカプトジイソプロピルシリル基等のメルカプトシリル基、(ジメチルアミノ)ジメチルシリル基、(ジエチルアミノ)ジメチルシリル基、ビス(ジメチルアミノ)メチル基、ビス(ジエチルアミノ)メチル基、トリス(ジメチルアミノ)シリル基、トリス(ジエチルアミノ)シリル基等のアミノシリル基、トリイソシアナトシリル基、トリイソチオシアナトシリル基等が挙げられる。
【0019】
本発明の希土類金属錯体は、下記一般式(4)で表される化合物であることが好ましい。
(L1mM(L2n (4)
【0020】
上記一般式(4)において、L1は上記一般式(1)又は(2)で表される配位子を表す。L2はフッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン、又は下記一般式(5)で表されるβ−ジケトナート配位子又は下記一般式(6)で表されるカルボキシラート配位子であるアニオン性配位子を表す。Mは希土類金属イオンを表す。mは1又は2であり、nは希土類金属イオンMの価数に相当する正の整数である。
【0021】
【化4】

【0022】
上記式(5)及び(6)において、Ra、Rc及びRdは同一でも互いに異なっていてもよく、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状の1価炭化水素基、又は環構造中に窒素原子、硫黄原子、酸素原子のうち一種以上を含む炭素数1〜20の1価の複素環式置換基を表す。Rbは水素原子、直鎖状、分岐状もしくは環状の炭素数1〜20の1価炭化水素基、又は環構造中に窒素原子、硫黄原子、酸素原子のうち一種以上を含む炭素数1〜20の1価の複素環式置換基を表す。Ra、Rb、Rc及びRdは構成する炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が更にフッ素原子で置換されていてもよい。
【0023】
このようなRa、Rc及びRdの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、トリフルオロプロピル基、ノナフルオロヘキシル基、トリデカフルオロオクチル基等の直鎖アルキル基やフルオロアルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の分岐アルキル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基等の環状アルキル基、ビニル基、アリル基、メタリル基、ブテニル基等のアルケニル基、フェニル基,トリル基、ナフチル基、トリフルオロメチルフェニル基、ペンタフルオロフェニル基等の非置換又はフルオロ置換アリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、メチルピペラジニル基、モルホリニル基、ピリジル基、ピラジニル基、トリアジニル基、キノリニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基、チイル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、オキサジニル基等の複素環式置換基が挙げられる。また、Rbの具体例としては、Ra、Rc及びRdの具体例として挙げた置換基に加えて水素原子が挙げられる。
【0024】
上記一般式(4)において、Mは希土類金属イオンを表す。ここで希土類金属とは、ランタノイド元素に加えてイットリウム、スカンジウムを指す。中でも発光特性が優れていることから、Mはサマリウム、ユウロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、セリウム、プラセオジム、ネオジム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、イットリウムから選択される希土類金属イオンであることが好ましく、特にサマリウム、ユウロピウム、テルビウム、ジスプロシウムであることがより好ましい。
【0025】
本発明の発光性樹脂組成物は、発光性化合物として本発明の希土類金属錯体を含有していることを特徴とする。マトリクスとなる樹脂は限定されないが、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリシロキサン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、エチレンー酢酸ビニル共重合樹脂、ABS樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン、シリコーン樹脂等の熱可塑性あるいは熱硬化性樹脂、天然ゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、EPDM、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等のゴムが挙げられる。
【0026】
本発明の発光性樹脂組成物における希土類金属錯体の含有量は任意であるが、通常0.001〜10質量%、好ましくは0.01〜1質量%である。所望の発光特性を得られるように含有量を調節することが望ましい。
【0027】
本発明の発光性樹脂組成物は樹脂以外の成分を含んでいてもよい。例えば水、メタノール、エタノール、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等の溶媒、シリカゲル、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボン、水酸化マグネシウム等のフィラー、シランカップリング剤やテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のケイ素化合物、アゾビスイソブチロニトリルや過酸化ベンゾイル等のラジカル重合開始剤、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート等の光重合開始剤、塩化白金酸、白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、ベンジリデンジクロロビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム等の金属化合物、ガラス繊維や炭素繊維等の繊維、ベンゾフェノン誘導体やヒンダードアミン化合物等の紫外線吸収剤及び光安定剤、フタル酸エステルやアジピン酸エステル等の可塑剤、リン酸エステル等の難燃剤が挙げられる。
【0028】
本発明の発光性樹脂組成物への希土類金属錯体の添加方法としては、例えば樹脂と希土類金属錯体を混練して分散させる方法、液状の樹脂に希土類金属錯体を溶解させる方法、液状の樹脂モノマーやプレポリマーに希土類金属錯体を予め混合溶解させてから重合あるいは縮重合させる方法、樹脂ワニスに希土類金属錯体を溶解させる方法等が挙げられる。
【0029】
本発明の発光性樹脂組成物において、希土類金属錯体は反応性シリル基を有しているので樹脂に反応性基が存在する場合には樹脂に共有結合して固定化することができる。樹脂中に存在する反応性基としては、例えば水酸基や不飽和炭素−炭素結合、ケイ素−水素結合等がある。また、樹脂への固定化の別の方法として、シランカップリング剤のように樹脂に結合する官能基を有する化合物を介して結合させる方法もある。この場合、シランカップリング剤としては、例えばアミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルアミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロイロキシプロピルジメチルメトキシシラン、メタクリロイロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロイロキシプロピルジエトキシメチルシラン、クロロプロピルトリメトキシシラン、クロロプロピルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、スチリルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルジエトキシメチルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0030】
この場合、シランカップリング剤の配合量は任意であるが、通常0.001〜20質量%、特に0.1〜10質量%が好ましい。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を示して、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0032】
[実施例1]トリス(1,3−ジフェニルプロパンジオナート)[5−(ヒドロキシジイソプロピルシリル)−2,2’−ビピリジン]ユウロピウム(III)の合成
撹拌機、温度計、還流冷却器、滴下ロートを備えた四つ口丸底フラスコを窒素置換し、外気に開放された還流冷却器の上部に窒素を通気させて空気や水分を遮断した。フラスコ内に5−ジイソプロピルシリル−2,2’−ビピリジン118mg(0.436mmol)を仕込み、エタノール6.6mLを加えて室温で撹拌して均一に溶解させた。この溶液に1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1.31mLを室温で撹拌しながら滴下した。滴下と共に発熱と発泡が見られ、滴下終了後1時間撹拌を続けて反応混合物をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、5−ジイソプロピルシリル−2,2’−ビピリジンが消失していることが確認され、脱水素反応により5−(ヒドロキシジイソプロピルシリル)−2,2’−ビピリジンが生成した。
【0033】
5−(ヒドロキシジイソプロピルシリル)−2,2’−ビピリジンを含む上記反応混合物に、1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオンを加えて室温で10分撹拌することにより黄色の均一な溶液を得た。撹拌を続けながら、滴下ロートから0.2mol/Lの塩化ユウロピウム水溶液5mLを30分間で滴下した。反応混合物を更に1時間室温で撹拌した後、生じた固体を減圧濾過により反応混合物から分離した。この固体を水−エタノール混合溶媒及びエタノールで洗浄し、真空乾燥することによって405mgの淡黄色固体が得られた。得られた固体の質量分析をMALDI−TOF法(マトリックス:トランス−2−(3−(4−t−ブチルフェニル)−2−メチル−2−プロペニリデン)マロノニトリル)により行った結果を以下に示す。
MALDI−TOFMS(+) m/z 886([M−ジフェニルプロパンジオナート]+
MALDI−TOFMS(−) m/z 223(ジフェニルプロパンジオナートイオン)
【0034】
以上のことから、得られた固体は、目的のトリス(1,3−ジフェニルプロパンジオナート)[5−(ヒドロキシジイソプロピルシリル)−2,2’−ビピリジン]ユウロピウム(III)であると同定した。
【0035】
[実施例2]トリス(1,3−ジフェニルプロパンジオナート)[5−(ヒドロキシジイソプロピルシリル)−2,2’−ビピリジン]ユウロピウム(III)を含有するシリコーン樹脂組成物の調製
実施例1において合成したユウロピウム錯体1.4mg、シリコーンレジンKR−212(信越化学工業(株)製)2.0gをガラス容器中で1時間撹拌混合して、淡黄色透明の液状シリコーン樹脂組成物を得た。この組成物に365nmの紫外光を照射したところ、強い赤色の発光を示した。またこの組成物は3ヶ月経過した後も透明な状態を保っており、発光強度が低下しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の反応性シリル基を有する希土類金属錯体並びにこれを含有する発光性樹脂組成物は、有機電界発光素子等の発光デバイスにおける発光材料として、また太陽電池用スペクトル変換材料等として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)又は(2)で表される反応性シリル基を含有する化合物を配位子とすることを特徴とする希土類金属錯体。
【化1】


[式中、R1及びR2は同一でも互いに異なっていてもよく、水素原子、下記一般式(3)で表される反応性シリル基、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状の1価炭化水素基、及び環構造中に窒素原子、硫黄原子、酸素原子のうち一種以上を含む炭素数1〜20の1価の複素環式置換基から独立に選択される置換基を表す。また、R1及びR2が炭化水素基及び複素環式置換基の場合は、構成する任意の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が更にフッ素原子、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状の1価炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、又は炭素数6〜20のアリーロキシ基で置換されていてもよく、上記炭化水素基及び複素環式置換基が芳香族置換基である場合には、下記一般式(3)で表される反応性シリル基で更に置換されていてもよい。但し、R1及びR2のうち少なくとも一つが下記一般式(3)で表される反応性シリル基であるか又は化合物全体として下記一般式(3)で表される反応性シリル基を含有する。
−SiRXYZ (3)
(式中、RX、RYはそれぞれ独立に、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状の1価炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数1〜20のアシロキシ基、水酸基、ハロゲン原子、水素原子、メルカプト基、アミノ基、シアノ基、シアナート基、イソシアナート基、チオシアナート基、及びイソチオシアナート基から選択される置換基を表し、これら置換基は炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていてもよく、アミノ基の水素原子は一部又は全部が更に炭素数1〜20の1価炭化水素基で置換されていてもよい。RZは炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数1〜20のアシロキシ基、水酸基、ハロゲン原子、水素原子、メルカプト基、アミノ基、シアノ基、シアナート基、イソシアナート基、チオシアナート基、及びイソチオシアナート基から選択される置換基を表し、これら置換基は炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていてもよく、アミノ基の水素原子は一部又は全部が炭素数1〜20の1価炭化水素基で置換されていてもよい。)]
【請求項2】
下記一般式(4)で表される請求項1記載の希土類金属錯体。
(L1mM(L2n (4)
(式中、L1は上記一般式(1)又は(2)で表される配位子を表す。L2はハロゲン化物イオン又は下記一般式(5)又は(6)で表されるアニオン性配位子を表す。Mは希土類金属イオンを表す。mは1又は2であり、nは希土類金属イオンMの価数に相当する正の整数である。)
【化2】

(式中、Ra、Rc及びRdは同一でも互いに異なっていてもよく、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状の1価炭化水素基、又は環構造中に窒素原子、硫黄原子、酸素原子のうち一種以上を含む炭素数1〜20の1価の複素環式置換基を表す。Rbは水素原子、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状もしくは環状の1価炭化水素基、又は環構造中に窒素原子、硫黄原子、酸素原子のうち一種以上を含む炭素数1〜20の1価の複素環式置換基を表す。Ra、Rb、Rc及びRdは構成する炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていてもよい。)
【請求項3】
上記一般式(4)において、Mがサマリウム、ユウロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、セリウム、プラセオジム、ネオジム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、イットリウムより選択される請求項2記載の希土類金属錯体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の希土類金属錯体を含有することを特徴とする発光性樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−87065(P2012−87065A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232338(P2010−232338)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】