説明

帯状金属材料の表面に被覆された皮膜の膜厚測定方法および校正板

【課題】長波長タイプの赤外線膜厚計を用いて化成処理皮膜の膜厚のオンライン計測する際に、装置コンディションの経時変化に伴う膜厚測定値の初期状態からのずれを精度良く校正する。
【解決手段】下記(1)式で定義されるRa比率が0.7〜4.0となるように表面粗さが調整された機械的粗面化表面を有するステンレス鋼板を校正板として使用する。
Ra比率=Ra[基材]/Ra[校正板] …(1)
ただし、
Ra[基材]; 前記基材(皮膜を持たないもの)の算術平均粗さRa(μm)
Ra[校正板]; 校正板の算術平均粗さRa(μm)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機系化成皮膜と有機系皮膜の両方に対応できるタイプの赤外線膜厚計を用いて、亜鉛めっき鋼板などの帯状金属材料の表面に被覆された無機系または有機系皮膜の膜厚を連続通板ラインにてオンライン計測する膜厚測定方法、およびそれに使用する校正板に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛めっき鋼板をはじめとする各種めっき金属板は、めっき表面の保護や耐食性向上などの目的で、めっき層の表面に化成処理を施すことが多い。また、ステンレス鋼板など、めっきを施さないで使用される金属板の表面にも化成処理を施すことがある。通常、このような化成処理は連続通板ラインにおいて行われる。すなわち、コイル状に巻かれた帯状金属材料を連続的にほどいて送り出し、これを長手方向に搬送しながら化成処理装置を通板させ、その後再びコイル状に巻き取るという連続通板ラインでの処理が行われる。溶融めっき鋼板の大量生産現場では、溶融めっき装置と化成処理装置を1つのライン内に直列配置した連続通板ラインが稼働している。
【0003】
化成処理等の表面処理を施す際には、その皮膜の厚さを精度良く管理することが重要となる。そこで、化成処理装置などの皮膜形成手段を備える連続通板ラインでは、コイル状に巻き取る前に、皮膜厚さを連続的または断続的に測定することが行われている。このように連続通板ライン内に設置された計測機器で通板中の材料の特性(ここでは膜厚)を測定することを本明細書では「オンライン計測」と呼んでいる。
【0004】
化成処理皮膜の膜厚をオンライン計測する装置として、無機系化成皮膜に対しては蛍光X線分析装置がある。しかし、蛍光X線分析装置は高価である。また被爆に対する安全性確保が必要となるなど装置の維持管理コストも高くなる。一方、有機系皮膜に対しては検出波長域が2〜4μm程度のいわゆる短波長タイプの赤外線膜厚計がある。ただし、短波長タイプの赤外線膜厚計は無機系化成皮膜に十分対応できない。
【0005】
最近では、環境にやさしいクロムフリー化成処理のニーズが高まっている。クロムフリー処理皮膜には有機系皮膜が採用されるケースも多い。したがって、化成処理を行う連続通板ラインでは、多様化する皮膜の種類に柔軟に対応できるよう、無機系、有機系の両方に対応でき、維持管理コストも低く抑えられる膜厚測定装置の採用が望まれていた。そこで昨今では、波長5.0〜10.0μmの赤外線波長域に検出範囲をもつ、いわゆる長波長タイプの赤外線膜厚計がオンライン計測に用いられるようになった(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−310906号公報
【特許文献2】特開2004−301672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
赤外線膜厚計は、赤外線光源(ランプ)から発せられた赤外光を干渉フィルターに通して、測定に適した波長域の赤外光とし、これを試料表面の皮膜に照射し、その反射光の強度を検出器により検出して赤外吸収スペクトルを求め、当該皮膜構成成分に特有の赤外吸収波長域における吸光度を算出して、予め得られている検量線と照合することにより皮膜の膜厚を求めるものである。赤外線光源は経時的に劣化していくので皮膜に照射される赤外線入射光の強度も経時的に変化していく。また、赤外光の光路にはレンズが介在し、レンズの汚れによっても検出器に届く赤外光の強度が変動する。このような赤外線膜厚計初期状態からの装置コンディションの経時変化に伴い、赤外線反射強度検出値は初期状態から次第にずれていく。このずれを補正しないと、検量線を用いて得られる膜厚値の誤差は次第に大きくなる。
【0008】
上記の誤差を是正するためには、標準試料である校正板を用いて被測定材料通板時期における初期状態からの反射強度のずれを把握し、測定された赤外吸収スペクトルのベースライン強度を補正したうえで、検量線との照合を行うことが有効である。このような校正手法は従来から行われている。校正板は、長期間保管しても表面性状に変化がなく、しかも赤外吸収の生じる皮膜を表面に有しない「裸の金属」であることが望まれる。このため従来は、基板上に金の蒸着めっきを施した標準試料(「金コートミラー」という)を校正板に使用するのが通常であった。短波長タイプの赤外線膜厚計を用いた有機系皮膜の膜厚測定においては、金コートミラーを使用した校正によって測定値の経時変化を精度良く補正することが可能であり、特に問題はなかった。
【0009】
しかしながら、無機系化成皮膜と有機系皮膜の両方に対応可能な長波長タイプの赤外線膜厚計を用いた場合、金コートミラーを使用した校正を行うと、測定された赤外吸収スペクトルにおける赤外線反射強度のベースラインが過度に補正されたり、補正が不十分であったりするケースが多々出現し、精度の高い校正を行うことが難しいという問題が生じた。
【0010】
本発明はこのような状況に鑑み、長波長タイプの赤外線膜厚計を用いた膜厚のオンライン計測において、装置コンディションの経時変化に伴う膜厚測定値の初期状態からのずれを簡易かつ安定的に校正する技術を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、校正板として、特定の表面粗さを有する機械的粗面化ステンレス鋼板を使用することによって達成される。
【0012】
すなわち本発明では、波長5.0〜10.0μmの赤外線波長域に検出範囲を有する赤外線膜厚計を用いて、帯状金属材料(「基材」という)の表面に被覆された無機系化成皮膜または樹脂成分を含む有機系皮膜の膜厚を連続通板ラインにてオンライン計測するにあたり、赤外線膜厚計初期状態からの装置コンディションの経時変化に伴う赤外線反射強度検出値のずれを校正するために、上記の皮膜を有しない金属板からなる「校正板」を使用して、初期状態に対する被測定材料(基材表面に上記皮膜を有する帯状材料)通板時期の赤外線反射強度の変位量を求め、被測定材料について測定された赤外吸収スペクトルのベースライン位置を前記変位量に応じて補正したうえで、検量線との照合を行う膜厚測定方法において、
下記(1)式で定義されるRa比率が0.7〜4.0となるように表面粗さが調整された機械的粗面化表面を有するステンレス鋼板を校正板として使用することを特徴とする帯状金属材料の表面に被覆された皮膜の膜厚測定方法が提供される。また、それに用いる校正板が提供される。
Ra比率=Ra[基材]/Ra[校正板] …(1)
ただし、
Ra[基材]; 前記基材(皮膜を持たないもの)の算術平均粗さRa(μm)
Ra[校正板]; 校正板の算術平均粗さRa(μm)
【0013】
前記基材としては、例えば溶融めっき鋼板が好適な対象となる。具体的には、亜鉛めっき鋼板、Zn−2.0〜20.0質量%Al−0.1〜5.0質量%Mgめっき鋼板、Zn−50.0〜60.0質量%Alめっき鋼板、またはAl−0〜13.0質量%Siめっき鋼板などが挙げられる。
【0014】
前記無機系化成皮膜としては、例えばリン酸塩皮膜、クロメート皮膜、またはクロムフリー皮膜が挙げられる。前記有機系皮膜としては、例えば樹脂成分を有するクロムフリー皮膜が挙げられる。
【0015】
前記校正板として使用するステンレス鋼板は、Cr:15.0〜20.0質量%、Ni:7.0〜16.0質量%を含有するオーステナイト系ステンレス鋼、またはCr:15.0〜24.0質量%を含有するフェライト系ステンレス鋼からなるものが好適な対象となる。オーステナイト系ステンレス鋼としては、Cr:15.0〜20.0質量%、Ni:7.0〜16.0質量%を含有し且つJIS G4305:2005の表2に規定されるオーステナイト系鋼種に相当する鋼が例示できる。フェライト系ステンレス鋼としては、Cr:15.0〜24.0質量%を含有し且つJIS G4305:2005の表4に規定されるフェライト系鋼種に相当する鋼が例示できる。
【0016】
前記校正板として使用するステンレス鋼板は、HL仕上げにより表面を粗面化したものが好適に採用できる。この場合、前記Ra[校正板]はHLの研磨方向に対して直角方向に測定される値であり、赤外線を照射する板面において赤外線入射光に垂直な方向をT方向とするとき、HLの研磨方向がT方向に対して直角方向となるように赤外線を照射して当該校正板を使用した赤外線反射強度を測定すればよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、めっき鋼板などの帯状金属材料の表面に化成処理を施す連続通板ラインにおいて、その化成処理皮膜の膜厚を長波長タイプの赤外線膜厚計によりオンライン計測するに際し、装置コンディションの経時変化に伴う膜厚測定値の初期状態からのずれを安定して精度良く校正することが可能となった。このタイプの赤外線膜厚計は無機系皮膜と有機系皮膜の両方に対応できるので、本発明は化成処理皮膜の多様化ニーズに応えるものである。また、校正板に汎用のステンレス鋼板が使用できるため測定コストの上昇も抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】校正板と赤外線入射方向の関係を模式的に示した図。
【図2】膜厚測定値のロット間変動を例示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
従来、有機系皮膜のオンライン計測に用いられていた短波長タイプの赤外線膜厚計は、波長2〜4μm程度の赤外光を検出範囲とするものであり、その検出器にはPbSe、PbS等の素子が使用されている。一方、本発明で対象とする長波長タイプの赤外線膜厚計は、波長5.0〜10.0μm程度の赤外光を検出範囲とするものであり、その検出器にはMCT(HgCdTe)等の素子が使用されている。発明者らは、後者のタイプにおいて金コートミラーを用いた校正精度が低下する原因について検討したところ、後者の検出素子は前者に比べ感度が低く、分解能に大きな差があることが主たる要因になっていると考えられた。例えば前者のPbSeを用いた検出器の場合、波長3μmの赤外光による金コートミラーの分解能(縦軸分解能)は1/7000程度である。これに対し、後者のMCTを用いた検出器の場合、波長5.0〜10.0μmの赤外光による金コートミラーの分解能は1/1000程度である。この数値が小さいほど分解能に優れると評価される。
【0020】
従来から校正板に使用されている金コートミラーは、算術平均粗さRaが0.01〜0.06μm程度と極めて平滑な表面を有している。この表面における赤外光(波長5.0〜10.0μm)の反射率は95〜98%と高い。一方、被測定材料の赤外吸収スペクトルのベースライン強度は、基材(皮膜の下地)の表面粗さに大きく影響される。基材が電気亜鉛めっき鋼板の場合、その算術平均粗さRaは0.7〜0.9μm程度であることが多く、前記赤外光の反射率は30〜60%程度となる。また基材が溶融亜鉛めっき鋼板の場合、その算術平均粗さRaは0.3〜0.6μm程度であることが多く、前記赤外光の反射率は40〜80%程度となる。このように、校正板として使用されている金コートミラーと被測定材料の基材とは、赤外線の反射率が大きく相違する。
【0021】
発明者らの検討によれば、検出器の分解能が劣る長波長タイプの赤外線膜厚計では、特に、上記のような校正板と基材の赤外線反射率の相違が、校正精度の低下を招く大きな要因となることがわかった。したがって、長波長タイプの赤外線膜厚計において校正板による校正精度を改善するためには、校正板と基材の表面粗さを近づけることによって、赤外線反射率の隔たりを是正することが極めて効果的である。本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
【0022】
〔校正板〕
本発明では、表面粗さが基材に近い金属材料であって、いわゆる裸の状態(測定対象となる無機系または有機系の皮膜を有しな状態)で現場保管時に表面が変質しない耐食性を有する材料を校正板に使用する。そのような材料としては粗面化ステンレス鋼板が挙げられる。ここで、「ステンレス鋼」はJIS G0203:2009の番号3801に規定されるように耐食性を向上させた合金鋼である。発明者らの詳細な検討の結果、そのような粗面化ステンレス鋼板としては、ステンレス鋼板の表面を機械的手段により粗面化したものが適用できることが明らかになった。例えばショットブラスト仕上げ、ダル仕上げ、HL(ヘアライン)仕上げによるものが挙げられる。ショットブラスト仕上げ、ダル仕上げおよびHL仕上げは、それぞれJIS G0203:2009の番号4216、4218および4226に規定されている。本発明ではこのような機械的粗面化表面を有するステンレス鋼板を校正板として使用する。
【0023】
校正板に用いるステンレス鋼板の表面粗さは、基材に対し下記(1)式で定義されるRa比率が0.7〜4.0を満たすようにすることが、校正精度を向上させるうえで極めて効果的である。Ra比率は0.8〜4.0であることがより好ましく、0.9〜3.5であることが一層好ましい。
Ra比率=Ra[基材]/Ra[校正板] …(1)
ただし、
Ra[基材]; 前記基材(皮膜を持たないもの)の算術平均粗さRa(μm)
Ra[校正板]; 校正板の算術平均粗さRa(μm)
【0024】
上記において、Ra[基材]の値は、被測定材料の皮膜を形成させる前の段階にある材料の表面粗さに相当する。具体的には化成処理工程に供する材料(めっき鋼板など)の表面粗さを測定すればよい。これらの基材の表面粗さは、基材の表面仕上げの種類および製造条件よってほぼ一定となる。したがって、通常は基材の品種ごとに予め求めてある表面粗さRaの値をRa[基材]として上記(1)式を適用し、それぞれに適した表面粗さRa[校正板]に調整されたステンレス鋼板を校正板として使用すればよい。
【0025】
図1に、校正板と赤外線入射方向の関係を模式的に示す。校正板1は表面に機械的粗面化表面2を有するステンレス鋼板である。図中には赤外線入射方向(光軸方向)3および赤外線反射方向4を記載してある。赤外線を照射する板面(機械的粗面化表面2)において、赤外線入射方向3に垂直な方向をT方向と呼ぶ。また、同板面においてT方向に対し直角方向をL方向と呼ぶ。校正板としてHL仕上げステンレス鋼板を使用する場合は、研磨方向(研磨目に沿う方向)に対して直角方向に測定したRaをRa[校正板]として採用する。そして、研磨方向がL方向と一致するように校正板を赤外線膜厚計の試料ホルダにセットし、当該校正板を使用した赤外線反射強度を測定する。
【0026】
校正板に使用するステンレス鋼種としては、製造現場の保管環境において、できるだけ長期にわたって表面性状が変化しない耐食性を有するものが望まれる。例えば、Cr:15.0〜20.0質量%、Ni:7.0〜16.0質量%を含有するオーステナイト系ステンレス鋼、またはCr:15.0〜24.0質量%を含有するフェライト系ステンレス鋼を選択することができる。規格鋼種としては、例えばCr:15.0〜20.0質量%、Ni:7.0〜16.0質量%を含有し且つJIS G4305:2005の表2に規定されるオーステナイト系鋼種に相当する鋼(代表例;SUS304)、またはCr:15.0〜24.0質量%を含有し且つJIS G4305:2005の表4に規定されるフェライト系鋼種に相当する鋼(代表例;SUS430)が挙げられる。
【0027】
オーステナイト系、フェライト系それぞれの鋼種について合金成分の含有量範囲を例示すると、以下の組成を挙げることができる。
【0028】
オーステナイト系鋼種;
質量%でC:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜4.0%、Mn:0.001〜2.5%、P:0〜0.045%、S:0〜0.03%、Ni:7.0〜16.0%、Cr:15.0〜20.0%、Mo:0〜7.0%、Cu:0〜3.5%、Nb:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、Al:0〜0.1%、N:0〜0.3%、B:0〜0.01%、V:0〜0.5%、W:0〜0.3%、Ca、Mg、Y、REM(希土類元素)の合計:0〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物
【0029】
フェライト系鋼種;
質量%でC:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜1.2%、Mn:0.001〜1.2%、P:0〜0.04%、S:0〜0.03%、Ni:0〜0.6%、Cr:15.0〜24.0%、Mo:0.3〜3.0%、Cu:0〜1.0%、Nb:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、Al:0〜0.2%、N:0〜0.025%以下、B:0〜0.01%、V:0〜0.5%、W:0〜0.3%、Ca、Mg、Y、REM(希土類元素)の合計:0〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物
【0030】
〔基材〕
基材としては化成処理や塗装に供される種々の帯状金属材料が対象となる。特に、めっきの後処理として化成処理を施すものが好適な対象となる。具体的には、亜鉛めっき鋼板、Zn−2.0〜20.0質量%Al−0.1〜5.0質量%Mgめっき鋼板、Zn−50.0〜60.0質量%Alめっき鋼板、Al−0〜13.0質量%Siめっき鋼板などが挙げられる。その他、化成処理を施して使用するステンレス鋼板も対象となる。
【0031】
〔皮膜〕
皮膜の種類としては、波長5.0〜10.0μmの赤外線波長域における赤外吸収スペクトルに基づいて検量線を用いた膜厚測定が可能な種々のものが対象となる。無機系化成皮膜の場合、リン酸塩皮膜、クロメート皮膜、クロムフリー皮膜などが挙げられる。有機系皮膜の場合、樹脂塗膜や、樹脂成分を有するクロムフリー皮膜が挙げられる。これらの各種皮膜には既に実用化されている種々のものが含まれる。
【0032】
〔膜厚の校正〕
校正板を用いた膜厚の校正は、従来、金コートミラー等の標準試料を校正板に用いて行っていた校正と同様の手順で行うことができる。ただし、予め基材の種類に応じて上記(1)式を満たすステンレス鋼板を校正板として用意し、赤外線膜厚計の初期状態(補正なしで検量線を適用することができる装置コンディション)での赤外線反射強度をそれぞれの校正板について測定し、そのデータを記録しておく必要がある。
【実施例】
【0033】
電気亜鉛めっき装置、化成処理装置、波長5.0〜10.0μmの赤外線波長域に検出範囲を有する赤外線膜厚系を1つのライン内に直列配置した連続電気亜鉛めっきライン、または溶融亜鉛系めっき装置、化成処理装置、波長5.0〜10.0μmの赤外線波長域に検出範囲を有する赤外線膜厚系を1つのライン内に直列配置した連続溶融亜鉛系めっきラインにおいて、各種化成処理皮膜を有するめっき鋼板を製造し、得られた皮膜の膜厚をオンライン計測により求めた。その際、校正板を用いた校正を行った。表1に校正板と被測定材料の組み合わせを示してある。表1の各試験No.ごとに、1つのコイルを1ロットとして、同一種類の被測定材料を16ロット連続通板し、各ロットのオンライン計測前に校正板を用いて、初期状態に対する各ロット通板時期の赤外線反射強度の変位量を求めた。そして、被測定材料について測定された赤外吸収スペクトルのベースライン位置の強度を前記変位量の分だけシフトさせる補正を行い、その補正後の赤外吸収スペクトルのデータを検量線と照合することによって、校正された平均膜厚を求めた。
【0034】
上記の初期状態は、赤外線ランプを更新し、工学系の調整(レンズの汚れ除去を含む)を実施した状態である。各皮膜についての検量線はこの状態で計測される赤外吸収スペクトルを基準として予め求めてある。校正の基準となる各校正板についての赤外線反射強度もこの状態で測定した。HL仕上げステンレス鋼板のRa[校正板]は、研磨方向に対して直角方向に測定したものである。HL仕上げステンレス鋼板を校正板に用いた校正では、研磨方向が図1に示したL方向と一致するように赤外線を校正板に照射した。表1中のRa[基材]は、それぞれ同一条件で製造されためっき鋼板サンプルについて予め測定してある値を用いた。
【0035】
上記の校正を行って1ロット〜16ロットそれぞれのロットにおける平均膜厚を求めた。そして、16ロットの平均膜厚測定値のロット間較差(最大値と最小値の差)が10mg/m2以内に収まった試験No.を○評価、それ以外を×評価とし、○評価を合格と判定した。なお、各ロットから採取したサンプルについて、別途、膜厚を実測した結果、いずれの試験No.においてもロット間較差は10mg/m2以内に安定していることが確認された。
【0036】
表1に結果を示す。また、図2に膜厚測定値のロット間変動を例示する。図2において、「金コート」と表示したものは試験No.2の例、「SUS/HL」と表示したものは試験No.7の例、「校正無し」と表示したものはNo.2において校正を行わずに検量線と照合した場合の例である。
【0037】
【表1】

【0038】
表1および図2からわかるとおり、(1)式を満たすように機械的手段により粗面化したステンレス鋼板からなる校正板を用いた本発明例では、赤外線膜厚系の装置コンディション経時変化による影響を受けにくい高精度の校正が可能であった。これに対し、金コートミラーを校正板に使用した従来の校正手法では、本発明例に比べ校正精度に劣った。試験No.5は、酸洗仕上げの表面を有するステンレス鋼板を校正板に使用したものである。機械的粗面化表面を有しないことにより、高精度の校正は実現できなかった。
【符号の説明】
【0039】
1 校正板
2 機械的粗面化表面
3 赤外線入射方向
4 赤外線反射方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長5.0〜10.0μmの赤外線波長域に検出範囲を有する赤外線膜厚計を用いて、帯状金属材料(「基材」という)の表面に被覆された無機系化成皮膜または樹脂成分を含む有機系皮膜の膜厚を連続通板ラインにてオンライン計測するにあたり、赤外線膜厚計初期状態からの装置コンディションの経時変化に伴う赤外線反射強度検出値のずれを校正するために、上記の皮膜を有しない金属板からなる「校正板」を使用して、初期状態に対する被測定材料(基材表面に上記皮膜を有する帯状材料)通板時期の赤外線反射強度の変位量を求め、被測定材料について測定された赤外吸収スペクトルのベースライン位置を前記変位量に応じて補正したうえで、検量線との照合を行う膜厚測定方法において、
下記(1)式で定義されるRa比率が0.7〜4.0となるように表面粗さが調整された機械的粗面化表面を有するステンレス鋼板を校正板として使用することを特徴とする帯状金属材料の表面に被覆された皮膜の膜厚測定方法。
Ra比率=Ra[基材]/Ra[校正板] …(1)
ただし、
Ra[基材]; 前記基材(皮膜を持たないもの)の算術平均粗さRa(μm)
Ra[校正板]; 校正板の算術平均粗さRa(μm)
【請求項2】
前記基材が溶融めっき鋼板である請求項1に記載の膜厚測定方法。
【請求項3】
前記溶融めっき鋼板は、亜鉛めっき鋼板、Zn−2.0〜20.0質量%Al−0.1〜5.0質量%Mgめっき鋼板、Zn−50.0〜60.0質量%Alめっき鋼板、またはAl−0〜13.0質量%Siめっき鋼板である請求項2に記載の膜厚測定方法。
【請求項4】
前記無機系化成皮膜は、リン酸塩皮膜、クロメート皮膜、またはクロムフリー皮膜である請求項1〜3のいずれかに記載の膜厚測定方法。
【請求項5】
前記有機系皮膜は、樹脂成分を有するクロムフリー皮膜である請求項1〜3のいずれかに記載の膜厚測定方法。
【請求項6】
前記校正板として使用するステンレス鋼板は、Cr:15.0〜20.0質量%、Ni:7.0〜16.0質量%を含有するオーステナイト系ステンレス鋼、またはCr:15.0〜24.0質量%を含有するフェライト系ステンレス鋼からなるものである請求項1〜5のいずれかに記載の膜厚測定方法。
【請求項7】
前記校正板として使用するステンレス鋼板は、Cr:15.0〜20.0質量%、Ni:7.0〜16.0質量%を含有し且つJIS G4305:2005の表2に規定されるオーステナイト系鋼種に相当する鋼、またはCr:15.0〜24.0質量%を含有し且つJIS G4305:2005の表4に規定されるフェライト系鋼種に相当する鋼からなるものである請求項1〜5のいずれかに記載の膜厚測定方法。
【請求項8】
前記校正板として使用するステンレス鋼板がHL仕上げステンレス鋼板であり、前記Ra[校正板]はHLの研磨方向に対して直角方向に測定される値であり、赤外線を照射する板面において赤外線入射光に垂直な方向をT方向とするとき、HLの研磨方向がT方向に対して直角方向となるように赤外線を照射して当該校正板を使用した赤外線反射強度を測定する請求項1〜7のいずれかに記載の膜厚測定方法。
【請求項9】
波長5.0〜10.0μmの赤外線波長域に検出範囲を有する赤外線膜厚計を用いて、帯状金属材料(「基材」という)の表面に被覆された無機系化成皮膜または樹脂成分を含む有機系皮膜の膜厚を連続通板ラインにてオンライン計測するにあたり、赤外線膜厚計初期状態からの装置コンディションの経時変化に伴う赤外線反射強度検出値のずれを校正するために使用する上記の皮膜を有しない金属板からなる「校正板」であって、
下記(1)式で定義されるRa比率が0.7〜4.0となるように表面粗さが調整された機械的粗面化表面を有するステンレス鋼板からなる校正板。
Ra比率=Ra[基材]/Ra[校正板] …(1)
ただし、
Ra[基材]; 前記基材(皮膜を持たないもの)の算術平均粗さRa(μm)
Ra[校正板]; 校正板の算術平均粗さRa(μm)
【請求項10】
前記ステンレス鋼板の鋼種が、Cr:15.0〜20.0質量%、Ni:7.0〜16.0質量%を含有するオーステナイト系ステンレス鋼、またはCr:15.0〜24.0質量%を含有するフェライト系ステンレス鋼である請求項9に記載の校正板。
【請求項11】
前記ステンレス鋼板の鋼種が、Cr:15.0〜20.0質量%、Ni:7.0〜16.0質量%を含有し且つJIS G4305:2005の表2に規定されるオーステナイト系鋼種に相当する鋼、またはCr:15.0〜24.0質量%を含有し且つJIS G4305:2005の表4に規定されるフェライト系鋼種に相当する鋼である請求項9に記載の校正板。
【請求項12】
前記ステンレス鋼板がHL仕上げステンレス鋼板であり、前記Ra[校正板]はHLの研磨方向に対して直角方向に測定される値である請求項9〜11のいずれかに記載の校正板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−196945(P2011−196945A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66820(P2010−66820)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】