説明

帯電防止性ハードコート組成物

【課題】帯電防止性ハードコート組成物中のカーボンナノチューブの分散安定性を向上し、かつ、少ないカーボンナノチューブの使用率で十分な導電性を有しつつ、透明性に優れた帯電防止性ハードコート組成物を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブの溶媒分散液のバインダーとして、イソシアヌレート構造を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートを用いることにより、帯電防止性ハードコート組成物中でのカーボンナノチューブの分散安定性が向上し、カーボンナノチューブを少量使用するだけで十分な帯電防止性能が得られ、透明性に優れた帯電防止性ハードコート組成物およびその塗膜を形成したプラスチック積層フィルムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は帯電防止性ハードコート組成物および、これを用いた帯電防止層を有するプラスチック積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、炭素の六員環ネットワーク(グラフェンシート)が単層または多層のチューブ状になったフラーレンの一種であり、単層のものはシングルウォールナノチューブ(SWNT)、多層のものはマルチウォールナノチューブ(MWNT)と呼ばれる。このカーボンナノチューブの特徴の一つに電気抵抗の低いことがあげられ、その応用面で燃料電池、Liイオン二次電池の負極剤、フラットパネルディスプレイ用の電子放出源、あるいは透明導電材などが検討されている。
【0003】
カーボンナノチューブを含む帯電防止性ハードコート組成物については、パターニングし易いこと、硬化後の塗膜物性が高いこと等の理由から、上記の様なカーボンナノチューブの特性を活かし、種々の用途に展開しようとする試みがなされている。
【0004】
ところで、カーボンナノチューブを形成しているカーボン結晶はグラファイトと同様に表面に官能基が少なく、分散剤などとの相互作用が小さいことから、均一で安定性の良好なカーボンナノチューブ分散液を得ることは難しい。
【0005】
特許文献1には、カーボンナノチューブの分散剤として、塩基性官能基含有分散剤(ソルスパース)とケトン系溶剤を必須成分とし、オリゴマーの規定がMw15000以下の分散液が記載されている。しかしながら、その塗膜の硬度、耐擦傷性、耐溶剤性については記載されていない。
【0006】
特許文献2には、カーボンナノチューブの分散剤として、酸性官能基を有する有機色素誘導体またはトリアジン誘導体とアミノ基含有アクリレートを必須成分とする分散液が記載されている。特許文献1、特許文献2とも、カーボンナノチューブの分散安定性を向上するために特定の化合物を用いることが試みられているが、いずれも塗膜中に含有するカーボンナノチューブが2重量%から数十重量%と高く、導電性が良好かつ透明性の高い硬化塗膜を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−24568号公報
【特許文献2】特開2009−67933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、塗布・硬化前の帯電防止性ハードコート組成物中のカーボンナノチューブの分散安定性が高く、かつ、少ないカーボンナノチューブの使用量でも塗布・硬化後の硬化塗膜が十分な導電性と高い透明性を発現する帯電防止性ハードコート組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記帯電防止性ハードコート組成物を基材上に塗布・硬化させて形成した十分な導電性と高い透明性を有する硬化塗膜を有する積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、カーボンナノチューブとイソシアヌレート構造を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートを用いることにより、帯電防止性ハードコート組成物中のカーボンナノチューブの分散安定性が向上し、カーボンナノチューブを少量使用するだけで十分な帯電防止性能が得られ、透明性に優れた帯電防止ハードコート塗膜が得られることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、カーボンナノチューブ(A)と、活性エネルギー線硬化性化合物として下記式(1)
【化1】

[式(1)中R1〜R3は、同一又は異なって、それぞれ、水酸基と1個以上の(メタ)アクリロイル基とを含有する水酸基含有(メタ)アクリレート(D)の該水酸基から水素原子を除した基を示し、R4〜R6は、同一又は異なって、それぞれ、−(CH26−及び下記式(2a)〜(2g)
【化2】

{式(2d)中R7〜R10は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を表す。ただし、R7〜R10は同時に水素原子であることはない}
からなる群から選ばれる2価の基を示す]
で示されるイソシアヌレート骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)とを含有することを特徴とする帯電防止性ハードコート組成物を提供する。
上記カーボンナノチューブ(A)の含有量は、帯電防止性ハードコート組成物中の固形分に対して0.1〜2重量%であることが好ましい。
また、多官能ウレタン(メタ)アクリレートに含まれるイソシアヌレート構造のモル数は、カーボンナノチューブ100gに対して0.5〜10であることが好ましい。
また、好ましくは、上記イソシアヌレート骨格を含有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)は、下記式(3)
【化3】

[式(3)中R4〜R6は、式(1)と同じ]
で示されるヌレート骨格含有イソシアネート化合物(B)と、水酸基と1個以上の(メタ)アクリロイル基とを含有する水酸基含有(メタ)アクリレート(D)との反応によって合成される。
上記水酸基含有(メタ)アクリレート(D)は2種以上の水酸基含有(メタ)アクリレートの混合物であることが好ましい。
さらに、好ましくは、前記多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)以外のウレタン(メタ)アクリレート(UA’)を含有してもよい。
上記カーボンナノチューブ(A)は多層カーボンナノチューブであり、直径8〜30nm、長さ0.1〜50μmであることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、基材と、該基材上に上記帯電防止性ハードコート組成物を塗布硬化させて形成した硬化塗膜とを有する積層体を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の帯電防止性ハードコート組成物では、カーボンナノチューブ(A)とイソシアヌレート構造を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)を用いることにより、帯電防止性ハードコート組成物中でのカーボンナノチューブの分散安定性が向上し、カーボンナノチューブを少量使用するだけで十分な帯電防止性能が得られ、透明性に優れた帯電防止ハードコート塗膜が得られる。本発明の帯電防止性ハードコート組成物は保存安定性に優れているため、長期間、例えば数ヶ月の貯蔵が可能で、工業的利便性が高い。さらに、一度に大量に製造、輸送、貯蔵が可能となるので、製造、流通、貯蔵の効率化とコスト削減がはかれる。また、多層カーボンナノチューブを使用しても上記効果が得られるため、高価な単層のカーボンナノチューブを用いる必要もない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の帯電防止性ハードコート組成物は、カーボンナノチューブ(A)と、活性エネルギー線硬化性化合物として下記式(1)
【化4】

[式(1)中R1〜R3は、同一又は異なって、それぞれ、水酸基と1個以上の(メタ)アクリロイル基とを含有する水酸基含有(メタ)アクリレート(D)の該水酸基から水素原子を除した基を示し、R4〜R6は、同一又は異なって、それぞれ、−(CH26−及び下記式(2a)〜(2g)
【化5】

{式(2d)中R7〜R10は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を表す。ただし、R7〜R10は同時に水素原子であることはない}
からなる群から選ばれる2価の基を示す]
で示されるイソシアヌレート骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)とを含有することを特徴とする。
【0014】
<カーボンナノチューブ(A)>
本発明の帯電防止性ハードコート組成物に含まれるカーボンナノチューブ(A)としては特に限定されず、炭素によって作られる六員環ネットワーク(グラフェンシート)が単層あるいは多層の同軸管状になった物質が使用でき、単層のシングルウォールナノチューブ(SWNT)、多層のマルチウォールナノチューブ(MWNT)のいずれも使用することが出来る。
【0015】
好ましいカーボンナノチューブとして以下に具体例をいくつか例示するが、本発明は、これらの例示に限定されるものではない。例えば、プラネット社製 Cnano Technology、三菱マテリアル電子化成社製 CNF−T、SUN INNOVATIONS社製 SN2301、SN7689、SN2302、SN9847及びSN4908、昭和電工社製 VGCF−Xなどが挙げられる。またカーボンナノチューブを溶媒に分散したものは、本発明の帯電防止性ハードコート組成物の原料として特に好ましく用いられる。前記溶媒としては特に限定されないが、酢酸エチル等が挙げられる。カーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブの濃度は特に限定されず、例えば0.1〜50重量%のものが使用できるが、本発明の帯電防止性ハードコート組成物ではカーボンナノチューブの濃度を低くできるため、カーボンナノチューブの濃度が2重量%未満(例えば0.1重量%以上2重量%未満)の分散液も使用できる。
【0016】
本発明の帯電防止性ハードコート組成物に用いられるカーボンナノチューブ(A)としては、好ましくは多層カーボンナノチューブである。単層のカーボンナノチューブは、導電性と透明性に優れているので使用することは差し支えないが、高価であるため、これを用いた帯電防止性ハードコートも高価になり、経済性の点から、多層カーボンナノチューブの使用が好ましい。
【0017】
カーボンナノチューブ(A)の好ましい直径は8nm以上30nm以下、好ましい長さは0.1μm以上50μm以下、好ましい比表面積は40m2/g以上500m2/g以下である。カーボンナノチューブの直径が8nm未満であると、導電性を発現するためには使用量が増え、大幅にコストアップとなるため実用性が低下する場合があり、30nmを超えると硬化塗膜の透明性が低下する場合がある。また、カーボンナノチューブの長さが0.1μm未満であると導電性が低下するため使用率(原単位)が高くなり透明性を損なう場合があり、50μmを超えると分散が困難になり保存安定性が低下し、結果として透明性を損なう場合がある。カーボンナノチューブの比表面積は、上記の好ましい長さと好ましい直径から、通常40m2/g以上500m2/g以下程度の範囲となる。
【0018】
本発明の帯電防止性ハードコート組成物中のカーボンナノチューブ(A)の含有量は、好ましくは、帯電防止性ハードコート組成物中の固形分に対して0.1重量%以上2重量%以下(さらに好ましくは0.1重量%以上2重量%未満)である。カーボンナノチューブの含有量が0.1重量%未満では、十分な導電性が得にくく、2重量%を超えると硬化塗膜の透明性が低下しやすいため、導電性と透明性を両立する特性が失われる場合がある。
【0019】
<多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)>
本発明の帯電防止性ハードコート組成物は、活性エネルギー線硬化性化合物として、下記式(1)
【化6】

で表される多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)を含んでいる。式(1)中、R1〜R3は、同一又は異なって、それぞれ、水酸基と1個以上の(メタ)アクリロイル基とを含有する水酸基含有(メタ)アクリレート(D)の該水酸基から水素原子を除した基である。
【0020】
<水酸基含有(メタ)アクリレート(D)>
以下に水酸基含有(メタ)アクリレート(D)の具体例をいくつか例示するが、本発明は、これらの例示に限定されるものではない。
【0021】
上記水酸基含有(メタ)アクリレート(D)としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及びこれらのカプロラクトン付加物等が挙げられる。
【0022】
市販されている製品としては、HEA(日本触媒社製)、HPA(日本触媒社製)、4HBA(日本触媒社製)、PLACCEL FA1(ダイセル化学工業社製)、PLACCEL FA2D(ダイセル化学工業社製)、ブレンマーAEシリーズ(日油社製)、ブレンマーAPシリーズ(日油社製)、DPHA(ダイセル・サイテック社製 主にジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートからなる混合物)、PETRA(ダイセル・サイテック社製 ペンタエリスリトールトリアクリレート)、PETIA(ダイセル・サイテック社製 主にペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートからなる混合物)、アロニックス M−403(東亞合成社製 ジペンタエリスリトールペンタ及びヘキサアクリレート)、アロニックス M−402(東亞合成社製 ジペンタエリスリトールペンタ及びヘキサアクリレート)、アロニックス M−400(東亞合成社製 ジペンタエリスリトールペンタ及びヘキサアクリレート)、SR−399(サートマー社製 ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート)、KAYARAD DPHA(日本化薬社製)、KAYARAD DPHA−2C(日本化薬社製)等が挙げられる。以上の製品は製品中に一部水酸基を含有した化合物を有している。
【0023】
上記式(1)中、R4〜R6は、同一又は異なって、それぞれ、−(CH26−及び下記式(2a)〜(2g)
【化7】

{式(2d)中R7〜R10は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を表す。ただし、R7〜R10は同時に水素原子であることはない}からなる群から選ばれる2価の基を示す]
で表される2価の基によって示され、なかでも、−(CH26−、上記式(2a)で表される基が好ましい。
【0024】
式(2d)中、R7〜R10によって示される炭素数1〜6の炭化水素基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、又はフェニル基が挙げられる。炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル基等の直鎖状、分岐鎖状、又は環状アルキル基が挙げられる。炭素数1〜6のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、s−ブトキシ、ペントキシ、ヘキシルオキシ基等の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基が挙げられる。これらのなかでも、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル基等の炭素数1〜3の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が好ましい。
【0025】
多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)の重量平均分子量(Mw)は、800〜13000が好ましく、より好ましくは800〜10000、さらに好ましくは800〜8000である。分子量が800未満では、光照射後の硬化プラスチック基材に要求される低カール性、耐摩耗性を損なう場合があり、逆に分子量が13000を超えると硬度の低下、耐摩耗性の低下を招きやすく、プラスチック基材がトップコート、特にハードコートとしての役割を果たせなくなる場合がある。
【0026】
多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)の含有量は、活性エネルギー線硬化性化合物に対し、例えば10〜100重量%、好ましくは40〜100重量%、さらに好ましくは70〜100重量%である。多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)の含有量が10重量%未満では、硬化フィルムの硬度が低下しやすく、フィルム特性が損なわれる場合がある。
【0027】
帯電防止性ハードコート組成物中の多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)の含有量は、多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)に含まれるイソシアヌレート構造のモル数が、カーボンナノチューブ100gに対して0.5モル以上10モル以下となる範囲とすることが好ましい。
【0028】
カーボンナノチューブ(CNT)100gに対する多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)に含まれるイソシアヌレート構造のモル数は次の計算により求められる。
[カーボンナノチューブ100gに対する多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)に含まれるイソシアヌレート構造のモル数] = [帯電防止性ハードコート組成物1kgに用いられた多官能ウレタン(メタ)アクリレートの中のポリイソシアネートの三量体で構成されるイソシアヌレート体のモル数]/[帯電防止性ハードコート組成物1kgに用いられたCNT重量(g)] × 100
【0029】
カーボンナノチューブ100gに対するイソシアヌレート構造のモル数が0.5モル未満ではカーボンナノチューブの分散安定性が低下しやすく、10モルを超えると導電性能が損なわれやすい。
【0030】
<カーボンナノチューブ(A)の分散性>
本発明の帯電防止性ハードコート組成物中のカーボンナノチューブ(A)は分散していることが必要である。ここで、「分散している」とは帯電防止性ハードコート組成物中のカーボンナノチューブ(A)が凝集・沈殿せず、帯電防止性ハードコート組成物が均一な状態であることを言う。分散しているかいないかは、透明なガラス容器(例えば、ガラス製50mlスクリュー管)に組成物を入れて静置したものを目視することにより確認できる。帯電防止性ハードコート組成物中のカーボンナノチューブ(A)の分散状態が良ければ、カーボンナノチューブ(A)を少量使用するだけで同組成物の硬化塗膜に十分な帯電防止性能が発現し、透明性に優れた帯電防止ハードコート塗膜が得られる。
【0031】
<多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)の合成>
多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)は、下記式(3)
【化8】

で示されるイソシアヌレート骨格含有イソシアネート化合物(B)と、水酸基含有多官能(メタ)アクリレート(D)との反応により得ることができる。ここで、式(3)中R4〜R6は、式(1)と同じものとすることができる。水酸基含有多官能(メタ)アクリレート(D)としては、上記例示のものを使用できる。反応に用いるイソシアヌレート骨格含有イソシアネート化合物(B)、及び水酸基含有多官能(メタ)アクリレート(D)は1種類で使用しても良いし、2種類以上を組み合わせても良い。
【0032】
<イソシアヌレート骨格含有イソシアネート化合物(B)>
以下にイソシアヌレート骨格含有イソシアネート化合物(B)の具体例をいくつか例示するが、本発明は、これらの例示に限定されるものではない。イソシアヌレート骨格含有イソシアネート化合物(B)としては、例えば、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体、2,6−ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体、イソホロンジイソシアネートの3量体、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートの3量体、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートの3量体がある。
【0033】
市販されている製品としてデュラネート TLA−100(旭化成ケミカルズ社製 HDI系ポリイソシアネート)、デュラネート TPA−100(旭化成ケミカルズ社製 HDI系ポリイソシアネート)、デュラネート THA−100(旭化成ケミカルズ社製 HDI系ポリイソシアネート)、デュラネート MHG−80B(旭化成ケミカルズ社製 HDI/IPDI変性ポリイソシアネート)、タケネート D−170N(三井化学ポリウレタン社製 イソシアヌレート型ポリイソシアネート)、スミジュール N3300(住化バイエルウレタン社製 HDIイソシアヌレート)、デスモジュール N3600(住化バイエルウレタン社製 HDIイソシアヌレート)、VESTANAT−T 1890E(エボニック社製 IPDIイソシアヌレート)等が挙げられる。また、上記イソシアネート化合物をカプロラクトン誘導体などのポリエステルポリオールと反応させた変性品でも良い。
【0034】
イソシアヌレート骨格含有イソシアネート化合物(B)としては、上記のなかでも、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体、2,6−ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体、タケネート D−170N、デュラネート TLA−100、デュラネート MHG−80Bが好ましい。
【0035】
(原料の使用量比)
多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)の合成において、イソシアヌレート骨格含有イソシアネート化合物(B)と、水酸基含有多官能(メタ)アクリレート(D)との使用比率は特に限定はしない。しかし、多官能のイソシアネート化合物、水酸基含有多官能(メタ)アクリレートを用いることから、これら全原料の有する水酸基(OH基)濃度とイソシアネート基(NCO基)濃度との関係は、OH基濃度/NCO基濃度(モル比)>1となることが望ましい。OH基濃度/NCO基濃度(モル比)=1になると、ゲル化を起こしやすく、OH基濃度/NCO基濃度(モル比)<1になると反応時間が大幅に長くなるだけでなく、最終的にゲル化を起こす可能性が非常に高くなる。
【0036】
(反応の順序)
反応の順序としては、イソシアヌレート骨格含有イソシアネート化合物(B)と水酸基含有多官能(メタ)アクリレート(D)を一括して混合し反応させる方法[方法1]、イソシアヌレート骨格含有イソシアネート化合物(B)の中に水酸基含有多官能(メタ)アクリレート(D)を添加(滴下を含む)して反応させる方法[方法2]、そして水酸基含有多官能(メタ)アクリレート(D)の中にイソシアヌレート骨格含有イソシアネート化合物(B)を添加(滴下を含む)して反応させる方法[方法3]がある。中でも[方法1]、[方法3]が好ましく、[方法3]が更に好ましい。
【0037】
[方法2]ではイソシアネート化合物が高濃度な状態に水酸基含有多官能(メタ)アクリレート(D)を添加(滴下を含む)するため、ゲル化を起こす可能性がある。すなわち、水酸基含有多官能(メタ)アクリレート(D)の水酸基を起点としたポリウレタン化反応が進むと考えられるため、得られる化合物の分子量が大きくなり過ぎ、望んだ化合物が得られにくくなる。
【0038】
また[方法1]で製造すると、イソシアネート化合物や水酸基含有多官能(メタ)アクリレート(D)を2種類以上使用した場合、得られる化合物の構造制御ができなくなる恐れがある。また一括で混合することによりポリウレタン化反応が急激に起こるため、反応温度が制御不能に陥る可能性がある。事故防止の観点から、一括混合は望ましくない。このため、[方法3]が最も好ましい製造方法である。
【0039】
(反応環境)
多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)合成中のラジカル重合反応によるゲル化を防止するため、反応は分子状酸素含有ガス雰囲気下で行うことが好ましい。酸素濃度は安全面を考慮して適宜選択される。また反応は温度130℃以下で行うことが好ましく、特に40〜130℃であることがより好ましい。40℃より低いと実用上十分な反応速度が得られないことがあり、130℃より高いと熱によるラジカル重合によって二重結合部が架橋し、ゲル化物が生じることがある。反応は、通常、反応液中の残存NCO濃度が0.1重量%以下になるまで行う。残存NCO濃度は後述する、ガスクロマトグラフィー、滴定法等で分析する。
【0040】
(ウレタン化触媒)
多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)を合成する際、十分な反応速度を得るために、ウレタン化触媒(以下、単に触媒ということもある)を用いて行ってもよい。触媒としては、ジブチルスズジラウレート、オクチル酸スズ、塩化スズなどを用いることができるが、反応速度面からオクチル酸スズが好ましい。これらの触媒の量は通常、生成するイソシアヌレート骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)に対して、1〜3000ppm(重量基準)、好ましくは50〜1000ppmである。触媒量が1ppmより少ない場合には十分な反応速度が得られないことがあり、3000ppmより多く加えると耐光性の低下など生成物の諸物性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0041】
<重合禁止剤>
本発明の帯電防止性ハードコート組成物は、重合禁止剤を含んでいても良い。重合禁止剤は、特に限定されるものではなく、公知の重合禁止剤を用いることができる。具体的には、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、モノ−tert−ブチルヒドロキノン、カテコール、p−tert−ブチルカテコール、p−メトキシフェノール、p−tert−ブチルカテコール、2,6−ジ−tert−ブチル−m−クレゾール、ピロガロール、β−ナフトール等のフェノール類、ベンゾキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、p−トルキノン、p−キシロキノン等のキノン類;ニトロベンゼン、m−ジニトロベンゼン、2−メチル−2−ニトロソプロパン、α−フェニル−tert−ブチルニトロン、5,5−ジメチル−1−ピロリン−1−オキシド等のニトロ化合物またはニトロソ化合物;クロラニル−アミン、ジフェニルアミン、ジフェニルピクリルヒドラジン、フェノール−α−ナフチルアミン、ピリジン、フェノチアジン等のアミン類;ジチオベンゾイルスルフィド、ジベンジルテトラスルフィド等のスルフィド類等が挙げられる。これらの重合禁止剤は、一種のみを用いてもよく、また、二種以上を混合して用いてもよい。中でも、ヒドロキノンモノメチルエーテルが好ましく使用できる。
【0042】
これらの重合禁止剤の量は、生成する多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)に対して、1〜10000ppm(重量基準)が好ましく、より好ましくは100〜1000ppm、さらに好ましくは400〜900ppmである。重合禁止剤の量が上記ウレタン(メタ)アクリレートに対して1ppm未満であると十分な重合禁止効果が得られないことがあり、10000ppmを超えると生成物の諸物性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0043】
本発明の帯電防止性ハードコート組成物は、さらに、活性エネルギー線硬化性化合物として、前記水酸基含有(メタ)アクリレート(D)と同一又は異なる水酸基含有(メタ)アクリレート(D’)、水酸基非含有(メタ)アクリレート(H)、前記多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)以外のウレタン(メタ)アクリレート(UA’)を含有していてもよい。また、他の2官能以上のアクリレートオリゴマーを単独または複数組み合わせて用いても良い。アクリレートオリゴマーとしては、例えば、モノまたはポリオールに(メタ)アクリル酸を反応させたポリエステルアクリレート、ビスフェノールAエポキシ樹脂のジ(メタ)アクリレートに代表されるエポキシアクリレート等が挙げられる。
【0044】
<水酸基含有(メタ)アクリレート(D’)>
水酸基含有(メタ)アクリレート(D’)は、前記の水酸基含有(メタ)アクリレート(D)で例示したものと同一のものから選ぶことができる。水酸基含有(メタ)アクリレート(D’)は、反応性希釈剤として使用できる。
【0045】
水酸基含有(メタ)アクリレート(D’)の含有量は、活性エネルギー線硬化性化合物中に、例えば0重量%以上50重量%以下、好ましくは0重量%以上30重量%以下、さらに好ましくは0重量%以上20重量%以下である。水酸基含有(メタ)アクリレート(D’)の含有量が50重量%を超えると硬化フィルムのカール性が大きくなり、フィルム特性を損なう場合がある。
【0046】
<水酸基非含有(メタ)アクリレート(H)>
水酸基非含有(メタ)アクリレート(H)としては、活性エネルギー線硬化性であり、例えば1個以上の(メタ)アクリロイル基を含有するものを使用でき、具体的には、例えば、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチルペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールビスβ−(メタ)アクリロイルオキシプロピネート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリ(2−ヒドロキシエチル)イソシアネートジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、2,3−ビス(メタ)アクリロイルオキシエチルオキシメチル[2.2.1]ヘプタン、ポリ1,2−ブタジエンジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(メタ)アクリロイルオキシメチルヘキサン、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカンエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、10−デカンジオール(メタ)アクリレート、3,8−ビス(メタ)アクリロイルオキシメチルトリシクロ[5.2.10]デカン、水素添加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、1,4−ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)シクロヘキサン、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、エポキシ変成ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの活性エネルギー線硬化性モノマーは単独で使用しても良いし、2種類以上を併用しても良い。また、これらは塗液において、モノマーであってもよいし、一部が重合していてもかまわない。水酸基非含有(メタ)アクリレート(H)としては、2個以上の(メタ)アクリロイル基を含有するものが好ましく、さらに3個以上の(メタ)アクリロイル基を含有するものが好ましい。水酸基非含有(メタ)アクリレート(H)は、反応性希釈剤として使用できる。
【0047】
水酸基非含有(メタ)アクリレート(H)の含有量は、活性エネルギー線硬化性化合物中に、例えば0重量%以上50重量%以下、好ましくは0重量%以上30重量%以下、さらに好ましくは0重量%以上20重量%以下である。水酸基非含有(メタ)アクリレート(H)の含有量が50重量%を超えると硬化フィルムのカール性が大きくなり、フィルム特性を損なう場合がある。
【0048】
<多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)以外のウレタン(メタ)アクリレート(UA’)>
本発明の帯電防止性ハードコート組成物は、活性エネルギー線硬化性化合物として、さらに、多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)以外のウレタン(メタ)アクリレート(UA’)[以下、本明細書において、単に、ウレタン(メタ)アクリレート(UA’)という]を含有していても良い。ウレタン(メタ)アクリレート(UA’)は、「イソシアヌレート骨格含有イソシアネート化合物(B)以外のイソシアネート化合物(C)[以下、本明細書において、単に、イソシアネート化合物(C)という]」と「水酸基含有(メタ)アクリレート(D)」との反応により得ることができる。ウレタン(メタ)アクリレート(UA’)は、前記の多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)の合成方法や、公知の方法で合成することができる。
【0049】
反応に用いるイソシアネート化合物(C)、及び水酸基含有(メタ)アクリレート(D)はそれぞれ1種類でも良いし、2種類以上を組み合わせても良い。ウレタン(メタ)アクリレート(UA’)の含有量は、活性エネルギー線硬化性化合物中、例えば0〜50重量%とすることができる。
【0050】
<イソシアネート化合物(C)>
イソシアネート化合物(C)は、上記式(3)で示されるイソシアヌレート骨格を有さないイソシアネート化合物である。以下にイソシアネート化合物(C)の具体例をいくつか例示するが、本発明は、これらの例示に限定されるものではない。具体的には、イソシアネート化合物(C)として、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシレンジイソシアネート、1,4−キシレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジベンジルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートあるいはこれらジイソシアネート化合物のうち芳香族のイソシアネート類を水添して得られるジイソシアネート化合物(例えば水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物)、トリフェニルメタントリイソシアネート、ジメチレントリフェニルトリイソシアネートなどのイソシアネート基含有化合物が挙げられる。また、上記イソシアネート化合物をカプロラクトン誘導体などのポリエステルポリオールと反応させた変性品でも良い。なかでも1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートが好ましく使用できる。
【0051】
本発明の帯電防止性ハードコート組成物は、さらに、光開始剤(F)、及び有機溶剤(G)を含有していてもよい。
【0052】
<光開始剤(F)>
光開始剤(F)としては、活性エネルギー線の種類や、多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)等の活性エネルギー線硬化性化合物の種類によっても異なり、特に限定されないが、公知の光ラジカル重合開始剤や光カチオン重合開始剤を用いることができる。例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン−4−メトキシベンゾフェノン、チオキサンソン、2−クロルチオキサンソン、2−メチルチオキサンソン、2,4−ジメチルチオキサンソン、イソプロピルチオキサンソン、2,4−ジクロロチオキサンソン、2,4−ジエチルチオキサンソン、2,4−ジイソプロピルチオキサンソン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、メチルフェニルグリオキシレート、ベンジル、カンファーキノンなどが挙げられる。
【0053】
光開始剤の使用量は、活性エネルギー線硬化性化合物100重量部(樹脂分)に対して1重量部以上20重量部以下、好ましくは1重量部以上5重量部以下である。1重量部未満だと硬化不良を引き起こす恐れがあり、逆に20重量部を超えると硬化後の塗膜から光開始剤由来の臭気が残存することがある。
【0054】
<有機溶媒(G)>
有機溶媒(G)としては、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、酢酸n−ブチル、メチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル溶媒等があり、PRTR[Pollutant Release and Transfer Register、化学物質排出移動量届出制度]法や毒性の観点から、好ましくは、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルである。必要に応じてメチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコールなども使用できる。
【0055】
本発明の帯電防止性ハードコート組成物に使用できる有機溶媒(G)は、イソシアネートと反応してしまう溶剤、例えばアルコール類を除けば、多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)の製造において希釈溶剤としても使用できる。また、上記有機溶媒(G)は、多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)合成後、帯電防止性ハードコート組成物の構成成分として新たに配合することも出来る。使用する際は1種類でも良いし、2種類以上を組み合わせることも可能である。帯電防止性ハードコート組成物中の有機溶剤(G)濃度は、通常、80重量%以下が好ましく、より好ましくは50〜70%重量である。
【0056】
<添加剤>
本発明の帯電防止性ハードコート組成物には、必要に応じて種々の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、例えば、染顔料、レベリング剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、分散剤、チクソトロピー性付与剤などが挙げられる。これらの添加物の添加量は、活性エネルギー線硬化性化合物100重量部(樹脂分)に対して、0重量部以上10重量部以下、好ましくは0.05重量部以上5重量部以下である。
【0057】
<紫外線吸収剤>
本発明の帯電防止性ハードコート組成物に含まれてもよい紫外線吸収剤は特に限定されることはなく、組成物に均一に溶解し、かつ必要な耐候性が付与できるものであれば使用できる。特に、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸フェニル系、安息香酸フェニル系から誘導された化合物で、それらの最大吸収波長が240〜380nmの範囲にある紫外線吸収剤が好ましく、特にベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤が好ましく、さらにこの上記2種を組み合わせて用いるのが最も好ましい。
【0058】
紫外線吸収剤としては、たとえば、2−ヒドロキシベンゾフェノン、5−クロロ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクチロキシベンゾフェノン、4−ドデシロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタテシロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキン−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノンフェニルサリシレート、p−tert−ブチルフェニルサリシレート、p−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニルサリシレート、3−ヒドロキシフェニルベンゾエート、フェニレン−1,3−ジベンゾエート、2−(2−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−4−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンとグリシジルアルキル(C12−C13)エーテルとの反応生成物等が挙げられるが、これらのうちベンゾフェノン系の2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、及び2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、べンゾトリアゾール系の2−(2−ヒドロキシ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾールが特に好ましく、これらは2種以上を組み合わせても良い。
【0059】
<レベリング剤>
本発明において、帯電防止性ハードコート組成物の塗工適性を得るために、塗工後の塗膜表面に作用し表面張力を低下させるレベリング性添加剤を加えてもよい。レベリング性添加剤としては、フッ素系添加剤、シロキサン系添加剤、アクリル系添加剤、及びアセチレングリコール系添加剤から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0060】
特に制限されないが、例えば、フッ素系添加剤として住友スリーエム社製フロラードFC−430、フロラードFC170、DIC社製メガファックF177、メガファックF471、シロキサン系添加剤としてビックケミー社製BYK−300、BYK−077、アクリル系添加剤としてビックケミー社製BYK−380、楠本化成社製ディスパロンL−1984−50、ディスパロンL−1970、そしてアセチレングリコール系添加剤として信越化学工業社製ダイノール604、サーフィノール104などが挙げられる。これらのレベリング性添加剤を単独、若しくは併用して使用できる。
【0061】
<積層体>
本発明の積層体は、基材と、該基材上に上記記載の帯電防止性ハードコート組成物を塗布硬化させて形成した硬化塗膜とを有する。積層体の構成として層間密着性を向上するために基材と帯電防止性ハードコート組成物の硬化塗膜との間に中間層があっても良い。
【0062】
<基材>
本発明の帯電防止性ハードコート組成物を塗布・硬化する基材としてはプラスチック基材フィルム等が挙げられ、例えば、熱可塑性樹脂プラスチック基材フィルムから選択される。プラスチック基材フィルムは、透明なものが好ましく、プラスチックとしては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、セロファン、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、アセチルセルロースブチレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテル、ポリスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、フッ素樹脂、ナイロン、アクリル等の熱可塑性樹脂プラスチック基材フィルムを挙げることができる。液晶テレビ等に使用される偏光板の部材として使用されているトリアセチルセルロースプラスチック基材フィルム(TACプラスチック基材フィルム)やタッチパネル用途で使用されているポリエチレンテレフタレートプラスチック基材フィルム(PETプラスチック基材フィルム)の使用が好ましい。
【0063】
(塗工/乾燥方法)
本発明の帯電防止性ハードコート組成物を基材に塗布する場合、塗布方法としては、特に限定されず、エアレススプレー、エアスプレー、ロールコート、バーコート、グラビアコート、ダイコートなどを用いることが可能である。中でも、薄膜塗布、部分塗布、コスト、作業性などの観点からダイコートが最も好ましい。なお、塗布は、プラスチック基材などの製造工程中で行う、いわゆるインラインコート法でもよいし、既に製造されたプラスチック基材に別工程で塗布を行う、いわゆるオフラインコート法でもよい。生産効率の観点から、オフラインコートが好ましい。
【0064】
(硬化方法)
本発明の帯電防止性ハードコート組成物を対象物であるTACやPETなどの薄膜プラスチック基材に塗布した後、例えば、紫外線または電子線等の活性エネルギー線を照射することにより極めて短時間で硬化させることができる。紫外線照射を行う時の光源としては、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、キセノン灯、メタルハライド灯などが用いられる。照射時間は、光源の種類、光源と塗布面との距離、その他の条件により異なるが、長くとも数十秒であり、通常は数秒である。通常、ランプ出力80〜300W/cm程度の照射源が用いられる。電子線照射の場合は、50〜1000KeVの範囲のエネルギーを持つ電子線を用い、2〜5Mradの照射量とすることが好ましい。活性エネルギー線照射後は、必要に応じて加熱を行って硬化の促進を図ってもよい。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例に基づき本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。これらの例に用いた化合物、薬剤、多官能ウレタン(メタ)アクリレートの略号、内容は下記の通りである。
HDIトリマー: 1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート由来のヌレート化合物、三井化学社製 タケネートD−170N
IPDI: イソホロンジイソシアネート、デグサ社製 VESTANAT IPDI
HDI: 1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、日本ポリウレタン社製 HDI
PETIA: 主にペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートからなる混合物、ダイセル・サイテック社製 PETIA
DPHA: 主にジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートからなる混合物、ダイセル・サイテック社製 DPHA
HEA: アクリル酸2−ヒドロキシエチル、日本触媒社製 HEA
CNT分散液: 多層カーボンナノチューブの濃度1重量%の酢酸エチル分散液;カーボンナノチューブの性状:直径10−20nm(ナノメーター)、長さ0.1−10μm(マイクロメーター)、比表面積40−300m2/g
光開始剤: 1−ヒドロキシシクロヘキサン−1−イルフェニルケトン、チバ・ジャパン社製 Irgacure184
UA−1: HDIトリマー/PETIAの反応物
UA−2: HDIトリマー/DPHAの反応物
UA−3: HDIトリマー/HEAの反応物
UA’−1: HDI/PETIAの反応物
UA’−2: HDI/DPHAの反応物
UA’−3: IPDI/PETIAの反応物
UA’−4: IPDI/DPHAの反応物
【0066】
<合成例>
(合成例1/UA−1の合成)
温度計、攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、第一成分としてHDIトリマー225g、オクチル酸スズ0.1g、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.8gを充填し、内温を70℃にした後、第二成分としてPETIA775gを2時間かけて滴下した。滴下終了後、4時間熟成反応させ、NCO濃度が0.1重量%以下になったことを確認して反応を終了させ、多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA−1)を得た。得られた多官能ウレタン(メタ)アクリレートの理論最大官能基数は9官能である。
【0067】
なお、NCO濃度は以下のように測定した。
(ブランク値の測定)
ジブチルアミンのTHF溶液(0.1N)の15mLにフェノールフタレイン(1%メタノール溶液)の3滴を加えて青色に着色させた溶液に、規定度0.1NのHCl水溶液を変色がみられるまで滴下した。HCl水溶液の滴定量をブランク値(BmL)とした。
(合成品のNCO濃度の測定)
多官能ウレタン(メタ)アクリレート反応液(重量Sg)を15mLのTHFに溶解させ、さらに、ジブチルアミンのTHF溶液(0.1N)を15mL加えた。均一に溶液化したことを確認した後、フェノールフタレイン(0.1%メタノール溶液)の3滴を加えて青色に着色させた後、規定度0.1NのHCl水溶液を変色がみられるまでの滴下量を測定した(AmL)。
(NCO濃度の計算)
次の計算式により多官能ウレタン(メタ)アクリレート反応液のNCO濃度を算出した。
NCO濃度=(B−A)×1.005×0.42÷S (単位重量%)
【0068】
(合成例2/UA−2の合成)
第一成分としてHDIトリマー130g及び、第二成分としてDPHA870gを用いた以外は合成例1と同じ操作を繰り返した。その結果、多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA−2)を得た。得られた多官能ウレタン(メタ)アクリレートの理論最大官能基数は15官能である。
【0069】
(合成例3/UA−3の合成)
第一成分としてHDIトリマー627g及び、第二成分としてHEA373gを用いた以外は合成例1と同じ操作を繰り返した。その結果、多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA−3)を得た。得られた多官能ウレタン(メタ)アクリレートの理論最大官能基数は3官能である。
【0070】
(比較合成例1/UA’−1の合成)
第一成分としてHDI124g及び、第二成分としてPETIA877gを用いた以外は合成例1と同じ操作を繰り返した。その結果、多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA’−1)を得た。得られた多官能ウレタン(メタ)アクリレートの理論最大官能基数は6官能である。
【0071】
(比較合成例2/UA’−2の合成)
第一成分としてHDI76g及び、第二成分としてDPHA924gを用いた以外は合成例1と同じ操作を繰り返した。その結果、多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA’−2)を得た。得られた多官能ウレタン(メタ)アクリレートの理論最大官能基数は10官能である。
【0072】
(比較合成例3/UA’−3の合成)
第一成分としてIPDI176g及び、第二成分としてPETIA825gを用いた以外は合成例1と同じ操作を繰り返した。その結果、多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA’−3)を得た。得られた多官能ウレタン(メタ)アクリレートの理論最大官能基数は6官能である。
【0073】
(比較合成例4/UA’−4の合成)
第一成分としてIPDI99g及び、第二成分としてDPHA901gを用いた以外は合成例1と同じ操作を繰り返した。その結果、多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA’−4)を得た。得られた多官能ウレタン(メタ)アクリレートの理論最大官能基数は10官能である。
【0074】
<実施例1〜9、及び比較例1〜7>
ステンレス製ビーカーに、表1に示す成分を充填し、プライミクス社製ホモジナイザー「T.K.ROBOMIX」を用いて混合攪拌し、実施例1〜9、及び比較例1〜7の各配合液(帯電防止性ハードコート組成物)を得た。得られた各配合液の固形分と樹脂中のCNT濃度は、表1の下段に示した。
【0075】
(試験)
各配合液を用いて、以下の試験方法に記載の通り、塗布フィルムの作成および表面抵抗率、全光線透過率、鉛筆硬度の測定、耐傷付き性、耐溶剤性、保存安定性の試験を行った。各試験結果を表1に示した。
【0076】
(塗布フィルム作成)
東洋紡社製コスモシャイン A4100 (厚み100μmのPETフィルム)に、バーコーターにて各配合液を塗布。80℃で3分乾燥後、UV照射(400mJ/cm2)し、膜厚1〜2μmの塗布フィルムを作成。
【0077】
(表面抵抗率)
表面抵抗率は、以下の装置を用いて測定した。
測定器:三菱化学アナリテック社製ハイレスタ−UP
【0078】
(全光線透過率)
全光線透過率は、以下の装置を用いて測定した。
測定器:日本電色工業社製ヘイズメーター NDH 2000
【0079】
(鉛筆硬度)
鉛筆硬度は、JIS K5400に準拠して求めた。
【0080】
(耐傷付き性)
耐傷付き性は、#0000スチールウールを用いて、荷重1kg/cm2にて10往復させた後の塗膜表面を目視観察し、5点法で判定した。
5点:傷なし
4点:傷1〜5本
3点:傷6〜10本
2点:傷11本以上
1点:全面傷付き
【0081】
(耐溶剤性)
耐溶剤性は、MEK(メチルエチルケトン)を含浸したフェルトを用いて、荷重1kg/cm2にて10往復させた後の塗膜表面を目視観察し、以下の基準により判定した。
○:変化なし
△:わずかに光沢低下
×:塗膜の一部剥離
【0082】
(保存安定性[分散安定性])
組成物の保存安定性(分散安定性)は、ガラス製50mlスクリュー管に配合液を各30g入れ、室温にてステンレス製密閉容器内で30日間放置後、配合液の状態を目視観察し、判定した。
○:分離または凝集物、沈降物の発生無し
△:わずかに分離または凝集物、沈降物が発生
×:分離または凝集物、沈降物が発生
【0083】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ(A)と、活性エネルギー線硬化性化合物として下記式(1)
【化1】

[式(1)中R1〜R3は、同一又は異なって、それぞれ、水酸基と1個以上の(メタ)アクリロイル基とを含有する水酸基含有(メタ)アクリレート(D)の該水酸基から水素原子を除した基を示し、R4〜R6は、同一又は異なって、それぞれ、−(CH26−及び下記式(2a)〜(2g)
【化2】

{式(2d)中R7〜R10は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を表す。ただし、R7〜R10は同時に水素原子であることはない}
からなる群から選ばれる2価の基を示す]
で示されるイソシアヌレート骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)とを含有することを特徴とする帯電防止性ハードコート組成物。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ(A)の含有量が、帯電防止性ハードコート組成物中の固形分に対して0.1〜2重量%である、請求項1記載の帯電防止性ハードコート組成物。
【請求項3】
多官能ウレタン(メタ)アクリレートに含まれるイソシアヌレート構造のモル数が、カーボンナノチューブ100gに対して0.5〜10である、請求項1又は2に記載の帯電防止性ハードコート組成物。
【請求項4】
前記イソシアヌレート骨格を含有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)が、下記式(3)
【化3】

[式(3)中R4〜R6は、式(1)と同じ]
で示されるヌレート骨格含有イソシアネート化合物(B)と、水酸基と1個以上の(メタ)アクリロイル基とを含有する水酸基含有(メタ)アクリレート(D)との反応によって合成される、請求項1〜3の何れか1項に記載の帯電防止性ハードコート組成物。
【請求項5】
前記水酸基含有(メタ)アクリレート(D)が2種以上の水酸基含有(メタ)アクリレートの混合物である、請求項1〜4の何れか1項に記載の帯電防止性ハードコート組成物。
【請求項6】
さらに、前記多官能ウレタン(メタ)アクリレート(UA)以外のウレタン(メタ)アクリレート(UA’)を含有する、請求項1〜5の何れか1項に記載の帯電防止性ハードコート組成物。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブ(A)が多層カーボンナノチューブであり、直径8〜30nm、長さ0.1〜50μmである、請求項1〜6の何れか1項に記載の帯電防止性ハードコート組成物。
【請求項8】
基材と、該基材上に請求項1〜7の何れか1項に記載の帯電防止性ハードコート組成物を塗布硬化させて形成した硬化塗膜とを有する積層体。

【公開番号】特開2012−62357(P2012−62357A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205673(P2010−205673)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(592019589)ダイセル・サイテック株式会社 (16)
【Fターム(参考)】