説明

帯電部材、およびそれを有する電子写真画像形成装置

【課題】帯電部材に用いられる導電性繊維の表面からカーボンナノチューブを露出させることなく導電パス密度を増大させることにより、感光体表面と帯電部材表面との接触抵抗が低減し、さらに感光体表面に十分な帯電で電圧を与えることができる帯電部材を提供する。
【解決手段】導電性の基体5と、一方の端部が該基体5に結合されている導電性の繊維2とを有する帯電部材1において、該繊維2は、熱可塑性樹脂中に複数のカーボンナノチューブを含む芯と、該芯を被覆している熱可塑性樹脂を含む鞘とからなる芯鞘構造を有しており、且つ大気中光電子分光法を用いて測定される、該繊維2の表面から放出される単位面積当りの光電子数Nが、単位面積当りの光電子数Aに対し、0.4A≦N≦0.8Aを満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触帯電に用いる帯電部材および電子写真画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真画像形成装置における接触帯電の帯電機構(帯電メカニズム、帯電原理)には、(1)放電帯電機構と(2)直接注入帯電機構の2種類の帯電機構が知られている。
【0003】
直接注入帯電機構は、接触帯電部材から電子写真感光体などの被帯電体へ電荷が直接注入されることで、被帯電体表面を帯電するものである。接触帯電部材としての帯電ブラシを使用した帯電装置は、機構的に簡易であり、コスト的にも帯電ローラを使用したローラ帯電方式より有利なため実用化されつつある。
【0004】
この直接注入帯電機構の方式においては、接触帯電部材と被帯電体である感光体との接触抵抗や微小空間の容量が電荷を注入する際の注入速度に影響を与えるため、接触帯電部材と感光体との接触抵抗が低いほど良いと考えられる。
【0005】
そのため、特許文献1には、被帯電体表面を帯電する帯電部材において、導電性樹脂成型物を機械研磨および/または裁断することで、カーボンナノチューブの長手方向の一部を導電性樹脂成型物外に突出させ、電荷注入の速度を向上させることが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、感光体表面を帯電する帯電器において、感光体に接触する帯電器表面に樹脂層を介してカーボンナノチューブが保持されており、帯電部材と感光体との接触面積を増加させて、電荷注入の速度を向上させることが開示されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、熱水処理後の導電性繊維端面の断面形状において、端面より内側に導電性の芯部が存在することで、感光体表面への帯電や除電を均一化することが開示されている。
【0008】
また、特許文献4には、導電性粒子を含有した導電糸を熱水処理することにより、電気抵抗値のばらつきを改善することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4089122号公報
【特許文献2】特開2002−132016号公報
【特許文献3】特開2003−41437号公報
【特許文献4】特開2002−146629号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】M. Uda、「Open counter for low energy electron detection」、Proceedings of 8th international symposium on exoelectron emission and applications、1985年、p.284-288.
【非特許文献2】中野、白橋、磯部、宇田「大気雰囲気型紫外線光電子分析装置のハードディスクへの応用」、金属表面技術協会 第76回講演大会要旨集、1987年、p.14-15.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、電子写真画像形成装置に望まれる高速化や高画質化に対する注入帯電条件では、後述する理由により、電子写真感光体の表面に十分な帯電電圧を与えることが期待できない。
【0012】
特許文献1および特許文献2に開示されている帯電部材は、カーボンナノチューブの全部または一部が帯電部材表面から突出している。そのため、帯電部材と感光体とが高速で摺動する際に、その摩擦によってカーボンナノチューブが剥離および破壊され、長期にわたる使用において、良好な帯電特性を得ることは困難であるという問題がある。
加えて、カーボンナノチューブの全部または一部が帯電部材表面から突出した構成の帯電ブラシでは、被帯電体である感光体表面にピンホールがあるような場合に、その部分に集中的に電流が流れる。その結果、電位の低下による帯電不良が生じる場合がある。
【0013】
特許文献3に開示されている導電性繊維は、熱水処理後の導電性繊維端面の断面形状において、端面より0.1μm〜30μm隔てた内側に導電性の芯部が存在している。
特に、OPCと比べて誘電率の高いアモルファスシリコン感光体を用いた場合のように、200mm/sec以上の周速で使用する場合、つまり時定数が2msec以下になる場合には、感光体と帯電ブラシの先端部との接触部分、所謂侵入量は数100μm以上必要であり、特許文献3に開示されている導電性繊維では感光体表面と導電性芯部とが直接接触することは困難で、持続的に高効率な電荷注入が期待できない。
【0014】
特許文献4に開示されている導電性繊維は、基材樹脂中にカーボンのような導電性微粒子を分散させた導電性繊維で構成されており、熱水処理前後における導電性繊維の比抵抗値を10以下、および電気抵抗のばらつきを改善することが期待できる。熱水処理により導電性微粒子の分散状態に変化を生じさせるが、導電性繊維表面の殆どは絶縁性の基材樹脂である。そのため、この導電性繊維を用いた帯電ブラシから感光体に対して注入帯電が行われる際、感光体に直接接触している導電性繊維表面に存在する導電性微粒子からのみ電荷注入が行われる。一方で導電性微粒子が存在しない基材樹脂部分からは電荷注入が行われず、感光体表面への均一な帯電性を付与することが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで、本発明の目的は、高い電荷注入効率を示す帯電部材を提供することにある。また、本発明の他の目的は、高品位な電子写真画像を形成し得る電子写真画像形成装置を提供することにある。
【0016】
本発明の一態様によれば、導電性の基体と、一方の端部が該基体に結合されている導電性の繊維とを有する帯電部材において、該繊維は、熱可塑性樹脂中に複数のカーボンナノチューブを含む芯と、該芯を被覆している熱可塑性樹脂を含む鞘とからなる芯鞘構造を有しており、且つ大気中光電子分光法を用いて測定される、該繊維の表面から放出される単位面積当りの光電子数(N)が、下記式(1)を満たす帯電部材が提供される。
0.4A≦N≦0.8A (1)
ここでAは、該繊維の断面から放出される単位面積当りの光電子数である。
【0017】
また、本発明の他の態様によれば、上記の帯電部材と、該帯電部材の導電性の繊維の表面が接触するように配置されている電子写真感光体とを有する電子写真画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、芯鞘構造を有している導電性繊維表面から放出される光電子数が特定の数値範囲にある帯電部材を用いることにより、感光体表面と帯電部材先端部との接触抵抗が低減され、さらに感光体表面に均一な帯電電圧を与えることができる。また、該繊維は、熱可塑性樹脂中に複数のカーボンナノチューブを含んでいる芯と、該芯を被覆している熱可塑性樹脂を含む鞘とからなる芯鞘構造を有している。そのため、耐磨耗性に優れており、高速、高耐久プロセスにおいても感光体表面への安定した注入帯電が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の大気中光電子分光法を用いて測定したシリコン基板表面に形成された酸化膜の厚さと光電子数との関係を示すグラフである。
【図2】本発明の一実施形態による帯電部材の概略断面図である。
【図3】本発明の一実施形態による電子写真画像形成装置の概略図である。
【図4】本発明に係る導電性繊維の製造プロセスの説明図である。(a)実施例1に係る導電性繊維の製造プロセスの説明図である。(b)実施例7に係る導電性繊維の製造プロセスの説明図である。
【図5】本発明に係る導電性繊維の表面部分を観察したSEM像である。(a)実施例1に係る過熱水蒸気処理前の導電性繊維の表面部分を観察したSEM像である。(b)実施例1に係る過熱水蒸気処理後の導電性繊維の表面部分を観察したSEM像である。
【図6】本発明に係る導電性繊維の表面部分を測定した電流像である。(a)本発明の実施例1に係る導電性繊維の表面部分を測定した電流像である。(b)本発明の実施例4に係る導電性繊維の表面部分を測定した電流像である。
【図7】本発明に係る導電性繊維の表面部分を測定した電流像である。(a)実施例6に係る導電性繊維の表面部分を測定した電流像である。(b)比較例1に係る導電性繊維の表面部分を測定した電流像である。(c)比較例5に係る導電性繊維の表面部分を測定した電流像である。
【図8】本発明の過熱水蒸気処理温度に対する導電性繊維の光電子数および電気抵抗の変化を示したものである。
【図9】本発明に係る導電性繊維の表面部分を測定した電流像である。(a)実施例9に係る導電性繊維の表面部分を測定した電流像である。(b)比較例12に係る導電性繊維の表面部分を測定した電流像である。
【図10】本発明の一実施形態による導電性の繊維1本の断面図である。(a)繊維の長手方向の断面図である。(b)繊維の径方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、上記の目的に鑑み検討を重ねた。その結果、特定の導電性の繊維を用いて形成された帯電部材(帯電ブラシ)が、上記の目的をよく達成可能であることを見出した。その繊維とは、熱可塑性樹脂中に複数のカーボンナノチューブを含む芯と、該芯を被覆している熱可塑性樹脂を含む鞘とからなる芯鞘構造を有し、かつ、大気中光電子分光法を用いて測定される、前記繊維の表面から放出される単位面積当りの光電子数が特定の数値範囲を満たすものである。また、かかる導電性の繊維を得るために必要な過熱水蒸気処理条件を見出した。本発明はこのような知見に基づきなされたものである。
【0021】
すなわち、本発明に係る帯電部材は、導電性の基体と、一方の端部が該基体に結合されている導電性の繊維とを有する。そして、該導電性の繊維は、熱可塑性樹脂中に複数のカーボンナノチューブを含む芯と、該芯を被覆している熱可塑性樹脂を含む鞘とからなる芯鞘構造を有しており、且つ大気中光電子分光法を用いて測定される、前記繊維の表面から放出される単位面積当りの光電子数(N)が、下記式(1)を満たすものである:
0.4A≦N≦0.8A (1)。
上記式(1)において、Aは、前記繊維の断面から放出される単位面積当りの光電子数である。
【0022】
一方の端部が基体に結合される導電性の繊維の表面から放出される単位面積当りの光電子数(N)が0.4A未満の場合は、繊維表面の殆どが絶縁性の熱可塑性樹脂である。そのため、感光体および導電性繊維間の接触抵抗が非常に大きく、この導電性繊維を用いた帯電部材から感光体に対して注入帯電が行われる際、感光体表面への均一な帯電性を付与することが困難である。
【0023】
一方、繊維表面から放出される単位面積当りの光電子数(N)が0.8Aより大きい場合は、熱可塑性樹脂中に含まれる複数のカーボンナノチューブが多数露出している。そのため、高速の直接注入帯電プロセスにおいてはカーボンナノチューブの剥離や破壊のダメージが生じてしまい、電荷注入効率は低下する。
【0024】
図10は、本発明に係る導電性繊維の1本の断面を模式的に示したものである。図10(a)は繊維2の長手方向の断面を示し、図10(b)は、繊維の径方向の断面を示す。
図10に示した導電性繊維2は、熱可塑性樹脂41中に複数のカーボンナノチューブ42を含んでいる芯4と、該芯を被覆している熱可塑性樹脂を含む鞘3とからなる芯鞘構造を有する。
本願明細書に記載される繊維の表面は、図10における芯2を被覆している鞘3の表面である。
【0025】
次に、大気中光電子分光法で計測される光電子数と繊維の表面を構成している鞘との関係について説明する。
【0026】
一般に、大気中光電子分光法で測定された光電子数から、酸化皮膜、膜状の微量汚染物質、潤滑油膜のほか、金属や半導体表面に形成された厚さが数十nm以下の極薄皮膜の膜厚を見積もることができる(非特許文献1および非特許文献2)。
【0027】
大気中光電子分光法を用いて測定した一例として、図1にシリコン基板表面に形成された酸化膜の厚さと光電子数との関係を示す。図1の横軸はXPSおよびEllpsometry法を用いて見積もった酸化膜厚、縦軸は紫外線(励起エネルギー一定)を照射したときにシリコン基板から放出された光電子数である。酸化膜の仕事関数はシリコンに比べて大きいため、シリコンから放出された光電子は酸化膜中で散乱される。このため、酸化膜を通過する光電子の数は減少する。このときシリコン基板表面から放出される光電子数Nは式(2)で表すことができる。
N=N0・exp(-t/λ) (2)
ここで、tは酸化膜厚、λは膜中における光電子の平均自由行程、Nは膜厚tのときの光電子数、N0は膜厚零のときの光電子数を表す。
【0028】
大気中光電子分光法は、励起源が微弱な紫外線であるので試料を非破壊で測定できると共に、大気中測定であるので測定に要する時間が短い。但し、各膜の光電子の平均自由行程が不明確であり、仕事関数の変化による影響もあるので、式(2)からそのまま膜厚の絶対値を求めることは困難である。しかしながら、計測された光電子数は、膜厚と直線関係(対数)にあることから、繊維の表面に存在する鞘の膜厚を判断する上で有効な代用評価法といえる。
【0029】
前述したように、繊維表面に存在する鞘3の光電子の平均自由行程は不明確であるが、前記式(1)の範囲で示される光電子数から考えられる鞘の径方向の厚みは、数百nm〜数μmと見積もることができる。
【0030】
本発明において、一方の端部が基体に結合されている導電性の繊維の表面から放出される単位面積当りの光電子数(N)は、その大部分がカーボンナノチューブから放出された光電子である。こうした光電子は、大気中光電子分光装置(理研計器製、AC-3)を用い、照射光量100nW、励起エネルギー6.5eVの一定条件で計測した値である。
【0031】
図2は、本発明の一実施形態による帯電部材1の断面を模式的に示しており、基体5の表面に導電性接着層6を介して、芯鞘構造を有する導電性繊維2が設けられている。一方の端部が結合している各繊維は、基体5の表面法線方向に延びている。この帯電部材であるブラシ部材は、被帯電体に接触して配置され、電圧を印加させることにより、該被帯電体を帯電させる。
【0032】
注入帯電では、ブラシ部材を構成する導電性繊維表面と被帯電体である電子写真感光体とが接触したところでのみ帯電が行われる。そのため、導電性繊維表面においては、導電パス密度が特定の数値範囲以上の割合で有することが必要である。具体的には、走査型プローブ顕微鏡を用いて、探針にバイアス電圧を10V印加し、その探針を導電性シート上に設置した導電性繊維の表面に接触させ、5μm×5μm以上の領域の走査を行いながら探針に流れる電流値を走査範囲全域で測定する。そして、その測定で得られる電流像が走査範囲全域にわたり均一に観測できる導電性繊維を用いることが必要である。
【0033】
一方、注入帯電では、電位の収束性を確保するため、電子写真感光体がブラシ部材と接触しているニップを通過する時間が、ブラシ部材外周表面の導電性繊維の抵抗と感光体の静電容量とからなる時定数の約5倍以上になることが好ましい。例えば、OPCと比べて誘電率の高いアモルファスシリコン感光体を用いた場合のように、200mm/sec以上の周速で使用することがある。この場合、つまり、時定数が2msec以下になる場合は、電子写真感光体と帯電部材とが接触しているニップの感光体回転方向の幅がある程度必要となる。
そのため、一般的な感光体半径と帯電部材半径の合計から、感光体と帯電部材との回転中心距離の差分である所謂侵入量は600μm以上とすることが好ましい。このため、本発明に用いられる導電性繊維の先端部において、式(1)を満足する導電性繊維は、導電性繊維先端部から少なくとも600μm以上が過熱水蒸気処理されていることが好ましい。
【0034】
本発明で用いられる導電性繊維の長さについては、基体と感光体とが最も離れた状態でも導電性繊維の先端が感光体に接触しなければならないことを考慮すると、基体と感光体との隙間の変動範囲よりも導電性繊維の長さを長くする必要がある。また、導電性繊維の長さのバラツキを考慮すると、導電性繊維の全長は400μm以上が好ましい。
【0035】
また、導電性繊維の全長は、上述した感光体への侵入量の長さを考慮すると400μmと600μmとの和である1000μm(1mm)以上が好ましい。
【0036】
本発明で用いられる導電性繊維1本当りの電気抵抗値は、感光体の一部への電流集中を抑制するために、1×105Ω以上が好ましい。また、時定数が2msec以下になる注入帯電条件でも帯電電位を安定させるためには、必要に応じて、導電性繊維1本当りの抵抗値を1×108Ω以下にすることが好ましい。以上から、ブラシ部材の導電性繊維1本当りの抵抗値は、1×105Ω以上1×108Ω以下が本発明における導電性繊維の好ましい電気抵抗の範囲である。
【0037】
(製造方法)
本発明に用いられる導電性繊維には、基材樹脂中にカーボンナノチューブ(CNT)が分散された導電性繊維が用いられる。基材樹脂としては、例えば、ナイロン−6、ナイロン−66、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンが挙げられる。また、これら樹脂の2種以上からなる混合樹脂であってもよい。また、1本のカーボンナノチューブ(CNT)は、ナノメートルオーダーの径(太さ)を有するものである。その構造としては、例えば、単一のグラフェンからなる円筒状のチューブであるシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)が挙げられる。それ以外にも、2つ以上の径の異なるグラフェンからなる円筒状のチューブが重なったマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)であってもよい。
【0038】
また、本発明に用いるカーボンナノチューブの大きさは、繊維径50nm以下で繊維長10μm以下のカーボンナノチューブが基材樹脂中での良好な分散性を得るうえでは好ましい。
【0039】
また、本発明に用いられる導電性繊維は、上記基材樹脂に所望の含有量のカーボンナノチューブを分散させた樹脂ペレットを、溶融紡糸法により製造される。溶融状態で口金ノズルから押し出された導電性繊維は、冷却され、処理剤を付着せしめた後、例えば、100m/分〜10000m/分、特には、300m/分〜2000m/分の速度で巻き取る。ここで、口金ノズルから押し出される繊維は、1本のモノフィラメントよりも、複数の繊維の束からなるマルチフィラメントが効率的であり、その繊維一束の本数は、20本〜200本である。また、付着せしめる処理剤は、含水系あるいは非含水系の処理剤が適用される。
【0040】
本発明における式(1)を満足する導電性繊維を可能とする処理方法として、数多くの検討を繰り返し重ねた結果、過熱水蒸気処理が有用であることを見出した。
即ち、カーボンナノチューブを有する導電性繊維において、下記式(3)の温度範囲の過熱水蒸気処理を施した場合に、式(1)を満足する導電性繊維が得られる。
−50(℃)≦過熱水蒸気温度(℃)≦T−20(℃) (3)
ここでTは、前記導電性の繊維を構成する樹脂の融点である。
【0041】
過熱水蒸気とは、飽和水蒸気をさらに過熱した蒸気であり、大気圧では100℃より高い温度の無色透明のHOガスである。
この過熱水蒸気は、高温空気に比べて約4倍の熱容量を持っていることに加え、低濃度酸素状態で使用するため、現在、工業的には食品の殺菌乾燥を含めた熱処理、廃棄物の処理、木材の処理、その他材料の乾燥や洗浄のような、様々な用途に利用されている。
【0042】
過熱水蒸気を発生させる手段としては、ボイラーのような装置で過熱した飽和水蒸気をコンベクションヒータや電磁誘導加熱源を通過あるいは直接接触させて、任意の高温域の過熱水蒸気を生成することができる。
【0043】
本発明における導電性の繊維は、一例として、酸素濃度が0.5%以下、蒸気量が10ml/分以上の過熱水蒸気発生装置内に保持し、過熱水蒸気処理を行うことによって得られる。
処理時間については、40分以上1時間以下が好ましい。40分以上、1時間以下とすることで、過熱水蒸気処理に係る、繊維の表面電流像の向上効果をより確実に得ることができる。また、繊維の機械強度が低下することも避けることができる。
【0044】
過熱水蒸気処理により、カーボンナノチューブを繊維の表面に露出させることなく、鞘部の厚みを薄くできる理由は解明されていない。しかしながら、樹脂の結晶化効果のみではなく、低濃度酸素雰囲気中における繊維表面の水分子の凝縮過程など、複合的な要因も大きく寄与していると推察される。
【0045】
本発明に用いられる基体としては、金属や合金のような導電性材料が用いられるが、絶縁体や半導体に導電性金属や合金をコートした基体であってもよい。具体的には、ステンレス鋼(SUS)、AlやAl合金、FeやFe合金、CuやCu合金、NiやNi合金のような材料である。あるいは、前記金属や合金の表面に導電性ゴム層を設けたものであってもよい。
【0046】
本発明に用いられる帯電部材である帯電ブラシは、下記のいずれかの方法で製造される。一つは、溶融紡糸法により製造された導電性繊維を複数本集めた束が織り込まれた帯状の基布を、導電性の芯金軸に螺旋状に巻回することにより製造される織りブラシである。もう一方は、溶融紡糸法により製造された導電性繊維を、長さ0.5mm〜3mm前後にカットし、その後、静電気を利用して飛翔させ、あらかじめ導電性接着層が塗布された基体に植え付ける、いわゆる静電植毛法で製造される静電植毛ブラシである。
【0047】
織りブラシの製造法は、以下の通りである。溶融紡糸法により製造された導電性繊維を毛ばさみ織りで織布して起立することで、長さ0.5mm〜5mmの導電性繊維を有する基布を得る。次に、前記基体表面に導電性接着剤をスプレー法で、20μm〜100μmの厚さでコートする。その後、前記基布の導電性繊維の起立していない面を、前記導電性接着剤を塗布した基体表面に、螺旋状に巻回して張り合わせ、その後、60℃〜100℃の乾燥機で数時間乾燥することで、織りブラシを得ることができる。
【0048】
静電植毛ブラシの製造法は以下の通りである。溶融紡糸法により製造された導電性繊維を長さ0.5mm〜3mm前後にカットし、カットパイルを得る。次に、前記基体表面に導電性接着剤をスプレー法で、20μm〜100μmの厚さでコートする。次に、導電性接着層が塗布された基体を軸線まわりに回転させながら、その下方に電極板を配置する。次に、電極板上に前記カットパイルを載置し、電極板と基体とを高電圧電源に接続することで、カットパイルが飛翔して基体上の導電性接着層に植毛される。
【0049】
基体である金属芯の表面に形成する導電性接着層は、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系の樹脂の接着剤に導電性フェラーを分散させた導電性接着剤をスプレー法によって厚さ50μm〜200μmで塗布し、その後、熱硬化させて形成する。
また、本発明に用いられる導電性接着層の抵抗率の値は、1.0×10Ωcm以上1.0×10Ωcm以下が有効な範囲である。
【0050】
(電子写真画像形成装置)
図3に示すように、本発明の一実施形態による電子写真画像形成装置は、上述した帯電部材1と、前記帯電部材により帯電され潜像が形成される電子写真感光体7とを有する。電子写真感光体7は、帯電部材1の導電性繊維の表面が接触するように配置される。
【0051】
像担持体(電子写真感光体7)としては、例えば、直径φが80mmの負帯電性のa−Si系感光ドラムを用い、感光体の回転速度は300mm/secである。前露光ランプ8には、波長660nmのLEDを用い、帯電直前の感光ドラムの表面電位を均一に低下させるために感光ドラム表面を露光する。帯電装置は、上述したカーボンナノチューブを含有した導電性繊維を有する帯電部材1を用いる。画像信号により変調されたレーザー光9により走査露光が行われ、感光ドラム上に静電潜像を形成する。
【0052】
現像器10には、マグネットローラを内包した4色の現像スリーブ(M、Y、C、K)上に、現像剤をコーティングし、図示しない現像器用電源を用いて現像バイアスを印加することによって、感光ドラム上にトナーが現像される。現像剤としては、例えば、粒径が、約7μmの負帯電性トナーと、約35μmの現像用磁性粒子とを用いる。現像スリーブは、感光ドラムと同方向に回転し、その周速は約450mm/secである。感光ドラムに対向しているマグネットローラの磁極は90mTであり、現像スリーブと感光ドラムとの隙間は350μmとする。
【0053】
転写装置は、直径φ16mmの導電性スポンジローラ11と直流電源12とからなり、被転写部材Pを感光体との間に挟んで、トナーの帯電極性と逆極性の電圧を印加することで被転写部材上にトナーを移動させる。
【0054】
クリーナー13としては、厚さ2mmのウレタン製のクリーニングブレードを用い、転写残トナーをクリーニングブレードで感光ドラム上から掻き落とすことによりクリーニングを行う。
【0055】
本願発明で用いる帯電装置に装着される帯電ブラシは、外径20mmであり、感光体に対して回転軸を平行になるように配置する。帯電ブラシの半径と感光体の半径を加えた値から、各々の回転軸間の距離を引いた値である、所謂侵入量は、1mmとする。帯電ブラシの回転方向は感光体と同じにすることで、感光体と帯電ブラシとの接触領域ではお互い逆方向に移動するようにし、回転速度は450mm/sec〜550mm/secとする。
【0056】
帯電のためのバイアスとして、−700Vの直流電圧を電源14より印加する。本実施例では直流のみであるが、正弦波のような交流電圧を重畳してもよい。
【0057】
以上のように帯電ブラシを搭載した電子写真画像形成装置を用いて作像動作を行うことにより、良好な画像出力を行うことが可能となる。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これの実施例に何ら限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
平均直径15nm、平均長さ3μmであるカーボンナノチューブをポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂中に3.8wt%含有する繊維径30μmの導電性繊維を図4(a)に示す製造プロセスにより作製した。
ポリフェニレンサルファイド樹脂の融点(T)は290℃である。この導電性繊維を庫内温度250℃に設定した過熱水蒸気発生装置(商品名:ウォータオーブンHEALSIO AX−X1、シャープ社製)の過熱水蒸気中で1時間、過熱水蒸気処理した。
その後、大気中光電子分光装置(商品名:AC−3、理研計器(株)製、測定条件:照射光量100nW)を用いて繊維表面および繊維断面から放出される光電子数(6.5eVの励起エネルギーで計測された値)を測定した。
その結果、導電性繊維表面から放出された光電子数は、繊維断面から放出された光電子数に対して、0.78倍であった。
【0060】
また、導電性繊維1本当りの電気抵抗値は、間隔5mmの針状電極間に導電性繊維1本を保持し、10V〜1000Vの電圧を印加してエレクトロメータ(商品名:KEITHLEY、6517A)を用いて測定した。導電性繊維1本当りの電気抵抗値は、9.7×10Ωであった。さらに、図5(a)に示す過熱水蒸気処理前の導電性繊維表面のSEM像、および図5(b)に示す過熱水蒸気処理後の導電性繊維表面のSEM像より、過熱水蒸気処理後の繊維の表面にはカーボンナノチューブが全く露出していないことが分かった。
【0061】
さらに、過熱水蒸気処理を行った繊維表面を、走査型プローブ顕微鏡(商品名:E−sweep、エスアイアイナノテクノロジー(株)製)を用いて測定した電流像(探針への印加電圧:10V、走査範囲:5μm×5μm)を図6(a)に示す。図6(a)中、白い部分は、電流が流れている箇所である。過熱水蒸気処理を行った繊維表面からは、均一な電流が表面全域に亘って観測された。
【0062】
[実施例2]
実施例1と同様の製造プロセスで作製した導電性繊維について、過熱水蒸気処理の温度を240℃に変えた以外は実施例1と同様にして過熱水蒸気処理を行った。処理後の導電性繊維について、実施例1と同様の方法で繊維表面および繊維断面から放出される光電子数を測定した。その結果、繊維表面から放出された光電子数は、繊維断面から放出された光電子数に対して、0.41倍であった。
また、実施例1と同様の方法で測定した導電性繊維1本当りの電気抵抗値は、1.2×10Ωであった。さらに、実施例1と同様の方法で繊維表面の電流像を観測した結果、均一な電流が表面全域に渡って観測された。
【0063】
[実施例3]
実施例1と同様の製造プロセスで作製した導電性繊維について、過熱水蒸気処理の温度を270℃に変えた以外は、実施例1と同様にして過熱水蒸気処理した。過熱水蒸気処理後の繊維について、実施例1と同様の方法で繊維表面および繊維断面から放出される光電子数を測定した。その結果、繊維表面から放出された光電子数は、繊維断面から放出された光電子数に対して、0.80倍であった。
また、実施例1と同様の方法で測定した導電性繊維1本当りの電気抵抗値は、9.0×105Ωであった。さらに、実施例1と同様の方法で繊維表面の電流像を観測した結果、均一な電流が表面全域に渡って観測された。
【0064】
[実施例4]
実施例1と同様の製造プロセスで作製した導電性繊維について、過熱水蒸気処理の温度を250℃とし、処理時間を40分とした以外は実施例1と同様にして加熱水蒸気処理を行った。処理後の導電性繊維について、実施例1と同様の方法で繊維表面および繊維断面から放出される光電子数を測定した。その結果、繊維表面から放出された光電子数は、繊維断面から放出された光電子数に対して、0.50倍であった。
また、実施例1と同様の方法で測定した導電性繊維1本当りの電気抵抗値は、1.5×106Ωであった。さらに、実施例1と同様の方法で繊維表面の電流像を観測した結果、図6(b)に示すように均一な電流が表面全域に渡って観測された。
【0065】
[実施例5]
実施例1と同様の製造プロセスで作製した導電性繊維について、過熱水蒸気処理の温度を250℃とし、処理時間を5時間とした以外は実施例1と同様にして過熱水蒸気処理を行った。処理後の導電性繊維について、実施例1と同様の方法で繊維表面および繊維断面から放出される光電子数を測定した。その結果、繊維表面から放出された光電子数は、繊維断面から放出された光電子数に対して、0.79倍であった。
また、実施例1と同様の方法で測定した導電性繊維1本当りの電気抵抗値は、1.2×106Ωであった。さらに、実施例1と同様の方法で繊維表面の電流像を観測した結果、均一な電流が表面全域に渡って観測されたが、繊維自体が脆く、機械強度の低下が認められた。
【0066】
[実施例6]
実施例1と同様の製造プロセスで作製した導電性繊維について、過熱水蒸気処理の温度を250℃とし、処理時間を20分間とした以外は実施例1と同様にして過熱水蒸気処理を行った。処理後の導電性繊維について、実施例1と同様の方法で繊維表面および繊維断面から放出される光電子数を測定した。その結果、繊維表面から放出された光電子数は、繊維断面から放出された光電子数に対して、0.41倍であった。
また、実施例1と同様の方法で測定した導電性繊維1本当りの電気抵抗値は、7.7×106Ωであった。さらに、実施例1と同様の方法で繊維表面の電流像を観測した結果、図7(a)に示すように電流が表面全域に渡らず、不均一であった。
【0067】
[比較例1]
実施例1と同様の製造プロセスで作製し、過熱水蒸気処理を施さなかった導電性繊維について、実施例1と同様の方法で繊維表面および繊維断面から放出される光電子数を測定した。その結果、繊維表面から放出された光電子数は、繊維断面から放出された光電子数に対して、0.05倍であった。
また、実施例1と同様の方法で測定した導電性繊維1本当りの電気抵抗値は、5.3×108Ωであった。さらに、実施例1と同様の方法で繊維表面の電流像を観測した結果、図7(b)に示すように電流は殆ど観測されなかった。
【0068】
[比較例2]
実施例1と同様の製造プロセスで作製した導電性繊維について、過熱水蒸気処理の温度を100℃とした以外は実施例1と同様にして過熱水蒸気処理を行った。過熱水蒸気処理後の導電性繊維について、実施例1と同様の方法で繊維表面および繊維断面から放出される光電子数を測定した。その結果、繊維表面から放出された光電子数は、繊維断面から放出された光電子数に対して、0.06倍であった。
また、実施例1と同様の方法で測定した導電性繊維1本当りの電気抵抗値は、5.2×108Ωであった。さらに、実施例1と同様の方法で繊維表面の電流像を観測した結果、電流は殆ど観測されなかった。
【0069】
[比較例3]
実施例1と同様の製造プロセスで作製した導電性繊維について、過熱水蒸気処理の温度を140℃とした以外は実施例1と同様にして過熱水蒸気処理を行った。過熱水蒸気処理後の導電性繊維について、実施例1と同様の方法で繊維表面および繊維断面から放出される光電子数を測定した。その結果、繊維表面から放出された光電子数は、繊維断面から放出された光電子数に対して、0.07倍であった。
また、実施例1と同様の方法で測定した導電性繊維1本当りの電気抵抗値は、5.1×108Ωであった。さらに、実施例1と同様の方法で繊維表面の電流像を観測した結果、電流は殆ど観測されなかった。
【0070】
[比較例4]
実施例1と同様の製造プロセスで作製した導電性繊維について、過熱水蒸気処理の温度を200℃とした以外は実施例1と同様にして過熱水蒸気処理を行った。過熱水蒸気処理後の導電性繊維について、実施例1と同様の方法で繊維表面および繊維断面から放出される光電子数を測定した。その結果、繊維表面から放出された光電子数は、繊維断面から放出された光電子数に対して、0.10倍であった。
また、実施例1と同様の方法で測定した導電性繊維1本当りの電気抵抗値は、4.7×108Ωであった。さらに、実施例1と同様の方法で繊維表面の電流像を観測した結果、電流は殆ど観測されなかった。
【0071】
[比較例5]
実施例1と同様の製造プロセスで作製した導電性繊維について、過熱水蒸気処理の温度を230℃とした以外は実施例1と同様にして過熱水蒸気処理を行った。過熱水蒸気処理後の導電性繊維について、実施例1と同様の方法で繊維表面および繊維断面から放出される光電子数を測定した。その結果、繊維表面から放出された光電子数は、繊維断面から放出された光電子数に対して、0.12倍であった。
また、実施例1と同様の方法で測定した導電性繊維1本当りの電気抵抗値は、3.2×10Ωであった。さらに、実施例1と同様の方法で繊維表面の電流像を観測した結果、図7(c)に示すように電流は不均一且つ非常に疎であった。
【0072】
図8は、実施例1〜3および比較例1〜5における、導電性の繊維断面から放出された光電子数に対する繊維表面から放出された光電子数および電気抵抗の変化を過熱水蒸気温度に対してプロットした結果である。図13から分かるように、230℃以下の過熱水蒸気処理では、繊維表面から放出された光電子数は、繊維断面から放出された光電子数に対して0.2倍未満であり、電気抵抗の低下も殆ど生じていない。しかしながら、240℃以上の過熱水蒸気処理では、明瞭に光電子数が増加し、光電子数が0.4倍を超えると、電気抵抗が急激に減少した。その結果、過熱水蒸気処理を施した導電性繊維の電気抵抗値は、過熱水蒸気処理を施す前の導電性繊維に比べて、最大で約2.5桁の低抵抗化を達成できた。
【0073】
[実施例7]
平均直径45nm、平均長さ5μmであるカーボンナノチューブをポリエステル(PET)樹脂中に3.0wt%含有する繊維径30μmの導電性繊維を図4(b)に示す製造プロセスにより作製した。ポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレート樹脂の融点(T)は、250℃である。この導電性繊維を庫内温度200℃に設定した過熱水蒸気発生装置(商品名:ウォータオーブン HEALSIO AX−X1、シャープ製)の過熱水蒸気中で1時間過熱水蒸気処理した。その後、大気中光電子分光装置(商品名:AC−3、理研計器(株)、測定条件:照射光量100nW)を用いて繊維表面および繊維断面から放出される光電子数(6.5eVの励起エネルギーで計測された値)を測定した。その結果、導電性繊維表面から放出された光電子数は、繊維断面から放出された光電子数に対して、0.40倍であった。
また、実施例1と同様の方法で測定した導電性繊維1本当りの電気抵抗値は、2.8×107Ωであった。さらに、実施例1と同様の方法で繊維表面の電流像を観測した結果、均一な電流が表面全域に渡って観測された。
【0074】
[実施例8]
実施例7と同様の製造プロセスで作製した導電性繊維について、過熱水蒸気処理の温度を230℃とした以外は実施例7と同様にして過熱水蒸気処理を行った。過熱水蒸気処理後の導電性繊維について、実施例1と同様の方法で繊維表面および繊維断面から放出される光電子数を測定した。その結果、繊維表面から放出された光電子数は、繊維断面から放出された光電子数に対して、0.60倍であった。
また、実施例1と同様の方法で測定した導電性繊維1本当りの電気抵抗値は、6.2×105Ωであった。さらに、実施例1と同様の方法で繊維表面の電流像を観測した結果、均一な電流が表面全域に渡って観測された。
【0075】
[比較例6]
実施例7と同様の製造プロセスで作製した、過熱水蒸気処理を施さない導電性繊維について、実施例1と同様の方法で繊維表面および繊維断面から放出される光電子数を測定した。その結果、繊維表面から放出された光電子数は、繊維断面から放出された光電子数に対して、0.22倍であった。
また、実施例1と同様の方法で測定した導電性繊維1本当りの電気抵抗値は、8.5×108Ωであった。さらに、実施例1と同様の方法で繊維表面の電流像を観測した結果、電流は殆ど観測されなかった。
【0076】
[比較例7]
実施例7と同様の製造プロセスで作製した導電性繊維を、60℃の3%水酸化ナトリウム水溶液中で60分処理した後、実施例1と同様の方法で繊維表面および繊維断面から放出される光電子数を測定した。その結果、繊維表面から放出された光電子数は、繊維断面から放出された光電子数に対して、0.95倍であった。
また、実施例1と同様の方法で測定した導電性繊維1本当りの電気抵抗値は、1.3×106Ωであった。さらに、実施例1と同様の方法で繊維表面の電流像を観測した結果、電流は表面全域に渡って観測されたが、カーボンナノチューブの欠落が非常に多いことに加え、繊維自体が非常に脆かった。
【0077】
[実施例9]
平均直径100nm、平均長さ15μmであるカーボンナノチューブをポリフェニレンサルファイド樹脂中に4.0wt%含有させたこと以外は、実施例1と同様の製造プロセスにより繊維径40μmの導電性繊維を作製した。この導電性繊維を庫内温度250℃に設定した過熱水蒸気発生装置(ウォータオーブン HEALSIO AX−X1、シャープ)の過熱水蒸気中で1時間過熱水蒸気処理した後、実施例1と同様の方法で、繊維表面および繊維断面から放出される光電子数を測定した。その結果、導電性繊維表面から放出された光電子数は、繊維断面から放出された光電子数に対して、0.42倍であった。
また、実施例1と同様の方法で測定した導電性繊維1本当りの電気抵抗値は、1.7×107Ωであった。
さらに、実施例1と同様の方法で繊維表面の電流像を観測した結果、図9(a)に示すように電流は不均一且つ疎であった。
【0078】
[比較例9]
実施例9と同様の製造プロセスで作製した、過熱水蒸気処理を施さない導電性繊維について、実施例1と同様の方法で繊維表面および繊維断面から放出される光電子数を測定した。その結果、繊維表面から放出された光電子数は、繊維断面から放出された光電子数に対して、0.29倍であった。
また、実施例1と同様の方法で測定した導電性繊維1本当りの電気抵抗値は、5.5×107Ωであった。さらに、実施例1と同様の方法で繊維表面の電流像を観測した結果、電流は殆ど観測されなかった。
【0079】
[実施例10]
実施例1の導電性繊維を2.0mm長のカットパイルとし、エポキシ系導電性接着剤(TB3380B、スリーボンド製)が塗布されたSUS製シャフトに導電性繊維を直接静電植毛して、外径20mmの帯電ブラシを作製した。この帯電ブラシ表面の導電性繊維密度は、550本/mm2であった。この帯電ブラシを図3に示す電子写真画像形成装置に取り付け、帯電ブラシの感光体への侵入量を1mmに設定した。帯電ブラシの回転速度を500mm/sとし、帯電ブラシに−700Vの直流電圧を印加した結果、感光体へ良好な帯電性能を付与することできた。
【0080】
[実施例11]
実施例2の導電性繊維を用いた以外は、実施例10と同様の方法で、帯電ブラシを作製した。この帯電ブラシ表面の導電性繊維密度は、550本/mm2であった。この帯電ブラシを図3に示す電子写真画像形成装置に取り付け、実施例10と同様の方法で評価を行った結果、感光体へ良好な帯電性能を付与することできた。
【0081】
[比較例10]
実施例1の導電性繊維と同じ電気抵抗値を有する導電性繊維として、平均直径15nm、平均長さ3μmのカーボンナノチューブがポリフェニレンサルファイド樹脂中に6.0wt%含有した繊維(繊維径30μm)を、実施例1と同様の製造プロセスで作製した。実施例1と同様の方法で光電子数を測定した結果、繊維表面から放出された光電子数は、繊維断面から放出された光電子数に対して、0.30倍であった。
次いで、実施例1と同様の方法で繊維表面の電流像を観測した結果、電流は殆ど観測されなかった。この導電性繊維を用い、実施例10と同様の方法で、帯電ブラシを作製した。この帯電ブラシ表面の導電性繊維密度は、550本/mm2であった。この帯電ブラシを図3に示す電子写真画像形成装置に取り付け、実施例10と同様の方法で評価を行った結果、白地部に紙の進行方向に沿ってスジ状にトナーがかぶった画像が出力された。また、ハーフトーン部の網目の大きさが乱れ、がさついた画像となった。
【0082】
[比較例11]
比較例5の導電性繊維を用い、実施例10と同様の方法を用いて帯電ブラシを作製した。この帯電ブラシ表面の導電性繊維密度は、550本/mm2であった。この帯電ブラシを図3に示す電子写真画像形成装置に取り付け、実施例10と同様の方法で評価を行った結果、白地部に紙の進行方向に沿ってスジ状にトナーがかぶった画像が出力された。また、ハーフトーン部の網目の大きさが乱れ、がさついた画像となった。
【0083】
[比較例12]
実施例1と同様の製造プロセスで作製した導電性繊維を、250℃のオーブン(NDO−601SD、東京理化器械)で1時間処理した後、実施例1と同様の方法で繊維表面および繊維断面から放出される光電子数を測定した。その結果、繊維表面から放出された光電子数は、繊維断面から放出された光電子数に対して、0.35倍であった。
また、実施例1と同様の方法で測定した導電性繊維1本当りの電気抵抗値は、4.0×107Ωであった。さらに、実施例1と同様の方法で繊維表面の電流像を観測した結果、図9(b)に示すように電流は殆ど観測されなかった。
この導電性繊維を用い、実施例10と同様の方法で、外径20mmの帯電ブラシを作製した。この帯電ブラシ表面の導電性繊維密度は、550本/mm2であった。この帯電ブラシを図3に示す電子写真画像形成装置に取り付け、実施例10と同様の方法で評価を行った結果、白地部にスジ状および斑点状にトナーが乗った画像が出力された。また、その部分に対応する帯電ブラシ部においてもカーボンナノチューブの欠損が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の帯電部材は、電子写真式を用いた画像形成装置に利用可能なものである。より詳しくは、像担持体として電荷注入層を表面に備える有機感光体やアモルファスシリコン系感光体に対して、接触帯電にて該感光体を帯電する。その後に、潜像形成および現像剤像形成をし、その像を被転写部材上に転写、定着を行い、画像形成を行う装置に対して、放電を用いることなく均一な帯電電位を得ることを可能とする。
【符号の説明】
【0085】
1 帯電部材
2 導電性繊維
3 芯を被覆する熱可塑性樹脂を含む鞘
4 熱可塑性樹脂中に複数のカーボンナノチューブを含む芯
5 基体
6 導電性接着層
7 電子写真感光体
8 前露光ランプ
9 レーザー光
10 現像器
11 導電性スポンジローラ
12 直流電源
13 クリーナー
14 電源
P 被転写部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の基体と、一方の端部が該基体に結合されている導電性の繊維とを有する帯電部材であって、
該繊維は、
熱可塑性樹脂中に複数のカーボンナノチューブを含む芯と、該芯を被覆している熱可塑性樹脂を含む鞘とからなる芯鞘構造を有しており、且つ、大気中光電子分光法を用いて測定される、該繊維の表面から放出される単位面積当りの光電子数(N)が、下記式(1)を満たすことを特徴とする帯電部材。
0.4A≦N≦0.8A (1)
ここでAは、該繊維の断面から放出される単位面積当りの光電子数である。
【請求項2】
請求項1に記載の帯電部材と、該帯電部材の繊維の表面が接触するように配置されている電子写真感光体とを有することを特徴とする電子写真画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図10】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−113919(P2013−113919A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257965(P2011−257965)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】