説明

帯電部材、プロセスカートリッジ及び電子写真装置

【課題】感光ドラムの回転に対して優れた追従性を有し、電子写真感光体をより安定的に帯電させることのできる帯電部材を提供する。
【解決手段】該帯電部材100は、軸芯体と該軸芯体101の外周に形成された弾性層104と該弾性層の外周に形成された表面層103とを有する帯電部材であって、前記表面層が水酸化フラーレン及び酸化フラーレンから選ばれる少なくとも一方と、バインダーとを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は帯電部材、プロセスカートリッジ及び電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラム形状の電子写真感光体(以降、「感光ドラム」と略)に当接し、感光ドラムに対して従動回転しながら感光ドラムの表面を帯電させる帯電ローラは、ゴムを含む柔軟な弾性層を有する構成が一般的である。弾性層を有することで、電子写真感光体とのニップ幅を十分に確保し、安定した従動回転が可能となる。
しかしながら、かかる帯電部材と電子写真感光体とが当接したまま、長期に亘って静止状態が維持された場合に、帯電部材の電子写真感光体が当接していた部分に容易に回復しない変形(以降、「圧縮永久歪」ともいう)が生じることがある。
圧縮永久歪が部分的に生じた帯電部材を用いて電子写真感光体を帯電させた場合、電子写真感光体に帯電ムラが生じ、電子写真画像に帯電ムラに起因する濃度ムラなどが生じることがある。
このような課題に対し、特許文献1は、帯電部材のマイクロ硬度等の調整により永久変形の発生を抑制することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−93937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、永久圧縮歪そのものの発生を抑えるべく帯電ローラの硬度を高めた場合、帯電ローラの感光ドラムに回転に対する追従性が低下し、その結果として、感光ドラムに帯電ムラを生じることがあった。そこで、本発明者等は、帯電ローラの感光ドラムの回転に対する追従性を高めることが、より安定的に感光ドラムを帯電させる上で有効であるとの認識を得た。
【0005】
そこで、本発明の目的は、感光ドラムの回転に対して優れた追従性を有し、電子写真感光体をより安定的に帯電させることのできる帯電部材を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、高品位な電子写真画像を安定して形成可能な電子写真装置およびプロセスカートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、軸芯体と該軸芯体の外周に形成された弾性層と該弾性層の外周に形成された表面層とを有する帯電部材であって、該表面層が水酸化フラーレン及び酸化フラーレンから選ばれる少なくとも一方と、バインダーとを含有する帯電部材が提供される。
また、本発明によれば、上記の帯電部材と、該帯電部材に接触している電子写真感光体とが一体に取り付けられ、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されているプロセスカートリッジが提供される。
更に、本発明によれば、上記の帯電部材と、該帯電部材に接触している電子写真感光体とを有する電子写真装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電子写真感光体に対する従動回転の追従性が高い帯電部材を得ることができる。その結果、電子写真感光体を帯電均一性が向上し、より高品位な電子写真画像の形成を安定的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る帯電部材の断面図である。
【図2】本発明に係る電子写真装置の説明図である。
【図3】帯電部材の動摩擦係数測定装置の概略である。
【図4】帯電部材の動摩擦係数測定装置で得られたチャートの概略である。
【図5】表面層の形成工程における架橋反応の説明図である。
【図6】実施例1に係る高分子化合物の29Si−NMRの測定結果を示す図である。
【図7】実施例1に係る高分子化合物の13C−NMRの測定結果を示す図である。
【図8】実施例1に係る帯電ローラの表面層のESCAの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は本発明に係る帯電ローラ100の軸に直交する方向の断面図である。帯電ローラ100は軸芯体101、軸芯体101の外周に形成された導電性弾性層102および導電性弾性層102の外周に形成された表面層103を有している。
【0010】
<軸芯体>
軸芯体としては、導電性を有していればよく(導電性支持体)、例えば、以下のものが挙げられる。鉄、銅、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金又はニッケルで形成されている支持体等。これらの表面に耐傷性付与を目的として、導電性を損なわない範囲で、メッキ処理などの表面処理を施してもよい。
【0011】
<導電性弾性層>
導電性弾性層には、従来の電子写真用部材の弾性層(導電性弾性層)に用いられているゴムや熱可塑性エラストマーなどの弾性体を1種または2種以上用いることができる。
【0012】
ゴムの具体例を以下に挙げる。ウレタンゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンゴム、アクリロニトリルゴム、エピクロルヒドリンゴムおよびアルキルエーテルゴム。
【0013】
また、熱可塑性エラストマーの具体例として以下のものを挙げられる。
・スチレン系エラストマー(商品名「ラバロン」、三菱化学(株)社製、商品名「セプトンコンパウンド」、クラレ(株)社製);
・オレフィン系エラストマー(商品名「サーモラン」、三菱化学(株)社製、商品名「ミラストマー」、三井石油化学工業(株)社製、商品名「住友TPE」、住友化学工業(株)社製、商品名「サントプレーン」、アドバンストエラストマーシステムズ社製)。
【0014】
導電性弾性層に用いられる導電剤として、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、帯電防止剤、電解質、導電性のカーボン、グラファイト、金属粒子、さらには、ポリアニリン、ポリピロールおよびポリアセチレンの如き導電性ポリマーを用い得る。また、導電性弾性層には、無機または有機の充填剤や架橋剤を添加してもよい。導電性弾性層の硬度の目安としては、被帯電体である電子写真感光体とを当接させた際の帯電部材の変形を抑制する観点から、アスカーCで70度以上、特には73度以上90度以下が好ましい。
【0015】
<表面層>
表面層は水酸化フラーレン及び酸化フラーレンから選ばれる何れか一方または両方と、バインダーとを含有する。
【0016】
<<水酸化フラーレン>>
水酸化フラーレンとは、C60,C70,C76,C78,C84等の公知のフラーレン分子に水酸基(OH)が結合したものである。好ましくはC60またはC70に水酸基が結合したものであり、より好ましくは下記の式(1)及び式(2)で表されるもの、あるいはそれらの混合物である。
【0017】
60(OH)m・kH2O ・・・(1)
70(OH)n・lH2O ・・・(2)
式(1)及び(2)中、m及びnは各々独立して5以上44以下の整数であり、k及びlは各々独立して0以上9以下の整数を示す。
【0018】
<<酸化フラーレン>>
酸化フラーレンとは、C60,C70,C76,C78,C84等の公知のフラーレン分子に酸素原子(O)が結合したものである。好ましくはC60またはC70に酸素原子が結合したものであり、より好ましくは下記の式(3)及び(4)で表されるもの、あるいはそれらの混合物である。
【0019】
60(O)o ・・・(3)
70(O)p ・・・(4)
式(3)及び(4)中、o及びpは各々独立して1以上3以下の整数を示す。
【0020】
表面層が含有する水酸化フラーレン及び酸化フラーレンの合計の総量は、100.0質量部の表面層に対して1.0重量部〜5.0重量部であることが好ましい。
【0021】
水酸化フラーレンは、水やアルコールへの溶解性が優れているため、本発明においては特に好適に用いられる。中でも、上記式(1)及び(2)で示される水酸化フラーレンであって、mおよびnが各々独立に8以上44以下の整数であるものが好適に用いられる。
【0022】
水酸化フラーレン自体の製造方法は既に公知である。例えば、C60(OH)m(m=8、10、12)は、特開2004−168752公報の開示に従って、フラーレンと発煙硫酸とを反応させ、その後加水分解により得られる生成物を、塩基性物質で処理することで得ることができる。
【0023】
また、C60(OH)36・9H2O、C60(OH)40・9H2OおよびC604(OH)32・6H2Oは、国際公開WO2006/028297の開示に従って製造することができる。すなわち、この特許文献に基づいて、フラーレンの種類、過酸化水素水の濃度、その使用割合、反応温度等の条件を選択、設定することによって製造できる。
また、市販されている水酸化フラーレンとしては、以下のものが挙げられる。
「nanom spectra D100」(商品名、フロンティアカーボン株式会社製)、
「フラレノール」(商品名、本荘ケミカル株式会社製)。
【0024】
更に、市販されている酸化フラーレンとしては、以下のものが挙げられる。
「nanom spectra B100」(商品名、フロンティアカーボン株式会社製)、「FX−011」(商品名、FLOX株式会社製)、「FX−021」(商品名、FLOX株式会社製)、「FX−022(商品名、FLOX株式会社製)、
「FX−031」(商品名、FLOX株式会社製)、「FX−032」(商品名、FLOX株式会社製)、「FX−033(商品名、FLOX株式会社製)等。
【0025】
<<バインダー>>
バインダーとしては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び加水分解性シラン化合物の縮合物(変性ポリシロキサン)の硬化物等を用いることができる。特に、変性ポリシロキサンの硬化物からなる高分子化合物は、導電性弾性層からの低分子量成分の帯電部材の表面への滲み出しを有効に抑制できるため好ましい。以下に当該変性ポリシロキサンの硬化物からなる高分子化合物について詳細を説明する。
【0026】
<<<変性ポリシロキサンの硬化物からなる高分子化合物>>>
変性ポリシロキサンの硬化物からなる高分子化合物としては、下記一般式(5)で示される構成単位を有する高分子化合物が挙げられる。
一般式(5)
【化1】

一般式(5)中、R1及びR2は、各々独立に下記一般式(6)〜(9)の何れかを示す。
一般式(6)
【化2】

一般式(7)
【化3】

一般式(8)
【化4】

一般式(9)
【化5】

【0027】
一般式(6)〜(9)中、R3〜R7、R10〜R14、R19、R20、R25及びR26は、各々独立に水素、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、水酸基、カルボキシル基、またはアミノ基を示す。R8、R9、R15〜R18、R23、R24及びR29〜R32は、各々独立に水素、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。R21、R22、R27及びR28は、各々独立に水素、炭素数1〜4のアルコキシル基又は炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基を示す。また、CR89、CR1516、CR1718、CR2324、CR2930及びCR3132は、カルボニル基でも良い。
【0028】
5とR3、R4、R6、及びR7のうちの何れか;R3とR4、R6とR7、R5と(CR89n中の炭素;R12とR10、R11、R13及びR14の何れか;
10とR11、R13とR14、または、R12と(CR1516m中の炭素;はそれぞれ、共同して環構造を形成していてもよい。
n、m、l、q、s及びtは、各々独立に1以上8以下の整数を示す。p及びrは、各々独立に4以上12以下の整数を示す。x及びyは、各々独立に0又は1を示す。更に、*及び**は、各々一般式(5)中のケイ素原子及び酸素原子との結合位置を示す。
また、この高分子化合物は、分子内にSi−O−Ti結合を有し、かつ、下記一般式(10)で示される構成単位を有するものが好ましい。シロキサン結合およびSiに結合した有機鎖部分が互いに重合している構造を有するため架橋密度が大きい。加えて、Si−O−Ti結合を有することにより、加水分解性シラン化合物のみから製造された高分子と比較してSiの縮合率が一層向上している。その為、本発明に係る高分子を含む表面層は緻密であり、導電性弾性体層からの低分子量成分のブリードの抑制に有効である。
TiO4/2 ・・・(10)
【0029】
分子内にSi−O−Ti結合を含み、かつ、上記式(5)および(10)で示される構成単位を有する高分子化合物の例を以下に示す。具体的には、上記一般式(5)中のR1が一般式(6)で示す構造であり、Rが一般式(7)で示す構造であるときの高分子の構造の一部を以下に示す。
【化6】

【0030】
また、上記一般式(5)中のR1が一般式(6)で示す構造であり、Rが一般式(9)で示す構造であるときの高分子の構造の一部を以下に示す。
【化7】

【0031】
本発明に係る高分子において、前記一般式(5)のR1及びR2は各々独立に下記一般式(11)〜(14)で示される構造から選ばれる何れかであることが好ましい。このような構造であると、表面層をより強靭で耐久性に優れたものとすることができる。特に下記一般式(12)及び(14)に示されるエーテル基を含む構造は、表面層の弾性体層への密着性をより一層の向上させることとなり好ましい。
一般式(11)
【化8】

一般式(12)
【化9】

一般式(13)
【化10】

一般式(14)
【化11】

【0032】
上記一般式(11)〜(14)中、N、M、L、Q、S及びTは、各々独立に1以上8以下の整数を示し、x’及びy’は、各々独立に0又は1を示す。*及び**は、各々一般式(5)中のケイ素原子及び酸素原子との結合位置を示す。
【0033】
また、本発明に係る高分子化合物において、チタニウムとケイ素との原子数比Ti/Siは0.1以上5.0以下であることが好ましい。これにより、帯電部材の帯電能力をより向上させることができる。
【0034】
<高分子化合物の合成>
次に、上記式(5)で示される構成単位を有する高分子化合物、および、上記式(5)および(10)で示される構成単位を有し、かつ、分子内にSi−O−Ti結合を有する高分子化合物の合成方法について述べる。以下ではこれらの高分子化合物の合成に用いる原料としての加水分解性化合物およびそれを用いた高分子化合物の合成方法について述べる。
【0035】
(A)カチオン重合可能な基を分子内に有する加水分解性シラン化合物
カチオン重合可能な基を分子内に有する加水分解性シラン化合物としては、下記式(15)で表される化合物を挙げることができる。
33−Si(OR34)(OR35)(OR36) ・・・(15)
式(15)中、R33は、エポキシ基を有する下記一般式(16)〜(19)で示される構造から選ばれる何れかを示す。R34〜R36は、各々独立に炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。
一般式(16)
【化12】

一般式(17)
【化13】

一般式(18)
【化14】

一般式(19)
【化15】

【0036】
一般式(16)〜(19)中、R41〜R43、R46〜R48、R53、R54、R59及びR60は、各々独立に水素、炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、水酸基、カルボキシル基、またはアミノ基を示す。R44、R45、R49〜R52、R57、R58、及びR63〜R66は、各々独立に水素、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。R55、R56、R61、及びR62は各々独立に水素、炭素数1〜4のアルコキシル基、又は炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基を示す。また、CR4445、CR4950、CR5152、CR5758、CR6364、及びCR6566は、カルボニル基でも良い。
更に、R41、R42、R43、及び(CR4445n'中の炭素の少なくとも何れか2つ;R46、R47、R48、及び(CR4950m'中の炭素の少なくとも何れか2つ;
53とR54;または、R59とR60;はそれぞれ、共同して環をつくりシクロアルカンを形成してもよい。n’、m’、l’、q’、s’及びt’は、各々独立に1以上8以下の整数を示し、p’及びr’は、各々独立に4以上12以下の整数を示す。また、*は、一般式(5)中のケイ素原子との結合位置を示す。
【0037】
成分(A)に係る加水分解性シラン化合物の具体例を以下に示す。
(A−1)4−(1,2−エポキシブチル)トリメトキシシラン、
(A−2)5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、
(A−3)8−オキシラン−2−イルオクチルトリメトキシシラン、
(A−4)8−オキシラン−2−イルオクチルトリエトキシシラン、
(A−5)3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、
(A−6)3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、
(A−7)1−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、
(A−8)1−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、
(A−9)3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルオキシプロピルトリメトキシシラン、
(A−10)3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルオキシプロピルトリエトキシシラン。
【0038】
(B)加水分解性シラン化合物
高分子化合物の原料として、上記(A)に係る加水分解性化合物とともに用いてもよい加水分解性シラン化合物として下記式(20)で示される加水分解性シラン化合物を挙げることができる。
67−Si(OR68)(OR69)(OR70) ・・・(20)
上記一般式(20)中、R67は、炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基を示し、R68〜R70は、各々独立に炭素数1〜6の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を示す。
【0039】
成分(B)に係る加水分解性シラン化合物の具体例を示す。
(B−1)メチルトリメトキシシラン、
(B−2)メチルトリエトキシシラン、
(B−3)エチルトリメトキシシラン、
(B−4)エチルトリエトキシシラン、
(B−5)プロピルトリメトキシシラン、
(B−6)プロピルトリエトキシシラン、
(B−7)ヘキシルトリメトキシシラン、
(B−8)ヘキシルトリエトキシシラン、
(B−9)ヘキシルトリプロポキシシラン、
(B−10)デシルトリメトキシシラン、
(B−11)デシルトリエトキシシラン、
(B−12)フェニルトリメトキシシラン、
(B−13)フェニルトリエトキシシラン、
(B−14)フェニルトリプロポキシシラン。
【0040】
上記式(20)で示される構造を有する加水分解性シラン化合物を上記式(15)に係る加水分解性シラン化合物と共に用いる場合、上記式(20)に係る加水分解性シラン化合物として、R67が炭素数6〜10の直鎖状のアルキル基を有する加水分解性シラン化合物と、R67がフェニル基を有する加水分解性シラン化合物とを組み合わせることが更に好ましい。
【0041】
(C)加水分解性チタン化合物
上記一般式(15)に係る加水分解性シラン化合物、および任意成分としての上記式(20)に係る加水分解性シラン化合物に加えて、下記式(21)で示される加水分解性チタン化合物を用いる。これにより、分子内にSi−O−Ti結合を有し、かつ、上記式(5)および(10)で示される構成単位を有する高分子化合物を得ることができる。
上記式(15)で示される構造を有する加水分解性化合物(A)と、下記式(21)で示される加水分解性チタン化合物(C)との加水分解縮合物の架橋物は、式(15)の3官能部位と、式(16)の4官能部位とで生じる加水分解、縮合の程度を制御できる。これにより、表面層の弾性率、および、緻密性を制御することができる。また、式(15)のR33の有機鎖部位を硬化サイトとして用いることで、表面層の強靭さ、及び表面層の弾性体層への密着性を制御可能となる。さらに、R33を紫外線の照射により開環するエポキシ基を有する有機基とすることで、従来の熱硬化性材料とは異なり、硬化時間が非常に短くできる為、下層の弾性体層の熱劣化を抑制できる。
Ti(OR37)(OR38)(OR39)(OR40) ・・・(21)
一般式(21)において、R37〜R40は各々独立に炭素数1〜9の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を示す。(C)に係る加水分解性チタニウム化合物の具体例を示す。
【0042】
(C−1)テトラメトキシチタニウム
(C−2)テトラエトキシチタニウム、
(C−3)テトラプロポキシチタニウム
(C−4)テトラi−プロポキシチタニウム、
(C−3)テトラn−ブトキシチタニウム、
(C−4)テトラt−ブトキシチタニウム、
(C−5)テトラ−2−エチルヘキソキチタニウム[Ti(OC17]。
【0043】
加水分解性化合物として上記の成分(A)〜(C)を用いた表面層の形成方法を説明する。
【0044】
1)(A)〜(C)成分、(D)成分としての水、および(E)成分としてのアルコールを混合し、加水分解縮合物の原料液を調製する工程。
【0045】
2)上記原料液を加熱還流させて、加水分解性化合物を水と反応させ、縮合物を合成する工程。
【0046】
3)上記工程2)で得られた縮合物を含む溶液に、(F)成分としての光重合開始剤、および(G)成分としての水酸化フラーレン及び/または酸化フラーレンを添加して表面層形成用塗工液を調製する工程。
【0047】
4)上記工程3)で調製した表面層形成用塗工液の塗膜を弾性層上に形成し、次いで、光照射によって前記(A)成分由来のカチオン重合可能な基を開裂させ、架橋させて加水分解縮合物の架橋物を含む表面層を形成する工程。
【0048】
上記工程1)において、原料液中の(A)〜(C)成分の量比としては、(A)〜(C)の各成分のモル数を各々[(A)]、[(B)]および[(C)]で示したときに、以下のことがいえる。[(C)]/{[(A)]+[(B)]}の値が、0.1以上、5.0以下、特には、0.5以上、4.0以下となるように混合することが好ましい。この範囲内であれば、(C)成分の縮合の進行が早すぎることがなく、加水分解縮合物の溶液中に沈殿が生じにくい。また、この値は、高分子化合物中のチタン原子とケイ素原子の原子数比(Ti/Si)となる。
また、原料液中における(A)成分と(B)成分とのモル比(=[(A)]/{[(A)]+[(B)]})が、0.10〜0.85、特には、0.35〜0.70とすることが、表面層の硬度が向上し過ぎることがないため、好ましい。
(D)成分としての水の量は、加水分解性化合物の全モル数に対して、0.4以上、1.2以下とすることが好ましい。この範囲とすることで、縮合反応における未反応のモノマーの残存を抑制し、加水分解性化合物の溶液への沈殿物の発生を抑制することができる。
(E)成分としてのアルコールとしては、第1級アルコール、第2級アルコール、第3級アルコール、第1級アルコールと第2級アルコールの混合系、第1級アルコールと第3級アルコールの混合系を用いることが好ましい。特にエタノール、メタノールと2−ブタノールの混合液、またはエタノールと2−ブタノールの混合液が好ましい。
上記工程3)において、(G)成分である、該水酸化フラーレン、酸化フラーレンを添加する際には、水またはアルコールに(G)成分を、所定の濃度に溶解し、上記2)の工程によって得られた加水分解縮合物を含む溶液に添加することが好ましい。溶液状にすると、飛散することなく、分散性や計量精度が向上する為である。
更に、上記工程3)において用いる光重合開始剤としては、感度、安定性および反応性の観点から、芳香族スルホニウム塩や芳香族ヨードニウム塩が好ましい。特に、次のものが好ましい。ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム塩。下記化学式(22)で示される構造を有する化合物(商品名:アデカオプトマ−SP150、旭電化工業(株)製)。さらに下記化学式(23)で示される構造を有する化合物(商品名:イルガキュア261、チバスペシャルティーケミカルズ社製)。
【0049】
式(22)
【化16】

【0050】
式(23)
【化17】

【0051】
更に、上記工程3)においては、表面層形成用塗工液に、揮発性を考慮した適当な溶剤を用いても良い。適当な溶剤としては、酢酸エチルや、メチルエチルケトン、あるいは、これらを混合したものが挙げられる。
【0052】
また、表面層形成用塗工液の塗膜の形成には、ロールコーターを用いた塗布、浸漬塗布、リング塗布などを採用することができる。
【0053】
次に、工程4)においては、縮合物の分子内のカチオン重合可能な基、例えば、エポキシ基を開裂させて、加水分解縮合物同士を架橋させるために、表面層形成用塗工液の塗膜に対して活性エネルギー線を照射する。活性エネルギー線としては、紫外線が好ましい。
【0054】
工程4)における、架橋および硬化反応の具体例を図5に示す。すなわち、成分(A)として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランまたは3グリシドキシプロピルトリエトキシシランを用いる。それとともに、成分(B)および成分(C)とを加水分解させて生成した縮合物は、カチオン重合可能な基としてグリシドキシプロピル基を有する。
このような加水分解縮合物のグリシドキシプロピル基は、カチオン重合触媒(図5中、R+Xと記載)の存在化下で、エポキシ環が開環し、連鎖的に重合していく。その結果、TiO4/2およびSiO3/2を含むポリシロキサン同士が架橋し、硬化して表面層が形成される。図5中、nは1以上の整数を示す。
【0055】
帯電部材の置かれる環境が温湿度の変化が急激な環境である場合、その温湿度の変化による導電性弾性層の膨張・収縮に表面層が十分に追従しないと、表面層にシワやクラックが発生することがある。しかしながら、架橋反応を熱の発生が少ない紫外線によって行えば、導電性弾性層と表面層との密着性が高まり、導電性弾性層の膨張・収縮に表面層が十分に追従できるようになるため、環境の温湿度の変化による表面層のシワやクラックも抑制することができる。また、架橋反応を紫外線によって行えば、熱履歴による導電性弾性層の劣化を抑制することができるため、導電性弾性層の電気的特性の低下を抑制することもできる。
【0056】
紫外線の照射には、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ、エキシマUVランプなどを用いることができ、これらのうち、紫外線の波長が150nm以上480nm以下の光を豊富に含む紫外線源が好ましく用いられる。なお、紫外線の積算光量は、以下のように定義される。
紫外線積算光量[mJ/cm2]=紫外線強度[mW/cm2]×照射時間[s]
紫外線の積算光量の調節は、照射時間や、ランプ出力や、ランプと被照射体との距離で行うことが可能である。また、照射時間内で積算光量に勾配をつけてもよい。
【0057】
低圧水銀ランプを用いる場合、紫外線の積算光量は、ウシオ電機(株)製の紫外線積算光量計UIT−150−AやUVD−S254(いずれも商品名)を用いて測定することができる。また、エキシマUVランプを用いる場合、紫外線の積算光量は、ウシオ電機(株)製の紫外線積算光量計UIT−150−AやVUV−S172(いずれも商品名)を用いて測定することができる。
このようにして形成される表面層中のバインダーをなす高分子化合物の具体的な構造を上記に挙げる。
【0058】
表面膜の厚みの目安としては、10nm以上、100nm以下である。
【0059】
<電子写真装置>
図2に本発明に係る電子写真装置の構成を示す。各色のトナーを内包する現像器等の現像手段4a〜4dにそれぞれ対向配設された感光ドラム1a〜1dが、ローラ7および9間に張架されている中間転写ベルト6の移動方向に並設されている。各現像手段により各感光ドラム上に形成された各色トナー画像は転写ローラ8a〜8dにより中間転写体に静電的に順次重ねて転写され、イエロー、マゼンタ、シアンにブラックを加えた4色のトナーによるフルカラートナー画像が形成される。
【0060】
また、各感光ドラム上に各色トナー像を形成するための、帯電手段2a〜2d、像露光手段3a〜3d、現像手段4a〜4dが、各感光ドラム1a〜1dの周りに配設されている。さらに、中間転写ベルトにトナー像を転写した後、各感光ドラム上に残留するトナーを摺擦して回収するクリーニングブレードを有するクリーニング手段5a〜5dが配設されている。
【0061】
次に、画像形成動作について説明する。各帯電手段2a〜2dである帯電ローラにより均一に帯電された感光ドラム1a〜1d表面に、パーソナルコンピュータ等のホストからの画像データに応じて変調されたレーザビームが像露光手段3a〜3dより照射され、各色に対して所望の静電潜像が得られる。この潜像はこれと対向して配設されている各色のトナーを内包した現像器である現像手段4a〜4dにより、現像位置で反転現像されトナー像として可視化される。このトナー像は、各転写位置で中間転写ベルト6に順次転写され、不図示の給紙手段により所定のタイミングで給紙され、搬送手段により搬送されてくる転写材Pに一括して転写される。この転写材P上のカラートナー画像は不図示の定着装置によって加熱溶融され、転写媒体上に永久定着され所望のカラープリント画像が得られる。
【0062】
本発明に係る帯電ローラ2は、電子写真感光体1に所定の押圧力で接触させてある。そして、電子写真感光体1の回転に対して順方向に回転駆動する。この帯電ローラ2に対して帯電バイアス印加電源から、所定の直流電圧のみが印加されることで、電子写真感光体1の表面が所定の極性電位に一様に帯電される。
【0063】
像露光手段3には例えば、レーザービームスキャナーなどが挙げられる。電子写真感光体1の帯電処理面に該像露光手段3により目的の画像情報に対応した像露光がなされることにより、電子写真感光体の帯電面の露光明部の電位が選択的に低下(減衰)して電子写真感光体1に静電潜像が形成される。現像手段4はトナーを収容する現像容器の開口部に配設されてトナーを担持搬送するトナー担持体と、収容されているトナーを撹拌する撹拌部と、トナー担持体のトナーの担持量(トナー層厚)を規制するトナー規制部材とを有する。現像手段4は、電子写真感光体1表面の静電潜像の露光明部に、電子写真感光体1の帯電極性と同極性に帯電しているトナー(ネガトナー)を選択的に付着させて静電潜像をトナー像として可視化する。フルカラー画像を出力するフルカラー電子写真装置には、トナーの飛散性改善などの目的より、接触現像方式が好ましい。
【0064】
本発明に係る帯電ローラ2は、電子写真感光体1と接触した状態で、樹脂成形体などの支持部材によって一体に支持され、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されてなるプロセスカートリッジ(不図示)とすることもできる。
【実施例】
【0065】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
【0066】
〈実施例1〉
<導電性弾性ローラの作製>
表1に記載の材料を6Lニーダーで20分間混練した。
【0067】
<表1>
【表1】

【0068】
この20分間混練したものに表2に記載の材料を加え、オープンロールで更に8分間混練することにより混練物Iを得た。
【0069】
<表2>
【表2】

【0070】
次に、直径6mm、長さ252mmの円柱形の鋼製の支持体(表面をニッケルメッキ加工したもの)に金属およびゴムを含む熱硬化性接着剤(商品名:メタロックN−33、(株)東洋化学研究所製)を塗布した。塗布した領域は支持体の円柱面軸方向中央を挟んで両側115.5mmまでの領域(あわせて軸方向幅231mmの領域)である。これを30分間温度80℃で乾燥させた後、さらに1時間温度120℃で乾燥させた。
【0071】
クロスヘッド押出機を使用して混練物Iを押し出し、上述した熱硬化性接着剤を塗布し乾燥させた支持体を同時に挿入し、外径8.75〜8.90mmの円筒形に加工形成し、芯金端部を受けながら引き取り、ゴム長242mmとなるように端部を切断した。
【0072】
連続加熱炉は異なる温度設定にしたゾーンを2つ設けたものを使用した。第1ゾーンを温度80℃に設定し、30分で通過させ、第2ゾーンを温度160℃に設定し、こちらも30分通過させ、加硫することによって、導電性弾性層用1次加硫品を得た。
【0073】
急速な加硫温度の立ち上げは、ボイドの要因となり易いことが分かっている。この理由は、加硫反応による加硫促進剤等の揮発性副生成物がガス化し、ゴムの加硫による硬化の際に、ガスが抜け難い状態で、閉じ込められる為と推測している。この為、支持体周辺あるいは押出表面付近まで気泡が発生し、これを研磨すると凹となり画像不良の要因となる。
【0074】
硬化ゾーンを2つ設けたのは、第1ゾーンを加硫温度より低い状態に保持する事で、ガス成分を十分抜いた後で、第2ゾーンで加硫を行う事で上記問題を解決する。
【0075】
第1ゾーン及び第2ゾーンの温度、時間の設定は上記理由で便宜設定できる。
【0076】
次に、表面研磨前の導電性弾性ローラ1の導電性弾性層部分(ゴム部分)の両端を切断し、導電性弾性層部分の軸方向幅を232mmとする。その後、導電性弾性層部分の表面を回転砥石で研磨することによって、端部直径8.26mm、中央部直径8.5mmのクラウン形状を作製する。このときのローラ表面の十点平均粗さ(Rz)が5.0μmで、振れが25μmの導電性弾性ローラ(表面研磨後の導電性弾性ローラ)−1を得た。十点平均粗さ(Rz)はJISB6101に準拠して測定した。振れの測定は、ミツトヨ(株)製高精度レーザー測定機LSM−430vを用いて行った。詳しくは、該測定機を用いて外径を測定し、最大外径値と最小外径値の差を外径差振れとし、この測定を5点で行い、5点の外径差振れの平均値を被測定物の振れとした。得られた導電性弾性ローラ(表面研磨後の導電性弾性ローラ)−1の硬度は73度(アスカーC)であった。
【0077】
<表面層形成用コーティング剤の調製>
次にコーティング剤の製造方法について述べる。
<<加水分解縮合物−1の合成>>
【0078】
1)表3に記載の材料を300mlのナスフラスコに入れた。
【0079】
<表3>
【表3】

【0080】
このフラスコにフットボール型攪拌子(全長45mm×径20mm)を入れ、室温で、回転数500rpm1分間、スターラー上で攪拌し、混合した。更にスターラーの回転数を900rpmに変更し、イオン交換水(pH=5.5)3.89gを滴下しながら添加した。
なお、成分(A)であるGPTES、成分(B)であるHeTMS、および成分(C)であるTi(O−iPr)の全モル数(100mol%)に対する各成分のモル比は次のとおりである。(A):20.59mol%、(B):29.41mol%、(C):50.00mol%。
【0081】
2)温度暴走防止機構付きスターラー上に、温度120℃に設定したオイルバスを置き、上記のフラスコを回転数750rpmで、120℃到達時間を20minとし、3時間加熱還流を行って加水分解縮合物−1の溶液を得た。得られた溶液を目視で観察したところ、沈殿物は確認できず、また、透明であった。
【0082】
3)次に、成分(F)の光カチオン重合開始剤として芳香族スルホニウム塩[商品名:アデカオプトマーSP−150、旭電化工業(株)製]を、メタノールに、濃度が10質量%となるように溶解して、重合開始剤溶液を調製した。これを、上記加水分解縮合物−1の溶液に、加水分解縮合物−1に対する開始剤の量が1.5質量%となるように添加した。
【0083】
4)成分(G)の水酸化フラーレンとして、C60(OH)44・8H2Oを合成した。合成は、特WO06/028297公報に記載の方法に従った。具体的には、フラーレンを、30wt%過酸化水素水の存在下で、温度60℃で16時間反応させて、上記の水酸化フラーレンを得た。
この水酸化フラーレンを、メタノールに1.0wt%となるように溶解して、水酸化フラーレン溶液を調製した。これを、上記工程3)で調製した、重合開始剤を添加した加水分解縮合物−1の溶液に、加水分解縮合物−1に対する水酸化フラーレンの量が3.0wt%となるように添加した。
【0084】
次に、エタノールで、加水分解縮合物−1の濃度を1.0wt%に調整し、表面層形成用の塗工液−1を得た。
【0085】
これを先に形成した、表面研磨済の導電性弾性ローラの導電性弾性層上にリング形状の塗工ヘッドを用いて塗布して、塗膜を形成した。塗工ヘッドからの塗工液の吐出量は、0.008ml/s、塗工ヘッドと導電性弾性ローラの相対移動速度は、20mm/s、塗工液の総吐出量は0.064mlとした。
【0086】
次に、導電性弾性層上の塗膜に、波長が254nmの紫外線を、積算光量が9000mJ/cm2になるように照射して、当該塗膜中のエポキシ基を開裂させて、ポリシロキサン鎖同士を架橋させて表面層を形成した。なお、紫外線の照射には、ハリソン東芝ライティング(株)製の低圧水銀ランプを用いた。こうして帯電ローラ1を得た。
【0087】
<硬化物の化学構造の評価>
29Si−NMR、13C−NMR測定を用いて、本実施例に係る加水分解縮合物1に紫外線(UV)を照射して架橋せしめて得た硬化物が、一般式(5)の構造を有していることを確認した[使用装置:JMN−EX400(商品名)、JEOL社]。測定結果を図6及び図7に示す。測定手順として、29Si−NMR、13C−NMR測定ともに、先ず、アルミシート上に縮合物1を製膜しUV照射して硬化させ、その硬化物をアルミシートから剥離し、粉砕したものをNMR測定用試料として用いた。
【0088】
図6では、29Si−NMR測定結果から、T1は─SiO1/2(OR)2を示し、T2は、─SiO2/2(OR)を示し、T3は─SiO3/2を示す。T3の存在から、エポキシ基を含む有機鎖をもつ加水分解性シラン化合物が縮合し、−SiO3/2の状態で存在する種があることを確認した。図7では、13C−NMRよりエポキシ基が残存せず全て重合していることを確認した。以上のことより、縮合物1の硬化物が、本発明に係る一般式(1)の構造を有していることを確認した。
【0089】
<Si−O−Ti結合の確認>
帯電ローラの表面層内において、Si−O−Ti結合の存在をESCAで確認した[使用装置:Quantum2000(商品名)、アルバックファイ社製]。ローラ表面にX線が照射されるようにし、表面層内の結合様式を評価した。測定結果を図8に示す。検出されたO1sスペクトルより、Si−O−Ti結合の存在が確認された。
【0090】
<評価1> 帯電ローラの動摩擦係数の測定
この帯電ローラの静摩擦係数及び動摩擦係数を測定した。測定方法を図3を用いて説明する。本測定方法は、測定物がローラ形状の場合に好適な方法で、オイラーのベルト式に準拠した方法である。この方法によれば、測定物である帯電部材31と所定の角度(θ)で接触したベルト32(厚さ20μm、幅30mm、長さ180mm)は、片方の端部が記録計34に接続している測定部(荷重計)33と、他端部が重り35と結ばれている。この状態で導電性部材を所定の方向、速度で回転させた時、測定部で測定された力をF(g)、重りの重さをW(g)とした時、摩擦係数(μ)は以下の式で求められる;
μ=(1/θ)ln(F/W)
この測定方法により得られるチャートの一例を図4に示す。ここで、未回転時間帯41(回転していない)にある帯電ローラを回転させた直後の値が回転を開始するのに必要な力であり、それ以降が回転を継続するのに必要な力であることがわかる。ここで回転開始点43(すなわちt=0秒時点)の力が静摩擦力ということができ、また、0<t(秒)≦10の任意の時間における力が任意の時間における動摩擦力ということができる。本発明では8〜10秒後の平均値をもって、動摩擦力とした。
【0091】
また評価については、水酸化フラーレン及び/または酸化フラーレン添加しない以外は、同様にして作製した対照例としての帯電ローラを別途作製しておき、本実施例に係る帯電ローラと、対照ローラとの動摩擦係数を測定して、その上昇率を下記式で求めた。その結果を表5に示す。
動摩擦係数の上昇率=(本実施例に係る帯電ローラの動摩擦係数)/(対照ローラの動摩擦係数)
とした。
【0092】
表面層の膜厚は、以下の方法で測定した。帯電ローラ1の最表面を直接ESCAによるAr+イオンスパッタにより厚み方向分析を行い、Si2p3ピーク強度が変化しなくなった深さまでを膜厚とした。帯電ローラ1の表面層の厚さは、40nmであった。
装置:「Quantum2000」(商品名、アルバックファイ社製)
X線 ; モノクロAl kα、25w15kV100μm
pass energy ; 23.5eV、
step width ; 0.1eV、
試料傾斜角 ; 45°、
Ar+スパッタ ; 4kV、2×2mm2、6sec/cycle
(スパッタ速度 ; 30nm/min. SiO2)。
【0093】
<評価2> 電子写真画像へのゴーストの発生の有無
帯電ローラ1をプロセスカートリッジ(商品名:「Q5950A(ブラック)」、HP社製)に組み込んだ。当該カートリッジ内においては、帯電ローラと感光体とは当接された状態が維持される。また、上記のプロセスカートリッジに組み込んだ電子写真感光体は、支持体上に層厚19μmの有機感光層を形成してなる有機電子写真感光体である。また、この有機感光層は、支持体側から電荷発生層と変性ポリアリレート(結着樹脂)を含有する電荷輸送層とを積層してなる積層型感光層であり、この電荷輸送層は電子写真感光体の表面層となっている。
このプロセスカートリッジを高温高湿環境(温度30℃、相対湿度80%RH)下に一晩放置した。その後、同様に該プロセスカートリッジを、A4紙縦出力用のレーザービームプリンター(商品名:「HP Color LaserJet 4700 Printer」、HP社製)に装着した。
なお、このレーザープリンターの現像方式は反転現像方式であり、転写材の出力スピードは164mm/sであり、画像解像度は600dpiである。
また、上記レーザープリンターに使用したトナーは、ワックス、荷電制御剤、色素、スチレン、ブチルアクリレート及びエステルモノマーを含む重合性単量体系を水系媒体中で懸濁重合して得られた粒子を含む、いわゆる、重合トナーである。このトナーは前記粒子にシリカ微粒子及び酸化チタン微粒子を外添してなるトナー粒子を含む重合トナーであって、そのガラス転移温度は63℃、体積平均粒子径は約6μmである。
このレーザプリンターを用いて、感光ドラムの1周目は、約2cm四方のベタ黒画像(露光部)を記録し、感光ドラムの2周目でハーフトーン画像(感光ドラムの回転方向と垂直方向に幅1ドットの線を間隔2ドットで描く画像)を記録した。得られたハーフトーン画像を目視で観察し、下記の基準でゴーストの有無、程度を評価した。
なお、ゴーストとは感光ドラムの1周目における露光した部分(トナー画像部)が、感光ドラムの2周目で帯電不足を生じ、感光ドラム上の前回の画像パターンがより強く現像され、被記録材上に発生する画像をいう。
【0094】
AA:ゴーストが認められない。
A:ゴーストが僅かに観察される。
B:ゴーストの輪郭が確認できる。
C:濃度の濃いゴーストが確認できる。
【0095】
<評価3> 高温高湿環境下に放置後の帯電ムラの評価
評価2に供したプロセスカートリッジを、高温高湿環境(温度45℃、相対湿度95%)下に30日間放置し、常温常湿環境(温度25℃、相対湿度55%)下に72時間放置した。その後、該プロセスカートリッジを、レーザービームプリンター(商品名:「HP ColorLaserJet 4700 Printer」、HP社製)に装填した。
このプリンターを用いて、A4サイズの紙にハーフトーン画像(感光ドラムの回転方向と垂直方向に幅1ドットの線を間隔2ドットで描く画像)を出力した。得られたハーフトーン画像について目視で観察し、帯電ローラと感光ドラムとのスリップに起因する帯電ムラに基づく黒いスジの有無、およびその程度を下記の基準で評価した。
【0096】
AA:黒いスジが認められない。
A:画像上の端部に、濃度がごく薄い黒スジが認められた。
B:画像上の端部に、濃度が薄い黒スジが認められた。
C:画像上の端部に、濃度の濃い黒スジが認められた。
【0097】
<実施例2>
水酸化フラーレンを、C60(OH)44・8HOとC70(OH)44・8HOとの混合物(質量比:1:1)に変えた以外は実施例1と同様に帯電ローラを作製し、評価した。
【0098】
<実施例3>
水酸化フラーレンを、C60(OH)[商品名:nanom spectra D100;フロンティアカーボン株式会社製]に変えた以外は、実施例1と同様にして水酸化フラーレンの溶液を調製した。重合開始剤を添加した加水分解縮合物−1の溶液に、加水分解縮合物−1に対する水酸化フラーレンの量が1.0wt%となるように添加した。他は、実施例1と同様にして帯電ローラを作製し、評価した。
【0099】
<実施例4>
水酸化フラーレンを、C60(OH)、C60(OH)10およびC60(OH)12との混合物(質量比=1:1:1)[商品名:フラレノール;本荘ケミカル(株)社製]に変えた以外は実施例1と同様に帯電ローラを作製し、評価した。
【0100】
<実施例5>
水酸化フラーレンを、特WO06/028297公報に記載の方法により合成したC60(OH)36・9H2Oに変えた以外は実施例1と同様にして帯電ローラを作製し、評価した。
【0101】
<実施例6>
水酸化フラーレンを、特WO06/028297公報に記載の方法により合成したC60(OH)40・9H2Oに変えた以外は実施例1と同様にして帯電ローラを作製し、評価した。
【0102】
<実施例7>
水酸化フラーレンを、C60(O)1[商品名:nanomspectra B100、フロンティアカーボン株式会社製]に変えた以外は、実施例1と同様にして水酸化フラーレンの溶液を調製した。重合開始剤を添加した加水分解縮合物−1の溶液に、加水分解縮合物−1に対する水酸化フラーレンの量が1.0wt%となるように添加した。他は、実施例1と同様にして帯電ローラを作製し、評価した。
<実施例8>
水酸化フラーレンを、C60(O)3[商品名:FX−033、FLOX株式会社製]に変えた以外は実施例7と同様にして帯電ローラを作製し、評価した。
【0103】
<実施例9、10>
実施例2で調製した水酸化フラーレンの溶液を、重合開始剤を添加した加水分解縮合物−1の溶液に、加水分解縮合物−1に対する水酸化フラーレンの量が1.0wt%、または、5.0wt%となるように添加した。それ以外は、実施例2と同様にして帯電ローラを作製し、評価した。
【0104】
<実施例11〜21>
実施例11〜21に係る加水分解縮合物11〜21の溶液の組成を表4−1に示す。なお、成分(A)〜(C)に係る加水分解性化合物と、それらの混合比(モル比)を表4−2に示す。
実施例2における加水分解縮合物−2の溶液を、上記加水分解縮合物11〜21の各溶液に変えた以外は、実施例2と同様にして帯電ローラ11〜21を作製し、評価した。
【0105】
<比較例1>
実施例19に用いた表面層形成用塗工液において、水酸化フラーレンを添加しなかった以外は、実施例19と同様にして表面層形成用塗工液を調製した。これを用いて実施例19と同様にして帯電ローラを作製し、評価した。
【0106】
実施例1〜21および比較例1に係る帯電ローラの評価結果を表5に示す。
【表4−1】

【表4−2】

【表5】



【0107】
<比較例2>
フラーレン(C60)[商品名:nanom purple SUH、フロンティアカーボン株式会社製]を、トルエンに1.0wt%となるように溶解し、フラーレン溶液を得た。
これを、実施例1の工程3)で調製した、重合開始剤を添加して得た加水分解縮合物−1の溶液に、加水分解縮合物−1に対するフラーレンの量が3.0wt%となるようにフラーレン溶液を添加した。しかし、添加直後から沈殿物を生じ、表面層の形成に用い得る均一な塗工液を作製できなかった。
【0108】
以上のとおり、本発明によれば、表面の摩擦係数が上昇した帯電部材を得ることができる。その結果、感光ドラムに対して従動回転する際にリップし難いため、感光ドラムをより均一に帯電させることができる。また、表面に圧縮永久歪みが生じ易い状態、すなわち、感光ドラムに当接させた状態で高温高湿環境下に放置した後であっても、感光ドラムとの間のスリップによる帯電ムラ起因の画像欠陥(黒スジ)が発生し難かった。これは、表面の摩擦係数が高まったことにより、帯電ローラの表面に圧縮永久歪みが生じていたとしても、その部分でスリップが生じ難かったため、帯電ムラが生じにくくなったものと考えられる。
【符号の説明】
【0109】
100 帯電ローラ
101 軸芯体
102 導電性弾性層
103 表面層
1 電子写真感光体(感光ドラム)
2 帯電部材(帯電ローラ)
3 像露光手段
4 現像手段
5 クリーニング手段
6 中間転写ベルト
8 転写部材(転写ローラ)
P 転写材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸芯体と該軸芯体の外周に形成された弾性層と該弾性層の外周に形成された表面層とを有する帯電部材であって、
該表面層が、水酸化フラーレン及び酸化フラーレンから選ばれる少なくとも一方と、バインダーとを含有することを特徴とする帯電部材。
【請求項2】
前記水酸化フラーレンを含み、かつ、該水酸化フラーレンが下記式(1)及び(2)から選ばれる少なくとも一方である請求項1に記載の帯電部材:
60(OH)m・kH2O ・・・ 式(1)
70(OH)n・lH2O ・・・ 式(2)
(上記式(1)、(2)において、m、nは各々独立して、5以上44以下の整数、k、lは各々独立して0以上9以下の整数を示す)。
【請求項3】
前記酸化フラーレンを含み、該酸化フラーレンが、下記式(3)及び(4)から選ばれる少なくとも一方である請求項1に記載の帯電部材:
60(O)o ・・・ 式(3)
70(O)p ・・・ 式(4)
(上記式(3)、(4)において、o、pは各々独立して1以上3以下の整数を示す)。
【請求項4】
前記バインダーが、下記一般式(5)で示される構成単位を含む高分子化合物である請求項1〜3の何れか一項に記載の帯電部材:
一般式(5)
【化1】


(上記一般式(5)中、R1及びR2は、各々独立に下記一般式(6)〜(9)の何れかを示す。
一般式(6)
【化2】

一般式(7)

【化3】

一般式(8)
【化4】

一般式(9)
【化5】

一般式(6)〜(9)中、R3〜R7、R10〜R14、R19、R20、R25及びR26は、各々独立に水素、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、水酸基、カルボキシル基、またはアミノ基を示す。R8、R9、R15〜R18、R23、R24及びR29〜R32は、各々独立に水素、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。R21、R22、R27及びR28は、各々独立に水素、炭素数1〜4のアルコキシル基又は炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基を示す。n、m、l、q、s及びtは、各々独立に1以上8以下の整数を示す。p及びrは、各々独立に4以上12以下の整数を示す。x及びyは、各々独立に0又は1を示す。更に、*及び**は、各々一般式(5)中のケイ素原子及び酸素原子との結合位置を示す)。
【請求項5】
前記高分子化合物が、更に下記一般式(10)で示される構成単位を含み、かつ、分子内にSi−O−Ti結合を有している請求項4に記載の帯電部材:
一般式(10)
TiO4/2
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の帯電部材と、該帯電部材に接触している電子写真感光体とが一体に取り付けられ、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されていることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の帯電部材と、該帯電部材に接触している電子写真感光体とを有することを特徴とする電子写真装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−42936(P2012−42936A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154865(P2011−154865)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【特許番号】特許第4841016号(P4841016)
【特許公報発行日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】