説明

帯電防止性に優れた制電性組成物、それを用いた成型品、塗料、制電性被覆物、粘着剤及びその製造方法

【課題】透明性を維持したまま、優れた制電性を発揮する、プラスチックやガラスなどの成形物の面の帯電防止に利用できる制電性組成物を提供する。
【解決手段】制電剤として、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を包摂させた、フォーカルポイント(focal point)から分岐した構造を持つ多分岐性分子を用いる。これを、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂中に分散させてなる制電性組成物は、透明性を低下させず、しかも優れた制電性を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に帯電防止性に優れた制電性組成物に関し、より特定的には透明性を損なわないように改良された制電性組成物に関する。この発明はまたそのような制電性組成物の製造方法に関する。この発明はさらにそのような制電性組成物を用いた成型品、塗料、制電性被覆物、粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックやガラスなどの成形物の面が帯電し、その面に埃などが付着して汚れの原因となる、静電気の高い電圧に起因してICやLSIなどの破壊・不良が起こる電磁波ノイズにより電子機器の誤作動が起こるなどの、静電気に関する問題がクローズアップされている。そのため、樹脂に制電性を付与することが重要となってきている。
【0003】
樹脂に制電性を付与する方法として、界面活性剤などの帯電防止剤を樹脂表面に塗布する方法や、帯電防止剤を樹脂に練り込む方法が知られている。しかし、帯電防止剤を樹脂表面に塗布する方法では、長期間経過すると制電性が著しく低下するため、持続性を有する制電性樹脂として実用性に乏しいという問題がある。
【0004】
一方、帯電防止剤を単に樹脂に練り込む方法では、帯電防止剤と樹脂との相溶性が悪く、帯電防止剤が成形品の表面にブリードアウトしてしまい、制電効果が低下するという問題がある。また、界面活性剤などの帯電防止剤は湿度依存性があり、低湿度下では制電効果が失活する、あるいは樹脂を形成した後に帯電防止効果が発現するまで最低1〜3日かかり遅効性であるという問題がある。
【0005】
このような問題を解決するために、本発明者らは、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含むリチウム塩をポリアルキレンオキサイド樹脂中に分散させてなる、帯電防止性に優れた制電性組成物を提案した(特許文献1)。
【0006】
なお、本発明の参考例に関連して、特許文献2では、コア−シェル型構造を有してなる、濃度に依存せず安定に高分子ミセル様の形態を保持することができる多分岐性高分子が開示されていた。これはデンドリマーと呼ばれている物質である。デンドリマー (dendrimer)は、中心から規則的に分岐した構造を持つ樹枝状高分子である。デンドリマーは、コア(core)と呼ばれる中心分子と、デンドロン(dendron)と呼ばれる側鎖部分から構成される。また、デンドロン部分の分岐回数を世代 (generation)と言い表す。一般に高分子はある程度の分子量分布を持つが、高世代のデンドリマーは、分子量数万に達するもののほとんど単一分子量であるという、際立った特徴を持つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO 03/011973A
【特許文献2】特開2009−185179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さて、特許文献1に開示される技術においては、帯電防止性に優れた制電性組成物は得られるものの、リチウム塩を担持するポリアルキレンオキサイド樹脂の分子量が大きいため、ブレンドする樹脂と、このポリアルキレンオキサイド樹脂との屈折率差が大きい場合、得られる塗膜の透明性が低下するという課題があった。
【0009】
この発明は、このような課題を解決するためになされたもので、透明性を低下させない、しかも制電性の優れた制電性組成物を提供することを目的とする。
【0010】
この発明の他の目的は、そのような制電性組成物を用いた成型品、塗料、制電性被覆物、粘着剤及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
さて、本発明の参考例に関連する上記特許文献2に開示される多分岐性分子は、図1に示すような、コアが多分岐性の例えばポリアミンから成り、シェルが多分岐性のポリエーテルから成る、高分子ミセル様の形態を保持する。図では、作図の便宜上、2次元平面で描かれているが、シェルは、コアを3次元的に取り囲んでいる。クラウンエーテルのように、2次元平面上にあるのではない。この高分子ミセルは、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の薬物キャリヤー及び遺伝子治療のベクターとしての応用や、塗料、接着剤等の工業材料及び無機材料のナノスケール、メソスケールの構造体形成のテンプレートとしての利用が期待されているものである。
【0012】
このように、コアが多分岐性のポリアミンから成り、シェルが多分岐性ポリエーテルから成るコア−シェル型多分岐性高分子は、シェルの多分岐性のポリエーテルが多分岐性高分子であるため、濃度に依存せずに、ミセル様の構造を安定に形成することができる。そして、高い濃度としても、流動性を保有させることが可能になる。
【0013】
本発明者らは、多分岐性高分子の持つこの興味ある特性を鋭意研究していた所、不対電子を有する多分岐性分子(上記多分岐性高分子及びそれより分子量が小さい多分岐性オリゴマーを含む概念で用いている)に、超強酸の共役塩基であるフルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含むリチウム塩が包摂されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明に係る制電性組成物は、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を包摂させた、フォーカルポイント(focal point)から分岐した構造を持つ多分岐性分子を含む。上記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を包摂させた多分岐性分子を、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂中に分散させてなる。
【0015】
「フォーカルポイントから分岐した構造を持つ多分岐性分子」という表現は、デンドリマーをもちろん含むが、デンドリマーのみを指すものでなく、デンドリマーに似た性質を持つが、分岐が不完全な多分散の樹枝状分子を含むものとしている。さらに、デンドリマーの前躯体として適用することもできるものも含む。後述するデンドロンも含む。後述する図1,3,5,は、多分岐性分子の中のデンドリマーを示す。図2,4,6,7,8,9は、分岐が不完全な多分散の樹枝状分子を示す。本明細書ではこれらいずれも含む。本明細書で、多分岐性分子という語句は、線状分子でないということで、後述するHyperbranched polymer(超分岐性高分子)をやや広げた概念で用いている。また、上記多分岐性分子はオリゴマーも含む。図7は、フォーカルポイントから分岐した構造を持つオリゴマーを示し、上記多分岐性分子に含まれるものとする。また、反応により多分岐性分子を形成する化合物、オリゴマーを含む。
【0016】
本明細書で、「分散」とは、上記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を包摂させた多分岐性分子が、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂中に微粒子状になって散在する現象をいうものとする。
【0017】
上記多分岐性分子は、ナノレベルの大きさの粒子であり、光が衝突し、これを反射させるほどの大きさを有しないので、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂中に分散させても、光の通過を妨げることがなく、透明性を低下させない。オリゴマーは、上記多分岐性分子よりもさらに粒径が小さい。
【0018】
本発明に用いる多分岐性分子を含む制電性組成物は、特性に悪影響を与えない程度で、少量又は微量の他の化合物を含んでもよい。
【0019】
本発明に用いる多分岐性分子を含む制電性組成物の製造において、出発原料となる例えば分岐性のポリアミンとしては、ポリエチレンイミン(PEI)や、ポリプロピレンイミンデンドリマーが挙げられる。
【0020】
次に、多分岐性のポリエーテルとしては、例えば、ポリグリセリンポリエチレングリコールポリアクリレート、ポリエーテル変性アクロイル基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性アクロイル基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリグリセロール(PGL)が挙げられる。さらに、水酸基と三員環の環状エーテルとを有する化合物としては、グリシドール等が挙げられる。
【0021】
なお、環状エーテルには、四員環以上のものも存在するが、四員環以上では、分岐性ポリアミンのアミンと付加反応を起こさない、もしくは起こしにくいので、好ましくない。
【0022】
多分岐性のポリアミンに、水酸基と三員環の環状エーテルとを有する化合物を反応させる際には、好ましくは、多分岐性のポリアミンを加熱する。これにより、反応の進行を促進することができる。例えば、多分岐性のポリエチレンイミンにグリシドールを反応させる場合には、ポリエチレンイミンを60℃程度に加熱すればよい。
【0023】
オリゴマーである、多分岐性のポリエステルとしては、ポリオキシエチレン(6)ソルビタンテトラオレート、ポリオキシプロピレン(20)ソルビタンテトラオレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレン(6)トリグリセリンステアレート、ポリオキシエチレン(6)トリグリセリンオレート、ポリオキシエチレン(5)グリセリンモノステアレート、ポリオキシプロピレン(6)トリグリセリン等が挙げられる(カッコ内の数字は付加モル数である)。
【0024】
上記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩は、好ましくは、上記多分岐性分子100質量部に対して、0.01質量部以上50質量部以下の割合で、上記多分岐性分子に包摂されているのが好ましい。
【0025】
上記重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂100質量部に対して、上記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を包摂させた多分岐性分子は、0.01質量部以上30質量部以下含まれるのが好ましい。
【0026】
上記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンは、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオン、トリス(フルオロアルキルスルホニル)メチドイオン及びフルオロアルキルスルホン酸イオンからなる群より選ばれた陰イオンであるのが好ましい。これらは超強酸といわれるものの共役塩基である。
【0027】
上記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩は、アルカリ金属、2A元素、遷移金属、両性金属のいずれかの陽イオンと、上記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンからなる塩であるのが好ましい。
【0028】
上記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩が、例えば式(1)で示されるビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオンのアルカリ金属塩、例えば式(2)で示されるトリス(フルオロアルキルスルホニル)メチドイオンのアルカリ金属塩、及び例えば式(3)で示されるフルオロアルキルスルホン酸のアルカリ金属塩から選ばれた塩であるのが好ましい。
【化1】


【化2】


【化3】

【0029】
本明細書で、重合性化合物とは、重合する官能基を有する化合物をいい、例えばアクリレート基、メタクリレート基、ビニル基などを有する重合性化合物が挙げられる。態様としては、モノマー、オリゴマー、あるいは活性エネルギー線硬化性官能基を分子内に3つ以上有するものが挙げられる。
【0030】
モノマーとしては、例えば、単官能性のもの:例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、2−ジシクロペンテノキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、その水素添加物、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクロイルモルホリンなどの単官能アクリレートなど、二官能性のもの:ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−へプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2−ブチン−1,4−ジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、水素化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカニルジ(メタ)アクリレート、その水素添加物、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス−(4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス−(4−(メタ)アクリロキシ(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、ビス−(2−メタアクロイルオキシエチル)フタレートなどの二官能アクリレート、多官能性のもの:トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレートなどの多官能アクリレートが挙げられる。また、分子内に少なくとも3個の水酸基を炭素数3〜16までの低分子多価アルコール、あるいは該低分子多価アルコールにε−カプロラクトンなどのラクトン化合物を付加させて鎖延長させたポリオールも使用できる。具体的には、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,4−ブタントリオール、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、グリセリン、これらの混合物、およびこれらとε−カプロラクトン、γ−カプロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−ブチロラクトンなどのラクトン化合物との付加物などが例示される。他に、シリケートオリゴマーなどが例示される。
【0031】
粘着性を確保するという点では、炭素数が4〜12のアクリルモノマーを共重合することが好ましい。
【0032】
さらに、活性化エネルギー線硬化性の(メタ)アクリレート系化合物として、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸5−ビニロキシペンチル、(メタ)アクリル酸6−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸p−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチルなどを挙げることができる。
【0033】
オリゴマーとしては、例えば、不飽和ポリエステル、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、アクリル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。この中でも、ポリエチレングリコールのモノ又はジ(メタ)アクリレートは好ましく用いられる。その中でもオキシエチレン単位を少なくとも6個有するものが特に好ましく用いられる。ポリエチレングリコールのモノ又はジ(メタ)アクリレートは帯電防止性を有しており、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを備えた塩と相乗してその効果を高める。
【0034】
3つ以上官能基を有するオリゴマーとしては、例えば、ジイソシアネート:ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなどと、水酸基含有(メタ)アクリレート:2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの単官能のもの、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどの3官能以上のものとを反応してなるものなどが挙げられる。
【0035】
上記ポリアルキレングリコール(ジ/モノ)アルキルエーテル化合物としては、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ヘプタエチレングリコールジメチルエーテル、ヘキサエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、(ドデシルオキシ)トリエチレングリコールモノメチルエーテル及び(ドデシルオキシ)テトラエチレングリコールモノメチルエーテルなどを挙げることができる。
【0036】
上記樹脂としては、公知の樹脂が使用できる。具体的には、セルロース誘導体(ニトロセルロース、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロースなど)、ビニル樹脂(塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリブテン、ポリブタジエンなど)、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール、飽和ポリエステル樹脂、フッ素樹脂(ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂など)などの非反応型塗料用樹脂や、アルキド樹脂、アミノ樹脂(ブチル化尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂など)、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂(ノボラック型フェノール樹脂、アルキルフェノール変性樹脂など)、アクリル樹脂(メタクリル樹脂など)、ポリイミド、シリコーン樹脂などの反応型塗料用樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独でも、二種以上を組み合わせても使用できる。反応型塗料用樹脂は、たとえばアルキド樹脂、アミノ樹脂などのような1液反応型であっても、エポキシ樹脂やポリウレタンなどのような2液反応型であっても良い。
【0037】
上記エラストマーとしては、架橋性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマーなどのポリウレタンエラストマーが好ましいが、これに限られない。
【0038】
上記粘着性樹脂は、炭素数1〜14であるアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーを主成分とする(メタ)アクリル系ポリマーを含む。
【0039】
上記(メタ)アクリル系ポリマーとしては、上述したものに該当する粘着性を有す(メタ)アクリル系ポリマーであれば特に限定されない。
【0040】
上記炭素数1〜14であるアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーを用いるが、炭素数4〜14であるアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーが好ましい。たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートなどがあげられる。中でも、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、n−トリデシル(メタ)アクリレート、n−テトラデシル(メタ)アクリレートなどが好適に用いられる。これらのアクリル系モノマーは単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0041】
炭素数が1〜14であるアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマー以外のその他の重合性モノマーは、(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移点や剥離性を調整するための重合性モノマーなどを、本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。また、これらのモノマーは単独で用いても良いし組み合わせて用いても良いが、全体としての含有量は(メタ)アクリル系モノマーの単量体成分中50質量%未満とする。
【0042】
(メタ)アクリル系ポリマーにおいて用いられるその他の重合性モノマーとしては、たとえば、スルホン酸基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、シアノ基含有モノマー、ビニルエステルモノマー、芳香族ビニルモノマーなどの凝集力・耐熱性向上成分や、カルボキシル基含有モノマー、酸無水物基含有モノマー、アミド基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、N−アクロイルモルホリン、ビニルエーテルモノマー等の接着力向上や架橋化基点として働く官能基を有す成分を適宜用いることができる。これらのモノマー化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0043】
上記リン酸基含有モノマーとしては、たとえば、2−ヒドロキシエチルアクロイルホスフェートがあげられる。
【0044】
本発明の他の局面に係る制電性組成物の製造方法においては、まずフルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を包摂させた、フォーカルポイントから分岐した構造を持つ多分岐性分子を準備する。次に、上記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を包摂させた多分岐性分子と、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂とを配合又は混練して組成物を形成する。
【0045】
上記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を包摂させた多分岐性分子を得る方法は、フォーカルポイントから分岐した構造を持ち、かつ分子内に孤立電子対を有する多分岐性分子を準備する工程と、上記多分岐性分子中に、直接、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を攪拌しながら添加する工程とを含む。この方法では溶剤を用いないのが特徴である。溶剤を用いなくても、上記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩をよく溶かすからである。
【0046】
この方法は、上記多分岐性分子として、図7に示すようなフォーカルポイントから分岐した構造を持つオリゴマーを使用する場合に有効である。このようなオリゴマーには、(A)に示すポリオキシエチレンソルビタンテトラオレート、(B)に示すグリセリンにPO/EOが付加し、末端がエステル化されたもの、C)に示すトリメチロールプロパンにPO/EOが付加し、末端がエステル化されたもの、(D)に示すペンタエリスリトールにPO/EOが付加し、末端がエステル化されたもの等が含まれる。図中、RはC1〜C18の脂肪酸基であり、より好ましくはC12〜C18の高級脂肪酸基である。
【0047】
また、図8(A)に示すような、一部にアクリレート化されていない水酸基を有するポリグリセリンポリエチレングリコールポリアクリレートも好ましい。式中、k及びm、tは平均値を示し、理論平均分子量は約1300である。
【0048】
また、図8(B)に示すような、全ての水酸基がアクリレート化されたポリグリセリンポリエチレングリコールポリアクリレートも好ましい。式中、k及びtは平均値を示し、理論平均分子量は約2200である。
【0049】
さらに図9(A)に示すようなポリエーテル変性アクロイル基含有ポリジメチルシロキサンも好ましい。式中、n、xは整数を表す。このものは、骨格はジメチルポリシロキサンであり、ポリエーテル構造を介して、アクリレート基がつながっている。
【0050】
また、図9(B)に示すようなポリエステル変性アクロイル基含有ポリジメチルシロキサンも好ましい。このものは、骨格はジメチルポリシロキサンであり、ウレタン構造を介して、ポリエステルがつながり、さらに二重結合を末端に2個ずつ計4個持ち、反応性に富む。
【0051】
さらに、図9(C)に示すようなポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンも好ましい。このものは反応性基を有しない。このものは、直鎖状の物質ではなく、櫛形で、骨格途中に有機変性を織り交ぜている。UVコーティング樹脂との相溶性がよい。ポリエーテル(POLYETHER)がエチレンオキサイド単独重合体(EO)の場合、Rはメチル基が好ましい。ポリエーテル(POLYETHER)がエチレンオキサイドープロピレンオオキサイド共重合体(EO/PO)の場合、Rは水素が好ましい。
【0052】
上記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を包摂させた多分岐性分子を得る他の方法は、まず、フォーカルポイントから分岐した構造を持つ樹枝状分子であって、かつ分子内に孤立電子対(lone pair)を有する多分岐性分子を準備する。上記多分岐性分子を分散液中に分散させる。上記多分岐性分子を分散させた分散液中に、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を溶媒に溶かした液を攪拌しながら、添加する。上記添加工程の後、さらに室温で攪拌を続ける。得られた溶液から減圧下で溶媒を除去する。この方法は、上記多分岐性分子として、オリゴマーよりも分子量が大きいものを使用する場合に有効である。
【0053】
ここで用いられる多分岐性分子は、分子内に孤立電子対を有しておればよく、例えばデンドリマーの場合、シェル部分に孤立電子対を持つ場合も含めるが、シェル部分に必ずしも孤立電子対を持たなくてもよい、その場合、コアー部分にあればよい。
【0054】
得られた制電性組成物を成形品表面で硬化させた制電性被覆物として利用できる。また、制電性組成物に、溶剤、レべリング剤、活性エネルギー線吸収剤(紫外線吸収剤)等を含んでもよい。
【0055】
また、得られた制電性組成物を含む材料を成形してなる成形品として利用できる。
【0056】
また得られた制電性組成物を塗料に含ませて利用してもよい。
【0057】
また、得られた制電性組成物を粘着剤に含ませて利用してもよい。
【発明の効果】
【0058】
本発明の制電性組成物によれば、制電剤として、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を包摂させた、フォーカルポイントから分岐した構造を持つ多分岐性分子を用いる。この多分岐性分子は、直線状に延びる線状高分子ではなく、ナノレベルの大きさの粒子であり、光を衝突させて反射させるほどの大きさを有しないので、光の通過を妨げることがなく、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂中に分散させても、透明性を低下させない。その結果、透明性を維持したまま、優れた制電性を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】コア−シェル型多分岐性分子の概念図を示す。
【図2】フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を包摂させた多分岐性分子のイメージを示す図である。
【図3】デンドリマーの立体的な概念図である。
【図4】参考例1に係るSuc−HPGを得る反応のスキームを示す図である。
【図5】参考例2に係るポリプロピレンイミン デンドリマー(IBAM−PPI)の化学構造式を示す図である。
【図6】参考例3に係るHPG−HPEIを得る反応のスキームを示す図である。
【図7】フォーカルポイントから分岐した構造を持つオリゴマーの一例である。 (A) ポリオキシエチレンソルビタンテトラオレートの化学構造式を示す図である。 (B) グリセリンにPO/EOが付加し、末端がエステル化されたものである。 (C)トリメチロールプロパンにPO/EOが付加し、末端がエステル化されたものである。 (D) ペンタエリスリトールにPO/EOが付加し、末端がエステル化されたものである。
【図8】フォーカルポイントから分岐した構造を持つオリゴマーの他の例である。 (A) 一部にアクリレート化されていない水酸基を有するポリグリセリンポリエチレングリコールポリアクリレートを示す。 (B)全ての水酸基がアクリレート化されたポリグリセリンポリエチレングリコールポリアクリレートを示す。
【図9】フォーカルポイントから分岐した構造を持つオリゴマーのさらに他の例である。 (A) ポリエーテル変性アクロイル基含有ポリジメチルシロキサンを示す。 (B) ポリエステル変性アクロイル基含有ポリジメチルシロキサンを示す。 (C) ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0060】
透明性を低下させず、しかも制電性の優れた制電性組成物を得るという目的を、制電剤として、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を包摂させた、フォーカルポイント(focal point)から分岐した構造を持つ多分岐性分子を用いることによって実現した。
【0061】
図2は、フォーカルポイントから分岐した構造を持つ樹枝状分子である多分岐性分子に、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩(LiX)を包摂させたときの概念図である。ホストである多分岐性分子に、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩(LiX)がゲストとして包摂されている。多分岐性分子として、後述するSuc−HPGを例示している。
【0062】
リチウム塩を多分岐性分子に包摂させた状態というのは、図のようにホストである多分岐性分子の中に含まれる、孤立電子対を有するエーテル酸素やカルボニル酸素と、ゲストであるリチウムイオンとがルイス酸・塩基型の錯イオンを形成している状態である。
【0063】
孤立電子対を持つものとしては、エーテル酸素の他に、アミンの窒素原子、サルファイドのイオウ原子なども好ましく利用できる。
【0064】
多分岐性分子には、図3に示す様なデンドリマーも用いることができる。デンドリマーは、高度にしかも規則的に分岐した分子骨格からなる球状の分子であり、コアと該コアを3次元的に取り囲むシェルとからなるコア−シェル型構造を有する。球状のため、デンドリマーは、表面と内部という2つの領域を持ち、それぞれの領域に対してさまざまな細工をすることで機能性を持たせることが可能である。このようなデンドリマーの構造上の特徴は、線状構造の高分子にはないさまざまな特性をもたらす。なかでも球状の立体構造はデンドリマーの際立った特徴であり、このためにデンドリマーは単分子でありながらカプセルとしての機能を持つ。一般に、両親媒性分子は、臨界ミセル濃度(CMC)以上においてミセルを形成するため、希薄条件下ではミセルが崩壊するが、このような単分子ミセル型デンドリマーは、希薄な条件においても、ゲストを保持できるというメリットがある。
【0065】
本発明では、次の化4に示すデンドロンも好ましく用いられる。デンドロンはくさび形をした単分散デンドリマーのセグメントであり、複数の末端基と、フォーカルポイントに反応性の高い官能基を1つ持つ。図示のデンドロンは、第4世代ビスーMPAデンドロンである。
【化4】

【0066】
本発明では、化5に示す超分岐ポリマーも好ましく用いられる。超分岐ポリマーは、デンドリマーに似た性質を持つ多分散の樹枝状分子であるが、1段階の重合反応で合成される。これはデンドリマーに比べると分岐が不完全で、末端官能基の数は平均(正確ではなく)的であるが、完全なデンドリマーに比べてコスト効率に優れている。不完全でも許容される応用例では、超分岐ポリマーはデンドリマーの利点をはるかに低コストで提供される。溶解しやすい凍結乾燥粉末で得られるものがある。
【化5】

【0067】
以下、多分岐性分子の製造法を示す参考例、本発明の実施例及び比較例を説明する。
【0068】
[参考例]
【0069】
(参考例1:多分岐性分子の合成 1)
多分岐性ポリグリシドール10量体57g (75 mmol)のピリジン溶液に無水コハク酸25g(2.6×10mmol)を添加し後、窒素気流下で、65℃、8時間攪拌、反応した。反応混合物から沈殿物を濾過して除去した後、減圧乾燥により反応物溶液を濃縮した。この濃縮溶液を、ジエチルエーテルを用いて再沈殿法により精製した後、減圧下で蒸発乾固して、末端部をコハク酸修飾した多分岐性ポリグリシドール(以下、Suc−HPGという)52gを得た。H−NMR測定により、2.6δ/ppmに、コハク酸部位のシグナルを認めた。Suc−HPGの製造反応のスキームを図4に示す。Suc−HPGはデンドリマーではないが、フォーカルポイントから分岐した構造を持つ樹枝状分子である。
【0070】
(参考例2:多分岐性分子の合成 2)
イソブチル酸(4.6mmol)に、N―ヒドロキシコハク酸イミド(5.5mmol)、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(6.0mmol)加え、0℃に冷却したN−ジメチルフォルムアミド(3ml)に添加した後、4時間攪拌した。次いで、この溶液に、ジメチルスルフォキサイド(5ml)とトリエチルアミン(6.9mmol)に溶解したポリプロピレンイミンデンドリマー(シグマ アルドリッチ ジャパン社製、DAB−Am−32)(96μmol)を添加して、室温、5日間攪拌した。生成物を減圧下で蒸発乾固して、分子末端をイソブチルアミド化したポリプロピレンイミン デンドリマー(以下、IBAM−PPIという)を得た(収率88%)。H−NMR(DO)測定により分子末端にイソブチルアミド基が結合していることを認めた。図5に、得られたポリプロピレンイミン デンドリマー(IBAM−PPI)の化学構造式を示す。図では、作図の便宜上、2次元平面で描かれているが、シェルはコアを3次元的に取り囲んでいる。
【0071】
(参考例3:多分岐性分子の合成 3)
ポリエチレンイミン(平均分子量600、20g、11mmol)にグリシドール(342g、4700mmol)を60℃、1時間かけて添加した。次いで、窒素気流下で、攪拌しながら25時間反応した。H−NMR測定により反応液中のグリシドールのシグナルが消失したことを認めた。この溶液をメタノールーアセトニトリルで精製を2回実施した。減圧下で蒸発乾固法によって溶媒を留去した。無色透明なポリグリシドールとポリエチレンイミン構造を有する多分岐性分子(以下、HPG−HPEIという)を得た(350g)。HPG−HPEIの製造反応のスキームを図6に示す。HPG−HPEIは、デンドリマーではないが、フォーカルポイントから分岐した構造を持つ樹枝状分子である。
[実施例1]
【0072】
(多分岐性分子を含む制電性組成物の調製)
参考例1で得たSuc−HPG10gをメタノール30mlに分散させ、溶解した。この際、高粘度溶液となった。その後、この溶液に、攪拌しながら、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドリチウムを50質量部溶解した2−ブタノン溶液20gを添加し、室温で1時間攪拌した。室温で攪拌すると、低粘度溶液となった。この溶液から減圧下で溶媒を留去して、図2に示す、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドリチウムを包摂した多分岐性制電性組成物(Suc−HPG−R)14.4gを得た。
【0073】
上述のように、包摂が始まると、溶液の低粘度化/固体析出する場合がある。90%以上包摂させるには1時間以上は攪拌する必要がある。当然ながら、包摂物の体積抵抗率は10Ω・cm以下になる。
[実施例2〜4]
【0074】
実施例1と同様な方法で、各種分散溶媒を用いて、参考例2,3で得た他の多分岐性分子に、各種フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を包摂した制電性組成物を得た。表1に結果をまとめる。なお、表1中、リチウム塩としては、前述の式(1)〜(3)に示すものを用いた。
【表1】

【0075】
以下、上記実施例で得た制電性組成物を応用する実施例及び比較例について説明する。
[実施例5]
【0076】
ウレタンアクリレートプレポリマー100質量部(新中村化学工業株式会社製、NKオリゴ UA-53H)に、実施例1で調製した制電性組成物Suc-HPG-R 7質量部を添加した。ついで、酢酸ブチル70質量部を添加、攪拌し、低粘度の重合性組成物を調製した。この重合性組成物を、PETフィルム(厚さ60μm)上に、バーコーターを用いて、乾燥時の塗膜の厚さが6μmになるように塗布し、乾燥後、水銀ランプを用いて、積算光量300mj/cm2(照射時間15秒)で、紫外線を照射した。6μmの厚さの硬化被膜を有する透明なPETフィルムを得た。この塗膜被覆フィルムの表面抵抗率は、1.6×10Ω/sqであった。硬化特性、密着性も良好であった。
[実施例6]
【0077】
図7(A)に示す化学構造式を有するポリオキシエチレン(6)ソルビタンテトラオレート(和光純薬社製)80質量部に、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドリチウム20質量部を添加した後、40℃に加熱しながら攪拌し溶解させて、淡黄色・透明な組成物(PESTO-20R、液体)30gを得た。次いで、実施例5において、制電性組成物として、PESTO-20Rを2質量部添加した以外は、実施例5と同様にして透明な被覆フィルムを作成した。硬化特性、密着性は良好であった。この塗膜被覆PETフィルムの表面抵抗率は7×10Ω/sqであった。
[実施例7]
【0078】
ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリステアレート(和光純薬社製)90質量部に、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドリチウム10質量部を添加した後、60℃に加熱しながら攪拌し溶解させて、組成物(PESTOS-10R、液体)30gを得た。次いで、実施例5において、制電性組成物として、PESTOS-10Rを10質量部添加した以外は、実施例5と同様にして透明な被覆フィルムを作成した。硬化特性、密着性は良好であった。この塗膜被覆PETフィルムの表面抵抗率は9×10Ω/sqであった。
【0079】
(比較例1)
実施例5において、制電性組成物を添加しないで、実施例6と同様にして塗膜被覆フィルムを作成した。PETフィルムの表面抵抗率は、1015Ω/sq以上であった。
[実施例8]
【0080】
分子量21000のビスフェノールAタイプのポリカーボネート樹脂 100質量部に対して、実施例2で調製した制電性組成物IBAM-PPI-R 5質量部を添加し、いすず化工機製単軸ベント押出機にて260℃で練り込み、ペレット化した。そのペレットを85〜90℃の熱風で乾燥後、射出押出機(東芝機械製IS758型)を用いて成形温度280℃で試験片を成形した。試験片の表面抵抗率は、9×10Ω/sqであった。また、全光線透過率は、89%であった。後述する比較例2では、制電性組成物IBAM-PPI-Rを加えない場合を例示するが、本実施例6では、全光線透過率は、89%であったことより、これは、制電性組成物IBAM-PPI-Rを加えても、透明度は低下しなかったことを示している。透明度を低下させず、表面抵抗率だけを下げたことを示している。
【0081】
(比較例2)
実施例6において、該制電性組成物を添加しないで、他は実施例6と同様にして、ポリカーボネート樹脂の試験片を作成した。試験片の表面抵抗率は、2×1013Ω/sq以上であった。また、全光線透過率は、89%であった。
[実施例9]
【0082】
アクリル系共重合体( 組成:n−ブチルアクリレート88質量%、エチルアクリレート10質量%、ヒドロキシエチルメタクリレート2質量%)100質量部、架橋剤として、イソシアナート系トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアナート付加物0.6質量部、可塑剤として、テトラエチレングリコールジベンゾネート7質量部とポリエチレングリコールー2−エチルヘキソネート0.1質量部、および、実施例3で調製した制電性組成物 HPG−HPEI−C 7質量部を投入し、適切な濃度に希釈して、均一混合した後、剥離紙にコーティングして乾燥した後、25μmの均一な粘着層を製造した。上記粘着剤層を185μmの膜厚のヨード系偏光板に粘着加工した。作成した粘着シートの剥離帯電圧(剥離角度150度、剥離速度 10m/min,春日電機社製KSD−0103使用)を測定した結果、0.0kVであった。180°剥離粘着力は、3.2N/25mmであった。
[実施例10]
【0083】
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(BASFジャパン製、硬度90A、フレーク状)100質量部に対して、実施例4で調製した制電性組成物HPG40−T 2質量部を添加し、成形加工して試験片を成形した。試験片は無黄変であった。試験片の体積抵抗率は、2.6×10Ω・cm、表面抵抗率は、6.7×10Ω/sqであった。
【0084】
(比較例3)
実施例8において、制電性組成物を添加しないで、実施例8と同様に、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いて成形加工した試験片の体積抵抗率は、2.2×1011Ω・cm、表面抵抗率は、4.3×1013Ω/sqであった。
[実施例11]
【0085】
ウレタンアクリレートプレポリマー(新中村化学工業株式会社製、NKオリゴマー UA-53H)100質量部に対して、予め、ポリグリセリンポリエチレングリコールポリアクリレート(アクロイル基4個、平均分子量1300、粘度1500(mPa・s/25℃)100質量部に対し、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを20質量部溶解した溶液25部、光重合開始剤としてLuna100(日本シイベルヘグナー製)5質量部を添加した液状組成物を得た。この液状組成物を、ベースフィルム(PET製、厚さ250μm)の上に設置したプリズム・アクリル系樹脂(ピッチ50.0μm、頂角88°)の表面に塗布した後、高圧水銀灯を用いて、空気中で紫外線を照射した。硬化被膜3μmの厚さを有する硬度2Hの透明なプリズム板を得た。このプリズム板の表面抵抗率は、2×1010Ω/sqであった。次いで、このプリズム板を、湿度70%、温度80℃の条件下に1時間放置した後、表面抵抗率を測定した結果、4×1010Ω/sqであった。
[実施例12]
【0086】
実施例11において、ポリグリセリンポリエチレングリコールポリアクリレート(アクロイル基5個、平均分子量3400、粘度450(mPa・s/25℃)に替えた以外は、実施例11と同様な方法、組成で、液状組成物を得た。この液状組成物をPETフィルム(厚さ100μm、幅1325mm、長さ45m)上に連続塗布しながら空気中で高圧水銀灯を照射した。厚さ7μmの硬化被膜を有する透明なPETフィルムを得た。このフィルムの表面抵抗率は、6.4×10Ω/sq、硬度4Hであった。
[実施例13]
【0087】
ウレタンアクリレートプレポリマー(新中村化学工業株式会社製、NKオリゴマー UA-53H)100質量部に対して、予め、ポリエーテル変性アクロイル基含有ポリジメチルシロキサン(アクロイル基2個、BYK−UV3500、ビックケミー・ジャパン製)5質量部とメチルエチルケトン60質量部にビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを40質量部溶解した溶液100質量部の混合液状組成物10質量部を添加し、さらに、光重合開始剤としてLuna100(日本シイベルヘグナー製)5質量部を添加した液状組成物を得た。この液状組成物を実施例12と同様な方法で、PETフィルム上に塗布し、硬化被膜(厚さ3μm)を有する透明なPETフイルムを得た。このフィルムの表面抵抗率は、2.6×10Ω/sqであった。
[実施例14]
【0088】
実施例13において、ポリエステル変性アクロイル基含有ポリジメチルシロキサン(アクロイル基4個、BYK−UV3570、ビックケミー・ジャパン製)20質量部と、メチルエチルケトン75質量部にビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを25質量部溶解した溶液100質量部の混合液状組成物10質量部を添加した以外は、実施例12と同様な方法で、PETフィルム上に塗布し、硬化被膜(厚さ10μm)を有する透明なPETフイルムを得た。このフィルムの表面抵抗率は、4.8×10Ω/sqであった。
[実施例15]
【0089】
実施例14において、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(X−22−3938A,信越化学工業製)1.0質量部と、メチルエチルケトン60質量部にビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを40質量部溶解した溶液100質量部の混合液状組成物10質量部を添加した以外は、実施例12と同様な方法で、PETフィルム上に塗布し、硬化被膜(厚さ3μm)を有する透明なPETフイルムを得た。このフィルムの表面抵抗率は、9.0×1010Ω/sqであった。
【0090】
なお、上記実施例では、リチウム塩として、式(1)〜(3)に示すものを例示したが、この発明はこれに限られるものでなく、たとえば、LiN(CSO、LiN(CSO)(CFSO)、LiN(C17SO)(CFSO)、LiN(CFCHOSO、LiN(CFCFCHOSO、LiN(HCFCFCHOSO、LiN((CFCHOSOがあげられる。これらのフッ素含有リチウムイミド塩は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0091】
今回開示された実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の制電性組成物は、透明性を維持したまま、優れた制電性を発揮する。プラスチックやガラスなどの成形品、塗料、粘着剤の帯電防止に利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
LiX リチウム塩

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を包摂させた、フォーカルポイントから分岐した構造を持つ多分岐性分子を含み、
前記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を包摂させた前記多分岐性分子を、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂中に分散させてなる制電性組成物。
【請求項2】
前記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩は、前記多分岐性分子100質量部に対して、0.01質量部以上50質量部以下の割合で、前記多分岐性分子に包摂されている、請求項1に記載の制電性組成物。
【請求項3】
前記重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂100質量部に対して、前記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を包摂させた多分岐性分子は、0.01質量部以上30質量部以下含まれる、請求項1又は2に記載の制電性組成物。
【請求項4】
前記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンは、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオン、トリス(フルオロアルキルスルホニル)メチドイオン及びフルオロアルキルスルホン酸イオンからなる群より選ばれた陰イオンである請求項1〜3のいずれか1項に記載の制電性組成物。
【請求項5】
前記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩は、アルカリ金属、2A元素、遷移金属、両性金属のいずれかの陽イオンと、前記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンからなる塩である請求項1〜4のいずれか1項に記載の制電性組成物。
【請求項6】
前記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩が、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドイオンのアルカリ金属塩、トリス(フルオロアルキルスルホニル)メチドイオンのアルカリ金属塩及びフルオロアルキルスルホン酸のアルカリ金属塩から選ばれた塩である請求項5に記載の制電性組成物。
【請求項7】
前記多分岐性分子は、ポリグリセリンポリエチレングリコールポリアクリレート、ポリエーテル変性アクロイル基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性アクロイル基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリグリシドール、ポリエーテル、ポリエチレンイミン、ポリオキシエチレン(6)ソルビタンテトラオレート、ポリオキシプロピレン(20)ソルビタンテトラオレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレン(6)トリグリセリンステアレート、ポリオキシエチレン(6)トリグリセリンオレート、ポリオキシエチレン(5)グリセリンモノステアレート及びポリオキシプロピレン(6)トリグリセリン(カッコ内の数字は付加モル数である)からなる群より選ばれる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の制電性組成物。
【請求項8】
フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を包摂させた、フォーカルポイントから分岐した構造を持つ多分岐性分子を準備する工程と、
前記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を包摂させた多分岐性分子と、重合性化合物、樹脂、エラストマー又は粘着性樹脂とを配合又は混練して組成物を形成する工程とを含む制電性組成物の製造方法。
【請求項9】
前記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を包摂させた多分岐性分子を得る方法は、
フォーカルポイントから分岐した構造を持ち、かつ分子内に孤立電子対を有する多分岐性分子を準備する工程と、
前記多分岐性分子中に、直接、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を攪拌しながら添加する工程とを含む、請求項8に記載の制電性組成物の製造方法。
【請求項10】
前記フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を包摂させた多分岐性分子を得る方法は、
フォーカルポイントから分岐した構造を持ち、かつ分子内に孤立電子対を有する多分岐性分子を準備する工程と、
前記多分岐性分子を分散液中に分散させる工程と、
前記多分岐性分子を分散させた分散液中に、フルオロ基及びスルホニル基を有する陰イオンを含む塩を溶媒に溶かした液を攪拌しながら、添加する工程と、
前記添加工程の後、さらに室温で攪拌を続ける工程と、
得られた溶液から減圧下で溶媒を除去する工程とを含む、請求項8に記載の制電性組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の制電性組成物を成形品表面で硬化させた制電性被覆物。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の制電性組成物を含む材料を成形してなる成形品。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の制電性組成物を含む塗料。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の制電性組成物を含む粘着剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−178982(P2011−178982A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212361(P2010−212361)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(398033921)三光化学工業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】