説明

帯電防止塗料、帯電防止膜及び帯電防止フィルム、光学フィルタ、光情報記録媒体

【課題】帯電防止性の湿度依存性がない上に、表面潤滑性が高く、しかも可撓性、樹脂製の基材との密着性、透明性のいずれもが優れた帯電防止膜を形成できる帯電防止塗料を提供する。また、帯電防止性の湿度依存性がない上に、表面潤滑性が高く、しかも可撓性、樹脂製の基材との密着性、透明性のいずれもが優れた帯電防止膜を提供する。
【解決手段】本発明の帯電防止塗料は、π共役系導電性高分子と、ポリアニオンと、ポリエーテル変性された非反応性水溶性シリコーンと、溶媒とを含有する。本発明の帯電防止膜は、上記帯電防止塗料が塗布されて形成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムなどに帯電防止性及び表面潤滑性を付与するための帯電防止塗料に関する。また、帯電防止性及び表面潤滑性を有する帯電防止膜に関する。さらには、食品や電子部品の包装材に使用される帯電防止フィルム、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイに使用される光学フィルタやCD、DVDなどの光情報記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルム、光学フィルタおよび光情報記録媒体においては、表面が、高硬度、高透明性である上に、静電気による塵埃の付着を防止するために帯電防止性を有することが求められる。特に、帯電防止性については、表面抵抗が10〜1010Ω程度の領域で抵抗値が安定していること、すなわち、安定した帯電防止性が求められる。
帯電防止性を付与するためには、例えば、樹脂フィルムに界面活性剤を表面に塗布する方法、樹脂フィルムや帯電防止膜を構成する樹脂に界面活性剤を練り込む方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、樹脂フィルム、光学フィルタおよび光情報記録媒体においては、積み重ねた際に互いに接着するブロッキングと呼ばれる現象が抑えられていること(すなわち、耐ブロッキング性が高いこと)が求められる。
一般に、耐ブロッキング性を高くするためには、表面にシリコーンの膜を形成して表面潤滑性を高める方法が知られている。
【0004】
帯電防止性及び表面潤滑性が高いものを得る方法として、特許文献1には、放射線硬化型の変性ポリシロキサン化合物と帯電防止用の反応性界面活性剤を含む組成物を光ディスクのハードコーティング膜の表面に塗布し、放射線の照射により前記ポリシロキサンを重合して、帯電防止性のシリコーンの膜を形成する方法が記載されている。
また、特許文献2には、スチレン系フィルム基材の両面に外部滑剤と帯電防止剤とを付着させ、外部滑剤としてポリエーテル変性シリコーンを用いることが記載されている。
【特許文献1】特開平5−132557号公報
【特許文献2】国際公開第01/040360号パンフレット
【非特許文献1】シーエムシー発行「ファインケミカル 帯電防止剤 最近の市場動向(上)」、第16巻、第15号、1987年、p.24−36
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、界面活性剤による帯電防止性は、イオン伝導による導電機構に基づいて発揮される。イオン伝導による導電機構は湿度の影響を非常に受けやすく、湿度が高いと導電性が高くなるが、湿度が低いと導電性が低下するといった欠点があった。したがって、湿度が低く、特に静電気が発生しやすい環境下では帯電防止性が低下して、必要なときに帯電防止性を発揮しないものとなっていた。
【0006】
これに対し、電子伝導による導電機構は湿度の影響を受けない。電子伝導による導電機構は、例えば、金属、カーボン、インジウム錫酸化物(ITO)を含む層にて発揮される。しかし、金属またはカーボンを含む層を用いた場合には、透明性が全くなく、ITOを含む層を用いた場合には、その製膜にスパッタリング等を適用しなければならず、工程が煩雑になるばかりか製造コストが高くなった。また、ITO等の無機質の金属酸化物の層は可撓性が小さく、薄い基材上に製膜した場合には、ITOの層が割れやすく、導電性を示さなくなることがあった。その上、樹脂製の基材との密着性が低いためにそれらの界面で剥離を生じて、透明性が低下するおそれがあった。
【0007】
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、帯電防止性の湿度依存性がない上に、表面潤滑性が高く、しかも可撓性、樹脂製の基材との密着性、透明性のいずれもが優れた帯電防止膜を形成できる帯電防止塗料を提供することを目的とする。また、帯電防止性の湿度依存性がない上に、表面潤滑性が高く、しかも可撓性、樹脂製の基材との密着性、透明性のいずれもが優れた帯電防止膜を提供することを目的とする。さらには、そのような帯電防止膜を備えた帯電防止フィルム、光学フィルタ、光情報記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成を含む。
[1] π共役系導電性高分子と、ポリアニオンと、ポリエーテル変性された非反応性水溶性シリコーンと、溶媒とを含有することを特徴とする帯電防止塗料。
[2] 前記非反応性水溶性シリコーンのHLB値が7〜16であることを特徴とする[1]に記載の帯電防止塗料。
[3] バインダ樹脂を含有することを特徴とする[1]または[2]に記載の帯電防止塗料。
[4] [1]〜[3]のいずれかに記載の帯電防止塗料が塗布されて形成されたことを特徴とする帯電防止膜。
[5] フィルム基材と、該フィルム基材の少なくとも片面に形成された[4]に記載の帯電防止膜とを有することを特徴とする帯電防止フィルム。
[6] [4]に記載の帯電防止膜を備えることを特徴とする光学フィルタ。
[7] [4]に記載の帯電防止膜を備えることを特徴とする光情報記録媒体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の帯電防止塗料は、帯電防止性の湿度依存性がない上に、表面潤滑性が高く、しかも可撓性、樹脂製の基材との密着性、透明性のいずれもが優れた帯電防止膜を形成できる。
本発明の帯電防止膜は、帯電防止性の湿度依存性がない上に、表面潤滑性が高く、しかも可撓性、樹脂製の基材との密着性、透明性のいずれもが優れる。
本発明の帯電防止フィルムは、帯電防止性の湿度依存性がない上に、表面潤滑性が高く、しかも可撓性、樹脂製の基材との密着性のいずれもが優れる。
本発明の光学フィルタは、帯電防止性の湿度依存性がない上に、表面潤滑性が高く、しかも透明性が優れる。
本発明の光情報記録媒体は、帯電防止性の湿度依存性がない上に、表面潤滑性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(帯電防止塗料)
本発明の帯電防止塗料は、π共役系導電性高分子と、ポリアニオンと、ポリエーテル変性された非反応性水溶性シリコーンと、溶媒とを含有する。
【0011】
[π共役系導電性高分子]
π共役系導電性高分子は、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば使用できる。例えば、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアニリン類、ポリアセン類、ポリチオフェンビニレン類、及びこれらの共重合体等が挙げられる。重合の容易さ、空気中での安定性の点からは、ポリピロール類、ポリチオフェン類及びポリアニリン類が好ましい。
π共役系導電性高分子は無置換のままでも、充分な導電性を得ることができるが、導電性をより高めるためには、アルキル基、カルボキシル基、スルホ基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基等の官能基をπ共役系導電性高分子に導入することが好ましい。
【0012】
このようなπ共役系導電性高分子の具体例としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)等が挙げられる。
【0013】
中でも、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)から選ばれる1種又は2種からなる(共)重合体が抵抗値、反応性の点から好適に用いられる。さらには、ポリピロール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)は、導電性がより高くなる上に耐熱性が向上する点から、より好ましい。
【0014】
[ポリアニオン]
ポリアニオンは、置換又は未置換のポリアルキレン、置換又は未置換のポリアルケニレン、置換又は未置換のポリイミド、置換又は未置換のポリアミド、置換又は未置換のポリエステルから選ばれた単独重合体又は共重合体であって、アニオン基を有する構成単位を有するものである。また、必要に応じて、アニオン基を有さない構成単位を有してもよい。
なお、ポリアニオンは、π共役系導電性高分子を溶媒に可溶化させるだけでなく、π共役系導電性高分子のドーパントとしても機能する。
【0015】
ここで、ポリアルキレンとは、主鎖がメチレンの繰り返しで構成されているポリマーである。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセン、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリ(3,3,3−トリフルオロプロピレン)、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリスチレン等が挙げられる。
【0016】
ポリアルケニレンとは、主鎖に不飽和結合(ビニル基)が1個以上含まれる構成単位からなるポリマーである。これらの中でも、不飽和結合とπ共役系導電性高分子との相互作用があること、置換又は未置換のブタジエンを出発物質として合成しやすいことから、置換又は未置換のブテニレンが好ましい。
ポリアルケニレンの具体例としては、プロペニレン、1−メチルプロペニレン、1−ブチルプロペニレン、1−デシルプロペニレン、1−シアノプロペニレン、1−フェニルプロペニレン、1−ヒドロキシプロペニレン、1−ブテニレン、1−メチル−1−ブテニレン、1−エチル−1−ブテニレン、1−オクチル−1−ブテニレン、1−ペンタデシル−1−ブテニレン、2−メチル−1−ブテニレン、2−エチル−1−ブテニレン、2−ブチル−1−ブテニレン、2−ヘキシル−1−ブテニレン、2−オクチル−1−ブテニレン、2−デシル−1−ブテニレン、2−ドデシル−1−ブテニレン、2−フェニル−1−ブテニレン、2−ブテニレン、1−メチル−2−ブテニレン、1−エチル−2−ブテニレン、1−オクチル−2−ブテニレン、1−ペンタデシル−2−ブテニレン、2−メチル−2−ブテニレン、2−エチル−2−ブテニレン、2−ブチル−2−ブテニレン、2−ヘキシル−2−ブテニレン、2−オクチル−2−ブテニレン、2−デシル−2−ブテニレン、2−ドデシル−2−ブテニレン、2−フェニル−2−ブテニレン、2−プロピレンフェニル−2−ブテニレン、3−メチル−2−ブテニレン、3−エチル−2−ブテニレン、3−ブチル−2−ブテニレン、3−ヘキシル−2−ブテニレン、3−オクチル−2−ブテニレン、3−デシル−2−ブテニレン、3−ドデシル−2−ブテニレン、3−フェニル−2−ブテニレン、3−プロピレンフェニル−2−ブテニレン、2−ペンテニレン、4−プロピル−2−ペンテニレン、4−ブチル−2−ペンテニレン、4−ヘキシル−2−ペンテニレン、4−シアノ−2−ペンテニレン、3−メチル−2−ペンテニレン、4−エチル−2−ペンテニレン、3−フェニル−2−ペンテニレン、4−ヒドロキシ−2−ペンテニレン、ヘキセニレン等から選ばれる一種以上の構成単位を含む重合体が挙げられる。
【0017】
ポリイミドとしては、ピロメリット酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−テトラカルボキシジフェニルエーテル二無水物、2,2’−[4,4’−ジ(ジカルボキシフェニルオキシ)フェニル]プロパン二無水物等の無水物とオキシジアミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン等のジアミンとからのポリイミドが挙げられる。
ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10等が挙げられる。
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0018】
ポリアニオンが他の置換基を有する場合、その置換基としては、アルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基、シアノ基、フェニル基、フェノール基、エステル基、アルコキシル基、カルボニル基等が挙げられる。溶媒への溶解性、耐熱性及び樹脂への相溶性等を考慮すると、アルキル基、ヒドロキシル基、フェノール基、エステル基が好ましい。
アルキル基は、極性溶媒又は非極性溶媒への溶解性及び分散性、樹脂への相溶性及び分散性等を高くすることができ、ヒドロキシル基は、他の水素原子等との水素結合を形成しやすくでき、有機溶剤への溶解性、樹脂への相溶性、分散性、接着性を高くすることができる。また、シアノ基及びヒドロキシフェニル基は、極性樹脂への相溶性、溶解性を高くすることができ、しかも、耐熱性も高くすることができる。
上記置換基の中では、アルキル基、ヒドロキシル基、エステル基、シアノ基が好ましい。
【0019】
前記アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル等の鎖状アルキル基、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル等のシクロアルキル基が挙げられる。有機溶剤への溶解性、樹脂への分散性、立体障害等を考慮すると、炭素数1〜12のアルキル基がより好ましい。
前記ヒドロキシル基としては、ポリアニオンの主鎖に直接結合したヒドロキシル基又は他の官能基を介在して結合したヒドロキシル基が挙げられる。他の官能基としては、炭素数1〜7のアルキル基、炭素数2〜7のアルケニル基、アミド基、イミド基等が挙げられる。ヒドロキシル基はこれらの官能基の末端又は中に置換されている。これらの中では樹脂への相溶及び有機溶剤への溶解性から、主鎖に結合した炭素数1〜6のアルキル基の末端に結合したヒドロキシル基がより好ましい。
前記エステル基としては、ポリアニオンの主鎖に直接結合したアルキル系エステル基、芳香族系エステル基、他の官能基を介在してなるアルキル系エステル基又は芳香族系エステル基が挙げられる。
前記シアノ基としては、ポリアニオンの主鎖に直接結合したシアノ基、ポリアニオンの主鎖に結合した炭素数1〜7のアルキル基の末端に結合したシアノ基、ポリアニオンの主鎖に結合した炭素数2〜7のアルケニル基の末端に結合したシアノ基等を挙げることができる。
【0020】
ポリアニオンのアニオン基としては、π共役系導電性高分子への化学酸化ドープが起こりうる官能基であればよいが、中でも、製造の容易さ及び安定性の観点からは、一置換硫酸エステル基、一置換リン酸エステル基、リン酸基、カルボキシル基、スルホ基等が好ましい。さらに、官能基のπ共役系導電性高分子へのドープ効果の観点より、スルホ基、一置換硫酸エステル基、カルボキシル基がより好ましい。
【0021】
ポリアニオンの具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらのうち、ポリスチレンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸が好ましい。これらのポリアニオンが帯電防止塗料に含まれていれば、得られる帯電防止膜の帯電防止性を向上させることができ、また、π共役系導電性高分子の熱分解を緩和することができる。
【0022】
ポリアニオンの重合度は、モノマー単位が10〜100,000個の範囲であることが好ましく、溶媒溶解性及び導電性の点からは、50〜10,000個の範囲がより好ましい。
【0023】
帯電防止塗料中のポリアニオンの含有量は、π共役系導電性高分子1モルに対して0.1〜10モルの範囲であることが好ましく、1〜7モルの範囲であることがより好ましい。ポリアニオンの含有量が0.1モルより少なくなると、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が弱くなる傾向にあり、導電性が不足することがある。その上、溶媒への分散性及び溶解性が低くなり、均一な分散液を得ることが困難になる。また、ポリアニオンの含有量が10モルより多くなると、帯電防止塗料中のπ共役系導電性高分子の含有量が少なくなり、やはり充分な導電性が得られにくい。
【0024】
[非反応性水溶性シリコーン]
非反応性水溶性シリコーンは、ポリエーテル変性された非反応性水溶性シリコーンである。この非反応性水溶性シリコーンの分子構造としては、直鎖状、環状のいずれであってもよい。非反応性水溶性シリコーンが直鎖状である場合には、ポリエーテルの変性部位はシリコーンの側鎖であってもよいし、シリコーンの末端であってもよい。
【0025】
非反応性水溶性シリコーンのHLB値は、π共役系導電性高分子およびポリアニオンとの相溶性が高くなることから、7〜16であることが好ましい。ここで、HLB値とは、界面活性剤の親水性または親油性の程度を表す値である。具体的には、エチレンオキシド付加型非イオン系界面活性剤について、親油基に付加された親水基が無限に長く、親水性が最も大きい仮想的化合物のHLB値を20と定め、親水基を全く有さない親油性化合物のHLB値を0と定めた際の親水性または親油性の程度を表す値である。
非反応性水溶性シリコーンのHLB値は、{(ポリエーテル部位の質量)/(非反応性水溶性シリコーンの質量)}×(100/5)の式により求められる。
【0026】
非反応性水溶性シリコーンの具体例としては、例えば、信越化学工業社製非反応性シリコーンオイルKF−351、KF−352、KF−354L、KF−355A、KF−618、KF−6011、X−22−4272などが挙げられる。これらの中でも、帯電防止塗料の保存安定性および溶解性に優れることから、KF−355Aが好ましい。
【0027】
帯電防止塗料中の非反応性水溶性シリコーンの含有量は0.01〜5.0質量%であることが好ましい。非反応性水溶性シリコーンの含有量が0.01質量%未満であると、得られる表面潤滑性が充分に発揮されないことがあり、5質量%を超えると、耐ブロッキング性が低下することがある。
【0028】
本発明の帯電防止塗料を構成する非反応性水溶性シリコーンがポリエーテル変性されたものであることにより、水溶性、水分散性、乳化性を高くでき、特に、水系の帯電防止塗料に対して高い溶解性を示す。
また、該シリコーンが非反応性であることにより、帯電防止塗料に含まれる他成分との副反応が抑制されるため、帯電防止塗料の保存性低下を防止できる。
【0029】
[溶媒]
溶媒としては、水及び/又は有機溶媒が挙げられる。
有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンホスホルトリアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等の極性溶媒、クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、D−グルコース、D−グルシトール、イソプレングリコール、ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等の多価脂肪族アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素類、ギ酸、酢酸等のカルボン酸、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル化合物、ジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等の鎖状エーテル類、3−メチル−2−オキサゾリジノン等の複素環化合物、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物としてもよい。
【0030】
[ドーパント]
本発明の帯電防止塗料においては、得られる帯電防止膜の帯電防止性をより向上させるために、ポリアニオン以外の他のドーパントが含まれてもよい。
他のドーパントとしては、ハロゲン化合物、ルイス酸、プロトン酸などが用いられ、具体的には、有機カルボン酸、有機スルホン酸等の有機酸、有機シアノ化合物、フラーレン、水素化フラーレン、水酸化フラーレン、カルボン酸化フラーレン、スルホン酸化フラーレンなどが挙げられる。
【0031】
有機酸としては、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンジスルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン重縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン重縮合物、ナフタレンジスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸、ジナフチルメタンジスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、アントラキノンジスルホン酸、アントラセンスルホン酸、ピレンスルホン酸等の有機スルホン酸化合物、酢酸、シュウ酸、安息香酸、フタル酸、マレイン酸、フマル酸、マロン酸等の有機カルボン酸化合物などが挙げられる。また、これらの金属塩も使用できる。
有機シアノ化合物としては、共役結合に二つ以上のシアノ基を有する化合物が使用できる。例えば、テトラシアノエチレン、テトラシアノエチレンオキサイド、テトラシアノベンゼン、ジクロロジシアノベンゾキノン(DDQ)、テトラシアノキノジメタン、テトラシアノアザナフタレン等が挙げられる。
【0032】
[バインダ樹脂]
また、帯電防止塗料は、得られる帯電防止膜の耐傷性や表面硬度が高くなり、樹脂製の基材との密着性がより高くなることから、バインダ樹脂を含むことが好ましい。帯電防止塗料がバインダ樹脂を含めば、帯電防止塗料から形成された帯電防止膜の鉛筆硬度(JIS K 5600−5−4)をHB以上にしやすい。
バインダ樹脂としては、帯電防止塗料と相溶又は混合分散可能であれば熱硬化性樹脂であってもよいし、熱可塑性樹脂であってもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド;ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド12、ポリアミド11等のポリアミド;ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素樹脂;ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂;エポキシ樹脂;キシレン樹脂;アラミド樹脂;ポリイミドシリコーン;ポリウレタン;ポリウレア;メラミン樹脂;フェノール樹脂;ポリエーテル;アクリル樹脂及びこれらの共重合体等が挙げられる。
これらバインダ樹脂は、有機溶剤に溶解されていてもよいし、スルホ基やカルボキシル基などの官能基が付与されて水溶液化されていてもよいし、乳化など水に分散されていてもよい。
【0033】
バインダ樹脂の中でも、容易に混合できることから、ポリウレタン、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、エポキシ樹脂及びポリイミドシリコーンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂が好ましい。
また、アクリル樹脂は、硬度が硬いとともに透明性に優れるため、光学フィルタのような用途には適している。
【0034】
アクリル樹脂としては熱及び/又は光によって硬化する液状重合体を含むことが好ましい。
ここで、熱により硬化する液状重合体としては、反応型重合体及び自己架橋型重合体が挙げられる。
反応型重合体は、置換基を有する単量体が重合した重合体であり、置換基としては、カルボキシル基、酸無水物、オキセタン系、グリシジル基、アミノ基などが挙げられる。具体的な単量体としては、マロン酸、コハク酸、グルタミン酸、ピメリン酸、アスコルビン酸、フタル酸、アセチルサルチル酸、アジピン酸、イソフタル酸、安息香酸、m−トルイル酸等のカルボン酸化合物、無水マレイン酸、無水フタル酸、ドデシル無水コハク酸、ジクロル無水マレイン酸、テトラクロル無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水ピメリット酸等の酸無水物、3,3−ジメチルオキセタン、3,3−ジクロロメチルオキセタン、3−メチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、アジドメチルメチルオキセタン等のオキセタン化合物、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、フェノールノボラックポリグリシジルエーテル、N,N−ジグリシジル−p−アミノフェノールグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル(すなわち、2,2−ビス(4−グリシジルオキシシクロヘキシル)プロパン)等のグリシジルエーテル化合物、N,N−ジグリシジルアニリン、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、N,N,N,N−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、トリグリシジルイソシアヌレート、N,N−ジグリシジル−5,5−ジアルキルヒダントイン等のグリシジルアミン化合物、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジメチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、ベンジルジメチルアミン、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、DHP30−トリ(2−エチルヘクソエート)、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジシアンジアミド、三フッ化ホウ素、モノエチルアミン、メンタンジアミン、キシレンジアミン、エチルメチルイミダゾール等のアミン化合物、1分子中に2個以上のオキシラン環を含む化合物のうち、ビスフェノールAのエピクロロヒドリンによるグリシジル化合物、あるいはその類似物が挙げられる。
【0035】
反応型重合体においては、少なくとも2官能以上の架橋剤を使用する。その架橋剤としては、例えば、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、金属酸化物などが挙げられる。金属酸化物としては、塩基性金属化合物のAl(OH)、Al(OOC・CH(OOCH)、Al(OOC・CH、ZrO(OCH)、Mg(OOC・CH)、Ca(OH)、Ba(OH)等を適宜使用できる。
【0036】
自己架橋型重合体は、加熱により官能基同士で自己架橋するものであり、例えば、グリシジル基とカルボキシル基を含むもの、あるいは、N−メチロールとカルボキシル基の両方を含むものなどが挙げられる。
【0037】
光によって硬化する液状重合体としては、例えば、ポリエステル、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ポリアクリル、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミドシリコーン等のオリゴマー又はプレポリマーが挙げられる。
光によって硬化する液状重合体を構成する単量体単位としては、例えば、ビスフェノールA・エチレンオキサイド変性ジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(ペンタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート等のアクリレート類、テトラエチレングリコールジメタクリレート、アルキルメタクリレート、アリルメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等のメタクリレート類、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、高級アルコールグリシジルエーデル、1,6−ヘキサンジオールグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類、ダイアセトンアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−ビニルホルムアミド、N−メチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、アクリロイルピペリジン、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド等のアクリル(メタクリル)アミド類、2−クロロエチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、トリエチレングリコールビニルエーテル等のビニルエーテル類、酪酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類の単官能モノマー並びに多官能モノマーが挙げられる。
【0038】
光によって硬化する液状重合体は、光重合開始剤によって硬化する。その光重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、α−アミロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン類などが挙げられる。さらに、光増感剤として、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等を混合できる。
【0039】
また、帯電防止塗料には、得られる帯電防止膜の耐衝撃性を向上させるための合成ゴム成分、耐候性を向上させるための酸化防止剤、紫外線吸収剤などが含まれてもよい。
【0040】
上述した帯電防止塗料は、特定の非反応性水溶性シリコーンを含有することにより、得られる帯電防止膜の透明性を低下させることなく、表面潤滑性を向上させることができる。また、π共役系導電性高分子は電子伝導による導電機構を発揮するから、得られる帯電防止膜は帯電防止性の湿度依存性がない。さらに、上記帯電防止塗料は、無機酸化物から構成されるものではないから、得られる帯電防止膜は可撓性、樹脂製の基材との密着性に優れる。
すなわち、上述した帯電防止塗料は、帯電防止性の湿度依存性がない上に、表面潤滑性が高く、しかも可撓性、樹脂製の基材との密着性、透明性のいずれもが優れた帯電防止膜を形成できるものである。
【0041】
(帯電防止膜)
本発明の帯電防止膜は、上記帯電防止塗料が基材上に塗布されて形成されたものである。帯電防止塗料の塗布方法としては、例えば、浸漬、コンマコート、スプレーコート、ロールコート、グラビアロールコート、スピンコートなどが挙げられる。
帯電防止塗料が塗布される基材としては特に制限されないが、静電気が生じやすい樹脂成形体、特に樹脂フィルムを適用した場合に帯電防止性がとりわけ発揮される。
帯電防止塗料を塗布後、加熱により溶媒を除去し、加熱または光によって硬化させることにより帯電防止膜を得ることができる。
加熱により溶媒を除去する場合の加熱方法としては、例えば、熱風加熱や赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。また、光硬化により帯電防止膜を形成する場合の光照射方法としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプなどの光源から紫外線を照射する方法を採用できる。
【0042】
帯電防止膜においては、全光線透過率(JIS K7361−1)が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、96%以上であることが特に好ましい。
また、ヘイズ(JIS K7105)が5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることが特に好ましい。
さらに、帯電防止膜の表面抵抗値は、帯電防止性を充分に発揮するためには、1×10〜1×1012Ωであることが好ましい。ただし、表面抵抗値は、光学特性との兼ね合いによって適宜調節されることが好ましい。
帯電防止膜の鉛筆硬度は、耐擦過性が高くなることから、B以上であることが好ましく、帯電防止膜がハードコート層を兼ねる場合には、HB以上であることが好ましい。
なお、帯電防止膜の全光線透過率、ヘイズ、表面抵抗値、鉛筆硬度は、帯電防止膜の厚さにより調節できる。
【0043】
帯電防止膜の摩擦係数(静摩擦係数及び動摩擦係数)は小さいことが好ましい。帯電防止膜の摩擦係数が小さければ、表面潤滑性がより高くなり、耐ブロッキング性がより高くなる。具体的には、摩擦係数が0.50以下であることが好ましい。
【0044】
上述した帯電防止膜は、上記帯電防止塗料から形成されたものであるから、帯電防止性の湿度依存性がない上に、表面潤滑性が高く、しかも可撓性、樹脂製の基材との密着性、透明性のいずれもが優れる。
【0045】
(帯電防止フィルム)
帯電防止フィルムは、フィルム基材と、該フィルム基材の少なくとも片面に形成された上記帯電防止膜とを有するものである。
[フィルム基材]
フィルム基材としては特に制限されず、例えば、低密度ポリエチレンフィルム、高密度ポリエチレンフィルム、エチレン−プロピレン共重合体フィルム、ポリプロピレンフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン−メチルメタクリレート共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、6−ナイロンフィルム、6,6−ナイロンフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリスチレンフィルム、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体フィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、トリ酢酸セルロースフィルム、セルロースプロピオネートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリフッ化ビニリデンフィルム、ポリ四フッ化エチレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリサルホンフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンオキシドフィルムなどが挙げられる。
【0046】
これらフィルム基材の表面は通常、親油性であり、水系溶媒に溶解した帯電防止塗料を塗布する場合には、塗布が困難である。そのため、水系溶媒に溶解した帯電防止塗料を塗布して帯電防止膜を形成する場合には、フィルム基材表面にスパッタリング、コロナ放電、火炎、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化などのエッチング処理や下塗り処理などの親水処理をあらかじめ施しておくことが好ましい。さらに、必要に応じて溶剤洗浄や超音波洗浄などにより除塵、清浄化されていてもよい。
【0047】
上述した帯電防止フィルムは、上記帯電防止膜を有するものであるから、帯電防止性の湿度依存性がない上に、表面潤滑性が高く、しかも可撓性、フィルム基材との密着性のいずれもが優れる。
【0048】
(光学フィルタ)
次に、本発明の光学フィルタの一実施形態例について説明する。
図1に、本実施形態例の光学フィルタを示す。この光学フィルタ1は、フィルム基材10と、フィルム基材10上に形成された帯電防止膜20と、帯電防止膜20上に形成された反射防止層30とを有して構成されている。この光学フィルタ1における帯電防止膜20はハードコート層としての役割も果たす。
この光学フィルタ1をディスプレイ装置の表示面に貼り付ける際には、光学フィルタ1のフィルム基材10側の表面に透明な接着剤層を設け、その接着剤層を介して貼り付ける。
【0049】
フィルム基材10としては、透明性を有する各種のプラスチックフィルムを使用できる。透明性プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド、アクリルアミド、セルロースプロピオネートなどからなるフィルムが挙げられる。
光学フィルム1に用いられるフィルム基材10においても、上記帯電防止フィルムと同様に、その表面にスパッタリング、コロナ放電、火炎、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化などのエッチング処理や下塗り処理が施されていることが好ましい。また、フィルム基材10の表面は、帯電防止膜20を設ける前に、必要に応じて溶剤洗浄や超音波洗浄などにより除塵、清浄化されていてもよい。
【0050】
帯電防止膜20は、上述した通りに帯電防止塗料から形成された膜であり、ハードコート層としての役割も果たす膜である。よって、上述したように、この帯電防止膜20は、帯電防止膜の表面硬度(鉛筆硬度)がHB以上であることが好ましい。また、光学用途であるから、帯電防止膜20の全光線透過率(JIS K7361−1)が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、96%以上であることが特に好ましい。また、帯電防止膜20のヘイズ(JIS K7105)が5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることが特に好ましい。
【0051】
反射防止層30は光の反射を防止する層である。この層は単層であってもよいし、多層であってもよい。単層である場合、その屈折率は1.38〜1.45の範囲にあるのが好ましく、また、その光学膜厚は80〜100nmの範囲にあるのが好ましい。
反射防止層30は、乾式法、湿式法のいずれかによって形成できる。乾式法としては、例えば、電子ビーム蒸着法、誘電加熱式蒸着法、抵抗加熱蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法のような物理気相堆積法やプラズマCVD法が挙げられる。乾式法で反射防止層30を形成する場合には、反射防止層30の成分として、例えば、酸化ケイ素、フッ化マグネシウム、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化スズなどの無機化合物を用いることができる。
また、湿式法としては、例えば、コンマコート、スプレーコート、ロールコート、グラビア印刷等の公知の手法により硬化性化合物を含む塗料を塗布し、これを硬化する方法が挙げられる。湿式法で反射防止層30を形成する場合には、硬化性化合物として、例えば、含フッ素有機化合物、含フッ素有機ケイ素化合物、含フッ素無機化合物などの含フッ素化合物を用いることができる。
【0052】
以上説明した光学フィルタ1は、フィルム基材10を保護する帯電防止膜20が形成されており、その帯電防止膜20は上記帯電防止塗料から形成されているので、帯電防止性の安定性に優れたフィルタであり、表面に埃が付着しにくい。その上、この光学フィルタ1は、帯電防止膜20の表面潤滑性が高く、耐ブロッキング性に優れる。しかも、透明性に優れ、フィルム基材10との密着性にも優れている。
そして、このような光学フィルタ1は、液晶画面やプラズマディスプレイ両面の反射防止フィルム、赤外吸収フィルム、電磁波吸収フィルム等に好適に用いられる。
【0053】
なお、本発明の光学フィルタは上述した実施形態例に限定されず、上記帯電防止塗料から形成された帯電防止膜を有していればよい。例えば、フィルム基材の代わりに偏光板を用いることができる。偏光板としては、二色性色素を吸着配向したポリビニルアルコール系樹脂フィルムの片面又は両面に保護フィルムが積層されたものなどが挙げられ、二色性色素としては、ヨウ素、二色染料を用いることができる。このような光学フィルタは、液晶表示装置の最表面に設けることができる。
【0054】
(光情報記録媒体)
本発明の光情報記録媒体の一実施形態例について説明する。
図2に、本実施形態例の光情報記録媒体を示す。この光情報記録媒体2は書換型ディスクであり、ポリカーボネートやポリメチルメタクリレートなどからなる円盤状の透明性樹脂基板40の片面に、第1誘電体層50、光情報記録層60、第2誘電体層70、金属反射層80、帯電防止膜90が順次形成された構造を有したものである。
【0055】
第1誘電体層50及び第2誘電体層70を構成する材料としては、例えば、SiN、SiO、SiO、Taなどの無機系材料を用いることができる。
これらの誘電体層は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの公知の手法によって厚さ10〜500nmで形成される。
【0056】
光情報記録層60を構成する材料としては、例えば、Tb−Fe、Tb−Fe−Co、Dy−Fe−Co、Tb−Dy−Fe−Coなどの無機系の光磁気型記録材料や、TeOx、Te−Ge、Sn−Te−Ge、Bi−Te−Ge、Sb−Te−Ge、Pb−Sn−Te、Tl−In−Seなどの無機系の相変換型記録材料、シアニン系色素、ポリメチン系色素、フタロシアニン系色素、メロシアニン系色素、アズレン系色素、スクアリウム系色素等の有機色素が用いられる。
光情報記録層60が無機系の光磁気型記録材料からなる場合、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの公知の手法によって厚さ10〜999nmで形成することができる。また、有機色素からなる場合、有機色素をアセトン、ジアセトンアルコール、エタノール、メタノール等の溶媒に溶解した溶液を公知の印刷方法又は塗布方法により厚さ10〜999nmで形成することができる。
【0057】
また、金属反射層80は光反射性を示すものであり、Al、Cr、Ni、Ag、Au等の金属及びその酸化物、窒化物などを単独もしくは二種類以上の組み合わせで構成される。この金属反射層80は、スパッタリング又は真空蒸着法により厚さ2〜200nmで形成される。
【0058】
帯電防止膜90は、上記帯電防止塗料から形成されたものである。この帯電防止膜90は、表面硬度をHB以上とすることにより、光情報記録媒体2表面の傷つきを防止でき、また、金属反射層80の酸化を防止できる上に、静電気による塵埃の付着を抑制できる。
帯電防止膜90の厚さは3〜15μmであることが好ましい。帯電防止膜90の厚さは3μmより薄いと、均一な膜を形成するのが困難になる傾向にあり、充分な帯電防止性、耐ブロッキング性を発揮できないことがある。一方、15μmより厚いと内部応力が大きくなり、光情報記録媒体2の機械特性が低下するおそれがある。
【0059】
帯電防止膜90を形成するには、金属反射層80の上に、コンマコート、スプレーコート、ロールコート、グラビア印刷などの公知の手法を用いて、帯電防止塗料を塗布した後、溶媒を乾燥、又は熱や光によって硬化する。
【0060】
以上説明した光情報記録媒体2にあっては、光情報記録層60や金属反射層80を保護する帯電防止膜90が形成されており、その帯電防止膜90は上記帯電防止塗料から形成されている。したがって、帯電防止膜90は帯電防止性を有しているため、静電気による塵埃付着が抑制されており、記録読み取りエラーや書き込みエラーが防止されている。また、この光情報記録媒体2は、帯電防止膜90の表面潤滑性が高く、耐ブロッキング性に優れる。しかも、帯電防止膜90はヘイズが小さく、光線透過率が高いので、読み取り用レーザの波長である780nmと635nmでの透明性に優れる。
【0061】
なお、本発明の光情報記録媒体は上述した実施形態例に限定されず、例えば、光情報記録媒体は追記型ディスクであってもよい。追記型ディスクは、例えば、透明性樹脂基板(有機基材)、光情報記録層、反射金属層、帯電防止膜が順次形成された構造を有する。
【実施例】
【0062】
(実施例1)
14.2gの3,4−エチレンジオキシチオフェンと、36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合させた。
これにより得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、得られた溶液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去し、これに2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。この操作を5回繰り返し、約1.5質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)を含む溶液を得た。この溶液100gに2gのイミダゾールを添加し、さらに、25gの30質量%の水溶性ポリウレタン溶液(レザミンD−6300、大日精化工業社製)を添加して、導電性高分子溶液Aを得た。
得られた導電性高分子溶液Aの100gに、0.01gの非反応性水溶性シリコーン(ポリエーテル変性シリコーンオイルKF−355A、信越化学工業社製)を添加して、帯電防止塗料Aを得た。
【0063】
帯電防止塗料Aを、厚さ144μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上にコンマコーターにより塗布、乾燥して、厚さ約0.1μmの帯電防止膜を形成した。
この帯電防止膜の表面抵抗値を、ローレスタ(三菱化学社製)により測定した。
また、表面潤滑性について、表面性試験機(ヘイドン・トライボギアタイプ14D、新東科学社製)により静摩擦係数および動摩擦係数を、ASTM D1891に従い測定して評価した。その際に用いた磨耗子は不織布であり、63.5mmの平面圧子、速度10mm/分、200gの荷重で測定した。
さらに、得られた帯電防止膜の全光線透過率をJIS K 7361−1にしたがって測定し、ヘイズをJIS K 7105にしたがって測定した。
表面抵抗値、静摩擦係数、動摩擦係数、全光線透過率、ヘイズの結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
(実施例2)
実施例1で得た導電性高分子溶液Aの100gに添加する非反応性水溶性シリコーンの添加量を0.1gに変更したこと以外は実施例1と同様にして帯電防止塗料Bを得た。そして、実施例1と同様にして帯電防止膜を形成し、評価した。評価結果を表1に示す。
【0066】
(実施例3)
実施例1で得た導電性高分子溶液Aの100gに添加する非反応性水溶性シリコーンの添加量を0.5gに変更したこと以外は実施例1と同様にして帯電防止塗料Cを得た。そして、実施例1と同様にして帯電防止膜を形成し、評価した。評価結果を表1に示す。
【0067】
(実施例4)
実施例1で得た導電性高分子溶液Aの100gに添加する非反応性水溶性シリコーンの添加量を1.0gに変更したこと以外は実施例1と同様にして帯電防止塗料Dを得た。そして、実施例1と同様にして帯電防止膜を形成し、評価した。評価結果を表1に示す。
【0068】
(比較例1)
実施例1で得た導電性高分子溶液Aをポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布して帯電防止膜を形成し、評価した。評価結果を表1に示す。
【0069】
(比較例2)
実施例1で得た導電性高分子溶液Aの100gに、0.01gの反応性水溶性シリコーン(アクリル基を有するシラン化合物の加水分解物であるX−12−2400E、信越化学工業社製)を添加して帯電防止塗料Eを得た。そして、実施例1と同様にして帯電防止膜を形成し、評価した。評価結果を表1に示す。
【0070】
(比較例3)
実施例1で得られた導電性高分子溶液Aの100gに添加する反応性水溶性シリコーンの添加量を0.1gに変更したこと以外は実施例1と同様にして帯電防止塗料Fを得た。そして、実施例1と同様にして帯電防止膜を形成し、評価した。評価結果を表1に示す。
【0071】
非反応性水溶性シリコーンを含有する帯電防止塗料を塗布して形成した実施例1〜4の帯電防止膜は、表面抵抗値が高く、帯電防止性に優れており、π共役導電性高分子により導電性を発現しているため、帯電防止性の湿度依存性がない。また、静摩擦係数および動摩擦係数が小さく、表面潤滑性が高く、耐ブロッキング性に優れていた。また、全光線透過率が高く、ヘイズが小さく、透明性に優れていた。さらに、帯電防止膜は樹脂を主成分とするものであるから、ポリエチレンテレフタレート製の基材との密着性に優れていた。
これに対し、反応性水溶性シリコーンを含有する帯電防止塗料を塗布して形成した比較例2,3の帯電防止膜、非反応性水溶性シリコーンのみならず反応性水溶性シリコーンも含有しない帯電防止塗料を塗布して形成した比較例1の帯電防止膜は、静摩擦係数および動摩擦係数が大きく、表面潤滑性が低く、耐ブロッキング性が低かった。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の光フィルタの―実施形態例を示す断面図である。
【図2】本発明の光情報記録媒体の一実施形態例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 光学フィルタ
2 光情報記録媒体
10 フィルム基材
20 帯電防止膜
30 反射防止層
40 透明性樹脂基板
50 第1誘電体層
60 光情報記録層
70 第2誘電体層
80 金属反射層
90 帯電防止膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子と、ポリアニオンと、ポリエーテル変性された非反応性水溶性シリコーンと、溶媒とを含有することを特徴とする帯電防止塗料。
【請求項2】
前記非反応性水溶性シリコーンのHLB値が7〜16であることを特徴とする請求項1に記載の帯電防止塗料。
【請求項3】
バインダ樹脂を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の帯電防止塗料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の帯電防止塗料が塗布されて形成されたことを特徴とする帯電防止膜。
【請求項5】
フィルム基材と、該フィルム基材の少なくとも片面に形成された請求項4に記載の帯電防止膜とを有することを特徴とする帯電防止フィルム。
【請求項6】
請求項4に記載の帯電防止膜を備えることを特徴とする光学フィルタ。
【請求項7】
請求項4に記載の帯電防止膜を備えることを特徴とする光情報記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−308549(P2007−308549A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137397(P2006−137397)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】