説明

帯電フィルタ及びマスク

【課題】初期の捕集効率が高く、捕集効率の低下が生じにくく、圧力損失の上昇が抑制された、帯電フィルタ及びマスクの提供。
【解決手段】帯電フィルタ10は、極性液体を介して力を作用させて帯電された、液体帯電不織布層11と、複数種類の繊維成分同士を摩擦させて帯電された、摩擦帯電不織布層12を有することを特徴とすることで、初期の捕集効率が高く、捕集効率の低下が生じにくく、圧力損失の上昇が抑制された、帯電フィルタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は帯電フィルタ及び該帯電フィルタを備えるマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、空気中のじん埃を捕集するため、不織布からなるフィルタが使用されている。
【0003】
このような不織布からなるフィルタには、可能な限り高い捕集効率が求められてきた。不織布からなるフィルタにおけるじん埃の捕集は、主として物理的作用によるブラウン拡散、遮り、慣性衝突などによるものであるため、フィルタを構成する繊維の直径を小さくすれば、より小さなじん埃等を捕捉し、除去できるため、じん埃の捕集効率を高めることができる。
【0004】
しかしながら、捕集効率を向上させるために繊維の直径を小さくすればするほど、初期の圧力損失が高くなり、通気性に劣るという問題があった。
また、不織布からなるフィルタはじん埃の捕集が進行するとともに、フィルタの空隙にじん埃が保持されて目詰まりが生じ、圧力損失が上昇してゆくことが知られている。
【0005】
そのため、捕集効率が高いにも関わらず初期の圧力損失が低く、じん埃の捕集に伴う圧力損失の上昇を抑制したフィルタが求められてきた。
【0006】
この問題を解決する方法として、不織布からなるフィルタを帯電することで、物理的な捕集作用によるじん埃の捕集に加えて静電気的な捕集作用によるじん埃の捕集を利用することにより、捕集効率の向上、初期の圧力損失の低減、圧力損失の上昇の抑制を図るという試みがなされている。
【0007】
このような、帯電フィルタとして、熱可塑性樹脂からなる構造体に対し、極性液体を介して超音波を作用させて得られるエレクトレット体(特許文献1)が知られている。特許文献1が開示する実施例1のエレクトレット体は、メルトブロー技術で調製された不織布に極性液体を介して超音波を作用させて得られたものであり、大気埃の捕集効率に優れていることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-29944号公報(特許請求の範囲、0009、0024、0036-0040)
【0009】
しかしながら、帯電フィルタはじん埃の捕集が進むにつれて、帯電フィルタの電荷が中和されることにより静電気的な捕集作用が低下して、帯電フィルタの捕集効率が低下していくことが知られている。
【0010】
そして、静電気的な捕集作用が低下すると、じん埃の捕集が主に帯電フィルタの物理的作用に依存するものとなり、フィルタの空隙に目詰まりが生じて圧力損失が上昇する。
【0011】
本出願人は、従来技術よりも、更に初期の捕集効率が高く、捕集効率の低下が生じにくく、圧力損失の上昇が抑制された帯電フィルタを得るため、鋭意検討を続けた。
【0012】
また、帯電フィルタの濾過の対象がオイルミストを含む場合、帯電フィルタにオイルミストが付着することによって、帯電フィルタの電荷が急速に中和されて、静電気的な捕集作用に起因する捕集効率の低下が急速に生じることが知られている。また、電荷が中和されることによる帯電フィルタの静電気的な捕集作用の低下は、じん埃の捕集においては、捕集に伴う帯電フィルタの目詰まりによる物理的な捕集作用の上昇によって補われるものであるが、帯電フィルタの濾過の対象がオイルミストを含む場合、捕集に伴う帯電フィルタの目詰まりが生じにくく、そのため、帯電フィルタの捕集効率の低下が急激に生じる原因となっている。
【0013】
本出願人は、従来技術よりも、更にオイルミストの捕集を行うのに適した帯電フィルタを得るためにも、鋭意検討を続けた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述した従来技術が有する限界を超えるべくなされたもので、初期の捕集効率が高く、捕集効率の低下が生じにくく、圧力損失の上昇が抑制された帯電フィルタ及びマスクの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係る発明は、
「極性液体を介して力を作用させて帯電された液体帯電不織布層と、
複数種類の繊維成分同士を摩擦させて帯電された摩擦帯電不織布層を有することを特徴とする、帯電フィルタ。」
である。
【0016】
請求項2に係る発明は、
「前記液体帯電不織布層及び/又は摩擦帯電不織布層を、複数層有していることを特徴とする、請求項1に記載の帯電フィルタ。」
である。
【0017】
請求項3に係る発明は、
「前記液体帯電不織布層が、前記摩擦帯電不織布層よりも通気方向の上流側に存在していることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の帯電フィルタ。」
である。
【0018】
請求項4に係る発明は、
「オイルミストの捕集に使用することを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の帯電フィルタ。」
である。
【0019】
請求項5に係る発明は、
「請求項1〜請求項4のいずれかに記載の帯電フィルタを備えるマスク。」
である。
【発明の効果】
【0020】
本願発明の発明者らは、本発明の請求項1に係る帯電フィルタが、極性液体を介して力を作用させて帯電された液体帯電不織布層と、複数種類の繊維成分同士を摩擦させて帯電された摩擦帯電不織布層を有することを特徴とすることで、初期の捕集効率が高く、捕集効率の低下が生じにくく、圧力損失の上昇が抑制された、帯電フィルタであることを見出した。
【0021】
本願発明の発明者らは、本発明の請求項2に係る帯電フィルタが、前記液体帯電不織布層及び/又は摩擦帯電不織布層を、複数層有していることを特徴とすることで、更に、初期の捕集効率が高く、捕集効率の低下が生じにくい、帯電フィルタであることを見出した。
【0022】
本願発明の発明者らは、本発明の請求項3に係る帯電フィルタが、前記液体帯電不織布層が、前記摩擦帯電不織布層よりも通気方向の上流側に存在していることを特徴とすることで、更に、捕集効率の低下が生じにくい、帯電フィルタであることを見出した。
【0023】
本願発明の発明者らは、本発明に係る請求項1〜請求項3のいずれかに記載の帯電フィルタは、濾過の対象がオイルミストである場合でも、初期の捕集効率が高く、捕集効率の低下が生じにくく、圧力損失の上昇が抑制された、帯電フィルタであることを見出した。
【0024】
本願発明の発明者らは、本発明に係る請求項1〜請求項4のいずれかに記載の帯電フィルタを備えるマスクは、初期の捕集効率が高く、捕集効率の低下が生じにくく、圧力損失の上昇が抑制された、マスクであることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る、帯電フィルタの模式的断面図である。
【図2】本発明に係る、別の帯電フィルタの模式的断面図である。
【図3】帯電フィルタの、NaCl捕集時およびDOP捕集時の、捕集効率の経時的変化を示すグラフである。
【図4】帯電フィルタの、NaCl捕集時およびDOP捕集時の、圧力損失の経時的変化を示すグラフである。
【図5】別の帯電フィルタの、NaCl捕集時およびDOP捕集時の、捕集効率の経時的変化を示すグラフである。
【図6】別の帯電フィルタの、NaCl捕集時およびDOP捕集時の、圧力損失の経時的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
極性液体を介して力を作用させて帯電された液体帯電不織布層(11)と、複数種類の繊維成分同士を摩擦させて帯電された摩擦帯電不織布層(12)を有してなる、本発明の帯電フィルタについて、図1および図2を用いて説明する。
【0027】
本発明に係る、図1の帯電フィルタ(10)は、液体帯電不織布層(11)と摩擦帯電不織布層(12)が1層ずつ積層されてなる態様である。
【0028】
本発明に係る、図2の別の帯電フィルタ(10)は、液体帯電不織布層(11)と別の液体帯電不織布層(13)からなる2層の液体帯電不織布層と、摩擦帯電不織布層(12)1層が積層されてなる態様である。
【0029】
また、図1および図2の帯電フィルタ(10)においては、摩擦帯電不織布層(12)よりも通気方向(a)の上流側(紙面上方向)に、液体帯電不織布層(11、13)を有する。
【0030】
液体帯電不織布層(11)は、極性液体を介して力を作用させられることで帯電してなる、液体帯電不織布をベースとして構成されている。
【0031】
液体帯電不織布は、以下に説明する繊維からなる不織布を、後述する極性液体を介して力を作用させる帯電の過程(以降、液体帯電過程と称する)に供する、あるいは、以下に説明する繊維を液体帯電過程に供することで繊維を帯電してから不織布の態様にすることで得られる。
【0032】
液体帯電不織布を構成する繊維をなす成分として、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の有機ポリマーを挙げることができる。
【0033】
なお、これらの有機ポリマーは、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、またポリマーがブロック共重合体やランダム共重合体、有機ポリマーを多成分混ぜ合わせたものでも構わず、また有機ポリマーの立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。
【0034】
これら一連の有機ポリマーの中でも、体積固有抵抗値が1014Ω・cm以上の有機ポリマーを用いて繊維を構成すると、後述する、液体帯電過程において、繊維あるいは不織布の帯電量を多くできるため好ましい。体積固有抵抗値が1014Ω・cm以上の有機ポリマーとして、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリスチレン系樹脂など)、ポリ四フッ化エチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタンなどを挙げることができる。
【0035】
なお、本発明における「体積固有抵抗値」は、JIS K 6911に定められている「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準じた測定により得られる値をいう。
【0036】
さらに、液体帯電過程において、繊維あるいは不織布の帯電量を多くできるように、有機ポリマーにヒンダードアミン系化合物、脂肪族金属塩(例えば、ステアリン酸のマグネシウム塩、ステアリン酸のアルミニウム塩など)、不飽和カルボン酸変性高分子のうちから選ばれた1種または2種以上の化合物を、添加剤として添加することができる。
【0037】
これら一連の添加剤の中でも、繊維あるいは不織布の帯電量を更に多くできることから、有機ポリマーにヒンダードアミン系化合物を添加するのが好ましい。
【0038】
このようなヒンダードアミン系化合物の具体例として、ポリ[{(6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル){(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}}、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)などを挙げることができる。
【0039】
有機ポリマーに対する、これらの添加剤の添加量は特に限定されるものではないが、有機ポリマーの質量に対して、0.01〜5質量%の質量で添加されていることが望ましい。当該添加剤の含有量が0.01質量%未満では、液体帯電過程において繊維あるいは不織布への帯電効果が小さい傾向にあるためで、0.05質量%以上の添加量とするのが好ましい。また、当該含有量が5質量%を超えた場合、添加剤を添加した有機ポリマーからなる繊維あるいは不織布の強度が著しく低下する傾向にあるためで、より好ましくは当該含有量を4質量%以下とする。
【0040】
また、繊維あるいは不織布に機能性を付与するために、有機ポリマーに活性炭、抗菌剤、消臭剤などの添加剤を添加しても良い。
【0041】
上述の繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から繊維を抽出する方法、繊維を叩解して繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。
【0042】
液体帯電不織布を構成する繊維は、一種類の有機ポリマーから構成されてなるものでも、複数種類の有機ポリマーから構成されてなるものでも構わない。複数種類の有機ポリマーから構成されてなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの態様であることができる。
【0043】
平均繊維径の小さな繊維から液体帯電不織布が構成されていると、液体帯電不織布層(11)は緻密な構造をとることができるため、物理的なじん埃あるいはオイルミストの捕集能力が高い帯電フィルタ(10)を得ることができる。
【0044】
そのため、液体帯電不織布を構成する繊維の平均繊維径は、20μm以下であるのが好ましく、10μm以下であるのがより好ましく、6μm以下であるのが最も好ましい。平均繊維径の下限値は、帯電フィルタとした際の、初期の圧力損失が低く抑えられるように、1μm以上であるのが好ましく、2μm以上であるのがより好ましく、3μm以上であるのが最も好ましい。
【0045】
なお、本発明でいう「平均繊維径」は、不織布の厚さ方向における断面の1〜5万倍に拡大した顕微鏡写真を撮り、該顕微鏡写真から40点の繊維を選出して、該選出した繊維断面における直径(単位:μm、繊維径)の算術平均値(単位:μm)とする。なお、繊維断面形状が円形でない場合には、同じ断面積を有する円の直径を繊維径とする。
【0046】
さらに、じん埃の捕集に伴う圧力損失の上昇が抑えられるように、液体帯電不織布の見かけ密度は、100kg/m3以下であるのが好ましく、80kg/m3以下であるのがより好ましく60kg/m3以下であるのが最も好ましい。
【0047】
なお、この「見かけ密度」は液体帯電不織布層(11)1m3あたりの質量を算出した値である。
【0048】
上述の繊維よりなる不織布として、例えば、溶媒を用いずに繊維を不織布の態様とした乾式不織布、溶媒を用いて繊維を不織布の態様とした湿式不織布、直接法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)を用いて繊維の紡糸を行うと共にこれを捕集してなる不織布などが挙げられる。
【0049】
特に直接法を用いると、帯電効果を阻害する添加剤(繊維油剤、分散剤、界面活性剤など)を繊維あるいは不織布に添加する量を少なくでき、バインダを使用することなく繊維同士の接点を一体化して不織布を調製することができるため、好ましい。特に、緻密な構造の不織布を得ることができることから、メルトブロー法、静電紡糸法などを用いて不織布を調製するのが、より好ましい。
【0050】
本発明において液体帯電不織布は、上述のようにして得られた繊維あるいは不織布が、次に説明する液体帯電過程に供せられることで、調製されるものである。
【0051】
液体帯電過程とは、以下の中から選ばれる少なくとも1つの帯電方法を有した、繊維あるいは不織布の帯電過程である。
(1)繊維あるいは不織布に、極性液体を付与した後に、極性液体を介して力を作用させて、帯電させる方法。
(2)繊維あるいは不織布に、極性液体を付与すると同時に、極性液体を介して力を作用させて、帯電させる方法。
(3)繊維あるいは不織布を、容器に満たされた極性液体中に浸漬した状態で、極性液体を介して力を作用させて、帯電させる方法。
【0052】
極性液体として、例えば水、アルコール、アセトン、アンモニアが溶解した水などの、電気伝導率が低い液体を用いるのが好ましい。ここに云う電気伝導率とはJIS K 0101「工業用水試験方法」により測定されるものをいう。特に、極性液体として水を用いると、繊維あるいは不織布を帯電させる際の作業環境に優れること、並びに、帯電させた繊維あるいは不織布を調製する最終段階での乾燥に際して、引火又は発火を回避し得る点から、より好ましい。
【0053】
また、液体帯電過程において使用される極性液体の温度は、繊維あるいは不織布を好適に帯電できるのであれば、限定されるものではないが、40℃以下であることが好ましい。
【0054】
極性液体を繊維あるいは不織布に付与する方法として、例えば、スプレー、シャワー、ノズルなどを用いて極性液体を霧状、液滴状、液流状などの態様として付与する方法が挙げられ、極性液体に繊維あるいは不織布を浸漬する方法として、例えば、含浸装置(例えば、Rodney Hunt社のサチュレーター)を用いる方法、などが挙げられる。
【0055】
また、この時の極性液体の付与あるいは含浸方法は、好適に繊維あるいは不織布を帯電できるのであれば限定されるものではなく、適宜選択するのが好ましい。
【0056】
力を作用させる方法として、例えば、超音波、振動、極性液体を液流として衝突させる、などの方法が挙げられる。水流を衝突させる方法など、極性液体を液流として衝突させる方法を用いると、繊維あるいは不織布に、極性液体を付与すると同時に力を作用させることができる。
【0057】
不織布に力を作用させる方法として超音波を用いると、極性液体を衝突させる場合に比べて、不織布に開孔の形成および繊維配向の変化を生じることがないため好ましい。
【0058】
また、繊維あるいは不織布へと作用させる、力の強さや時間は、繊維あるいは不織布の帯電量を多くできるように、適宜調整するのが好ましい。
【0059】
次いで、このようにして極性液体を介して力を作用させた繊維あるいは不織布は、極性液体を除くために乾燥処理へ供される。
【0060】
繊維あるいは不織布の乾燥処理に使用する装置は、例えば、キャンドライヤやカレンダなどの加熱ローラ、熱風ドライヤ、熱風乾燥機、電気炉、ヒートプレートなど、公知の装置を挙げられる。乾燥処理における温度は、好ましくは120℃以下、より好ましくは105℃以下、さらに好ましくは90℃以下である。
【0061】
あるいは、上述の乾燥装置を使用することなく、繊維あるいは不織布を自然乾燥する、または、繊維あるいは不織布に超音波や振動を作用させて極性液体を除くなど、繊維あるいは不織布が加熱されない乾燥処理を行っても良い。
【0062】
液体帯電不織布は、不織布を以上の液体帯電過程に供することで得られる。あるいは、液体帯電不織布は、繊維を以上の液体帯電過程に供して帯電させてから、不織布の態様に調製することで得られる。
【0063】
このようにして得られる液体帯電不織布は、そのまま液体帯電不織布層(11)とすることもできるが、打ち抜きによる成形加工や、スリット加工やコルゲート加工などの後加工を施し、液体帯電不織布層(11)としても良い。
【0064】
必要であれば液体帯電不織布に、不織布やネットや織物や編み物などの補強材を積層した後に後加工を施し、液体帯電不織布層(11)としても良い。
【0065】
液体帯電不織布が補強材により補強されていると、その後の工程における液体帯電不織布の形態安定性が増すと共に、得られた液体帯電不織布の強度も向上し、取り扱いやすくなる。この時、補強材を液体帯電不織布の通気方向(a)の上流側(紙面上方向)に積層しても、液体帯電不織布の通気方向(a)の下流側(紙面下方向)に積層しても、好適に帯電フィルタ(10)を調製することができるのであれば、どちらでも良い。
【0066】
補強材として、帯電特性を劣化させる界面活性剤等の付着量が少ないことで、帯電フィルタの捕集効率の低下を招きにくい補強材を使用することが望ましい。例えば、スパンボンド不織布は界面活性剤等の付着量が少ないことから、補強材として好適に使用可能である。
【0067】
また、必要であれば液体帯電不織布に、抗菌剤、活性炭、消臭剤などが添加されてなる不織布やネットや織物や編み物などの、機能性付与材を積層した後に後加工を施し、液体帯電不織布層(11)としても良い。
【0068】
液体帯電不織布層(11)の厚さは、好適に帯電フィルタ(10)を調製することができるものであれば限定されるものではなく、適宜、調整されるのが好ましい。
【0069】
帯電フィルタ(10)の、捕集効率の高さ、静電気的な捕集作用に起因する捕集効率の低下の生じにくさは、液体帯電不織布層(11)の帯電量の影響をうけ、液体帯電不織布層(11)の帯電量は液体帯電不織布の単位面積当たりの質量(目付)および表面積の大きさの影響をうける。しかし、その一方、液体帯電不織布層(11)は繊維が密に集合して目付が高い態様であると、帯電フィルタ(10)の初期の圧力損失は高いものとなる。
【0070】
そのため、液体帯電不織布層(11)の目付は、10〜120g/m2の範囲であることが好ましく、30〜100g/m2の範囲であるのがより好ましく、50〜80g/m2の範囲であることが最も好ましい。
【0071】
なお、この「目付」は液体帯電不織布層(11)1mあたりの質量を算出した値である。
【0072】
摩擦帯電不織布層(12)は、複数種類の繊維成分を含むことで構成されてなると共に、複数種類の繊維成分同士が摩擦して帯電してなる、摩擦帯電不織布をベースとして構成されている。
【0073】
摩擦帯電不織布は、以下に説明する、互いに異なる繊維成分から構成されている複数種類の繊維あるいは、複数種類の繊維成分から構成されている繊維を、摩擦して帯電させる過程(以降、摩擦帯電過程と称する)に供したのち不織布の態様に調製する、あるいは摩擦して帯電させる過程に供すると共に不織布の態様に調製することで得られる。
【0074】
摩擦帯電不織布を構成する繊維をなす成分として、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の有機ポリマーを挙げることができる。
【0075】
なお、これらの有機ポリマーは、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、またポリマーがブロック共重合体やランダム共重合体、有機ポリマーが多成分混ぜ合わされたものでも構わず、また有機ポリマーの立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。
【0076】
これら一連の化合物の中でも、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維とアクリル系樹脂からなる繊維を用いて不織布を構成すると、摩擦帯電過程において、帯電量を多くした摩擦帯電不織布を得られるため好ましい。
【0077】
更に、繊維断面が略円断面であるアクリル系樹脂からなる繊維を用いた態様で不織布を構成すると、更に帯電量を多くした摩擦帯電不織布となるため、より好ましい。つまり、くびれた異形断面をもつアクリル系樹脂繊維を用いるよりも、略円形断面のアクリル系樹脂繊維を用いた方が、帯電量が多いため好適である。このような略円断面をもつアクリル系樹脂繊維は、例えば、「繊維便覧−原料編−」(繊維学会編,丸善株式会社刊,1970年10月発行.第727頁〜第779頁参照)に詳説されているように、硝酸、塩化亜鉛水溶液、塩化カルシウム水溶液、ロダン塩(チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸カルシウム)水溶液などの、無機系溶媒を用いて紡糸して得ることができる。なお、この略円断面のアクリル系樹脂繊維として、「エクスラン」(日本エクスラン工業(株),商品名)、「クレスラン」(米国AmericanCyanamid Co.製,商品名)、「ゼフラン」(米国The DowChemical Co.製,商品名)、「コーテル」(英国Courtaulds Co.製,商品名)などが挙げられる。
【0078】
他方のポリオレフィン系樹脂からなる繊維として、ポリオレフィン系樹脂の一部をシアノ基やハロゲンで置換した樹脂からなる繊維を用いることができる。また、ポリオレフィン系樹脂にリン系酸化防止剤及びイオウ系酸化防止剤が含まれていると、帯電量を多くした摩擦帯電不織布となるため、より好ましい。
【0079】
繊維あるいは不織布に機能性を付与するために、有機ポリマーに活性炭、抗菌剤、消臭剤などの添加剤を添加しても良い。
【0080】
上述の繊維は、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から繊維を抽出する方法、繊維を叩解して繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。
【0081】
摩擦帯電不織布を構成する繊維は、複数種類の有機ポリマーから構成されてなるものでも構わない。複数種類の有機ポリマーから構成されてなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの態様であることができる。
【0082】
摩擦帯電不織布が、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維とアクリル系樹脂からなる繊維からなる場合、その混合割合は、摩擦帯電過程によって好適に帯電量を多くできるのであれば限定されるものではなく、適宜選択するのが好ましい。例えば、ポリオレフィン系樹脂からなる繊維とアクリル系樹脂からなる繊維の質量混合比が、30:70〜80:20の範囲内となるように摩擦帯電不織布が調製されていると、摩擦帯電過程によって好適に帯電量を多くした摩擦帯電不織布となるため好ましい。
【0083】
摩擦帯電不織布を構成する繊維の平均繊度は、じん埃あるいはオイルミストを捕集できるとともに、次に説明する摩擦帯電過程において、帯電状態を安定して多くの電荷を帯びることができるように、その繊度は1dtex〜6dtexの範囲であるのが好ましく、1dtex〜4dtexの範囲であるのがより好ましく、1.5dtex〜3dtexの範囲であるのが最も好ましい。
【0084】
摩擦帯電過程において、繊維あるいは不織布に添加されている帯電効果を阻害する繊維油剤などの添加剤の量が多いと、帯電量に優れる摩擦帯電不織布をえるのが困難になる。そのため、繊維あるいは不織布を、例えば、温水やアルコールなどで洗浄して、帯電効果を阻害する添加剤の添加割合が、繊維質量に対して0.2質量%以下、好ましくは0.15質量%以下である状態として、摩擦帯電過程に供することが望ましい。
【0085】
摩擦帯電処理として、繊維同士を互いに摩擦して帯電させることができるのであれば、その方法は限定されるものではないが、フラットカードやローラーカードに代表されるカード機の他、ガーネット機或いはエアレイ法に属する装置を用いると、繊維同士が互いに摩擦しやすく、摩擦帯電を行うと共に不織布の態様に調製することができ、容易に摩擦帯電不織布を得られるため好ましい。
【0086】
また、得られた摩擦帯電不織布をそのまま摩擦帯電不織布層(12)として利用することもできるが、摩擦帯電不織布の強度を高めるため、また、補助的な摩擦帯電の向上を図るために、ニードルパンチ処理するのが好適である。
【0087】
更に、ニードルパンチ処理を行うことなく、又はニードルパンチ処理を行う前及び/又は後に、摩擦帯電不織布に振動を与える、揉むなどして、構成している繊維同士を互いに摩擦しても良い。
【0088】
摩擦帯電不織布がその帯電量に優れている理由は判明していないが、帯電発生が複数種類の有機ポリマー同士の摩擦に依存するものであり、有機ポリマー同士の摩擦は不織布の表面のみに生じるものではなく、その内部においても生じるものであるため、摩擦帯電不織布の全体において帯電が生じているためであると考えられる。
【0089】
そのため摩擦帯電処理は、プラズマ帯電処理あるいはコロナ帯電処理などの主に不織布の表面のみに帯電を付与する帯電方法よりも、不織布に効率よく帯電を付与できるものと考えられる。
【0090】
このような摩擦帯電不織布は、そのまま摩擦帯電不織布層(12)とすることもできるが、打ち抜きによる成形加工や、スリット加工やコルゲート加工などの後加工を施し、摩擦帯電不織布層(12)としても良い。また、必要であれば摩擦帯電不織布に、不織布やネットや織物や編み物などの補強材を積層した後に後加工を施し、摩擦帯電不織布層(12)としても良い。
【0091】
摩擦帯電不織布が補強材により補強されていると、その後の工程における摩擦帯電不織布の形態安定性が増すと共に、得られた摩擦帯電不織布の強度も向上し、取り扱いやすくなる。この時、補強材を摩擦帯電不織布の通気方向(a)の上流側(紙面上方向)に積層しても、摩擦帯電不織布の通気方向(a)の下流側(紙面下方向)に積層しても、好適に帯電フィルタ(10)を調製することができるのであれば、どちらでも良い。
【0092】
補強材として、帯電特性を劣化させる界面活性剤等の付着量が少ないことで、帯電フィルタの捕集効率の低下を招きにくい補強材を使用することが望ましい。例えば、スパンボンド不織布は界面活性剤等の付着量が少ないことから、補強材として好適に使用可能である。
【0093】
また、必要であれば摩擦帯電不織布に、抗菌剤、活性炭、消臭剤などが添加されてなる不織布やネットや織物や編み物などの、機能性付与材を積層した後、後加工を施し、摩擦帯電不織布層(12)としても良い。
【0094】
摩擦帯電不織布層(12)の厚さは、好適に帯電フィルタ(10)を調製することができるものであれば限定されるものではなく、適宜、調整されるのが好ましい。
【0095】
帯電フィルタ(10)の、捕集効率の高さ、静電気的な捕集作用に起因する捕集効率の低下の生じにくさは、摩擦帯電不織布層(12)の帯電量の影響をうけ、摩擦帯電不織布層(12)の帯電量は摩擦帯電不織布の単位面積当たりの質量(目付)および表面積の大きさの影響をうける。しかし、その一方、摩擦帯電不織布層(12)は繊維が密に集合して目付が高い態様であると、帯電フィルタ(10)の初期の圧力損失は高いものとなり、更に、後述するマスクへと成形する場合には、加工性が悪化するおそれがある。
【0096】
そのため、摩擦帯電不織布層(12)の目付は、60〜400g/m2の範囲であることが好ましく、100〜320g/m2の範囲であるのがより好ましく、140〜240g/m2の範囲であることが最も好ましい。
【0097】
なお、この「目付」は摩擦帯電不織布層(12)1mあたりの質量を算出した値である。
【0098】
図2の帯電フィルタ(10)のように別の液体帯電不織布層(13)を有することで、複数層の液体帯電不織布層を有する帯電フィルタ(10)であると、図1の帯電フィルタ(10)のように液体帯電不織布層(11)と摩擦帯電不織布層(12)を1層ずつ有する帯電フィルタ(10)よりも、帯電量を多くした帯電フィルタ(10)を得られるものとなり、更に、初期の捕集効率が高く、捕集効率の低下が生じにくい帯電フィルタ(10)を得ることができる。
【0099】
なお、別の液体帯電不織布層(13)は、液体帯電不織布をベースとして構成されており、液体帯電不織布層(11)と同様にして調製することができる。
【0100】
図2の帯電フィルタ(10)のように、液体帯電不織布層(11)よりも通気方向の下流側に別の液体帯電不織布層(13)が存在する場合、別の液体帯電不織布層(13)の見かけ密度は、適宜、調整するのが好ましいが、じん埃の捕集に伴う圧力損失の上昇が抑えられるように、200kg/m3以下であるのが好ましく、150kg/m3以下であるのがより好ましく、100kg/m3以下であるのが最も好ましい。
【0101】
なお、本発明でいう「見かけ密度」は、不織布の1m3あたりの質量を算出した値である。
【0102】
別の液体帯電不織布層(13)の厚さは、好適に帯電フィルタ(10)を調製することができるものであれば限定されるものではなく、適宜、調整されるのが好ましい。
【0103】
帯電フィルタ(10)の捕集効率の高さ、静電気的な捕集作用に起因する捕集効率の低下の生じにくさは、別の液体帯電不織布層(13)の帯電量の影響をうけ、別の液体帯電不織布層(13)の帯電量は液体帯電不織布の単位面積当たりの質量(目付)および表面積の大きさの影響をうける。しかし、その一方、別の液体帯電不織布層(13)は繊維が密に集合して目付が高い態様であると、帯電フィルタ(10)の圧力損失は高いものとなるため、前述の液体帯電不織布層(11)よりも下流側に位置する別の液体帯電不織布層(13)の目付は、液体帯電不織布層(11)の目付よりも軽いのが好ましい。
【0104】
図2のように、液体帯電不織布層(11)の下流側(紙面下方向)に別の液体帯電不織布層(13)が設けられて帯電フィルタ(10)が構成されている場合、別の液体帯電不織布層(13)には液体帯電不織布層(11)でろ過された空気が通過するため、別の液体帯電不織布層(13)が捕集するじん埃の量は液体帯電不織布層(11)の捕集するじん埃の量よりも少ないものとなり、別の液体帯電不織布層(13)には、じん埃の捕集に伴う圧力損失の上昇が起こりにくい。
【0105】
よって、液体帯電不織布層(11)よりも繊維径の小さな繊維から構成されていることで、より物理的なじん埃の捕集能力が高い別の液体帯電不織布層(13)であるのが好ましい。このような態様であることにより、更に、初期の捕集効率が高く、捕集効率の低下が少ない帯電フィルタ(10)を得ることができる。
【0106】
そのため、液体帯電不織布層(11)の下流側(紙面下方向)に位置する別の液体帯電不織布層(13)を構成する繊維の平均繊維径は、液体帯電不織布層(11)を構成する繊維よりも繊維径が細いことが好ましい。具体的な数値は、10.0μm以下であるのが好ましく、6.0μm以下であるのがより好ましく、4.0μm以下であるのが最も好ましい。平均繊維径の下限値は、帯電フィルタ(10)とした際の、初期の圧力損失及びじん埃の捕集に伴う圧力損失の上昇が抑えられるように、0.5μm以上であるのが好ましく、1.0μm以上であるのがより好ましく、1.5μm以上であるのが最も好ましい。
【0107】
本発明では、液体帯電不織布層(11)と摩擦帯電不織布層(12)を有してなる帯電フィルタ(10)であるため、初期の圧力損失を低下させることを目的として、液体帯電不織布層(11)に目付の少ない液体帯電不織布を用いたとしても、帯電量に富む摩擦帯電不織布層(12)が設けられていることで、帯電フィルタ(10)の物理的な捕集能力の低下を静電気的な捕集能力の向上によって補うことができる。
【0108】
そのため、液体帯電不織布層(11)と摩擦帯電不織布層(12)を有してなる帯電フィルタ(10)は、初期の圧力損失を低く抑えることができるにも関わらず、初期の捕集効率を高くすることができ、じん埃の捕集に伴う捕集効率の低下を小さくすることができ、また圧力損失の上昇を抑えることができる。
【0109】
各帯電不織布層を、接着剤や繊維接着などの接合手段などによって結合しても良いが、結合手段を用いることなく各帯電不織布層を積層して帯電フィルタ(10)を構成しても良い。接合手段を用いる場合には、接合範囲があまり広いと、帯電フィルタ(10)の捕集効率を低下させる原因となる恐れがあるため、部分的に接合されていることが望ましい。
【0110】
また、接合個所も帯電フィルタ(10)の周囲に設ける方が帯電効率を阻害しにくいので良い。例えば、帯電フィルタ(10)の周囲に0.1〜5mm幅の連続または不連続な線状の接合部を設けるのが好ましく、とくに0.5〜3mm幅の連続または不連続な線状の接合部を設けるのが好ましい。
【0111】
繊維接着による接合は熱融着によって行っても良いが、全体に熱が加わると繊維に保持されている電荷が移動し、帯電フィルタ(10)の静電気的な捕集作用が低下する場合があるため、超音波融着などの手段がより好ましい。
【0112】
各帯電不織布層は、そのまま帯電フィルタ(10)とすることもできるが、打ち抜きによる成形加工や、スリット加工やコルゲート加工などの後加工を施し、帯電フィルタ(10)としても良い。また、必要であれば積層された各帯電不織布層に、バインダや塗料や機能付加剤(抗菌剤、活性炭、消臭剤など)を添加して、あるいは、不織布やネットや織物や編み物などの補強材を積層した後に後加工を施し、帯電フィルタ(10)としても良い。
【0113】
帯電フィルタ(10)が補強材により補強されていると、帯電フィルタ(10)の形態安定性が増すと共に強度も向上し、取り扱いやすくなる。この時、補強材を帯電フィルタ(10)の通気方向(a)の上流側(紙面上方向)に積層しても、帯電フィルタ(10)の通気方向(a)の下流側(紙面下方向)に積層しても、好適に帯電フィルタ(10)を調製することができるのであれば、どちらでも良い。
【0114】
補強材として、帯電特性を劣化させる界面活性剤等の付着量が少ないことで、帯電フィルタの捕集効率の低下を招きにくい補強材を使用することが望ましい。例えば、スパンボンド不織布は界面活性剤等の付着量が少ないことから、補強材として好適に使用可能である。
【0115】
なお、本発明に係る帯電フィルタ(10)を構成する各帯電不織布層の、積層の順番、積層する各帯電不織布層の数、などは特に限定されるものではなく、適宜、調整するのが好ましい
1層の液体帯電不織布層(11)と1層の摩擦帯電不織布層(12)を有してなる帯電フィルタ(10)である場合、帯電フィルタ(10)の通気方向(a)の上流側(紙面上方向)から、摩擦帯電不織布層(12)、液体帯電不織布層(11)の順に各帯電不織布層が積層されてなる帯電フィルタ(10)とすることができる。
【0116】
2層以上の液体帯電不織布層(11、13)と1層の摩擦帯電不織布層(12)を有してなる帯電フィルタ(10)である場合、帯電フィルタ(10)の通気方向(a)の上流側(紙面上方向)から、摩擦帯電不織布層(12)、液体帯電不織布層(11)、別の液体帯電不織布層(13)とすることもできる。また、上述の例示に限定されず、各帯電不織布層を他の順番で積層して帯電フィルタ(10)を構成することができる。
【0117】
更に帯電フィルタ(10)が、複数層の液体帯電不織布層と複数層の摩擦帯電不織布層を有してなる態様である場合、各帯電不織布層の積層の順番は、適宜調製することができる。
【0118】
例えば図1および図2のように、液体帯電不織布層(11、13)が、摩擦帯電不織布層(12)よりも通気方向(a)の上流側に存在してなる帯電フィルタ(10)であると、液体帯電不織布層(11、13)が主なじん埃あるいはオイルミストを捕集する役割を担うことで、摩擦帯電不織布層(12)によるじん埃の捕集に伴う電荷の中和を抑制でき、帯電フィルタ(10)の捕集効率の低下を、更に防ぐことができる。そのため、1層以上の液体帯電不織布層が、摩擦帯電不織布層(12)よりも通気方向(a)の上流側に存在してなる帯電フィルタ(10)であるのが好ましく、全ての液体帯電不織布層が、摩擦帯電不織布層(12)よりも通気方向(a)の上流側に存在してなる帯電フィルタ(10)であるのが最も好ましい。
【0119】
また、複数層の液体帯電不織布層を有する帯電フィルタ(10)である場合、圧力損失が上昇しにくい帯電フィルタ(10)を得るため、液体帯電不織布層の内で、通気方向(a)の最も上流側に存在する液体帯電不織布層(図2における、11)は、他の液体帯電不織布層(図2における、13)よりも、繊維径の大きな繊維から構成されてなるのが好ましい。
【0120】
マスク用の基材として、以上の本発明の帯電フィルタ(10)を使用することができる。マスクの製造方法としては公知の方法を作用することができ、例えば、成形マスク用の基材として帯電フィルタ(10)を使用する場合には、帯電フィルタ(10)を、口を含む顔面の一部を覆うカップ形状に成形してマスクとすることができる。
【0121】
補強材を用いてマスクを調製する場合には、例えば、補強材と本発明の帯電フィルタ(10)を積層した後に成形することでマスクとする、あるいは成形された補強材に本発明の帯電フィルタ(10)を積層した後に成形することでマスクとすることができる。なお、成形前、成形と同時、又は成形後に、周辺を縫製、接着などにより接合することもできる。
【0122】
なお、一体化した帯電フィルタ(10)を補強材に積層するのではなく、成形前あるいは成形後の補強材に、液体帯電不織布層及び/又は摩擦帯電不織布層を個別に積層した後、成形することでマスクとすることができる。
【実施例】
【0123】
以下、本発明の理解を容易とするため特定の数値条件などを例示して説明するが、本発明はこれら特定条件にのみ限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内で設計の変更及び変形を行うことができる。
【0124】
A-1.液体帯電処理したメルトブロー不織布(A-1)の調製方法
体積固有抵抗値が1016程度(Ω・cm)である市販のポリプロピレン樹脂(株式会社プライムポリマー社製、プライムポリプロ)に対して、市販のヒンダードアミン系光安定剤(チバスペシャリティーケミカルズ株式会社製、CHIMASSORB 944FDL)を樹脂全体の4mass%混合し、メルトブロー法を用いて紡糸を行い、メルトブロー不織布(目付:50g/m、厚さ:0.8mm、平均繊維径:6μm)を調製した。

得られたメルトブロー不織布を、極性液体として電気伝導度が3.2(μS/cm)、温度が20±5℃の範囲に保たれた純水(蒸留、イオン交換を経た二次蒸留水に相当)が保持された浴槽内に搬送し、純水を担持させると共に周波数20kHzの超音波を作用させた。次いで、超音波を作用させたメルトブロー不織布をコンベヤ式ドライヤーを用いて105℃で乾燥し、液体帯電処理したメルトブロー不織布(目付:50g/m、厚さ:0.8mm、A-1)を得た。
【0125】
A-2.液体帯電処理したメルトブロー不織布(A-2)の調製方法
メルトブロー法を用いて紡糸を行い、メルトブロー不織布(目付:25g/m、厚さ:0.3mm、平均繊維径:3μm)を調製した以外は、A-1項と同様にして、液体帯電処理したメルトブロー不織布(目付:25g/m、厚さ:0.3mm、A-2)を得た。
【0126】
B-1.コロナ放電処理したメルトブロー不織布(B-1)の調製方法
A-1項で得られたメルトブロー不織布に対し、帯電処理としてコロナ放電処理(直流電圧:15kV)を行い、コロナ放電処理したメルトブロー不織布(目付:50g/m、厚さ:0.8mm、B-1)を得た。
なお、該不織布はコロナ放電処理によって、帯電していた。
【0127】
B-2.コロナ放電処理したメルトブロー不織布(B-2)の調製方法
A-2項で得られたメルトブロー不織布に対し、帯電処理としてコロナ放電処理(直流電圧:15kV)を行い、コロナ放電処理したメルトブロー不織布(目付:25g/m、厚さ:0.3mm、B-2)を得た。
なお、該不織布はコロナ放電処理によって、帯電していた。
【0128】
C-1.コロナ放電処理した水流絡合不織布(C-1)の調製方法
ポリプロピレン繊維(宇部日東化成株式会社製、NF、繊度:2.2dtex、平均繊維径:18μm、繊維長:51mm)をカード機によって開繊し、これを15MPaの水圧で水流絡合して、水流絡合不織布(目付:50g/m、厚さ:0.6mm)を調製した。
得られた水流絡合不織布に対し、コロナ放電処理(直流電圧:15kV)を行い、コロナ放電処理した水流絡合不織布(目付:50g/m、厚さ:0.6mm、C-1)を得た。
【0129】
D-1.摩擦帯電処理したニードルパンチ複合不織布(D-1)の調製方法
ポリプロピレン繊維(宇部日東化成株式会社製、NM、繊度:2.2dtex、繊維長:51mm)と、アクリル系繊維(日本エクスラン工業株式会社社製、エクスランK8、繊度:1.7dtex、繊維長:51mm)を、60℃の温水で洗浄し、繊維に付着した繊維油剤の量を繊維質量に対して0.1%以下になるように調整した後、混合比が(ポリオレフィン系繊維:アクリル系繊維)=(50質量%:50質量%)となるように均一に混ぜ合わせて、乾燥させた。
この混ぜ合わせた繊維をカード機によって繊維ウェブとすると共に摩擦帯電させ、この繊維ウェブをポリプロピレンスパンボンド不織布(三井化学製、シンテックスPK103、目付:15g/m)に積層して、針密度:160本/cm2の条件下において、繊維ウェブ側からニードルパンチ処理を行い、摩擦帯電処理したニードルパンチ複合不織布(目付:200g/m、厚さ:2.3mm、D-1)を得た。
【0130】
D-2.摩擦帯電処理したニードルパンチ複合不織布(D-2)の調製方法
ポリプロピレンスパンボンド不織布に積層する、繊維ウェブの目付を250g/mとした以外は、D-1項と同様にして、摩擦帯電処理したニードルパンチ複合不織布(目付:250g/m、厚さ:2.7mm、D-2)を得た。
【0131】
D-3.摩擦帯電処理したニードルパンチ複合不織布(D-3)の調製方法
ポリプロピレンスパンボンド不織布に積層する、繊維ウェブの目付を180g/mとした以外は、D-1項と同様にして、摩擦帯電処理したニードルパンチ複合不織布(目付:180g/m、厚さ:1.9mm、D-3)を得た。
【0132】
D-4.摩擦帯電処理したニードルパンチ複合不織布(D-4)の調製方法
ポリプロピレンスパンボンド不織布に積層する、繊維ウェブの目付を調製した以外は、D-1項と同様にして、摩擦帯電処理したニードルパンチ複合不織布(目付:275g/m、厚さ:3.0mm、D-4)を得た。
【0133】
E-1.コロナ放電処理したニードルパンチ複合不織布(E-1)の調製方法
ポリプロピレン繊維(宇部日東化成株式会社製、NM、繊度:2.2dtex、繊維長:51mm)を、カード機によって繊維ウェブとし、この繊維ウェブをポリプロピレンスパンボンド不織布(三井化学製、シンテックスPK103、目付:15g/m)に積層して、針密度:160本/cm2の条件下において、繊維ウェブ側からニードルパンチ処理を行い、ニードルパンチ複合不織布(目付:200g/m、厚さ:2.4mm)を得た。
得られたニードルパンチ複合不織布を30℃の温水で洗浄し、繊維に付着する繊維油剤の量を繊維質量に対して0.1%以下になるように調製した後、乾燥させてからコロナ放電処理(直流電圧:15kV)を行い、コロナ放電処理したニードルパンチ複合不織布(目付:200g/m、厚さ:2.4mm、E-1)を得た。
【0134】
(実施例1)
各帯電不織布層を接着せずに積層して、次の構成を有する、2層構造の帯電フィルタ(目付:250g/m2、厚さ:3.1mm)を得た。
通気方向(a)の上流側:目付が50g/m2の液体帯電処理したメルトブロー不織布(A-1)
通気方向(a)の下流側:目付が200g/m2の摩擦帯電処理したニードルパンチ複合不織布(D-1、ポリプロピレンスパンボンド不織布が通気方向(a)の下流側)
【0135】
(実施例2)
積層は実施例1と同様に行い、次の構成を有する、2層構造の帯電フィルタ(目付:250g/m2、厚さ:3.1mm)を得た。
通気方向(a)の上流側:目付が200g/m2の摩擦帯電処理したニードルパンチ複合不織布(D-1、ポリプロピレンスパンボンド不織布が通気方向(a)の下流側)
通気方向(a)の下流側:目付が50g/m2の液体帯電処理したメルトブロー不織布(A-1)
【0136】
(比較例1)
積層は実施例1と同様に行い、次の構成を有する、2層構造の帯電フィルタ(目付:250g/m2、厚さ:3.1mm)を得た。
通気方向(a)の上流側:目付が50g/m2の液体帯電処理したメルトブロー不織布(A-1)
通気方向(a)の下流側:目付が200g/m2のコロナ放電処理したニードルパンチ複合不織布(E-1、ポリプロピレンスパンボンド不織布が通気方向(a)の下流側)
【0137】
(比較例2)
積層は実施例1と同様に行い、次の構成を有する、2層構造の帯電フィルタ(目付:250g/m2、厚さ:3.1mm)を得た。
通気方向(a)の上流側:目付が50g/m2のコロナ放電処理したメルトブロー不織布(B-1)
通気方向(a)の下流側:目付が200g/m2の摩擦帯電処理したニードルパンチ複合不織布(D-1、ポリプロピレンスパンボンド不織布が通気方向(a)の下流側)
【0138】
(比較例3)
積層は実施例1と同様に行い、次の構成を有する、2層構造の帯電フィルタ(目付:250g/m2、厚さ:2.7mm)を得た。
通気方向(a)の上流側:目付が50g/m2のコロナ放電処理した水流絡合不織布(C-1)
通気方向(a)の下流側:目付が200g/m2の摩擦帯電処理したニードルパンチ複合不織布(D-1、ポリプロピレンスパンボンド不織布が通気方向(a)の下流側)
【0139】
(比較例4)
目付が250g/m2の摩擦帯電処理したニードルパンチ複合不織布(D-2)のみを用いて、1層構造の帯電フィルタ(目付:250g/m2、厚さ:2.9mm、ポリプロピレンスパンボンド不織布が通気方向(a)の下流側)とした。
【0140】
(比較例5)
積層は実施例1と同様に行い、次の構成を有する、2層構造の帯電フィルタ(目付:75g/m2、厚さ:1.1mm)を得た。
通気方向(a)の上流側:目付が50g/m2の液体帯電処理したメルトブロー不織布(A-1)
通気方向(a)の下流側:目付が25g/m2の液体帯電処理したメルトブロー不織布(A-2)
【0141】
(比較例6)
積層は実施例1と同様に行い、次の構成を有する、2層構造の帯電フィルタ(目付:250g/m2、厚さ:3.1mm)を得た。
通気方向(a)の上流側:目付が200g/m2の摩擦帯電処理したニードルパンチ複合不織布(D-1、ポリプロピレンスパンボンド不織布が通気方向(a)の下流側)
通気方向(a)の下流側:目付が50g/m2のコロナ放電処理したメルトブロー不織布(B-1)
【0142】
以上のようにして得られた、実施例1〜2、比較例1〜6の帯電フィルタを次の測定に供することで評価した。
【0143】
(捕集効率の測定方法)
防じんマスクに適用されている「防じんマスクの規格」(平成12年9月11日労働省告示第88号)第6条に記載されている試験方法に準じて行った。ここにはNaCl粒子による方法とフタル酸ジオクチルのミストによる方法とが記載されているが、本発明ではその双方による方法で評価した。
【0144】
1、NaCl粒子による捕集効率の測定方法
帯電フィルタを直径145mmの円形サンプルとして切り出し、規定の測定装置(柴田科学製、AP-9000型)に装着した。このときの帯電フィルタ円形サンプルにおける、有効濾過面積は124cm2であった。
粒子には粒径分布の中央値が0.06〜0.10μmで、その幾何標準偏差が1.8以下であるNaCl粒子を使用し、粒子濃度が50mg/m以下(濃度変動:±15%以下)となる条件で、試験流量を毎分85リットルとして、NaCl粒子を含有する空気を測定サンプル上流から供給した。NaCl粒子の供給量が計100mgになるまで、測定サンプル上流側と下流側で粒子濃度を光散乱式粉じん濃度計で測定した。この測定結果からNaCl粒子の供給量における捕集効率を求め、捕集効率の経時的変化として記録した。
捕集効率の値が100%に近いほど、じん埃の捕集効率が高い帯電フィルタであることを示している。
また、帯電フィルタにおける捕集効率の初期値と、NaCl粒子の供給量が計100mgとなるまでに記録された、捕集効率の最低値との差が小さいほど、じん埃の捕集による捕集効率の低下量が少ない帯電フィルタであることを示している。
【0145】
2、フタル酸ジオクチル(DOP)ミストによる捕集効率の測定方法
帯電フィルタを直径145mmの円形サンプルとして切り出し、規定の測定装置(TSI社製 AFT model-8130)に装着した。このときの帯電フィルタ円形サンプルにおける、有効濾過面積は124cm2であった。
粒子には粒径分布の中央値が0.15〜0.25μmで、その幾何標準偏差が1.6以下であるDOPミストを使用し、ミスト濃度が100g/m以下(濃度変動:±15%以下)となる条件で、試験流量を毎分85リットルとして、DOPミストを含有する空気を測定サンプル上流から供給した。DOPの供給量が計200mgになるまで、測定サンプル上流側と下流側でDOPミスト濃度を光散乱式粉じん濃度計で測定した。この測定結果からDOP供給量における捕集効率を求め、捕集効率の経時的変化として記録した。
捕集効率の値が100%に近いほど、オイルミストの捕集効率が高い帯電フィルタであることを示している。
また、帯電フィルタにおける捕集効率の初期値と、DOPミストの供給量が計200mgとなるまでに記録された、捕集効率の最低値との差が小さいほどオイルミストの捕集による捕集効率の低下量が少ない帯電フィルタであることを示している。
【0146】
3、NaCl粒子およびDOP粒子の捕集を行った際の、圧力損失の測定方法
NaCl粒子およびDOP粒子による捕集効率の測定を行っている際、その各測定点での試験流量を毎分40リットルとした時の圧力損失を微差圧計で測定し、NaCl粒子およびDOP粒子の捕集量における圧力損失を求め、圧力損失(吸気抵抗値)の経時的変化として記録した。
圧力損失の初期値が低く、NaCl粒子およびDOP粒子の捕集に伴う圧力損失の上昇(「圧力損失の最終値」−「圧力損失の初期値」)が低いほど、通気性に優れることを示している。
【0147】
実施例1〜2、比較例1〜6の帯電フィルタの測定結果を、表1および図3,4にまとめた。
【0148】
【表1】

*メルトブロー不織布をMB、ニードルパンチ複合不織布をNP、水流絡合不織布をHE、と略して記載する。
【0149】
測定の結果、実施例1の帯電フィルタは、NaCl粒子ならびにDOPミストの捕集における「捕集効率の初期値」と「捕集効率の最低値」が、比較例1〜6のいずれの帯電フィルタと比較して、共に最も高い値を示すこと、捕集効率の低下(「捕集効率の初期値」−「捕集効率の最低値」)が、共に最も少ない値を示すことが判明した。
【0150】
そして、実施例2の帯電フィルタは、NaCl粒子ならびにDOPミストの捕集における「捕集効率の初期値」と「捕集効率の最低値」が、比較例1及び比較例3〜6の帯電フィルタと比較して、共に最も高い値を示すこと、捕集効率の低下(「捕集効率の初期値」−「捕集効率の最低値」)が、共に最も少ない値を示すことが判明した。また、実施例2の帯電フィルタは比較例2の帯電フィルタよりも、DOPミストの捕集における「捕集効率の初期値」と「捕集効率の最低値」、及び捕集効率の低下(「捕集効率の初期値」−「捕集効率の最低値」)が小さいことが判明した。更に、実施例2の帯電フィルタは比較例2の帯電フィルタと、NaCl粒子の捕集における「捕集効率の初期値」と「捕集効率の最低値」は同等であるものの、NaClの捕集に伴う圧力損失の上昇が抑えられた帯電フィルタであることが、図3及び図4から判明した。
【0151】
この結果から、実施例1〜2の帯電フィルタは、液体帯電不織布層と摩擦帯電不織布層を有することを特徴とすることで、初期の捕集効率が高く、捕集効率の低下が生じにくい、帯電フィルタである。
【0152】
また、測定の結果、実施例1の帯電フィルタは、NaCl粒子ならびにDOPミストの捕集における「捕集効率の初期値」と「捕集効率の最低値」が、実施例2の帯電フィルタと比較して、共に高い値を示すこと、捕集効率の低下(「捕集効率の初期値」−「捕集効率の最低値」)が、共に少ない値を示すことが判明した。
【0153】
この結果から、実施例1の帯電フィルタは、液体帯電不織布層が摩擦帯電不織布層よりも通気方向の上流側に存在してなることを特徴とすることで、更に初期の捕集効率が高く、更に捕集効率の低下が生じにくい、帯電フィルタであることがわかった。
【0154】
更に、濾過の対象がオイルミストを含む場合であっても、実施例1〜2の帯電フィルタは、初期の捕集効率が高く、捕集効率の低下が生じにくい、オイルミストの捕集を行うのに適した、帯電フィルタであった。
【0155】
(実施例3)
各帯電不織布層を接着せずに積層して、次の構成を有する、3層構造の帯電フィルタ(目付:275g/m2、厚さ:3.4mm)を得た。
通気方向(a)の上流側:目付が50g/m2の液体帯電処理したメルトブロー不織布(A-1)
通気方向(a)における中流:目付が25g/m2の液体帯電処理したメルトブロー不織布(A-2)
通気方向(a)の下流側:目付が200g/m2の摩擦帯電処理したニードルパンチ複合不織布(D-1、ポリプロピレンスパンボンド不織布が通気方向(a)の下流側)
【0156】
(実施例4)
積層は実施例1と同様に行い、次の構成を有する、3層構造の帯電フィルタ(目付:275g/m2、厚さ:3.4mm)を得た。
通気方向(a)の上流側:目付が25g/m2の液体帯電処理したメルトブロー不織布(A-2)
通気方向(a)における中流:目付が50g/m2の液体帯電処理したメルトブロー不織布(A-1)
通気方向(a)の下流側:目付が200g/m2の摩擦帯電処理したニードルパンチ複合不織布(D-1、ポリプロピレンスパンボンド不織布が通気方向(a)の下流側)
【0157】
(実施例5)
積層は実施例1と同様に行い、次の構成を有する、3層構造の帯電フィルタ(目付:275g/m2、厚さ:3.2mm)を得た。
通気方向(a)の上流側:目付が50g/m2のコロナ放電処理した水流絡合不織布(C-1)
通気方向(a)における中流:目付が25g/m2の液体帯電処理したメルトブロー不織布(A-2)
通気方向(a)の下流側:目付が200g/m2の摩擦帯電処理したニードルパンチ複合不織布(D-1、ポリプロピレンスパンボンド不織布が通気方向(a)の下流側)
【0158】
(比較例7)
積層は実施例1と同様に行い、次の構成を有する、3層構造の帯電フィルタ(目付:275g/m2、厚さ:3.4mm)を得た。
通気方向(a)の上流側:目付が50g/m2の液体帯電処理したメルトブロー不織布(A-1)
通気方向(a)における中流:目付が25g/m2の液体帯電処理したメルトブロー不織布(A-2)
通気方向(a)の下流側:目付が200g/m2のコロナ帯電処理したニードルパンチ複合不織布(E-1、ポリプロピレンスパンボンド不織布が通気方向(a)の下流側)
【0159】
(比較例8)
積層は実施例1と同様に行い、次の構成を有する、3層構造の帯電フィルタ(目付:275g/m2、厚さ:3.4mm)を得た。
通気方向(a)の上流側:目付が50g/m2のコロナ放電処理したメルトブロー不織布(B-1)
通気方向(a)における中流:目付が25g/m2のコロナ放電処理したメルトブロー不織布(B-2)
通気方向(a)の下流側:目付が200g/m2の摩擦帯電処理したニードルパンチ複合不織布(D-1、ポリプロピレンスパンボンド不織布が通気方向(a)の下流側)
【0160】
(比較例9)
積層は実施例1と同様に行い、次の構成を有する、3層構造の帯電フィルタ(目付:275g/m2、厚さ:3.2mm)を得た。
通気方向(a)の上流側:目付が50g/m2のコロナ放電処理した水流絡合不織布(C-1)
通気方向(a)における中流:目付が25g/m2のコロナ放電処理したメルトブロー不織布(B-2)
通気方向(a)の下流側:目付が200g/m2の摩擦帯電処理したニードルパンチ複合不織布(D-1、ポリプロピレンスパンボンド不織布が通気方向(a)の下流側)
【0161】
(比較例10)
積層は実施例1と同様に行い、次の構成を有する、3層構造の帯電フィルタ(目付:280g/m2、厚さ:3.3mm)を得た。
通気方向(a)の上流側:目付が50g/m2のコロナ放電処理した水流絡合不織布(C-1)
通気方向(a)における中流:目付が50g/m2のコロナ放電処理したメルトブロー不織布(B-1)
通気方向(a)の下流側:目付が180g/m2の摩擦帯電処理したニードルパンチ複合不織布(D-3、ポリプロピレンスパンボンド不織布が通気方向(a)の下流側)
【0162】
(比較例11)
目付が275g/m2の摩擦帯電処理したニードルパンチ不織布(D-4)のみを用いて、1層構造の帯電フィルタ(目付:275g/m2、厚さ:3.1mm、ポリプロピレンスパンボンド不織布が通気方向(a)の下流側)とした。
【0163】
(比較例12)
積層は実施例1と同様に行い、次の構成を有する、3層構造の帯電フィルタ(目付:125g/m2、厚さ:1.6mm)を得た。
通気方向(a)の上流側:目付が50g/m2の液体帯電処理したメルトブロー不織布(A-1)
通気方向(a)における中流:目付が25g/m2の液体帯電処理したメルトブロー不織布(A-2)
通気方向(a)の下流側:目付が50g/m2の液体帯電処理したメルトブロー不織布(A-1)
【0164】
実施例3〜5、比較例7〜12の帯電フィルタを(捕集効率の測定方法)項と同様に測定して、その測定結果を、表2および図5,6にまとめた。
【0165】
【表2】

*メルトブロー不織布をMB、ニードルパンチ複合不織布をNP、水流絡合不織布をHE、と略して記載する。
【0166】
測定の結果、実施例3〜5の帯電フィルタは、NaCl粒子ならびにDOPミストの捕集における「捕集効率の初期値」と「捕集効率の最低値」が、実施例1ならびに比較例7〜12のいずれの帯電フィルタと比較して、共に高い値を示すこと、捕集効率の低下(「捕集効率の初期値」−「捕集効率の最低値」)が、共に少ない値を示すことが判明した。
【0167】
この結果から、実施例3〜5の帯電フィルタは、液体帯電不織布層と摩擦帯電不織布層とを有すること、特に実施例3〜4の帯電フィルタは液体帯電不織布層を2層有し、しかもいずれの液体帯電不織布層も摩擦帯電不織布層よりも通気方向(a)の上流側に存在していることによって、更に、初期の捕集効率が高く、捕集効率の低下が生じにくい、帯電フィルタであることがわかった。
【0168】
また、実施例3の帯電フィルタは、通気方向の最も上流側に存在する液体帯電不織布層が、下流側に存在する液体帯電不織布層よりも、繊維径の大きな繊維から構成されてなることによって、実施例4の帯電フィルタよりも、圧力損失が上昇しにくい帯電フィルタであることがわかった。
【0169】
更に、濾過の対象がオイルミストを含む場合であっても、実施例3〜5の帯電フィルタは、更に、初期の捕集効率が高く、捕集効率の低下が生じにくい、オイルミストの捕集を行うのに適した、帯電フィルタであった。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明に係る帯電フィルタは、静電気的な捕集作用の向上が一層もたらされることで、初期の捕集効率が高く、捕集効率の低下が生じにくく、圧力損失の上昇が抑制された、帯電フィルタ及びマスクである。
【符号の説明】
【0171】
10・・・帯電フィルタ
11・・・液体帯電不織布層
12・・・摩擦帯電不織布層
13・・・別の液体帯電不織布層
a・・・通気方向(a)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性液体を介して力を作用させて帯電された液体帯電不織布層と、
複数種類の繊維成分同士を摩擦させて帯電された摩擦帯電不織布層を有することを特徴とする、帯電フィルタ。
【請求項2】
前記液体帯電不織布層及び/又は摩擦帯電不織布層を、複数層有していることを特徴とする、請求項1に記載の帯電フィルタ。
【請求項3】
前記液体帯電不織布層が、前記摩擦帯電不織布層よりも通気方向の上流側に存在していることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の帯電フィルタ。
【請求項4】
オイルミストの捕集に使用することを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の帯電フィルタ。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の帯電フィルタを備えるマスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−235219(P2011−235219A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107601(P2010−107601)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】