説明

帯電防止性樹脂シート及び電子部品包装用成形体

【課題】 基材シートと導電性被覆層との密着性が高く、前記被覆層の剥離や破断による帯電防止性能の低下を抑制できる積層シートを提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂で構成された基材シートの少なくとも一方の面に、水性溶媒に可溶な導電性ポリマーで構成された被覆層が形成された積層シートであって、前記基材シートの表面が、水に対する接触角50〜85°を有する帯電防止性積層シートを調製する。前記熱可塑性樹脂は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリロニトリルから選択された少なくとも一種のアクリル系単量体を構成単位として含有するスチレン系樹脂、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単位として含有する透明なゴム変性スチレン系樹脂であってもよい。前記導電性ポリマーは、少なくともポリチオフェン系重合体で構成されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性及び導電性を有する熱可塑性樹脂シート及びこのシートで形成された電子部品包装用成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
トレーやキャリアテープなどの電子部品包装用成形体は、ポリスチレンを始めとする汎用の熱可塑性樹脂シートを真空成形法などの成形方法で成形された成形体が多く使用されている。しかし、これらの樹脂で形成された成形体は、静電気を帯電し易い。静電気が帯電すると、環境粉塵(環境的に存在する粉塵)が付着したり、電子部品の種類によっては破壊が生じる。これらの問題を解決するために、成形体を帯電防止処理する方法が提案されているが、なかでも、帯電防止剤として界面活性剤を練り込んだり、コーティングする方法が一般的である。例えば、特開昭63−105061号公報(特許文献1)には、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレンと、帯電防止剤とを含む帯電防止特性を有する熱可塑性樹脂組成物及びこの樹脂組成物を用いたフィルムが開示されている。
【0003】
しかし、界面活性剤は低湿度下での帯電防止性能が低い。また、界面活性剤は水溶性であるため、耐水性も低い。特に、小型の電子部品を収納するキャリアテープなどの電子部品包装用成形体の場合には、部品収納後、カバーテープを接着し放置すると、カバーテープが剥がれ易い。
【0004】
一方、成形体を帯電防止処理する方法としては、導電性を有するカーボンブラックなどの導電剤を練り込んで、導電性を付与する方法も行われている。例えば、特開平9−76423号公報(特許文献2)には、ポリスチレン系樹脂で構成されたシート基材の両面に、ポリスチレン系樹脂、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、カーボンブラック及びオレフィン系樹脂で構成された導電性樹脂組成物を積層した導電性複合シートが開示されている。
【0005】
しかし、成形品のトリミング加工及びその後の過程で、断面からカーボンブラックを含む粉が発生し易く、また、電子部品の擦れ(摩擦)によりカーボンブラック粉が発生しやすい。特に、小型の電子部品を収納するキャリアテープなどの電子部品包装用成形体にカーボンブラックを含有させると、内容物が容易に確認できない。
【0006】
これらの問題に対して、導電ポリマーの水系コーティング剤を塗布することより、熱可塑性樹脂シートに導電性を付与する方法が提案されている。例えば、特開2003−48284号公報(特許文献3)には、基材ポリマーフィルムと帯電防止塗布層から成る帯電防止性ポリマーフィルムであって、帯電防止塗布層が、ポリチオフェン及び界面活性剤を含有する水性塗布液を塗布して形成され、ポリチオフェンに対する界面活性剤の重量比が0.1以上であり、上記水性塗布液は10重量%未満のポリマーバインダー及び10重量%未満の有機溶媒を含有する帯電防止性ポリマーフィルムが開示されている。この文献では、バインダー及び有害な有機溶媒を含有しない水系の導電性コーティング剤を基材に塗布することにより、透明で安価な帯電防止性シートが調製されている。さらに、この文献には、基材ポリマーフィルムとして、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネートが例示され、なかでも、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルが好ましいと記載されています。
【0007】
しかし、熱可塑性樹脂シートに水系のコーティング剤を塗布すると、コーティング剤の密着性が不十分であったり、シートに対する塗膜の追従性の低さに起因して、成形に伴って塗膜の破断が発生し、導電性が急激に損なわれたりする。また、熱可塑性樹脂シートの表面をコロナ処理して親水化する方法も提案されているが、別工程が必要であるため、簡便性が低く、加エコストも高くなる。
【特許文献1】特開昭63−105061号公報(請求項1)
【特許文献2】特開平9−76423号公報(請求項1)
【特許文献3】特開2003−48284号公報(請求項1、段落番号[0012]、実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、基材シートと導電性被覆層との密着性が高く、成形加工に伴う前記被覆層の剥離や破断による帯電防止性能の低下を抑制できる積層シート及びこのシートで形成された電子部品包装用成形体を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、コロナ放電処理などの表面処理を行うことなく、基材シートと導電性被覆層との密着性が改善された積層シート及びこのシートで形成された電子部品包装用成形体を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、帯電防止性能が高く、安全かつ簡便に製造できる積層シート及びこのシートで形成された電子部品包装用成形体を提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、機械的特性、耐水性及び透明性が優れる帯電防止性積層シート及びこのシートで形成された電子部品包装用成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、水に対する接触角が一定の範囲にある熱可塑性樹脂シートに水系の導電性コーティング剤を塗布することにより、基材シートと導電性被覆層との密着性が高く、成形加工しても前記被覆層の剥離や破断がなく、帯電防止性能の低下を抑制できる積層シートが得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の帯電防止性積層シートは、熱可塑性樹脂で構成された基材シートの少なくとも一方の面に、水性溶媒に可溶な導電性ポリマーで構成された被覆層が形成された積層シートであって、前記基材シート表面の水に対する接触角が50〜85°(例えば、55〜83°)である。前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ビニル系重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース誘導体などが挙げられる。熱可塑性樹脂は、透明性や成形性などの点から、スチレン系樹脂(例えば、ゴム変性スチレン系樹脂)であってもよく、特に、被覆層との密着性などの点から、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリルなどのアクリル系単量体を構成単位として含有するスチレン系樹脂(例えば、前記アクリル系単量体を構成単位として含有するゴム変性スチレン系樹脂など)、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単位として含有する透明なゴム変性スチレン系樹脂であってもよい。熱可塑性樹脂は、前記スチレン系樹脂とスチレン−ジエン系ブロック共重合体とで構成されていてもよく、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単位として含有する透明なゴム変性スチレン系樹脂と、スチレン−ジエン系ブロック共重合体とを、前者/後者=99/1〜50/50(重量比)の割合で組み合わせてもよい。前記導電性ポリマーは、ポリチオフェン系重合体、ポリピロール系重合体、ポリアニリン系重合体などであってもよく、特に、少なくともポリチオフェン系重合体(例えば、ポリアルキレンジオキシチオフェンなど)で構成されていてもよい。前記被覆層には、前記導電性ポリマーに加えて、さらにアニオン性重合体(例えば、カルボキシル基及びスルホン酸基から選択された少なくとも一種のアニオン性基又はその塩を有する重合体、特にスルホン酸基を有する重合体など)が含まれていてもよい。前記アニオン性重合体の割合は、導電性ポリマー100重量部に対して、例えば、10〜2000重量部程度である。前記積層シートは、例えば、積層シート厚み0.2mmにおいて、積層シートの全光線透過率が75〜95%程度であり、かつヘーズが2〜20%程度であってもよい。
【0014】
本発明には、熱可塑性樹脂で構成された基材シートの少なくとも一方の面に、水性溶媒に可溶な導電性ポリマーを含有する水系組成物をコーティングして被覆層を形成する積層シートの製造方法であって、前記基材シートとして、表面の水に対する接触角が50〜85°であるシートを用いる帯電防止性積層シートの製造方法も含まれる。また、本発明には、前記シートで形成された電子部品包装用成形体も含まれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、基材シート表面の水に対する接触角を制御することにより、熱可塑性樹脂で構成された基材シートに水系の導電性コーティング剤を塗布しても、基材シートと導電性被覆層との密着性を向上できく、成形工程や保存又は輸送工程においても、前記被覆層の剥離や破断による帯電防止性能の低下を抑制できる。特に、コロナ放電処理などの表面処理を施すことなく、基材シートと導電性被覆層との密着性を向上できるため、簡便性及び加工コストの点でも有利である。また、本発明では、有機溶媒を使用する必要がないため、このような密着性及び帯電防止性が高い積層シートを、人体に安全でかつ環境的に負荷も少なく製造できる。さらに、この積層シートは、機械的特性、耐水性及び透明性も高い。従って、このシートで形成された成形体は、帯電防止性や透明性が要求される電子部品包装用成形体に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の帯電防止性積層シートは、熱可塑性樹脂で構成された基材シートの少なくとも一方の面に、水性溶媒に可溶な導電性ポリマーで構成された被覆層が形成されている。
【0017】
[基材シート]
基材シートを構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂などのビニル系重合体(付加重合系樹脂)、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース誘導体などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの熱可塑性樹脂のうち、被覆層との密着性や成形性、機械的特性などの点から、非オレフィン系のビニル系重合体(例えば、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ビニルアルコール系樹脂など)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのアルキレンアリレート単位を有するホモ又はコポリエステル系樹脂など)、ポリアミド系樹脂(例えば、ポリアミド6、ポリアミド66などの脂肪族ポリアミド、ポリアミドMXD−6などの芳香族ポリアミドなど)が好ましい。これらの熱可塑性樹脂は、導電性ポリマーで構成された被覆層との密着性の点から、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリルなどのアクリル系単量体を構成単位として含有するビニル系重合体であってもよい。なかでも、透明性や成形性の点から、スチレン樹脂が好ましい。
【0018】
スチレン系樹脂は、芳香族ビニル単量体を主構成単位として形成される単独又は共重合体である。スチレン系樹脂を形成するための芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、アルキル置換スチレン(例えば、ビニルトルエン、ビニルキシレン、p−エチルスチレン、p−イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレンなど)、ハロゲン置換スチレン(例えば、クロロスチレン、ブロモスチレンなど)、α位にアルキル基が置換したα−アルキル置換スチレン(例えば、α−メチルスチレンなど)などが例示できる。これらの芳香族ビニル単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの単量体のうち、通常、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなど、特にスチレンが使用される。
【0019】
前記芳香族ビニル単量体は、共重合可能な単量体と組み合わせて使用してもよい。共重合可能な単量体としては、例えば、不飽和多価カルボン酸又はその酸無水物(例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸又はその酸無水物など)、イミド系単量体[例えば、マレイミド、N−アルキルマレイミド(例えば、N−C1-4アルキルマレイミド等)、N−シクロアルキルマレイミド(例えば、N−シクロヘキシルマレイミドなど)、N−アリールマレイミド(例えば、N−フェニルマレイミドなど)などのN−置換マレイミド]、アクリル系単量体[例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシルなどの(メタ)アクリル酸C1-20アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロへキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシC2-4アルキルエステル、(メタ)アクリロニトリルなどのシアン化ビニル系モノマーなど]などが例示できる。これらの共重合可能な単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。全単量体中の共重合可能な単量体の使用量は、通常、1〜50モル%、好ましくは3〜40モル%、さらに好ましくは5〜30モル%程度の範囲から選択できる。
【0020】
スチレン系樹脂は、ゴム変性(含有)スチレン系樹脂であってもよい。ゴム変性スチレン系樹脂は、耐衝撃性及び緩衝性を改善するために使用され、共重合(グラフト重合、ブロック重合等)等により、前記スチレン系樹脂で構成されたマトリックス中にゴム状重合体が粒子状に分散した重合体であってもよく、通常、ゴム状重合体の存在下、少なくとも芳香族ビニル単量体を、慣用の方法(塊状重合、塊状懸濁重合、溶液重合、乳化重合など)で重合することにより得られるグラフト共重合体(ゴムグラフトポリスチレン系重合体)である。
【0021】
ゴム状重合体としては、例えば、ジエン系ゴム[ポリブタジエン(低シス型又は高シス型ポリブタジエン)、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体、スチレン−イソブチレン−ブタジエン系共重合ゴムなど]、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリルゴム(ポリアクリル酸C2-8アルキルエステルを主成分とする共重合エラストマーなど)、エチレン−α−オレフィン系共重合体[エチレン−プロピレンゴム(EPR)など]、エチレン−α−オレフィン−ポリエン共重合体[エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)など]、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、水添ジエン系ゴム(水素化スチレン−ブタジエン共重合体、水素化ブタジエン系重合体など)などが挙げられる。なお、前記共重合体はランダム又はブロック共重合体であってもよく、ブロック共重合体には、AB型、ABA型、テーパー型、ラジアルテレブロック型の構造を有する共重合体等が含まれる。これらのゴム状重合体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0022】
好ましいゴム状重合体は、共役1,3−ジエン又はその誘導体の重合体、特にジエン系ゴム[ポリブタジエン(ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体など]である。
【0023】
ゴム変性スチレン系樹脂において、ゴム状重合体の含有量は、3〜80重量%(例えば、4〜70重量%)、好ましくは5〜60重量%(例えば6〜55重量%)、さらに好ましくは7〜50重量%(特に7〜30重量%)程度である。ゴム状重合体の含有量が少なすぎると、耐衝撃性の改良効果が充分でなく、ゴム状重合体の含有量が多すぎると、剛性が低下する。
【0024】
スチレン系樹脂で構成されたマトリックス中に分散するゴム状重合体の形態は、特に限定されず、サラミ構造、コア/シェル構造、オニオン構造などであってもよい。
【0025】
分散相を構成するゴム状重合体の粒子径は、例えば、体積平均粒子径0.5μm以上(例えば、0.5〜30μm)、好ましくは0.5〜10μm、さらに好ましくは0.5〜7μm(特に0.5〜5μm)程度の範囲から選択できる。また、ゴム状重合体のグラフト率は、5〜150%、好ましくは10〜150%程度である。
【0026】
スチレン系樹脂(ゴム変性スチレン系樹脂の場合はマトリックス樹脂)の重量平均分子量は、10,000〜1,000,000、好ましくは50,000〜500,000、さらに好ましくは100,000〜500,000程度である。
【0027】
スチレン系樹脂としては、具体的には、ポリスチレン(GPPS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、アクリロニトリル−スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)などの非ゴム含有スチレン系樹脂(ゴム成分を含有しないスチレン系樹脂や非ゴム強化スチレン系樹脂など)や、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(ABS樹脂)、α−メチルスチレン変性ABS樹脂、イミド変性ABS樹脂、スチレン−メタクリル酸メチル−ブタジエン共重合体(MBS樹脂)、ゴム成分X(アクリルゴム、塩素化ポリエチレン、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)、エチレン−酢酸ビニル共重合体など)にアクリロニトリルAとスチレンSとがグラフト重合したAXS樹脂などのゴム変性スチレン系樹脂が挙げられる。これらのスチレン系樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0028】
これらのスチレン系樹脂の中でも、密着性を高める点から、アクリル系単量体を構成単位として含有するスチレン系樹脂が好ましい。アクリル系単量体としては、芳香族ビニルと共重合可能なアクリル系単量体として例示したアクリル系単量体が使用できる。これらのアクリル系単量体のうち、(メタ)アクリル酸や、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸C1-4アルキルエステル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシC2-4アルキルエステル、(メタ)アクリロニトリルなどのシアン化ビニル系モノマーなどが好ましい。これらのアクリル系単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて含まれていてもよい。特に、HIPSやABS樹脂などのゴム変性スチレン系樹脂において、透明性及び被覆層との密着性を向上させるために、メタクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルをスチレン系樹脂の構成単位として含有させてもよい。さらに、GPPSやMBS樹脂などの親水性の低いスチレン系樹脂において、被覆層との密着性を向上させるために、(メタ)アクリロニトリルなどのシアン化ビニルやアクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルを構成単位として含有させてもよい。なお、以下の例において、スチレン系樹脂の構成単位として、アクリル系単量体(例えば、メタクリル酸メチル)を含有するスチレン系樹脂(例えば、HIPS)を、メタクリル酸メチル変性HIPSと表記することもある。
【0029】
アクリル系単量体を構成単位として含有する非ゴム含有スチレン系樹脂としては、例えば、AS樹脂、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、アクリロニトリル−スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、SMA樹脂などが挙げられる。また、アクリル系単量体を構成単位として含有するゴム変性スチレン系樹脂としては、例えば、メタクリル酸メチル変性HIPS(透明HIPS)、ABS樹脂、メタクリル酸メチル変性ABS樹脂(透明ABS樹脂)、α−メチルスチレン変性ABS樹脂、イミド変性ABS樹脂、MBS樹脂、アクリロニトリル変性MBS樹脂、AXS樹脂、メタクリル酸メチル変性AXS樹脂などが挙げられる。これらのスチレン系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのスチレン系樹脂のうち、被覆層との密着性の点から、アクリロニトリルを構成単位として含有するスチレン系樹脂(例えば、ABS樹脂、AS樹脂など)や、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単位として含有するゴム変性スチレン系樹脂(例えば、透明HIPS、MBS樹脂、メタクリル酸メチル変性ABS樹脂など)、特に、透明性及び被覆層との密着性に優れる点から、(メタ)アクリル酸C1-4アルキルエステルを構成単位として含有する透明なゴム変性スチレン系樹脂(例えば、透明HIPSや透明ABS樹脂など)が好ましい。
【0030】
また、前記スチレン系樹脂は、被覆層との密着性を向上させるために、アクリル系単量体を構成単位として含有するビニル系重合体[例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂など]とアロイ化して用いてもよい。スチレン系樹脂と、前記ビニル系重合体との割合(重量比)は、例えば、前者/後者=99/1〜30/70、好ましくは95/5〜50/50、さらに好ましくは90/10〜60/40程度である。
【0031】
また、前記スチレン系樹脂は、透明性や機械的特性を向上させるために、他の熱可塑性樹脂(例えば、ビスフェノールA型ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂など)とアロイ化して用いてもよい。スチレン系樹脂と、他の熱可塑性樹脂との割合(重量比)は、例えば、前者/後者=99/1〜30/70、好ましくは95/5〜50/50、さらに好ましくは90/10〜60/40程度である。
【0032】
さらに、被覆層との密着性や耐衝撃性などの機械的特性を向上させる点からは、前記スチレン系樹脂(例えば、ゴム変性スチレン系樹脂や、アクリル系単量体を構成単位として含有する透明なゴム変性スチレン樹脂など)を、熱可塑性エラストマーなどの軟質な熱可塑性樹脂、特に、スチレン−ジエン系ブロック共重合体と組み合わせて用いてもよい。スチレン−ジエン系ブロック共重合体としては、例えば、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)などのスチレン−ブタジエン共重合体、水添スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレン共重合体、水添スチレン−イソプレン共重合体(SEP)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、水添スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SEPS)などが例示できる。これらのスチレン−ジエン系ブロック共重合体のうち、特に、スチレン−ブタジエンブロック共重合体が好ましく用いられる。ブロック共重合体において、末端ブロックは、スチレン又はジエンのいずれで構成してもよい。
【0033】
スチレン−ジエン系ブロック共重合体の構造としては、リニア(直鎖状)型(AB型、ABA型等)、星型(ラジアルテレブロック型など)、テーパー型などが挙げられる。これらのうち、リニア型や星型でAB型のブロック共重合体が好ましく使用できる。スチレン−ジエン系ブロック共重合体としては、スチレンとジエン成分とのジブロック、トリブロック、テトラブロック共重合体などが例示できる。これらのうち、トリブロック共重合体、特にスチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)ブロック共重合体が好ましい。
【0034】
共重合体を構成するスチレンとジエン成分との割合(重量比)は、スチレン/ジエン成分=スチレン/ジエン成分=10/90〜80/20、好ましくは20/80〜75/25、さらに好ましくは30/70〜70/30(特に30/70〜50/50)程度である。ジエン単位における付加形式の割合は、シス−1,4付加:10〜50重量%(特に20〜40重量%)、トランス−1,4付加:40〜70重量%(特に50〜60重量%)、1,2付加:5〜20重量%(特に10〜15重量%)程度である。
【0035】
スチレン系樹脂とスチレン−ジエン系ブロック共重合体との割合(重量比)は、前者/後者=99.9/0.1〜1/99程度の範囲から選択でき、各種特性のバランスから、前者/後者=99/1〜50/50、好ましくは97/3〜70/30、さらに好ましくは95/5〜80/20程度である。
【0036】
本発明では、被覆層との接着性の点から、基材シートの表面は、水に対する接触角が、例えば、50〜85°、好ましくは55〜83°、さらに好ましくは60〜80°(特に65〜80°)程度である。本発明において、水に対する接触角は、温度25℃、湿度50%RH条件下で、25℃の蒸留水を用いて測定できる。シート表面の接触角が低すぎると、シートのブロッキングなどが発生し、一方、シート表面の接触角が高すぎると、導電性ポリマーで構成された被覆層との接着力が低くなり、延伸において塗膜が破断されて導電性が低下し易い。基材シートの接触角は、慣用の表面処理(例えば、コロナ放電処理、高周波処理など)によって調整してもよい。簡便性及び密着性の点から、基材を構成する熱可塑性樹脂の種類や配合を選択することにより調整するのが好ましい。
【0037】
基材シートは単層シートであってもよく、複数の樹脂層が積層された積層シートであってもよい。基材シートの厚みは、用途に応じて適当に選択でき、例えば、10μm〜5mm、好ましくは30μm〜3mm、さらに好ましくは50μm〜1mm程度である。容器成形に利用する場合、基材シートの厚みは、例えば、50μm〜5mm、好ましくは100μm〜3mm、さらに好ましくは150μm〜2mm(特に200μm〜1.5mm)程度であってもよい。
【0038】
[被覆層]
被覆層を構成する導電性ポリマーとしては、水性溶媒に可溶な慣用の導電性ポリマー、例えば、ポリチオフェン系重合体、ポリピロール系重合体(例えば、ポリピロールなど)、ポリアニリン系重合体(例えば、ポリアニリンなど)などが挙げられる。これらの導電性ポリマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの導電性ポリマーのうち、導電性(特に、低湿度下での帯電防止性)、化学的安定性、及び透明性の点から、ポリチオフェン系重合体が好ましい。
【0039】
チオフェン骨格を有するポリチオフェン系重合体は、通常、ポリ(チオフェン−2,5−ジイル)である。チオフェンは置換体(通常、3位及び/又は4位の置換体)であってもよい。置換チオフェンとしては、例えば、モノアルキルチオフェン(例えば、3−メチルチオフェン、3−エチルチオフェン、3−プロピルチオフェン、3−ヘキシルチオフェンなどのC1-10アルキル−チオフェンなど)、3,4−ジヒドロキシチオフェン、ジアルコキシチオフェン(例えば、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン、3,4−ジプロポキシチオフェンなどのジC1-6アルコキシ−チオフェンなど)、アルキレンジオキシチオフェン(例えば、3,4−メチレンジオキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3,4−プロピレンジオキシチオフェンなどのC1-4アルキレンジオキシチオフェンなど)、シクロアルキレンジオキシチオフェン[例えば、3,4−(1,2−シクロヘキシレン)ジオキシチオフェンなどのC5-12シクロアルキレン−ジオキシチオフェンなど]などが挙げられる。なお、アルキレンジオキシチオフェン及びシクロアルキレンジオキシチオフェンは、アルキレン基及びシクロアルキレン基が、さらに、メチル基やエチル基などのC1-12アルキル基やフェニル基などのC5-12アリール基などで置換されていてもよい。これらのチオフェン又は置換チオフェンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのチオフェン及び置換チオフェンのうち、通常、チオフェン、3−ヘキシルチオフェンなどのモノアルキルチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェンなどのアルキレンジオキシチオフェン、3,4−(1,2−シクロヘキシレン)ジオキシチオフェンなどのシクロアルキレンジオキシチオフェンなどが使用され、成形性や導電性などの点から、3,4−エチレンジオキシチオフェンなどの3,4−アルキレンジオキシチオフェンや3,4−ジエトキシチオフェンなどの3,4−ジアルコキシ−チオフェン、特に、3,4−C1-4アルキレンジオキシチオフェンが好ましい。また、ポリチオフェン系重合体は、このようなチオフェン単位とビニレン単位とを有する共重合体であってもよい。
【0040】
ポリチオフェン系重合体としては、具体的には、ポリチオフェン、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ[3,4−(1,2−シクロヘキシレン)ジオキシチオフェン]、ポリチエニレンビニレンなどが挙げられる。
【0041】
本発明では、被覆層が水系のコーティング剤として前記接触角を有する基材シートの表面に塗布されるため、これらの導電性ポリマーは、後述する水性溶媒と組み合わせて用いられる。
【0042】
被覆層には、さらにアニオン性重合体が含まれていてもよい。特に、導電性ポリマーは、重合工程でアニオン性重合体の存在下、重合される。例えば、ポリチオフェン系重合体は、通常、アニオン性重合体の存在下で酸化重合されるため、アニオン性重合体と組み合わせて用いることができる。
【0043】
アニオン性重合体としては、カルボキシル基及びスルホン酸基から選択された少なくとも一種のアニオン性基又はその塩を有する重合体、例えば、カルボキシル基又はその塩を有する重合体[例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸−無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体などの(メタ)アクリル酸系重合体又はその塩など]、スルホン酸基又はその塩を有する重合体(例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸など)、カルボキシル基及びスルホン酸基又はそれらの塩を有する重合体[例えば、(メタ)アクリル酸−スチレンスルホン酸共重合体など]などが挙げられる。アニオン性重合体の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、トリエチルアミンなどのアルキルアミン、アルカノールアミンなどの有機アミン塩などが挙げられる。これらのアニオン性重合体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのアニオン性重合体のうち、スルホン酸基を有する重合体、例えば、ポリスチレンスルホン酸などが好ましい。
【0044】
アニオン性重合体の数平均分子量は、例えば、1000〜2,000,000、好ましくは2000〜1,000,0000、さらに好ましくは2000〜500,000程度である。
【0045】
アニオン性重合体の割合は、導電性ポリマー100重量部に対して、例えば、10〜2000重量部、好ましくは30〜1000重量部、さらに好ましくは50〜500重量部(特に100〜300重量部)程度である。
【0046】
被覆層には、さらに界面活性剤が含まれていてもよい。界面活性剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤(例えば、ドデカンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルスルホン酸塩や、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩など、フルオロラウリン酸ナトリウムなどのフルオロ脂肪酸塩、パーフルオロラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのパーフルオロアルキルベンゼンスルホン酸塩など)、カチオン性界面活性剤(例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドなどのテトラアルキルアンモニウム塩など)、ノニオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンオクチルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンパーフルオロラウリルエーテルなど)、両性界面活性剤(例えば、ジメチルラウリルカルボキシベタインなどのアルキルベタインなど)などが挙げられる。これらの界面活性剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0047】
界面活性剤の割合は、導電性ポリマー100重量部に対して、例えば、1〜5000重量部、好ましくは10〜3000重量部、さらに好ましくは30〜2000重量部(特に500〜1000重量部)程度である。
【0048】
被覆層には、種々の添加剤、例えば、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、水溶性高分子、充填剤、架橋剤、カップリング剤、着色剤、難燃剤、滑剤、ワックス、防腐剤、粘度調整剤、増粘剤、レベリング剤、消泡剤などが含まれていてもよい。
【0049】
被覆層の厚みは、例えば、0.05〜300μm、好ましくは0.1〜100μm、さらに好ましくは0.15〜30μm(特に0.15〜10μm)程度である。
【0050】
[積層シート及びその製造方法]
本発明の積層シートは、前記基材シートと、この基材シートの少なくとも一方の面(片面又は両面)を被覆して形成された被覆層とで構成されている。この被覆層は、前記導電性ポリマーを含有する水系組成物をコーティングして形成されるにも拘わらず、基材シートとの密着性が高い。また、基材シートとして、前述の透明性の高い熱可塑性樹脂を用いるとともに、導電性ポリマーとして、ポリチオフェン系重合体を用いると、高い密着性及び帯電防止性を有し、かつ透明性の高い積層シートが得られる。このような積層シートの全光線透過率(JIS K 7150、厚み0.2mm)は、例えば、75〜95%、好ましくは80〜95%、さらに好ましくは85〜95%程度である。また、このような積層シートのヘーズ(JIS K 7150、厚み0.2mm)は、例えば、2〜20%、好ましくは2〜15%、さらに好ましくは2〜10%程度である。
【0051】
積層シートの厚みは、例えば、50μm〜5mm、好ましくは100μm〜3mm、さらに好ましくは150μm〜2mm(特に200μm〜1.5mm)程度である。
【0052】
基材シートは、樹脂成分を必要に応じてタンブラー、スーパーミキサーなどを用いて混合した後、そのままシート押出機に供給して形成してもよいし、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、単軸もしくは二軸押出し機等によって溶融混練してペレット化した後、シート押出し機に供給して形成してもよい。シートの成形方法としては、例えば、エキストルージョン法[ダイ(フラット状、T状(Tダイ)、円筒状(サーキュラダイ)等)法、インフレーション法等]などの押出成形法、テンター方式、チューブ方式、インフレーション方式などによる延伸法等が挙げられる。樹脂シートは、未延伸であってもよく、延伸(一軸延伸、二軸延伸等)してもよい。
【0053】
本発明では、前記被覆層は、水性液状組成物を前記接触角を有する基材シートの表面にコーティングして形成される。水系組成物における溶媒は水単独であってもよく、親水性溶媒(特に水混和性溶媒)、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)、ニトリル類(アセトニトリルなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなど)、カルビトール類などとの混合溶媒であってもよい。親水性溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。本発明では、前記溶媒は、通常、水単独で、又は水とアルコール類との混合溶媒として使用される。
【0054】
水性組成物中における導電性ポリマーの濃度は、例えば、0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜3重量%、さらに好ましくは0.1〜2重量%(特に0.3〜1重量%)程度である。水性組成物における固形分濃度は、0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜8重量%、さらに好ましくは0.5〜6重量%(特に1〜5重量%)程度である。
【0055】
水性組成物の塗布量(乾燥後の塗布量)は、例えば、10〜5000mg/m2(例えば、50〜4500mg/m2)程度の広い範囲から選択でき、通常、100〜4000mg/m2、好ましくは150〜3000mg/m2(例えば、200〜2000mg/m2)、さらに好ましくは200〜500mg/m2程度であってもよい。
【0056】
積層シートは、前記基材シートの少なくとも一方の面に前記被覆層の塗布液(水性組成物)を塗布することにより製造できる。前記被覆層の塗布液の塗布には、慣用の塗布手段、例えば、スプレー、ロールコーター、グラビアロールコーター、ナイフコーター、ディップコーターなどが利用できる。なお、必要であれば、前記被覆層の塗布液は複数回に亘り塗布してもよい。前記被覆層の塗布液を基材シートに塗布した後、通常、塗布層を乾燥することにより被覆層を形成できる。
【0057】
積層シートは、後処理工程(二次成形工程など)に連続的に供してもよいが、通常、ロール状に巻き取り、後処理工程に供する場合が多い。このような巻き取りによりベタツキや白化を抑制でき、積層シートの透明性、光沢などを損うことがない。
【0058】
[二次成形方法及び二次成形品]
このようにして得られた積層シートは、成形性に優れるため、圧空成形(押出圧空成形、熱板圧空成形、真空圧空成形など)、自由吹込成形、真空成形、折り曲げ加工、マッチド・モールド成形、熱板成形などの慣用の熱成形などで、簡便に二次成形することができる。
【0059】
熱成形工程においては、加熱したシートを加圧や減圧により成形し、例えば、圧空成形の場合は、加熱したシートを圧空により金型に押し当てて容器を成形する。真空成形の場合は、金型と加熱したシートとの間を真空にすることにより、加熱シートを金型側に引き込んで容器を成形する。前記金型には、空気を引き込むための小孔やスリットが設けられている。
【0060】
本発明の積層シートは、帯電防止性や成形性、種々の機械的特性に優れ、二次成形品としては、例えば、トレー、キャリアテープ、エンボステープ、マガジン、食品用容器、薬品用容器などの包装用成形体又は容器などが挙げられる。
【0061】
これらの二次成形品の中でも、低湿度下での帯電防止性や耐水性などにも優れる点から、半導体や電子部品(例えば、IC(高密度集積回路)やICを用いた電子部品)の包装用成形体、特に、大型電子部品包装用成形品(例えば、液晶板収納用トレイなど)に有用である。本発明の積層シートを大型電子部品包装用成形品に用いると、成形品のトリミング加工及びその後の過程で断面から発生する粉や、電子部品が振動などによって発生する摩耗粉に対しても有効に帯電防止性を発揮することができる。
【0062】
さらに、前記二次成形品の中でも、本発明の積層体が高い帯電防止性だけでなく、透明性や基材シートと被覆層との密着性にも優れる点から、小型電子部品(コネクターなど)を収容するための収容凹部を有する搬送用成形品[例えば、電子部品搬送用トレー(インジェクショントレー、真空成形トレーなど)、マガジン、キャリアテープ(エンボスキャリアテープなど)など]にも有用である。本発明の積層シートを小型電子部品包装用成形品、例えば、コネクターを収納するキャリアテープに用いると、収納された電子部品を外部から視認できるとともに、スリットやパンチングにおいて発生する粉やヒゲが低減される。また、トレーやキャリアテープにおいては、凹部に収納した電子部品をカバーテープで密封するが、本発明の積層体はカバーテープとの密着性も高く、保管時においてもカバーテープの剥離が抑制される。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、半導体や電子部品の包装用成形体、例えば、小型電子部品を収容するための収容凹部を有する搬送用成形品[例えば、電子部品搬送用トレー(インジェクショントレー、真空成形トレーなど)、マガジン、キャリアテープ(エンボスキャリアテープなど)など]、大型電子部品包装用成形品(例えば、液晶板収納トレイなど)に有用である。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた基材シートにおける各成分の略号の内容、及び各評価項目の評価方法は以下の通りである。
【0065】
[基材シートの各成分]
透明HIPS:透明耐衝撃性ポリスチレン(大日本インキ化学工業(株)製、クリアパクトTI−300S)
ABS:ABS樹脂(ダイセルポリマー(株)製、セビアン500SF)
HIPS:耐衝撃性ポリスチレン(東洋スチレン(株)製、E640)
SBS1:スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(旭化成(株)製、タフプレン126)
SBS2:スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(旭化成(株)製、アサフレックス830)
PC:ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、ユーピロンE−2000)
CBMB:カーボンブラック含有マスターバッチ(HIPSとカーボンブラックとを二軸押出し機で混練した導電性マスターバッチ、カーボンブラック含有量:25重量%)。
【0066】
[接触角]
自動接触角計(協和界面化学(株)製、CA−Z)を用いて、25℃、50%RH環境下で、25℃の蒸留水(和光純薬工業(株)製)をシート表面に滴下し、10秒後の接触角を測定した。
【0067】
[表面抵抗値]
表面抵抗値が106Ω/□未満であるシートに関しては、表面抵抗計[三菱化学(株)製、ロレスターGP(MCP−T600)]を用いて、JIS K7194に準じて表面抵抗値を測定した。一方、表面抵抗値が106Ω/□以上であるシートに関しては、表面抵抗計[三菱化学(株)製、ハイレスターUP(MCP−HT450)]を用いて、JIS K7194に準じて表面抵抗値を測定した。測定条件は2種類の環境下(23℃、50%RHの条件下及び23℃、20%RHの低湿度条件下)で12時間放置後、シートの表面抵抗値を測定した。実施例1〜5及び比較例1〜3については、縦15cm、横15cm、深さ2cmの電子部品包装用成形体を真空成形で成形し、その成形体における底部の表面抵抗値を測定した。また、実施例6、7及び比較例4においては、エンボスキャリアテープを真空成形で成形し、エンボスキャリアテープにおけるポケット底部(35mm×10mm×10mm)の表面抵抗値を測定した。
【0068】
[密着性]
コーティング剤の密着性は、コーティングシートにセロハンテープ(ニチバン(株)製)を接着後、直ぐに剥がした後、その部分の表面抵抗値を測定し、下記の基準で判定した。
【0069】
○:テープ剥離後の表面抵抗値/テープ接着前の表面抵抗値=103未満
×:テープ剥離後の表面抵抗値/テープ接着前の表面抵抗値=103以上。
【0070】
[耐水性]
コーティング剤の耐水性は、コーティングシートを水温23℃の水中に、1日放置した(耐水試験)。その後、シートを取り出し、表面に付着した水分を取り除いた後に、表面抵抗値を測定し、下記の基準で判定した。
【0071】
○:耐水試験後の表面抵抗値/耐水試験前の表面抵抗値=103未満
×:耐水試験後の表面抵抗値/耐水試験前の表面抵抗値=103以上。
【0072】
[ベトツキ(粘着感)]
23℃/50%RHの恒温恒湿下で1日放置したコーティングシート表面を、指で押え、引き離した際の表面のベトツキ感を、下記の基準で判定した。
【0073】
○:ベトツキを感じない
△:しっとりとした若干のベトツキを感じる
×:ベトツキを感じる。
【0074】
[透明性]
シートの透明性について、JIS K7150に準じて、オートマチックヘーズメーター(東京電色(株)製、TC−H3DPK)を用いて、全光線透過率およびヘーズ値を測定した。不透明なシートに関しては、表中では「−」と記載した。
【0075】
[摩耗性]
シートの摩耗性は、JIS K7204に準じて、テーバー摩耗試験機(東洋精機(株)製)を使用し、荷重500g下で摩耗輪(CS−17)を使用し、1000回摩耗を行った。摩耗前後の重量を測定し、下記の基準で判定した。
【0076】
○:摩耗重量が10mg未満
△:摩耗重量が10〜20mg
×:摩耗重量が20mg以上、またはカーボンブラックの摩耗粉発生。
【0077】
[カバーテープの密着性]
44mm幅のエンボスキャリアテープを、カバーテープシール機((株)バンガードシステム製、VS−120)で各種カバーテープを接着した。23℃、50%RHの環境下で7日間放置した後、カバーテープの剥がれの有無を比較した。なお、カバーテープとして2種類のカバーテープ(テープ1:電気化学(株)製、ALS−AS、テープ2:住友ベークライト(株)製、Z7302)を使用し、シール温度200℃、シール時間0.3秒の条件で行った。剥離強度は、180度剥離で速度300mm/分での平均剥離強度を測定した。
【0078】
○:放置後のシール強度/接着直後のシール強度=0.7以上、剥がれ無し
△:放置後のシール強度/接着直後のシール強度=0.4以上0.7未満、剥がれ無し
×:放置後のシール強度/接着直後のシール強度=0.4未満、剥がれ有り。
【0079】
実施例1〜5及び比較例3
表1に示す配合でT−ダイから熱可塑性樹脂をシート状に押出し、冷却ロールにて冷却後、ロール状に巻き取ったシートを基材シート(厚み1000μm)として使用した。この基材シートに、グラビアロールコーターを用いて、ポリチオフェン系重合体を含有する水性組成物(AGFA社製、Orgacon S−2500)を乾燥厚み0.15μmとなるように塗布した。なお、実施例4については、水性組成物を塗布する前に、基材シートの表面をライン速度20m/分で20W/m2でコロナ放電処理した。得られた積層シートの評価結果を表1に示す。
【0080】
比較例1
表1に示す配合でT−ダイから熱可塑性樹脂をシート状に押出し、冷却ロールにて冷却後、ロール状に巻き取ったシートを基材シート(厚み1000μm)として使用した。この基材シートに、グラビアロールコーターを用いて、界面活性剤(花王(株)製、レオドールスーパーTW−L120)を1重量%の割合で含有する水溶液を乾燥厚み0.1μmとなるように塗布した。得られた積層シートの評価結果を表1に示す。
【0081】
比較例2
表1に示す配合でT−ダイから導電性マスターバッチ及びSBSブロック共重合体をシート状に押出し、冷却ロールにて冷却後、ロール状に巻き取ってシートを得た。得られたシートの評価結果を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
表1から明らかなように、実施例1〜5のシートは、帯電防止性、密着性、耐水性、ベタツキ、及び摩耗性の各種特性のバランスが優れている。さらに、実施例1及び2のシートは、透明性も高い。これに対して、比較例1のシートは、帯電防止性、密着性及び耐水性が低く、ベタツキも大きい。さらに、比較例2のシートは、摩耗性が低く、比較例3のシートは、帯電防止性、密着性、耐水性及び摩耗性が低い。
【0084】
実施例6及び7
表2に示す配合でT−ダイから熱可塑性樹脂をシート状に押出し、冷却ロールにて冷却後、ロール状に巻き取ったシートを基材シート(厚み200μm)として使用した。この基材シートに、グラビアロールコーターを用いて、ポリチオフェン系重合体を含有する水性組成物(AGFA社製、Orgacon S−2500)を乾燥厚み0.1μmとなるように塗布した。得られた積層シートの評価結果を表2に示す。
【0085】
比較例4
表2に示す配合でT−ダイから熱可塑性樹脂をシート状に押出し、冷却ロールにて冷却後、ロール状に巻き取ったシートを基材シート(厚み200μm)として使用した。この基材シートに、グラビアロールコーターを用いて、界面活性剤(花王(株)製、レオドールスーパーTW−L120)を1重量%の割合で含有する水溶液を乾燥厚み0.1μmとなるように塗布した。得られた積層シートの評価結果を表2に示す。
【0086】
【表2】

【0087】
表2の結果から明らかなように、実施例6及び7のシートは、帯電防止性、透明性及びカバーテープの密着性が高い。これに対して、比較例4のシートは、帯電防止性が低く、カバーテープの密着性も低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂で構成された基材シートの少なくとも一方の面に、水性溶媒に可溶な導電性ポリマーで構成された被覆層が形成された積層シートであって、前記基材シート表面の水に対する接触角が50〜85°である帯電防止性積層シート。
【請求項2】
熱可塑性樹脂が、ビニル系重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリスルホン系樹脂及びセルロース誘導体から選択された少なくとも一種である請求項1記載のシート。
【請求項3】
熱可塑性樹脂がスチレン系樹脂である請求項1記載のシート。
【請求項4】
スチレン系樹脂が、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリロニトリルから選択された少なくとも一種のアクリル系単量体を構成単位として含有するスチレン系樹脂である請求項3記載のシート。
【請求項5】
スチレン系樹脂がゴム変性スチレン系樹脂である請求項3又は4記載のシート。
【請求項6】
スチレン系樹脂が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単位として含有する透明なゴム変性スチレン系樹脂である請求項3記載のシート。
【請求項7】
熱可塑性樹脂が、スチレン系樹脂とスチレン−ジエン系ブロック共重合体とで構成されている請求項1記載のシート。
【請求項8】
熱可塑性樹脂が、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリロニトリルから選択された少なくとも一種のアクリル系単量体を構成単位として含有するゴム変性スチレン系樹脂と、スチレン−ジエン系ブロック共重合体とで構成されている請求項1記載のシート。
【請求項9】
導電性ポリマーが、ポリチオフェン系重合体、ポリピロール系重合体及びポリアニリン系重合体から選択された少なくとも一種である請求項1記載のシート。
【請求項10】
導電性ポリマーが、少なくともポリチオフェン系重合体で構成されている請求項1記載のシート。
【請求項11】
被覆層が、さらにアニオン性重合体を含有する請求項9記載のシート。
【請求項12】
アニオン性重合体が、カルボキシル基及びスルホン酸基から選択された少なくとも一種のアニオン性基又はその塩を有する重合体である請求項11記載のシート。
【請求項13】
アニオン性重合体の割合が、導電性ポリマー100重量部に対して、10〜2000重量部である請求項11記載のシート。
【請求項14】
積層シート厚み0.2mmにおいて、積層シートの全光線透過率が75〜95%であり、かつヘーズが2〜20%である請求項1記載のシート。
【請求項15】
熱可塑性樹脂が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単位として含有する透明なゴム変性スチレン系樹脂と、スチレン−ジエン系ブロック共重合体とで構成され、両者の割合(重量比)が、前記ゴム変性スチレン系樹脂/スチレン−ジエン系ブロック共重合体=99/1〜50/50であり、導電性ポリマーが、ポリアルキレンジオキシチオフェンとスルホン酸基を有する重合体とで構成されているとともに、基材シート表面の水に対する接触角が55〜83°である請求項1記載のシート。
【請求項16】
熱可塑性樹脂で構成された基材シートの少なくとも一方の面に、水性溶媒に可溶な導電性ポリマーを含有する水系組成物をコーティングして被覆層を形成する積層シートの製造方法であって、前記基材シートとして、表面の水に対する接触角が50〜85°であるシートを用いる帯電防止性積層シートの製造方法。
【請求項17】
請求項1記載のシートで形成された電子部品包装用成形体。

【公開番号】特開2006−27266(P2006−27266A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173202(P2005−173202)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】