常圧可染性複合繊維
【課題】繊維表面に露出するエチレン・ビニルアルコール系成分が軟化や微膠着しない染色温度95℃以下で分散染料に対して濃色性を示し、かつ洗濯堅牢度及び耐光堅牢度に優れる複合繊維を提供する。
【解決手段】ポリエステルがジカルボン酸とグリコールからなる共重合体であって、該ジカルボン酸のうち80モル%以上がテレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、且つ4.0〜12.0モル%がシクロヘキンサジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、且つ2.0〜8.0モル%が脂肪族ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であって、該グリコールはエチレングリコール及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするポリエステル(B成分)とエチレン含有量が25〜60モル%のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A成分)とからなり、該複合繊維の表面の少なくとも一部に該A成分が露出している複合繊維。
【解決手段】ポリエステルがジカルボン酸とグリコールからなる共重合体であって、該ジカルボン酸のうち80モル%以上がテレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、且つ4.0〜12.0モル%がシクロヘキンサジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、且つ2.0〜8.0モル%が脂肪族ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であって、該グリコールはエチレングリコール及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするポリエステル(B成分)とエチレン含有量が25〜60モル%のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A成分)とからなり、該複合繊維の表面の少なくとも一部に該A成分が露出している複合繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然繊維に似た良好な風合と良好な光沢感、吸湿性を有し、さらに染色物の発色性、深色性に優れたエチレン・ビニルアルコール系共重合体(A成分)と常圧環境下での染色においても濃色性と堅牢性に極めて優れた特性を有するポリエステル(B成分)とからなる複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成繊維、例えばポリエステル、ポリアミドのフィラメントからなる織物、編物不織布等の繊維構造物は、その構成フィラメントの単繊維繊度や断面形状が単調であるため、綿、麻等の天然繊維に比較して風合や光沢が単調で冷たく、繊維構造物としても品位は低いものであった。また、ポリエステル系繊維は疎水性であるため、繊維自体の吸水性、吸湿性に劣るという欠点がある。これらの欠点を改良するために、従来からの種々の検討がなされているが、その中で例えば、ポリエステル等の疎水性ポリマーと水酸基を有するポリマーとを複合紡糸する事により、疎水性繊維に親水性等の性能を付与させる試みがなされている。具体的には、エチレン・ビニルアルコール系共重合体鹸化物とポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミドなどの疎水性熱可塑性樹脂との複合繊維が開示されている(例えば、特許文献1〜2参照。)。
【0003】
しかしながら、エチレン・ビニルアルコール系共重合体の融点や軟化点が低い事から、特に高温熱水やスチーム等の熱安定性に劣る欠点を有している。このため、複合繊維の提案には、高温高圧染色や縫製、あるいはスチームアイロンの使用により、織物、編物、不織布等の繊維製品の表面に露出したエチレン・ビニルアルコール系共重合体が部分的に軟化や微膠着を生じ、繊維製品として風合が硬くなる事を防止するために、染色加工等の高温熱水に接触させる前に、ジアルデヒド化合物等を用い、該共重合体の水酸基をアセタール化する方法も開示されているが、該アセタール化処理は現行の染色工程の他に別のアセタール化工程を必要とするため加工コストの問題、さらにはアセタール化処理する際に強酸を高濃度で使用するので処理装置の耐腐食性の問題、染料がアセタール化処理された繊維内部に拡散しにくい事から濃色化の困難性の問題、アセタール化処理時の未反応のジアルデヒド化合物による染色物の退色等の問題が生じ、繊維性能の均一性確保に問題があった。また、アセタール化処理するためのジアルデヒド化合物の種類やそのアセタール化度により、工業的に実施するにはどの種類の化合物、どの程度のアセタール化度を採用するか見極めが困難であり、実用化には安定性の欠ける技術であった。すなわち、架橋程度により染色物に色差が生じたり、安定な風合が得られず商品価値の非常に低いものしか得られないのであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭56−005846号公報
【特許文献2】特公昭55−001372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような従来技術における問題点を解決するものである。具体的には繊維表面に露出するエチレン・ビニルアルコール系成分が部分的に軟化や微膠着を起こさない染色温度95℃以下で分散染料に対して濃色性を示し、かつ洗濯堅牢度及び耐光堅牢度に優れる複合繊維を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、エチレン・ビニルアルコール系共重合体とポリエステルにシクロヘキサンジカルボン酸成分および脂肪族ジカルボン酸成分を共重合させた常圧可染性ポリエステルポリマーとの複合繊維とすることで、該複合繊維中のエチレン・ビニルアルコール系成分が部分的に軟化や微膠着を起こさない染色温度90℃以下で分散染料に対して濃色性を示し、かつ洗濯堅牢度及び耐光堅牢度に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は、ポリエステル樹脂がジカルボン酸成分とグリコール成分からなる共重合体であって、該ジカルボン酸成分のうち80モル%以上がテレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、且つ4.0〜12.0モル%がシクロヘキンサジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、且つ2.0〜8.0モル%が脂肪族ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であって、該グリコール成分はエチレングリコール及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とすることを特徴とするポリエステル(B成分)とエチレン含有量が25〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A成分)とからなる複合繊維であって、該複合繊維の表面の少なくとも一部に該A成分が露出している複合繊維である。
【0008】
さらに本発明は、B成分中における脂肪族ジカルボン酸が好ましくはアジピン酸、セバシン酸またはデカンジカルボン酸である上記の複合繊維である。
【0009】
さらに本発明は、A成分はB成分との界面において、4個以上配列する突起部を形成しており、突起部数が10以上であり、隣接する突起部の間隔が1.5μm以下であり、突出部の長軸がいずれも繊維断面外周に対して90°±15°の角度をなすように配置されてなり、かつB成分の外周長(L2)と該複合繊維の外周長(L1)との比が下記(1)式を満足することを特徴とする上記の複合繊維である。
1.6≦X/C (1)
ここで、X;B成分の外周長と複合繊維の外周長との比(L2/L1)
C;複合繊維全体を1としたときのB成分の質量複合比率
【0010】
また本発明は、繊維断面が同心円状である上記の複合繊維である。
【0011】
そして本発明は、A成分とB成分との質量複合比率が10:90〜90:10である上記の複合繊維である。
【発明の効果】
【0012】
また、本発明により得られる該複合繊維は、染色温度95℃以下で分散染料に対して濃色性を示し、かつ風合、洗濯堅牢度、耐光堅牢度に極めて優れており、衣料全般に適した該複合繊維を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の複合繊維のA成分を構成するエチレン・ビニルアルコール系共重合体に(以下、単にA成分ポリマーと略称することもある)ついて説明する。A成分ポリマー、すなわちエチレン・ビニルアルコール系共重合体は、エチレン・酢酸ビニル共重合体を鹸化することにより得られるが、鹸化度は95%以上の高鹸化度のものが好ましく、エチレン共重合体割合が25〜60モル%のもの、すなわち、ビニルアルコール成分(未鹸化酢酸ビニル成分を含む)が約40〜75モル%のものが用いられる。A成分ポリマー中のビニルアルコールの割合が低くなれば、水酸基の減少のために親水性などの特性が低下し、目的とする良好な親水性を有する天然繊維に似た風合が得られない。逆にビニルアルコール成分の割合が多くなりすぎると、溶融成形性が低下すると共にB成分ポリマーと複合紡糸する際に、曳糸性が不良となり、紡糸時又は延伸時の単糸切れ、断糸が多くなる。したがって、高鹸化度でエチレン共重合体割合が25〜60%のものが本発明の目的の繊維を得るためには適している。
【0014】
A成分ポリマーと複合されるB成分ポリマーとしてポリエステルなどの高融点ポリマーを用いる場合、長時間安定に連続して紡糸するには、A成分ポリマーの溶融成形時の耐熱性を向上させる事が好ましいが、そのための手段としてエチレンの共重合割合を適切な範囲に設定することと、さらにA成分ポリマー中の金属イオン含有量を所定量以下にすることも効果がある。
【0015】
A成分ポリマーの熱分解機構としては大きく分けてポリマー主鎖間での橋かけ反応が起こり、ゲル化物が発生していく場合と、主鎖切断、側鎖脱離などの分解が進んでいく機構が混在化して発生すると考えられているが、A成分ポリマー中の金属イオンを除去することにより、溶融紡糸時の熱安定性が飛躍的に向上する。特にNa+,K+イオンなどの第I族のアルカリ金属イオンと、Ca2+、Mg2+イオンなどの第II族のアルカリ土類金属イオンをそれぞれ100ppm以下とすることにより顕著な効果がある。特に、長時間連続して高温条件で溶融紡糸をする際、A成分ポリマー中にゲル化物が発生してくると紡糸フィルター上にゲル化物が徐々に詰まって堆積し、その結果紡糸パック圧力が急上昇してノズル寿命が短くなるとともに紡糸時の単糸切れ、断糸が頻発する。ゲル化物の堆積がさらに進行するとポリマー配管が詰まりトラブル発生の原因となり好ましくない。A成分ポリマー中の第I族アルカリ金属イオン、第II族アルカリ土類金属イオンを除去することにより高温での溶融紡糸、特に、250℃以上での溶融紡糸時に長時間連続運転してもゲル化物発生によるトラブルが起こりにくい。したがって、これら金属イオンの含有量は、それぞれ50ppm以下であることが好ましく、特に好ましくは10ppm以下である。
【0016】
A成分ポリマーの製造方法として、一例を説明すると、メタノールなどの重合溶媒中でエチレンと酢酸ビニルとをラジカル重合触媒下でラジカル重合させ、次いで未反応モノマーを追い出し、苛性ソーダにより鹸化反応を起こさせ、エチレン−ビニルアルコール系共重合体とした後、水中でペレット化した後、水洗して乾燥する。従って工程上どうしてもアルカリ金属やアルカリ土類金属がポリマー中に含有されやすく、通常は数百ppm以上のアルカリ金属、アルカリ土類金属が混入している。
【0017】
アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオン含有量をできるだけ低下させる方法としては、ポリマー製造工程中、鹸化処理後ペレット化した後、湿潤状態のペレットを酢酸を含む純水溶液で大量にペレットを洗浄した後、さらに大過剰の純水のみで大量にペレットを洗浄することによって得られる。またA成分ポリマーは、エチレンと酢酸ビニルの共重合体を苛性ソーダにより鹸化して製造されるが、前述したようにこの時の鹸化度を95%以上にすることが好ましい。鹸化度が低くなると、ポリマーの結晶性が低下し、強度等の繊維物性が低下してくるのみならず、A成分ポリマーが軟化しやすくなり加工工程でトラブルが発生してくるとともに得られた繊維構造物の風合も悪くなり好ましくない。
【0018】
本発明において使用されるB成分ポリマーは、エチレンテレフタレート単位を主たる繰返し単位とするポリエステルであり、その繰り返し単位の80モル%以上がテレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体(以下、テレフタル酸成分と称することもある)であり、且つジカルボン酸成分のうちシクロヘキサンジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体が4.0〜12.0モル%、また脂肪族ジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体が2.0〜8.0モル%共重合されているポリエステル樹脂を使用する必要がある。
【0019】
シクロヘキサンジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体(以下、シクロヘキサンジカルボン酸成分と称することもある)及び脂肪族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体をポリエチレンテレフタレートに共重合した場合、芳香族ジカルボン酸に比べて結晶構造の乱れが小さい特徴を有しているため、高い染着率を確保しながら、耐光堅牢性にも優れた複合繊維を得ることができる。
【0020】
シクロヘキサンジカルボン酸成分を共重合化することによって、ポリエステル繊維の結晶構造に乱れが生じ、非晶部の配向は低下する。そのため、分散染料の繊維内部への浸透が容易となり、分散染料の常圧可染性を向上させることが可能となる。更に、シクロヘキサンジカルボン酸成分は芳香族ジカルボン酸に比べ結晶構造の乱れが小さいことから、耐光堅牢性にも優れたものとなる。
【0021】
シクロヘキサンジカルボン酸成分の共重合量がジカルボン酸成分において4.0モル%未満では、繊維内部における非晶部位の配向度が高くなるため、常圧環境下での分散染料に対する染色性が不足し、目的の染着率が得られない。また、ジカルボン酸成分において12.0モル%を超えた場合、染着率、洗濯堅牢度、耐光堅牢度など、染色性に関しては良好な品質を確保できるものの、延伸を伴わない高速紡糸手法で製糸を行った場合、樹脂のガラス転移温度が低いことと繊維内部における非晶部位の配向度が低いことによって高速捲取中に自発伸長が発生し、安定な高速曳糸性を得ることができない。好ましくは5.0〜10.0モル%である。
【0022】
本発明のB成分ポリマーの共重合化に用いられるシクロヘキサンジカルボン酸には、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の3種類の位置異性体があるが、本発明の効果が得られる点からはどの位置異性体が共重合されていても構わないし、また複数の位置異性体が共重合されていても構わない。また、それぞれの位置異性体について、シス/トランスの異性体があるが、いずれの立体異性体を共重合しても、あるいはシス/トランス双方の位置異性体が共重合されていても構わない。シクロヘキサンジカルボン酸誘導体についても同様である。
【0023】
脂肪族ジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体成分についてもシクロヘキサンジカルボン酸成分と同様に、ポリエステル繊維の結晶構造に乱れが生じ、非晶部の配向が低下するため、分散染料の繊維内部への浸透が容易となり、分散染料の常圧可染性を向上させることが可能となる。
【0024】
更に、脂肪族ジカルボン酸成分をポリエチレンテレフタレートに共重合すると、低温セット性にも効果があり、本発明により得られる複合繊維を織編物にしてから形態安定化のために熱セットする場合、熱セット温度を低くすることが可能となる。ニット用途において低温セット性は好ましい物性であり、ウール、綿、アクリル、ポリウレタン等の複合繊維以外の素材と複合する場合、熱セットに必要な温度をポリエステル以外の素材の物性が低下しない程度に抑えることが可能となる。また、複合繊維の単独使いにおいても、一般的な現行ニット用設備に対応が可能となり用途拡大が期待できる。
【0025】
ジカルボン酸成分中の脂肪族ジカルボン酸成分の共重合量が2.0モル%未満では、常圧環境下での分散染料に対する染色性が不足し、目的の染着率が得られない。また、ジカルボン酸成分中の脂肪族ジカルボン酸成分の共重合量が8.0モル%を超えた場合、染着率は高くなるものの、延伸を伴わない高速紡糸手法で製糸を行った場合には繊維内部における非晶部位の配向度が低くなり、高速捲取中での自発伸長が顕著となり、安定な高速紡糸性を得ることができない。好ましくは3.0〜6.0モル%である。
【0026】
本発明の脂肪族ジカルボン酸成分として好ましく用いられるものとしては、発色性、製糸工程性などの点から、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸が例示できる。またこれらは単独又は2種類以上を併用することもできる。
【0027】
本発明におけるポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)及び結晶化温度(Tch)が下記(a)〜(c)を満足することが好ましい。
(a)ガラス転移温度(Tg):60℃≦Tg≦80℃
(b)結晶化温度(Tch):120℃≦Tch≦150℃
(c)ΔT(Tch−Tg):50℃≦ΔT(Tch−Tg)≦80℃
【0028】
本発明におけるポリエステル繊維の常圧可染性や品位を落とすことのない範囲であれば、テレフタル酸成分、シクロヘキサンジカルボン酸成分、及び脂肪族ジカルボン酸成分以外の他のジカルボン酸成分を共重合しても良い。具体的には、イソフタル酸やナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸成分又はそのエステル形成誘導体や、アゼライン酸やセバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分又はそのエステル形成誘導体を単独であるいは複数の種類を合計10.0モル%以下の範囲で共重合化させてもよい。
【0029】
しかし、これらの成分を共重合化させることでエステル交換反応、重縮合反応が煩雑になるばかりでなく、共重合量が適正範囲を超えると洗濯堅牢性を低下させることがある。具体的には、イソフタル酸およびそのエステル形成性誘導体がジカルボン酸成分に対して10モル%を越えて共重合させると、本発明の構成要件を満足させたとしても、洗濯堅牢特性を低下させる恐れがあり、5モル%以下での使用が望ましく、さらに望ましくは0モル%であること(共重合化しないこと)がより望ましい。
【0030】
更に、本発明のB成分であるポリエステル樹脂には、それぞれ、酸化チタン、硫酸バリウム、硫化亜鉛などの艶消剤、リン酸、亜リン酸などの熱安定剤、あるいは光安定剤、酸化防止剤、酸化ケイ素などの表面処理剤などが添加剤として含まれていてもよい。酸化ケイ素を用いることで、得られる繊維は、減量加工後に繊維表面に微細な凹凸を付与することができ、後に織編物にした場合に濃色化が実現される。更に、熱安定剤を用いることで加熱溶融時やその後の熱処理における熱分解を抑制できる。また、光安定剤を用いることで繊維の使用時の耐光性を高めることができ、表面処理剤を用いることで染色性を高めることも可能である。
【0031】
これら添加剤は、B成分のポリエステル樹脂を重合によって得る際に、重合系内にあらかじめ加えておいても良い。ただし、一般に酸化防止剤などは重合末期に添加するほうが好ましく、特に重合系に悪影響を与える場合や、重合条件下で添加剤が失活する場合はこちらが好ましい。一方、艶消剤、熱安定剤などは重合時に添加するほうが均一に樹脂重合物内に分散しやすいため好ましい。
【0032】
本発明のB成分のポリエステル樹脂は、固有粘度0.6〜0.7であるが、好ましくは0.62〜0.68、より好ましくは0.63〜0.66である。固有粘度が0.7を上回ると、繊維化時の高速紡糸性が著しく乏しくなる。また、紡糸が可能であり、目標の染着率が得られた場合においても、筒編染色生地で染色斑や筋が発生したり織編物の風合いが劣るなど、得られた織編繊維の表面品位が低下し衣料用として好ましくない。また、固有粘度が0.6を下回ると紡糸中に断糸しやすく生産性が乏しくなるばかりでなく、得られた繊維の強度も低いものとなる。更に、紡糸が可能であり、目標の染着率が得られた場合においても、筒編染色生地で染色斑や筋が発生したり織編物の風合いが劣るなど、得られた織編繊維の表面品位が低下し衣料用として好ましくない。
【0033】
本発明の複合繊維の断面形状は、例えば、図1〜3の繊維断面写真に見られるような形態をしており、B成分はA成分との界面において、突起部が0個(同心円状)もしく1個以上で形成されている。好ましくは突起部を4個以上配列した状態にする事で複合成分間の界面剥離に対する抵抗が十分に得られる。さらに、突起部の数を多くする事で隣接する突起部間隔を1.5μm以下にすることができるため、染色した場合のより良好な深色性が得られる。また、突起部が図1に見られるように配列することにより、あらゆる方向から作用する外力に対する耐界面剥離性が得られるのである。
【0034】
本発明においては、図1または図3の複合形態において、隣接する襞状の突起部間隔(I)が1.5μm以下であることが好ましく、該突起部の長軸はいずれも繊維断面外周に対して90°±15°の角度をなすように配置されていることが好ましい。隣接する突起部間隔(I)が1.5μmを越える場合、染色処理した場合の深色性や均染性が不十分となる場合がある。また、突起部の長軸を延長し繊維断面外周と交わる角度(R)が75°未満で配列している場合又は105°を超えて配列している場合は、繊維に作用する外力によって界面剥離が生じやすく、それに伴う染色物の白化に繋がるので好ましくない。以上の点から、本発明においては、隣接する突起部間隔(I)は1.2μm以下がより好ましく、また該突起部の長軸はいずれも繊維断面外周に対して90°±15°の角度をなすように配置されていることが好ましい。なお、ここで隣接する突出部間隔(I)とは、隣接するそれぞれの突起部先端間の平均間隔を示すものであるが、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、多数存在する突出部間隔、芯成分間隔のうち1.5μmを越える間隔の部分が繊維断面の一部に存在していてもなんら差支えないし、上記の角度についても、本発明の効果が奏される範囲であれば、一部に75°未満または105°を越える角度のものが存在していても差支えない。
【0035】
本発明は、B成分の外周長(L2)と複合繊維の外周長(L1)との比が(1)式を満足することが好ましい。
1.6≦X/C (1)
X;B成分の外周長と複合繊維の外周長との比(L2/L1)
C;複合繊維全体を1としたときのB成分の質量複合比率
B成分の外周長(L2)と複合繊維の外周長(L1)との比XはB成分の複合比率により変化するが、(1)式が1.6倍以上であることが好ましく、好ましくは2.0倍以上、より好ましくは2.5倍以上、特に好ましくは5倍以上である。例えば、B成分とA成分の質量複合比率が50:50である場合、B成分の外周長(L2)と複合繊維の外周長(L1)との比は、0.8以上、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.25以上である。X(L2/L1)が1.0以上のとき、驚くべきことにB成分とA成分の界面剥離を防止する効果が増大する。本発明における界面剥離防止効果の作用機序は、現時点では推論の域をでないが、恐らく複合成分の接着面積の増大とB成分により形成される突起部のアンカー効果との相乗効果によるものと推察される。
【0036】
A成分ポリマーとB成分ポリマーの複合比率は90:10〜10:90(質量比率)であることが好ましく、特に70:30〜30:70がより好ましく、各々の複合形態や繊維断面形状により適宜設定可能である。A成分ポリマーの複合比率が10質量%未満の場合は水酸基の減少ため繊維のひとつの特徴である親水性等の特性が失われる。一方、A成分ポリマーの複合比率が90質量%を越える複合繊維は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体の特徴が発揮され、親水性、光沢感は十分に満足されるが、繊維物性や染色物の発色性が劣り好ましくない。
【0037】
また複合繊維の断面形状はA成分ポリマーが繊維表面全体を覆う必要はなく、鮮やかな発色性を有するには、繊維表面の80%以上が屈折率の低いA成分ポリマーであることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。特に図2に示すような同心円状の断面形状や、図1もしくは図3に示すような断面形状を有する芯鞘型複合繊維が鮮やかな発色性、繊維強度等の点で好ましい。
【0038】
本発明においては、B成分ポリマーとして前記のような共重合ポリエステルを使用することによって鮮やかな発色性が得られるが、スポーツ衣料用途にかかる繊維を用いる場合、発色性のみならず光沢をも併せ持つことが要求されている。通常、光沢を有する繊維は発色性が低下し、逆に発色性を優先させると光沢を付与することが難しい。本発明では繊維断面においてA成分ポリマーとB成分ポリマーとの界面構造を前述のように突起部配列体とすることにより深色性に優れ、光沢をも有する繊維を得ることができる。また光沢を付与するためには、光が反射する平坦な面が多いほどよく、またマイルドな異形度を有する平坦な面を保持した断面形状が有効である。このような断面として三角あるいは偏平異形断面が最適である。
【0039】
上記した複合繊維においては、繊維の太さは特に限定されず、任意の太さにすることができるが、発色性、光沢感、風合に優れた繊維を得るためには複合繊維の単繊維繊度を0.3〜11dtex程度にしておくのが好ましい。また、長繊維のみならず短繊維でも本発明の効果が期待される。
【0040】
本発明の複合繊維の製造方法は、本発明の規定を満足する複合繊維が得られる方法であれば特に制限されるものではないが、複合紡糸装置を用いノズル導入口へA成分ポリマーとB成分ポリマーの複合流を導入するに際し、B成分からなる突起部の数に相当する数の細孔が円周上に設けられた分流板からB成分ポリマーを流し、それぞれの細孔から流れるB成分の流れ全体をA成分ポリマーで覆いながら、複合流をノズル導入口の中心に向けて導入しノズルより溶融吐出させることにより製造することができる。また、最終製品に求められる品質や良好な工程通過性を確保するために、最適な紡糸・延伸方法を選択することができる。より具体的には、スピンドロー方式や、紡糸原糸を採取した後に別工程で延伸を行う2−Step方式、また延伸を行わず非延伸糸のまま引き取り速度が2000m/分以上の速度で捲取る方式においても、任意の糸加工工程を通過させた後に製品化することで、良好な常圧可染性品位を有する該複合繊維製品を得ることができる。
【0041】
本発明の製造方法の紡糸工程において、通常の溶融紡糸装置を用いて口金より紡出する。また、口金の形状や大きさによって、得られる繊維の断面形状や径を任意に設定することが可能である。
【0042】
本発明で得られる複合繊維は、各種繊維集合体(繊維構造物)として用いることができる。ここで繊維集合体とは、本発明の繊維単独よりなる織編物、不織布はもちろんのこと、本発明の繊維を一部に使用してなる織編物や不織布、例えば、天然繊維、化学繊維、合成繊維など他の繊維との交編織布、あるいは混紡糸、混繊糸として用いた織編物、混綿不織布などであってもよいが、織編物や不織布に占める本発明繊維の割合は10質量%以上、好ましくは30質量%以上であることが好ましい。
【0043】
本発明の繊維の主な用途は、長繊維では単独で又は一部に使用して織編物等を作成し、良好な風合を発現させた衣料用素材とすることができる。一方、短繊維では衣料用ステープル、乾式不織布および湿式不織布等があり、衣料用のみならず各種リビング資材、産業資材等の非衣料用途にも好適に使用することができる。
【0044】
本発明で得られる複合繊維の染着率は、95℃での染着率が70%以上であり、且つ100℃での染着率が90%以上であることが好ましい。これらの染着率を下回ると、中〜低分子量染料(SE〜Eタイプ)の易染性染料においても十分な染着率が得られないため一般衣料用途としては好ましくなく、更にウール、綿、アクリル、ポリウレタンなど、該複合以外の素材と交編、交織しても、常圧環境下で十分な染色性を得ることが困難となる。
【0045】
本発明で得られた複合繊維は、変退色、添付汚染、液汚染の洗濯堅牢度が4級以上であることが好ましい。そのいずれかが3級以下であった場合、取扱い性の点から一般衣料用途としては好ましくない。
【0046】
また、本発明で得られた複合繊維は耐光堅牢度が4級以上であることが好ましい。耐光堅牢度が3級以下であった場合、取扱い性の点から一般衣料用途としては好ましくない。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実験例に何ら限定されるものでない。なお、B成分ポリマーのジカルボン酸成分共重合量、ポリエステル樹脂のガラス転移温度、融点、固有粘度、本発明で得られる複合繊維の染着率、K/S、繊度、繊維の各物性の評価は以下の方法に従った。
【0048】
<固有粘度>
ポリマーの固有粘度:A成分のエチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物は85%含有フェノールを用い30℃以下でウベローデ型粘度計(林製作所製HRK−3型)を用いて測定した。B成分のポリエステル樹脂は、溶媒としてフェノール/テトラクロロエタン(体積比1/1)混合溶媒を用い30℃で測定した。
【0049】
<ジカルボン酸成分共重合量>
共重合量は、該ポリエステル繊維を重トリフロロ酢酸溶媒中に5.0wt%/volの濃度で溶解し、50℃で500MHz1H−NMR(日本電子製核磁気共鳴装置LA−500)装置を用いて測定した。
【0050】
<ガラス転移温度>
島津製作所製 示差走査熱量計(DSC−60)にて、昇温速度10℃/分で測定した。
【0051】
<結晶化温度>
島津製作所製 示差走査熱量計(DSC−60)にて、昇温速度10℃/分で測定した。
【0052】
<染色及び染着率>
得られた複合繊維の筒編地を精練した後、以下の条件で染色し、還元洗浄をした後、染着率を求めた。
(染色)
染料:Dianix NavyBlue SPH conc5.0%omf
助剤:Disper TL:1.0cc/l、ULTRA MT−N2:1.0cc/l
浴比:1/50
染色温度×時間:95〜100℃×40分
(還元洗浄)
水酸化ナトリウム:1.0g/L
ハイドロサルファイトナトリウム:1.0g/L
アミラジンD:1.0g/L
浴比:1/50
還元洗浄温度×時間:80℃×20分
(染着率)
染色前の原液及び染色後の残液をそれぞれアセトン水(アセトン/水=1/1混合溶液)で任意の同一倍率に希釈し、各々の吸光度を測定した後に、以下に示す式から染着率を求めた。
吸光度測定器:分光光度計 HITACHI
HITACHI Model 100−40
Spectrophotometer
染着率=(A−B)/A×100(%)
ここで、A及びBはそれぞれ以下を示す。
A:原液(アセトン水希釈溶液)吸光度
B:染色残液(アセトン水希釈溶液)吸光度
【0053】
<染着濃度(K/S)>
染着濃度は、染色後サンプル編地の最大吸収波長における反射率Rを測定し、以下に示すKubelka−Munkの式から求めた。
分光反射率測定器:分光光度計 HITACHI
C−2000S Color Analyzer
K/S=(1−R)2 /2R
【0054】
<洗濯堅牢度>
JIS L−0844の測定方法に準拠して測定した。
【0055】
<耐光堅牢度>
JIS L−0842の測定方法に準拠して測定した。
なお、測定用サンプルは以下の淡色染料および濃色染料で染色したものを用いた。
・淡色染料 Dianix Red UN-SE 0.5%omf
・濃色染料 Dianix Red UN-SE 3.0%omf
【0056】
<繊度>
JIS L−1013の測定方法に準拠して測定した。
【0057】
<破断強度>
インストロン型の引張試験機を用いて得られた荷重−伸度曲線より求めた。
【0058】
<破断伸度>
インストロン型の引張試験機を用いて得られた荷重−伸度曲線より求めた。
【0059】
<紡糸性>
以下の基準に従って紡糸性評価を行った。
◎:24hr.の連続紡糸を行い、紡糸時の断糸が何ら発生せず、しかも得られたポリエステル繊維には毛羽・ループが全く発生していないなど、紡糸性が極めて良好である
○:24hr.の連続紡糸を行い、紡糸時の断糸が1回以下の頻度で発生し、得られたポリエステル繊維に毛羽・ループが全く発生していないか、あるいは僅かに発生したものの、紡糸性がほぼ良好である
△:24hr.の連続紡糸を行い、紡糸時の断糸が3回まで発生し、紡糸性が不良である
×:24hr.の連続紡糸を行い、紡糸時の断糸が3回よりも多く発生し、紡糸性が極めて不良である
【0060】
<耐剥離性>
複合繊維の各ポリマーの接着性(耐剥離性):24〜36フィラメントを500〜1000T/mの撚りをかけ、そのままの状態で糸条を切断し、切断面のフィラメントの剥離状態を電子顕微鏡で500倍に拡大して観察した。切断箇所を10ヶ所について、下記の基準により評価した。
◎:剥離程度が1割未満の場合
〇:剥離程度が1割〜2割程度の場合
△:剥離程度が2割〜5割程度の場合
×:剥離程度が5割を超える場合
【0061】
<繊維断面外周に対する突起部の長軸の角度>
耐剥離性評価の場合と同様、電子顕微鏡で500倍に拡大して観察し、各突起部の長軸の角度を測定したデータを範囲で示した。
【0062】
<風合評価>
上記で記載した条件で染色した布帛を10人のパネラーにより官能評価した。
【0063】
(実施例1)
重合溶媒としてメタノールを用い、60℃下でエチレンと酢酸ビニルをラジカル重合させ、エチレンの共重合割合が44モル%のランダム共重合体を作製し、次いで苛性ソーダによりケン化処理を行い、ケン化度99%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物とした後、湿潤状態のポリマーを酢酸が少量添加されている大過剰の純水で洗浄を繰返した後、さらに大過剰の純水による洗浄を繰返し、ポリマー中のK,Naイオン及びMg,Caイオンの含有量をそれぞれ約10ppm以下にし、その後、脱水機によりポリマーから水を分離した後、更に100℃以下で真空乾燥を十分に実施して固有粘度〔η〕=1.05dl/gのポリマーを得、このポリマーをA成分ポリマーとした。ジカルボン酸成分のうち90モル%がテレフタル酸であり、且つ1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を5.0モル%、アジピン酸を5.0モル%それぞれ含んだ全カルボン酸成分とエチレングリコール、及び所定の添加剤とでエステル交換反応及び重縮合反応を行い、本発明のB成分ポリマーのポリエステル樹脂重合物を得た。A成分ポリマーとB成分ポリマーの複合比率(質量比率)50:50の条件で、孔数24個(孔径0.20mmφ)の口金を用いて紡糸温度260℃、単孔吐出量=1.23g/分で紡出し、温度25℃、湿度60%の冷却風を0.5m/秒の速度で紡出糸条に吹付け糸条を60℃以下にした後、紡糸口金下方1.2mの位置に設置した長さ1.0m、入口ガイド系8mm、出口ガイド系10mm、内径30mmφチューブヒーター(内温185℃)に導入してチューブヒーター内で延伸した後、チューブヒーターから出てきた糸条にオイリングノズルで給油し2個の引き取りローラーを介して3500m/分の速度で捲取り、84T/24fの該複合繊維フィラメントを得た。この複合繊維の芯成分(B成分)の突起部の個数は30個であり、芯成分(B成分)の外周長(L2)と複合繊維の外周長(L1)との比(X/C)は5.6であった。さらに芯鞘界面剥離の結果も良好であった。これらの評価結果を表1に示す。また、その時の製糸化条件と紡糸性、及び得られた繊維の染色堅牢性の結果を表2に示す。本発明の製造方法で得られた該複合繊維の染着率は、90℃で82%、95℃で92%、K/S=27と良好な常圧可染性を示し、更に得られた該複合繊維はしっとりした良好な風合を有するものであった。また、洗濯堅牢度、耐光堅牢度についても何ら問題のない品質であった。
【0064】
(実施例2〜9)
B成分ポリマーのポリエステル樹脂の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸及びセバシン酸の共重合量、A成分ポリマーのエチレン・ビニルアルコール共重合体のエチレン共重合量、複合比率を変更した以外は実施例1と同様の手法で紡糸して84T/24fの該複合繊維フィラメントを得た。得られた繊維の物性を表1に示した。いずれも良好な紡糸性、常圧可染性(染着率、K/S、堅牢性)であり、何ら問題のない品質であった。更に得られた該複合繊維はしっとりした良好な風合を有するものであった。また、洗濯堅牢度、耐光堅牢度についても何ら問題のない品質であった。結果を表1、2に示す。
【0065】
(実施例10〜12)
該複合繊維の断面形状、突起部個数を表1に示すように変更する以外は。実施例1と同様の手法で実施した。いずれも優れた耐剥離性と良好な風合を有する該複合繊維が得られ、洗濯堅牢度、耐光堅牢度についても何ら問題のない品質であった。結果を表1、2に示す。
【0066】
(比較例1〜6)
B成分ポリマーのポリエステル樹脂の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸の共重合量、A成分ポリマーのエチレン・ビニルアルコール共重合体のエチレン共重合量、複合比率、断面形状を変更した以外は実施例1と同様の手法で紡糸して84T/24fの該複合繊維フィラメントを得た。得られた繊維の物性を表1に示した。
【0067】
比較例1〜2では、B成分ポリマーのポリエステル樹脂に1,4−シクロヘキサンジカルボン酸あるいは脂肪族ジカルボン酸成分を共重合していないため染着率、染着濃度が不十分であり、常圧可染性を示さない繊維物性となった。
【0068】
比較例3では、B成分ポリマーのポリエステル樹脂の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の共重合量が少ないため、アジピン酸成分が十分量共重合されていても染着率、染着濃度が不十分であり、常圧可染性を示さない繊維物性となった。
【0069】
比較例4では、B成分ポリマーのポリエステル樹脂の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸及びアジピン酸の共重合量をそれぞれ20.0モル%、10.0モル%とし、テレフタル酸の共重合量を70モル%と本発明の組成から外れる範囲とした。その結果、得られた繊維は染着率、染着濃度は十分であったが、紡糸性に劣るものとなった。
【0070】
比較例5では、A成分ポリマーのエチレン共重合量が少ないため、紡糸が不可能であった。
【0071】
比較例6では、A成分のエチレン共重合量が多いため、製糸工程性は良好であったが、風合、親水性に劣るものとなった。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、常圧環境下での染色できる事で天然繊維に似た良好な風合と良好な光沢感、吸湿性を有し、且つ濃色性と堅牢性に極めて優れた染色が可能で、直接紡糸延伸手法又はその他の一般的な溶融紡糸手法においても安定した品質及び工程性が得られる複合繊維を提供することができる。
具体的には、本発明の常圧可染複合繊維は、従来のエチレン・ビニルアルコールコポリマー系複合繊維と何ら遜色のない品質を有しているため、一般衣料全般、例えば紳士婦人向けフォーマル或いはカジュアルファッション衣料用途、スポーツ用途、ユニフォーム用途、靴や鞄などの生活資材用途など、多岐に渡って有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の繊維の複合断面形態の1例を示す断面写真。
【図2】本発明の繊維の複合断面形態(同心円状)の他の例を示す断面写真。
【図3】本発明の繊維の複合断面形態の他の例を示す断面写真。
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然繊維に似た良好な風合と良好な光沢感、吸湿性を有し、さらに染色物の発色性、深色性に優れたエチレン・ビニルアルコール系共重合体(A成分)と常圧環境下での染色においても濃色性と堅牢性に極めて優れた特性を有するポリエステル(B成分)とからなる複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成繊維、例えばポリエステル、ポリアミドのフィラメントからなる織物、編物不織布等の繊維構造物は、その構成フィラメントの単繊維繊度や断面形状が単調であるため、綿、麻等の天然繊維に比較して風合や光沢が単調で冷たく、繊維構造物としても品位は低いものであった。また、ポリエステル系繊維は疎水性であるため、繊維自体の吸水性、吸湿性に劣るという欠点がある。これらの欠点を改良するために、従来からの種々の検討がなされているが、その中で例えば、ポリエステル等の疎水性ポリマーと水酸基を有するポリマーとを複合紡糸する事により、疎水性繊維に親水性等の性能を付与させる試みがなされている。具体的には、エチレン・ビニルアルコール系共重合体鹸化物とポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミドなどの疎水性熱可塑性樹脂との複合繊維が開示されている(例えば、特許文献1〜2参照。)。
【0003】
しかしながら、エチレン・ビニルアルコール系共重合体の融点や軟化点が低い事から、特に高温熱水やスチーム等の熱安定性に劣る欠点を有している。このため、複合繊維の提案には、高温高圧染色や縫製、あるいはスチームアイロンの使用により、織物、編物、不織布等の繊維製品の表面に露出したエチレン・ビニルアルコール系共重合体が部分的に軟化や微膠着を生じ、繊維製品として風合が硬くなる事を防止するために、染色加工等の高温熱水に接触させる前に、ジアルデヒド化合物等を用い、該共重合体の水酸基をアセタール化する方法も開示されているが、該アセタール化処理は現行の染色工程の他に別のアセタール化工程を必要とするため加工コストの問題、さらにはアセタール化処理する際に強酸を高濃度で使用するので処理装置の耐腐食性の問題、染料がアセタール化処理された繊維内部に拡散しにくい事から濃色化の困難性の問題、アセタール化処理時の未反応のジアルデヒド化合物による染色物の退色等の問題が生じ、繊維性能の均一性確保に問題があった。また、アセタール化処理するためのジアルデヒド化合物の種類やそのアセタール化度により、工業的に実施するにはどの種類の化合物、どの程度のアセタール化度を採用するか見極めが困難であり、実用化には安定性の欠ける技術であった。すなわち、架橋程度により染色物に色差が生じたり、安定な風合が得られず商品価値の非常に低いものしか得られないのであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭56−005846号公報
【特許文献2】特公昭55−001372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような従来技術における問題点を解決するものである。具体的には繊維表面に露出するエチレン・ビニルアルコール系成分が部分的に軟化や微膠着を起こさない染色温度95℃以下で分散染料に対して濃色性を示し、かつ洗濯堅牢度及び耐光堅牢度に優れる複合繊維を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、エチレン・ビニルアルコール系共重合体とポリエステルにシクロヘキサンジカルボン酸成分および脂肪族ジカルボン酸成分を共重合させた常圧可染性ポリエステルポリマーとの複合繊維とすることで、該複合繊維中のエチレン・ビニルアルコール系成分が部分的に軟化や微膠着を起こさない染色温度90℃以下で分散染料に対して濃色性を示し、かつ洗濯堅牢度及び耐光堅牢度に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は、ポリエステル樹脂がジカルボン酸成分とグリコール成分からなる共重合体であって、該ジカルボン酸成分のうち80モル%以上がテレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、且つ4.0〜12.0モル%がシクロヘキンサジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、且つ2.0〜8.0モル%が脂肪族ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であって、該グリコール成分はエチレングリコール及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とすることを特徴とするポリエステル(B成分)とエチレン含有量が25〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A成分)とからなる複合繊維であって、該複合繊維の表面の少なくとも一部に該A成分が露出している複合繊維である。
【0008】
さらに本発明は、B成分中における脂肪族ジカルボン酸が好ましくはアジピン酸、セバシン酸またはデカンジカルボン酸である上記の複合繊維である。
【0009】
さらに本発明は、A成分はB成分との界面において、4個以上配列する突起部を形成しており、突起部数が10以上であり、隣接する突起部の間隔が1.5μm以下であり、突出部の長軸がいずれも繊維断面外周に対して90°±15°の角度をなすように配置されてなり、かつB成分の外周長(L2)と該複合繊維の外周長(L1)との比が下記(1)式を満足することを特徴とする上記の複合繊維である。
1.6≦X/C (1)
ここで、X;B成分の外周長と複合繊維の外周長との比(L2/L1)
C;複合繊維全体を1としたときのB成分の質量複合比率
【0010】
また本発明は、繊維断面が同心円状である上記の複合繊維である。
【0011】
そして本発明は、A成分とB成分との質量複合比率が10:90〜90:10である上記の複合繊維である。
【発明の効果】
【0012】
また、本発明により得られる該複合繊維は、染色温度95℃以下で分散染料に対して濃色性を示し、かつ風合、洗濯堅牢度、耐光堅牢度に極めて優れており、衣料全般に適した該複合繊維を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の複合繊維のA成分を構成するエチレン・ビニルアルコール系共重合体に(以下、単にA成分ポリマーと略称することもある)ついて説明する。A成分ポリマー、すなわちエチレン・ビニルアルコール系共重合体は、エチレン・酢酸ビニル共重合体を鹸化することにより得られるが、鹸化度は95%以上の高鹸化度のものが好ましく、エチレン共重合体割合が25〜60モル%のもの、すなわち、ビニルアルコール成分(未鹸化酢酸ビニル成分を含む)が約40〜75モル%のものが用いられる。A成分ポリマー中のビニルアルコールの割合が低くなれば、水酸基の減少のために親水性などの特性が低下し、目的とする良好な親水性を有する天然繊維に似た風合が得られない。逆にビニルアルコール成分の割合が多くなりすぎると、溶融成形性が低下すると共にB成分ポリマーと複合紡糸する際に、曳糸性が不良となり、紡糸時又は延伸時の単糸切れ、断糸が多くなる。したがって、高鹸化度でエチレン共重合体割合が25〜60%のものが本発明の目的の繊維を得るためには適している。
【0014】
A成分ポリマーと複合されるB成分ポリマーとしてポリエステルなどの高融点ポリマーを用いる場合、長時間安定に連続して紡糸するには、A成分ポリマーの溶融成形時の耐熱性を向上させる事が好ましいが、そのための手段としてエチレンの共重合割合を適切な範囲に設定することと、さらにA成分ポリマー中の金属イオン含有量を所定量以下にすることも効果がある。
【0015】
A成分ポリマーの熱分解機構としては大きく分けてポリマー主鎖間での橋かけ反応が起こり、ゲル化物が発生していく場合と、主鎖切断、側鎖脱離などの分解が進んでいく機構が混在化して発生すると考えられているが、A成分ポリマー中の金属イオンを除去することにより、溶融紡糸時の熱安定性が飛躍的に向上する。特にNa+,K+イオンなどの第I族のアルカリ金属イオンと、Ca2+、Mg2+イオンなどの第II族のアルカリ土類金属イオンをそれぞれ100ppm以下とすることにより顕著な効果がある。特に、長時間連続して高温条件で溶融紡糸をする際、A成分ポリマー中にゲル化物が発生してくると紡糸フィルター上にゲル化物が徐々に詰まって堆積し、その結果紡糸パック圧力が急上昇してノズル寿命が短くなるとともに紡糸時の単糸切れ、断糸が頻発する。ゲル化物の堆積がさらに進行するとポリマー配管が詰まりトラブル発生の原因となり好ましくない。A成分ポリマー中の第I族アルカリ金属イオン、第II族アルカリ土類金属イオンを除去することにより高温での溶融紡糸、特に、250℃以上での溶融紡糸時に長時間連続運転してもゲル化物発生によるトラブルが起こりにくい。したがって、これら金属イオンの含有量は、それぞれ50ppm以下であることが好ましく、特に好ましくは10ppm以下である。
【0016】
A成分ポリマーの製造方法として、一例を説明すると、メタノールなどの重合溶媒中でエチレンと酢酸ビニルとをラジカル重合触媒下でラジカル重合させ、次いで未反応モノマーを追い出し、苛性ソーダにより鹸化反応を起こさせ、エチレン−ビニルアルコール系共重合体とした後、水中でペレット化した後、水洗して乾燥する。従って工程上どうしてもアルカリ金属やアルカリ土類金属がポリマー中に含有されやすく、通常は数百ppm以上のアルカリ金属、アルカリ土類金属が混入している。
【0017】
アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオン含有量をできるだけ低下させる方法としては、ポリマー製造工程中、鹸化処理後ペレット化した後、湿潤状態のペレットを酢酸を含む純水溶液で大量にペレットを洗浄した後、さらに大過剰の純水のみで大量にペレットを洗浄することによって得られる。またA成分ポリマーは、エチレンと酢酸ビニルの共重合体を苛性ソーダにより鹸化して製造されるが、前述したようにこの時の鹸化度を95%以上にすることが好ましい。鹸化度が低くなると、ポリマーの結晶性が低下し、強度等の繊維物性が低下してくるのみならず、A成分ポリマーが軟化しやすくなり加工工程でトラブルが発生してくるとともに得られた繊維構造物の風合も悪くなり好ましくない。
【0018】
本発明において使用されるB成分ポリマーは、エチレンテレフタレート単位を主たる繰返し単位とするポリエステルであり、その繰り返し単位の80モル%以上がテレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体(以下、テレフタル酸成分と称することもある)であり、且つジカルボン酸成分のうちシクロヘキサンジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体が4.0〜12.0モル%、また脂肪族ジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体が2.0〜8.0モル%共重合されているポリエステル樹脂を使用する必要がある。
【0019】
シクロヘキサンジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体(以下、シクロヘキサンジカルボン酸成分と称することもある)及び脂肪族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体をポリエチレンテレフタレートに共重合した場合、芳香族ジカルボン酸に比べて結晶構造の乱れが小さい特徴を有しているため、高い染着率を確保しながら、耐光堅牢性にも優れた複合繊維を得ることができる。
【0020】
シクロヘキサンジカルボン酸成分を共重合化することによって、ポリエステル繊維の結晶構造に乱れが生じ、非晶部の配向は低下する。そのため、分散染料の繊維内部への浸透が容易となり、分散染料の常圧可染性を向上させることが可能となる。更に、シクロヘキサンジカルボン酸成分は芳香族ジカルボン酸に比べ結晶構造の乱れが小さいことから、耐光堅牢性にも優れたものとなる。
【0021】
シクロヘキサンジカルボン酸成分の共重合量がジカルボン酸成分において4.0モル%未満では、繊維内部における非晶部位の配向度が高くなるため、常圧環境下での分散染料に対する染色性が不足し、目的の染着率が得られない。また、ジカルボン酸成分において12.0モル%を超えた場合、染着率、洗濯堅牢度、耐光堅牢度など、染色性に関しては良好な品質を確保できるものの、延伸を伴わない高速紡糸手法で製糸を行った場合、樹脂のガラス転移温度が低いことと繊維内部における非晶部位の配向度が低いことによって高速捲取中に自発伸長が発生し、安定な高速曳糸性を得ることができない。好ましくは5.0〜10.0モル%である。
【0022】
本発明のB成分ポリマーの共重合化に用いられるシクロヘキサンジカルボン酸には、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の3種類の位置異性体があるが、本発明の効果が得られる点からはどの位置異性体が共重合されていても構わないし、また複数の位置異性体が共重合されていても構わない。また、それぞれの位置異性体について、シス/トランスの異性体があるが、いずれの立体異性体を共重合しても、あるいはシス/トランス双方の位置異性体が共重合されていても構わない。シクロヘキサンジカルボン酸誘導体についても同様である。
【0023】
脂肪族ジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体成分についてもシクロヘキサンジカルボン酸成分と同様に、ポリエステル繊維の結晶構造に乱れが生じ、非晶部の配向が低下するため、分散染料の繊維内部への浸透が容易となり、分散染料の常圧可染性を向上させることが可能となる。
【0024】
更に、脂肪族ジカルボン酸成分をポリエチレンテレフタレートに共重合すると、低温セット性にも効果があり、本発明により得られる複合繊維を織編物にしてから形態安定化のために熱セットする場合、熱セット温度を低くすることが可能となる。ニット用途において低温セット性は好ましい物性であり、ウール、綿、アクリル、ポリウレタン等の複合繊維以外の素材と複合する場合、熱セットに必要な温度をポリエステル以外の素材の物性が低下しない程度に抑えることが可能となる。また、複合繊維の単独使いにおいても、一般的な現行ニット用設備に対応が可能となり用途拡大が期待できる。
【0025】
ジカルボン酸成分中の脂肪族ジカルボン酸成分の共重合量が2.0モル%未満では、常圧環境下での分散染料に対する染色性が不足し、目的の染着率が得られない。また、ジカルボン酸成分中の脂肪族ジカルボン酸成分の共重合量が8.0モル%を超えた場合、染着率は高くなるものの、延伸を伴わない高速紡糸手法で製糸を行った場合には繊維内部における非晶部位の配向度が低くなり、高速捲取中での自発伸長が顕著となり、安定な高速紡糸性を得ることができない。好ましくは3.0〜6.0モル%である。
【0026】
本発明の脂肪族ジカルボン酸成分として好ましく用いられるものとしては、発色性、製糸工程性などの点から、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸が例示できる。またこれらは単独又は2種類以上を併用することもできる。
【0027】
本発明におけるポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)及び結晶化温度(Tch)が下記(a)〜(c)を満足することが好ましい。
(a)ガラス転移温度(Tg):60℃≦Tg≦80℃
(b)結晶化温度(Tch):120℃≦Tch≦150℃
(c)ΔT(Tch−Tg):50℃≦ΔT(Tch−Tg)≦80℃
【0028】
本発明におけるポリエステル繊維の常圧可染性や品位を落とすことのない範囲であれば、テレフタル酸成分、シクロヘキサンジカルボン酸成分、及び脂肪族ジカルボン酸成分以外の他のジカルボン酸成分を共重合しても良い。具体的には、イソフタル酸やナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸成分又はそのエステル形成誘導体や、アゼライン酸やセバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分又はそのエステル形成誘導体を単独であるいは複数の種類を合計10.0モル%以下の範囲で共重合化させてもよい。
【0029】
しかし、これらの成分を共重合化させることでエステル交換反応、重縮合反応が煩雑になるばかりでなく、共重合量が適正範囲を超えると洗濯堅牢性を低下させることがある。具体的には、イソフタル酸およびそのエステル形成性誘導体がジカルボン酸成分に対して10モル%を越えて共重合させると、本発明の構成要件を満足させたとしても、洗濯堅牢特性を低下させる恐れがあり、5モル%以下での使用が望ましく、さらに望ましくは0モル%であること(共重合化しないこと)がより望ましい。
【0030】
更に、本発明のB成分であるポリエステル樹脂には、それぞれ、酸化チタン、硫酸バリウム、硫化亜鉛などの艶消剤、リン酸、亜リン酸などの熱安定剤、あるいは光安定剤、酸化防止剤、酸化ケイ素などの表面処理剤などが添加剤として含まれていてもよい。酸化ケイ素を用いることで、得られる繊維は、減量加工後に繊維表面に微細な凹凸を付与することができ、後に織編物にした場合に濃色化が実現される。更に、熱安定剤を用いることで加熱溶融時やその後の熱処理における熱分解を抑制できる。また、光安定剤を用いることで繊維の使用時の耐光性を高めることができ、表面処理剤を用いることで染色性を高めることも可能である。
【0031】
これら添加剤は、B成分のポリエステル樹脂を重合によって得る際に、重合系内にあらかじめ加えておいても良い。ただし、一般に酸化防止剤などは重合末期に添加するほうが好ましく、特に重合系に悪影響を与える場合や、重合条件下で添加剤が失活する場合はこちらが好ましい。一方、艶消剤、熱安定剤などは重合時に添加するほうが均一に樹脂重合物内に分散しやすいため好ましい。
【0032】
本発明のB成分のポリエステル樹脂は、固有粘度0.6〜0.7であるが、好ましくは0.62〜0.68、より好ましくは0.63〜0.66である。固有粘度が0.7を上回ると、繊維化時の高速紡糸性が著しく乏しくなる。また、紡糸が可能であり、目標の染着率が得られた場合においても、筒編染色生地で染色斑や筋が発生したり織編物の風合いが劣るなど、得られた織編繊維の表面品位が低下し衣料用として好ましくない。また、固有粘度が0.6を下回ると紡糸中に断糸しやすく生産性が乏しくなるばかりでなく、得られた繊維の強度も低いものとなる。更に、紡糸が可能であり、目標の染着率が得られた場合においても、筒編染色生地で染色斑や筋が発生したり織編物の風合いが劣るなど、得られた織編繊維の表面品位が低下し衣料用として好ましくない。
【0033】
本発明の複合繊維の断面形状は、例えば、図1〜3の繊維断面写真に見られるような形態をしており、B成分はA成分との界面において、突起部が0個(同心円状)もしく1個以上で形成されている。好ましくは突起部を4個以上配列した状態にする事で複合成分間の界面剥離に対する抵抗が十分に得られる。さらに、突起部の数を多くする事で隣接する突起部間隔を1.5μm以下にすることができるため、染色した場合のより良好な深色性が得られる。また、突起部が図1に見られるように配列することにより、あらゆる方向から作用する外力に対する耐界面剥離性が得られるのである。
【0034】
本発明においては、図1または図3の複合形態において、隣接する襞状の突起部間隔(I)が1.5μm以下であることが好ましく、該突起部の長軸はいずれも繊維断面外周に対して90°±15°の角度をなすように配置されていることが好ましい。隣接する突起部間隔(I)が1.5μmを越える場合、染色処理した場合の深色性や均染性が不十分となる場合がある。また、突起部の長軸を延長し繊維断面外周と交わる角度(R)が75°未満で配列している場合又は105°を超えて配列している場合は、繊維に作用する外力によって界面剥離が生じやすく、それに伴う染色物の白化に繋がるので好ましくない。以上の点から、本発明においては、隣接する突起部間隔(I)は1.2μm以下がより好ましく、また該突起部の長軸はいずれも繊維断面外周に対して90°±15°の角度をなすように配置されていることが好ましい。なお、ここで隣接する突出部間隔(I)とは、隣接するそれぞれの突起部先端間の平均間隔を示すものであるが、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、多数存在する突出部間隔、芯成分間隔のうち1.5μmを越える間隔の部分が繊維断面の一部に存在していてもなんら差支えないし、上記の角度についても、本発明の効果が奏される範囲であれば、一部に75°未満または105°を越える角度のものが存在していても差支えない。
【0035】
本発明は、B成分の外周長(L2)と複合繊維の外周長(L1)との比が(1)式を満足することが好ましい。
1.6≦X/C (1)
X;B成分の外周長と複合繊維の外周長との比(L2/L1)
C;複合繊維全体を1としたときのB成分の質量複合比率
B成分の外周長(L2)と複合繊維の外周長(L1)との比XはB成分の複合比率により変化するが、(1)式が1.6倍以上であることが好ましく、好ましくは2.0倍以上、より好ましくは2.5倍以上、特に好ましくは5倍以上である。例えば、B成分とA成分の質量複合比率が50:50である場合、B成分の外周長(L2)と複合繊維の外周長(L1)との比は、0.8以上、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.25以上である。X(L2/L1)が1.0以上のとき、驚くべきことにB成分とA成分の界面剥離を防止する効果が増大する。本発明における界面剥離防止効果の作用機序は、現時点では推論の域をでないが、恐らく複合成分の接着面積の増大とB成分により形成される突起部のアンカー効果との相乗効果によるものと推察される。
【0036】
A成分ポリマーとB成分ポリマーの複合比率は90:10〜10:90(質量比率)であることが好ましく、特に70:30〜30:70がより好ましく、各々の複合形態や繊維断面形状により適宜設定可能である。A成分ポリマーの複合比率が10質量%未満の場合は水酸基の減少ため繊維のひとつの特徴である親水性等の特性が失われる。一方、A成分ポリマーの複合比率が90質量%を越える複合繊維は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体の特徴が発揮され、親水性、光沢感は十分に満足されるが、繊維物性や染色物の発色性が劣り好ましくない。
【0037】
また複合繊維の断面形状はA成分ポリマーが繊維表面全体を覆う必要はなく、鮮やかな発色性を有するには、繊維表面の80%以上が屈折率の低いA成分ポリマーであることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。特に図2に示すような同心円状の断面形状や、図1もしくは図3に示すような断面形状を有する芯鞘型複合繊維が鮮やかな発色性、繊維強度等の点で好ましい。
【0038】
本発明においては、B成分ポリマーとして前記のような共重合ポリエステルを使用することによって鮮やかな発色性が得られるが、スポーツ衣料用途にかかる繊維を用いる場合、発色性のみならず光沢をも併せ持つことが要求されている。通常、光沢を有する繊維は発色性が低下し、逆に発色性を優先させると光沢を付与することが難しい。本発明では繊維断面においてA成分ポリマーとB成分ポリマーとの界面構造を前述のように突起部配列体とすることにより深色性に優れ、光沢をも有する繊維を得ることができる。また光沢を付与するためには、光が反射する平坦な面が多いほどよく、またマイルドな異形度を有する平坦な面を保持した断面形状が有効である。このような断面として三角あるいは偏平異形断面が最適である。
【0039】
上記した複合繊維においては、繊維の太さは特に限定されず、任意の太さにすることができるが、発色性、光沢感、風合に優れた繊維を得るためには複合繊維の単繊維繊度を0.3〜11dtex程度にしておくのが好ましい。また、長繊維のみならず短繊維でも本発明の効果が期待される。
【0040】
本発明の複合繊維の製造方法は、本発明の規定を満足する複合繊維が得られる方法であれば特に制限されるものではないが、複合紡糸装置を用いノズル導入口へA成分ポリマーとB成分ポリマーの複合流を導入するに際し、B成分からなる突起部の数に相当する数の細孔が円周上に設けられた分流板からB成分ポリマーを流し、それぞれの細孔から流れるB成分の流れ全体をA成分ポリマーで覆いながら、複合流をノズル導入口の中心に向けて導入しノズルより溶融吐出させることにより製造することができる。また、最終製品に求められる品質や良好な工程通過性を確保するために、最適な紡糸・延伸方法を選択することができる。より具体的には、スピンドロー方式や、紡糸原糸を採取した後に別工程で延伸を行う2−Step方式、また延伸を行わず非延伸糸のまま引き取り速度が2000m/分以上の速度で捲取る方式においても、任意の糸加工工程を通過させた後に製品化することで、良好な常圧可染性品位を有する該複合繊維製品を得ることができる。
【0041】
本発明の製造方法の紡糸工程において、通常の溶融紡糸装置を用いて口金より紡出する。また、口金の形状や大きさによって、得られる繊維の断面形状や径を任意に設定することが可能である。
【0042】
本発明で得られる複合繊維は、各種繊維集合体(繊維構造物)として用いることができる。ここで繊維集合体とは、本発明の繊維単独よりなる織編物、不織布はもちろんのこと、本発明の繊維を一部に使用してなる織編物や不織布、例えば、天然繊維、化学繊維、合成繊維など他の繊維との交編織布、あるいは混紡糸、混繊糸として用いた織編物、混綿不織布などであってもよいが、織編物や不織布に占める本発明繊維の割合は10質量%以上、好ましくは30質量%以上であることが好ましい。
【0043】
本発明の繊維の主な用途は、長繊維では単独で又は一部に使用して織編物等を作成し、良好な風合を発現させた衣料用素材とすることができる。一方、短繊維では衣料用ステープル、乾式不織布および湿式不織布等があり、衣料用のみならず各種リビング資材、産業資材等の非衣料用途にも好適に使用することができる。
【0044】
本発明で得られる複合繊維の染着率は、95℃での染着率が70%以上であり、且つ100℃での染着率が90%以上であることが好ましい。これらの染着率を下回ると、中〜低分子量染料(SE〜Eタイプ)の易染性染料においても十分な染着率が得られないため一般衣料用途としては好ましくなく、更にウール、綿、アクリル、ポリウレタンなど、該複合以外の素材と交編、交織しても、常圧環境下で十分な染色性を得ることが困難となる。
【0045】
本発明で得られた複合繊維は、変退色、添付汚染、液汚染の洗濯堅牢度が4級以上であることが好ましい。そのいずれかが3級以下であった場合、取扱い性の点から一般衣料用途としては好ましくない。
【0046】
また、本発明で得られた複合繊維は耐光堅牢度が4級以上であることが好ましい。耐光堅牢度が3級以下であった場合、取扱い性の点から一般衣料用途としては好ましくない。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実験例に何ら限定されるものでない。なお、B成分ポリマーのジカルボン酸成分共重合量、ポリエステル樹脂のガラス転移温度、融点、固有粘度、本発明で得られる複合繊維の染着率、K/S、繊度、繊維の各物性の評価は以下の方法に従った。
【0048】
<固有粘度>
ポリマーの固有粘度:A成分のエチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物は85%含有フェノールを用い30℃以下でウベローデ型粘度計(林製作所製HRK−3型)を用いて測定した。B成分のポリエステル樹脂は、溶媒としてフェノール/テトラクロロエタン(体積比1/1)混合溶媒を用い30℃で測定した。
【0049】
<ジカルボン酸成分共重合量>
共重合量は、該ポリエステル繊維を重トリフロロ酢酸溶媒中に5.0wt%/volの濃度で溶解し、50℃で500MHz1H−NMR(日本電子製核磁気共鳴装置LA−500)装置を用いて測定した。
【0050】
<ガラス転移温度>
島津製作所製 示差走査熱量計(DSC−60)にて、昇温速度10℃/分で測定した。
【0051】
<結晶化温度>
島津製作所製 示差走査熱量計(DSC−60)にて、昇温速度10℃/分で測定した。
【0052】
<染色及び染着率>
得られた複合繊維の筒編地を精練した後、以下の条件で染色し、還元洗浄をした後、染着率を求めた。
(染色)
染料:Dianix NavyBlue SPH conc5.0%omf
助剤:Disper TL:1.0cc/l、ULTRA MT−N2:1.0cc/l
浴比:1/50
染色温度×時間:95〜100℃×40分
(還元洗浄)
水酸化ナトリウム:1.0g/L
ハイドロサルファイトナトリウム:1.0g/L
アミラジンD:1.0g/L
浴比:1/50
還元洗浄温度×時間:80℃×20分
(染着率)
染色前の原液及び染色後の残液をそれぞれアセトン水(アセトン/水=1/1混合溶液)で任意の同一倍率に希釈し、各々の吸光度を測定した後に、以下に示す式から染着率を求めた。
吸光度測定器:分光光度計 HITACHI
HITACHI Model 100−40
Spectrophotometer
染着率=(A−B)/A×100(%)
ここで、A及びBはそれぞれ以下を示す。
A:原液(アセトン水希釈溶液)吸光度
B:染色残液(アセトン水希釈溶液)吸光度
【0053】
<染着濃度(K/S)>
染着濃度は、染色後サンプル編地の最大吸収波長における反射率Rを測定し、以下に示すKubelka−Munkの式から求めた。
分光反射率測定器:分光光度計 HITACHI
C−2000S Color Analyzer
K/S=(1−R)2 /2R
【0054】
<洗濯堅牢度>
JIS L−0844の測定方法に準拠して測定した。
【0055】
<耐光堅牢度>
JIS L−0842の測定方法に準拠して測定した。
なお、測定用サンプルは以下の淡色染料および濃色染料で染色したものを用いた。
・淡色染料 Dianix Red UN-SE 0.5%omf
・濃色染料 Dianix Red UN-SE 3.0%omf
【0056】
<繊度>
JIS L−1013の測定方法に準拠して測定した。
【0057】
<破断強度>
インストロン型の引張試験機を用いて得られた荷重−伸度曲線より求めた。
【0058】
<破断伸度>
インストロン型の引張試験機を用いて得られた荷重−伸度曲線より求めた。
【0059】
<紡糸性>
以下の基準に従って紡糸性評価を行った。
◎:24hr.の連続紡糸を行い、紡糸時の断糸が何ら発生せず、しかも得られたポリエステル繊維には毛羽・ループが全く発生していないなど、紡糸性が極めて良好である
○:24hr.の連続紡糸を行い、紡糸時の断糸が1回以下の頻度で発生し、得られたポリエステル繊維に毛羽・ループが全く発生していないか、あるいは僅かに発生したものの、紡糸性がほぼ良好である
△:24hr.の連続紡糸を行い、紡糸時の断糸が3回まで発生し、紡糸性が不良である
×:24hr.の連続紡糸を行い、紡糸時の断糸が3回よりも多く発生し、紡糸性が極めて不良である
【0060】
<耐剥離性>
複合繊維の各ポリマーの接着性(耐剥離性):24〜36フィラメントを500〜1000T/mの撚りをかけ、そのままの状態で糸条を切断し、切断面のフィラメントの剥離状態を電子顕微鏡で500倍に拡大して観察した。切断箇所を10ヶ所について、下記の基準により評価した。
◎:剥離程度が1割未満の場合
〇:剥離程度が1割〜2割程度の場合
△:剥離程度が2割〜5割程度の場合
×:剥離程度が5割を超える場合
【0061】
<繊維断面外周に対する突起部の長軸の角度>
耐剥離性評価の場合と同様、電子顕微鏡で500倍に拡大して観察し、各突起部の長軸の角度を測定したデータを範囲で示した。
【0062】
<風合評価>
上記で記載した条件で染色した布帛を10人のパネラーにより官能評価した。
【0063】
(実施例1)
重合溶媒としてメタノールを用い、60℃下でエチレンと酢酸ビニルをラジカル重合させ、エチレンの共重合割合が44モル%のランダム共重合体を作製し、次いで苛性ソーダによりケン化処理を行い、ケン化度99%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物とした後、湿潤状態のポリマーを酢酸が少量添加されている大過剰の純水で洗浄を繰返した後、さらに大過剰の純水による洗浄を繰返し、ポリマー中のK,Naイオン及びMg,Caイオンの含有量をそれぞれ約10ppm以下にし、その後、脱水機によりポリマーから水を分離した後、更に100℃以下で真空乾燥を十分に実施して固有粘度〔η〕=1.05dl/gのポリマーを得、このポリマーをA成分ポリマーとした。ジカルボン酸成分のうち90モル%がテレフタル酸であり、且つ1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を5.0モル%、アジピン酸を5.0モル%それぞれ含んだ全カルボン酸成分とエチレングリコール、及び所定の添加剤とでエステル交換反応及び重縮合反応を行い、本発明のB成分ポリマーのポリエステル樹脂重合物を得た。A成分ポリマーとB成分ポリマーの複合比率(質量比率)50:50の条件で、孔数24個(孔径0.20mmφ)の口金を用いて紡糸温度260℃、単孔吐出量=1.23g/分で紡出し、温度25℃、湿度60%の冷却風を0.5m/秒の速度で紡出糸条に吹付け糸条を60℃以下にした後、紡糸口金下方1.2mの位置に設置した長さ1.0m、入口ガイド系8mm、出口ガイド系10mm、内径30mmφチューブヒーター(内温185℃)に導入してチューブヒーター内で延伸した後、チューブヒーターから出てきた糸条にオイリングノズルで給油し2個の引き取りローラーを介して3500m/分の速度で捲取り、84T/24fの該複合繊維フィラメントを得た。この複合繊維の芯成分(B成分)の突起部の個数は30個であり、芯成分(B成分)の外周長(L2)と複合繊維の外周長(L1)との比(X/C)は5.6であった。さらに芯鞘界面剥離の結果も良好であった。これらの評価結果を表1に示す。また、その時の製糸化条件と紡糸性、及び得られた繊維の染色堅牢性の結果を表2に示す。本発明の製造方法で得られた該複合繊維の染着率は、90℃で82%、95℃で92%、K/S=27と良好な常圧可染性を示し、更に得られた該複合繊維はしっとりした良好な風合を有するものであった。また、洗濯堅牢度、耐光堅牢度についても何ら問題のない品質であった。
【0064】
(実施例2〜9)
B成分ポリマーのポリエステル樹脂の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸及びセバシン酸の共重合量、A成分ポリマーのエチレン・ビニルアルコール共重合体のエチレン共重合量、複合比率を変更した以外は実施例1と同様の手法で紡糸して84T/24fの該複合繊維フィラメントを得た。得られた繊維の物性を表1に示した。いずれも良好な紡糸性、常圧可染性(染着率、K/S、堅牢性)であり、何ら問題のない品質であった。更に得られた該複合繊維はしっとりした良好な風合を有するものであった。また、洗濯堅牢度、耐光堅牢度についても何ら問題のない品質であった。結果を表1、2に示す。
【0065】
(実施例10〜12)
該複合繊維の断面形状、突起部個数を表1に示すように変更する以外は。実施例1と同様の手法で実施した。いずれも優れた耐剥離性と良好な風合を有する該複合繊維が得られ、洗濯堅牢度、耐光堅牢度についても何ら問題のない品質であった。結果を表1、2に示す。
【0066】
(比較例1〜6)
B成分ポリマーのポリエステル樹脂の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸の共重合量、A成分ポリマーのエチレン・ビニルアルコール共重合体のエチレン共重合量、複合比率、断面形状を変更した以外は実施例1と同様の手法で紡糸して84T/24fの該複合繊維フィラメントを得た。得られた繊維の物性を表1に示した。
【0067】
比較例1〜2では、B成分ポリマーのポリエステル樹脂に1,4−シクロヘキサンジカルボン酸あるいは脂肪族ジカルボン酸成分を共重合していないため染着率、染着濃度が不十分であり、常圧可染性を示さない繊維物性となった。
【0068】
比較例3では、B成分ポリマーのポリエステル樹脂の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の共重合量が少ないため、アジピン酸成分が十分量共重合されていても染着率、染着濃度が不十分であり、常圧可染性を示さない繊維物性となった。
【0069】
比較例4では、B成分ポリマーのポリエステル樹脂の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸及びアジピン酸の共重合量をそれぞれ20.0モル%、10.0モル%とし、テレフタル酸の共重合量を70モル%と本発明の組成から外れる範囲とした。その結果、得られた繊維は染着率、染着濃度は十分であったが、紡糸性に劣るものとなった。
【0070】
比較例5では、A成分ポリマーのエチレン共重合量が少ないため、紡糸が不可能であった。
【0071】
比較例6では、A成分のエチレン共重合量が多いため、製糸工程性は良好であったが、風合、親水性に劣るものとなった。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、常圧環境下での染色できる事で天然繊維に似た良好な風合と良好な光沢感、吸湿性を有し、且つ濃色性と堅牢性に極めて優れた染色が可能で、直接紡糸延伸手法又はその他の一般的な溶融紡糸手法においても安定した品質及び工程性が得られる複合繊維を提供することができる。
具体的には、本発明の常圧可染複合繊維は、従来のエチレン・ビニルアルコールコポリマー系複合繊維と何ら遜色のない品質を有しているため、一般衣料全般、例えば紳士婦人向けフォーマル或いはカジュアルファッション衣料用途、スポーツ用途、ユニフォーム用途、靴や鞄などの生活資材用途など、多岐に渡って有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の繊維の複合断面形態の1例を示す断面写真。
【図2】本発明の繊維の複合断面形態(同心円状)の他の例を示す断面写真。
【図3】本発明の繊維の複合断面形態の他の例を示す断面写真。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂がジカルボン酸成分とグリコール成分からなる共重合体であって、該ジカルボン酸成分のうち80モル%以上がテレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、且つ4.0〜12.0モル%がシクロヘキンサジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、且つ2.0〜8.0モル%が脂肪族ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であって、該グリコール成分はエチレングリコール及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とすることを特徴とするポリエステル(B成分)とエチレン含有量が25〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A成分)とからなる複合繊維であって、該複合繊維の表面の少なくとも一部に該A成分が露出している複合繊維。
【請求項2】
B成分中における脂肪族ジカルボン酸がアジピン酸、セバシン酸またはデカンジカルボン酸である請求項1記載の複合繊維。
【請求項3】
A成分はB成分との界面において、4個以上配列する突起部を形成しており、突起部数が10以上であり、隣接する突起部の間隔が1.5μm以下であり、突出部の長軸がいずれも繊維断面外周に対して90°±15°の角度をなすように配置されてなり、かつB成分の外周長(L2)と該複合繊維の外周長(L1)との比が下記(1)式を満足することを特徴とする請求項1または2記載の複合繊維。
1.6≦X/C (1)
ここで、X;B成分の外周長と複合繊維の外周長との比(L2/L1)
C;複合繊維全体を1としたときのB成分の質量複合比率
【請求項4】
繊維断面が同心円状である請求項1または2に記載の複合繊維。
【請求項5】
A成分とB成分との質量複合比率が10:90〜90:10である請求項1〜4のいずれかにに記載の複合繊維。
【請求項1】
ポリエステル樹脂がジカルボン酸成分とグリコール成分からなる共重合体であって、該ジカルボン酸成分のうち80モル%以上がテレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、且つ4.0〜12.0モル%がシクロヘキンサジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、且つ2.0〜8.0モル%が脂肪族ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であって、該グリコール成分はエチレングリコール及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とすることを特徴とするポリエステル(B成分)とエチレン含有量が25〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A成分)とからなる複合繊維であって、該複合繊維の表面の少なくとも一部に該A成分が露出している複合繊維。
【請求項2】
B成分中における脂肪族ジカルボン酸がアジピン酸、セバシン酸またはデカンジカルボン酸である請求項1記載の複合繊維。
【請求項3】
A成分はB成分との界面において、4個以上配列する突起部を形成しており、突起部数が10以上であり、隣接する突起部の間隔が1.5μm以下であり、突出部の長軸がいずれも繊維断面外周に対して90°±15°の角度をなすように配置されてなり、かつB成分の外周長(L2)と該複合繊維の外周長(L1)との比が下記(1)式を満足することを特徴とする請求項1または2記載の複合繊維。
1.6≦X/C (1)
ここで、X;B成分の外周長と複合繊維の外周長との比(L2/L1)
C;複合繊維全体を1としたときのB成分の質量複合比率
【請求項4】
繊維断面が同心円状である請求項1または2に記載の複合繊維。
【請求項5】
A成分とB成分との質量複合比率が10:90〜90:10である請求項1〜4のいずれかにに記載の複合繊維。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2012−207313(P2012−207313A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71260(P2011−71260)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】
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