説明

帯電防止熱可塑性樹脂組成物

【課題】 透明性が高く、しかも、持続性の帯電防止性能を有する熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A)芳香族ポリカーボネート系樹脂、(B)ポリエステル系樹脂、(C)帯電防止材とを含み組成物であり、かつ
(A)と(B)の合計を100重量%としたとき、(A):(B)の重量比が20:80〜60:40の範囲にあり、さらに(A)、(B)、(C)の合計を100重量%としたときに、(C)を1〜30重量%の量で含み、組成物の光屈折率が1.51〜1.55の範囲にある帯電防止熱可塑性樹脂組成物。前記組成物からなり、ヘイズが50%以下であり、かつ光透過率が70%以上の透明性を有する成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な帯電防止熱可塑性樹脂組成物および該組成物で成形された成形品に関する。さらに詳しくは、透明性が高く、しかも、持続性の帯電防止性能を有する熱可塑性樹脂組成物およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製品は、通常、プラスチックケースなど成形品に入れて運搬または保管されている。このような成形品は、摩擦などによって帯電すると、使用時に放電による衝撃を与えたり、ほこりの付着をもたらすことがあった。
【0003】
このため、半導体製品を保管または運搬等に使う容器に用いられる素材としては、近年、帯電防止性に優れた材料や、導電性を付与して帯電を外部に放出するようにした材料が多く使われるようになっている。
【0004】
たとえば、ホスホニウム塩、アルキルスルホン酸塩やアルキルベンゼンスルホン酸塩といったイオン性界面活性剤をポリマー中に練り込む方法が、効果や経済性に優れるために一般的に採用されてきた。(特許文献1、特開昭62―230835号公報)
特許文献1では、ホスホニウムスルホネートを主要成分とする帯電防止材が教示されている。しかしながら、こうした低分子量の界面活性剤を練り込む方法では、界面活性剤が表面に染み出すために、初期の帯電防止効果は高いものの、拭いたり、洗浄したりすると帯電防止効果がなくなり、経時的に帯電防止効果が低下する問題点がある。特にポリエステル樹脂が半導体シリコンウェハーの運搬や保管の目的でシリコンウェーハーキャリアとして使用される場合、シリコンウェハーと接する表面に界面活性剤や金属不純物が大量滲出すると、これらがシリコンウェハーに転写し、シリコンウェハーの表面汚れとなってシリコンウェハーの後の加工においてデバイスの結晶欠陥や電気特性の低下などを引き起こし、シリコンウェハーから加工された製品は品質上使用に供し得ない状態になる。
【0005】
また、特許第3566438号(特許文献2)では、熱可塑性ポリエステル樹脂に特定のポリエーテルエステルアミドを配合することで永久帯電防止性を有する樹脂組成物を得られ、シリコンウェーハーキャリアとして好適であることが開示されている。
【特許文献1】特開昭62―230835号公報
【特許文献2】特許第3566438号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の樹脂組成物では得られた成形品自体の透明性が低いという問題点があった。
【0007】
特に、半導体産業用容器では、透明性が要求されることがある。それは、透明であることによって、視認性が高く、管理効率が上がるとともに、生産性の向上を図ることができるからである。
【0008】
さらに、このような容器では、搬送時にこすれて容器が摩耗すると、その摩耗屑がシリコンウェハーを汚染して、生産性を低下させることもあるため、透明性を有するとともに、耐摩耗性、摺動性に優れていることが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記問題を解決すべく誠意検討した結果、芳香族ポリカーボネート系樹脂と、脂環族ポリエステル系樹脂を所定量ブレンドすることにより光屈折率を制御し、特定の帯電防止材を添加することにより、透明性、耐磨耗性、持続的帯電防止性を兼ね備えた樹脂組成物が得られることを見出した。また、この樹脂組成物はイオン抽出量も少なく、半導体製品等の搬送用、保管用容器にも好適であることを見出した。
【0010】
すなわち本発明に係るポリカーボネート系樹脂組成物およびその用途は、概略以下に示される。
(1)(A)芳香族ポリカーボネート系樹脂、(B)ポリエステル系樹脂、(C)帯電防止材とを含み組成物であり、かつ
(A)と(B)の合計を100重量%としたとき、(A):(B)の重量比が20:80〜60:40の範囲にあり、
さらに(A)、(B)、(C)の合計を100重量%としたときに、(C)を1〜30重量%の量で含み、
組成物の光屈折率が1.51〜1.55の透明性を有する帯電防止熱可塑性樹脂組成物。
(2)(B)ポリエステル系樹脂が、脂環族ポリエステル樹脂であることを特徴とする(1)の帯電防止熱可塑性樹脂組成物。
(3)(C)帯電防止材が、ポリエチレングリコールメタクリレート共重合体、ポリエステルアミド、ポリエーテルアミド、ポリエーテルエステルアミド、ポリ(エチレンオキシド/プロピレンオキシド)共重合体、ポリエチレンオキシド/エピクロルヒドリン共重合
体、第四級アンモニウム塩基含有メタクリレート共重合体および高分子量ポリエチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種類以上である(1)または(2)の帯電防止熱可塑性樹脂組成物。
(4)(1)〜(3)に記載の熱可塑性樹脂組成物からなり、ヘイズが50%以下であり、かつ光透過率が70%以上の透明性を有する成形品。
(5)成形品が半導体製品の運搬用または保管用容器である(4)の成形品。
(6)成形品がシリコンウェーハーキャリアである(4)の成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂成分として環状ポリエステルを含むとともに、特定の添加剤を含有しているので、透明性が高く、摺動性、耐磨耗性、持続的帯電防止性に優れた半導体製品等の搬送用、保管用容器が得られる。しかも、添加剤に起因するイオンによる汚染も少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[(A)ポリカーボネート樹脂]
本発明で用いられるポリカーボネート樹脂は、公知のホスゲン法または溶融法により製造されるものであり(例えば、特開昭63−15763号公報および特開平2−124934号公報参照)公知のポリカーボネートが使用可能である。また、共重合ポリカーボネートを用いることもできる。複数のポリカーボネートを組み合わせて用いることもできる。さらに、用いるポリカーボネートの末端は、公知のいずれの末端封止剤で封止されてもよい。本発明では、脂肪族、芳香族および脂肪芳香族ポリカーボネートを用いることができるが、好ましくは芳香族ポリカーボネートが使用される。
【0013】
本発明で使用される芳香族ポリカーボネートとしては、下記式(I)および下記式(II
)で示される構成単位を有するものを挙げることができる。
【0014】
【化1】

【0015】
(上記式中、R1およびR2はそれぞれ独立して、ハロゲン原子または一価の炭化水素基であり、Bは −(R−)C(−R')−[ここで、RおよびR'はそれぞれ独立して水素原子ま
たは1価の炭化水素基である。]、−C(=R")−[ここでR"は2価の炭化水素基である。]、−O−、−S−、−SO−または−SO2−であり、R3は炭素数1〜10の炭化水素基もしくはそのハロゲン化物またはハロゲン原子であり、p、qおよびrは、それぞれ独立して0〜4の整数である。)
上記式(I)で示される構成単位は、ジフェノール成分およびカーボネート成分よりなる。ジフェノール成分を導入するために使用できるジフェノールを下記式(III)に示す

【0016】
【化2】

【0017】
(上記式中、R1、R2、B、pおよびqは、上記と同義である。)
本発明において使用されるジフェノールとしては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(いわゆる、ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-1-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロ
キシ-t-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパンなどのビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;4,4'-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4'-ジヒドロキシ-3,3'-ジメチルフェニルエーテルなどのジヒドロキシアリールエーテル類;4,4'-ジ
ヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4'-ジヒドロキシ-3,3'-ジメチルジフェニルスルフ
ィドなどのジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4'- ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4'-ジヒドロキシ-3,3'-ジメチルジフェニルスルホキシドなどのジヒドロキシ
ジアリールスルホキシド類;4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4'- ジヒドロキ
シ-3,3'-ジメチルジフェニルスルホンなどのジヒドロキシジアリールスルホン類などが挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの化合物を1種または2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのうちでは、特に、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンの使用が好ましい。
【0018】
また、カーボネート成分を導入するための前駆物質としては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m-クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなどの炭酸ジエステル、およびホスゲンなどのハロゲン化カルボニル化合物などが挙げられる。また、これらの化合物を1種または2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの中では、特に、ジフェニルカーボネートの使用が好ましい。
【0019】
次に、上記式(II)で示される構造単位は、ジフェノール成分、レゾルシンおよび/または置換レゾルシン成分並びにカーボネート成分よりなる。ジフェノール成分の導入については、上記と同様のジフェノールを使用できる。またカーボネート成分としては、上記の炭酸ジエステルまたはホスゲンを使用できる。さらに、レゾルシンおよび/または置換レゾルシン成分を導入するためには、下記式(IV):
【0020】
【化3】

【0021】
(ここで、R3およびrは上記と同義である。)
で示される化合物を1種または2種以上組み合わせて使用することができる。このような化合物としては、例えば、レゾルシン、および3-メチルレゾルシン、3-エチルレゾルシン、3-プロピルレゾルシン、3-ブチルレゾルシン、3-t-ブチルレゾルシン、3-フェニルレゾルシン、3-クミルレゾルシン、2,3,4,6-テトラフルオロレゾルシン、2,3,4,6-テトラブロモレゾルシンなどの置換レゾルシンなどが挙げられる。これらのうち、特に、レゾルシンの使用が好ましい。
【0022】
ポリカーボネートの重量平均分子量は、通常10,000〜100,000、好ましくは18,000〜40,000である。ここでいう重量平均分子量とは、ポリカーボネート用に補正されたポリスチ
レンを用いて、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって測定されたものである。(また、メチレンクロリド中、25℃で測定した固有粘度が、0.35〜0.65dl/gであるもの
が好ましい。)
[(B)ポリエステル樹脂]
本発明で用いられるポリエステル樹脂としては、様々なものを用いることできるが、特に2官能性カルボン酸とジオール成分とを重合して得られるポリエステルが好適である。
【0023】
2官能性カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸,イソテレフタル酸,ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0024】
ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブ
タンジオール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ヘプタン-1,7-ジオール
、オクタン-1,8-ジオール、ネオペンチルグリコール、デカン-1,10-ジオールなどの炭素
原子数2〜15の直鎖脂肪族および脂環式ジオール、さらには芳香族ジオールなどが挙げられる。このようなポリエステルとして、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどが挙げられる。
【0025】
上記したように、本発明で使用されるポリカーボネートは透明性を有している。このため、ポリエステル樹脂も透明であることが望ましい。具体的には、ポリカーボネートと同程度またはポリカーボネートより小さい屈折率およびポリカーボネートと同程度またはポリカーボネートより大きい光線透過率を有するものが望ましい。
【0026】
このようなポリエステルとしては、前記ジオールが脂環式ジオールからなる脂環式ポリエステルが好適である。
【0027】
脂環式ポリエステル
脂環式ポリエステルとしては、下記式(I)で表される繰返単位を有するポリエステルが挙げられる。
【0028】
【化4】

【0029】
式中Rはジオールから誘導される二価の残基であり、R1は二価酸(二価カルボン酸)
から誘導される2価の残基であり、RまたはR1の少なくとも1つはシクロアルキル環を
含む基である。
【0030】
具体的には、Rは6〜20の炭素原子を有するジオールを含むアリール、アルカンまたはシクロアルカン残基であり、RあるいはR1の少なくとも1方が脂環基である。特に、
RおよびR1の両方が、脂環基であることが望ましい。このようなRおよびR1としては、下記で示されるものが挙げられる。
【0031】
【化5】

【0032】
このような脂環族ポリエステルは、二価酸とジオールとの縮合物であり、二価酸とジオールとが化学当量で反応したものであっても、いずれかが過量に含まれていてもよく、50モル%以上の脂環族ジオールおよび/または脂環族二価酸成分を含んでいれば、他の成分は、線形(環状ではない)脂肪族二価酸および/または脂肪族ジオールからなる成分を含んでいてもよい。本発明のように脂環族成分を含んでいると、ポリエステルは高い剛性を有するともに、たとえばポリカーボネートと混合したときに透明性が低下することもない。
【0033】
脂環族ジオールとしては、HO−R−OH(Rは前記(I)と同じ)で表され、たとえば、ジメタノールデカリン、ジメタノールビシクロオクタン;1,4−シクロヘキサンジメタノール、特にそのcis−異性体およびtrans異性体;2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール(TMCBD);トリエチレングリコール;1,10−デカンジオール;またこれらの混合物が挙げられる。
【0034】
他のジオールとしては、直鎖、分岐のアルカンジオールであり、2〜16の炭素原子を含んでいるものが望ましい。このようなジオールの具体例としては、特に制限されるものではないが、エチレングリコール;プロピレングリコール(1、2−および1,3−プロピレングリコール);2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール;2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール;1,3−および1,5−ペンタンジオール;ジプロピレングリコール;2−メチル−1,5−ペンタンジオール;1,6−ヘキサンジオールなどが挙げられる。これらのジオール類はアルキルエステル、ジアリールエステルなどの誘導体であってもよい。
【0035】
脂環族二価酸は、飽和炭素に結合した2つのカルボキシル基を含むカルボン酸であり、好ましい二価酸としては、環状または二環状脂肪族酸;たとえばデカヒドロナフタレンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、ビシクロオクタンジカルボン酸、1,4−シク
ロヘキサンジカルボン酸またはこれらの誘導体が挙げられ、最も好ましくは、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸あるいはその誘導体である。またアジピン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸およびコハク酸のような直鎖ジカルボン酸も使用してもよい。
二価酸としては、アルキルエステル(たとえばジアルキルエステル、ジアリールエステル)、無水物、塩類、酸クロライド、酸ブロマイドなどの誘導体が含まれていてもよい。
【0036】
このうち脂環族二価酸のジアルキルエステルが好ましく、このうち最も好ましいのは、ジメチル−1,4−シクロヘキサン−ジカルボキシレートである。
【0037】
好ましい脂環基R1は、1,4−シクロヘキシル二価酸から誘導され、最も好ましくは
、その70モル%以上がトランス異性体形状のものである。好ましい脂環基Rは、1,4−シクロヘキシルジメタノールなどの1,4−シクロヘキシル第1ジオールから誘導され、最も好ましくは、その70モル%以上がtrans異性体形状のものである。
【0038】
本発明では、脂環族ポリエステル樹脂として、下記式(II)で表されるポリ(シクロヘキサン−1,4−ジメタノールシクロヘキサン−1,4−ジカルボキシレート)[ポリ(1,4−シクロヘキサン−ジメタノール−1,4−ジカルボキシレート)、PCCDともいう]が好適である。
【0039】
【化6】

【0040】
上記式(II)で表される脂環族ポリエステル樹脂は、上記した式(I)中、Rが1,4−シクロヘキサンジメタノールから誘導される基であり、R1がシクロヘキサンジカルボ
キシレートから誘導されるシクロヘキサン環である。
【0041】
このようなポリエステル樹脂は、上記成分を用いて、重縮合反応またはエステル交換反応によって製造することができる。
【0042】
ポリエステルの重合反応は、一般に、テトエラキス(2−エチルヘキシル)チタネートなどのチタン系触媒の存在下、溶融状態で行われる。このようなチタン系触媒量は、最終製造樹脂に対し、チタン原子換算で50〜200ppmの量で含まれていることが好ましい。
【0043】
本発明で使用される脂環式ポリエステル樹脂は、50℃以上、好ましくは80℃以上、90℃以上、さらに好ましくは100℃以上のガラス転移温度(Tg)を有していることが望ましい。
【0044】
また、上記の脂環式ポリエステルは、約1〜50重量%の量の重合性脂肪族酸および/または脂肪族ポリオールに由来した構成単位を有して、コポリエステルが形成されていてもよい。なお脂肪族ポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリブチレングリコールなどが例示される。
【0045】
このようなポリエステルの製造方法は、たとえば米国特許2,465,319号明細書、同3,047,539号明細書に記載されている。
【0046】
本発明で使用されるポリエステルの分子量は、成形品の物性を損なわない範囲であれば制限はなく、また、用いる熱可塑性ポリエステルの種類により最適化される必要があるが、GPCの測定によるポリスチレン換算で表記された重量平均分子量が10,000〜2
00,000のものが好ましく、特に20,000〜150,000のものが好適である。
重量平均分子量が前記範囲内にあれば、成形したときに成形品の機械的特性が高く、また、成形性にも優れている。
[(C)帯電防止材]
本発明で用いられる帯電防止材としては、高分子型帯電防止材等が用いられる。
【0047】
高分子型帯電防止材としては、ポリオキシエチレングリコールメタクリレート共重合体、ポリエチレングリコールメタクリレート共重合体、ポリエステルアミド、ポリエーテルアミド、ポリエチレングリコール系ポリアミド、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテルアミドイミド、ポリ(エチレンオキシド/プロピレンオキシド)共重合体などのポリアルキレンオキシド共重合体、ポリエチレンオキシド/エピクロルヒドリン共重合体、ポ
リエーテルエステル類、ポリブチレンテレフタレートアイオノマー、ポリエチレンテレフタレートアイオノマー、第四級アンモニウム塩基含有メタクリレート共重合体および高分子量ポリエチレングリコール類が挙げられる。
【0048】
このため帯電防止材として、ポリエチレングリコールメタクリレート共重合体、ポリエステルアミド、ポリエーテルアミド、ポリエーテルエステルアミド、ポリ(エチレンオキシド/プロピレンオキシド)共重合体、ポリエチレンオキシド/エピクロルヒドリン共重
合体、第四級アンモニウム塩基含有メタクリレート共重合体および高分子量ポリエチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種類以上が好ましい。
【0049】
これらのなかでも、ポリエーテルエステルアミドがより望ましく、ポリエーテルエステルアミドとしては、両末端にカルボキシル基を有する数平均分子量500〜5,000のポリアミド成分と、数平均分子量300〜4,000のポリエチレングリコール及び/又は数平均分子量300〜4,000のビスフェノール類のエチレンオキシド付加物から誘導されるものが好適であり、これらを使用することで、良好な帯電防止性、難燃性及び耐熱性を組成物に付与することができる。ポリアミド成分とは、(1)ラクタム開環重合体、(2)アミノカルボン酸の重縮合体、もしくは(3)ジカルボン酸とジアミンの重縮合体であり、(1)のラクタムとしては、カプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム及びラウロラクタム等が挙げられる。(2)のアミノカルボン酸としては、ω−アミノカプロン酸、ω−アミノエナント酸、ω−アミノカプリル酸、ω−アミノペルゴン酸、ω−アミノカプリン酸、1,1−アミノウンデカン酸及び1,2−アミノドデカン酸等が挙げられる。(3)のジカルボン酸としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジ酸、ドデカンジ酸、イソフタル酸等が挙げられ、又(3)のジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン等が挙げられる。これらのうち、カプロラクタム、12−アミノドデカン酸及びアジピン酸−ヘキサメチレンジアミンの使用が好ましく、中でもカプロラクタムがより好ましい。
【0050】
ビスフェノール類のエチレンオキシド付加物のビスフェノール類としては、ビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン及び2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン等が挙げられ、中でもビスフェノールAが好ましい。これらのビスフェノール類にエチレンオキシドを常法によって付加することにより得られる。又、エチレンオキシドと共に他のアルキレンオキシド(プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、1,4−ブチレンオキシド等)を付加させてもよい。
【0051】
このような帯電防止材は、従来より使用されていた低分子量帯電防止材がプラスチック表面でブリードアウトして帯電防止性が発現する原理とは異なり、表層とコア部にアロイ化され、導電性高分子のネットワークが形成されるために、持続性に優れた帯電防止性能が発現されると考えられている。
【0052】
また本発明で使用される帯電防止材は、持続性帯電防止性能を有し、界面活性剤のような低分子量のものではなく、ポリマーの構造を有するものであり、高温多湿の環境下に長時間さらされたり、水ぶき試験等を行っても、帯電特性を維持できるという特性を有するものである。持続性の帯電防止の尺度は、時間に対する帯電防止特性であり、たとえば85℃85%の高温高湿環境下に試験片を置き、2000時間後の表面抵抗値や半減期等の評価によって判断し、これらの数値が実質的に変動しないものが本発明で使用される。
[組成]
(A)と(B)のブレンド比は、(A)と(B)の合計100重量%としたとき、(A):(B)の重量比が20:80〜60:40%の割合が望ましく、さらに望ましくは(A):(B)が25:75〜55:45であり、とくに望ましくは(A):(B)が30:70〜50:50重量%である。この範囲にあると、組成物の屈折率が高く、また、帯電防止材との屈折率を合わせることもできるので、透明性に優れた成形品を得ることができる。
【0053】
また、帯電防止材(C)の添加量としては、さらに(A)、(B)、(C)の合計を100重量%としたときに、1〜30重量%、望ましくは3〜27重量%、さらに望ましく5〜25重量%の範囲にあることが好適である。この範囲にあれば、十分な帯電防止性能を出しつつ、透明性に優れ、しかも、層状剥離(千枚めくれ)のない成形品を得ることができる。また上記添加量の範囲であれば、帯電防止性が持続させることも可能である。具体的に表面固有抵抗値や半減期特性が、85℃85%湿度という高温多湿環境下で保持したとしても、2000時間後でも同等の数値を維持するレベルにある。なお、従来の帯電防止材を使用した場合、高温多湿環境下では、帯電防止性を持続させることが困難となることが多い。
【0054】
層状剥離は、帯電防止材と樹脂成分との親和性が悪い場合に生じるが、上記、前記した帯電防止材は、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂との相溶性が比較的良く、上記した添加量であれば層状剥離を抑制することができる。
【0055】
さらに上記した組成の組成物の摺動性、耐摩耗性も高い。その理由は明確ではないが、前記(A)および(B)の相溶性が高く、さらに各成分の相溶性が高く、均一に組成物中に分散していることによると考えられる。
【0056】
また、本発明に係る組成物は、光屈折率が1.51〜1.55の範囲にある。光屈折率は、ASTM D 542アッベ法によって評価する。
その他添加剤
本発明に係る組成物では、本発明の目的を損なわない範囲で、安定剤、滑剤、難燃剤、補強剤等を含んでいてもよい。
【0057】
安定剤としては、例えば酸化防止剤として各安定剤メーカーから市販されているリン系安定剤を挙げることができる。市販品として、アデカスタブ PEP−36、PEP−2
4,PEP−4C、PEP−8(いずれも商標、旭電化工業株式会社製)、Irgafos168(商標、チバ・ガイギー社製)、Sandstab P−EPQ(商標、サンド
ズ(Sandoz)社製)、Chelex L(商標、堺化学工業株式会社製)、3P2
S(商標、イハラケミカル工業株式会社製)、Mark 329K、Mark P(いずれも商標、旭電化工業株式会社製)、及び Weston 618(商標、三光化学株式会社
製)等を挙げることができる。
【0058】
また他の安定剤として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、エポキシ系安定剤、イオウ系安定剤等を挙げることができる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えばn−オクタデシル−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,6−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシメチルフェノール、2,2'−メ
チレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が挙げられる。エポキシ系安定剤としては、例えばエポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等が挙げられる。
【0059】
滑剤としては、公知の炭化水素系滑剤、脂肪酸系、高級アルコール系滑剤、アミド滑剤、エステル系滑剤、金属せっけん系滑剤などが挙げられる。
【0060】
離型剤として好ましくは、メチルフェニルシリコーンオイル等のシリコーン系離型剤、ペンタエリスリトールテトラステアレート、グリセリンモノステアレート、モンタン酸ワックス、ポリα‐オレフィン等のエステル系離型剤又はオレフィン系離型剤等が挙げられる。
【0061】
難燃剤としては、リン酸エステルやシリコーン系難燃剤、金属塩系難燃剤などの公知の難燃剤が挙げられる。
【0062】
補強剤としては、繊維状フィラー、非繊維状フィラーなど公知のものが挙げられ、タルク、マイカ、硫酸バリウム、ガラス繊維、中空ガラス繊維、カーボン繊維、中空カーボン繊維、酸化チタンウィスカー、繊維状ワラストナイト、クレー、シリカ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、中空フィラーなどが例示される。
【0063】
さらにベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチレ−ト系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤、相溶化剤、衝撃改質材、PTFEなどのフッ素化合物を、組成物は含んでいてもよい。
【0064】
これらの配合量は特に制限なく組成物の透明性を損なわない範囲で適宜選択される。
【0065】
本発明の樹脂組成物を製造するための方法に特に制限はなく、通常の方法が満足に使用できる。一般に溶融混合法が望ましい。少量の溶剤の使用も可能であるが、一般に必要はない。
【0066】
装置としては特に押出機、バンバリーミキサー、ローラー、ニーダー等を例として挙げることができる。これ等装置を回分的又は連続的に運転することができる。また、成分の混合順序は特に限定されない。
【0067】
例えば、押出機などで溶融混練する場合、各成分をすべて配合して混練してもよいし、一つの押出機において複数のフィード口を設け、シリンダーに沿って1種以上の各成分を順次フィードしてもよい。溶融混練により得られた樹脂組成物は、そのまま直ちに本発明による成形品の製造に使用してもよく、あるいは冷却固化してペレット、粉末などの形態にした後、必要に応じて添加剤を添加し、再度溶融してもよい。
[成形品]
このような本発明に係る樹脂組成物からなる成形品は、前記したように透明性が高い。具体的に、ヘイズが50%以下であり、かつ光透過率が70%以上の透明性を有している
。なお、ヘイズはJIS K 7136に従い、50mm×50mm×3.2mmの試験片を用いて評価し、光透過率はJIS K 7361に従い、50mm×50mm×3.2mmの試験片を用いて評価する。
【0068】
また、本発明の成形品は上記した組成物からなるため、帯電防止性にも優れ、しかもその帯電防止性能は長期間持続する。さらに成形品は上記した特定の組物から構成されるので摺動性、耐磨耗性にも優れている。
【0069】
このため、埃や屑などの付着を嫌う用途に好適に使用することができる。また、帯電防止材が染み出すこともなく、また搬送の際の振動によって、成形品の摩耗して切り屑を発生することもない。このため、内容物への容器からの汚染を極めて少なくすることができる。
【0070】
半導体製品運搬用、保管用容器成形品としては、半導体工程内容器、半導体搬送用容器、ダイシングカセット、レチクルポット、半導体キャリアテープ等が挙げられる。
【0071】
特に、埃など付着や不純物による汚染を嫌うシリコンウェハーの搬送体として用いられるシリコンウェーハーキャリアに好適である。
【0072】
本発明の成形品は、上記組成物を成形してなる。成形方法としては、従来の樹脂組成物に対して適用されてきた成形法が、特に制限なく適用可能である。具体的には、射出成形、押出成形、真空・圧空成形などの公知の成形法が採用できる。
【0073】
本発明の成形品は公知の方法で製造可能であり、たとえば前記組成物のペレットを射出成形機にて例えば射出圧力750kg/cm2、射出率70cm3 /secの条件で射出
成形して得ることができる。
【0074】
実施例
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0075】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂としては、日本GEプラスチックス(株)社製、レキサンを使用した。
【0076】
(B)脂環族ポリエステル樹脂としては、イーストマンケミカル(株)社製ネオスターPM19972コポリマー(ポリシクロヘキサンジメタノールシクロヘキサンジカルボキシレート(PCCD))を使用した。
【0077】
(C)帯電防止材としては、ポリエーテルエステルアミドを使用した。
【0078】
安定剤は、旭電化社製のADK STAB AO−50を使用した。
実施例および比較例では以下のように評価した。
【0079】
[実施例1〜4、比較例1]
各成分を表1に示す割合(重量比)で、40mmの二軸押出機を用いて、混練設定温度250℃、スクリュー回転数200rpm、アウトプット量100kg/hで溶融混練し、
ペレットを作った。このペレットを用いて、東洋機械金属社製の射出成形機により、設定温度250℃、金型温度50℃の条件で試験片を成形した。得られた試験片について以下の特性評価を行った。結果を表1に示す。
物性試験
(1)表面抵抗値:ASTM D257に従って、50mm×50mm×3.2mmの試験片を荷電100Vにて測定した。
(2)半減期:JIS L 1094に従って、印加電圧9.0KVで測定した。
(3)摺動磨耗性試験:スラスト型磨耗試験機を用い、荷重1.0kg/cm2、回転スピード1
00mm/秒、3時間、相手部材ステンレスS45Cを用いて、その重量減量(g)を測定した。
(4)イオン抽出試験:テフロン(登録商標)製の袋に試料50g程度を精秤したのち、純粋で5回洗浄した。その後純粋100gを加えて密封し、30℃のオーブンで3時間加熱抽出した。放冷後に抽出液を清浄なポリ容器に移液して検液とし、イオンクロマトグラフ(濃縮法)を用いアルカリ金属イオン量を定量した。
(5)ヘイズ測定:JIS K 7136に従い、50mm×50mm×3.2mmの試験片を用い測定した。
(6)全光線透過率:JIS K 7361に従い、50mm×50mm×3.2mmの試験片を用い測定した。
(7)イオン抽出試験:得られた成形品を160℃で、100時間エージングを行った後溶出アルカリ金属量を定量した。
【0080】
【表1】

【0081】
以上より、本発明によれば、特定の組成からなるので、透明性が高く、また帯電防止性能に優れるとともに、持続性帯電防止性に優れ、摺動性、耐磨耗性に優れた組成物を得ることができる。また、成形品から不純物の漏出もないので、埃など付着や不純物による汚染を嫌う半導体搬送用容器として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香族ポリカーボネート系樹脂、(B)ポリエステル系樹脂、(C)帯電防止材とを含み組成物であり、かつ
(A)と(B)の合計を100重量%としたとき、(A):(B)の重量比が20:80〜60:40の範囲にあり、
さらに(A)、(B)、(C)の合計を100重量%としたときに、(C)を1〜30重量%の量で含み、
組成物の光屈折率が1.51〜1.55の範囲にあることを特徴とする帯電防止熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
(B)ポリエステル系樹脂が、脂環族ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の帯電防止熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
(C)帯電防止材が、ポリエチレングリコールメタクリレート共重合体、ポリエステルアミド、ポリエーテルアミド、ポリエーテルエステルアミド、ポリ(エチレンオキシド/プロピレンオキシド)共重合体、ポリエチレンオキシド/エピクロルヒドリン共重合体、第
四級アンモニウム塩基含有メタクリレート共重合体および高分子量ポリエチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種類以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の帯電防止熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の熱可塑性樹脂組成物からなり、
ヘイズが50%以下であり、かつ光透過率が70%以上の透明性を有する成形品。
【請求項5】
成形品が半導体製品の運搬用または保管用容器であることを特徴とする請求項4に記載の成形品。
【請求項6】
成形品がシリコンウェーハーキャリアであることを特徴とする請求項4に記載の成形品。

【公開番号】特開2006−282798(P2006−282798A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103091(P2005−103091)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(390000103)日本ジーイープラスチックス株式会社 (36)
【Fターム(参考)】