説明

帯電抑制織物

【課題】本発明では、電気絶縁性繊維と導電性繊維からなる織物であって、導電性繊維の間隔が1mmを超え数十mmであっても、使用環境にかかわらず帯電防止効果が維持され、かつ風合いがソフトな織物を提供する。
【解決手段】電気絶縁性繊維と導電性繊維からなる織物であって、該導電性繊維が断面直径8〜200μmであり電気比抵抗1.0×10Ωcm以下であり、且つ該導電性繊維が2〜60mmの間隔をおいて格子状に織り込まれており、更に該導電性繊維が蓄電部品に繋げられている織物、並びに、該織物を用いて縫製される帯電防止衣服であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電気を帯びる性質が抑制された織物に関する。
【背景技術】
【0002】
綿や羊毛等の天然繊維または、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリオレフィン類、塩化ビニルなどの合成繊維からなる布帛は、従来より肌着やブラウスなどの衣類、カーテン等のインテリア、毛布などの寝具として我々の生活の中で使用されている。
【0003】
しかしながら、特に冬場などの乾燥した環境においては帯電し易い。繊維種や環境にもよるが、帯電圧が高いと電荷量は少ない場合であっても、瞬間的な放電が起こる。着用者または使用者、あるいは時と場所によってはこの現象が非常に不快に感じられる。この帯電を抑制する方法として従来より様々な方法が開発されている。例えば、予め帯電を防止する加工剤で処理する方法や導電性繊維を複合する方法が好適に挙げられる。合成繊維から成る布帛に帯電防止性を付与する方法としては、1)合成繊維に親水性ポリマー等をブレンドしたり、親水基を導入した改質繊維を用いる方法、2)合成繊維または布帛に後加工によって親水性ポリマー等の吸水性物質を付着させる方法が行われている。一応の帯電防止性が得られるが、30%RH以下の低湿度雰囲気では比抵抗が高くなって帯電防止効果が得られなくなる。さらに、繰り返し洗濯等によって帯電防止性が低下し易いと言う問題もある。
【0004】
一方導電性繊維を複合する方法(経方向または緯方向、或いは経緯両方向に導電性繊維を織り込む方法)が知られ、盛んに検討がおこなわれている。例えば、特開2001−40546号公報には多数の繊維糸を織り合せてなると共に,該多数の繊維糸の間に良導電性金属をスパッタリング等で繊維表面を被服した導電性繊維糸を混在させて織り込んでなる帯電防止布が開示されている。このような方法は、導電性繊維が不在であると帯電圧が数千から数万ボルトと高い高電圧に達してしまう場合に適用され、防塵、防爆服などに利用される。確かにある部位で発生する静電気は良導電性繊維を通して流れやすくはなるが、このような良導電性繊維であっても、使用環境の湿度が低かったり、適切に導電性繊維糸からアースされるような使用形態をとらなければ、実質的に帯電防止することはできない。
【0005】
また、有機高分子を主体成分とする断面直径50μm程度で電気比抵抗1.0×10〜1.0×10Ωcm程度の導電性繊維が好適に用いられて実用化されているものの、このような導電性繊維を織り込んだ織物は、導電性繊維の間隔が1mmを超えると帯電抑制性能が減少し、所望の帯電防止効果を得られない場合があった。また、一般に導電性繊維の利用は織物の風合いや審美性を損ね、粗剛となるだけでなく、コストが高くなるという問題があり、使用量は少ないほど好ましい。こうした点に鑑み、帯電防止性が良好で、ソフトな風合いの織物を鋭意検討した。
【特許文献1】特開2001−40546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、電気絶縁性繊維と導電性繊維からなる織物であって、導電性繊維の間隔が1mmを超え数十mmであっても、帯電防止効果が維持され、風合いがソフトな織物及びそれを用いた衣服を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、上記目的を解決するために次に記す構成をとる。即ち、電気絶縁性繊維と導電性繊維からなる織物であって、該導電性繊維が断面直径8〜200μmであり電気比抵抗1.0×10Ωcm以下であり、且つ該導電性繊維が2〜60mmの間隔をおいて格子状に織り込まれており、更に該導電性繊維が蓄電部品に繋げられている織物、並びに、該織物を用いて縫製される帯電防止衣服であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、電気絶縁性繊維と導電性繊維からなる織物であって、蓄電部品と導電性繊維を接触させることにより、発生した静電気を導電性繊維を通して蓄電部品に蓄積し、導電性繊維の間隔が1mmを超え少なくとも60mmであっても、帯電防止効果が維持され、風合いやコストの面で有利な織物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明における織物を構成する電気絶縁性繊維とは、例えば電気比抵抗が1.0×1014以上で、実質的に電気伝導性を有さない繊維を言い、具体的には、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ナイロン、アラミド、ビニロン、ポリアリレート、ポリベンザゾールなどの合成高分子を繊維化したものが用いられる。また、羊毛や綿などの天然繊維を混紡などで複合したものが用いられる場合もある。即ち、特に限定されるものではない。
【0010】
また、本発明における織物を構成する導電性繊維も次の条件を除いて特に限定されることはない。その条件とは、断面直径8〜200μmであり電気比抵抗は1.0×10Ωcm以下であることが必要であり、更には断面直径が35〜85μmであり、電気比抵抗が1.0×10Ωcm以下であることが好ましい。断面直径が8μm未満であると長さ方向の電気抵抗がおおきくなって所望の帯電抑制効果が得られなくなったり、引張強度が低くなるために断線して所望の帯電抑制効果が得られなくなる危険性が高くなる。また、断面直径が200μmを越える場合は布帛の剛性が高くなるなどにより、折り曲げた際に折れ曲がった部位の導電繊維が断線して所望の帯電抑制効果が得られなくなる。
また、本発明の織物を構成する導電性繊維は電気比抵抗が1.0×10Ωcmを越えると、電荷移動が急激に行われ難くなって所望の帯電防止効果が得られない。
【0011】
本発明では上記のような導電性繊維が格子状に織り込まれ、織物にされる必要があるが、その間隔は2〜60mmであることが必要であり、2〜30mmが好ましい。60mmを越えると、蓄電部品の助けを借りても帯電抑制が機能しなくなる。また2mm未満の間隔では帯電圧は低く良好であるが、風合いが硬く、審美性、コストが高くなるといった欠点がある。
【0012】
また、本発明では当該導電性繊維が蓄電部品に繋げられている必要がある。これにより、導電性繊維の間隔が1mmを越えても少なくとも60mmまでなら、帯電抑制効果が大きいまま維持される。このメカニズムは次のように考えられる。即ち、摩擦などで織物の一部の帯電圧が瞬間的に上がろうとする際に当該箇所およびその近傍の導電性繊維を通じて電荷が分散、放電されるが、間隔が広がるとその機能は低下する。しかし、静電容量が高い部品、部位に繋げられていることで電荷が留まらずに静電容量が高い部品、部位に流れ込み、時間をかけて随時静電容量が高い部品、部位から少量づつ放電される。このようにして蓄積された電荷は時間を掛けて少量づつ漏電、放電するため使用者が気づくことが殆どなくなり、気づいたとしても不快に感じることはなくなる。また発生した静電気は導電性繊維を通して蓄電部品の電極に強制的に集められて蓄積するため、使用環境の湿度や蓄積した静電気を適切にアースする(例えば、人体にアースする等)などの使用形態によらないでも、帯電を抑制できる。
【0013】
このような蓄電機能をもつ部品、部位は特に材料や構造を限定するものではなく、市販されている、アルミニウム電解コンデンサーやフィルムコンデンサーや、絶縁フィルムを金属箔で挟んだものなどを任意に用いることができる。特にフィルムコンデンサーは形状も小さく、効果も良好である。
【0014】
蓄電部品としては、たとえばコンデンサーが挙げられるが、コンデンサーと導電性繊維を繋ぐ方法としては、導電性繊維と直接接触し通電可能とすることが必要で、コンデンサーを導電性繊維表面に縫い付けたり、貼り付けたりすることができる。また簡単に着脱可能な方式で取り付けることも可能である。ともかく、コンデンサーと導電性繊維が通電可能とする配置であればどのような方法でも良い。
【0015】
本発明においては、上記織物を常法により縫製し、スカートや背広等の衣服、防塵、防爆用衣服などの帯電防止衣服とすることができる。そして、スカートや背広等の衣服とした場合には、衣服に帯電した静電気が人体から放電して衝撃を感じたり、身体にまとわり付く等の不快感や表面のゴミが付着や除去し難いという問題が解決できるので、衣料テキスタイル、衣料アパレル分野で有用である。
また、防塵、防爆用衣服とした場合は、火災や爆発が発生し易い環境で働く作業者や電気部品を取り扱ったりする作業者等の衣服として好適に使用できる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はその説明内容に限定されるものではない。尚、実施例における物性の測定方法は下記の通りである。
(1)摩擦帯電圧
摩擦帯電圧の測定はJIS L 1094に記載されている「摩擦帯電圧測定法」にて行った。
摩擦帯電圧が2000ボルト以上になると、実用上、スパークによる異音、衝撃を発生するなど問題となるレベルであり、2000ボルト未満であれば、問題となることはない。
(2)電気比抵抗
電気比抵抗の測定法は下記の通りである。
導電性繊維を束状に引き揃え温度20℃、湿度30%で、24時間調温、調湿したのち、グリップ法で試長10cmの繊維束とし、グリップ部に導電性接着剤を塗布し、印加電圧100Vで試料の抵抗(R)を測定し、次式により算出した。
=(R×D)/(9×10×L×d)
:電気比抵抗(Ωcm)
R:抵抗(Ω)
d:試料密度(g/cm
D:デニール
L:試料長(cm)
【0017】
[実施例1]
通常のレピア織機を用いて、導電性繊維として、断面直径14μm、電気比抵抗1.0×10−5Ωcmのステンレス繊維(SUS304 日本精線株式会社 ナスロン)を用い、絶縁繊維として帝人テクノプロダクツ株式会社製のポリ塩化ビニル繊維「テビロン」(繊度122デシテックス)を用いて平織りの織物を得た。ポリ塩化ビニル繊維の打ち込み本数は経緯方向とも76本/インチ(幅1.8m、長さ50m)とした。このときの格子状をなすステンレス繊維の間隔が、経緯とも2mmのもの[織物A]、30mmのもの[織物B]、60mmのもの[織物C]の3種を作成した。これらの織物の反物から幅60cm、長さ1mの織物片をそれぞれ30枚切り取り、30枚全てを長さ方向に3回折りたたんで幅60cm、長さ12.5cmとして重ね、幅70cm長さ20cmの鉄板を載せ24時間放置した。その後、長さ方向(1m長)の一端のステンレス繊維に一般電子回路用のポリエステルフィルムコンデンサー(東信工業社製 ポリエステルフィルムコンデンサー type UMZ)を幅方向60mm範囲内につき1つステンレス繊維と接触し通電可能となるように縫い付けた。織物A、織物B、織物Cからの幅60cm、長さ1mのサンプリング、コンデンサ取り付けはそれぞれ30点作成した。作成した30点のなかで、最も帯電圧の高いものをデータとして採用した。
【0018】
このようにして測定した摩擦帯電圧は、織物A、織物B、織物Cの順に800ボルト、1200ボルト、1600ボルトであった。
帯電圧はどれも低く良好であった。Aのものについては風合いがやや硬いが、着用性は問題なく、B、Cのものは、風合いもソフトで着用性も良好であった。
【0019】
[比較例1]
実施例1において、ポリエステルフィルムコンデンサーを取り付けない以外は、実施例1と同様のものを用いた。摩擦帯電圧を評価したところ、織物A、織物B、織物Cの順に2000ボルト、3700ボルト、5800ボルトであった。
A、B,Cとも帯電圧が高くなり、実用上問題である。
【0020】
[実施例2]
導電用カーボンブラックとして”トーカブラック”#5500(東海カーボン社製)を10%練りこんだポリプロピレンを紡糸、延伸し、断面直径50μm、電気比抵抗1.8×10Ωcmのポリプロピレン導電性繊維を得た。導電性繊維以外は実施例1と同様のものを用いた。摩擦帯電圧を評価したところ、織物A、織物B、織物Cの順に800ボルト、1100ボルト、1500ボルトであった。
A、B、Cとも帯電圧はどれも低く良好であり、風合いもソフトで着用性も良好であった。
【0021】
[実施例3]
ポリエチレングリコール(分子量20000)と炭素数12〜13のアルキルスルホン酸ナトリウムの2:1混合導電剤1.2重量部とポリエチレンテレフタレート98.8重量部を混合し、紡糸、延伸して、断面直径50μm、電気比抵抗7×10Ωcmのポリエステル導電性繊維(A)を得た。その他は実施例2と同様のものを用いた。摩擦帯電圧を評価したところ、織物A、織物B、織物Cの順に1000ボルト、1500ボルト、1900ボルトであった。
A、B、Cとも帯電圧はどれも低く良好であり、風合いもソフトで着用性も良好であった。特にB、Cはソフト性、審美性も優れ、良好であった。
【0022】
[比較例2]
実施例3において、導電性繊維として、ポリエチレングリコール(分子量20000)と炭素数12〜13のアルキルスルホン酸ナトリウムの2:1混合導電剤の添加量が0.5重量部とポリエチレンテレフタレート99.5重量部を混合し、紡糸、延伸し、断面直径50μm、電気比抵抗1.9×1010Ωcmのポリエステル導電性繊維(B)を得た。その他は実施例3と同様のものを用いた。摩擦帯電圧を評価したところ、織物A、織物B、織物Cの順に2000ボルト、3200ボルト、5200ボルトであった。
A、B、Cとも帯電圧が高く、実用上問題である。
【0023】
[比較例3]
実施例1において、導電性繊維の断面直径を4μmとした以外は、実施例1と同様のものを用いた。摩擦帯電圧を評価したところ、織物A、織物B、織物Cの順に2000ボルト、2700ボルト、3400ボルトであった。
A、B,Cとも帯電圧が高く、実用上問題である。
【0024】
[実施例4]
実施例2において、導電性繊維の断面直径を190μmとした以外は、実施例2と同様のものを用いた。摩擦帯電圧を評価したところ、織物A、織物B、織物Cの順に700ボルト、1000ボルト、1400ボルトであった。
A、B、Cとも帯電圧は低く良好であった。Aのものについては、風合いがやや硬いものの、実用上は問題なく、B、Cのものは風合いもソフトで良好であった。
【0025】
[比較例4]
実施例2において、導電性繊維の断面直径を230μmとした以外は、実施例2と同様のものを用いた。摩擦帯電圧を評価したところ、織物A、織物B、織物Cの順に2000ボルト、3100ボルト、4400ボルトであった。
A、B、Cとも帯電圧が高く、実用上問題である。
【0026】
[実施例5]
実施例1において、電気絶縁性繊維としてポリエチレンテレフタレート繊維(繊度122デシテックス)を用いた以外は、実施例1と同様のものを用いた。摩擦帯電圧を評価したところ、織物A、織物B、織物Cの順に400ボルト、900ボルト、1200ボルトであった。
帯電圧はどれも低く良好であった。Aのものについては風合いがやや硬いが、着用性は問題なく、B、Cのものは、風合いもソフトで着用性も良好であった。
【0027】
[実施例6]
実施例1において、電気絶縁性繊維としてポリプロピレン繊維(繊度122デシテックス)を用いた以外は、実施例1と同様のものを用いた。摩擦帯電圧を評価したところ、織物A、織物B、織物Cの順に600ボルト、1000ボルト、1500ボルトであった。
帯電圧はどれも低く良好であった。Aのものについては風合いがやや硬いが、着用性は問題なく、B、Cのものは、風合いもソフトで着用性も良好であった。
【0028】
得られた結果を表1、表2に示す。表1、表2から明らかなように、電気絶縁繊維と導電性繊維から構成され、格子状に導電性繊維を織り込んだ織物において、特定の範囲の断面径と電気比抵抗を有する導電性繊維を用い、導電性繊維とフィルムコンデンサーを通電可能に繋ぐことにより、これまで格子状間隔が1mm以上では帯電圧抑制が難しかったにもかかわらず、2〜60mm、好ましくは2〜30mmの格子間隔にしても、使用環境にかかわらず、帯電を抑制でき、かつ風合いのソフトな織物、またそれを用いた衣服が可能となった。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0031】
スカートや背広等の衣類に帯電した静電気が人体から放電して衝撃を感じたり、身体にまとわり付く等の不快感や表面のゴミが付着や除去し難いという問題について、使用環境の湿度、使用形態によらないで帯電を抑制できるので、衣料テキスタイル、衣料アパレル分野で有用であり、また火災や爆発が発生し易い環境で働く作業者や電気部品を取り扱ったりする作業者等の防塵、防爆用衣服として好適な衣服を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁性繊維と導電性繊維からなる織物であって、該導電性繊維が断面直径8〜200μmであり電気比抵抗1.0×10Ωcm以下であり、且つ該導電性繊維が2〜60mmの間隔をおいて格子状に織り込まれており、更に該導電性繊維が蓄電部品に繋げられていることを特徴とする帯電抑制織物。
【請求項2】
導電性繊維の断面直径が35〜85μmであり電気比抵抗が1.0×10Ωcm以下である請求項1記載の帯電抑制織物。
【請求項3】
導電性繊維の織り込み間隔が2〜30mmである請求項1または2記載の帯電抑制織物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項記載の帯電抑制織物を用いて縫製されることを特徴とする帯電防止衣服。

【公開番号】特開2007−100244(P2007−100244A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291549(P2005−291549)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】