説明

帯電防止塗料およびそれを用いた帯電防止材

【課題】導電性および防汚性の維持に優れる帯電防止材ならびにこれに用いる帯電防止塗料の提供。
【解決手段】導電ポリマーおよびドーパント、ならびに/または、ドーパントによってドープ接合されているドープ接合導電ポリマーからなる成分(A)と、
バインダ樹脂(B)と、
下記式(I)で表されるリン酸エステル化合物(C)と、
シリコーン系またはフッ素系の界面活性剤(D)と、
シリコーン系またはフッ素系の微粒子(E)と、を含有する帯電防止塗料。
(Cn2n+1O)mP(O)(OH)3-m ・・・ (I)
(式中、nは1〜24の整数であり、mは1または2である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止塗料およびそれを用いた帯電防止材に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板等に使用される保護フィルム(プロテクトフィルム)は、例えば、基材としてのPETフィルム等の上に帯電防止層を有するものである。
帯電防止層にはバインダ樹脂に第四級アンモニウム塩を混合した塗料が一般的に用いられている。
このような塗料は透明性が優れているものの環境依存性が大きいために、乾燥状態での抵抗値が増大し、帯電防止性が劣ってくることから、近年、透明かつ環境依存性の小さい導電ポリマーをバインダ樹脂に混ぜた帯電防止塗料の検討が進められている。
【0003】
そして、本出願人は、特許文献1において、「導電ポリマーおよびドーパント、またはドーパントによってドープ接合されているドープ接合導電ポリマーと、バインダ樹脂と、式(I):(Cn2n+1O)mP(O)(OH)3-m(式中、nは1〜24の整数であり、mは1または2である。)で表される燐酸エステル化合物および/またはラジカル捕捉機能を有する酸化防止剤とを含有する帯電防止塗料。」を提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−1327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者は、特許文献1に記載の帯電防止塗料について研究を重ねたところ、帯電防止塗料としてリン酸エステル化合物を含有させた帯電防止材(帯電防止層)は、劣化促進試験後においても優れた導電性が維持されものの、防汚性に劣る場合があることを明らかとした。
そこで、本発明は、導電性および防汚性の維持に優れる帯電防止材ならびにこれに用いる帯電防止塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、導電ポリマー、バインダ樹脂および特定の構造を有するリン酸エステル化合物、ならびに、特定の界面活性剤および微粒子を併用する帯電防止塗料を用いることにより、導電性および防汚性の維持に優れる帯電防止材を提供できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記(1)〜(9)を提供する。
【0007】
(1)導電ポリマーおよびドーパント、ならびに/または、ドーパントによってドープ接合されているドープ接合導電ポリマーからなる成分(A)と、
バインダ樹脂(B)と、
下記式(I)で表されるリン酸エステル化合物(C)と、
シリコーン系またはフッ素系の界面活性剤(D)と、
シリコーン系またはフッ素系の微粒子(E)と、を含有する帯電防止塗料。
(Cn2n+1O)mP(O)(OH)3-m ・・・ (I)
(式中、nは1〜24の整数であり、mは1または2である。)
【0008】
(2)上記微粒子(E)の平均粒子径が、0.3μm以下である上記(1)に記載の帯電防止塗料。
【0009】
(3)上記バインダ樹脂(B)の含有量が、上記成分(A)100質量部に対して50〜2000質量部である上記(1)または(2)に記載の帯電防止塗料。
【0010】
(4)上記リン酸エステル化合物(C)の含有量が、上記成分(A)100質量部に対して100〜2000質量部である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の帯電防止塗料。
【0011】
(5)上記界面活性剤(D)の含有量が、上記成分(A)100質量部に対して1000〜3000質量部である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の帯電防止塗料。
【0012】
(6)上記微粒子(E)の含有量が、上記成分(A)100質量部に対して100〜500質量部である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の帯電防止塗料。
【0013】
(7)上記微粒子(E)の含有量が、上記リン酸エステル化合物(C)100質量部に対して5〜100質量部である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の帯電防止塗料。
【0014】
(8)上記式(I)中のnが、1〜4の整数である上記(1)〜(7)のいずれかに記載の帯電防止塗料。
【0015】
(9)基材と、上記基材の上に上記(1)〜(8)のいずれかに記載の帯電防止塗料を用いて得られる帯電防止層とを有する帯電防止材。
【発明の効果】
【0016】
以下に示すように、本発明によれば、導電性および防汚性の維持に優れる帯電防止材ならびにこれに用いる帯電防止塗料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の帯電防止材の一例の断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明の帯電防止塗料は、導電ポリマーおよびドーパント、ならびに/または、ドーパントによってドープ接合されているドープ接合導電ポリマーからなる成分(A)と、バインダ樹脂(B)と、上記式(I)で表されるリン酸エステル化合物(C)と、シリコーン系またはフッ素系の界面活性剤(D)と、シリコーン系またはフッ素系の微粒子(E)と、を含有する帯電防止塗料である。
次に、本発明の帯電防止塗料の各成分について詳述する。
【0019】
〔成分(A)〕
本発明の帯電防止塗料に用いる成分(A)は、導電ポリマーおよびドーパント、ならびに/または、ドーパントによってドープ接合されているドープ接合導電ポリマーである。
【0020】
<導電ポリマーおよびドーパント>
上記導電ポリマーは、10-2S/cm以上の電気伝導度を有する導電性高分子であれば特に限定されず、その具体例としては、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(p−フェニレン)、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリアズレン、ポリピリジンなどの高分子;これらの誘導体;等が好適に挙げられ、これらを1種単独で用いることができ、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、導電性の維持により優れるという理由から、ポリアニリン、ポリアニリンの誘導体が好ましい。
【0021】
本発明においては、上記導電ポリマーの重量平均分子量は、電気抵抗を低くできる(導電性を向上できる)理由から、50,000以上であるのが好ましく、また、電気抵抗を低くでき、かつ、後述するバインダ樹脂(B)との混合性に優れる理由から、50,000〜1,000,000であるのがより好ましく、100,000〜300,000であるのが更に好ましい。
ここで、重量平均分子量は、上記導電ポリマーをジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法を用い、標準試料としてポリスチレンを使用して測定した値である。
【0022】
一方、上記導電ポリマーとともに併用する上記ドーパントは特に限定されず、従来公知のドーパントを用いることができる。
上記ドーパントとしては、具体的には、例えば、スルホコハク酸;アルキルベンゼンスルホン酸;アルキルナフタレンスルホン酸;ヨウ素、臭素、塩素、ヨウ素などのハロゲン化合物;硫酸、塩酸、硝酸、過塩素酸、ホウフッ化水素酸などのプロトン酸;これらプロトン酸の各種塩;三塩化アルミニウム、三塩化鉄、塩化モリブデン、塩化アンチモン、五フッ化ヒ素、五フッ化アンチモンなどのルイス酸;酢酸、トリフルオロ酢酸、ポリエチレンカルボン酸、ギ酸、安息香酸などの有機カルボン酸;これら有機カルボン酸の各種塩;フェノール、ニトロフェノール、シアノフェノールなどのフェノール類;これらフェノール類の各種塩;ベンゼンスルホン酸、ポリエチレンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、アルキルスルホン酸(例えば、ドデシルスルホン酸)、樟脳スルホン酸、銅フタロシアニンテトラスルホン酸、ポルフィリンテトラスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ナフタレンスルホン酸縮合物などの有機スルホン酸;これら有機スルホン酸の各種塩;ポリアクリル酸などの高分子酸;ポリエチレンオキシドドデシルエーテルリン酸エステル、ポリエチレンオキシドアルキルエーテルリン酸エステルなどのポリアルキレンオキシドリン酸エステル;これらリン酸エステルの各種塩;ラウリル硫酸エステル、セチル硫酸エステル、ステアリル硫酸エステル、ラウリルエーテル硫酸エステルなどの硫酸エステル;これら硫酸エステルの各種塩;等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
これらのうち、導電性の維持により優れ、後述するバインダ樹脂(B)との相溶性に優れ、電気抵抗が低くなり導電性に優れるという理由から、下記式(1)で表されるスルホコハク酸、下記式(2)で表されるアルキルベンゼンスルホン酸、および、下記式(3)で表されるアルキルナフタレンスルホン酸からなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましく、中でも、スルホコハク酸とアルキルベンゼンスルホン酸および/またはアルキルナフタレンスルホン酸とを併用するのがより好ましく、スルホコハク酸とアルキルナフタレンスルホン酸とを併用するのが更に好ましい。
【0024】
【化1】

【0025】
上記式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立にアルキル基を表し、炭素数が4〜20のアルキル基が好ましく、入手容易性から炭素数が6〜12のアルキル基がより好ましい。
上記式(1)で表されるスルホコハク酸としては、スルホコハク酸塩(例えば、ナトリウム塩)の形で市販されているものも用いることができる。
【0026】
また、上記式(2)中、R3は、炭素数1〜20のアルキル基を表し、一般的には炭素数が10〜14のアルキル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸およびその塩が市販されている。中でも、価格面等から最も一般的なドデシル基が好ましい。
上記式(2)で表されるアルキルベンゼンスルホン酸としては、例えば、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
ここで、ドデシルベンゼンスルホン酸としては、直鎖型および分岐型のいずれも用いることができ、スルホン酸塩の形で市販されているものも用いることができる。
【0027】
また、上記式(3)中、R4は、炭素数1〜20のアルキル基を表し、炭素数2〜12のアルキル基が好ましく、入手が容易であることから炭素数4〜12のアルキル基がより好ましい。通常市販では、塩の形で扱われており、同様に使用可能である。
【0028】
本発明においては、上記ドーパントは上記導電ポリマーに対して使用されるものであり、その使用量は、導電性に優れるという観点から、上記導電ポリマー100質量部に対して、20〜200質量部であるのが好ましく、40〜100質量部であるのがより好ましい。
なお、上記ドーパントは、必要に応じて後述するドープ接合導電ポリマーに対しても使用することができる。
【0029】
<ドープ接合導電ポリマー>
上記ドープ接合導電ポリマーは、上述した導電ポリマーに対して上述したドーパントが結合している導電ポリマーである。
上記ドープ接合導電ポリマーとしては、具体的には、例えば、上述した導電ポリマーおよびドーパントとして例示したものを組み合わせたものが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、合成時の取扱が容易で、後述するバインダ樹脂(B)に均一に分散することができ、更に、乾燥後の電気抵抗を低くすることができる理由から、導電ポリマーとしてポリアニリンまたはポリアニリンの誘導体を用いたもの(以下、「ドープ接合ポリアニリン」という。)が好ましい。
【0030】
本発明においては、上記ドープ接合導電ポリマーの製造方法は特に限定されないが、以下にドープ接合ポリアニリンの製造方法について説明する。
ドープ接合ポリアニリンの製造方法としては、例えば、アニリンモノマーと、ドーパントと、プロトン酸と、水と、酸化剤とを含む混合液中で、アニリンモノマーを重合させて、ドーパントによってドープ接合されているポリアニリンを得る方法が挙げられる。
具体的には、アニリンモノマーと、ドーパントと、プロトン酸と、水とを混合する混合工程と、混合工程で得られた混合液を−20〜5℃にした後、酸化剤を添加して撹拌し、アニリンモノマーを重合させて、ドーパントによってドープ接合されているポリアニリンを得る重合工程とを具備する製造方法が挙げられる。
【0031】
(混合工程)
上記混合工程は、アニリンモノマーと、ドーパントと、プロトン酸と、水とを混合する工程である。混合方法は、上記の各成分の混合液を得ることができる方法であれば特に限定されない。
上記アニリンモノマーは、アニリン、アニリン誘導体またはこれらの混合物であり、下記式(4)で表される化合物が好適に挙げられる。
【0032】
【化2】

【0033】
上記式(4)中、nは0〜5の整数を表し、R5は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルカノイル基、アルキルチオ基、アリールオキシ基、アルキルスルフィニル基、アルキルチオアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルコキシアルキル基、アルキルスルホニル基、カルボキシ基、ハロゲン基、シアノ基、ハロアルキル基、ニトロアルキル基またはシアノアルキル基であり、水素原子、アルキル基であるのが好ましい。nが2〜5の整数である場合、複数のR5は、同一であっても異なっていてもよい。
【0034】
上記式(4)で表される化合物としては、具体的には、例えば、アニリン、o−トルイジン、m−トルイジン、o−エチルアニリン、m−エチルアニリン、o−エトキシアニリン、m−ブチルアニリン、m−ヘキシルアニリン、m−オクチルアニリン、2,3−ジメチルアニリン、2,5−ジメチルアニリン、2,5−ジメトキシアニリン、o−シアノアニリン、2,5−ジクロロアニリン、2−ブロモアニリン、5−クロロ−2−メトキシアニリン、3−フェノキシアニリン等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、アニリンモノマーの他に、更に他のモノマーを本発明の目的を損なわない範囲で用いてもよい。
【0035】
上記ドーパントは、具体的には、例えば、上述した導電ポリマーとともに別添加するドーパントと同様のものが挙げられ、中でも、上述したスルホコハク酸と、上述したアルキルベンゼンスルホン酸および/またはアルキルナフタレンスルホン酸とを用いるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
ここで、ドーパントの添加時におけるスルホコハク酸とアルキルベンゼンスルホン酸および/またはアルキルナフタレンスルホン酸とのモル比(スルホコハク酸/アルキルベンゼンスルホン酸とアルキルナフタレンスルホン酸の合計)は、ドープ接合導電ポリマーと後述するバインダ樹脂(B)との混合性および電気抵抗のバランスに優れる理由から、10/90〜90/10であるのが好ましく、20/80〜80/20であるのがより好ましく、30/70〜50/50であるのが更に好ましい。
【0036】
また、上記ドーパントの含有量は、アニリンモノマーとドーパントとのモル比(アニリンモノマー/ドーパント)が、100/20〜100/200となる量であるのが好ましく、100/40〜100/100となる量であるのがより好ましい。ドーパントの含有量がこの範囲である場合、導電性に優れ、後述するバインダ樹脂(B)との混合性に優れる。
【0037】
上記プロトン酸は、ポリアニリンの製造に用いることのできるプロトン酸であれば特に限定されず、その具体例としては、塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸などの無機酸;p−トルエンスルホン酸、m−ニトロ安息香酸、トリクロロ酢酸などの有機酸;ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニル硫酸などのポリマー酸;等が挙げられる。
また、上記プロトン酸の添加量は、ポリアニリンの合成は酸性側で進行することから、上記混合液がpH0〜4となる量であるのが好ましい。
【0038】
(重合工程)
上記重合工程は、混合工程で得られた混合液を−20〜5℃にした後、酸化剤を添加して撹拌し、アニリンモノマーを重合させて、ドーパントによってドープ接合されているポリアニリン(ドープ接合ポリアニリン)を得る工程である。
重合工程において、常温下のような比較的高い温度でも重合を行うことができるが、反応が早く、ゲル粒等が生じやすいので、混合工程で得られた混合液を−20〜5℃にした後に重合を行うのが好ましい。重合時間は、特に限定されないが、例えば、上記の温度範囲で5〜48時間程度重合を行うことが好ましい。
冷却方法は、特に限定されず、例えば、通常のウォーターバスにエチレングリコール等を加えれば、0℃以下の冷却も可能となる。
【0039】
ドープ接合ポリアニリンの製造の際に使用される酸化剤は、ポリアニリンの製造に用いることのできる酸化剤であれば特に限定されず、その具体例としては、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、第二塩化鉄等が挙げられる。
また、上記酸化剤の添加量は、アニリンモノマー1モルに対して0.5〜1.5モルが好ましい。
【0040】
(洗浄工程)
ドープ接合導電ポリマーの製造方法は、重合工程の後に、更に、洗浄工程を具備するのが好ましい態様である。洗浄によって、酸化剤の残渣、余分のプロトン酸、ドーパントを流し、ドープ接合導電ポリマーを精製することができる。洗浄工程は、公知の方法によって行うことができる。例えば、重合終了後、メタノールやアセトンを加えて、ポリアニリンを析出し、ろ過する方法等が挙げられる。
以上の製造方法によってドープ接合導電ポリマーを製造することができる。
上記のようにドーパントの存在下でモノマーを重合して得られたドープ接合導電ポリマーは後述するバインダ樹脂(B)に均一に分散させることができるので好ましい。
【0041】
〔バインダ樹脂(B)〕
本発明の帯電防止塗料に用いるバインダ樹脂(B)は、塗料としての性能(例えば、基材への接着性、塗膜性能、作業性等)や導電性を損なわない樹脂であれば特に限定されない。
上記バインダ樹脂(B)としては、具体的には、例えば、オレフィン系樹脂、ナイロン系樹脂、アクリル系樹脂、塩ビ系樹脂、スチレン系樹脂などの熱可塑性樹脂;エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂などの熱硬化性樹脂;等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、上述した成分(A)との相溶性に優れ、乾燥状態での塗膜の強度も良好となる理由から、非晶性のポリエステル樹脂が好ましい。
【0042】
上記非晶性ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート骨格に第3成分を加えた、非晶性で有機溶媒に可溶なポリエステル樹脂が挙げられる。具体的には、東洋紡績社製のバイロン等が好適に挙げられる。
【0043】
本発明においては、上記バインダ樹脂(B)の含有量(固形分)は、基材との接着性に優れ、導電性の維持により優れるという理由から、上記成分(A)100質量部に対して50〜2000質量部であるのが好ましく、100〜1000質量部であるのがより好ましい。
【0044】
〔リン酸エステル化合物(C)〕
本発明の帯電防止塗料に用いるリン酸エステル化合物(C)は、下記式(I)で表される化合物である。
(Cn2n+1O)mP(O)(OH)3-m ・・・ (I)
(式中、nは1〜24の整数であり、mは1または2である。)
【0045】
上記式(I)中、Cn2n+1で表されるアルキル基は、炭素原子数(n)が1〜24のものであり、導電性の維持により優れるという理由から、炭素原子数(n)が1〜4であるのが好ましい。アルキル基は、直鎖であっても分岐していてもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
また、上記式(I)中、mは1または2であり、本発明においては、リン酸エステル化合物(C)として、リン酸モノエステル(m:1)とリン酸ジエステル(m:2)との混合物として使用することができる。リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの混合物としてのリン酸エステル化合物は市販品を用いることができる。
【0046】
上記式(I)で表されるリン酸エステル化合物としては、具体的には、例えば、リン酸メチル、リン酸ジメチル、リン酸エチル、リン酸ジエチル、リン酸プロピル、リン酸イソプロピル、リン酸ジプロピル、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸−2−エチルヘキシル、リン酸イソデシル、リン酸ブトキシエチル、リン酸オレイル、リン酸テトラコシル、リン酸エチレングリコール、リン酸(2−ヒドロキシエチル)メタクリレート等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、不揮発性であり導電性の維持により優れるという理由から、リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸ブチルが好ましい。
【0047】
本発明においては、上記リン酸エステル化合物(C)の含有量は、上記成分(A)100質量部に対して100〜2000質量部であるのが好ましい。
【0048】
〔界面活性剤(D)〕
本発明の帯電防止塗料に用いる界面活性剤(D)は、シリコーン系またはフッ素系の界面活性剤であれば特に限定されない。
【0049】
<シリコーン系界面活性剤>
シリコーン系界面活性剤は、疎水性部分がシリコーン樹脂からなり、この末端および/または側鎖に親水性基が導入された化合物である。
シリコーン樹脂としては、具体的には、例えば、ポリ(ジメチル)シロキサン、メチルフェニルジメチルポリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン・ポリメチルフェニルシロキサンコポリマー、ポリメチルシロキサン、テトラメチルポリメチルシロキサン、ポリメチルシロキサン・ポリジメチルシロキサンコポリマー;これらの側鎖のメチル基の一部または全てがフェニル基や水素原子等に置換されたもの:等が挙げられる。
また、このシリコーン樹脂に導入される親水性基としては、具体的には、例えば、ポリエーテル基、ポリグリセリン基、ピロリドン基、ベタイン基、硫酸塩基、水酸基、カルボキシル基、リン酸塩基、4級アンモニウム塩基等が挙げられる。
【0050】
このようなシリコーン系界面活性剤としては、例えば、BYk3700、BYk306、BYk307(いずれもビックケミー社製)、SH7PA、SH21PA、SH28PA、SH30PA(いずれも東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)、TroysolS366(トロイケミカル社製)等の市販品を用いることができる。
【0051】
<フッ素系界面活性剤>
フッ素系界面活性剤は、フッ素を含有する界面活性剤をいい、通常、炭化水素系界面活性剤の疎水基の水素原子をフッ素原子で全部あるいは一部置換したものである。
フッ素系界面活性剤としては、具体的には、例えば、1,1,2,2−テトラフロロオクチル(1,1,2,2−テトラフロロプロピル)エーテル、1,1,2,2−テトラフロロオクチルヘキシルエーテル、オクタエチレングリコールジ(1,1,2,2−テトラフロロブチル)エーテル、ヘキサエチレングリコール(1,1,2,2,3,3−ヘキサフロロペンチル)エーテル、オクタプロピレングリコールジ(1,1,2,2−テトラフロロブチル)エーテル、ヘキサプロピレングリコールジ(1,1,2,2,3,3−ヘキサフロロペンチル)エーテル、パーフロロドデシルスルホン酸ナトリウム、1,1,2,2,8,8,9,9,10,10−デカフロロドデカン、1,1,2,2,3,3−ヘキサフロロデカン、N−[3−(パーフルオロオクタンスルホンアミド)プロピル]-N,N‘−ジメチル−N−カルボキシメチレンアンモニウムベタイン、パーフルオロアルキルスルホンアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキル−N−エチルスルホニルグリシン塩、リン酸ビス(N−パーフルオロオクチルスルホニル−N−エチルアミノエチル)、モノパーフルオロアルキルエチルリン酸エステル等が挙げられる。
【0052】
このようなフッ素系界面活性剤としては、例えば、メガファックF477、メガファックF142D、メガファックF172、メガファックF173、メガファックF183(いずれも大日本インキ化学工業社製)、エフトップEF301、エフトップ303、エフトップ352(いずれも新秋田化成社製)、フロラードFC−430、フロラードFC−431(住友スリーエム社製)、アサヒガードAG710、サーフロンS−382、サーフロンSC−101、サーフロンSC−102、サーフロンSC−103、サーフロンSC−104、サーフロンSC−105、サーフロンSC−106(いずれも旭硝子社製)、BM−1000、BM−1100(いずれも裕商社製)、NBX−15(ネオス社製)等の市販品を用いることができる。
【0053】
本発明においては、上記界面活性剤(D)の含有量は、上記成分(A)100質量部に対して1000〜3000質量部であるのが好ましい。
【0054】
〔微粒子(E)〕
本発明の帯電防止塗料に用いる微粒子(E)は、シリコーン系またはフッ素系の微粒子であれば特に限定されない。
【0055】
<シリコーン系微粒子>
シリコーン系微粒子は特に限定されず、その具体例としては、3官能性または4官能性シロキサンを主構成単位とする強固な三次元網目構造を有するシリコーン樹脂;2官能性シロキサンを構成成分として多く含み、ゴム弾性を有するシリコーンゴム;ポリオルガノシロキサンとラジカル重合性単量体(例えば、アクリル酸など)との共重合体であるシリコーン系共重合体;等からなる微粒子が挙げられる。
【0056】
このようなシリコーン系微粒子としては、例えば、XC99−A8808(平均粒子径:0.2μm、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)、トスパール120(平均粒子径:2μm、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)、KMP X52−854(平均粒子径:0.8μm、信越シリコーン社製)等の市販品を用いることができる。
【0057】
<フッ素系微粒子>
含フッ素化合物系微粒子は特に限定されず、その具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)、フッ化黒鉛等からなる微粒子が挙げられる。
【0058】
このようなフッ素系微粒子としては、例えば、ルブロンL2(平均粒子径:0.2μm、ダイキン社製)、ルブロンL5(平均粒子径:0.5μm、ダイキン社製)、ダイニオンマイクロパウダーTF9207(平均粒子径:4μm、住友スリーエム社製)等の市販品を用いることができる。
【0059】
本発明においては、上記微粒子(E)の平均粒子径は、本発明の帯電防止塗料を用いた本発明の帯電防止材のヘイズ率が低くなり、透明性が良好となる理由から、0.3μm以下であるのが好ましい。
ここで、平均粒子径とは、微粒子(E)を中性洗剤含有水溶液で分散させ、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、SALD2000J(登録商標、島津製作所製)等)を用いて測定された50%体積累積径(D50)を意味する。
【0060】
また、本発明においては、上記微粒子(E)の含有量は、上記成分(A)100質量部に対して100〜500質量部であるのが好ましい。
【0061】
本発明の帯電防止塗料は、上記リン酸エステル化合物(C)とともに、上記界面活性剤(D)および上記微粒子(E)を併用することにより、導電性および防汚性の維持に優れる帯電防止材を提供することができる。
これは、上記リン酸エステル化合物(C)が、本発明の帯電防止材が置かれる環境(例えば、大気中)に存在するイオン性不純物(例えば、アンモニウムイオン等)をトラップし、イオン性不純物がドーパントと結合して上述した成分(A)の導電性が失活するのを防ぐことができるためと考えられる。
また、上記界面活性剤(D)が、塗布直後に塗膜表面に存在(ブリードアウト)することにより初期の防汚性を担保するとともに、上記微粒子(E)が、塗膜表面の接触角を高い状態に維持することにより経時的な防汚性も担保することができるためと考えられる。これは、後述する比較例1に示すように、上記微粒子(E)を含有せずに調製した帯電防止塗料を用いると、初期の防汚性(接触角)は優れるものの劣化促進試験後においては防汚性が劣る結果となることからも推測できる。
【0062】
本発明においては、防汚性の維持がより優れる理由から、上記微粒子(E)の含有量が、上記リン酸エステル化合物(C)100質量部に対して5〜100質量部であるのが好ましい。
【0063】
本発明の帯電防止塗料は、低粘度化でき、作業性を向上できる点から、更に、溶媒を含有するのが好ましい。
溶媒としては、具体的には、例えば、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、他の成分との相溶性および揮発性に優れる理由から、トルエン、MEKが好ましい。
【0064】
本発明においては、所望により含有してもよい溶媒の含有量は、帯電防止塗料を塗布する際の作業性や、塗膜の性能(抵抗値、強度等)に応じて最適な膜厚にするために、自由に設定することができる。例えば、バインダ樹脂(B)100質量部に対して、100〜100,000質量部とすることができる。
【0065】
本発明の帯電防止塗料は、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、例えば、充填剤、反応遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、界面活性剤、分散剤、脱水剤、接着付与剤等の添加剤を含有することができる。
【0066】
本発明の帯電防止塗料の製造方法は特に限定されないが、例えば、上記バインダ樹脂(B)を予め溶媒に溶解または分散させてバインダ樹脂溶液を調製した後に、得られたバインダ樹脂溶液に対して、上記成分(A)、上記リン酸エステル化合物(C)、上記界面活性剤(D)および上記微粒子(E)ならびに必要に応じて使用することができる添加剤と加えて混合する方法等により製造することができる。
【0067】
本発明の帯電防止材は、基材と、上記基材上に本発明の帯電防止塗料を用いて得られる帯電防止層とを有する帯電防止材である。
図1に、本発明の帯電防止材の一例の断面を模式的に示す。
図1において、本発明の帯電防止材100は、基材101と、基材101の上の帯電防止層102とを有する。
また、図1に示すように、本発明の帯電防止材100は、帯電防止層102の反対側に粘着層103を有することができる。
【0068】
上記基材101は特に限定されないが、透明なフィルムが好適に例示される。
透明なフィルムとしては、具体的には、例えば、ポリエステル;ナイロン;ポリオレフィン等のフィルムが挙げられる。
これらのうち、帯電防止層との接着性に優れる点からポリエステル系フィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)がより好ましい。
【0069】
上記帯電防止層102は、本発明の帯電防止塗料を用いて形成される。
また、上記帯電防止層102の表面抵抗は、1×104〜1×1012Ω/□であるのが好ましく、1×106〜1×1010Ω/□であるのがより好ましい。ここで、表面抵抗は、抵抗測定器(ダイアインスツルメンツ社製、ハイレスタIPとHRプローブ)を用いて測定をいう。
更に、上記帯電防止層102の厚さは、コスト、製造スピードの点から、0.01μm〜2mmであるのが好ましく、0.05μm〜0.5μmであるのがより好ましい。
【0070】
本発明の帯電防止材は、帯電防止層に本発明の帯電防止塗料を用いているため、導電性および防汚性の維持に優れ、また、基材(特にPETフィルム)と帯電防止層との接着性に優れているため、例えば、電子部品、電子材料等の包装材、保護フィルム;医療機関、クリーンルーム等の埃の存在が問題とされる場所等で使用される化粧材またはカーテン等の内装材;家電製品のハウジング等として好適に使用される。
【0071】
本発明の帯電防止材の製造方法としては、例えば、基材に本発明の帯電防止塗料を塗布する塗布工程と、基材に塗布された本発明の帯電防止塗料を乾燥させる乾燥工程とを有するもの;基材と帯電防止塗料との2層押出方法;射出成形によるサンドイッチ方法;2枚のフィルムの熱融着;等が挙げられる。
【0072】
以下に、基材に本発明の帯電防止塗料を塗布する塗布工程と、基材に塗布された本発明の帯電防止塗料を乾燥させる乾燥工程について説明する。
塗布工程において、基材に本発明の帯電防止塗料を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、グラビア印刷、スクリーン印刷、ハケ塗り法、スプレーコーティング法、ワイヤバー法、ブレード法、ロールコーティング法、ディッピング法等が挙げられる。
本発明においてスピンコートを採用する場合、1分間当りの回転数を2,000回転と設定し、主に溶媒の乾燥のために20秒間回転させるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0073】
乾燥工程においては、基材に塗布された帯電防止塗料を乾燥させて帯電防止層とし、本発明の帯電防止材とすることができる。
上記乾燥温度は、80〜100℃であるのが好ましい。
【実施例】
【0074】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0075】
1.ドープ接合導電ポリマーの製造(合成例1)
第1表に示す配合1の各成分を同表に示す量(質量部)500mlのフラスコに入れて混合した。この混合液をウォーターバス内で0℃に冷却した後、配合2(過硫酸アンモニウム2.7質量部と水20質量部との混合液)を加えて撹拌し、12時間酸化重合させた。
次に、メタノールを加えてポリアニリンを析出させ、ろ過して得られた固体を多量の蒸留水によって洗浄し、ドープ接合導電ポリマーとしてのスルホン酸基が接合したポリアニリンを得た。得られたポリアニリンをトルエンに分散し、スルホン酸基が接合したポリアニリンを4質量%含む分散液を製造した。得られた分散液をドープ接合導電ポリマー分散液A1とする。
【0076】
また、得られたドープ接合導電ポリマー分散液を0.1g取り、ジメチルホルムアミド10gに溶解させた後、0.1%アンモニア水2滴を加えて脱ドープさせた。その後、フィルタでろ過したポリアニリンをGPCにより重量平均分子量を測定した。
【0077】
【表1】

【0078】
第1表に示す各成分は下記のとおりである。
・アニリンモノマー:試薬、関東化学社製
・スルホコハク酸ナトリウム:ジ−2−エチルへキシルスルホコハク酸ナトリウム、リパール860K、ライオンアクゾ社製、固形分35質量%
・ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム:ペレックスNBL、花王社製、固形分35質量%
・塩酸:試薬、アルドリッチ社製、6N塩酸
・過硫酸アンモニウム:試薬、アルドリッチ社製
【0079】
2.帯電防止塗料の調製(実施例1〜13、比較例1〜4)
第2表に示す成分を同表に示す量(質量部)で用いて均一に混合し、帯電防止塗料を調製した。
【0080】
3.帯電防止材の製造
PETフィルム(厚さ25μm)をスピンコータに設置し、得られた帯電防止塗料1.0gをPETフィルム上に付与し、スピンコータを1分間当たり2,000回転の設定で20秒間回転させて、帯電防止塗料をPETフィルムに塗布し、帯電防止塗料の塗膜を有するフィルム(帯電防止材)を得た。
【0081】
4.評価
得られた帯電防止材について、以下に示す評価方法により外観、ヘイズ率、PET接着性、表面抵抗および接触角を評価した。結果を第2表に示す。
【0082】
(1)外観
得られた帯電防止材の表面(塗膜側)を目視にて観察し、塗膜が透明で均一に塗布されているものを「○」、塗膜は均一であるがくもりのあるものを「△」、導電ポリマーが凝集してしまい塗膜を形成できないものを「×」とした。
【0083】
(2)ヘイズ率
JIS K7361−1:1997に従い、得られた帯電防止材から切り出した測定用サンプル(30mm×30mm)について、ヘイズメーター(HM150、村上色彩技術研究所社製)を用いてヘイズ率を測定した。
【0084】
(3)PET接着性
得られた帯電防止塗料を厚さ25μmのPETフィルム上にスピンコーターを用いて塗布した後、オーブンで100℃、1分間乾燥して、PETフィルム上に帯電防止層を形成した。
形成した帯電防止層にカッターナイフで1mmの碁盤目100個(縦10列×横10列)を作り、碁盤目上にセロハンテープで完全に付着させた後、セロハンテープを瞬間的に引きはがし、はがれないで残った碁盤目の個数を調べた。
【0085】
(4)表面抵抗
得られた帯電防止材について、抵抗測定器(ダイアインスツルメンツ社製、ハイレスタIPとHRプローブ)を用い、25℃、50%RHの条件下において100Vにおける帯電防止層の表面抵抗(初期表面抵抗)を測定した。
また、得られた帯電防止材を80℃のオーブン中に1週間置く劣化促進試験を行い、劣化促進試験後に得られた帯電防止材を用いて上記と同様にして帯電防止層の表面抵抗(促進後表面抵抗)を測定した。
いずれの表面抵抗も1.0×1010Ω/□以下であれば、導電性の維持が良好であると評価できる。
【0086】
(5)接触角
得られた帯電防止材について、25℃、65%RHの条件下において水に対する接触角(初期接触角)を測定した。接触角測定装置としては、CA−Z型(協和界面科学社製)を用いた。
また、得られた帯電防止材を80℃のオーブン中に1週間置く劣化促進試験を行い、劣化促進試験後に得られた帯電防止材を用いて上記と同様にして帯電防止層の接触角(促進後接触角)を測定した。
いずれの接触角も80度以上であれば、防汚性の維持が良好であると評価できる。
【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
第2表に示す成分の詳細は以下のとおりである。
・ドープ接合導電ポリマー分散液A1:合成例1のとおり製造したドープ接合導電ポリマー分散液(固形分:4%)
・バインダ樹脂溶液B1:非晶性ポリエステル樹脂(バイロン200、東洋紡績社製)30質量部をメチルエチルケトン70質量部に溶解または分散させて得た溶液
・リン酸エステル化合物C1:リン酸エチル[(C25O)mP(O)(OH)3-m、m=1、2]、商品名JP−502、城北化学工業社製
・シリコーン系界面活性剤D1:BYk3700(ビックケミー社製)
・フッ素系界面活性剤D2:メガファックF477(大日本インキ化学工業社製)
・界面活性剤1:陰イオン系界面活性剤(ネオぺレックスGS、花王社製)
・シリコーン系微粒子E1:XC99−A8808(平均粒子径:0.2μm、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)
・フッ素系微粒子E2:ルブロンL2(平均粒子径:0.2μm、ダイキン社製)
・フッ素系微粒子E3:ルブロンL5(平均粒子径:0.5μm、ダイキン社製)
・微粒子1:シリカ微粒子(X24−9163A、平均粒子径:0.1μm、信越化学工業社製)
【0091】
第2表に示す結果から明らかなように、シリコーン系またはフッ素系の微粒子を配合せずに調製した比較例1および2の帯電防止塗料を用いた帯電防止材は、導電性の維持に優れるものの劣化促進後の防汚性に劣ることが分かった。
また、シリコーン系またはフッ素系の界面活性剤を配合せずに調製した比較例3および4の帯電防止塗料を用いた帯電防止材は、導電性の維持に優れるものの初期の防汚性に劣ることが分かった。
これに対し、シリコーン系またはフッ素系の界面活性剤とともに微粒子も配合して調製した実施例1〜13の帯電防止塗料を用いた帯電防止材は、導電性および防汚性の維持に優れることが分かった。
【符号の説明】
【0092】
100 本発明の帯電防止材
101 基材
102 帯電防止層
103 粘着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電ポリマーおよびドーパント、ならびに/または、ドーパントによってドープ接合されているドープ接合導電ポリマーからなる成分(A)と、
バインダ樹脂(B)と、
下記式(I)で表されるリン酸エステル化合物(C)と、
シリコーン系またはフッ素系の界面活性剤(D)と、
シリコーン系またはフッ素系の微粒子(E)と、を含有する帯電防止塗料。
(Cn2n+1O)mP(O)(OH)3-m ・・・ (I)
(式中、nは1〜24の整数であり、mは1または2である。)
【請求項2】
前記微粒子(E)の平均粒子径が、0.3μm以下である請求項1に記載の帯電防止塗料。
【請求項3】
前記バインダ樹脂(B)の含有量が、前記成分(A)100質量部に対して50〜2000質量部である請求項1または2に記載の帯電防止塗料。
【請求項4】
前記リン酸エステル化合物(C)の含有量が、前記成分(A)100質量部に対して100〜2000質量部である請求項1〜3のいずれかに記載の帯電防止塗料。
【請求項5】
前記界面活性剤(D)の含有量が、前記成分(A)100質量部に対して1000〜3000質量部である請求項1〜4のいずれかに記載の帯電防止塗料。
【請求項6】
前記微粒子(E)の含有量が、前記成分(A)100質量部に対して100〜500質量部である請求項1〜5のいずれかに記載の帯電防止塗料。
【請求項7】
前記微粒子(E)の含有量が、前記リン酸エステル化合物(C)100質量部に対して5〜100質量部である請求項1〜6のいずれかに記載の帯電防止塗料。
【請求項8】
前記式(I)中のnが、1〜4の整数である請求項1〜7のいずれかに記載の帯電防止塗料。
【請求項9】
基材と、前記基材の上に請求項1〜8のいずれかに記載の帯電防止塗料を用いて得られる帯電防止層とを有する帯電防止材。

【図1】
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【公開番号】特開2012−51959(P2012−51959A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193178(P2010−193178)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】