説明

帯電防止コーティング液組成物及びその製造方法並びにこれをコーティングした帯電防止コーティングフィルム

【課題】耐水性に優れていて、且つ乾燥速度が速く、保管時に安定性がありながらも、高温多湿な環境でも耐えることができるので、LCDやPDPなどのディスプレイ装置に使用することができる帯電防止コーティング液組成物。
【解決手段】少なくとも1つのアクリル系モノマーと、シクロヘキシルメタクリレートとが共重合反応されて形成されたアクリル系重合体と、ポリエチレンジオキシチオフェンを含むポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子と、前記アクリル系重合体及び前記導電性高分子を溶解させるためのエーテル系またはアルコール系溶媒と、を含み、前記エーテル系またはアルコール系溶媒に前記アクリル系重合体及び前記導電性高分子が溶解されて組成物をなし、前記シクロヘキシルメタクリレートが前記アクリル系モノマーの含量に対して1〜30重量%の割合で前記アクリル系重合体に含有されている帯電防止コーティング液組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止コーティング液組成物及びその製造方法並びにこれをコーティングした帯電防止コーティングフィルムに関し、より詳細には、平板ディスプレイ前面板、フィルム、プラスチックなどのコーティングに適用され、コーティング後の帯電防止性能、透明性及び付着性に優れた熱乾燥型帯電防止コーティング液組成物及びその製造方法並びにこの組成物がコーティングされた帯電防止コーティングフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1によれば、帯電防止剤が合成樹脂成形物などの表面に染み込むことがなく、透明であり、湿度が高くない場所でも帯電防止性を有する塗膜を形成する塗料について開示している。前記塗料は、スルホン化ポリアニリンを帯電防止剤として含有し、水と水溶性有機溶剤との混合溶剤に水溶性あるいは水分酸性ポリマーを含むことを特徴とする。これによれば、プラスチックやフィルムの表面に透明な帯電防止コーティングを容易に行うことができるが、スルホン化ポリアニリンによって多少の着色があり得、水分酸性ポリマーに起因して耐水性が劣化すめ短所があり得る。
【0003】
また、特許文献2は、ポリ(3,4−ジオキシチオフェン)及びポリ陰イオンからなる導電性ポリマーと、常温で液体であり、且つアミド基あるいは水酸基を有する水溶性化合物、及び自己乳化型ポリエステル樹脂の水分散体を特定の割合で配合して得られる組成物にエポキシ基を有するアルコキシシランを特定量配合させることによって得られる帯電防止コーティング用組成物について開示している。このような組成物は、透明性、導電性、耐溶剤性、及び耐水性が向上するとされている。しかし、ポリエステル樹脂の水分散体を使用するため、乾燥時に水分を蒸発するのに時間がかかり、アルコキシシランの水分との反応性に起因して保管中に変質の恐れがある。
【0004】
また、特許文献3は、速乾型透明導電性コーティング液組成物について開示している。前記特許文献3によれば、前記導電性コーティング液組成物は、非水系アクリル系高分子バインダー溶液と、導電性高分子水溶液及び溶媒で構成されていて、約50℃で短時間内に耐水性、導電性、透明性などに優れた導電膜を形成させることができる。このような導電膜は、シリカゾルや水溶性バインダーの代わりに非水系アクリル高分子バインダーを使用することによって、水分の蒸発時間を短縮することができ、疎水性を増大することができるので、乾燥時間と耐水性を向上させることができるとされている。しかし、高温や湿度が高い環境に長時間露出される場合、コーティング層の剥離が生じたり、表面伝導度が減少し、LCDあるいはPDPなどの材料で要求される湿熱耐久性試験に耐え難いという問題点がある。
【0005】
【特許文献1】特開平10−330650号明細書
【特許文献2】特願2000−253289号明細書
【特許文献3】大韓民国特許第430989号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、耐水性に優れていて、且つ乾燥速度が速く、保管時に安定性がありながらも、高温多湿な環境でも耐えることができるので、LCDやPDPなどのディスプレイ装置に使用することができる帯電防止コーティング液組成物を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、耐水性に優れていて、且つ乾燥速度が速く、保管時に安定性がありながらも、高温多湿な環境でも耐えることができるので、LCDやPDPなどのディスプレイ装置に使用することができる帯電防止コーティング液組成物の製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、耐水性に優れていて、且つ乾燥速度が速く、保管時に安定性がありながらも、高温多湿な環境でも耐えることができる帯電防止コーティング液組成物を使用してTACまたはPET(Polyethylene terephthalate)フィルム基材上にコーティングを行うことによって、LCD用偏光フィルムやPDP用剥離フィルムなどの機能性フィルムとして使用することができる帯電防止コーティングフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、少なくとも1つのアクリル系モノマーと、シクロヘキシルメタクリレートとが共重合反応されて形成されたアクリル系重合体と、ポリエチレンジオキシチオフェンを含むポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子と、前記アクリル系重合体及び前記導電性高分子を溶解させるためのエーテル系またはアルコール系溶媒と、を含み、前記エーテル系またはアルコール系溶媒に前記アクリル系重合体及び前記導電性高分子が溶解されて組成物をなし、前記シクロヘキシルメタクリレートが前記アクリル系モノマーの含量に対して1〜30重量%の割合で前記アクリル系重合体に含有されている帯電防止コーティング液組成物を提供する。
【0010】
湿熱耐久性を考慮して前記アクリル系重合体のガラス転移温度Tgは、少なくとも70℃であることが好ましい。
【0011】
コーティング塗膜表面のレベリングまたは平滑性の向上のために、ポリシロキサンまたはポリアクリルを主成分とする添加剤をさらに含むことができる。
【0012】
前記組成物に、前記アクリル系重合体が0.1〜20.0重量%含有され、前記ポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子が、0.010〜2.0重量%含有されることができる。
【0013】
前記ポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子は、ポリスチレンスルホネートを含有し、前記ポリエチレンジオキシチオフェン及び前記ポリスチレンスルホネートの含量比率(ポリエチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルホネートの比率)は、1:5乃至1:10範囲であることができる。
【0014】
前記アクリル系モノマーは、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、メタクリル酸、イソプロピルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート及びアクリル酸の中から選択された少なくともいずれか1つであることができる。
【0015】
また、本発明は、重合反応のための芳香族またはエーテル系溶媒と、少なくとも1つのアクリル系モノマーと、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)及び重合開始剤を反応器に滴下する段階と、前記反応器の温度を適宜調節しながら前記アクリル系モノマーとシクロヘキシルメタクリレートとをアクリル共重合反応させて、アクリル系重合体を形成する段階と、前記アクリル系重合体を溶解させるためのエーテル系またはアルコール系溶媒と、前記アクリル系重合体を攪拌器に投入した後、前記アクリル系重合体が溶解されるように攪拌する段階と、前記攪拌器にポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子を装入し攪拌して、エーテル系またはアルコール系溶媒にポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子が溶解されて分散された帯電防止コーティング液組成物を得る段階と、を含み、前記シクロヘキシルメタクリレートは、前記アクリル系モノマーの含量に対して1〜30重量%の割合で前記反応器に滴下する帯電防止コーティング液組成物の製造方法を提供する。
【0016】
前記ポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子の分散性を調節するために、n−メチルピロリドンまたはジメチルホルムアミドを前記攪拌器に添加して攪拌することができる。
【0017】
湿熱耐久性を考慮して前記アクリル系重合体のガラス転移温度Tgが少なくても70℃になるように、前記シクロヘキシルメタクリレートに対して前記アクリル系モノマーの種類と含量を調節し、前記反応器に滴下することが好ましい。
【0018】
コーティング塗膜表面のレベリングまたは平滑性の向上のために、ポリシロキサンまたはポリアクリルを主成分とする添加剤を前記攪拌器に装入して攪拌することができる。
【0019】
前記アクリル系重合体は、前記帯電防止コーティング液組成物の0.1〜20.0重量%含有されるように前記攪拌器に投入され、前記ポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子は、前記帯電防止コーティング液組成物の0.010〜2.0重量%含有されるように前記攪拌器に投入されることが好ましい。
【0020】
前記ポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子は、ポリスチレンスルホネートを含有し、前記ポリエチレンジオキシチオフェン及び前記ポリスチレンスルホネートの含量比率(ポリエチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルホネートの比率)は、1:5乃至1:10範囲であることができる。
【0021】
また、本発明は、少なくとも1つのアクリル系モノマーと、シクロヘキシルメタクリレートとが共重合反応されて形成されたアクリル系重合体と、ポリエチレンジオキシチオフェンを含むポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子と、前記アクリル系重合体及び前記導電性高分子を溶解させるためのエーテル系またはアルコール系溶媒と、を含み、前記エーテル系またはアルコール系溶媒に前記アクリル系重合体及び前記導電性高分子が溶解されて組成物をなし、前記シクロヘキシルメタクリレートが前記アクリル系モノマーの含量に対して1〜30重量%の割合で前記アクリル系重合体に含有されている請求項1に記載の帯電防止コーティング液組成物がコーティングされて形成されたコーティング塗膜を有する帯電防止コーティングフィルムを提供する。
【0022】
前記コーティング塗膜は、透明で且つ導電性であり、光透過率が少なくとも85%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る帯電防止コーティング液組成物は、耐水性に優れていて、且つ乾燥速度も速く、保管時に安定性がありながらも、高温多湿な環境でも耐える特性に優れている。
【0024】
また、本発明に係る帯電防止コーティング液組成物は、PETフィルムなどにコーティングする場合、高温多湿な環境条件でも優れた表面抵抗値、光学的特性及びPETフィルムとの強力な付着性を示す。PETフィルムなどにコーティングしてコーティング塗膜を形成する場合、前記コーティング塗膜は、透明であり且つ光透過率に優れていて、導電性を示し、したがって、LCDやPDPなどの平板ディスプレイに使われるフィルム、PDP前面板、LCD前面板、携帯電話液晶保護フィルム、携帯電話ウィンドウ、PDPパネル保護フィルム、LCDパネル保護フィルムなどの各種ディスプレイ装置の透明な帯電防止用コーティングフィルムとして非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係る好ましい実施例を詳細に説明する。しかし、以下の実施例は、この技術分野において通常の知識を有する者に本発明が十分に理解されるように提供されるものであって、様々な他の形態で変形されることができ、本発明の範囲が後述する実施例に限定されるものではない。
【0026】
本発明の好ましい実施例に係る帯電防止コーティング液組成物は、アクリル系重合体を含む非水系アクリル系高分子バインダーと、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)系導電性高分子水溶液と、前記高分子バインダーと前記導電性高分子を溶解するエーテル系またはアルコール系溶媒とを含む。帯電防止コーティング液組成物は、コーティング時、コーティング塗膜表面のレベリングまたは平滑性の向上のための添加剤をさらに含むことができる。
【0027】
前記アクリル系高分子バインダーは、少なくとも1つのアクリル系モノマーと2シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)とを互いに重合して形成されたアクリル系重合体を含む。前記アクリル系モノマーは、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、メタクリル酸、イソプロピルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート及びアクリル酸の中から選択された少なくとも1つ以上のモノマーである。前記2シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)は、分子量が168.24であり、下記の化学式を有する。
【0028】
【化1】

【0029】
この時、合成されたアクリル系高分子バインダーのガラス転移温度Tgが70℃以下であれば、湿熱耐久性が劣化することができるので、湿熱耐久性の向上のために、アクリル系高分子バインダーのTg(ガラス転移温度)値が70℃以上になるように、アクリル系モノマーの組成を構成するように設計する。
【0030】
また、前記シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)は、前記アクリル系モノマーの総含量に対して1〜30重量%、好ましくは、2〜15重量%の割合で重合することが湿熱耐久性の向上に有用である。
【0031】
前記アクリル系重合体を形成するにあたって、アクリル共重合反応を起こすのに使われる重合開始剤には、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)またはt−ブチルペルオキシベンゾエート(TBPB)などを使用することができる。
【0032】
アクリル系重合体を形成するための重合の溶媒としては、芳香族溶媒またはエーテル系溶媒を使用することができる。前記芳香族溶媒には、トルエン、キシレンなどを使用することができ、前記エーテル系溶媒には、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール−2−エチルヘキシルエーテルなどを使用することができる。
【0033】
前記ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)系導電性高分子水溶液は、ポリスチレンスルホネート(PSS)を含む。ポリスチレンスルホネート(PSS)を含むポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)系導電性高分子水溶液は、ポリエチレンジオキシチオフェン系の導電性高分子水溶液にポリスチレンスルホネート(PSS)の高分子がドーパントとして添加された形態である。したがって、水によく分散される特徴を有し、且つ優れた熱的安定性及び大気安定性を期待することができる。ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)及びポリスチレンスルホネート(PSS)の含量比率(ポリエチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルホネートの比率)は、1:5乃至1:10程度であることが好ましい。前記ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)系導電性高分子水溶液は、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)とポリスチレンスルホネート(PSS)の含量が約1.3重量%程度であり、ドイツのH.C.Stark社の商品名ベイトロン(Baytron)などがある。導電性高分子水溶液は、その他、ポリアニリンまたはポリピロールなどを使用することができるが、ポリアニリンの場合、緑色に着色しやすく、ポリピロールの場合、コーティング液への加工性がよくないという短所がある。
【0034】
前記アクリル系重合体と導電性高分子を溶解する溶媒は、前記アクリル系重合体とポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子を溶解するように、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール−2−エチルヘキシルエーテル及びイソプロピルアルコールの中から選択されたいずれか1つを含有したり、これらの混合物を含有するエーテル系またはアルコール系溶媒を含む。
【0035】
前記添加剤は、レベリングまたは平滑性の改善のために添加される表面調節用物質である。前記添加剤は、ポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリエステル変性ポリシロキサン、アクリル変性ポリシロキサンなどのポリシロキサンを主成分とする溶液またはポリアクリル系を主成分とする溶液などであることができる。このような添加剤製品には、BYK−Chemie社の商品名BYK−30.0などがある。前記添加剤は、前記オリゴマー、モノマーまたはオリゴマーとモノマーの混合物100重量部に対して0.1〜5重量部含有されることが好ましい。
【0036】
前記アクリル系高分子バインダーは、1.00〜50.0重量%、前記導電性高分子水溶液は、1.00〜90.0重量%、エーテル系またはアルコール系溶媒は、50.0〜98.0重量%含有され、前記導電性高分子は、前記導電性高分子水溶液に対しては0.01〜2.00重量%含有されている。帯電防止コーティング液組成物の固形分成分と溶媒成分の含量を見れば、帯電防止コーティング液組成物にアクリル系重合体が0.1〜20.0重量%含有され、ポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子は、0.010〜2.0重量%含有され、残りは、溶媒、重合開始剤、添加剤などが含有されて、その重量比率をなす。エーテル系またはアルコール系溶媒に溶解される溶質がよく分散されるようにするだけでなく、塗膜の形成時に基材との接着性がさらに良くなるようにするために、n−メチルピロリドンまたはジメチルホルムアミドが前記溶媒に含有されることができる。
【0037】
以下、高分子バインダー溶液及び帯電防止コーティング液組成物を製造する方法を説明する。
【0038】
反応器に重合反応のための芳香族またはエーテル系溶媒を装入し、少なくとも1つ以上のアクリル系モノマーと2シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)及び重合開始剤を前記反応器に滴下する。
【0039】
反応器の温度を適宜調節し、所定時間の間にアクリル共重合反応を行い、アクリル系重合体を形成する。粘度を調節するために、芳香族またはエーテル系溶媒を反応器に滴下する。この時、さらにアクリル共重合反応を行うために、重合開始剤を共に滴下することもできる。重合開始剤を添加し、さらにアクリル共重合反応を行った場合、所望の粘度を得るために、適切な量の芳香族またはエーテル系溶媒を滴下して、アクリル系重合体を含むアクリル系高分子バインダーを製造することができる。
【0040】
攪拌器にアクリル系重合体を含む前記アクリル系高分子バインダーを装入し、前記アクリル系重合体を溶解させるためのエーテル系またはアルコール系溶媒を前記攪拌器に投入した後、前記アクリル系重合体が十分に溶解されるように攪拌する。前記攪拌器にポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)系導電性高分子水溶液と、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)系導電性高分子を溶解させるためのエーテル系またはアルコール系溶媒を装入し、十分に攪拌する。この時、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)系導電性高分子の分散性を調節するするために、n−メチルピロリドン(NMP)またはジメチルホルムアミド(DMF)を添加して攪拌することもできる。かくして、エーテル系またはアルコール系溶媒にアクリル系重合体とポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)系導電性高分子がよく溶解され分散された帯電防止コーティング液組成物を製造するこることができる。
【0041】
[実施例1]アクリル系高分子バインダーの製造
100mlの4口フラスコ反応器に、まず、トルエン25gを装入し、反応器内の温度を105℃まで上げた後、メチルメタクリレート32g、n−ブチルアクリレート5g、メタクリル酸0.7g、シクロヘキシルメタクリレート5g、アゾビスイソブチロニトリル0.2gを混合した溶液を反応器に2時間滴下する。
【0042】
滴下を完了した後、反応器内の温度を110〜115℃に調整し、この温度で3時間アクリル共重合反応を行う。3時間後、トルエン4gとアゾビスイソブチロニトリル0.1gとの混合液を反応器に徐々に滴下し、さらにこの温度で1時間反応させる。反応後、反応器内の温度を90℃まで冷却し、トルエン31gを装入し、希釈させて、アクリル系高分子バインダーを製造した。この時、合成されたアクリル系重合体を含む高分子バインダーのTgは、73.4℃である。
【0043】
[比較例1]高分子バインダー溶液の製造
100mlの4口フラスコ反応器に、まず、トルエン25gを装入し、反応器内の温度を105℃まで上げた後、メチルメタクリレート28g、n−ブチルアクリレート9g、エチルアクリレート5g、メタクリル酸0.7g、アゾビスイソブチロニトリル0.2gを混合した溶液を反応器に2時間滴下する。
【0044】
上記の実施例1と同様に、滴下を完了した後、反応器内の温度を110〜115℃に調整し、この温度で3時間アクリル共重合反応を行う。3時間後、トルエン4gとアゾビスイソブチロニトリル0.1gとの混合液を反応器に徐々に滴下し、さらにこの温度で1時間反応させる。反応後、反応器内の温度を90℃まで冷却し、トルエン31gを装入し、希釈させて、高分子バインダーを製造した。この時、合成された高分子バインダーのTgは、39℃である。
【0045】
[比較例2]高分子バインダー溶液の製造
100mlの4口フラスコ反応器に、まず、トルエン25gを装入し、反応器内の温度を105℃まで上げた後、メチルメタクリレート32g、n−ブチルアクリレート4.5g、エチルメタクリレート5.5g、メタクリル酸0.7g、アゾビスイソブチロニトリル0.2gを混合した溶液を反応器に2時間滴下する。
【0046】
上記の実施例1と同様に、滴下を完了した後、反応器内の温度を110〜115℃に調整し、この温度で3時間アクリル共重合反応を行う。3時間後、トルエン4gとアゾビスイソブチロニトリル0.1gとの混合液を反応器に徐々に滴下し、さらにこの温度で1時間反応させる。反応後、反応器内の温度を90℃まで冷却し、トルエン31gを装入し、希釈させて、高分子バインダーを製造した。この時、合成された高分子バインダーのTgは、73.6℃である。
【0047】
【表1】

【0048】
[実施例2]帯電防止コーティング液組成物の製造
まず、実施例1で製造されたアクリル系高分子バインダーのうち3gを取り、150mlのビーカーに装入し、これにエチレングリコールモノエチルエーテル29.3gを投入し、よく溶解されるように十分に攪拌した。さらにこのビーカーにポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)とポリスチレンスルホネート(PSS)が1.3重量%含有された導電性高分子水溶液14g、エチレングリコールモノメチルエーテル19.5g、プロピレングリコールモノメチルエーテル32g、n−メチルピロリドン1.7g、添加剤であるBYK−300 0.5gを装入し、約30分間十分に攪拌して、帯電防止コーティング液組成物を製造した。ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホネートを含有する導電性高分子水溶液は、ポリエチレンジオキシチオフェン系の導電性高分子水溶液にポリスチレンスルホネートの高分子がドーパントとして添加された形態である。したがって、水によく分散される特徴を有すると共に、優れた熱的安定性及び大気安定性を期待することができる。
【0049】
本発明で使用した溶媒は、アクリル系重合体をよく溶解し、ポリエチレンジオキシチオフェン系の導電性高分子を溶媒内によく分散させて、その電気伝導性を効果的に示すために、エーテル系の溶媒であるエチレングリコールモノメチルエーテルとプロピレングリコールモノメチルエーテルを選択し、その他、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール−2−エチルヘキシルエーテルなどを使用してもよく、アルコール系溶媒をも使用可能である。そして、n−メチルピロリドン(NMP)は、前記導電性高分子水溶液の分散性を助け、基材との接着性を増進させるための溶媒として使われ、この溶媒の代わりにジメチルホルムアミド(DMF)を使用することもできる。
【0050】
[比較例3]帯電防止コーティング液組成物の製造
帯電防止コーティング液組成物の比較例であって、高分子バインダー溶液として比較例1によって製造されたものを使用し、その他、実施例2と同様の方法で帯電防止コーティング液組成物を製造した。
【0051】
[比較例4]帯電防止コーティング液組成物の製造
帯電防止コーティング液組成物の他の比較例であって、高分子バインダー溶液として比較例2によって製造されたものを使用し、その他、実施例2と同様の方法で帯電防止コーティング液組成物を製造した。
【0052】
[実施例3]透明な帯電防止コーティング塗膜の形成
実施例2、比較例3及び比較例4によって製造した帯電防止コーティング液組成物を基材のサイズが20cm×20cmである3個のPETフィルム上に湿った塗膜の厚さが16μmになるようにバーコーター#7でコーティングした後、塗膜の乾燥条件で80℃で2分間熱乾燥てし、透明な帯電防止コーティング塗膜を形成した。
【0053】
【表2】

【0054】
表2は、実施例2、比較例3及び比較例4により製造した帯電防止コーティング液組成物を20cm×20cmサイズのPETフィルム上に実施例3で提示した方法でコーティングして形成した透明な帯電防止コーティング塗膜の表面抵抗、光透過率、表面硬度、基材との付着性及び湿熱耐久性に対する測定結果を示すものである。
【0055】
ここで、表面抵抗は、ASTM D−257に準してモンロエレクトロニクスモデル272抵抗計(Monroe Electronics Model 272 Resistivity meter)を使用して測定し、光透過率及びヘイズは、KS M ISO 13468−1に準して日本電飾(Nippon DENSHOKU)社のNDA−30.0Aヘイズメートルを使用して測定した。表面硬度は、JIS K5401に準して鉛筆硬度測定法で測定した。そして、基材との付着性は、KS M5981規格によってクロスカッターを使用して表面を十字にカッティングした後、OPP(Oriented Poly Propylene)テープで付着して剥離されずに残っている程度を全体面積の百分率で定量化した。湿熱耐久性は、恒温恒湿チャンバー内で60℃、90%相対湿度(RH)、500時間(hr)の間に放置した後、取り出し、上記の測定法に準して各々の表面抵抗、ヘイズ及び基材との付着性を評価して判断した。
【0056】
表2を参考すれば、比較例3及び比較例4により製造した帯電防止コーティング液組成物を使用して透明な帯電防止コーティング塗膜を形成した場合には、恒温恒湿チャンバーで放置して湿熱耐久性テストをした結果、表面抵抗及びヘイズ値が大きく上昇した。これに対し、実施例2により製造した帯電防止コーティング液組成物を使用して透明な帯電防止コーティング塗膜を形成した場合には、表面抵抗値及びヘイズは、微小に増加し、基材との付着性も優れていることが分かる。
【0057】
以上、本発明の好ましい実施例により詳細に説明したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で当分野において通常の知識を有する者によって様々な変形が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのアクリル系モノマーと、下記の化学式1を有するシクロヘキシルメタクリレートとが共重合反応されて形成されたアクリル系重合体と、
ポリエチレンジオキシチオフェンを含むポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子と、
前記アクリル系重合体及び前記導電性高分子を溶解させるためのエーテル系またはアルコール系溶媒と、を含み、
前記エーテル系またはアルコール系溶媒に前記アクリル系重合体及び前記導電性高分子が溶解されて組成物をなし、前記シクロヘキシルメタクリレートが前記アクリル系モノマーの含量に対して1〜30重量%の割合で前記アクリル系重合体に含有されていることを特徴とする帯電防止コーティング液組成物。
【化1】

【請求項2】
湿熱耐久性を考慮して前記アクリル系重合体のガラス転移温度Tgは、少なくとも70℃であることを特徴とする請求項1に記載の帯電防止コーティング液組成物。
【請求項3】
コーティング塗膜表面のレベリングまたは平滑性の向上のためにポリシロキサンまたはポリアクリルを主成分とする添加剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の帯電防止コーティング液組成物。
【請求項4】
前記組成物に、前記アクリル系重合体が0.1〜20.0重量%含有され、前記ポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子が0.010〜2.0重量%含有されていることを特徴とする請求項1に記載の帯電防止コーティング液組成物。
【請求項5】
前記ポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子は、ポリスチレンスルホネートを含有し、前記ポリエチレンジオキシチオフェン及び前記ポリスチレンスルホネートの含量比率(ポリエチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルホネートの比率)は、1:5乃至1:10範囲であることを特徴とする請求項1に記載の帯電防止コーティング液組成物。
【請求項6】
前記アクリル系モノマーは、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、メタクリル酸、イソプロピルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート及びアクリル酸の中から選択された少なくともいずれか1つであることを特徴とする請求項1に記載の帯電防止コーティング液組成物。
【請求項7】
重合反応のための芳香族またはエーテル系溶媒と、少なくとも1つのアクリル系モノマーと、下記の化学式2を有するシクロヘキシルメタクリレート(CHMA)及び重合開始剤を反応器に滴下する段階と、
前記反応器の温度を適宜調節しながら前記アクリル系モノマーと前記シクロヘキシルメタクリレートとをアクリル共重合反応させて、アクリル系重合体を形成する段階と、
前記アクリル系重合体を溶解させるためのエーテル系またはアルコール系溶媒と、前記アクリル系重合体を攪拌器に投入した後、前記アクリル系重合体が溶解されるように攪拌する段階と、
前記攪拌器にポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子を装入して攪拌し、エーテル系またはアルコール系溶媒にポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子が溶解されて分散された帯電防止コーティング液組成物を得る段階と、を含み、
前記シクロヘキシルメタクリレートは、前記アクリル系モノマーの含量に対して1〜30重量%の割合で前記反応器に滴下することを特徴とする帯電防止コーティング液組成物の製造方法。
【化2】

【請求項8】
前記ポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子の分散性を調節するために、n−メチルピロリドンまたはジメチルホルムアミドを前記攪拌器に添加して攪拌することを特徴とする請求項7に記載の帯電防止コーティング液組成物の製造方法。
【請求項9】
湿熱耐久性を考慮して前記アクリル系重合体のガラス転移温度Tgが少なくても70℃になるように、前記シクロヘキシルメタクリレートに対して前記アクリル系モノマーの種類と含量を調節して前記反応器に滴下することを特徴とする請求項7に記載の帯電防止コーティング液組成物の製造方法。
【請求項10】
コーティング塗膜表面のレベリングまたは平滑性の向上のためにポリシロキサンまたはポリアクリルを主成分とする添加剤を前記攪拌器に装入して攪拌することを特徴とする請求項7に記載の帯電防止コーティング液組成物の製造方法。
【請求項11】
前記アクリル系重合体は、前記帯電防止コーティング液組成物の0.1〜20.0重量%含有されるように前記攪拌器に投入され、前記ポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子は、前記帯電防止コーティング液組成物の0.010〜2.0重量%含有されるように前記攪拌器に投入されることを特徴とする請求項7に記載の帯電防止コーティング液組成物の製造方法。
【請求項12】
前記ポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子は、ポリスチレンスルホネートを含有し、前記ポリエチレンジオキシチオフェン及び前記ポリスチレンスルホネートの含量比率(ポリエチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルホネートの比率)は、1:5乃至1:10範囲であることを特徴とする請求項7に記載の帯電防止コーティング液組成物の製造方法。
【請求項13】
前記アクリル系モノマーは、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、メタクリル酸、イソプロピルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート及びアクリル酸の中から選択された少なくともいずれか1つであることを特徴とする請求項7に記載の帯電防止コーティング液組成物の製造方法。
【請求項14】
少なくとも1つのアクリル系モノマーと、下記の化学式3を有するシクロヘキシルメタクリレートとが共重合反応されて形成されたアクリル系重合体と、
ポリエチレンジオキシチオフェンを含むポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子と、
前記アクリル系重合体及び前記導電性高分子を溶解させるためのエーテル系またはアルコール系溶媒と、を含み、
前記エーテル系またはアルコール系溶媒に前記アクリル系重合体及び前記導電性高分子が溶解されて組成物をなし、前記シクロヘキシルメタクリレートが前記アクリル系モノマーの含量に対して1〜30重量%の割合で前記アクリル系重合体に含有されている請求項1に記載の帯電防止コーティング液組成物がコーティングされて形成されたコーティング塗膜を有する帯電防止コーティングフィルム。
【化3】

【請求項15】
前記コーティング塗膜は、透明であり且つ導電性であり、光透過率が少なくとも85%であることを特徴とする請求項14に記載の帯電防止コーティングフィルム。
【請求項16】
湿熱耐久性を考慮して前記アクリル系重合体のガラス転移温度Tgは、少なくとも70℃であることを特徴とする請求項14に記載の帯電防止コーティングフィルム。
【請求項17】
前記帯電防止コーティング液組成物には、コーティング塗膜表面のレベリングまたは平滑性の向上のためにポリシロキサンまたはポリアクリルを主成分とする添加剤を前記帯電防止コーティング液組成物にさらに含むことを特徴とする請求項14に記載の帯電防止コーティングフィルム。
【請求項18】
前記組成物に、前記アクリル系重合体が0.1〜20.0重量%含有され、前記ポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子が0.010〜2.0重量%含有されていることを特徴とする請求項14に記載の帯電防止コーティングフィルム。
【請求項19】
前記ポリエチレンジオキシチオフェン系導電性高分子は、ポリスチレンスルホネートを含有し、前記ポリエチレンジオキシチオフェンと前記ポリスチレンスルホネートの含量比率(ポリエチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルホネートの比率)は、1:5乃至1:10範囲であることを特徴とする請求項14に記載の帯電防止コーティングフィルム。
【請求項20】
前記アクリル系モノマーは、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、メタクリル酸、イソプロピルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート及びアクリル酸の中から選択された少なくともいずれか1つであることを特徴とする請求項14に記載の帯電防止コーティングフィルム。

【公開番号】特開2008−255332(P2008−255332A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28742(P2008−28742)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(508042261)ダエハ マンテック シーオー エルティディ (1)
【出願人】(500242384)出光テクノファイン株式会社 (55)
【Fターム(参考)】