説明

帯電防止ハードコート塗材及び光学部材

【課題】 前記課題に着目してなされたものであり、高い帯電防止性と高い光線透過率の両方を兼ね備えたハードコート膜を形成できる帯電防止ハードコート塗材を提供すること
【解決手段】 (メタ)アクリロイル基を分子中に3個以上有する化合物を50重量%以上含有する組成物と光重合開始剤とを必須成分とする活性エネルギー線硬化型樹脂組成物と粒子表面を加水分解性有機ケイ素化合物で処理した導電性を有する金属酸化物微粒子とを必須成分とする帯電防止ハードコート塗材であって、前記(メタ)アクリロイル基を分子中に3個以上有する化合物を50重量%以上含有する組成物の酸価が0.01〜0.5mgKOH/gであることを特徴とする帯電防止ハードコート塗材、該帯電防止ハードコート塗材を基材に塗布した光学部材

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い帯電防止性を有し、かつ透明性、表面硬度、密着性などに優れたハードーコート膜を得ることが出来る帯電防止ハードコート塗材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にプラスティックやフィルムのような高分子材料やガラスは、絶縁特性に優れる一方、帯電しやすいという特性を有する。その為、これらの材料を用いた製品は、表面に埃等の付着による汚れが目立つ場合があった。また、これらの材料を使用した精密機械においては、この材料に起因する帯電により、障害が発生するという問題があった。
【0003】
この問題を解消するために、高分子材料やガラスが用いられた製品には(メタ)アクリル系樹脂に帯電防止剤を混合したハードコート層を設けることにより、帯電防止性を付与させる手法がなされてきた。帯電防止剤として、金属酸化物粒子を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、前記金属酸化物粒子を用いた場合、必要とする添加量が多く、透明性、光線透過率が低くなる場合があった。
【0004】
また、金属酸化物を硬化物中で偏在化させて透明性を高めた提案もされている(例えば、特許文献2参照。)。該技術では、成形後が帯電防止性が経時変化したり、フリンジ(基材と塗膜の界面および塗膜と空気層の界面における光の干渉により虹模様の干渉縞が生じ、フィルムの視認性を妨げられること)という問題があった
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−294100
【特許文献2】特開2007−023107
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、前記課題に着目してなされたものであり、高い帯電防止性と高い光線透過率の両方を兼ね備えたハードコート膜を形成できる帯電防止ハードコート塗材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記の課題を改善するため鋭意検討の結果、1分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量体を含有する活性エネルギー硬化型樹脂組成物と特定の金属酸化物微粒子を必須成分とする塗材が、前記の課題を解決することを見出し発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、(メタ)アクリロイル基を分子中に3個以上有する化合物を50重量%以上含有する組成物と光重合開始剤とを必須成分とする活性エネルギー線硬化型樹脂組成物と粒子表面を加水分解性有機ケイ素化合物で処理した導電性を有する金属酸化物微粒子とを必須成分とする帯電防止ハードコート塗材であって、前記(メタ)アクリロイル基を分子中に3個以上有する化合物を50重量%以上含有する組成物の酸価が0.01〜0.5mgKOH/gであることを特徴とする帯電防止ハードコート塗材、該帯電防止ハードコート塗材を基材に塗布した光学部材を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い帯電防止能を有し、且つ高い光線透過したハードコート層を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明に用いる活性エネルギー硬化型樹脂組成物は、重合性単量体中に、(メタ)アクリロイル基を分子中に3個以上有する化合物を50重量%以上含有するものである。前記(メタ)アクリロイル基を分子中に3個以上有する化合物が50重量%未満の場合は、得られるハードコート層の帯電防止性表面抵抗値が低くならず好ましくない。
【0011】
前記(メタ)アクリロイル基を分子中に3個以上有する化合物としては、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0012】
また、(メタ)アクリロイル基を分子中に3個以上有する化合物を重合性単量体中の50重量%であれば、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートとの混合物やジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートとジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートとジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートとの混合物類を用いても良い。
【0013】
前記の(メタ)アクリロイル基を分子中に3個以上有する化合物の中でも、1分子中に(メタ)アクリロイル基を4個持つ化合物、5個持つ化合物、及び、6個持つ化合物を合計で80重量%以上含有する組成物が好ましい。
【0014】
更に、本発明に用いる活性エネルギー硬化型樹脂組成物には、前記以外のその他の重合性単量体を併用できる。これらの単量体の例としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート類、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、メタクリル酸アリル、フタル酸ジアリル、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリンジアリルエーテル、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート等の多官能不飽和単量体類、ビスフェノキシエタノールフルオレンジアクリレート、2−プロペノイックアシッド[5,5’−(9−フルオレン−9−イリデン)ビス(1,1’−ビフェニル)−2−(ポリオキシエチレン)エステル]、2−プロペノイックアシッド[5,5’−4−(1,1’ビフェニリル)メチレンビス(1,1’−ビフェニル)−2−(ポリオキシエチレン)エステル]等の芳香環及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物類、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜30のアルキル(メタ)アクリレート類のアクリル系不飽和単量体類等が挙げられる。
【0015】
更に、例えば、カルボキシル基と重合性炭素炭素二重結合とを有する化合物を重合性単量体中のの0.01〜5重量%程度添加すると、得られたハードコート層の表面抵抗値が低下することから好ましい。前記カルボキシル基と重合性炭素炭素二重結合とを有する化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、フマル酸、イタコン酸、ムコン酸、無水マレイン酸とモノアルコールとのハーフエステル類、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートやペンタエリスリトールトリアクリレート等の水酸基を有するアクリレート類中の水酸基の一部がアクリル酸の炭素−炭素二重結合に付加した化合物、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートやペンタエリスリトールトリアクリレート等の水酸基を有するアクリレート類中の水酸基とジカルボン酸もしくは無水カルボン酸とが反応した化合物が挙げられる。
【0016】
(メタ)アクリロイル基を分子中に3個以上有する化合物を50重量%以上含有する組成物の酸価としては、0.01〜0.5mgKOH/gであることが必要である。なお、前記(メタ)アクリロイル基を分子中に3個以上有する化合物を50重量%以上含有する組成物の酸価が上記の範囲を外れると、酸価が低いと表面抵抗値が高くなったり、酸価が高いと塗液の安定性が悪くなったりして好ましくない。これらの値は、JIS K0070(化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法)により、指示薬にブロモチモールブルーを用いて測定した。
【0017】
本発明に用いる活性エネルギー硬化型樹脂組成物中に含有する光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン誘導体、ベンジルケタール類、α−ヒドロキシアセトフェノン類、α−アミノアセトフェノン類、アシルフォスフィンオキサイド類、o−アシルオキシム類等が挙げられる。また、光重合開始剤は、種々の製品が市販されている。具体例としては、ベンゾフェノン/アミン、ミヒラーケトン/ベンゾフェノン、チオキサントン/アミンなどの組み合わせ(商品名:イルガキュアやダロキュアなど、チバガイギー社製)等が挙げられる。
【0018】
本発明に用いる活性エネルギー硬化型樹脂組成物には、必要に応じて有機溶媒を用いることができる。前記有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール類、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類などを挙げられる。これらの中でも、親水性の溶媒が、塗材を塗工する際に、空気中の水分を吸収した際に、白化しにくいことから好ましく、25℃における水の溶解度が、5g(水)/100g(ケトン)以上である、水溶性ケトン類が好ましく、特にメチルエチルケトンとアセトンが好ましい。
【0019】
一般的に基材に対し透明塗膜を塗布したフィルムの場合、基材と塗膜の界面および塗膜と空気層の界面における光の干渉により虹模様の干渉縞が生じ、フィルムの視認性を妨げることがある(フリンジ)。このとき、基材への浸食が強い溶剤を使用することで基材と塗膜の界面が荒らされることで界面で反射する光が乱れ、干渉を防ぐことができ、結果として干渉縞を低減することができる。このとき使用する溶剤としては、トリアセチルセルロースフィルムを浸食・膨潤しやすい、エステル類、およびケトン類が好ましく、特に酢酸メチル、ジメチルカーボネート、メチルエチルケトン、アセトンが好ましい。
【0020】
本発明で用いる粒子表面を加水分解性有機ケイ素化合物で処理した導電性を有する金属酸化物微粒子としては、導電性を有していれば特に限定されないが、例えば、酸化錫、アンチモン、フッ素またはリンがドーピングされた酸化錫、酸化インジウム、スズまたはフッ素がドーピングされた酸化インジウム、酸化アンチモン、低次酸化チタン等が挙げられ、特に、アンチモンがドーピングされた酸化錫、アンチモンがドーピングされた酸化インジウムが好ましい。なお、以後、前記粒子表面を加水分解性有機ケイ素化合物で処理した導電性を有する金属酸化物微粒子は、単に導電性を有する金属酸化物微粒子と略記する。
【0021】
また、ハードコートフィルムには光の反射による映り込み防止のため、反射防止層(低反射層)を上層に塗布する場合がある。このとき、ハードコート層中に上記のような屈折率が高い金属微粒子を含有することにより、反射率を効率的に低減でき、映り込みを防止することができる。
【0022】
前記金属酸化物は、微粒子として使用し該微粒子の平均粒子径は2〜50nm、更に5〜40nmの範囲にあることが好ましく、特に、4〜10nmであることが好ましい。また、これらの金属酸化物の微粒子は、2〜10個の鎖状で連結していることが好ましい。微粒子の平均粒子径が小さすぎると、導電性を有する金属酸化物微粒子が粒状に凝集しやすく、鎖状の導電性を有する金属酸化物微粒子を得るのが困難となることがある。導電性を有する金属酸化物微粒子の平均粒子径が大きすぎると、これを用いて得られる被膜の透明性が低下したり、ヘーズが高くなる等の問題があり、また導電性微粒子が連結しにくくなるためか、鎖状導電性微粒子を得ることが困難である。
【0023】
また、加水分解性有機ケイ素化合物で処理する方法における、加水分解性有機ケイ素化合物としては、例えば、下記一般式(1)で表される構造の化合物が挙げられる。
【0024】
【化1】

【0025】
(式中、R1およびR2は、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基から選ばれる炭素数1〜10の有機基を表す。aは0〜3の整数である。)
前記一般式(1)において、R1としては、ビニル基、アクリル基、炭素数1〜8のアルキル基などが挙げられる。また、R2としては、水素原子、ビニル基、アリール基、アクリル基、炭素数1〜8のアルキル基、−CH2OCn2n+1(n=1〜4)などが挙げられる。
【0026】
次いで、粒子表面を加水分解性有機ケイ素化合物で処理した金属酸化物微粒子の調製方法について説明する。
【0027】
本発明で用いる金属酸化物は微粒子水分散液として用いる。下記に、該分散液の調製方法について説明する。
【0028】
(i)分散液の調製
まず、前記金属酸化物の微粒子の水分散液を調製する。このときの金属酸化物の微粒子水分散液の濃度は特に制限はないが、通常1〜40重量%の範囲、好ましくは10〜40重量%の範囲である。
【0029】
ついで、金属酸化物の微粒子水分散液のpHを2〜5、好ましくは2.5〜4に調整する。pHを調整する方法としては、イオン交換樹脂を用いたイオン交換処理が好ましい。さらに必要に応じて酸の添加を行ってもよい。
【0030】
イオン交換樹脂としては、H型カチオン交換樹脂が好ましい。イオン交換処理によって、pHが酸性にシフトする。なお、イオン交換樹脂処理だけでは、pHが充分低くならないことがあるので、必要に応じて酸を添加することが好ましい。
【0031】
なお、イオン交換処理を行わずに、酸のみを添加してもpHは前記範囲に調整できる。イオン交換処理を行えば、脱イオンもされるので鎖状に配向し易くなる。金属酸化物の微粒子水分散液のpHを低くしすぎると、金属酸化物の微粒子の凝集が起こるようになり、加水分解性有機珪素化合物を加えた際に球状凝集粒子が得られ、鎖状の導電性微粒子を得にくくなる。前記水分散液のpHが高いと、金属酸化物の微粒子の連結(鎖状化)が起こりにくく、連結が起きたとしても連結数が少なく、平均連結数が2未満となり、本願発明の連結導電性微粒子を用いる効果が充分に得られず、すなわち耐擦傷性に優れ、かつヘーズが低く帯電防止性能に優れた導電性被膜が得られないことがある。
【0032】
前記pH調整後の導電性を有する金属酸化物微粒子の水分散液の固形分濃度を、濃縮または希釈により10〜40重量%、好適には15〜35重量%に調整する。濃縮および希釈する方法としては、種々の方法を特に制限なく採用することができる。
【0033】
導電性微粒子水分散液の固形分濃度が低すぎると、導電性微粒子の連結(鎖状化)が起こりにくく、連結が起きたとしても連結数が少なく、(平均連結数が3未満となり)、導電性を有する金属酸化物微粒子を用いる効果が充分得られないことがある。このため、耐擦傷性に優れ、かつヘーズが低く帯電防止性能に優れた導電性被膜が得られないことがある。導電性を有する金属酸化物微粒子の水分散液の固形分濃度が高すぎると、分散液の粘度が高く、撹拌による混合が不充分となり、後述する加水解性有機珪素化合物を導電性微粒子に均一に吸着させることが困難となることがある。
【0034】
(ii)有機ケイ素化合物の添加
ついで、濃度調整した導電性を有する金属酸化物微粒子の水分散液に前記一般式(1)で表される加水分解性有機珪素化合物を加える。このような加水分解性有機珪素化合物として、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリプロポキシシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(β−グリシドキシエトキシ)プロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシまたはトリアシルオキシシラン類、およびジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルフェニルジエトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミニプロピルメチルジメトキシシラン等のジアルコキシシランまたはジアシルシラン類またはトリメチルクロロシラン等が挙げられ、これらは単独または2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0035】
このような加水分解性有機珪素化合物の使用量は、加水分解性有機珪素化合物の種類、導電性微粒子の粒子径などによって異なるが、前記金属酸化物の微粒子と加水分解性有機珪素化合物との量比(加水分解性有機珪素化合物/導電性微粒子、重量比)が0.01〜0.5、さらには0.02〜0.3の範囲にあることが好ましい。
【0036】
前記導電性を有する金属酸化物の微粒子と加水分解性有機珪素化合物との量比が前記下限未満の場合は、鎖状に連結した粒子が、透明導電性被膜形成用塗布液中で元の導電性微粒子に戻ったり、連結を維持したとしても塗料中での分散性が不充分となることがある。また、この塗料は粘度が高く、経時安定性が悪くなることがある。このため、この塗料を用いて形成された透明導電性被膜はヘーズが高く、帯電防止性能が不充分となることがある。
【0037】
前記導電性金属酸化物の微粒子と加水分解性有機珪素化合物との量比が前記上限を超えると、得られる鎖状導電性微粒子の表面が加水分解性有機珪素化合物の加水分解物で厚く被覆されるようになり、導電性が低下することがある。
【0038】
前記加水分解性有機珪素化合物が、前記一般式(1)におけるaが0または1の有機珪素化合物を使用することが好ましい。aが0の加水分解性有機珪素化合物は導電性微粒子の連結を維持することに有効であり、aが1の加水分解性有機珪素化合物は鎖状導電性微粒子の塗料中での分散性を向上することに有効である。前記一般式(1)におけるaが2以上の加水分解性有機珪素化合物は加水分解速度が遅く、また導電性微粒子の種類によっては加水分解性有機珪素化合物との結合が不充分となり、このため得られる鎖状導電性微粒子の分散性の向上が不充分となることがある。
【0039】
前記一般式(1)におけるaが0およびaが1の有機珪素化合物を併用することが望ましい。前記一般式(1)におけるaが0(四官能)およびaが1(三官能)の有機珪素化合物を併用する場合、有機珪素化合物の添加量は合計量が前記した範囲となるようにすることが好ましい。各有機珪素化合物の添加量としては、四官能有機珪素化合物/三官能有機珪素化合物(モル比)が80/20〜20/80、好ましくは70/30〜30/70の範囲にあることが望ましい。このような範囲にあれば、上記した量で、効率的に鎖状導電性微粒子を調製できる。なお、四官能有機珪素化合物が多すぎると、粒子が鎖状とならずに固まりに凝固することがあり、三官能有機珪素化合物が多すぎると鎖状粒子を構成する際に、分散液中にゲルを生成してしまうことがある。
【0040】
このように加水分解すると、強固に接合した鎖状導電性微粒子を調製することができる。その理由は明確ではないものの、粒子の接合部分は活性が高いので、aが0の化合物は吸着しやすく、また、加水分解しやすいので、アルコールの添加と同時に加水分解が進行すると考えられる。この場合、Si−OHが多く生成し、aが1の有機珪素化合物は、水への溶解度が低く、アルコールを加えることで、水に溶解して加水分解が進むため、先に粒子の接合部分に接着して加水分解したaが0の有機珪素化合物のSi−OHに、後からaが1の有機珪素化合物が反応すると考えられる。
【0041】
したがって、aが0および1の有機珪素化合物を使用する場合、まず、aが0の有機珪素化合物を分散液に添加したのち、アルコールを添加するとともにaが1の有機珪素化合物を加えて加水分解することが好ましい。
【0042】
ついで、アルコールを加えて希釈し、固形分濃度(有機珪素化合物を含む全固形分、有機珪素化合物はシリカ換算)が3〜30重量%、さらには5〜25重量%の範囲となるように調整して、加水分解性有機珪素化合物の加水分解を行う。
【0043】
アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール等が挙げられる。なお、このようなアルコールの他にエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の有機溶媒を混合して用いることもできる。
【0044】
加水分解する際の温度は30〜使用溶媒の沸点(概ね100℃)、さらには40℃〜使用溶媒の沸点の範囲とすることが好ましい。加水分解温度が低い場合、加水分解性有機珪素化合物の種類によっても異なるが、加水分解時間に長時間を要したり、一部の加水分解性有機珪素化合が残存することがある。温度が高すぎると、粒子の安定性が悪くなり凝集が起こりやすくなる。
【0045】
なお、必要に応じて加水分解触媒として酸を加えてもよい。酸としては、塩酸、硝酸、酢酸、リン酸が挙げられる。
【0046】
本発明において、加水分解性有機珪素化合物を添加する場合、まず前記aが0の加水分解性有機珪素化合物にアルコールを加えて加水分解した後、室温に冷却し、必要に応じて再び前記アルコールを加え、ついで、前記aが1の加水分解性有機珪素化合物を加え、前記と同様の加水分解温度範囲に昇温し、加水分解することが望ましい。このようにすると、aが0の加水分解性有機珪素化合物の加水分解物によって鎖状導電性微粒子の連結を維持することに加え、aが1の加水分解性有機珪素化合物の加水分解物の鎖状導電性微粒子表面への結合が促進され、分散性に優れた鎖状導電性微粒子を得ることができる。
【0047】
このようにして得られた鎖状の導電性を有する金属酸化物微粒子は、平均連結数が3〜20、さらには5〜20の範囲にあることが好ましい。鎖状導電性微粒子の平均連結数が少ないものは、単分散粒子と何ら代わることがなく、導電性被膜の帯電防止性能が不充分となることがある。前記範囲を越えて平均連結数が多くすることは困難である。
【0048】
得られた鎖状導電性微粒子分散液は、そのまま透明導電性被膜形成用塗料の調製に用いることもできるが、必要に応じて洗浄あるいは脱イオン処理することができる。脱イオン処理等してイオン濃度を低下させると安定性に優れた鎖状導電性微粒子分散液を得ることができる。脱イオン処理は従来公知の陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、両イオン交換樹脂を用いて行うことができる。洗浄は、限外濾過膜法等を採用することもできる。
【0049】
さらに、得られた分散液は、必要に応じて溶媒置換して用いることができる。溶媒置換を行うと、後述する塗料用樹脂あるいは極性溶媒への分散性が向上し、塗工性等に優れ、得られる透明導電性被膜表面は平滑であり、筋条あるいはムラ等の外観上の欠陥が発生することがなく、耐擦傷性、ヘーズ、透明性、密着性等に優れ、透明導電性被膜付基材の製造信頼性等に優れた透明導電性被膜形成用塗料を得ることができる。
【0050】
さらに、得られた分散液は、必要に応じて水を添加して用いることができる。水添加を行うと、導電性微粒子の連結数が増加し、得られる透明導電性被膜の導電性は著しく向上でき、このような塗料を用いて基材上に透明導電性被膜を形成すると、概ね102〜1012Ω/□の表面抵抗値を有する透明導電性微粒子層を形成することができるので、帯電防止等に優れた透明導電性被膜付基材を得ることができる。
【0051】
前述のように、水を添加した場合、室温(概ね5〜35℃)中で、1〜48時間程度保存したほうが、帯電防止ハードコート塗材に添加して、帯電防止性の塗膜を形成した際に、表面抵抗値の低い塗膜を得ることができる。
【0052】
また、温度がより高い雰囲気で保存すると、分散液の粘度は上昇する場合がある。
【0053】
次に、本発明の帯電防止ハードコート塗材は、前記(メタ)アクリロイル基を分子中に4個以上有する化合物を60重量%以上含有する重合性単量体と光重合開始剤とを必須成分とする活性エネルギー硬化型樹脂組成物と粒子表面を加水分解性有機ケイ素化合物で処理した金属酸化物微粒子(導電性を有する金属酸化物微粒子)とを必須成分とするものである。
【0054】
本発明の帯電防止ハードコート塗材には、活性エネルギー硬化型樹脂組成物を溶解するとともに、容易に揮発しうる溶剤が含まれていてもよい。
【0055】
溶剤としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、イソプロピルグリコールなどのアルコール類;酢酸メチルエステル、酢酸エチルエステルなどのエステル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類;アセ
トン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、アセト酢酸エステルなどのケトン類などが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上混合して使用してもよい。また、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、トルエン、シクロヘキサノン、イソホロン等も用いることができる。
【0056】
塗材中の導電性を有する金属酸化物微粒子の濃度は、固形分として0.01〜20重量%、さらには1〜10重量%の範囲にあることが好ましい。この範囲にあれば、得られる被膜の帯電防止効果が高く、また、得られる被膜の透明性が低下したり、ヘーズが高くなることもない。また、塗料中の樹脂の濃度は、樹脂を固形分として1〜5重量%、さらには0.2〜39.6重量%の範囲にあることが好ましい。この範囲にあれば、基材との密着性が高く、また形成する透明導電性被膜の厚さを均一にすることができる。
【0057】
前記微粒子の濃度が前記範囲にあれば、被膜の厚さが薄すぎず厚すぎることもなく、充分な帯電防止性能の被膜を形成できるとともに、透明性にも優れ、ヘーズが低く、また被膜にクラックや基材に反りが生じることもない。さらに、塗料の粘度が高くならないので、塗工性に優れ、表面の平坦性が低下したり筋ムラが生じたりすることもない。
【0058】
本発明の帯電防止ハードコート塗材は、例えば、前記の各成分を、適当な混合装置、例えばホモミキサーなどを用いて、適当な溶媒に溶解すると共に、混合することによって調整することが出来る。溶媒は特に限定することはないが、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ダイアセトンアルコールなどのアルコール類、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセチルアセトンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類などを挙げることが出来る。これらの溶媒の中でも、ダイアセトンアルコール、シクロヘキサノン、或いはアセチルアセトンは、塗膜表面の平坦性が向上することから好ましい。また、帯電防止ハードコート塗材の固形分濃度としては、10〜70重量%が好ましく、35〜55重量%が更に好ましく、とくに45〜55重量%が好ましい。
【0059】
なお、鎖状の導電性を有する金属酸化物微粒子の分散液に少量の水を添加する場合は、前記の有機溶媒の中でも、水溶性を有する溶媒を用いることが好ましい。
【0060】
次いで、前記帯電防止ハードコート塗材を基材の表面に塗工し、好ましくは加熱して溶媒を除去した後、活性エネルギー線を照射することによってハードコート膜を形成することが出来る。
【0061】
塗工方式としては、例えばスロットコータ、スピンコータ、ロールコータ、カーテンコータ、スクリーン印刷等の従来の方式を挙げることができる。溶媒を除去する為の加熱温度や各工程の処理時間などは材料、溶媒の種類やハードコート膜の厚さなどによって適宣設定する。
【0062】
なお、ハードコート膜の厚さは、硬度(例えば、鉛筆硬度)の高い膜が得られることからわ.1μm以上が好ましく、膜にクラックが入りにくいことから50μmが好ましく、特に、5〜10μmが好ましい。また、膜厚を増加させるにつれて、表面抵抗値も低下させることできるので、表面抵抗値の調整のために膜厚を制御することもできる。
【0063】
本発明におけるハードコート膜を設ける物品(基材)は、特に限定せず、プラスティック、ガラス、金属等からなるものが挙げられる。また本発明においては、帯電防止性能と透明性の両方を備えたハードコート膜を提供できる為、光学部品やディスプレイなどに適用すると好適である。
【0064】
基材としては、特に限定はされないが、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、セルローストリアセテート、セルロースナイトレート、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロースエステル類またはそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、シクロオレフィンポリマー、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル樹脂あるいはポリアリレート樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂を混合して使用してもよい。この中で、セルロースエステル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、シクロオレフィンポリマー、ポリエステルなどが好ましい例として挙げられる。
前記の基材の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロースエステルフィルム、ポリカーボネート、シンジオタクティックポリスチレン、ポリアリレート、ノルボルネン樹脂系フィルム、例えばアートン(JSR(株)製)、ゼオネックス、ゼオノア(以上日本ゼオン(株)製)等が挙げられ、透明性、機械的性質、光学的異方性がない点等好ましく用いられる。特に、セルロースエステルを主成分とするフィルムであることが好ましい
【0065】
具体的には、例えばレンズ、ミラー、ゴーグル、窓ガラスや、液晶表示装置、CRT表示装置、プラズマ表示装置、エレクトロクロミック表示装置、発光ダイオード表示装置、EL表示装置などの各種ディスプレイの下面保護などに適用すると好ましい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に述べる。例中、%、部は特に断りがない限り重量基準である。
【0067】
製造例1
錫酸カリウム130gと酒石酸アンチモニルカリウム30gを純水400gに溶解した混合溶液を調製した。この調製した溶液を12時間かけて、60℃、攪拌下の硝酸アンモニウム1.0gと15%アンモニア水12gを溶解した純水1000g中に添加して加水
分解を行った。このとき10%硝酸溶液をpH9.0に保つよう同時に添加した。生成した沈殿物を濾別洗浄した後、再び水に分散させて固形分濃度20重量%のSbド−プ酸化錫前駆体の水酸化物分散液を調製した。この分散液を温度100℃で噴霧乾燥した。得られた粉体を空気雰囲気下、550℃で2時間加熱処理することによりアンチモンド−プ酸化錫粉末を得た。この粉末60部を濃度4.3重量%の水酸化カリウム水溶液140部に分散させ、分散液を30℃に保持しながらサンドミルで3時間粉砕してゾルを調製した。次に、このゾルをイオン交換樹脂でpHが3.0になるまで脱アルカリイオン処理を行
い、ついで、純水を加えて固形分濃度20重量%のアンチモンド−プ酸化スズ微粒子からなる導電性微粒子(1)分散液を調製した。この導電性微粒子(1)分散液のpHは3.3であった。また導電性微粒子(1)の平均粒子径は9nmであった。次いで、濃度20重量%の導電性微粒子(1)分散液100gを25℃に調整し、テトラエトキシシラン(多摩化学(株)製:正珪酸エチル、SiO2濃度28.8%)4.0gを3分で添加した後、30分攪拌を行った。その後エタノ−ル100部を1分かけて添加し、50℃に30分間で昇温、15時間加熱処理を行った。このときの固形分濃度は10%であった。次いで限外濾過膜にて分散媒の水、エタノ−ルをエタノ−ルに置換し、固形分濃度20%の、シリカで被覆した鎖状導電性微粒子(1)分散液を調製した。鎖状の導電性を有する金属酸化物微粒子(1)を構成する微粒子(1)の平均連結数は5個であった。なお、平均連結数は、鎖状導電性微粒子の透過型電子顕微鏡写真を撮影し、100個の鎖状導電性微粒子について、連結数を求め、この平均値を四捨五入して、平均連結数を求めた。
【0068】
製造例2
塩化錫57.7gと塩化アンチモン7.0gとをメタノ−ル100gに溶解して溶液を調製した。調整した溶液を4時間かけて60℃攪拌下の純水1,000gに添加して加水分解を行い、生成した沈殿物を濾別洗浄した後、再び水に分散させて固形分濃度10%のアンチモンド−プ酸化スズ前駆体の水酸化物分散液を調製した。この分散液を温度100℃で噴霧乾燥した。上記粉体を窒素ガス雰囲気下550℃で2時間加熱処理することによりSbド−プ酸化錫粉末を得た。この粉末60gを濃度4.3重量%の水酸化カリウム水溶液140gに分散させ、分散液を30℃に保持しながらサンドミルで3時間粉砕してゾルを調製した。次いで、このゾルをイオン交換樹脂でpHが3.3になるまで脱アルカリの処理を行い、純水を加えて濃度20重量%のSbド−プ酸化スズ微粒子からなる導電性を有する金属酸化物微粒子(2)分散液を調製した。この導電性微粒子(2)分散液のpHは3.8であった。また導電性を有する金属酸化物微粒子(2)の平均粒子径は25nmであった。次いで、濃度20重量%の導電性を有する金属酸化物微粒子(2)分散液100gを25℃に調整し、テトラエトキシシラン(多摩化学(株)製:正珪酸エチル、SiO2濃度28.8%)5.0gを3分で添加した後、30分攪拌を行った。その後エタノ−ル100gを1分かけて添加し、50℃に30分間で昇温、15時間加熱処理を行った。このときの固形分濃度は10%であった。次いで限外濾過膜にて分散媒の水、エタノ−ルをエタノ−ルに置換し、固形分濃度30%のシリカで被覆した鎖状導電性微粒子(2)分散液を調製した。なお、鎖状の導電性を有する金属酸化物微粒子(2)を構成する微粒子(2)の平均連結数は4個であった。
【0069】
製造例3
錫酸カリウム130部と酒石酸アンチモニルカリウム30部を純水400gに溶解した混合溶液を調製した。この調製した溶液を12時間かけて、60℃、攪拌下の硝酸アンモニウム1.0部と15%アンモニア水12部を溶解した純水1000部中に添加して加水
分解を行った。このとき10%硝酸溶液をpH9.0に保つよう同時に添加した。生成した沈殿物を濾別洗浄した後、再び水に分散させて固形分濃度20重量%のSbド−プ酸化錫前駆体の水酸化物分散液を調製した。
この分散液を温度100℃で噴霧乾燥した。得られた粉体を空気雰囲気下、550℃で2時間加熱処理することによりアンチモンド−プ酸化錫粉末を得た。
この粉末60部を濃度4.3重量%の水酸化カリウム水溶液140部に分散させ、分散
液を30℃に保持しながらサンドミルで3時間粉砕してゾルを調製した。
次に、このゾルをイオン交換樹脂でpHが3.0になるまで脱アルカリイオン処理を行
い、ついで、純水を加えて固形分濃度20重量%のアンチモンド−プ酸化スズ微粒子からなる導電性微粒子(1)分散液を調製した。この導電性を有する金属酸化物微粒子(3)分散液のpHは3.3であった。また導電性微粒子(3)の平均粒子径は10nmであった。次いで、濃度20重量%の導電性を有する金属酸化物微粒子(3)分散液100gを25℃に調整し、テトラエトキシシラン(多摩化学(株)製:正珪酸エチル、SiO濃度28.8%)4.0部を3分で添加した後、30分攪拌を行った。その後エタノ−ル100部を1分かけて添加し、50℃に30分間で昇温、15時間加熱処理を行った。このときの固形分濃度は10%であった。次いで限外濾過膜にて分散媒の水、エタノ−ルをエタノ−ルに置換し、固形分濃度20%のシリカで被覆した鎖状の導電性を有する金属酸化物微粒子(3)分散液を調製した。さらに得られた鎖状導電性微粒子分散液100gにメチルエチルケトン66.4部とイオン交換水7.4部をあらかじめ混合した液を混合し、た。なおこの時の鎖状導電性微粒子(3)を構成する導電性微粒子(3)の平均連結数は8個であった。
製造例4
テトラエトキシシランを添加しなかった以外は製造例1と同様にして、鎖状導電性微粒子(4)分散液を調製した。
【0070】
実施例1
紫外線硬化性樹脂組成物(1)〔ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(6A)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(5A)、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート(6A)の混合物、但し、重量比(6A)/(5A)/(4A)=64/17/19、固形分濃度100%。〕45.9部、メチルエチルケトン42.7部、光開始剤2.3部(チバスペシャリティ社製:イルガキュア184。固形分100%。)を十分混合して、製造例1で調製した鎖状の導電性を有する金属酸化物微粒子(1)分散液9.17部に混合して帯電防止ハードコート(A−1)塗材を調製した。これら紫外線硬化性樹脂組成物(1)の酸価は0.05mgKOH/gであった。得られた帯電防止ハードコート(A−1)の塗材外観を観察し、次いで、80μmのトリアセチルセルロース(富士フィルム(株)製)に、バーコーターで、膜厚6μmとなるように塗工し、60℃で2分間乾燥したのち、高圧水銀ランプで500mJ/cm2照射し、ハードコート層を形成した。得られたハードコート層について、塗膜外観の観察、表面抵抗値(ハードコート層形成直後、及び、23.1℃・48%RHで18時間放置後)、フリンジ及び粘度安定性の測定を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0071】
実施例2
紫外線硬化樹脂組成物(2)ペンタエリスリトールテトラアクリレート(4A)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(3A)、ペンタエリスリトールジアクリレート(2A)の混合物、但し、重量比(4A)/(3A)/(2A)=42/55/3、固形分濃度100%。)20.0部、紫外線硬化樹脂組成物(2)ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(6A)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(5A)、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート(4A)の混合物、但し、重量比(6A)/(5A)/(4A)=37/44/19、固形分濃度100%。)25.9部、メチルエチルケトン42.7部、光開始剤2.3部(チバスペシャリティ社製:イルガキュア184。固形分100%。)を十分混合して、調製した鎖状の導電性を有する金属酸化物微粒子(1)分散液(固形分20%。)9.17部と帯電防止ハードコート(A−2)塗材を調製した。これら紫外線硬化性樹脂組成物(2)の酸価は0.03mgKOH/gであった。次いで、実施例1と同様にしてハードコート層を形成し、塗膜外観の観察、表面抵抗値、フリンジ及び粘度安定性の測定を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0072】
実施例3〜5
実施例1中紫外線硬化性樹脂組成物(1)の代わりに、表1に示される紫外線硬化樹脂組成物(3)〜(5)を用いる以外は、実施例1と同様にして、帯電防止ハードコート(A−3)、(A−4)、(A−5)塗材を調製し、実施例1と同様にしてハードコート層を形成し、塗膜外観の観察、表面抵抗値、フリンジ及び粘度安定性の測定を行なった。得られた結果を表2に示す。これら紫外線硬化性樹脂組成物(3)〜(5)の酸価はそれぞれ、0.03、0.05、0.02mgKOH/gであった。
【0073】
実施例6
製造例2で調製した鎖状の導電性を有する金属酸化物微粒子(2)分散液を、前記微粒子(1)分散液の代わりに用いた以外は、実施例1と同様にして、ハードコート塗材(A−6)を調製し、次いでハードコート層を形成し、塗膜外観の観察、表面抵抗値、フリンジ及び粘度安定性の測定を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0074】
実施例7
鎖状導電性微粒子(1)分散液の代わりに、鎖状の導電性を有する金属酸化物微粒子(3)分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、ハードコート塗材(A−7)を調製し、ハードコート層を形成し塗膜外観の観察、表面抵抗値、フリンジ及び粘度安定性の測定を行なった。
実施例8
実施例3で用いた紫外線硬化樹脂組成物(3)に、更に、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートのアクリル酸付加物(該化合物の水酸基の0.5mol%付加したもの)1重量部を添加した紫外線硬化樹脂組成物(8)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ハードコート塗材(A−8)を調製し、次いでハードコート層を形成し、塗膜外観の観察、表面抵抗値、フリンジ及び粘度安定性の測定を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0075】
これら紫外線硬化性樹脂組成物の酸価は、0.3mgKOH/gであった。
【0076】
実施例9 (アセトンを使用した実施例)
紫外線硬化性樹脂組成物(1)〔ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(6A)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(5A)、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート(6A)の混合物、但し、重量比(6A)/(5A)/(4A)=64/17/19、固形分濃度100%。〕45.9部、メチルエチルケトン20.0部、アセトン22.7部、光開始剤2.3部(チバスペシャリティ社製:イルガキュア184。固形分100%。)を十分混合して、製造例1で調製した鎖状の導電性を有する金属酸化物微粒子(1)分散液9.17部に混合して帯電防止ハードコート(A−9)塗材を調製した。得られた帯電防止ハードコート(A−9)の塗材外観を観察し、次いで、80μmのトリアセチルセルロース(富士フィルム(株)製)に、バーコーターで、膜厚6μmとなるように塗工し、60℃で2分間乾燥したのち、高圧水銀ランプで500mJ/cm照射し、ハードコート層を形成した。得られたハードコート層について、塗膜外観の観察、表面抵抗値、フリンジ及び粘度安定性の測定を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0077】
実施例10 (水を使用した実施例)
紫外線硬化性樹脂組成物(1)〔ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(6A)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(5A)、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート(6A)の混合物、但し、重量比(6A)/(5A)/(4A)=64/17/19、固形分濃度100%。〕45.9部、メチルエチルケトン20.0部、アセトン22.7部、精製水0.5部、光開始剤2.3部(チバスペシャリティ社製:イルガキュア184。固形分100%。)を十分混合して、製造例1で調製した鎖状の導電性を有する金属酸化物微粒子(1)分散液9.17部に混合して帯電防止ハードコート(A−10)塗材を調製した。得られた帯電防止ハードコート(A−10)の塗材外観を観察し、次いで、80μmのトリアセチルセルロース(富士フィルム(株)製)に、バーコーターで、膜厚6μmとなるように塗工し、60℃で2分間乾燥したのち、高圧水銀ランプを500mJ/cm照射し、ハードコート層を形成した。得られたハードコート層について、塗膜外観の観察、表面抵抗値、フリンジ及び粘度安定性の測定を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0078】
比較例1
実施例1中紫外線硬化性樹脂組成物(1)の代わりに、〔ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(6A)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(5A)、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート(6A)の混合物、但し、重量比(6A)/(5A)/(4A)=62/19/19、固形分濃度100%。〕45.9部、メチルエチルケトン42.7部、光開始剤2.3部(チバスペシャリティ社製:イルガキュア184。固形分100%。)を十分混合して、製造例1で調製した鎖状の導電性を有する金属酸化物微粒子(1)分散液9.17部に混合して帯電防止ハードコート(A−1)塗材を調製した。これら紫外線硬化性樹脂組成物の酸価は0.008mgKOH/gであった。得られた帯電防止ハードコート(A−1)の塗材外観を観察し、次いで、80μmのトリアセチルセルロース(富士フィルム(株)製)に、バーコーターで、膜厚6μmとなるように塗工し、60℃で2分間乾燥したのち、高圧水銀ランプで500mJ/cm照射し、ハードコート層を形成した。得られたハードコート層について、塗膜外観の観察、表面抵抗値、フリンジ及び粘度安定性の測定を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0079】
比較例2
鎖状導電性微粒子(1)分散液の代わりに、連結していない25nmの金属酸化物微粒子(アンチモンド−プ酸化スズ)の粉末を用いた以外は、比較例1と同様に紫外線硬化性樹脂組成物を調整し、ハードコート層を形成して、塗膜外観の観察、表面抵抗値、フリンジ及び粘度安定性の測定を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0080】
比較例3
連結していない25nmの金属酸化物微粒子(アンチモンド−プ酸化スズ)の粉末を組成物中の30重量%となるように添加した以外は、比較例1と同様に紫外線硬化性樹脂組成物を調製し、ハードコート層を形成して、塗膜外観の観察、表面抵抗値、フリンジ及び粘度安定性の測定を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0081】
比較例4
鎖状導電性微粒子(1)分散液の代わりに、金属酸化物微粒子(4)分散液を用いた以外は、比較例1と同様に紫外線硬化性樹脂組成物を調製し、ハードコート層を形成して、塗膜外観の観察、表面抵抗値、フリンジ及び粘度安定性の測定を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0082】
比較例5
メチルエチルケトンの代わりにエタノールを用いた以外は、比較例1と同様にして、ハードコート塗材を調製し、次いでハードコート層を形成し、塗膜外観の観察、表面抵抗値、フリンジ及び粘度安定性の測定を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0083】
比較例6
実施例3で用いた紫外線硬化樹脂組成物(3)に、更に、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートのアクリル酸付加物(該化合物の水酸基の0.5mol%付加したもの)6重量部を添加した紫外線硬化樹脂組成物(8)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ハードコート塗材を調製し、次いでハードコート層を形成し、塗膜外観の観察、表面抵抗値、フリンジ及び粘度安定性の測定を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0084】
これら紫外線硬化性樹脂組成物の酸価は、1.6mgKOH/gであった。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

【0088】
【表4】

【0089】
前記塗膜の透明性は、下記の基準で行なった。
○;全光線透過率が90%超
△;全光線透過率が90%以下
【0090】
塗膜外観の観察は、下記の基準で行なった。
【0091】
○;ブツなし
△;ブツあり
【0092】
表面抵抗値の測定は、ADVANTEST(株)製のデジタル超高抵抗/微少電流計(型番:R8340A)を用いて行なった。
フリンジは、塗膜の目視観察により、虹ムラの有無を確認した。
○;フリンジなし
×;フリンジあり
【0093】
粘度安定性は、E型粘度計(東機産業TV−20型)を用いて25℃で測定し、40℃24h後の粘度と初期粘度を比較した。
○:40℃24h後の粘度/初期粘度 110%以下
×:40℃24h後の粘度/初期粘度 110%以上
【0094】
光線透過率の測定は、日本電色(株)製のHaze Meter(型番NDH2000)を用いて行なった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリロイル基を分子中に3個以上有する化合物を50重量%以上含有する組成物と光重合開始剤とを必須成分とする活性エネルギー線硬化型樹脂組成物と粒子表面を加水分解性有機ケイ素化合物で処理した導電性を有する金属酸化物微粒子とを必須成分とする帯電防止ハードコート塗材であって、前記(メタ)アクリロイル基を分子中に3個以上有する化合物を50重量%以上含有する組成物の酸価が0.01〜0.5mgKOH/gであることを特徴とする帯電防止ハードコート塗材。
【請求項2】
前記(メタ)アクリロイル基を分子中に3個以上有する化合物が、(メタ)アクリロイル基を4〜6個含有するものである請求項1記載の帯電防止ハードコート塗材。
【請求項3】
前記金属酸化物微粒子の平均粒子径が4〜10nmである請求項1または2記載の帯電防止ハードコート塗材。
【請求項4】
前記金属酸化物微粒子が、酸化錫、アンチモンがドーピングされた酸化錫、アンチモンがドーピングされた酸化インジウム、スズがドーピングされた酸化インジウム、酸化アンチモン、低次酸化チタンからなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物である請求項1、2又は3に記載の帯電防止ハードコート塗材。
【請求項5】
前記金属酸化物微粒子が、2〜10個の範囲で鎖状に連結したものである請求項4記載の帯電防止ハードコート塗材。
【請求項6】
前記金属酸化物微粒子を、前記バインダーの固形分に対して1〜20重量%である請求項5記載の帯電防止ハードコート塗材。
【請求項7】
前記(メタ)アクリロイル基を分子中に3個以上有する化合物を50重量%以上含有する組成物中に、更に、カルボキシル基含有エチレン性不飽和化合物を、該組成物100重量部あたり0.1〜5.0重量部含有する請求項1記載の帯電防止ハードコート塗材
【請求項8】
前記(メタ)アクリロイル基を分子中に3個以上有する化合物を50重量%以上含有する組成物が(メタ)アクリロイル基を分子中に3個以上有する化合物と(メタ)アクリル酸との付加物を含有するものである請求項1記載の帯電防止ハードコート塗材。
【請求項9】
更に、前記活性エネルギー線硬化型樹脂組成物中に、ケトン類及びエステル類からなる群から選ばれる1種以上の有機溶媒を含有する請求項1〜8のいずれか1つに記載の帯電防止ハードコート塗材。
【請求項10】
前記有機溶媒が、水溶性ケトンである請求項9記載の帯電防止ハードコート塗材。
【請求項11】
透明基板に請求項1〜10のいずれか1つに記載の帯電防止ハードコート塗材を塗布して帯電防止ハードコート層を形成した光学部材。

【公開番号】特開2012−236921(P2012−236921A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107186(P2011−107186)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】