説明

帯電部材、プロセスカートリッジ及び電子写真装置

【課題】弾性層からの低分子量成分の表面への染み出しの抑制と、電子写真感光体の優れた帯電性能とを高いレベルで両立した帯電部材に関する。
【解決手段】基体、弾性層および表面層を有している帯電部材であって、該表面層は、Si−O−Ti結合を有している高分子を含み、該高分子は、下記一般式(1)で示される構成単位および下記一般式(2)で示される構成単位を有している。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真装置の接触帯電に用いる帯電部材、プロセスカートリッジ及び電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体と当接して該電子写真感光体を帯電させる帯電部材は、電子写真感光体と帯電部材との当接ニップを十分かつ均一に確保するためにゴムを含む弾性層を有する構成が一般的である。かかる弾性層中には低分子量成分が不可避的に含まれることから、長期の使用によって、当該低分子量成分が帯電部材の表面に染み出し、電子写真感光体の表面を汚染することがある。このような課題に対して特許文献1には、弾性層の周面を無機酸化物被膜あるいは無機−有機ハイブリッド被膜で被覆し、低分子量成分が帯電部材の表面に染み出すことを抑制した構成が提案されている。
【0003】
ところで、近年の電子写真画像形成プロセスの高速化に伴って、電子写真感光体と帯電部材との接触時間が相対的に短くなってきており、これは、電子写真感光体を安定かつ確実に帯電させるうえで不利な方向である。かかる状況の下では、周面に低分子量成分の染み出しを抑制するための膜が厚く形成されているような帯電部材は、電子写真感光体を安定かつ確実に帯電させる上では不利な構成といえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−173641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、弾性層からの低分子量成分の表面への染み出しの抑制と、電子写真感光体の優れた帯電性能とを高いレベルで両立した帯電部材を提供することにある。また、本発明の他の目的は、高品位な電子写真画像を安定して形成可能な電子写真装置およびプロセスカートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、基体、弾性層および表面層を有している帯電部材であって、該表面層は、Si−O−Ti結合を有している高分子を含み、該高分子は、下記一般式(1)で示される構成単位および下記一般式(2)で示される構成単位を有している帯電部材が提供される。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
一般式(1)中、R1及びR2は、各々独立に以下の一般式(3)〜(6)の何れかを示す。
【0010】
【化3】

【0011】
【化4】

【0012】
【化5】

【0013】
【化6】

【0014】
一般式(3)〜(6)中、R3〜R7、R10〜R14、R19、R20、R25及びR26は、各々独立に水素、炭素数1〜4のアルキル基、水酸基、カルボキシル基、またはアミノ基を示す。R8、R9、R15〜R18、R23、R24、及びR29〜R32は、各々独立に水素又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。R21、R22、R27、及びR28は、各々独立に水素、炭素数1〜4のアルコキシル基または炭素数1〜4のアルキル基を示す。n、m、l、q、s及びtは、各々独立に1以上8以下の整数を示し、p及びrは、各々独立に4以上12以下の整数を示し、x及びyは、各々独立に0もしくは1を示す。*及び**は、各々一般式(1)中のケイ素原子および酸素原子との結合位置を示す。
【0015】
また、本発明の他の態様によれば、電子写真感光体と、該電子写真感光体に接触して配置されている上記の帯電ローラとを有する電子写真装置が提供される。更に、本発明の他の態様によれば、電子写真感光体と、該電子写真感光体に接触して配置されている上記の帯電ローラとを有し、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されているプロセスカートリッジが提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、弾性層からの低分子量成分の表面への染み出しの抑制と、優れた帯電性能とを高いレベルで両立した帯電部材が得られる。また、係る帯電部材を備えることで、高品位な電子写真画像を安定して形成可能な電子写真装置及びプロセスカートリッジが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る帯電部材の断面図である。
【図2】本発明に係る電子写真装置の断面図である。
【図3】本発明に係る表層組成物の29Si−NMRの測定結果を示す図である。
【図4】本発明に係る表層組成物の13C−NMRの測定結果を示す図である。
【図5】本発明に係る帯電部材の表面層のESCAによる測定結果を示す図である。
【図6】感光体ドラムの表面電位測定装置の概略である。
【図7】本発明に係る帯電部材の表面層のXRDでの測定結果を示す図である。
【図8】本発明に係る表面層の形成工程における架橋反応の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に示した本発明に係る帯電部材は、基体101、導電性の弾性層102及び表面層103がこの順で積層されている。
【0019】
〔基体〕
基体としては、鉄、銅、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金又はニッケルで形成されている金属製(合金製)の導電性の基体を用いることができる。
【0020】
〔弾性層〕
弾性層を構成する材料としては、従来の帯電部材の弾性層(導電性弾性層)に用いられているゴムや熱可塑性エラストマーの如き弾性体を1種または2種以上用いることができる。ゴムとしては以下のものが挙げられる。ウレタンゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンゴム、アクリロニトリルゴム、エピクロルヒドリンゴム及びアルキルエーテルゴム等。また、熱可塑性エラストマーとしては以下のものが挙げられる。スチレン系エラストマー及びオレフィン系エラストマー等。
【0021】
また、弾性層は、導電剤を含むことによって所定の導電性を有するように構成されている。弾性層の電気抵抗値としては、102Ω以上108Ω以下、特には103Ω以上106Ω以下が好ましい。弾性層に用いられる導電剤としては、例えば、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、帯電防止剤、電解質などが挙げられる。
【0022】
陽イオン性界面活性剤としては以下のものが挙げられる。第四級アンモニウム塩(ラウリルトリメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウム、オクタドデシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムおよび変性脂肪酸・ジメチルエチルアンモニウム等)、過塩素酸塩、塩素酸塩、ホウフッ化水素酸塩、エトサルフェート塩およびハロゲン化ベンジル塩(臭化ベンジル塩や塩化ベンジル塩等)。陰イオン性界面活性剤としては以下のものが挙げられる。脂肪族スルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキサイド付加硫酸エステル塩、高級アルコール燐酸エステル塩及び高級アルコールエチレンオキサイド付加燐酸エステル塩等。
【0023】
帯電防止剤としては、例えば、高級アルコールエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルおよび多価アルコール脂肪酸エステルの如き非イオン性帯電防止剤が挙げられる。電解質としては、例えば、周期律表第1族の金属(Li、Na、Kなど)の塩(第四級アンモニウム塩など)が挙げられる。周期律表第1族の金属の塩としては、具体的には、LiCF3SO3、NaClO4、LiAsF6、LiBF4、NaSCN、KSCNおよびNaClなどが挙げられる。
【0024】
また、弾性層用の導電剤として、周期律表第2族の金属(Ca、Baなど)の塩(Ca(ClO42など)やこれから誘導される帯電防止剤を用いることもできる。また、これらと多価アルコール(1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等)又はその誘導体との錯体、これらとモノオール(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等)との錯体の如きイオン導電性導電剤を用い得る。
【0025】
また、弾性層用の導電剤として炭素系材料(導電性カーボンブラック、グラファイト等)、金属酸化物(酸化スズ、酸化チタン及び酸化亜鉛等)、金属(ニッケル、銅、銀及びゲルマニウム等)を用いることもできる。
【0026】
導電性弾性層の硬度は、帯電部材と被帯電体である電子写真感光体とを当接させた際の帯電部材の変形を抑制する観点から、MD−1で60度以上85度以下、特には70度以上80度以下であることがより好ましい。また、感光体と幅方向で均一に当接させるために、幅方向の中央部の層厚が端部の層厚よりも厚い、いわゆるクラウン形状とすることが好ましい。
【0027】
〔表面層〕
本発明に係る帯電部材の表面層は、Si−O−Ti結合を有している高分子を含み、該高分子は、下記一般式(1)で示される構成単位、および下記一般式(2)で示される構成単位を有している。
【0028】
【化7】

【0029】
【化8】

【0030】
一般式(1)中、R1及びR2は、各々独立に下記一般式(3)〜(6)の何れかを示す。
【0031】
【化9】

【0032】
【化10】

【0033】
【化11】

【0034】
【化12】

【0035】
一般式(3)〜(6)中、R3〜R7、R10〜R14、R19、R20、R25及びR26は、各々独立に水素、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、水酸基、カルボキシル基、またはアミノ基を示す。R8、R9、R15〜R18、R23、R24及びR29〜R32は、各々独立に水素、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。R21、R22、R27及びR28は、各々独立に水素、炭素数1〜4のアルコキシル基又は炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基を示す。また、CR89、CR1516、CR1718、CR2324、CR2930及びCR3132は、カルボニル基でも良い。
【0036】
5とR3、R4、R6、及びR7のうちの何れか;R3とR4、R6とR7、R5と(CR89n中の炭素;R12とR10、R11、R13及びR14の何れか;R10とR11、R13とR14、または、R12と(CR1516m中の炭素;はそれぞれ、共同して環構造を形成していてもよい。n、m、l、q、s及びtは、各々独立に1以上8以下の整数を示す。p及びrは、各々独立に4以上12以下の整数を示す。x及びyは、各々独立に0又は1を示す。更に、*及び**は、各々一般式(1)中のケイ素原子及び酸素原子との結合位置を示す。
【0037】
本発明に係る高分子の一例として、一般式(1)中のR1が一般式(3)で示す構造であり、Rが一般式(4)で示す構造であるときの高分子の構造の一部を以下に示す。
【0038】
【化13】

【0039】
また本発明に係る高分子の他の例として、一般式(1)中のR1が一般式(3)で示す構造であり、R2が一般式(6)で示す構造であるときの高分子の構造の一部を以下に示す。
【0040】
【化14】

【0041】
本発明に係る高分子は、シロキサン結合およびSiに結合した有機鎖部分が互いに重合している構造を有するため架橋密度が大きい。加えて、Si−O−Ti結合を有することにより、加水分解性シラン化合物のみから製造された高分子と比較してSiの縮合率が一層向上している。その為、本発明に係る高分子を含む表面層は緻密であり、導電性弾性体層からの低分子量成分のブリードの抑制に有効である。
【0042】
更に、本発明に係る表面層は、金属酸化物としては比誘電率が高いチタニウム化合物に由来する構造を有することから、電子写真プロセスのスピード向上に対応できるだけの優れた帯電能を有することとなる。尚、本発明に係る高分子のTi原子とSi原子の比に加えて、Si原子に結合している有機鎖の種類や量などを調整することによっても表面層の帯電能力を調整できる。
【0043】
この高分子のTi原料として酸化物を使用する場合は、完全な結晶構造(ルチル型、アナターゼ型)を有しないものであることが好ましい。沈降や凝集の抑制が容易であり、安定性に優れた塗料とすることができる為である。実際に帯電部材表面をX線装置(RINT TTRII、RIGAKU社製)で観察した結果を図7に示す。導電性弾性体層に配合されるCaCO3、ZnO2由来のピークが観察される。但し、ルチル型、アナターゼ型結晶構造由来のピークは存在せず、アモルファス状態であることが分かる。
【0044】
本発明に係る高分子において、前記一般式(1)のR1及びR2は各々独立に下記一般式(7)〜(10)で示される構造から選ばれる何れかであることが好ましい。このような構造であると、表面層をより強靭で耐久性に優れたものとすることができる。特に下記一般式(8)及び(10)に示されるエーテル基を含む構造は、表面層の弾性体層への密着性をより一層の向上させることとなり好ましい。
【0045】
【化15】

【0046】
【化16】

【0047】
【化17】

【0048】
【化18】

【0049】
上記一般式(7)〜(10)中、N、M、L、Q、S及びTは、各々独立に1以上8以下の整数を示し、x’及びy’は、各々独立に0又は1を示す。*及び**は、各々一般式(1)中のケイ素原子及び酸素原子との結合位置を示す。
【0050】
また、本発明に係る高分子において、チタニウムとケイ素との原子数比Ti/Siは0.1以上5.0以下であることが好ましい。これにより、帯電部材の帯電能力をより向上させることができる。また、当該高分子が、下記一般式(11)で示される構造を有する加水分解性化合物と、下記一般式(12)で示される加水分解性化合物との架橋物であることが好ましい。この場合、一般式(11)の3官能部位と一般式(12)の4官能部位で生じる加水分解・縮合の程度を制御し、膜物性の弾性率、緻密性をコントロール可能となる。また一般式(11)のR33の有機鎖部位を硬化サイトとして用いることで、表面層の強靭さ、及び表面層の弾性体層への密着性を制御可能となる。またR33を紫外線の照射により開環するエポキシ基を有する有機基とすることで、従来の熱硬化性材料とは異なり、硬化時間が非常に短くできる為、弾性体層の熱劣化を抑制できる。
【0051】
【化19】

【0052】
一般式(11)中、R33は、エポキシ基を有する下記一般式(13)〜(16)で示される構造から選ばれる何れかを示す。R34〜R36は、各々独立に炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。一般式(12)中、R37〜R40は、各々独立に炭素数1〜9の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。
【0053】
【化20】

【0054】
【化21】

【0055】
【化22】

【0056】
【化23】

【0057】
一般式(13)〜(16)中、R41〜R43、R46〜R48、R53、R54、R59及びR60は、各々独立に水素、炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、水酸基、カルボキシル基、またはアミノ基を示す。R44、R45、R49〜R52、R57、R58、及びR63〜R66は、各々独立に水素、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。R55、R56、R61、及びR62は各々独立に水素、炭素数1〜4のアルコキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基を示す。また、CR4445、CR4950、CR5152、CR5758、CR6364、及びCR6566は、カルボニル基でも良い。更に、R41、R42、R43、及び(CR4445n'中の炭素の少なくとも何れか2つ;R46、R47、R48、及び(CR4950m'中の炭素の少なくとも何れか2つ;R53とR54;または、R59とR60;はそれぞれ、共同して環をつくりシクロアルカンを形成してもよい。n’、m’、l’、q’、s’及びt’は、各々独立に1以上8以下の整数を示し、p’及びr’は、各々独立に4以上12以下の整数を示す。また、*は、一般式(11)中のケイ素原子との結合位置を示す。
【0058】
本発明に係る高分子は、前記一般式(11)及び(12)で示される加水分解性化合物と、下記一般式(17)で示される加水分解性化合物との架橋物であることが好ましい。この場合、合成段階での一般式(11)及び(12)の溶解性、塗工性、更に硬化後の膜物性として、電気特性を向上させることが可能となるので好ましい。特にR67がアルキル基の場合、溶解性、塗工性の改善として好ましい。また、R67がフェニル基の場合は、電気特性、特に体積抵抗率向上に寄与するので好ましい。
【0059】
【化24】

【0060】
一般式(17)中、R67は、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を示し、R68〜R70は、各々独立に炭素数1〜6の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を示す。
【0061】
〔表面層の製造〕
本発明に係る高分子は、一般式(11)及び(12)で示される加水分解性化合物から加水分解縮合物を合成し、当該加水分解縮合物のR31のエポキシ基を開裂させて当該加水分解縮合物を架橋させることで得られる。又、本発明に係る高分子は、一般式(11)と(12)と(17)とで示される加水分解性化合物から加水分解縮合物を合成し、当該加水分解縮合物のR31のエポキシ基を開裂させて該加水分解縮合物を架橋させることでも得られる。そして、本発明に係る帯電部材は、上記の加水分解縮合物を含む塗料の塗膜を弾性層上に形成した後に、該塗膜中の加水分解縮合物を架橋させて表面層とすることによって製造することができる。
【0062】
以下に、弾性層上に表面層を形成させて帯電部材を製造する方法をより具体的に説明する。本発明に係る高分子は、次の工程(1)〜工程(6)を経て製造される。尚、成分(A)は一般式(11)の加水分解性シラン化合物であり、成分(B)は一般式(17)の加水分解性シラン化合物、成分(C)は一般式(12)の加水分解性チタニウム化合物である。
(1)成分(A)と(B)と(C)のモル比(C)/[(A)+(B)]を0.1以上5.0以下に調整する工程。
(2)成分(A)と(B)を混合し、成分(D)の水、成分(E)のアルコールを添加した後、加熱還流により加水分解・縮合を行う工程。
(3)前記加水分解・縮合を行った溶液に成分(C)を添加し混合する工程。
(4)成分(F)の光重合開始剤を添加し、アルコールで濃度を希釈してコーティング剤(塗料)を得る工程。
(5)基体上に形成された弾性層上にコーティング剤を塗布する工程。
(6)加水分解縮合物を架橋反応させてコーティング剤を硬化する工程。
【0063】
尚、工程(2)において成分(A)、(B)及び(C)を同時に添加してもよい。また加水分解性シラン化合物は、成分(A)1種類のみを使用してもよく、また成分(A)を2種類以上、もしくは成分(B)を2種類以上併用してもよい。
【0064】
成分(A)に係る加水分解性シラン化合物の具体例を以下に示す。
(A−1)4−(1,2−エポキシブチル)トリメトキシシラン、
(A−2)5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、
(A−3)8−オキシラン−2−イルオクチルトリメトキシシラン、
(A−4)8−オキシラン−2−イルオクチルトリエトキシシラン、
(A−5)3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、
(A−6)3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、
(A−7)1−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、
(A−8)1−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、
(A−9)3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルオキシプロピルトリメトキシシラン、
(A−10)3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルオキシプロピルトリエトキシシラン。
【0065】
次に成分(B)に係る加水分解性シラン化合物の具体例を示す。
(B−1)メチルトリメトキシシラン、
(B−2)メチルトリエトキシシラン、
(B−3)エチルトリメトキシシラン、
(B−4)エチルトリエトキシシラン、
(B−5)プロピルトリメトキシシラン、
(B−6)プロピルトリエトキシシラン、
(B−7)ヘキシルトリメトキシシラン、
(B−8)ヘキシルトリエトキシシラン、
(B−9)ヘキシルトリプロポキシシラン、
(B−10)デシルトリメトキシシラン、
(B−11)デシルトリエトキシシラン、
(B−12)フェニルトリメトキシシラン、
(B−13)フェニルトリエトキシシラン、
(B−14)フェニルトリプロポキシシラン。
【0066】
次に成分(C)に係る加水分解性チタニウム化合物の具体例を示す。
(C−1)テトラエトキシチタニウム、
(C−2)テトラi−プロポキシチタニウム、
(C−3)テトラn−ブトキシチタニウム、
(C−4)テトラt−ブトキシチタニウム、
(C−5)2−エチルヘキソキシチタニウム、
(C−6)2−メトキシメチル−2−プロポキシチタニウム。
【0067】
上記各成分のモル比(C)/[(A)+(B)]は、0.1以上5.0以下、特には、0.5以上4.0以下に調整することが、本発明に係る帯電部材の帯電能力をより一層向上させるうえで好ましい。当該モル比が5.0を超えた場合、合成後の塗料(コーティング剤)が白濁したり、沈殿が生じやすくなることがある。尚、このモル比(C)/[(A)+(B)]は、前記原子比M/Siを意味する。
【0068】
成分(D)の水の添加量は、成分(A)、(B)に対して、(D)/[(A)+(B)]モル比が、0.3以上6.0以下が好ましい。更に1.2以上3.0以下が好ましい。上記範囲内では、縮合反応が十分となる為、未反応のモノマーが残存し難く、経時的に特性の変化し難い、安定な塗料を作成できる。
【0069】
アルコールとしては、第1級アルコール、第2級アルコール、第3級アルコール、第1級アルコールと第2級アルコールの混合系、第1級アルコールと第3級アルコールの混合系を用いることが好ましい。特にエタノール、メタノールと2−ブタノールの混合液、またはエタノールと2−ブタノールの混合液が好ましい。光重合開始剤は、ルイス酸又はブレンステッド酸のオニウム塩が好ましい。その他のカチオン重合触媒としては、例えば、ボレート塩、イミド構造を有する化合物、トリアジン構造を有する化合物、アゾ化合物、過酸化物が挙げられる。光重合開始剤はコーティング剤との相溶性を向上させるために事前にアルコールやケトンなどの溶媒に希釈することが好ましい。溶媒は、メタノールやメチルイソブチルケトンが好ましい。
【0070】
各種カチオン重合触媒の中でも、感度、安定性および反応性の観点から、芳香族スルホニウム塩や芳香族ヨードニウム塩が好ましい。特に、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム塩、下記化学式(18)で示される構造を有する化合物(商品名:アデカオプトマ−SP150、旭電化工業(株)製)及び下記化学式(19)で示される構造を有する化合物(商品名:イルガキュア261、チバスペシャルティーケミカルズ社製)が好ましい。
【0071】
【化25】

【0072】
【化26】

【0073】
前記工程(4)においてコーティング剤の濃度の調整に用い得る溶剤の具体例を以下に挙げる。アルコール(例えば、エタノール、メタノールおよび2−ブタノール等)。ケトン類(例えば、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)。上記アルコールおよびケトンは、混合して用いてもよい。中でも、エタノールまたはメタノールと2−ブタノールの混合液、エタノールと2−ブタノールの混合液が好ましい。
【0074】
〔表面層の形成〕
このようにして調製されたコーティング剤は、ロールコーターを用いた塗布、浸漬塗布、リング塗布などによって、導電性弾性層の上に塗布して、当該コーティング剤の層(以降「コーティング層」と称する)を形成する。次いで、コーティング層に活性化エネルギー線を照射すると、コーティング層に含まれるシラン加水分解性縮合物中のカチオン重合可能な基が開裂・重合する。これによって、該シラン加水分解性縮合物同士が架橋して硬化し、表面層が形成される。活性エネルギー線としては、紫外線が好ましい。表面層の硬化を紫外線で行うことで、余分な熱が発生しにくく、熱硬化のような溶剤の揮発中における相分離やシワが生じにくく、非常に均一な膜が得られる。このため、感光体への均一で安定した電位を与えられることができる。
【0075】
架橋および硬化反応の具体例を図8に示す。すなわち、前記した成分Aとして3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランまたは3グリシドキシプロピルトリエトキシシランを用いるとともに成分Bおよび成分Cとを加水分解させて生成した縮合物は、カチオン重合可能な基としてグリシドキシプロピル基を有する。このような加水分解縮合物のグリシドキシプロピル基は、カチオン重合触媒(図8中、R+Xと記載)の存在化下で、エポキシ環が開環し、連鎖的に重合していく。その結果、TiO4/2およびSiO3/2を含むポリシロキサン同士が架橋し、硬化して表面層が形成される。図8中、nは1以上の整数を示す。
【0076】
帯電部材の置かれる環境が温湿度の変化が急激な環境である場合、その温湿度の変化による導電性弾性層の膨張・収縮に表面層が十分に追従しないと、表面層にシワやクラックが発生することがある。しかしながら、架橋反応を熱の発生が少ない紫外線によって行えば、導電性弾性層と表面層との密着性が高まり、導電性弾性層の膨張・収縮に表面層が十分に追従できるようになるため、環境の温湿度の変化による表面層のシワやクラックも抑制することができる。また、架橋反応を紫外線によって行えば、熱履歴による導電性弾性層の劣化を抑制することができるため、導電性弾性層の電気的特性の低下を抑制することもできる。
【0077】
紫外線の照射には、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ、エキシマUVランプなどを用いることができ、これらのうち、紫外線の波長が150nm以上480nm以下の光を豊富に含む紫外線源が好ましく用いられる。なお、紫外線の積算光量は、以下のように定義される。
紫外線積算光量[mJ/cm2]=紫外線強度[mW/cm2]×照射時間[s]
紫外線の積算光量の調節は、照射時間や、ランプ出力や、ランプと被照射体との距離で行うことが可能である。また、照射時間内で積算光量に勾配をつけてもよい。
【0078】
低圧水銀ランプを用いる場合、紫外線の積算光量は、ウシオ電機(株)製の紫外線積算光量計UIT−150−AやUVD−S254(いずれも商品名)を用いて測定することができる。また、エキシマUVランプを用いる場合、紫外線の積算光量は、ウシオ電機(株)製の紫外線積算光量計UIT−150−AやVUV−S172(いずれも商品名)を用いて測定することができる。
【0079】
表面膜の厚みの目安としては、10nm以上、100nm以下である。
【0080】
〔電子写真装置及びプロセスカートリッジ〕
図2によって、本発明の帯電部材が帯電ローラとして使用される電子写真装置及びプロセスカートリッジの概略構成について説明する。21は像担持体としての回転ドラム型の電子写真感光体(感光体)である。この感光体21は、図中の矢印が示す時計回りに所定の周速度(プロセススピード)で回転駆動する。感光体には、例えばロール状の導電性基体と該基体上に無機感光材料または有機感光材料を含有する感光層とを少なくとも有する公知の感光体等を採用すればよい。また、感光体は、感光体表面を所定の極性及び電位に帯電させるための電荷注入層を更に有していてもよい。
【0081】
帯電ローラ22と帯電ローラに帯電バイアスを印加する帯電バイアス印加電源S1とによって帯電手段が構成されている。帯電ローラは、感光体に所定の押圧力で接触させてあり、本例では感光体の回転に対して順方向に回転駆動する。この帯電ローラに対して帯電バイアス印加電源S2から、所定の直流電圧(本例では─1050Vとする)が印加される(DC帯電方式)ことで、感光体の表面が所定の極性電位(本例では暗部電位─500Vとする)に一様に帯電処理される。
【0082】
露光手段23には公知の手段を利用することができ、例えばレーザービームスキャナー等を好適に例示することができる。Lは露光光である。感光体の帯電処理面に該露光手段により目的の画像情報に対応した像露光がなされることにより、感光体帯電面の露光明部の電位(本例では明部電位─150Vとする)が選択的に低下(減衰)して感光体に静電潜像が形成される。
【0083】
反転現像手段としては公知の手段を利用することができる。例えば本例における現像手段24は、トナーを収容する現像容器の開口部に配設されてトナーを担持搬送するトナー担持体24aと、収容されているトナーを撹拌する撹拌部材24bと、トナー担持体のトナーの担持量(トナー層厚)を規制するトナー規制部材24cとを有する。現像手段は、感光体表面の静電潜像の露光明部に、感光体の帯電極性と同極性に帯電しているトナー(ネガトナー)を選択的に付着させて静電潜像をトナー像として可視化する(本例では現像バイアス─400Vとする)。現像方式としては、公知のジャンピング現像方式、接触現像方式及び磁気ブラシ方式等を用い得る。そして、カラー画像を出力する画像形成装置においては、トナーの飛散性を改善できる接触現像方式の使用が好ましい。
【0084】
転写ローラ25としては、金属等の導電性基体上に中抵抗に調整された弾性樹脂層を被覆してなる転写ローラ等を用い得る。転写ローラは、感光体に所定の押圧力で接触させてあり、感光体の回転と順方向に感光体の回転周速度とほぼ同じ周速度で回転する。また、転写バイアス印加電源S4からトナーの帯電特性とは逆極性の転写電圧が印加される。感光体と転写ローラの接触部に不図示の給紙機構から転写材Pが所定のタイミングで給紙され、その転写材Pの裏面が転写電圧を印加した転写ローラにより、トナーの帯電極性とは逆極性に帯電される。これにより、感光体と転写ローラの接触部において感光体の表面側のトナー画像が転写材Pの表面側に静電転写される。
【0085】
トナー画像の転写を受けた転写材Pは感光体面から分離して、不図示のトナー画像定着手段へ導入されて、トナー画像の定着を受けて画像形成物として出力される。両面画像形成モードや多重画像形成モードの場合は、この画像形成物が不図示の再循環搬送機構に導入されて転写部へ再導入される。転写残余トナー等の感光体上の残留物は、ブレード型等のクリーニング手段26により、感光体上より回収される。本発明に係るプロセスカートリッジは、感光体と、感光体に接触配置された本発明に係る帯電部材とを一体に支持し、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されている。
【実施例】
【0086】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
【0087】
(実施例1)
〔1〕導電性弾性層の形成及び評価
【0088】
【表1】

【0089】
上記表1に示した材料を、容量6リットルの加圧ニーダー(商品名:TD6−15MDX、トーシン社製)を用いて、充填率70体積%、ブレード回転数30rpmで24分混合し、未加硫ゴム組成物を得た。この未加硫ゴム組成物174質量部に対して、加硫促進剤としてのテトラベンジルチウラムジスルフィド[商品名:サンセラーTBzTD、三新化学工業(株)製]4.5部、加硫剤としての硫黄1.2部を加えた。そして、ロール径12インチのオープンロールで、前ロール回転数8rpm、後ロール回転数10rpm、ロール間隙2mmで、左右の切り返しを合計20回実施した。その後、ロール間隙を0.5mmとして薄通し10回を行い、導電性弾性層用の混練物Iを得た。
【0090】
次に、直径6mm、長さ252mmの円柱形の鋼製の基体(表面をニッケルメッキ加工したもの)を準備した。そして、この基体の、円柱面軸方向中央を挟んで両側115.5mmまでの領域(あわせて軸方向幅231mmの領域)に、金属およびゴムを含む熱硬化性接着剤(商品名:メタロックU−20、(株)東洋化学研究所製)を塗布した。これを30分間温度80℃で乾燥させた後、さらに1時間温度120℃で乾燥させた。
【0091】
次にクロスヘッド押出機を使用して、上記接着層付き基体上に混練物Iを同軸状に外径8.75〜8.90mmの円筒形に押出し、端部を切断して、基体の外周に未加硫の導電性弾性層を積層した導電性弾性ローラを作製した。押出機はシリンダー径70mm(Φ70)、L/D=20の押出機を使用し、押出時の温調はヘッドの温度を90℃とし、シリンダーの温度を90℃とし、スクリューの温度を90℃とした。
【0092】
次に上記ローラを異なる温度設定にした2つのゾーンをもつ連続加熱炉を用いて加硫した。第1ゾーンを温度80℃に設定し、30分で通過させ、第2ゾーンを温度160℃に設定して30分で通過させ、加硫された導電性弾性ローラを得た。次に、表面研磨前の導電性弾性ローラの導電性弾性層(ゴム部分)の両端を切断し、導電性弾性層の軸方向幅を232mmとした。その後、導電性弾性層の表面を回転砥石で研磨(ワーク回転数333rpm、砥石回転数2080rpm、研磨時間12秒)した。こうすることで、端部直径8.26mm、中央部直径8.50mmのクラウン形状で、表面の十点平均粗さ(Rz)が5.5μmで、振れが18μm、硬度が73度(MD−1)の導電性弾性ローラ−1(表面研磨後の導電性弾性ローラ)を得た。
【0093】
十点平均粗さ(Rz)はJISB0601(1994)に準拠して測定した。振れの測定は、高精度レーザー測定機(商品名:LSM−430v、ミツトヨ(株)製)を用いて行った。詳しくは、該測定機を用いて外径を測定し、最大外径値と最小外径値の差を外径差振れとし、この測定を5点で行い、5点の外径差振れの平均値を被測定物の振れとした。MD−1硬度の測定は、測定環境の温度25℃、湿度55%RHで、弾性ローラの表面にMD−1型硬度計(高分子計器(株)製)の押針を当接して行った。
【0094】
〔2〕縮合物の製造及び評価
次に表面層用の高分子を合成した。
(合成−1)
まず、下記表2に記載の成分を混合した後、室温で30分攪拌した。
【0095】
【表2】

【0096】
続いてオイルバスを用い、120℃で20時間加熱還流を行うことによって、混合成分を反応させ、縮合物中間体−Iを得た。この縮合物中間体−Iの理論固形分(加水分解性シラン化合物が全て脱水縮合したと仮定した時のポリシロキサン重合物の、溶液全質量に対する質量比率)は28.0質量%であった。またこのときの加水分解性シラン化合物に対するイオン交換水のモル比(D)/{(A)+(B)}は1.8であった。次に、室温に冷却した縮合物中間体−I:167.39gに対し、チタニウムi−プロポキシド((加水分解性チタニウム化合物、高純度化学研究所(株)製、以降、「Ti−1」という。)9.41g(0.331mol)を添加し、室温で3時間攪拌し最終的な縮合物1を得た。一連の攪拌は750rpmで行った。Ti/Si=0.10であった。
【0097】
評価〔1〕:縮合物の液外観の評価;
縮合物1について、合成直後及び2週間後の液外観を以下の基準で評価した。
A:1ヶ月放置しても白濁・沈殿が無い状態。
B:2週間程度から白濁気味になる状態。
C:1週間程度から白濁気味になる状態。
D:合成時に白濁・沈殿を生じる状態。
【0098】
〔3〕表面層の形成及び評価
先ず、表面層形成用の塗料の製造方法について述べる。25gの縮合物1に光カチオン重合開始剤としての芳香族スルホニウム塩[商品名:アデカオプトマー SP−150、旭電化工業(株)製]をメタノールで10質量%に希釈したものを0.7g添加して、縮合物1−2(コーティング剤の原料)を得た。次いで、縮合物1−2を固形分が3.0質量%になるようにエタノールと2−ブタノールの混合液(エタノール:2−ブタノール=1:1)で希釈し、表面層形成用の塗料−1を調製した。
【0099】
続いてこの塗料−1を用いて以下の方法で帯電ローラ−1を製造した。先ず、導電性弾性ローラ−1(表面研磨後のもの)の導電性弾性層上に塗料−1を、リング塗布(吐出量:0.120ml/s、リング部のスピード:85mm/s、総吐出量:0.130ml)した。これに、254nmの波長の紫外線を積算光量が9000mJ/cm2になるように照射し、塗料−1の塗膜を硬化(架橋反応による硬化)させて表面層を形成した。紫外線の照射には低圧水銀ランプ[ハリソン東芝ライティング(株)製]を用いた。このようにして得られた帯電ローラ−1を用いて以下の各評価〔2〕〜〔7〕を行った。
【0100】
評価〔2〕:硬化物の化学構造の評価;
29Si−NMR、13C−NMR測定を用いて、上記縮合物1に紫外線(UV)を照射して架橋せしめて得た硬化物が、一般式(1)の構造を有していることを確認した[使用装置:JMN−EX400(商品名)、JEOL社]。測定結果を図3及び図4に示す。測定手順として、29Si−NMR、13C−NMR測定ともに、先ず、アルミシート上に縮合物1を製膜しUV照射して硬化させ、その硬化物をアルミシートから剥離し、粉砕したものをNMR測定用試料として用いた。
【0101】
図3では、29Si−NMR測定結果から、T1は─SiO1/2(OR)2を示し、T2は、─SiO2/2(OR)を示し、T3は─SiO3/2を示す。T3の存在から、エポキシ基を含む有機鎖をもつ加水分解性シラン化合物が縮合し、−SiO3/2の状態で存在する種があることを確認した。図4では、13C−NMRよりエポキシ基が残存せず全て重合していることを確認した。以上のことより、縮合物1の硬化物が、本発明に係る一般式(1)の構造を有していることを確認した。
【0102】
評価〔3〕:帯電ローラの評価;
帯電ローラ表面の外観状態を目視にて下記の基準にて評価した。
A:帯電ローラの表面に全く塗工不良がない。
B:帯電ローラの表面の一部に塗工不良が生じた。
C:帯電ローラの表面の全領域に塗工不良が生じた。
【0103】
評価〔4〕:Si−O−Ti結合の確認;
続いて帯電ローラの表面層内において、Si−O−Ti結合の存在をESCAで確認した[使用装置:Quantum2000(商品名)、アルバックファイ社製]。ローラ表面にX線が照射されるようにし、表面層内の結合様式を評価した。測定結果を図5に示す。検出されたO1sスペクトルより、Si−O−Ti結合の存在が確認された。
【0104】
評価〔5〕:感光体の汚染評価;
帯電ローラをレーザビームプリンタ(商品名:LBP7200C用、キヤノン製)に使用するプロセスカートリッジ(商品名CRG−318BLK、キヤノン製)に装着し、高温高湿環境(温度40℃、相対湿度95%)下に1ヶ月間放置した。帯電ローラと感光体の当接部位を光学顕微鏡で観察して、帯電ローラの当接による異常(割れ、変色)の有無を調べた。感光体表面の顕微鏡観察結果を以下の基準で評価した。評価結果を表4に示す。
A:表面の変化なし。
B:画像上には問題は無いが、表面に付着物がわずかに見られる。
C:画像上には問題は無いが、表面に付着物が多数見られる。
D:表面に割れが見られる。
【0105】
評価〔6〕:帯電能力の評価;
プロセススピードに対する帯電能力の評価として、図6に示す装置を用いた。感光体ドラム表面電位は、感光体ドラム21に接触した帯電部材22に帯電バイアス電源S1から所定の帯電バイアスを印加し、露光装置23から感光体ドラムを画像露光して、表面電位計10で測定した。この時、感光体ドラムの回転数を変更し、プロセススピードを低速(73.5mm/sec)、中速(115.5mm/sec)および高速(173.5mm/sec)に変更した。また低速時のドラム電位から高速時のドラム電位を差し引いたΔVdを帯電能力の指標とした。
【0106】
尚、感光体ドラムとしては、プロセスカートリッジ(商品名CRG−318BLK、キヤノン製)に装着されている感光体ドラムを用いた。ΔVdの評価基準は以下のとおりである。
AA :0≦ΔVd≦3V
A :3<ΔVd≦6V
B :6<ΔVd≦9V
C :9<ΔVd≦15V
D :15<ΔVd
評価〔7〕:ポジゴーストの評価;
帯電ローラをプロセスカートリッジに組み込み、プロセススピードの異なる3種類の電子写真装置に装着して電子写真画像を形成し、ポジゴーストの発生状況および程度を評価した。ここで、プロセススピードが低速の電子写真装置(以降「低速機」と略す)としては、A4紙縦出力用のレーザービームプリンター[商品名:LBP5050、キヤノン製](モノクロ印刷時73.5mm/sec)を用いた。また、プロセススピードが中速の電子写真装置(以降「中速機」と略す)として、A4紙縦出力用のレーザービームプリンター[商品名:LBP7200C、キヤノン製](115.5mm/sec)を用いた。更に、プロセススピードの速い高速の電子写真装置(以降「高速機」と略す)として、A4紙縦出力用のレーザービームプリンター[商品名:LBP7200C、キヤノン製]の出力枚数を30ppm(173.3mm/sec)に改造したものを用いた。
【0107】
まず、各々の電子写真画像形成装置を用いてポジゴースト評価用の電子写真画像を形成した。ポジゴーストの評価用の電子写真画像として、ドラム1周目はおよそ2cm四方のベタ黒画像(露光部)を記録し、ドラム2周目はハーフトーンの均一な画像を記録した。これを初期のポジゴースト評価用画像とした。次いで、各々の電子写真画像形成装置を用いて、A4サイズの紙に印字率1%で、アルファベットの「E」の文字のパターンを形成する画像を、低速機については3000枚、中速機については9000枚、高速機については15000枚を連続出力した。その後、各々の電子写真画像形成装置を用いて、再度、ポジゴースト評価用の電子写真画像を形成した。これを耐久後のポジゴースト評価用画像とした。なお、ポジゴーストの評価に係る電子写真画像の出力は、低温低湿下(温度15℃、湿度10%RH)で行った。
【0108】
上記のようにして作成した初期および耐久後のポジゴースト評価用画像を下記の基準で評価した。その結果を表2に示す。
AA :ポジゴーストが確認できない
A :ポジゴーストが非常に薄く確認できる。
B :ポジゴーストの僅かな輪郭が確認できる。
C :ポジゴーストの僅かな輪郭が確認でき、ゴースト発生部位の画像濃度が若干高い。
D :ポジゴーストの輪郭が明瞭に確認でき、ゴースト発生部位の画像濃度が高い。
E :ポジゴーストが非常にはっきりと確認できる。
【0109】
(実施例2)〜(実施例25)
加水分解性シラン化合物と加水分解性チタニウム化合物として表5に示す化学構造のものを用い、その配合量を表3に示す値に変更した。それ以外は実施例1と同様にして縮合物(高分子)を合成し(合成−1〜7)、コーティング剤を調製し(コーティング剤−1〜13)、更に、帯電ローラ−2〜25を製造した。合成時のTi/Si値を表3中にM/Siとして示す。また各評価結果を表4に示す。尚、いずれの実施例においても、実施例1の場合と同様に、一般式(1)の構造及びSi−O−Ti結合の存在を確認した。
【0110】
(比較例1〜比較例3)
加水分解性チタニウム化合物を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして、縮合物を合成し、コーティング剤を調製し、更に、帯電ローラ−26〜28を製造し、評価した。評価結果を表7に示す。
【0111】
(比較例4)
加水分解性チタニウム化合物、水、エタノールを表6に示す配合で混合し、室温で3時間攪拌した。しかしながら、白濁、沈殿が生じて、評価が出来なかった。
【0112】
【表3】

【0113】
【表4】

【0114】
【表5】

【0115】
【表6】

【0116】
【表7】

【符号の説明】
【0117】
101 基体
102 導電性弾性層
103 表面層
10 表面電位計
21 像担持体(電子写真感光体)
22 帯電部材(帯電ローラ)
23 露光手段
24 現像手段
24a トナー担持体
24b 撹拌部分
24c トナー規制部材
25 転写手段
26 クリーニング手段
L レーザー光
S1、S2、S4 バイアス印加電源
P 転写材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体、弾性層および表面層を有している帯電部材であって、該表面層は、Si−O−Ti結合を有している高分子を含み、該高分子は、下記一般式(1)で示される構成単位および下記一般式(2)で示される構成単位を有していることを特徴とする帯電部材:
【化1】

【化2】

[一般式(1)中、R1及びR2は各々独立に以下の一般式(3)〜(6)の何れかを示す:
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

[一般式(3)〜(6)中、R3〜R7、R10〜R14、R19、R20、R25及びR26は、各々独立に水素、炭素数1〜4のアルキル基、水酸基、カルボキシル基、またはアミノ基を示す。R8、R9、R15〜R18、R23、R24、及びR29〜R32は、各々独立に水素又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。R21、R22、R27、及びR28は、各々独立に水素、炭素数1〜4のアルコキシル基または炭素数1〜4のアルキル基を示す。n、m、l、q、s及びtは、各々独立に1以上8以下の整数を示し、p及びrは、各々独立に4以上12以下の整数を示し、x及びyは、各々独立に0もしくは1を示す。*及び**は、各々一般式(1)中のケイ素原子及び酸素原子との結合位置を示す。]]。
【請求項2】
前記高分子において、前記一般式(1)のR1及びR2が各々独立に下記一般式(7)〜(10)で示される構造から選ばれる何れかである請求項1に記載の帯電部材:
【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

[一般式(7)〜(10)中、N、M、L、Q、S及びTは、各々独立に1以上8以下の整数を示し、x’及びy’は、各々独立に0又は1を示す。*及び**は、各々一般式(1)中のケイ素原子及び酸素原子との結合位置を示す。]。
【請求項3】
前記高分子における、チタニウムとケイ素との原子数比Ti/Siが0.1以上5.0以下である請求項1または2に記載の帯電部材。
【請求項4】
前記高分子が、下記一般式(11)および(12)で示される加水分解性化合物の架橋物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の帯電部材:
【化11】

[一般式(11)中、R33は、下記一般式(13)〜(16)のいずれかを示し、R34〜R36は、各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を示し、一般式(12)中、R37〜R40は、各々独立に炭素数1〜9のアルキル基を示す:
【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

[一般式(13)〜(16)中、R41〜R43、R46〜R48、R53、R54、R59、及びR60は、各々独立に水素、炭素数1〜4のアルキル基、水酸基、カルボキシル基またはアミノ基を示す。R44、R45、R49〜R52、R57、R58、及びR63〜R66は、各々独立に水素、炭素数1〜4のアルキル基を示す。R55、R56、R61、及びR62は、各々独立に水素、炭素数1〜4のアルコキシル基または炭素数1〜4のアルキル基を示す。n’、m’、l’、q’、s’およびt’は、各々独立に1以上8以下の整数を示し、p’およびr’は、各々独立に4以上12以下の整数を示す。*は、一般式(11)のケイ素原子との結合位置を示す。]]。
【請求項5】
前記高分子が、下記一般式(11)、(12)および(17)で示される加水分解性化合物の架橋物である請求項1〜3のいずれか一項に記載の帯電部材:
【化16】

[一般式(11)中、R33は、下記一般式(13)〜(16)のいずれかを示し、R34〜R36は、各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を示し、一般式(12)中、R37〜R40は、各々独立に炭素数1〜9のアルキル基を示す:
【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

[一般式(13)〜(16)中、R41〜R43、R46〜R48、R53、R54、R59、及びR60は、各々独立に水素、炭素数1〜4のアルキル基、水酸基、カルボキシル基またはアミノ基を示す。R44、R45、R49〜R52、R57、R58、及びR63〜R66は、各々独立に水素、炭素数1〜4のアルキル基を示す。R55、R56、R61、及びR62は、各々独立に水素、炭素数1〜4のアルコキシル基または炭素数1〜4のアルキル基を示す。n’、m’、l’、q’、s’およびt’は、各々独立に1以上8以下の整数を示し、p’およびr’は、各々独立に4以上12以下の整数を示す。*は、一般式(11)のケイ素原子との結合位置を示す。]]、
【化21】

[一般式(17)中、R67は炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を示し、R68〜R70は各々独立に炭素数1〜6のアルキル基を示す。]。
【請求項6】
電子写真感光体と、該電子写真感光体に接触して配置されている請求項1乃至5の何れかの一項に記載の帯電部材とを有することを特徴とする電子写真装置。
【請求項7】
電子写真感光体と、該電子写真感光体に接触して配置されている請求項1乃至5の何れかの一項に記載の帯電部材とを有し、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されていることを特徴とするプロセスカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−154353(P2011−154353A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282029(P2010−282029)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】