説明

帯状物体浮揚装置

【課題】帯状物体を安定に搬送することができる安価な帯状物体浮揚装置を提供する。
【解決手段】搬送面に設けた複数の吐出孔から吐出される流体によって帯状物体を搬送面上に浮揚させつつ搬送する帯状物体浮揚装置において、厚板パンチングメタル4及び薄板パンチングメタル5を密着して重ねるように設け、厚板パンチングメタル4の丸孔4aと薄板パンチングメタル5の丸孔5aとが互いに重なり合う部分により吐出孔を形成する。これにより、例えば薄板パンチングメタル5の丸孔5aのピッチ及び孔径が厚板パンチングメタル4の丸孔4aのピッチ及び孔径に比べて充分小さい場合、吐出孔の開孔率は、厚板パンチングメタル4の開孔率と薄板パンチングメタル5の開孔率との積になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送面に設けた複数の吐出孔から吐出する流体によって帯状物体を浮揚させつつ搬送する帯状物体浮揚装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばフィルム、金属箔、織物、紙などの薄い帯状物体を非接触で搬送する帯状物体浮揚装置として、搬送面に設けた複数の吐出孔から吐出する空気などの流体によって帯状物体を搬送面上に浮揚させつつ搬送するものが知られている。この帯状物体浮揚装置には、例えば帯状物体を搬送方向に沿って保持するものや方向転換させるものなどがある。
【0003】
従来、帯状物体浮揚装置においては、搬送面の吐出孔の開孔率が大きく、すなわち吐出孔からの吐出流体を低圧大風量とするものが一般的に用いられていたが、搬送される帯状物体のバタツキが大きく不安定であった。これは、搬送面の吐出孔の開孔率が大きく流動抵抗が小さいため、搬送面と帯状物体との間隔が僅かでも変化すると、吐出孔からの風量が大きく変動するからであった。そのため、近年、搬送面の吐出孔の開孔率が小さく、すなわち吐出孔から吐出する流体を高圧小風量とするものが用いられるようになり、帯状物体のバタツキを小さくし安定に搬送させている。
【0004】
上記のような吐出孔を有する搬送面としては、例えば安価なパンチングメタルを用いる方法が考えられる。ところが、パンチングメタルの孔寸法の最小値は、板厚程度の大きさが限度であり、それ以上小さい開孔をパンチングにより穿設することはパンチング工具が折損してしまうので困難であった。さらに、吐出孔を有する搬送面はある程度の剛性が求められており、パンチングメタルの板厚を必要剛性に相応する所定の板厚以上としなければならないので、孔寸法を小さくすることが困難であった。かといって、開孔率を小さくするためにパンチングメタルの開孔のピッチを広くすると、開孔の無い領域が広くなり、帯状物体の浮揚搬送が成り立たなくなってしまう。
【0005】
そこで、上述した高圧小風量な帯状物体浮揚装置を実現するための一例として、通常のパンチングメタルの表面にワイヤ等を巻回し又は密巻きして実効吐出孔を小さくしたものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、他の例として、開孔率が所定値を超えないようにプレス加工したパンチングスクリーンを用いたものが開示されている(例えば、特許文献2参照)。このパンチングスクリーンは、プレス加工によって金属薄板の裏面に突状部を成形する際、その突状部に亀裂(スリット)を生じさせて吐出孔が形成されたものである。これにより、ワイヤ等を巻回しなくても所要の開孔率が得られるため、簡便で安価な帯状物体浮揚装置を実現することが可能となっている。
【0007】
【特許文献1】特許第2788207号公報
【特許文献2】特開2000−16649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術には以下のような課題が存在する。
すなわち、上記特許文献2に記載のパンチングスクリーンは、プレス加工によって金属薄板の裏面に突状部を成形する際、その突状部の亀裂を微調整して所要の開孔率が得られるようになっている。そのため、特殊な加工機械や技術が必要であり、コスト高になっていた。
【0009】
本発明の目的は、帯状物体を安定に搬送することができる安価な帯状物体浮揚装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、搬送面に設けた複数の吐出孔から吐出される流体によって帯状物体を前記搬送面上に浮揚させつつ搬送する帯状物体浮揚装置において、異なる開孔率を有する複数のパンチングメタルを密着して重ねるように設け、前記複数のパンチングメタルの開孔が互いに重なり合う部分により前記吐出孔を形成する。
【0011】
本発明においては、異なる開孔率を有する複数のパンチングメタルを密着して重ねるように設け、複数のパンチングメタルの開孔が互いに重なり合う部分により吐出孔を形成することにより、所要の吐出孔の開孔率を得ることができる。ここで、吐出孔の開孔率とは下記の式(1)で定義される値である。
吐出孔の開孔率(%)=(全吐出孔の面積/搬送面積)×100・・・(1)
【0012】
例えば厚板で孔寸法の大きな開孔を有する第1のパンチングメタルと薄板で孔寸法の小さな開孔を有する第2のパンチングメタルとを密着して重ねるように設けた場合、第2のパンチングメタルの開孔のピッチ及び孔寸法が第1のパンチングメタルの開孔のピッチ及び孔寸法に比べて充分小さければ、吐出孔の開孔率は下記の式(2)で求められる。
吐出孔の開孔率(%)=(第1のパンチングメタルの開孔率)×(第2のパンチングメタルの開孔率)×100=(第1のパンチングメタルの全開孔の面積/搬送面積)×(第2のパンチングメタルの全開孔の面積/搬送面積)×100・・・(2)
【0013】
なお、上記の式(2)が成り立つのは、第2のパンチングメタルの開孔のピッチ及び孔寸法が第1のパンチングメタルの開孔のピッチ及び孔寸法に比べて充分小さく、第2のパンチングメタルの開孔が全面に均一に配置されている場合である。この条件を満たさない場合には、吐出孔の開孔率は、重ね合わせるパンチングメタルの開孔の分布状態を考慮して求めることが必要である。例えば上記した第2のパンチングメタルの孔寸法の大きな開孔を第1のパンチングメタルの孔寸法の小さい開孔の位置に合わせて配置する場合、吐出孔の開孔率は下記の式(3)で求められる。
吐出孔の開孔率(%)=(第2のパンチングメタルの開孔率)×100=(第2のパンチングメタルの全開孔の面積/搬送面積)×100・・・(3)
【0014】
以上のようにして本発明においては、開孔率が異なるパンチングメタルの組合せを適切に選ぶことにより、所要の吐出孔の開孔率を得ることができる。したがって、吐出孔からの吐出流体を高圧小風量とし、帯状物体を安定に搬送することができる。また、例えばパンチングスクリーンを用いる場合とは異なり、特殊な加工装置や技術を必要としないので安価に実現することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、帯状物体を安定に搬送することができる安価な帯状物体浮揚装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の帯状物体浮揚装置の一実施形態の構造を模式的に表す断面図であり、図中の矢印は流体の流れを表している。図2は、本発明の帯状物体浮揚装置の一実施形態を構成する2枚のパンチングメタルの構造を表す分解斜視図である。
【0017】
これら図1及び図2において、帯状物体浮揚装置は、図示しない外部の空気源からの空気(流体)を導入するための流体導入口1と、この流体導入口1から導入された空気を一時的に貯え均圧化するための流体貯留室2と、この流体貯留室2の外殻3の一部を構成するとともに帯状物体(図示せず)の搬送面となる厚板パンチングメタル4と、この厚板パンチングメタル4の内側(図1中下側)に密着して重なるように例えばスポット溶接等により接合された薄板パンチングメタル5とを有している。
【0018】
厚板パンチングメタル4は、例えば板厚2mmで、直径5mmの丸孔(開孔)4aがピッチ約10mmで正方ピッチの千鳥配列されたものである。また、薄板パンチングメタル5は、例えば板厚0.3mmで、直径0.5mmの丸孔(開孔)5aがピッチ約2mmで正方ピッチの千鳥配列されたものである。そして、厚板パンチングメタル4の開孔4aと薄板パンチングメタル5の開孔5aとが重なる部分により吐出孔が形成されるようになっている。
【0019】
そして、例えば帯状物体を搬送する場合、空気源からの空気が流体導入口1から流体貯留室2に導入され、導入された空気は一時的に流体貯留室2内に貯えられ、その圧力は均等になる。流体貯留室2内の空気は多数の吐出孔より吐出され、これによって帯状物体を浮揚させつつ搬送する。なお、このとき、厚板パンチングメタル4及び薄板パンチングメタル5は互いに密着しているので、薄板パンチングメタル5の丸孔5aのうち厚板パンチングメタル4の板部分で閉塞された部分からは、空気が吐出されないようになっている。
【0020】
以上のように構成された本実施形態では、薄板パンチングメタル5の丸孔5aのピッチ及び孔径が厚板パンチングメタル4の丸孔4aのピッチ及び孔径に比べて充分小さく、薄板パンチングメタル5の丸孔5aが全面に均一に配置されている。したがって、吐出孔の開孔率は上記の式(2)により求められる。すなわち、厚板パンチングメタル4の開孔率は20%、薄板パンチングメタル5の開孔率は5%であるから、それら開孔率の積により吐出孔の開孔率は1%となる。ここで、吐出孔からの吐出空気を高圧小風量とし帯状物体を安定して搬送するための吐出孔の開孔率は、5%を超えないこと、好ましくは1%以下であることが実験により確認されている。したがって本実施形態においては、帯状物体を安定に搬送することができる。また、例えばパンチングスクリーンを用いる場合とは異なり、特殊な加工機械や技術を用いる必要がないので安価に実現することができる。
【0021】
なお、上記一実施形態においては、厚板パンチングメタルの仕様(板厚2mm、丸孔、孔径5mm、ピッチ約10mmで正方ピッチの千鳥配列)及び薄板パンチングメタルの仕様(板厚0.3mm、丸孔、孔径0.5mm、ピッチ約2mmで正方ピッチの千鳥配列)を一例として説明したが、これに限られず、例えば搬送面の剛性及び吐出孔の開孔率が所要の値となるのであれば、パンチングメタル4,5の板厚、開孔形状、孔寸法、配列等を上記仕様と異なるようにしてもよい。また、例えば厚板パンチングメタルの開孔及び薄板パンチングメタルの開孔を互いに孔寸法を同じにしつつピッチを異ならせるようにしてもよい。また、例えば厚板パンチングメタルの開孔及び薄板パンチングメタルの開孔を互いにピッチを同じにしつつ孔寸法が異なるようにしてもよい。これらの場合においても、上記同様の効果を得ることができる。
【0022】
また、上記一実施形態においては、厚板パンチングメタル4の内側に密着して重なるように薄板パンチングメタル5をスポット溶接で接合した場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、例えば接着剤を用いて接合してもよいし、また例えば流体貯留室2内の圧力によって密着させるようにしてもよい。これらの場合においても、上記同様の効果を得ることができる。
【0023】
本発明の他の実施形態を図3により説明する。本実施形態は、例えば上記薄板パンチングメタル5を上記厚板パンチングメタル4の内側にスポット溶接する際、薄板パンチングメタル5に反りがでて密着できない場合に対処した実施形態である。
【0024】
図3は、本実施形態による帯状物体浮揚装置の構造を模式的に表す断面図である。なお、この図3において、上記一実施形態と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0025】
本実施形態では、薄板パンチングメタル5の内側(図3中下側)に密着して重なるように、薄板パンチングメタル5より剛性のある押し板パンチングメタル6を例えばスポット溶接で接合している。
【0026】
押し板パンチングメタル6の板厚は、薄板パンチングメタル5より大きい0.8mmである。また、押し板パンチングメタル6の丸孔(開孔)6aは、厚板パンチングメタル4より直径が大きい6mmで、かつ厚板パンチングメタル4と同じピッチ約10mmで正方ピッチで千鳥配列されており、厚板パンチングメタル4の丸孔4aの位置に合わせるように配置されている。そして、厚板パンチングメタル4の丸孔4a、薄板パンチングメタル5の丸孔5a、及び押し板パンチングメタル6の丸孔6aが互いに重なり合う部分により吐出孔が形成されている。
【0027】
以上のように構成された本実施形態では、吐出孔の開孔率は、上記一実施形態と同じ1%になる。したがって、吐出孔からの吐出空気を高圧小風量とし、帯状物体を安定に搬送することができる。また、例えばパンチングスクリーンを用いる場合とは異なり、特殊な加工機械や技術を用いる必要がないので安価に実現することができる。
【0028】
なお、上記他の実施形態においては、薄板パンチングメタル5及び押し板パンチングメタル6を密着して設けた場合を例にとって説明したが、これに限られず、密着させなくてもよい。押し板パンチングメタル6の丸孔6aは、厚板パンチングメタル4の丸孔4aと同じピッチで孔径が同等以上であるから、薄板パンチングメタル5との間に隙間があっても吐出孔の開孔率、すなわち吐出空気量に影響を及ぼすことがないからである。したがって、この場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の帯状物体浮揚装置の一実施形態の構造を模式的に表す断面図である。
【図2】本発明の帯状物体浮揚装置の一実施形態を構成する2枚のパンチングメタルの構造を表す分解斜視図である。
【図3】本発明の帯状物体浮揚装置の他の実施形態の構造を模式的に表す断面図である。
【符号の説明】
【0030】
4 第1のパンチングメタル
4a 丸孔(開孔)
5 第2のパンチングメタル
5a 丸孔(開孔)
6 押し板パンチングメタル
6a 丸孔(開孔)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送面に設けた複数の吐出孔から吐出される流体によって帯状物体を前記搬送面上に浮揚させつつ搬送する帯状物体浮揚装置において、
異なる開孔率を有する複数のパンチングメタルを密着して重ねるように設け、前記複数のパンチングメタルの開孔が互いに重なり合う部分により前記吐出孔を形成したことを特徴とする帯状物体浮揚装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−105799(P2008−105799A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289688(P2006−289688)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)
【Fターム(参考)】