説明

希土類錯体、及びそれを用いた蛍光媒体、発光素子、セキュリティー媒体並びに照明装置

【課題】高光度および長寿命を有する希土類錯体、及びそれを用いた蛍光媒体、発光媒体、セキュリティー媒体並びに照明装置を提供する。
【解決手段】複数の希土類イオンと、ホスフィンオキシド配位子とを含む希土類錯体であって、前記ホスフィンオキシド配位子が、下記式(1)により表される分子構造を有することを特徴とする希土類錯体。


(式中、m、n、oは、1以上の整数であり、R〜Rは、それぞれ同一又は異なる、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、同一リン原子上の隣り合うR及びR、またはR及びR、またはR及びRが結合して環を形成していてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高光度および長寿命を有する希土類錯体、及びそれを用いた蛍光媒体、発光媒体、セキュリティー媒体並びに照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LED素子の光度向上、寿命向上は著しく、照明用途を中心に幅広い市場展開が進行中である。現在主流である、発光体として無機蛍光体を用いる発光ダイオード素子(以下、LED素子という)は、その発光効率が飛躍的に向上しつつあり、特に白色LED素子は、将来、蛍光灯の発光効率を凌駕すると言われる状況である。しかしながら、無機蛍光体を用いるLED素子は、演色性に難点があるため、LEDに有機蛍光体を組合せる照明装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、紫外線による有機蛍光体の劣化すること、濃度によって蛍光スペクトルが変化し、スペクトル制御が困難であること、蛍光強度にも濃度依存性があり、高濃度領域では濃度消光が生じてしまうこと、分散するポリマーの種類によって蛍光スペクトルが変化してしまうこと等の問題から、未だ照明用途として実用化されていない。
【0004】
LEDと有機蛍光体との組合せを一般照明市場に展開するためには、さらなる光度と長寿命が要求される。耐久性に大きく影響する特性として、配位子自身の光化学反応に対する安定性が挙げられる。LEDからの発光を照射される蛍光体は、熱、光が強い過酷な条件にさらされるため、ラジカル的な(酸化)劣化が進行し易い。
【0005】
配位子が化学変化を起こすと、配位能が低下して配位子が中心元素からはずれることにより、蛍光強度が劣化したり、はずれた配位子が失活の原因となる場合がある。
【0006】
一方、高光度を実現するためには、蛍光錯体の樹脂に対する溶解性が大きいことが要求される。溶解性が小さく、蛍光体が樹脂中で粒子状に存在する場合、光散乱のため十分な光度を得ることはできない。蛍光錯体の溶解度を改良するために、錯体構造の検討もなされている。
【0007】
蛍光錯体の耐久性を向上させるのに効果的な手法として、複核化がある。複核化とは、一つの分子中に複数個の中心イオンを有する錯体のことである。しかしながら、複核化は耐久性は向上するものの、分子量の大幅な増大によって媒体に対する溶解性が著しく小さくなることが課題である。複核錯体において、発光強度と溶解性を十分に満たすものは未だ報告例がないのが現状である。
【0008】
また、複核錯体は、分子量の増大によって不溶化することは、一般的な事実である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−1880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情の下になされ、高光度、高溶解性、長寿命の希土類錯体、及びそれを用いた発光素子、セキュリティー媒体並びに照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、複数の希土類イオンと、ホスフィンオキシド配位子とを含む希土類錯体であって、前記ホスフィンオキシド配位子が、下記式(1)により表される分子構造を有することを特徴とする希土類錯体を提供する。
【化1】

【0012】
(式中、m、n、oは、1以上の整数であり、R〜Rは、それぞれ同一又は異なる、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、同一リン原子上の隣り合うR及びR、またはR及びR、またはR及びRが結合して環を形成していてもよい。)
本発明の第2の態様は、上記希土類錯体をポリマーに溶解してなることを特徴とする蛍光媒体を提供する。
【0013】
本発明の第3の態様は、上記希土類錯体を含む蛍光層を具備することを特徴とする発光素子を提供する。
【0014】
本発明の第4の態様は、上記希土類錯体をポリマーに溶解した溶液を基体に印刷してなることを特徴とするセキュリティー媒体を提供する。
【0015】
本発明の第5の態様は、上記希土類錯体を含む発光層を具備することを特徴とする照明装置を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、高光度、高溶解性、長寿命の希土類錯体、及びそれを用いた発光素子、セキュリティー媒体並びに照明装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施態様に係るLED素子の構造の説明図である。
【図2】本発明の他の実施態様に係る有機EL素子の構造の説明図である。
【図3】本発明の一実施態様に係るLED素子を用いたLEDフラッシュを備えるデジタルカメラを示す図である。
【図4】本発明の一実施態様に係るLED素子を用いたLEDフラッシュを備える携帯電話を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
なお、本明細書において、「蛍光性希土類錯体」、「蛍光錯体」、「蛍光媒体」なる用語は、必ずしも厳密な意味で蛍光を発するものに限られるのではなく、りん光を発するものをも含む、広く発光を生ずる錯体を意味するものと理解されるべきである。
【0020】
本発明者らは、照明装置用に好適に使用可能な、高光度、高溶解性、及び長寿命の蛍光性希土類錯体について、鋭意検討を進めた結果、複数の希土類イオンと、所定のホスフィンオキシド配位子とを含む希土類錯体が、発光強度、耐久性、溶解性に優れることを見出し、本発明を成すに至った。
【0021】
実施形態1
本発明の第1の実施形態に係る蛍光性希土類錯体は、複数の希土類イオンと、ホスフィンオキシド配位子とを含み、前記ホスフィンオキシド配位子が、下記式(1)により表される分子構造を有するものである。
【化2】

【0022】
(式中、m、n、oは、1以上の整数であり、R〜Rは、それぞれ同一又は異なる、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、同一リン原子上の隣り合うR及びR、またはR及びR、またはR及びRが結合して環を形成していてもよい。)
以上の前記ホスフィンオキシド配位子と、下記式(2)により表されるβ−ジケトナト配位子とが、複数の希土類イオンに配位して、蛍光性希土類錯体を構成することが出来る。
【化3】

【0023】
(式中、Rは、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R及びRは、それぞれ同一又は異なる、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。)
また、金属原子1原子に対して前記β−ジケトナト配位子3分子が配位した下記式(3)により表される、同一又は異なるβ−ジケトナト希土類錯体2分子に、上記式(1)により表されるホスフィンオキシド配位子1分子が配位して、蛍光性希土類錯体を構成することが出来る。
【化4】

【0024】
(式中、R及びR11は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R、R、R10、及びR12は、それぞれ同一又は異なる、置換されていてもよい炭素数が1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、Ln(III)、及びLn(III)は、3価の希土類金属イオンを示す。)
以上のように、上記式(1)により表されるテトラホスフィンテトラオキシド配位子は、構造中にP=O結合を有し、この結合を介して希土類金属原子に配位結合する。この配位子は、上記式(2)により表されるβ−ジケトナト配位子とともに、複数の希土類金属原子に配位することによって複核錯体を形成するものである。形成された複核錯体は、分子構造が柔軟であるため、溶解性にも優れた特徴を有する。
【0025】
このような希土類錯体からなる蛍光体の発光強度は、上記式(2)により表されるβ−ジケトナト配位子に接続する置換基の種類と組み合わせに大きく依存するが、ユーロピウム錯体の場合は、β−ジケトナト配位子の二つの置換基の中で、一方がアロマティック基であり、もう一方がペルフルオロアルキル基の場合に発光強度は最大となる。
【0026】
また、このような希土類錯体の溶解性は、テトラホスフィンテトラオキシド配位子を挟んだ二つの希土類イオンに接続するβ−ジケトナト配位子の置換基の種類または組み合わせが異なる場合に、特に優れている。
【0027】
本実施形態に係る希土類錯体では、上記式(1)で表されるテトラホスフィンテトラオキシド配位子のRないしRの少なくとも一つは、メタ位またはパラ位が、置換されているフェニル基とすることが出来る。この場合、さらに飽和溶解度が向上し、特に、メタ位がペルフルオロアルキル基で置換されているフェニル基である場合、溶解性の向上に特に有用である。
【0028】
即ち、上記式(1)で表されるホスフィンオキシド配位子は、下記式(4)により表されるものとすることが出来る。
【化5】

【0029】
(式中、m、n、oは、1以上の整数であり、R13〜R18は、それぞれ同一又は異なる、アルキル基、フルオロアルキル基、アルコキシ基、または水素原子を表す。)
また、金属原子1原子に対して前記β−ジケトナト配位子3分子が配位した上記式(3)により表される、同一又は異なるβ−ジケトナト希土類錯体2分子に、上記式(1)により表されるホスフィンオキシド配位子1分子が配位して、下記式(5)により表される蛍光性希土類錯体を構成することが出来る。
【化6】

【0030】
本実施形態において、希土類イオンは用途に応じた波長の蛍光を発生するように適切に選択することができるが、ランタノイド系イオンであることが好ましい。より具体的には、ユーロピウムまたはテルビウムが好ましく、特に赤色領域のスペクトルが大きく、演色性に優れた蛍光性希土類錯体を実現するためにはユーロピウムが好ましい。
【0031】
以上説明した本実施形態に係る蛍光性希土類錯体は、複核錯体でありながら、その分子構造の柔軟性により、耐久性と発光強度が両立されることが特徴である。ポリマーに溶解して発光媒体としたものは、LED素子の蛍光層に用いることによって発光強度の増大に寄与し、インク化してインクジェットで印刷することにより、鮮明なパターン表示が得られるセキュリティー媒体を実現し、有機EL素子の発光層に用いることによって発光強度の増大に寄与するものである。
【0032】
以下、本実施形態に係る希土類錯体を構成する各配位子、その製造方法、希土類錯体の製造方法等について、詳細に説明する。
【0033】
A.ホスフィンオキシド配位子
以下に、上記式(1)により表されるホスフィンオキシド配位子について、詳細に説明する。
【0034】
上記式(1)において、置換されていても良い飽和炭化水素基の飽和炭化水素基としては、特に限定されず、例えば、炭素数1〜20の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基等を挙げることができ。炭素数1〜20の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、イコシル基等を例示することができる。
【0035】
炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロドデシル基等を例示することができる。
【0036】
置換されていてもよい飽和炭化水素基の置換基としては、特に限定されないが、例えばフルオロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基、ジアルキルアミノ基等が挙げられる。フルオロアルキル基としては、例えば、炭素数1−6のぺルフルオロアルキル基が挙げられる。炭素数1−6のぺルフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、トリデカフルオロヘキシル基等を例示することができる。
【0037】
アルコキシ基としては、例えば、炭素数1−6のアルコキシ基が挙げられる。炭素数1−6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ヘキシルオキシ基等を例示することができる。アリールオキシ基としては、例えば、炭素数6−12のアリールオキシ基が挙げられる。炭素数6−12のアリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等を例示することができる。
【0038】
シロキシ基としては、トリメチルシロキシ、トリエチルシロキシ、トリイソプロピルシロキシ、tert−ブチルジメチルシロキシ等を例示できる。ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ等を例示することができる。
【0039】
置換されていてもよい飽和炭化水素基の置換基の置換位置及び置換基の数は、特に限定されない。特に、置換されていても良い飽和炭化水素基としては、置換されていてもよい炭素数3〜20の飽和炭化水素基が好ましく、炭素数4〜18の飽和炭化水素基がより好ましい。
【0040】
置換されていてもよいアリール基のアリール基としては、特に限定されず、例えば、炭素数6−14のアリール基が挙げられる。炭素数6−14のアリール基としては、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル、アンスリル等を例示することができる。
【0041】
置換されていてもよいアリール基の置換基としては、特に限定されず、例えば炭素数1−6のアルキル基、炭素数1−6のぺルフルオロアルキル基、炭素数6−14のアリール基、5〜10員芳香族複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基、ジアルキルアミノ基等が挙げられる。炭素数1−6のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル等が挙げられる。
【0042】
炭素数1−6のぺルフルオロアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル、トリデカフルオロヘキシル等が挙げられる。炭素数6−14のアリール基としては、例えば、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル、2−アンスリル等が挙げられる。
【0043】
5〜10員芳香族複素環基としては、例えば、2−又は3−チエニル、2−,3−又は4−ピリジル、2−,3−,4−,5−又は8−キノリル、1−,3−,4−又は5−イソキノリル、1−,2−又は3−インドリル、2−ベンゾチアゾリル、2−ベンゾ[b]チエニル、ベンゾ[b]フラニル等が挙げられる。
【0044】
炭素数1−6のぺルフルオロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基及びジアルキルアミノ基については、前記飽和炭化水素基の置換基として述べたアルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基及びジアルキルアミノ基と同じである。置換されていてもよいアリール基の置換基の置換位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0045】
置換されていてもよいヘテロアリール基のヘテロアリール基としては、特に限定されず、例えば、硫黄原子、酸素原子及び窒素原子からなる群から選ばれる原子を1〜3個含む、縮環していてもよい5〜14員芳香族複素環基が挙げられる。芳香族複素環基としては、フリル、チエニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、イソチアゾリル、チアゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チアジアゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、インドリル、インダゾリル、プリニル、キノリル、イソキノリル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、シノリニル、プテリジニル、カルバゾリル、カリボリニル、フェナンスリジニル、アクリジニル等を例示することができる。
【0046】
置換されていてもよいヘテロアリール基の置換基としては、前記置換されていてもよいアリール基で述べた置換基と同じである。前記置換されていてもよいヘテロアリール基の置換基の位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0047】
置換されていてもよいアラルキル基のアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等が挙げられる。置換されていてもよいアラルキル基の置換基としては、前記置換されていてもよいアリール基で述べた置換基と同じである。前記置換されていてもよいアラルキル基の置換基の位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0048】
同一リン原子上のR及びRが結合して形成する環としては、例えば、ピペリジン環、ピロリジン環、モルホリン環等が挙げられる。m,n,oは、各々1以上の整数であればよいが、好ましくは3〜12の整数、より好ましくは4〜8の整数である。
【0049】
B.テトラホスフィンテトラオキシド配位子の製造方法
上述した式(1)により表されるテトラホスフィンテトラオキシド配位子は、触媒の存在下で、下記一般式(6)により表されるホスフィンオキシドと、下記一般式(7)により表されるリン化合物及び/又は下記一般式(8)により表されるリン化合物とを反応させることにより、簡便にかつ高収率で製造することが出来る。
【化7】

【0050】
(式中、zは2以上の整数である。)
【化8】

【0051】
(式中、R及びRは、同一又は異なる、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、結合して環を形成していてもよい。)
【化9】

【0052】
(式中、R及びRは、同一又は異なる、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、結合して環を形成していてもよい。)
上記一般式(6)により表されるホスフィンオキシドの製造方法は、特に限定されるものではないが、下記一般式(9)により表されるハロゲン化物から調製される有機金属反応剤と、下記一般式(10)により表されるリン化合物とを反応させることにより製造する方法が好ましい。このような方法により、高い収率でホスフィンオキシドを製造することができるからである。
【0053】
CH=CH―(CHz−2―X (9)
(式中、Xはハロゲン原子を示し、zは2以上の整数である。)
【化10】

【0054】
(式中、Y、Y及びYは、それぞれ同一又は異なる、ハロゲン原子、アルコキシ基、又はアリールオキシ基を示す。)
即ち、本実施形態に係るテトラホスフィンテトラオキシド配位子の製造方法としては、特に、下記反応式に示す一連のプロセス(下記第1工程を経た後、下記第2工程を経る一連のプロセス)を採用することが好ましい。かかる方法を採用することにより、自由に分子設計しつつ、簡便に、且つ、高収率で、下記式(1’)により表されるテトラホスフィンテトラオキシド配位子を製造することができる。
【0055】
[反応式1]
【化11】

【0056】
(式中、z、X、Y、Y、Y3、R及びRは、前記に同じ)
以下、上記反応式1に示す方法を代表例として、本実施形態に係るテトラホスフィンテトラオキシド配位子の製造方法について具体的に説明する。
【0057】
第一工程
第一工程では、上記式(9)により表されるハロゲン化物から調製される有機金属反応剤と、上記式(10)により表されるリン化合物とを反応させることにより、上記式(6)により表されるホスフィンオキシドを製造する。例えば、下記工程(a)及び工程(b)に従って、上記式(6)により表されるホスフィンオキシドを製造することができる。
【0058】
工程(a)
有機金属反応剤に上記式(10)により表されるリン化合物を添加するか、又はリン化合物に有機金属反応剤を添加することにより反応液を得る工程
工程(b)
工程(a)で得られた反応液に水を添加するか、又は水に工程(a)で得られた反応液を添加することにより、有機層及び水層を形成した後、この有機層からホスフィンオキシドを得る工程。
【0059】
<有機金属反応剤>
有機金属反応剤は、上記式(9)により表されるハロゲン化物を用いて調製することができる。
【0060】
一般式(9)及び一般式(6)において、zは、2以上の整数であればよいが、好ましくは3〜12の整数、より好ましくは4〜8の整数である。一般式(9)において、Xで表されるハロゲン原子としては、F、Cl、Br、I等が挙げられる。この中でも特に、反応性及び経済性の観点からCl及びBrが好ましい。
【0061】
ハロゲン化物は、市販品又は公知の方法に従って製造することにより容易に入手することができる。有機金属反応剤としては、例えば、グリニャール反応剤、有機リチウム反応剤、有機亜鉛反応剤等が挙げられる。特に、有機金属反応剤としては、グリニャール反応剤が好ましい。
【0062】
グリニャール反応剤は、公知の方法により容易に調製することができる。例えば、不活性ガス雰囲気下で、ハロゲン化物と金属マグネシウムとを非プロトン性溶媒中で攪拌しながら反応させることにより調製することができる。
【0063】
不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。これらの不活性ガスは、一種を単独で又は二種以上の混合ガスとして使用することができる。
【0064】
金属マグネシウムとしては、切削状、箔状、粒状等いずれの形状のものを用いてもよい。
【0065】
金属マグネシウムの使用量は、特に限定されないが、ハロゲン化物1molに対し、0.2〜5mol程度が好ましく、0.5〜2mol程度がより好ましく、0.8〜1.2mol程度がさらに好ましい。
【0066】
非プロトン性溶媒としては、例えば、エーテル系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アミン系溶媒等が挙げられる。特に、エーテル系溶媒が好ましい。
【0067】
エーテル系溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、アニソール等が挙げられる。
【0068】
脂肪族炭化水素系溶媒としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカリン等が挙げられる。芳香族炭化水素系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等が挙げられる。アミン系溶媒としては、例えばトリエチルアミン、ピリジン等が挙げられる。非プロトン系溶媒は、一種単独で又は二種以上を混合した混合溶媒として使用することができる。
【0069】
非プロトン性溶媒の使用量は、特に限定されないが、ハロゲン化物(7)1molに対し、通常100〜2000ml程度、好ましくは200〜1000ml程度である。
【0070】
撹拌は、例えば、回転軸に攪拌翼を取り付けたモーター、マグネチックスターラー等の公知の撹拌装置を用いて行えばよい。反応圧力は、特に限定されず、通常、常圧〜100kg/cm2程度であればよい。反応温度は、ハロゲン化物の種類、反応スケール等に応じて適宜設定すればよいが、−40〜200℃程度が好ましく、−20℃〜150℃程度がより好ましい。例えば、常圧で反応する場合は、−20℃から溶媒の還流温度までの範囲が好ましい。反応時間は、反応温度等に応じて適宜設定すればよいが、15分〜48時間程度が好ましく、1時間〜24時間程度がより好ましい。
【0071】
有機リチウム反応剤及び有機亜鉛反応剤もまた公知の方法に従って容易に製造することができる。例えば、有機リチウム反応剤は、不活性ガス雰囲気下で、ハロゲン化物と金属リチウムとを非プロトン性溶媒中で攪拌しながら反応させることにより調製することができる。また、有機亜鉛反応剤は、不活性ガス雰囲気下で、ハロゲン化物と金属亜鉛とを非プロトン性溶媒中で攪拌しながら反応させる方法や、不活性ガス雰囲気下で、グリニャール反応剤及び/又は有機リチウム反応剤と塩化亜鉛とを非プロトン性溶媒中で攪拌しながら反応させる方法により調製することができる。
【0072】
<リン化合物>
一般式(10)において、Y、Y及びYは、それぞれ同一又は異なる、ハロゲン原子、アルコキシ基又はアリールオキシ基を示す。ハロゲン原子としては、例えば、F、Cl、Br、I等が挙げられる。ハロゲン原子としては、反応性及び経済性の観点からClが好ましい。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基等が挙げられる。
【0073】
特に、リン化合物としては、一般式(10)中のY、Y及びYが塩素原子であるオキシ塩化リンが好ましい。リン化合物は、市販品又は公知の方法に従って製造することにより容易に入手することができる。
【0074】
<反応液の調製>
有機金属反応剤にリン化合物を添加するか、又はリン化合物に有機金属反応剤を添加することにより、反応液を調製することができる。反応液の調製に際して、リン化合物はそのままの状態で使用してもよいし、溶媒に溶解させた状態で使用してもよい。溶媒としては、例えば、非プロトン性溶媒を使用することができる。
【0075】
特に、工程(a)では、有機金属反応剤にリン化合物の溶液を滴下するか、又は溶媒に溶解させたリン化合物の溶液に対して有機金属反応剤を滴下することが好ましい。溶液中のリン化合物の濃度は、有機金属反応剤とリン化合物との反応が好適に進行する範囲内であればよく、特に限定されるものではない。
【0076】
滴下速度は、特に限定されないが、リン化合物の溶液が、通常5分〜12時間程度、好ましくは15分〜6時間程度かけて滴下されるように設定することが望ましい。滴下は、得られる反応液の温度が通常−20〜150℃程度、好ましくは0〜80℃程度となる条件下で行うことが望ましい。
【0077】
滴下終了後、必要に応じて、通常−20〜150℃程度、好ましくは0℃から非プロトン性溶媒の還流温度の範囲でさらに反応させてもよい。
【0078】
以上の方法により、反応液を調製することができる。
【0079】
工程(b)では、工程(a)で得られた反応液に水を添加するか、又は水に工程(a)で得られた反応液を添加することにより有機層及び水層を形成させた後、この有機層からホスフィンオキシド(4)を得る。工程(b)は、公知の分液処理装置を用いて公知の分液方法に従って行えばよい。水の添加量は、有機層と水層とを好適に形成できる範囲内であればよく特に限定されない。また、水の代わりに、希硫酸、希塩酸、酢酸水溶液等の酸性水溶液、塩化アンモニウム水溶液等の弱酸性水溶液、塩化ナトリウム水溶液等の中性水溶液を使用しても良い。
【0080】
有機層と水層とを分離した後、必要に応じて、水層に有機溶媒を添加することにより、水層を有機層と水層とに分離し、有機層を最初に分離して得られた有機層と合わせる操作を行ってもよい。有機溶媒としては、例えば、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、エステル系溶媒等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等が挙げられる。
【0081】
炭化水素系溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等が挙げられる。エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。
【0082】
これらの有機溶媒は、一種を単独で又は二種以上を混合して使用することができる。得られた有機層を必要に応じて脱水処理してもよい。脱水処理には、例えば、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム等の公知の脱水剤を用いればよい。得られた有機層を濃縮することにより、ホスフィンオキシドを得ることができる。なお、有機層を濃縮した後、必要に応じて、公知の精製方法に従って精製してもよい。公知の精製方法としては、例えば、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等が挙げられる。
【0083】
以上の方法により、ホスフィンオキシドを得ることができる。
【0084】
第二工程
第二工程では、触媒存在下で、第一工程で得られたホスフィンオキシドと、式(7)により表されるリン化合物及び/又は式(8)により表されるリン化合物とを反応させることにより、テトラホスフィンテトラオキシドを製造する。
【0085】
触媒としては、例えば、ラジカル開始剤型触媒、遷移金属錯体触媒、塩基性触媒等が挙げられる。これらは、一種又は二種以上で用いることができる。この中でも特に、ラジカル開始剤型触媒が好ましい。ラジカル開始剤型触媒を用いることにより、目的のテトラホスフィンテトラオキシドをより良好な収率で製造することができる。
【0086】
ラジカル開始剤型触媒としては、例えば、アゾ化合物、有機過酸化物、トリアルキルボラン等が挙げられる。アゾ化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、1,1’−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリックアシッド、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)等を例示できる。
【0087】
有機過酸化物としては、ジベンゾイルパーオキシド(BPO)、ジ(3−メチルベンゾイル)パーオキシド、ベンゾイル(3−メチルベンゾイル)パーオキシド、ジラウロイルパーオキシド、ジイソブチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(パーブチル−O)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカ0ネート等を例示することができる。トリアルキルボランとしては、トリエチルボラン、トリブチルボラン等のトリアルキルボラン等を例示することができる。これらラジカル開始剤型触媒は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0088】
遷移金属錯体触媒としては、例えば、Fe錯体、Ni錯体、Pd錯体等が挙げられる。
【0089】
Fe錯体としては、[CpFe(CO)、Fe(CO)等を例示することができる。Ni錯体としては、NiCl(PPh、NiBr(PPh等を例示することができる。Pd錯体としては、PdCl(PPh、PdCl(PhCN)、PdCl(CHCN)等を例示することができる。これら遷移金属錯体触媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0090】
塩基性触媒としては、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシド、イソプロピルマグネシウムイソポロポキシド、t−ブチルマグシウムメトキシド等が挙げられる。これら塩基性触媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。特に、触媒としては、ラジカル開始剤型触媒が好ましく、アゾ化合物及び有機過酸化物が好ましい。
【0091】
触媒の使用量は限定的ではないが、ホスフィンオキシド1molに対し、通常、0.01〜5mol程度、好ましくは0.02〜3mol程度、より好ましくは0.05〜1mol程度である。
【0092】
式(7)により表されるリン化合物は、下記反応式2のように、式(8)により表される互変異性体のリン化合物との平衡状態で存在する。
【0093】
[反応式2]
【化12】

【0094】
リン化合物は、市販品又は公知の方法に従って製造することにより容易に入手することができる。例えば、R.Hays,J.Org.Chem.,1968,33,3691.に記載の方法、すなわち、ジエチルホスファイト1molに対して、3molのグリニャール反応剤を反応させることにより、R及びRが同一の、式(7)により表されるリン化合物を製造することができる。また、G.M.Kosolapoff,etal.,J.Chem.Soc.(C),1967,1789.に記載の方法により、R及びRが異なる、式(7)により表されるリン化合物を製造することができる。
【0095】
一般式(7)及び(8)中のR及びRについては、一般式(1)において説明したR及びRと同様である。特に、R及びRとしては、それぞれ置換されていてもよい炭素数3〜20の飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基が好ましい。特に反応性の点からは、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいヘテロアリール基が好ましい。
【0096】
第2工程における式(7)により表されるリン化合物(及び/又は式(8)により表されるリン化合物)の使用量は限定的でないが、ホスフィンオキシド1molに対して、通常2〜6mol程度、好ましくは2.5〜4mol程度、より好ましくは3〜3.5mol程度である。
【0097】
ホスフィンオキシドと式(7)により表されるリン化合物及び/又は式(8)により表されるリン化合物との反応は、触媒存在下で、例えば、攪拌しながら無溶媒下又は溶媒中で行う。
【0098】
溶媒は、触媒機能を効果的に発現できるものであればよく、特に限定されるものではない。例えば、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒等が挙げられる。芳香族炭化水素系溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等を例示することができる。脂肪族炭化水素系溶媒としては、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカリン等を例示することができる。
【0099】
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、t−ブタノール、オクタノール等を例示することができる。エーテル系溶媒としては、THF、1,4−ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン等を例示することができる。エステル系溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル等を例示することができる。アミド系溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド等を例示することができる。スルホキシド系溶媒としては、例えばジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの溶媒は、一種を単独で又は二種以上の混合溶媒として使用することができる。
【0100】
溶媒中で反応させる場合、反応効率の観点から、ホスフィンオキシド、式(7)により表されるリン化合物(及び/又は式(8)により表されるリン化合物)並びに触媒を溶媒に完全に溶解させることが好ましい。この際、ホスフィンオキシド等を反応させながら溶解させてもよい。
【0101】
ホスフィンオキシドと式(7)により表されるリン化合物及び/又は式(8)により表されるリン化合物との反応は、バッチ式又は連続式のいずれの反応形式で行ってもよい。反応圧力は、特に限定されず、通常、常圧〜100kg/cm程度であればよい。反応温度は、触媒の種類等に応じて適宜設定すればよいが、通常−20℃〜200℃程度、好ましくは0℃〜150℃程度である。例えば、常圧で反応する場合は、0℃〜溶媒の還流温度の範囲が好ましい。反応時間は、特に限定されず、反応温度及び反応の進行程度に応じて適宜設定すればよいが、通常15分間〜72時間程度、好ましくは1時間〜36時間程度である。
【0102】
反応後、必要に応じて、公知の精製方法により精製してもよい。公知の精製方法としては、上記工程(b)にて例示した方法を採用することができる。
【0103】
以上、第一工程及び第二工程を経ることにより、本実施形態に係るテトラホスフィンテトラオキシド配位子を得ることができる。
【0104】
C.希土類金属原子
本実施形態における希土類金属原子は、用途に応じた波長の蛍光を発生するように適切に選択することができるが、ランタノイド系金属原子であることが好ましい。より具体的には、ユーロピウムまたはテルビウムが好ましく、特に、赤色領域のスペクトルが大きく、演色性に優れた蛍光性希土類錯体を実現するためにはユーロピウムが好ましい。
【0105】
D.β−ジケトナト配位子
β−ジケトナト配位子としては、下記一般式(2)で表されるβ−ジケトナト配位子が好ましい。
【化13】

【0106】
(式中、Rは、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい ヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R及びRは、それぞれ同一又は異なる、置換されていてもよい炭素数が1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。)
に関し、ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。R、R、及びRに関し、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素の飽和炭化水素基としては、特に限定されず、例えば、炭素数1〜20の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基等が挙げられる。炭素数1〜20の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、イコシル基等を例示できる。
【0107】
炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロドデシル基等を例示できる。置換されていてもよい飽和炭化水素基の置換基としては、特に限定されないが、例えばフルオロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基、ジアルキルアミノ基等が挙げられる。フルオロアルキル基としては、例えば、炭素数1〜6のぺルフルオロアルキル基が挙げられる。炭素数1〜6のぺルフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、トリデカフルオロヘキシル基等を例示できる。
【0108】
アルコキシ基としては、例えば、炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられる。炭素数1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ヘキシルオキシ基等を例示できる。アリールオキシ基としては、例えば、炭素数1〜12のアリールオキシ基が挙げられる。炭素数6〜12のアリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等を例示できる。シロキシ基としては、トリメチルシロキシ、トリエチルシロキシ、トリイソプロピルシロキシ、tert−ブチルジメチルシロキシ等を例示できる。ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ等を例示できる。
【0109】
置換されていてもよい飽和炭化水素基の置換基の数は、特に限定されない。
【0110】
、R、及びRに関し、置換されていてもよいアリール基のアリール基としては、特に限定されず、例えば、炭素数6〜14のアリール基が挙げられる。炭素数6〜14のアリール基としては、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル、アンスリル等を例示できる。置換されていてもよいアリール基の置換基としては、特に限定されず、例えば炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のぺルフルオロアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、5〜10員芳香族複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基、ジアルキルアミノ基等が挙げられる。
【0111】
炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル等が挙げられる。C1−6ぺルフルオロアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル、トリデカフルオロヘキシル等が挙げられる。炭素数6〜14のアリール基としては、例えば、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル、2−アンスリル等が挙げられる。
【0112】
5〜10員芳香族複素環基としては、例えば、2−又は3−チエニル、2−,3−又は4−ピリジル、2−,3−,4−,5−又は8−キノリル、1−,3−,4−又は5−イソキノリル、1−,2−又は3−インドリル、2−ベンゾチアゾリル、2−ベンゾ[b]チエニル、ベンゾ[b]フラニル等が挙げられる。アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基及びジアルキルアミノ基については、前記飽和炭化水素基の置換基として述べたアルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基及びジアルキルアミノ基と同じである。
【0113】
置換されていてもよいアリール基の置換基の置換位置及び数は、特に限定されない。
【0114】
、R、及びRに関し、置換されていてもよいヘテロアリール基のヘテロアリール基としては、特に限定されず、例えば、硫黄原子、酸素原子及び窒素原子からなる群から選ばれる原子を1〜3個含む縮環していてもよい5〜14員芳香族複素環基が挙げられる。前記芳香族複素環基としては、フリル、チエニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、イソチアゾリル、チアゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チアジアゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、インドリル、インダゾリル、プリニル、キノリル、イソキノリル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、シノリニル、プテリジニル、カルバゾリル、カリボリニル、フェナンスリジニル、アクリジニル等を例示できる。
【0115】
置換されていてもよいヘテロアリール基の置換基としては、前記置換されていてもよいアリール基で述べた置換基と同じである。
【0116】
、R、及びRに関し、置換されていてもよいアラルキル基のアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等が挙げられる。置換されていてもよいアラルキル基の置換基としては、前記置換されていてもよいアリール基で述べた置換基と同じである。前記置換されていてもよいアラルキル基の置換基の位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0117】
、R、及びRに関し、炭素数1〜20のぺルフルオロアルキル基としては、直鎖状、分枝状、環状のいずれでも良い。例えば、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル、ペンタフルオロシクロプロピル、ヘプタフルオロイソプロピル、ノナフルオロブチル、ノナフルオロイソブチル、ヘプタフルオロシクロブチル、ウンデカフルオロペンチル、ウンデカフルオロイソペンチル、ノナフルオロシクロペンチル、トリデカフルオロヘキシル、トリデカフルオロイソヘキシル、ウンデカフルオロシクロヘキシル、ペンタデカフルオロヘプチル、ヘプタデカフルオロオクチル、ノナデカフルオロノニル、ヘンイコサフルオロデシル、トリコサフルオロウンデシル、ペンタコサフルオロドデシル、ヘプタコサフルオロトリデシル基等が挙げられる。
【0118】
特に、β−ジケトナト配位子としては、R及びRが互いに同一又は異なって置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、炭素数が1〜20のぺルフルオロアルキル基であり、Rが水素原子、重水素原子、ハロゲン原子であるβジケトナト配位子が好ましく、R及びRが互いに同一又は異なって置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基であり、炭素数1〜20のぺルオロアルキル基であり、Rが水素原子、重水素原子であるβ−ジケトナト配位子がより好ましい。
【0119】
E.β−ジケトナト希土類錯体の製造方法
β−ジケトナト希土類錯体は、公知の下記ルート、C.S.Springer,etal.,InorgChem.,1967,6,
1105.,R.E.Sievers,etal.,Advan.Chemser.,1968,71,141.等に記載の方法で製造することができる。
【化14】

【0120】
なお、上記のβ−ジケトンは、公知の下記のルート、クライゼン縮合反応等を利用して製造することができる。
【化15】

【0121】
F.テトラホスフィンテトラオキシド配位子とβ−ジケトナト配位子を有する希土類錯体の製造法
テトラホスフィンテトラオキシド配位子とβ−ジケトナト配位子を有する希土類錯体の製造方法としては、
(1)希土類金属イオン及び希土類金属塩から選ばれる少なくとも一種、β−ジケトン、塩基、及びテトラホスフィンテトラオキシドの四成分を溶媒中で反応させる方法、(2)β−ジケトナト希土類錯体とテトラホスフィンテトラオキシドを溶媒中で反応させる方法が挙げられる。
【0122】
(1)の方法の場合、希土類金属イオンとしては、上述した希土類金属原子のイオンが挙げられる。希土類金属塩としては、例えば、希土類金属ハロゲン化物、希土類金属硝酸塩、希土類金属カルボキシレート、希土類金属アルコキシド、希土類金属アリールオキシド等が挙げられる。β−ジケトンとしては、特に制限がないが、一般式(2´)を使用できる。
【0123】
塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等が使用できる。溶媒としては、DMF、DMSO、メタノール、エタノール水等が挙げられる。
【0124】
(2)の方法の場合、組成が明確なテトラホスフィンテトラオキシド配位子を含むβ−ジケトナト希土類錯体を収率良く合成することができるため好ましい。β―ジケトナト希土類錯体は、入手容易な市販品や前記の方法で合成したものを使用できる。
【0125】
テトラホスフィンテトラオキシドとβ―ジケトナト希土類錯体の仕込みモル比は、特に制限がないが、テトラホスフィンテトラオキシド1モルに対してβージケトナト希土類錯体を1〜3モル反応させることが好ましい。より好ましくは、テトラホスフィンテトラオキシド1モルに対してβージケトナト希土類錯体を1.5〜2.5モルであり、最も好ましくはテトラホスフィンテトラオキシド1モルに対してβージケトナト希土類錯体を2モルである。
【0126】
溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;トルエン、キシレン、ニトロベンゼン等の芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、オクタノール等のアルコール系溶媒;水等が挙げられる。これらの溶媒は、一種を単独で又は二種以上の混合溶媒として使用できる。これら溶媒の中でも特に、ハロゲン系溶媒及び芳香族系溶媒が好ましい。
【0127】
反応形式は、バッチ式又は連続式のいずれであってもよい。反応圧力は、特に限定されず、通常、常圧〜100kg/cm程度であればよい。反応温度は、適宜設定すればよいが、通常−20〜200℃程度、好ましくは20〜150℃である。例えば、常圧で反応する場合は、20℃〜溶媒の還流温度の範囲が好ましい。反応時間は、特に限定されず、反応温度等に応じて適宜設定すればよいが、通常15分〜24時間程度、好ましくは30分〜12時間程度である。
【0128】
反応後、必要に応じて、公知の精製方法により精製してもよい。公知の精製方法としては、例えば、再結晶、カラムクロマトグラフィー等が挙げられる。
【0129】
実施形態2
本発明の第2の実施形態は、上述した本発明の第1の実施形態に係る希土類錯体を含む蛍光媒体である。即ち、第1の実施形態に係る希土類錯体は、媒体、例えば溶媒やポリマー等への飽和溶解度が大きいという特徴を有する。このため、例えばポリマーに溶解することによって室内光下では無色透明で、紫外光や近紫外光下では強発光する蛍光媒体を実現することができる。
【0130】
このような蛍光媒体は、各種装飾品やセキュリティー方式に利用することができる。特に、セキュリティー方式においては、希土類錯体をポリマー等に溶解した蛍光媒体を作成し、それをセキュリティカードなどに塗布してバーコードなどを作成することで、可視光下では完全に無色であるが、紫外線によって強発光するセキュリティー媒体とすることができる。このようなセキュリティー方式によれば、可視光下ではバーコードの存在すら知ることが困難であるため、より高いセキュリティーを実現することができる。
【0131】
実施形態3
本発明の第3の実施形態は、本発明の第2の実施形態に係る蛍光媒体を具備する近紫外発光赤色LED素子である。第1の実施形態に係る希土類錯体をポリマー等に溶解してなる第2の実施形態に係る蛍光媒体は、耐久性と発光強度とに優れているため、LED素子や有機EL素子などの発光素子に適用することができる。このような発光素子の一例が、近紫外発光赤色LED素子であり、その断面図は図1に示される通りである。
【0132】
図1に示す赤色LED素子では、収容容器1内に収容されたLEDチップ2の上に、本実施形態に係る蛍光性希土類錯体3をマトリックスポリマー4に分散させた蛍光層5が配置されている。このような構成により、LEDチップ2からの光により蛍光性希土類錯体3が発光する。さらには、他の蛍光層と組み合わせて、白色LEDを構成することもできる。
【0133】
このような発光素子においては、蛍光層を構成する樹脂としてフッ素系樹脂を用いることが好ましい。これは、樹脂に含まれるC−H結合、O−H結合が少ないためである。従って、フッ素化率が高い樹脂がより好ましいが、用いられる蛍光性希土類錯体やその他の成分の溶解性または分散性等の条件に応じて適宜選択される。用いることができる樹脂としては、セントラル硝子社製セフラルコートFG700X、A402B、A610X、旭硝子社製ルミフロン、日本ゼオン社製ゼオノア、アトフィナジャパン社製KYNAR、KYNARFLEX、日本ペイント社製デュフロン、ならびに住友3M社製DyneonTHV220、310、および415(それぞれ商品名)がある。
【0134】
また、蛍光層には、本実施形態に係る蛍光性希土類錯体のほかに、YAG蛍光体、アルカリ土類金属ケイ酸塩蛍光体、アルカリ土類金属リン酸塩蛍光体、ハロリン酸塩蛍光体、BAM:Eu,Mn、BAM:Eu、ZnS、SrGa:Eu、オキシナイトライド:Eu、SrAlO:Eu、アルカリ土類アパタイト:Eu、Caアパタイト:Eu,Mn、CaS:Ce、Y2SiO:Tb、Sr:Eu,Mn、SrAl:Euなどを用いることができ、さらに、それらのいくつかを組み合わせて白色発光を実現することができる。
【0135】
実施形態4
本発明の第4の実施形態は、上述した本発明の第1の実施形態に係る希土類錯体を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子である。この場合、希土類錯体は、発光層中のドーパントとして用いられる。ここで発光層のホスト材料は特に限定されないが、芳香族アミン誘導体、カルバゾール誘導体、ならびにチオフェンオリゴマーおよびポリマーからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0136】
本実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の構成の一例は、例えば図2に示すものである。即ち、図2に示す有機エレクトロルミネッセンス素子は、ガラス基板11上に、陽極12、発光層13、電子輸送層14、および陰極15を積層することにより構成される。有機エレクトロルミネッセンス素子には、これらの層のほか、ホール輸送層、ホール注入層、ホールブロッキング層などを適宜配置することもできる。
【0137】
本実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極16は、例えば、金、ヨウ化銅、酸化鈴、酸化インジウム錫(ITO)等により形成することができる。また、陰極15は、例えばナトリウム、リチウム、マグネシウム、カルシウム等の周期律表の1族や2族の金属、ガリウム、インジウム等の周期律表の3族の金属により形成することができる。
【0138】
発光層13は、ホール輸送材料に、ドーパントとして本発明の第1の実施形態に係る希土類錯体を分散させることにより構成することができる。ホール輸送材料としては、例えば、アリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェンオリゴマーまたはポリマー、銅フタロシアニンがある。ドーパントとしては、第1の実施形態に係る希土類錯体のほかに、Alオキシン錯体としてのAlq3の他、ペリレン系化合物、ナフタレン系化合物、クマリン系化合物、オキサジアゾール系化合物、アルダジン系化合物、ビスベンゾキサゾリン系化合物、ビススチリル系化合物、ピラジン系化合物、CPD系化合物、Inオキシン錯体、Zn錯体、Feオキシン錯体、Gaイミン錯体を用いることもできる。
【0139】
電子輸送層14は、Alq3を含む金属キレート化合物、ベンズオキサドール、ベンゾチアゾール、トリス(8−ヒドロキシキノリノール)ビスマス、ペリレン系化合物等の電子輸送材料により構成することができる。
【0140】
また、ホールブロッキング層に使用される材料としては、イオン化ポテンシャルが大きく、ホール移動度の小さい材料である必要があり、トリアゾール化合物及びその誘導体がある。
【0141】
以上説明したLED素子や有機EL素子は、それ自体、照明装置に用いることができるが、その他にも短い発光寿命を利用したフラッシュ装置にも適用することができる。特に、LED発光素子は、電気エネルギー消費量の少ない素子を利用するため、カメラ付き携帯電話用フラッシュとして有用である。
【0142】
図3および図4は、本発明の第3の実施態様に係るLED発光素子をフラッシュとして具備するカメラおよびカメラ付き携帯電話の概念図である。図3に示すカメラは、通常のカメラと同様、フラッシュ20、レンズ21、及びシャッターボタン22を備えている。図4に示すカメラ付き携帯電話は、通常のカメラ付き携帯電話と同様、フラッシュ30、レンズ31、及びシャッターボタン(図示せず)を備えている。従来のカメラ及びカメラ付き携帯電話と異なる点は、フラッシュ20,30が、演色性にすぐれ、長寿命である、本発明の第3の実施態様に係るLED発光素子であることである。
【実施例】
【0143】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0144】
実施例の説明に先立ち、実施例で用いるテトラホスフィンテトラオキシド配位子とβ−ジケトナト希土類錯体の製造例について説明する。
【0145】
製造例1
<テトラホスフィンテトラオキシド配位子(1−A)の合成>
窒素雰囲気下で、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた容量200mLの四ツ口フラスコにマグネシウム3.3g(0.136mol)、THF5gを仕込み、攪拌しながら、4−ブロモ−1−ブテン18.0g(0.133mol)をTHF50.0gに溶解させた溶液を、全体量の約1/30だけ添加し、65℃まで加熱した。その後、残りの溶液を65℃〜70℃で1時間かけて滴下し、続いて、加熱還流下で3時間攪拌することにより、グリニャール反応剤を調製した。得られたグリニャール反応剤を窒素雰囲気下、100mlの滴下漏斗に移送した。
【0146】
次いで、窒素雰囲気下で、別途用意した攪拌機、温度計及び冷却器を備えた容量200mLの四ツ口フラスコに、オキシ塩化リン6.4g(0.042mol)をTHF25.0gに溶解させた溶液を添加し、内温を5℃まで冷却した。前記フラスコの内温を5〜25℃の範囲に維持しつつ、前記グリニャール反応剤を1時間かけて滴下し、25℃でそのまま2時間攪拌することにより、トリス(3−ブテニル)ホスフィンオキシドを含む反応溶液を得た。
【0147】
次に、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた容量300mLの四ツ口フラスコに水90g、硫酸0.4gを加え、攪拌しながら前記混合溶液を滴下した。その後、前記フラスコを内温90℃になるまで加熱することにより、前記フラスコ中の溶媒を常圧濃縮した。
【0148】
その後、前記フラスコにトルエン100gを加えて有機層及び水層に分離した後、有機層をさらに5%重曹水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、有機層を減圧濃縮した。
【0149】
得られた濃縮物をクーゲルロール蒸留装置で減圧蒸留(圧力267Pa、オーブン温度
170〜180℃)することにより、トリス(3−ブテニル)ホスフィンオキシド6.7g(0.031mol)を得た。収率は75%であった。
【0150】
引き続き、窒素雰囲気下で、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた容量100mLの四ツ口フラスコに、前記トリス(3−ブテニル)ホスフィンオキシド1.83g(8.62mmol)、ジフェニルホスフィンオキシド5.23g(25.9mmol)、AIBN0.71g(4.3mmol)、トルエン20gを添加し、前記フラスコを内温75℃まで加熱し、同温で24時間攪拌した。その後、攪拌しながら前記フラスコを30℃まで冷却し、減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン、酢酸エチル)で精製し、テトラホスフィンテトラオキシド(1−A)3.64g(4.45mmol)を得た。収率は52%であった。化合物のスペクトルデータを、製造工程の明示とともに、下記表1〜3に示す。
【0151】
製造例2
<テトラホスフィンテトラオキシド配位子(1−B〜1−G)の合成>
製造例1と同様の方法で、炭素鎖数、アリール基の置換基を変更したテトラホスフィンテトラオキシド(1−B〜1−G)を合成した。その結果を下記表1〜3に示す。
【表1】

【0152】
【表2】

【0153】
【表3】

【0154】
製造例3
<β−ジケトナト希土類錯体(2−A)の合成>
窒素雰囲気下で、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた容量300mLの四ツ口フラスコに、2−アセトナフトン25.0g(0.147mol)、メチルヘプタフルオロプロブチレート40.0g(0.175mol)、ジエチルエーテル110gを仕込み、攪拌して原料を溶解させた。続いて、ナトリウムメトキシド15.9g(0.294mol)を加え、室温で40時間攪拌した。
【0155】
次いで、別途用意した攪拌機、温度計及び冷却器を備えた容量500mLの四ツ口フラスコに水80gを加え、攪拌しながら、上記反応液を滴下し、15分間攪拌した。有機層と水層を分離し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、有機層を減圧濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン、酢酸エチル)で精製し、β−ジケトン化合物である4,4,5,5,6,6,6―ヘプタフルオロ−1―(2−ナフチル)−1,3−ヘキサジオン42.2gを得た。収率は78%であった。スペクトルデータを下記に示す。
【0156】
1H-NMR(CDCl3,TMS,600MHz,ppm)δ:8.54(s,1H),7.99(d,J=8.1Hz,1H),7.95(s,2H),
7.91(d,J=8.1Hz),7.65(dd,J=7.3,7.3Hz,1H),7.61(dd,J=7.3,7.3Hz,1H).
IR(KBr,cm-1)3064,1602,1589,134,1271,1230,1195,1126.
MS(EI)m/Z=366(M).
次に、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた容量300mLの四ツ口フラスコに、前記で得られた4,4,5,5,6,6,6―ヘプタフルオロ−1(2−ナフチル)−1,3−ヘキサジオン25.7g(0.070mol)、及びメタノール150gを仕込み、攪拌して原料を溶解させた。続いて、攪拌しながら、4M水酸化ナトリウム水溶液17.6g(0.070mol)を滴下し、室温で2時間攪拌した。
【0157】
その後、別途用意した攪拌機、温度計及び冷却器を備えた容量500mLの四ツ口フラスコに、硝酸ユーロピウム5水和物10.0g(0.023mol)、及びメタノール40gを仕込み、攪拌した。続いて、攪拌しながら上記反応液を15分間かけて滴下し、室温で1時間攪拌した。
【0158】
次に、別途用意した攪拌機、温度計及び冷却器を備えた容量3Lの四ツ口フラスコに、水3000gを仕込み、攪拌しながら上記反応液を1時間かけて滴下し、室温で3時間攪拌した。得られた沈殿を濾過し、水洗し、減圧乾燥することにより、β−ジケトナト希土類錯体(2−A)、即ち、トリス(4,4,5,5,6,6,6―ヘプタフルオロ−1―(2−ナフチル)−1,3−ヘキサジオナト)ユーロピウム(III)26.4gを得た。収率は91%であった。スペクトルデータを下記に示す。
【0159】
IR(KBr,cm-1)3060,1610,1593,1569,1525,1458,1344,1284,1234,1199,1182,1114.
実施例1
<テトラホスフィンテトラオキシド配位子(1―A)とβ−ジケトナト希土類錯体(2−A)からなる錯体の合成、該錯体の飽和溶解度、発光強度、耐久性の測定>
窒素雰囲気下で、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた容量100mLの四ツ口フラスコにテトラホスフィンテトラオキシド(1−A)0.41g(0.50mmol)、β−ジケトナト希土類錯体(2−A)1.25g(1.00mmol)、クロロホルム30gを仕込み、攪拌しながら加熱し、加熱還流下で4時間反応させた。攪拌しながら30℃まで冷却し、ナス型フラスコに移し、そのままエバポレーターで減圧濃縮した。その後、真空ポンプで減圧乾燥した。
【0160】
以上の方法により、下記式(11)に示すような、Eu原子二つに対してテトラホスフィンテトラオキシド配位子が一つ配位してなる希土類錯体を合成した(収量1.65g、収率99%)。得られた錯体のフッ素系溶媒VertrelXF(三井デュポン社製)の室温における飽和溶解度を測定し、後述する比較例1の化合物と比較した。飽和溶解度の相対値を下記表4に示す。また、同溶媒中の室温における蛍光スペクトルを測定し、極大発光波長における発光強度を比較例1の化合物と比較した。発光強度の相対値を下記表4に示す。
【0161】
また、フッ素ポリマー(セフラル220:セントラルガラス株式会社製)に分散して温度85℃、湿度85%雰囲気に放置し、初期発光強度が70%に達する時間を耐久性の尺度とし、比較例の化合物と比較した。耐久性の相対値を下記表4に示す。
【化16】

【0162】
実施例2
実施例1と同様の方法で、テトラホスフィンオキシド配位子(1−B)、β−ジケトナト希土類錯体(2−A)を使用して、下記式(12)に示すような、Eu原子二つに対してテトラホスフィンテトラオキシド配位子が一つ配位してなる希土類錯体を合成した。得られた錯体の飽和溶解度、蛍光強度、及び耐久性の測定結果を下記表4に示す。
【化17】

【0163】
実施例3
実施例1と同様の方法で、テトラホスフィンテトラオキシド配位子(1−C)、β−ジケトナト希土類錯体として、トリス(1,1,1,2,2,3,3−ヘプタフルオロ−7,7−ジメチル−4,6−オクタンジオネート)ユーロピウム(III)(Aldrich社製)を使用して、下記式(13)に示すような、Eu原子二つに対してテトラホスフィンテトラオキシド配位子が一つ配位してなる希土類錯体を合成した。得られた錯体の飽和溶解度、蛍光強度、及び耐久性の測定結果を下記表4に示す。
【化18】

【0164】
実施例4
実施例1と同様の方法で、テトラホスフィンテトラオキシド配位子(1−D)、β−ジケトナト希土類錯体として、トリス(1,1,1,2,2,3,3−ヘプタフルオロ−7,7−ジメチル−4,6−オクタンジオネート)ユーロピウム(III)(Aldrich社製)を使用して、下記式(14)に示すような、Eu原子二つに対してテトラホスフィンテトラオキシド配位子が一つ配位してなる希土類錯体を合成した。得られた錯体の飽和溶解度、蛍光強度、及び耐久性の結果を下記表4に示す。
【化19】

【0165】
実施例5
実施例1と同様の方法で、テトラホスフィンテトラオキシド配位子(1−C)、β−ジケトナト希土類錯体(2−A)を使用して、下記式(15)に示すような、Eu原子二つに対してテトラホスフィンテトラオキシド配位子が一つ配位してなる希土類錯体を合成した。得られた錯体の飽和溶解度、蛍光強度、及び耐久性の結果を下記表4に示す。
【化20】

【0166】
実施例6
実施例1と同様の方法で、テトラホスフィンテトラオキシド配位子(1−D)、β−ジケトナト希土類錯体(2−A)を使用して、下記式(16)に示すような、Eu原子二つに対してテトラホスフィンテトラオキシド配位子が一つ配位してなる希土類錯体を合成した。得られた錯体の飽和溶解度、蛍光強度、及び耐久性の結果を下記表4に示す。
【化21】

【0167】
実施例7
実施例1と同様の方法で、テトラホスフィンテトラオキシド配位子(1−E)、β−ジケトナト希土類錯体として、トリス(1,1,1,2,2,3,3−ヘプタフルオロ−7,7−ジメチル−4,6−オクタンジオネート)ユーロピウム(III)(Aldrich社製)を使用して、下記式(17)に示すような、Eu原子二つに対してテトラホスフィンテトラオキシド配位子が一つ配位してなる希土類錯体を合成した。得られた錯体の飽和溶解度、蛍光強度、及び耐久性の結果を下記表4に示す。
【化22】

【0168】
実施例8
実施例1と同様の方法で、テトラホスフィンテトラオキシド配位子(1−E)、β−ジケトナト希土類錯体(2−A)を使用して、下記式(18)に示すような、Eu原子二つに対してテトラホスフィンテトラオキシド配位子が一つ配位してなる希土類錯体を合成した。得られた錯体の飽和溶解度、蛍光強度、及び耐久性の結果を表4に示す。
【化23】

【0169】
実施例9
実施例1と同様の方法で、テトラホスフィンテトラオキシド配位子(1−F)、β−ジケトナト希土類錯体として、トリス(1,1,1,2,2,3,3−ヘプタフルオロ−7,7−ジメチル−4,6−オクタンジオネート)ユーロピウム(III)(Aldrich社製)を使用して、下記式(19)に示すような、Eu原子二つに対してテトラホスフィンテトラオキシド配位子が一つ配位してなる希土類錯体を合成した。得られた錯体の飽和溶解度、蛍光強度、及び耐久性の結果を下記表4に示す。
【化24】

【0170】
実施例10
実施例1と同様の方法で、テトラホスフィンテトラオキシド配位子(1−F)、β−ジケトナト希土類錯体(2−A)を使用して、下記式(20)に示すような、Eu原子二つに対してテトラホスフィンテトラオキシド配位子が一つ配位してなる希土類錯体を合成した。得られた錯体の飽和溶解度、蛍光強度、及び耐久性の結果を下記表4に示す。
【化25】

【0171】
実施例11
実施例1と同様の方法で、テトラホスフィンテトラオキシド配位子(1−G)、β−ジケトナト希土類錯体として、トリス(1,1,1,2,2,3,3−ヘプタフルオロ−7,7−ジメチル−4,6−オクタンジオネート)ユーロピウム(III)(Aldrich社製)を使用して、下記式(21)に示すような、Eu原子二つに対してテトラホスフィンテトラオキシド配位子が一つ配位してなる希土類錯体を合成した。得られた錯体の飽和溶解度、蛍光強度、及び耐久性の結果を下記表4に示す。
【化26】

【0172】
実施例12
実施例1と同様の方法で、テトラホスフィンテトラオキシド配位子(1−G)、β−ジケトナト希土類錯体(2−A)を使用して、下記式(22)に示すような、Eu原子二つに対してテトラホスフィンテトラオキシド配位子が一つ配位してなる希土類錯体を合成した。得られた錯体の飽和溶解度、蛍光強度、及び耐久性の結果を下記表4に示す。
【化27】

【0173】
比較例1
実施例1と同様に、Eu原子に対して配位するホスフィンオキシドの酸素原子数を合わせて、βジケトナト希土類錯体としてトリス(1,1,1,2,2,3,3−ヘプタフルオロ−7,7−ジメチル−4,6−オクタンジオネート)ユーロピウム(III)(Aldrich社製)1モルに対して、テトラホスフィンテトラオキシドの代わりにトリフェニルホスフィンオキシド(Aldrich社製)2モルを反応させて、下記式(23)に示すような、希土類錯体を得た。
【化28】

【0174】
実施例13
実施例1と同様の方法で、テトラホスフィンオキシド配位子(1−A)、β−ジケトナト希土類錯体として、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)テルビウム(III)(Aldrich社製)を使用して、下記式(24)に示すような、Tb原子二つに対してテトラホスフィンテトラオキシド配位子が一つ配位してなる希土類錯体を合成した。得られた錯体の飽和溶解度、蛍光強度、及び耐久性の結果を下記表4に示す。
【0175】
得られた錯体の飽和溶解度、蛍光強度、及び耐久性は、実施例1と同様の方法で比較例2の化合物と比較し、各々の相対値として下記表4に示す。
【化29】

【0176】
実施例14
実施例1と同様の方法で、テトラホスフィンオキシド配位子(1−B)、β−ジケトナト希土類錯体として、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)テルビウム(III)(Aldrich社製)を使用して、下記式(25)に示すような、Tb原子二つに対してテトラホスフィンテトラオキシド配位子が一つ配位してなる希土類錯体を合成した。得られた錯体の飽和溶解度、蛍光強度、及び耐久性の結果を下記表4に示す。
【化30】

【0177】
比較例2
実施例1と同様に、ホスフインオキシド配位子としてトリフェニルホスフィンオキシド、β−ジケトナト希土類錯体として、トリス(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロー2,4−ペンタンジオネート)テルビウム(III)(Aldrich社製)を使用して、下記式(26)に示すような、希土類錯体を得た。
【化31】

【0178】
以上の実施例1〜14,比較例1,2の結果を下記表4に示す。
【表4】

【0179】
*1:フッ素系溶媒Vertrel XF(三井デュポン社製)中における室温での相対値である。実施例1〜12は比較例1の値を基準とし、実施例13、14は比較例2の値を基準とする。
【0180】
*2:フッ素系溶媒Vertrel XF中、室温、極大発光波長における相対強度である。
【0181】
*3:フッ素系ポリマーに分散して温度85℃、湿度85%雰囲気に放置し、初期発光強度の70%に達するのに要する時間の相対値である。
【0182】
上記表4から、以下のことがわかる。
【0183】
実施例1〜14において得られた希土類錯体の飽和溶解度は、比較例1及び2において得られた希土類錯体と比較して全体的に大幅に向上しているが、実施例の中でも以下に示す傾向がある。即ち、ホスフィンオキシドが無置換の式(11)、(12)により表される実施例1及び2に係る希土類錯体と比較して、式(13)〜(22)により表される実施例3〜12に係る希土類錯体は、置換による向上効果が見られる。中でも、トリフルオロメチル基が導入されたホスフィンオキシド配位子を有する希土類錯体(式(13)、(15)、(17)、(18)、(19)、(20)、(21)、(22))は、飽和溶解度の向上効果が大きい傾向がある。
【0184】
発光強度については、比較例1及び2において得られた希土類錯体と比較して、実施例1〜14において得られた希土類錯体が顕著に向上しているが、実施例の中でも下記の傾向がある。即ち、βジケトン配位子にナフチル基を有する希土類錯体(式(11)、(12)、(15)、(16)、(18)、(20)、(22))は、置換基がアリファティックな置換基のみからなる希土類錯体(式(13)、(14)、(17)、(19)、(21))より発光強度が大きい。
【0185】
耐久性については、比較例1及び2において得られた希土類錯体と比較して、実施例1〜14において得られた希土類錯体は、複核化による向上効果が観測されるが、実施例の中でも下記の傾向がある。即ち、耐久性の支配要因はβジケトンに接続する置換基であり、置換基がアリファティックな置換基のみからなる希土類錯体(式(13)、(14)、(17)、(19)、(21))は、βジケトン配位子にナフチル基を有する希土類錯体(式(11)、(12)、(15)、(16)、(18)、(20)、(22))より耐久性に優れている。
【0186】
実施例15
フッ素系ポリマーであるセフラル220(セントラルガラス株式会社製)に実施例1で合成したユーロピウム錯体を20wt%溶解した蛍光ポリマーからなる蛍光層を、発光中心波長が402nmのLEDチップ上に配置し、図1に示す構造のLED素子を試作した。
【0187】
このLED素子に20mAの電流を流したところ、約300mcdの光度が得られ、200時間連続点灯しても光度の低下は見られなかった。
【0188】
実施例16
フッ素系ポリマーであるセフラル220(セントラルガラス株式会社製)に実施例2で合成したユーロピウム錯体を20wt%溶解した蛍光ポリマーからなる蛍光層を、発光中心波長が402nmのLEDチップ上に配置し、図1に示す構造のLED素子を試作した。
【0189】
このLED素子に20mAの電流を流したところ、約280mcdの光度が得られ、200時間連続点灯しても光度の低下は見られなかった。
【0190】
実施例17
フッ素系ポリマーであるセフラル220(セントラルガラス株式会社製)に実施例3で合成したテルビウム錯体を20wt%溶解した蛍光ポリマーからなる蛍光層を、発光中心波長が385nmのLEDチップ上に配置し、図1に示す構造のLED素子を試作した。
【0191】
このLED素子に20mAの電流を流したところ、約220mcdの光度が得られ、200時間連続点灯しても光度の低下は見られなかった。
【0192】
実施例18
フッ素系ポリマーであるセフラル220(セントラルガラス株式会社製)に実施例3で合成したテルビウム錯体を20wt%溶解した蛍光ポリマーからなる蛍光層を、発光中心波長が385nmのLEDチップ上に配置し、図1に示す構造のLED素子を試作した。
【0193】
このLED素子に20mAの電流を流したところ、約200mcdの光度が得られ、200時間連続点灯しても光度の低下は見られなかった。
【0194】
比較例3
ユーロピウム錯体として比較例1で合成した化合物を用いた他は、実施例15と同様のLED素子を試作した。このLED素子に20mAの電流を流したところ、120mcdと小さい光度しか得られず、200時間連続点灯しても光度の低下は見られなかった。
【0195】
比較例4
テルビウム錯体として比較例2で合成した化合物を用いた他は、実施例15と同様のLED素子を試作した。このLED素子に20mAの電流を流したところ、114mcdと極めて小さい光度しか得られなかった。
【0196】
実施例19
発光層が、実施例1で合成した式(3)に示す蛍光体をゲスト、式(9)に示す化合物をホストとし、電子輸送層が式(10)で表される構造であることを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子を作製した。12Vの電圧を電極間に印加することにより、200cd/m2の輝度(明るさ)が得られた。
【0197】
比較例5
蛍光層のゲスト材料を比較例1式(7)に示す化合物とする他は実施例8と同一のエレクトロルミネッセンス素子を試作した。同一条件における輝度は100cd/m2と微弱であった。
【0198】
実施例20
式(3)に示す蛍光体をセフラル220(セントラル硝子株式会社)に20wt%溶解した薄膜を形成した。室内光下では視認性がなかったが、UVランプによる紫外線照射により、最大300lm/mの発光を得ることができた。
【0199】
比較例5
式(7)に示す蛍光体を用い、実施例10と同様の薄膜を形成した。室内光下では視認性がなかったが、紫外線照射によりわずかな発光が確認された。
【符号の説明】
【0200】
1・・・蛍光層、2・・・近紫外発光LEDチップ、3・・・ユーロピウム錯体、4・・・マトリックスポリマー、11・・・ガラス基板、12・・・ITO電極(陽極)、13・・・発光層、14・・・電子輸送層、15・・・陰極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の希土類イオンと、ホスフィンオキシド配位子とを含む希土類錯体であって、前記ホスフィンオキシド配位子が、下記式(1)により表される分子構造を有することを特徴とする希土類錯体。
【化1】

(式中、m、n、oは、1以上の整数であり、R〜Rは、それぞれ同一又は異なる、置換されていてもよい飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、同一リン原子上の隣り合うR及びR、またはR及びR、またはR及びRが結合して環を形成していてもよい。)
【請求項2】
複数の希土類イオンに、前記ホスフィンオキシド配位子と、下記式(2)により表されるβ−ジケトナト配位子とが配位していることを特徴とする請求項1に記載の希土類錯体。
【化2】

(式中、Rは、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R及びRは、それぞれ同一又は異なる、置換されていてもよい炭素数が1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。)
【請求項3】
金属原子1原子に対して前記β−ジケトナト配位子3分子が配位した下記式(3)により表される、同一又は異なるβ−ジケトナト希土類錯体2分子に、前記ホスフィンオキシド配位子1分子が配位していることを特徴とする請求項1又は2に記載の希土類錯体。
【化3】

(式中、R及びR11は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、R、R、R10、及びR12は、それぞれ同一又は異なる、置換されていてもよい炭素数が1〜20の飽和炭化水素基、炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよいアラルキル基を示し、Ln(III)、及びLn(III)は、3価の希土類金属イオンを示す。)
【請求項4】
前記希土類金属原子が、Eu(III)又はTb(III)である請求項1〜3のいずれかに記載の希土類錯体。
【請求項5】
前記式(1)において、RないしRは、置換されていてもよいアリール基を示し、m、n、oは、3〜12の整数を示すことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の希土類錯体。
【請求項6】
前記式(1)において、RないしRの少なくとも一つは、メタ位またはパラ位が置換されているフェニル基であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の希土類錯体。
【請求項7】
前記ホスフィンオキシド配位子が、下記式(4)により表されることを特徴とする請求項6に記載の希土類錯体。
【化4】

(式中、m、n、oは、1以上の整数であり、R13〜R18は、それぞれ同一又は異なる、アルキル基、フルオロアルキル基、アルコキシ基、または水素原子を表す。)
【請求項8】
前記式(2)及び式(3)において、RとRの組合せ、及びR10とR12の組合せが互いに異なることを特徴とする請求項3〜7のいずれかに記載の希土類錯体。
【請求項9】
前記式(2)及び式(3)において、RとRの組合せ、及びR10とR12の組合せは、一方が置換されていてもよいアリール基であり、他方がペルフルオロアルキル基であり、前記希土類金属はユーロピウムであることを特徴とする請求項3〜8のいずれかに記載の希土類錯体。
【請求項10】
前記式(2)及び(3)において、R、R、R10及びR12がいずれも電子供与性基であり、前記希土類金属はテルビウムであることを特徴とする請求項3〜8のいずれかに記載の希土類錯体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の希土類錯体をポリマーに溶解してなることを特徴とする蛍光媒体。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の希土類錯体を含む蛍光層を具備することを特徴とする発光素子。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれかに記載の希土類錯体をポリマーに溶解した溶液を基体に印刷してなることを特徴とするセキュリティー媒体。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれかに記載の希土類錯体を含む発光層を具備することを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−157279(P2011−157279A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17839(P2010−17839)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000227342)日東化成株式会社 (28)
【Fターム(参考)】