説明

帯電ロール

【課題】優れた帯電性を発揮すると共に、トナーや外添剤等の付着を効果的に抑制し得る帯電ロールを提供すること。
【解決手段】軸体の外周面上に一又は二以上の機能層が設けられており、かかる機能層のうちの最外層の表面に対して、所定の塩素化合物からなる群より選ばれた一種又は二種以上と、BF3 とを用いた表面処理、又は、紫外線による表面処理、が施されてなる帯電ロールであって、前記表面処理が施されている機能層を、所定のπ電子共役系ポリマーに対して、炭素−炭素二重結合の含有量が4.85×10-3〜1.79×10-2mol/gであるスルホン酸又はその塩、若しくはカルボン酸又はその塩がドーピングされてなる導電性ポリマーと、所定の非共役系ポリマーとを含む半導電性組成物にて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を利用した複写機やプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置において、電子写真感光体や静電記録誘電体等からなる像担持体を帯電せしめるために用いられる帯電ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を利用した複写機やプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置(以下、電子写真機器という)においては、感光体(ドラム)等の像担持体を、帯電ロールの外周面に接触せしめて、それら像担持体と帯電ロールとを相互に回転させるようにすることによって、かかる像担持体の表面を帯電させる、所謂ロール帯電方式が広く採用されている。
【0003】
そのようなロール帯電方式において用いられる帯電ロールとしては、従来より様々な構造を呈するものが提案され、使用されているのであり、例えば、帯電ロールに要求される種々の機能が効果的に発揮され得るように、導電体たる軸体(芯金)の周りに、一又は二以上の機能層が設けられてなる構造のものが、広く採用されている。
【0004】
ところで、帯電ロールに対しては、その用途からも明らかなように優れた帯電性が要求されるところ、近年、優れた帯電性を発現させるために、上述した一又は二以上の機能層が設けられてなる構造の帯電ロールにおいて、それら機能層のうちの最外層に導電性ポリマーを含有するものが提案されている(特許文献1を参照)。
【0005】
しかしながら、従来の、最外層に導電性ポリマーを含有する帯電ロールにあっては、その表面にトナーや外添剤等が付着し易く、最終的に得られる画像に不具合を生ずる恐れがあるという問題が存在する。
【0006】
かかる問題を解決するための手法として、導電性ポリマーを含有する層の更に外側に、トナー等の付着を防止するための表層(保護層)を設けることが考えられるが、そのような表層(保護層)を設けた帯電ロールにあっては、かかる表層(保護層)がロール全体の帯電性に影響を及ぼし、導電性ポリマーを使用しているにもかかわらず十分な帯電性を発現しない恐れがあった。
【0007】
また、導電性ポリマーを含有する層の外側に表層(保護層)を設けることに代えて、導電性ポリマーを含有する層の表面に対して、特許文献2等において提示の表面処理を施す手法も知られている。しかしながら、従来の導電性ポリマーを含有する層の表面に対して、特定の表面処理を施しても、かかる表面処理による効果、より具体的には、トナーや外添剤等の付着を効果的に抑制することが出来ない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−266844号公報
【特許文献2】特開2007−256709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、優れた帯電性を発揮すると共に、トナーや外添剤等の付着を効果的に抑制し得る帯電ロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明は、そのような課題を有利に解決するために、軸体の外周面上に一又は二以上の機能層が設けられており、かかる機能層のうちの最外層の表面に対して、(A)下記一般式(I)で表わされる塩素化合物及び分子内に−CONCl−構造を有する塩素化合物からなる群より選ばれた一種又は二種以上と、BF3 とを用いた表面処理、又は、(B)紫外線による表面処理、が施されてなる帯電ロールにして、前記表面処理が施されている機能層が、(α1)アニリン、ピロール、チオフェン及びこれらの誘導体からなる群より選ばれた一種又は二種以上を重合してなるπ電子共役系ポリマーに対して、(α2)炭素−炭素二重結合の含有量が4.85×10-3〜1.79×10-2mol/gであるスルホン酸又はその塩、若しくはカルボン酸又はその塩がドーピングされてなる導電性ポリマーと、(β)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂及び熱可塑性エラストマーからなる群より選ばれた一種又は二種以上からなる非共役系ポリマーとを含む半導電性組成物からなることを特徴とする帯電ロールを、その要旨とするものである。
X(OCl)n ・・・(I)
[但し、上記式(I)中、Xは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子 又はアルキル基を表わし、nは正の整数を表わす。]
【0011】
なお、本発明に従う帯電ロールにあっては、有利には、前記半導電性組成物が、前記導電性ポリマーの5〜200重量部と、前記非共役系ポリマーの100重量部とを含むものである。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明に従う帯電ロールにあっては、軸体の外周面上に設けられた一又は二以上の機能層のうちの最外層が、所定のπ電子共役系ポリマーに、炭素−炭素二重結合の含有量が所定の範囲内にある化合物(以下、ドーパントともいう)がドーピングされてなる導電性ポリマーと、所定の非共役系ポリマーとを含む半導電性組成物にて構成されている。最外層がこのような特定の半導電性組成物にて構成されていることにより、かかる最外層の表面に対して、所定の化合物を用いた表面処理、又は紫外線による表面処理が施されてなる本発明の帯電ロールにあっては、導電性ポリマーによって優れた帯電性を発揮すると共に、表面処理によるトナーや外添剤等の付着防止効果をも有利に発揮するものとなっているのである。また、導電性ポリマーとして、所定のπ電子共役系ポリマーに、二重結合含有量が所定の範囲内にある化合物(ドーパント)がドーピングされてなるものを用いていることから、かかる導電性ポリマーは半導電性組成物内において効果的に分散し、最終的に得られる帯電ロールは、ロール全体として良好な帯電性を発揮することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に従う帯電ロールの一例を示す軸直角断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を適宜、参酌しながら、本発明を具体的に説明する。
【0015】
図1には、本発明に従う帯電ロールの代表的な一実施形態が、軸心に直角な方向の断面において、概略的に示されている。かかる図1において、帯電ロール10は、金属製の導電性軸体(芯金)12の外周面上に、ロール径方向の内側から外側に向かって、順に、第一の機能層としての導電性基層14と、第二の機能層としての誘電層16が、各々、所定の厚さで一体的に積層形成されている。
【0016】
ここで、導電性軸体12としては、導電性を有する金属からなるものであれば特に限定されるものではなく、鉄、ステンレス鋼(SUS)や快削鋼(SUM)等からなるものを、例示することが出来る。また、かかる導電性軸体12には、メッキ処理等が施されていてもよく、更に必要に応じて、接着剤やプライマー等が外周面に塗布されていてもよい。加えて、導電性軸体12の形状も、図1に示される如きロッド状の中実体以外にも、パイプ状の中空円筒体であっても、何等差し支えない。
【0017】
また、導電性基層14を与える材料としては、本発明においては特に限定されるものではなく、従来より帯電ロールにおいて用いられている公知の各種材料が、目的に応じて適宜に用いられる。具体的には、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリノルボルネンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体ゴム(EPDM)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)、シリコーンゴム等のゴム材料を例示することが出来、これらが単独で、若しくは二種以上のものが混合されて、用いられる。また、導電性を与えるべく、導電性カーボンブラック、グラファイト、チタン酸カリウム、酸化鉄、c−TiO2 、c−ZnO、c−SnO2 、各種イオン導電剤等の、従来より公知の導電剤が配合され、更に、必要に応じて、発泡剤、加硫剤、加硫促進剤及び可塑剤等が、それぞれの目的に応じて適宜、配合されて、導電性基層14の形成材料が調製される。
【0018】
そして、本発明に従う帯電ロール10にあっては、最外層たる誘電層16が、所定の半導電性組成物を用いて形成されていると共に、かかる誘電層16の表面に対して、(A)下記一般式(I)で表わされる塩素化合物及び分子内に−CONCl−構造を有する塩素化合物からなる群より選ばれた一種又は二種以上と、BF3 とを用いた表面処理、又は、(B)紫外線による表面処理、が施されているところに、大きな特徴が存するのである。
X(OCl)n ・・・(I)
[但し、上記式(I)中、Xは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子 又はアルキル基を表わし、nは正の整数を表わす。]
【0019】
すなわち、最外層たる誘電層16は、(α1)アニリン、ピロール、チオフェン及びこれらの誘導体からなる群より選ばれた一種又は二種以上を重合してなるπ電子共役系ポリマーに対して、(α2)炭素−炭素二重結合の含有量が4.85×10-3〜1.79×10-2mol/gであるスルホン酸又はその塩、若しくはカルボン酸又はその塩がドーピングされてなる導電性ポリマーと、(β)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂及び熱可塑性エラストマーからなる群より選ばれた一種又は二種以上からなる非共役系ポリマーとを含む半導電性組成物を用いて、形成されているのである。このような特定の半導電性組成物を用いて、最外層たる誘電層16を形成したことにより、本発明に従う帯電ロール10にあっては、誘電層16に含まれる導電性ポリマーによって優れた帯電性を発揮するのである。また、最外層たる誘電層16の表面(ロール表面)に対して特定の表面処理が施されているところ、誘電層16に含まれる導電性ポリマーには、炭素−炭素二重結合の含有量が所定の範囲内にある化合物(ドーパント)がドーピングされていることから、それらドーパントの存在によって後述する表面処理が効果的なものとなり、トナーや外添剤等の付着を効果的に抑制し得ることとなる。更に、導電性ポリマーが、所定のπ電子共役系ポリマーに、二重結合含有量が所定の範囲内にある化合物(ドーパント)がドーピングされてなるものであるところから、かかる導電性ポリマーは半導電性組成物内において効果的に分散し、その結果、帯電ロール10は、全体として良好な帯電性を発揮することとなる。
【0020】
ここで、最外層たる誘電層16を形成するために用いられる半導電性組成物において、その第一の必須成分は、(α1)アニリン、ピロール、チオフェン及びこれらの誘導体からなる群より選ばれた一種又は二種以上を重合してなるπ電子共役系ポリマーに対して、(α2)二重結合含有量が4.85×10-3〜1.79×10-2mol/gであるスルホン酸又はその塩、若しくはカルボン酸又はその塩がドーピングされてなる導電性ポリマーである。
【0021】
本発明においては、従来より公知のπ電子共役系ポリマーの中でも、特に、アニリン、ピロール、チオフェン及びこれらの誘導体からなる群より選ばれた一種又は二種以上を重合してなるπ電子共役系ポリマーが用いられる。アニリンの誘導体としてはトルイジン、アニシジン、エチルアニリン、ブチルアニリン、メトキシアニリン等を、また、ピロールの誘導体としてはメチルピロールやピロールカルボン酸等を、更に、チオフェンの誘導体としてはメチルチオフェンやエチレンジオキシチオフェン等を、各々、例示することが出来る。
【0022】
そのようなπ電子共役系ポリマーに対して、(α2)炭素−炭素二重結合の含有量が4.85×10-3〜1.79×10-2mol/gであるスルホン酸又はその塩、若しくはカルボン酸又はその塩がドーピング(導入)されてなる導電性ポリマーが、本発明では用いられる。炭素−炭素二重結合の含有量が4.85×10-3mol/g未満のスルホン酸又はその塩(若しくはカルボン酸又はその塩)を用いると、後述する表面処理による効果(トナー等の付着抑制効果)を有利に享受し得ない恐れがあり、その一方、炭素−炭素二重結合の含有量が1.79×10-2mol/gを超えるものを用いると、最外層(誘電層16)に割れが生ずる恐れがあるからである。炭素−炭素二重結合の含有量が上記範囲内にあるスルホン酸及びその塩としては、アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、ペンタジエンベンゼンスルホン酸、オクタジエンベンゼンスルホン酸、ドデカジエンベンゼンスルホン酸、ジペンテンベンゼンスルホン酸、及びそれらのナトリウム塩等を、例示することが出来る。また、炭素−炭素二重結合の含有量が上記範囲内にあるカルボン酸及びその塩としては、リノレン酸、ステアドリン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸、ジホモリノレン酸、アラキドン酸、ソルビン酸、及び、それらのナトリウム塩等を、例示することが出来る。尚、炭素−炭素二重結合の含有量とは、1分子内に含まれる炭素−炭素二重結合の数を、分子量で除することにより算出される値である。
【0023】
なお、(α1)π電子共役系ポリマーに対する、(α2)炭素−炭素二重結合の含有量が4.85×10-3〜1.79×10-2mol/gであるスルホン酸又はその塩(若しくはカルボン酸又はその塩)のドープ量(導入量)は、両者のモル比を、(α1):(α2)=1:0.03〜1:3の範囲内とすることが好ましい。ドーパントである(α2)のモル比が小さ過ぎる(ドープ量が少な過ぎる)と、得られる導電性ポリマーと非共役系ポリマーとの相溶性や、半導電性組成物中の導電性ポリマーの分散性が低下する恐れがあり、その一方、ドーパントたる(α2)のモル比が大き過ぎる(ドープ量が多過ぎる)と、ドーパントと(α1)π電子共役系ポリマーとの反応性が悪化したり、過剰なドーパントが機能層(誘電層16)の表面に析出する(ブリードする)恐れがあるからである。
【0024】
また、本発明において用いられる導電性ポリマーは、例えば、後述する重合ドープ法や後ドープ法によって、調製することが可能である。
【0025】
重合ドープ法においては、π電子共役系ポリマーのモノマー(例えばアニリン)と、上述したドーパントとを、所定の溶媒と共に容器内に投入し、容器内を所定温度(例えば5〜10℃)に制御しつつ、過硫酸アンモニウム等の酸化剤を所定時間(例えば1時間)かけて容器内に滴下し、所定時間(例えば10時間)酸化重合させることにより、目的とする導電性ポリマーを合成する。そして、得られた重合物を、水やエタノール等を用いて洗浄し、副生成物を除去することにより、目的とする導電性ポリマーが得られる。
【0026】
後ドープ法においては、先ず、π電子共役系ポリマーのモノマー(例えばアニリン)と、過硫酸アンモニウム等の酸化剤とを混合し、π電子共役系ポリマー(ポリアニリン)を得る。次いで、得られたπ電子共役系ポリマー(ポリアニリン)を、アルカリ環境下で脱ドープ反応せしめ、その後、水とメタノール等で精製する。そして、かかる脱ドープしたπ電子共役系ポリマー(ポリアニリン)と、上述したドーパントとを、必要に応じて溶媒に溶解した状態で、混合することにより、目的とする導電性ポリマーが得られる。
【0027】
尚、上述した各手法において用いられる溶媒としては、トルエン等の芳香族系溶媒、メチルエチルケトン(MEK)やメチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒、塩酸等を例示することが出来、これらのうちの一種、又は二種以上のものを混合した混合溶媒が用いられる。
【0028】
最外層たる誘電層16を形成するために用いられる半導電性組成物において、その第二の必須成分は、(β)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂及び熱可塑性エラストマーからなる群より選ばれた一種又は二種以上からなる非共役系ポリマーである。
【0029】
具体的に、本発明において用いられるアクリル系樹脂としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、アクリルシリコーン系樹脂やアクリルフッ素系樹脂の他、公知のアクリルモノマーの共重合体等を例示することが出来る。
【0030】
また、ウレタン系樹脂としては、分子構造中にウレタン結合を有する樹脂であれば特に制限されるものではなく、エーテル系,エステル系,アクリル系,脂肪族系等のウレタン樹脂や、それらのウレタン樹脂にシリコーン系ポリオール又はフッ素系ポリオールを共重合させたもの等を、例示することが出来る。尚、ウレタン系樹脂は、分子構造中にウレア結合又はイミド結合を有するものであっても良い。
【0031】
さらに、フッ素系樹脂としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、フッ化ビニリデン−四フッ化エチレン共重合体や、フッ化ビニリデン−四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体等を例示することが出来る。
【0032】
また、ポリイミド系樹脂としては、ポリアミドイミド(PAI)、ウレタンイミドやシリコーンイミド等を挙げることが出来る。
【0033】
さらにまた、エポキシ系樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシノボラック樹脂、臭素化型エポキシ樹脂、ポリグリコール型エポキシ樹脂、ポリアミド併用型エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、アミノ樹脂併用型エポキシ樹脂や、アルキッド樹脂併用型エポキシ樹脂等を、例示することが出来る。
【0034】
加えて、熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBS),スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)等のスチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、塩ビ系熱可塑性エラストマー等を、例示することが出来る。これらは単独で、若しくは2種以上のものが併用される。これらの中でも、合成プロセスの簡便さや、溶剤との溶解性等の観点より、TPUが好適に用いられる。
【0035】
なお、本発明において用いられる非共役系ポリマーは、数平均分子量(Mn)が500〜2000000の範囲内にあるものが好ましく、特に好ましくは2000〜800000の範囲内にあるものである。
【0036】
上述した導電性ポリマー及び非共役系ポリマーを用いて、最外層たる誘電層16を形成するための半導電性組成物が調製されるが、本発明において、導電性ポリマーの配合量(π電子共役系ポリマーとドーパントの総量)が少な過ぎると、最終的に得られる帯電ロール10が十分な帯電性を発揮し得ない恐れがあり、その一方で、導電性ポリマーの配合量が多過ぎると、誘電層16の硬度が高くなり過ぎて、誘電層16に割れが生ずる恐れがある。このため、本発明においては、導電性ポリマー(π電子共役系ポリマー及びドーパント)は、非共役系ポリマーの100重量部に対して、5〜200重量部となる割合において配合され、半導電性組成物として調製されることが好ましい。
【0037】
なお、最外層たる誘電層16を形成するために用いられる半導電性組成物には、上述した導電性ポリマー及び非共役系ポリマーの他にも、従来より公知の各種添加剤や配合剤等を、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、適宜、配合することも可能である。
【0038】
上述した導電性基層14を軸体12の外周面上に設け、かかる導電性基層14の表面に最外層たる誘電層16を設ける手法としては、従来より公知の何れの手法をも採用することが可能である。例えば、先ず、導電性基層14の形成材料を用いて金型成形することにより、軸体12の外周面上に導電性基層14を設け、次いで、所定の溶媒を用いて液状に調製した半導電性組成物を、ディッピング法により導電性基層14の表面に塗布し、乾燥せしめることにより、後述する表面処理前の帯電ロール(ベースロール)を作成することが可能である。
【0039】
そして、軸体12の外周面上に、導電性基層14及び誘電層16が積層形成されてなるベースロールに対して、以下に述べる何れかの表面処理が施されることにより、本発明の帯電ロール10が得られるのである。
【0040】
−フッ素・塩素処理−
フッ素・塩素処理においては、下記一般式(I)で表わされる塩素化合物及び分子内に−CONCl−構造を有する塩素化合物の中からなる群より選ばれた一種又は二種以上と、BF3 とが用いられる。
X(OCl)n ・・・(I)
[但し、上記式(I)中、Xは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子 又はアルキル基を表わし、nは正の整数を表わす。]
【0041】
フッ素・塩素処理において用いられる化合物について詳述する。上記一般式(I)で表わされる塩素化合物において、アルカリ金属原子としては、リチウム、ナトリウム及びカリウム等の各原子を、また、アルカリ土類金属原子としては、マグネシウムやカルシウム等の各原子を、更に、アルキル基としては、メチル基、エチル基、第三級ブチル基、トリフルオロメチル基等を、例示することが出来る。
【0042】
そのような一般式(I)で表わされる化合物としては、具体的に、メチルハイポクロライド、エチルハイポクロライド、第三級ブチルハイポクロライド、トリフルオロメチルハイポクロライド等のアルキルハイポクロライドや、メチルハイポフルオライド、エチルハイポフルオライド、第三級ブチルハイポフルオライド、トリフルオロメチルハイポフルオライド等のアルキルハイポフルオライド等といった、アルキルハイポハライドや、次亜塩素酸、更に、次亜塩素酸リチウム、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸マグネシウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸塩等を、例示することが出来る。
【0043】
また、分子内に−CONCl−構造を有する塩素化合物としては、具体的に、N−クロロスクシンイミドやN−クロロフタルイミド等の酸イミドハロゲン化合物、トリクロロイソシアヌル酸やジクロロイソシアヌル酸等のイソシアヌル酸ハライド、ジクロロジメチルヒダントイン等のハロゲン化ヒダントイン等を、例示することが出来る。
【0044】
上記した化合物からなる群より選ばれた一種又は二種以上と、BF3 とを用いて、フッ素・塩素処理が実施される。かかる表面処理は、それら化合物を、処理前の最外層(誘電層16)に対して接触せしめることによって実施されることとなるが、好ましくは、接触せしめる化合物を、水又は所定の有機溶媒に溶解乃至は分散させてなる処理液を調製し、かかる処理液を最外層(誘電層16)の表面に接触させることによって実施することが望ましい。
【0045】
なお、処理液の調製に用いられる溶媒としては、水や、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチル、ヘキサン、メタノール、エタノール、プロパノール、第三級ブタノール、イソプロピルアルコール、ジエチルエーテル、N−メチル−2−ピロリドン等を、例示することが出来る。また、処理液中の上記化合物の含有量は、最外層(誘電層16)表面(ロール表面)が全面に亘って充分に処理され得る量であれば、特に限定されるものではないが、一般に、各化合物の濃度が、0.01〜40重量%程度となるように、処理液が調製される。このような濃度に調製された処理液を用いることによって、表面処理後の最外層(誘電層16)の表面が、適度な硬度を維持しつつ、トナーや外添剤が付着し難いものとなるのである。
【0046】
フッ素・塩素処理を実施するに当たり、上記した化合物からなる群より選ばれた一種又は二種以上及びBF3 は、それらを所定の溶媒にて混合してなる一の処理液であっても、また、それらを個別に所定の溶媒に混合して、二以上の処理液とした場合であっても、本発明においては使用することが可能である。尚、一の処理液として調製する場合、上記した化合物からなる群より選ばれた一種又は二種以上の化合物(ここではXと総称する)と、BF3 との重量比は適宜に決定されるが、好ましい範囲として、X:BF3 =1:99〜90:10(重量比)を例示することが出来る。これらの範囲内では、最外層(誘電層16)に含まれる、π電子共役系ポリマーに二重結合を有するドーパントがドーピングされてなる導電性ポリマーへの反応性と、最外層表面に対するBF3 によるフッ素原子の導入効果とのバランスが、優れたものとなるからである。
【0047】
上述の如き所定の処理液を用いて、最外層(誘電層16)の表面処理を実施する際は、通常、室温付近で実施されることとなるが、必要に応じて、高温下において、処理液を弾性層表面に接触せしめることも可能である。
【0048】
また、処理液を弾性層表面に接触せしめる方法は、特に限定されるものではなく、従来より公知の種々の方法を採用することが可能である。
【0049】
以上のようにして、処理液をベースロールの表面に接触せしめることにより、(処理前の)最外層に含まれる、π電子共役系ポリマーにドーピングされたドーパント中の炭素−炭素二重結合が効果的に切断され、下記一般式(I)で表わされる塩素化合物及び分子内に−CONCl−構造を有する塩素化合物からなる群より選ばれた一種又は二種以上の化合物に由来する塩素原子、及び、BF3 に由来するフッ素原子が、π電子共役系ポリマーに由来する導電性ポリマーの強固な骨格を損なうことなく、その分子内に導入されることとなる。そして、かかる表面処理により得られる帯電ロール10にあっては、トナーや外添剤等の付着が効果的に抑制され、以て、ロール表面の汚れに起因する画像不具合の発生も有利に低減することとなるのである。
X(OCl)n ・・・(I)
[但し、上記式(I)中、Xは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子 又はアルキル基を表わし、nは正の整数を表わす。]
【0050】
上述してきたように、ベースロールの表面に処理液を接触せしめた後、かかる表面を、水を含む液体で洗浄し、必要に応じて、エアーブロー等で水滴を除去することにより、本発明に係る帯電ロール10が得られるのである。なお、かかる洗浄の際における洗浄時間等の条件は、適宜に決定されることとなる。
【0051】
−「UV処理」−
「UV処理」において用いられる紫外線照射装置としては、従来より公知の紫外線照射装置であって、本発明の目的に応じたものであれば、如何なるものであっても使用可能であり、具体的には、アイグラフィックス株式会社製のUB031-2A/BM (商品名)等を例示することが出来る。
【0052】
また、「UV処理」を実施するに際しての紫外線の照射条件は、用いる紫外線照射装置の種類等に応じて適宜、決定されるが、一般には、照射強度:20〜150mW/cm2 程度、紫外線の光源と弾性層表面との距離:20〜80mm程度、照射時間:5〜360秒程度の条件が採用される。
【0053】
そして、上記した条件に従って、ベースロールの表面に紫外線(UV)を照射せしめると、かかる表面が効果的に改質され、以て、トナーや外添剤等の付着が効果的に抑制されることとなるのである。
【0054】
上述したように、本発明に従う帯電ロール10にあっては、その最外層たる誘電層16が、所定の導電性ポリマー及び非共役系ポリマーを必須成分とする半導電性組成物にて形成されていると共に、誘電層16の表面に対しては、フッ素・塩素処理又はUV処理が施されてなるものである。このような構成を採用したことにより、本発明の帯電ロール10は、特定の導電性ポリマーの使用により、優れた帯電性を発揮すると共に、表面処理によるトナーや外添剤等の付着防止効果をも有利に発揮するものとなっているのである。
【実施例】
【0055】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には、上述の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0056】
尚、以下の実施例及び比較例において、導電性ポリマーを合成する際に使用したドーパントを表1に示す。表1において、二重結合含有量とは、炭素−炭素二重結合の含有量を意味する。また、以下の実施例及び比較例において用いた非共役系ポリマーを、表2に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
先ず、以下の各手法に従って、導電性ポリマーA〜Gを合成した。
【0060】
−導電性ポリマーAの合成−
π電子共役系ポリマーを構成するモノマーとしてのo−トルイジン:1molと、ドーパントa:1molと、1Nの塩酸:1333mLとメチルイソブチルケトン(MIBK):667mLとからなる混合溶媒とをフラスコ内に投入し、フラスコ内を5〜10℃に制御しつつ、酸化剤としての過硫酸アンモニウム:1molを1時間かけて滴下し、その後、10時間、酸化重合せしめることにより、重合物を得た。その後、得られた重合物を水、メタノール及びアセトンの各々を用いて洗浄し、精製することにより、導電性ポリマーAを得た。
【0061】
−導電性ポリマーBの合成−
o−トルイジン:1molに代えて、アニリン:1molを用いた以外は導電性ポリマーAの場合と同様にして、導電性ポリマーBを得た。
【0062】
−導電性ポリマーCの合成−
ドーパントaに代えてドーパントbを用いた以外は導電性ポリマーAの場合と同様にして、導電性ポリマーCを得た。
【0063】
−導電性ポリマーDの合成−
ドーパントaに代えてドーパントcを用いた以外は導電性ポリマーAの場合と同様にして、導電性ポリマーDを得た。
【0064】
−導電性ポリマーEの合成−
ドーパントaに代えてドーパントdを用いた以外は導電性ポリマーAの場合と同様にして、導電性ポリマーEを得た。
【0065】
−導電性ポリマーFの合成−
ドーパントaに代えてドーパントeを用いた以外は導電性ポリマーAの場合と同様にして、導電性ポリマーFを得た。
【0066】
−導電性ポリマーGの合成−
ドーパントaに代えてドーパントfを用いた以外は導電性ポリマーAの場合と同様にして、導電性ポリマーGを得た。
【0067】
1.実施例1〜10、比較例1〜3
SBR(JSR株式会社製、商品名:JSR1507 ):100重量部に、軟化剤としてのダイアナプロセスオイルPW32(商品名、出光興産株式会社製):70重量部と、硫黄ファクチクス(天満サブ化工株式会社製、商品名:黒サブ30):20重量部と、電子導電剤としてのカーボンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製、商品名:ケッチェンブラックEC300J):50重量部を配合し、導電性基層形成材料を調製した。この導電性基層形成材料を用いて、金型成形により、軸体の外周面上に厚さ:3mmの導電性基層を作製した。
【0068】
下記表3に示す非共役系ポリマー:70重量部を、テトラヒドロフラン(THF):280重量部に溶解させた。一方、下記表3に示す導電性ポリマー:30重量部のトルエン溶液に、THFを添加して、導電性ポリマーの濃度が5重量%であるTHF溶液を調製した。この導電性ポリマーのTHF溶液を、非共役系ポリマーのTHF溶液に加え、3本ロールにて混合することにより、液状の半導電性組成物を調製した。
【0069】
液状の半導電性組成物の各々を用いて、先に作製した導電性基層上に、ディッピング法に従って厚さ:100μmの塗膜を形成し、この塗膜を160℃×30分間の条件にて乾燥させることにより、導電性基層の表面に誘電層が設けられてなるベースロールを作製した。
【0070】
そして、得られた各ベースロールの表面に対して、実施例10については紫外線による表面処理(UV処理)を、実施例1〜9及び比較例1〜3についてはフッ素・塩素処理(F・Cl処理)を施すことにより、図1に示す如き構造の帯電ロールを13種類、作製した。
【0071】
実施例10におけるUV処理は、アイグラフィックス株式会社製の紫外線照射機「UB031-2A/BM 」(商品名、水銀ランプ形式)を用いて、ベースロールの表面(誘電層の表面)に対して、ベースロールを60rpmで回転させながら、照射強度:120mW/cm2 、紫外線照射機の光源とロール表面との距離:40mm、照射時間:180秒の条件にて実施した。
【0072】
また、実施例1〜9及び比較例1〜3におけるF・Cl処理においては、先ず、次亜塩素酸tert-ブチル (東京化成工業株式会社製):5gと、BF3 の含有率が48重量%である三フッ化ホウ素−ジエチルエーテル(関東化学株式会社製):10gとを、100gのメチルエチルケトンに溶解し、処理液を調製した。尚、かかる処理液における次亜塩素酸tert-ブチル の濃度及びBF3 の濃度は、何れも4.3重量%であった。この処理液を、各ベースロールの表面(誘電層の表面)に60秒間、接触させた後、表面を水に30秒間、浸漬することにより、F・Cl処理を実施した。
【0073】
2.実施例11〜15
半導電性組成物における導電性ポリマーと非共役系ポリマーとの配合割合が下記表4に示す割合となるように、導電性ポリマーの配合量を変える以外は実施例1と同様にして、半導電性組成物を調製し、帯電ロールを5種類、作製した。
【0074】
得られた18種類の帯電ロールを、以下のようにして評価した。
【0075】
−帯電性評価−
各帯電ロールを実機(ヒューレット・パッカード社製、商品名:LASER JET 4000)に組み付け、15℃×10%RHの環境下にて、帯電ロールに対してAC成分:1800Hz 1300Vp−p、DC成分:−600Vの印加を行ない、ハーフトーン画像を出力した。出力した画像を目視で観察し、画像欠点が認められない場合を○と、画像欠点が認められる場合を×と、それぞれ評価した。各帯電ロールの評価結果を、下記表3及び表4に示す。
【0076】
−汚れ評価−
各帯電ロールを実機(ヒューレット・パッカード社製、商品名:LASER JET 4000)に組み付け、32.5℃×85%RHの環境下にて10000枚の画像を出力した。その後、ハーフトーン画像を出力し、このハーフトーン画像を目視で観察した。画像欠点が認められない場合を○と、画像欠点が認められる場合を×と、それぞれ評価した。各帯電ロールの評価結果を、下記表3及び表4に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
かかる表3及び表4の結果からも明らかなように、本発明に従う帯電ロールにあっては、優れた帯電性を発揮すると共に、トナーや外添剤等の付着を効果的に抑制し得るものであることが、確認されたのである。
【符号の説明】
【0080】
10 帯電ロール 12 軸体
14 導電性基層 16 誘電層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体の外周面上に一又は二以上の機能層が設けられており、かかる機能層のうちの最外層の表面に対して、(A)下記一般式(I)で表わされる塩素化合物及び分子内に−CONCl−構造を有する塩素化合物からなる群より選ばれた一種又は二種以上と、BF3 とを用いた表面処理、又は、(B)紫外線による表面処理、が施されてなる帯電ロールにして、
前記表面処理が施されている機能層が、(α1)アニリン、ピロール、チオフェン及びこれらの誘導体からなる群より選ばれた一種又は二種以上を重合してなるπ電子共役系ポリマーに対して、(α2)炭素−炭素二重結合の含有量が4.85×10-3〜1.79×10-2mol/gであるスルホン酸又はその塩、若しくはカルボン酸又はその塩がドーピングされてなる導電性ポリマーと、(β)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂及び熱可塑性エラストマーからなる群より選ばれた一種又は二種以上からなる非共役系ポリマーとを含む半導電性組成物からなることを特徴とする帯電ロール。
X(OCl)n ・・・(I)
[但し、上記式(I)中、Xは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子 又はアルキル基を表わし、nは正の整数を表わす。]
【請求項2】
前記半導電性組成物が、前記導電性ポリマーの5〜200重量部と、前記非共役系ポリマーの100重量部とを含むものである請求項1に記載の帯電ロール。


【図1】
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【公開番号】特開2012−118158(P2012−118158A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265990(P2010−265990)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】