説明

帯状体の搬送装置

【課題】酸洗装置等のロールに液が大量に付着する場所に用いても、帯状体との間の液体を除去して帯状体の蛇行を抑制するとともに、低メカロスでかつスリップしにくく、帯状体の表面に傷や跡を残さない帯状体の搬送装置を提供する。
【解決手段】金属製のロールコア2と該ロールコアの外周面を覆うゴム層6とを備えた被覆ロール10を有し、液体で濡れた状態で帯状体50を搬送する帯状体の搬送装置100であって、被覆ロールはゴム層表面に、被覆ロールの軸方向Lと角度を有して延び、切断面S同士がゴム層表面で互いに接するスリット6aが複数設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ストリップ等の帯状体の搬送に用いられる帯状体の搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属ストリップ等の帯状体を搬送する搬送装置のロールとしては金属ロールが広く用いられてきたが、金属ロールが硬いために帯状体に打痕や傷が生じるという問題がある。そこで、金属ロール表面にゴムをライニングしたロールや、金属ロール表面に不織布を巻きつけたロールが知られている。
又、鋼板等に付着した水分等の液体を除去しつつ搬送するロールとして、台座の外周に不織布からなる円環状のロール片を積層したものが開発されている(特許文献1)。このロールは、不織布からなるロール部の外周に窪みを設け、鋼板等のグリップ力を高め、液体を不織布で吸収することで液体の除去にも優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−174647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の技術の場合、酸洗装置等のロールに液が大量に付着する場所に用いると、不織布が液を吸いきれず、かえって不織布表面に液膜が形成されるため、ロールを用いて搬送される鋼板等の蛇行を抑制できないことがある。また、ロールが液を吸い込むことでロールの重量が増えるため、ロールの回転に対する抵抗(メカロス)が大きくなる。従って、ロールに駆動用モーターが接続されていない場合、ロールが鋼板等の動きに追従せずスリップが発生する。一方、ロールに駆動用モーターが接続されている場合、駆動用モーターにかかる負荷が大きくなり、駆動用モーターが故障しやすい。
又、特許文献1記載の技術の場合、コの字に開口する窪みをロール(不織布)表面に形成しているため、銅箔等の厚みの薄い帯状体に接触して窪みの跡が転写されるという問題がある。
【0005】
すなわち、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、酸洗装置等のロールに液が大量に付着する場所に用いても、帯状体との間の液体を除去して帯状体の蛇行を抑制するとともに、低メカロスでかつスリップしにくく、帯状体の表面に傷や跡を残さない帯状体の搬送装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の帯状体の搬送装置は、金属製のロールコアと該ロールコアの外周面を覆うゴム層とを備えた被覆ロールを有し、液体で濡れた状態で帯状体を搬送する帯状体の搬送装置であって、前記被覆ロールは、前記ゴム層表面に、前記被覆ロールの軸方向と角度を有して延び、切断面同士が前記ゴム層表面で互いに接するスリットが複数設けられている。
【0007】
前記スリットの基部は、前記ロールコアの外周面より5〜10mm外側に位置しているとよい。
前記スリットは前記被覆ロールの周方向に沿って環状に設けられ、かつ個々のスリットが前記軸方向に間隔を開けて配置されているとよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、酸洗装置等のロールに液が大量に付着する場所に用いても、帯状体との間の液体を除去して帯状体の蛇行を抑制するとともに、低メカロスでかつスリップしにくく、帯状体の表面に傷や跡を残さない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る帯状体の搬送装置に用いる被覆ロールを示す部分破断斜視図である。
【図2】ゴム層の断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る帯状体の搬送装置を示す図である。
【図4】スリットの別の形態を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る帯状体の搬送装置に用いる被覆ロールを示す平面図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る帯状体の搬送装置に用いる被覆ロールを示す平面図である。
【図7】本発明の第4の実施形態に係る帯状体の搬送装置に用いる被覆ロールを示す平面図である。
【図8】本発明の第5の実施形態に係る帯状体の搬送装置に用いる被覆ロールを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る帯状体の搬送装置について説明する。帯状体は特に限定されないが、例えば、銅、アルミニウム、鋼等の金属又は合金の板又は箔が挙げられる。特に、本発明の実施形態に係る被覆ロールは、厚み400μm以下の板又は箔の搬送に好適に用いられる。帯状体の厚みの下限は特に制限されないが、例えば数μm〜10μmである。
又、本発明の実施形態に係る帯状体の搬送装置は、以下の被覆ロールを有し、被覆ロールが液体で濡れた状態で帯状体と接し、かつ帯状体をロールに張架して搬送する装置であればよく、例えば、酸洗装置、脱脂装置、湿式めっき装置が挙げられる。これらの装置に設置された被覆ロールは、酸洗液、脱脂液やめっき液に浸漬されたり、これらの液をスプレーされながら帯状体を搬送するので、液体で濡れた状態となる。
【0011】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る帯状体の搬送装置に用いる被覆ロール10を示す部分破断斜視図である。被覆ロール10は、金属製のロールコア2と、ロールコア2の外周面を覆うゴム層6とを備えている。
金属製のロールコア2は円筒状をなし、中心に軸2aが取り付けられている。ロールコア2としては鋼、ステンレス鋼、アルミニウム等を用いることができるがこれらに限定されず、各種金属や合金を使用できる。ロールコア2の外径は特に制限されないが、通常、50〜1000mm程度とすることができる。
なお、ゴム層6との密着性を高めるため、ロールコア2表面を公知のプライマー等で処理してもよい。
【0012】
ゴム層6は、自身がロールコア2の外表面に密着して確実に固定される。ゴム層6はロールコア2の表面に加硫又は所定の接着剤で固定されるか、又はゴム層6となる材料をロールコア2の表面に流し、加硫、縮合等によって硬化させてゴム層6を形成させることができる。
ゴム層6の材質としては特に制限されないが、例えば、アクリルニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)、ポリクロロプレン(クロロプレンゴム)、エチレン・プロピレンターポロマー(EPT)、ポリシロキサン(シリコーンゴム)、イソプロピレン・イソブチレン共重合体(IIR)、スチレン・ブタジエン共重合体(SBR)、ポリウレタン(ウレタンゴム)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、フッ化炭化水素(フッ素ゴム)を挙げることができる。特に、後述するスリットを設けた際、スリットの強度や弾性に優れるNBR又はSBRが好ましい。
【0013】
ゴム層6表面に、スリット(切れ込み)6aが複数設けられている。第1の実施形態では、各スリット6aは被覆ロール10の周方向に沿って環状に設けられ、各スリット6aの延びる方向(被覆ロール10の周方向)は被覆ロールの軸方向Lと直交している。又、各スリット6aが軸方向Lに間隔Gを開けて配置されている。
【0014】
図2は、ゴム層6の断面図である。スリット6aはゴム層6の表面からロールコア2に向かって垂直に切れ込み、スリット6aの基部6bはロールコア2外周面より間隔Dだけ外側に位置している。又、ゴム層6の弾性力により、スリット6aの切断面S同士が表面で互いに接している(図2(a))。
ここで、液体で濡れた状態で被覆ロール10が帯状体50を搬送すると、スリット6aの切断面Sから毛細管現象等によって液体Wがスリット6a内部に入り込んで保持される(図2(b))。保持された液体Wは、被覆ロール10から帯状体50が離れると、被覆ロール10の回転によってスリット6a内部から排出される。
【0015】
このようにして、帯状体50とゴム層6との界面の液体がスリット6a内部に保持された後に排出されるが、液体を保持するスリット6aは保形性に優れ、さらにスリット6aがゴム層6表面から垂直に切れ込んでいるため、被覆ロール10から帯状体50が離れると液体の排出が迅速かつ確実に行われる。このため、不織布で液を吸収する場合に比べ、酸洗装置等のロールに液が大量に付着する場所に用いても、液体を確実に保持及び排出することができ、帯状体の蛇行を抑制する。
又、スリット6aの切断面S同士が表面で互いに接しているため、スリット6aの切断面が開いて窪み状にならず、スリット6aが平らな面Cで帯状体50に接触する。このため、銅箔等の厚みの薄い(400μm以下)帯状体に窪みの角が接触して跡が転写されることを防止する。
【0016】
なお、ゴム層6の厚みは特に制限されないが、通常、5〜30mm程度とすることができる。間隔Dは5〜10mmであることが好ましい。間隔Dが5mm未満であると、スリット6が裂けた場合に、酸洗液等の液が金属製のロールコア2に浸透して腐食が進行するおそれがある。又、間隔Dが10mmを超えると、スリット6の深さが浅くなり、ゴム層6の弾性力が弱まり、スリット6aの切断面S同士が表面で接し難くなる。ゴム層6の弾性力を確保してスリット6aの切断面S同士を接し易くするため、スリット6の深さは10mm以上であることが好ましい。なお、ゴム層6の厚みが小さい場合(例えば10mm以下)には、スリット6の深さは5〜10mmであることが好ましい。
又、各スリット6aの軸方向Lの間隔Gは、5〜20mm程度が好ましい。間隔Gが5mm未満であると、軸方向Lの各スリット6aの厚みが薄くなって弾性力が弱まり、スリット6aの切断面S同士が表面で接し難くなる。間隔Gが20mmを超えると、各スリット6aによる液体の保持量が減少する傾向にある。
【0017】
図3は、本発明の実施形態に係る帯状体の搬送装置100を示す。帯状体の搬送装置100は、被覆ロール10と、被覆ロール10を軸支する回転軸102と、帯状体50を液体に濡れさせる液体槽104とを備える。又、回転軸102は、モータ等の駆動系に接続されていてもよく、空転するものであってもよい。さらに、搬送装置100は各種の公知のテンションレベラ、蛇行防止装置等を備えていてもよい。
なお、搬送装置100は被覆ロール10と回転軸102とを必須の構成として備えるが、液体槽104を備えていなくてもよい。
図3において、スリット6aへの液体Wの保持及び排出が以下のように行われる。液体で濡れた帯状体50が地点Aで被覆ロール10に導入されると、スリット6a(図示せず)の切断面から液体Wがスリット6a内部に入り込んで保持される。地点Bで被覆ロール10から帯状体50が離れると、被覆ロール10の回転によってスリット6a内部から液体Wが排出される。
【0018】
図4は、スリット6aの別の形態を示す。このスリット6aの場合、基部6bは軸方向に広がっているが、基部6bからゴム層6表面に向かってスリット6aの切断面S同士の間隔が狭まっている。そして、スリット6a先端(ゴム層6表面)で切断面S同士が互いに接している。
【0019】
図5は、本発明の第2の実施形態に用いる被覆ロール11を示す平面図である。なお、以下の各実施形態にかかる帯状体の搬送装置においては、被覆ロール以外の構成は図3に述べた実施形態と同一であるので、被覆ロールについてのみ説明することとする。
第2の実施形態においては、各スリット6aは軸方向Lと所定の角度(180未満の鋭角)をなしつつ被覆ロールの周方向に沿って環状に設けられている。各スリット6aは、被覆ロール11の軸方向Lの中央部で傾き方向が対称となるようになっている。
図6は、本発明の第3の実施形態に用いる被覆ロール12を示す平面図である。第3の実施形態においては、各スリット6aは軸方向Lと所定の角度(180未満の鋭角)をなしつつ被覆ロールの周方向に沿って環状に設けられている。各スリット6aは、すべて傾き方向が同じ向きになっている。
なお、図5、図6の例においても、各スリット6aは被覆ロールの周方向に沿った環状をなしている。このようにすると、図3で説明したように、スリット6a内部に入り込んで保持された液体Wが被覆ロールの回転によって排出され易い。これに対し、例えば図6のような軸方向Lと所定の角度を持ったスリットを一続きの螺旋状に形成してもよいが、スリットを一続きにすると(つまり、スリット自身は1個)、保持された液体Wがスリットに沿って移動し、排出され難い傾向にある。
【0020】
図7は、本発明の第4の実施形態に用いる被覆ロール13を示す平面図である。第4の実施形態においては、第2の実施形態と同様に各スリット6aは軸方向Lと所定の角度(45度)をなしつつ被覆ロールの周方向に沿って環状に設けられている。各スリット6aは、被覆ロール11の軸方向Lの中央部で傾き方向が対称となるようになっていると共に、当該中央部で左右のスリット6a同士が繋がっており、全体としてダブルヘリカル状のスリットを構成している。
図8は、本発明の第5の実施形態に用いる被覆ロール14を示す平面図である。第5の実施形態においては、各スリット6aは網目状(ダイヤモンドカット)に設けられている。第5の実施形態において各スリット6aは軸方向Lと所定の角度(45度)をなす。
なお、図7、図8の例においても、各スリット6aは被覆ロールの周方向に沿った環状をなしている。このようにすると、図3で説明したように、スリット6a内部に入り込んで保持された液体Wが被覆ロールの回転によって排出され易い。
【0021】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。例えば、本発明の帯状体の搬送装置において、被覆ロールは、例えば酸洗装置や防錆剤の塗布装置等、液中で使用することもできる。本発明の帯状体の搬送装置においては、被覆ロールは液中であっても帯状体との間の摩擦力を高めるため、帯状体との滑りが少なくなり、さらに帯状体に接触して窪みの跡が転写されることが抑制される。
【符号の説明】
【0022】
2 ロールコア
6 ゴム層
6a スリット
6b スリットの基部
10〜14 被覆ロール
50 帯状体
100 帯状体の搬送装置
L 被覆ロールの軸方向
S スリットの切断面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のロールコアと該ロールコアの外周面を覆うゴム層とを備えた被覆ロールを有し、液体で濡れた状態で帯状体を搬送する帯状体の搬送装置であって、
前記被覆ロールは、前記ゴム層表面に、前記被覆ロールの軸方向と角度を有して延び、切断面同士が前記ゴム層表面で互いに接するスリットが複数設けられている帯状体の搬送装置。
【請求項2】
前記スリットの基部は、前記ロールコアの外周面より5〜10mm外側に位置している請求項1記載の帯状体の搬送装置。
【請求項3】
前記スリットは前記被覆ロールの周方向に沿って環状に設けられ、かつ個々のスリットが前記軸方向に間隔を開けて配置されている請求項1又は2記載の帯状体の搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−35961(P2012−35961A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177130(P2010−177130)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】