説明

帯電防止機能を有するストラップ

【課題】携帯電話、ICカード型IDカード、フラッシュメモリー等が付されたストラップと衣服の摩擦により生じた静電気を安定的に放電させる事で帯電防止し、スパークによる不快感や機器の破損並びにデータ消失を免れる事のできる、帯電防止ストラップを提供すること。
【解決手段】少なくとも長手方向に連続して導電性繊維を編み込まれている、もしくは織り込まれていることを特徴とする帯電防止機能を有するストラップ。好ましくは導電性繊維の導電部の比抵抗が1.0×10−1〜9.9×10−4Ω・cmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話、ICカード、フラッシュメモリー等の保持に用いる事のできる帯電防止機能を有するストラップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ICカード型IDカード、フラッシュメモリー等にストラップを付して首に掛けたり、ストラップを介してポケットにクリップして保持することが定着して来ている。
【0003】
しかし、ストラップが衣服等と摩擦することで静電気が発生し、携帯電話、ICカード型IDカード、フラッシュメモリー等を使用しようとした際に、溜まった静電気がスパークすることがある。これにより不快な思いをしたり、最悪の場合は、スパークにより携帯電話、ICカード型IDカード、フラッシュメモリー等の機能が破壊されたり、保持されているデータが消失したりする事がある。
【0004】
これに対し、ストラップに機能が付与されているケースは、携帯電話のアンテナ機能を盛り込んだもの(特許文献1、2)程度であった。その他、多くの場合は、色やデザインといった意匠が付与や携帯電話着信時に発光すると言った機能(特許文献3)が付与されているに過ぎなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−196825号公報
【特許文献2】特開2001−257520号公報
【特許文献3】特開2001−69202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、携帯電話、ICカード型IDカード、フラッシュメモリー等が付されたストラップと衣服の摩擦により生じた静電気を安定的に放電させる事で帯電防止し、スパークによる不快感や機器の破損並びにデータ消失を免れる事のできる、帯電防止ストラップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ストラップに対し、少なくとも長手方向に連続して導電性繊維を編み込むこと、もしくは織り込むことで、目的を達成することが出来る。
【0008】
また、導電性繊維の導電部の比抵抗が1.0×10−1Ω・cm〜9.9×10−4Ω・cmの物を用いることにより、更には導電部の導電体が、カーボンブラック、導電性酸化チタン、導電性ウィスカー、およびカーボンナノチューブの少なくとも一つを含むことで、前記目的を達成することが出来る。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって得られたストラップは、優れた帯電防止機能を有する為に、ストラップと衣服等との摩擦により生じた静電気を安定的に放電する為にスパークを生じる事がなく、スパークに起因する不快感やストラップに付した機器の破損、データ消失を逃れること
が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
導電性繊維の導電部の導電体が、カーボンブラック、導電性酸化チタン、導電性ウィスカー、およびカーボンナノチューブの少なくとも一つを含むことが必要である。
【0011】
導電体の添加率は、導電性部位に対し、例えばカーボンブラックでは、10wt%以上の含有率が好ましく、更に好ましくは15wt%以上の含有率である。カーボンブラック含有率が極端に大きくなると紡糸性に影響を及ぼすので、45wt%以内にとどめることが好ましい。導電性酸化チタンであれば60wt%以上の含有率が好ましく、70wt%以上の含有率が更に好ましい。含有率が極端に大きくなると紡糸性に影響を及ぼすので、90wt%以内にとどめることが好ましい。
【0012】
ここでいうカーボンブラックとは、ファーネス法もしくはサーマル法(アセチレン法)で得られた導電性カーボンブラックを指す。また、用いるカーボンブラックは、一次粒子径が細かく、かつストラクチャーが発達している方が高い導電性を得やすい。具体的には、一次粒子径の指標であるヨウ素吸着量が70g/kg以上で、ストラクチャーの指標であるDBP吸油量が、100ml/100g以上といったものを好ましく用いることが出来る。
【0013】
また、ここでの導電性酸化チタンおよび導電性ウィスカーは、微粒子状の酸化チタンもしくはウィスカー形状の無機粉末の表面を、例えば、アンチモンがドープされたスズと言った導電性被膜で覆われたものを指す。
【0014】
カーボンナノチューブとは、直径が数nmから数十nmで、長さが数十nmから数μmの針状黒鉛粉末であり、金属微粒子触媒の存在下で炭化水素ガス等の熱分解やCVD(ケミカルベーパーデポジッション)法で、もしくは炭素電極間アーク放電等で作製されるものである。
【0015】
導電性繊維の導電部を形成する樹脂と導電体の複合化に関しては、別段特定された方法が用いられる訳ではなく、定法である二軸混練押出し機等を用いて複合化することが出来る。
【0016】
導電性繊維の形態は、繊維全体が導電部からなる構造でも良いし、非導電部と導電部が芯鞘、サンドイッチ、偏芯と言った断面形状を有していてもまったく構わない。
【0017】
導電部、非導電部を形成する樹脂は、繊維形成性を有していれば、特段限定されるものではないが、入手の容易さや繊維化の容易さ、コストを考慮するとナイロン樹脂やポリエステル樹脂を用いることが好適である。具体的には、ナイロン樹脂であれば、6ナイロン、11ナイロン、12ナイロン、66ナイロンと言ったものが挙げられる。また、ポリエステル樹脂であれば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンテレフタレートおよびこれらの共重合体や酸成分(テレフタル酸)の一部をイソフタル酸で置き換えたものが挙げられる。更にポリ乳酸といった脂肪族ポリエステルを用いることも出来る。
【0018】
導電性繊維の作製方法は、導電部のみからなる単独繊維の場合も、導電部と非導電部からなる複合繊維の場合も定法を用いることが出来る。具体的には、押出し機で融点以上に加熱溶融した樹脂をノズルを介して繊維状とし巻き取り、未延伸糸を得、更にこれを延伸して繊維化するという方法(コンベンショナル方式)をとることが出来る。また、ノズル
から出てきた糸をそのまま連続的に延伸して繊維を得ると言う方法(紡糸直接延伸法)でも何ら問題はない。
【0019】
また、複合繊維の場合、その断面形状は、特に限定されるものではなく、例えば芯鞘形状(導電部は、芯、鞘何れでも良い)、偏芯形状(導電部が複数あってもよい。更に導電部の一部が繊維表面に露出していても、露出していなくても良い)、サイドバイサイド形状、3層以上のサンドイッチ形状といった断面形状が挙げられる。
【0020】
導電性繊維は、上記のような方法で作製しても良いし、市販の導電性繊維をそのまま用いても何ら問題は無い。
市販されている導電性繊維としては、カネボウ合繊製「ベルトロン」、ユニチカファイバー製「メガーナ」、東レ製「ルアナ」、クラレ製「クラカーボ」といったものがあり、そのままを用いることも出来る。
【0021】
次にストラップの製紐に関しては、経糸の少なくとも1本以上に導電性繊維を用い緯糸に非導電性繊維および/もしくは導電性繊維を打ち込んだ平織りや斜文織、朱子織、更には真田織(狭織)といった織物として製紐して作製することが出来る。また、平編みや筒編みと言った経編、トリコットと言った緯編、更には組紐で製紐して作製することも出来る。
【0022】
ストラップに対する携帯電話、ICカード、ICキー、フラッシュメモリー等の保持方法や保持個数に関しては、特段規定された方法は無く、フックのような物を介して保持したり、カードケースと言った物を介して保持しても良い。また、保持させる個数は、1つに限定されず、携帯電話とICカードと言った組み合わせや携帯電話とフラッシュメモリーの組み合わせ、更にはICカードとICキー、フラッシュメモリーを組み合わせるなど、個数や組み合わせに限定は無い。更には携帯電話、ICカード、ICキー、フラッシュメモリー以外のキャラクターグッズや携帯電話の画面クリーナーと言った物を加えても何ら問題は無い。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。
各種試料の調製および試料の評価に関しては、次の方法で行った。
【0024】
(導電性樹脂の作製方法)
ベース樹脂に、日本製鋼製二軸混練押出し機TEX−30αを用い、所定の導電体成分を複合化し導電性樹脂を得た。
【0025】
(導電繊維の作製方法)
複合紡糸機を用いヘッド温度280℃、巻取り速度700m/分にて、導電性複合樹脂とベース樹脂を複合比率1:10のサンドイッチ断面形状の複合未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を定法にて延伸倍率3倍で延伸し、導電性繊維を得た。
【0026】
(ストラップ作製方法)
16打ち製紐機を用いストラップを作製した。
【0027】
(比抵抗)
繊維に導電性ペースト(藤倉化成製「ドータイト」)で10cm間隔の電極を作製し、ハイレジスタンスメーター(アジレント・テクノロジー社製4339B)を用い、印加電圧500Vにて線抵抗(Ω/cm)を測定する。繊維の断面より導電部の断面積を求め、これより比抵抗(Ω・cm)を求めた。
【0028】
(摩擦帯電圧測定方法)
JIS L 1094「織物及び編物の帯電性試験方法」、5.4摩擦帯電減衰測定法に記載された装置を用い、綿布を付した摩擦子の往復する方向にストラップの長手方向を合わせてセットした後、1秒間に2回の割合で10回の摩擦を与えた後、直ちに帯電圧を測定した。尚、ストラップ巾が狭い時は、巾が20mmになるように数本を曳き揃えてセットした。
【0029】
(スパークテスト)
先端に接触型ICカードタイプのIDカードを取り付けたストラップを首から掛け、ナイロンカーペットの上を革底靴を履いて10m歩行した後、IDカードを金属製のドアーノブに接させた。これを50回繰り返し、IDカードとドアーノブ間でスパークが生じたかどうかを確認し、50回ともスパークしなかった場合を「○」、スパークが1回であった場合を「△」、2回以上のスパークが生じた場合を「×」と評価した。
【0030】
[実施例1]
カネボウ合繊製ナイロン樹脂MC120にキャボット社製カーボンブラックV−XC72を30wt%の含有率となるように、複合化温度260℃にて上述方法で複合化を行い、導電性樹脂Aを得た。得られた導電性樹脂Aとカネボウナイロン樹脂SDを用い、サンドイッチ断面の繊度22dtex、3フィラメントからなる導電性繊維Aを得た。得られた導電性繊維の比抵抗は、9.7×10Ω・cmであった。また、同じくナイロン樹脂SDを用い、丸断面の繊度320dtex、72フィラメントからなる非導電性繊維Sを得た。次に、非導電性繊維Sを2本と導電性繊維A1本を合糸して導電性繊維A1S2を得た。更に非導電性繊維Sのみを2本合糸して非導電性繊維S2を得た。
非導電性繊維S2を12本と導電性繊維A1S2を4本が均等になるように16打ち製紐機に掛け、ストラップを得た。得られたストラップに対し摩擦帯電圧測定およびスパークテストを実施し、その結果を表1に示した。
【0031】
[比較例1]
実施例1で作製した、16本の非導電性繊維S2を同様に16打ち製紐機に掛け、ストラップを得た。得られた非導電性繊維の比抵抗は、2.4×1014Ω・cmであった。得られたストラップに対し摩擦帯電圧測定およびスパークテストを実施し、その結果を表1に併せて示した。
【0032】
[実施例2]
カーボンブラック含有率を40wt%とした以外は、実施例1と同様に行った。得られた導電性繊維の比抵抗は、7.3×10−1Ω・cmであった。得られたストラップに対し摩擦帯電圧測定およびスパークテストを実施し、その結果を表1に併せて示した。
【0033】
[実施例3]
カーボンブラック含有率を20wt%とした以外は、実施例1と同様に行った。得られた導電性繊維の比抵抗は、3.2×10Ω・cmであった。得られたストラップに対し摩擦帯電圧測定およびスパークテストを実施し、その結果を表1に併せて示した。
【0034】
[実施例4]
カーボンブラック含有率を15wt%とした以外は、実施例1と同様に行った。得られた導電性繊維の比抵抗は、1.4×10Ω・cmであった。得られたストラップに対し摩擦帯電圧測定およびスパークテストを実施し、その結果を表1に併せて示した。
【0035】
[実施例5]
カーボンブラック含有率を10wt%とした以外は、実施例1と同様に行った。得られた導電性繊維の比抵抗は、8.4×10Ω・cmであった。得られたストラップに対し摩擦帯電圧測定およびスパークテストを実施し、その結果を表1に併せて示した。
【0036】
[実施例6]
カネボウ合繊製ポリエステル樹脂HBに三菱マテリアル製導電性酸化チタンを50wt%と導電性ウィスカーとして大塚化学製デントールWKを5wt%の含有率となるように、複合化温度280℃にて上述方法で複合化を行い、導電性樹脂Bを得た。得られた導電性樹脂Bとポリエステル樹脂HBを用い、サンドイッチ断面の繊度22dtex、3フィラメントからなる導電性繊維Bを得た。得られた導電性繊維の比抵抗は、4.4×10Ω・cmであった。また、同じくポリエステル樹脂HBを用い、丸断面の繊度320dtex、72フィラメントからなる非導電性繊維Hを得た。次に、非導電性繊維Hを2本と導電性繊維B1本を合糸して導電性繊維B1H2を得た。更に非導電性繊維Hのみを2本合糸して非導電性繊維H2を得た。
非導電性繊維H2を12本と導電性繊維B1H2を4本が均等になるように16打ち製紐機に掛け、ストラップを得た。得られたストラップに対し摩擦帯電圧測定およびスパークテストを実施し、その結果を表2に示した。
【0037】
[比較例2]
実施例6で作製した、16本の非導電性繊維H2を同様に16打ち製紐機に掛け、ストラップを得た。得られた非導電性繊維の比抵抗は、3.7×1014Ω・cmであった。得られたストラップに対し摩擦帯電圧測定およびスパークテストを実施し、その結果を表2に併せて示した。
【0038】
[実施例7]
カネボウ合繊製ナイロン樹脂MC120にキャボット社製カーボンブラックV−XC72を20wt%と韓国CNT社製カーボンナノチューブ3wt%の含有率となるように、複合化温度260℃にて上述方法で複合化を行い、導電性樹脂Cを得た。得られた導電性樹脂Cとカネボウナイロン樹脂SDを用い、サンドイッチ断面の繊度22dtex、3フィラメントからなる導電性繊維Cを得た。得られた導電性繊維の比抵抗は、6.3×10E1Ω・cmであった。次に、非導電性繊維Sを2本と導電性繊維C1本を合糸して導電性繊維C1S2を得た。
非導電性繊維S2を12本と導電性繊維C1S2を4本を均等になるように16打ち製紐機に掛け、ストラップを得た。得られたストラップに対し摩擦帯電圧測定およびスパークテストを実施し、その結果を表2に併せて示した。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0041】
携帯電話、ICカード、ICキー、フラッシュメモリー等に本発明のストラップを付して用いることで、静電気による各種障害を回避することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも長手方向に連続して導電性繊維を編み込まれている、もしくは織り込まれていることを特徴とする帯電防止機能を有するストラップ。
【請求項2】
導電性繊維の導電部の比抵抗が1.0×10−1Ω・cm〜9.9×10−4Ω・cmであることを特徴とする請求項1に記載の帯電防止機能を有するストラップ。
【請求項3】
導電性繊維の導電部の導電体が、カーボンブラック、導電性酸化チタン、導電性ウィスカー、およびカーボンナノチューブの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の帯電防止機能を有するストラップ。
【請求項4】
少なくとも一箇所に携帯電話、ICカード、ICキー、フラッシュメモリーの内、少なくとも一つを保持する事のできる帯電防止機能を有するストラップ。


【公開番号】特開2006−288790(P2006−288790A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114416(P2005−114416)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000000952)カネボウ株式会社 (120)
【出願人】(596154239)カネボウ合繊株式会社 (29)