説明

帯状疱疹の予防または水痘関連ヘルペス後神経痛の緩和方法

【課題】帯状ヘルペスまたは水痘関連ヘルペス後神経痛を緩和するワクチンの提供。
【解決手段】VZVに対して血清反応陽性を示し、約1:68,000以下のRCFを有する50歳以上の人におけるヘルペス後神経痛の期間及び重症度を軽減するためのワクチンであって、免疫有効量のVZVウイルスよりなり、前記VZVウイルスが、弱毒化生体VZVウイルス(OKA株)であるワクチン。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ヘルペス後神経痛は、帯状疱疹としても公知の帯状ヘルペスの発症に伴う主たる罹患状態である。神経痛は一般に1〜6カ月間続き、耐え難い痛みを伴うことが多い。
【0002】
帯状ヘルペスは潜伏水痘ウイルスの再活性化によって惹起されることが最近証明されている〔Strausら,Ann.Int.Med.(1988);108,221−237;Hymanら,Lancet(1983),814−816;Gildenら,Nature(1983)306,478−80;Croenら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1988);85,9773−9777;Mahalinghamら,New Eng.J.Med.(1990)323,627−631〕。初回水痘感染は、乳児水痘の結果、または水痘を予防すべく水痘帯状ヘルペスウイルス(VZV)弱毒化生ワクチンで免疫した結果生じ得る。いずれの場合もウイルスは感染個体系中に水痘または予防接種後しばらくの間存続すると見られる。VZV潜伏場所は、背根神経節内の神経細胞であると見られている。
【0003】
VZVが潜伏状態となった数年後、ウイルスは再度活性化するが、その機構はまだよく判っていない。しかしながら、VZVの再活性化及びそれに続く複製によって帯状ヘルペスが生じる。重症のヘルペス後神経痛が発症するのはこの再活性化の過程及びその後である。
【0004】
免疫適応の低下と帯状ヘルペスの潜伏状態からの再活性化とに相関関係があり得ると多数の文献で報告されている。再活性化が起こる機構として提案されたものには、VZVの食作用に続いて起こる、MHCタイプII分子によって提示される非自己抗原を認識する作用を有する血液中のCD4レセプター担持Tリンパ球数が減少するなど、細胞性免疫の低下が含まれる。また、MHCタイプI分子が非自己抗原を認識及び提示した細胞を殺す作用を有するCD8Tリンパ球レベルの低下も、VZV再活性化を可能にし得る機構として示唆されている。Neumeyerら〔N.E.J.Med.p.1456,1986年5月29日〕は、帯状ヘルペスの前にCD4/CD8比が低下し、臨床症候が一段落するとその比がまた増加すると記載している。
【0005】
1つの実験で、VZVに対するCMI応答を増強(boost)する目的で水痘ワクチンを高齢被験者に投与した。VZV特異的CMIの年齢相関的減退が既に文献に記載されていること〔Miller AE.,Neurology(1980);30,582−587;Berger R.ら,Infect.Immun.(1981);32,24−27;Burke BLら,Arch.Intern.Med.(1982)142,291−293〕、及び(帯状ヘルペスのように)VZVの年齢相関再活性化がこの減退の結果である可能性があることから、かかる血清反応陽性個体のVZV免疫を試みたのであった。この弱毒化生ワクチンは十分に寛容され、深刻な局所的または全身性の反応は起こらず、中程度の反応もそれほど見られなかった。微小皮疹に現れるワクチンウイルスの全身拡散が起こった場合もあった(恐らくは6/245注射)。これは、文献記載の高齢患者における特異的細胞性免疫の低下と理論的に関わるものであるが、生じた病変部及び症候に臨床的有意性はないことが明らかとなった。このことは、血清反応陽性祖父母は、水痘の孫に暴露されても感染しないという逸話的知見と一致する。
【0006】
高齢者におけるVZV特異的免疫の不全はCMI応答の一般的低下に関わって起こる。これらは、遅延型過敏皮膚応答アッセイ〔Goodwin JSら,Clin.Exp.Immunol.(1982);48,403−410〕及びマイトジェンに刺激されたTリンパ球のin vitro増殖応答アッセイ〔Hayward ARら,J.Clin.Immunol.(1987);,174−178;Tice RRら,J.Exp.Med.(1979);149,1029−1041;Murasko DMら,Am.J.Med.(1986);81,612−618〕において検出されている。ほとんどの研究が、T細胞数は正常であるがCD4細胞は低下すると記載している〔Nagel Jeら,J.Immunol.(1981);127,2086−2088;Thompson JSら,J.Am.Geriate Soc.(1984);32,274−281〕。天然キラー細胞の数と機能はかかる患者において正常である〔Hayward AR,Herberger M.,J.Clin.Immunol.(1987);,174−178;Nagel Jeら,J.Immunol.(1981);127,2086−2088〕。Ticeらの研究で示されたような細胞周期の時間増加は、老化に伴うCMIの損失を説明し得るものである〔Tice RRら,J.Exp.Med.(1979);149,1029−1041〕。しかしながら、その後の研究では、抗原刺激後の細胞周期の変化即ちクローン膨脹度の低下に好都合ではない〔Staiano−Coico Lら,J.Immunol.(1984);132,1788−1792;Sohnie PGら,Clin.Exp.Immunol.(1982);47,138−146〕。代わりに、DNA分析により、高齢者由来のマイトジェン刺激細胞におけるDNA損傷、姉妹染色分体間の組換え及び細胞損失の頻度増加が示されている〔Dutkowski RTら,Mutat.Res.(1985);149,505−512〕。マイトジェンに対する増殖応答の低下には必ずしもIL2またはIL2R合成の低下が伴なうわけではない〔Dutkowski RTら,Mutat.Res.(1985);149,505−512〕。Chopraらによって見い出された最も一致した欠損は、γ−インターフェロン産生の増加と、追加免疫の使用を支援する刺激細胞の生存性の低下であった〔Chopra RKら,Clin.Immunol.Immunopathol.(1989);53,297−308〕。
【0007】
老齢化集団における別の実験からは、高齢者におけるHZの発生増加を伴なうVZV特異的免疫性の低下は、血液中のVZV特異的CD4細胞数の低下によって少なくとも一部は説明されることが判っている。しかしながら、かかる患者はT細胞数は正常であり、十分なIL2が存在するという条件でVZV抗原に応答しNK細胞活性は保存されている〔Hayward ARら,J.Clin.Immunol.(1987);,174−178〕。記憶細胞表現型(CD45RO)を発現するT細胞の数は年齢と共に増加し、28歳で平均43+17%であったものが70歳で平均65+14%となり、老化に伴うVZV特異的免疫性の減退は、この分画の選択的減損によるものではない。CD45RO細胞はCD45RA細胞よりもγ−インターフェロンを多く作り出し、これはChoplaらの結果と相関する。
【0008】
帯状疱疹の制御または再活性化の機構がどのようであるにしろ、帯状ヘルペスの再活性化(帯状疱疹)の予防によりヘルペス後神経痛が明らかに軽減したとすべき医学的証明はない。1つのクラスとしての化学療法剤はこの痛みのひどい病状に適用することにおいて絶望的である〔Watson,C.P.N.,Neurol.Clin.,231−248(1989);Strausら,Ann.Int.Med108,221−237(1988)〕。
【0009】
本発明は、ヘルペス後神経痛を低減すると共に帯状ヘルペス再活性化を緩和または阻害する方法を提供する。本発明方法の有用性は、VZV特異的リンパ球レベルが増加するというin vivoで得られる陽性結果によって示される。本発明方法に従う免疫によって誘発される応答細胞数RCF(responder cell frequency)の増加は、VZV再活性化及びヘルペス後神経痛を含む疾患状態に対して抵抗力のあるin vivo免疫状態を与える。広域にまたがる複数の実験場所において、発症の危険がある個体に弱毒化生抗原、死滅抗原、またはVZVもしくは組換え産物から精製したサブユニット抗原を投与した長期間臨床調査から、本発明の免疫はVZV再活性化に対して有意な保護をもたらし、再活性化が起きてもヘルペス後神経痛の期間または重症度を著しく軽減することが判った。
【0010】
(発明の要約)
ヘルペス後神経痛を軽減すると共に、発症の危険がある人において帯状ヘルペス再活性化を緩和または予防する方法であって、VZV抗原刺激を使用する方法を記載する。VZV抗原は、弱毒化生VZVウイルス、死滅全VZVウイルス、または全VZVもしくは組換え発現由来の精製VZVサブユニット抗原である。
【0011】
発症の危険がある個体は、非顕性であったとしても水痘(varicella,chickenpox)にかかったことがあるか、水痘生ワクチンを受けたことがある者である。特に発症の危険があるのは高齢または免疫弱体化個体である。発症危険状態は、陽性血清抗VZV抗体またはVZV抗原皮膚テストに対する陽性応答によって確認され得る。特に発症危険状態の指標となるものは、68,000に約1以下のVZV応答細胞数であり、一方RCFが40,000に1の応答細胞に近ければ保護状態に近づいている。
【0012】
発症の危険がある個体に免疫有効量のVZV抗原を投与し、発症危険状態への戻りを監視して、その時にはもう一度免疫を試みる。
【0013】
本発明方法の効能は、広域にまたがる複数の実験場所における長期間臨床調査において得られた陽性結果によって示される。
【0014】
(発明の詳細)
本発明の方法においては、帯状ヘルペスを発症する危険がある個体をVZV抗原を用いて免疫し、抗VZV免疫応答の高揚を誘発する。この免疫により、VZV再活性化に伴なうヘルペス後神経痛の重症度が低減されると共に、再活性化自体も低減または予防される。
【0015】
発症の危険がある個体には、非顕性であったとしても水痘を経験した者、水痘帯状ヘルペスウイルス生ワクチンを受容したことのある者が含まれる。なかでも特に発症の危険がある者は、いかなる理由にせよ免疫弱体化している者である。これは、後天性免疫不全症(例えばAIDS,ARC)の発症や化学療法その他の免疫抑制療法(例えば移植片拒絶反応免疫抑制)によるものであり得る。更に、帯状疱疹の発生率は年齢と共に増加する。50歳以上の発症の危険がある人では発生率は2.5〜5.0症例/1,000人/年であるが、80歳までに発生率は5〜10症例/1,000人/年に増加する。この危険性の増加は、VZVに対する細胞性免疫の減退に相関する。
【0016】
個人記録または記憶に頼らずに発症の危険がある個体であることを確定するため、後述の実施例セクションに記載のごとき単純な皮膚テストを実施し得る。発症の危険がある状態を判定する別の方法としては、例えば抗VZV抗体ELISAアッセイによる血清学的評価が挙げられる。更に別の方法はVZV特異的応答細胞数RCFを測定することであり、68,000に約1であれば個体は恐らく発症の危険があると推定される。しかしながら本発明においては、本発明の一律免疫に伴なう副作用はいかなる時点においても知られていないので、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染したり後天性免疫不全症候群(AIDS)が完全に発症したような重症の免疫弱体化個体は生体VZV抗原で免疫しないということとすれば、集団中の全個体を発症の危険があると見なしても差支えない。
【0017】
VZV抗原は、米国特許第3,985,615号明細書(Takahashi)または後述の実施例に記載の方法に従って調製した弱毒化生VZVであり得る。弱毒化生水痘の生存性は、多くの既知の安定化剤調製物のいずれかにおいて維持し得る。弱毒化Oka VZVはATCCに寄託されており(受託番号VR−795)、本出願人によってVARIVAX(登録商標)として市販されている。初めて予防接種を受ける未感染(naive)個体でも自然疾患を惹起しないように、または死滅もしくはサブユニットVZV抗原生産に差支えないほどに、十分に弱毒化してさえあれば、他のVZVの株を使用してもよい。
【0018】
VZV抗原は不活化ウイルスであってもよい。この材料は、生体VZVのアリコートを加熱し、適当なアッセイによって残留プラーク形成単位(PFU)の数をモニターするといった簡単な方法で調製することもできるし、既知量の時間及び強度でγ線照射するなどのより高度の技術によって不活化することもできる。死滅全ウイルスは本発明においては生体VZVと同様に有効であることが明らかであり、VZV抗原の完全性が保持される限りは任意の慣用手段によって製造し得る。抗VZV応答細胞数の上昇は、熱死滅VZVを約10μg以上の用量で使用しても、1000PFUの生体ウイルスを投与しても同じである。受容者が重度に免疫弱体化している場合には特に、死滅全VZVを使用することが好ましい。
【0019】
抗原は、VZVから精製または組換え手段によって生産し得るVZVサブユニット抗原または抗原混合物とし得る。純粋なVZV糖タンパク質はKellerら〔J.Virol.Methods14,177−188(1986)〕に従って製造し得る。1つの組合せにおいては、新命名法(new nomenclature system)〔Davisonら,J.Virol57,1195−1197(1986)〕に記載の3つのクラスgpI、gpII、gpIIIの各々から精製された1〜3種のVZV糖タンパク質が含まれる。
【0020】
本発明の方法においてはどの抗原を選択した場合でも、下記の本発明方法の免疫学的有効量及び効能の指標が有用である:
1.VZV特異的応答細胞数を約30%増加する(RCF,後述の実施例参照)。
2.VZV特異的CD8細胞(キラー細胞,後述の実施例参照)の高揚によって測定されるように抗VZV細胞障害性T細胞(CTL)を高揚する。
3.VZV特異的CD4細胞(後述の実施例参照)の高揚によって測定されるように抗VZVヘルパーT細胞を高揚する。
4.抗VZV特異的抗体のレベルを増加する。
5.インターフェロンのごときリンフォカインまたはインターロイキンのレベルを増加する。
6.個体におけるヘルペス後神経痛の期間または重症度を、帯状疱疹の発症後1カ月未満に軽減する。
7.統計学的検定による帯状疱疹発生率を、同様に発症の危険がある個体の一般集団に認められる発生率以下に低下させる。
【0021】
ヒトにおける細胞性免疫を定量するための一般的に容認されたin vitro方法はない。本発明者らは、この実験においてRCF分析を含む限界希釈培養を選択した。何故ならば、この方法はSIの測定より正確であろうと期待したからである。両分析方法とも免疫後にVZV特異的免疫の著しい増幅を示したが、本発明者らがRCFの結果を選択したのは、SI結果と比較してRCFの結果は平均からの標準偏差がより小さいことを見い出したことによる。これは、SIを計算するには一般に6〜8培養ウェルが使用されるのに対して、196の組織培養ウェルを分析してRCF推定に至ることにもよる。しかしながら、本発明者らが使用した限界希釈培養は応答数の間接的推定値しか与え得ない。この試験に使用した分母はフィコール濃度勾配から回収された細胞数であり、VZV特異的応答T細胞が引き出される記憶表現型であるCD4CD45RO集団に属するのはこれらの4分の1だけである〔Beverly PCL.,Curr.Top.Microbiol.Immunol.(1990);159,111−112;Hayward Aら,Viral Lmmunol.(1989);,175〕。従って本発明者らのRCF推定は、予防接種に対する応答を過小評価し易い。しかしながら、予防接種後に得られる平均RCF(1/40,000)はHZ後に達するものと同じ大きさであり〔Hayward Aら,J.Infect.Dis.(1991);163,873−875〕、ここでは、外来的に産生されたVZV抗原の負荷は大きいと見られる。予防接種後に得られる免疫レベルは35〜45歳の無症候個体に匹敵し得る。現状では免疫応答の増強は24カ月維持され、推定半減期は56カ月であり、これは年齢に依存しなかった。この後者の特性は、最高齢の個体が最もHZを発症し易く、予防ワクチン法の主なターゲットであることから重要である。
【0022】
予防接種後のRCF応答は、1,000〜12,000PFUの範囲で与えられるワクチン用量と相関しなかった。更に、応答被験者の度数は、より高いワクチン用量を与えても増加しなかった。これは、最低の投与量でもRCFに対する最大効果を与えるに十分なVZV抗原をもたらすほどの、受容者内でのワクチンウイルス複製が生ずる旨を証明するものであり得る。或いは、比較的少ない用量でも比較的高いVZV含有量(例えば1,000PFUは約2単位のVZV抗原を含む)が得られ、最高免疫に十分となり得る。培養細胞のγ−インターフェロン応答だけが用量の多さまたは年齢の若さと相関した。
【0023】
VZV抗体に及ぼすVZVワクチンの作用は、CMIに及ぼす作用よりも小さく且つ短期間であった。これは恐らく、力価はHZ後1〜2年間でベースラインレベルにまで低下する〔Hayward Aら,J.Infect.Dis.(1991);163,873−875〕が、VZV抗体レベルは老化に伴って著しく減退することはない〔Miller AE.,Neurology.(1980);30,582−587;Gershon AA,Steinberg SP.,Am.J.Med.Sci.(1981);282(1),12−17〕ことから、HZを予防するという長期目標に重要ではない。本発明者らの被験者におけるワクチン前平均VZV抗体レベルは、ELISAによって測定したところでは、ずっと若年の成人対照に匹敵した。
【0024】
ワクチン後の免疫応答評価は、VZV抗原に暴露されたMNCによるγ−インターフェロン放出の測定を含んだ。γ−インターフェロンが天然キラー細胞及び抗原特異的T細胞によって製造されるというin vitro証拠の故に〔Hayward ARら,Pediatr.Res.(1986);20,398−401〕、インターフェロン放出は独立の変数となり得るものとして評価した。天然キラー細胞及びγ−インターフェロンはいずれもin vitroでのヘルペスウイルス複製の制限に貢献する〔Leibson PJら,J.Virol.(1986);57,976−982〕。in vitroでのγ−インターフェロンの統計的に有意な増加が免疫の3カ月後に認められたが、標準誤差は極めて大きかった。従ってγ−インターフェロン測定値はVZV免疫の結果の強力な指標ではない。
【0025】
本発明を更に説明するために以下の実施例を与えるが、本発明はこれら実施例の詳細に制限されることはない。
【実施例1】
【0026】
VZV弱毒化生ワクチンの調製
A.VZV生産
弱毒化生水痘帯状ヘルペスウイルスは、米国特許第3,985,615号明細書または当分野において公知の任意の他の方法に従って生産し得る。
【0027】
B.VZV収率測定アッセイ
水痘帯状ヘルペスウイルス(VZV)調製物の感染力価を、Krahら〔J.Virol.Methods,1990,27:319−326〕またはTakahashiら〔Postgrad Med.J.61(別冊4)736−741(1985)〕によって記載されているアガロースオーバーレイ法または液体オーバーレイ法を使用して評価した。アッセイは以下のように実施した。
【0028】
MRC−5細胞を、60mm組織培養プレートにおいて、100mg/Lガラクトース、50μg/mlネオマイシン及び2mM L−グルタミンを含む5mlのBME(ハンクス平衡塩溶液を含むイーグルの基礎培地)中に6×10細胞で播種し、5%CO雰囲気下に35℃でインキュベートした。24〜48時間インキュベートすると細胞は50〜80%集密に達した。吸引によって増殖培地を除去し、適当なウイルス希釈液例えばSPGA緩衝液または液体維持培地(LMM)で希釈したVZV溶液100μlを用いて細胞を感染させた。SPGA緩衝液は7.5%(w/v)スクロース、11mMリン酸カリウム、0.1%(w/v)グルタミン酸ナトリウム及び1%ヒト血清アルブミンを含む。5%CO雰囲気下に35℃で1時間以上ウイルスと接触させた。次いでVZV感染細胞培養物の上に5mlのアガロースオーバーレイ培地(AOM)または液体維持培地(LMM)を重層した。アガロースオーバーレイ培地は2種類の液体、即ち液体オーバーレイ培地(LOM)とアガロース溶液の混合物であった。LOMは、イーグルの最少必須培地(MEM)、2%熱不活化ウシ胎児血清、50μg/ml硫酸ネオマイシン及び2mM L−グルタミンを含んでいた。アガロース溶液は、4.5gの低ゲル化温度アガロースを100mlのMEM中で121℃で15分間加熱し、次いで溶液を45℃まで冷却することにより調製した。AOMは、1倍容のアガロース溶液を4倍容の1.25倍に濃縮したLOMと45℃で混合することにより調製した。プレートを23〜25℃に冷却してAOMを固化させた。培養物をインキュベートしてプラークを発生させた。6〜7日後、LOMが入ったプレートに5mlのリン酸緩衝塩水溶液(PBS)を重層し、ガラス製のパスツールピペットを用いて周縁を離し、アガロースを取り出した。LMMを入れたプレートから培地を吸引し、エタノール−1%酢酸中に0.2%(w/v)クーマシーブルーR−250を含む溶液を用いて細胞を染色することによりプラークを可視化した。プラーク数は4〜5反復プレートの平均であり、1ml当たりのプラーク形成単位(PFU/ml)で表わす。
【実施例2】
【0029】
不活化VZVワクチンの調製
実施例1の方法または任意の他の方法に従って調製した生体VZVは、ウイルスのアリコートを約50℃で約5〜15日間インキュベートすることにより不活化し得る。或いは、ウイルスの抗原完全性が犠牲にならない限りは、γ線への暴露または任意の他のウイルス不活化手段によって生体VZVを不活化し得る。
【0030】
1つの実験においては、弱毒化生体CR453VARIVAX(登録商標)を以下のように不活化した。
【0031】
熱不活化方法:ロットCR453ワクチンの500個のバイアルを、再構成しないバイアルのまま、50℃のインキュベーター内で12日間加熱した。熱処理に続き、500個全ての加熱バイアルの各バイアルラベルの中央に目立つ安全赤色インクで三角形の印を付け、−20℃の保管庫に入れた。
【0032】
分析:
加熱ワクチン中に残留する感染性水痘ウイルス含量:Takahashiら,Postgrad Med.J61(別冊4)736−741(1985)に記載のごとく、プラーク形成単位数を測定した。10個の加熱ワクチンバイアルから得た全部で5mlの再構成材料を分析した。2.4プラーク形成単位/mlという値が得られた。未加熱ワクチンの基準アッセイは、3830プラーク形成単位/mlという値を与えた。
【0033】
ドットブロットアッセイによる水痘ウイルス抗原:ドットブロットアッセイによりまたは後述の実施例9に記載のごとく、ウイルス抗原質量を測定した。加熱産物は、ドットブロット分析によると1ml当たり9.8単位の抗原を含むと推定された。同時にアッセイした基準たる未加熱ワクチンは、1ml当たり9.4単位の抗原を含むと推定された。 イムノブロットによる抗原分析:他の物質に対して使用した方法に準じて設計した実験ウェスターンブロット法を使用し、加熱ワクチン及び正常ワクチン中の抗原を比較した。2種類の産物は、ウイルス糖タンパク質Iに対するヒトポリクローナル抗血清またはモノクローナル抗体のいずれかと反応させたイムノブロットの目視観察範囲内では相互に極めて同等であると見られた。
【0034】
上述のごとく不活化した全VZV試料を、帯状ヘルペスに対する細胞性免疫応答を活性化するための免疫原として使用した。約10,000PFUの生体または死滅VZVに相当する量を、帯状ヘルペスを発症する危険性のある人に投与した。免疫前及び免疫3カ月後の抗体応答(Ab)及びVZV応答細胞数(RCF)を以下にまとめて示す:
【0035】
【表1】

上記データは、生体VZVまたは死滅VZVのいずれを用いて免疫する場合も、抗VZV免疫応答が実質的に増強されたことを示している。
【実施例3】
【0036】
精製VZVサブユニット抗原の調製
VZVは、血清学的に別個の3種の糖タンパク質遺伝子産物GA、GB及びGCをコードし〔Kellerら,J.Virol52,293−297(1984)〕、これらは最近になってそれぞれGPIII、GPII及びGPIと改称されている〔Davisonら,J.Virol 57,1195−1197(1986)〕。実質的に均一のVZV糖タンパク質はKellerら〔J.Virol.Methods 14,177−188(1986)〕に記載のごとく調製し得る。簡単に述べると、完全フロイントアジュバント中の17μgの全VZVを使用してbalb/cマウスを免疫し、次いでアジュバントなしで25mgの腹腔内追加免疫を与え、あとで更に25μgのVZVを静脈内に導入した。3日後、脾臓を取り出し、脾細胞をSP 2/0マウスミエローマ細胞と融合した。ハイブリドーマ上清を抗VZVモノクローナル抗体についてスクリーニングし、限界希釈によってクローニングし、更に膨張させて腹水を生成した。モノクローナル抗体を精製し、VZV糖タンパク質特異性を免疫沈降によって分析した。
【0037】
20μg/gの臭化シアノゲンと活性化セファロース4B(Pharmacia)とをカップリングすることにより、特異性が与えられたモノクローナル抗体親和性樹脂を生成した。VZVに感染させたMRC−5細胞を50mM Tris,pH7.5、2%Triton X−100、4mM フェニルメチルスルホニルフルオリド中に抽出した。細胞抽出物を、リン酸緩衝塩水溶液と0.05%Triton X−100に対して透析した。次いで20mlの細胞抽出物を1gのモノクローナル抗体をカップリングした樹脂と結合することにより特異的糖タンパク質を単離した。スラリーを遠心し、洗浄し、結合した特異的糖タンパク質を3M KSCNを用いて溶離した。溶出液を、0.05%Triton X−100を含むリン酸緩衝塩水溶液に対して透析した。このようにして精製gpI、gpII及びgpIII糖タンパク質を得た。
【0038】
実質的に均一なVZV糖タンパク質を生成する別の方法は特異的VZV遺伝子産物の組換え生産を含む。即ち、Ellisら〔J.Virol53,81−88(1985)〕またはKellerら〔Virology 152,181−191(1986)〕の方法を使用し得る。
【実施例4】
【0039】
抗VZV皮膚テスト
水痘皮膚テストは、VZV抗原または対照抗原を皮下導入し、次いで抗原導入の約48時間後の紅斑変化を測定することにより実施する。従って、Kamigaら〔J.Inf.Dis136,784−788(1977)〕、Babuら〔J.Clin.Microbiol25,2193−496(1987)〕またはLafussaら〔J.Inf.Dis152,869−875(1985)〕の方法を使用して皮膚テストを実施し得る。或いは、実施例2に記載のごとく調製した不活化抗原または実施例3の精製抗原を使用してVZV抗原を与えることもできる。いずれの場合も、Takahashi〔Adv.Virus.Res28,285−356(1987)〕による陰性皮膚試験抗原アッセイは、水痘感染に対する感受性と密接に相関することを示した。この点に関して、細胞性免疫に密接に関与する分子量15,000〜45,000のVZV糖タンパク質は、帯状疱疹再活性化に対する感受性の指標として好ましい。
【実施例5】
【0040】
VZV応答細胞数アッセイ
VZV応答細胞数は当分野において公知の方法に従って測定することができ、例えば制限希釈分析がM.Zauderer〔Handbook of Experimental Immunology,第2巻−Cellular Immunology,Blackwell Scientific Publications,D.M.Weirら編(1986)−第65章〕によって記載されている。更に後述の実施例7のセクション5:「VZV抗原に応答して増殖する血液単核細胞(MNC)数測定」の記述も参照されたい。
【0041】
本発明の方法によれば、40,000に約1つの応答細胞に近い応答細胞レベルが得られ、これは帯状疱疹後の個体に認められるRCFと同じレベルである。
【実施例6】
【0042】
抗VZV細胞障害性T細胞レベルアッセイ
VZV細胞障害性アッセイ:末梢血単球(PBMN)を分離し、マイクロウェルにおいて生体VZVと一緒に10細胞/ウェルで培養した。7日後、1単位のIL2を各ウェルに加え、プレートを目視検査したとき増殖したウェルが観察されるまで、10日間培養を続けた。かかるウェルから幼若な細胞(blast cells)を回収し、1週間のクローン膨張のため、相同抗原及び自原性EBV細胞(5000rの放射線を照射したもの)並びに10u/ml IL2を用いて再刺激した。ここで生体VZVを使用して刺激することは、クラスI制限応答を誘発するためには生体ウイルス刺激が必要であるいうBracialeらの証言〔Immunol.Rev.,98,95(1987)〕、単球はVZVにより感染可能であるというデータ〔Arbeitら,Intervirology 18,56(1982)〕、並びにクラスI及びII抗原提示型の両方を有する自原性細胞が必要なことから行った。
【0043】
応答ウェル由来の細胞の、主に細胞障害性の阻害によるMHC制限〔Gastonら,Immunogenetics 19,475−486(1984)〕を試験した。T細胞を10/mlに懸濁させ、10個の細胞を、VZVと一緒にプレインキュベートした5×10個の自原性ターゲットまたは未関連ターゲットに加えた。(1)エフェクター細胞のアリコートをCD4及びCD8の表現型について分類し、(2)1μg/mlのW6/32(ATCCハイブリドーマバンクHB95,抗クラスI)またはHB55(ATCC,抗クラスII)を細胞障害性アッセイに加えることにより、MHC制限を判定した。かかる抗体は、混合リンパ球培養物中のクラスI及びクラスII制限細胞障害性細胞の発生をそれぞれ抑制するが故に適当である。6時間インキュベートした後にターゲット細胞からの51Cr放出を測定した。
【0044】
クラスIMHC制限細胞障害性細胞は、W6/32及びCD8表現型によって阻害可能なものとして同定された。クラスII制限細胞障害性細胞はHB55によって阻害され、エフェクターはCD4であった。若年成人において急性VZV後の種々の時点並びにOKA追加免疫の前及び後で得たPBMNの結果を比較した。
【実施例7】
【0045】
帯状ヘルペス発症の危険がある成人の免疫
1.集団
水痘歴はあるがHZにはまだかかっていない55〜87歳の個体に接種した。衰弱性または免疫抑制性の疾患をもつ者及び免疫抑制療法を受けている者は除外した。また、過去1カ月以内に別のワクチンを受けた者またはVZV予防接種後1カ月以内に別のワクチンを受ける予定の者、更にVZV予防接種から過去3カ月以内にγ−グロブリン療法を受けた者も除外した。
【0046】
2.ワクチン
弱毒化生ワクチン(Oka/Merck Strain)は−20℃の凍結乾燥状態で保存されており、それを蒸留水を用いて感染力価1,140pfu/0.5ml(ロットCR452)または3,010pfu/0.5ml(ロットCR320)に再構成した。他の弱毒化生体水痘帯状ヘルペスウイルスを使用することもできる。好ましいOkaウイルスは、米国特許第3,985,615号明細書の開示に従って調製することができ、該明細書は参照により本明細書の一部を構成するものとする。
【0047】
3.態様
ワクチン受容候補者を年齢によって分類した(55〜59;60〜64;65〜69;70〜79;80歳以上)。各年齢群の個体をランダムに割り当て、4種のワクチン用量:3,010pfu;6,020pfu;12,040pfuのいずれかを皮下注射するか、或いは3,010pfuの初回接種の3カ月後に3,010pfuの追加接種を行った。55〜59歳の別の個体をランダムに選択して1,140pfuを受けさせた。
【0048】
免疫直前と免疫の1、12及び24カ月後に、血清学的評価のためにワクチン受容者から採血した。更に追加免疫の3カ月後にも採血した。
【0049】
2週間ごとに電話し、ワクチン受容者のワクチン反応を42日間追跡した。また、ワクチン受容者は予防接種記録カードに徴候及び症候を記録した。彼らは予防接種後の5日間は毎日検温し、その後は熱があると感じたときのみ検温した。異常反応があった者は別個に評価し、VZVを想定して皮膚の病変部を培養した。患者には、HZを発症したと思われたときは電話連絡するよう指示しておいた。更に、1年目はHZについて問診するため毎月電話し、2年目の終わりにも同様に問診した。HZを表わすと思われる皮膚病変または疼痛症候を、身体検査、VZVを想定しての病変部培養、並びに急性及び回復期(HZの疑いが生じてから4〜6週間後)のVZV特異的免疫学的評価によって調査した。
【0050】
4.酵素結合免疫吸着法(ELISA)によるVZV抗原に対するIgG抗体の検出
【0051】
リン酸緩衝塩水溶液(PBS;0.15M,pH7)で1:20に希釈したVZV抗原及び対照抗原(M.A.Bioproducts,Walkerville,MD;カタログ番号30−149J(VZV抗原);30−150J(対照抗原))をそれぞれ0.1ml用い、IMMULON11プレート(Dynatech,Alexandria,VA;カタログ番号011−010−3450)のA〜D列及びE〜H列を4℃で一晩かけて被覆した。プレートをPBS中で濯ぎ、PBS中の1mg/mlゼラチンを用いて一晩かけてブロックした。患者及び対照の陽性血清を4倍希釈系列(出発時1:50)の抗原及び対照ウェルに加え、4℃で一晩インキュベートした。次いで、PBSで1:2000に希釈したペルオキシダーゼ接合アフィニティー精製ヤギ抗ヒトIgG(Tago,Burlingame,CA;カタログ番号2390)及びABTS基質(Sigma,St.Louis,MO)と一緒にインキュベートした。30〜60分間で発色し、ELISACALCソフトウェアを備えたDYNATECHプレート読取り装置においてODを読み取った。対照ウェルの光学密度をVZVウェルのそれから減算した。単一の陽性基準血清のアリコートを全てのプレートにおいて試験し、対数(希釈度)対対数(OD)の回帰直線を計算した。被検試料中のVZV抗体を基準血清のパーセントで表わした。
【0052】
5.VZV抗原に応答して増殖する血液単核細胞(MNC)数測定
Ficoll−Hypaque遠心によってヘパリン化血液からMNCを分離し、ハンクス平衡塩溶液中で洗浄し、抗体及び10%自原性血清を補充したRPMI1640培地中で培養した。応答細胞数(RCF)を決定するのに使用した限界希釈培養の詳細は公開されている〔Feldman Sら,Am.J.Dis.Child126,178−184(1973)〕。簡単に述べると、1ウェル当たり100,000、50,000、25,000及び12,500MNCを含む培養物をそれぞれ24個ずつ無細胞VZV抗原の1:200希釈物と一緒に10日間培養し、次いで1ウェル当たり0.25μCi[H]チミジン(TRK 61,Radiochemical Centre,Amersham;5Ci/mmol)と一緒に8時間パルス処理した。非感染細胞から調製した希釈対照抗原を用いて刺激したことを除き、対照培養物を同様に並行して調製した。応答ウェルとは、並行対照培養物の24個の平均+3SD cpmより大きいものと定義した。ウェル当たりの細胞数に対する非応答ウェルの割合の対数プロットにおいて、VZV抗原刺激ウェルの37%が非応答である点としてRCFは補間された〔Henry Cら,In Mishell BB,Shiigi SM編,Selected Methods in Cellular Immunology.San Francisco:Freeman Press(1980)〕。RCFは、1つのVZV特異的増殖細胞を検出するのに必要な平均MNC数であると表現される。
【0053】
被験者の2%において、10個の細胞を含む未刺激ウェル中の平均cpmが非応答ウェルの割合を人為的に増加した。本発明者らは、従ってこの被験者サブセットの12,500;25,000;及び50,000細胞/ウェルのデータポイントからRCFを計算した。データポイントの直線性が相当大きいため、かかる被験者の比較的低い細胞数におけるデータポイントの信頼性は高いことが裏付けられる。
【0054】
かかる培養物から刺激指数を得るため、刺激ウェル及び未刺激ウェルの数値平均を計算し、(刺激cpm/未刺激cpm)として表わした。
【0055】
6.VZV刺激MNC培養物におけるγ−インターフェロン産生
0.5ml中の5×10MNCの培養物を対照またはVZV抗原の1:20希釈物と一緒にインキュベートした。5日後、上清のγ−インターフェロンをELISA(Amgen,ABC 3,000;Thousand Oaks,CA)によって評価した。結果は国際単位(IU)/mlで表わした。
【0056】
7.VZV単離
丘疹または小疱疹を掻き取り、基材に強くこすり付けた後にヒト胚肺線維芽細胞(局所から取得;10〜20継代)中で培養することにより、皮膚病変部からVZVを単離した。特異的免疫蛍光法によってVZVを同定した。
【0057】
8.統計
適宜Bonferroni補正を加えた0.05有意率のStudentのt検定を用いて単純な比較を行った。性別、年齢、ワクチン用量及び免疫後の月数の影響を反復測定分析〔Laird NM,Ware JH.,Diometrics(1982);38,963−974;Jennrich R,Schluchter MD.,Biometrics (1986);42,805−820〕によって評価した。免疫持続期間を調査するために、Laird及びWareモデルの非線形類似形式を使用し、逆多項式モデルを適合させた〔Nelder JA.,Biometrics(1966):22,128−141;Hirst Kら,Commun.Stat.(1991):B20〕。
【0058】
結果
全部で202の個体を免疫した。138人の女性ワクチン受容者の平均年齢は65.8±7.3歳であり、64人の男性ワクチン受容者の平均年齢は67.7±6.5歳であった。全ての用量範疇において8〜15人の被験者が80歳以上であった。
【0059】
ワクチンは概して十分に寛容であった。25%未満のワクチン受容者が局所反応を有した。
【0060】
【表2】

局所反応は紅斑、腫脹及び/または圧痛からなった。局所反応の平均継続時間は、紅斑が2.9日間、腫脹が2.9日間、及び圧痛が3.6日間であった。かかる反応は、追加免疫を受けたワクチン受容者においても、度数がより高いこともないし、より重症であることもなかった。100°F以上の体温が認められたワクチン受容者は1%未満である。
【0061】
【表3】

ワクチン受容者の4%以下に種々の他の穏やかな症候が起こった。
【0062】
11人の患者が予防接種の40日以内に発疹を訴えた。
【0063】
【表4】

かかる個体のうち2人は、ワクチンに対して局所的紅斑反応しか示さなかったことが判った。6人は、免疫の3〜15日後に出現した1〜10病変部を含む筋肉丘疹状発疹を有した。VZVは、病変部を試験した5人の患者のうち1人からしか単離されなかった。このVZVは、制限酵素分析によって野生型であることが判明した。
【0064】
高齢患者における抗体レベルは、免疫前は対照標準基準血清の85%であった。水痘ワクチンを投与した後、抗体レベルは12カ月間にわたり著しく高くなった(p<.001)が、予防接種の24カ月後は高くなかった(p=.001)。用量、性別及び年齢はこの応答に影響しなかった。VZV刺激T細胞によるγ−インターフェロンのin vitro産生は免疫の3及び6カ月は著しく高かった(p<.001)が(図2)、この作用は12カ月までに失われた。ワクチン用量が高いか(p=.037)、年齢がより若いと(p=.023)、γ−インターフェロン応答はより高かった。
【0065】
細胞性免疫
追加免疫後のVZV抗原に対する細胞性免疫を測定するため、1ウェル当たり種々の数の細胞を使用して患者のMNCを培養した。かかる培養物を限界希釈培養によって分析し、血液中のVZV特異的T細胞数(RCF)の近似値を得た。数年にもわたる実験においてデータポイントを定量化及び比較することがより容易であろうと予想して本発明者らはこの方法を使用した。ワクチンを受容する前の被験者は平均RCF1:68,000(即ち68,000の末梢血MNC当たり1つのVZV特異的増殖細胞)を有した。これは予防接種の6カ月後までに1:40,000に増加し、24カ月間は免疫前のレベルよりかなり高く維持された(図3)(p=<.001)。予防接種前に100,000MNCに1つ以下の応答細胞を有したワクチン受容者の33%が1つの応答細胞を有するとして本発明者らの分析に含まれていることから、このRCFの平均向上は恐らく過小評価されている。予防接種の12または24カ月後のRCFの絶対値は、性別、投与量またはワクチン受容者の年齢の関数ではなかった。しかしながら、RCFが一時的増加に止まる場合(即ち予防接種前より12または24カ月後のほうがRCFが小さい)はより高齢の個体においてより大きく(p<.05)、これは、より高齢の個体においては免疫前のCMIが比較的乏しいこと、並びに年齢に関係なく全ての応答性ワクチン受容者が同様のワクチン後レベルを有したという事実を反映している。データの逆多項式モデル化から、6.34カ月に最高RCFに達し、この作用が半分になるのに55.9カ月を要することが推定される。ワクチン後免疫は309±364細胞/応答細胞/月の速度で失われる(95%信頼限界=0〜1,047細胞)。RCFは抗体またはγ−インターフェロン応答とあまり相関しなかった。
【0066】
一群のワクチン受容者は予防接種後のいずれの時点でも1RCF/10MNC以上を有することはできなかったことが特記される。この非応答群は、80歳以上のワクチン受容者において5〜8人が非応答者であったことを除き、全ての年齢群において同様(8〜20%)であった。年齢と非応答とには統計的に有意な相関はなく、また非応答は投与したワクチンの量とも相関しなかった。
【0067】
データを刺激指数として表わすと、VZV免疫の増強も検出された。かかる結果は対数分布であるので、分析のために対数変換した。当初、平均刺激指数は3.44(1SD範囲1.2〜9.9)であり;3カ月後は4.57(1.6〜12.8)であり;1年後は4.85(1.81〜13.5)であり;2年後は4.58(1.7〜17.1)であった。
【0068】
HZに対する保護
7人の患者の帯状ヘルペスの可能性を2年間(400患者年(patient−year)の観察に相当)にわたり評価した。この分析結果を下記の表4に示す。
【0069】
【表5】

1人が皮膚病変部由来の培養物中にVZVを与えた。他に3人が類似の臨床的症候を示し、そのうちの2人は、近年のVZV感染を示す回復期RCFの向上を示した。1人の患者は完璧な免疫学的評価を得たが、他の3人は、病変部がVZVによるものではなかったので、免疫学的評価は得られなかった。たった2人の疑似症例が急性疼痛を示し(各々4日間持続)、病変部治癒後に疼痛(ヘルペス後神経痛)を訴えたものはなかった。
【実施例8】
【0070】
VZVサブユニットワクチン調製
実施例3のサブユニット抗原を水酸化アルミニウムゲルを用いて製剤化し、約0.1μg/kg〜1mg/kgの用量で投与した。
【実施例9】
【0071】
VZV抗原の定量化のための競合ELISA
VZVプラークアッセイは時間を要するが故に、製造工程での使用には適さない。迅速なVZV抗原ELISAによって抗原量を測定し、水痘生ワクチンの製造の間のウイルス増殖をモニターし得る。更にこの試験を使用し、清澄化及び超音波処理したワクチンバルク中のVZV抗原の量を推定し得、更に凍結乾燥ワクチン充填バイアル中の抗原を測定し得る。簡単に述べると、このアッセイは、検査試料から採ったVZV抗原を抗VZV血清溶液と一緒にインキュベートすることにより実施される。残存する遊離抗体を、ELISAマイクロタイタープレート上に固定したVZV抗原に結合させる。プレートに結合し得る抗体の量は、検査試料中の抗原の量に逆相関する。プレートに結合している抗体を、酵素付着抗ヒト抗体及び着色生成物を与える適当な基質と反応させ、着色産物を分光光度計によって定量する。
【0072】
VZV抗原ELISA及びVZVプラークアッセイのデータは、一般に相関するデータを与えるべきであるが、VZV抗原アッセイは生存不可能なVZV及び生存可能なVZVの両方を検出することに留意されたい。抗原アッセイは更に、VZVワクチン受容者に投与される全抗原負荷の測定値を与えることにおいても貴重である。
【0073】
試験方法
1.ELISAプレートをVZV感染または未感染のMRC−5細胞由来の糖タンパク質(gps)で被覆し、抗体のプレートへの非特異的吸着を低減するよう更に1%ウシ血清アルブミン(フラクションV,#A−9647,Sigma)でオーバーコートする。一列おきにVZVまたは対照抗原で被覆する(即ちA、C、E及びG列はVZVgpを受容し、B、D、F及びH列は非感染MRC−5gp抗原を受容する)。
2.清澄化(最低3250g)した試験抗原を12×75mm試験管またはマイクロ試験管において安定化剤で希釈する。標準ウイルス抗原調製物(ドットブロットアッセイによれば26単位/ml VZV抗原)を1:10に希釈し、更に1:1.25倍に順次希釈し、2.6、2.1、1.7、1.3、1.1、0.9単位/mlの抗原濃度を得る。0.7及び0.5単位/mlの抗原を与える別の希釈物を含んでもよい。この希釈系列を使用し、検査試料中の抗原量の測定値の標準曲線を生成する。
3.ヒト抗VZV血清を安定化剤で、所望の最終希釈度の2倍に希釈する。
4.300μlの希釈抗原をマイクロ試験管中に分注し、300μlの希釈抗VZV血清と混合し、35℃で15〜22分間インキュベートする。対照はヒト抗VZV及び希釈物(抗原なし)を含む。
5.各血清−抗原混合物の100μlアリコートを、2つの同じVZV糖タンパク質(VZVgp)被覆ウェルと2つのMRC−5gp被覆ウェル(1試料当たり4つのウェル)に添加する(例えば:試料1はカラム1のA、B、C及びD列に;試料2はカラム2のA、B、C及びD列に;など)。
6.プレートを35℃で15±1分間インキュベートし、プレート上に固定したウイルス抗原に(溶液中の抗原と複合体形成していない)遊離抗体を結合させる。
7.未結合の抗体を洗浄によって除去し、結合ヒト抗体を検出すべくウェルにアルカリ性ホスファターゼ接合ヤギ抗ヒトIgGを加える。
8.35℃で15±1分間インキュベートした後、未結合の接合体を洗浄によって除去する。ジエタノールアミン緩衝液中に溶解したp−ニトロフェニルホスフェート基質と一緒に35℃で15分間インキュベートすることにより、結合した接合体を検出する。
9.50μl/ウェルの3M NaOHを加えることにより基質反応を停止させた後、マイクロプレート分光光度計を使用して発色(405nmにおけるOD)を定量する。
【0074】
試算及び判定
1.重複するVZV及びMRC−5被覆ウェルのOD値をそれぞれ平均する。経験から、MRC−5のODは異なる試料及び希釈物間で一貫していることが判っている。従って、プレート全体のMRC−5値を平均し、これを使用して一次抗体または接合体の未感染細胞抽出物への非特異的結合を補正する。MRC−5の平均ODをVZVの平均ODからそれぞれ減算し、VZV特異的OD(ΔOD値)を得る。
2.抗原量測定用標準曲線の生成:
標準曲線ΔOD値を既知の抗原濃度(単位VZV/ml)に対してプロットする。データを適当なグラフ作成プログラム(例えばCricket Graphバージョン1.3,Cricket Software,Malvern,PA)に入力し、曲線の直線形部分を同定し(少なくとも4つの点を含む必要がある)、「線形適合式」(y=a+bx)を得る。
3.検査試料の抗原量の計算:
a及びbの値は線形適合式によって与えられ、y(ΔOD)は既知である。単位/ml抗原を表わす残りの未知数xを計算し、試料希釈度によって補正し、未希釈試料の抗原濃度を得ることができる。一般計算法の一例は以下の通りである:
【0075】
【表6】

記録される抗原濃度は、標準曲線の線形部分内でΔOD値を与える最少希釈試料を用いて得られるものである。
【実施例10】
【0076】
臨床試験
抗帯状疱疹ワクチンの効能を試験する方法は下記の通りである。
a.帯状疱疹感受性成人集団の予防接種前のVZV応答細胞数、抗VZV抗体及びVZV特異的細胞障害性T細胞レベルを得る;
b.十分に大きな第1のVZV感受性成人集団を、生、不活化またはサブユニットVZVワクチンで接種し、十分に大きな第2の同様の成人集団(対照)を、生、不活化またはサブユニットVZVを除いたVZVワクチン希釈物で接種する;
c.接種後の応答細胞数、抗VZV抗体及びVZV特異的細胞障害性T細胞の値を得る;
d.(c)で得られた値を(a)で得られた値と比較し、接種後3カ月以内にVZV応答細胞数の30%増加、VZV特異的抗体の増加、及びVZV特異的T細胞の増加をもって抗VZVワクチン効能の指標とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
VZVに対して血清反応陽性を示し、約1:68,000以下のRCFを有する50歳以上の人におけるヘルペス後神経痛の期間及び重症度を軽減するためのワクチンであって、免疫有効量のVZVウイルスよりなり、前記VZVウイルスが、弱毒化生体VZVウイルス(OKA株)である、前記ワクチン。

【公開番号】特開2010−189420(P2010−189420A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97412(P2010−97412)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【分割の表示】特願平6−504529の分割
【原出願日】平成5年7月13日(1993.7.13)
【出願人】(390023526)メルク・シャープ・エンド・ドーム・コーポレイション (924)
【Fターム(参考)】