説明

希薄金溶液中の金の回収方法

【課題】金濃度が10mg/L以下の水溶液に対し、溶媒抽出法で金の回収を可能とする方法を提供する。
【解決手段】本発明は、金濃度が10mg/L以下の水溶液と抽出剤とを接触させる抽出装置を複数段用いて、当該水溶液から金を回収する方法であって、前記水溶液は1段目の抽出工程から次段目の抽出工程へ連続的に流すのに対し、各段で使用される抽出剤はそれぞれ、逆抽出及び還元の何れも行うことなく、同じ段の抽出工程に2回以上繰返すことを含み、前記1段目の抽出工程では、使用する抽出剤が、1g/L以上の金濃度になるまで繰り返し使用されるとともに、最終段の抽出工程では、抽出後液の金濃度が0.5mg/L以下になるように抽出が行われる方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金を低濃度で含有する浸出液などの水溶液から、溶媒抽出法を用いて金を効率的に回収するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅製錬において精鉱中に微量に含まれる金の回収は不可避の課題である。精鉱は乾式製錬又は湿式製錬で処理され、何れの製錬法においても金の回収方法について種々の方法が検討されている。
【0003】
乾式製錬では一般的に、精鉱を1200℃以上の高温で溶融し、純度約98%の粗銅とした後、電解精製を行うことで純度99.99%の電気銅を生産している。精鉱中の金は、粗銅中に移行した後、電解工程で発生するアノードスライムと呼ばれる沈殿物に濃縮する。金の回収はこのアノードスライムを原料とし、例えば塩化浸出と溶媒抽出の組み合わせにより行われる。
【0004】
一方、湿式製錬では、一般的に精鉱中の銅を硫酸浴もしくは塩化浴の溶液で浸出した後、溶媒抽出と電解採取の組み合わせなどにより電気銅を生産する。この際金は乾式製錬のように濃縮沈殿することがなく、低濃度のまま浸出残渣及び浸出液に存在している。
例えば、特開2010−180450号公報(特許文献1)に記載の如く、浸出残渣に残った金は、篩上物と篩下物とに篩い分けし、得られた篩下物を浮遊選鉱して金を浮鉱側に回収し、別途乾式あるいは湿式処理される。
浸出液に存在する金は、以下に示す理由から、一般的には活性炭で吸着・回収される。
【0005】
湿式法での金属の分離に用いられる手法には、イオン交換法、活性炭吸着法、電解採取法、セメンテーション法、溶媒抽出法などがある。これらの方法には適応濃度があり、一般的に活性炭吸着法は数g/L以下の金属濃度の溶液に、溶媒抽出法は数g/L以上の金属濃度の溶液に用いられる。
【0006】
鉱石中の金を浸出した浸出液中の金濃度は一般的に低く、先に示した銅製錬の湿式法で浸出した浸出液の金濃度は10mg/L(0.01g/L)以下である。そのため銅浸出液中の金の分離には、一般的に活性炭吸着法が用いられる。
【0007】
活性炭に吸着・回収した金は、シアン、チオ尿素、及びチオ硫酸のような金と錯体を形成しやすい溶液で活性炭から溶離した後、亜鉛等によるセメンテーションや電解採取法で回収される。または金を吸着した活性炭を、そのまま燃焼処理することある。
【0008】
しかしながら、シアン、チオ尿素、及びチオ硫酸は高価であり、特にシアンは毒性を持つことが知られており、溶離処理後の廃液処理の安全性や環境負荷が課題である。また活性炭を燃焼する場合は、活性炭の繰り返し使用ができないためコストが高くなるほか、金以外の吸着された金属も一緒に燃焼するため、排ガス処理が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−180450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
例えば、DBC(ジブチルカルビトール)を用いた金の溶媒抽出法は、抽出平衡が大きいため、他の金属の汚染を小さく抑えることが出来るうえ、抽出した金の回収も還元のみで可能なため、工程が短く、かつ操作が簡便に出来る。
しかし先に示した通り、一般的に溶媒抽出法は、数g/L以上の金属濃度の溶液に用いられ、金濃度が10mg/L以下の浸出液には使われていない。
【0011】
本発明は、主に湿式製錬での金の回収方法に関するもので、金濃度が10mg/L以下の水溶液に対し、溶媒抽出法で金の回収を可能とする方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記の課題を解決するものであって、以下の方法を提供する。
【0013】
(1)金濃度が10mg/L以下の水溶液と抽出剤とを接触させる抽出装置を複数段用いて、当該水溶液から金を回収する方法であって、
前記水溶液は1段目の抽出工程から次段目の抽出工程へ連続的に流すのに対し、各段で使用される抽出剤はそれぞれ、逆抽出及び還元の何れも行うことなく、同じ段の抽出工程に2回以上繰返すことを含む金の回収方法。
(2)1段目の抽出工程では、使用する抽出剤が、所定の濃度以上の金濃度になるまで繰り返し使用されるとともに、最終段の抽出工程では、抽出後液の金濃度が所定の濃度以下になるように抽出が行われる(1)に記載の方法。
(3)2段目以降の抽出剤は、繰り返し使用した後、その一部及び/又は全部を前段の抽出装置に送る(1)又は(2)に記載の方法。
(4)1段目の抽出工程で繰り返し使用した後の抽出剤の一部又は全部に対して還元を行う還元工程を実施する(1)〜(3)の何れかに記載の方法。
(5)抽出剤中の金濃度が0.5g/L以下になるまで還元工程を実施する(4)に記載の方法。
(6)最終段の抽出工程は、抽出後液の金濃度が0.5mg/L以下となるように抽出する(1)〜(5)の何れかに記載の方法。
(7)1段目の抽出工程で使用する抽出剤は金濃度が1g/L以上になるまで繰り返し使用する(1)〜(6)の何れかに記載の方法。
(8)一段目における抽出工程での抽出剤(Or)と水溶液(Aq)の体積比(O/A比)が、1/5以下である(1)〜(7)の何れかに記載の方法。
(9)前記水溶液は、銅の硫化物を含有する鉱石又は精鉱を浸出して得た浸出後液である(1)〜(8)の何れかに記載の方法。
(10)各抽出段で使用する抽出剤の補加は、後段の抽出剤、還元工程で金を析出した後の抽出剤、及び未使用の抽出剤から選択される一種又は二種以上を用いて実施する(1)〜(9)の何れかに記載の方法。
(11)抽出剤が、DBCである(1)〜(10)の何れかに記載の方法。
(12)前記水溶液が、塩素を120〜200g/L、銅を0.1〜30g/L、鉄を0.01〜10g/L含有し、pHが2.5以下の、銅精鉱の浸出後液である(1)〜(11)の何れかに記載の方法。
(13)抽出剤と接触する前に、前記水溶液から水溶液中の固形物を取り除く(1)〜(12)の何れかに記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の希薄金溶液からの金の回収方法を用いれば、従来溶媒抽出法を適用できなかった低濃度で金を含有する浸出後液にも溶媒抽出法で金を効率的に回収できる。
その主な効果をまとめると以下の通りである。
(1)従来法である活性炭吸着法に比べ、シアンやチオ尿素、チオ硫酸での溶離が不要なため、高価かつ安全性に不安のある薬品を用いずに金を回収することができる。
(2)従来法に比べ工程が短く、製品金を得るまで時間の短縮と仕掛量の低減が図れる。金は高価であるため、これによる経済的効果は大きい。
(3)DBCは金に対する選択性が高いため、抽出溶媒としてDBCを使用する場合は回収した金の精製工程の簡略化が図れ、金の製品化が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の金回収方法のフローの一例を示す図である。
【図2】比較例で用いた金回収方法のフローを示す図である。
【図3】実施例で得られた金の抽出曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の金回収方法のフローの一連の工程例を図1に示す。以下、図1を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0017】
対象となる水溶液
本発明は金濃度が10mg/L以下の水溶液、とりわけ、銅の硫化物を含有する鉱石又は精鉱、典型的には銅の硫化物を主成分とする鉱石又は精鉱を浸出して得た、金濃度が10mg/L以下の浸出後液から溶媒抽出で金を回収する方法である。浸出液としては公知の任意のものが使用でき、特に制限はないが、本発明の特徴の一つであるシアン、チオ尿素、チオ硫酸を用いないことを考慮すると、硫酸や塩酸等の鉱酸の酸性水溶液が通常である。よって、本発明の処理対象となる金含有水溶液(以下、「抽出前液」ともいう)は酸性であるのが一般的であり、例えばpH2.5以下、典型的にはpH0.5〜1.5である。本発明が対象とする水溶液中の金濃度は10mg/L以下であり、典型的には1〜10mg/Lである。また、浸出後液中の銅濃度は典型的には0.1〜30g/Lである。一実施形態においては、本発明が金回収の対象とする水溶液は銅精鉱の浸出後液であり、塩素を120〜200g/L、銅を0.1〜30g/L、鉄を0.01〜10g/L含有する。
前記水溶液に固形物が存在する場合、固形物に抽出溶媒が付着しロスするため、抽出剤と接触する前に、シックナー、フィルタープレス、筒状又はシート状のフィルター等で固形物を取り除いておくことが好ましい。
【0018】
溶媒抽出
溶媒抽出操作自体は、常法に従えばよい。一例を挙げれば、金含有水溶液(水相)と抽出剤(有機相)を接触させ、典型的にはミキサーでこれらを攪拌混合し、金を抽出剤と反応させる。室温(10〜30℃)〜60℃、大気圧下の条件で実施することができる。当該操作は各抽出段に対して実施する。
抽出剤としては、公知の任意のものを使用することができ、特に制限はないが、例えばメチルイソブチルケトン(MIBK)、トリブチルリン酸(TBP)、ジブチルカルビトール(DBC)などが挙げられる。安定で、低揮発性でしかも低毒性の溶媒であることから、DBCが好ましい。
抽出剤(Or)と水溶液(A)の体積比であるO/A比は、特に制限はないが、金の濃縮化を考えると、一段目については1/5以下であるのが好ましく、1/10以下であるのがより好ましい。一方、最終段(図1では2段目に相当)については、金の濃縮化よりも金の回収率を考える必要がある。そのためにはO/A比を高く設定する必要があり、O/A比は1/10以上であるのが好ましく、1/5以上であるのがより好ましい。ただし、最終段におけるO/A比を高くし過ぎると、後述するような、これよりも前段(典型的には一段前)の溶媒抽出段に抽出液を補充する場合に溶媒中の金濃度が薄くなり、結果的に一段目の金濃度を薄めて金の濃縮率を低下することにつながることから、最終段におけるO/A比は1/2以下であるのが好ましく、1/3以下であるのがより好ましい。
【0019】
抽出1で1段目の溶媒抽出を行った後、抽出後液を抽出2へ流す。抽出1及び2では抽出剤をそれぞれ循環して繰り返し使用しており、これによって抽出剤中の金濃度が上昇していく。金回収率の観点から、抽出2の後の抽出後液の金濃度が所定の濃度以下になるように、抽出2で使用する抽出剤の量を設計する。一般的には抽出2の後の抽出後液中の金濃度が0.5mg/L以下、好ましくは0.1mg/L以下となるようにするのが望ましい。すなわち、抽出2では主に金の回収率を管理している。
【0020】
一方、抽出1においても抽出剤を循環させて繰り返し使用していることから抽出剤中の金の濃度が徐々に上昇していく。抽出1において使用する抽出剤の金濃度が目標濃度に到達するまで抽出剤を繰り返して使用する。目標濃度が高い方が金の濃縮率が上昇して還元工程が容易となるが、抽出後液中の金濃度も上昇するため、抽出2における負担が大きくなることを考慮すべきである。例えば、抽出1においては抽出剤の金濃度が1g/L以上、典型的には1〜4g/L、より典型的には2〜3g/Lに濃縮されるまで抽出剤を繰り返し使用することができる。すなわち、抽出1では主に金の濃縮率を管理している。
【0021】
本発明では抽出1、抽出2で用いる抽出剤(DBC1、DBC2)をそれぞれ単独で準備し、原則的にその抽出段でのみ繰返し使用する点が一つの特徴となっている。
【0022】
図1では抽出を2段階で実施する場合のフロー図を示しているが、3段、4段、・・・とより多くの抽出段を設置することができる。2段目以降の各抽出段(抽出2、抽出3、抽出4、・・・)での抽出後液中の金濃度の設計値から求められる抽出剤(DBC2、DBC3、DBC4、・・・)の金濃度の上限に達した場合、それぞれ溶媒の一部あるいは全部を抜き出し、前段(典型的には一段前)の溶媒に加えることができる。これにより、全体の溶媒量や溶媒中の金濃度を容易に制御可能となるメリットが得られる。特に、全体のDBC使用量を抑えることが可能な点が有利である。また、多段階での抽出であるが、条件の設定の容易さと、得られる効果とのバランスの観点から、2段階、3段階くらいが好ましい。
繰り返し使用によって金濃度が目標値に到達した一段目の抽出剤(DBC1)はその一部又は全部を前段でなく、洗浄/還元工程へ流すことができる。
各抽出段の抽出剤の補加は、抽出剤抜き出し後、後段の抽出剤、還元工程で金を析出した後の抽出剤、及び未使用の抽出剤から選択されるいずれかを単独で、又は組み合わせて用いて実施することができる。
【0023】
実操業の条件の決定は、特定条件で抽出剤を繰り返し使用した場合について、後液中の金濃度と抽出剤中の金濃度の関係を表した抽出平衡曲線を実験的に求め、これに基づいて、各段における目標とすべき後液中の金濃度と抽出剤中の金濃度を設定すればよい。
【0024】
洗浄
金抽出の際、鉄等の不純物が随伴的に溶媒に抽出される場合がある。また溶媒中に、浸出液が懸濁して存在することもある。そのような場合は、金還元前に抽出剤の洗浄を行い、溶媒から不純物を除去する。洗浄は水あるいは0.5〜2.0mol/L程度の塩酸水溶液で行えばよい。水のみでは分相性が悪いため塩酸水溶液を用いるのが好ましい。
【0025】
金還元
随意的な洗浄後、抽出後の抽出剤と還元剤を含んだ水溶液を接触させればよい。還元剤としては例えばシュウ酸やシュウ酸ナトリウム、あるいはデキストローズやアスコルビン酸などが挙げられる。
析出する還元金の形状からシュウ酸ナトリウムを用いて、温度60℃以上、大気圧下の条件で1〜3時間程度実施することが望ましい。還元工程は、金の回収率の観点から抽出剤中の金濃度が0.5g/L以下になるまで実施することが好ましく、0.1g/L以下になるまで実施することがより好ましい。
還元金は、容器底に沈降し、これを回収・洗浄することで製品にできる。
シュウ酸ナトリウムによる還元では以下の式に示す反応が進行する。
2HAuCl4+3(COONa)2→2Au+6CO2+6NaCl+2HCl
【実施例】
【0026】
以下に、本発明の実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
なお、実施例で用いた金属の分析方法は、ICP発光分光分析法で行った。
【0027】
(実施例1:金抽出、溶媒各段循環)
銅精鉱を塩化浸出した場合に得られる浸出後液を模した溶液(Cu:20g/L、Fe:2g/L、Au:5mg/L、Ag:20mg/L、Cl:180g/L、Br:20g/L、pH:1.5)とDBCを用いて、図1に示すように還元操作及び逆抽出の何れも行わずに抽出装置に繰返しながら2段で抽出を行った。ただし、図1に示す2段目のDBCを一部抜き出して1段目のDBCに供給する操作や、還元処理後のDBCを2段目の抽出剤に戻す操作は行わなかった。この時、O/A(抽出剤/水溶液)比を1段目では1/10(抽出剤流量3mL/min、水溶液流量30mL/min)、2段目では1/5(抽出剤流量6mL/min、水溶液流量30mL/min)に調整し、抽出操作は1段目におけるDBC中の金濃度が約2.4g/Lとなるまで行った。結果を表1に示す。
1段目では金が優先的に抽出され、DBCを繰り返し使用することで、DBC中の金濃度のアップが図られ、この時の抽出後液の金濃度は1.6mg/L、1段目における金の回収率は68%であった。
2段目では金の回収率管理が目的であるため抽出剤中の金濃度の上昇はあまり見られないが、抽出後液の金濃度は0.5mg/Lとなり、金の回収率は1段目と2段目のトータルで90%以上となった。
表1中の抽出後液中の金濃度は、1段目抽出後のDBC中の金濃度が約2.4g/Lとなって、抽出操作を終了したときの濃度値である。
なお、この時に得られたDBCおよび抽出後液の間における金の抽出平衡を図3に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
(比較例1:金抽出、向流接触)
各段でDBCを循環させた場合に対する比較として、供試液とDBCを向流で接触抽出させた場合を示す。向流接触で溶媒抽出を行うときのフローを図2に示す。試験は実施例1と同条件で2段抽出を行った。1段目及び2段目O/A比は1/10である。抽出操作はDBC中の金濃度が約2.5g/Lとなるまで行った。結果を表2に示す。なお、表2中の抽出後液中の金濃度は、DBC中の金濃度が約2.5g/Lとなって、抽出操作が完了したときの濃度値である。
実施例1とは異なり抽出剤中の金濃度が一様に上昇するため金の抽出量が減少していき、抽出後の抽出剤中金濃度2.5g/Lに対し抽出後液は1.7mg/L、金回収率は67%であった。同じ段数であっても各段でDBCを循環させることで金の回収率が高くなることが確認できた。
【0030】
【表2】

【0031】
(実施例2:金還元)
実施例1で得られたDBC中の金を0.04mol/Lのシュウ酸ナトリウム水溶液で還元を行った。
具体的には、還元は、金濃度2.4g/LのDBC100mLに、60℃に加温したシュウ酸ナトリウム水溶液100mLを加え、3時間攪拌し、一昼夜静置分離した。
これをろ過して、還元金を得た。得られた還元金の重量は、0.24gであった。
【0032】
得られた金を分析した結果、銀、銅、鉄ともそれぞれ50massppm未満であった。本発明では、濃度の低い溶媒中の金を特にシュウ酸ナトリウムを用いて、溶媒中の金を全量近く回収するため、不純物も一部回収されるが、得られた金の品位は99.9mass%以上、回収率はほぼ100%であった。また、還元後のDBC中の金濃度は<5mg/Lであった。なお、得られた金の品位をさらに上げるためには電解精製法で可能であり、99.99mass%以上とすることは容易である。
【0033】
以上より明らかなように、本発明の浸出液中の金の回収方法は、金濃度が10mg/L以下の浸出液に対しても、溶媒抽出法を可能とするもので、銅湿式製錬分野で浸出液中の金の回収方法として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金濃度が10mg/L以下の水溶液と抽出剤とを接触させる抽出装置を複数段用いて、当該水溶液から金を回収する方法であって、
前記水溶液は1段目の抽出工程から次段目の抽出工程へ連続的に流すのに対し、各段で使用される抽出剤はそれぞれ、逆抽出及び還元の何れも行うことなく、同じ段の抽出工程に2回以上繰返すことを含む金の回収方法。
【請求項2】
1段目の抽出工程では、使用する抽出剤が、所定の濃度以上の金濃度になるまで繰り返し使用されるとともに、最終段の抽出工程では、抽出後液の金濃度が所定の濃度以下になるように金の抽出が行われる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
2段目以降の抽出剤は、繰り返し使用した後、その一部及び/又は全部を前段の抽出装置に送る請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
1段目の抽出工程で繰り返し使用した後の抽出剤の一部又は全部に対して還元を行う還元工程を実施する請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
抽出剤中の金濃度が0.5g/L以下になるまで還元工程を実施する請求項4に記載の方法。
【請求項6】
最終段の抽出工程は、抽出後液の金濃度が0.5mg/L以下となるように抽出する請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
1段目の抽出工程で使用する抽出剤は金濃度が1g/L以上になるまで繰り返し使用する請求項1〜6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
一段目における抽出工程での抽出剤(Or)と水溶液(Aq)の体積比(O/A比)が、1/5以下である請求項1〜7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記水溶液は、銅の硫化物を含有する鉱石又は精鉱を浸出して得た浸出後液である請求項1〜8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
各抽出段で使用する抽出剤の補加は、後段の抽出剤、還元工程で金を析出した後の抽出剤、及び未使用の抽出剤から選択される一種又は二種以上を用いて実施する請求項1〜9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
抽出剤が、DBCである請求項1〜10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記水溶液が、塩素を120〜200g/L、銅を0.1〜30g/L、鉄を0.01〜10g/L含有し、pHが2.5以下の、銅精鉱の浸出後液である請求項1〜11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
抽出剤と接触する前に、前記水溶液から水溶液中の固形物を取り除く請求項1〜12の何れか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−211389(P2012−211389A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−58812(P2012−58812)
【出願日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】