説明

希釈装置

【課題】熟練した作業を要することなく、容易かつ高精度に希釈ガスを得ることができる構成簡単な希釈装置を提供する。
【解決手段】流量比混合法により希釈対象ガスと希釈用ガスとを所定の流量比により混合する希釈装置において、希釈対象ガスとしての試料ガスGAが予め充填される第1の空間と、希釈用ガスGBが供給される第2の空間としての容器内空間1’と、第1,第2の空間を分離し、かつ、圧力により変形可能な隔壁としての捕集バッグ2と、捕集バッグ2内に入口側が連通し、かつ、出口側が希釈ガス排出用配管7に連通する第1の流体抵抗部5と、容器内空間1’に入口側が連通し、かつ、出口側が前記配管7に連通する第2の流体抵抗部6と、を備え、捕集バッグ2の変形により、捕集バッグ2内外の圧力を等しくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスを所望の希釈率で希釈するための希釈装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、測定可能レンジ(最大目盛値)が100ppmの分析計を用いて濃度が180ppmの試料を測定することは不可能であり、その場合には、測定可能レンジがより大きい分析計を使用するか、試料を希釈してその濃度を元の分析計の測定可能レンジ内の値にする必要がある。
周知のように、希釈とは、目的成分を含む物質を目的成分を含まない物質と混合して目的物質の濃度を小さくすることであり、前述の例で言えば、濃度が180ppmの試料を1/2に希釈すると90ppmになって分析計の測定可能レンジ内に収まるため、この分析計を用いて測定することが可能になる。
【0003】
また、上述した分析動作以外でも、例えば環境大気用窒素酸化物測定装置を校正する場合には、校正に必要な環境基準40〜60ppb付近の低濃度標準ガスは存在しないため、現状では、校正用ガス調製装置により、jcss(計量法校正事業者認定制度)によるトレーサビリティが確保されたppm濃度の一酸化窒素(NO)標準ガスを零位調整標準ガス(ゼロガス)により希釈して、ppb濃度の校正用標準ガスを調製している。
【0004】
ここで、ガスの希釈方法としては、質量比混合法、体積比混合法(何れもJIS K0055:ガス分析装置校正方法通則を参照)のほかに、所望の希釈率に相当する流量比で希釈対象ガスと希釈用ガスとを混合する流量比混合法が知られており、その希釈装置にはマスフロー式希釈装置、キャピラリー式希釈装置等がある。以下、これらの構成を説明する。
【0005】
図3はマスフロー式希釈装置の構成図であり、21は希釈対象ガスとしてのNO標準ガスが収容されたボンベ、22は希釈用ガスとしてのゼロガスが収容されたボンベ、23,24は減圧弁、25,26は圧力計、27,28はマスフローコントローラ、41,42は配管を示している。
このマスフロー式希釈装置では、2台のマスフローコントローラ27,28によりNO標準ガスとゼロガスとの流量比(すなわち希釈率)を所定値に制御して混合することにより、目的とするppb濃度の校正用NO標準ガスを調製する。
【0006】
また、図4はキャピラリー式希釈装置の構成図であり、図3におけるマスフローコントローラ27,28の代わりにキャピラリー29,30を配置したものである。
このキャピラリー式希釈装置は、各キャピラリー29,30の流体抵抗に応じた流量のガスを混合して希釈するものであり、減圧弁23,24を調整してキャピラリー29,30の上流側の圧力を等しくすることにより、キャピラリー29,30の上流下流間の圧力差をそれぞれ等しくしてNO標準ガスとゼロガスとの流量比を一定に保っている。
なお、流体抵抗を実現する手段として、キャピラリーの代わりにオリフィスやノズルを用いる場合もある。
【0007】
一方、自動車等の塗装工程における排出ガス等の試料ガスを採取して異なる場所の分析室にて分析する場合、フッ素樹脂等からなる捕集バッグを用いることがある。その際、採取した試料ガス中の目的成分濃度が分析計の測定可能レンジより高い場合には、より高レンジの分析計に交換するか、試料ガスを希釈する必要がある。
この時の希釈方法としては、試料ガスを採取した捕集バッグから一部をシリンジにより採取して別の捕集バッグに注入し、更に高純度空気を注入することにより試料ガスを希釈している。
【0008】
上述したように、ガスの希釈方法は種々知られているが、図3,図4に示した校正用ガス調整装置では、標準ガスを収容したボンベ21,22が重く、持ち運びに不便である。また、零位調製標準ガスをゼロガス精製器によって代用すれば一方のボンベ22は不要になるが、目的成分標準ガスを完全になくすには工夫が必要になり、希釈精度の点で問題がある。
【0009】
更に、捕集バッグは校正用ガスの希釈にも適用可能であるが、捕集バッグを使用して試料ガスや校正用ガスを希釈する場合には、シリンジの使用や分注時の操作に熟練を要すると共に、いわゆる共洗いが困難であるため希釈作業を行う環境空気の影響を受けやすいという問題がある。
また、採取した試料ガスを別の捕集バッグに注入する際に残存ガスがあると希釈精度が低下するという不都合もある。
【0010】
なお、捕集バッグを用いたサンプリング装置は特許文献1〜3を始めとして種々提供されている。これらの従来技術は、密閉容器内に捕集バッグを収納し、容器内部の圧力を増減させて捕集バッグの外表面に作用させることにより、試料を捕集バッグ内に採取したり捕集バッグ内の試料を分析計に供給するものであるが、試料ガスや校正用ガスの希釈動作については何ら開示されていない。
【0011】
【特許文献1】実開昭50−109692号公報(第1図)
【特許文献2】実開昭52−48477号公報(第2図)
【特許文献3】実開昭52−114084号公報(第1図、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、従来技術では、捕集バッグを用いて採取した試料ガスや校正用ガスを簡単かつ高精度に希釈することができないという問題があった。
そこで本発明の解決課題は、流量比混合法に基づく希釈装置において、熟練した作業を要することなく、容易かつ高精度に希釈ガスを得ることができる構成簡単な希釈装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、請求項1に記載した発明は、流量比混合法により希釈対象ガスと希釈用ガスとを所定の流量比により混合する希釈装置において、
希釈対象ガスが予め充填される第1の空間と、
希釈用ガスが供給される密閉された第2の空間と、
第1,第2の空間を分離し、かつ、圧力により変形可能な隔壁と、
第1の空間に入口側が連通し、かつ、出口側が希釈ガス排出用配管に連通する第1の流体抵抗部と、
第2の空間に入口側が連通し、かつ、出口側が前記希釈ガス排出用配管に連通する第2の流体抵抗部と、を備え、
前記隔壁の変形により、第1の空間の圧力と第2の空間の圧力とを等しくするものである。
【0014】
請求項2に記載した発明は、請求項1において、
前記隔壁を、伸縮自在な材料からなる捕集バッグにより形成したものである。
【0015】
請求項3に記載した発明は、請求項1または2において、
前記希釈ガス排出用配管に、バルブを配置したものである。
【0016】
請求項4に記載した発明は、請求項3において、
前記バルブの入口側または出口側から分岐させた配管に、別のバルブを配置したものである。
【0017】
請求項5に記載した発明は、請求項1〜4の何れか1項において、前記第1の流体抵抗部の入口側にバルブを配置したものである。
また、請求項6に記載した発明は、請求項1〜5の何れか1項において、前記第2の空間に連通する第3の流体抵抗部を配置したものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、希釈対象ガスが充填された捕集バッグを密閉容器内に収容することにより、前記捕集バッグを隔壁として第1,第2の空間を形成する。更に、これら第1,第2の空間にキャピラリー等からなる第1,第2の流体抵抗部の入口側をそれぞれ連通させてその出口側を合流させる。
これにより、第1,第2の空間の圧力が等しくなるように捕集バッグが変形し、第1,第2の流体抵抗部の入口、出口間の圧力差が等しくなるため、希釈対象ガス及び希釈用ガスが一定の流量比で流出して希釈ガス排出用配管にて合流することになり、希釈対象ガスは上記流量比に相当する希釈率で希釈される。
本発明によれば、従来のように希釈対象ガスをシリンジにより採取して分注するといった煩雑な作業、熟練を要する作業を行わなくても、所望の希釈率のガスを高精度に生成することができ、また、構造も簡単で低コストにて提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。まず、図1は本発明の実施形態を示す概略的な構成図である。
図1において、1は密閉容器であり、その内部には希釈対象ガスとしての試料ガスGA等が予め充填された捕集バッグ2が収納されている。3は試料ガスGAを希釈するゼロガス等の希釈用ガスGBが供給される配管であり、この配管3は途中で分岐した配管3aが前記密閉容器1の内部であって捕集バッグ2の外部の空間(以下、容器内空間1’という)に連通している。
ここで、捕集バッグ2の内部空間は請求項における第1の空間を、容器内空間1’は第2の空間を、捕集バッグ2は隔壁を構成している。
【0020】
捕集バッグ2には配管4が連結されており、この配管4は密閉容器1を貫通して外部の第1の流体抵抗部5に連通している。また、流体抵抗部5の出口側は希釈ガス排出用配管としての配管7に連通している。
一方、配管3aが分岐した後の配管3は第2の流体抵抗部6に連通し、この流体抵抗部6の出口側は前記配管7に連通している。
なお、捕集バッグ2は、四弗化エチレンに代表されるフッ素樹脂等の伸縮自在で変形しやすい材料にて形成されていると共に、第1,第2の流体抵抗部5,6は、キャピラリー、オリフィスまたはノズル等から構成されている。
【0021】
次に、この実施形態の使用方法について説明する。
まず、試料ガスGAを採取した捕集バッグ2を密閉容器1の内部に収納し、その後、配管3の入口から周囲圧力より大きい圧力で希釈用ガスGBを供給する。この希釈用ガスGBの圧力Pは、第2の流体抵抗部6の入口に加わると共に、配管3aを介して容器内空間1’にも加わる。
捕集バッグ2は薄く変形しやすい材料で形成されているので、捕集バッグ2は試料ガスGAの圧力と容器内空間1’の圧力に応じて変形し、両方の圧力が釣り合った状態で安定する。従って、安定した状態では試料ガスGAの圧力と容器内空間1’の圧力とが等しくなり、捕集バッグ2から配管4を介して連結された第1の流体抵抗部5の入口の圧力Pは容器内空間1’の圧力、つまり第2の流体抵抗部6の入口の圧力Pと等しくなる。
【0022】
すなわち、第1,第2の流体抵抗部5,6の入口の圧力P,Pは等しく(P=P)、これらの出口の圧力も共通の配管7により等しく保たれている。よって、第1,第2の流体抵抗部5,6の入口、出口間の圧力差が等しいため、各流体抵抗部5,6により設定された一定の流量比で試料ガスGA及び希釈用ガスGBが流れ、これらのガスは配管7により合流、混合する。これにより、試料ガスGAは前記流量比に相当する希釈率にて希釈されることとなる。
【0023】
なお、捕集バッグ2に規定容量以上の試料ガスGAを入れるとその圧力が高くなりP>Pとなるため、流量比が一定にならなくなる可能性があるが、捕集バッグ2を密閉容器1に収納する前に捕集バッグ2の外観を目視することでその内圧の過不足をある程度判断することが可能である。
また、捕集バッグ2には若干の変形抵抗があることから、希釈用ガスGBの圧力はこの変形抵抗よりも十分に大きい値であることが必要である。但し、捕集バッグ2から第1の流体抵抗部5を介して排出されるガス流量が小さい場合には、捕集バッグ2の変形抵抗を無視することができる。
【0024】
次いで、図2は、図1の構成を基本として実際に試料ガスを希釈する希釈装置の具体的構成を示したものである。
捕集バッグ2により採取してきた試料ガスGAの濃度が分析計(図示せず)の測定レンジより大きい場合には、前述したように捕集バッグ2を密閉容器1に収容し、希釈用ガスGBを流すことにより、配管7から所望の希釈率で希釈された試料ガス(以下、希釈ガスという)を流出させることができる。配管7の出口に別の捕集バッグ11を取り付けておき、所定量の希釈ガスを採取して分析に使用すれば良い。
【0025】
この場合、流体抵抗部5,6と捕集バッグ11との間が配管7のみであると、捕集バッグ11が破裂するおそれがあるため、捕集バッグ11への供給量が所定値以上になったらリリーフする機能(リリーフバルブ)を備えることが望ましい。
例えば、図2(a)に示すごとく、捕集バッグ11に所定量の希釈ガスが供給された時点で閉動作するストップバルブ10を配管7に配置したり、配管7aを分岐させ、捕集バッグ11に希釈ガスが供給されてから一定時間経過後に開動作するオーバーフローバルブ9を配置すると良い。更に、元の捕集バッグ2に連通する配管4から配管4aを分岐させてパージバルブ8を配置し、配管4の残留ガスのパージを短時間で行えるようにしても良い。
更に、図2(b)に示すように、密閉容器1に第3の流体抵抗部12を配置して容器内空間1’と連通させ、配管3aの部分に緩やかな流れを作り、この配管3aの部分の逆流を防ぐことで、流体抵抗部6に流れるゼロガスの汚染をなくすようにしても良い。
【0026】
なお、上記実施形態は、分析計に供給する試料ガスを希釈するだけでなく、捕集バッグ2に希釈対象ガスとし校正用標準ガスを充填し、希釈用ガスGBとしてゼロガス精製器により発生させたゼロガスを供給することにより、所望の濃度の校正用ガスを簡易に調製することができる。
また、本発明は、希釈対象ガスと希釈用ガスとの圧力を等しくして第1,第2の流体抵抗部を介し合流させることにより所望の希釈率を得ることを骨子としており、密閉容器や捕集バッグの構造は図1,図2に示したものに限定されず、例えば、変形可能な隔壁を介して希釈対象ガスと希釈用ガスとが共存する構造であればいかなる構造でも良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態を示す概略的な構成図である。
【図2】図1の実施形態の具体的構成図である。
【図3】マスフロー式希釈装置の構成図である。
【図4】キャピラリー式希釈装置の構成図である。
【符号の説明】
【0028】
1:密閉容器
1’:容器内空間
2,11:捕集バッグ
3,3a,4,4a,7,7a:配管
5,6,12:流体抵抗部
8:パージバルブ
9:オーバーフローバルブ
10:ストップバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流量比混合法により希釈対象ガスと希釈用ガスとを所定の流量比により混合する希釈装置において、
希釈対象ガスが予め充填される第1の空間と、
希釈用ガスが供給される密閉された第2の空間と、
第1,第2の空間を分離し、かつ、圧力により変形可能な隔壁と、
第1の空間に入口側が連通し、かつ、出口側が希釈ガス排出用配管に連通する第1の流体抵抗部と、
第2の空間に入口側が連通し、かつ、出口側が前記希釈ガス排出用配管に連通する第2の流体抵抗部と、を備え、
前記隔壁の変形により、第1の空間の圧力と第2の空間の圧力とを等しくすることを特徴とする希釈装置。
【請求項2】
請求項1に記載した希釈装置において、
前記隔壁を、伸縮自在な材料からなる捕集バッグにより形成したことを特徴とする希釈装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した希釈装置において、
前記希釈ガス排出用配管に、バルブを配置したことを特徴とする希釈装置。
【請求項4】
請求項3に記載した希釈装置において、
前記バルブの入口側または出口側から分岐させた配管に、別のバルブを配置したことを特徴とする希釈装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載した希釈装置において、
前記第1の流体抵抗部の入口側にバルブを配置したことを特徴とする希釈装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載した希釈装置において、
前記第2の空間に連通する第3の流体抵抗部を配置したことを特徴とする希釈装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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