説明

帯電防止性ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法及び成形品

【課題】溶融混練時、成形時及び長時間高温下で使用される環境下においても、黄色や褐色への着色が抑制され、機械的強度や透明性を著しく低下させることなく、流動性を向上させ、特に耐熱性も含めて総合的にバランスのとれた良好な性能を有する帯電防止性ポリカーボネート樹脂成形品を提供すること。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)と帯電防止剤(B)を配合したポリカーボネート樹脂組成物(J)から成形品を射出成形する際、ゲート通過時の樹脂組成物(J)の最大せん断速度を1500〜10000/secとすることを特徴とする帯電防止性ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法及び成形品に関する。さらに詳しくは、溶融混練時、成形時及び長時間高温下で使用される環境下でも、黄色や褐色への着色が抑制され、機械的強度や透明性を著しく低下させることなく、流動性を向上させ、耐熱性も良好な帯電防止性ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法及び成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、機械的強度、耐熱性、透明性等に優れた樹脂として電気・電子・OA機器の各種部品、自動車部品、建材、医療用途、雑貨等の分野で幅広く用いられている。しかし、ポリカーボネート樹脂は表面抵抗率が高いので、接触や摩擦等で発生した静電気が消滅し難く、成形品表面にゴミや塵が付着して外観や透明性を損ない、さらに、人体への電撃による不快感、ノイズの発生や機器の誤作動等の問題がある。このため、ポリカーボネート樹脂本来の特性を損なうことなく、表面抵抗率を下げて、帯電防止性を付与したポリカーボネート樹脂組成物を溶融成形してなる帯電防止性ポリカーボネート樹脂成形品の提供が強く求められている。
【0003】
従来、帯電防止性を有するポリカーボネート樹脂組成物としては、ポリカーボネート樹脂にスルホン酸ホスホニウム塩、亜リン酸エステル及びカプロラクトン系重合体を配合した樹脂組成物(特許文献1)や、ポリカーボネート樹脂にホスホニウム塩等の帯電防止剤とポリカプロラクトンを配合した樹脂組成物(特許文献2)等が提案されている。しかし、それらの特許文献による樹脂組成物では、流動性のバラツキが大きく、安定した成形が困難で、溶融混練時及び成形時において、黄色ないし褐色への着色が生じ、また、機械的強度及び帯電防止性が低下するという問題があった。これは、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が高いため、樹脂組成物の溶融混練温度や溶融成形温度が高くなり、その結果、樹脂組成物の熱分解が顕著になるためと考えられる。
【0004】
また、特許文献3には、ポリカーボネート樹脂にポリカーボネートオリゴマーを1〜60w%配合してなるポリカーボネート樹脂光学成形品が提案され、特許文献4には、ポリカーボネート樹脂に分子量が2000〜5000のポリカーボネートオリゴマーを少なくとも10重量%含有する樹脂が提案されている。しかし、これらの文献には、光学成形品用途の場合に、オリゴマーを配合することが流動性に影響を与えることが記載されているのみである。
【0005】
さらに、特許文献5には、帯電防止剤を含有するポリカーボネート樹脂組成物から成形品を成形する方法において、成形時の成形機の樹脂温度が290〜330℃、および金型温度が60〜90℃の条件で成形することを特徴とする帯電防止性ポリカーボネート樹脂組成物の成形方法が提案されているが、帯電防止性の改良効果は限定的で、黄色ないし褐色への着色やヤケゴミが発生し易いという欠点があった。
【0006】
【特許文献1】特開平9−194711号公報
【特許文献2】特開2006−257177号公報
【特許文献3】特開昭61−123658号公報
【特許文献4】特開平9−208684号公報
【特許文献5】特開2002−144393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、溶融混練時、成形時及び長時間高温下で使用される環境下においても、黄色や褐色への着色が抑制され、機械的強度や透明性を著しく低下させることなく、流動性を向上させ、特に耐熱性も含めて総合的にバランスのとれた良好な性能を有する帯電防止性ポリカーボネート樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、帯電防止性ポリカーボネート樹脂組成物を特定の条件で射出成形することにより、黄色や褐色への着色が抑制され、機械的強度や透明性を著しく低下させることなく、安定した帯電防止性を有する成形品を成形できることを見出して本発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は、
(イ)ポリカーボネート樹脂(A)と帯電防止剤(B)を配合したポリカーボネート樹脂組成物(J)から成形品を射出成形する際、ゲート通過時の樹脂組成物(J)の最大せん断速度を1500〜10000/secとすることを特徴とする帯電防止性ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法、
(ロ) 上記ポリカーボネート樹脂組成物(J)が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、帯電防止剤(B)として下記一般式(1)で表されるスルホン酸ホスホニウム塩(b)を0.1〜5.0重量部、
【0009】
【化1】

(一般式(1)中、Rは炭素数1〜40のアルキル基又はアリール基であり、置換基を有していても良く、R〜Rは、各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基であり、これらは同じでも異なっていてもよい。)
芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)を0.1〜10重量部、及び、カプロラクトン系重合体(D)を0.01〜8重量部配合したものであることを特徴とする上記(イ)記載の帯電防止性ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法、
(ハ) 上記ポリカーボネート樹脂組成物(J)が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)とカプロラクトン系重合体(D)との合計量[(C+D)]で、0.11〜18重量部配合したものであることを特徴とする上記(イ)または(ロ)に記載の帯電防止性ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法、
(ニ) 上記ポリカーボネート樹脂組成物(J)が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、リン系安定剤(E)を0.01〜1.0重量部配合したものであることを特徴とする上記(イ)〜(ハ)のいずれかに記載の帯電防止性ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法、
(ホ) 上記ポリカーボネート樹脂組成物(J)が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、下記一般式(2)で示される構造を分子内に有するフェノール系酸化防止剤(F)を0.01〜1.0重量部配合したものであることを特徴とする、上記(イ)〜(ニ)のいずれかに記載の帯電防止性ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法、
【0010】
【化2】

(一般式(2)中、R〜Rは、各々独立して水素原子、又は炭素数1〜3のアルキル基を示し、t−Buは、tert−ブチル基を示す。)
(ヘ) 上記ポリカーボネート樹脂組成物(J)が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、耐候性改良剤(G)を0.01〜3.0重量部配合したものであることを特徴とする上記(イ)〜(ホ)のいずれかに記載の帯電防止性ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法、及び
(ト) 上記(イ)〜(ヘ)のいずれかに記載の製造方法によって得られた帯電防止性ポリカーボネート樹脂成形品に存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法により射出成形された成形品は、溶融混練時、成形時及び長時間高温下で使用される環境下においても、黄色や褐色への着色が抑制され、機械的強度、透明性、耐熱性を著しく低下させることなく、安定した帯電防止性を有するので、各種成形品、例えば、記録媒体の基板やカートリッジ、電気・電子・OA機器の各種部品、透明シートや透明フィルム等の建材、雑貨部品、パチンコ用部品(回路カバー、シャーシ、パチンコ玉ガイド等)、医療用途や、窓ガラス、メーターカバー、ルームランプ、テールランプレンズ、ウィンカーランプ、ヘッドランプレンズ等の照明用又は車両用透明部材等の用途において有用であり、更には、照明用透明部材の用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
ポリカーボネート樹脂(A)
本発明においてポリカーボネート樹脂としては、芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、芳香族−脂肪族ポリカーボネートを用いることができるが、中でも芳香族ポリカーボネートが好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂としては、芳香族ジヒドロキシ化合物またはこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲンと反応させる界面重合法(ホスゲン法)、又は炭酸ジエステルと反応させる溶融法(エステル交換法)により得られる樹脂であり、直鎖状又は分岐状の熱可塑性重合体又は共重合体である。また、溶融法で製造することにより、末端基のOH基量が調整された樹脂であってもよい。
【0013】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−P−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。また、難燃性を更に高める目的で、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物、及び/又はシロキサン構造を有し、両末端にフェノール性水酸基を含有するポリマー又はオリゴマーを使用することができる。
【0014】
また、分岐状の芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、上述した芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を以下の化合物、即ちフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニルヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物や、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチンビスフェノール、5,7−ジクロルイサチンビスフェノール、5−ブロムイサチンビスフェノール等の化合物で置換すればよい。これら置換する化合物の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0015】
ポリカーボネート樹脂の分子量を調節するには、一価芳香族ヒドロキシ化合物を用いることができ、具体的には、m−及p−メチルフェノール、m−及びp−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール及びp−長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)としては、ビスフェノールAから誘導されるポリカーボネート樹脂、又はビスフェノールAと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導される芳香族ポリカーボネート共重合体が好ましい。更に、本発明においてポリカーボネート樹脂は、2種以上の樹脂を混合して用いてもよい。
【0016】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した値で、好ましくは13000〜40000、より好ましくは14000〜30000、最も好ましくは15000〜29000である。粘度平均分子量が13000未満であると衝撃強度等の機械的強度が不足し、40000を超えると流動性が低下する傾向がある。
【0017】
帯電防止剤(B)
本発明に用いる帯電防止剤(B)は特に限定されないが、好ましくは下記一般式(1)で表されるスルホン酸ホスホニウム塩(b)である。
【0018】
【化1】

(一般式(1)中、Rは炭素数1〜40のアルキル基又はアリール基であり、置換基を有していても良く、R〜Rは、各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基であり、これらは同じでも異なっていてもよい。)
前記一般式(1)で示されるスルホン酸ホスホニウム塩(b)は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、0.1〜5.0重量部配合されるが、好ましくは0.2〜3.0重量部、更に好ましくは0.3〜2.0重量部、特に好ましくは0.5〜1.8重量部である。0.1重量部未満では、帯電防止の効果は得られず、5.0重量部を超えると透明性や機械的強度が低下し、成形品表面にシルバーや剥離が生じて外観不良を引き起こし易い。
【0019】
前記一般式(1)中のRは、炭素数1〜40のアルキル基又はアリール基であるが、透明性や耐熱性、ポリカーボネート樹脂への相溶性の観点からアリール基の方が好ましく、炭素数1〜34、好ましくは5〜20、特に、10〜15のアルキル基で置換されたアルキルベンゼン又はアルキルナフタリン環から誘導される基が好ましい。また、一般式(1)中のR〜Rは、各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基であるが、好ましくは炭素数2〜8のアルキルであり、更に好ましくは3〜6のアルキル基であり、特に、ブチル基が好ましい。
【0020】
本発明においてスルホン酸ホスホニウム塩(b)の具体例としては、ドデシルスルホン酸テトラブチルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸トリブチルオクチルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラオクチルホスホニウム、オクタデシルベンゼンスルホン酸テトラエチルホスホニウム、ジブチルベンゼンスルホン酸トリブチルメチルホスホニウム、ジブチルナフチルスルホン酸トリフェニルホスホニウム、ジイソプロピルナフチルスルホン酸トリオクチルメチルホスホニウム等が挙げられる。中でも、ポリカーボネートとの相溶性及び入手が容易な点で、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウムが好ましい。
【0021】
芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)
本発明に用いる帯電防止性ポリカーボネート樹脂組成物には、上述したスルホン酸ホスホニウム塩(b)等の帯電防止剤(B)の他に、芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)を特定量配合することが好ましい。芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)の配合により、透明性、溶融混練時及び成形時における着色、流動性、耐熱性、機械的強度、帯電防止性等、総合的にバランスのとれた良好な性能を有する成形品を得ることができる。
【0022】
芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)とは、粘度平均分子量が1,000〜10,000の範囲のオリゴマーであり、耐衝撃性や透明性等物性バランスを維持しながら流動性改良効果を発現させるために、粘度平均分子量は、好ましくは1,500〜9,000であり、より好ましくは2,000〜8,000である。オリゴマーの粘度平均分子量が1,000未満であると成形時に成形品からブリードアウトし易く、粘度平均分子量が10,000を超えると流動性が低下する傾向がある。
【0023】
芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)の数平均重合度(繰り返し構造単位数の平均値)は、通常2〜15、好ましくは3〜14、より好ましくは4〜13である。オリゴマーは、重合度1では成形時に成形品からブリードアウトし易い傾向があり、重合度が15を超えると流動性が低下する傾向がある。
【0024】
芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)は、芳香族ジヒドロキシ化合物をホスゲンまたは炭酸のジエステルと、分子量調節剤の存在下反応させることによって製造することができる。芳香族ジヒドロキシ化合物としては、前述した芳香族ポリカーボネート樹脂の原料として用いられる芳香族ジヒドロキシ化合物が挙げられ、好ましくはビスフェノールAが用いられる。分子量調節剤としては、前述した芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量調整に用いられる一価芳香族ヒドロキシ化合物を用いることができ、m−及p−メチルフェノール、m−及びp−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール及びp−長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。
【0025】
芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)としては、芳香族ヒドロキシ化合物を2種以上用いた共重合により得られるオリゴマーであってもよく、芳香族ヒドロキシ化合物の組み合わせとしては、例えば、ビスフェノールA(BPA)とテトラブロモビスフェノールA(TBA)が挙げられる。
【0026】
本発明においては、上述した方法により製造した芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)を、樹脂組成物に特定量配合させる。
芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)の配合率は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し0.1〜10重量部であり、好ましくは0.3〜5重量部、より好ましくは0.5〜3重量部である。芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)の配合率が0.1重量部未満では、流動性改良効果が不十分であり、10重量部を超えると熱エージング後の色相が悪化し、衝撃強度が低下する。
【0027】
また芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)のスルホン酸ホスホニウム塩(b)(一
般式(1))に対する配合比率(C)/(b)(重量比)は、流動性改良効果を発現させる為に、通常2/100〜2000/100であり、好ましくは5/100〜500/100であり、更に好ましくは10/100〜200/100である。
【0028】
カプロラクトン系重合体(D)
本発明に用いる帯電防止性樹脂組成物においては、更にカプロラクトン系重合体(D)を特定量配合することが好ましい。本発明におけるカプロラクトン系重合体(D)は、重合体中にε−カプロラクトン由来の構成単位を、少なくとも70重量%以上、好ましくは75重量%以上、更に好ましくは80重量%以上含有する重合体又は共重合体である。ε−カプロラクトンと共重合するモノマーとしては、β−プロピオラクトン、ピバロラクトン、ブチロラクトン等のラクトンモノマー、エチレンオキシド、1,2−プロピオンオキシド、1,3−プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン等のアルキレンオキシド、スチレン、メチルメタクリレート、ブタジエン等の不飽和モノマー及びテレフタル酸ジメチル、ジフェニルカーボネート等のカップリング剤等が挙げられる。
【0029】
カプロラクトン系重合体(D)としては、ε−カプロラクトン単位のメチレン鎖の水素原子の一部がハロゲン原子または炭化水素基で置換されていても良く、カプロラクトン系重合体の末端がエステル化、エーテル化等によって末端変性されていても良い。カプロラクトン系重合体の製造法としては、特に限定されないが、アルコール、グリコール、水等の適当な開始剤及びチタニュウムテトラブトキシド、塩化スズ等の触媒を用い、ε−カプロラクトンを開環重合する方法が用いられる。
【0030】
カプロラクトン系重合体(D)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、0.01〜8重量部である。0.01重量部未満では着色防止効果が不十分であり、5重量部を超えると耐熱性、帯電防止性及び透明性が低下しやすい。カプロラクトン系重合体の配合量は、好ましくは、0.05〜5重量部、更に好ましくは、0.08〜4重量部、特に好ましくは0.1〜3重量部である。
【0031】
本発明において、カプロラクトン系重合体(D)のスルホン酸ホスホニウム塩(b)(一般式(1))に対する配合比率(重量比)は、成形時の着色防止の為、(D)/(b)で、通常1/20〜20/1であり、好ましくは1/10〜10/1であり、更に好ましくは1/8〜5/1、特に好ましくは1/5〜1/1である。
また、本発明において、芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)とカプロラクトン系重合体(D)との配合率(重量比)は、耐衝撃性・耐熱性のバランス維持の為、(C)/(D)で、通常1/20〜10/1、好ましくは1/10〜8/1、更に好ましくは1/5〜5/1、特に好ましくは1/3〜4/1である。
【0032】
更に、本発明において、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対する、芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)とカプロラクトン系重合体(D)との合計配合量[(C+D)]は、耐衝撃性及び耐熱性のバランス維持の為、通常0.11〜20重量部であり、好ましくは0.15〜10重量部、更に好ましくは0.5〜7重量部、特に好ましくは1.0〜3.0重量部である。
【0033】
カプロラクトン系重合体(D)の数平均分子量(GPC測定)としては、好ましくは1,000〜100,000である。数平均分子量が1,000未満では耐熱性が不十分になりやすく、100,000を超えると加工性や透明性が低下しやすい。カプロラクトン系重合体の数平均分子量としては、透明性の点からより好ましくは、5,000〜50,000、更には10,000〜30,000である。分子量の高いカプロラクトン系重合体を用いると白化する場合があるが、これは、カプロラクトン系重合体がドメインを形成してマトリックス中に分散し、海島構造を形成する結果、海と島の屈折率に差があるためと考えられる。白化現象を防止し透明化を促進するためには、ポリカーボネート樹脂(A)と(D)カプロラクトン系重合体との間でエステル交換反応を起こさせることが好ましく、そのためには、樹脂組成物中にエステル交換反応触媒を配合し、混練することが好ましい。
【0034】
エステル交換反応触媒の具体例としては、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、無機酸または三フッ化ホウ素等のルイス酸等の酸性物質、水酸化ナトリウム、各種アミン類等の塩基性物質、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酢酸塩等の金属塩、及び亜鉛、マンガン、コバルト、アンチモン、ゲルマニュウム、チタン、スズの化合物等が挙げられ、好ましくは、亜鉛、アンチモン、チタン、スズの化合物であり、中でもテトラアルキルチタネート、酢酸亜鉛、酢酸第一スズ、三酸化アンチモンが好ましい。触媒を使用しなくてもエステル交換が進む場合もあるが、より確実にエステル交換反応を起こさせる為には、エステル交換反応触媒の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、好ましくは0.001〜0.2重量部である。配合量が0.001重量部未満であるとエステル交換反応の促進効果が不十分であり、0.2重量部を超えると着色等が生じやすい。エステル交換反応触媒の配合量は、より好ましくは0.005〜0.1重量部、更に好ましくは0.004〜0.08重量部である。
【0035】
リン系安定剤(E)
本発明に用いる帯電防止性樹脂組成物には、更にリン系安定剤(E)を特定量配合することが、熱安定性を改良できるという点で好ましい。リン系安定剤(E)としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられ、中でも3価のリンを含み変色抑制効果を発現しやすい点で、ホスファイト、ホスホナイト等の亜リン酸エステルが好ましい。
【0036】
ホスファイトとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)、テトラ(トリデシル)4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0037】
また、ホスホナイトとしては、テトラキス(2,4−ジ−iso−プロピルフェニル)
−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、およびテトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられる。
【0038】
また、アシッドホスフェートとしては、例えば、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0039】
本発明においてリン系安定剤(E)として使用される亜リン酸エステルの中では、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、耐熱性が良好であることと加水分解しにくいという点で、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが特に好ましい。
【0040】
本発明に用いるリン系安定剤(E)は、2種類以上を混合して配合することができるが、リン系安定剤(E)の合計の配合率は、通常ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.01〜1.0重量部、好ましくは0.03〜0.5重量部、より好ましくは0.05〜0.2重量部の範囲で配合される。0.01重量部未満では安定剤としての効果が不十分であり、成形時の分子量の低下や色相悪化が起こりやすく、また1.0重量部を超えると、過剰量となりシルバーの発生や、色相悪化が更に起こりやすくなる傾向がある。
【0041】
また、リン系安定剤(E)のスルホン酸ホスホニウム塩(b)(一般式(1))に対する合計の配合比率(E)/(b)(重量比)は0.5/100〜50/100であり、好ましくは1/100〜20/100であり、更に好ましくは2/100〜15/100であり、リン系安定剤(E)の芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)に対する配合比率(E)/(C)(重量比)は、成形時の熱劣化を防ぐ目的で、通常0.1/100〜1000/100であり、好ましくは1/100〜200/100であり、更に好ましくは2/100〜40/100である。
【0042】
更に、リン系安定剤(E)のカプロラクトン系重合体(D)に対する配合比率(E)/(D)(重量比)は、成形時の熱劣化防止の為、通常1/500〜3/1であり、好ましくは1/100〜1/1であり、更に好ましくは1/15〜1/3である。
【0043】
フェノール系酸化防止剤(F)
本発明に用いる帯電防止性樹脂組成物には、更にフェノール性酸化防止剤(F)を特定量配合することが、ポリカーボネート樹脂組成物の機械的強度、透明性及び色相の悪化を防止する改良効果を有するという点で好ましい。本発明で使用できるフェノール系酸化防止剤(F)の中でも、下記一般式(2)で示される特定の構造を分子内に有するフェノール系酸化防止剤を使用するのが、流動性、透明性、帯電防止性を維持しつつ、色相の悪化を防止し、機械的強度を改良できるという点で好ましい。
【0044】
【化2】

(一般式(2)中、R〜Rは、各々独立して水素原子、又は炭素数1〜3のアルキル
基を示し、t−Buは、tert−ブチル基を示す。)
【0045】
一般式(2)中のR〜Rは、tert−ブチル基よりも嵩高くない置換基であり、
各々独立して、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示す。本発明においては、水酸基の周辺の立体環境が嵩高くない構造であることが重要であり、R〜Rとしては、直鎖状のアルキル基が好ましく、炭素数2以下の基が好ましく、更にはメチル基又は水素原子であるのが好ましい。
また、本発明においては、R及び/又はRの置換基が水素原子又は炭素数1〜3の
アルキル基であることが、酸化防止効果を高めるという点で好ましい。
【0046】
前記一般式(2)で示される特定の構造を分子内に有するフェノール系酸化防止剤の具体例としては、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリエチレングリコールビス[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオールビス[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、オクタデシル[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]等が挙げられる。
【0047】
中でも、ポリカーボネート樹脂と混練される際に耐熱性が必要となる点で、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンが好ましく、特に、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンが好ましい。
【0048】
本発明においてフェノール系酸化防止剤(F)は、2種類以上を混合して配合することができ、当該フェノール系酸化防止剤(F)の配合率は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して通常0.01〜1.0重量部であり、好ましくは0.03〜0.5重量部、より好ましくは0.05〜0.2重量部の範囲で配合される。0.01重量部未満では酸化防止剤としての効果が不十分となる傾向があり、また1.0重量部を超えると、過剰量となり逆にシルバーの発生や、色相の悪化が起こり易い傾向がある。
【0049】
また、一般式(1)のスルホン酸ホスホニウム塩(b)に対する、フェノール系酸化防止剤(F)の配合比率(F)/(b)(重量比)は0.5/100〜50/100であり、好ましくは1/100〜20/100であり、更に好ましくは2/100〜15/100であり、芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)に対するフェノール系酸化防止剤(F)の配合比率(F)/(C)(重量比)は、成形時の色相悪化を防ぐ為、通常0.1/100〜1000/100であり、好ましくは1/100〜200/100であり、更に好ましくは2/100〜40/100である。また、カプロラクトン系重合体(D)に対するフェノール系酸化防止剤(F)の配合比率(F)/(D)(重量比)は、成形時の熱劣化を防ぐ為、通常1/100〜3/1であり、好ましくは1/40〜1/1であり、更に好ましくは1/15〜1/2である。
【0050】
本発明においては、フェノール系酸化防止剤(F)を、前述したリン系安定剤(E)と併用して配合することにより、帯電防止性を有するポリカーボネート樹脂組成物の機械的強度、透明性、色相等の改良に著しい効果を生じるものである。リン系安定剤(E)に対する本発明のフェノール系酸化防止剤(F)の配合比率(F)/(E)(重量比)は25/100〜250/100、好ましくは50/100〜200/100であり、更に好ましくは75/100〜125/100である。
【0051】
耐候性改良剤(G)
本発明に用いる帯電防止性樹脂組成物には、耐候性を改良する目的で更に耐候性改良剤(G)を特定量配合することが好ましい。耐候性改良剤(G)としては、一般に、紫外線吸収剤や光安定剤として知られている化合物を使用でき、その作用としては、可視光線や紫外線の光エネルギーを吸収し熱エネルギー等に変換することにより無害化する機構、光化学作用により発生する前駆体を無害化する機構等が提唱されている。
【0052】
耐候性改良剤(G)としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸エステル系、ベンゾエート系、トリアジン系、ヒンダードアミン系、シンナミル系等の様々な種類の化合物が挙げられ、これらの耐候性改良剤は、単独で使用しても二種以上を混合して使用してもよい。
【0053】
ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクチロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸三水和物、ビス(2−ヒドロキシ−3−ベンゾイル−6−メトキシフェニル)メタン等が挙げられる。
【0054】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−t−ブチル−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−オクチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3−ラウリル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、ビス(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)メタン、ビス(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル)メタン、ビス(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−クミルフェニル)メタン、ビス(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−オクチルフェニル)メタン、1,1−ビス(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)オクタン、1,1−ビス(3−(2H−5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)オクタン、1,2−エタンジイルビス(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−2−ヒドロキシベンゾエート)、1,12−ドデカンジイルビス(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシベンゾエート)、1,3−シクロヘキサンジイルビス(3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−2−ヒドロキシベンゾエート)、1,4−ブタンジイルビス(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニルエタノエート)、3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジイルビス(3−(5−メトキシ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニルエタノエート)、1,6−ヘキサンジイルビス(3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)プロピオネート)、p−キシレンジイルビス(3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ビス(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシトルイル)マロネート、ビス(2−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシ−5−オクチルフェニル)エチル)テレフタレート、ビス(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシ−5−プロピルトルイル)オクタジオエート、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−フタルイミドメチル−4−メチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−フタルイミドエチル−4−メチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−フタルイミドオクチル−4−メチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−フタルイミドメチル−4−t−ブチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−フタルイミドメチル−4−クミルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(フタルイミドメチル)フェノール等が挙げられる。
【0055】
サリチル酸エステル系化合物としては、例えば、フェニルサリチレート、2,4−ジターシャリーブチルフェニル3,5−ジターシャリーブチル4−ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。
ベンゾエート系化合物としては、例えば、2,4−ジ−t−ブチルフェニル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。
トリアジン系化合物としては、例えば、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシロキシフェノール等が挙げられる。
【0056】
ヒンダードアミン系化合物としては、例えば、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−オクチロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6,−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネート、コハク酸ジメチル・1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ((6−(1,1,3,3,−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6,−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ))、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン・2,4−ビス(N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ)−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート等が挙げられる。
【0057】
その他の耐候性改良剤としては、例えば、2−エトキシ−2’−エチルーオキサリック酸ビスアニリド、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0058】
上述した耐候性改良剤の中でも、ポリカーボネートとの相溶性と物性への影響が少ない点からベンゾトリアゾール系化合物が好ましく、中でも、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、ビス(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル)メタン、ビス(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−クミルフェニル)メタン、2−(3,5−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールが好ましく、特には、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0059】
本発明に用いる耐候性改良剤(G)の配合率は、該芳香族ポリカーボネート(A)100重量部に対して0.01〜3.0重量部であり、好ましくは0.03〜1.0重量部、更に好ましくは0.1〜0.8重量部である。0.01重量部未満では効果が十分ではない傾向があり、3.0重量部を超えると射出成形時の金型汚染等が生じる傾向がある。当該耐候性改良剤は1種でも使用可能であるが、複数併用することもできる。
【0060】
上述した本発明において芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)に対する耐候性改良剤(G)の配合比率(G)/(C)(重量比)は、通常0.1/100〜3000/100、好ましくは1/100〜300/100であり、更に好ましくは3/100〜160/100であり、カプロラクトン系重合体(D)に対する耐候性改良剤(G)の配合比率(G)/(D)(重量比)は、通常1/50〜5/1、好ましくは1/20〜2/1であり、更に好ましくは1/10〜1/1である。また、耐候性改良剤(G)は、フェノール性酸化防止剤(F)と併用して用いるのが好ましく、フェノール性酸化防止剤(F)に対する耐候性改良剤(G)の配合比率(G)/(F)(重量比)は、通常0.1〜20、好ましくは0.5〜10、更に好ましくは1.0〜5.0である。
【0061】
帯電防止性ポリカーボネート樹脂組成物(J)
本発明に用いる帯電防止性ポリカーボネート樹脂組成物(J)には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、所望の特性を付与する他のポリマー、難燃剤、耐衝撃改良剤、可塑剤、離型剤、滑剤、相溶化剤、着色剤(カーボンブラック、酸化チタン等の顔料、ブルーイング剤等の染料)、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、炭素繊維、繊維状マグネシウム、チタン酸カリウムウィスカー、セラミックウィスカー、マイカ、タルク、クレー、珪酸カルシウム等の補強剤、充填剤等の一種または二種以上を含有させてもよい。
【0062】
上述した種々の添加剤の中でも、本発明においては、より効果的に着色を抑制するため、ブルーイング剤()、例えば三菱化学社製DAIRESIN BLUE G、好ましくはランクセス(株)社製MACROLEX BLUE RR、ランクセス(株)社製MACROLEX BLUE 3R、ランクセス(株)社製MACROLEX VIOLET 3R等のアントラキノン系のブルーイング剤を配合するのが好ましい。
【0063】
本発明に用いる帯電防止性ポリカーボネート樹脂組成物(J)を調製する方法としては、最終成形品を溶融成形する直前までの任意の段階で、当業者に周知の種々の方法によって、ポリカーボネート樹脂(A)に前述した帯電防止剤(B)、及び必要に応じて芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)、カプロラクトン系重合体(D)、リン系安定剤(E)、フェノール系酸化防止剤(F)、耐候性改良剤(G)を配合し、混練する方法が挙げられる。
配合方法としては、例えば、タンブラー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等を使用する方法、フィーダーにより定量的に押出機ホッパーに供給して混合する方法等が挙げられる。混練方法としては、一軸押出機、二軸押出機等を使用する方法が挙げられるが、帯電防止剤の分散性を高める為には、二軸押出機を使用することがより好ましい。
【0064】
さらに、本発明に用いる帯電防止剤(B)として好ましく使用されるスルホン酸ホスホニウム塩(b)は室温で粘稠液体の場合もあることから、具体的に以下の方法で押出機に供給することができる。
(1)スルホン酸ホスホニウム塩(b)を加温し、粘度を下げた上でポリカーボネート樹脂、芳香族ポリカーボネートオリゴマー、カプロラクトン系重合体及びその他の安定剤と一緒にスーパーミキサー等を使用して配合した後、押出機に供給する方法。
(2)スルホン酸ホスホニウム塩(b)を加温し、粘度を下げた状態で液体供給装置を使用して、押出機へ直接供給する方法。(b)以外の必要成分は事前に配合しておき、押出機内で帯電防止剤と混練する。
(3)スルホン酸ホスホニウム塩(b)を加温して、粘度を下げた上で、高濃度の(b)とポリカーボネート樹脂とのマスター剤を作製する。その後、該マスター剤に、残りのポリカーボネート樹脂、芳香族ポリカーボネートオリゴマー、カプロラクトン系重合体、その他必要な添加剤を加えて、タンブラー、ヘンシェルミキサー等を用いて全配合となる様に混合し、押出機へ供給する方法。
【0065】
帯電防止性ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法
本発明の成形品の成形方法は、成形時のせん断速度を比較的容易に制御できる点で、射出成形法であることが好ましい。射出成形法は、通常の射出成形方法だけでなく、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形等に供することもできる。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。
【0066】
本発明において、比較的少量の帯電防止剤を配合した樹脂組成物から、安定的に高度の帯電防止性を有する成形品を成形するために、帯電防止性ポリカーボネート樹脂組成物(J)の射出成形条件は、特にゲート通過時の帯電防止性樹脂組成物(J)の最大せん断速度の選定が重要である。ここで最大せん断速度は、以下の計算式で算出される。
γ = 6Q/wh
γ : 最大せん断速度 (1/sec)
Q: 射出流量 (mm/sec)
w: ゲートの幅 (mm)
h: ゲートの厚み (mm)
すなわち、帯電防止性等の安定した成形品を得るために、本発明の成形法において、ゲート通過時の樹脂組成物(J)の最大せん断速度は1500〜10000/secであり、好ましくは、2000〜9500/sec、より好ましくは2500〜9000/sec、特に好ましくは3000〜8500/secである。最大せん断速度が10000/secを超えると、表面固有抵抗値が大きくなり、充分な帯電防止特性を発揮することができない。さらに、樹脂の金型内への射出が困難となったり、金型細部への充填が困難となる等の不都合を生じ、フローマーク等の外観不良が発生し易くなる。また、最大せん断速度が1500/sec未満の場合、金型に溶融射出された樹脂が微少に波を打って流れ、鏡面仕上げした金型表面へ密着する前に固化するので、成形品表面がユズ肌状になり、外観が低下する。
なお、「ゲート」とは、成形品キャビティ直前の樹脂流路の一番狭くなる部分であって、通常は成形品とランナーとを切り離す部分であり、流路の垂直断面はここで通常長方形をなし、その長辺がゲートの幅(w)で、短辺がゲートの厚み(h)に相当する。ゲート方式としては、ダイレクトゲート、サイドゲート、ピンポイントゲート、ファンゲート、サブマリンゲート等を適用できる。ポリカーボネート成形品のゲート方式として採用例が多いのは、サイドゲートとピンポイントゲートである。サイドゲート方式では、ゲート厚みは仕上げ加工の点から、できるだけ薄く設計することが望まれるが、薄くしすぎると充填不良が発生する恐れがあるので、ゲート厚みは、成形品肉厚の40〜90%、好ましくは50〜80%で設計するケースが多い。
【0067】
本発明の射出成形法では、成形機の樹脂温度は270〜320℃が好ましく、280℃〜310℃がより好ましい。樹脂温度が270℃未満では溶融樹脂の粘度が高く、外観不良や充填不良が発生し易くなる。320℃を超えると成形品が変色したり、やけごみが発生し易くなる。
また、金型温度は50〜100℃が好ましく、60〜90℃がより好ましい。金型温度が60℃未満では成形品の外観が低下し、100℃を超えると金型に充填した溶融樹脂の固化時間が長くなり、成形サイクルが長くなるので、成形機中で樹脂が変色することがあるので好ましくない。
本発明の射出成形法における成形サイクルは10〜120secであり、好ましくは20〜80sec、特に好ましくは30〜70secである。成形サイクルが10sec未満では、離型不良が発生し易く、120secを超えると、成形機中で樹脂が変色したり、生産効率が低下する。
【実施例1】
【0068】
以下、本発明について実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、「部」は「重量部」を示し、使用する原材料、ポリカーボネート樹脂組成物製造法及び成形法、並びに物性評価法を次に示した。
【0069】
〔原材料〕
(1)芳香族ポリカーボネート樹脂: 三菱エンジニアリングプラスチックス社製/商品名ユーピロンS−2000(登録商標)/粘度平均分子量:23,000(表−1〜3中、「ポリカーボネート樹脂A−1」と略記する)。
(2)スルホン酸ホスホニウム塩: 竹本油脂(株)社製/商品名MEC−100/ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩(表−1〜3中、「帯電防止剤B−1」と略記する)。
(3)芳香族ポリカーボネートオリゴマー: 三菱エンジニアリングプラスチックス社製/商品名PCオリゴマーAL071/粘度平均分子量:5,000/数平均重合度:8(表−1〜3中、「オリゴマーC−1」と略記する)。
(4)カプロラクトン系重合体: ダイセル化学(株)社製/商品名プラクセルH1P/数平均分子量10,000(表−1〜3中、「カプロラクトン重合体D−1」と略記する。)
【0070】
(5)リン系安定剤: 旭電化工業社製/商品名アデカスタブ2112/トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(表−1〜3中、「リン系安定剤E−1」と略記する)。
(6)フェノール系酸化防止剤: 旭電化工業社製/商品名アデカスタブAO−80/3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(表−1〜3中、「酸化防止剤F−1」と略記する)。
【0071】
(7)耐候性改良剤: シプロ化成(株)社製/商品名SEESORB709/ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤 2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(表−1〜3中、「耐候性改良剤G−1」と略記する)。
(8)ブルーイング剤
全ての実施例及び比較例の樹脂組成物において、ポリカーボネート樹脂100部に対して、ブルーイング剤(H)として、(H−1)ランクセス(株)社製/商品名マクロレックス ブルーRRを0.00048部と、(H−2)ランクセス(株)社製/商品名マクロレックス バイオレット3Rを0.00048部と配合した。
【0072】
〔ポリカーボネート樹脂組成物の調製〕
ビスフェノールAとホスゲンから界面縮重合法により製造されたポリカーボネート樹脂(A−1)100部に対して、スルホン酸ホスホニウム塩(帯電防止剤B−1)、芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C−1)、カプロラクトン重合体(D−1)、リン系安定剤(E−1)、酸化防止剤(F−1)及び耐候性改良剤(G−1)を、表−1〜3に示す配合量で、上記所定配合のブルーイング剤(H)と共に、配合し、ブレンダーにて混合した後、ベント式二軸押出機を用いて溶融混練し、ペレット化してポリカーボネート樹脂組成物(J)を得た。配合方法は、スルホン酸ホスホニウム塩(帯電防止剤B−1)が室温では粘稠液体である為、(B−1)を事前に加温して粘度を下げ、(B−1)の割合が10重量%となる様なポリカーボネート樹脂(A−1)との予備混合物をスーパーミキサーで作製し、その後、所定の成分組成となる様に、タンブラーブレンダーを用いて全原料を混合した。ベント式二軸押出機は(株)日本製鋼所製:TEX30XCT(完全かみ合い、同方向回転、2条ネジスクリュー)を使用した。押出条件はシリンダー温度280℃、吐出量25kg/h、スクリュー回転数200rpmとした。
【0073】
〔樹脂組成物の成形〕
調製した樹脂組成物(J)のペレットを、120℃で5時間、熱風循環式乾燥機にて乾燥した後、名機製作所(株)製、M150AII−SJ型射出成形機を用いて、シリンダー温度300℃、金型温度80℃、成形サイクル60sec、サイドゲート(ゲート幅6.9mm、ゲート厚み2.4mm、ゲートランド2.5mm)使用の条件下で、表−1〜3に示したゲート通過時の樹脂組成物(J)の最大せん断速度の条件で、円板(1)(直径100mm、肉厚3.2mm)を射出成形した。
【0074】
〔成形品の物性評価法〕
(1)表面抵抗値: 厚さ3.2mmの円板(1)について、ASTM−D257に準じて表面抵抗値を測定した。
(2)成形品外観: 目視により成形品の表面状態(ユズ肌、フローマーク、透明性、シルバー、しわ等)を観察した。
【0075】
【表1】

表−1及び表−2から明らかなように、本発明の成形法で成形した実施例1〜9の成形品は、帯電防止性と外観に優れていた。樹脂の流動性、耐熱性に起因する外観不良も認められなかった。しかし、表−3から明らかなように、最大せん断速度の高い条件で成形した比較例1〜4の成形品は、表面固有抵抗値が大きく、充分な帯電防止特性ではなかった。さらに成形品の表面にフローマークによる外観不良や透明性の低下が発生していた。また、最大せん断速度の低い条件で成形した比較例5の成形品は、充填不良により成形品の表面にユズ肌状態の外観不良や透明性の低下が発生していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)と帯電防止剤(B)を配合したポリカーボネート樹脂組成物(J)から成形品を射出成形する際、ゲート通過時の樹脂組成物(J)の最大せん断速度を1500〜10000/secとすることを特徴とする帯電防止性ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
上記ポリカーボネート樹脂組成物(J)が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、帯電防止剤(B)として下記一般式(1)で表されるスルホン酸ホスホニウム塩(b)を0.1〜5.0重量部、
【化1】

(一般式(1)中、Rは炭素数1〜40のアルキル基又はアリール基であり、置換基を有していても良く、R〜Rは、各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基であり、これらは同じでも異なっていてもよい。)
芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)を0.1〜10重量部、及び、カプロラクトン系重合体(D)を0.01〜8重量部配合したものであることを特徴とする請求項1記載の帯電防止性ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
上記ポリカーボネート樹脂組成物(J)が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、リン系安定剤(E)を0.01〜1.0重量部配合したものであることを特徴とする請求項1または2に記載の帯電防止性ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
上記ポリカーボネート樹脂組成物(J)が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、下記一般式(2)で示される構造を分子内に有するフェノール系酸化防止剤(F)を0.01〜1.0重量部配合したものであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の帯電防止性ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法。
【化2】

(一般式(2)中、R〜Rは、各々独立して水素原子、又は炭素数1〜3のアルキル基を示し、t−Buは、tert−ブチル基を示す。)
【請求項5】
上記ポリカーボネート樹脂組成物(J)が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、耐候性改良剤(G)を0.01〜3.0重量部配合したものであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の帯電防止性ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法によって得られた帯電防止性ポリカーボネート樹脂成形品。

【公開番号】特開2009−107286(P2009−107286A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284031(P2007−284031)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】