説明

希土類金属錯体組成物及びその用途

【課題】高い発光強度を安定して発揮し、かつ有機媒体に対して高い溶解性を示す新規希土類金属錯体組成物を提供すること。
【解決手段】一般式:


(式中、Rは置換されていてもよい飽和炭化水素基等を示す。Rは、水素原子等を示す。Rは、置換されていてもよいアリール基等であり、Rは水素等を示す。またR及びR、R及びR或いはR、R及びRが結合して環を形成していてもよい。)で表されるβ−ケトアミドナト配位子が希土類金属イオンに配位してなる希土類金属錯体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類金属錯体組成物、詳細には、β−ケトアミドナト配位子が希土類金属イオンに配位した希土類金属錯体組成物、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
特に、近年、エレクトロルミネッセンスや白色LED照明の分野では、希土類金属酸化物、窒化物等の無機化合物蛍光体に代わり、β−ジケトナト等の有機配位子が希土類金属イオンに配位した希土類金属錯体を含有する蛍光体が注目を集めている。従来用いられていた無機化合物蛍光体は、液状ポリマーに溶解せず、液状ポリマー中で分散し光散乱する傾向があるため、光取り出し効率が低下するという問題があったのに対し、前記希土類金属錯体を含有する蛍光体は、有機溶媒及び液状ポリマーに均一に溶解するため、透明性の高い蛍光体材料を提供することができるからである。前記蛍光体は、例えば、LED又は半導体レーザーと組み合わせることにより発光装置を提供することができる(非特許文献1のp138〜144)。また、近年、偽造、不正複写等の防止を目的としたセキュリティー用途等に使用される発光性インクとしても、希土類金属錯体を含有する蛍光体が注目を集めている(特許文献1)。
【0003】
前記希土類金属錯体は、前記無機化合物蛍光体と同様にf軌道の電子遷移に基づく発光が可能である。また、配位子の構造制御や分子設計を行うことによって、光物性の精密制御を行うことができる。前記希土類金属錯体の中で紫外線照射下、希土類金属イオンがTb3+からなる錯体は緑色を、Eu3+からなる錯体は赤色を容易に発光するため前記分野での応用、展開がなされている(非特許文献1のp138〜144)。
【0004】
希土類金属錯体をセキュリティー用途インキ、或いは白色LED照明に展開しようとする場合、ブラックライトランプや近紫外LEDなどの照射によりはっきりと視認できる程度に発光することが大前提となる。ブラックライトランプについては従来から、入手の容易さ、人体への影響などから波長352nm、365nmなどの長波長側の紫外線が、近紫外LEDでも波長380〜410nmの長波長側の紫外線が主に利用されている。
【0005】
特許文献2及び特許文献3では、セキュリティー用途インキや白色LED素子に利用する蛍光体として、β−ジケトナト配位子がEu3+に配位したタイプの赤色蛍光発光する希土類金属錯体、或いは、β−ジケトナト配位子又はピラゾロン配位子がTb3+に配位したタイプの緑色蛍光発光する希土類金属錯体が開示されている。これまでにβ−ジケトナト配位子がEu3+に配位したタイプの赤色蛍光体については数多く研究がなされ、前記特許文献などのように波長352nm、365nmなどの長波長側の紫外線あるいは近紫外LED(波長380〜410nmの紫外線)照射で十分な赤色発光を得ることが可能となっている。
【0006】
一方、Tb3+錯体についても数多く研究がなされ、強発光性希土類金属錯体として前記Tb3+錯体が知られている。しかしながら、前記Tb3+錯体の分光蛍光光度計を用いた励起スペクトル測定における励起極大波長及び、分光光度計を用いた紫外吸収スペクトル測定における吸収極大波長が270nm〜320nmの領域にしか存在しないため、波長352nm、365nmなどの長波長側の紫外線領域での照射により強い緑色発光を得ることが一般的に困難である(非特許文献2、図8及び9の蛍光波長545nmでの励起スペクトルを参照)。また一方で、波長352nm、365nmなどの長波長側の紫外線領域での照射により強い緑色発光を得るために、例えば非特許文献3及び非特許文献4に記載されているような前記紫外線領域の紫外光を吸収できるβ−ジケトナト配位子を用いると、逆に錯体の配位子におけるβ−ジケトナト類のエネルギー準位(励起三重項状態)とTb3+の励起項エネルギーがマッチしなくなるため、配位子から金属間のエネルギー移動効率が悪くなってしまい、十分な緑色の発光を得ることができなくなるという問題もある(非特許文献3、非特許文献4及び特許文献4)。
【0007】
その結果、前記Tb錯体を使用してセキュリティー用途インキを調製した場合、前記紫外線領域の照射により単独で十分な緑色を発色することができずにセキュリティー性が機能しない、或いは、白色LED素子を作成した場合、十分な白色の演色性を得ることができないという問題があった。
【0008】
従って、上記波長領域で高い発光強度を安定して発揮し、かつ有機媒体に対して高い溶解性を示す新たなTb3+錯体の開発が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−26969号公報
【特許文献2】特開2006−77191号公報
【特許文献3】特開2005−015564号公報
【特許文献4】特開2009−46577号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】足立吟也監修、「希土類の機能と応用」CMC出版 (2006), p138-144
【非特許文献2】S. Capecchi, et al., Adv. Mater, 2000, 12, 1591-1593.
【非特許文献3】W. F. Sanger, et al., J. Phys. Chem, 1965, 69, 1092-1100.
【非特許文献4】S. Sato, et al., Bull. Chem. Soc. Jpn, 1970, 43, 1955-1962.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高い発光強度を安定して発揮し、かつ有機媒体に対して高い溶解性を示す新規希土類金属錯体組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有するβ−ケトアミドが特定の比率で塩基、希土類金属イオンと反応し、生成した希土類金属錯体組成物が、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、β−ケトアミドナト配位子が希土類金属イオンに配位した希土類金属錯体組成物、及びその用途に係る。
1. 一般式:
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、Rは置換されていてもよい飽和炭化水素基;ペルフルオロアルキル基;置換されていてもよいアリール基;置換されていてもよいヘテロアリール基;置換されていてもよいアラルキル基;又は置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、及び置換されていてもよいアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有する1級或いは2級アミノ基を示す。
は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。
は、置換されていてもよいアリール基、又は置換されていてもよいヘテロアリール基を示し、Rは水素原子、重水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。或いはR及びR、R及びR若しくはR、又はR及びRが結合して環を形成していてもよい。)
で表されるβ−ケトアミドナト配位子が希土類金属イオンに配位してなる希土類金属錯体組成物。
2. 前記一般式(1)で表されるβ−ケトアミドナト配位子が、
一般式:
【0016】
【化2】

【0017】
(式中、Rは置換されていてもよい飽和炭化水素基;ペルフルオロアルキル基;置換されていてもよいアリール基;置換されていてもよいヘテロアリール基;置換されていてもよいアラルキル基;又は置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、及び置換されていてもよいアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有する1級或いは2級アミノ基を示す。
は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。
は、置換されていてもよいアリール基、又は置換されていてもよいヘテロアリール基を示し、Rは水素原子、重水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。或いはR及びR、R及びR若しくはR、又はR及びRが結合して環を形成していてもよい。)
で表されるβ−ケトアミドと塩基との反応物である上記項1に記載の希土類金属錯体組成物。
【0018】
3. 一般式(1)中、Rは置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、
は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、
は、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、又は置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基を示し、Rは水素原子、重水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、或いはR及びR、R及びR若しくはR、又はR及びRが結合して環を形成していてもよい、上記項1又は2に記載の希土類金属錯体組成物。
【0019】
4. 一般式(1)中、Rは置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、
は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、又は置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基を示し、
は、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、又は置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基を示し、Rは水素原子、重水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、或いはR及びR、R及びR若しくはR、又はR及びRが結合して環を形成していてもよい、上記項1〜3のいずれかに記載の希土類金属錯体組成物。
【0020】
5. 一般式(1)中、Rは炭素数1〜20の飽和炭化水素基又は炭素数6〜15のアリール基を示し、
は、水素原子又は炭素数1〜20の飽和炭化水素基を示し、或いはR及びRが結合してシクロペンタン環を形成しており、
は、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシルアミノ基若しくはシアノ基で置換された炭素数6〜15のアリール基、又は炭素数5〜15のヘテロアリール基を示し、Rは水素原子を示す、上記項1〜4のいずれかに記載の希土類金属錯体組成物。
【0021】
6. 前記反応における、β−ケトアミドと塩基と希土類金属イオンとの反応比率(モル比)が、β−ケトアミドは希土類金属イオンの1.5倍以上であって、かつ、塩基はβ−ケトアミドの1倍以上である、上記項2〜5のいずれかに記載の希土類金属錯体組成物。
7. 前記反応における、β−ケトアミドと塩基と希土類金属イオンとの反応比率(モル比)が、β−ケトアミドは希土類金属イオンの3〜4倍であって、かつ、塩基はβ−ケトアミドの1〜2倍である、上記項2〜6のいずれかに記載の希土類金属錯体組成物。
8. 前記希土類金属イオンが、Eu、Tb、Er、Sm、Tm、La、Lu、又はYである、上記項1〜7のいずれかに記載の希土類金属錯体組成物。
9. 前記希土類金属イオンの価数が+3価である、上記項1〜8のいずれかに記載の希土類金属錯体組成物。
10. 前記希土類金属イオンが、Tb3+である、上記項1〜9のいずれかに記載の緑色発光性希土類金属錯体組成物。
11. さらに、希土類金属イオンにホスフィンオキシド類が配位している、上記項1〜10のいずれかに記載の希土類金属錯体組成物。
12. 一般式:
【0022】
【化3】

【0023】
(式中、Rは置換されていてもよい飽和炭化水素基;ペルフルオロアルキル基;置換されていてもよいアリール基;置換されていてもよいヘテロアリール基;置換されていてもよいアラルキル基;又は置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、及び置換されていてもよいアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有する1級或いは2級アミノ基を示す。
は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。
は、置換されていてもよいアリール基、又は置換されていてもよいヘテロアリール基を示し、Rは水素原子、重水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。或いはR及びR、R及びR若しくはR、又はR及びRが結合して環を形成していてもよい。)
で表されるβ−ケトアミドナト配位子の1種単独又は2種以上からなる希土類金属錯体組成物用の配位子。
【0024】
13. 上記項1〜11のいずれかに記載の希土類金属錯体組成物が有機媒体に溶解してなる発光媒体。
14. 上記項13に記載の発光媒体を有する白色LED素子。
15. 上記項1〜11のいずれかに記載の希土類金属錯体組成物を含む蛍光性インキ組成物。
16. 上記項1〜11のいずれかに記載の希土類金属錯体組成物を含む発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0025】
β−ケトアミドナト配位子が希土類金属イオンに配位してなる希土類金属錯体組成物は、1)例えば、波長352nm、365nm或いは波長380〜410nmなどの長波長側の紫外線照射でも高い発光強度を示し、かつ、中心金属イオンを適宜選択することにより中心金属イオンに特有の色を発光することができる(例えば中心金属イオンがEu3+の場合は赤色、中心金属イオンがTb3+の場合は緑色を発光する)。2)特に、前記希土類金属錯体組成物中の中心金属イオンがTbであり、かつ3価の陽イオンのTb3+の場合、前記紫外線領域での照射により、従来のβ−ジケトナト骨格がTb3+に配位した希土類金属錯体と比較して、好適に高い緑色の発光強度を発揮することができる。3)さらに、前記希土類金属錯体組成物は有機媒体に対する溶解度が高いなどの性質を持つ。
【0026】
従って、前記希土類金属錯体組成物を含有する蛍光体は、高い発光強度を安定して発揮することができる。また前記希土類金属錯体組成物は有機媒体(有機溶媒、液状ポリマー)に溶解しやすいため、透明性の高い高発光材料を提供することができる。
【0027】
特に前記錯体は、白色LED素子発光層(発光媒体)、蛍光性インキ組成物及び有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】LEDチップ2と発光媒体3とからなる発光層1を有するLED素子の断面図(模式図)を示した図である。
【図2】実施例C−1のTb3+錯体組成物の酢酸エチル中での励起スペクトルを示すグラフである。
【図3】実施例C−5のTb3+錯体組成物の酢酸エチル中での励起スペクトルを示すグラフである。
【図4】実施例C−8のTb3+錯体組成物の酢酸エチル中での励起スペクトルを示すグラフである。
【図5】実施例C−9のTb3+錯体組成物の酢酸エチル中での励起スペクトルを示すグラフである。
【図6】実施例C−10のTb3+錯体組成物の酢酸エチル中での励起スペクトルを示すグラフである。
【図7】実施例C−11のTb3+錯体組成物の酢酸エチル中での励起スペクトルを示すグラフである。
【図8】比較例H−1のTb3+錯体組成物の酢酸エチル中での励起スペクトルを示すグラフである。
【図9】比較例H−2のTb3+錯体組成物の酢酸エチル中での励起スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
β−ケトアミドナト配位子を配位子とする希土類金属錯体組成物
本発明の希土類金属錯体組成物は、β−ケトアミドナト配位子が希土類金属イオンに配位していることを特徴とする。
【0030】
本発明の希土類金属錯体組成物は、具体的に、一般式:
一般式:
【0031】
【化4】

【0032】
(式中、Rは置換されていてもよい飽和炭化水素基;ペルフルオロアルキル基;置換されていてもよいアリール基;置換されていてもよいヘテロアリール基;置換されていてもよいアラルキル基;又は置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、及び置換されていてもよいアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有する1級或いは2級アミノ基を示す。
【0033】
は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。
【0034】
は、置換されていてもよいアリール基、又は置換されていてもよいヘテロアリール基を示し、Rは水素原子、重水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。或いはR及びR、R及びR若しくはR、又はR及びRが結合して環を形成していてもよい。)
で表されるβ−ケトアミドナト配位子(以下、「β−ケトアミドナト配位子(1)」ともいう。)が希土類金属イオンに配位してなることを特徴とする。
【0035】
本発明の希土類金属錯体組成物は、錯体自体の構造は明確ではないが、前記β−ケトアミドナト配位子(1)の2つの酸素原子が希土類金属イオン(中心金属イオン)に配位したものである。なお、本希土類金属錯体組成物には、後述のように前記β−ケトアミドナト配位子(1)以外に水酸化物イオン、ホスフィンオキシド類、3級アミン類、水分子などが配位していてもよい。
【0036】
前記β−ケトアミドナト配位子(1)が希土類金属イオンに配位してなる希土類金属錯体組成物は、1)例えば、波長352nm、365nm或いは波長380〜410nmなどの長波長側の紫外線照射でも高い発光強度を示し、かつ、中心金属イオンを適宜選択することにより中心金属イオンに特有の色を発光することができる(例えば中心金属イオンがEu3+の場合は赤色、中心金属イオンがTb3+の場合は緑色を発光する)。2)特に、前記希土類金属錯体組成物中の中心金属イオンがTbであり、かつ3価の陽イオンのTb3+の場合、前記紫外線領域での照射により、従来のβ−ジケトナト骨格がTb3+に配位した希土類金属錯体と比較して、好適に高い緑色の発光強度を発揮することができる。3)さらに、前記希土類金属錯体組成物は有機媒体に対する溶解度が高いなどの性質を持つ。
【0037】
従って、前記希土類金属錯体組成物を含有する蛍光体は、高い発光強度を安定して発揮することができる。また前記希土類金属錯体組成物は有機媒体(有機溶媒、液状ポリマー)に溶解しやすいため、透明性の高い高発光材料を提供することができる。
【0038】
以下、β−ケトアミドナト配位子(1)について説明する。
【0039】
一般式(1)において、置換されていてもよい飽和炭化水素基の飽和炭化水素基としては、特に限定されず、例えば、C〜C20の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基、C〜C12シクロアルキル基等が挙げられる。
【0040】
〜C20の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、イコシル基等を例示できる。
【0041】
〜C12シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロドデシル基等を例示できる。
【0042】
置換されていてもよい飽和炭化水素基の置換基としては、特に限定されないが、例えばフルオロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基、ジアルキルアミノ基等が挙げられる。
【0043】
フルオロアルキル基としては、例えば、C1−6ぺルフルオロアルキル基が挙げられる。C1−6ぺルフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、トリデカフルオロヘキシル基等を例示できる。
【0044】
アルコキシ基としては、例えば、C1−6アルコキシ基が挙げられる。C1−6アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ヘキシルオキシ基等を例示できる。
【0045】
アリールオキシ基としては、例えば、C6−12アリールオキシ基が挙げられる。C6−12アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等を例示できる。
【0046】
シロキシ基としては、トリメチルシロキシ、トリエチルシロキシ、トリイソプロピルシロキシ、tert−ブチルジメチルシロキシ等を例示できる。
【0047】
ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ等を例示できる。
【0048】
置換されていてもよい飽和炭化水素基の置換基の置換位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0049】
特に、置換されていてもよい飽和炭化水素基としては、置換されていてもよいC1〜20の飽和炭化水素基が好ましく、有機媒体に対する溶解性に優れ、高い発光強度を安定して発揮できる希土類金属錯体をより確実に得られる点で、置換されていてもよいC1〜18の飽和炭化水素基がより好ましい。
【0050】
ぺルフルオロアルキル基としては、炭素数1〜20が好ましく、直鎖状、分枝状、環状のいずれでもよい。例えば、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル、ペンタフルオロシクロプロピル、ヘプタフルオロイソプロピル、ノナフルオロブチル、ノナフルオロイソブチル、ヘプタフルオロシクロブチル、ウンデカフルオロペンチル、ウンデカフルオロイソペンチル、ノナフルオロシクロペンチル、トリデカフルオロヘキシル、トリデカフルオロイソヘキシル、ウンデカフルオロシクロヘキシル、ペンタデカフルオロヘプチル、ヘプタデカフルオロオクチル、ノナデカフルオロノニル、ヘンイコサフルオロデシル、トリコサフルオロウンデシル、ペンタコサフルオロドデシル、ヘプタコサフルオロトリデシル基等が挙げられる。
【0051】
置換されていてもよいアリール基のアリール基としては、特に限定されず、例えば、C6−20アリール基が挙げられる。C6−20アリール基としては、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル、アンスリル等を例示できる。
【0052】
置換されていてもよいアリール基の置換基としては、特に限定されず、例えばC1−6アルキル基、C1−6ぺルフルオロアルキル基、C6−14アリール基、5〜10員芳香族複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、アシルアミノ基、シアノ基等が挙げられる。
【0053】
1−6アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル等が挙げられる。
【0054】
1−6ぺルフルオロアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル、トリデカフルオロヘキシル等が挙げられる。
【0055】
6−14アリール基としては、例えば、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル、2−アンスリル等が挙げられる。
【0056】
5〜10員芳香族複素環基としては、例えば、2−又は3−チエニル、2−,3−又は4−ピリジル、2−,3−,4−,5−又は8−キノリル、1−,3−,4−又は5−イソキノリル、1−,2−又は3−インドリル、2−ベンゾチアゾリル、2−ベンゾ[b]チエニル、ベンゾ[b]フラニル等が挙げられる。
【0057】
ジアルキルアミノ基としては、例えば、C1−6アルキルアミノ基が挙げられる。C1−6アルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等が挙げられる。
【0058】
アリールアミノ基としては、例えば、C6−14アリールアミノ基が挙げられる。C6−14アリールアミノ基としては、フェニルアミノ基、1−ナフチルアミノ基等が挙げられる。
【0059】
ジアリールアミノ基としては、例えば、C6−14ジアリールアミノ基が挙げられる。C6−14ジアリールアミノ基としては、ジフェニルアミノ基等が挙げられる。
【0060】
アシルアミノ基としては、例えば、C1−20アシルアミノ基が挙げられる。C1−20アシルアミノ基としては、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ブチリルアミノ基、イソブチリルアミノ基、バレリルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ミリストイルアミノ基、パルミトイルアミノ基、ステアロイルアミノ基等が挙げられる。
【0061】
アルコキシ基、アリールオキシ基及びシロキシ基については、前記飽和炭化水素基の置換基として述べたアルコキシ基、アリールオキシ基及びシロキシ基と同じである。
【0062】
置換されていてもよいアリール基の置換基の置換位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0063】
特に、置換されていてもよいアリール基としては、有機媒体に対する溶解性に優れ、高い発光強度を安定して発揮できる希土類金属錯体をより確実に得られる点で、置換されていてもよいC6−15のアリール基が好ましい。
【0064】
置換されていてもよいヘテロアリール基のヘテロアリール基としては、特に限定されず、例えば、硫黄原子、酸素原子及び窒素原子からなる群から選ばれる原子を1〜3個含む、縮環していてもよい5〜14員芳香族複素環基が挙げられる。
【0065】
前記芳香族複素環基としては、フリル、チエニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、イソチアゾリル、チアゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チアジアゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、インドリル、インダゾリル、プリニル、キノリル、イソキノリル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、シノリニル、プテリジニル、カルバゾリル、カリボリニル、フェナンスリジニル、アクリジニル等を例示できる。
【0066】
置換されていてもよいヘテロアリール基の置換基としては、前記置換されていてもよいアリール基で述べた置換基と同じである。
【0067】
前記置換されていてもよいヘテロアリール基の置換基の位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0068】
特に、置換されていてもよいヘテロアリール基としては、有機媒体に対する溶解性に優れ、高い発光強度を安定して発揮できる希土類金属錯体をより確実に得られる点で、置換されていてもよいC5−15のヘテロアリール基が好ましい。
【0069】
置換されていてもよいアラルキル基のアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等が挙げられる。
【0070】
置換されていてもよいアラルキル基の置換基は、前記置換されていてもよいアリール基で述べた置換基と同じである。
【0071】
前記置換されていてもよいアラルキル基の置換基の位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0072】
1級或いは2級アミノ基が有する、置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、及び置換されていてもよいアラルキル基は、前記置換されていてもよい飽和炭化水素基、前記ペルフルオロアルキル基、前記置換されていてもよいアリール基、前記置換されていてもよいヘテロアリール基、及び前記置換されていてもよいアラルキル基と同じである。さらに、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、及び置換されていてもよいアラルキル基の置換基も、前記置換されていてもよい飽和炭化水素基、前記置換されていてもよいアリール基、前記置換されていてもよいヘテロアリール基、及び前記置換されていてもよいアラルキル基で述べた置換基と同じである。
【0073】
及びR、R及びR若しくはR、又はR及びRが結合して形成する環としては、例えば、R及びRの間ではシクロペンタン環、シクロヘキサン環等、R及びR若しくはRの間では、ピロリジン環、ピペリジン環等、R及びRの間では、インドリン環、インドール環等が挙げられる。
【0074】
式(1)中、ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0075】
特に本発明のβ−ケトアミドナト配位子としては、上記一般式(1)中、Rは、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基であり、
は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基であり、
は、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、又は置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基であり、
は水素原子、重水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基であり、
或いはR及びR、R及びR若しくはR、又はR及びRが結合して環を形成していてもよいものが好ましい。
【0076】
より好ましいβ−ケトアミドナト配位子は、上記一般式(1)中、Rは、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基であり、
は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、又は置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基であり、
は、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、又は置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基であり、
は、水素原子、重水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、又は置換されていてもよいアラルキル基であり、
或いはR及びR、R及びR若しくはR、又はR及びRが結合して環を形成していてもよいものである。
【0077】
さらに好ましいβ−ケトアミドナト配位子は、一般式(1)中、Rは、炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、炭素数5〜15のヘテロアリール基、又はアラルキル基であり、
は、水素原子又は炭素数1〜20の飽和炭化水素基であり、
は、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシルアミノ基若しくはシアノ基で置換された炭素数6〜15のアリール基、又は置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基であり、
は、水素原子、炭素数1〜20の飽和炭化水素基、又はアラルキル基であり、
或いはR及びR、R及びR若しくはR、又はR及びRが結合して環を形成していてもよいものである。
【0078】
特に好ましいβ−ケトアミドナト配位子は、一般式(1)中、Rは、炭素数1〜20の飽和炭化水素基又は炭素数6〜15のアリール基であり、
は、水素原子又は炭素数1〜20の飽和炭化水素基であり、或いはR及びRが結合してシクロペンタン環を形成しており、
は、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシルアミノ基若しくはシアノ基で置換された炭素数6〜15のアリール基、又は炭素数5〜15のヘテロアリール基であり、Rは水素原子であるものである。
【0079】
前記希土類金属錯体組成物は、中心金属イオンとして前記希土類金属イオンを有し、且つ、配位子として前記β−ケトアミドナト配位子(1)を有する限り、特に限定されるものではない。
【0080】
前記β−ケトアミドナト配位子(1)の2つの酸素原子のうち、少なくとも1つの酸素原子が希土類金属イオンに配位していればよい。例えば、一つの希土類金属イオンに対してβ−ケトアミドナト(1)の2つの酸素原子が配位する形態、前記β−ケトアミドナト配位子(1)の2つの酸素原子がそれぞれ、別の希土類金属イオンに配位する形態等が挙げられる。
【0081】
前記希土類金属原子としては、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuが挙げられる。より好ましくはEu、Tb、Er、Sm、Tm、La、Lu、及びYであり、前記希土類金属錯体が高い緑色発光強度を示す点でTbが特に好ましい。
【0082】
希土類金属イオンの価数としては、上述した希土類金属原子はいずれも、+2価、+3価等の価数が存在するが、Eu及びTb、Smなどの3価の陽イオンなどは配位子が配位することで、紫外線照射によりそれぞれ赤色、緑色、紫色を発光することから、+3価がより好ましい。
【0083】
β−ケトアミドナト配位子(1)は、一般式:
【0084】
【化5】

【0085】
(式中、R、R、R、及びRは、一般式(1)と同じである。)で表されるβ−ケトアミド(以下、単に「β−ケトアミド(2)」ともいう。)と、塩基との反応物である。具体的に、β−ケトアミドナト配位子(1)は、β−ケトアミド(2)と塩基と希土類金属イオンとを反応させて希土類金属錯体組成物を製造する過程において、β−ケトアミド(2)と塩基とが反応することによって形成される。
【0086】
β−ケトアミド(2)の製造方法
β−ケトアミド(2)の製造方法としては、特に限定されるものではなく、例えば下記反応式1に示す合成経路に従って公知の方法(J. S. Witzeman, et al., J. Org. Chem., 1991, 56, 1713-1718., D. F. Taber, et al., J. Org. Chem., 1985, 50, 3618-3619., R. H. Tale, et al., Synlett., 2006, 3, 415-418.)で製造することができる。
【0087】
以下、β−ケトアミド化合物(2)の製造方法について、反応式1で示される方法に沿って具体的に説明する。
<反応式1>
【0088】
【化6】

【0089】
前記反応式1で示される方法は、入手容易なβ−ケトエステル類(3)と芳香族アミン類又はヘテロ環を持つアミン類(4)とを触媒存在下、加熱還流することでエステルからアミドへ交換反応を行い、β−ケトアミド(2)を製造する方法である。
【0090】
上記式(3)中のRおよびRは、前記一般式(1)におけるRおよびRと同じである。特に、Rとして、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基が好ましく、Rとして、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基が好ましい。或いは、R及びRが結合して環を形成しているものも好ましい。そして、Rとして、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基、置換されていてもよいアラルキル基がさらに好ましく、Rとして、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基がさらに好ましい。或いは、R及びRが結合して環を形成しているものもさらに好ましい。
【0091】
上記式(3)中のRは、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基である。Rとしては特に入手などの容易さ、反応性などの点から、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基が好ましく、メチル、エチル、イソプロピル基、又はt−ブチル基がさらに好ましい。
【0092】
上記式(4)中、RおよびRは、前記一般式(1)におけるRおよびRと同じである。特に、Rとして、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、又は置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基が好ましく、Rとして、水素原子、重水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基が好ましい。或いは、R及びRが結合して環を形成しているものも好ましい。そして、Rとして、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、又は置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基がさらに好ましく、Rとして水素、重水素、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、又は置換されていてもよいアラルキル基がさらに好ましい。或いは、R及びRが結合して環を形成しているものもさらに好ましい。
【0093】
上記製造法におけるアミン類(4)の使用量は、特に限定されないが、β−ケトエステル(3)1molに対し、0.5〜3mol程度が好ましく、0.9〜1.1mol程度がより好ましい。
【0094】
前記触媒としては例えば、ルイス酸性触媒、塩基性触媒などが挙げられる。これらは、一種又は2種以上で用いることができる。
【0095】
ルイス酸性触媒として、ホウ酸、フェニルホウ酸、3−ニトロフェニルホウ酸、3,4,5−トリフルオロフェニルホウ酸、トリフルオロホウ酸・ジエチルエーテル錯体等のホウ素系化合物、塩化アルミニウム、酸化亜鉛、塩化亜鉛、過塩素酸亜鉛、リン酸亜鉛、硫酸亜鉛、過塩素酸鉄、硫酸鉄、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、塩化銅、硝酸銅等の金属塩、ジブチル錫オキシド等の有機スズ化合物等が挙げられる。これらの触媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0096】
塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ニッケル、水酸化銅、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン等が挙げられる。これらの触媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0097】
特に、前記触媒としては、反応を早く完結させることができ、反応後の精製工程で容易に除去できる点から、ホウ酸系の触媒、又は4−ジメチルアミノピリジンが好ましい。
【0098】
前記触媒の使用量は限定的ではないが、前記β−ケトエステル(3)1molに対し、通常、0.06〜0.6mol程度、好ましくは0.04〜0.5mol程度、より好ましくは0.02〜0.4mol程度である。
【0099】
β−ケトエステル(3)とアミン類(4)との反応は前記触媒存在下、溶媒中で行うことが好ましい。
【0100】
前記溶媒は、特に限定されないが、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジブチルホルムアミド等のアミド系溶媒;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール系溶媒;ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、シクロペンチルメチルエーテル、ジヒドロピラン、1,4−ジオキサン、t−ブチルメチルエーテル、1,2―ジメトキシエタン(DME)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、アニソール等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は、一種単独で又は二種以上の混合溶媒として使用できる。この中でも特に、トルエン、キシレンが好ましい。
【0101】
前記反応は、バッチ式又は連続式のいずれの反応形式で行ってもよい。
【0102】
反応圧力は、特に限定されず、通常、常圧〜100kg/cm程度であればよい。
【0103】
反応温度は、前記反応の進行状況等に応じて適宜設定すればよいが、通常20〜300℃程度、好ましくは0℃〜200℃程度である。
【0104】
反応時間は、特に限定されず、反応温度及び反応の進行程度に応じて適宜設定すればよいが、通常1〜24時間程度、好ましくは0.5〜12時間程度である。
【0105】
上記β−ケトエステル類(3)と上記アミン類(4)とを溶媒中で反応させる際、反応液中における上記β−ケトエステル類(3)及びアミン類(4)の仕込み重量モル濃度は、上記β−ケトエステル類(3)とアミン類(4)が溶解する濃度であれば限定されないが、好ましくは各々0.1mol/kg以上であり、0.2〜3mol/kgがより好ましい。
【0106】
反応後は、必要に応じて、得られた粗β−ケトアミド(2)を単離、精製してもよい。単離、精製方法としては、公知の方法を適宜採用すればよい。例えば、反応終了後に得られた混合液に有機溶媒を加えることによりβ−ケトアミド(2)を抽出分離する方法、前記混合液を濃縮した後、得られた濃縮液又は濃縮残渣に有機溶媒を加えることによりβ−ケトアミド(2)を抽出分離する方法等が挙げられる。得られた抽出液はそのまま濃縮乾燥して単離してもよいし、必要に応じて、再結晶、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により精製してもよい。
【0107】
β−ケトアミドナト配位子(1)を有する希土類金属錯体組成物の製造
前記希土類金属錯体組成物の具体的な製造方法としては、前記β−ケトアミド(2)、塩基、並びに希土類金属イオン及び希土類金属塩から選ばれる少なくとも一種を、有機溶媒などの溶媒中で室温或いは加熱攪拌させる方法が挙げられる。例えば、下記反応式2で示される製造方法が挙げられる。
<反応式2>
【0108】
【化7】

【0109】
さらに前記希土類金属錯体組成物を製造する操作方法としては、
1)あらかじめβ−ケトアミド(2)と塩基(5)とを溶媒中で一定時間攪拌しておき溶液を調製した後(第1工程)、前記溶液を水などの溶媒に溶かした希土類金属イオン(6)に滴下する方法、或いは、水などの溶媒に溶かした希土類金属イオン(6)を前記溶液に滴下する(第2工程)、方法が考えられる。
【0110】
また前記以外の方法として、
2)あらかじめβ−ケトアミド(2)と希土類金属イオン(6)を溶媒に溶かした後、水などの溶媒に溶かした塩基(5)を加える方法、或いは、
3)水などの溶媒に溶かした塩基(5)の溶液に、β−ケトアミド(2)及び希土類金属イオン(6)を溶媒に溶かした溶液を滴下する方法などが挙げられる。
【0111】
前記操作方法のいずれを用いても、前記希土類金属錯体組成物を得ることができるが、β−ケトアミドナト配位子(1)を確実に希土類金属イオン(6)に配位させることができることから、前記 1)の操作方法が好ましい。
【0112】
予め上記製造方法等によって製造されたβ−ケトアミド(2)は、一種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0113】
希土類金属塩としては、例えば、希土類金属ハロゲン化物、希土類金属硝酸塩、希土類金属カルボキシレート、希土類金属アルコキシド、希土類金属アリールオキシド等が挙げられる。
【0114】
塩基(5)としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムt−ブトキシド等のアルコキシド;又はトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン等が使用できる。これらの塩基の中でも、取り扱いやすさから、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属塩の使用が好ましい。
【0115】
前記反応式において使用されるβ−ケトアミド(2)、塩基(5)、希土類金属イオン又は希土類金属塩(6)の使用量は限定的ではないが、β−ケトアミド(2)と塩基(5)と希土類金属イオン(6)との反応比率(モル比)が、β−ケトアミド(2)は希土類金属イオン(6)の1.5倍以上であり、かつ、塩基(5)はβ−ケトアミド(2)の1倍以上であることが好ましく、β−ケトアミド(2)と塩基(5)と希土類金属イオン(6)との反応比率(モル比)が、β−ケトアミド(2)は希土類金属イオン(6)の3〜4倍であって、かつ、塩基(5)はβ−ケトアミド(2)の1〜2倍である場合がより好ましい。
【0116】
前記溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;トルエン、キシレン、ニトロベンゼン等の芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、オクタノール等のアルコール系溶媒;水等が挙げられる。これらの溶媒は、一種単独で又は二種以上の混合溶媒として使用できる。これら溶媒の中でも特に、水及びアルコール系溶媒が好ましい。
【0117】
反応形式は、バッチ式又は連続式のいずれであってもよい。
【0118】
反応圧力は、特に限定されず、通常、常圧〜100kg/cm程度であればよい。
【0119】
反応温度は、適宜設定すればよいが、通常−20〜200℃程度、好ましくは20〜150℃である。例えば、常圧で反応する場合は、20℃〜溶媒の還流温度の範囲が好ましい。
【0120】
反応時間は、特に限定されず、反応温度等に応じて適宜設定すればよいが、通常15分〜24時間程度、好ましくは30分〜12時間程度である。
【0121】
反応後、反応生成物は沈殿するので、濾過により集めたあと、十分に水洗又はアルコール洗浄し、減圧乾燥することにより固体物が得られる。固体物は必要に応じて、公知の精製方法により精製してもよい。公知の精製方法としては、例えば、再結晶、カラムクロマトグラフィー等が挙げられる。
【0122】
なお、希土類金属イオンに前記β−ケトアミドナト配位子(1)が配位しているか否かを後述する蛍光強度測定試験等により確認できる。
【0123】
希土類金属錯体組成物の構造
前記反応により得られる希土類金属錯体組成物の構造は、定かではないが、後述の実施例B−1或いはB−4の結果から、β−ケトアミドナト配位子(1)が希土類金属イオンに配位し、さらに水酸化物イオンなども配位し、例えば下記に示す錯体構造が多数集まった錯体組成物を形成している可能性が高いと考えられる。例えば実施例B−1の実験操作に従って、β−ケトアミド(2):塩基(5):希土類金属イオン(「M」とする)(6)の反応モル比3:3:1で希土類金属錯体組成物を合成した場合の推定構造を一般式で示す。
【0124】
単核型の場合、
【0125】
【化8】

【0126】
等の構造が考えられる。
【0127】
複核型の場合、
【0128】
【化9】

【0129】
等の構造が考えられる。
【0130】
なお、前記希土類金属錯体組成物にはさらに補助配位子として、ホスフィンオキシド類、置換されていてもよい炭素数5〜15の複素環化合物、アミン類などを、中心金属の希土類金属イオンに配位させてもよい。
【0131】
例えばホスフィンオキシド類としては下記のものが挙げられる。
【0132】
【化10】

【0133】
例えば置換されていてもよい炭素数5〜15の複素環化合物としては下記のものが挙げられる。
【0134】
【化11】

【0135】
例えばアミン類としては下記のものが挙げられる。
【0136】
【化12】

【0137】
前記補助配位子は、前記希土類金属錯体組成物の中心金属イオンに配位することで発光強度を維持しつつ、有機溶媒および液状ポリマーへの溶解性を高める役割を果たす。
【0138】
前記補助配位子の中でも、ホスフィンオキシド類、及びアミン類が、発光強度を維持しつつ、有機溶媒および液状ポリマーへの溶解性を高める上で好ましく、ホスフィンオキシド類が最も好ましい。
【0139】
前記希土類金属錯体に前記補助配位子を配位させる方法としては、例えば、希土類金属錯体組成物と前記補助配位子とを溶媒中で反応させる方法が挙げられる。
【0140】
補助配位子類の添加量は、前記希土類金属錯体と補助配位子との全重量中10〜60重量%の範囲がよく、好ましくは20〜40重量%の範囲であり、より好ましくは、25〜45重量%である。
【0141】
前記溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;トルエン、キシレン、ニトロベンゼン等の芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、オクタノール等のアルコール系溶媒;水等が挙げられる。これらの溶媒は、一種単独で又は二種以上の混合溶媒として使用できる。これら溶媒の中でも特に、ハロゲン系溶媒及び芳香族系溶媒が好ましい。
【0142】
反応形式は、バッチ式又は連続式のいずれであってもよい。
【0143】
反応圧力は、特に限定されず、通常、常圧〜100kg/cm程度であればよい。
【0144】
反応温度は、適宜設定すればよいが、通常−20〜200℃程度、好ましくは20〜150℃である。例えば、常圧で反応する場合は、20℃〜溶媒の還流温度の範囲が好ましい。
【0145】
反応時間は、特に限定されず、反応温度等に応じて適宜設定すればよいが、通常15分〜24時間程度、好ましくは2〜12時間程度である。
【0146】
反応後、必要に応じて、公知の精製方法により精製してもよい。公知の精製方法としては、例えば、再結晶、カラムクロマトグラフィー等が挙げられる。
【0147】
β−ケトアミドナト配位子(1)を有する希土類金属錯体組成物の用途
本発明の希土類金属錯体組成物は、有機媒体に対する高い溶解性を示し、波長352nm、365nm或いは波長380〜410nmなどの長波長側の紫外線照射でも高い発光強度を安定して発揮できるため、例えば、白色LED素子の発光層(発光媒体)、蛍光性インキ組成物及び有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層に用いることができる。
【0148】
前記希土類金属錯体組成物をこれらの用途に用いる場合、前記希土類金属錯体組成物を一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0149】
また、前記希土類金属錯体組成物を必須成分として含有し、さらに該錯体以外のイオン、化合物等をさらに含有する混合物として用いることもできる。前記混合物には、前記希土類金属錯体組成物が含まれていればよく、本発明の効果を阻害しない範囲内で、希土類金属イオン、前記β−ケトアミドナト配位子(1)が配位していない希土類金属錯体等をさらに含んでいてもよい。
【0150】
(1)白色LED素子
本発明の白色LED素子は、発光層を構成する発光媒体(蛍光体)中に前記希土類金属錯体を含有させる以外は、公知のLED素子と同様の構成を採用できる。
【0151】
例えば、図1に示すようなLEDチップ2と発光媒体3とからなる発光層1を有するLED素子が挙げられる。
【0152】
LEDチップ2は、電極(図示せず)より電気エネルギーを受けて、発光し光を放射する。LEDチップ2から放射される光を吸収した発光媒体(蛍光体)3は、吸収した光とは異なる波長の光を放射する。この時、LEDチップ2から放射される光と蛍光体から放射される光とが組み合わさることにより、新たな光の色が形成される。本発明では、蛍光体中に前記希土類金属錯体組成物を含有させることにより、白色の光を発することができる。また、前記希土類金属錯体組成物は、有機媒体に好適に溶解し、有機媒体中で析出することが基本的にないため、効率よく(高い光取り出し効率で)、白色光を放射できる。
【0153】
LEDチップ2としては、紫外〜近紫外〜可視〜近赤外領域の光を放出する素子であればよく特に限定されない。例えば、青色LED、近紫外LED等が挙げられる。
【0154】
発光媒体3は、前記希土類金属錯体組成物が有機媒体に溶解してなるものである。本発明では、前記希土類金属錯体組成物中の希土類金属イオン(中心金属イオン)を適宜選択することにより、発光媒体3から放射される光の色を制御できる。例えば、中心金属イオンが全てEu3+である希土類金属錯体を含む発光媒体は、赤色の光を放射できる。また、中心金属イオンが全てTb3+である希土類金属錯体を含む発光媒体は、緑色の光を放射できる。さらに、中心金属イオンがEu3+及びTb3+以外の希土類金属イオン(例えば中心金属イオンが全てTm3+、Y3+など)である希土類金属錯体を含む発光媒体は、青色の光を放射できる。
【0155】
発光媒体3には、2種類以上の前記希土類金属錯体組成物を含有させてもよいし、前記希土類金属錯体組成物以外の別の希土類金属錯体をさらに含有させてもよい。発光媒体3には、光取り出し効率が低下する等の観点から、公知の蛍光性無機化合物粒子を含有させないほうがよいが、本発明の効果を妨げない範囲であれば、必要に応じて前記粒子を含有させてもよい。
【0156】
前記粒子としては、YAl12(YAG)にCeを付活してなる粒子等の黄色光を放射する無機化合物粒子;Sr10(POClにEuを付活してなる粒子、Ca10(POClにEuを付活してなる粒子、Ba10(POClにEuを付活してなる粒子、BaMgAl1017にEuを付活してなる粒子、BaMgSiにEuを付活してなる粒子等の青色光を放射する無機化合物粒子;SrSにEuを付活してなる粒子、CaSにEuを付活してなる粒子、CaAlSiNにEuを付活してなる粒子、BaMgSiにEu、Mnを付活してなる粒子等の赤色光を放射する無機化合物粒子等が挙げられる。これらの粒子は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0157】
発光媒体3に使用する前記希土類金属錯体組成物の中でも特に中心金属イオンがTb3+からなる前記希土類金属錯体組成物を用いた場合、近紫外LEDの紫外線(波長約380nm〜410nmの領域)照射により好適に強く緑色発光させることができる。
【0158】
例えば、本発明の緑色蛍光体を下記LEDチップ2、無機化合物蛍光体、前記希土類金属錯体組成物以外の別の希土類金属錯体と組み合わせる場合は次のようにして、好適に白色光を得ることができる。
(1)LEDチップ2:青色LED(例えばInGaN)、発光媒体3:赤色発光する前記希土類金属錯体組成物以外の別の希土類金属錯体+本発明化合物であるβ−ケトアミドがTb3+に配位した希土類金属錯体組成物(緑色蛍光体と略す)。
(2)LEDチップ2:近紫外LED(例えばInGaN)、発光媒体3:青色光を放射する無機化合物粒子(例えば、Sr10(POClにEuを付活してなる粒子、Ca10(POClにEuを付活してなる粒子、Ba10(POClにEuを付活してなる粒子等)+赤色発光する前記希土類金属錯体組成物以外の別の希土類金属錯体+本発明化合物の緑色蛍光体。
(3)LEDチップ2:近紫外LED(例えばInGaN)、発光媒体3:赤色発光する前記希土類金属錯体組成物以外の別の希土類金属錯体+本発明化合物の緑色蛍光体+青色光を放射する本発明化合物の青色蛍光体。
【0159】
前記赤色発光する前記希土類金属錯体組成物以外の別の希土類金属錯体として、以下のβ−ジケトナトタイプのEu3+錯体などが挙げられる。
【0160】
【化13】

【0161】
前記有機媒体としては、例えば、有機溶媒、液状ポリマー等が挙げられる。
【0162】
前記有機溶媒としては、例えばフッ素系溶媒等が挙げられる。これら有機溶媒は、一種単独で又は二種以上からなる混合溶媒として使用できる。
【0163】
前記液状ポリマーとしては、例えばフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられる。前記フッ素系樹脂、前記シリコーン系樹脂等としては、市販品を好適に用いることができる。フッ素系樹脂の市販品としては、例えば、テフロン(登録商標)AF(デュポン社製)、サイトップ(登録商標)(旭ガラス製)等が挙げられる。シリコーン樹脂の市販品としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン等が挙げられる。
【0164】
特に、前記有機媒体としては、液状ポリマーが好ましく、フッ素系樹脂がより好ましい。フッ素系樹脂は、高ガラス転移点、高防湿性、低気体透過性等の特性を有するため、前記有機媒体としてフッ素系樹脂を用いることにより、発光媒体3の発光特性、発光寿命、耐久性等を向上させることができる。
【0165】
発光媒体3中における前記希土類金属錯体の含有量は、特に限定されないが、5〜90重量%程度が好ましい。
【0166】
発光媒体3中における前記蛍光性無機化合物粒子の含有量は、本発明を妨げない範囲である限り特に限定されない。
【0167】
本発明の白色LED素子は、砲弾型LED、表面実装型LED等の種々のLEDに用いることができる。前記LEDの具体的構成は、前記白色LED素子が配置される以外は公知のLEDと同様の構成を採用できる。
【0168】
(2)発光性インキ組成物
本発明の蛍光性インキ組成物は、前記β−ケトアミドナト配位子(1)が希土類金属イオンに配位した希土類金属錯体組成物を含有する。
【0169】
前記希土類金属錯体組成物は、天然光の下では放射する光の色は実質的に無色である。
【0170】
一方、前記希土類金属錯体組成物に紫外光を照射する場合、該錯体は有色の光を放射するので、その放射光を観察することができる。従って、前記希土類金属錯体を溶解させたインキ組成物を種々の基材上に印刷することにより、ブラックライトランプ等を使用した紫外線照射下でのみ印刷内容の視認が可能になる。例えば、紙幣、文書、書類、カード等の基材に前記インキ組成物を印刷することにより、偽造、不正複写等を防止できるセキュリティー機能を持たせることができる。
【0171】
前記放射光の色は、前記希土類金属錯体組成物の中心原子の種類に応じて異なる。例えば、中心金属イオンがEu3+の場合、前記錯体は強い赤色の光を放射し、中心金属イオンがTb3+の場合、前記錯体は強い緑色の光を放射する。なお、前記希土類金属錯体組成物が中心金属イオンを複数個有する場合、複数の希土類金属イオンは全て同一であることが好ましい。
【0172】
前記インキ組成物中には2種類以上の前記希土類金属錯体組成物を含有させてもよいし、前記希土類金属錯体組成物以外の別の希土類金属錯体をさらに含有させてもよい。
【0173】
特に前記希土類錯体組成物の中でも、希土類金属イオンがTb3+を有する場合は、従来より知られているβ−ジケトン骨格或いはピラゾロン骨格を配位子とするTb3+希土類錯体と比較して、波長352nm、365nm、380〜410nm等の紫外線領域での照射により強い緑色の光を放射することができる。従って、前記Tb3+錯体組成物を含むインキ組成物を利用すれば、人体にさほど影響がない前記低波長側紫外線領域での偽造、不正複写などの真偽判定を行うことが可能となる。
【0174】
例えば、第一の蛍光体に、波長350〜365nmの紫外線照射で強い緑色発光を示し、波長380〜410nmの紫外線照射ではほとんど緑色発光しない本発明の希土類金属錯体組成物を、第二の蛍光体に波長350〜365nm及び波長380〜410nmの両方の紫外線照射で強い赤色発光を示す前記希土類金属錯体組成物以外の別の希土類金属錯体を混ぜ合わせた、二色混合型のインキ組成物を作成することができる。前記希土類金属錯体組成物以外の別の希土類金属錯体として、例えば前記β−ジケトナトタイプのEu3+錯体などが挙げられる。
【0175】
前記インキ組成物は、ブラックライトランプ照射(波長365nmの紫外線)により、第一の蛍光体と第二の蛍光体とが、それぞれ緑と赤との混色である黄色に近い色を発光し、近紫外LED(波長380〜410nmの紫外線)照射では第一の蛍光体がほとんど発光しないため、第二蛍光体の赤色発光のみを示す。このように、前記2つの波長領域を使用して異なる色相を判別することになるため、真偽判別性を高めることができる。
【0176】
本発明の蛍光性インキ組成物中における前記希土類金属錯体組成物の含有量は、前記基材の種類等に応じて適宜設定すればよいが、0.001〜30重量%程度が好ましく、0.05〜3重量%程度がより好ましい。
【0177】
本発明の蛍光性インキ組成物には、必要に応じて、溶媒、樹脂(バインダー)、浸透剤、消泡剤、分散剤、着色剤等の添加物を含有させてもよい。
【0178】
特に、本発明のインキ組成物は、前記希土類金属錯体組成物が溶媒中に溶解したものが好ましい。
【0179】
前記溶媒としては、前記希土類金属錯体組成物を溶解することができるものであればよく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ペンタン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。これらの溶媒は蛍光性インキ組成物の用途等に応じて適宜選択すればよく、一種単独で又は二種以上の混合溶媒として使用できる。
【0180】
前記樹脂(バインダー)は、前記希土類金属錯体組成物を前記基材上に良好に定着でき、且つ、上記溶媒に良好に溶解するものが好ましい。前記樹脂は、光学的に透明であってもよいし、不透明であってもよい。例えば、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は蛍光性インキ組成物の用途等に応じて適宜選択すればよく、一種単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。
【0181】
前記浸透剤は、紙等へのインク組成物の浸透を早め、見かけの乾燥性を早くする目的で加える。前記浸透剤としては、例えば、グリコールエーテル、アルキレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等が挙げられる。これらの浸透剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0182】
前記消泡剤は、インク組成物の移動やインク組成物製造時の泡の発生を防止する目的で添加する。前記消泡剤としては、アニオン性、非イオン性、カチオン性及び両イオン性界面活性剤を使用できる。アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルリン酸塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩等が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、フッ素系、シリコン系等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、例えば、4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩等が挙げられる。両イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド、ホスファチジルコリン等が挙げられる。これらの界面活性剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0183】
前記分散剤としては、例えば、ステアリン酸石鹸、オレイン酸石鹸、ロジン酸石鹸、Na−ジ−β−ナフチルメタンジサルフェート、Na−ラウリルサルフェート、Na−ジエチルヘキシルスルホサクシネート、Na−ジオクチルスルホサクシネート等の界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0184】
前記着色剤としては、公知の顔料や染料を使用できる。例えば、アゾ系、アゾメチン系、キナクドリン系、アントラキノン系、ジオキサジン系、キノリン系、ペリレン系、イソインドリノン系、キノフタロン系等の有機染顔料を使用できる。これらの着色剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0185】
本発明の蛍光性インキ組成物中における上記各種添加剤の含有量は特に限定されず、前記基材の種類、用途等に応じて適宜設定すればよいが、本発明の蛍光性インキ組成物中における前記樹脂(バインダー)の含有量は0.5〜30重量%程度が好ましく、1〜10重量%程度がより好ましい。前記樹脂の含有量が0.5重量%未満の場合、非浸透性の基材に対して前記希土類金属錯体を十分に定着できない。また前記樹脂の含有量が30重量%を超える場合、蛍光性インキ組成物中において前記希土類金属錯体組成物の周囲を前記樹脂(バインダー)が厚く覆うこととなるため前記希土類金属錯体組成物の発光の低下を招く恐れがある。
【0186】
(3)有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子
本発明の有機EL素子は、前記希土類金属錯体組成物を含む発光層を有する。
【0187】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、通常、基板、陽極、電荷(正孔)輸送層、前記発光層、電荷(電子)輸送層及び陰極が順に積層された構造を有する。
【0188】
前記発光層中における前記希土類金属錯体組成物の含有量は、5〜100重量%程度が好ましい。
【0189】
前記発光層は、本発明の希土類金属錯体組成物単独で形成されていてもよいし、本発明の希土類錯体組成物以外の化合物をさらに含有していてもよい。例えば下記に示す電荷(正孔)輸送層の材料もしくは電荷(電子)輸送層の材料等をホスト化合物として含有していてもよい。
【0190】
前記発光層の膜厚は、少なくともピンホールが発生しないような厚みが必要であるが、厚すぎると素子の抵抗が増し、高い駆動電圧が必要となるためあまり好ましくない。従って前記発光層の膜厚は、0.0005〜10μm程度、好ましくは0.001〜1μm程度、より好ましくは、0.005〜0.2μm程度である。
【0191】
前記発光層の形成方法は、特に限定されないが、例えば、前記希土類金属錯体組成物を正孔輸送層上に蒸着する方法、或いは、上記発光性インキ組成物をスピンコート法、インクジェット法等の印刷方法により塗布する方法が挙げられる。
【0192】
前記基板は、透明のものであればよく、例えば、ガラス、石英、光透過性プラスチックフィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート(PC)等)等が挙げられる。前記基板の厚みは、本発明の効果を妨げない範囲であればよく、特に限定されない。
【0193】
前記陽極の材料として、例えば、仕事関数の大きな導電性材料であるITO(インジウム錫酸化物)等を用いることができる。前記陽極の厚みは、0.1〜0.3μm程度が好ましい。
【0194】
前記電荷(正孔)輸送層の材料としては、例えば、トリアリールアミン等のアリールアミン系化合物等が用いられる。前記材料は一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0195】
前記電荷(電子)輸送層の材料としては、例えば、トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム、トリアゾール類、フェナントロリン類、オキサジアゾール類等が用いられる。前記材料は一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0196】
これら電荷輸送層の厚みは、それぞれ通常0.0005μm〜10μm程度であり、好ましくは0.001〜1μm程度である。
【0197】
前記陰極の材料としては、仕事関数が小さな金属であるアルミニウム、マグネシウム、インジウム、アルミ−リチウム合金、マグネシウム−銀合金等が使用される。前記陰極の厚みは、0.01〜0.5μm程度が好ましい。
【0198】
前記陽極、前記正孔輸送層、前記電子輸送層及び前記陰極は、前記各種材料を用いて抵抗加熱蒸着、真空蒸着、スパッタリング法等の公知の方法に従って形成できる。
【0199】
本発明の有機EL素子は、カラー液晶表示器のバックライト等の照明器、ディスプレイ等に用いることができる。
【実施例】
【0200】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0201】
β−ケトアミド(2)の合成
β−ケトアミド(2)は、下記反応式1に従って製造した(実施例A−1〜A−9)。
<反応式1>
【0202】
【化14】

【0203】
実施例A−1
窒素雰囲気下、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた500ml四ツ口フラスコに、アセト酢酸tert-ブチルエステル(3)29.1g(183.9mmol、東京化成社製)、N,N−ジメチル−p−フェニレンジアミン(4)25.1g(183.9mmol、東京化成社製)、及びトルエン80mlを仕込んで攪拌し、続いて120℃まで昇温し、その温度で30分間攪拌した。得られた反応液を冷却し、トルエン120mlを加え、30分間攪拌することにより褐色沈殿物を得た。得られた褐色沈殿物は吸引濾過で集めた。濾過により得られた褐色固体についてはヘキサン及び酢酸エチルを使用して再結晶にて精製を行った後、室温下で約5時間減圧乾燥した。これにより、目的物(2)を13.3g(収率33%)得た。得られたβ−ケトアミド化合物(2)の構造式、収率、及びスペクトルデータ(プロトン核磁気共鳴スペクトル(以下、「H−NMRスペクトル」と略す)、赤外吸収スペクトル「以下、「IRスペクトル」と略す」及びマススペクトル(以下、「MS」と略す))を、β−ケトエステル(3)及びアミン類(4)の構造式とともに表1に示す。
【0204】
実施例A−2〜A−6
実施例A−1の方法に準じて、表1に示す通りβ−ケトアミド(2)を製造した。結果を表1に示す。
【0205】
【表1】

【0206】
実施例A−7
窒素雰囲気下、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた500ml四ツ口フラスコに、メチル4,4−ジメチル−3−オキソバリレート(3)3.2g(18.5mmol、東京化成社製)、N,N−ジメチル−p−フェニレンジアミン(4)2.6g(19.1mmol、東京化成社製)、3−ニトロフェニルボロン酸 0.0852g(0.5mmol、米国、アルドリッチ社製)、及びトルエン70mlを仕込んで攪拌し、続いて120℃まで昇温し、その温度で12時間攪拌した。得られた反応液を冷却し、減圧濃縮を行った。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン、酢酸エチル)で精製し、目的物(2)を2.9g(収率60%)得た。結果を表2に示す。
【0207】
実施例A−8〜A−11
実施例A−7の方法に準じて、表2に示す通りβ−ケトアミド(2)を製造した。結果を表2に示す。
【0208】
【表2】

【0209】
β−ケトアミドナト配位子(1)が配位してなる希土類金属錯体組成物の合成
β−ケトアミドナト配位子(1)が配位してなる希土類金属錯体組成物は、下記反応式3に従い、β−ケトアミド(2):塩基(5):希土類金属イオン(6)の反応モル比を以下に示す反応モル比として製造した(実施例B−1〜B−12)。
<反応式3>
【0210】
【化15】

【0211】
実施例B−1(β−ケトアミド(2):塩基(5):希土類金属イオン(6)の反応モル比=3:3:1)
攪拌機及び温度計を備えた100mlフラスコに、実施例A−1で合成したβ−ケトアミド(2)1.0g(4.58mmol)、メタノール6ml及びテトラヒドロフラン1mlを加えた。次に4mol/L水酸化ナトリウム(5)1.15mlを加えた後、室温下1時間攪拌して溶液1を調製した(工程1)。次に別途、攪拌機及び温度計を備えた200mlフラスコに、硝酸テルビウム5水和物(6)0.66g(1.51mmol)及びメタノール2mlを仕込み、この溶液に、先に調製した溶液1を滴下ロートで15分かけて滴下した(工程2)。滴下後、反応混合物を約2時間、加熱及び還流した。得られた白色沈殿物は吸引濾過で集めた後、そのまま65℃下、6時間減圧乾燥した。これによりβ−ケトアミドナト配位子(1)がTb3+に配位した錯体組成物を0.76g得た。得られた白色沈殿物は、ブラックライトランプ(波長365nmの紫外線)を照射すると、強い緑色の蛍光を発した。IRスペクトルのデータを、β−ケトアミド(2)、塩基(5)及び希土類金属イオン(6)の構造式とともに表3−1に示す。なお、C、H、N元素分析データ(実測値)はC:44.34%、H:4.75%、N8.61%であった。
【0212】
得られた希土類金属錯体組成物の構造は、実際に得られたC、H、N元素分析値等から、以下のように推定される。
【0213】
前記β−ケトアミド(2)はアミドのN−H結合を含む。得られた錯体組成物のIRスペクトルデータより、前記β−ケトアミドナト配位子(1)のケトン側のC=O伸縮振動1718cm−1の吸収ピークが消失しており、その代わりに1631cm−1に幅広い吸収が見られた。この吸収は、エノール型に由来すると考えられる。さらに、得られた錯体組成物の高速原子衝突質量分析法(以下、「FAB−MS」と略す)によるマススペクトルデータから、下記の(1)或いは(1’)の構造を支持する分子イオンピークが確認された。
【0214】
【化16】

【0215】
これらの事実と実際の元素分析値の結果から、理論値が近い値になる推定構造として下記のような組成物として存在していることが推定される。
【0216】
単核として、
【0217】
【化17】

【0218】
などの組成物が考えられ、
複核或いはその混合物として、
【0219】
【化18】

【0220】
などの組成物が考えられる。
【0221】
実施例B−2及びB−3
実施例B−1の方法に準じて、表3−1に示す通り、実施例A−1で合成したβ−ケトアミド(2):塩基(5):Tb3+(6)の反応モル比を4:4:1(実施例B−2)、或いは1.5:3:1(実施例B−3)として反応を行い、種々β−ケトアミドナト配位子がTb3+に配位した錯体組成物を製造した。IRスペクトルのデータを表3に示す。なお、両方の錯体についてのIRスペクトル、FAB−MSデータから、前記エノール型の構造をとってTb3+に配位していることが分かった。得られた白色固体は、ブラックライトランプ(波長365nmの紫外線)を照射すると、強い緑色の蛍光を発した。またIRスペクトルのデータを表3−1に示す。
【0222】
実施例B−4
実施例B−1の方法に準じて、実施例A−7で得られた下記β−ケトアミド(2)
【0223】
【化19】

【0224】
を用いてβ−ケトアミド(2):塩基(5):Tb3+(6)の反応モル比を3:3:1として反応を行い、Tb3+にβ−ケトアミドナト配位子(1)が配位した錯体組成物を製造した。得られた白色固体は、ブラックライトランプ(波長365nmの紫外線)を照射すると、強い緑色の蛍光を発した。またIRスペクトルのデータを表3に示す。なお、C、H、N元素分析データ(実測値)はC:52.06%、H:6.30%、N:8.03%であった。
【0225】
得られた希土類金属錯体組成物の構造は、実際に得られたC、H、N元素分析値等から、以下のように推定される。
【0226】
前記実施例B−4のβ−ケトアミド(2)はアミドのN−H結合を含む。得られた錯体組成物のIRスペクトルデータとβ−ケトアミド(2)のIRスペクトルデータとを比較したところ、β−ケトアミド(2)で見られたケトン側のC=O伸縮振動由来の1708cm−1の吸収ピークが、得られた希土類金属錯体組成物では消失し、その代わりに1650〜1570cm−1付近に幅広い吸収ピークが見られるという結果が得られた。さらに錯体組成物のFAB−MSデータから、分子量261或いは262の分子イオンピークが得られた結果を合わせると、β−ケトアミド(2)は下記のような共役した(1)或いは(1’)の状態で希土類金属イオンと配位していると考えられる。
【0227】
【化20】

【0228】
得られた前記希土類金属錯体組成物の元素分析値はC:52.06%、H:6.30%、N:8.03%である。この値とほぼ等しい理論値に相当する構造として、
単核としては
【0229】
【化21】

【0230】
の構造が推察される。複核の場合は、
【0231】
【化22】

【0232】
等が考えられる。また、これらが多数存在する場合は、例えば、
【0233】
【化23】

【0234】
等が考えられる。
【0235】
実施例B−5〜B−13
実施例B−1の方法に準じて、表3−1又は表3−2に示す通りβ−ケトアミド(2):塩基(5):Tb3+(6)の反応モル比を3:3:1として反応を行い、種々β−ケトアミドナト配位子(1)がTb3+に配位した錯体組成物を製造した。IRスペクトルのデータを表3−1及び表3−2に示す。なおいずれの錯体もFAB−MSデータから、前記エノール型の構造をとってTb3+に配位していることが分かった。得られた固体は、実施例B−5〜B−13についてブラックライトランプ(波長365nmの紫外線)を照射すると、強い緑色の蛍光を発した。
【0236】
実施例B−14
実施例B−1の方法に準じて、実施例A−8のβ−ケトアミドを使用し、表3−2に示す通りβ−ケトアミド(2):塩基(5):Y3+(6)の反応モル比を3:3:1として反応を行い、β−ケトアミドがY3+に配位した錯体組成物を製造した。IRスペクトルのデータを表3−2に示す。なおFAB−MSデータから、エノール型の構造をとるβ−ケトアミドナト配位子がY3+に配位していることが分かった。得られた固体は、ブラックライトランプ(波長365nmの紫外線)を照射すると、青色の蛍光を発した。
【0237】
【表3−1】

【0238】
【表3−2】

【0239】
<ホスフィンオキシドが配位した錯体組成物の合成>
実施例B−15
窒素雰囲気下、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた100mlナス型フラスコに、新たに別途合成した実施例B−1の希土類金属錯体組成物0.5g、ホスフィンオキシドとしてトリフェニルホスフィンオキシド0.34g、及びクロロホルム5mlを仕込んだ後、室温下4時間攪拌した。反応後、そのままエバポレーターで減圧濃縮し、真空ポンプで減圧乾燥した。
【0240】
以上の方法により、Tb3+にβ−ケトアミドナト配位子(1)が配位した錯体組成物にさらにホスフィンオキシドが配位した錯体組成物を0.82g得た。IRスペクトルのデータを表4に示す。
【0241】
実施例B−16
実施例B−15の方法に準じ、新たに合成した実施例B−1の希土類金属錯体組成物0.5g、トリブチルホスフィンオキシド0.27g、及びクロロホルム5mlを使用して、Tb3+にβ−ケトアミドナト配位子(1)が配位した錯体組成物さらにホスフィンオキシドが配位した錯体組成物を製造した。IRスペクトルのデータを表4に示す。
【0242】
【表4】

【0243】
錯体組成物の蛍光強度測定試験
実施例C−1〜C−11および比較例H−1〜H−2
実施例B−1〜B−11の希土類金属錯体組成物及び比較例H−1及びH−2の希土類金属錯体を、それぞれ50mlのメスフラスコに7mg〜10mg量り取り、酢酸エチルを標線まで加えて(スペクトル測定用、ナカライテスク社製)約5分間振揺させ溶液を調製した。
【0244】
なお比較例化合物は、比較例H−1にテルビウム(III)トリス(2,2,6、6−テトラメチル−3、5−ヘプタンジオナト)(アルドリッチ社製)を、比較例H−2にテルビウム(III)トリス(2,4−ペンタンジオナト)(アルドリッチ社製)をそれぞれ約7mg量り取り、酢酸エチルを標線まで加えて(スペクトル測定用、ナカライテスク社製)約5分間振揺させ溶液を調製した。
【0245】
各種錯体の蛍光波長545nmでの励起スペクトル(蛍光測定する波長を一定にして(ここでは蛍光波長545nmの緑色)励起波長を走査して得られるスペクトル)を測定し、その極大波長を測定した。次に波長352、365、385、及び395nmで励起したときの各試料の蛍光波長542〜545nm付近の緑色の蛍光強度を測定した。測定には、分光蛍光光度計(商品名「日立分光蛍光光度計F−7000」日立ハイテクノロジーズ製)を用いた。
【0246】
なお、前記各試料の発光強度は、比較例化合物H−1を前記溶媒に溶解させた試料(50mlメスフラスコに7.1mg量り取った)の緑色発光強度を100とする相対値で示した。
【0247】
得られた結果を、各錯体組成物の実施例番号及び錯体組成物に配位しているβ−ケトアミドナト配位子(1)の構造式とともに表5に示す。なお、比較例H−1及びH−2については、配位子の構造式の代わりに錯体の構造式を記載している。
【0248】
【表5】

【0249】
また、実施例C−1、C−5、C−8、C−9、C−10及びC−11のTb3+錯体組成物、並びに比較例H−1及びH−2のTb3+錯体組成物の酢酸エチル中での励起スペクトルを図2〜9に示す。
【0250】
表5及び図2〜7の蛍光波長545nmでの種々のTb3+錯体組成物の励起スペクトル(蛍光測定する波長を一定にして(ここでは蛍光波長545nmの緑色)励起波長を走査して得られるスペクトル)の結果から、本発明のTb3+錯体組成物は、励起波長の極大ピークが波長350〜410nmの領域に存在するようになったことが分かる。この結果は、波長352nm、365nm或いは波長380〜410nmなどの長波長領域での紫外線照射により高い緑色発光が得られることを示している。
【0251】
また、このような大きな極大ピークが得られた結果は、β−ケトアミドナト配位子(1)の最低励起三重項状態のエネルギー準位とTb3+の発光準位がうまくマッチしていることを示している。
【0252】
一方、表5及び図8及び9から、比較例H−1及びH−2のβ−ジケトンを配位子に用いるTb3+錯体での励起波長の極大ピークは320nmの領域にしかなく、励起波長が350〜410nmの領域ではほとんどゼロの値であることが分かる。この結果は、波長320nmに相当する紫外線照射では強く緑色に発光するが、波長352nm、365nm或いは波長380〜410nmなどの長波長領域での紫外線照射下では、より強く緑色に発光しないことを示している。
【0253】
この結果は、表5の波長352、365、385、395nmの紫外線を照射したときの各試料の蛍光波長542〜545nm付近での緑色の蛍光強度を、本発明のTb3+金属錯体組成物とβ−ジケトンを配位子に用いる比較例H−1及びH−2のTb3+錯体とで比較すれば一目瞭然である。
【0254】
波長352nm或いは365nmの紫外線を照射した時の蛍光波長542〜545nmでの緑色蛍光強度は、励起波長の極大ピークが330〜360nmの領域に存在する実施例B−1〜7およびB−9〜B−11のTb3+錯体組成物で非常に強く、β−ジケトンを配位子に用いる比較例H−1及びH−2のTb3+錯体と比較すると約3〜80倍の強度を示した。
【0255】
一方、波長385nm或いは395nmの紫外線を照射した時の蛍光波長542〜545nmでの緑色蛍光強度は、励起波長の極大ピークが380〜410nmの領域に存在する実施例B−8のTb3+錯体組成物で非常に強く、β−ジケトンを配位子に用いる比較例H−1及びH−2のTb3+錯体と比較すると約5〜20倍の蛍光強度を示した。
【0256】
また励起波長の極大ピークのシフトはTb3+に配位しているβ−ケトアミドナト配位子(1)の芳香環部位或いは、ヘテロ環部位に依存していることが表5及び図2〜7の結果からわかる。従って、β−ケトアミドの芳香環部位をどのような置換基にすれば所望の紫外線照射で強い緑色の発光を得ることができるかが分かる。
【0257】
例えば、波長352nm或いは365nmの紫外線照射で強発光させたいときは、β−ケトアミドの芳香環或いはヘテロ環部位が、実施例B−1〜B−7およびB−9〜B−11に示すようなものを使用すればよく、また波長380〜410nmなどの近紫外光LEDで強発光させたい場合は、β−ケトアミドの芳香環が実施例B−8のようなものを使用すればよいことが分かる。
【0258】
従って、前記β−ケトアミド骨格が希土類金属イオンに配位してなる希土類金属錯体組成物は、従来のβ−ジケトン或いはピラゾロン骨格を配位子とするTb3+錯体と比較して波長352nm、365nm或いは波長380〜410nmなどの長波長側での紫外線照射による緑色発光に非常に優れていることが分かる。
【0259】
蛍光発光インキ組成物
<インキ組成物の調製>
実施例D−1
緑色発光を示す実施例B−1のTb3+錯体組成物を使用して、実施例B−1のTb3+錯体組成物:N−メチル2−ピロリドン:エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:10:9:80であるインキ組成物を作成した。インキ組成物の組成を表6に示す。
【0260】
実施例D−2〜D−13
実施例D−1の方法に従い、実施例B−2〜B−10、B−13、B−15及びB−16のTb3+錯体組成物:N−メチル2−ピロリドン:エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:10:9:80であるインキ組成物を作成した。インキ組成物の組成を表6に示す。
【0261】
実施例D−14
実施例D−1の方法に従い、実施例B−14のY3+錯体組成物:N−メチル2−ピロリドン:エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:10:9:80であるインキ組成物を作成した。インキ組成物の組成を表6に示す。
【0262】
比較例H−3
実施例D−1の方法に従い、テルビウム(III)トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)(アルドリッチ社製):N−メチル2−ピロリドン:エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:10:9:80であるインキ組成物を作成した。インキ組成物の組成を表6に示す。なお、比較例H−3については、配位子の構造式の代わりに錯体の構造式を記載している。
【0263】
比較例H−4
実施例D−1の方法に従い、テルビウム(III)トリス(2,4−ペンタンジオナト)(アルドリッチ社製):N−メチル2−ピロリドン:エチレングリコール:エタノールの重量比率が1:10:9:80であるインキ組成物を作成した。インキ組成物の組成を表6に示す。なお、比較例H−4についても、配位子の構造式の代わりに錯体の構造式を記載している。
【0264】
<インキ組成物の発光及び視認試験>
得られた前記インキ組成物を使用して紙面上にそれぞれ塗布し、ブラックライトランプ(波長365nmの紫外線)を照射した。実施例D−1〜D−13希土類金属錯体組成物及び比較例化合物H−3及びH−4については緑色の発光具合を、実施例D−14の希土類金属錯体組成物については青色の発光具合を調べた。
【0265】
結果を表6に示す。
【0266】
【表6】

【0267】
なお判定基準は以下の記号で表した。
◎ ・・・非常に強い発光が確認された。
○ ・・・視認するのに十分な発光が確認された。
△ ・・・視認することができるが、発光が弱い。
× ・・・視認することができるが、発光が非常に弱い。
【0268】
実施例D−1〜D−13の前記希土類金属錯体組成物を塗布した紙面は、天然光の下では無色であったが、ブラックライトランプ(波長365nmの紫外線)を照射すると、塗布した部分に、視認するのに十分な緑色の発光が確認され、特に、実施例D−1〜D−3、D−5〜D−10、D−12及びD−13の前記希土類金属錯体組成物を塗布した紙面では、塗布した部分に、非常に強い緑色の発光が確認された。一方、比較例化合物H−3及びH−4の場合、ブラックライトランプ(波長365nmの紫外線)を照射すると、比較例H−3では塗布した部分が緑色に光ることは確認することができたが、実施例D−1〜D−13に比べて非常に弱い発光であった。一方比較例H−4でも塗布した部分が緑色に光ることは確認できたが、比較例H−3に比べてさらに弱い発光であった。
【0269】
また、実施例D−14のY3+錯体組成物を有するインキを塗布した紙面は、天然光の下では無色であったが、ブラックライトランプ(波長365nmの紫外線)を照射すると、塗布した部分に、視認するのに十分な青色の発光が確認された。
【0270】
表6の結果より、本発明のβ−ケトアミドナト配位子(1)がTb3+に配位した錯体組成物をインキ組成物にした状態でも、前記蛍光強度試験の結果と同じく従来のβ−ジケトン配位子とするTb3+錯体等と比較して発光強度が強いため視認性がより優れていることがわかる。
【0271】
これらの結果より、本発明のβ−ケトアミドナト配位子(1)がTb3+に配位した錯体組成物は、波長352nm、365nm或いは波長380〜410nmなどの長波長側での紫外線照射で発光強度が高く、有機媒体に対する溶解度が高く優れていることがわかる。さらに表6の結果が示すように、ブラックライトランプによる紫外光(波長365nmの紫外線)照射により、視認するのに十分な発光強度を示すため、本発明の希土類金属錯体組成物を用いて蛍光性インキ組成物を調製することができる。
【0272】
従って、カードなどの基材に前記希土類金属錯体組成物を含有する印刷用インキ組成物を印刷することで、不正複写などを防止できるセキュリティー機能を持たせたりすることができる。また白色LED、有機EL分野において、前記蛍光体を含有する発光性素子を作成するためのインキ組成物を作成すれば発光層に塗布、印刷するなどして利用することができる。
【符号の説明】
【0273】
1 発光層
2 LEDチップ
3 発光媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:
【化1】

(式中、Rは置換されていてもよい飽和炭化水素基;ペルフルオロアルキル基;置換されていてもよいアリール基;置換されていてもよいヘテロアリール基;置換されていてもよいアラルキル基;又は置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、及び置換されていてもよいアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有する1級或いは2級アミノ基を示す。
は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。
は、置換されていてもよいアリール基、又は置換されていてもよいヘテロアリール基を示し、Rは水素原子、重水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。或いはR及びR、R及びR若しくはR、又はR及びRが結合して環を形成していてもよい。)
で表されるβ−ケトアミドナト配位子が希土類金属イオンに配位してなる希土類金属錯体組成物。
【請求項2】
前記一般式(1)で表されるβ−ケトアミドナト配位子が、
一般式:
【化2】

(式中、Rは置換されていてもよい飽和炭化水素基;ペルフルオロアルキル基;置換されていてもよいアリール基;置換されていてもよいヘテロアリール基;置換されていてもよいアラルキル基;又は置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、及び置換されていてもよいアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有する1級或いは2級アミノ基を示す。
は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。
は、置換されていてもよいアリール基、又は置換されていてもよいヘテロアリール基を示し、Rは水素原子、重水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。或いはR及びR、R及びR若しくはR、又はR及びRが結合して環を形成していてもよい。)
で表されるβ−ケトアミドと塩基との反応物である請求項1に記載の希土類金属錯体組成物。
【請求項3】
一般式(1)中、Rは置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、
は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、
は、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、又は置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基を示し、Rは水素原子、重水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、或いはR及びR、R及びR若しくはR、又はR及びRが結合して環を形成していてもよい、請求項1又は2に記載の希土類金属錯体組成物。
【請求項4】
一般式(1)中、Rは置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、
は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、又は置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基を示し、
は、置換されていてもよい炭素数6〜15のアリール基、又は置換されていてもよい炭素数5〜15のヘテロアリール基を示し、Rは水素原子、重水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、或いはR及びR、R及びR若しくはR、又はR及びRが結合して環を形成していてもよい、請求項1〜3のいずれかに記載の希土類金属錯体組成物。
【請求項5】
一般式(1)中、Rは炭素数1〜20の飽和炭化水素基又は炭素数6〜15のアリール基を示し、
は、水素原子又は炭素数1〜20の飽和炭化水素基を示し、或いはR及びRが結合してシクロペンタン環を形成しており、
は、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシルアミノ基若しくはシアノ基で置換された炭素数6〜15のアリール基、又は炭素数5〜15のヘテロアリール基を示し、Rは水素原子を示す、請求項1〜4のいずれかに記載の希土類金属錯体組成物。
【請求項6】
前記反応における、β−ケトアミドと塩基と希土類金属イオンとの反応比率(モル比)が、β−ケトアミドは希土類金属イオンの1.5倍以上であって、かつ、塩基はβ−ケトアミドの1倍以上である、請求項2〜5のいずれかに記載の希土類金属錯体組成物。
【請求項7】
前記反応における、β−ケトアミドと塩基と希土類金属イオンとの反応比率(モル比)が、β−ケトアミドは希土類金属イオンの3〜4倍であって、かつ、塩基はβ−ケトアミドの1〜2倍である、請求項2〜6のいずれかに記載の希土類金属錯体組成物。
【請求項8】
前記希土類金属イオンが、Eu、Tb、Er、Sm、Tm、La、Lu、又はYである、請求項1〜7のいずれかに記載の希土類金属錯体組成物。
【請求項9】
前記希土類金属イオンの価数が+3価である、請求項1〜8のいずれかに記載の希土類金属錯体組成物。
【請求項10】
前記希土類金属イオンが、Tb3+である、請求項1〜9のいずれかに記載の緑色発光性希土類金属錯体組成物。
【請求項11】
さらに、希土類金属イオンにホスフィンオキシド類が配位している、請求項1〜10のいずれかに記載の希土類金属錯体組成物。
【請求項12】
一般式:
【化3】

(式中、Rは置換されていてもよい飽和炭化水素基;ペルフルオロアルキル基;置換されていてもよいアリール基;置換されていてもよいヘテロアリール基;置換されていてもよいアラルキル基;又は置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、及び置換されていてもよいアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有する1級或いは2級アミノ基を示す。
は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。
は、置換されていてもよいアリール基、又は置換されていてもよいヘテロアリール基を示し、Rは水素原子、重水素原子、置換されていてもよい飽和炭化水素基、ペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。或いはR及びR、R及びR若しくはR、又はR及びRが結合して環を形成していてもよい。)
で表されるβ−ケトアミドナト配位子の1種単独又は2種以上からなる希土類金属錯体組成物用の配位子。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれかに記載の希土類金属錯体組成物が有機媒体に溶解してなる発光媒体。
【請求項14】
請求項13に記載の発光媒体を有する白色LED素子。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれかに記載の希土類金属錯体組成物を含む蛍光性インキ組成物。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれかに記載の希土類金属錯体組成物を含む発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−32221(P2011−32221A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180691(P2009−180691)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000227342)日東化成株式会社 (28)
【Fターム(参考)】