説明

希土類金属錯体

【課題】従来よりも長波長の励起光で励起可能な、発光強度に優れた希土類金属錯体を提供する。
【解決手段】希土類金属錯体を、希土類金属原子と、前記希土類金属原子に配位する下記式(1)で表されるβ−ジケトン化合物と、を有するように構成する。
式(1)中、Rは1価の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を示す。
【化1】



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類金属錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、希土類金属をベースとした種々の発光材料が知られ、放電灯や半導体発光素子の光を蛍光体で色変換させた発光装置が照明装置や表示装置に使用されている。
【0003】
近年、特に希土類金属錯体を用いた蛍光体は、無機蛍光体とは異なり、溶媒に対する溶解性や樹脂分散性に優れている点で、様々な分野においてその応用が期待されている。例えば蛍光プローブ、バイオイメージング、印刷用インク、センサー、波長変換樹脂シート、照明などの多用途で種々提案されている。
【0004】
希土類金属錯体の発光機構としては、光を配位子が吸収し、その励起エネルギーが発光中心である希土類金属イオンへエネルギー移動することで、該イオンが励起されて発光する機構が知られている。
蛍光体の応用範囲の観点から励起波長の長波長化が求められているが、励起波長を長波長化する目的で配位子の骨格を変化させると、配位子と金属との間でのエネルギー移動効率が低下し、実用上充分な発光強度が得られない場合があった。
【0005】
上記に関連して、配位子からのエネルギー移動過程における、不純物や結晶欠陥、エネルギートラップによる失活を充分に低減することで、従来よりも長波長で励起可能な希土類金属錯体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
またホスフィンオキシドが配位した希土類金属錯体に、シロキサン結合を有する化合物を反応させることにより希土類金属のf−f遷移を活性化し、従来よりも長波長で励起可能な希土類金属錯体が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−252250号公報
【特許文献2】特開2009−46577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の希土類金属錯体では、十分な発光強度が得られない場合があった。また、特許文献2に記載の希土類金属錯体は、必須成分としてヒドロシリコーンを必要とする点において汎用性が高いとは言い難い場合があった。
本発明は、上記課題に鑑み、従来よりも長波長の励起光により励起可能で、発光強度に優れる希土類金属錯体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 希土類金属原子と、前記希土類金属原子に配位する下記式(1)で表されるβ−ジケトン化合物と、を有する希土類金属錯体。
【0010】
【化1】



【0011】
〔式(1)中、Rは、1価の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。〕
【0012】
<2> 極大吸収波長を350nm以上に有し、且つ励起波長400nmでの発光効率が30%以上である前記<1>に記載の希土類金属錯体。
【0013】
<3> 下記式(2)で表される前記<1>又は<2>に記載の希土類金属錯体。
【0014】
【化2】



【0015】
〔式(2)中、Lnは希土類金属原子を表し、NLは中性配位子を表し、Rは1価の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。kは1〜5の整数を表し、mはLnの価数に等しい整数を表す。〕
【0016】
<4> 前記希土類金属原子が、ユーロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、ネオジム(Nd)又はサマリウム(Sm)である前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の希土類金属錯体。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来よりも長波長の励起光により励起可能で、発光強度に優れる希土類金属錯体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例及び比較例にかかる希土類金属錯体の極大吸収スペクトルの一例を示す図である。
【図2】本発明の実施例及び比較例にかかる希土類金属錯体の励起スペクトルの一例を示す図である。
【図3】本発明の実施例及び比較例にかかる希土類金属錯体の励起光400nmにおける、550〜750nm波長領域における発光スペクトルの拡大図の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の希土類金属錯体は、希土類金属原子と、前記希土類金属原子に配位する下記式(1)で表されるβ−ジケトン化合物と、を有する錯体である。
【0020】
【化3】



【0021】
前記式(1)中、Rは、置換基を有してもよい1価の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を示す。
前記芳香族炭化水素基としては、炭素数6〜22の芳香族炭化水素基であることが好ましく、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基であることがより好ましい。さらに前記芳香族炭化水素基は脂肪族環と縮環していてもよい。
前記芳香族炭化水素基として具体的には例えば、ベンゼン環基、ナフタレン環基、アントラセン環基、フェナントレン環基、ピレン環基、ペリレン環基、テトラセン環基、クリセン環基、ペンタセン環基、トリフェニレン環基、インデン環基、アズレン環基、フルオレン基等が挙げられる。
尚、本明細書において「〜」は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示すものとする。
【0022】
前記芳香族複素環基としては、5〜18員の芳香族複素環基であることが好ましく、5〜9員の芳香族複素環基がさらに縮環して全体として芳香族複素環基を構成していることもまた好ましい。芳香族素環基を構成するヘテロ原子としては窒素原子、酸素原子、硫黄原子等が挙げられ、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。芳香族複素環基を構成するヘテロ原子の数は特に制限されず、1〜3であることが好ましく、1〜2であることがより好ましい。
前記芳香族複素環基は、励起波長と発光強度の観点から、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1種を1〜3個有する5〜6員の芳香族複素環を含む芳香族複素環基であることが好ましい。
【0023】
前記芳香族複素環基として具体的には例えば、ピロール環基、チオフェン環基、フラン環基、イミダゾール環基、ピラゾール環基、ピリジン環基、ピリダジン環基、ピリミジン環基、ピラジン環基、トリアゾール環基、トリアジン環基、チアゾール環基、イソチアゾール環基、オキサゾール環基、イソオキサゾール環基、インドール環基、イソインドール環基、ベンゾフラン環基、イソベンゾフラン環基、ベンゾオキサゾール環基、ベンゾイソオキサゾール環基、ベンゾチアゾール環基、ベンゾチオフェン環基、カルバゾール環基等が挙げられる。
【0024】
Rで表される1価の芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基は、それぞれ無置換であっても、置換基を有していてもよい。該置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、パーフルオロアルキル基、二トロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン基、ジアゾ基、メルカプト基、アリール基、アラルキル基、アリールオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリル基、アシル基、及びアシルオキシ基等が挙げられる。中でも、励起波長の長波長化と発光強度の観点から、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、及びパーフルオロアルキル基から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、及び炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
より具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、及びヘプタフルオロプロピル基から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、及びヘプタフルオロプロピル基から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、及びイソプロポキシ基から選ばれる少なくとも1種であることが更に好ましい。
【0025】
Rで表される芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が置換基を有する場合、置換基の個数は特に限定されないが、1個〜5個の置換基を有する場合が好ましく、1個〜3個の置換基を有する場合がより好ましく、1個〜2個の置換基を有する場合が更に好ましい。
【0026】
また、Rで表される芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が置換基を有する場合、置換基の置換位置は限定されない。例えば、Rで表される芳香族炭化水素基がフェニル基の場合には、オルト位、メタ位、又はパラ位のいずれで置換していてもよく、パラ位に置換基を有することがより好ましい。
【0027】
Rで表される芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基としては、励起波長の長波長化と発光強度の観点から、チエニル基、ナフチル基、フェニル基、アルキル基を有するフェニル基、又はアルコキシ基を有するフェニル基であることが好ましくり、より好ましくは、チエニル基、ナフチル基又はフェニル基であり、更に好ましくは、チエニル基又はフェニル基である。
【0028】
以下に、式(1)で表されるβ−ジケトン化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0029】
【化4】



【0030】
式(1)で表されるβ−ジケトン化合物は、例えば下記反応式に示すように、芳香族ケトン類とニコチン酸エステル(例えば、ニコチン酸メチル)を塩基の存在下で縮合させて得ることができる。下記式中、Rは芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表し、R’はアルキル基(好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基)、アリール基等を表す。
【0031】
【化5】



【0032】
本発明の希土類金属錯体における希土類金属原子は、発光波長と発光強度の観点から、ユーロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、ネオジム(Nd)又はサマリウム(Sm)であることが好ましく、Eu、Sm又はTbであることがより好ましく、Euであることが特に好ましい。
【0033】
本発明における前記β−ジケトン化合物を配位子とする希土類金属錯体としては、希土類金属原子に対して合計配位数が6から9となれば限定されるものではない。例えば、+3価の希土類金属イオンに対して、−1価のアニオンとなるβ−ジケトナートが3分子配位した錯体、及びルイス塩基性の中性配位子が補助配位子として前述した錯体に配位している錯体、又は、β−ジケトナートが4分子配位し、全体としての価数を中性とするためにカチオン性の分子を有する錯体等が挙げられる。
特に、媒体への分散性並びに蛍光体としての蛍光特性を考慮し、希土類金属に対して3分子のβ−ジケトン化合物及びルイス塩基である中性配位子を有する錯体が好ましい。
【0034】
本発明の希土類金属錯体は、励起波長と発光強度の観点から、下記式(2)で表される錯体であることが好ましい。
【0035】
【化6】



【0036】
式(2)中、Lnは希土類金属原子を表し、NLは中性配位子を表し、Rは、置換基を有してもよい1価の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を示す。kは1〜5の整数を表し、mはLnの価数に等しい。
【0037】
式(2)中、Lnで表される希土類金属原子としては、上述の希土類金属原子が挙げられ、好適な希土類金属原子についても同様である。
式(2)におけるRは、上記式(1)におけるRと同義であり、好適な範囲についても同様である。
【0038】
NLで表される中性配位子は、希土類金属原子Lnに配位可能であれば特に限定はされない。例えば、窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子を有する化合物を挙げることができる。具体的には、アミン類、アミンオキシド類、ホスフィンオキシド類、ケトン類、スルホキシド類、及びエーテル類等が挙げられ、これらは単一でも又は2種以上を組み合わせて用いられる。
なお、LnがEu3+の場合には、Eu3+の合計配位数が7、8又は9となるように、中性配位子が選択される。
【0039】
中性配位子NLで表されるアミン類としては、例えば、置換基を有してもよいピリジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、2,2’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン等が挙げられる。
中性配位子NLで表されるアミンオキシド類としては、例えば、置換基を有してもよいピリジン−N−オキシド、イソキノリン−N−オキシド、2,2’−ビピリジン−N,N’−ジオキシド、1,10−フェナントロリン−N,N’−ジオキシド等上記アミンのN−オキシド等が挙げられる。
【0040】
中性配位子NLで表されるホスフィンオキシド類としては、例えば、置換基を有してもよいトリフェニルホスフィンオキシド、トリエチルホスフィンオキシドやトリオクチルホスフィンオキシド等のアルキルアルキルホスフィンオキシド、1,2−エチレンビス(ジフェニレンホスフィンオキシド)、(ジフェニルホスフィンイミド)トリフェニルホスフォラン、リン酸トリフェニルエステル等が挙げられる。
中性配位子NLで表されるケトン類としては、例えば、置換基を有することもあるジピリジルケトン、ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0041】
中性配位子NLで表されるスルホキシド類としては、例えば、置換基を有してもよいジフェニルスルホキシド、ジベンジルスルホキシド、ジオクチルスルホキシド等が挙げられる。
中性配位子NLで表されるエーテル類としては、例えば、置換基を有してもよいエチレングリコールジメチルエーテルやエチレングリコールジメチルエーテルが挙げられる。
【0042】
式(2)において、kは1〜5の整数を表すが、1〜3の整数であることが好ましく、1〜2の整数であることがより好ましい。
式(2)において、mはLnの価数に等しい整数を表わす。例えば、LnがEu3+の場合には、mは3である。
【0043】
式(2)において、希土類金属原子LnがEuのとき、中性配位子NLとしては、アミン類、ホスフィンオキシド類、又はスルホキシド類であることが好ましく、アミン類、又はホスフィンオキシド類であることがより好ましく、アミン類であることが更に好ましい。さらにまたアミン類の中でも、下記式(3)で表される中性配位子NLであることが好ましい。
【0044】
【化7】



【0045】
式(3)中、R〜Rは各々独立に、水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。また、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとRはそれぞれ互いに連結して環を形成していてもよい。
【0046】
前記式(3)で表される中性配位子は、R及びRが各々独立に水素原子であるビピリジン化合物であっても、RとRが互いに連結してベンゼン環を形成したフェナントロリン化合物であってもよい。
【0047】
式(3)におけるR〜Rは各々独立に、水素原子、炭素数1〜9のアルキル基又はフェニル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基又はフェニル基であることがより好ましく、水素原子、メチル基又はフェニル基であることが更に好ましい。
【0048】
式(3)においてR〜Rのいずれかがアルキル基又はアリール基の場合には、少なくともR又はR(つまり5位)がアルキル基又はアリール基であることが好ましい。
【0049】
式(3)で表される中性配位子NLとして具体的には、2,2’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、バソフェナントロリン、ネオクプロイン、バソクプロイン、5,5’−ジメチル−2,2’−ビピリジン、4,4’−ジメチル−2,2’−ビピリジン、6,6’−ジメチル−2,2’−ビピリジン、5−フェニル−2,2’−ビピリジン、2,2’−ビキノリン、2,2’−ビ−4−レピジン、2,9−ジブチル−1,10−フェナントロリン、3,4,7,8−テトラメチル−1,10−フェナントロリン、2,9−ジブチル−1,10−フェナントロリンが好ましく、2,2’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、バソフェナントロリン、5,5’−ジメチル−2,2’−ビピリジン、5−フェニル−2,2’−ビピリジンがより好適である。
【0050】
また、式(2)において、希土類金属原子LnがEuのとき、kは、1〜2の整数であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0051】
本発明の希土類金属錯体は、通常の方法によって調製することができる。例えば、希土類金属化合物とβ−ジケトン化合物とを塩基存在下で反応させることによって容易に得られる。
【0052】
希土類金属錯体の製造に用いられる前記希土類金属化合物は特に限定されるものではない。例えば、希土類金属の酸化物、水酸化物、硫化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩、亜硫酸塩、二硫酸塩、硫酸水素塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、二リン酸塩、ポリリン酸塩、(ヘキサ)フルオロリン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、チオ炭酸塩、シアン化物、チオシアン化物、ホウ酸塩、(テトラ)フルオロホウ酸塩、シアン酸塩、チオシアン酸塩、イソチアン酸塩、アジ化物、窒化物、ホウ化物、ケイ酸塩、(ヘキサ)フルオロケイ酸塩、イソポリ酸、ヘテロポリ酸、その他の縮合ポリ酸の塩などの無機化合物や、アルコラート、チオラート、アミド、イミド、カルボン酸塩、スルホン酸塩、ホスホン酸塩、ホスフィン酸塩、アミノ酸塩、カルバミン酸塩、及びキサントゲン酸塩などの有機化合物が挙げられる。
【0053】
本発明の希土類金属錯体は、極大吸収波長を350nm以上に有することが好ましく、350nm〜400nmに有することがより好ましく、355nm〜375nmに有することが更に好ましい。
本発明の希土類金属錯体の極大吸収波長は、β−ジケトン化合物に起因した波長となる。β−ジケトン化合物が希土類元素に配位した状態ではβ−ジケトン化合物のアニオン、即ちβ−ジケトナートとしてその吸収波長が観測される。β−ジケトナート類の吸収波長を長波長化させるには、共役系を長く伸ばすことが望ましい。
【0054】
本発明の希土類金属錯体の極大吸収波長は、市販の分光光度計(例えば、(株)日立ハイテクフィールディング製U−3310など)を用いて、光路長1cmの角型石英セルを用い、吸光度が1.0以下になるように調整された溶液中にて測定される。測定溶媒としては、試料の溶解性が高く、紫外域における吸収が低いものが望ましい。このような溶媒として例えば、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。また、測定濃度は各試料のモル吸光係数に応じて適宜選択されるが、吸光度が0.1〜1.0の範囲となるように調整されることが好ましい。
具体的に本発明においては、ジメチルホルムアミドを溶媒として2×10−5[M]の濃度で測定された値である。
【0055】
また、本発明の希土類金属錯体は、最大励起波長を395nm〜450nmに有することが好ましく、400nm〜440nmに有することがより好ましく、405nm〜435nmに有することが更に好ましい。
【0056】
本発明の希土類金属錯体の最大励起波長は、市販の分光蛍光光度計(例えば、日立ハイテクノロジー(株)製F−4500)を用いて、蛍光側の分光器を固定(特に発光中心がEu3+の場合、最大発光強度を示す605〜620nmの間で適宜調整する。)し、励起側の分光器をスキャンすることで測定される。試料形状としては、粉末・溶液・樹脂分散状態等から選択され、相対的な比較においてはいずれの形状でも構わない。また、粉末状態では散乱、溶液・樹脂分散状態では媒体の影響、濃度依存が生ずるので注意が必要である。
具体的に本発明における最大励起波長は、ジメチルホルムアミドを溶媒として1×10−4[M]の濃度で測定された値である。
【0057】
更に、本発明の希土類金属錯体は、400nmの励起波長における発光効率が30%以上であることが望ましく、35%以上であることがより好ましく、40%以上であることが更に好ましい。
【0058】
本発明の希土類金属錯体の発光効率及び発光強度を求める方法を説明する。
測定対象となる希土類金属錯体(蛍光体)を、分光光度計及び励起光源が備え付けられた積分球内に入れて、ここに励起発光光源から400nmの光を照射して測定する。このような測定装置としてシステムズエンジニアリング製QEMS2000などがある。積分球などを用いるのは、サンプルを反射したフォトン、及びサンプルからフォトルミネッセンスにより放出されるフォトンを全て計上できるようするためである。
この測定スペクトルには、実際には励起発光光源からの光でフォトルミネッセンスによりサンプルから放出されたフォトンの他に、サンプルで反射された励起光の分のフォトンの寄与が重なっている。即ち、発光効率は、サンプルのフォトルミネッセンスにより放出されたフォトン数の合計を、サンプルによって吸収された励起光のフォトン数の合計で割った値とされる。
【0059】
また、発光強度は、励起光強度を一定とした場合に、サンプルのフォトルミネッセンスにより放出されたフォトン数の総和とされる。なお、中心金属がユーロピウムイオン(Eu3+)の場合、最も強い発光波長領域である5D0から7F2への遷移に由来する600nm〜630nmを含む、550〜750nmの波長領域を積分区間とすればよい。
【0060】
本発明の希土類金属錯体の用途は特に制限されない。例えば、蛍光プローブ、バイオイメージング、印刷用インク、センサー、波長変換樹脂シート、照明などの用途を挙げることができる。
また本発明の希土類金属錯体は、例えば、樹脂中に分散、又は、ビニルモノマーに溶解させ懸濁重合することで樹脂封止蛍光体として使用することができる。更にまた太陽電池セルの受光面側に用いられる波長変換用樹脂組成物、波長変換型太陽電池封止材(波長変換型太陽電池封止シート)、及びこれらを用いた太陽電池モジュールに適用することができる。例えば、本発明の希土類金属錯体をこれらの用途に用いると、発電に寄与の少ない波長域の光が発電に寄与の大きい波長域の光に波長変換され、発電効率が向上する。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0062】
[実施例1]
<3Py2TP(1−(3−ピリジル)−3−(2−チエニル)−1,3−プロパンジオン)の合成>
水素化ナトリウム 1.92g(0.08mol)を秤取し、窒素雰囲気下、脱水テトラヒドロフラン 45mlを加えた。激しく攪拌しながら、2−アセチルチオフェン 5.05g(0.04mol)及びニコチン酸メチル 6.58g(0.048mol)を脱水テトラヒドロフラン 50mlに溶解させた溶液を1時間かけて滴下した。その後、8時間還流させた。これを室温に戻し、純水20gを加え、更に3mol/L塩酸16.5mlを加えた。有機層を分離し、減圧下で濃縮した。濃縮物を再結晶し、薄黄色粉末としてβ−ジケトン化合物である3Py2TPを7.35g(収率79%)得た。
【0063】
<Eu(3Py2TP)Phenの合成>
上記のようにして合成した3Py2TP 518.1mg(2.24mmol)、1,10−フェナントロリン(Phen) 151.4mg(0.84mmol)をメタノール 25.0gに分散させた。この分散液に、水酸化ナトリウム 112.0mg(2.80mmol)をメタノール 10.0gに溶解させた溶液を加え、1時間攪拌した。
次いで、256.5mg(0.7mmol)の塩化ユーロピウム(III)6水和物をメタノール 5.0gに溶解した溶液を滴下した。室温で1時間攪拌した後、油浴中にて60℃に加熱し、そのままさらに2時間攪拌した。これを室温に戻し、生成した沈殿物を吸引濾過し、メタノールにて洗浄した。乾燥することでEu(3Py2TP)Phenを530.6mg得た。
【0064】
[実施例2]
<P3PyP(1−フェニル−3−(3−ピリジル)−1,3−プロパンジオン)の合成>
水素化ナトリウム 1.92g(0.08mol)を秤取し、窒素雰囲気下、脱水テトラヒドロフラン4 5mlを加えた。激しく攪拌しながら、アセトフェノン 4.81g(0.04mol)及びニコチン酸メチル 6.58g(0.048mol)を脱水テトラヒドロフラン 50mlに溶解させた溶液を1時間かけて滴下した。その後、8時間還流させた。これを室温に戻し、純水20gを加え、更に3mol/L塩酸14.0mlを加えた。有機層を分離し、減圧下で濃縮した。濃縮物を再結晶し、薄黄色粉末としてβ−ジケトン化合物であるP3PyPを6.20g(収率69%)得た。
【0065】
<Eu(P3PyP)Phenの合成>
上記のようにして合成したP3PyP 504.6mg(2.24mmol)、1,10−フェナントロリン(Phen) 151.4mg(0.84mmol)をメタノール 25.0gに分散させた。この分散液に、水酸化ナトリウム 112.0mg(2.80mmol)をメタノール 10.0gに溶解させた溶液を加え、1時間攪拌した。
次いで、256.5mg(0.7mmol)の塩化ユーロピウム(III)6水和物をメタノール 5.0gに溶解した溶液を滴下した。室温で1時間攪拌した後、油浴中にて60℃に加熱し、さらに2時間攪拌した。これを室温に戻し、生成した沈殿物を吸引濾過し、メタノールにて洗浄した。乾燥することでEu(P3PyP)Phenを418.2mg得た。
【0066】
[実施例3]
<2N3PyP(1−(2−ナフチル)−3−(3−ピリジル)−1,3−プロパンジオン)の合成>
水素化ナトリウム 1.92g(0.08mol)を秤取し、窒素雰囲気下、脱水テトラヒドロフラン 45mlを加えた。激しく攪拌しながら、2−アセトナフトン 6.81g(0.04mol)及びニコチン酸メチル 6.58g(0.048mol)を脱水テトラヒドロフラン 50mlに溶解させた溶液を1時間かけて滴下した。その後、8時間還流させた。これを室温に戻し、純水20gを加え、更に3mol/L塩酸14.0mlを加えた。有機層を分離し、減圧下で濃縮した。濃縮物を再結晶し、黄色粉末としてβ−ジケトン化合物である2N3PyPを9.45g(収率86%)得た。
【0067】
<Eu(2N3PyP)3Phenの合成>
上記のように合成した2N3PyP 639.1mg(2.24mmol)、1,10−フェナントロリン(Phen) 151.4mg(0.84mmol)をメタノール 25.0gに分散させた。この分散液に、水酸化ナトリウム 112.0mg(2.80mmol)をメタノール 10.0gに溶解させた溶液を加え、1時間攪拌した。
次いで、256.5mg(0.7mmol)の塩化ユーロピウム(III)6水和物をメタノール 5.0gに溶解した溶液を滴下した。室温で1時間攪拌した後、油浴中にて60℃に加熱し、さらに2時間攪拌した。これを室温に戻し、生成した沈殿物を吸引濾過し、メタノールにて洗浄した。乾燥することでEu(2N3PyP)Phenを739.4mg得た。
【0068】
[比較例1]
<Eu(TTA)Phenの合成>
水酸化ナトリウム水溶液(1M) 11gに、テノイルトリフルオロアセトン(TTA) 2.00g(9.00mmol)をエタノール 75.0gに溶解した溶液を加えた。次いで、1,10−フェナントロリン 0.62g(3.44mmol)をエタノール 75.0gに溶解した溶液を加え、1時間攪拌を続けた。
次いで、塩化ユーロピウム(III)6水和物 1.03g(2.81mmol)をエタノール 20.0gに溶解した溶液を滴下し、さらに1時間攪拌を続けた。生成した沈殿物を吸引濾過し、エタノールにて洗浄し、乾燥することで希土類金属錯体であるEu(TTA)Phenを2.33g得た。
【0069】
[比較例2]
<Eu(BFA)Phenの合成>
水酸化ナトリウム水溶液(1M) 11gに、ベンゾイルトリフルオロアセトン(BFA) 1.94g(9.00mmol)をエタノール 60.0gに溶解した溶液を加えた。次いで、1,10−フェナントロリン 0.62g(3.44mmol)をエタノール 60.0gに溶解した溶液を加え、1時間攪拌を続けた。
次いで、塩化ユーロピウム(III)6水和物 1.03g(2.81mmol)をエタノール 20.0gに溶解した溶液を滴下し、さらに1時間攪拌を続けた。生成した沈殿物を吸引濾過し、エタノールにて洗浄した。乾燥することで希土類金属錯体であるEu(BFA)Phenを2.22g得た。
【0070】
[比較例3]
<Eu(DBM)Phenの合成>
水酸化ナトリウム水溶液(1M) 11gに、ジベンゾイルメタン(DBM) 2.00g(9.00mmol)をエタノール 60.0gに溶解した溶液を加えた。次いで、1,10−フェナントロリン 0.62g(3.44mmol)をエタノール 60.0gに溶解した溶液を加え、1時間攪拌を続けた。
次いで塩化ユーロピウム(III)6水和物 1.03g(2.81mmol)をエタノール 20.0gに溶解した溶液を滴下し、さらに1時間攪拌を続けた。生成した沈殿物を吸引濾過し、エタノールにて洗浄した。乾燥することで希土類金属錯体であるEu(DBM)Phenを2.48g得た。
【0071】
[測定方法]
以下に、上記で得られた希土類金属錯体について測定した励起波長などの各パラメータの測定方法について説明する。
【0072】
1.極大吸収波長の測定
分光光度計として、(株)日立ハイテクフィールディング製U−3310を用い、ジメチルホルムアミドを溶媒として2×10−5[M]の濃度で測定した。
図1に、実施例1、比較例1及び比較例2で得られた希土類金属錯体の極大吸収スペクトルを示す。
【0073】
2.最大励起波長の測定
分光蛍光光度計として、日立ハイテクノロジー(株)製F−4500を用い、ジメチルホルムアミドを溶媒として1×10−4[M]の濃度で測定した。
図2に、実施例1、実施例2及び比較例3で得られた希土類金属錯体の励起スペクトルを示す。
【0074】
3.発光強度及び発光効率の測定
測定は、発光量子効率測定装置として、システムズエンジニアリング(株)QEMS−2000を用いて実施した。試料に400nmの励起光を照射し、試料のフォトルミネッセンスにより放出されたフォトン数の合計を、試料によって吸収された励起光のフォトン数の合計で割った値として、発光効率を測定した。またその発光スペクトルより積分区間550nm〜750nmでのフォトン数の合計を発光強度とした。
図3に、実施例1、及び比較例3で得られた希土類金属錯体の励起光400nmでの、550〜750nm波長領域における発光スペクトルの拡大図を示す。
【0075】
【表1】



【0076】
表1に示されるように、式(1)で表されるβ−ジケトン化合物を配位子として有する実施例1〜3にかかる本発明の希土類金属錯体は、式(1)で表されるβ−ジケトン化合物を配位子として有さない比較例1〜2の希土類金属錯体に比べて、長波長の励起光で励起されていることが分かる。また式(1)で表されるβ−ジケトン化合物以外のβ−ジケトン化合物を配位子とした比較例3に比べて、発光強度に優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類金属原子と、前記希土類金属原子に配位する下記式(1)で表されるβ−ジケトン化合物と、を有する希土類金属錯体。
【化1】



〔式(1)中、Rは、1価の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。〕
【請求項2】
極大吸収波長を350nm以上に有し、且つ励起波長400nmでの発光効率が30%以上である請求項1に記載の希土類金属錯体。
【請求項3】
下記式(2)で表される請求項1又は請求項2に記載の希土類金属錯体。
【化2】



〔式(2)中、Lnは希土類金属原子を表し、NLは中性配位子を表し、Rは1価の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。kは1〜5の整数を表し、mはLnの価数に等しい整数を表す。〕
【請求項4】
前記希土類金属原子が、ユーロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、ネオジム(Nd)又はサマリウム(Sm)である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の希土類金属錯体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−116762(P2012−116762A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265214(P2010−265214)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】