帯電防止靴
【課題】時間のかかる組み立て工程を要することなく、射出成形のみによって形成することができる帯電防止靴を提供すること。
【解決手段】 足入れ部を構成するアッパー体と当該アッパー体の下部に設けた靴底を有する帯電防止靴であって、前記アッパー体と靴底を発泡樹脂を素材とする射出成型によって形成するとともに、当該靴底形成の際に前記靴底のアッパー体内面側および底面側を貫通する連通部を設け、アッパー体内面に表出する中底部材と靴底面に表出する接地部材とを、導電性を有する素材によって、前記連通部を介して接合若しくは一体的に結合した状態で射出成型によって形成したことを特徴とする。
【解決手段】 足入れ部を構成するアッパー体と当該アッパー体の下部に設けた靴底を有する帯電防止靴であって、前記アッパー体と靴底を発泡樹脂を素材とする射出成型によって形成するとともに、当該靴底形成の際に前記靴底のアッパー体内面側および底面側を貫通する連通部を設け、アッパー体内面に表出する中底部材と靴底面に表出する接地部材とを、導電性を有する素材によって、前記連通部を介して接合若しくは一体的に結合した状態で射出成型によって形成したことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体が帯電した静電気を、床面を介して放電する帯電防止靴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品の製造現場、精密機器を取り扱う現場、引火性の物質を取り扱う現場等では、人体に帯電した静電気の瞬間的な放電による電子部品や機器の破損、発火事故等が生じないように静電気対策が必要である。
この静電気対策の一つとして、人体に帯電した静電気をスパークさせることなく除去する帯電防止靴の着用が行われている。帯電防止靴には、靴の内部と靴底表面までを電気的に導通させる手段を内蔵した特許文献1、2等に示す各種構造の靴がある。このような帯電防止靴の場合、靴の内部と靴底表面を導通させる手段として導電性のある布等によって導電部材を形成し、当該導電部材をミッドソール内に組み込むことがよく行われている。
【0003】
導電手段として布が多く用いられているのは、導電手段を内蔵する箇所が屈曲したり伸びたり縮んだりといった変形を伴う部分だからであり、電気的な断線を防止する観点から導電手段自体を柔らかく変形可能な素材によって形成する必要があるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3521314号公報
【特許文献2】特許第3527643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記柔軟性のある導電手段を靴底の内部に組み込むには、導電手段およびこれらを保持するための手段等が必要であり、組み付け作業等の時間を要する工程も必要になる。
本発明は上記課題に鑑み発明されたものであって、時間のかかる組み立て工程を要することなく、射出成形のみによって形成することができる帯電防止靴の提供を課題とするものである。
また、足入れ部であるアッパー体と靴底の大半を占めるミッドソールをEVA等の軽量な発泡樹脂素材による射出成型によって一体的に形成することで靴の重量を軽量化し、当該軽量化した靴でありながら人体に帯電した電荷を靴底面を介して放電することができる帯電防止靴を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。すなわち、
足入れ部を構成するアッパー体と当該アッパー体の下部に設けた靴底を有する帯電防止靴であって、
前記アッパー体と靴底を発泡樹脂を素材とする射出成型によって形成するとともに、当該靴底形成の際に前記靴底のアッパー体内面側および底面側を貫通する連通部を設け、
アッパー体内面に表出する中底部材と靴底面に表出する接地部材とを、導電性を有する素材によって、前記連通部を介して接合若しくは一体的に結合した状態で射出成型によって形成したことを特徴とする。
【0007】
また、上記帯電防止靴は、前記発泡樹脂素材がEVA樹脂であり、導電性を有する素材
が導電物質を混入したゴムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る帯電防止靴は、第1に靴を構成する素材の大半を発泡させたEVA樹脂によって形成することができるので、極めて軽量に形成することが出来るという効果を有している。また、帯電防止機能を発揮するための導電部を射出成型によって形成することができるので、導電性の極めて低いEVA樹脂を主要素材とする靴でありながら、靴内に内蔵する導電部品を組み込む必要がなく、製造工数を削減することができるという効果を有している。
さらに、導電部となるアウトソール部分の形状を金型を用いた射出成型によって形成することができるので、美観を考慮した種々のデザインに形成することができるという効果を有している。
また、アッパー体と靴底の大半を形成する発泡樹脂と導電部を形成するゴムとの接合は、接着剤等を用いることなく、射出成形時の流動性のある素材の接触と凝固作用によるものである。したがって、接合部分の強度が高く剥離しにくいので、靴の耐久性を損なうことがないという効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る帯電防止靴の断面図である。
【図2】本発明に係る帯電防止靴の底面図である。
【図3】本発明に係る帯電防止靴を形成するための成型金型の断面図である。
【図4】本発明に係る帯電防止靴を形成するための成型金型の説明図である。
【図5】成型金型によって形成した一次成型物の説明図である。
【図6】成型金型によって形成した一次成型物の断面図である。
【図7】本発明に係る帯電防止靴の形成工程に関する説明図である。
【図8】入れ子を外した成型金型に一次成型物を装着した状態を表す断面図である。
【図9】一次成型物に導電性素材を射出成形する状態を表した断面図である。
【図10】本発明に係る帯電防止靴の導電部のデザインを表す説明図である。
【図11】本発明に係る帯電防止靴の他の形態を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。図1は本発明の一実施例である帯電防止靴1の断面図を表している。
当該帯電防止靴1は、一般的な靴と同様に袋状の足入部を形成するアッパー体2と、当該アッパー体2の下方に設けた靴底3を有している。そして、これらアッパー体2と靴底3の主要部は、発泡させたEVA(エチレンビニルアセテート)樹脂を成形素材とする金型を用いた射出成形によって形成している。
【0011】
前記靴底3の底部には導電性を有するゴムまたは樹脂素材によって形成された歩行面との接地部4が設けられている。また、靴底3と一体を成す前記アッパー体2の内側面にも、導電性を有するゴムまたは樹脂素材によって形成された中底部5が設けられている。そして、これら接地部4と中底部5は導電性を有するゴムまたは樹脂素材によって形成されており、連結部6において互いに接続されることで電気的に導通している。
【0012】
図2は、帯電防止靴1を底面側から見た底面図である。当該図2に示した靴は、接地面の外周縁を除いた内側の領域に床面と接する接地部4を設けたものとして形成されたものである。図2に示した接地部4は、一例として模様のない平坦面として形成した場合を表しているが、一般的な靴と同様に滑り止め用の凹凸、溝等を設けても差し支えがないものである。
接地部4と中底部5を構成するゴムまたは樹脂素材は、炭素等の導電物質を混練するこ
とによって接地部4と中底部5間の電気抵抗が約105〜109オームとなるように調節されたものであり、柔軟性を有する導電体を形成している。この構成により、帯電防止靴1は、使用者との接触箇所(中底部5の上面)から接地部4の底面までを一つの部材で形成することができ、上記特許文献1,2のように複数の導電部材を組み合わせた構成にはなっていないため、上記電気抵抗を常に一定とすることが容易となる。抵抗値を上記の値に設定したのは、着用者の体に帯電した電荷を急激な放電を伴うことなく導通させるためである。
【0013】
次に、上記帯電防止靴1の構造をさらに詳しく説明するために、製造手順の一例を説明する。
図3および図4は帯電防止靴1を形成する際に使用する金型装置の一例を表した概略図である。主な構成として当該金型装置は靴の上側表面を形成するサイドモールド10、靴底部分を形成するボトムモールド11、靴の内部空間を形成するための足の形を成したラストモールド12を有している。
ボトムモールド11には、靴底面の凹凸パターンを形成するためにパターンモールド13が嵌め込まれるようになっており、当該パターンモールド13をボトムモールド11に嵌め込むことにより、所定パターンの靴底面を形成することができるようになっている。なお、ボトムモールド11に装着されるパターンモールド13にはパターンの異なる複数種類のものが用意されており、用途に応じて交換することで、それぞれの靴に適した靴底面形状を形成するようになっている。
【0014】
また、足の形を成した前記ラストモールド12の底面と、パターンモールド13との間には2分割された入れ子型14、15が配置されている。入れ子型14は、靴内部の底部分に設けられる中底部を形成する成型空間を形成するためのものであり、入れ子型15は、接地部となるアウトソール部分を形成する成型空間を形成するためのものである。図示した入れ子型14、15は、ともに足裏の輪郭に似た細長形状の平面部を有しており、当該平面部をそれぞれラストモールド12の底面およびパターンモールド13の表面に当接するように配置している。
なお、上記ラストモールド12の底面およびパターンモールド13の表面に当接する入れ子型14、15の形状は前述した足裏の輪郭形状に限るものではない。
また、上記入れ子型14と入れ子型15は、土踏まずに相当する部分に設けた係合部16、17において互いに嵌合若しくは接合するようになっており、当該係合部16、17によって両者の相対的な位置関係を規定するとともに、中底面と靴底面との間に設けられるアウトソールの連結部6を形成する成型空間18を形成するようになっている。
【0015】
上記各金型を全て所定位置に配置すると、踵部および前足部を連通した図3に示す成形空間19が形成される。当該成形空間19は、アッパー体2と当該アッパー体2の下方に形成される靴底3のミッドソール部分を形成する連続した成型空間である。ミッドソールは、接地面の主な部分を形成するアウトソールとアッパー体2との間に形成される中間層であり、一般的に衝撃を緩和するためのクッション層を成すものである。
【0016】
上記成形空間19には、ゲート20を介して発泡剤を入れたEVA樹脂(発泡樹脂)が注入される(図5参照)。次いで、EVA樹脂を注入した後金型を開けてラストモールド12に取り付いているEVA樹脂による成型物(一次成型物)Aを一旦取り外す(図6参照)。この際、取り外した一次成型物Aには上記入れ子型14、15が付着しているので、これら入れ子型14、15を取り外す(図7参照)。
そして、上記入れ子型14、15を取り外した一次成型物Aを、再びサイドモールド10、ボトムモールド11、ラストモールド12によって形成される成型空間に装着し(図8参照)、ゲート21を介して導電物質を混入したゴムを注入する(図9参照)。
注入されたゴム素材は、取り外した入れ子型14、15の除去によって形成された空間
内に充填され、ミッドソールの上面である中底部5とミッドソールの下面である接地部4(アウトソール)を形成する。上記工程を終えると、図1に示す帯電防止靴1が形成される。
【0017】
帯電防止靴1は、中底部5と接地部4が所定の値に抵抗値を調節した導電性のゴムによって電気的に導通しているので、人体が帯電した電荷を靴内部から歩行面に対して緩やかに放電することができるようになっている。
なお、靴内部の中底部5上面には通常中敷きが載置されるが(図示せず)、中敷きを載置する場合には当該中敷きにも表裏両面を電気的に導通させる手段が設けられる。
【0018】
次に、前記導電性を有する接地部4(アウトソール)のデザインパターンについて説明する。図2に示した靴底面の接地部パターンは、外周部を除く靴裏のほぼ全面を覆うように形成されたものであるが、図10に示すように様々な形態を成してもよい。
図10(a)〜(e)は、異なるアウトソールの接地パターンを例示したものであり、各アウトソールの接地パターンは、前述した入れ子型15の形状若しくはパターンモールド13を交換することによって、適宜の形状に変更することができるものである。本発明に使用する金型は、交換部品が少いにも関わらず、このように多様な靴を提供することができるという特徴も有している。
【0019】
図10(a)に示した靴1aは、靴底面の土踏まず部分の連結部6a付近を中心として細幅の接地部を放射状に多数設けた形状の接地部22を有したものである。
図10(b)に示した靴1bは、靴底面の土踏まず部分の連結部6b付近を中心として前述した靴1aよりも幅の狭い細幅の接地部23を放射状に多数設け、当該細幅部分の所々に面積の広い円形接地部24を設けたものである。
図10(c)に示した靴1cは、靴底面の土踏まず部分の連結部6c付近を中心として楕円形状の接地部25を設けたものである。
図10(d)に示した靴1dは、靴底面の土踏まず部分の連結部6d付近を中心として前後方向にそれぞれ延びる細幅の接地部26a、26bを設け、前足底部分と踵部分のそれぞれに略円形の接地部27a、27bを設けたものである。
図10(e)に示した靴1eは、靴1に設けた接地部4の応用例であり、連結部6eと、6角形状の凸縁28を規則的に多数連結した蜂の巣形状の接地部分とを設けたものである。
以上のように、導電部として形成される接地部の形状には種々の形態があり、美観を考慮したデザインが可能となっている。なお、上記実施形態では、接地部4と中底部5が一体的に形成された例を挙げたが、本発明の形態はこれに限られるものではなく、連結部6において接地部4と中底部5とが嵌合されるような構造(例えば図11のように係合部6aと被係合部6bを設けた構造)になっていても構わない。この場合、接地部4と中底部5とは一体的に成形するのではなく、それぞれを予め成形しておいてから靴底3に取り付けるものとする。
また、入れ子型15を挿入した状態で中底部5を射出成型し、入れ子型15を取り外した後に接地部4を射出成型するようにしてもよい。さらに、アッパー体と靴底の主要部を形成する発泡樹脂には発泡ウレタンを用いてもよく、仕様環境に応じて発泡ゴムによって代替しても差し支えがないものである。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、帯電防止靴に利用可能である。
【符号の説明】
【0021】
1 帯電防止靴
2 アッパー体
3 靴底
4 接地部(アウトソール)
5 中底部
6 連結部
10 モールドサイドモールド
11 ボトムモールド
12 ラストモールド
13 パターンモールド
14、15 入れ子型
16、17 係合部
18 成型空間
19 成形空間
20 ゲート
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体が帯電した静電気を、床面を介して放電する帯電防止靴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品の製造現場、精密機器を取り扱う現場、引火性の物質を取り扱う現場等では、人体に帯電した静電気の瞬間的な放電による電子部品や機器の破損、発火事故等が生じないように静電気対策が必要である。
この静電気対策の一つとして、人体に帯電した静電気をスパークさせることなく除去する帯電防止靴の着用が行われている。帯電防止靴には、靴の内部と靴底表面までを電気的に導通させる手段を内蔵した特許文献1、2等に示す各種構造の靴がある。このような帯電防止靴の場合、靴の内部と靴底表面を導通させる手段として導電性のある布等によって導電部材を形成し、当該導電部材をミッドソール内に組み込むことがよく行われている。
【0003】
導電手段として布が多く用いられているのは、導電手段を内蔵する箇所が屈曲したり伸びたり縮んだりといった変形を伴う部分だからであり、電気的な断線を防止する観点から導電手段自体を柔らかく変形可能な素材によって形成する必要があるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3521314号公報
【特許文献2】特許第3527643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記柔軟性のある導電手段を靴底の内部に組み込むには、導電手段およびこれらを保持するための手段等が必要であり、組み付け作業等の時間を要する工程も必要になる。
本発明は上記課題に鑑み発明されたものであって、時間のかかる組み立て工程を要することなく、射出成形のみによって形成することができる帯電防止靴の提供を課題とするものである。
また、足入れ部であるアッパー体と靴底の大半を占めるミッドソールをEVA等の軽量な発泡樹脂素材による射出成型によって一体的に形成することで靴の重量を軽量化し、当該軽量化した靴でありながら人体に帯電した電荷を靴底面を介して放電することができる帯電防止靴を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。すなわち、
足入れ部を構成するアッパー体と当該アッパー体の下部に設けた靴底を有する帯電防止靴であって、
前記アッパー体と靴底を発泡樹脂を素材とする射出成型によって形成するとともに、当該靴底形成の際に前記靴底のアッパー体内面側および底面側を貫通する連通部を設け、
アッパー体内面に表出する中底部材と靴底面に表出する接地部材とを、導電性を有する素材によって、前記連通部を介して接合若しくは一体的に結合した状態で射出成型によって形成したことを特徴とする。
【0007】
また、上記帯電防止靴は、前記発泡樹脂素材がEVA樹脂であり、導電性を有する素材
が導電物質を混入したゴムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る帯電防止靴は、第1に靴を構成する素材の大半を発泡させたEVA樹脂によって形成することができるので、極めて軽量に形成することが出来るという効果を有している。また、帯電防止機能を発揮するための導電部を射出成型によって形成することができるので、導電性の極めて低いEVA樹脂を主要素材とする靴でありながら、靴内に内蔵する導電部品を組み込む必要がなく、製造工数を削減することができるという効果を有している。
さらに、導電部となるアウトソール部分の形状を金型を用いた射出成型によって形成することができるので、美観を考慮した種々のデザインに形成することができるという効果を有している。
また、アッパー体と靴底の大半を形成する発泡樹脂と導電部を形成するゴムとの接合は、接着剤等を用いることなく、射出成形時の流動性のある素材の接触と凝固作用によるものである。したがって、接合部分の強度が高く剥離しにくいので、靴の耐久性を損なうことがないという効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る帯電防止靴の断面図である。
【図2】本発明に係る帯電防止靴の底面図である。
【図3】本発明に係る帯電防止靴を形成するための成型金型の断面図である。
【図4】本発明に係る帯電防止靴を形成するための成型金型の説明図である。
【図5】成型金型によって形成した一次成型物の説明図である。
【図6】成型金型によって形成した一次成型物の断面図である。
【図7】本発明に係る帯電防止靴の形成工程に関する説明図である。
【図8】入れ子を外した成型金型に一次成型物を装着した状態を表す断面図である。
【図9】一次成型物に導電性素材を射出成形する状態を表した断面図である。
【図10】本発明に係る帯電防止靴の導電部のデザインを表す説明図である。
【図11】本発明に係る帯電防止靴の他の形態を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。図1は本発明の一実施例である帯電防止靴1の断面図を表している。
当該帯電防止靴1は、一般的な靴と同様に袋状の足入部を形成するアッパー体2と、当該アッパー体2の下方に設けた靴底3を有している。そして、これらアッパー体2と靴底3の主要部は、発泡させたEVA(エチレンビニルアセテート)樹脂を成形素材とする金型を用いた射出成形によって形成している。
【0011】
前記靴底3の底部には導電性を有するゴムまたは樹脂素材によって形成された歩行面との接地部4が設けられている。また、靴底3と一体を成す前記アッパー体2の内側面にも、導電性を有するゴムまたは樹脂素材によって形成された中底部5が設けられている。そして、これら接地部4と中底部5は導電性を有するゴムまたは樹脂素材によって形成されており、連結部6において互いに接続されることで電気的に導通している。
【0012】
図2は、帯電防止靴1を底面側から見た底面図である。当該図2に示した靴は、接地面の外周縁を除いた内側の領域に床面と接する接地部4を設けたものとして形成されたものである。図2に示した接地部4は、一例として模様のない平坦面として形成した場合を表しているが、一般的な靴と同様に滑り止め用の凹凸、溝等を設けても差し支えがないものである。
接地部4と中底部5を構成するゴムまたは樹脂素材は、炭素等の導電物質を混練するこ
とによって接地部4と中底部5間の電気抵抗が約105〜109オームとなるように調節されたものであり、柔軟性を有する導電体を形成している。この構成により、帯電防止靴1は、使用者との接触箇所(中底部5の上面)から接地部4の底面までを一つの部材で形成することができ、上記特許文献1,2のように複数の導電部材を組み合わせた構成にはなっていないため、上記電気抵抗を常に一定とすることが容易となる。抵抗値を上記の値に設定したのは、着用者の体に帯電した電荷を急激な放電を伴うことなく導通させるためである。
【0013】
次に、上記帯電防止靴1の構造をさらに詳しく説明するために、製造手順の一例を説明する。
図3および図4は帯電防止靴1を形成する際に使用する金型装置の一例を表した概略図である。主な構成として当該金型装置は靴の上側表面を形成するサイドモールド10、靴底部分を形成するボトムモールド11、靴の内部空間を形成するための足の形を成したラストモールド12を有している。
ボトムモールド11には、靴底面の凹凸パターンを形成するためにパターンモールド13が嵌め込まれるようになっており、当該パターンモールド13をボトムモールド11に嵌め込むことにより、所定パターンの靴底面を形成することができるようになっている。なお、ボトムモールド11に装着されるパターンモールド13にはパターンの異なる複数種類のものが用意されており、用途に応じて交換することで、それぞれの靴に適した靴底面形状を形成するようになっている。
【0014】
また、足の形を成した前記ラストモールド12の底面と、パターンモールド13との間には2分割された入れ子型14、15が配置されている。入れ子型14は、靴内部の底部分に設けられる中底部を形成する成型空間を形成するためのものであり、入れ子型15は、接地部となるアウトソール部分を形成する成型空間を形成するためのものである。図示した入れ子型14、15は、ともに足裏の輪郭に似た細長形状の平面部を有しており、当該平面部をそれぞれラストモールド12の底面およびパターンモールド13の表面に当接するように配置している。
なお、上記ラストモールド12の底面およびパターンモールド13の表面に当接する入れ子型14、15の形状は前述した足裏の輪郭形状に限るものではない。
また、上記入れ子型14と入れ子型15は、土踏まずに相当する部分に設けた係合部16、17において互いに嵌合若しくは接合するようになっており、当該係合部16、17によって両者の相対的な位置関係を規定するとともに、中底面と靴底面との間に設けられるアウトソールの連結部6を形成する成型空間18を形成するようになっている。
【0015】
上記各金型を全て所定位置に配置すると、踵部および前足部を連通した図3に示す成形空間19が形成される。当該成形空間19は、アッパー体2と当該アッパー体2の下方に形成される靴底3のミッドソール部分を形成する連続した成型空間である。ミッドソールは、接地面の主な部分を形成するアウトソールとアッパー体2との間に形成される中間層であり、一般的に衝撃を緩和するためのクッション層を成すものである。
【0016】
上記成形空間19には、ゲート20を介して発泡剤を入れたEVA樹脂(発泡樹脂)が注入される(図5参照)。次いで、EVA樹脂を注入した後金型を開けてラストモールド12に取り付いているEVA樹脂による成型物(一次成型物)Aを一旦取り外す(図6参照)。この際、取り外した一次成型物Aには上記入れ子型14、15が付着しているので、これら入れ子型14、15を取り外す(図7参照)。
そして、上記入れ子型14、15を取り外した一次成型物Aを、再びサイドモールド10、ボトムモールド11、ラストモールド12によって形成される成型空間に装着し(図8参照)、ゲート21を介して導電物質を混入したゴムを注入する(図9参照)。
注入されたゴム素材は、取り外した入れ子型14、15の除去によって形成された空間
内に充填され、ミッドソールの上面である中底部5とミッドソールの下面である接地部4(アウトソール)を形成する。上記工程を終えると、図1に示す帯電防止靴1が形成される。
【0017】
帯電防止靴1は、中底部5と接地部4が所定の値に抵抗値を調節した導電性のゴムによって電気的に導通しているので、人体が帯電した電荷を靴内部から歩行面に対して緩やかに放電することができるようになっている。
なお、靴内部の中底部5上面には通常中敷きが載置されるが(図示せず)、中敷きを載置する場合には当該中敷きにも表裏両面を電気的に導通させる手段が設けられる。
【0018】
次に、前記導電性を有する接地部4(アウトソール)のデザインパターンについて説明する。図2に示した靴底面の接地部パターンは、外周部を除く靴裏のほぼ全面を覆うように形成されたものであるが、図10に示すように様々な形態を成してもよい。
図10(a)〜(e)は、異なるアウトソールの接地パターンを例示したものであり、各アウトソールの接地パターンは、前述した入れ子型15の形状若しくはパターンモールド13を交換することによって、適宜の形状に変更することができるものである。本発明に使用する金型は、交換部品が少いにも関わらず、このように多様な靴を提供することができるという特徴も有している。
【0019】
図10(a)に示した靴1aは、靴底面の土踏まず部分の連結部6a付近を中心として細幅の接地部を放射状に多数設けた形状の接地部22を有したものである。
図10(b)に示した靴1bは、靴底面の土踏まず部分の連結部6b付近を中心として前述した靴1aよりも幅の狭い細幅の接地部23を放射状に多数設け、当該細幅部分の所々に面積の広い円形接地部24を設けたものである。
図10(c)に示した靴1cは、靴底面の土踏まず部分の連結部6c付近を中心として楕円形状の接地部25を設けたものである。
図10(d)に示した靴1dは、靴底面の土踏まず部分の連結部6d付近を中心として前後方向にそれぞれ延びる細幅の接地部26a、26bを設け、前足底部分と踵部分のそれぞれに略円形の接地部27a、27bを設けたものである。
図10(e)に示した靴1eは、靴1に設けた接地部4の応用例であり、連結部6eと、6角形状の凸縁28を規則的に多数連結した蜂の巣形状の接地部分とを設けたものである。
以上のように、導電部として形成される接地部の形状には種々の形態があり、美観を考慮したデザインが可能となっている。なお、上記実施形態では、接地部4と中底部5が一体的に形成された例を挙げたが、本発明の形態はこれに限られるものではなく、連結部6において接地部4と中底部5とが嵌合されるような構造(例えば図11のように係合部6aと被係合部6bを設けた構造)になっていても構わない。この場合、接地部4と中底部5とは一体的に成形するのではなく、それぞれを予め成形しておいてから靴底3に取り付けるものとする。
また、入れ子型15を挿入した状態で中底部5を射出成型し、入れ子型15を取り外した後に接地部4を射出成型するようにしてもよい。さらに、アッパー体と靴底の主要部を形成する発泡樹脂には発泡ウレタンを用いてもよく、仕様環境に応じて発泡ゴムによって代替しても差し支えがないものである。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、帯電防止靴に利用可能である。
【符号の説明】
【0021】
1 帯電防止靴
2 アッパー体
3 靴底
4 接地部(アウトソール)
5 中底部
6 連結部
10 モールドサイドモールド
11 ボトムモールド
12 ラストモールド
13 パターンモールド
14、15 入れ子型
16、17 係合部
18 成型空間
19 成形空間
20 ゲート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
足入れ部を構成するアッパー体と当該アッパー体の下部に設けた靴底を有する帯電防止靴であって、
前記アッパー体と靴底を発泡樹脂を素材とする射出成型によって形成するとともに、当該靴底形成の際に前記靴底のアッパー体内面側および底面側を貫通する連通部を設け、
アッパー体内面に表出する中底部材と靴底面に表出する接地部材とを、導電性を有する素材によって、前記連通部を介して接合若しくは一体的に結合した状態で射出成型によって形成したことを特徴とする帯電防止靴。
【請求項2】
前記発泡樹脂素材がEVA樹脂であり、導電性を有する素材が導電物質を混入したゴムであることを特徴とする請求項1記載の帯電防止靴。
【請求項1】
足入れ部を構成するアッパー体と当該アッパー体の下部に設けた靴底を有する帯電防止靴であって、
前記アッパー体と靴底を発泡樹脂を素材とする射出成型によって形成するとともに、当該靴底形成の際に前記靴底のアッパー体内面側および底面側を貫通する連通部を設け、
アッパー体内面に表出する中底部材と靴底面に表出する接地部材とを、導電性を有する素材によって、前記連通部を介して接合若しくは一体的に結合した状態で射出成型によって形成したことを特徴とする帯電防止靴。
【請求項2】
前記発泡樹脂素材がEVA樹脂であり、導電性を有する素材が導電物質を混入したゴムであることを特徴とする請求項1記載の帯電防止靴。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−83481(P2011−83481A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239409(P2009−239409)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(391009372)ミドリ安全株式会社 (201)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(391009372)ミドリ安全株式会社 (201)
【Fターム(参考)】
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