説明

帯電防止組成物とその製法及び使用

【課題】広い範囲の湿度レベルにおいて良好な帯電防止性能を示す帯電防止組成物を提供すること。
【解決手段】帯電防止組成物は、(a)非ポリマー窒素オニウムカチオンと、弱配位性含フッ素有機アニオンとからなる少なくとも1種類のイオン塩であって、アニオンの共役酸が超酸である少なくとも1種類のイオン塩と、(b)少なくとも1種類の熱可塑性ポリマーとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種類のポリマーと少なくとも1種類の帯電防止剤とを含む組成物に関する。本発明はさらに、該組成物を含む繊維、フィルム、布帛、コーティングおよび成形またはブロー成形物品に関する。他の態様において、本発明はまた、帯電防止剤として有用な新規な化合物および基材に帯電防止特性を与える方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
静電荷の蓄積は、多くの工業製品および材料の処理および使用における様々な問題の原因である。静電荷は材料を固着させたり、互いに反発させたりする。これは、特に、繊維やテキスタイルの処理において問題である。さらに、静電荷の蓄積により物体はゴミやホコリを引き付けてしまい、製造や汚染の問題へとつながり、製品の性能が損なわれる恐れがある。
【0003】
絶縁物体からの突発的な静電荷もまた深刻な問題となり得る。写真フィルムだと、かかる放電はカブリやアーチファクトの外観を生じさせる。可燃性の材料が存在すると、静電荷が点火源として作用して、火災および/または爆発を引き起こす恐れがある。
【0004】
エレクトロニクス業界において静電荷は特に問題である。というのは最新の電子装置は静電荷により永久的な損害を非常に受けやすいためである。絶縁物体での静電荷の蓄積は特に一般的なことであり、低湿度の条件下や、液体または固体が移動して互いに接触すると(摩擦帯電)問題がある。
【0005】
静電荷の蓄積は、材料の電気伝導率を増大させることにより制御することができる。これは、イオンまたは電子伝導率を増大することにより行うことができる。静的な蓄積を制御するのに今日最も一般的な手段は、吸湿により電気伝導率を増大することによるものである。これは、一般的に、水分を周囲空気に与える(加湿)か、または吸湿性帯電防止剤を用いることによりなされる。これは通常、その有効性が大気中の水分の吸着によることから、保湿剤と呼ばれている。たいていの帯電防止剤は、蓄積した静電荷を消失させることにより機能する。このように、静的減衰定数および表面伝導率が、帯電防止剤の有効性の一般的な尺度である。
【0006】
帯電防止剤は、絶縁材料の表面に適用(外部帯電防止)または絶縁材料のバルクに組み込む(内部帯電防止)ことができる。内部帯電防止剤は、プラスチックのようなポリマーに一般的に用いられている。通常、内部帯電防止剤は、溶融処理中に、溶融ポリマーに直接混合される。(代表的なポリマー溶融処理技術には、成形、溶融ブロー成形、溶融紡糸および溶融押し出しがある。)250〜400℃以上というポリマー溶融処理温度に耐えるのに必要な熱安定性を有する帯電防止剤はかなり少ない。静電蓄積は一般的に表面現象であるため、材料の表面に移動し、濃縮させることのできる内部帯電防止剤が通常最も有効である。
【0007】
公知の帯電防止剤としては、有機アミンおよびアミド、脂肪酸のエステル、有機酸、ポリオキシエチレン誘導体、多価アルコール、金属、カーボンブラック、半導体および様々な有機および無機塩をはじめとする広範囲な化学薬品が含まれる。多くはまた界面活性剤でもあり、中性またはイオン性とすることができる。
【0008】
多くの低分子量の中性帯電防止剤の蒸気圧は非常に高く、蒸発により材料が失われるため、ポリマー溶融処理のような高温で用いるには不向きである。多くのその他の中性の帯電防止剤は、ポリマー溶融処理またはその他の高温処理条件に耐えられるような十分な熱安定性がない。
【0009】
たいていの非金属性帯電防止剤は、電荷消失について吸着および水の伝導性に頼る保湿剤である。このように、その有効性は、低い大気湿度では失われてしまう。これらの多くの帯電防止剤はまた水溶性であることから、材料を水にさらすと(例えば、洗浄において)容易に除去されてしまうため、あまり耐久性がない。吸湿性の帯電防止剤と関係する水は、ポリマー溶融処理中特に問題となり得る。というのは、水は溶融処理温度で急速に蒸発する傾向があるためである。これによって、ポリマー中に望ましくない泡が形成されて、押し出し装置においてネジがスリップする可能性がある。
【0010】
第四級アンモニウム塩が有用な帯電防止剤であることは業界に周知である。これらは固体または液体とすることができ、最も一般的には、ハロゲン化物またはメタスルホン酸塩である。塩は、優れた帯電防止性能を与えるが、熱安定性が限られており、通常、吸湿性である。このように、多くの高性能熱可塑性樹脂に必要とされる高温処理条件に耐えられない。
【0011】
無機、有機および含フッ素有機アニオンの金属塩はまた、あるポリマー組成物では帯電防止剤としての有用性が認められている。コストおよび毒性の点およびアルカリ金属カチオン、特に、リチウムの水への親和性が高いことから、アルカリ金属塩が最も一般的に用いられている。しかしながら、たいていの金属塩は、高温処理条件下では熱安定性が不十分で、ポリプロピレン、ポリエステルおよびポリカーボネートのような中〜低極性のポリマーと相容性がない。この不相容性により、帯電防止性能が不適切となったり、かつ/または最終ポリマー物品の物理特性または透明性が許容できないほど減少する可能性がある。従って、金属塩を内部帯電防止剤として用いるのは、比較的低温で水性または有機溶液から流延された高極性および/または親水性のポリマーマトリックスに通常、限られている。
【0012】
さらに、多くの金属塩は、金属および電子コンポーネントに対して腐食性であるため、かかる表面と接触する用途には不向きである。公知の親水性金属塩および第四級アンモニウム塩には、他の保湿性帯電防止剤(上記)の全ての欠点がある。
【0013】
このように、業界においては、高温安定性、疎水性、低揮発性、金属および電子コンポーネントに対する低腐食性、耐久性およびポリマー相容性の優れたバランスを示し、広い範囲の湿度レベルにわたって様々な絶縁材料に良好な帯電防止性能を与えることのできる帯電防止剤が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
簡潔に述べると、一態様において、本発明は、非ポリマーの窒素オニウムカチオン(例えば、第四級アンモニウムイオン)と、弱配位性含フッ素有機アニオンとからなる少なくとも1種類のイオン塩(a)であって、アニオンの共役酸が超酸(例えば、ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)イミドイオン)であるイオン塩と、少なくとも1種類の熱可塑性ポリマー(b)との溶融ブレンドを含む、またはこれらから実質的になる帯電防止組成物を提供する。本明細書において、「溶融ブレンド」とは、溶融処理技術により作製されたブレンドのことであり、「オニウム」とは、電荷の少なくとも一部が少なくとも1個の窒素原子にある正に帯電したイオンのことである。好ましくは、アニオンの共役酸のハメット酸性度関数H0は約−10未満である。
【0015】
上記のイオン塩を添加剤(内部帯電防止剤)または局所処理剤(外部帯電防止剤)として用いて、帯電防止性をポリマーまたはその他絶縁材料に与えることができることを見出した。これらのイオン塩は、意外なことに、ポリマーフィルムや布帛のような絶縁基材に蓄積される静電荷を消失させるのに有効である。例えば、ポリプロピレン溶融ブロー成形不織布帛にポリマー溶融添加剤として組み込むと、ある好ましい塩は、同じ静電減衰試験条件下で知られた帯電防止剤と同程度またはそれ以上の静電消失速度を与える。本発明の組成物に用いられるイオン塩は、伝導率向上添加剤(例えば、リチウム塩や極性有機溶媒)がなくても有効であり、塩および絶縁材料から実質的になるこのような組成物は意外なことに良好な帯電防止特性を示す。
【0016】
さらに、本発明の組成物に用いられるイオン塩は意外なことに高い熱安定性を示す。塩(意外なことに、第四級アンモニウム塩でも)は、300〜500℃の温度で(多くは、そして好ましくは350℃より高い温度で)安定なままであり、このように、ポリマー溶融添加剤(高温溶融処理によりホストポリマーに組み込まれる)として、そして使用温度が非常に高い用途に用いるのに非常に向いている。塩はまた不揮発性(実質的に蒸気圧がない)、非引火性で、有害な蒸気を排出したり、蒸発損失の結果帯電性能が徐々に低下することなく、通常の処理および使用条件下で用いることができる。
【0017】
本発明の組成物に用いられるイオン塩は様々なポリマーと相容性がある。多くの塩はまた疎水性(水と非混和性)であり、その帯電防止性能は、大気湿度レベルとはあまり相関性がなく、水性環境にさらしても耐久性がある。好ましいイオン塩は室温(例えば、約25℃)もしくはそれ以上で液体である。
【0018】
本発明の組成物に用いられるイオン塩は、従って、高い熱安定性、疎水性、低揮発性、耐久性およびポリマー相容性の優れたバランスを示し、広い範囲の湿度レベルにわたって様々な絶縁材料に良好な帯電防止性能を与えることのできる帯電防止剤が必要とされている業界の要求を満足するものである。
【0019】
他の態様において、本発明はまた、本発明の組成物を含む繊維、布帛、フィルム、コーティングおよび成形またはブロー成形物品、帯電防止剤として有用な新規な化合物、および、例えば、バルク付加または局所処理により基材に帯電防止特性を与える方法も提供する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の帯電防止組成物に用いるのに好適なイオン塩は、非ポリマーの窒素オニウムカチオンと弱配位性含フッ素有機(完全にフッ素化、すなわち過フッ素化されているか、あるいは部分フッ素化された)アニオンとからなるようなものである。窒素オニウムカチオンは、環状(すなわち、カチオンの窒素原子が環原子)または非環状(すなわち、カチオンの窒素原子が環原子でないが、環状置換基は有することができる)とすることができる。環状カチオンは芳香族、不飽和だが非芳香族、または飽和とすることができ、非環状カチオンは飽和または不飽和とすることができる。
【0021】
環状カチオンは、窒素以外に1個以上の環状へテロ原子(例えば、酸素または硫黄)を含むことができ、環原子は置換基(例えば、水素、ハロゲン、またはアルキル、脂環式、アリール、アルカリ環状、アルカリール、脂環式アルキル、アラルキル、アル脂環式および脂環式アリール基のような有機基)を含むことができる。別個のアルキル置換基を一緒に結合させて、2〜4個の炭素原子の単体のアルキレンラジカルを構成させ、窒素と共役して環構造を形成することもできる。有機置換基は、例えば、窒素、酸素、硫黄、リンまたはハロゲンのような1個以上のヘテロ原子を含むことができる(したがって、含フッ素有機の性質を有することができる)。
【0022】
非環式カチオンは少なくとも1個(好ましくは少なくとも2個、より好ましくは少なくとも3個、最も好ましくは4個)の窒素結合有機置換基またはR基を有することができる。残りの置換基は水素である。R基は、環式または非環式、飽和または不飽和、芳香族または非芳香族とすることができ、例えば、窒素、酸素、硫黄、リンまたはハロゲンのような1個以上のヘテロ原子を含むことができる(したがって、含フッ素有機の性質を有することができる)。
【0023】
好ましくは、窒素オニウムカチオンは非環式、飽和環式または芳香族である。
より好ましくは、カチオンは非環式または芳香族である。カチオンは安定性という理由から芳香族であるのが最も好ましい。
【0024】
好ましい非環式窒素オニウムカチオンは第四級または第三級(最も好ましくは第四級)アンモニウムイオンである。第四級および第三級アンモニウムイオンが対称性が低いことから好ましく(上述した少なくとも2個、好ましくは少なくとも3個の異なる窒素結合有機置換基またはR基を有する)、より好ましくは、少なくとも1個の窒素結合有機置換基に少なくとも1個の水酸基を含む。最も好ましい非環式窒素オニウムカチオンは、式Iのイオン塩について後述するようなものである。
【0025】
好ましい芳香族窒素オニウムカチオンは、以下からなる群より選択される。
【化1】

式中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6は、H、F、1〜約4個の炭素原子のアルキル基、ここで、2個のアルキル基が一緒に結合して2〜4個の炭素原子の単体アルキレンラジカルを形成し、N上でまとまって環構造を形成する、及びフェニル基からなる群より独立に選択され、アルキル基、アルキレンラジカルまたはフェニル基は1個以上の電子吸引基(好ましくは、F−、Cl−、CF3−、SF5−、CF3S−、(CF32CHS−および(CF33CS−からなる群より選択される)で置換することができる。
【0026】
より好ましい芳香族カチオンは、以下からなる群より選択される。
【化2】

式中、R1、R2、R3、R4およびR5は前述の通りである。
【0027】
弱配位性アニオンは、含フッ素有機アニオンであり、その共役酸は超酸(すなわち、100パーセント硫酸より酸性が大きい酸)である。好ましくは、アニオンの共役酸のハメット酸性度関数H0は約−10未満(より好ましくは約−12未満)である。かかる弱配位性含フッ素有機アニオンとしては、少なくとも1個の高フッ素化アルカンスルホニル基を含むものが挙げられる。すなわち、全ての非フッ素炭素結合置換基が、スルホニル基に直接結合した炭素原子以外の炭素窒素に結合しているパーフルオロアルカンスルホニル基または部分フッ素化アルカンスルホニル基である(好ましくは、全ての非フッ素炭素結合置換基は、スルホニル基から離れた3個以上の炭素原子である炭素原子に結合している)。
【0028】
好ましくは、アニオンは少なくとも約80パーセントフッ素化されている(すなわち、アニオンの少なくとも約80パーセントの炭素結合置換基がフッ素原子である)。より好ましくは、アニオンは過フッ素化されている(すなわち、完全にフッ素化されていて、全ての炭素結合置換基がフッ素原子である)。好ましい過フッ素化アニオンを含むアニオンは、例えば、窒素、酸素または硫黄のような1個以上のカテナリー(すなわち、鎖内)ヘテロ原子を含むことができる。
【0029】
好適な弱配位性アニオンとしては、パーフルオロアルカンスルホネート、シアノパーフルオロアルカンスルホニルアミド、ビス(シアノ)パーフルオロアルカンスルホニルメチド、ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)イミド、ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチドおよびトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチドからなる群より選択されるアニオンが挙げられるがこれらに限られるものではない。
【0030】
好ましいアニオンとしては、パーフルオロアルカンスルホネート、ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)イミドおよびトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチドが挙げられる。ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)イミドおよびトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチドがより好ましいアニオンであり、ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)イミドが最も好ましい。
【0031】
イオン塩は、使用条件下で固体または液体であって、好ましくは約150℃未満(より好ましくは約50℃未満、最も好ましくは約25℃未満)の融点を有する。液体イオン塩は静的消失性能が一般により良いことから好ましい。イオン塩は、約325℃以上(より好ましくは約350℃以上)の温度で安定であるのが好ましい。(すなわち、塩の分解はかかる温度以上で生じる。)塩はまた疎水性であるのも好ましい。このように、本発明の帯電防止組成物に用いるのに好ましい部類のイオン塩としては、以下の群より選択される芳香族窒素オニウムカチオン(a)
【化3】

式中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6は、H、F、1〜約4個の炭素原子のアルキル基、ここで、2個のアルキル基が一緒に結合して2〜4個の炭素原子の単体アルキレンラジカルを形成し、N上でまとまって環構造を形成する、及びフェニル基からなる群より独立に選択され、アルキル基、アルキレンラジカルまたはフェニル基は1個以上の電子吸引基(好ましくはF−、Cl−、CF3−、SF5−、CF3S−、(CF32CHS−および(CF33CS−からなる群より選択される)で置換することができる、及び上述した弱配位性含フッ素有機アニオンまたはBF4−、PF6−、AsF6−およびSbF6−からなる群より選択される弱配位性アニオン(b)とからなる。この好ましい部類は、米国特許第5,827,602号(Kochら)に記載された疎水性イオン液体のサブクラスを含む。
【0032】
本発明の帯電防止組成物を調製するのに有用なその他の好ましい部類のイオン塩は、下式Iで表される新規な化合物である。
(R14-z+[(CH2qOR2z- (I)
式中、各R1は、例えば、窒素、酸素、硫黄、リンまたはハロゲンのような1個以上のヘテロ原子を含むことのできるアルキル、脂環式、アリール、アルカリ環状、アルカリール、脂環式アルキル、アラルキル、アル脂環式および脂環式アリール部分からなる群(含フッ素有機性とすることができる)より独立に選択され、各R2は水素とR1について上述した部分とからなる群より独立に選択され、zは1〜4の整数、qは1〜4の整数、およびX-は上述した弱配位性含フッ素有機アニオンである。R1は、好ましくはアルキルであり、R2は好ましくは水素、アルキルおよびアシル(より好ましくは、水素またはアシル、最も好ましくは水素)からなる群より選択される。
【0033】
本発明の帯電防止組成物に有用な上述したイオン塩は、業界に周知のイオン交換またはメタセシス反応により調製することができる。例えば、前駆体オニウム塩(例えば、ハロゲン化オニウム、アルカンスルホン酸オニウム、アルカンカルボン酸オニウムまたは水酸化オニウム塩)は、水溶液中で前駆体金属塩または弱配位性アニオンの対応の酸と混合させることができる。混合の際、所望の生成物(弱配位性アニオンのオニウム塩)が沈殿するか(液体または固体として)、または有機溶媒(例えば、塩化メチレン)で優先的に抽出することができる。生成物は、ろ過または液/液相分離により単離したり、水で洗って副生成物のハロゲン化金属塩またはハロゲン化水素を完全に除去して、真空で完全に乾燥させて全ての揮発物質(存在する場合には、水および有機溶媒を含めて)を除去することができる。同様のメタセシス反応は、水中でなく有機溶媒(例えば、アセトニトリル)中で実施することができ、この場合、副生成物の塩が優先的に沈殿し、所望の生成物の塩は有機溶媒中に溶解したままとなる(標準の実験技術を用いて単離することができる)。いくつかのイオン塩(例えば、シグマアルドリッチ(ウィスコンシン州、ミルウォーキー)より入手可能な1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート)が市販されている。
【0034】
前駆体の塩または酸(イオン塩を調製するのに用いる)は、業界に知られた標準的な方法により調製でき、多くが市販されている。かかる方法としては、以下に挙げる参考文献に記載されたアニオン前駆体調製方法が挙げられる。イミド前駆体−米国特許第5,874,616号(Howellsら)、第5,723,664号(Sakaguchiら)、第5,072,040号(Armand)および第4,387,222号(Koshar);メチド前駆体−米国特許第5,554,664号(Lamannaら)および第5,273,840号(Dominey);スルホネート前駆体−米国特許第5,176,943号(Wou)、第4,582,781号(Chenら)、第3,476,753号(Hanson)および第2,732,398号(Briceら);フルオロケミカル基にカテナリー酸素または窒素を有するスルホネート、イミドおよびメチド前駆体−米国特許第5,514,493号(Waddellら);ジスルホン前駆体−R.J.KosharおよびR.A.Mitsch,J.Org.Chem.,38,3358(1973年)および米国特許第5,136,097号(Armand)。
【0035】
一般に、フルオロアルカンスルホニル基を含むシアノ含有メチドおよびアミドは、非求核塩基の存在下、フルオロアルカンスルホニルフッ化物、RfSO2Fと、それぞれ無水マロン酸ニトリルまたはシアナミドとの反応により調製することができる。この合成手順は、米国特許第5,874,616号(Howellsら)のビス(フルオロアルカンスルホニル)イミドの調製についてのスキーム1に記載されており、マロン酸ニトリルまたはシアナミドのいずれかをフルオロアルカンスルホンアミドに置換している。得られる中間体非求核塩基カチオン含有メチドまたはアミド塩を、業界に周知の標準的メタセシス反応により変換して、所望のカチオン塩(一般にリチウム)とすることができる。
【0036】
有用なイオン塩の代表例としては、次のようなものが含まれる。
オクチルジメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド:
[C817+(CH32CH2CH2OH -N(SO2CF32]、
オクチルジメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムパーフルオロブタンスルホネート:
[C817+(CH32CH2CH2OH -OSO249]、
オクチルジメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート:
[C817+(CH32CH2CH2OH -OSO2CF3]、
オクチルジメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド:
[C817+(CH32CH2CH2OH -C(SO2CF33]、
トリメチル−2−アセトキシエチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド:
[(CH33+CH2CH2OC(O)CH3 -N(SO2CF32]、
トリメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムビス(パーフルオロブタンスルホニル)イミド:
[(CH33+CH2CH2OH -N(SO2492]、
トリエチルアンモニウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド:
[Et3+-N(SO2252]、
テトラエチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート:
[CF3SO3- +NEt4]、
テトラエチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:
[(CF3SO22- +NEt4]、
テトラメチルアンモニウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド:[(CH34+ -C(SO2CF33]、
テトラブチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:
[(C494+ -N(SO2CF32]、
トリメチル−3−パーフルオロオクチルスルホンアミドプロピルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド:
[C817SO2NH(CH23+(CH33 -N(SO2CF32]、
1−ヘキサデシルピリジニウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド:
[n−C1633−cyc−N+55 -N(SO2252]、
1−ヘキサデシルピリジニウムパーフルオロブタンスルホネート:
[n−C1633−cyc−N+55 -OSO249]、
1−ヘキサデシルピリジニウムパーフルオロオクタンスルホネート:
[n−C1633−cyc−N+55 -OSO2817]、
n−ブチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:
[n−C49−cyc−N+55 -N(SO2CF32]、
n−ブチルピリジニウムパーフルオロブタンスルホネート:
[n−C49−cyc−N+55 -OSO249]、
1,3−エチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:
[CH3−cyc−(N+22NCH)CH2CH3 -N(SO2CF32]、
1,3−エチルメチルイミダゾリウムノナフルオロブタンスルホネート:
[CH3−cyc−(N+22NCH)CH2CH3 -OSO249]、
1,3−エチルメチルイミダゾリウムトリフルオロブタンスルホネート:
[CH3−cyc−(N+22NCH)CH2CH3 -OSO2CF3]、
1,3−エチルメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート:
[CH3−cyc−(N+22NCH)CH2CH3 PF6-]、
1,3−エチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート:
[CH3−cyc−(N+22NCH)CH2CH3 BF4-]、
1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、
1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド、
1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホニルパーフルオロブタンスルホニルイミド、
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムシアノトリフルオロメタンスルホニルアミド、
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(シアノ)トリフルオロメタンスルホニルメチド、
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホニルパーフルオロブタンスルホニルイミド、
オクチルジメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムトリフルオロメチルスルホニルパーフルオロブタンスルホニルイミド、
2−ヒドロキシエチルトリメチルトリフルオロメチルスルホニルパーフルオロブタンスルホニルイミド、
2−メトキシエチルトリメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、
オクチルジメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムビス(シアノ)トリフルオロメタンスルホニルメチド、
トリメチル−2−アセトキシエチルアンモニウムトリフルオロメチルスルホニルパーフルオロブタンスルホニルイミド、
1−ブチルピリジニウムトリフルオロメチルスルホニルパーフルオロブタンスルホニルイミド、
2−エトキシエチルトリメチルアンモニウムトリフルオロブタンスルホネート、
1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムパーフルオロブタンスルホネート、
パーフルオロ−1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、
1−エチル−2−メチルピラゾリウムパーフルオロブタンスルホネート、
1−ブチル−2−エチルピラゾリウムトリフルオロメタンスルホネート、
N−エチルチアゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、
N−エチルオキサゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドおよび1−ブチルピリミジニウムパーフルオロブタンスルホニルビス(トリフルオロメタンスルホニル)−メチド、1,3−エチルメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1,3−エチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートおよびこれらの混合物。
【0037】
好ましいイオン塩としては、次のようなものが含まれる。
オクチルジメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド:
[C817+(CH32CH2CH2OH -N(SO2CF32]、
オクチルジメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムパーフルオロブタンスルホネート:
[C817+(CH32CH2CH2OH -OSO249]、
オクチルジメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート:
[C817+(CH32CH2CH2OH -OSO2CF3]、
オクチルジメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド:
[C817+(CH32CH2CH2OH -C(SO2CF33]、
トリメチル−2−アセトキシエチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド:
[(CH33+CH2CH2OC(O)CH3 -N(SO2CF32]、
トリメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムビス(パーフルオロブタンスルホニル)イミド:
[(CH33+CH2CH2OH -N(SO2492]、
トリエチルアンモニウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド:
[Et3+-N(SO2252]、
テトラエチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート:
[CF3SO3- +NEt4]、
テトラエチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:
[(CF3SO22- +NEt4]、
テトラメチルアンモニウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド:[(CH34+ -C(SO2CF33]、
テトラブチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:
[(C494+ -N(SO2CF32]、
トリメチル−3−パーフルオロオクチルスルホンアミドプロピルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド:
[C817SO2NH(CH23+(CH33 -N(SO2CF32]、
1−ヘキサデシルピリジニウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド:
[n−C1633−cyc−N+55 -N(SO2252]、
1−ヘキサデシルピリジニウムパーフルオロブタンスルホネート:
[n−C1633−cyc−N+55 -OSO249]、
1−ヘキサデシルピリジニウムパーフルオロオクタンスルホネート:
[n−C1633−cyc−N+55 -OSO2817]、
n−ブチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:
[n−C49−cyc−N+55 -N(SO2CF32]、
n−ブチルピリジニウムパーフルオロブタンスルホネート:
[n−C49−cyc−N+55 -OSO249]、
1,3−エチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:
[CH3−cyc−(N+22NCH)CH2CH3 -N(SO2CF32]、
1,3−エチルメチルイミダゾリウムノナフルオロブタンスルホネート:
[CH3−cyc−(N+22NCH)CH2CH3 -OSO249]、
1,3−エチルメチルイミダゾリウムトリフルオロブタンスルホネート:
[CH3−cyc−(N+22NCH)CH2CH3 -OSO2CF3]、
1,3−エチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートおよびこれらの混合物。
【0038】
より好ましいイオン塩としては、2−ヒドロキシエチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、オクチルジメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムパーフルオロブタンスルホネート、オクチルジメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート、トリエチルアンモニウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド、テトラエチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート、トリメチル−3−パーフルオロオクチルスルホンアミドプロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1,3−エチルメチルイミダゾリウムノナフルオロブタンスルホネート、1,3−エチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1,3−エチルメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネートおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0039】
最も好ましいイオン塩としては、2−ヒドロキシエチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、オクチルジメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート、トリエチルアンモニウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド、1,3−エチルメチルイミダゾリウムノナフルオロブタンスルホネート、1,3−エチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1,3−エチルメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネートおよびこれらの混合物が挙げられ、さらに優先されるのは、上述した通常の優先されるカチオンおよびアニオンに従ったものである。
【0040】
局所処理に好適な絶縁材料としては、比較的表面およびバルク伝導率が低く、静電荷が蓄積しやすい材料が挙げられる。かかる材料には、合成および天然ポリマー(またはその反応前駆体、例えば、単または多官能性モノマーまたはオリゴマー)の両方が含まれ、これらは、有機か無機のいずれか、そしてセラミックス、ガラスおよびセラマー(またはその反応前駆体)とすることができる。
【0041】
好適な合成ポリマー(熱可塑性か熱硬化性のいずれか)としては、例えば、ポリ(塩化ビニル)、ポリエチレン(高密度、低密度、極低密度)、ポリプロピレンおよびポリスチレンのような日用品プラスチックス;例えば、ポリエステル(例えば、ポリ(エチレンテレフタレート)やポリ(ブチレンテレフタレート)を含む)、ポリアミド(脂肪族、アモルファス、芳香族)、ポリカーボネート(例えば、ビスフェノールAから誘導されたもののような芳香族ポリカーボネート)、ポリオキシメチレン、ポリアクリレートおよびポリメタクリレート(例えば、ポリ(メチルメタクリレート))、変性ポリスチレン(例えば、スチレン−アクリロニトリル(SAN)およびアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)コポリマー)、高衝撃ポリスチレン(SB)、フルオロプラスチックスおよびかかるポリ(フェニレンオキシド)−ポリスチレンおよびポリカーボネート−ABSのようなブレンドといったエンジニアリングプラスチックス;例えば、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルケトン(PEEK)、ポリスルホン、ポリイミドおよびポリエーテルイミドのような高性能プラスチックス;例えば、アルキド樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂(例えば、メラミンやウレア樹脂)、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル(いわゆるビニルエステルを含む)、ポリウレタン、アリルリックス(allyllics)(例えば、アリルジグリコールカーボネートから誘導されたポリマー)、フルオロエラストマーおよびポリアクリレートのような熱硬化性樹脂;等およびこれらのブレンドが挙げられる。好適な天然ポリマーとしては、絹、羊毛および皮のような蛋白様材料および綿や木材のようなセルロース材料が挙げられる。
【0042】
特に有用な絶縁材料は、上述したような熱可塑性ポリマーであり、かかるポリマーは本発明の帯電防止組成物を作製するのに用いることができる。好ましくは、熱可塑性ポリマーは、高温、例えば、約150℃を超える(より好ましくは約250℃を超える、さらに好ましくは約280℃を超える、最も好ましくは約320℃を超える)温度で溶融処理可能である。好ましい熱可塑性ポリマーとしては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレンと1種類以上のアルファオレフィン(例えば、ポリ(エチレン−ブテン)およびポリ(エチレン−オクテン))、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリスチレン、ABSコポリマー、ポリアミド、フルオロエラストマーおよびこれらのブレンドが挙げられる。より好ましいのは、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネートおよびこれらのブレンドであり、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエステルおよびこれらのブレンドが最も好ましい。
【0043】
本発明の帯電防止組成物は、少なくとも1種類のイオン塩(単体、またはその他の添加剤と組み合わせて)と、少なくとも1種類の熱可塑性ポリマーを混合し、得られた混合物を溶融処理することにより調製することができる。帯電防止組成物を調製する他の方法としては、例えば、(a)少なくとも1種類のイオン塩(単体またはその他の添加剤と組み合わせたもの)と少なくとも1種類の熱硬化性ポリマーまたはセラマー(またはその反応前駆体)とを混合し、任意で熱または化学放射線を適用して、得られた混合物を硬化させ、(b)少なくとも1種類のイオン塩を含む処理組成物を少なくとも1種類の絶縁材料の少なくとも一表面の少なくとも一部に適用し、(c)少なくとも1種類のイオン塩と少なくとも1種類の絶縁材料を、少なくとも1種類の溶媒中で溶解し、得られた溶液を流延またはコーティングして、任意で熱を適用して、溶媒を蒸発させ、(d)少なくとも1種類のイオン塩(単体またはその他の添加剤と組み合わせたもの)とを混合して、任意で、少なくとも1種類の溶媒を存在させ、任意で熱または化学放射線を適用して、モノマーを重合させるものである。
【0044】
溶融処理により溶融ブレンドを形成するために、イオン塩は、例えば、造粒または粉末ポリマーと密に混合し、例えば、成形、溶融ブロー成形、溶融紡糸または溶融押し出しのような公知の方法により溶融処理することができる。塩は、直接ポリマーと混合したり、ポリマー中の塩の「マスターバッチ」(濃縮物)の形態のポリマーと混合することができる。所望であれば、塩の有機溶液を、粉末または造粒ポリマーと混合して、乾燥して(溶媒を除去し)、溶融処理することもできる。あるいは、溶融塩を、溶融ポリマーの流れに注入して、例えば、繊維またはフィルムへ押し出す直前、または物品に成形する直前にブレンドを形成することもできる。
【0045】
溶融処理後、アニール工程を行って、帯電防止特性の発現を改善することができる。アニール工程に加えて、またはこの代わりに、溶融処理済み混合物(例えば、フィルムまたは繊維の形態)に一方または両方がパターン化された2本の加熱ロール間でエンボス加工を行うこともできる。アニール工程は、一般に、ポリマーの融点より低い温度(例えば、ポリアミドの場合には約150〜220℃で約30秒〜約5分間)で行う。場合によっては、水分の存在によってイオン塩の有効性を改善することができる。ただし、帯電防止特性を得るのに水分の存在は必要ではない。
【0046】
イオン塩は、特定の用途について所望の帯電防止特性を得るのに十分な量で熱可塑性ポリマー(あるいは、この代わりに、別の絶縁材料)に加えることができる。この量は、実験的に求めることができ、ポリマー(またはその他絶縁材料)の特性を損なうことなく帯電防止特性を得るのに必要に応じて、または適宜調整することができる。通常、イオン塩は、ポリマー(またはその他絶縁材料)の重量に基づいて、約0.1〜約10重量パーセント(好ましくは約0.5〜約2パーセント、より好ましくは約0.75〜約1.5パーセント)の量で加えることができる。
【0047】
絶縁材料の局所処理において、イオン塩は、単体、または水性懸濁液、エマルジョンまたは溶液の形態で、または絶縁材料の局所処理においては有機溶媒溶液として用いることができる。有用な有機溶媒としては、塩素化炭化水素、アルコール(例えば、イソプロピルアルコール)、エステル、ケトン(例えば、メチルイソブチルケトン)およびこれらの混合物が挙げられる。通常、溶媒溶液は、約0.1〜約50重量パーセント、または約90重量パーセントまでの不揮発性固体(成分の総重量に基づいて)を含むことができる。水性懸濁液、エマルジョンまたは溶液が通常好ましく、不揮発性固体含量約0.1〜約50重量パーセント、好ましくは約1〜約10重量パーセント(成分の総重量に基づいて)含むことができる。しかしながら、局所処理は、使用または処理温度で液体の少なくとも1種類のイオン塩から実質的になる局所処理組成物を(少なくとも絶縁材料の少なくとも一表面の少なくとも一部に)適用することによりなされるのが好ましい。かかる局所処理プロセスは、溶媒を加えずに、純液体イオン塩を用いるため、イオン塩の有機溶媒溶液を用いるより環境上好ましい。
【0048】
液体イオン塩(または液体または固体イオン塩の懸濁液、エマルジョン、または溶液)は、例えば、スプレー、パディング、浸漬、ロールコーティング、はけ塗りまたは吸尽といった標準的な方法により絶縁材料に適用することができる(任意で、この後処理済材料を乾燥して残留水または溶媒を除去する)。材料は、成形またはブロー成形物品、シート、繊維(そのまま、または凝集形態、例えば、ヤーン、トウ、ウェブまたはロービング、またはカーペットのような加工テキスタイルの形態)、織および不織布帛、フィルム等の形態とすることができる。所望であれば、塩に、通常の繊維処理剤、例えば、スピン仕上げ剤や繊維滑剤を併用することができる。
【0049】
液体イオン塩(または液体または固体イオン塩の懸濁液、エマルジョンまたは溶液)は、特定の用途に所望の帯電防止特性を得るのに十分な量で適用することができる。この量は、実験的に求めることができ、絶縁材料の特性を損なうことなく帯電防止特性を得るのに必要に応じて、または適宜調整することができる。
【0050】
様々な構造体を、本発明の帯電防止組成物から作製することができる。かかる構造体は、あるレベルの帯電防止特性が必要な用途に用いられる。例えば、本発明の帯電防止組成物を用いて、織および不織布帛を作製するのに用いることのできるフィルムおよび成形またはブロー成形物品、および繊維(例えば、マイクロファイバーを含む溶融ブローまたは溶融スパン繊維)を作製することができる。かかるフィルム、成形またはブロー成形物品、繊維および布帛は、様々な環境条件下で帯電防止特性を示し、様々な用途に用いることができる。
【0051】
例えば、本発明の帯電防止組成物を含む成形物品は、標準的な方法(例えば、高温射出成形)により作製することができ、例えば、車両の前照灯カバー、レンズ(眼鏡レンズを含む)、電子装置(例えば、コンピュータ)のケースまたは回路基板、ディスプレイ装置のスクリーン、窓(例えば、航空機の窓)等として特に有用である。本発明の帯電防止組成物を含むフィルムは、業界で一般的に用いられているフィルム作製方法により作製することができる。かかるフィルムは、ノンポーラスまたはポーラス(後者には機械的に穿孔されたフィルムが含まれる)とすることができ、多孔性の存在および程度は、所望の性能特性により選ばれる。フィルムは、例えば、写真フィルム、オーバーヘッドプロジェクタで用いる透明フィルム、テープ裏材、コーティングの基材等として用いることができる。
【0052】
本発明の組成物を含む繊維を用いて、例えば、医療用布帛、医療および工業アパレル、衣服作成用布帛、ラグやカーペットのような家庭用備品、および化学プロセスフィルタまたは呼吸用マスクのようなフィルタ媒体に用いることのできる織または不織布帛を作製することができる。不織ウェブまたは布帛は、溶融ブローまたはスパンボンドウェブのいずれかの製造に用いられるプロセスにより作製することができる。例えば、ヴェンテ「Superfine Thermoplastic Fibers(極細熱可塑性繊維)」Indus.Eng’g Chem.48、1342(1956年)またはヴェンテら「Manufacture of Superfine Organic Fibers(極細有機繊維の製造)」海軍研究試験所報告第4364(1954年)に記載されたのと同様のプロセスを用いることができる。不織布帛から作製された多層構造体は、例えば、医療用布帛として、工業的および商業的に広く利用される。かかる多層構造体を構成する層の作製は、所望の最終用途の特性により異なり、この構造体は、米国特許第5,145,727号(Pottsら)および第5,149,576号(Pottsら)に記載されているような多くの有用な組み合わせで2層以上の溶融ブローおよびスパンボンドウェブを含むことができる。
【0053】
本発明の帯電防止組成物に用いられるイオン塩にはまた、コーティング(例えば、ポリマーまたはセラマーコーティング)の添加剤としての用途もある。かかるコーティングは、帯電防止性および耐引っ掻き性の両方であって、写真工業において、または光学または磁気記録媒体の保護コーティングとして用いることができる。
【0054】
所望であれば、本発明の帯電防止組成物は、業界で一般的に用いられている1種類以上の通常の添加剤、例えば、染料、顔料、酸化防止剤、紫外線安定化剤、難燃材、界面活性剤、可塑剤(例えば、ポリブチレンのようなポリマー)、粘着付与剤、充填剤およびこれらの混合物をさらに含むことができる。
【0055】
本発明の目的および利点を以下の実施例によりさらに説明するが、これらの実施例に挙げられた特定の材料および量、その他条件および詳細は本発明を不当に限定するものではない。
【0056】
用語
HTS905A:Larostat(登録商標)HTS905A、C817+(CH32CH2CH2OH-OSO2CH3、BASF(イリノイ州、グルニー)より入手可能
HQ−115:LiN(SO2CF32、3M(ミネソタ州、セントポール)より入手可能
PBSF:パーフルオロブタンスルホニルフッ化物、シグマ−アルドリッチ(ウィスコンシン州、ミルウォーキー)より入手可能
リチウムトリフラート:リチウムトリフルオロメタンスルホネート、シグマ−アルドリッチ(ウィスコンシン州、ミルウォーキー)より入手可能
FC−24:トリフルオロメタンスルホン酸、3M(ミネソタ州、セントポール)より入手可能
FC−754:トリメチル−3−パーフルオロオクチルスルホンアミドプロピル塩化アンモニウム、3M(ミネソタ州、セントポール)より入手可能
Aliquat(登録商標)336:メチルトリオクチル塩化アンモニウム、シグマ−アルドリッチ(ウィスコンシン州、ミルウォーキー)またはヘンケル社(ペンシルバニア州、アンブラー)より入手可能
FC−94:リチウムパーフルオロオクタンスルホネート、3M(ミネソタ州、セントポール)より入手可能
セチル塩化ピリジニウム一水和物:1−ヘキサデシル塩化ピリジニウム、リサーチオルガニクス(オハイオ州、クリーブランド)より入手可能
1,3−エチルメチル塩化イミダゾリウム:シグマ−アルドリッチ(ウィスコンシン州、ミルウォーキー)より入手可能
銀トリフラート:銀トリフルオロメタンスルホネート、シグマ−アルドリッチ(ウィスコンシン州、ミルウォーキー)より入手可能
AgBF4:銀テトラフルオロボレート、シグマ−アルドリッチ(ウィスコンシン州、ミルウォーキー)より入手可能
NH4PF6:ヘキサフルオロリン酸アンモニウム、シグマ−アルドリッチ(ウィスコンシン州、ミルウォーキー)より入手可能
塩化アセチルコリン:CH3CO2CH2CH2N(CH33Cl、リサーチオルガニクス(オハイオ州、クリーブランド)より入手可能
塩化コリン:HOCH2CH2N(CH33Cl、シグマ−アルドリッチ(ウィスコンシン州、ミルウォーキー)より入手可能
PP3505:ESCORENE(登録商標)PP3505ポリプロピレン、メルトインデックスフローレート400、エクソンケミカル社(テキサス州、ベイタウン)より入手可能
PE6806:ASPUN(登録商標)6806ポリエチレン、メルトフローインデックス105g/10分(試験方法ASTM D−1238により測定)およびピーク融点124.8℃、ダウケミカル社(ミシガン州、ミッドランド)より入手可能
PS440−200:MORTHANE(登録商標)PS440−200ウレタン、Morton Thiokol社(イリノイ州、シカゴ)より入手可能
PET65−1000:ポリエチレンテレフタレート、3M社(アラバマ州、Decatur)より入手可能
LQ−3147:Makrolon(登録商標)LQ−3147ポリカーボネート、バイエル社(ペンシルバニア州、ピッツバーグ)より入手可能
Mellinex617:メラミン下塗りポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ0.177mm)、デュポン(バージニア州、ホープウェル)より入手可能
【0057】
試験方法
試験方法I−融点測定
塩の融点を、1分当たり20℃の温度傾斜で示差走査熱量計(DSC)により測定した。溶融遷移の最大ピークを融点(Tm)とした。複数の溶融遷移が観察された場合には、最も広い領域の溶融遷移のピークを融点とした。
【0058】
試験方法II−熱分解開始の測定
1分当たり10℃の温度傾斜を用いて不活性窒素雰囲気下で熱重量分析(TGA)により各塩の熱分解の開始を測定した。開始前の基準線での外挿正接と、試料重量の段階変化に関連した屈折点での外挿正接との交点から、開始温度の値を求めた。
【0059】
試験方法III−静電荷消失試験
不織布帛、フィルムおよび成形シートの静電荷消失特性をこの方法により求めた。試験材料を9cm×12cmの試料に切断し、少なくとも12時間、相対湿度(RH)約10パーセント、25パーセントおよび50パーセントの状態にした。材料を22〜25℃の温度で試験した。静電荷消失時間を、連邦試験法規格10113、方法4046「材料の帯電防止特性」に従って、ETS型番406C静的減衰試験ユニット(エレクトロ−テックシステムズ社(ペンシルバニア州、グレンサイド)製)を用いて測定した。この装置には、高圧(5000ボルト)を用いて平坦な試験材料の表面に初期静電荷(平均誘導静電荷)を誘導するものであり、フィールドメータにより500ボルト(誘導された静電荷)から初期誘導電荷の10パーセントまで表面の減衰時間が観察される。これが静電荷消失時間である。静電荷消失時間が短ければ短いほど、試験材料の帯電防止特性は良くなる。本発明における静電荷消失時間について報告された値はすべて、少なくとも3回の別個の測定についての平均(平均静電減衰定数)である。>60秒と報告された値は、試験した材料の初期静電荷が表面伝導により除去できず、帯電防止性でないことを示している。
【0060】
試験方法IV−表面抵抗率試験
この試験は、ASTM規格D−257「絶縁材料のD.C.抵抗またはコンダクタンス」の手順に従って実施された。表面抵抗率は、型番803Bプローブ(エレクトロ−テックシステムズ社(ペンシルバニア州、グレンサイド))を装着したETS型番872広範囲抵抗メータを用いて本試験方法の条件下で測定された。この装置は、平坦な試験材料と接触している2つの同心輪の電極に100ボルトの外部電圧をかけて、オーム/平方単位で表面抵抗率を読み取るものである。
【0061】
以下において、重量パーセントまたは重量部が示されている場合、それは、特に断りのない限り、全組成物の重量基準である。
【0062】
化合物の調製
化合物1
トリエチルアンモニウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド、[Et3+-N(SO2252]の合成
塩化メチレン溶媒が蒸発した時点で手順を終了した以外は、米国特許第5,874,616号の実施例3に記載された方法に従って、標記の化合物を調製した。生成物の融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第2表に示す。
【0063】
化合物2
テトラエチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート、CF3SO3- +NEt4の合成
2Lのフラスコに300gのCF3SO3H(FC−24)を入れた。pHが約6になるまで、約800gのEt4NOH水溶液(35%)を徐々に添加して、酸を中和した。ロータリエバポレーションにより乾燥した後、高圧をかけて、白色固体(560g)を得た。固体をクロロホルム−ヘプタンから再結晶化して520gの純粋な生成物を得た。この生成物も同じく融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第2表に示す。
【0064】
化合物3
テトラエチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、(CF3SO22- +NEt4の水−CH2Cl2混合溶媒中での合成
1Lのフラスコで、50gの(CF3SO22- Li+(HQ−115)を50gの脱イオン水中に溶解させた。溶液を89gの35%Et4NOH水溶液とN2下で混合した。固体が添加中に沈殿した。50gのCH2Cl2を添加することによりこれを溶かした。下層の有機層を分離した。水溶液を他の50gのCH2Cl2で抽出した。混合した有機溶液を水(2×25mL)で洗い、ロータリエバポレーションにより揮発物質を除去した。粗生成物のCH3OH−H2Oからの再結晶により、完全真空乾燥後70gの白色固体が得られた。生成物の融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第2表に示す。
【0065】
化合物4
テトラメチルアンモニウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド、(CH34+ -C(SO2CF33の合成
55行のところで手順を終了した以外は、米国特許第5,554,664号の実施例18に記載された方法に従って、標記の化合物を調製した。生成物の融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第2表に示す。
【0066】
化合物5
テトラブチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、(C494+ -N(SO2CF32の合成
実施例18に記載された手順に従って、(C494+Br-(シグマ−アルドリッチ(ウィスコンシン州、ミルウォーキー)を約10%モル過剰のLi+ -N(SO2CF32(HQ−115)と反応させることにより、標記の化合物を調製した。生成物の融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第2表に示す。
【0067】
化合物6
1−ヘキサデシルピリジニウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド、n−C1633−cyc−N+55 -N(SO2252の合成
85.1gのLi+ -N(SO2252(HQ−115)をアニオン前駆体として用いた以外は実施例14の方法に従って標記の化合物を調製した。生成物の融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第3表に示す。
【0068】
化合物7
1−ヘキサデシルピリジニウムパーフルオロブタンスルホネート、n−C1633−cyc−N+55 -OSO249の合成
セチル塩化ピリジニウム一水和物(75g)を800mlの水に溶かし、おだやかに加熱し、かつ磁気攪拌した。この溶液に、600mLの水に溶解した67.3gのLi+-OSO249(C49SO2F[PBSF]のLiOHを用いた加水分解により調製したもの)を攪拌しながら加えた。生成物が即時に沈殿した。これを吸引ろ過により単離した。生成物を大量の水で洗い、最初は吸引により、そして次に10-2トルの真空、40℃で乾燥させた。生成物の融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第3表に示す。
【0069】
化合物8
1−ヘキサデシルピリジニウムパーフルオロブタンスルホネート、n−C1633−cyc−N+55 -OSO2817の合成
111.3gのLi+ -OSO2817(FC−94)をアニオン前駆体として用いた以外は実施例14の方法に従って標記の化合物を調製した。生成物の融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第3表に示す。
【0070】
化合物9
n−ブチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、n−C49−cyc−N+55 -N(SO2CF32の合成
50gのLi+ -N(SO2CF32(HQ−115)(287g/モル、0.174モル)および100mlのDI水(脱イオン水)の溶液を調製した。30gのブチル塩化ピリジニウム(171.6g/モル、0.174)および100mlのDI水の溶液を別に調製した。この2つの溶液を、200mlの塩化メチレンと共に分液漏斗に加えた。混合物を完全に振とうし、相を分離させた。有機相を分離し、200mlのDI水で3回洗った。有機層をロータリエバポレータで減圧蒸留により濃縮させた。得られた黄色の油を120℃で一晩真空乾燥させて、70gの生成物を得た(収量97%)。生成物の融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第3表に示す。
【0071】
化合物10
n−ブチルピリジニウムパーフルオロブタンスルホネート、n−C49−cyc−N+55 -OSO249の合成
20gのブチル塩化ピリジニウム(171.6g/モル、0.116モル)の溶液を100mlのDI水で調製した。35.7gのLi+-OSO249(C49SO2F[PBSF]のLiOHを用いた加水分解により調製したもの)(306g/モル、0.116モル)および100mlの水を用いて同様の溶液を調製した。この2つの溶液を、200mlの塩化メチレンと共に分液漏斗に加えた。混合物を完全に振とうし、相を分離させた。有機相を分離し、200mlのDI水で洗った。混合物を徐々に分離したため、これ以上は洗わなかった。有機層をロータリエバポレータで減圧蒸留により濃縮させた。真空下130℃で一晩乾燥させた。分離した黄色の油を秤量したところ44gであった(収量87%)。
生成物の融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第3表に示す。
【0072】
化合物11
1,3−エチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、CH3−cyc−(N+22NCH)CH2CH3 -N(SO2CF32の合成
1,3−エチルメチル塩化イミダゾリウム(50.0g)およびLiN(SO2CF32(HQ−115)(102.8g)を500mLの水中で磁気攪拌しながら混合した。低粘度の非混和性の明るい黄色の油を下層液相として分離した。混合物を500mLのCH2Cl2と混合して分液漏斗に移し、実施例1に実質的に記載されたようワークアップを実施した。揮発性物質を全て真空ストリッピングした後、合計で112.2g(収量84%)の高純度の明るい黄色の油が得られた。これは、1Hおよび19F NMRにより標記の化合物と確認された。この生成物も同じく融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第4表に示す。
【0073】
化合物12
1,3−エチルメチルイミダゾリウムノナフルオロブタンスルホネート、CH3−cyc−(N+22NCH)CH2CH3 -OSO249の合成
1,3−エチルメチル塩化イミダゾリウム(49.1g)およびLiOSO249(107.6g、C49SO2FのLiOHを用いた加水分解により調製したもの)を500mLの水中で磁気攪拌しながら混合した。均一な水溶液が形成された。これを混合物を500mLのCH2Cl2と混合して分液漏斗に移し、実施例1の手順に従ってワークアップした。揮発性物質を全て真空ストリッピングした後、合計で65.0g(収量47%)の高純度の明るい黄色の油が得られた。これは、1Hおよび19F NMRにより標記の化合物と確認された。この生成物も同じく融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第4表に示す。
【0074】
化合物13
1,3−エチルメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート、CH3−cyc−(N+22NCH)CH2CH3 -OSO2CF3の合成
1,3−エチルメチル塩化イミダゾリウム(29g、0.199モル)を100mlの水に溶かし、200gの水中50gの銀トリフラート(0.195モル)の溶液に攪拌しながら加えた。塩化銀沈殿物をろ過により除去し、固体を100mlの脱イオン水で洗った。ろ液をロータリエバポレータで濃縮し、さらに75℃で一晩乾燥させて、47.5gの明るい緑の油を得た。1Hおよび19F NMRにより確認された。この生成物も同じく融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第4表に示す。
【0075】
化合物14
1,3−エチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、CH3−cyc−(N+22NCH)CH2CH3 BF4-の合成
200mlの蒸留水中49.6gのAgBF4(194.68g/モル、0.255モル)と、200mlの蒸留水中37.35gの1,3−エチルメチル塩化イミダゾリウム(146.62g/モル、0.255モル)の別個の溶液を調製した。2つの溶液を併せて混合したところ、白色の沈殿物が即時に形成された。溶液を沈殿させ、D−フリットによりろ過した。ろ液を濃縮したが乾燥はさせず、室温で一晩静置させた。次の朝、黒色の沈殿物が観察され、これを溶液から出した。溶液をろ紙に通して少量の固体を除去した。残りの水をロータリエバポレータで減圧蒸留により除去した。残りの油を200mlのアセトニトリル中で溶解した。さらに不溶性の黒色沈殿物が形成され、溶液からろ過して出した。黄色のろ液をロータリエバポレータで濃縮し、得られた油を真空下75℃で一晩乾燥させた。分離した生成物を秤量したところ40gであった(収量79%)。この生成物も同じく融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第4表に示す。
【0076】
化合物15
1,3−エチルメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、CH3−cyc−(N+22NCH)CH2CH3 PF6-の合成
500mlのアセトニトリルと73.1gの1,3−エチルメチル塩化イミダゾリウム(146.6g/モル、0.498モル)の溶液を1Lのフラスコで調製した。250mlのアセトニトリルと81.1gのNH4PF6(163g/モル、0.498モル)の他の溶液を同様にして調製し、前の溶液に加えた。2つの溶液を混合したところ、白色沈殿物が即時に形成された。フラスコを1時間かけて0℃近くまで冷やし、D−フリットを用い高純度セリットを通してろ過した。溶媒をロータリエバポレータで減圧蒸留により除去した。イオン塩を真空下75℃で一晩乾燥させた。分離した生成物を秤量したところ114gであった(収量89%)。この生成物も同じく融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第4表に示す。
【実施例】
【0077】
実施例1
オクチルジメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、C817+(CH32CH2CH2OH -N(SO2CF32の合成
19.2gのC817+(CH32CH2CH2OH -OSO2CH3(HTS905A)試料を、15.7gのLiN(SO2CF32(HQ−115)と、120mLの水中で混合した。混合物を攪拌した後、透明な非混和性油が下層液相として分離した。この混合物を分液漏斗に移し、125mlの塩化メチレンを加えた。混合物を激しく振とうし、相を分離させた。下層有機相を分離し、さらに125mLの水で2回洗った。洗った塩化メチレン相を分離し、無水酸化アルミニウムビーズに広げて乾燥し、吸引ろ過し、30〜100℃、20〜10-3トルで真空ストリップして、揮発性物質を全て除去した。高純度の無色油(22.6g、収量85%)が得られた。これは、1H、13Cおよび19F NMRにより標記の化合物と確認された。この生成物も同じく融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第1表に示す。
【0078】
実施例2
オクチルジメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムパーフルオロブタンスルホネート、C817+(CH32CH2CH2OH -OSO249の合成
118.5g(0.399モル)のC817+(CH32CH2CH2OH- OSO2CH3(HTS905A)試料を約250mlの水に溶解し、123.9g(0.399モル)のLiOSO249(C49SO2F[PBSF]のLiOHを用いた加水分解により調製したもの)を約100mlの水に溶解した。この2つの溶液を分液漏斗に加え、混合物を激しく振とうした。次に200mlの塩化メチレンを漏斗に加え、内容物を振とうし、相分離させた。下層塩化メチレン層を約200mlの水で2回洗い、ロータリエバポレータで約85℃で約45分間濃縮させたところ、オフホワイトの固体が得られた。これを、1Hおよび13C核磁気共鳴分析法(NMR)により確認した。この生成物も同じく融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第1表に示す。
【0079】
実施例3
オクチルジメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート、C817+(CH32CH2CH2OH -OSO2CF3の合成
125mlのエルレンマイアーフラスコ中の30gのアセトニトリルに、加熱した29.7g(0.1モル)のHTS−905A(C817+(CH32CH2CH2OH-3SCH3)を溶解し、氷浴で10分間冷やした。他の125mlエルレンマイアーフラスコで、加熱した15.6g(0.1モル)のリチウムトリフラートを30mlのアセトニトリルに溶解した。次に、リチウムトリフラート溶液を約1分間、攪拌し冷却したHTS−905A溶液に加えたところ、白色の沈殿物が生成した。約2mlのアセトニトリルを用いてリチウムトリフラート溶液の入ったエルレンマイアーフラスコを濯ぎ、これもまたHTS−905A溶液に加えた。反応混合物を約10分間攪拌し、125mlのブーフナー漏斗でCポロシティフリットでセリットのパッドを通して真空ろ過した。反応フラスコおよびセリットパッドをさらに30gの氷冷アセトニトリルで洗った。ろ液をロータリエバポレータで約50mmHg、浴温度約85℃で約45分間濃縮したところ24.5gの透明な固体が得られた。これを1Hおよび13C NMRで確認した。この生成物も同じく融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第1表に示す。
【0080】
実施例4
オクチルジメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メミド、C817+(CH32CH2CH2OH -C(SO2CF33の合成
20.0gのC817+(CH32CH2CH2OH -OSO2CH3(HTS905)試料を、29.6gのHC(SO2CF33(米国特許第5,554,664号の実施例1に記載された通りに調製したもの)と、250mLの水中で混合した。混合物を攪拌した後、透明な粘性の薄黄色の非混和性油が下層液相として分離した。混合物を分液漏斗に移し、300mLの塩化メチレンと混合して、実施例1の手順に従ってワークアップした。揮発性物質を全て真空ストリッピングした後、合計で29.0g(収量79%)の薄黄色の油が得られた。これは、1Hおよび19F NMRにより標記の化合物と確認された。NMR分析から推定された純度は90重量%を超えており、不純物の大半は対応の-C(SO2CF32(SO2F)塩であった。この生成物も同じく融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第1表に示す。
【0081】
実施例5
トリメチル−2−アセトキシエチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、(CH33+CH2CH2OC(O)CH3 -N(SO2CF32の合成
塩化アセチルコリン(98g、リサーチオルガニクス(オハイオ州、クリーブランド)およびLiN(SO2CF32(HQ−115)(165.8g)を600mLの水中で磁気攪拌しながら混合した。粘性の非混和性の油を下層液相として分離した。イオン液体生成物が塩化メチレンと完全に混和せず、水の存在で3つに分離した液相を形成した以外は、反応混合物を実施例1に実質的に記載されているようにワークアップした。下層イオン液体相および中層のCH2Cl2相は両方ともワークアップにより実施された。揮発性物質を全て真空ストリッピングした後、合計で179.1g(収量77%)の高純度の無色の油が得られた。これは、1H、13Cおよび19F NMRにより標記の化合物と確認された。この生成物も同じく融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第1表に示す。
【0082】
実施例6
トリメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムビス(パーフルオロブタンスルホニル)イミド、(CH33+CH2CH2OH -N(SO2492の合成
塩化コリン(37.34g、アルドリッチ)およびLiN(SO249(142.7g、米国特許第5,874,616号の実施例4に従って調製したもの)を400mLの水中で磁気攪拌しながら混合した。粘性の非混和性の油を下層液相として分離した。この混合物を分液漏斗に移し、110mlのジエチルエーテルを加えた。混合物を激しく振とうし、相を分離させた。下層有機相を分離し、さらに400mLの水で2回洗った。洗ったエーテル相を分離し、30〜100℃、20〜10-3トルで真空ストリップして、揮発性物質を全て除去した。高純度の無色油(155.3g、収量93%)が得られた。これは、1H、13Cおよび19F NMRにより標記の化合物と確認された。この生成物も同じく融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第1表に示す。
【0083】
比較例C1
Larostat(登録商標)HTS905A、オクチルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムメタンスルホネート(C817+(CH3224OH -OSO2CH3)も同じく融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第1表に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
第1表の結果によれば、同じカチオンを有する帯電防止剤の中でも、弱配位性含フッ素有機アニオン(実施例1〜4)を含むものは、より強い配位性アニオンを有する比較例C1よりも大幅に熱安定性が増大している。本発明の実施例はすべて良好な熱安定性を示している。
【0086】
実施例7
トリメチル−3−パーフルオロオクチルスルホンアミドプロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、C817SO2NH(CH23+(CH33 -N(SO2CF32の合成
4.0Lの分液漏斗で、800mLの水と、400gの50%FC−754(C817SO2NH(CH23+(CH33Cl-)と、90.4gのLi+ -N(SO2CF32(HQ−115)と、700mLのメチル−t−ブチルエーテル(MTBE)とを混合した。混合物を攪拌し、上層液相と下層液相とを一晩かけて分離させた。2つの液相を分離し、水相を新たなMTBE500mLで抽出した。エーテル相を混合し、新たな水700mLで抽出した。分離したエーテル相をモレキュラーシーブで乾燥し、紙でろ過し、溶媒を蒸発させて真空オーブンで95℃、300〜400トルで乾燥させ、267.3gの標記の化合物を得た(収量96%)。固体生成物の融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第2表に示す。
【0087】
比較例C2
Aliquat(登録商標)336、メチルトリオクチル塩化アンモニウム((C8173+(CH3)Cl-)は室温で液体であった。この熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第2表に示す。熱分解温度が低いことから、この化合物は溶融ブロー繊維に組み込むことはできなかった。
【0088】
【表2】

【0089】
第2表のデータによれば、実施例7および弱配位性含フッ素有機アニオンを有する本発明に有用な化合物は、より強い配位性塩化物アニオンを有する比較例C2よりもはるかに大きな熱安定性を示すことが分かる。
【0090】
比較例C3
1−ヘキサデシルピリジニウムp−トルエンスルホネート、n−C1633−cyc−N+55 -OSO264−p−CH3の合成
100gのセチル塩化ピリジニウム一水和物を55gのNa+ -OSO264−p−CH3)(シグマ−アルドリッチ、ウィスコンシン州、ミルウォーキー)と反応させた以外は実施例14の方法に従って標記の化合物を調製した。この生成物も同じく融点(Tm)を試験方法Iに従って、そして熱分解開始(Td)を試験方法IIに従って調べた。結果を第3表に示す。
【0091】
【表3】

【0092】
第3表によれば、弱配位性含フッ素有機アニオンを有する本発明に有用なピリジニウム化合物は、より強い配位性塩化物アニオンを有する比較例C3よりも大きな熱安定性を示すことが分かる。
【0093】
【表4】

【0094】
第4表のデータによれば、弱配位性含フッ素有機アニオンを有する本発明に有用なイミダゾリウム化合物は全て、Tdが400℃を越える優れた熱安定性を有していることが分かる。
【0095】
実施例23〜46および比較例C4〜C7
実施例1〜7の化合物、化合物1〜15および比較例C1〜C3を、ポリプロピレン溶融ブロー成形繊維に組み込んだ。これを、米国特許第5,300,357号の第10欄に記載された溶融ブロー押し出し成形法に従って不織布帛へと加工処理した。比較として、これらの化合物を組み込んでいないポリプロピレン溶融ブロー成形繊維を同様にして不織布帛へと加工処理した。用いた押出し機はブラベンダー42mm円錐二軸スクリュー押出し機であった。最大押し出し温度は270〜280℃、コレクタの距離は12インチ(30cm)であった。
【0096】
化合物およびEscorene(登録商標)PP3505ポリプロピレンを、ハンドドリルに固定されたミキサーヘッドを用いて、均一な混合物が目視で得られるまで約1分間、板紙容器でブレンドすることにより混合した。溶融ブロー成形の直前に溶融押し出し装置で混合することにより、化合物を溶融ポリプロピレンに分散させた。特に断りのない限り、ポリプロピレン中の化合物の重量パーセントは約1%であった。
マイクロファイバーウェブをブロー成形するのに用いた溶融ブローダイ構造、ウェブの秤量(50±5g/m2)およびマイクロファイバーの直径(5〜18マイクロメートル)をはじめとする各混合物の処理条件は同じであった。特に断りのない限り、押し出し温度は270〜280℃、一次空気温度は270℃、圧力は124kPa(18psi)、空隙の幅は0.076cm、およびポリマースループットレートは約180g/hr/cmであった。
【0097】
実施例1〜7、化合物1〜15および比較例C1〜C3を含有する、および含有しない溶融ブロー成形ポリプロピレン布帛の帯電防止性能を試験方法III−静電荷消失試験を用いて評価した。結果を第5表に示す。
【0098】
【表5】

【0099】
【表6】

【0100】
第5表のデータによれば、いくつかの実施例が優れた静電荷消失性能を示している。すなわち、フルの5000ボルト充電を許容し、25パーセントさらには10パーセントの相対湿度であっても消失時間が1秒未満の布帛である。実施例23、25、26、30、32、36、42および43がこれにあたる。これらの実施例は全て熱分解温度が370℃以上の帯電防止化合物を用いて作製したものであった。比較例C5は例外的に静電荷消失性能を示したが、熱分解温度は289℃だった。熱分解温度が177℃の比較例C6は溶融ブロー押し出し成形プロセスで十分に安定ではなかった。実施例23および24、同様に31および32によれば、静電荷消失性能に帯電防止化合物の濃度が影響することが示された。濃度が高ければ高いほど(実施例23および32)低い濃度のもの(実施例24および31)よりも優れた性能を示す。25パーセントおよび10パーセントの相対湿度レベルで良好な静電荷消失性能を示さなかった第5表の実施例の多くは、50パーセントの相対湿度で5秒未満の静電荷消失時間を示した(実施例38〜41および44)。1%の濃度でいかなる相対湿度でも良好な静電荷消失性能を示さなかった第5表の実施例は、より高いレベルおよび/またはその他のポリマー中で、および/またはアニールによりかかる性能を示すことがある。
【0101】
実施例47および比較例C8
実施例1の化合物を、ポリエチレンテレフタレート65−1000溶融ブロー成形繊維に組み込んだ。これを、米国特許第5,300,357号の第10欄に記載された溶融ブロー押し出し成形法に従って不織布帛へと加工処理した。比較として、化合物を組み込んでいないポリエチレンテレフタレート65−1000溶融ブロー成形繊維を同様にして不織布帛へと加工処理した。用いた押出し機はブラベンダー42mm円錐二軸スクリュー押出し機であった。最大押し出し温度は280℃、コレクタの距離は12インチ(30cm)であった。
【0102】
化合物およびポリエチレンテレフタレート65−1000を、ハンドドリルに固定されたミキサーヘッドを用いて、均一な混合物が目視で得られるまで約1分間、板紙容器でブレンドすることにより混合した。溶融ブロー成形の直前に溶融押し出し装置で混合することにより、化合物を溶融ポリエチレンテレフタレートに分散させた。ウレタン中の化合物の重量パーセントは2%であった。
【0103】
マイクロファイバーウェブをブロー成形するのに用いた溶融ブローダイ構造、ウェブの秤量(50±5g/m2)およびマイクロファイバーの直径(5〜18マイクロメートル)をはじめとする各混合物の処理条件は同じであった。押し出し温度は280℃、一次空気温度は270℃、圧力は124kPa(18psi)、空隙の幅は0.076cm、およびポリマースループットレートは約180g/hr/cmであった。
【0104】
実施例23の化合物を含有する、および含有しない溶融ブローポリエチレンテレフタレート65−1000布帛の帯電防止性能を試験方法III−静電荷消失試験を用いて評価した。結果を第6表に示す。
【0105】
【表7】

【0106】
第6表のデータによれば、対照のポリエステル布帛(比較例C8)に比べて、実施例47は良好な静電荷消失を示している。
【0107】
実施例48および比較例C9
実施例1の化合物を、MORTHANE(登録商標)PS440−200ウレタン溶融ブロー成形繊維に組み込んだ。押し出し温度が230℃だった以外は実施例47に記載された不織布帛へと加工処理した。比較として、化合物を組み込んでいないMORTHANE(登録商標)PS440−200ウレタン溶融ブロー成形繊維を同様にして不織布帛へと加工処理した。布帛の帯電防止性能を試験方法III−静電荷消失試験を用いて試験した。結果を第7表に示す。
【0108】
【表8】

【0109】
第7表のデータによれば、対照のポリウレタン布帛(比較例C9)に比べて、実施例48は良好な静電荷消失を示している。
【0110】
実施例49および比較例C10
実施例1の化合物を、ASPUN(登録商標)6806ポリエチレン溶融ブロー成形繊維に組み込んだ。1重量パーセントの実施例1の化合物を用い、押し出し温度が240℃だった以外は実施例47に記載された不織布帛へと加工処理した。比較として、化合物を組み込んでいないASPUN(登録商標)6806ポリエチレン溶融ブロー成形繊維を同様にして不織布帛へと加工処理した。布帛の帯電防止性能を試験方法III−静電荷消失試験を用いて試験した。結果を第8表に示す。
【0111】
【表9】

【0112】
第8表のデータによれば、対照のポリエチレン布帛(比較例C10)に比べて、実施例49は良好な静電荷消失を示している。
【0113】
実施例50および比較例C11
本実施例は、射出成形ポリカーボネートにイオン液体帯電防止化合物を用いる例である。Morganインダストリー社(カリフォルニア州、ロングビーチ)製のMorgan−Press(登録商標)垂直クランプラム射出成形機を用いてMobay Makrolon(登録商標)LQ−3147ポリカーボネートペレットを溶融射出成形した。成形機はバレルおよびノズル温度288℃で操作した。溶融ポリカーボネート(イオン液体帯電防止化合物を含有するものと含有しないもの)を、圧力下で、予熱したアルミニウム成形型へ射出し、厚さ0.254cmで平坦な7.62cm×7.62cm平方の成形部品を作製した。2つ系列のポリカーボネート部品を作製した。それぞれ同一の条件下で作製された3個の部品を含んでいた。第1の系列の部品は添加剤のない未使用のポリカーボネート樹脂を用いて作製された。第2の系列は、ポリカーボネートペレットをラム射出成形機のバレルに供給する前に、このペレットを1.0重量%の1,3−エチルメチルイミダゾリウムノナフルオロブタンスルホネート(化合物12)イオン液体帯電防止剤と予備混合することにより作製した。22℃、32%の相対湿度で、試験方法IV−表面抵抗率試験のETS広範囲抵抗メータを用いて各系列の全ての成形部品の裏面および表面の表面抵抗率を測定した。各系列の部品についての表面抵抗率の平均値を第9表にまとめてある。
【0114】
【表10】

【0115】
第9表のデータによれば、1.0重量%のイオン液体帯電防止化合物を成形ポリカーボネート樹脂に添加すると、最終成形部品の表面抵抗率が大幅に減少したことが明らかである。かかる表面抵抗率の減少は、通常、帯電防止性能の改善と相関している。さらに、イオン液体帯電防止剤をポリカーボネートに添加しても、溶融ポリカーボネート樹脂または最終成形物品の品質に大きな影響はなかったことが分かった。
【0116】
実施例51および比較例12
帯電防止化合物、オクチルジメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(実施例1)を含むポリプロピレンフィルムを作製し、帯電防止性能について評価した。比較として、この化合物を含まないポリプロピレンフィルムを同じようにして作製し評価した。実施例23および比較例C4の溶融ブロー不織布帛を次のようにしてフィルムへとプレスした。折り畳んだ溶融ブロー布帛約3.4gを周囲長さ11.2cm×17.1cm×厚さ0.177mmのシム内で鋼板に載せてもう一枚の鋼板でカバーした。このアセンブリを200℃に加熱された平圧印刷機に載せてプラテンを約30秒間ほぼ接触させて布帛を予備溶融し、プレッシングの前に空気を逃がした。次に、この構造体に約1分間0.91メートルトンの圧力をかけた。このアセンブリをプレスから取り出して、約30秒間2枚の非加熱プラテン間で冷やした。作製されたフィルムをシムおよび鋼板から取り出した。
【0117】
この方法で作製したフィルムに試験方法III−静電荷消失試験を行った。結果を第10表に示す。
【0118】
【表11】

【0119】
第10表のデータによれば、対照のポリプロピレンフィルム(比較例C12)に比べて、実施例51は良好な静電荷消失を示している。
【0120】
実施例52および比較例C13
帯電防止化合物の局所処理を行って、そして行わずにポリエステルフィルムを作製し、表面抵抗率を評価した。イソプロパノール中5重量パーセントのオクチルジメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、C817+(CH32CH2CH2OH -N(SO2CF32(実施例1)の固体溶液を調製した。25.5cm×15.5cm×厚さ0.177mmのMellinex617フィルムの上部に約2mlの溶液をピペットで注加した。12番の溶液を巻き線バーを用いてフィルムに広げた。得られたコーティングを65℃で2.5分間、強制空気オーブンにて乾燥させた。このコートされたフィルムおよび未コートのフィルムの表面抵抗率を、試験方法IV−表面抵抗率試験に従って求めた。結果を第11表に示す。
【0121】
実施例53
溶媒を用いず、3番の巻き線バーを用いて化合物をコートし、得られたコーティングをオーブンで乾燥しなかった以外は実施例52と同様にして、溶媒を用いることなくMelinex617フィルムに帯電防止化合物、オクチルジメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、C817+(CH32CH2CH2OH -N(SO2CF32(実施例1)をコートした。このコートされたフィルムの表面抵抗率を実施例52と同様にして求めた。結果を第11表に示す。
【0122】
本発明の様々な修正および変更は、本発明の範囲および技術思想から逸脱することなく当業者に明白であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ポリマーの窒素オニウムカチオンと、弱配位性含フッ素有機アニオンとからなる少なくとも1種類のイオン塩であって、前記アニオンの共役酸が超酸であるイオン塩(a)と、少なくとも1種類の熱可塑性ポリマー(b)との溶融ブレンドを含む帯電防止組成物。
【請求項2】
前記窒素オニウムカチオンが、非環式、飽和環状および芳香族窒素オニウムカチオンからなる群より選択され、前記弱配位性含フッ素有機アニオンが過フッ素化されており、前記熱可塑性ポリマーが、ポリ(塩化ビニル)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、スチレン−アクリロニトリル(SAN)およびアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)コポリマー、高衝撃ポリスチレン(SB)、フルオロプラスチック、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミドおよびポリ(フェニレンオキシド)−ポリスチレンおよびポリカーボネート−ABSブレンドおよびこれらのブレンドからなる群より選択される請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記窒素オニウムカチオンが、非環式および芳香族窒素オニウムカチオンからなる群より選択され、前記アニオンが、パーフルオロアルカンスルホネート、シアノパーフルオロアルカンスルホニルアミド、ビス(シアノ)パーフルオロアルカンスルホニルメチド、ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)イミド、ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチドおよびトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチドからなる群より選択され、前記熱可塑性ポリマーが、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリスチレン、ABSコポリマー、ポリアミド、フルオロエラストマーおよびこれらのブレンドからなる群より選択される請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記芳香族窒素オニウムカチオンが、
【化1】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6は、H、F、1〜約4個の炭素原子のアルキル基、ここで、2個の前記アルキル基が一緒に結合して2〜4個の炭素原子の単体アルキレンラジカルを形成し、N上でまとまって環構造を形成する、及びフェニル基からなる群より独立に選択され、前記アルキル基、前記アルキレンラジカルおよび前記フェニル基は1個以上の電子吸引基で置換することができる)からなる群より選択される請求項2記載の組成物。
【請求項5】
非ポリマーの非環式、飽和環状または芳香族窒素オニウムカチオン(i)と、弱配位性含フッ素有機アニオン(ii)とからなる少なくとも1種類のイオン塩であって、前記アニオンの共役酸が超酸である少なくとも1種類のイオン塩(a)と、少なくとも1種類の熱可塑性ポリマー(b)との溶融ブレンドを含み、前記芳香族窒素オニウムカチオンが、
【化2】

(式中、R1、R2、R3、R4およびR5は、H、F、1〜約4個の炭素原子のアルキル基、ここで、2個の前記アルキル基が一緒に結合して2〜4個の炭素原子の単体アルキレンラジカルを形成し、N上でまとまって環構造を形成する、及びフェニル基からなる群より独立に選択され、前記アルキル基、前記アルキレンラジカルおよび前記フェニル基は1個以上の電子吸引基で置換することができる)からなる群より選択される帯電防止組成物。
【請求項6】
前記共役酸のハメット酸性度関数H0が約−10未満である請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記イオン塩が、
【化3】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6は、H、F、1〜約4個の炭素原子のアルキル基、ここで、2個の前記アルキル基が一緒に結合して2〜4個の炭素原子の単体アルキレンラジカルを形成し、N上でまとまって環構造を形成する、及びフェニル基からなる群より独立に選択され、前記アルキル基、前記アルキレンラジカルおよび前記フェニル基は1個以上の電子吸引基で置換することができる)からなる群より選択される芳香族窒素オニウムカチオン(i)と、弱配位性含フッ素有機アニオンであり、該アニオンの共役酸が超酸であるものかもしくは、BF4−、PF6−、AsF6−およびSbF6−からなる群より選択される弱配位性含フッ素有機アニオン(ii)とからなる請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記イオン塩が、下式
(R14-z+[(CH2qOR2z- (I)
(式中、各R1は、1個以上のヘテロ原子を含むことのできるアルキル、脂環式、アリール、アルカリ環状、アルカリール、脂環式アルキル、アラルキル、アル脂環式および脂環式アリール部分からなる群より独立に選択され、各R2は水素とR1について上述した部分とからなる群より独立に選択され、zは1〜4の整数、qは1〜4の整数、およびX-は前記弱配位性含フッ素有機アニオンである)により表される化合物からなる群より選択される請求項1記載の組成物。
【請求項9】
(1)下式
(R14-z+[(CH2qOR2z
(式中、各R1は、1個以上のヘテロ原子を含むことのできるアルキル、脂環式、アリール、アルカリ環状、アルカリール、脂環式アルキル、アラルキル、アル脂環式および脂環式アリール部分からなる群より独立に選択され、各R2は水素とR1について上述した部分とからなる群より独立に選択され、zは1〜4の整数、qは1〜4の整数である)により表されるものより選択されるか、もしくは(2)
【化4】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6は、H、F、1〜約4個の炭素原子のアルキル基、ここで、2個の前記アルキル基が一緒に結合して2〜4個の炭素原子の単体アルキレンラジカルを形成し、N上でまとまって環構造を形成する、及びフェニル基からなる群より独立に選択され、前記アルキル基、前記アルキレンラジカルおよび前記フェニル基は1個以上の電子吸引基で置換することができる)からなる群より選択される、非ポリマーの窒素オニウムカチオン(i)と、ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)イミドとトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチドからなる群より選択され、共役酸が超酸である弱配位性含フッ素有機アニオン(ii)とからなる少なくとも1種類のイオン塩(a)と、少なくとも1種類の熱可塑性ポリマー(b)との溶融ブレンドを含む帯電防止組成物。
【請求項10】
請求項1記載の組成物を含む繊維。
【請求項11】
請求項10記載の繊維を含む布帛。
【請求項12】
請求項1記載の組成物を含むフィルム。
【請求項13】
請求項1記載の組成物を含む成形またはブロー成形物品。
【請求項14】
請求項1記載の組成物を含むコーティング。
【請求項15】
下式
(R14-z+[(CH2qOR2z- (I)
(式中、各R1は、1個以上のヘテロ原子を含むことのできるアルキル、脂環式、アリール、アルカリ環状、アルカリール、脂環式アルキル、アラルキル、アル脂環式および脂環式アリール部分からなる群より独立に選択され、各R2は水素とR1について上述した部分とからなる群より独立に選択され、zは1〜4の整数、qは1〜4の整数、およびX-は弱配位性含フッ素有機アニオンであり、前記アニオンの共役酸は超酸である)により表される化合物の群より選択される化合物。
【請求項16】
トリメチル−3−パーフルオロオクチルスルホンアミドプロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド。
【請求項17】
非ポリマーの窒素オニウムカチオンと弱配位性含フッ素有機アニオンとからなる少なくとも1種類のイオン塩であって、前記アニオンの共役酸が超酸である少なくとも1種類のイオン塩(i)と、少なくとも1種類の熱可塑性ポリマー(ii)とを混合する工程(a)と、得られた混合物を溶融処理する工程(b)とを含む請求項1記載の帯電防止組成物を製造する方法。
【請求項18】
局所処理組成物を、少なくとも1種類の絶縁材料の少なくとも一表面の少なくとも一部に適用する工程を含み、前記局所処理組成物が、非ポリマーの窒素オニウムカチオンと弱配位性含フッ素有機アニオンとからなる少なくとも1種類のイオン塩から実質的になり、前記アニオンの共役酸が超酸であり、前記イオン塩が適用温度で液体である局所処理方法。

【公開番号】特開2013−76081(P2013−76081A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−270411(P2012−270411)
【出願日】平成24年12月11日(2012.12.11)
【分割の表示】特願2001−528488(P2001−528488)の分割
【原出願日】平成12年3月14日(2000.3.14)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】