説明

常温塑性変形性樹脂組成物およびそれを用いた成形体

【課題】 簡単な装置で安価に大量生産でき、しかも従来の成形体と比較しても同等の良好な形状保持能力と繰り返し曲げに対する耐久性を有する、常温で塑性変形可能な樹脂組成物とその成形体、特に使用後自然環境に放置される状況があっても微生物などにより分解され、環境に対する負荷を低減することができる樹脂組成物とその成形体を提供する。
【解決手段】 ポリ乳酸系樹脂(A)と引張破断伸びが200%以上である生分解性を有する熱可塑性樹脂(B)を含み、A:Bの比率が90:10〜35:65である、常温塑性変形性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、園芸用や細長い電線の結束用などに要求される塑性変形性と繰り返しの折り曲げ耐久性を兼ね備えた成形体を供する常温塑性変形性樹脂組成物およびそれを用いた成形体(好ましくは帯状または線状の成形体)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、植木の結束、果実や野菜の袋結びの園芸用や、食品の包装用、その他電線の結束用として、人の手で容易に折り曲げて固定するための緊縛材、結束材と称される帯状体や線状体が、よく用いられている。
この種の緊縛材、結束材として広く用いられている塑性変形可能な細長い帯状体には、手指で容易に折り曲げたり、捻じったりでき、その上、折り曲げたり、捻じったりした後は外力が作用しなくなっても元の形状に戻らないという塑性変形性及び形状保持性さらには繰り返し使用ができるための繰り返し曲げに耐えうる耐久性が要求される。
【0003】
従来、常温で塑性変形可能な材料としては、針金などの金属が主に用いられている。一方、通称プラスチックと呼ばれる樹脂成形体は、熱と圧力を加えて塑性変形させる熱可塑性樹脂成形体が殆どであり、常温では弾性回復力に優れたものが多く、通常は外部応力により変形しても外部応力を除去した後その形態を保持することは難しい。
このため、通常の緊縛材や結束材などには、軟銅やアルミなどの金属ワイヤーを芯材としてこれらの表面をPVCやポリエチレンなどの樹脂材料で被覆してなるものが使用されている。
また、熱可塑性樹脂の中でもある特殊な処理、例えば特殊ポリエチレンに特定倍率の熱延伸を与えて得られた塑性変形性を有する特殊なポリエチレンなどの線材(特許文献1参照)に、樹脂を被覆して成るものなどが提供されている。
【0004】
しかしながら、金属を芯材としてこれらの表面をPVCなどのハロゲン含有樹脂で被覆してなる成形品は、使用後の廃棄処理方法として燃焼処理がなされた場合、その燃焼条件によっては有毒ガスや腐食性ガスが発生する可能性がある。またポリエチレンなどの非ハロゲン系樹脂で被覆されたものであっても、使用後その処理が不適切で、不法投棄などにより自然環境にそのまま放置された場合には、半永久的に成形品として残存し、環境保全上好ましくないことが予想される。不法投棄による成形品の残存は、たとえ芯材を上述の塑性変形性を有する特殊ポリエチレンなどとした場合も同様である。
【特許文献1】特開2004−183201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためなされたものであり、その目的とするところは、簡単な装置で安価に大量生産でき、しかも従来の成形体と比較しても同等の良好な形状保持能力と繰り返し曲げに対する耐久性を有する、常温で塑性変形可能な樹脂組成物とその成形体、好ましくは帯状または線状の成形体を提供することにある。 しかもこれらを供する樹脂として生分解性樹脂を使用することにより、使用後自然環境に放置される状況があっても成形体は微生物などにより分解され、環境に対する負荷を低減することができるものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、(1)ポリ乳酸系樹脂(A)と引張破断伸びが200%以上である生分解性を有する熱可塑性樹脂(B)を含み、A:Bの比率が90:10〜35:65である常温塑性変形性樹脂組成物を提供する。また、好ましくは、(2)ポリ乳酸系樹脂(A)がL−乳酸またはD−乳酸を構成単位としたホモポリマーである前記(1)記載の樹脂組成物、(3)熱可塑性樹脂(B)が脂肪族ポリエステル樹脂または脂肪族−芳香族ポリエステルである前記(1)記載の樹脂組成物に存する。
また、(4) 前記(1)〜(3)に記載の樹脂組成物を用いて成形される常温塑性変形性樹脂成形体、(5) 前記(4)記載の成形体が細長い帯状または線状である常温塑性変形性樹脂成形体、(6)幅3mm長さ15mm厚さ0.5mm試験片とした場合の180度折り曲げ後戻り角度が60度以下であり、かつ引張破断強度が20MPa以上である前記(4)又は(5)記載の常温塑性変形性樹脂成形体、を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂組成物を用いることにより、一般的な成形方法によって塑性変形性および折り曲げ耐久性に優れる成形品を得ることが可能になる。しかも、製品を構成する樹脂は生分解性を有しているため、環境保護の面でも有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明でいう常温塑性変形性樹脂組成物とは、通常の人間の生活範囲である常温(0℃〜30℃)の範囲で塑性変形が可能な樹脂組成物を意味する。
塑性変形とは、固体物質に外部から力を加えた際の変形が、力を除いても長期間元に戻らない変形をいい、これに対して元の形に戻る場合を弾性変形という。本発明の常温塑性変形性とは、少なくとも、テープやフィルム(帯状)又は糸(線状)の形態において、180℃折り曲げたときの10分経過後の戻り角度が60度以下のものを言う。
【0009】
本発明の樹脂組成物に用いられるポリ乳酸系樹脂(A)としては、構成単位がL−乳酸またはD−乳酸であるホモポリマー、またはこれらの共重合体、さらにはα-ヒドロキシカルボン酸等の他のヒドロキシカルボン酸単位との共重合体であっても、脂肪族ジオール/脂肪族カルボン酸と共重合体であってもよい。
得られるポリ乳酸としては、D−乳酸単位が約10%以下でL−乳酸単位が約90%以上、またはL−乳酸単位が10%以下でD−乳酸単位が90%以上で、光学純度が約80%以上の結晶性ポリ乳酸と、D−乳酸単位が10%〜90%で、L−乳酸単位も10%〜90%で、光学純度が約80%未満の非晶質ポリ乳酸とがあるが、本発明で用いるポリ乳酸は、いずれを用いてもよく、更に耐熱性を要する用途製品に用いる場合には、結晶性ポリ乳酸を用いることが好ましい。
ポリ乳酸系樹脂の具体例としては、株式会社島津製作所製「LACTY」、三井化学株式会社製「レイシア」などが挙げられる。
ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量(以下Mw)は5万から40万の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは10万から25万である。Mwが5万未満であると成形加工性に劣りまた実用物性が得られにくい。一方40万を超える場合は溶融粘度が高すぎるため成形加工性に劣る。
【0010】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂(B)としては、ポリ乳酸系樹脂以外の生分解性を有する熱可塑性樹脂で、引張破断伸びが200%以上の物性を有するものが好ましい。さらに好ましくは破断伸びが300%以上、更に好ましくは500%以上〜900%以下の樹脂を用いる。破断伸びが小さすぎる場合は得られる樹脂組成物から成る成形体の繰り返し曲げの耐久性が劣る。この引張破断伸びは、例えばJIS K7161に準拠した測定方法(JIS3号ダンベル試験片、引張速度200mm/分)等で測定できる。
【0011】
樹脂(B)としては、例えば(B1)脂肪族−芳香族ポリエステル系樹脂、(B2)脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを主成分として合成される脂肪族ポリエステル、(B3)ヒドロキシカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールのターポリマーが挙げられるが、特に(B1)、(B2)が好ましい。
【0012】
本発明において用いる(B1)脂肪族−芳香族ポリエステル系樹脂としては、例えば脂肪族ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸と、脂肪族ジオールとの共重合により得られるポリエステルが使用できる。脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、及び脂肪族ジオールとしては、特に限定されないが、たとえば、脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン酸などがあり、芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などがあり、脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが使用できる。
【0013】
脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとの好ましい組み合わせとしてはコハク酸/テレフタル酸/ブタンジオール、コハク酸/テレフタル酸/エチレングリコール、コハク酸/イソフタル酸/ブタンジオール、コハク酸/イソフタル酸/エチレングリコール、アジピン酸/テレフタル酸/ブタンジオール、アジピン酸/テレフタル酸/エチレングリコール、アジピン酸/イソフタル酸/ブタンジオール、アジピン酸/イソフタル酸/エチレングリコール等の組み合わせが挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸/芳香族ジカルボン酸の共重合比率は、モル比で、通常1/0.02〜1/5程度、特に1/0.05〜1/2程度であることが好ましい。
このような脂肪族−芳香族ポリエステル系樹脂の具体例としては、BASF社製「ECOFLEX」、EASTMAN CHEMICAL社製「EASTAR BIO」、DuPONT社製「BIOMAXS」等が挙げられる。
【0014】
(B2)の脂肪族ポリエステルとしては、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを主成分として、その他脂肪族ヒドロキシカルボン酸等を種々組み合わせて合成されるポリエステルであって生分解性を有するものである。具体的には、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヘキサメチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、等が挙げられる。
具体例としては、昭和高分子株式会社製の「ビオノーレ」、三菱化学株式会社製の「GS Pla」等が挙げられる。
また、テレフタル酸やカーボネート等を共縮合した変性脂肪族ポリエステルであってもよい。
【0015】
本発明の常温塑性変形性樹脂組成物は、上記(A)樹脂と(B)樹脂を含み、その(重量)比率A:Bが90:10〜35:65であることを特徴とする。特に好ましくは、A:Bが85:15〜55:45の範囲、即ちポリ乳酸系樹脂(A)が主成分である樹脂組成物が、引張破断強度と塑性変形性が高く、好ましい。
本発明の樹脂組成物は上記成分以外に必要に応じて特に必要性能を阻害しない範囲に於いて各種熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、増核剤、顔料、滑剤、帯電防止剤、難燃助剤、充填剤、可塑剤、架橋剤、架橋助剤などを配合することができる。
しかしながら、可塑剤の添加は、本発明の常温塑性変形性を阻害する傾向にあるため、可塑剤は、実質量添加しない樹脂組成物とすることが好ましい。
好ましくは、上記(A)樹脂と(B)樹脂の合計量が、全体の樹脂組成物のうちの80重量%以上、好ましくは85重量%以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の樹脂組成物の製造方法に関しては何ら制限はない。各成分を任意の順序で、または同時に溶融混合することで各成分が均一に分布する組成物とすることができる。なお溶融混合する手段としては公知の手段が挙げられる。例えば、単軸押出機、2軸押出機のような連続混練機やミルロールやバンバリーミキサー、加圧ニーダーなどのバッチ式混練機が好適に使用できる。溶融混合する温度は160℃〜230℃が好ましい。
【0017】
本発明の常温塑性変形性樹脂組成物は、任意の成形方法により成形体として利用することができる。成形体の形状としては、帯状、線状、板状、棒状等が挙げられるが、特にこのましくは帯状、線状の成形体として用いると、その塑性変形性及び繰り返し特性が有効利用でき好ましい。
本発明の常温塑性変形性とは、少なくとも、テープやフィルム(帯状)又は糸(線状)の形態において、180℃折り曲げたときの10分経過後の戻り角度が60度以下のものを言う。
【0018】
本発明で得られる常温塑性変形性樹脂成形体は、従来の金属ワイヤー代替や形状保持性が要求される用途、例えば、包装用の結束材、果樹野菜の結束材、電線の結束材、食品用の結束材、洋服等のハンガー材、洋服の芯材、Yシャツのカラー芯材、帽子の縁部材、形状自在の人形用芯材、などの幅広い用途に用いることが可能である。
【0019】
本発明の常温塑性変形性樹脂組成物は機械的特性および加工性に優れることから容易に所望する成形品を得ることができる。また得られた成形品は要求に十分耐えうる機械的特性および作業性を悪化させることのない適度な柔軟性を有する。しかも生分解性を有するため、使用後自然環境下に放置された場合にあっても、特に環境負荷となる有害物質を発生することなく分解し環境保全上有用なものである。
【実施例1】
【0020】
以下に本発明に関して実施例および比較例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
<使用原料>表1に使用した原料を示す。引張破断伸びはJIS K7161に準拠して得られる値である。
<試料調整>表2および表3の配合比率に従い秤量した各種原料を、内容量20Lヘンシェルミキサー(回転数100回転、撹拌時間3分)に投入し撹拌後、混合物を同方向2軸押出機(口径30mm、L/D=30、回転数200rpm、設定温度200℃)へ挿入し溶融混練した後、ストランド状の樹脂を冷却、裁断することにより、組成が均一なペレットを得た。
<試験サンプルの作成>幅20mm、厚み0.5mmの口金を有するダイスを具備した20mm単軸押出機を用いて、得られた樹脂組成物を成形温度200℃で押出成形した後25℃で冷却することにより幅15mm、厚み0.5mmのテープ状成形品を得た。
折り曲げ試験片:上述押出成形にて得られたテープ状成形体を幅3mmの帯状成形体に裁断したものを折り曲げ試験片とした。
<各種試験方法>
屈曲試験:上述曲げ試験片を用いて試験を実施した。試験方法は、水平に置かれた試験片の左端および中央部を固定し、試験片右端を試験片左端へ接触するまで正方向に180度折り曲げ、その後元の位置まで戻しさらに逆方向に180度折り曲げた。その試験回数は、正、逆方向の折り曲げを1回として合計10回とし、その速度は1回/秒とした。
形状保持性確認試験:上述曲げ試験片を用い、屈曲試験と同様の方法により正方向に180度折り曲げた後、外力を取り去り、10分後の戻り角度を測定した。
引張試験:屈曲試験後の試験片を引張速度200mm/分の速度で引張試験を実施した。
<評価基準>繰り返し曲げ耐久試験:繰り返し曲げ耐久試験にて、脆性破壊が確認されないものを合格とし、ついで引張試験を実施した。
形状保持性:形状保持性確認試験にて、戻り角度が60度以内のものを合格とした。
引張試験:引張破断強度が20MPa以上であったものを合格とした。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
<結果>
上記結果のとおり、本発明の特定の樹脂組み合わせによる樹脂組成物によれば、常温での塑性変形が可能となり、かつ繰り返し曲げ耐久性、引張強度も優れた成形体を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂(A)と引張破断伸びが200%以上である生分解性を有する熱可塑性樹脂(B)を含み、A:Bの比率が90:10〜35:65である、常温塑性変形性樹脂組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸系樹脂(A)がL−乳酸またはD−乳酸を構成単位としたホモポリマーである請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂(B)が脂肪族ポリエステル樹脂または脂肪族−芳香族ポリエステルである請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3に記載の樹脂組成物を用いて成形される常温塑性変形性樹脂成形体。
【請求項5】
請求項4記載の成形体が細長い帯状または線状である常温塑性変形性樹脂成形体。
【請求項6】
幅3mm長さ15mm厚さ0.5mm試験片とした場合の180度折り曲げ後戻り角度が60度以下であり、かつ引張破断強度が20MPa以上である請求項4又は5記載の常温塑性変形性樹脂成形体。

【公開番号】特開2006−57052(P2006−57052A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242755(P2004−242755)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(500587920)アプコ株式会社 (12)
【出願人】(000176774)三菱化学エムケーブイ株式会社 (29)
【Fターム(参考)】