説明

帯電防止剤含有繊維からなるブラシ

【課題】電子写真式画像形成装置に用いられるブラシにおいて、電気抵抗がばらつくことない比較的高い電気抵抗を持つ繊維を使用するブラシを得ること。
【解決手段】電子写真式画像形成装置に使用される導電性のブラシであって、ブラシに使用される繊維の電気抵抗値が1×10Ω・cm以上という比較的高い電気抵抗値においても繊維上の全ての部分で電気抵抗がほぼ変化しないように高分子型帯電防止剤を含有した繊維を使用することを特徴としたブラシ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真式画像形成装置(コピー、プリンタ、ファクシミリ)に設置されるブラシであって、具体的には接触帯電ブラシ、クリーニングブラシ、除電ブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に電子写真式画像形成装置(コピー、プリンタ、ファクシミリ)では、光導電性の感光体表面を一様に帯電し、露光によって静電潜像を形成し、この静電潜像にトナーを静電的に付着させて現像し、得られたトナー像を記録用紙に転写、定着させて像を可視化させる。転写後は感光体上に未転写のトナーが残存しているため、クリーニング装置により、清掃、除去を行う。これらの操作を繰り返し行い、連続的に画像を形成している。
【0003】
従来、感光体などの被帯電体を帯電させる装置として、コロナ帯電装置及び接触帯電装置が採用されている。コロナ放電装置は金属ワイヤーとシールド電極からなっているが、高価な数千ボルト(5kV〜8kV程度)の高電圧電源を必要とし、また、コロナ放電時に人体に有害なオゾンが発生するなどの問題点がある。それらのことから、最近では導電性ゴムローラーや導電性繊維を植毛したブラシ或いは導電性のブレードなどの導電体に比較的低電圧(1kV〜2kV程度)を印加し、該導電体を感光体に接触させて直接帯電させる接触帯電方式の帯電装置が提案され、実用化されるようになってきた。接触帯電ブラシは米国特許第4371252号明細書及び特開平6−274009号公報には、導電性繊維からなる帯電ブラシが開示されている。
【0004】
また、電子写真式画像形成装置には、転写後に感光体上に未転写の残存トナーを除去するためのクリーニング装置があり、ゴム状のブレードタイプと、ブラシタイプがあるが、近年では感光体を傷つけることなくトナーの除去が可能であるブラシタイプが使用されることが多くなってきており、トナー除去に使用されるクリーニングブラシにおいても導電性繊維が使用されることが多い。
【0005】
さらに、クリーニング前にトナーを均一に帯電させるブラシや、トナー除去後に感光体を一度除電する除電ブラシ等、電子写真式画像形成装置には様々な種類のブラシが使用されており、各種類、各機種によって、導電性能の異なるブラシを使用し、画質を向上させている。
【0006】
【特許文献1】米国特許第4371252号
【特許文献2】特開平6−274009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電子写真式画像形成装置に使用されるブラシはその使用用途(帯電、クリーニング、除電等)によって、その導電性能が異なる場合が多い。ブラシに使用される導電性繊維の体積抵抗率にして、1×10Ω・cm〜1×10Ω・cm、1×10Ω・cm〜1×10Ω・cm、1×10Ω・cm〜1×10Ω・cm、1×10Ω・cm〜1×10Ω・cmと大まかに分けることができ、各導電性能に合わせた導電性繊維の作製が必要となる。現在、上記の導電性能を持つ導電性繊維には導電成分としてカーボンブラック、または導電性金属粒子等が使用されている。しかしながら、それらを用いて1×10
Ω・cm〜1×10Ω・cmの範囲の導電性繊維を作製することは容易であるが、1×10Ω・cm以上の電気抵抗を持つ導電性繊維は繊維方向に電気抵抗を測定し、電気抵抗の低い部分と高い部分が極端に現れ、電気抵抗が均一である導電性繊維を作製することは困難であった。
【0008】
したがって、本発明の課題は、電子写真式画像形成装置に用いられるブラシにおいて、1×10Ω・cm以上という比較的高い電気抵抗値で安定な繊維を使用するブラシの発明にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、電子写真式画像形成装置に使用される導電性のブラシであって、ブラシに使用される繊維の電気抵抗値が1×10Ω・cm以上という比較的高い電気抵抗値においても繊維上の全ての部分で電気抵抗がほぼ変化しないように高分子型帯電防止剤を含有した繊維を使用することを特徴としたブラシである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、電気抵抗が安定なブラシを得ることができ、そのことで、各種用途のブラシに使用が可能となり、良好な画質を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の帯電防止剤含有繊維に使用される熱可塑性重合体はポリアミド、もしくはポリエステルが望ましいが、繊維形成能があればこれに限らない。使用されるポリアミドは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12及びこれらを主成分とする共重合体が知られているが、これらだけでなく、繊維形成能を持つポリアミドであればよい。使用されるポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びこれらを主成分とする共重合体が知られているが、これらだけでなく、繊維形成能を持つポリエステルであればよい。
【0012】
本発明のブラシに使用される帯電防止剤含有繊維に用いられる帯電防止剤は、湿度変化に対し、電気抵抗値変化の少ない高分子型帯電防止剤が好ましく、アミノカルボン酸、ジカルボン酸、及びポリエチレングリコールからなるポリエーテルエステルアミド樹脂が挙げられる。このような高分子型帯電防止剤は三洋化成製ペレスタットシリーズ、アトフィナ社製PEBAXシリーズなどの市販品で入手可能である。湿度環境で電気抵抗値が変化すると、電子写真式画像形成装置の使用環境が制限されてしまうために、良好な画質を得にくい。
【0013】
上記、帯電防止剤の繊維形成能のある熱可塑性重合体への添加量は10wt%以上が必要であり、さらに好ましくは20wt%以上である。10wt%未満であると、十分な導電性能が得ることが難しく、さらに1×10Ω・cm以上の電気抵抗値が安定に得ることができない。電子写真式画像形成装置内の各ブラシに要求される電気抵抗値に応じ、添加量を変化させることが望ましい。
【0014】
本発明のブラシに用いられる帯電防止剤含有繊維を複合繊維として用いる場合、帯電防止剤を含有する層が繊維表面に少なくとも一部露出した繊維断面形状が好ましいが、十分な導電性能が得られ、電子写真式画像形成装置に該ブラシを配し、良好な画質が得られれば、これに限らない。
【0015】
本発明のブラシに用いられる帯電防止剤含有繊維の体積抵抗率は各ブラシの要求性能により、1×10Ω・cm〜1×10Ω・cmであることが望ましく、この範囲であれば、この帯電防止剤含有繊維を用いて作製されたブラシを用いた場合、良好な画質を得る
ことができる。
【0016】
本発明のブラシに用いられる帯電防止剤含有繊維は単糸当り0.1dtex〜10dtexが望ましいが、十分な導電性能が得られ、電子写真式画像形成装置に該ブラシを配し、良好な画質が得られれば、これに限らない。
【0017】
該帯電防止剤含有繊維に使用される帯電防止剤の繊維形成能を持つ熱可塑性樹脂への混合は二軸混練機などの公知の方法にて混練することができる。得られた帯電防止剤含有樹脂を溶融し、単一成分として紡糸口金より吐出するか、または、非導電成分となる熱可塑性樹脂との複合繊維として例えば図1のような繊維断面となるような紡糸口金より吐出する。吐出した帯電防止剤含有繊維を冷風にて冷却後、適当な油剤を付与し、公知の巻き取り機にて巻き取り、マルチフィラメントの未延伸糸を得る。巻き取り速度は帯電防止剤含有層、非導電層の組み合わせ、比率等により適正なスピードであれば良いが、繊維物性、巻き取り易さ等により、600m/min〜1200m/minが望ましい。
【0018】
得られた未延伸糸を70℃〜120℃の熱をかけながら延伸して、延伸糸を得る。延伸後の繊維全繊度は後の織機の能力、糸密度にもよるが、50dtex〜500dtexが望ましい。得られた帯電防止剤含有繊維をパイル織等で例えば12.4kf/cm〜31.0kf/cmのブラシ基布とし、該基布の裏面に導電性のバックコート剤を塗布し、金属の芯材に両面テープ等で貼り付けブラシを得る。ブラシ状にした後、起毛処理、シャーリング処理を行い、電子写真式画像形成装置用途ブラシを得る。
【0019】
以上のように構成される帯電防止剤含有繊維からなるブラシは、電子写真式画像形成装置の各ブラシ用途に用いられ、良好な画質を得ることが可能となる。
【実施例】
【0020】
次に、実施例において、本発明の詳細を説明する。なお、実施例における体積抵抗率は帯電防止剤含有繊維全フィラメントを11cm採取してその両端0.5cmに導電性ペーストを塗布しアルミ箔に接着させ、アルミ箔を電極として測定した電気抵抗値より換算した。電気抵抗測定機は、アジレント社製ハイレジスタンスメーター4339Bを使用した。また、電気抵抗値安定性の評価は、延伸後の該繊維を0.5kgの巻き取りとし、該巻き取り糸を100本採取し、各巻き取り糸から電気抵抗を測定し、その標準偏差を用いた。ブラシとしての評価は、クリーニングブラシとして電子写真装置に組み込み、テスト画像を印刷して、目視にて評価した。評価結果は良好であれば○、不良であれば×とした。
【0021】
[実施例1]
ナイロン12に帯電防止剤であるポリエーテルエステルアミド樹脂を全重量の30wt%となるように、二軸混練機にて溶融混練し、定法によりチップ化した。得られた帯電防止剤含有ナイロン12チップを260℃にて溶融し、単一成分繊維として紡糸口金から吐出した。吐出した帯電防止剤含有繊維を室温の冷却風にて冷却後、油剤を付与し、700m/minで巻き取り機にて巻き取り、250.0dtex/50fの未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を80℃の熱をかけながら延伸し、100℃でセットし、最終的に100dtex/50fの延伸糸を得た。得られた帯電防止剤繊維は体積抵抗率平均3×10Ω・cmであった。延伸糸100本の電気抵抗値を測定した結果の標準偏差は0.350であった。得られた帯電防止剤含有繊維をパイル長3mm、幅14mmのパイル織として、パイル密度21.7kf/cmのブラシ用基布を得た。該基布に、導電性バックコート剤を塗布し、金属の芯材に両面テープで貼り付け、その後、起毛処理、シャーリング処理を行って、ブラシとした。本ブラシを電子写真式画像形成装置に組み込み、テスト印刷し、画質を評価した。評価結果を表1の実施例1に示した。
【0022】
[実施例2]
実施例1と同様な方法の混練法により帯電防止剤を50wt%となるように混練し、帯電防止剤含有ナイロン12チップを得、導電成分とした。得られた帯電防止剤含有ナイロン12チップと非導電層として使用されるナイロン12チップをそれぞれ260℃にて溶融し、図1に示す繊維横断面形状で、帯電防止剤含有層と非導電層の繊維横断面積比率が1:5となるように紡糸口金から吐出する。吐出後の冷却、巻き取り条件は実施例1と同様とし、250dtex/50fの未延伸糸を得た。延伸の条件は実施例1と同様とし、100dtex/50fの延伸糸を得た。得られた帯電防止剤含有繊維の体積抵抗率は平均7×10Ω・cmであった。延伸糸100本の電気抵抗値を測定した結果の標準偏差は0.240であった。実施例1と同様の方法にてブラシを作製し、電子写真式画像形成装置に組み込み、画質を評価した。評価結果を表1の実施例2に示した。
【0023】
[比較例1]
ナイロン12にカーボンブラック(ファーネスブラック)を全重量の27wt%となるように、二軸混練機にて溶融混練し、定法によりチップ化し、導電性複合繊維の導電層として使用する導電性ナイロン12チップを得た。得られた導電性ナイロン12チップと非導電層として使用されるナイロン12チップをそれぞれ270℃にて溶融し、図1に示す繊維横断面形状で、導電性粒子を含有する導電層と非導電層の繊維横断面積比率が1:5となるように紡糸口金から吐出する。吐出した導電性複合繊維を室温の冷却風にて冷却後、油剤を付与し、700m/minで巻き取り機にて巻き取り、250.0dtex/50fの未延伸糸を得る。得られた未延伸糸を80℃の熱をかけながら延伸し、100℃でセットし、最終的に100dtex/50fの延伸糸を得る。得られた導電性複合繊維の体積抵抗率は平均3×10Ω・cmであった。延伸糸100本の電気抵抗値を測定した結果の標準偏差は1.130であった。実施例1と同様の方法にてブラシを作製し、電子写真式画像形成装置に組み込み、画質を評価した。評価結果を表1の比較例1に示した。
【0024】
[比較例2]
実施例1と同様な方法の混練法により帯電防止剤であるポリエーテルエステルアミド樹脂を9wt%となるように混練し、帯電防止剤含有ナイロン12チップを得、得られた帯電防止剤含有ナイロン12チップと非導電層として使用されるナイロン12チップをそれぞれ260℃にて溶融し、図1に示す繊維横断面形状で、帯電防止剤含有層と非導電層の繊維横断面積比率が1:5となるように紡糸口金から吐出する。吐出後の冷却、巻き取り条件は実施例1と同様とし、250dtex/50fの未延伸糸を得た。延伸の条件は実施例1と同様とし、100dtex/50fの延伸糸を得た。得られた帯電防止剤含有複合繊維の体積抵抗率は平均7×1010Ω・cmであった。延伸糸100本の電気抵抗値を測定した結果の標準偏差は0.980であった。実施例1と同様の方法にてブラシを作製し、電子写真式画像形成装置に組み込み、画質を評価した。評価結果を表1の比較例2に示した。
【0025】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0026】
現在、IT産業の一部である電子写真式画像形成装置の画質向上を目的として数多くの製品、製法が生み出されてきている。本発明はそれら電子写真式画像形成装置の心臓部である感光体を均一に帯電させることのできる帯電ブラシ、残存トナーをほぼ完全に除去可
能なクリーニングブラシであって、帯電ブラシ、クリーニングブラシだけにとどまらず、中間転写ブラシ等、電子写真式画像形成装置に内蔵されているあらゆるブラシに適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に用いる帯電防止剤含有複合繊維の単糸の繊維横断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1:帯電防止剤を含有した層
2:非導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真式画像形成装置のブラシであって、該ブラシに帯電防止剤を10wt%以上含有した熱可塑性重合体からなる帯電防止剤含有繊維が使用されることを特徴とするブラシ。
【請求項2】
帯電防止剤含有繊維が、帯電防止剤を10wt%以上含有する層と熱可塑性重合体からなる非導電層が接合されてなる帯電防止剤含有複合繊維であることを特徴とする請求項1記載のブラシ。
【請求項3】
帯電防止剤を含有する層が繊維表面に少なくとも一部露出している複合繊維を使用することを特徴とする請求項2記載のブラシ。
【請求項4】
帯電防止剤含有繊維の体積抵抗率が1×10Ω・cm〜1×10Ω・cmであることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のブラシ。
【請求項5】
使用される帯電防止剤が高分子型であるポリエーテルエステルアミド樹脂である帯電防止剤含有繊維を使用することを特徴とする請求項1乃至4記載のブラシ。

【図1】
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【公開番号】特開2006−276154(P2006−276154A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−91046(P2005−91046)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(305037123)KBセーレン株式会社 (97)
【Fターム(参考)】