説明

帯電ローラ用塗料組成物、帯電ローラ及びその製造方法

【課題】帯電の均一性と生産の安定性に優れた帯電ローラ及びその製造方法、またこのような帯電ローラの製造に適した塗料組成物を提供する。
【解決手段】導電性基体と表面層としての抵抗調整層とを備えている帯電ローラの抵抗調整層用の塗料組成物であって、少なくとも絶縁性無機微粒子と複合導電性粒子とバインダー樹脂を含有し、かつ、該絶縁性無機微粒子がメタノール疎水化度50%以上になるように、かつ、400nm透過率(%)が10〜50%の範囲になるように有機ケイ素化合物で表面処理されており、該複合導電性粒子が、母粒子の表面がカーボンブラックで被覆されているものであることを特徴とする帯電ローラ用塗料組成物。この塗料組成物を用いた帯電ローラ及び帯電ローラの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に電子写真装置や複写機等のOA機器に用いられる帯電ローラ用塗料組成物並びに該塗料組成物が塗布された帯電ローラ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真画像形成装置の一次帯電の方法として、接触帯電方法が実用化されている。これは、低オゾン、低電力を目的としており、中でも特に帯電部材として帯電ローラを用いたローラ帯電方式が、帯電の安定性という点で好ましく、広く用いられている。
ローラ帯電方式は、導電性の弾性ローラを被帯電体に加圧当接させ、これに電圧を印加することによって放電により被帯電体への帯電を行う方式であり、DC帯電方式とAC帯電方式がある。DC帯電方式は、放電開始電圧(OPC感光体に対して帯電ローラを加圧当接させた場合には、約550V)に、必要とされる感光体表面電位Vdを足したDC電圧を印加することで帯電を行う方式である。またAC帯電方式は、環境、耐久変動等による電位の変動を改善する目的として、必要とされる感光体表面電位Vdに相当するDC電圧に放電開始電圧の2倍以上のピーク間電圧を持つAC成分を重畳した電圧を接触帯電部材に印加することで帯電を行う方式である。DC帯電方式は、AC帯電方式に比較して一般的にコストは安いという利点がある。
【0003】
帯電ローラの構成としては、中抵抗のゴム材等を主成分とする導電性弾性層上に、抵抗調整層として導電性材料等を分散させた分散液を被覆した二層構成のものが、生産面や性能面をともに満たす構成として知られている。
抵抗調整層に導電性を寄与するために添加する導電剤としては、カーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックは優れた導電剤であるが、塗料に用いる場合には凝集性の強さとネットワークの形成のし易さから、抵抗調整や塗料の安定化が難しい導電剤として知られている。
【0004】
また、DC帯電方式は、AC+DC帯電のようにAC電流の均し効果が無いため、帯電の均一性が、AC+DC帯電方式に比較して劣る点が問題である。そのため帯電ローラ自身の電気抵抗値のばらつきが画像上に微小なスジ状の濃度ムラとなって発生する場合がある。また、近年の市場における高画質化の要求により、この濃度ムラがより発生しやすい傾向にある。
これらの問題に対して、帯電部材の表面層に表面処理された微粒子を配合して、帯電の均一性を向上させる技術(特許文献1)や、配合粒子の疎水化処理状態を規定し、部材の誘電率を制御した技術(特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−316110号公報
【特許文献2】特開2004−004146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の市場における高画質化の要求により、導電性を寄与するための導電剤に加えて、その他の添加剤を配合し帯電ローラの帯電の均一性を向上させる必要がある。また、これらの性能を満たす帯電ローラを安定に生産する必要がある。特に、帯電ローラの製造工程に塗料ディッピング工程を有する場合、塗料の安定性が必要になる。
本発明の目的は、帯電の均一性と生産の安定性に優れた帯電ローラ及びその製造方法を提供することにあり、またこのような帯電ローラの製造に適した塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、導電性基体と表面層としての抵抗調整層とを備えている帯電ローラの抵抗調整層用の塗料組成物であって、少なくとも絶縁性無機微粒子と複合導電性粒子とバインダー樹脂を含有し、かつ、該絶縁性無機微粒子がメタノール疎水化度50%以上になるように、かつ、下記測定法による400nm透過率(%)が10〜50%の範囲になるように有機ケイ素化合物で表面処理されており、該複合導電性粒子が、母粒子の表面がカーボンブラックで被覆されているものであることを特徴とする帯電ローラ用塗料組成物である。
(測定方法)
40質量%メタノール水溶液40ml中に前記絶縁性無機微粒子0.04gを添加し、シェイカーで1分間振とう後、5分間静置したのち、分光光度計で400nm透過率を測定する。
【0008】
また、本発明は、導電性基体と表面層としての抵抗調整層とを備えている帯電ローラであって、該抵抗調整層が前記帯電ローラ用塗料組成物の硬化物層であることを特徴とする帯電ローラである。
更に、本発明は、前記帯電ローラ用塗料組成物を導電性基体に塗工し、硬化して抵抗調整層を形成する工程を含むことを特徴とする前記帯電ローラの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、帯電の均一性と生産の安定性に優れた帯電ローラ及びその製造方法が提供される。またこのような帯電ローラの製造に適した塗料組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の帯電ローラの横断面及び縦断面を示す概略図である。
【図2】ローラ抵抗測定装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の帯電ローラ用塗料組成物は、導電性基体と表面層としての抵抗調整層とを備えている帯電ローラの抵抗調整層用の塗料組成物であって、少なくとも絶縁性無機微粒子と複合導電性粒子とバインダー樹脂を含有し、かつ、該絶縁性無機微粒子が、メタノール疎水化度50%以上、40質量%メタノール水溶液中の波長400nm透過率(%)が10〜50%の範囲に有機ケイ素化合物で表面処理されており、該複合導電性粒子が、母粒子の表面がカーボンブラックで被覆されているものであることを特徴とする。
以下、帯電ローラ用塗料組成物を、「塗料組成物」という場合がある。またメタノール疎水化度を、「疎水化度」という場合がある。更に40質量%メタノール水溶液中の波長400nm透過率を、「400nm透過率」という場合がある。
【0012】
絶縁性無機微粒子の表面処理状態は、次の方法により測定する。先ず、50mlスクリュー管に40質量%メタノール水溶液40mlを調製する。その中に絶縁性無機微粒子0.04gを添加し、シェイカー(ヤヨイ製YS−LD型、Φ48×L100、6本架用)で1分間振とう後、5分間静置したのち、石英セルを使用し、分光光度計(日本分光製V−560)を用いて波長400nm透過率(%)を測定する。
また、本発明のメタノール疎水化度は、粉体濡れ試験機(RHESCA WET−100P)を使用して、下記の方法で測定する。先ず、200cm3のビーカーにイオン交換水70cm3を入れ、更に、この中に絶縁性無機微粒子0.03gを浮遊させ、溶液を攪拌しつつ、その中にメタノールを連続的に流量2ml/minで供給する。この時、絶縁性無機微粒子が濡れて沈降する状態を、レーザ光を用いて透過光強度の変化によって測定し、その変化がなくなった点(濡れの飽和状態)のイオン交換水中のメタノール濃度(%)をメタノール疎水化度とする。
【0013】
本発明においては、特定の複合導電性粒子と特定の絶縁性無機微粒子を用いることが相乗的に作用し、帯電の均一性と生産の安定性に優れた帯電ローラを得ることができる。
本発明者等の鋭意検討により以下のメカニズムが推定される。本発明の複合導電性粒子は、導電性粒子としてカーボンブラックのみを使用する場合と比較すると、多量に配合しても表面層の抵抗を半導電領域とすることが可能で、かつ耐リーク性を向上することができる。また、表面層中に中抵抗の微粒子が大量に分散しているため、樹脂と複合導電性粒子間の電気抵抗差が小さく、表面層中の各場所間の抵抗のばらつきの小さい、優れた帯電の均一性を発現すると考えられる。
【0014】
さらに、絶縁性無機微粒子を添加することにより、帯電ローラ表面層を形成した場合に帯電性能が向上する。これは、絶縁性無機微粒子の添加により表面層の静電容量が大きくなり、表面層にかかる電圧が小さくなる。その結果、感光体により多くの電圧がかかることになり、電位の飽和値が、添加しない場合に比べて、数十ボルト高くなる、つまり、より多く帯電させることが可能となっていると考えられる。
しかしながら、上述の組み合わせによる塗料では、生産を見据えた場合、所望のローラ抵抗値104〜107Ω・m程度に制御することが困難であることがわかった。このような中抵抗領域の帯電ローラを得るためには、塗料の分散状態の変化が大きいところ、つまり、塗料分散液の抵抗値の変化が急激な状態の途中段階で、分散を完了し、さらにその分散状態を保持する必要があった。
【0015】
本発明におけるローラ抵抗測定は、図2に示すような方法で行われる。図中、4は帯電ローラ、6はステンレス製の円筒電極、7は固定抵抗器、8はレコーダーを示す。これらの間の押圧力は用いられる画像形成装置と同様にし、ローラを回転しながら、常温常湿環境(23℃/50%RH)において、外部電源5から−200Vを印加し、回転3周目の抵抗値を測定する。
【0016】
鋭意検討の結果、この塗料分散液の抵抗値の変化速度と絶縁性無機微粒子の表面処理状態に相関性があることを見出した。この結果に関して、本発明者等は以下のように考察している。
表面処理状態にムラがある状態(均一に処理されていない状態)の絶縁性無機微粒子を使用することによって、塗料分散液の抵抗値の変化が緩やかになっていると考えている。均一に処理されているものは非常に分散が進行しやすく、所望の中抵抗領域で分散を完了させることが困難になる。
【0017】
ただし、絶縁性無機微粒子の表面処理状態が、疎水化度50%以上でないと、塗料として塗工層を有する塗料循環機中(製造ライン)を循環させている間に大気中の水分を引き寄せやすくなり、複合導電性粒子の凝集を誘発し、塗料の高抵抗化を引き起こす。
また、絶縁性無機微粒子の表面処理状態が、波長400nm透過率(%)10%未満である場合も同様に、大気中の水分を引き寄せやすくなり、複合導電性粒子の凝集を誘発し、循環中の高抵抗化が発生する。
また、絶縁性無機微粒子の表面処理状態が、波長400nm透過率(%)50%を超える場合は、循環中の高抵抗化はないが、分散が進行しすぎる傾向にあるため、分散中の抵抗値の変化が急激になり所望の抵抗値の塗料を得ることが困難になる。
【0018】
これらのことより、絶縁性無機微粒子の表面処理状態を疎水化度50%以上、400nm透過率(%)10〜50%の範囲に表面処理することによって、所望の抵抗値への制御が容易で、その抵抗値を維持することのできる塗料組成物を得ることができる。
また、さらに好ましくは、絶縁性無機微粒子の表面処理状態が、400nm透過率(%)20〜40%の範囲である。
【0019】
次に、本発明の帯電ローラ用塗料組成物、それを用いた帯電ローラ、及び製造方法について詳細に説明する。
<1>帯電ローラ用塗料組成物
(a)絶縁性無機微粒子
絶縁性無機微粒子は、シリカ粒子や酸化チタン粒子等の中から選択される。前記帯電の均一性をより向上させるためには、高誘電率な酸化チタン粒子が好ましい。シリカ粒子や酸化チタン粒子の一次粒子径は0.5μm以下であることが好ましい。
本発明の表面処理は、絶縁性無機微粒子と有機ケイ素化合物を反応させること、あるいは絶縁性無機微粒子に有機ケイ素化合物を物理吸着させることによって行われる。絶縁性無機微粒子は、表面処理酸化チタン粒子であることが好ましい。
好ましい表面処理方法としては以下のものが挙げられる。
【0020】
ケイ素ハロゲン化合物の蒸気相酸化により生成された乾式シリカ粒子をシランカップリング剤で処理する方法;シリコーンオイルの如き有機ケイ素化合物で処理する方法;シランカップリング剤で処理した後、或いはシランカップリング剤で処理すると同時にシリコーンオイルの如き有機ケイ素化合物で処理する方法。
有機ケイ素化合物としては、シランカップリング剤、シリコーンオイル等が挙げられる。
【0021】
シランカップリング剤としては以下のものが挙げられる。ヘキサメチルジシラザン、トリメチルシラン、トリメチルクロルシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジクロルシラン、メチルトリクロルシラン、アリルジメチルクロルシラン、アリルフェニルジクロルシラン、ベンジルジメチルクロルシラン、ブロムメチルジメチルクロルシラン、α−クロルエチルトリクロルシラン、β−クロルエチルトリクロルシラン、クロルメチルジメチルクロルシラン、トリオルガノシランメルカプタン、トリメチルシリルメルカプタン、トリオルガノシリルアクリレート、ビニルジメチルアセトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン及び1,3−ジフェニルテトラメチルジシロキサン。
シリコーンオイルとしては、25℃における粘度がおよそ30〜1,000センチストークスのものが挙げられる。例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、α−メチルスチレン変性シリコーンオイル、クロルフェニルシリコーンオイル又はフッ素変性シリコーンオイルを用いることが好ましい。
【0022】
処理の条件としては、例えば、ベースの酸化チタン粒子の水分率を3.0%未満に調整し、シランカップリング剤の場合、処理量はベースの酸化チタン粒子100質量部に対し、8〜10質量部程度で処理すると本発明の範囲の表面処理状態が得られやすい。
絶縁性無機粒子の添加量はバインダー樹脂100質量部に対し、20〜30質量部の範囲であることが好ましい。添加量をこの範囲とすることで、より帯電の均一性と生産の安定性に優れた帯電ローラを得ることができる。
【0023】
(b)複合導電性粒子
複合導電性粒子は、母粒子の表面がカーボンブラックで被覆された構成の粒子である。複合導電性粒子の母粒子に使用する粒子は、シリカ粒子、アルミナ粒子及び酸化チタン粒子等の中から選択される。生産の安定性をより向上させるためには、カーボンブラックを用いてより均一に被覆できるシリカ粒子が好ましい。母粒子の粒子径は10nm〜1μmであることが好ましく、より好ましくは10nm〜100nmである。更に、母粒子の粒子形状は、球形、多面体状、針状、板状等のいずれの形状であっても問題ないが、特に好ましいのは球形であり、球形度の目安であるアスペクト比が1.0〜2.0の範囲であることが好ましい。
【0024】
複合導電性粒子に被覆すべきカーボンブラック量は、母粒子100質量部に対して50〜200質量部であることが好ましい。被覆量をこの範囲とすることで、より帯電の均一性と生産の安定性に優れた帯電ローラを得ることができる。
複合導電性粒子に用いるカーボンブラックの種類としては、一般的に導電性ローラに導電性付与に用いられているものが挙げられる。導電性のカーボンブラックとしては、アセチレン法によるアセチレンブラック、ファーネス法によるファーネスブラック、シェル法のガス化炉による特殊カーボンブラック等が挙げられる。pHが3〜9の範囲のものが好ましい。特には、より中性に近いカーボンブラックが好ましい。
【0025】
カーボンブラックによる母粒子の表面の被覆方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。母粒子の表面に接着剤を介してカーボンブラックを付着する方法、母粒子とカーボンブラックを混練する方法。
接着剤としては、アルコキシシランから生成するオルガノシラン化合物ならびにポリシロキサン、変性ポリシロキサン、末端変性ポリシロキサン又はこれらの混合物が挙げられる。アルコキシシランとしては、具体的には、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン及びデシルトリメトキシシラン等が挙げられる。
接着剤は公知の粉体表面処理方法により母粒子表面に付着される。公知の付着方法としては、乾式法や湿式法が挙げられ、湿式法としては、水溶液法、有機溶媒法及びスプレー法が挙げられる。
【0026】
混練は、例えば、カーボンブラックとシリカをホイール型混練機にてせん断を加えることにより行うことができる。混練条件としては、混練時間、ホイール回転数は適時設定し、カーボンブラックの殆どがシリカに付着するまで混練する。このようにせん断を加えながらカーボンブラックを付着させることにより得られた、複合導電性粒子の表面に付着されたカーボンブラックは、ストラクチャー構造が小さく、シリカの形状及び粒径を反映した構造となる。
【0027】
複合導電性粒子の配合量は、バインダー樹脂100質量部に対し、20〜50質量部の範囲であることが好ましい。配合量をこの範囲とすることで、より帯電の均一性と生産の安定性に優れた帯電ローラを得ることができる。
【0028】
(c)バインダー樹脂
バインダー樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の樹脂が用いられる。本発明の表面層のバインダー樹脂としては、ウレタン樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂が挙げられる。ラクトン変性アクリルポリオールを、イソシアネートで架橋したウレタン樹脂が特に好適に用いられる。
また、本発明に用いるイソシアネートは、イソシアヌレート型の3量体とすることがより好ましい。分子の剛直な3量体が架橋点となり、表面層をより密に架橋することができ、導電性弾性層からの低分子成分の染み出し物質がローラ表面に染み出してくることをより一層効果的に防止することができる。
【0029】
また、本発明に用いるイソシアネートは、イソシアネート基がブロック剤によりブロックされたブロックイソシアネートとすることがより好ましい。この理由としては、上記イソシアネート基は反応し易く、表面層塗工用塗料を常温に長時間放置しておくと徐々に反応が進み、塗料の特性が変化してしまう場合があるからである。これに対してブロックイソシアネートは、活性なイソシアネート基がブロックされ、ブロック剤の解離温度までは反応しないので、塗料の取扱が容易になるというメリットがある。マスキングを行うブロック剤には、フェノール、クレゾールの如きフェノール類、ε−カプロラクタム等のラクタム類及びメチルエチルケトオキシム等のオキシム類が挙げられるが、本発明の場合、解離温度が比較的低温のオキシム類が好ましい。
【0030】
また、ラクトン変性アクリルポリオールのOH価は80KOHmg/g程度であることが好ましい。OH価が小さいと、イソシアネートで架橋されにくくなり、それによって樹脂が柔らかくなり過ぎて感光体に貼り付き易くなる。OH価が大き過ぎると塗膜が硬くなり過ぎて衝撃を受けたときに割れ易くなる。
本発明のラクトン変性アクリルポリオールは、分子鎖骨格がスチレンとアクリルの共重合体であり、適度な硬度と非汚染性を有する。また、末端に水酸基を有する変性したラクトン基が多数の架橋点となり、イソシアネートで密に架橋することが可能であり、導電性弾性層からの低分子成分の染み出しを防止することができる。
【0031】
表面層に用いる塗膜のガラス転移温度Tgは粘弾性測定法で、ピーク温度で45℃以上が好ましく、特には50℃以上あることが好ましい。ピーク温度をこの範囲にすることでより帯電ローラ表面に汚れをつきづらくできる。
また特に限定はしないが、あまりTgが高過ぎても樹脂の可撓性がなくなり、塗膜が割れ易くなるので好ましくない。Tgは、架橋させるイソシアネートの比率又は量によって調節する。
【0032】
ラクトン変性アクリルポリオール樹脂とイソシアネートとの配合比は、配合した塗料中のイソシアネートのNCO基の数(A)と、ラクトン変性アクリルポリオール樹脂のOH基の数(B)との比、NCO/OH比=A/Bが0.1〜2.0が好ましく、特に好ましくは0.3〜1.5の範囲になるように調整する。
ラクトン変性アクリルポリオールをイソシアネートで架橋することにより、導電性弾性層からの低分子成分の染み出しを防止するとともに、帯電ローラ自体がトナーや外添剤等に対して汚れにくく、かつ感光体を汚染しない表面層を形成することができる。
表面層を形成する樹脂塗料には、レべリング剤を混合してもよい。レべリング剤としては、例えばシリコーンオイルが挙げられる。
【0033】
(d)架橋した樹脂粒子
帯電ローラ用塗料組成物には、塗料組成物中における複合導電性微粒子の分散安定化を阻害することなく、帯電ローラの帯電面を粗面化するために架橋樹脂粒子を含有させることができる。尚、非架橋樹脂粒子は、塗料組成物中においてに溶解する恐れがあるので好ましくない。架橋樹脂粒子を作るモノマーとしては、特には限定しないが、重合の容易さ等から、ビニル系のモノマーが好適に用いられる。
このようなビニル系モノマーは、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルへキシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸へキシル等のメタクリル酸エステル;スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン等の芳香族系ビニル単量体;酢酸ビニル及びアクリロニトリル等が挙げられる。
【0034】
樹脂粒子を架橋樹脂粒子とするために、本発明においては、上記のビニル系モノマー以外に、分子内にビニル基を2つ以上有する架橋性のビニル系モノマーが使用される。このような架橋性のビニル系モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート及びトリメチロールプロパントリメタアクリレート等が挙げられる。これら架橋性のビニル系モノマーの添加量は、非架橋性のビニルモノマー100質量部に対して0.5〜30質量部が好ましい。これらの架橋された樹脂粒子は、シード乳化重合、分散重合、懸濁重合等により重合されるが、低分子の界面活性剤等の残留が少ないので、懸濁重合によって重合されることが好ましい。重合開始剤は、特に限定されないが、過酸化ベンゾイルや過酸化ラウロイル等の過酸化物系触媒、アゾビスイソブチロニトリルのようなアゾ系触媒が挙げられる。本発明で使用される架橋された樹脂粒子は、形状がより真球形状に近いことがより好ましい。
【0035】
樹脂粒子の平均粒径は、100μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5〜50μmである。粒径をこの範囲とすることで、より帯電の均一性に優れた帯電ローラを得ることができる。
【0036】
(e)溶媒
本発明の塗料組成物には、材料を分散あるいは溶解させるための各種溶媒を使用することができる。例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;クロロホルム、塩化エチレン、ジクロルエチレン、四塩化炭素、トリクロロエチレン等の脂肪族ハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、リグロイン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族化合物;等が挙げられる。
【0037】
(f)塗料組成物の製造方法
塗料組成物の製造方法としては、上記の抵抗調整層を構成する材料を、サンドミル、ペイントシェーカ、ダイノミル及びパールミルの如きビーズを利用した公知の分散装置を用いて公知の方法により分散する。
【0038】
<2>帯電ローラとその製造方法
本発明の帯電ローラの具体的な構成を図1に示す。図1(a)は、帯電ローラの横断面を示し、図1の(b)は、縦断面を示したものである。
(1)導電性基体
本発明の帯電ローラは、導電性支持体1と、その外周に形成された導電性弾性層2と、該導電性弾性層2の外周を被覆する表面層3とを有する帯電ローラである。導電性支持体と導電性弾性層を合わせて導電性基体と称している。
導電性支持体は、例えば炭素鋼合金表面に5μmの厚さのニッケルメッキを施した円柱である。導電性支持体を構成する他の材料として以下のものが挙げられる。鉄、アルミニウム、チタン、銅及びニッケルの如き金属;これらの金属を含むステンレス、ジュラルミン、真鍮及び青銅の如き合金;カーボンブラックや炭素繊維をプラスチックで固めた複合材料。剛直で導電性を示す公知の材料を使用することもできる。また、形状としては円柱形状の他に、中心部分を空洞とした円筒形状とすることもできる。
【0039】
本発明では、好ましくは、上記導電性支持体1の外周に導電性弾性層2を成形する。導電性弾性層は導電性弾性体からなっている。導電性弾性体は、導電剤と高分子弾性体とを混合して成形される。導電剤には少なくともイオン導電剤が含有されている。高分子弾性体としては以下のものが挙げられる。エピクロルヒドリンゴム、NBR(ニトリルゴム)、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、あるいはSBS(スチレン・ブタジエン・スチレン−ブロックコポリマー)、SEBS(スチレン・エチレンブチレン・スチレン−ブロックコポリマー)等の熱可塑性エラストマー。高分子弾性体としては特にエピクロルヒドリンゴムが好適に用いられる。エピクロルヒドリンゴムは、ポリマー自体が中抵抗領域の導電性を有し、導電剤の添加量が少なくても良好な導電性を発揮することができる。また、位置による電気抵抗のバラツキも小さくすることが出来るので、高分子弾性体として好適に用いられる。
【0040】
エピクロルヒドリンゴムとしては以下のものが挙げられる。エピクロルヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル共重合体及びエピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体。この中でも安定した中抵抗領域の導電性を示すことから、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体が特に好適に用いられる。この三元共重合体は、重合度や組成比を任意に調整することで導電性や加工性を制御できる。
高分子弾性体は特に限定されるものではないが、均一な導電性を得ることが出来るアクリロニトリルブタジエンゴムやエピクロルヒドリンゴム等のイオン導電性ゴムを主成分とすることが好ましく、その中でも比較的低い抵抗であるエピクロルヒドリンゴムを主成分とすることがより好ましい。また、必要に応じてその他の一般的なゴムを含有してもよい。
【0041】
その他の一般的なゴムとしては、以下のものが挙げられる。EPM(エチレン・プロピレンゴム)、EPDM(エチレン・プロピレンゴム)、クロロプレンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。また、SBS(スチレン・ブタジエン・スチレン−ブロックコポリマー)、SEBS(スチレン・エチレンブチレン・スチレン−ブロックコポリマー)の如き熱可塑性エラストマーを含有してもよい。
上記の一般的なゴムを含有する場合、その含有量は、高分子弾性体全量に対し1〜50質量%であるのが好ましい。
【0042】
導電剤としては、イオン導電剤または電子導電剤を用いることができる。導電性弾性層の体積抵抗率のムラを小さくするという目的により、イオン導電剤を含有することが好ましい。イオン導電剤が高分子弾性体の中に均一に分散し、導電性弾性体の体積抵抗率を均一化することにより、帯電ローラを直流電圧のみの電圧印加で使用したときでも均一な帯電を得ることができる。
イオン導電剤としては、イオン導電性を示すイオン導電剤であれば特に限定されるものではない。イオン導電剤としては以下のものが挙げられる。過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カルシウムの如き無機イオン物質;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、トリオクチルプロピルアンモニウムブロミド、変性脂肪族ジメチルエチルアンモニウムエトサルフェートの如き陽イオン性界面活性剤;ラウリルベタイン、ステアリルべタイン、ジメチルアルキルラウリルベタインの如き両性イオン界面活性剤;過塩素酸テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、過塩素酸トリメチルオクタデシルアンモニウムの如き第四級アンモニウム塩;トリフルオロメタンスルホン酸リチウム等の有機酸リチウム塩。これらを単独又は2種類以上組み合わせて用いることができる。イオン導電剤の中でも、環境変化に対して抵抗が安定なことから特に過塩素酸4級アンモニウム塩が好適に用いられる。
【0043】
電子導電剤としては、電子導電性を示す電子導電剤であれば特に限定されるものではない。電子導電剤としては以下のものが挙げられる。アルミニウム、パラジウム、鉄、銅、銀の如き金属系の粉体や繊維;酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛の如き金属酸化物;適当な粒子の表面を酸化スズ、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化モリブデン、亜鉛、アルミニウム、金、銀、銅、クロム、コバルト、鉄、鉛、白金、又はロジウムを電解処理、スプレー塗工、混合振とうにより付着させた粉体;ファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、PAN(ポリアクリロニトリル)系カーボン、ピッチ系カーボンの如きカーボン粉。
ファーネスブラックとしては以下のものが挙げられる。SAF−HS、SAF、ISAF−HS、ISAF、ISAF−LS、I−ISAF−HS、HAF−HS、HAF、HAF−LS、T−HS、T−NS、MAF、FEF、GPF、SRF−HS−HM、SRF−LM、ECF、FEF−HS。サーマルブラックとしては、FT、MTがある。
【0044】
また、これら導電剤を単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
本発明の導電性弾性体に配合する導電剤の配合量としては、導電性弾性層の体積抵抗率が、低温低湿環境(環境1;15℃/10%RH)、常温常湿環境(環境2:23℃/50%RH)、高温高湿環境(環境3:30℃/80%RH)で、中抵抗領域(体積抵抗率が1×104〜1×108Ω・cm)になるように決めることが好ましい。
導電性弾性層の体積抵抗率は、厚さ1mmのシートに成型した後、両面に金属を蒸着して電極とガード電極とを作製し、微小電流計(ADVANTEST R8340A ULTRA HIGH RESISTANCE METER (株)アドバンテスト社製)を用いて200Vの電圧を印加して30秒後の電流を測定し、膜厚と電極面積とから計算して求められる。
【0045】
導電性弾性層の体積抵抗率がこれよりも小さいと、被帯電部材である感光体にピンホールがあった場合に大電流がピンホールに一気に集中してしまい、印加電圧が降下し、高精細なハーフトーン画像上に帯状となって帯電電位が不足した部分が現れる傾向がある。また、ピンホールをより大きくしてしまう、といった不具合が発生する恐れがある。逆に体積抵抗率が大き過ぎると、所望する帯電電位を得るためには高電圧を印加しなければならない。
この他にも導電性弾性層には必要に応じて、可塑剤、充填剤、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、スコーチ防止剤、分散剤及び離型剤等の配合剤を加えることもできる。
導電性弾性層の成形方法としては、上記の導電性弾性体の原料を密閉型ミキサーで混合して、例えば、押し出し成形、射出成形、又は圧縮成形の如き公知の方法により成型するのが好ましい。また、導電性弾性層は、導電性支持体の上に成形してもよいし、予めチューブ形状に成形した導電性弾性層を導電性支持体上に配置して被覆形成させてもよい。なお、導電性弾性層の製造後に表面を研磨して形状を整えてもよい。
【0046】
導電性弾性層の形状は、帯電ローラと電子写真感光体の均一性密着性を確保するために中央部を一番太く、両端部に行くほど細くなるクラウン形状とすることが好ましい。一般に使用されている帯電ローラは、支持体の両端部に所定の押圧力を与えて電子写真感光体と当接されており、押圧力が中央部で小さく両端部ほど大きくなっているために、帯電ローラの真直度が十分であれば問題ない。しかし、帯電ローラの真直度が十分でない場合には中央部と両端部に対応する画像に濃度ムラが生じてしまう場合がある。クラウン形状は、これを防止するために形成するものである。
また、ローラ回転時の当接ニップ幅が均一となるために、導電性弾性層ローラの外径差振れは小さい方が好ましい。
【0047】
導電性弾性層は、必要に応じて導電性支持体に接着剤を介して接着される。この場合、接着剤は導電性であることが好ましい。導電性とするため、接着剤には公知の導電剤を有することができる。
接着剤のバインダーとしては、熱硬化性樹脂、又は熱可塑性樹脂の如き樹脂が挙げられる。ウレタン系、アクリル系、ポリエステル系、ポリエーテル系、エポキシ系の如き公知の接着剤を用いることができる。
接着剤に導電性を付与するための導電剤としては、前述したものを用いることができる。導電剤は単独で又は2種類以上組み合わせて用いることができる。
導電性弾性層を形成した後に、その被覆層として表面層3を設ける。
【0048】
(2)表面層(抵抗調整層)
本発明の帯電ローラの表面層は、前述の塗料組成物により形成される。塗料組成物を、ディップ塗工、ロールコート、スプレー塗工等により、導電性基体の上に塗工し抵抗調整層を形成する。また、ディップ塗工により抵抗調整層の膜厚を調整する場合には、塗料組成物の樹脂の固形分と塗工引き上げ速度を制御する。塗料組成物中の樹脂の固形分を大きくすると層の膜厚が厚くなり、固形分を小さくすると膜厚も薄くなる。
塗工を行うローラの一方の端部からもう一方の端部まで、同じ速度で塗工してもよいし、最外層塗料の重力によるダレを考えて、ローラ上端部の塗工速度を速くして、下端部に近づくにつれて連続的に塗工速度を遅くしていってもよい。
塗工後に、塗膜を加熱や光照射等によって硬化して硬化物層(抵抗調整層)を形成させる。
【0049】
また、表面層の膜厚は、好ましくは0.5〜100μm、より好ましくは2〜60μmである。膜厚をこの範囲とすることで、より帯電の均一性に優れた帯電ローラを得ることができる。膜厚は、ローラ断面を鋭利な刃物で切り出して、光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察することで測定できる。
【0050】
また、本発明では架橋した樹脂粒子を用いることもできるが、その場合、架橋した樹脂粒子の粒子径に対して、表面層の膜厚が厚すぎると、表面層中に樹脂粒子が埋もれて帯電ローラ表面に樹脂粒子由来の凸部が形成しにくくなるので好ましくない。逆に、薄すぎると、感光体との接触や摺擦で樹脂粒子が欠落する恐れがあるので好ましくない。
また、本発明の帯電ローラの表面粗さRzjisは、2μm以上30μm以下、表面凹凸平均間隔RSmは15μm以上150μm以下であることが好ましく、3μm以上20μm以下であることがより好ましい。帯電ローラの表面粗さ、凹凸平均間隔を上記の範囲とすることにより、前述した点状放電をより安定に制御することが可能となる。
【0051】
表面粗さは、導電性弾性層の表面粗さ、表面層の膜厚、架橋した樹脂粒子の平均粒子径と添加量を調整することによって調整することができる。表面粗さをこの範囲とすることで、より帯電の均一性に優れた帯電ローラを得ることができる。
【0052】
平均粗さ(Rzjis)の測定方法としては、JIS B0601−2001の表面粗さに基づき、小坂研究所製サーフコーダーSE3400にて、中央部と中央部から両端方向へ90mm位置の軸方向3箇所、その円周方向に180°ピッチ位置の2箇所の合計6点について各々測定し、その平均値をとる。本発明においては、接触針は先端半径2μmのダイヤモンドとし、測定スピード0.5mm/s、カットオフλc0.8mm、基準長さ0.8mm、評価長さ8.0mmとした。
【実施例】
【0053】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。
[絶縁性無機微粒子(1)]
針状ルチル型酸化チタン粒子(平均粒径15nm、縦:横=3:1、水分率2.8重量%)1000g、表面処理剤としてイソブチルトリメトキシシラン100g、溶媒としてトルエン3000gを配合してスラリーを調製した。
このスラリーを、攪拌機で30分間混合した後、有効内容積の80%が平均粒子径0.8mmのガラスビーズで充填されたビスコミルに供給し、温度35±5℃で湿式解砕処理を行った。
【0054】
湿式解砕処理して得たスラリーは、ニーダーを用いて減圧蒸留(バス温度:110℃、製品温度:30〜60℃、減圧度:約100Torr)によりトルエンを除去し、120℃で2時間表面処理剤の焼付け処理を行った。焼付け処理後の粒子は、室温まで冷却した後、ピンミルを用いて粉砕した。
このとき使用した針状ルチル型酸化チタン粒子の水分率は、2.8%であった。また、処理後の絶縁性無機微粒子(1)は、疎水化度が55%、400nm透過率(%)が35%であった。
【0055】
[絶縁性無機微粒子(2)〜(5)]
絶縁性無機微粒子(1)の製造に使用した針状ルチル型酸化チタン粒子を、乾燥処理または加湿処理することによって、その水分率を1.5〜4.0重量%に調整し、また表面処理剤の使用量を表1の値とし、それ以外の条件は絶縁性無機微粒子(1)の製造条件と同様にして、絶縁性無機微粒子(2)〜(5)を得た。疎水化度及び400nm透過率を表1に示す。
【0056】
〔実施例1〕
[(1)複合導電性粒子の製造]
金属酸化物系粒子としてのシリカ粒子(平均粒子径15nm、体積抵抗率1.8×1012Ω・cm)7.0kgに、メチルハイドロジェンポリシロキサン140gを、エッジランナーを稼動させながら添加し、588N/cm(60Kg/cm)の線荷重で30分間混合攪拌した。この時の攪拌速度は22rpmであった。
次に、カーボンブラック粒子(粒子径28nm、pH=6.5)7.0kgを、エッジランナーを稼動させながら10分間かけて添加し、更に588N/cm(60Kg/cm)の線荷重で60分間混合攪拌し、メチルハイドロジェンポリシロキサンで被覆したシリカ粒子にカーボンブラックを付着させた後、乾燥機を用いて80℃で60分間乾燥を行い、複合導電性粒子(B1)を得た。この時の攪拌速度は22rpmで行った。得られた複合導電性粒子は、平均粒径が15nm、体積抵抗率は2.3×102Ω・cmであった。
【0057】
[(2)塗料組成物の製造]
カプロラクトン変性アクリルポリオール溶液(商品名:プラクセルDC2016、ダイセル化学工業(株)製)にメチルイソブチルケトンを加え、固形分が17質量%となるように溶液を調製した。
この溶液588.2質量部、上記アクリルポリオール溶液の固形分100質量部に対して、下記量の下記成分を入れ混合溶液を調製した。
前記複合導電性粒子(B1) 50質量部
前記絶縁性無機微粒子(1) 30質量部
変性ジメチルシリコーンオイル 0.08質量部
(商品名;SH28PA、東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製)
ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)とイソホロンジイソシアネート(IPDI)の各ブタノンオキシムブロック体の7:3の混合物(バインダー樹脂)
80.14質量部
【0058】
このとき、HDIとIPDIの混合物は、混合溶液において「NCO/OH=1.0」となるように添加した。HDIとIPDIについては、HDI(商品名:デュラネートTPA−B80E、旭化成工業製)、IPDI(商品名:ベスタナートB1370、デグサ・ヒュルス製)を使用した。
上記混合溶液10000gを、有効内容積の80%が平均粒子径0.5mmのガラスビーズで充填されたビスコミルに供給し、温度25±5℃で12時間分散した。
分散後、架橋樹脂粒子(商品名:MX−1000、綜研化学製)2.72質量部(バインダー樹脂100質量部に対して10質量部相当量)を添加した後、更に2時間分散して塗料組成物を得た。
【0059】
[(3)帯電ローラの製造]
直径6mm、長さ252.5mmのステンレス製芯金を導電性支持体として使用した。これに、熱硬化性接着剤(メタロックU−20 東洋化学研究所製)を塗布し、乾燥した。
次に、エピクロルヒドリンゴム三元共重合体(エチレンオキサイド(EO)/エピクロルヒドリン(EP)/アリルグリシジルエーテル(AGE)=(73mol%/23mol%/4mol%)100質量部、炭酸カルシウム60質量部、脂肪族ポリエステル系可塑剤8質量部、ステアリン酸亜鉛1質量部、2−メルカプトベンズイミダゾール(MB)(老化防止剤)0.5質量部、酸化亜鉛2質量部、過塩素酸四級アンモニウム塩1.5質量部、及び、カーボンブラック(平均粒径:100nm、体積抵抗率:0.1Ω・cm)5質量部を、50℃に調節した密閉型ミキサーにて10分間混練して、原料コンパウンドを調製した。
【0060】
この原料コンパウンドに、上記エピクロルヒドリンゴム三元共重合体に対して1質量%の硫黄(加硫剤)、1質量%のジベンゾチアジルスルフィド(DM)(加硫促進剤)及び0.5質量%のテトラメチルチウラムモノスルフィド(TS)を添加し、20℃に冷却した二本ロール機にて10分間混練して、導電性弾性層用コンパウンドを得た。
接着剤を塗布した導電性支持体上に、この導電性弾性層用コンパウンドを押出成型機にて押し出し、外径が約9mmのローラ形状になるように成型し、次いで、電気オーブンの中で160℃で1時間、加硫及び接着剤の硬化を行った。ゴムの両端部を突っ切り、ゴム長さを228mmとした後、外径が8.5mmのローラ形状になるように表面の研磨加工を行って、導電性支持体上に導電性弾性層を形成した。このときクラウン量(中央部と中央部から90mm離れた位置の外径の差)は120μmとした。
【0061】
続いて、前記塗料組成物を、導電性弾性層上に1回ディッピング塗布し、常温で30分間以上風乾し、次いで80℃に設定した熱風循環乾燥機にて1時間乾燥し、更に160℃に設定した熱風循環乾燥機にて1時間乾燥して、導電性弾性層上に表面層を形成した。ディッピング塗布浸漬時間は9秒、ディッピング塗布引き上げ速度は、初期速度が20mm/s、最終速度は2mm/sになるように調節し、20mm/sから2mm/sの間は、時間に対して直線的に速度を変化させた。
このようにして、導電性支持体上に導電性弾性層及び表面層をこの順に有する帯電ローラを製造した。
【0062】
[(4)塗料組成物の生産安定性評価(ロット間ばらつきと抵抗安定性)]
帯電ローラの体積抵抗率測定は、図2に示す方法で行った。図中、4は帯電ローラ、6はステンレス製の円筒電極、7は固定抵抗器、8はレコーダーを示す。これらの間の押圧力は用いられる画像形成装置と同様にし、ローラを回転しながら、常温常湿環境(23℃/50%RH)において、外部電源5から−200Vを印加し、回転3周目の体積抵抗率を測定した。
【0063】
(4−1)ロット間のばらつき
塗料組成物を同条件で3回繰り返し調製した。3回それぞれの塗料組成物調製直後に帯電ローラを製造し、その帯電ローラの体積抵抗率を測定した。その結果を表3に示す。また、製造ロット間の帯電ローラの体積抵抗率のばらつきを表4に示す。「ロット間のばらつき」は、R1を次式で定義して、以下の基準でランク付け評価した。
R1=調製直後3ロットの抵抗値最大/調製直後3ロットの抵抗値最小
ランク1:ほとんどばらつきがない。(R1≦1.2)
ランク2:ばらつきはあるが生産安定性に問題がない。
(1.2<R1≦1.4)
ランク3:ばらつきが大きく生産安定性に問題がある。(R1>1.4)
【0064】
(4−2)経時での抵抗安定性
また、450mlのマヨネーズビンに、調製した塗料組成物400mlを投入し、スターラーで攪拌しながら、開放系で塗料組成物を1週間放置した。塗料組成物の全体量が変化しないように適宜メチルイソブチルケトンを添加した。1週間後の塗料組成物を使用して、塗料組成物の調製直後の場合と同様にして帯電ローラを製造し、その帯電ローラの体積抵抗率を測定した。その結果を表3及び表4に示す。「経時での抵抗安定性」は、R2を次式で定義して、以下の基準でランク付け評価した。
R2=調製1週間後3ロットの抵抗値平均/調製直後3ロットの抵抗値平均
ランク1:調製直後と同等。(R2≦1.2)
ランク2:調製直後に比べると高抵抗化しているが生産安定性に問題がない。
(1.2<R2≦1.4)
ランク3:調製直後に比べると高抵抗化が大きく生産安定性に問題がある。
(R2>1.4)
【0065】
[(5)帯電の均一性評価(耐久画像評価)]
上記の塗料組成物(調整直後塗料3ロットと1週間保管後塗料3ロット)を使用して、帯電ローラを製造した。それらすべての帯電ローラを、HP Color LaserJet 3000(ヒューレットパッカード社製)のモノクロ(ブラック)カートリッジに装着した。即ち、直径24mmの電子写真感光体ドラムに、一端で0.5kg重、両端で合計1kg重のバネによる押し圧力で帯電ローラを当接した。次いで、HP Color LaserJet 3000(ヒューレットパッカード社製)を使用して、低温低湿15℃/10%RH環境において耐久性評価を行った。帯電ローラには直流電圧のみ−1000Vを印加した。1枚画像を出力すると電子写真装置の回転を停止させた後、また画像形成動作を再開するという動作を繰り返し(E文字1%印字画像を間欠耐久)、15000枚の画像出力耐久性試験を行った。耐久性試験中はプロセススピードを200mm/sに設定した。15000枚目のハーフトーン画像を用い、その出力画像を、以下の基準により評価した。結果を表4に示す。
ランク1:非常に良い。
ランク2:良い。
ランク3:ハーフトーン画像にわずかにスジ状の画像欠陥がある。
ランク4:スジ状の画像欠陥が目立つ。
【0066】
〔実施例2〜10及び比較例1〜2〕
絶縁性無機微粒子の種類、及び、絶縁性無機微粒子と複合導電性粒子の添加質量部数、及び、抵抗値調整のため塗料分散時間を表2のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして塗料組成物と帯電ローラを製造した。表2の各添加部数(質量部)は前記アクリルポリオールの固形分100質量部に対しての質量部である。
また、塗料組成物の生産安定性評価及び帯電ローラとしての帯電の均一性評価についても実施例1と同様に行った。結果を表3及び表4に示す。
【0067】
〔実施例11〕
架橋樹脂粒子を添加しないこと以外は、実施例1と同様にして塗料組成物と帯電ローラを製造した。
また、塗料組成物の生産安定性評価及び帯電ローラとしての帯電の均一性評価についても実施例1と同様に行った。結果を表3及び表4に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

実施例1〜11の結果から、本発明の帯電ローラ用塗料組成物及び帯電ローラは、生産の不安定さとスジ状の画像欠陥の抑制効果があることが明らかである。
【符号の説明】
【0072】
1 導電性支持体
2 導電性弾性層
3 表面層(抵抗調整層)
4 帯電ローラ
5 バイアス印加電源
6 円筒電極(金属ローラ)
7 固定抵抗器
8 レコーダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体と表面層としての抵抗調整層とを備えている帯電ローラの抵抗調整層用の塗料組成物であって、少なくとも絶縁性無機微粒子と複合導電性粒子とバインダー樹脂を含有し、かつ、該絶縁性無機微粒子がメタノール疎水化度50%以上になるように、かつ、下記測定法による400nm透過率(%)が10〜50%の範囲になるように有機ケイ素化合物で表面処理されており、該複合導電性粒子が、母粒子の表面がカーボンブラックで被覆されているものであることを特徴とする帯電ローラ用塗料組成物。
(測定方法)
40質量%メタノール水溶液40ml中に前記絶縁性無機微粒子0.04gを添加し、シェイカーで1分間振とう後、5分間静置したのち、分光光度計で400nm透過率を測定する。
【請求項2】
前記絶縁性無機微粒子が表面処理酸化チタン粒子であることを特徴とする請求項1に記載の帯電ローラ用塗料組成物。
【請求項3】
前記複合導電性粒子の母粒子がシリカ粒子であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の帯電ローラ用塗料組成物。
【請求項4】
前記絶縁性無機微粒子の含有量がバインダー樹脂100質量部に対し、20〜30質量部の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の帯電ローラ用塗料組成物。
【請求項5】
前記複合導電性粒子の含有量がバインダー樹脂100質量部に対し、20〜50質量部の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の帯電ローラ用塗料組成物。
【請求項6】
更に、架橋した樹脂粒子を含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の帯電ローラ用塗料組成物。
【請求項7】
導電性基体と表面層としての抵抗調整層とを備えている帯電ローラであって、該抵抗調整層が請求項1〜6のいずれか1項に記載の帯電ローラ用塗料組成物の硬化物層であることを特徴とする帯電ローラ。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の帯電ローラ用塗料組成物を導電性基体に塗工し硬化して抵抗調整層を形成する工程を含むことを特徴とする請求項7に記載の帯電ローラの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−107635(P2011−107635A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265430(P2009−265430)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】