希釈用空気精製方法および希釈用空気精製装置
【課題】希釈用空気中のN2Oを除去して、当該希釈用空気によって希釈された測定対象ガス中のN2O濃度に対する希釈用空気のN2O濃度の割合を可及的に小さくし、測定対象ガス中のN2O濃度の測定精度を向上させる。
【解決手段】測定対象ガスの希釈に用いられる希釈用空気が流れる流路上に、希釈用空気を加熱する加熱器33、Pd触媒341およびPt触媒342をこの順に配置して、Pd触媒341およびPt触媒342により希釈用空気中のN2OをNOXに酸化し、またはそのN2OをN2に還元する。
【解決手段】測定対象ガスの希釈に用いられる希釈用空気が流れる流路上に、希釈用空気を加熱する加熱器33、Pd触媒341およびPt触媒342をこの順に配置して、Pd触媒341およびPt触媒342により希釈用空気中のN2OをNOXに酸化し、またはそのN2OをN2に還元する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン排ガス等の測定対象ガスの希釈に用いられる希釈用空気を精製する希釈用空気精製方法および希釈用空気精製装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン排ガス等の測定対象ガスの分析システムに用いられる希釈用空気精製装置としては、特許文献1又は2に示すように、酸化触媒(Pd系、Pt系等)を用いて、CO、HC、NOX等を酸化させるとともに、NOX除去剤によりNOXを吸着除去するものである。
【0003】
一方、排ガス中のHC、CO、NOX等の除去にはPt触媒やPd触媒(三元触媒)が用いられ、特にNOとCOの浄化は、2CO+2NO→2CO2+N2の反応(反応1)で説明される。但し、濃度バランス等の各種触媒条件によっては、CO+2NO→CO2+N2O(反応2)の副反応がしばしば起こり、N2Oが生じてしまうことが知られている。なお、反応2の後、CO+N2O→CO2+N2(反応3)が連続して生じると、上記反応1と等価の反応となる。
【0004】
近年、一酸化二窒素(N2O)が温室効果ガスとして注目されてきており、上記反応2で生じた排ガス中に含まれるN2Oも例外ではなく、排ガス中に含まれるN2Oの濃度を分析する必要が生じてきている。
【0005】
そして、排ガスサンプリング分析システムにおける希釈サンプリング方式を用いた排ガス分析においては、希釈用空気中の成分濃度を測定すると共に、希釈された排ガス中の成分濃度を測定して、それら測定結果の差分を取ることによってバックグラウンド補正をし、排ガス中の成分濃度を算出するものである。そして、排ガス中のN2O濃度を測定する場合においても同様の手法が用いられる。
【0006】
しかしながら、大気から採取される希釈用空気中には、既に約300ppb程度のN2Oが含まれており、排ガス中に含まれるN2O濃度がそれに近い値又はそれ以下の場合には特に、希釈用空気のN2O濃度の測定誤差が、バックグラウンド補正後の排ガス中のN2O濃度に大きく影響してしまい、その結果、排ガス中のN2O濃度の測定精度が悪くなるという問題がある。つまり、希釈された排ガス中のN2O濃度に対する希釈用空気のN2O濃度の割合が大きいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−3232号公報
【特許文献2】特開平10−19744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、本願発明者の鋭意検討の結果、希釈用空気中のN2Oの除去に適した触媒の配置およびその条件等を見出すことによってなされ、希釈用空気中のN2Oを除去して、当該希釈用空気によって希釈された測定対象ガス中のN2O濃度に対する希釈用空気のN2O濃度の割合を可及的に小さくし、測定対象ガス中のN2O濃度の測定精度を向上させることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明に係る希釈用空気精製方法は、測定対象ガスの希釈に用いられる希釈用空気が流れる流路上に、希釈用空気を加熱する加熱器、Pdを含有するPd触媒およびPtを含有するPt触媒をこの順に配置して、前記Pd触媒および前記Pt触媒により希釈用空気中のN2OをNOXに酸化し、またはそのN2OをN2に還元することを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、Pd触媒およびPt触媒によりN2OをNOXに酸化又はN2に還元しているので、希釈用空気中のN2Oを除去することができる。したがって、希釈用空気によって希釈された測定対象ガス中のN2O濃度に対する希釈用空気のN2O濃度の割合を可及的に小さくし、測定対象ガス中のN2O濃度の測定精度を向上させることができる。なお、従来の三元触媒に関する技術常識から言うと、希釈用空気をPd触媒又はPt触媒に通すと、前記反応2によるN2Oが新たに生成して、希釈用空気に含まれるN2Oが増加してしまうことが懸念される。ところが、本願発明者が、前記技術常識から脱却して鋭意検討をした結果、希釈用空気をPd触媒又はPt触媒に通すと、希釈用空気に含まれるN2Oが増加するどころか、逆に希釈用空気に含まれる微量(約300ppb)のN2Oを減少することを初めて見出した。
【0011】
このときPdを含有するPd触媒は、Ptを含有するPt触媒に比べてN2Oの還元又は酸化性能が優れており、加熱器を通過した希釈用空気が先ずPd触媒に接触することによって当該希釈用空気中のN2Oを効率良く還元又は酸化することができる。また、上流側にPd触媒、下流側にPt触媒を配置することで、上流側のPd触媒では、CO+N2O→N2+CO2の反応(反応3)が主として生じ、N2Oの大部分が還元される除去される。一方で、下流側のPt触媒では、主としてメタン等の炭化水素の除去などが行われ、Pd触媒で生じたN2はN2Oに酸化されないのでN2Oは増加しない。
【0012】
Pd触媒におけるN2OのNO2への酸化またはN2への還元を促進するためには、少なくとも前記Pd触媒を430度以上に温度制御することが望ましい。また、Pd触媒を加熱しすぎると触媒の寿命が短くなってしまうので、Pd触媒を430度以上500度以下に温度制御していることが好ましい。さらにPd触媒によるN2Oの酸化反応および還元反応によるNO2およびN2への変換をより一層促進するためには、Pd触媒を460度以上470度以下に温度制御していることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る希釈用空気精製装置は、測定対象ガスの希釈に用いられる希釈用空気を精製する希釈用空気精製装置であって、大気から採取した希釈用空気が流れる流路上に設けられたPdを含有するPd触媒を備え、当該Pd触媒が430度以上に温度制御されていることを特徴とする。
【0014】
このようなものであれば、Pd触媒を430度以上に温度制御することにより、希釈用空気中のN2OのNO2への酸化反応又はN2への還元反応を促進することができるので、希釈用空気中のN2Oを除去して、当該希釈用空気によって希釈された排ガス中のN2O濃度に対する希釈用空気のN2O濃度の割合を可及的に小さくし、排ガス中のN2O濃度の測定精度を向上させることができる。
【0015】
触媒を温度制御するだけでなく、希釈用空気も温度制御することによって、より最適な状態で酸化反応又は還元反応を生じさせるための具体的な実施の態様としては、前記Pd触媒の上流に設けられ、大気から採取した希釈用空気を430度以上に温度制御する加熱器と、前記Pd触媒の下流に設けられ、前記希釈用空気を酸化又は還元するPtを含有するPt触媒と、前記Pt触媒の下流に設けられ、前記Pd触媒および前記Pt触媒によりN2Oが酸化されて生じたNOXを吸着するNOX吸着剤と、を備えることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
このように構成した本発明によれば、希釈用空気中のN2Oを除去して、当該希釈用空気によって希釈された排ガス中のN2O濃度に対する希釈用空気のN2O濃度の割合を可及的に小さくし、排ガス中のN2O濃度の測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に排ガスサンプリング分析システムの模式的斜視図である。
【図2】同実施形態の希釈用空気精製装置の構成を示す図である。
【図3】希釈用空気中のN2O除去の有無における補正結果を示す模式図である。
【図4】触媒器によりN2Oの除去効率を示す実験結果である。
【図5】触媒器によりN2Oの除去効率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明に係る希釈用空気精製装置を用いた排ガスサンプリング分析システムの一実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
本実施形態に係る排ガスサンプリング分析システム100は、希釈サンプリング方式のものであり、自動車200から採取したエンジン排ガス(以下、「排ガス」という。)を大気から精製される希釈用空気で数倍に希釈して、濃度測定を行うものである。以下、本実施形態では、排ガス全量をサンプリングして、希釈用空気で希釈して一定の既知流量にする定容量定容量希釈サンプリング方式のものについて説明する。
【0020】
具体的にこのものは、図1に示すように、排ガス全量および希釈用空気を装置に導入して、それらを合わせた総流量が常に一定となるように制御して、希釈された排ガス(以下、「希釈排ガス」という。)の一部を一定流量で採取バッグに採取する定容量サンプリング装置2と、大気中の不純物を除去して精製された希釈用空気を前記定容量サンプリング装置2に供給する希釈用空気精製装置3と、前記定容量サンプリング装置2の採取バッグにより採取された希釈排ガス中の所定成分(例えば、HC、CO、H2O、N2Oなど)の濃度を分析するガス分析計4と、を備えている。
【0021】
定容量サンプリング装置2は、シャシダイナモ300に乗載された自動車200の排気管200Hに接続されるとともに、希釈用空気精製装置3の希釈用空気供給管3Hが導入接続された排ガス導入ライン21と、排ガス導入ライン21の下流に設けられ、排ガスおよび希釈用空気を攪拌混合させるサイクロン22と、当該サイクロン22により攪拌混合された希釈排ガスを一定流量で流す定流量機構231を有する希釈排ガス流通ライン23と、この希釈排ガス流通ライン23から希釈された排ガスを分取するための希釈排ガス採取ライン24と、希釈用空気精製装置3の希釈用空気供給管3Hから希釈用空気を分取するための希釈用空気採取ライン25と、を備えている。
【0022】
定流量機構231は、希釈排ガス流通ライン23上に設けられたベンチュリ管231aと当該ベンチュリ管231aの下流に設けられたターボブロア231bとから構成される。
【0023】
希釈排ガス採取ライン24は、一端が希釈排ガス流通ライン23内に設けられた希釈排ガス採取管241と、この希釈排ガス採取管241上に設けられた希釈排ガス採取ポンプ242と、この希釈排ガス採取ポンプ242により採取された希釈排ガスを収納する希釈排ガスバッグ243とを備えている。なお、希釈排ガス採取管241は、定流量機構231よりも上流側に設けられている。
【0024】
また、希釈用空気採取ライン25は、一端が希釈用空気供給管3H内に設けられた希釈用空気採取管251と、この希釈用空気採取管251上に設けられた希釈用空気採取ポンプ252と、この希釈用空気採取ポンプ252により採取された希釈用空気を収納する希釈用空気バッグ253とを備えている。
【0025】
そして、希釈排ガス採取ライン24の希釈排ガスバッグ243および希釈用空気採取ライン25の希釈用空気バッグ253を用いてガス分析計4によりいわゆるバッグ測定が行われる。
【0026】
希釈用空気精製装置3は、排ガス分析におけるバックグラウンドの低濃度安定化を図るために、希釈用空気中のCO、HC、NOX、N2O等を除去するものである。この希釈用空気精製装置3において、CO、HC、NO、N2O等を除去する方法は、希釈用空気中のCO、HC、NO、N2OをCO2、H2O、N2、NO2に変換し、また、NO、N2Oが酸化されて生じたNO2をNOX吸着剤を用いて吸着処理するものである。さらに、NOX吸着剤にも酸化剤が含まれており、未変換のNOをNOXに酸化させて吸着処理する。
【0027】
希釈用空気精製装置3の具体的な構成としては、図2に示すように、吸気フィルタ31を介して外部から希釈用空気を装置内部に導入する吸引ポンプ32と、当該吸引ポンプ32により導入された希釈用空気を所定温度に加熱する加熱器33と、当該加熱器33により加熱された希釈用空気中のHC、CO、NOX、N2O等をCO2、H2O、NO2、N2等に変換する触媒器34と、当該触媒器34およびその下流に設けられた熱交換器35および三方電磁弁36を通過した希釈用空気を冷却する冷却器37と、当該冷却器37により例えば25度に冷却された希釈用空気中のNO2を吸着除去するNOX除去部としてのNOX吸着器38と、を備えている。そして、NOX吸着器38を通過した希釈用空気が希釈用空気供給管3Hにより定容量サンプリング装置2に供給される。
【0028】
加熱器33は、大気から採取された希釈用空気を430度以上に加熱するものであり、後述する触媒器34のPd触媒341に上記温度で流入するように希釈用空気を加熱する。
【0029】
触媒器34は、大気から採取した希釈用空気が流れる流路上に、Pdを含有するPd触媒341およびPtを含有するPt触媒342を上流からこの順に配置して構成されている。そして、Pd触媒341は、Pdをゼオライト粉末、活性炭や酸化アルミニウム等の多孔質担持体に担持させることにより構成されており、Pt触媒342はPdをゼオライト粉末に担持させることにより構成されている。
【0030】
さらに、Pd触媒341およびPt触媒342は、図示しない加熱機構によって430度以上に加熱されている。Pd触媒341を加熱しすぎると触媒としての機能が低下してしまうので、本実施形態ではPd触媒341を430度以上500度以下に温度制御している。さらにPd触媒341によるN2Oの酸化反応および還元反応によるNO2およびN2への変換をより一層促進するためには、Pd触媒341を460度以上470度以下に温度制御している。なお、前述の加熱器33は、Pd触媒341の加熱温度と略同一温度に希釈用空気を加熱する。また、Pt触媒342は、Pd触媒341と一体的に構成されていることから、加熱機構によってPd触媒341と略同一温度に加熱されている。
【0031】
次に、このように構成した排ガスサンプリング分析システム100を用いたN2Oの濃度測定について図3を参照して説明する。
【0032】
希釈用空気精製装置3にN2O除去機能が無い場合、希釈用空気バッグ253により得られた希釈用空気中のN2O濃度は約300[ppb](大気中に含まれるN2O濃度の平均値)である。このとき希釈排ガスバッグ243により得られる希釈排ガス中のN2O濃度が約560[ppb]であるとすると、バックグラウンド補正の結果、排ガス中に含まれるN2O濃度は、約260[ppb]となる。しかしながら、希釈排ガス中のN2O濃度に対する希釈用空気中のN2O濃度の割合が大きく、希釈用空気中のN2O濃度の測定誤差が排ガス中のN2O濃度に与える影響が大きくなってしまい、その結果、バックグラウンド補正により得られた排ガス中のN2O濃度の測定精度が低下してしまう。
【0033】
一方で、本実施形態のようにN2O除去機能を設けることによって、希釈用空気バッグ253により得られた希釈用空気中のN2O濃度が例えば約30[ppb]に低減されると、希釈排ガスバッグ243により得られる希釈排ガス中のN2O濃度が約290[ppb]となり、バックグラウンド補正の結果、排ガス中に含まれるN2O濃度は、約260[ppb]となる。このとき、希釈排ガス中のN2O濃度に対する希釈用空気中のN2O濃度の割合を小さくすることができ、希釈用空気中のN2O濃度の測定誤差が排ガス中のN2O濃度に与える影響を小さくすることができ、その結果、バックグラウンド補正により得られた排ガス中のN2O濃度の測定精度を向上させることができる。
【0034】
次に、上流からPt触媒およびPd触媒の順番に配置して構成した触媒器と、上流からPd触媒341およびPt触媒342の順番に配置して構成した触媒器(本実施形態)との場合において、希釈用空気及び各触媒の加熱温度を変化させた場合のN2Oの除去効率について説明する。
【0035】
実験例1は、上流からPt触媒およびPd触媒をこの順番に配置して構成した触媒器を用いて、当該触媒器および希釈用空気を360℃、430℃、460℃に加熱し、各温度において希釈用空気の流速を7.5[m3/min]又は14.6[m3/min]とした場合である。
【0036】
一方、実験例2は、上流からPd触媒341およびPt触媒342をこの順番に配置して構成した触媒器34を用いて、当該触媒器34および希釈用空気を360℃、430℃、460℃、470℃に加熱し、各温度において希釈用空気の流速を7.5[m3/min]又は14.6[m3/min]とした場合である。
【0037】
そして、上記各場合において、希釈用空気精製装置3の入口(DAR inlet)でのN2O濃度と、希釈用空気精製装置3の出口(DAR outlet)でのN2O濃度とを測定して触媒器におけるN2Oの除去効果を測定した。
【0038】
上記の各場合におけるN2Oの除去効果を見ると、図4および図5から分かるように、実験例1においては触媒器を430度以上に加熱した場合には、N2Oの低減効果が著しく向上していることが分かる。なお、触媒器のSv値[1/hr](=処理ガス量[m3hr]/触媒量[m3])の関係から希釈用空気の流速が大きくなると、N2Oの除去効果が低下してしまう。
【0039】
また、実験例2においては、触媒器34を430度以上に加熱した場合にN2Oの低減効果が著しく向上していることが分かり、特に460度および470度においては低減効果が顕著に表れていることが分かる。なお、実験例2における加熱温度が460度、希釈用空気の流速が7.5[m3/min]の場合に除去効率が100%を超えているのは測定誤差によりものである。なお、実験例2において、メタン等の炭化水素は主としてPt触媒342により低減されている。また、上流側にPd触媒、下流側にPt触媒を配置した場合(実験例2)は、上流側にPt触媒、下流側にPd触媒を配置した場合(実験例1)に比べて上記反応2と反応3とのバランスが良くN2Oの除去効率が良いものと考察される。
【0040】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る排ガスサンプリング分析システム100によれば、排ガスを希釈用空気で希釈させる前に、当該希釈用空気からN2Oを除去させることによって、希釈排ガス中のN2O濃度に対する希釈用空気のN2O濃度の割合を可及的に小さくすることができ、N2O濃度のバックグラウンド変動を小さくして、排ガス中のN2O濃度の測定精度を向上することができる。
【0041】
このとき、希釈用空気が流れる流路上に、加熱器33、Pd触媒341及びPt触媒342をこの順に配置していることにより、加熱器33を通過した希釈用空気が先ずPd触媒に接触することによって当該希釈用空気中のN2Oを効率良く酸化することができる。一方で、Pt触媒342を加熱器33から離れた位置に設けることによって、Pt触媒342に接触する希釈用空気の温度が下がることになり、Pt触媒342により生成されるN2Oを可及的に抑制することができる。
【0042】
また、Pd触媒を430度以上に温度制御することにより、希釈用空気中のN2OのNO2への酸化反応又はN2への還元反応を促進することができる。
【0043】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
例えば、前記実施形態では、定容量サンプリング装置を用いているが、その他、排ガスの一部を採取して一定比率で希釈する、バックミニダイリュータ装置を用いても良い。
【0044】
また、前記実施形態では、加熱器の希釈用空気の加熱温度と、加熱機構によるPd触媒の加熱温度を略同一としているが、配管による温度影響を考慮して、加熱器及び加熱機構の加熱温度を調整するようにしても良い。
【0045】
さらに、前記実施形態のPd触媒およびPt触媒は、仕切り部材を用いて一体的に構成されているが、Pd触媒およびPt触媒を独立して構成しても良い。このとき、各触媒の上流に対応する加熱器を設けて、各触媒の流入する希釈用空気の温度を調整するようにしても良いし、各触媒を独立して温度調整するようにしても良い。
【0046】
加えて、前記実施形態では上流側にPd触媒、下流側にPt触媒を配置しているが、上流側にPt触媒、下流側にPd触媒を配置しても良い。下流側にPd触媒を配置した場合には、Pd触媒を430度以上に加熱すれば前記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0047】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0048】
100・・・排ガスサンプリング測定システム
2 ・・・定容量サンプリング装置
3 ・・・希釈用空気精製装置
33 ・・・加熱器
34 ・・・触媒器
341・・・Pd触媒
342・・・Pt触媒
38 ・・・NOX除去部
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン排ガス等の測定対象ガスの希釈に用いられる希釈用空気を精製する希釈用空気精製方法および希釈用空気精製装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン排ガス等の測定対象ガスの分析システムに用いられる希釈用空気精製装置としては、特許文献1又は2に示すように、酸化触媒(Pd系、Pt系等)を用いて、CO、HC、NOX等を酸化させるとともに、NOX除去剤によりNOXを吸着除去するものである。
【0003】
一方、排ガス中のHC、CO、NOX等の除去にはPt触媒やPd触媒(三元触媒)が用いられ、特にNOとCOの浄化は、2CO+2NO→2CO2+N2の反応(反応1)で説明される。但し、濃度バランス等の各種触媒条件によっては、CO+2NO→CO2+N2O(反応2)の副反応がしばしば起こり、N2Oが生じてしまうことが知られている。なお、反応2の後、CO+N2O→CO2+N2(反応3)が連続して生じると、上記反応1と等価の反応となる。
【0004】
近年、一酸化二窒素(N2O)が温室効果ガスとして注目されてきており、上記反応2で生じた排ガス中に含まれるN2Oも例外ではなく、排ガス中に含まれるN2Oの濃度を分析する必要が生じてきている。
【0005】
そして、排ガスサンプリング分析システムにおける希釈サンプリング方式を用いた排ガス分析においては、希釈用空気中の成分濃度を測定すると共に、希釈された排ガス中の成分濃度を測定して、それら測定結果の差分を取ることによってバックグラウンド補正をし、排ガス中の成分濃度を算出するものである。そして、排ガス中のN2O濃度を測定する場合においても同様の手法が用いられる。
【0006】
しかしながら、大気から採取される希釈用空気中には、既に約300ppb程度のN2Oが含まれており、排ガス中に含まれるN2O濃度がそれに近い値又はそれ以下の場合には特に、希釈用空気のN2O濃度の測定誤差が、バックグラウンド補正後の排ガス中のN2O濃度に大きく影響してしまい、その結果、排ガス中のN2O濃度の測定精度が悪くなるという問題がある。つまり、希釈された排ガス中のN2O濃度に対する希釈用空気のN2O濃度の割合が大きいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−3232号公報
【特許文献2】特開平10−19744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、本願発明者の鋭意検討の結果、希釈用空気中のN2Oの除去に適した触媒の配置およびその条件等を見出すことによってなされ、希釈用空気中のN2Oを除去して、当該希釈用空気によって希釈された測定対象ガス中のN2O濃度に対する希釈用空気のN2O濃度の割合を可及的に小さくし、測定対象ガス中のN2O濃度の測定精度を向上させることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明に係る希釈用空気精製方法は、測定対象ガスの希釈に用いられる希釈用空気が流れる流路上に、希釈用空気を加熱する加熱器、Pdを含有するPd触媒およびPtを含有するPt触媒をこの順に配置して、前記Pd触媒および前記Pt触媒により希釈用空気中のN2OをNOXに酸化し、またはそのN2OをN2に還元することを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、Pd触媒およびPt触媒によりN2OをNOXに酸化又はN2に還元しているので、希釈用空気中のN2Oを除去することができる。したがって、希釈用空気によって希釈された測定対象ガス中のN2O濃度に対する希釈用空気のN2O濃度の割合を可及的に小さくし、測定対象ガス中のN2O濃度の測定精度を向上させることができる。なお、従来の三元触媒に関する技術常識から言うと、希釈用空気をPd触媒又はPt触媒に通すと、前記反応2によるN2Oが新たに生成して、希釈用空気に含まれるN2Oが増加してしまうことが懸念される。ところが、本願発明者が、前記技術常識から脱却して鋭意検討をした結果、希釈用空気をPd触媒又はPt触媒に通すと、希釈用空気に含まれるN2Oが増加するどころか、逆に希釈用空気に含まれる微量(約300ppb)のN2Oを減少することを初めて見出した。
【0011】
このときPdを含有するPd触媒は、Ptを含有するPt触媒に比べてN2Oの還元又は酸化性能が優れており、加熱器を通過した希釈用空気が先ずPd触媒に接触することによって当該希釈用空気中のN2Oを効率良く還元又は酸化することができる。また、上流側にPd触媒、下流側にPt触媒を配置することで、上流側のPd触媒では、CO+N2O→N2+CO2の反応(反応3)が主として生じ、N2Oの大部分が還元される除去される。一方で、下流側のPt触媒では、主としてメタン等の炭化水素の除去などが行われ、Pd触媒で生じたN2はN2Oに酸化されないのでN2Oは増加しない。
【0012】
Pd触媒におけるN2OのNO2への酸化またはN2への還元を促進するためには、少なくとも前記Pd触媒を430度以上に温度制御することが望ましい。また、Pd触媒を加熱しすぎると触媒の寿命が短くなってしまうので、Pd触媒を430度以上500度以下に温度制御していることが好ましい。さらにPd触媒によるN2Oの酸化反応および還元反応によるNO2およびN2への変換をより一層促進するためには、Pd触媒を460度以上470度以下に温度制御していることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る希釈用空気精製装置は、測定対象ガスの希釈に用いられる希釈用空気を精製する希釈用空気精製装置であって、大気から採取した希釈用空気が流れる流路上に設けられたPdを含有するPd触媒を備え、当該Pd触媒が430度以上に温度制御されていることを特徴とする。
【0014】
このようなものであれば、Pd触媒を430度以上に温度制御することにより、希釈用空気中のN2OのNO2への酸化反応又はN2への還元反応を促進することができるので、希釈用空気中のN2Oを除去して、当該希釈用空気によって希釈された排ガス中のN2O濃度に対する希釈用空気のN2O濃度の割合を可及的に小さくし、排ガス中のN2O濃度の測定精度を向上させることができる。
【0015】
触媒を温度制御するだけでなく、希釈用空気も温度制御することによって、より最適な状態で酸化反応又は還元反応を生じさせるための具体的な実施の態様としては、前記Pd触媒の上流に設けられ、大気から採取した希釈用空気を430度以上に温度制御する加熱器と、前記Pd触媒の下流に設けられ、前記希釈用空気を酸化又は還元するPtを含有するPt触媒と、前記Pt触媒の下流に設けられ、前記Pd触媒および前記Pt触媒によりN2Oが酸化されて生じたNOXを吸着するNOX吸着剤と、を備えることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
このように構成した本発明によれば、希釈用空気中のN2Oを除去して、当該希釈用空気によって希釈された排ガス中のN2O濃度に対する希釈用空気のN2O濃度の割合を可及的に小さくし、排ガス中のN2O濃度の測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に排ガスサンプリング分析システムの模式的斜視図である。
【図2】同実施形態の希釈用空気精製装置の構成を示す図である。
【図3】希釈用空気中のN2O除去の有無における補正結果を示す模式図である。
【図4】触媒器によりN2Oの除去効率を示す実験結果である。
【図5】触媒器によりN2Oの除去効率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明に係る希釈用空気精製装置を用いた排ガスサンプリング分析システムの一実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
本実施形態に係る排ガスサンプリング分析システム100は、希釈サンプリング方式のものであり、自動車200から採取したエンジン排ガス(以下、「排ガス」という。)を大気から精製される希釈用空気で数倍に希釈して、濃度測定を行うものである。以下、本実施形態では、排ガス全量をサンプリングして、希釈用空気で希釈して一定の既知流量にする定容量定容量希釈サンプリング方式のものについて説明する。
【0020】
具体的にこのものは、図1に示すように、排ガス全量および希釈用空気を装置に導入して、それらを合わせた総流量が常に一定となるように制御して、希釈された排ガス(以下、「希釈排ガス」という。)の一部を一定流量で採取バッグに採取する定容量サンプリング装置2と、大気中の不純物を除去して精製された希釈用空気を前記定容量サンプリング装置2に供給する希釈用空気精製装置3と、前記定容量サンプリング装置2の採取バッグにより採取された希釈排ガス中の所定成分(例えば、HC、CO、H2O、N2Oなど)の濃度を分析するガス分析計4と、を備えている。
【0021】
定容量サンプリング装置2は、シャシダイナモ300に乗載された自動車200の排気管200Hに接続されるとともに、希釈用空気精製装置3の希釈用空気供給管3Hが導入接続された排ガス導入ライン21と、排ガス導入ライン21の下流に設けられ、排ガスおよび希釈用空気を攪拌混合させるサイクロン22と、当該サイクロン22により攪拌混合された希釈排ガスを一定流量で流す定流量機構231を有する希釈排ガス流通ライン23と、この希釈排ガス流通ライン23から希釈された排ガスを分取するための希釈排ガス採取ライン24と、希釈用空気精製装置3の希釈用空気供給管3Hから希釈用空気を分取するための希釈用空気採取ライン25と、を備えている。
【0022】
定流量機構231は、希釈排ガス流通ライン23上に設けられたベンチュリ管231aと当該ベンチュリ管231aの下流に設けられたターボブロア231bとから構成される。
【0023】
希釈排ガス採取ライン24は、一端が希釈排ガス流通ライン23内に設けられた希釈排ガス採取管241と、この希釈排ガス採取管241上に設けられた希釈排ガス採取ポンプ242と、この希釈排ガス採取ポンプ242により採取された希釈排ガスを収納する希釈排ガスバッグ243とを備えている。なお、希釈排ガス採取管241は、定流量機構231よりも上流側に設けられている。
【0024】
また、希釈用空気採取ライン25は、一端が希釈用空気供給管3H内に設けられた希釈用空気採取管251と、この希釈用空気採取管251上に設けられた希釈用空気採取ポンプ252と、この希釈用空気採取ポンプ252により採取された希釈用空気を収納する希釈用空気バッグ253とを備えている。
【0025】
そして、希釈排ガス採取ライン24の希釈排ガスバッグ243および希釈用空気採取ライン25の希釈用空気バッグ253を用いてガス分析計4によりいわゆるバッグ測定が行われる。
【0026】
希釈用空気精製装置3は、排ガス分析におけるバックグラウンドの低濃度安定化を図るために、希釈用空気中のCO、HC、NOX、N2O等を除去するものである。この希釈用空気精製装置3において、CO、HC、NO、N2O等を除去する方法は、希釈用空気中のCO、HC、NO、N2OをCO2、H2O、N2、NO2に変換し、また、NO、N2Oが酸化されて生じたNO2をNOX吸着剤を用いて吸着処理するものである。さらに、NOX吸着剤にも酸化剤が含まれており、未変換のNOをNOXに酸化させて吸着処理する。
【0027】
希釈用空気精製装置3の具体的な構成としては、図2に示すように、吸気フィルタ31を介して外部から希釈用空気を装置内部に導入する吸引ポンプ32と、当該吸引ポンプ32により導入された希釈用空気を所定温度に加熱する加熱器33と、当該加熱器33により加熱された希釈用空気中のHC、CO、NOX、N2O等をCO2、H2O、NO2、N2等に変換する触媒器34と、当該触媒器34およびその下流に設けられた熱交換器35および三方電磁弁36を通過した希釈用空気を冷却する冷却器37と、当該冷却器37により例えば25度に冷却された希釈用空気中のNO2を吸着除去するNOX除去部としてのNOX吸着器38と、を備えている。そして、NOX吸着器38を通過した希釈用空気が希釈用空気供給管3Hにより定容量サンプリング装置2に供給される。
【0028】
加熱器33は、大気から採取された希釈用空気を430度以上に加熱するものであり、後述する触媒器34のPd触媒341に上記温度で流入するように希釈用空気を加熱する。
【0029】
触媒器34は、大気から採取した希釈用空気が流れる流路上に、Pdを含有するPd触媒341およびPtを含有するPt触媒342を上流からこの順に配置して構成されている。そして、Pd触媒341は、Pdをゼオライト粉末、活性炭や酸化アルミニウム等の多孔質担持体に担持させることにより構成されており、Pt触媒342はPdをゼオライト粉末に担持させることにより構成されている。
【0030】
さらに、Pd触媒341およびPt触媒342は、図示しない加熱機構によって430度以上に加熱されている。Pd触媒341を加熱しすぎると触媒としての機能が低下してしまうので、本実施形態ではPd触媒341を430度以上500度以下に温度制御している。さらにPd触媒341によるN2Oの酸化反応および還元反応によるNO2およびN2への変換をより一層促進するためには、Pd触媒341を460度以上470度以下に温度制御している。なお、前述の加熱器33は、Pd触媒341の加熱温度と略同一温度に希釈用空気を加熱する。また、Pt触媒342は、Pd触媒341と一体的に構成されていることから、加熱機構によってPd触媒341と略同一温度に加熱されている。
【0031】
次に、このように構成した排ガスサンプリング分析システム100を用いたN2Oの濃度測定について図3を参照して説明する。
【0032】
希釈用空気精製装置3にN2O除去機能が無い場合、希釈用空気バッグ253により得られた希釈用空気中のN2O濃度は約300[ppb](大気中に含まれるN2O濃度の平均値)である。このとき希釈排ガスバッグ243により得られる希釈排ガス中のN2O濃度が約560[ppb]であるとすると、バックグラウンド補正の結果、排ガス中に含まれるN2O濃度は、約260[ppb]となる。しかしながら、希釈排ガス中のN2O濃度に対する希釈用空気中のN2O濃度の割合が大きく、希釈用空気中のN2O濃度の測定誤差が排ガス中のN2O濃度に与える影響が大きくなってしまい、その結果、バックグラウンド補正により得られた排ガス中のN2O濃度の測定精度が低下してしまう。
【0033】
一方で、本実施形態のようにN2O除去機能を設けることによって、希釈用空気バッグ253により得られた希釈用空気中のN2O濃度が例えば約30[ppb]に低減されると、希釈排ガスバッグ243により得られる希釈排ガス中のN2O濃度が約290[ppb]となり、バックグラウンド補正の結果、排ガス中に含まれるN2O濃度は、約260[ppb]となる。このとき、希釈排ガス中のN2O濃度に対する希釈用空気中のN2O濃度の割合を小さくすることができ、希釈用空気中のN2O濃度の測定誤差が排ガス中のN2O濃度に与える影響を小さくすることができ、その結果、バックグラウンド補正により得られた排ガス中のN2O濃度の測定精度を向上させることができる。
【0034】
次に、上流からPt触媒およびPd触媒の順番に配置して構成した触媒器と、上流からPd触媒341およびPt触媒342の順番に配置して構成した触媒器(本実施形態)との場合において、希釈用空気及び各触媒の加熱温度を変化させた場合のN2Oの除去効率について説明する。
【0035】
実験例1は、上流からPt触媒およびPd触媒をこの順番に配置して構成した触媒器を用いて、当該触媒器および希釈用空気を360℃、430℃、460℃に加熱し、各温度において希釈用空気の流速を7.5[m3/min]又は14.6[m3/min]とした場合である。
【0036】
一方、実験例2は、上流からPd触媒341およびPt触媒342をこの順番に配置して構成した触媒器34を用いて、当該触媒器34および希釈用空気を360℃、430℃、460℃、470℃に加熱し、各温度において希釈用空気の流速を7.5[m3/min]又は14.6[m3/min]とした場合である。
【0037】
そして、上記各場合において、希釈用空気精製装置3の入口(DAR inlet)でのN2O濃度と、希釈用空気精製装置3の出口(DAR outlet)でのN2O濃度とを測定して触媒器におけるN2Oの除去効果を測定した。
【0038】
上記の各場合におけるN2Oの除去効果を見ると、図4および図5から分かるように、実験例1においては触媒器を430度以上に加熱した場合には、N2Oの低減効果が著しく向上していることが分かる。なお、触媒器のSv値[1/hr](=処理ガス量[m3hr]/触媒量[m3])の関係から希釈用空気の流速が大きくなると、N2Oの除去効果が低下してしまう。
【0039】
また、実験例2においては、触媒器34を430度以上に加熱した場合にN2Oの低減効果が著しく向上していることが分かり、特に460度および470度においては低減効果が顕著に表れていることが分かる。なお、実験例2における加熱温度が460度、希釈用空気の流速が7.5[m3/min]の場合に除去効率が100%を超えているのは測定誤差によりものである。なお、実験例2において、メタン等の炭化水素は主としてPt触媒342により低減されている。また、上流側にPd触媒、下流側にPt触媒を配置した場合(実験例2)は、上流側にPt触媒、下流側にPd触媒を配置した場合(実験例1)に比べて上記反応2と反応3とのバランスが良くN2Oの除去効率が良いものと考察される。
【0040】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る排ガスサンプリング分析システム100によれば、排ガスを希釈用空気で希釈させる前に、当該希釈用空気からN2Oを除去させることによって、希釈排ガス中のN2O濃度に対する希釈用空気のN2O濃度の割合を可及的に小さくすることができ、N2O濃度のバックグラウンド変動を小さくして、排ガス中のN2O濃度の測定精度を向上することができる。
【0041】
このとき、希釈用空気が流れる流路上に、加熱器33、Pd触媒341及びPt触媒342をこの順に配置していることにより、加熱器33を通過した希釈用空気が先ずPd触媒に接触することによって当該希釈用空気中のN2Oを効率良く酸化することができる。一方で、Pt触媒342を加熱器33から離れた位置に設けることによって、Pt触媒342に接触する希釈用空気の温度が下がることになり、Pt触媒342により生成されるN2Oを可及的に抑制することができる。
【0042】
また、Pd触媒を430度以上に温度制御することにより、希釈用空気中のN2OのNO2への酸化反応又はN2への還元反応を促進することができる。
【0043】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
例えば、前記実施形態では、定容量サンプリング装置を用いているが、その他、排ガスの一部を採取して一定比率で希釈する、バックミニダイリュータ装置を用いても良い。
【0044】
また、前記実施形態では、加熱器の希釈用空気の加熱温度と、加熱機構によるPd触媒の加熱温度を略同一としているが、配管による温度影響を考慮して、加熱器及び加熱機構の加熱温度を調整するようにしても良い。
【0045】
さらに、前記実施形態のPd触媒およびPt触媒は、仕切り部材を用いて一体的に構成されているが、Pd触媒およびPt触媒を独立して構成しても良い。このとき、各触媒の上流に対応する加熱器を設けて、各触媒の流入する希釈用空気の温度を調整するようにしても良いし、各触媒を独立して温度調整するようにしても良い。
【0046】
加えて、前記実施形態では上流側にPd触媒、下流側にPt触媒を配置しているが、上流側にPt触媒、下流側にPd触媒を配置しても良い。下流側にPd触媒を配置した場合には、Pd触媒を430度以上に加熱すれば前記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0047】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0048】
100・・・排ガスサンプリング測定システム
2 ・・・定容量サンプリング装置
3 ・・・希釈用空気精製装置
33 ・・・加熱器
34 ・・・触媒器
341・・・Pd触媒
342・・・Pt触媒
38 ・・・NOX除去部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象ガスの希釈に用いられる希釈用空気が流れる流路上に、希釈用空気を加熱する加熱器、Pdを含有するPd触媒およびPtを含有するPt触媒をこの順に配置して、前記Pd触媒および前記Pt触媒により希釈用空気中のN2OをNOXに酸化し、またはそのN2OをN2に還元することを特徴とする希釈用空気精製方法。
【請求項2】
少なくとも前記Pd触媒を430度以上に温度制御する請求項1記載の希釈用空気精製方法。
【請求項3】
測定対象ガスの希釈に用いられる希釈用空気を精製する希釈用空気精製装置であって、
大気から採取した希釈用空気が流れる流路上に設けられたPdを含有するPd触媒を備え、当該Pd触媒が430度以上に温度制御されている希釈用空気精製装置。
【請求項4】
前記Pd触媒の上流に設けられ、大気から採取した希釈用空気を430度以上に温度制御する加熱器と、
前記Pd触媒の下流に設けられ、前記希釈用空気を酸化又は還元するPtを含有するPt触媒と、
前記Pt触媒の下流に設けられ、前記Pd触媒および前記Pt触媒によりN2Oが酸化されて生じたNOXを吸着するNOX除去部と、を備える請求項3記載の希釈用空気精製装置。
【請求項1】
測定対象ガスの希釈に用いられる希釈用空気が流れる流路上に、希釈用空気を加熱する加熱器、Pdを含有するPd触媒およびPtを含有するPt触媒をこの順に配置して、前記Pd触媒および前記Pt触媒により希釈用空気中のN2OをNOXに酸化し、またはそのN2OをN2に還元することを特徴とする希釈用空気精製方法。
【請求項2】
少なくとも前記Pd触媒を430度以上に温度制御する請求項1記載の希釈用空気精製方法。
【請求項3】
測定対象ガスの希釈に用いられる希釈用空気を精製する希釈用空気精製装置であって、
大気から採取した希釈用空気が流れる流路上に設けられたPdを含有するPd触媒を備え、当該Pd触媒が430度以上に温度制御されている希釈用空気精製装置。
【請求項4】
前記Pd触媒の上流に設けられ、大気から採取した希釈用空気を430度以上に温度制御する加熱器と、
前記Pd触媒の下流に設けられ、前記希釈用空気を酸化又は還元するPtを含有するPt触媒と、
前記Pt触媒の下流に設けられ、前記Pd触媒および前記Pt触媒によりN2Oが酸化されて生じたNOXを吸着するNOX除去部と、を備える請求項3記載の希釈用空気精製装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2011−106999(P2011−106999A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263335(P2009−263335)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】
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