説明

帯電粒子の帯電量特定装置

【課題】帯電粒子を撮影する際に要する時間を短縮でき、帯電粒子捕捉効率の高い帯電粒子の帯電量特定装置を提供する。
【解決手段】帯電量特定装置100は、吸引部40と、吸引部40を作動させて浮遊する帯電粒子pを含む気体Aを取り込むとともに帯電粒子pをセンシングする検知部10と、検知部10と管路Lで繋がれて検知部10を通過した気体Aが導入される撮影部50と、管路Lに設けられた開閉バルブ30と、検知部10から帯電粒子pのセンシングデータが送信された際に開閉バルブ30を閉制御する制御部20を備え、検知部10で帯電粒子pがセンシングされ、このセンシングデータが制御部20に送信されて開閉バルブ30を閉制御し、帯電粒子pを管路Lにおける開閉バルブ30よりも下流側で捕捉するものであり、撮影部50では帯電粒子pにレーザ光を照射した際の散乱光の受光データから帯電粒子pの帯電量を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空中に浮遊する帯電粒子を取り込んでその帯電量を特定する、帯電粒子の帯電量特定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電界内においては、粒子が帯電してなる帯電粒子にクーロン力が作用し、電界発生源にこの帯電粒子が付着し易くなることは知られるところである。この電界発生源として静電気帯電した種々の部材が挙げられるが、特に、この静電気帯電にともなう粒子の付着は、以下の生産施設、すなわち、FPD素材(フラットパネルディスプレイ)として透明電極を製造するプロセス、生産装置を組立・製造する施設、次世代二次電池を製造する施設、などの生産施設において、粒子汚染として問題となっている。
【0003】
上記施設で製造される製品(ワーク)は、低いクリーン度(クリーン度:1000〜10000程度)での製造を許容するが、上記する各種生産施設空間においては、摩擦や剥離、洗浄、乾燥などの製造過程で生じ得る数μmサイズの大きな粒子も存在しており、その製品への付着が製品歩留まり低下の主要因の一つとなっている。
【0004】
また、クリーンルームの内装部材には導電性材料が一般に適用されているが、これには±100V程度の電位が帯電しており、これがルーム内空間に帯電粒子を生ぜしめて製品に付着する結果、製品のクリーン度が低下することとなる。
【0005】
ところで、粒子の挙動には、重力による終末沈降、気流、クーロン力が影響し、ワークや内装部材への帯電粒子の吸着は、このうちのクーロン力が主として関係し、帯電粒子の有する帯電量(電荷量)とワークの表面電位によって生じる電界強度で吸着力が決定される。このため、静電気対策として、イオナイザや軟X線によるワーク表面の除電がおこなわれている。
【0006】
しかし、現在のクリーンルーム等においては、その空間内の静電気分布や摩擦、剥離等によって生じ得る粒子の帯電量が把握できていないことから、実際には、上記する電位除去対策が十分に功を奏しているとは言い難い。中でも、帯電粒子の発生機構やその性状、帯電量は除電対策にとって重要な要素であるにも関わらず、数μmサイズの粒子を実環境下において測定もしくは特定する方法が未だ確立されていない。
【0007】
なお、上記する帯電粒子の帯電量の測定や特定に際し、微分型静電分級器(DMA: Differential Mobility Analyzer)を使用する方法が現在用いられている。
【0008】
このDMAを使用する方法は、常温常圧下での粒子分級に有効な測定方法であり、その装置構成は、二重同心円筒形で、その内筒に電圧を印加し、外筒を接地した姿勢でこれら円筒間に電位差を持たせるものであり、内外筒間の距離や電位は一定に保たれ、電界が均一となるように設計されている。そして、内外筒間には清浄空気を層流状態(シース気流)で導入する一方、帯電粒子を含んだサンプル空気は外筒の壁に沿って流入させるようにしている。このDMA内においては、電位差に依存する電界と帯電粒子の帯電量(荷電量)の間で生じるクーロン力が帯電粒子に作用し、電位差に応じた電気移動度を有する移動速度で中心電極に引き寄せられることとなる。
【0009】
ここで、電気移動度の大きな粒子ほど移動速度が大きく、結果として中心電極の上部に沈着し易い一方で、電気移動度の小さな粒子は中心電極に捕集されずにシース気流とともにDMAから流出し易い。なお、この中心電極の下部にはスリットが設けてあり、一定の電気移動度よりも小さな帯電粒子のみが取り出されることとなる。また、凝縮核計数器(CNC: Condensation Nucleus Counter)等を使用してその濃度を測定することにより、電気移動度の分布を得ることもできる。
【0010】
上記するように、DMAは、粒子の粒径と電気移動度(すなわち荷電数)が設定された気流およびクーロン力と一致した場合に、分級粒子としてスリットから取り出せる仕組みとなっている。したがって、粒子の径が大きくなるにつれて下方に作用する重力と気流による移動速度が大きくなり、自ずとDMAの長さも長くならざるを得ない。また、下方への移動速度が速く、荷電数が少ない場合は、スリットで粒子を分級するにあたって強い電界を付与する必要があるが、さらに電極(内筒)と接地(外筒)の間の距離が小さい場合には、放電の危険性を回避するべく、DMAの断面寸法も大きくせざるを得なくなる。
【0011】
なお、本発明者等の検証によれば、外筒径が10cm、長さが30cmのDMAによる実験において、粒径0.5μm、荷電数±6個が測定可能な最大の大きさであり、それよりも大きな粒径の粒子の測定はほぼ不可能である。
【0012】
一方、既述した種々の生産施設における粒子汚染においては、粒径が数μm以上の粒子(もしくは微粒子)の付着が問題となるケースが多い現状に鑑みれば、これに対応したDMAによる測定や特定をプロセスエリアで実施するには、極めて大掛かりな装置を要することとなり、このように大規模な測定装置の適用は現実的とは言えない。
【0013】
なお、上記するDMAを構造改良した技術が特許文献1に開示されている。特許文献1に開示の微粒子分級装置は、その特徴構成として、複数の粒径別の中心電極部を有するものであり、この粒径別の中心電極部のそれぞれに微粒子導出スリットが個別に形成されていることで、複数種類の粒径の微粒子を同時に分級(粒径選別)することを可能としたものである。
【0014】
しかし、この改良型の微粒子分級装置をもってしても、依然として上記する課題、すなわち、装置規模を大型化することなく、粒径が数μm以上の帯電粒子(もしくは微粒子)の付着が問題となるクリーンルーム等の実環境下において、該帯電粒子の帯電量を精緻に測定もしくは特定する、という課題を解決するには至らない。
【0015】
そこで、本発明者等は、図5で示すように、クリーンルーム等のルーム内で浮遊する帯電粒子p、…を含むエアAを取り込むとともに、導入された帯電粒子pの粒径等をセンシングする不図示の粒子センサを備えた導入部Pと、この導入部Pを通過するエアAの流速を調整する流速調整部Rと、図6で示す電界生成機構を備えた撮影セルV、レーザ光LZ1を照射するレーザ発振器Z、送光系ユニットW、受光系ユニットY、からなる撮影部Qaと、粒子センサから送信された帯電粒子に関するデータを受信して流速調整部Rの作動を制御する制御部Sと、から大略構成された帯電量特定装置Tの開発に至っている。
【0016】
従来構造の上記するDMAが、帯電粒子(この粒子は、エアロゾルと称することもできる)の気流や重力、クーロン力をパラメータとして、スリット内に移動した粒子を測定することでその帯電量を特定するものであるのに対して、帯電量特定装置Tは、帯電粒子pを含む気体である、たとえばエアAの流れを静止状態とすることにより、重力とクーロン力のみをパラメータとして帯電粒子pの移動速度を光学系の撮影部Qaにて測定し、その帯電量もしくは荷電数を特定するものである。
【0017】
導入部Pと流速調整部Rと撮影部Qaは、エアAが流通する管路Lを介して直列に繋がれており、導入部Pに取り込まれた帯電粒子p、…を含むエアAは、管路Lを介して流通し、流速調整部Rを経る過程でその流速が減じられ、さらに管路Lを介して撮影部Qa内に導入された際には、その流速がゼロ、もしくはそれに近似した速度となるように流速調整部Rによる流速制御が実行される。
【0018】
流速調整部Rは、アクチュエータバルブR1のほかに、エアAに対して高圧流体等を提供してエアAの速度を低下させるコンプレッサや、バルブの開閉制御を実行する制御装置からなる流体提供機構R2などから構成されており、導入部PへのエアAの取り込み前の状態において、アクチュエータバルブR1は閉じている。エアAの取り込みに際し、アクチュエータバルブR1は不図示のコンピュータ内に内蔵された制御部Sによって開制御され、アクチュエータバルブR1が開くことで導入部PへのエアAの取り込みが開始される。導入部Pでは、内蔵された粒子センサにより、エアAに混入される帯電粒子pの粒径や粒数等、さらには、エアAの流速などがセンシングされ、これらの帯電粒子データや流速データが制御部Sに送信される。制御部Sでは、流速調整部RにてエアAの流速が減じられ、少なくとも下流側の撮影部Qa内に該エアAが導入された際にその速度がゼロ、もしくはそれに近似した速度となるように、流速調整部RのアクチュエータバルブR1の開度の調整、流体提供機構R2からの圧力流体の流量や流体圧の調整等がおこなわれる。
【0019】
図6より、撮影部Qaは、帯電粒子pを導入するとともに、その内部に内部電極等の電界生成機構を備えた検出セルVと、レーザ光LZ1を照射するレーザ発振器Zと、送光系ユニットWと、受光系ユニットYとから大略構成されている。
【0020】
この送光系ユニットWは、照射されたレーザ光LZ1を集光する集光レンズWaと、集光レンズWaを通過したレーザ光LZ1を帯電粒子pに合焦させる合焦レンズWbとから構成されており、それらがフレームWcにて一体とされている。一方、受光系ユニットYは、帯電粒子pで発せられる散乱光LZ2を集光する集光レンズYaと、集光レンズYaを通過した散乱光LZ2を合焦する合焦レンズYbとから構成されており、それらがフレームYcにて一体とされている。
【0021】
受光系ユニットYの合焦レンズYbでは、その前方に配設されたCCDカメラ等の撮像部Uで帯電粒子pの画像焦点が合焦されるように、その焦点合わせが実行され、焦点合わせされた帯電粒子pに関する画像が、制御部Sを内蔵するコンピュータ、もしくは別体のコンピュータへ送信され、コンピュータ画面上で管理者が画像の確認や、画像を用いた帯電粒子pの帯電量の算定を実行できるようになっている。
【0022】
図示する帯電量特定装置Tによれば、帯電粒子の移動速度の測定に際し、まず、この帯電粒子pを含むエアAの流れが静止していることから、さらにクーロン力を考慮しない(無視した)場合には、帯電粒子pの移動速度は重力に起因する終末沈降速度のみとなり、重力と気流、およびクーロン力から移動速度が決定される場合に比して帯電粒子pの移動速度は相対的に低速となる。このために、計測に要する帯電粒子の移動路は短くてよく、装置自体の小型化が実現される。
【0023】
さらに、従来構造の上記するDMAでは、電極(内筒)に電圧を印加し、帯電粒子との間にクーロン力を作用させることでスリットに帯電粒子を導く装置であることから、帯電量が未知の条件下では、電圧をパラメータとして種々変化させ、粒子の帯電量(荷電数)とマッチングさせる必要がある。そのために、クリーンルームのように浮遊する粒子が少ない環境下では、帯電粒子の測定に加えて電圧を仮に決定し、結果的に分級できた場合の荷電数をもって荷電数が特定されたとする測定フローとなり、分級できなかった場合には、電圧を変化させて仮に決定し、再度分級できるまで同様の操作を繰り返す必要があり、帯電量の特定に多大な時間を要することは理解に易い。これに対して帯電量特定装置Tでは、測定した帯電粒子の移動状況を確認しながらその帯電量を計測、特定することが可能であり、帯電粒子の帯電量の特定に要する時間を大幅に短縮できるものである。
【0024】
ところで、撮影部となる図示する検出セルVの大きさは14×7×6mm程度であり、その容量は0.6ml程度である。そのため、図示する帯電量特定装置Tを用いてClass1000(0.5μmの粒子が35個/l)のクリーンルームの空気を導入部Pで吸引した場合、撮影セルV内には0.021個の粒子が存在することになる。これは、100回の測定で2個の粒子が捕捉できることと等価である。また、この装置では、エアの吸引、バルブの閉鎖(およそ10秒)、撮影(およそ5秒)の一連の動作に15秒程度を要する。このため、750秒に1個の撮影が可能となっている。
【0025】
ここで、帯電粒子の荷電数は荷電数分布として評価することが重要であるが、この荷電数分布評価においては50個程度の帯電粒子を撮影して荷電数を計測することが必要となることから、750秒/個×50個=37500秒=10時間25分の撮影時間を要することになる。すなわち、図示する帯電量特定装置Tを適用することで従来の帯電量特定装置よりも帯電量の特定に要する時間は短縮できるものの、さらに時間短縮することが当該技術分野で切望されている。
【0026】
さらに、本発明者等によれば、実際にClass1000のクリーンルームで実験をおこなった結果、200回の測定中に帯電粒子を捕捉できなかったという事実もあり、その要因として大きく2つの要因が挙げられる。
【0027】
まず、一つ目の要因は、撮影セルV内におけるエアは粒子の捕捉に関わり無く、最低10秒間隔で閉鎖と撮影を繰り返しているために、バルブ(アクチュエータバルブR1)が閉まった際に必ずしも帯電粒子を捕捉できるとは限らないことである。
【0028】
さらに2つ目の要因は、捕捉した帯電粒子を撮影するには撮影セルV内でも一定強度のレーザ散乱光を得られる箇所を通過した場合に限られることである。
【0029】
上記するように、帯電量特定装置Tは装置自体の小型化を図ることができ、従来装置に比して帯電粒子の帯電量の特定に要する時間を大幅に短縮できるという効果を奏するものの、構成部材であるバルブを時間制御するものであることから、たとえば大気中の帯電粒子濃度が低い場合は撮影セルを帯電粒子が通過してしまうことが往々にしてあり、結果として帯電粒子捕捉効率が低くなるという課題を有するものである。また、帯電粒子の荷電数を荷電数分布として評価するに当たり、50個程度の帯電粒子を撮影する際に要する時間のさらなる短縮が課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】特開2007−315817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、帯電粒子を撮影する際に要する時間をより一層短縮でき、帯電粒子捕捉効率の高い帯電粒子の帯電量特定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
前記目的を達成すべく、本発明による帯電粒子の帯電量特定装置は、吸引部と、前記吸引部を作動させて浮遊する帯電粒子を含む気体を取り込むとともに、帯電粒子をセンシングする検知部と、前記検知部と管路で繋がれ、前記検知部を通過した前記気体が導入されて帯電粒子を撮影する撮影部と、前記管路に設けられた開閉バルブと、前記検知部から帯電粒子のセンシングデータが送信された際に前記開閉バルブを閉制御する制御部と、を備え、前記検知部で帯電粒子がセンシングされ、このセンシングデータが制御部に送信されて前記開閉バルブを閉制御し、取り込まれた帯電粒子を前記管路における該開閉バルブよりも下流側で捕捉するようになっており、前記撮影部はレーザ光を照射する照射機構を具備し、帯電粒子にレーザ光を照射した際に帯電粒子から発せられる散乱光の受光データから帯電粒子の帯電量を特定するものである。
【0033】
本発明の帯電量特定装置は、装置内に帯電粒子(この粒子は、エアロゾルと称することもできる)が取り込まれたことを精緻に検知するべく、実際に帯電粒子を撮影してその帯電量を特定する撮影部よりも帯電粒子を含む気体が流れる上流側にまず検知部を設け、この検知部と撮影部を管路で繋ぐとともにこの管路の途中に開閉バルブを備えたものである。
【0034】
装置内への気体の取り込みはポンプ等の吸引部を作動しておこなうものであり、吸引部を作動させて装置内へ取り込まれた気体は、まず検知部を通過するようになっている。
【0035】
この検知部で帯電粒子がセンシングされると、そのセンシングデータが制御部へ送信され、開閉バルブが閉制御されるようになっている。管路途中にある開閉バルブが閉制御されることにより、装置内に取り込まれた、より具体的には開閉バルブよりも下流側に移動した帯電粒子が装置外へ放出されるのが抑止され、検知部でセンシングされた帯電粒子を開閉バルブよりも下流にある撮影部へ確実に導入することができる。なお、吸引部の作動もこの制御部が実行することができ、装置をON制御した際に制御部からの動作指令信号に基づいて吸引部が作動して気体吸引を実行し、これと同時に検知部へも動作指令信号が送信されて導入された気体内における帯電粒子の検知を実行できる形態であってもよい。
【0036】
撮影部では、導入された帯電粒子にレーザ光が照射され、このレーザ光照射によって帯電粒子で反射してできた散乱光の受光データに基づいて帯電粒子の帯電量が特定されるものである。この帯電量の特定は、たとえば撮影部を構成するCCDカメラ等で受光データを取得し、この受光データを画像読み取り機器等で読み取って帯電粒子の粒径と移動速度が特定され、これらの特定結果に基づいて帯電量の特定(測定)がおこなわれる。
【0037】
上記する本発明の帯電量特定装置によれば、たとえば大気中の帯電粒子濃度が低い場合であっても、検知部で帯電粒子がセンシングされ、開閉バルブが閉制御されて装置内に捕捉された帯電粒子は確実に撮影部に導入されることから、撮影部を帯電粒子が通り過ぎて撮影がおこなわれないといった問題は生じ得ず、帯電粒子捕捉効率(もしくは帯電粒子撮影効率)の極めて高い装置となる。したがって、帯電粒子の荷電数を荷電数分布として評価するに当たり、50個程度の帯電粒子を撮影する際に要する時間も上記する従来装置に比して格段に短縮することができる。
【0038】
ここで、前記検知部は、前記気体が通過する検出セルと、該気体にレーザ光を照射する照射機構と、帯電粒子から発せられる散乱光を受光する受光機構と、から構成され、前記制御部には散乱光に関する電圧強度閾値が記憶され、受光機構から送信されたセンシングデータが該電圧強度閾値以上の場合に前記開閉バルブを閉制御するようになっている実施の形態が好ましい。
【0039】
本実施の形態の装置は、検知部においても撮影部と同様にレーザ光を照射してその散乱光を受光し、受光データを制御部に送信するものであり、さらに、検知部における帯電粒子の誤検知を抑制するべく、帯電粒子から発せられる散乱光に関する電圧強度閾値を予め設定しておいて制御部にそのデータを記憶させておき、検知部から送信されてくる散乱光受光データが電圧強度閾値以上の場合に帯電粒子が捕捉されたとしてその装置外への流出を防止するために開閉バルブの閉制御を実行するものである。
【0040】
照射機構は、レーザ発振器と、該レーザ発振器から照射されたレーザ光を集光する集光レンズと、集光レンズを通過したレーザ光を帯電粒子に合焦させる合焦レンズと、からなり、受光機構は、帯電粒子で発せられる散乱光を集光する集光レンズと、集光レンズを通過した散乱光を合焦する合焦レンズと、からなる形態を適用できる。
【0041】
本実施の形態の装置によれば、検知部における帯電粒子の誤検知が抑制され、より一層高い検知精度で帯電粒子を捕捉してその撮影を実行し、帯電粒子の粒径や帯電量の特定をおこなうことができる。
【0042】
さらに、前記制御部では、前記気体が検知部から前記管路を介して前記撮影部に通じるまでの所定の時間データが記憶されており、前記センシングデータを受信し、該所定の時間経過後に前記開閉バルブを閉制御するようになっている実施の形態が望ましい。
【0043】
開閉バルブの閉制御にあたり、検知部で検知された帯電粒子が管路を通過し、その途中の開閉バルブを通過し、さらにその下流に位置する撮影部に導入された際に開閉バルブを閉制御することで、たとえば開閉バルブの上流側に帯電粒子が移動している際に開閉バルブが閉じられ、撮影部への導入が阻止されるのを抑制することができる。
【0044】
そのために、本実施の形態の装置では、気体が検知部から管路を介して撮影部に通じるまでの所定の時間データを制御部に予め記憶しておき、制御部がセンシングデータを受信して所定の時間経過後に開閉バルブを閉制御するようになっている。
【0045】
この「所定の時間」とは、帯電粒子もしくは気体の流速や管路の管径や管長さ等によって変化することから、吸引部による吸引によって装置内に取り込まれた気体の速度経験則と装置を構成する管路の管径や管長さから当該所定の時間を算定しておいてこれを制御部に記憶しておいてもよいし、検知部で帯電粒子の速度を検知し、この速度を維持して、もしくは一定の減速を加味して撮影部までの「所定の時間」を制御部で割り出す形態であってもよい。
【発明の効果】
【0046】
以上の説明から理解できるように、本発明の帯電粒子の帯電量特定装置によれば、帯電粒子を撮影してその帯電量を特定する撮影部よりも帯電粒子を含む気体が流れる上流側に検知部を設け、この検知部と撮影部を管路で繋ぐとともにこの管路の途中に開閉バルブを備えた構成とし、装置内に帯電粒子が取り込まれたことを精緻に検知しながら取り込まれた帯電粒子を確実に捕捉して撮影することにより、帯電粒子捕捉効率もしくは帯電粒子撮影効率の極めて高い装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の帯電量特定装置の装置構成を説明した説明図である。
【図2】制御部を説明したブロック図である。
【図3】装置を作動してからの検知部における散乱光に関する電圧強度の時系列グラフの一例を示した図である。
【図4】粒径ごとの帯電粒子の帯電数分布の一例を示した図である。
【図5】従来の帯電量特定装置の装置構成を説明した説明図である。
【図6】図5で示す帯電量特定装置を構成する撮影部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の帯電量特定装置は、その特徴構成以外の構成として、本発明者等によって開発された図4,5で示す従来装置の構成の一部もしくは全部を装置構成に適用することもできる。
【0049】
図1は、本発明の帯電量特定装置の装置構成を説明する説明図である。
図示する帯電量特定装置100は、クリーンルーム等のルーム内で浮遊する帯電粒子p、…を含むエアAを取り込む吸引源となる吸引部40(吸引ポンプ)と、この吸引されたエアAとともに帯電粒子pが装置内に取り込まれたか否かを検知する検知部10と、この検知部10を通過して装置に下流側にエアAを流す管路Lと、管路Lの途中位置にあって吸引部40の吸引力を閉鎖可能でかつ管路L内におけるエアAの流れを遮蔽する開閉バルブ30と、下流側に位置してエアAとともに取り込まれた帯電粒子pが導入される撮影部50と、検知部10における帯電粒子を検知した旨のセンシングデータに基づいて開閉バルブ30に対して閉制御を実行させる制御部20と、から大略構成されている。
【0050】
検知部10は、帯電粒子pを含むエアAが導入される検知セル11と、照射機構を構成するレーザ光を照射するレーザ発振器12および送光系ユニット13と、受光系ユニット14(受光機構)と、から構成されている。この送光系ユニット13は、照射されたレーザ光を集光する不図示の集光レンズと、集光レンズを通過したレーザ光を帯電粒子pに合焦させる不図示の合焦レンズと、から構成されており、それらが不図示のフレームにて一体とされている。一方、受光系ユニット14は、帯電粒子pで発せられる散乱光を集光する不図示の集光レンズと、集光レンズを通過した散乱光を合焦する不図示の合焦レンズと、から構成されており、それらが不図示のフレームにて一体とされている。
【0051】
検知部10で取り込まれた帯電粒子pは、管径φ、管長さt(その途中位置に開閉バルブ30がある)の管路Lを介して撮影部50に導入される。
【0052】
撮影部50は、帯電粒子pが導入される撮影セル51と、レーザ光を照射するレーザ発振器52と、送光系ユニット53と、CCDカメラ54と、から構成されている。この送光系ユニット53は、照射されたレーザ光を集光する不図示の集光レンズと、集光レンズを通過したレーザ光を帯電粒子pに合焦させる不図示の合焦レンズと、から構成されており、それらが不図示のフレームにて一体とされている。
【0053】
撮影部50では、撮影セル51内を移動する帯電粒子の発する散乱光をCCDカメラ54で受光データとして取得し、この受光データを画像読み取り機器(パーソナルコンピュータ60)で読み取って帯電粒子の粒径と移動速度が特定され、これらの特定結果に基づいて帯電量の特定がおこなわれる。
【0054】
ここで、粒径と移動速度から帯電量を特定する際のアルゴリズムを概説する。
帯電粒子を電界強度E(V/m)の電場内に導入すると、粒子の帯電量ne(C)は、以下の式1で示される。
【0055】

ここで、Dpは粒径(m)、vetは粒子の移動速度(m/s)、Ccはカニンガムの補正係数、e=1.60217733×10-19(C)であり、その導出式を以下の式2で示す。また、μはエアの粘度で、0.018110-3(Pa・s)である。
【0056】

ここで、Knはクヌーセン数で、エアの平均自由行程をλとすると、以下の式3で表すことができる。
【0057】

【0058】
上式1〜3より、帯電粒子の帯電量は、その粒径と電界中の粒子の移動速度に依存することが分かり、これらの計測データから帯電粒子の帯電量を特定することができる。
【0059】
図示する帯電量特定装置100は、当該装置内に帯電粒子pが取り込まれたことを精緻に検知するべく、実際に帯電粒子pを撮影してその帯電量を特定する撮影部50よりも帯電粒子pを含むエアAが流れる上流側にまず検知部10が設けられており、検知部10から帯電粒子pを検知した旨のセンシングデータが制御部20に送信されると、制御部20から管路Lの途中位置にある開閉バルブ30に対してこれを閉制御する指令信号が送信されるようになっている。
【0060】
ここで、図2のブロック図を参照して制御部20の内部構造を概説する。
図示する制御部20は、検知部10から帯電粒子pを検知した旨のセンシングデータ(散乱光受光データ)が送信されてくるセンシングデータ入力部と、電圧強度閾値が記憶された電圧強度閾値記憶部を備えている。これは、検知部10における帯電粒子pの誤検知を抑制するための手段であり、帯電粒子pから発せられる散乱光に関する電圧強度閾値をこの電圧強度閾値記憶部に予め入力しておき、検知部10から送信されてくる散乱光受光データと記憶された電圧強度閾値を比較演算部で比較し、散乱光受光データが電圧強度閾値以上の場合に帯電粒子pが検知部10に捕捉されたとして帯電粒子pが装置外へ流出するのを防止するべく、閉制御指令部を介して開閉バルブ30に閉制御指令信号を送信するものである。
【0061】
なお、図3には、装置100を作動してからの検知部10における散乱光に関する電圧強度の時系列グラフの一例を示している。電圧が低い場合はノイズの可能性が高いことから、ある程度の大きさの電圧(図3では0.05V)を電圧強度閾値に設定するのが好ましい。
【0062】
この開閉バルブ30の閉制御に当たり、検知部10で検知された帯電粒子pが管路Lを通過し、その途中の開閉バルブ30を通過し、さらにその下流に位置する撮影部50の撮影セル51に導入された際に開閉バルブ30を閉制御するのが好ましく、このような制御によって、たとえば開閉バルブ30の上流側に帯電粒子pが移動している際に開閉バルブ30が閉じられ、撮影部50への導入が阻止されるのを抑制することができる。
【0063】
そのために、制御部20には、気体Aが検知部10から管路Lを介して撮影部50に通じるまでの時間データを所定時間記憶部に記憶しておき、制御部10がセンシングデータを受信して所定の時間経過後に開閉バルブ30を閉制御するようになっている。
【0064】
所定時間記憶部への所定時間の入力においては、帯電粒子pもしくは気体Aの流速や管路Lの管径φや管長さt等によってこの所定時間が変化することから、吸引部40による吸引によって装置100内に取り込まれた気体の速度経験則と装置を構成する管路Lの管径φや管長さtから当該所定時間を算定しておいてこれを入力してもよいし、検知部10で帯電粒子pの速度を検知し、この速度を維持して、もしくは一定の減速を加味して撮影部50までの所定時間を制御部20で割り出し、割り出された所定時間後に閉制御指令信号を送信する形態であってもよい。
【0065】
図示する帯電量特定装置100によれば、帯電粒子pを撮影してその帯電量を特定する撮影部50よりも帯電粒子pを含む気体Aが流れる上流側に検知部10を設け、この検知部10と撮影部50を管路Lで繋ぐとともにこの管路Lの途中に開閉バルブ30を備えた構成とし、装置100内に帯電粒子pが取り込まれたことを精緻に検知しながら取り込まれた帯電粒子pを確実に捕捉して撮影することができ、もって帯電粒子捕捉効率もしくは帯電粒子撮影効率の極めて高い装置となる。
【0066】
また、帯電量特定装置100によれば、検知部10で粒子の散乱光をセンシングするまで気体Aの吸引が継続される。したがって、Class1000(0.5μmの粒子が35個/l)のクリーンルームで吸引した場合は、60/35秒≒1.7秒に1個の粒子が検知部10を通過し、自動でバルブの閉鎖(およそ10秒)、撮影(およそ5秒)の一連の動作に15秒程度を要するため、16.7秒に1個の撮影が可能となっている。
【0067】
帯電粒子の荷電数は、図4で示すように荷電数分布として評価することが重要であり、既述するように、この荷電数分布評価においては50個程度の帯電粒子を撮影して荷電数を計測することが必要となるが、既述する従来装置の場合に要する時間:750秒/個の1/44に時間を短縮することが可能となり、50個の帯電粒子の撮影とその荷電数の計測に要する時間は、10時間25分から14分へ格段に時間短縮することが可能となる。
【0068】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0069】
10…検知部、11…検知セル、12…レーザ発振器、13…送光系ユニット、14…受光系ユニット、20…制御部、30…開閉バルブ、40…吸引部(吸引ポンプ)、50…撮影部、51…撮影セル、52…レーザ発振器、53…送光系ユニット、54…CCDカメラ、60…パーソナルコンピュータ、100…帯電量特定装置、L…管路、A…エア(気体)、p…帯電粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引部と、
前記吸引部を作動させて浮遊する帯電粒子を含む気体を取り込むとともに、帯電粒子をセンシングする検知部と、
前記検知部と管路で繋がれ、前記検知部を通過した前記気体が導入されて帯電粒子を撮影する撮影部と、
前記管路に設けられた開閉バルブと、
前記検知部から帯電粒子のセンシングデータが送信された際に前記開閉バルブを閉制御する制御部と、を備え、
前記検知部で帯電粒子がセンシングされ、このセンシングデータが前記制御部に送信されて前記開閉バルブを閉制御し、取り込まれた帯電粒子を前記管路における該開閉バルブよりも下流側で捕捉するようになっており、
前記撮影部はレーザ光を照射する照射機構を具備し、帯電粒子にレーザ光を照射した際に帯電粒子から発せられる散乱光の受光データから帯電粒子の帯電量を特定する、帯電粒子の帯電量特定装置。
【請求項2】
前記検知部は、前記気体が通過する検出セルと、該気体にレーザ光を照射する照射機構と、帯電粒子から発せられる散乱光を受光する受光機構と、から構成され、
前記制御部には散乱光に関する電圧強度閾値が記憶され、受光機構から送信されたセンシングデータが該電圧強度閾値以上の場合に前記開閉バルブを閉制御するようになっている請求項1に記載の帯電粒子の帯電量特定装置。
【請求項3】
前記制御部では、前記気体が検知部から前記管路を介して前記撮影部に通じるまでの所定の時間データが記憶されており、前記センシングデータを受信し、該所定の時間経過後に前記開閉バルブを閉制御するようになっている請求項1または2に記載の帯電粒子の帯電量特定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−40845(P2013−40845A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177693(P2011−177693)
【出願日】平成23年8月15日(2011.8.15)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】