説明

帯電防止剤及び帯電防止方法

【課題】優れた帯電防止効果、耐久性、汎用性を有する帯電防止剤を提供すること。種々の形状、物性を有する様々な素材の表面を、簡便な方法によって、優れた帯電防止機能を有する素材を提供すること。
【解決手段】 下記式(1)で示される帯電防止剤である。


(1)
XはCHOまたはCOOHである。R1、R2、R3は、それぞれ独立にC1〜C6の直鎖又は分岐のアルキル基である。n、mは1から6の整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は帯電防止剤及び帯電防止方法に関する。さらに詳しくは、特定化合物の新規用途である帯電防止剤を、素材の表面に直接的に共有結合又は表面で縮合させて耐久性の高い素材の帯電防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーのような絶縁体は、一度その中に電荷が形成されると消滅するのが困難であり、様々な理由により好ましくない静電気を発生する。
【0003】
特にコンピューターのような電気精密機器、磁気媒体などは静電気により故障、損傷する可能性がある。
【0004】
また、衣類や日用品により発生する静電気は日常生活上、我々に好ましくない刺激を与えるし、有機溶剤など可燃物を取り扱う場所での静電気の発生は時として火災を引き起こす恐れがある。
【0005】
このような問題の対策として、種々の帯電防止剤が開発されており、主として界面活性剤や4級アンモニウム塩含有化合物、3級アミン含有化合物、カルボン酸含有化合物、リン酸含有化合物、スルホン酸含有化合物などが用いられている。
【0006】
また、特許文献1には、ホスホリルコリンとエポキシを有するポリマーと、アミノ基、カルボキシル基若しくはヒドロキシル基を有するポリマーをバインダーとして含む繊維処理が記載されている。
【0007】
しかしながら、上記の帯電防止剤が効果を発揮するためには、材料中に混錬したり、表面に塗布することが主に行われているが、混錬では材料の製造の段階で混入させる必要があり、また、溶出の可能性もあることから不都合が多い。一方、表面に塗布する方法では容易にはがれてしまい、効果が消失する。
【0008】
また、4級アンモニウム塩含有化合物、3級アミン含有化合物のように正イオンを有する化合物で処理することにより、その素材全体が正に帯電することから、素材本来の性質が発揮されない場合がある。逆に負イオンを有する化合物を用いた場合も同様である。
【0009】
さらに、特許文献2記載の方法では、バインダーを用いる必要があることから処理工程に熱処理が必要となり、プラスチック素材の処理には問題がある。またポリマーであることから微細な形状を有する素材の形状維持が困難である。更に未反応のバインダーが有するアミノ基、カルボキシル基などが電荷に影響を与える懸念があるが、その反応性のコントロールは通常極めて困難である。
【0010】
【特許文献1】特開2002−348778号公報
【特許文献2】特開2002−348779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされた発明であり、特定の構造を有する化合物が優れた帯電防止剤になり得ることを見出した結果、完成されたものである。すなわち、特定化合物からなる帯電防止剤を素材表面の官能基と直接的に化学結合させる帯電防止方法であり、材料を形成させた後に表面処理を行うことができ、帯電防止剤が溶出する恐れがない。また、該帯電防止剤中のホスホリルコリン基は両性イオンであることから、処理後も素材の電荷は常に中性であり、正電荷或いは負電荷を有する化合物を特異的に吸着させることもない。更に、シランカップラーとなり得る前記帯電防止剤を素材表面で縮合させることにより、同様に強固な処理を行うことも可能である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、下記式(1)で示される帯電防止剤を提供するものである。
【化1】

(1)
XはCHOまたはCOOHである。R1、R2、R3は、それぞれ独立にC1〜C6の直鎖又は分岐のアルキル基である。n、mは1から6の整数である。
【0013】
また、本発明は、下記式(2)で示される帯電防止剤を提供するものである。
【化2】

(2)
1〜X3は、それぞれ独立にC1〜C6のアルコキシ基又はCl又はHである。R1、R2、R3は、それぞれ独立にC1〜C6の直鎖又は分岐のアルキル基である。R4は2級アミン又はアミド結合又はエステル結合又はウレタン結合又は尿素結合である。m、l、nは1〜6である。
【0014】
さらに、本発明は、上記式(1)の帯電防止剤を素材の表面に直接的に結合させる素材の帯電防止方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、上記式(2)の帯電防止剤を素材の表面に縮合させる素材の帯電防止方法を提供するものである。
【0016】
さらに、本発明は、前記素材が、金属、金属酸化物、無機化合物、プラスチック、繊維、シリコン化合物である上記の帯電防止方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の帯電防止剤は、優れた帯電防止効果、耐久性、汎用性を有する。
【0018】
本発明の帯電防止剤は、ホスホリルコリン基を有する化合物を素材の表面に強固に結合させることによってホスホリルコリン基を導入し、剥れによりその帯電防止効果を失うことがないという利点を有する。また、極表面のみの処理であり、電荷もニュートラルであることから、素材自体の表面特性をすべて殺すことがないという利点を有する。例えば、素材表面が有する立体的な数nm程度の微細構造(微細孔など)を埋めることなく、表面に帯電防止効果を付与することが可能である。
【0019】
本発明の帯電防止剤によれば、種々の形状、物性を有する素材の表面を、簡便な反応によって、希望する任意の量のホスホリルコリン基を付与することが可能である。その結果、希望する帯電防止機能を有する素材を容易に提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の帯電防止剤は公知の化合物である。この帯電防止剤を用いた帯電防止処理素材において、式(1)のホスホリルコリン基が素材表面に直接的に結合しているとは、ホスホリルコリン基が素材表面の官能基に、共有結合によって導入されていることを意味する。一方、式(2)の化合物であるシランカップラーが素材表面で縮合反応を起こした場合、Si−O−Si結合により、複数のシランカップラーが共有結合し、強固に素材表面を被覆可能であり、優れた帯電防止効果を付与することが可能である。
なお、式(1)の化合物が、素材表面の官能基に共有結合により導入されている限り、該化合物のXと素材の官能基の間に任意のスペーサーが入っていてもかまわない。
【0021】
素材は、式(1)又は(2)の化合物により、結合乃至縮合可能であれば限定されない。例えば、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、PET、ナイロン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、ポリカーボネートなどの各種プラスチック類、シリコン、ガラス、グラファイト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、ジルコニア、各種セラミクス、ステンレス、鉄、銅、金、銀、クロム、チタン、ニッケル、アルミニウムなどの金属、無機粉末(例えば、タルク、カオリン、雲母、絹雲母(セリサイト)、白雲母、金雲母、合成雲母、紅雲母、黒雲母、パーミキュライト、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸ストロンチウム、タングステン酸金属塩、マグネシウム、シリカ、ゼオライト、硫酸バリウム、焼成硫酸カルシウム(焼セッコウ)、リン酸カルシウム、弗素アパタイト、ヒドロキシアパタイト、セラミックパウダー;有機粉末(例えば、ポリアミド樹脂粉末(ナイロン粉末)、ポリエチレン粉末、ポリメタクリル酸メチル粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、ポリ四弗化エチレン粉末、ポリメチルシルセスキオキサン粉末、セルロース粉末等);無機白色顔料(例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛等);無機赤色系顔料(例えば、酸化鉄(ベンガラ)、チタン酸鉄等);無機褐色系顔料(例えば、γ−酸化鉄等);無機黄色系顔料(例えば、黄酸化鉄、黄土等);無機黒色系顔料(例えば、黒酸化鉄、低次酸化チタン等);無機紫色系顔料(例えば、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット等);無機緑色系顔料(例えば、酸化クロム、水酸化クロム、チタン酸コバルト等);無機青色系顔料(例えば、群青、紺青等);パール顔料(例えば、酸化チタンコーテッドマイカ、酸化チタンコーテッドオキシ塩化ビスマス、酸化チタンコーテッドタルク、着色酸化チタンコーテッドマイカ、オキシ塩化ビスマス、魚鱗箔等);金属粉末顔料(例えば、アルミニウムパウダー、カッパーパウダー等);ジルコニウム、バリウム又はアルミニウムレーキ等の有機顔料(例えば、赤色201号、赤色202号、赤色204号、赤色205号、赤色220号、赤色226号、赤色228号、赤色405号、橙色203号、橙色204号、黄色205号、黄色401号、及び青色404号などの有機顔料、赤色3号、赤色104号、赤色106号、赤色227号、赤色230号、赤色401号、赤色505号、橙色205号、黄色4号、黄色5号、黄色202号、黄色203号、緑色3号及び青色1号等)等が挙げられる。形状は平板、粉末、繊維、成型物など、特に限定されない。
本発明においては表面に水酸基を有する粉体が好ましい。好ましく使用される粉体は、シリカ、タルク、カリオン、雲母、絹雲母(セリサイト)、白雲母、金雲母、合成雲母、紅雲母、黒雲母、リチア雲母、パーミキュライト、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸ストロンチウム、タングステン酸金属塩、マグネシウム、ゼオライト、硫酸バリウム、焼成硫酸カルシウム、(焼セッコウ)、リン酸カルシウム、弗素アパタイト、ヒドロキシアパタイト、セラミックパウダー、窒化ホウ素等の化粧料用顔料粉体、二酸化チタン、酸化亜鉛等の化粧料用白色顔料、酸化鉄(ベンガラ)、チタン酸鉄、γ−酸化鉄、黄酸化鉄、黄土、黒酸化鉄、カーボンブラック、低次酸化チタン、マンゴバイオレット、コバルトバイオレット、酸化クロム、水酸化クロム、チタン酸コバルト、群青、紺青等の着色顔料、酸化チタンコーテッドマイカ、酸化チタンコーテッドオキシ塩化ビスマス、酸化チタンコーテッドタルク、着色酸化チタンコーテッドマイカ、オキシ塩化ビスマス等のパール顔料、アルミニウムパウダー、カッパーパウダー等の金属粉末顔料等が挙げられる。
【0022】
「素材表面に直接的にアミノ基を導入し、次にグリセロホスホリルコリンの酸化的解裂反応により得られるアルデヒド体を含有する化合物を該アミノ基に反応させる、或いは素材表面に直接的にアミノ基或いは水酸基を導入し、グリセロホスホリルコリンの酸化的解裂反応により得られるカルボキシル体を含有する化合物を該アミノ基或いは水酸基に反応させることによる、帯電防止方法」
例えば、下記のステップにより製造される。例えば、素材の表面にアミノ基を有しており、それ以上のアミノ基を導入する必要がない場合は、ステップ1は省略される。
【0023】
ステップ1:任意の素材に、公知の方法若しくは今後開発される方法にてアミノ基を導入する。アミノ基は素材表面に直接的に導入される。直接的とは、アミノ基を有する重合体で被覆する方法は含まないことを意味する。アミノ基は一級アミン若しくは二級アミンである。
ステップ2:アミノ基を有する素材に対し、グリセロホスホリルコリンの酸化的解裂反応により得られたアルデヒド体あるいはハイドレート体あるいはカルボキシル体を、還元的アミノ化反応またはアミド化によって、本発明の帯電防止剤を素材表面に直接的に付加させる。グリセロホスホリルコリンの酸化的解裂反応により得られたカルボキシル体を用いる場合は、表面の水酸基とエステル化によって、ホスホリルコリン基を粉体表面に直接的に付加させることも可能である。
なお、素材にアミノ基を導入する公知の方法(ステップ1)としては、下記が挙げられる。
【0024】
1.プラズマ処理の表面反応によるアミノ基の導入
窒素ガス雰囲気下で低温プラズマにより素材表面にアミノ基を導入する。具体的には素材をプラズマ反応容器内に収容し、反応容器内を真空ポンプで真空にした後、窒素ガスを導入する。続いてグロー放電により、素材表面にアミノ基を導入できる。プラズマ処理した素材を機械的に粉体化することも可能である。プラズマ処理に関する文献を下記に示す。
1. M. Muller, C. oehr
Plasma aminofunctionalisation of PVDF microfiltration membranes: comparison of the in plasma modifications with a grafting method using ESCA and an amino-selective fluorescent probe
Surface and Coatings Technology 116-119 (1999) 802-807
2. Lidija Tusek, Mirko Nitschke, Carsten Werner, Karin Stana-Kleinschek, Volker Ribitsch
Surface characterization of NH3 plasma treated polyamide 6 foils
Colloids and Surfaces A: Physicochem. Eng. Aspects 195 (2001) 81-95
3. Fabienne Poncin-Epaillard, Jean-Claude Brosse, Thierry Falher
Reactivity of surface groups formed onto a plasma treated poly (propylene) film
Macromol. Chem. Phys. 200. 989-996 (1999)
【0025】
2.表面改質剤によるアミノ基の導入
アミノ基を有するアルコキシシラン、クロロシラン、シラザンなどの表面改質剤を用いて素材表面を処理する。
例えば、1級アミノ基を有する3−アミノプロピルトリメトキシシランにより、シリコン基板を処理してアミノ基を導入する。具体的には、シリコン基板を水−2−プロパノール混合液中に浸し、3−アミノプロピルトリメトキシシランを添加後、100℃に加熱し6時間反応させる。室温に冷却後、シリコン基板をメタノールで洗浄し、乾燥してアミノ基がシリカ表面に直接導入されたシリコン基板が得られる。
本方法に好ましく使用される素材は、シリカ、タルク、カリオン、雲母、絹雲母(セリサイト)、白雲母、金雲母、合成雲母、紅雲母、黒雲母、リチア雲母、パーミキュライト、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸ストロンチウム、タングステン酸金属塩、マグネシウム、ゼオライト、硫酸バリウム、焼成硫酸カルシウム、(焼セッコウ)、リン酸カルシウム、弗素アパタイト、ヒドロキシアパタイト、セラミックパウダー、窒化ホウ素等の化粧料用顔料粉体、二酸化チタン、酸化亜鉛等の化粧料用白色顔料、酸化鉄(ベンガラ)、チタン酸鉄、γ−酸化鉄、黄酸化鉄、黄土、黒酸化鉄、カーボンブラック、低次酸化チタン、マンゴバイオレット、コバルトバイオレット、酸化クロム、水酸化クロム、チタン酸コバルト、群青、紺青等の着色顔料、酸化チタンコーテッドマイカ、酸化チタンコーテッドオキシ塩化ビスマス、酸化チタンコーテッドタルク、着色酸化チタンコーテッドマイカ、オキシ塩化ビスマス等のパール顔料、アルミニウムパウダー、カッパーパウダー等の金属粉末の他、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、PET、ナイロン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、ポリカーボネート、などのプラスチック類、シリコン、ガラス、グラファイト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、ジルコニア、各種セラミクス、ステンレス、鉄、銅、金、銀、クロム、チタン、ニッケル、アルミニウムなどの金属が挙げられる。また、形態としても、平板、繊維、粉末、成型物など、特に限定されない。
【0026】
次に、アミノ化された素材表面にホスホリルコリン基を導入する方法(ステップ2)を以下に示す。
ステップ1で得られた素材(例えば粉体)を、メタノール中に浸漬し、ホスファチジルグリセロアルデヒドを添加後、室温で6時間放置する。そして、シアノホウ素酸ナトリウムを0℃で添加、一晩加熱攪拌し、アミノ基にホスホリルコリン基を付加させる。素材をメタノールで洗浄後、乾燥し、ホスホリルコリン基を表面に直接有する素材が得られる。反応溶媒はメタノール以外にも水、エタノール、2−プロパノール等プロトン性溶媒であれば使用可能であるが、メタノールを用いた場合の導入率が高い傾向にある。
または、ホスホリルコリン基を有するカルボキシル体をアセトニトリル中で塩化チオニルやオキザリルクロライドと一定時間反応させて生成したカルボン酸塩化物に、ステップ1で得られた化粧料用粉体を添加し、室温で6時間攪拌し、アミノ基にホスホリルコリン基を結合させる。
【0027】
表面改質剤に3−アミノプロピルトリメトキシシランを用いて、ホスホリルコリン基(以下、PC基と略す場合がある)を導入する方法のスキームをシリカの例にとって下記に示す。
ステップ1「シリカ表面のアミノプロピル化(一般的な手法)」
【化3】


ステップ2「ホスホリルコリン基の導入(アルデヒド経由)」
【化4】


ステップ2「ホスホリルコリン基の導入(カルボン酸経由)」
【化5】

【0028】
上記で説明したように、素材表面にアミノ基を導入し、グリセロホスホリルコリンの酸化的解裂反応により得られたアルデヒド体あるいはハイドレート体との還元的アミノ化反応により、本発明の帯電防止剤が有するホスホリルコリン基が表面に直接付加した素材を製造する方法よって、簡便に、様々な素材の表面を帯電防止処理できるという大きな利点がある。
また、素材表面にアミノ基を導入し、グリセロホスホリルコリンの酸化的解裂反応により得られたカルボキシル体とのアミド化反応によって、同様に、本発明の帯電防止剤を素材表面に直接的に共有結合させた帯電防止処理素材を製造することも可能である。
【0029】
上記の帯電防止方法において、グリセロホスホリルコリンの酸化的解裂反応により得られるアルデヒド体を含有する化合物は、公知のグリセロホスホリルコリン基を、公知の方法により酸化的解裂を行わせるもので、極めて簡単なステップである。例えば、1,2−ジオールを過ヨウ素酸、或いは過ヨウ素酸塩を用いて酸化することにより結合を解裂させ、アルデヒド体が得られる。反応は通常水中または水を含む有機溶媒中で行われる。反応温度は0度から室温である。アルデヒド体は水中で平衡反応を経てハイドレートとなることもあるが、続くアミンとの反応には影響しない。下記にホスホリルコリン基を含有する一官能のアルデヒド体を調製するスキームの一例を示す。
【化6】

【0030】
「素材表面に式(2)で示される化合物を反応させることによる、素材の帯電防止方法1」
下記式(3)に示したホスホリルコリン誘導体を蒸留水に溶解させる。下記式(3)のホスホリルコリン誘導体は公知の化合物であり市販品を入手できる。
【化7】

(3)
【0031】
式(3)の化合物の水溶液を氷水浴中で冷却し、過ヨウ素酸ナトリウムを添加し、5時間攪拌した。反応液を減圧濃縮、減圧乾燥し、メタノールにより下記式(4)に示すアルデヒド基を有するホスホリルコリン誘導体を抽出する。
【化8】

(4)
【0032】
次に、式(4)のメタノール溶液に3−アミノプロピルトリメトキシシランを0.9当量添加する。この混合溶液を室温で所定時間撹拌したのち、氷冷し、シアノヒドロホウ素化ナトリウムを適量添加し、室温に戻して16時間撹拌する。この間も反応容器には乾燥窒素を流し続ける。沈殿をろ過した後、式(5’)のメタノール溶液を得る。
【化9】

(5’)
【0033】
次に式(5’)を含有する0.3mmol/mL程度の濃度のメタノール溶液に、蒸留水適量を加え、改質したい素材を上記混合溶液中に浸漬する。混合溶液の容量は素材の比表面積によって調整する必要がある。例えば、1cm2の基盤の場合、その溶液量は1〜10ml程度が適当である。この溶液をオイルバス中80℃で還流し、5時間後に素材を取り出し、メタノールで洗浄し、80℃で3時間減圧乾燥することで、本発明のホスホリルコリン処理素材が得られる。
【0034】
「素材表面に式(2)で示される化合物を反応させることによる、素材の帯電防止方法2」
下記式(3)に示したホスホリルコリン誘導体を蒸留水に溶解させる。下記式(3)のホスホリルコリン誘導体は公知の化合物であり市販品を入手できる。
【化10】

(3)
式(3)の化合物の水溶液を氷水浴中で冷却し、過ヨウ素酸ナトリウム、三塩化ルテニウムを添加し、3時間攪拌した。反応液をろ過、減圧濃縮、減圧乾燥し、メタノールにより下記式(6)に示すカルボキシル基を有するホスホリルコリン誘導体を抽出する。
【化11】

(6)
次に、アセトニトリルに式(6)及び塩化チオニルを添加、所定時間攪拌した後、2当量のトリエチルアミンと3−アミノプロピルトリメトキシシランを0.9当量添加する。この混合溶液を室温で所定時間撹拌する。この間も反応容器には乾燥窒素を流し続ける。沈殿をろ過した後、式(5)のアセトニトリル溶液を得る。
【化12】

(5)
【0035】
次に式(5)を含有する0.3mmol/mL程度の濃度のアセトニトリル溶液に、蒸留水適量、メタノール適量を加え、改質したい素材を上記混合溶液中に浸漬する。混合溶液の容量は素材の比表面積によって調整する必要がある。例えば、1cm2の基盤の場合、その溶液量は1〜10ml程度が適当である。この溶液をオイルバス中80℃で還流し、5時間後に素材を取り出し、メタノールで洗浄し、80℃で3時間減圧乾燥することで、帯電防止処理素材が得られる。
【0036】
「式(1)の帯電防止剤を素材表面に直接的に結合する方法1」
素材表面に存在する水酸基、若しくは、新たに後から水酸基をプラズマ処理等により導入した水酸基に、ホスホリルコリン基含有化合物を共有結合させる。
具体的には、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランなどの有機溶媒中にホスホリルコリン化合物(6)を溶解または懸濁させ、カルボニルジイミダゾール、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、塩化チオニル、五塩化リン、オキシ塩化リン、三臭化リン、オキザリルクロライドなどの縮合剤を用いて、素材表面の水酸基とエステル結合させる。
【0037】
「式(1)の化合物を素材表面に直接的に結合する方法2」
素材表面の水酸基に対して、式(4)の化合物を反応させると、アセタール結合にて表面にホスホリルコリン基を導入可能である。この反応は、水中、或いはメタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶媒中、或いは水と上記有機溶媒の混合液中、酸性条件下で容易に進行する。
具体的には、水、或いはジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランなどの有機溶媒を媒体とし、式(4)の化合物を塩酸、酢酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸などの酸触媒存在下、室温から100℃の範囲で加熱することにより行うことができる。導入率の制御は、添加する式(2)の化合物の量、酸触媒の量、反応温度により可能である。
【0038】
本発明の帯電防止剤は、任意の素材に対して利用できるが、特に、金属、金属酸化物、無機化合物、プラスチック、繊維、シリコン化合物等の素材に好ましく利用できる。そして、プラスチック成型品、衣類、カーペット、電子部品及びその容器、磁気記録媒体容器、ヘアブラシなど、静電気が発生することにより問題が生じる製品に対して、幅広く、有効に利用することができる。
【実施例】
【0039】
次に本発明を実施例に基づきさらに詳しく説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。配合量は特に断わりのない限り、全量に対する質量%である。
【0040】
「合成例1 ホスホリルコリン基を含有するアルデヒド化合物」
1−α−グリセロホスホリルコリン(450mg)を蒸留水15mlに溶解し、氷水浴中で冷却した。過ヨウ素酸ナトリウム(750mg)を添加し、5時間攪拌した。反応液を減圧濃縮、減圧乾燥し、メタノールにより目的物を抽出した。下記化合物(4)に構造を示す。式(4)の化合物の1H NMRスペクトルを図1に示す。
【化13】

(4)
【0041】
「合成例2 式(5’)のホスホリルコリン基含有化合物」
合成例1の化合物7.5gを含むメタノール溶液を脱水したメタノール30mLに溶解させ、容器内を乾燥窒素で置換する。次に、化合物1のメタノール溶液に3-アミノプロピルトリメトキシシランを5.4g添加した。この混合溶液を、室温で5時間撹拌したのち、氷冷し、シアノヒドロホウ素化ナトリウム2.5gを添加し、室温に戻して16時間撹拌した。この間も反応容器には乾燥窒素を流し続けた。沈殿をろ過し目的物質である下記式(5’)の化合物のメタノール溶液を得た。
【化14】

(5’)
【0042】
「合成例3 ホスホリルコリン基を含有するカルボキシ化合物」
1−α―グリセロホスホリルコリン5gを水70ml−アセトニトリル30mlに溶解した。氷冷下、過ヨウ素酸ナトリウム17gと三塩化ルテニウム80mgを添加し、一晩攪拌した。沈殿物をろ過し、減圧濃縮、メタノール抽出により目的とするカルボキシメチルホスホリルコリン(6)3.86g(収率82%)を得た。
式(6)の化合物の1H−NMRを図2に示す。
【0043】
「合成例4 式(5)のホスホリルコリン基含有化合物」
化学式(6)に示すカルボキシメチルホスホリルコリン化合物3.86gをアセトニトリルに式(6)の化合物及び塩化チオニル3gを氷冷下で添加、30分間攪拌し、3−アミノプロピルトリメトキシシラン3.8gを添加、反応容器には乾燥窒素を流し続け、3時間室温で攪拌して目的とする化合物(5)のアセトニトリル溶液を得た。
【0044】
「実施例1:粉体表面に直接的にアミノ基を導入し、次にグリセロホスホリルコリンの酸化的解裂反応により得られるアルデヒド体を含有する化合物を該アミノ基に反応させることによる、酸化亜鉛粉体の帯電防止方法:2段階処理法」
500mL三角フラスコに100gのイオン交換水、100gの2−プロパノール、5gの3−アミノプロピルトリメトキシシランを入れ、かき混ぜた。
これに微粒子酸化亜鉛(粒径:0.02〜0.05μm)10gを添加後、80℃に加熱し5時間還流煮沸した。室温に冷却後、微粒子酸化亜鉛粉末をメタノール100mLで3回ろ過、洗浄し、減圧乾燥してアミノプロピル基の導入された微粒子酸化亜鉛粉体を得た。
次にアミノプロピル基が導入された微粒子酸化亜鉛粉末10g100mlのメタノールに入れ、合成例1により得られた化合物1gを含むメタノール溶液を混合し室温で5時間静置した。続いてこの混合液を氷浴中で冷却し、シアノヒドロホウ酸ナトリウム0.3gを添加し、室温で一晩撹拌した後、フィルターをろ過、メタノール100mLで3回洗浄、減圧乾燥して、帯電防止処理微粒子酸化亜鉛粉体を得た。
【0045】
「実施例2:粉体表面に直接的に式(5’)で示される化合物を反応させることによる、酸化亜鉛粉体の帯電防止方法:1段階処理法」
合成例2で製造した式(5’)の化合物約1mmolを含むメタノール溶液50mLに蒸留水50mLを加え微粒子酸化亜鉛粉末10gを添加した。この粉体分散溶液を80℃で5h還流させ反応させた。還流後、メタノール100mLで3回ろ過、洗浄した後、乾燥することにより、本発明の式(1)のホスホリルコリン基を表面に直接有する微粒子酸化亜鉛粉体を得た。
【0046】
「実施例3:粉体表面に直接的にアミノ基を導入し、次にグリセロホスホリルコリンの酸化的解裂反応により得られるカルボキシル体を含有する化合物を該アミノ基に反応させることによる、酸化チタン粉体の帯電防止方法:2段階処理法」
500mL三角フラスコに100gのイオン交換水、100gの2−プロパノール、5gの3−アミノプロピルトリメトキシシランを入れ、かき混ぜた。
これに微粒子酸化チタン(粒径:0.02〜0.05μm)10gを添加後、80℃に加熱し5時間還流煮沸した。室温に冷却後、微粒子酸化亜鉛粉末をメタノール100mLで3回ろ過、洗浄し、減圧乾燥してアミノプロピル基の導入された微粒子酸化チタン粉体を得た。
次にアミノプロピル基が導入された微粒子酸化チタン粉末10gと、合成例3により得られた化合物1g及び塩化チオニル0.7gを1時間反応させたアセトニトリル溶液30ml、トリエチルアミン0.5gを混合し室温で5時間攪拌した。続いてこの混合液をメタノール100mLで3回洗浄、減圧乾燥して、ホスホリルコリン基を表面に直接有する微粒子酸化亜鉛チタン粉体を得た。
【0047】
「実施例4:粉体表面に直接的に式(5)で示される化合物を反応させることによる、酸化チタン粉体の帯電防止方法:1段階処理法」
合成例4で製造した式(5)の化合物約1mmolを含むアセトニトリル溶液20mLにメタノール30mlと蒸留水10mLを加え微粒子酸化チタン粉末10gを添加した。この粉体分散溶液を80℃で5h還流させ反応させた。還流後、メタノール100mLで3回ろ過、洗浄した後、乾燥することにより、本発明のホスホリルコリン基を表面に直接有する微粒子酸化チタン粉体を得た。
【0048】
「実施例5:粉体表面に直接的に式(5)で示される化合物を反応させることによる、シリカ粉体の帯電防止方法:1段階処理法」
合成例4で製造した式(5)の化合物約1mmolを含むアセトニトリル溶液20mLにメタノール30mlと蒸留水10mLを加えシリカ粉末10gを添加した。この粉体分散溶液を80℃で5h還流させ反応させた。還流後、メタノール100mLで3回ろ過、洗浄した後、乾燥することにより、本発明のホスホリルコリン基を表面に直接有する微粒子シリカ粉体を得た。
【0049】
「実施例6:ポリスチレンの帯電防止処理」
合成例4で製造した式(5)の化合物1mmolを含むメタノール溶液100μlを10倍希釈し、そのうちの100μlをポリスチレン板(5cmx5cm)表面に塗布、60℃で1時間反応させた。水で洗浄し、更に60℃で1時間乾燥させ、目的とする帯電防止処理ポリスチレン板を得た。
【0050】
「実勢例7:ウールの帯電防止処理」
合成例2で製造した式(5’)の化合物1mmolを含むメタノール溶液20mlを100倍希釈し、水を2ml添加後、ウール編地(5cmx5cm)を浸漬、室温で乾燥、目的とする帯電防止処理ウール編地を得た。
【0051】
「実施例8:ナイロンの帯電防止処理」
合成例2で製造した式(5’)の化合物1mmolを含むメタノール溶液20mlを100倍希釈し、水を2ml添加後、ナイロン布(5cmx5cm)を浸漬、室温で乾燥、目的とするホスホリルコリン処理ナイロン布を得た。
【0052】
「実施例9:ポリエステルの帯電防止処理」
合成例2で製造した式(5’)の化合物1mmolを含むメタノール溶液20mlを100倍希釈し、水を2ml添加後、ポリエステル布(5cmx5cm)を浸漬、室温で乾燥、目的とする帯電防止処理ポリエステル布を得た。
【0053】
「実施例10:ポリカーボネートの帯電防止処理」
合成例2で製造した式(5’)の化合物1mmolを含むメタノール溶液20mlを100倍希釈し、水を2ml添加後、ポリカーボネート板(5cmx5cm)を浸漬、室温で乾燥、目的とする帯電防止処理ポリカーボネート板を得た。
【0054】
「実施例11:ポリプロピレンの帯電防止処理」
合成例2で製造した式(5’)の化合物1mmolを含むメタノール溶液20mlを10倍希釈し、水を1ml添加後、ポリプロピレン板(5cmx5cm)を浸漬、室温で乾燥、目的とする帯電防止処理ポリカーボネート板を得た。
【0055】
「実施例12:シリコンウエハースの帯電防止処理」
合成例4で製造した式(5)の化合物1mmolを含むアセトニトリル溶液20mlにメタノール30mlと蒸留水10mlを加え、シリコンウエハース(300mm直径)を浸漬、80℃で5時間反応させた。メタノールで充分洗浄し、目的とする帯電防止処理シリコンウェハースを得た。
【0056】
「実施例13:帯電防止効果(素材の表面被覆)」
ポリカーボネート、ポリスチレン、ナイロン、ポリエステル、ウール、ポリプロピレン及び、それらのホスホリルコリン処理品(実施例10、6、8、9、7、11)について帯電試験を行った。各素材をポリ塩化ビニリデンで充分摩擦し、表面より2.5cmの帯電状態を静電気測定器(FMX−002 SIMCO社製)により測定した。結果を下記「表1」に示す。下記「表1」から、本発明の帯電防止剤による帯電防止方法により、摩擦時の帯電量は大幅に減少することが確認された。



【0057】
【表1】

【0058】
「実施例14:帯電防止効果(粉末処理)」
ポリプロピレン板(5cmx5cm)をポリ塩化ビニリデンにより摩擦して静電気を発生させ、粉末の付着し易さを評価した。粉末は、微粒子酸化亜鉛、微粒子酸化チタン、微粒子シリカ及び、それらのホスホリルコリン処理品各1g(実施例2、4、5)を用いた。ポリプロピレン板を粉末に接近させ、自発的に粉末の吸着が起こるかどうかにより評価を行った。結果を下記「表2」に示す。下記「表2」から、本発明の帯電防止剤による帯電防止方法によって処理した粉末は、いずれもポリプロピレン板に吸着することはなく、帯電防止効果が確認された。
【0059】
【表2】

【0060】
「実施例15:耐久性」
ポリカーボネートの帯電防止処理(実施例10)、ポリスチレンの帯電防止処理(実施例6)、微粒子酸化チタン帯電防止処理(実施例4)及び微粒子シリカの帯電防止処理(実施例5)の耐久性を評価した。帯電防止処理をした各素材を水中に浸漬し、10分間超音波処理を行った後の処理状態(粉末の場合はろ過)をリンの定量により超音波処理前と比較した。結果を下記「表3」に示す。下記「表3」から、本発明の帯電防止剤による帯電防止方法は、極めて高い耐久性が確認された。






【0061】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の帯電防止剤は、帯電防止効果、耐久性、汎用性に優れており、プラスチック成型品、衣類、カーペット、電子部品及びその容器、磁気記録媒体容器など、静電気が発生することにより問題が生じる素材に対して、幅広く、有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】合成例1の構造式及びNMRスペクトルである。
【図2】合成例3の構造式及びNMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される帯電防止剤。
【化1】

(1)
XはCHOまたはCOOHである。R1、R2、R3は、それぞれ独立にC1〜C6の直鎖又は分岐のアルキル基である。n、mは1から6の整数である。
【請求項2】
下記式(2)で示される帯電防止剤。
【化2】

(2)
1〜X3は、それぞれ独立にC1〜C6のアルコキシ基又はCl又はHである。R1、R2、R3は、それぞれ独立にC1〜C6の直鎖又は分岐のアルキル基である。R4は2級アミン又はアミド結合又はエステル結合又はウレタン結合又は尿素結合である。m、l、nは1〜6である。
【請求項3】
請求項1記載の帯電防止剤を素材の表面に直接的に結合させる素材の帯電防止方法。
【請求項4】
請求項2記載の帯電防止剤を素材の表面に縮合させる素材の帯電防止方法。
【請求項5】
前記素材が、金属、金属酸化物、無機化合物、プラスチック、繊維、シリコン化合物である請求項3又は4記載の帯電防止方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−106880(P2007−106880A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298835(P2005−298835)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】