説明

常染色体劣性遺伝性脊髄小脳変性症の検出方法

【課題】脊髄小脳変性症の新規疾患責任遺伝子を提供すること。
【解決手段】SynaptotagminXIV(Syt14)をコードするSYT14遺伝子の変異を検出することを含む、常染色体劣性遺伝性脊髄小脳変性症の検査方法。Syt14タンパク質に対する抗体を用いて、プルキンエ細胞を免疫染色する方法;Syt14タンパク質に対する抗体を含む、免疫染色試薬も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常染色体劣性遺伝性脊髄小脳変性症の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
常染色体劣性遺伝性小脳失調症(以下ARCA)は、非進行性の小脳低形成や進行性の脊髄小脳変性症(以下SCA)を含む不均一な疾患の総称であるが、通常運動失調症状に加えて様々な神経症状、非神経症状を伴い、20歳以下の若年に発症することが多く高齢発症のARCAはまれである(非特許文献1〜3)。現在までに20種類以上のARCA責任遺伝子が同定されており、欧米諸国においてはFriedrich失調症の頻度が最も高いが(非特許文献4〜6) 、依然、患者の約半数で原因遺伝子が判明していない(非特許文献3)。本邦においてはFriedrich失調症の報告例がなく、ARCAの原因遺伝子の頻度については統計がない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Fogel, B.L., and Perlman, S. (2007). Clinical features and molecular geneticsof autosomal recessive cerebellar ataxias. Lancet Neurol 6, 245-257.
【非特許文献2】Embirucu, E.K., Martyn, M.L., Schlesinger, D., and Kok, F. (2009). Autosomalrecessive ataxias: 20 types, and counting. Arq Neuropsiquiatr 67,1143-1156.
【非特許文献3】Anheim, M., Fleury, M., Monga, B., Laugel, V., Chaigne, D., Rodier, G.,Ginglinger, E., Boulay, C., Courtois, S., Drouot, N., et al. (2010).Epidemiological, clinical, paraclinical and molecular study of a cohort of102 patients affected with autosomal recessive progressive cerebellarataxia from Alsace, Eastern France: implications for clinical management.Neurogenetics 11, 1-12.
【非特許文献4】Palau, F., and Espinos, C. (2006). Autosomal recessive cerebellar ataxias.Orphanet J Rare Dis 1, 47.
【非特許文献5】Manto, M., and Marmolino, D. (2009). Cerebellar ataxias. Curr Opin Neurol 22,419-429.
【非特許文献6】Vermeer, S., Hoischen, A., Meijer, R.P., Gilissen, C., Neveling, K., Wieskamp,N., de Brouwer, A., Koenig, M., Anheim, M., Assoum, M., et al. (2010).Targeted next-generation sequencing of a 12.5 Mb homozygous regionreveals ANO10 mutations in patients with autosomal-recessive cerebellarataxia. Am J Hum Genet 87, 813-819.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、常染色体劣性遺伝性脊髄小脳変性症の新規疾患責任遺伝子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
今回、血族婚を伴う日本人家系に見られた精神発達遅滞を伴う高齢発症のSCA兄弟例を経験したのでその疾患責任遺伝子の同定を試みた。その結果、SYT14が常染色体劣性遺伝性脊髄小脳変性症の新規疾患責任遺伝子であることを同定した。前記SCA兄弟の患者2名で同遺伝子のホモ接合性変異を同定し、また同遺伝子は小脳プルキンエ細胞で発現していることを確認した。本発明は、これらの知見に基づいて完成された。
【0006】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)SynaptotagminXIV(Syt14)をコードするSYT14遺伝子の変異を検出することを含む、常染色体劣性遺伝性脊髄小脳変性症の検査方法。
(2)SYT14遺伝子の変異を両アリルについて検出する(1)記載の検査方法。
(3)SYT14遺伝子の変異をゲノムDNAで解析して検出する(1)又は(2)記載の検査方法。
(4)SYT14遺伝子の変異をRNAレベルで解析して検出する(1)又は(2)記載の検査方法。
(5)SYT14遺伝子の変異をタンパク質レベルで解析して検出する(1)又は(2)記載の検査方法。
(6)Syt14タンパク質に対する抗体を用いて、プルキンエ細胞を免疫染色する方法。
(7)Syt14タンパク質に対する抗体を含む、免疫染色試薬。
(8)プルキンエ細胞を免疫染色するための(7)記載の試薬。
【0007】
責任遺伝子の効率的スクリーニングシステムを確立することにより、この疾患の遺伝子診断が行われ、遺伝子治療を含めた治療の個別化が期待される。また、本遺伝子にコードされるタンパク質の類似タンパク質(SynaptotagminI)は神経細胞から調節性分泌を行うシナプス小胞に存在することが既に明らかになっているので、この疾患の病態生理の解明が一気に進み、有効な管理・治療法の開発につながると考えられる。
【発明の効果】
【0008】
SYT14遺伝子は、成人発症型の劣性遺伝性脊髄小脳変性症(ARCA)において、1種類のミスセンス変異が同定された。SYT14遺伝子を解析することによりARCA疾患の確定診断や保因者の検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】SYT14のホモ接合性変異c.1451G>Aを認めたSCA家系図、MRI。左側:常染色体劣性遺伝性SCAを認めた対象家系の家系図。アスタリスクはDNAが得られた対象者。罹患者はIV-3、IV-4。右側:IV-3およびIV-4の脳MRI、T1強調画像。水平断像(上段)および矢状断像(下段) 。両症例とも小脳の萎縮が確認できる。
【図2】SYT14変異の確認、保存性。左上段:サンガ―法によるSYT14 c.1451G>A変異の確認。非罹患者(III-1, IV-1, IV-2)においては同変異はヘテロ接合性、罹患者(V-3, IV-4)においてはホモ接合性であることが確認できた。右上段:Syt14のドメイン構造のシェーマ。p.Gly484Asp変異(点印)はC2Bドメイン内に存在する。下段:変異部のアミノ酸はヒトからハエに至るまで高度に保存されている。
【図3】TaqManTM定量PCR法によるSYT14の発現解析。TaqManTM定量PCR法によりSYT14の発現解析を成人各組織(左上段)、胎児各組織(右上段)、マウス各組織(左下段)、マウス脳各部位(右下段)由来のfirst strand cDNAsをテンプレートとしてTaqManTM定量PCR法によりSYT14の発現解析を行った。ヒト組織においては脳内で発現が強いことが確認できた。マウスにおいても脳内で発現が認められ、脳部位別では小脳で発現が強いことが確認できた。
【図4】野生型、変異型(p.Gly484Asp)の細胞内分布。v5/Hisタグを付加したSyt14の発現ベクター(pEF-DEST51)をCOS-1細胞にトランスフェクションし、抗v5抗体(緑:Alexa488標識した二次抗体使用)および抗protein disulfide isomerase(PDI、小胞体マーカー)抗体(赤:Alexa546標識した二次抗体使用)を用いて二重染色した。核は4',6-diamidino-2-phenylindole (DAPI)で染色した。スケールバーは10μm。野生型と変異型において明らかに細胞内分布が異なり、変異型は小胞体に蓄積していることが分かった。
【図5】抗Syt14抗体(Ab-Syt14)を用いたマウス小脳、ヒト小脳の免疫染色上段:マウス小脳のAb-Syt14を用いた免疫染色(緑:Alexa488標識した二次抗体使用)、核はDAPIで染色した。スケールバーは100μm。小脳プルキンエ細胞において強く発現していることが確認できた。右図は強拡大(スケールバーは10μm)。下段:ヒト小脳のAb-Syt14を用いた免疫染色(ジアミノベンジジンを基質として使用)。核はヘマトキシリンで染色した。スケールバーは100μm。ヒトにおいても小脳プルキンエ細胞で発現が強いことが確認できた。右図は強拡大(スケールバーは20μm)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明は、SynaptotagminXIV(Syt14)をコードするSYT14遺伝子の変異を検出することを含む、常染色体劣性遺伝性脊髄小脳変性症の検査方法を提供する。
【0012】
本発明の検査方法が対象とする常染色体劣性遺伝性脊髄小脳変性症(ARCA)は、常染色体劣性遺伝性を示し、臨床的に運動失調症状を示す不均一な疾患の総称であるが、通常運動失調症状に加えて眼球運動失行、末梢神経障害、錐体路障害、錐体外路障害など様々な神経症候や非神経症候を伴い、20歳以下の若年に発症することが多い。現在までに20種類以上のARCA責任遺伝子が同定されており、欧米諸国においてはFriedrich失調症の頻度が最も高いが、約半数の患者で原因遺伝子が不明との疫学調査があり、依然原因遺伝子の判明していない患者が数多く存在すると考えられる。本邦においてはARCA原因遺伝子の頻度についての統計はないが、欧米で最も高頻度であるFriedrich失調症の報告例はなく、欧米諸国とは原因遺伝子の構成は異なる。しかし欧米同様、原因遺伝子の判明していないARCA患者が数多く存在すると推定される。現在ARCAは家族歴、臨床症状、画像所見を合わせて総合的に診断される。遺伝子診断については、原因遺伝子として判明している個々の遺伝子に対してサンガ―法による塩基配列決定(ダイレクトシーケンス)、変異検索が行われている。
【0013】
SynaptotagminXIV(Syt14;シナプトタグミン14)は、現在までに17種類知られているSynaptotagmin(Syt)のひとつである。Sytの構造的な特徴はN端側に膜貫通領域(transmembrane: TM)を一か所持ち、C端側にCa2+結合モチーフとして知られる2つのC2 domain(プロテインキナーゼCのC2調節領域に由来するモチーフで、Ca2+、リン脂質、タンパク質などがリガンドとして結合する。)C2A、C2Bをもつ点が挙げられ、C型タンデムC2タンパク質とも呼ばれる。Sytの中ではSynaptotagminI(Syt1)が最もよく研究されており、シナプス小胞上でCa2+センサーとして働き、シナプス小胞と前シナプス膜の融合を促進することが知られている。SYT14遺伝子は2003年Fukuda Mによりショウジョウバエからヒトまで保存された分子としてクローニングされた(Fukuda, M. (2003) Molecular cloning, expression, and characterization of a novel class of synaptotagmin (Syt XIV) conserved from Drosophila to humans. J Biochem 133, 641-649.)が、当初、qPCRによる解析で精巣、心臓、腎での発現が主体で脳に発現が見られないとされ、その後研究が進んでいなかった分子である。Syt14には4種類のisoformが存在しいずれのisoformにもTMとC2A、C2Bドメインが存在するが、C2ドメインがCa2+結合能をもたない点がSyt1とは異なる。2007年にQuintero-Rivera Fらは精神発達遅滞を認めた12歳女児においてde novoの均衡型転座t(1;3)(q32.1;q25.1)が認められ、break pointにSYT14が存在することを報告した(Quintero-Rivera, F., Chan, A., Donovan, D.J., Gusella, J.F., Ligon, A.H. (2007). Disruption of a synaptotagmin (SYT14) associated with neurodevelopmental abnormalities. Am J Med Genet A 143, 558-563.)。彼らはノーザンブロットでヒトの脳においてSYT14のmRNA発現がみられることを示しており、Syt14が脳内で機能している可能性を示唆している。
【0014】
ヒトSYT14遺伝子のゲノム配列を配列表の配列番号1に示す。配列番号1に示すゲノム配列中、エクソンの位置は以下の通りである。
【0015】
・Isoform 1
Exon1: 1-85(59〜coding)
Exon2: 14517-14564
Exon3: 27701-27821
Exon4: 75441-75605
Exon5: 82847-83062
Exon6: 156130-156401
Exon7: 161820-162269
Exon8: 217529-217718
Exon9: 221229-221285
Exon10: 222537-222850
・Isoform 2
Exon1: 1-85(59〜coding)
Exon2: 14517-14564
Exon3: 27701-27821
Exon4: 75441-75605
Exon5: 82847-83062
Exon6: 156130-156401
Exon7: 161820-162269
Exon8: 217529-217718
Exon9: 222537-222850
Isoform 2は、isoform 1と比較するとexon9が欠損している。
【0016】
・Isoform 3
Exon1: 1-85(73〜coding)
Exon2: 14517-14564
Exon3: 75441-75605
Exon4: 82847-83062
Exon5: 156130-156401
Exon6: 161820-162269
Exon7: 217529-217718
Exon8: 221229-221285
Exon9: 222537-222850
Isoform 3は、isoform 1と比較するとexon1の開始コドンが異なりexon3が欠損している。
【0017】
・Isoform 4
Exon1: 1-85(73〜coding)
Exon2: 14517-14564
Exon3: 75441-75605
Exon4: 82847-83062
Exon5: 156130-156401
Exon6: 161820-162269
Exon7: 217529-217718
Exon8: 222537-222850
Isoform 4は、isoform 1と比較するとexon1の開始コドンが異なりexon3、exon9が欠損している。
【0018】
ヒトSYT14遺伝子のtranscript variant 1のmRNA配列及びこれがコードするSyt14タンパク質(isoform 1)のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号2及び3に示す。
【0019】
ヒトSYT14遺伝子のtranscript variant 2のmRNA配列及びこれがコードするSyt14タンパク質(isoform 2)のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号4及び5に示す。
【0020】
ヒトSYT14遺伝子のtranscript variant 3のmRNA配列及びこれがコードするSyt14タンパク質(isoform 3)のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号6及び7に示す。
【0021】
ヒトSYT14遺伝子のtranscript variant 4のmRNA配列及びこれがコードするSyt14タンパク質(isoform 4)のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号8及び9に示す。
【0022】
本発明者らの解析結果により、SYT14遺伝子の変異がARCAの病的変異であることが判明した。ARCA患者は、SYT14遺伝子の変異をホモ接合性又はヘテロ接合性で有しうる。SYT14遺伝子の変異としては、欠失、点変異、ミスセンス変異、ナンセンス変異、フレームシフト変異などが挙げられるが、これらに限定されない。後述の実施例では、SYT14遺伝子のエクソン8に認められたミスセンス変異p.Gly484Asp[c.1451G>A]が同定され、この変異がホモ接合性である場合には、罹患が確認されたが、ヘテロ接合性である場合には、罹患が確認されなかった。ミスセンス変異p.Gly484Asp[c.1451G>A]は、Syt14タンパク質のisoform 1-4のいずれにも存在しうる。
【0023】
SYT14遺伝子のエクソン8に認められたミスセンス変異p.Gly484Asp[c.1451G>A]を配列表の配列で説明すると、以下の通りである。
【0024】
・配列番号1に示すヒトSYT14遺伝子のゲノム配列中の217680番目のGがAに置換。
・配列番号2に示すヒトSYT14 transcript variant 1のmRNA配列中の1509番目のGがAに置換。
・配列番号3に示すヒトSYT14 transcript variant 1のmRNAがコードするSyt14タンパク質(isoform 1)のアミノ酸配列中の484番目のGlyがAspに置換。
・配列番号4に示すヒトSYT14 transcript variant 2のmRNA配列中の1509番目のGがAに置換。
・配列番号5に示すヒトSYT14 transcript variant 2のmRNAがコードするSyt14タンパク質(isoform 2)のアミノ酸配列中の484番目のGlyがAspに置換。
・配列番号6に示すヒトSYT14 transcript variant 3のmRNA配列中の1388番目のGがAに置換。
・配列番号7に示すヒトSYT14 transcript variant 3のmRNAがコードするSyt14タンパク質(isoform 3)のアミノ酸配列中の439番目のGlyがAspに置換。
・配列番号8に示すヒトSYT14 transcript variant 4のmRNA配列中の1388番目のGがAに置換。
・配列番号9に示すヒトSYT14 transcript variant 4のmRNAがコードするSyt14タンパク質(isoform 4)のアミノ酸配列中の439番目のGlyがAspに置換。
【0025】
SYT14遺伝子の変異は、両アリルについて検出するとよい。また、SYT14遺伝子の変異は、ゲノムDNAで解析してもよいし、RNAレベル又はタンパク質レベルで解析してもよい。ゲノムDNAで解析する場合には、SYT14遺伝子の変異は、被験者から採取した血液、唾液、脳、皮膚、腎臓、膵臓などの生検組織などの生体試料を用いて、検出することができる。例えば、末梢血白血球から、ゲノムDNA、mRNA又はmRNAから合成したcDNAなどの核酸試料を分離あるいは調製し、必要に応じて、SYT14遺伝子の変異部位を含む領域を増幅して、SYT14遺伝子の変異を検出することができる。
【0026】
SYT14遺伝子の変異をゲノムDNAで解析するには、例えば、適切に設計したプライマーを用いて、ゲノムDNAからSYT14遺伝子の変異部位を含むコーディング領域を増幅し、ダイレクトシークエンスするとよい。SeqScape(登録商標)などの市販のソフトウェアを用いれば、変異の検出やプロファイリングを容易に行うことができる。変異がホモ接合性かヘテロ接合性かについては、シークエンスの波形データから確認することができる。ダイレクトシークエンス以外にも、PCR-RFLP法、配列特異的オリゴプローブ法(SSCP法)、SSOP法、アレル特異的増幅法(MASA法)などの方法を用いてもよい。
【0027】
SYT14遺伝子の変異をRNAレベルで解析するには、ノーザンハイブリダイゼーション法、サザンハイブリダイゼーション法、DNAチップ又はDNAアレイ解析法、in situハイブリダイゼーション法などのハイブリダイゼーション法、RT-PCR法などの方法を用いるとよい。「SYT14遺伝子の変異をRNAレベルで解析する」とは、mRNAから合成されるcDNAを解析することも含む概念である。
【0028】
SYT14遺伝子の変異をタンパク質レベルで解析するには、抗Syt14抗体を使用したウェスタンブロット法により、タンパク質分子量の変化の有無みる方法や細胞、組織検体に対して抗Syt14抗体を使用した免疫染色を行ってSyt14の細胞内局在をみる方法が考えられる。
【0029】
本発明は、Syt14タンパク質に対する抗体を用いて、プルキンエ細胞を免疫染色する方法も提供する。
【0030】
また、本発明は、Syt14タンパク質に対する抗体を含む、免疫染色試薬を提供する。本発明の試薬で、プルキンエ細胞を免疫染色することができる。
【0031】
Syt14タンパク質に対する抗体は、Syt14タンパク質に特異的に結合するものであるとよく、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体のいずれであってもよい。
【0032】
ポリクローナル抗体を作製するには、公知あるいはそれに準じる方法にしたがって製造することができる。例えば、免疫抗原(全長のSyt14タンパク質であってもよいし、Syt14タンパク質のエピトープを含む部分ペプチド(例えば、配列番号12又は13のアミノ酸配列からなるペプチド)であってもよい)を動物に投与(免疫)し、該免疫動物から抗原に対する抗体含有物を採取して、抗体の分離精製を行なうことにより製造できる。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常約2〜6週毎に1回ずつ、計2回程度行なわれる。ポリクローナル抗体は、免疫動物の血液、腹水など、好ましくは血液から採取することができる。ポリクローナル抗体の分離精製は、免疫グロブリンの分離精製法(例えば、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相あるいはプロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法)に従って行なうことができる。
【0033】
モノクローナル抗体は、Nature (1975) 256: 495、Science (1980) 208: 692-に記載されている、G. Koehler及びC. Milsteinのハイブリドーマ法により作製することができる。すなわち、動物を免疫した後、免疫動物の脾臓から抗体産生細胞を単離し、これを骨髄腫細胞と融合させることによりモノクローナル抗体産生細胞(ハイブリドーマ)を調製する。さらに、Syt14タンパク質(全長のSyt14タンパク質であってもよいし、Syt14タンパク質のエピトープを含む部分ペプチド(例えば、配列番号12又は13のアミノ酸配列からなるペプチド)であってもよい)と特異的に反応するが、他の抗原タンパク質(あるいはペプチド)とは実質的に交差反応しない抗体を産生する細胞系を単離するとよい。この細胞系を培養し、培養物から所望のモノクローナル抗体を取得することができる。モノクローナル抗体の精製は、上記の免疫グロブリンの分離精製法に従って行なうことができる。
【0034】
免疫染色において、抗原抗体反応を可視化するには、オートラジオグラフィー、金コロイド法、蛍光抗体法、酵素抗体法などの方法があり、Syt14タンパク質に対する抗体は、放射性同位元素、金粒子、蛍光色素、酵素などで標識されるとよい。また、抗原抗体反応は、直接法又は間接法のいずれで行われてもよい。
【0035】
本発明は、SYT14遺伝子のエクソン8に認められたミスセンス変異p.Gly484Asp[c.1451G>A]を有するSyt14タンパク質変異体(以下p.Gly484Asp変異体)を提供する。p.Gly484Asp変異体を用いることにより、ARCA疾患の病態生理の解明が可能となり、有効な疾患管理や治療法の開発につながると考えられる。
【0036】
p.Gly484Asp変異体としては、配列番号3に示すSyt14タンパク質(isoform 1)のアミノ酸配列中の484番目のGlyがAspに置換したもの、配列番号5に示すヒトSyt14タンパク質(isoform 2)のアミノ酸配列中の484番目のGlyがAspに置換したもの、配列番号7に示すSyt14タンパク質(isoform 3)のアミノ酸配列中の439番目のGlyがAspに置換したもの、配列番号9に示すヒトSYT14 transcript variant 4のmRNAがコードするSyt14タンパク質(isoform 4)のアミノ酸配列中の439番目のGlyがAspに置換したものなどが挙げられる。また、これらのタンパク質のアミノ酸配列において、病的変異のある部位のアミノ酸以外の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつp.Gly484Asp変異体と同等の生物学的活性(例えば、抗原性、免疫染色性、神経細胞からの分泌調節能など)を有するタンパク質であってもよい。さらに、p.Gly484Asp変異体は、配列番号2、4、6又は8のヌクレオチド配列からなるDNAに相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされ、かつp.Gly484Asp変異体と同等の生物学的活性(例えば、抗原性、免疫染色性、神経細胞からの分泌調節能など)を有するタンパク質であってもよい。ハイブリダイゼーションはストリンジェントな条件下で行われる。核酸二本鎖又はハイブリッドの安定性は、融解温度Tm(プローブが標的DNAから解離する温度)で表される。この融解温度はストリンジェントな条件を定義するために用いられる。1%のミスマッチによりTmが1℃低下すると仮定すると、ハイブリダイゼーション反応の最終洗浄の温度を低くしなければならない。例えば、プローブと95%以上の同一性を有する配列を求める場合には、最終洗浄温度を5℃低くしなければならない。実際、1%のミスマッチにつき、0.5〜1.5℃の間でTmが変わることになる。ストリンジェントな条件の例としては、5x SSC/5x デンハルト溶液/1.0% SDS中68℃でハイブリダイズさせ、0.2x SSC/0.1%SDS中室温で洗浄することである。中程度にストリンジェントな条件の例としては、3x SSC中42℃で洗浄することである。塩濃度や温度は、プローブと標的核酸との同一性の最適なレベルを達成するために変更されうる。このような条件に関するさらなる指針として、Sambrook et al., 1989, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, N.Y.; and Ausubel et al. (eds.), 1995, Current Protocols in Molecular Biology, (John Wiley & Sons. N.Y.) at Unit 2.10を参照されたい。
【0037】
p.Gly484Asp変異体は、ヒト由来の野生型Sty14タンパク質の変異体であってもよいし、ヒト以外の動物由来の野生型Syt14タンパク質の変異体であってもよい。
【0038】
p.Gly484Asp変異体は、公知の方法によって製造することができる。例えば、p.Gly484Asp変異体タンパク質をコードするDNAを得、得られたDNAを適当な発現ベクターに組み込んだ後、適当な宿主に導入し、組換え蛋白質として生産させることにより、p.Gly484Asp変異体タンパク質を製造することができる(例えば、西郷薫、佐野弓子共訳、CURRENT PROTOCOLSコンパクト版、分子生物学実験プロトコール、I、II、III、丸善株式会社:原著、Ausubel,F.M.等, Short Protocols in Molecular Biology, Third Edition, John Wiley & Sons, Inc., New Yorkを参照のこと)。あるいはまた、公知のペプチド合成法に従って製造することもできる。
【0039】
p.Gly484Asp変異体タンパク質をコードする単離されたDNAは、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0040】
健常なヒトの末梢血白血球からmRNAを抽出し、逆転写酵素およびオリゴdTプライマーを用いてcDNAを合成する。ヒトSyt14のコーディング領域をPCRによって増幅する。得られたPCR産物が野生型Syt14タンパク質をコードするDNAである。野生型Syt14タンパク質のアミノ酸配列が配列番号3、5、7及び9に示され、それをコードするDNAのヌクレオチド配列が配列番号2、4、6及び8に示される。
【0041】
p.Gly484Asp変異体タンパク質をコードするDNAは、SYT14のコーディング領域を点突然変異誘発法により変異させることにより作製することができる。変異させたSYT14のコーディング領域をPCRによって増幅する。得られたPCR産物がp.Gly484Asp変異体タンパク質をコードするDNAである。p.Gly484Asp変異体タンパク質をコードするDNAとしては、配列番号2に示すヒトSYT14 transcript variant 1のmRNA配列中の1509番目のGがAに置換されたもの、配列番号4に示すヒトSYT14 transcript variant 2のmRNA配列中の1509番目のGがAに置換されたもの、配列番号6に示すヒトSYT14 transcript variant 3のmRNA配列中の1388番目のGがAに置換されたもの、配列番号8に示すヒトSYT14 transcript variant 4のmRNA配列中の1388番目のGがAに置換されたものなどを挙げることができる。
【0042】
p.Gly484Asp変異体タンパク質をコードするDNAを含有する組換えベクターは、公知の方法(例えば、Molecular Cloning2nd Edition, J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989に記載の方法)により、p.Gly484Asp変異体タンパク質をコードするDNAを適当な発現ベクターに挿入することにより得られる。
【0043】
発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例、pBR322,pBR325,pUC12,pUC13)、枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110,pTP5,pC194)、酵母由来プラスミド(例、pSH19,pSH15)、λファージなどのバクテリオファージ、レトロウイルス,ワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫病原ウイルスなどを用いることができる。
【0044】
発現ベクターには、プロモーター、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製オリジンなどを付加してもよい。
【0045】
また、発現ベクターは、融合タンパク質発現ベクターであってもよい。種々の融合タンパク質発現ベクターが市販されており、pGEXシリーズ(アマシャムファルマシアバイオテク社)、pET CBD Fusion System 34b-38b(Novagen社)、pET Dsb Fusion Systems 39b and 40b(Novagen社)、pET GST Fusion System 41 and 42(Novagen社)などを例示することができる。
【0046】
p.Gly484Asp変異体タンパク質をコードするDNAを含有する組換えベクターを宿主に導入することにより、形質転換体を得ることができる。
【0047】
宿主としては、細菌細胞(例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、枯草菌など)、真菌細胞(例えば、酵母、アスペルギルスなど)、昆虫細胞(例えば、S2細胞、Sf細胞など)、動物細胞(例えば、CHO細胞、COS細胞、HeLa細胞、C127細胞、3T3細胞、BHK細胞、HEK293細胞など)、植物細胞などを例示することができる。
【0048】
組換えベクターを宿主に導入するには、Molecular Cloning2nd Edition, J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989に記載の方法(例えば、リン酸カルシウム法、DEAE-デキストラン法、トランスフェクション法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法、エレクロトポレーション法、形質導入法、スクレープローディング法、ショットガン法など)または感染により行うことができる。
【0049】
形質転換体を培地で培養し、培養物からp.Gly484Asp変異体タンパク質を採取することができる。p.Gly484Asp変異体タンパク質が培地に分泌される場合には、培地を回収し、その培地からp.Gly484Asp変異体タンパク質を分離し、精製すればよい。p.Gly484Asp変異体タンパク質が形質転換された細胞内に産生される場合には、その細胞を溶解し、その溶解物からp.Gly484Asp変異体タンパク質を分離し、精製すればよい。
【0050】
p.Gly484Asp変異体タンパク質が別のタンパク質(タグとして機能する)との融合タンパク質の形態で発現される場合には、融合タンパク質を分離及び精製した後に、FactorXaや酵素(エンテロキナーゼ)処理をすることにより、別のタンパク質を切断し、目的とするp.Gly484Asp変異体タンパク質を得ることができる。
【0051】
p.Gly484Asp変異体タンパク質の分離及び精製は、公知の方法により行うことができる。公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度の差を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
〔実施例1〕
(結果)
今回解析対象とした家系の家系図、MRI像を図1に示す。対象家系では、いとこ婚夫婦の子供2名(IV-3およびIV-4)に精神発達遅滞を伴う高齢発症のSCAが認められ、画像上も小脳萎縮が確認された。III-1, IV-1, IV-2, IV-3を対象として、Affymetrix社のHuman Mapping 10K Array Xba 142 2.0 (10Kアレイ) およびGenome-Wide Human SNP Array 6.0 (SNP 6.0アレイ) を用いて全ゲノムSNPタイピングを行い、10Kアレイのデータを基にAllegro version 2ソフトウェア( Gudbjartsson, D. F., T. Thorvaldsson, et al. (2005). "Allegro version 2." Nat Genet 37(10): 1015-1016)を使用して多点連鎖解析を行い、常染色体劣性遺伝形式を想定しLODスコアを算出した(疾患アレル頻度を0.001と設定して計算)。結果、LODスコアが1.5を超えた20領域、計63.22Mbが候補領域として同定された(表1、最大LODスコア2.0516)。さらに同領域に関しては、SNP 6.0アレイのデータでもホモ接合領域であるか否かを確認し、SNP6.0アレイでも1.0Mb以上のホモ接合性領域であることを確認しえた5領域、計11.92Mbを疾患遺伝子座の候補領域とした(表2)。患者はすべて男性であるため、X染色体劣性遺伝形式を想定したLODスコアについても算出した(疾患アレル頻度を0.001と設定して計算)。結果LODスコアが正の値を示したのは4領域、計74. 56Mb(最大LODスコア0.9031) であった。
【0054】
上述の候補領域内から責任遺伝子変異を同定するために、IV-3および IV-4のゲノムDNA 3μgに対しAgilent Technologies社 SureSelect Human All Exon Kit v.1 を用いたエクソンキャプチャーを行い、キャプチャーされたDNAを、Illumina社次世代シーケンサーGAIIxを用いて解析した。結果、得られた約7100万リード(IV-3)、および約1億4800万リード(IV-4)の配列をMapping and Assembly with Qualities (MAQ)( Li, H., J. Ruan, et al. (2008). "Mapping short DNA sequencing reads and calling variants using mapping quality scores." Genome Res 18(11): 1851-1858.)とNextGENe software v2.00(SoftGenetics社)を用いて解析した。MAQでは、それぞれ 59,491,138リード、126,159,746リードがゲノム上にマッピングされ、全遺伝子のうちコーディング配列(CDS)が完全に1リード以上カバーされたものは65.0%(IV-3)および71.3%(IV-4)、90%以上のCDSが1リード以上カバーされた遺伝子は77.7%(IV-3)および80.3%(IV-4)であった。
【0055】
MAQおよびNextGENeで検出した変異または多型のうち、前述の候補領域外に存在するもの、dbSNP130に登録のある多型は除外した。残った変異または多型のうち、ホモ接合性変異として検出され、コーディング領域またはコーディング領域から50bp以内のイントロン領域に存在するものは、SynaptotagminXIV(Syt14)をコードするSYT14 (1q32.2)のexon8に認められたミスセンス変異p.Gly484Asp [c.1451G>A]のみであった(表3)。 サンガ―法によるシーケンスでもc.1451G>A変異はIV-3、IV-4においてホモ接合性変異であり、III-1、IV-1、IV-2 ではヘテロ接合性変異として認められた(図2)。このミスセンス変異はSyt14のC2 (C2B) ドメイン上に存在しヒトからハエまで高度に保存されたアミノ酸の変異であり(図2)、日本人正常コントロール576アレルで認められないことを確認した。同変異は、異なる変異効果予測ソフトで一貫して病的変異であると予測された(表4)。X染色体劣性遺伝形式を想定した候補領域内には病的な変異が検出されなかった。Syt14は発見当初マウスの脳内で発現していない分子として報告されていたが( Fukuda, M. (2003). "Molecular cloning, expression, and characterization of a novel class of synaptotagmin (Syt XIV) conserved from Drosophila to humans."J Biochem 133(5): 641-649.)、TaqManTM定量PCR法による検証では、ヒト組織においては脳でSYT14の発現が強いことが確認し、マウスの脳においてもSYT14が発現し、その発現は小脳に強いことを確認できた(図3)。
【0056】
COS-1細胞を用いたSyt14の強制発現実験においては、野生型Syt14が核周囲、細胞膜近傍に局在するのに対しp.Gly484Asp変異体は細胞膜近傍への局在が認められず、網状の分布を取ることが免疫染色で確認され、変異体で認められた網状の分布は小胞体タンパク質であるprotein disulfide isomerase (PDI) と共局在することが確認された(図4)。この野生型との分布の差から、p.Gly484Asp変異体は病的である可能性が非常に強いと考えられた。さらにSyt14に対するウサギポリクローナル抗体(Ab-Syt14)を作成したところ、マウスおよびヒトの小脳においてSyt14がプルキンエ細胞に特異的に発現していることが確認できた(図5)。この結果からも、Syt14変異がSCAの原因となることがさらに強固に裏付けられた。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

(材料と方法)
・症例
臨床的にSCAと診断された症例を有する日本人1家系を対象にした。合計で2名のSCA症例と3名の非罹患者より末梢血白血球からゲノムDNAを抽出し解析に用いた。
【0061】
・ホモ接合性マッピングおよびハプロタイプ解析
10KアレイおよびSNP 6.0アレイを用いて全ゲノムSNPタイピングを施行した。Affymetrix社推奨プロトコールに従いタイピングを行った。10Kアレイのデータを基にAllegro version 2ソフトウェア( Gudbjartsson, D. F., T. Thorvaldsson, et al. (2005). "Allegro version 2." Nat Genet 37(10): 1015-1016.)を使用して多点連鎖解析を行い、常染色体劣性遺伝形式を想定しLODスコアを算出した(疾患アレル頻度を0.001と設定して計算)。LODスコアが1.5を超えた領域に関しては、SNP 6.0アレイのデータでもホモ接合領域であるか否かを確認し、SNP6.0アレイでも1.0Mb以上のホモ接合性領域であることを確認しえた領域を疾患遺伝子座の候補領域とした。
【0062】
・変異解析
IV-3および IV-4のゲノムDNA 3μgに対しAgilent Technologies社 SureSelect Human All Exon Kit v.1 を用いたエクソンキャプチャーを行い、キャプチャーされたDNAを、Illumina社次世代シーケンサーGAIIxを用いて解析した。結果、得られた配列をMapping and Assembly with Qualities (MAQ)( Li, H., J. Ruan, et al. (2008). "Mapping short DNA sequencing reads and calling variants using mapping quality scores."Genome Res 18(11): 1851-1858.)とNextGENe software v2.00(SoftGenetics社)を用いて解析した。MAQおよびNextGENeで検出した変異または多型のうち、前述の候補領域外に存在するもの、dbSNP130に登録のある多型は除外した。残った変異または多型のうち、ホモ接合性変異として検出され、コーディング領域またはコーディング領域から50bp以内のイントロン領域に存在するものを候補遺伝子とした。
【0063】
日本人正常コントロールの解析においてはSYT14のタンパク質翻訳領域のエクソン8とエクソンイントロン境界領域をPCR法にて増幅し、精製後ダイレクトシーケンス法で塩基配列を決定した。PCR反応液は、1× ExTaq buffer, 0.2 mM each dNTP, 0.5 μM each primer, 0.125 U Ex TaqHS polymerase(TAKARA)の組成である。反応条件と用いたプライマーのシーケンスを表5に示す。PCR産物をExoSAP-IT (GE healthcare)で精製後、BigDye Terminator chemistry version 3.1 (Applied Biosystems) を用いてサイクルシーケンス反応を行った。反応物はSephadex G-50 (GE healthcare) とMultiscreen-96 (Millipore)によるゲル濾過にて精製し、ABI Genetic Analyzer 3100または3500 (Applied Biosystems) でシーケンスを得た。得られたシーケンスは、Sequencher software ver. 4.10.1 (Gene Codes Corporation)を用いて変異の有無について解析を行った。
【0064】
【表5】

表5のforward及びreverseプライマーのヌクレオチド配列をそれぞれ配列番号10及び11に示す。
【0065】
・発現解析
Syt14の発現解析にはTaqManTM定量PCR法を施行した。成人組織別 (Human MTCTM Panel I, #636742), 胎児組織別(Human Fetal MTCTM Panel, #636747),マウス組織別(Mouse MTCTM Panel I, #636745)のcDNAテンプレートはClontech社から購入し、マウス脳部位別cDNA (GSMBRSET)は日本ジェネティクス株式会社から購入した。TaqManTM定量PCR法に使用するプローブとしては、ヒトSYT14の発現解析にはhuman SYT14 (Hs00950169_m1)、内部標準としてhuman β-actin (ACTB, 4326315E)、マウスSYT14の発現解析にはmouse Syt14 (Mm00805319_m1)、内部標準としてmouse Actb (43522341E)をApplied Biosystems社から購入し、使用した。 定量PCR反応液計20 μlの組成はTaqManR Gene Expression Master Mix (Applied Biosystems社)10 μl、ACTBおよびSYT14用TaqManTMプローブ 1 μlずつ、cDNA 1μl (Clontech社のcDNAは1ng、日本ジェネティクス株式会社のcDNAは25ng含有)であった。PCR反応はRotor-Gene Q (QIAGEN社)で下記のプロトコールを使用した。50℃・2分間-95℃・10分間-(95℃、15秒-60℃、1分)×40サイクル。 発現量はRotor-Gene Q Series Software (QIAGEN社)で2-ΔΔCt法で相対的に定量化した。ΔCt は(SYT14のcycling threshold (Ct)-ACTBのCt)とし、ΔΔCt は(コントロールサンプルΔCt-サンプルのΔCt)とした。相対量は2-ΔΔCtで算出した。
【0066】
・抗体
ヒトSyt14の106-120アミノ酸(LGSEYSTRKNSQDKI) (配列番号12)および250-264アミノ酸(CPSEGSTGHEIESFH) (配列番号13)を抗原として使用し、ウサギ一羽を用いて作成しCNBr-activated Sepharose 4Bを用いて精製した。
【0067】
・ウェブ上ソフトウェア
変異効果予測ソフトとしては下記のウェブ上ソフトウェアを使用した。
【0068】
PolyPhen, http://genetics.bwh.harvard.edu/pph/
PolyPhen2, http://genetics.bwh.harvard.edu/pph2/
SIFT, http://blocks.fhcrc.org/sift/SIFT.html
Align GCGD, http://agvgd.iarc.fr/
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、遺伝子診断に利用可能である。すなわち、SYT14遺伝子の塩基配列を調べることにより、ARCAの確定診断を行うことが可能となる。
【0070】
また、本発明は、神経変性の新たなメカニズムの研究に利用可能である。すなわち、本タンパク質の類似タンパク質(SytIなど)は、シナプスにおける神経伝達物質の放出などの調節性分泌に関与していることが知られている。本タンパク質(Syt14タンパク質)そのものの機能は未解明であるが、ARCAの疾患責任遺伝子として同定されたことから、調節性分泌障害が神経変性を引き起こすメカニズムの研究が進むと考えられる。
【配列表フリーテキスト】
【0071】
<配列番号1>
配列番号1は、ヒトSYT14遺伝子のゲノム配列を示す。
<配列番号2>
配列番号2は、ヒトSYT14 transcript variant 1のmRNA配列を示す。
<配列番号3>
配列番号3は、ヒトSYT14 transcript variant 1のmRNAがコードするSyt14タンパク質(isoform 1)のアミノ酸配列を示す。
<配列番号4>
配列番号4は、ヒトSYT14 transcript variant 2のmRNA配列を示す。
<配列番号5>
配列番号5は、ヒトSYT14 transcript variant 2のmRNAがコードするSyt14タンパク質(isoform 2)のアミノ酸配列を示す。
<配列番号6>
配列番号6は、ヒトSYT14 transcript variant 3のmRNA配列を示す。
<配列番号7>
配列番号7は、ヒトSYT14 transcript variant 3のmRNAがコードするSyt14タンパク質(isoform 3)のアミノ酸配列を示す。
<配列番号8>
配列番号8は、ヒトSYT14 transcript variant 4のmRNA配列を示す。
<配列番号9>
配列番号9は、ヒトSYT14 transcript variant 4のmRNAがコードするSyt14タンパク質(isoform 4)のアミノ酸配列を示す。
<配列番号10>
配列番号10は、SYT14のタンパク質翻訳領域のエクソン8とエクソンイントロン境界領域を増幅するためのフォワードプライマーのヌクレオチド配列を示す。
<配列番号11>
配列番号11は、SYT14のタンパク質翻訳領域のエクソン8とエクソンイントロン境界領域を増幅するためのリバースプライマーのヌクレオチド配列を示す。
<配列番号12>
配列番号12は、ヒトSyt14タンパク質の106-120アミノ酸の配列を示す。
<配列番号13>
配列番号13は、ヒトSyt14タンパク質の250-264アミノ酸の配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SynaptotagminXIV(Syt14)をコードするSYT14遺伝子の変異を検出することを含む、常染色体劣性遺伝性脊髄小脳変性症の検査方法。
【請求項2】
SYT14遺伝子の変異を両アリルについて検出する請求項1記載の検査方法。
【請求項3】
SYT14遺伝子の変異をゲノムDNAで解析して検出する請求項1又は2記載の検査方法。
【請求項4】
SYT14遺伝子の変異をRNAレベルで解析して検出する請求項1又は2記載の検査方法。
【請求項5】
SYT14遺伝子の変異をタンパク質レベルで解析して検出する請求項1又は2記載の検査方法。
【請求項6】
Syt14タンパク質に対する抗体を用いて、プルキンエ細胞を免疫染色する方法。
【請求項7】
Syt14タンパク質に対する抗体を含む、免疫染色試薬。
【請求項8】
プルキンエ細胞を免疫染色するための請求項7記載の試薬。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−84(P2013−84A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136277(P2011−136277)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(505155528)公立大学法人横浜市立大学 (101)
【Fターム(参考)】