説明

帯状迷彩柄織物、帯状迷彩柄織物の製造方法

【課題】ジャガード織により目視及び赤外線による偵察機器に対して良好な偽装性能を有し、耐久性にも優れた擬装ベルトを提供する。
【解決手段】赤外線吸収剤と赤外線反射剤、及び各色に必要な着色マスターチップを混合したポリマーで溶融紡糸したライトグリーン糸、ダークグリーン糸、ブラウン糸及びブラック糸の4種の有色糸を、ジャガード織機で4層にかつ迷彩柄を有する帯状に製織するに際し、組み合わせ上の24パターンから、ライトグリーン糸の層にブラック糸の層が接する11パターンと、表面層がブラウン糸で、直下にライトグリーン糸の層が接する4パターンを除き、第1層に現れる図柄と第4層に現れる図柄とを部分的に相違させて、かつ、第1層及び第4層に各色のマンセル表色系におけるHVC特性及び各色の各波長域における反射率を所定値の範囲に収まるように織って擬装ベルトを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目視及び赤外線スコープにより認知されにくい帯状迷彩柄織物と、これを製造するための帯状迷彩柄織物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
戦場等で着用される衣服や様々な機器を覆うカバー用布帛の多くで、目視で周囲の環境との見分けがつきにくくなる迷彩色柄が採用されている。一方で、赤外線スコープによる偵察に対して偽装可能にする布帛として、例えば、赤外線の特定波長域の反射率を自然界の反射率と同レベルにする赤外線吸収色素を配合し、酸性染料を用いて染色した迷彩加工ナイロン布帛が下記特許文献1に提案されている。赤外線吸収剤を混合したポリマーを溶融紡糸することによって得られる繊維からなる布帛が下記特許文献2に提案されている。また、赤外線吸収剤を含む樹脂液のコーティングと迷彩色柄のプリント染色とを併用することで、迷彩色柄によって目視に対する偽装を行い、かつ特許文献1,2と同様な赤外線に対する偽装効果を得られるようにしたナイロン又はポリエステルの布帛が公知である。
【0003】
しかし、これら提案は布帛に関するものであって、厚みのあるベルト等の迷彩柄帯状物に関するものではない。例えば、細巾ベルトといった厚みが2mm以上あるベルト等を迷彩加工して染色すると、両端の着色が均一にならないで所望の迷彩色柄が得られず、十分な偽装効果が得られないという問題が発生している。
【0004】
したがって、戦争地域等に出向く、必要な訓練を行うといった状況において、弾帯ベルト、サスペンダー迷彩II型の細巾ベルト等に対して迷彩色柄で偽装するには、これらを布帛で覆う必要がある。しかし、ベルトを布帛で覆うと、滑りが生じやすいほか、締め付けに使用するバックルの把持力が安定し難い、布帛の脱落や破損によって容易に偽装が崩れてしまう等といった問題があった。
【0005】
これに対し出願人は、ジャガード織加工により迷彩色柄を形成し、肉眼において周囲の環境や物体との見分けがつきにくく、赤外線スコープによる偵察に対しても偽装可能とし、かつ耐久性に優れた擬装ベルトを下記特許文献3で提案するに至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3094130号公報
【特許文献2】特許第3088264号公報
【特許文献3】特許第4278165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
出願人は、迷彩色柄による偽装性能の向上と、赤外線スコープに対する偽装性能の向上とを鋭意検討していくうち、ジャガード織の場合、表面層に現れる色、例えば、第1層の色の赤外線に対する反射率が、直下の第2層に配置される色(着色糸)によって異なることが分かってきた。すなわち、1つの有色糸で筒網状に編んだ単色の状態で、マンセル表色系における色相(H)、明度(V)、彩度(C)の特性(以下、「HVC特性」という。)や赤外線反射率が所定の基準を満たしても、ジャガード織にすると当該基準を満足しない事実が分ってきた。
【0008】
ここで、迷彩色柄による偽装性能は、色のHVC特性とともに、ジャガード織により表面層に現れる図柄等によって決まる。さらに、所望の迷彩色柄を決定し、ジャガード織加工で偽装ベルトを構成する際には、特定波長域の赤外線に対する反射率を自然界の反射率と同レベルにすることを考慮する必要がある。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑み提案され、上述のようなジャガード織加工に基づいた特性を踏まえて、目視及び赤外線に対して偽装性能が良好に発揮されるようにした帯状迷彩柄織物と、これを製造するための帯状迷彩柄織物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
出願人は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0011】
本発明に係る帯状迷彩柄織物は、ライトグリーン糸、ダークグリーン糸、ブラウン糸及びブラック糸の4種の有色糸が、ジャガード織機で4層に、かつ迷彩柄を有する帯状に製織されて構成され、前記4層のうち表面層となる第1層及び第4層に、前記ライトグリーン糸の色が、マンセル表色系において色相(H)が1.0GY±1.2、明度(V)が4.5±0.3、彩度(C)が3.0±0.4で表色され、光の波長域600〜679nmに対して5〜20%、同680〜699nmに対して10〜25%、同700〜719nmに対して20〜35%、同720〜739nmに対して25〜45%、同740〜759nmに対して30〜55%、同760nmに対して35〜65%、及び、同1000〜1200nmに対して45〜65%の反射率で現れ、前記ダークグリーン糸の色が、マンセル表色系においてHが5.0GY±1.2、Vが3.6±0.3、Cが3.0±0.4で表色され、光の波長域600〜679nmに対して5〜20%、同680〜699nmに対して5〜25%、同700〜719nmに対して5〜30%、同720〜739nmに対して5〜35%、同740〜759nmに対して8〜45%、同760nmに対して10〜60%、及び、同1000〜1200nmに対して40〜60%の反射率で現れ、前記ブラウン糸の色が、マンセル表色系においてHが8.2YR±1.2、Vが3.0±0.3、Cが2.0±0.4で表色され、光の波長域600〜760nmに対して20%以下、及び、同1000〜1200nmに対して20〜40%の反射率で現れ、前記ブラック糸の色が、マンセル表色系においてHが制限無く、Vが最大2.5、Cが最大0.5で表色され、光の波長域600〜760nmに対して10%以下、及び、同1000〜1200nmに対して20%以下の反射率で現れていることを特徴とする。
【0012】
特に、表面層がライトグリーン糸の層であるとき、直下にダークグリーン糸の層又はブラウン糸の層が接していることが好ましい。
【0013】
また、上記第1層に現れる図柄と第4層に現れる図柄とが部分的に相違していることがさらに好ましい。
【0014】
さらに、本発明に係る帯状迷彩柄織物の製造方法は、ライトグリーン糸、ダークグリーン糸、ブラウン糸及びブラック糸の4種の有色糸を、ジャガード織機で4層に、かつ迷彩柄を有する帯状に製織するに際し、前記4層のうち表面層となる第1層又は第4層が前記ライトグリーン糸の層であるとき、直下に前記ダークグリーン糸の層又は前記ブラウン糸の層を接しさせ、前記第1層に現れる図柄と前記第4層に現れる図柄とを部分的に相違させて、かつ、前記第1層及び前記第4層に、前記ライトグリーン糸の色が、マンセル表色系において色相(H)が1.0GY±1.2、明度(V)が4.5±0.3、彩度(C)が3.0±0.4で表色され、光の波長域600〜679nmに対して5〜20%、同680〜699nmに対して10〜25%、同700〜719nmに対して20〜35%、同720〜739nmに対して25〜45%、同740〜759nmに対して30〜55%、同760nmに対して35〜65%、及び、同1000〜1200nmに対して45〜65%の反射率で現れ、前記ダークグリーン糸の色が、マンセル表色系においてHが5.0GY±1.2、Vが3.6±0.3、Cが3.0±0.4で表色され、光の波長域600〜679nmに対して5〜20%、同680〜699nmに対して5〜25%、同700〜719nmに対して5〜30%、同720〜739nmに対して5〜35%、同740〜759nmに対して8〜45%、同760nmに対して10〜60%、及び、同1000〜1200nmに対して40〜60%の反射率で現れ、前記ブラウン糸の色が、マンセル表色系においてHが8.2YR±1.2、Vが3.0±0.3、Cが2.0±0.4で表色され、光の波長域600〜760nmに対して20%以下、及び、同1000〜1200nmに対して20〜40%の反射率で現れ、前記ブラック糸の色が、マンセル表色系においてHが制限無く、Vが最大2.5、Cが最大0.5で表色され、光の波長域600〜760nmに対して10%以下、及び、同1000〜1200nmに対して20%以下の反射率で現れるように織って、帯状迷彩柄織物を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、赤外線吸収剤と赤外線反射材を混合したポリマーで紡糸するとともに、必要な着色料をそれぞれ含ませて形成したライトグリーン糸、ダークグリーン糸、ブラウン糸及びブラック糸の4種の有色糸を、ジャガード織機で4層に、かつ迷彩柄を有する帯状に製織することで製造される。さらに、製織するに際し、4層のうち表面層となる第1層又は第4層がライトグリーン糸の層であるとき、直下にダークグリーン糸の層又はブラウン糸の層を接しさせて織ること、第1層に現れる図柄と第4層に現れる図柄とを部分的に相違させて織ること、かつ、第1層及び第4層に、各色のHVC特性が所定の値の範囲に収まるように、各色の各波長域における反射率についても所定の値の範囲に収まるように織ることを要件としたものである。
【0016】
製織された本発明に係る帯状迷彩柄織物は、各色のHVC特性、表面層に現れる図柄等の何れの観点からも、良好な偽装性能を備えて、目視に対して周囲の環境との見分けをつきにくくすることができる。また、1000〜1200nmの赤外線波長域における各色の反射率が、下記[表1]に現される範囲に収まる構成となって、周囲の環境や物体の赤外線反射率に近く、赤外線スコープの偵察に対する偽装を良好に発揮することができる。
【0017】
【表1】

【0018】
したがって、本発明は、表面層に現れる色のHVC特性や赤外線波長域に対する反射率が直下の第2層に配置される色(着色糸)によって異なる等のジャガード織の特性を踏まえた上で、迷彩柄を有して厚みのある帯状に構成されるため、目視及び赤外線に対する偽装性能が良好に発揮される帯状迷彩柄織物と、これを製造するための帯状迷彩柄織物の製造方法を提供することができる。なお、本発明はジャガード織加工されるから、両端の着色が均一にならない等の問題が一切発生しない。また、戦争地域等に出向く、必要な訓練を行うといった状況で帯状迷彩柄織物を所定の布帛で覆うといった作業を不要にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ライトグリーン糸に関し、筒網(単色)の場合及びジャガード織加工により積層した場合の光の各波長域に対する反射率を表した説明図である。
【図2】ダークグリーン糸に関し、筒網(単色)の場合及びジャガード織加工により積層した場合の光の各波長域に対する反射率を表した説明図である。
【図3】ブラウン糸に関し、筒網(単色)の場合及びジャガード織加工により積層した場合の光の各波長域に対する反射率を表した説明図である。
【図4】ブラック糸に関し、筒網(単色)の場合及びジャガード織加工により積層した場合の光の各波長域に対する反射率を表した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る帯状迷彩柄織物と、これを製造するための帯状迷彩柄織物の製造方法に関し、具現化した一実施形態を図面に基づいて説明する。この一実施形態は、本発明の構成を具現化した例示に過ぎず、本発明は、特許請求の範囲に記載した事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことができる。
【0021】
本発明に係る帯状迷彩柄織物は、例えば、細巾ベルトといった厚み(例えば、2mm以上の厚み)のあるベルトを、その適用対象にする。その一例として本実施形態に係る偽装ベルトは、赤外線吸収剤と赤外線反射材を混合したポリマーで溶融紡糸するとともに、必要な着色料をそれぞれ含ませて形成したライトグリーン糸、ダークグリーン糸、ブラウン糸及びブラック糸の4種の有色糸が、ジャガード織機で4層に、かつ迷彩柄を有する帯状に製織されて構成される。
【0022】
偽装ベルトは製織するに際し、下記(1)〜(5)の点に留意して製造される。具体的には、4種の有色糸を用いてジャガード織機で4層に製織すると、4層で構成されるパターンの組み合わせが24パターン発生するが、そのうち下記(1)〜(5)に示される要件を満たすパターンのみを用いて製織するのである。以下、図1〜4を参照しつつ、偽装ベルトを製織して製造する方法について説明する。
【0023】
(1)4種の有糸色で織った4層の重層構造のうち、表面層である第1層又は第4層をライトグリーン糸の層で織ったとき、直下にダークグリーン糸の層又はブラウン糸の層を接しさせて織ること。
(2)4種の有糸色で織った4層の重層構造のうち、表面層である第1層又は第4層をブラウン糸で織ったとき、直下にライトグリーン糸の層を接しさせて織らないこと。
(3)4層の重層構造のうち、表面層となる第1層(表面)及び第4層(裏面)に現れる各色のHVC特性が、下記[表2]に示された値の範囲に収まるように織ること。
(4)第1層及び第4層に現れる各色の光の各波長域に対する反射率が、下記[表3]に示された値の範囲に収まるように織ること。
(5)第1層に現れる図柄と第4層に現れる図柄とを部分的に相違させて織ること。
【0024】
なお、図1〜図4においてMin、Maxは、周囲の環境や物体と同じレベルの反射率として許容される最小値、最大値を示している。また、図1〜図4において、パターンNo−1〜6は第1層にダークグリーン糸が現れるパターンである。パターンNo−7〜10、No−16,18は第1層にライトグリーン糸が現れるパターンである。パターンNo−11〜12、No−14,17,20,22は第1層にブラウン糸が現れるパターンである。パターンNo−13,15,19,21、No−23〜24は第1層にブラック糸が現れるパターンである。
【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
まず、偽装ベルトを製織するに際し、上記(1)の要件を満たす必要がある理由は、図1に示すように、ジャガード織機が表面層である第1層をライトグリーン糸で織ったとき、その直下の層(第2層)をブラック糸で織ると、ライトグリーン糸の層の光の各波長域に対する反射率が周囲の環境や物体の反射率と異なるレベルとなり、赤外線スコープによる偵察に対して偽装性能が発揮されなくなる場合があるからである([図1]中のパターンNo−10やパターンNo−16を参照)。具体的には、パターンNo−10及びパターンNo−16は、1000〜1200nmの赤外線波長域に対し、周囲の環境や物体の反射率と異なるレベルの反射率を有することになる。
【0028】
また、上記(2)の要件を満たす必要がある理由は、図3に示すように、ジャガード織機が表面層である第1層をブラウン糸で織り、その際にライトグリーン糸の層を接させて織って4層の重層構造とした場合にも、光の各波長域に対する反射率が周囲の環境や物体の反射率と異なるレベルとなる事象が発生する([図3]中のパターンNo−12やパターンNo−17を参照)。具体的には、パターンNo−12及びパターンNo−17では、1000〜1200nmの赤外線波長域に対し、周囲の環境や物体の反射率と異なるレベルの反射率を有することになる。
【0029】
本実施形態では、4種の有色糸を用いてジャガード織機で4層に製織し、偽装ベルトを製造するに際し、4層で構成される組み合わせパターンである24種のパターンのうち、ライトグリーン糸の層にブラック糸の層が接することになる11種のパターンを採用しないで偽装ベルトを製織した。また、表面層である第1層又は第4層がブラウン糸で、その直下がライトグリーン糸の層となる4種のパターンも採用しないこととした。ただし、本発明において、偽装ベルトの赤外線波長域に対する反射率を周囲の環境や物体のそれと同じレベルにするには、少なくとも上述した4種のパターン(パターンNo−10,12,16及び17)とともに、これら4種のパターンと表裏の関係にある4種のパターン(パターンNo−22,24,4及び5)を加えた全8種のパターンを除けば十分である。 したがって、本発明は、上述した8種のパターンのみを除いて製織した偽装ベルトを含むものである。
【0030】
次に、(3)は、表面層に現れた各色が迷彩柄を構成したとき、目視に対して周囲の環境や物体との見分けがつきにくい柄とするために求められる各色のHVC特性を示している。(4)は、表面層に現れた各色が赤外線スコープによる偵察に対して周囲の環境や物体と同じレベルの反射率とし、見分けがつきにくくするために求められる各色の各波長域における反射率を示している。
【0031】
ここで、図2に示すように、ダークグリーン糸の色は、有色糸単独の単色である筒網の状態のとき、1000〜1200nmの赤外線波長域において周囲の環境や物体の反射率と異なるレベルの反射率を有する波長域が存在する。しかし、4種の有色糸を用いてジャガード織機で4層に製織して偽装ベルトを製造すると、周囲の環境や物体と同じレベルの反射率で表面層に現れることになる([図2]中の筒網とパターンNo−1〜6との対比から理解される)。
【0032】
一方、図3に示すように、ブラウン糸の色は、有色糸単独の単色である筒網の状態のとき、光の各波長域において周囲の環境や物体の反射率と同じレベルの反射率を有する。しかし、4種の有色糸を用いてジャガード織機で4層に製織して偽装ベルトを製造すると、ジャガード織機が表面層である第1層をブラウン糸で織り、その際にライトグリーン糸の層を接しさせて4層を構成した場合、上述したようにパターンNo−12及びパターンNo−17で、1000〜1200nmの赤外線波長域で周囲の環境や物体の反射率と異なるレベルの反射率を有する事象が発生することになる。
【0033】
なお、図4は、ブラック糸に関し、単色の場合及びジャガード織加工により積層した場合の光の各波長域に対する反射率を表している。
【0034】
このように、ジャガード織の場合、表面層に現れる色の赤外線波長域に対する光の反射率が、直下の第2層に配置される色(着色糸)によって異なったり、有色糸単独の筒網の状態でHVC特性や赤外線反射率が所定の基準を満たさなくても、ジャガード織加工により重層構造とすると所望の要求を満たすようになったりする場合がある。また、その逆の場合もある。したがって、本発明は、ジャガード織加工により製織して4層の重層構造として構成したときに、表面層となる第1層(表面)及び第4層(裏面)に現れる各色のHVC特性が、上記[表2]に表された値の範囲に収まるように織り、第1層及び第4層に現れる各色の光の各波長域に対する反射率が、上記[表3]に表された値の範囲に収まるように織るのである。
【0035】
さらに、(5)は、本発明に係る好ましい形態であって、偽装ベルトの両面使用を可能とするための要件を示している。通常、ジャガード織加工により4層を構成すれば、表面層の第1層及び第4層に同じ図柄が現れる。しかし、目視に対して周囲の環境や物体との見分けがつきにくい柄とするために求められる迷彩柄は、目視される面の各色の組み合わせ比率が所定の範囲内である必要があり、その比率は色ごとに一律25%ではない。そうすると、例えば、表面層の第1層の各色の組み合わせ比率を所定の範囲に収めるようにしてジャガード織加工すると、第4層に現れる各色の組み合わせ比率が所定の範囲内に収まらない事象が発生する場合がある。
【0036】
したがって、本実施形態では、4種の有色糸を用いてジャガード織機で4層に製織してする際に、組み合わせ上の24パターンから、ライトグリーン糸の層にブラック糸の層が接する11パターンと、表面層である第1層又は第4層をブラウン糸で織り、その際にライトグリーン糸の層を接しさせて織る4パターンとを除き、残りの10パターンから適宜選択し、第1層及び第4層について第1層に現れる図柄と第4層に現れる図柄とを部分的に相違させて、第1層及び第4層の各色の組み合わせ比率が目視に対して周囲の環境や物体との見分けがつきにくい所定の範囲内にある迷彩柄となるように織る。これにより両面使用が可能になる。なお、残りの10パターンから適宜選択することができるとしたのは、組み合わせ上の24パターンのうち、ライトグリーン糸の層にブラック糸の層が接する11パターンに、表面層である第1層又は第4層をブラウン糸で織り、その際にライトグリーン糸の層を接しさせて織るパターンが1種含まれるからである。
【0037】
なお、擬装ベルトを構成する4つの有色糸を製造する方法は、特に限定されないで適宜の方法により達成される。例えば、溶融紡糸時に顔料や染料等の着色料を添加したり、あらかじめ着色料で着色した繊維又は紡糸して得られた繊維に対し、染料でチーズ染色加工したりする方法等を例示することができる。染料には、金属錯塩染料、ペリノン系染料、アンスラキノン系染料等を例示することができる。
【0038】
また、1000〜1200nmの赤外線波長域における各色の反射率を上記[表1]に現された値の範囲に収まる構成にするための、4つの有色糸に赤外線吸収剤や赤外線反射剤を混合する方法は、特に限定されないで適宜の方法により達成される。例えば、赤外線吸収剤と赤外線反射剤とを色ごとに所定の割合で混合してポリマーとし、溶融紡糸して得られる繊維により4つの有色糸を製造することを例示することができる。これにより、赤外線吸収剤や赤外線反射剤が繊維表面から脱落することがなくなる。
【0039】
混合する赤外線吸収剤は、カーボンブラック、チタンブラック、炭化ジルコニウム等を例示することができる。フタロシアニン化合物を含有した赤外線吸収剤は、特定波長域の反射率をコントロールしやすい。例えば、アビシア社製の900NP、925NP等が挙げられる。これらの化合物は単独又は複数で使用することができる。925NPを用いる場合、0.001〜0.005重量%の濃度で用いればよい。
【0040】
また、赤外線反射剤は、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム等を例示することができる。赤外線吸収剤と併用する場合、赤外線の波長域1200nm以上における反射率を選択的に上げるものとして酸化チタンが特に好ましい。酸化チタンを用いる場合、ナイロン系繊維であれば1.5〜2.5重量%、エステル系繊維であれば0.2〜0.5重量%の濃度で用いればよい。
【0041】
赤外線吸収剤や赤外線反射剤は、樹脂の重合時に添加してもよく、チップの段階で混合してもよい。繊維の内部に均一に分散させて溶融紡糸することができるチップの段階で混合することが好ましいといえる。また、赤外線吸収剤及び赤外線反射剤の平均粒子径は、0.1〜5μmが好ましく、0.1〜3μmがさらに好ましい。混合する赤外線吸収剤と赤外線反射剤とを合わせた混合量は、製品の固形分あたり重量比で0.01重量%〜5重量%とすることが好ましい。この混合量が0.01重量%未満であると、繊維中に均一に分散されにくくなり、赤外線波長域における偽装性能が不十分となる。混合量が5重量%を超えると、赤外線吸収剤、及び赤外線反射剤が原因で溶融紡糸時に糸切れが発生しやすくなる。
【0042】
本発明の擬装ベルトを構成する着色糸の素材としての繊維に用いられる重合体は、繊維形成可能なポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン等の重合体が好適である。具体的には、ナイロン6、ナイロン66、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等を例示することができる。また、これらの重合体の性質を本質的に変化させない範囲で、第3成分を共重合したり、混合したりすることができる。このほか、これらの重合体へ赤外線吸収剤や赤外線反射剤以外に、制電性、耐光性、耐熱性等を付与する添加剤を含有させてもよい。
【0043】
本実施形態では、原糸を製造するに際し、赤外線吸収剤としてフタロシアニン化合物を用い、ナイロン6チップと赤外線吸収剤とを0.002重量%混合し、さらに、着色マスターチップを混合し、260〜280℃で溶融した後、公知の紡糸装置を用いて紡糸し、延伸倍率4〜5倍で延伸し、巻き取って製造した。
【0044】
そして、本実施形態では、赤外線吸収剤と赤外線反射剤、及び各色に必要な着色マスターチップを混合したポリマーで溶融紡糸した。ライトグリーン糸、ダークグリーン糸、ブラウン糸及びブラック糸の4種の有色糸を、ジャガード織機で4層に、かつ迷彩柄を有する帯状に製織するに際し、組み合わせ上の24パターンから、ライトグリーン糸の層にブラック糸の層が接する11パターンと、表面層がブラウン糸で、直下にライトグリーン糸の層が接する4パターンとを除いて織り、4層のうち表面層となる第1層及び第4層について、第1層に現れる図柄と第4層に現れる図柄とを部分的に相違させて織り、かつ、第1層及び第4層に各色のマンセル表色系における色相(H)、明度(V)、彩度(C)が下記[表4]に現された値の範囲に収まるように、各色の各波長域における反射率を下記[表5]に現された値の範囲に収まるように織って製造されている。
【0045】
【表4】

【0046】
【表5】

【0047】
なお、本実施形態で使用した4つの有色糸を製造する際に使用した主顔料、赤外線反射剤及び赤外線吸収剤は、下記[表6]に表したとおりである。
【0048】
【表6】

【0049】
したがって、本発明では、表面層に現れる色のHVC特性や赤外線波長域に対する光の反射率が直下の層に配置される色(着色糸)によって異なる等のジャガード織の特性を踏まえた上で、色のHVC特性、表面層における各色の組み合わせ比率、表面層に現れる図柄等の何れの観点からも良好な偽装性能を備え、目視に対して周囲の環境との見分けをつきにくくすることができ、赤外線スコープの偵察に対する偽装を良好に発揮させることができる。また、ジャガード織加工によって従来の不都合を回避することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライトグリーン糸、ダークグリーン糸、ブラウン糸及びブラック糸の4種の有色糸が、ジャガード織機で4層に、かつ迷彩柄を有する帯状に製織されて構成され、
前記4層のうち表面層となる第1層及び第4層に、
前記ライトグリーン糸の色が、マンセル表色系において色相(H)が1.0GY±1.2、明度(V)が4.5±0.3、彩度(C)が3.0±0.4で表色され、光の波長域600〜679nmに対して5〜20%、同680〜699nmに対して10〜25%、同700〜719nmに対して20〜35%、同720〜739nmに対して25〜45%、同740〜759nmに対して30〜55%、同760nmに対して35〜65%、及び、同1000〜1200nmに対して45〜65%の反射率で現れ、
前記ダークグリーン糸の色が、マンセル表色系においてHが5.0GY±1.2、Vが3.6±0.3、Cが3.0±0.4で表色され、光の波長域600〜679nmに対して5〜20%、同680〜699nmに対して5〜25%、同700〜719nmに対して5〜30%、同720〜739nmに対して5〜35%、同740〜759nmに対して8〜45%、同760nmに対して10〜60%、及び、同1000〜1200nmに対して40〜60%の反射率で現れ、
前記ブラウン糸の色が、マンセル表色系においてHが8.2YR±1.2、Vが3.0±0.3、Cが2.0±0.4で表色され、光の波長域600〜760nmに対して20%以下、及び、同1000〜1200nmに対して20〜40%の反射率で現れ、
前記ブラック糸の色が、マンセル表色系においてHが制限無く、Vが最大2.5、Cが最大0.5で表色され、光の波長域600〜760nmに対して10%以下、及び、同1000〜1200nmに対して20%以下の反射率で現れている、
ことを特徴とする帯状迷彩柄織物。
【請求項2】
前記表面層が前記ライトグリーン糸の層であるとき、直下に前記ダークグリーン糸の層又は前記ブラウン糸の層が接している、
ことを特徴とする請求項1に記載の帯状迷彩柄織物。
【請求項3】
前記第1層に現れる図柄と前記第4層に現れる図柄とが部分的に相違している、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の帯状迷彩柄織物。
【請求項4】
ライトグリーン糸、ダークグリーン糸、ブラウン糸及びブラック糸の4種の有色糸を、ジャガード織機で4層に、かつ迷彩柄を有する帯状に製織するに際し、
前記4層のうち表面層となる第1層又は第4層が前記ライトグリーン糸の層であるとき、直下に前記ダークグリーン糸の層又は前記ブラウン糸の層を接しさせ、
前記第1層に現れる図柄と前記第4層に現れる図柄とを部分的に相違させて、
かつ、前記第1層及び前記第4層に、
前記ライトグリーン糸の色が、マンセル表色系において色相(H)が1.0GY±1.2、明度(V)が4.5±0.3、彩度(C)が3.0±0.4で表色され、光の波長域600〜679nmに対して5〜20%、同680〜699nmに対して10〜25%、同700〜719nmに対して20〜35%、同720〜739nmに対して25〜45%、同740〜759nmに対して30〜55%、同760nmに対して35〜65%、及び、同1000〜1200nmに対して45〜65%の反射率で現れ、
前記ダークグリーン糸の色が、マンセル表色系においてHが5.0GY±1.2、Vが3.6±0.3、Cが3.0±0.4で表色され、光の波長域600〜679nmに対して5〜20%、同680〜699nmに対して5〜25%、同700〜719nmに対して5〜30%、同720〜739nmに対して5〜35%、同740〜759nmに対して8〜45%、同760nmに対して10〜60%、及び、同1000〜1200nmに対して40〜60%の反射率で現れ、
前記ブラウン糸の色が、マンセル表色系においてHが8.2YR±1.2、Vが3.0±0.3、Cが2.0±0.4で表色され、光の波長域600〜760nmに対して20%以下、及び、同1000〜1200nmに対して20〜40%の反射率で現れ、
前記ブラック糸の色が、マンセル表色系においてHが制限無く、Vが最大2.5、Cが最大0.5で表色され、光の波長域600〜760nmに対して10%以下、及び、同1000〜1200nmに対して20%以下の反射率で現れるように織って、
帯状迷彩柄織物を製造する、
ことを特徴とする帯状迷彩柄織物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−112921(P2013−112921A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263332(P2011−263332)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【特許番号】特許第5061256号(P5061256)
【特許公報発行日】平成24年10月31日(2012.10.31)
【出願人】(390025531)三信製織株式会社 (5)
【Fターム(参考)】