説明

常温架橋型水性合成樹脂組成物及び常温架橋型水性塗料

【課題】 環境衛生上の問題がなく、塗料、インキ、接着剤、コーティング剤等として好適な常温で架橋することができる合成樹脂水性組成物を提供する。
【解決手段】 カルボニル基含有不飽和単量体と、不飽和カルボン酸化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体との共重合体であって、ガラス転移温度が−20℃〜+50℃である重合体樹脂の水分散液に、架橋剤として下記一般式で示される四級化キトサンを添加してなる常温架橋型水性合成樹脂分散組成物。



〔式中、Rは低級アルキル基、Xはハロゲンイオンを表し、m及びnは正の整数を表す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温で架橋することができる合成樹脂水性組成物に関する。特に本発明は、環境衛生上の問題がなく、塗料、インキ、接着剤、コーティング剤等として好適な合成樹脂水性エマルション組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗料、インキ、接着剤等の分野では、省資源、環境衛生、無公害、安全性等の観点から、有機溶剤型から水性型への転換が進められている。水性塗料の代表的なものとしては、アクリル系共重合体エマルションをビヒクル成分とするものが挙げられるが、成膜過程でエマルション粒子の融着が必須であることから使用樹脂のガラス転移温度を低くしなければならないために耐汚染性、耐水性に問題がある。このような問題に対して、水溶性や水分散性のポリイソシアネートでエマルションを架橋させる方法があるが、2液型となるために取り扱いに問題がある。また、アクリル系共重合体エマルションの上記のような問題を解決したものとして、カルボニル基を有する共重合体エマルションとジヒドラジド化合物とを配合してなるエマルション組成物を用いたものも提案されている(特許文献1〜3参照)。しかし、使用されるヒドラジド化合物の毒性に起因して環境衛生上の制約を受けることがある。
【0003】
また、ヒドラジン誘導体を使用せずに、架橋剤として塩基性アミノ酸を使用し、カルボニル基を含有する合成樹脂水性エマルションに配合してなる常温架橋型合成樹脂エマルション組成物が提案されている(例えば、特許文献4、5参照)。
【特許文献1】米国特許第3,345,336号明細書
【特許文献2】特公昭58−20991号公報
【特許文献3】特開平4−249587号公報
【特許文献4】特開平9−165523号公報
【特許文献5】特開2004−123850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、環境衛生上の問題がない耐候性を備えた塗料、インキ、接着剤、コーティング剤等として好適な環境負荷の少ない合成樹脂水性エマルション組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の特性を備えた塗料等に使用できる水性合成樹脂組成物の開発研究を進める中で、塩基性アミノ酸架橋剤と共に用いられていた、カルボニル基及びカルボキシル基を含有する重合体についての架橋剤として四級化キトサンを使用することについての研究を重ねた結果、本発明を完成するに至ったものである。
【0006】
キトサンは、カルシウムと蛋白質の複合体であるキチンを脱アセチル化したものであり、アミノ基を有する唯一の多糖である。キチンは、蟹や海老等の甲殻類の甲羅、昆虫の外皮殻等の成分として地球上に広く分布している天然高分子の一つである。キトサンは白色ないし深紅色の固体で、水や有機溶剤に不溶な食物繊維の一種であり、従来は食品工場からでる排水や活性汚泥の凝集剤として使用されてきた。その後、これは、化粧品、人工皮膚、繊維、食品素材等に使用範囲が増大し、最近では、成人病(生活習慣病)に対する機能性食品として注目を浴び、既に食品添加物としての厚労省の指定を受け、一般食品の原料や健康食品向けの展開も行われている。
【0007】
このように、キトサンは天然に産出し、アミノ基や水酸基等の反応性の高い官能基を有しているところから、悪臭成分の吸着、ホルムアルデヒドの吸着、抗菌作用及び生分解性等の優れた性質を持っている。しかし、これらの優れた機能を活かした水性塗料は従来殆ど検討されていなかった。これは、キトサン自体が水に不溶性である点、また、溶媒である酸の水溶液中ではポリカチオン性を示すために、水性塗料に多く用いられているアニオン性乳化剤やアニオン性の添加剤と反応して凝集することに起因しているものと考えられる。そこで、本発明者らは、このキトサン中のアミノ基の一部を四級アルキル化した四級化キトサンとした場合について検討した結果、四級化キトサンは水溶性を示し、カルボニル基及びカルボキシル基を含有する重合体に対して架橋剤として作用し、常温硬化性に優れ、かつ環境負荷の少ない無公害の塗膜を形成することができることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
本発明は、以下の各発明を包含する。
【0008】
(1)カルボニル基含有不飽和単量体と、カルボキシル基含有不飽和単量体との共重合体であって、ガラス転移温度が−20℃〜+50℃である重合体樹脂の水分散液に、架橋剤として下記一般式で示される四級化キトサンを添加してなる常温架橋型水性合成樹脂分散組成物。
【化1】

〔式中、Rは低級アルキル基、Xはハロゲンイオンを表し、m及びnは正の整数を表す。〕
【0009】
(2)前記重合体樹脂の水分散液は、カルボニル基含有不飽和単量体と、カルボキシル基含有不飽和単量体とを乳化重合することによって調製されていることを特徴とする(1)項記載の常温架橋型水性合成樹脂分散組成物。
【0010】
(3)前記重合体樹脂の水分散液は、カルボニル基含有不飽和単量体と、カルボキシル基含有不飽和単量体とに加えて、両単量体成分と共重合可能なその他の単量体とを乳化重合することによって調製されていることを特徴とする(1)又は(2)項記載の常温架橋型水性合成樹脂分散組成物。
【0011】
(4)前記四級化キトサンは、溶媒中でハロゲン化アルキルを四級化剤としてのキトサンと反応させることによって製造されていることを特徴とする(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載の常温架橋型水性合成樹脂分散組成物。
【0012】
(5)前記ハロゲン化アルキルは、沃化アルキルであることを特徴とする(4)項記載の常温架橋型水性合成樹脂分散組成物。
【0013】
(6)前記四級化キトサンは、沃化アルキルをキトサンと反応させて沃素イオンを対イオンとする沃素型四級化キトサンを調製し、次いで得られる反応溶液中に塩化ナトリウム又は臭化ナトリウムを添加して塩素イオン又は臭素イオンとを置換させて塩素イオン又は臭素イオンを対イオンとする塩素型四級化キトサン又は臭素型四級化キトサンを得ることによって調製されている塩素イオンを対イオンとする塩素型四級化キトサン又は臭素イオンを対イオンとする臭素型四級化キトサンであることを特徴とする(1)項〜(5)項のいずれか1項に記載の常温架橋型水性合成樹脂分散組成物。
【0014】
(7)前記(1)項〜(6)項のいずれか1項に記載の常温架橋型水性合成樹脂分散組成物を含有する常温架橋型水性塗料。
【発明の効果】
【0015】
本発明の常温架橋型水性合成樹脂分散組成物は、安定なエマルションを形成しているために貯蔵安定性に優れた製品を調製することができると共に、耐汚染性に優れた塗膜を形成し、かつ、毒性がなく、環境衛生上の問題がないことから塗料組成物等の用途に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の常温架橋型水性合成樹脂分散組成物における合成樹脂は、不飽和アルデヒド化合物及び不飽和ケトン化合物から選ばれるカルボニル基含有不飽和単量体と、カルボキシル基含有不飽和単量体との共重合体であって、ガラス転移温度が−20℃〜+50℃である重合体樹脂である
【0017】
本発明の常温架橋型水性合成樹脂分散組成物における合成樹脂を形成する一方のモノマー成分は、カルボニル基含有不飽和単量体成分である。カルボニル基含有不飽和単量体とは、分子中にアルド基又はケト基を有し、重合可能な二重結合を有する化合物を意味する。
【0018】
カルボニル基含有不飽和単量体の例としては、アクロレイン、メタアクロレイン、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン、ビニルイソブチルケトン、アセトアセトキシプロピルクロナート、アセトアセトキシメチルアクリレート、アセトアセトキシメチルメタクリレート、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、アセトアセトキシプロピルアクリレート、アセトアセトキシプロピルメタクリレート、ホルミルスチロール、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタクリレート、アセトニルアクリレート、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、2−ヒドロキシプロピルアクリレート−アセチルアセテート、ブタンジオール−1,4−アクリレート−アセチルアセテート、アクリルオキシアルキルプロパナール、メタクリルオキシアルキルプロパナール等が挙げられる。これらの中では、アセトアセトキシプロピルクロナート、アセトアセトキシメチルアクリレート、アセトアセトキシメチルメタクリレート、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、アセトアセトキシプロピルアクリレート、アセトアセトキシプロピルメタクリレート等のアセトアセチル基含有不飽和化合物が好適である。
【0019】
本発明の常温架橋型水性合成樹脂分散組成物における合成樹脂を形成する他方のモノマー成分は、カルボキシル基含有重合性不飽和化合物からなる単量体成分である。そのような単量体成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸類、β−カルボキシエチルアクリレート等が挙げられる。これらのカルボキシル基含有重合性不飽和化合物の中では、入手が容易であること及び他の重合性単量体との共重合のし易さからアクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
【0020】
本発明の常温架橋型水性合成樹脂分散組成物における合成樹脂は、前記カルボニル基含有不飽和単量体成分と、前記カルボキシル基含有重合性不飽和化合物からなる単量体成分の他に、これらの単量体成分と容易に共重合することができる他の共重合性不飽和化合物を単量体成分として使用することができる。
【0021】
このような共重合性の他の単量体化合物としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸又はメタクリル酸のn−ブチル、i−ブチル、t−ブチルエステル体、アクリル酸2−エチルへキシル、メタククリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸ノニル、メタクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、メタクリル酸デシル、アクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸シクロへキシル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸ステアリル、アクリル酸イソノルボニル、メタクリル酸イソノルボルニル、アクリル酸1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジル、メタクリル酸1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジル、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリル酸2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル等のアクリル酸又はメタクリル酸のエステル類、スチレン、ビニルトルエン等のビニル芳香族化合物類、N−ビニルピロリドン、エチレン、ブタジエン、クロロプレン、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、アクルロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらは、所望の性能に応じて単独、又は2種以上併用される。
【0022】
また、他の単量体化合物としては、親水性基を有するモノマーも使用可能であり、これらは塗膜の透水性に悪影響を及ぼさない範囲内で使用することがこのましい。親水性基を有する単量体としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム塩、スルホエチルメタクリレート及びそのナトリウム塩やアンモニウム塩、アクリリアミド、メタクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリルアミド、グリシジルアクリレートやグリシジルメタクリレートとアミン類との付加物、ポリオキシエチレン鎖を有するアクリレートやメタクリレート類、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のアクリル酸やメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステル類等が挙げられる。
【0023】
本発明の常温架橋型水性合成樹脂分散組成物における水性合成樹脂分散体は、前記不飽和アルデヒド化合物及び不飽和ケトン化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体成分とカルボキシル基含有重合性不飽和化合物からなる単量体成分、及び必要に応じて前記他の共重合可能な重合性不飽和単量体成分とを、水の存在下で乳化重合させることによって製造される共重合体エマルションである。
【0024】
本発明の常温架橋型水性合成樹脂分散組成物における架橋剤としては、四級化キトサンが使用される。四級化キトサンは、ハロゲン化アルキルを四級化剤としてキトサンと反応させることによって得ることができる。
キトサンは、(1-4)-2−アセトアミド-2-デオキシ-β-D−グルカン構造を有する化合物であるキチンの脱アセチル化物、すなわち、(1-4)-2−アミノ-2-デオキシ-β-D−グルカン構造を有する化合物である。本発明においては、四級化キトサンとは、キトサン分子内の脱アセチル化されたアミノ基の一部、又は同分子内の水酸基の一部がアシルか反応、エーテル化反応、エステル化反応、その他の反応によって科学修飾された化合物をいう。
【0025】
一般に、天然に存在するキチンは、アセトアミド基の一部がアシル化されていないアミノ基となっている(N-アセチル基の脱アセチル化度が20%以下)。四級化キトサン又はその誘導体の原料キトサンとしては、キチンを加水分解処理してN−アセチル基の脱アセチル化度60%以上としたものが好ましい。例えば、N−アセチル基の脱アセチル化度80%のキトサンは、反応性の高いアミノ基を多く含むのでアミノ基の四級アルキル化が起こりやすい。四級化キトサンにおいて、好ましいアルキル基はメチル、エチル、プロピル、ブチル等の炭素数1〜12のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜3の低級アルキル基である。
キトサンを四級化するためのハロゲン化アルキルとしては、キトサンとの反応性が良好であることから沃素化アルキルが好ましい。ハロゲン化アルキルの中で、塩素化アルキルや臭素化アルキルはキトサンとの反応が非常に遅いために実用的でない。
【0026】
キトサンと反応性のよい沃化アルキルをキトサンと反応させる場合、アルコール水溶液等の溶媒中でキトサンと沃化アルキルとを反応させて沃素イオンを対イオンとする沃素型四級化キトサンを調製する。この反応溶液中には、沃素型四級化キトサンの他に、未反応の沃化アルキル類及び溶媒が存在している。
そこで、この反応溶液中に塩化ナトリウムを添加し、ヨウ素型四級化キトサンと反応させることによって、ヨウ素イオンと塩素イオンとを置換させて塩素イオンを対イオンとする塩素型四級化キトサンを得ることができる。あるいは、塩化ナトリウムの代わりに臭化ナトリウムを用いてヨウ素型四級化キトサンに反応させることによって、臭素イオンを対イオンとする臭素型四級化キトサンを得ることができる。
【0027】
上記のようにして得られる反応溶液中には塩素型あるいは臭素型四級化キトサンの他に、未反応のヨウ化アルキルや、未反応の塩化ナトリウムあるいは臭化ナトリウム、及び溶媒が存在しているので、反応溶液中から塩素型あるいは臭素型の四級化キトサンを固体として単離精製する必要がある。
そこで、まず、この反応溶液をアセトン等の塩素型あるいは臭素型四級化キトサンを溶解しない大量の非水性溶媒中に流し込み、塩素型あるいは臭素型四級化キトサンを析出させて沈殿させ、さらに、沈殿して得られた塩素型あるいは臭素型四級化キトサンを大量の非水性溶媒で洗浄した後、真空乾燥する。この段階では塩素型あるいは臭素型の四級化キトサンの純度が低いので、これを水に溶かし、再度大量の非水性溶媒に流し込んで再沈殿させ、この沈殿物を非水性溶媒で洗浄した後、これを真空乾燥する処理を数回繰り返すことによって、精製された塩素型あるいは臭素型の四級化キトサンを得ることができるものである。
【0028】
本発明の常温架橋型水性合成樹脂分散組成物における重合体水分散液と四級化キトサンの配合割合は、重合体水分散液中のカルボニル基1molに対して四級化キトサン中のアミノ基が0.01〜5molとなるような配合割合である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例に従って本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、各例中、「部」及び「%」は「質量部」及び「質量%」を示す。
【0030】
〔四級化キトサンの合成〕
四つ口フラスコにキトサン(共和テクノス社製、商品名:フローナックC−60M、脱アセチル化度88%)18.0g、蒸留水1320mlとメタノール(和光純薬製)960mlを入れ、全体を50℃で攪拌し、キトサンを混合溶媒中に分散させた。次いで、この分散液にヨードメタン(和光純薬社製)36.0mlを滴下しながら6時間かけてキトサンと反応させた。こうして四級アンモニウムのヨウ素塩を塩酸塩に転換した。反応液を3倍量のアセトン(和光純薬社製)に注いで綿状沈殿物を生成させ、これを取り出して吸引濾過し、再度アセトンで洗浄し、減圧乾燥した。この乾燥品を再び蒸留水に溶解し、四級アンモニウムの塩酸塩2質量%の溶液を得た。
この溶液を6倍量のアセトン(和光純薬社製)に注いで綿状沈殿物を生成させ、これを取り出して減圧乾燥した。
こうして、四級化キトサンを合成した。得られた四級化キトサンは1H−NMRスペクトル法で同定した。四級化度は約20%であった。
【0031】
〔アクリルエマルション(1)の合成〕
冷却管、温度計、滴下ロートを備えたセパラブルフラスコ中に、イオン交換水、ノニオン系反応性乳化剤(アデカリアソープER−20、ER−30、旭電化工業株式会社製)を入れ、温度60℃に保持した。反応性乳化剤を溶かした単量体とイオン交換水をホモミクサー中で10000rpmで乳化した乳化混合物を滴下ロートに入れ、混合物の一部を反応漕に投入し、重合開始剤〔2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩〕0.45部を少量の水に溶かして添加し、反応を開始した。反応液が白色から青白色に変化した後、滴下ロートから混合物を2時間かけて滴下した。滴下後、残りの2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩 0.15部を少量の水で溶かした液を添加し、温度を70℃に昇温し2時間熟成を行った。2時間後、冷却してアクリルエマルション(1)を得た。使用原料の配合を表1に示した。
【0032】
【表1】

【0033】
〔アクリルエマルション(2)及び(3)の合成〕
ダイアセトンアクリルアミド〔協和発酵工業(株)製〕12.5部をメタクリル酸メチル136部、アクリル酸2エチルヘキシル94部、アクリル酸2.5部、アクリル酸2ヒドロキシルエチル5部に溶かしてイオン交換水117.25部とアニオン系反応性乳化剤〔アデカリアソープSR−10:旭電化工業(株)製〕 16.5部を溶解させた中に加えて、ホモジナイザーで10000rpmで混合して乳化混合物を得た。この乳化混合物の5%を温度80℃に保持されたイオン交換水90部とアニオン系反応性乳化剤〔アデカリアソープSR−10:旭電化工業(株)製〕 0.25部が入っている温度計と冷却管、滴下ロートと撹拌機を備えたセパラブルフラスコ中に入れて、重合開始剤として過硫酸アンモニウム1部をイオン交換水25部で溶かした全量を加えて反応を開始した。5分経過後、残りの乳化混合物を3時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃で2時間熟成を行った。熟成終了後、60℃にまで冷却したのち、アンモニア水でpHが8〜9になるように調整した。使用原料の配合を表2に示した。
【0034】
【表2】

【0035】
実施例1
アクリルエマルション1を52部、炭酸カルシウム〔丸尾カルシウム(株)製、重質炭酸カルシウム〕20部、セルロース系増粘剤(RHEOX社製、ベナクア1000)0.1部、非シリコーン系水性消泡剤(サンノプコ社製、SNデフォーマー777)0.4部、レオロジーコントロール剤(RHEOX社製、レオレート216)1.0部、二酸化チタン(デュポン社製、R−706)25部、ノニオン系湿潤剤〔旭電化(株)製、アデカトールTN−100〕1.0部、及びアニオン系分散剤〔花王(株)製、ポイズ521〕0.5部を混合し、ディスパーで均一となるまで十分に撹拌して塗料組成物を作製した。
この塗料組成物100部に前記のように合成した四級化キトサン0.5部を加え、艶消し塗料(白エナメル)を作製した。
【0036】
実施例2
実施例1の塗料組成物100部に前記のように合成した四級化キトサン1.0部を加え、艶消し塗料(白エナメル)を作製した。
【0037】
実施例3
実施例1の塗料組成物100部に前記のように合成した四級化キトサン2.0部を加え、艶消し塗料(白エナメル) を作製した。
【0038】
比較例1
実施例1の塗料組成物をそのまま塗料として使用した。
【0039】
実施例4
表3に示した顔料ミルベース86部と前記アクリル系樹脂エマルション(2)200部(固形分換算で100部)とを加えて攪拌し、さらに成膜助剤〔2,2,4-トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、商品名「CS−12」、チッソ(株)製〕を加えて攪拌混合し、さらに前記のように合成した四級化キトサン4.0部を加えて塗料(白エナメル)を作製した。
【0040】
比較例2
表3に示した顔料ミルベース86部と前記アクリル系樹脂エマルション(3)200部(固形分換算で100部)とを加えて攪拌し、さらに成膜助剤〔2,2,4-トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、商品名「CS−12」、チッソ(株)製〕を加えて攪拌混合し、さらに四級化キトサン4.0部を加えて塗料(白エナメル)を作製した。
【0041】
(貯蔵安定性試験)
実施例及び比較例の塗料をプラスチック容器に入れ、50℃の乾燥機中で7日間放置した後の凝集物の発生の有無、及び粘度変化を下記の基準で評価し、表3及び表4示した。
◎:凝集物なし、及び粘度変化なし
○:凝集物なし、及び若干の粘度変化あり
×:凝集物が多量に見られるか、又はゲル化した
【0042】
(耐水性試験)
実施例及び比較例の塗料をシーラー〔恒和化学工業(株)製、ダイヤワイドシーラー〕を処理したフレキシブル板にスプレーを用いて塗装し、これを室温で1週間放置して試験片とした。この試験片を水中に浸漬して24時間後に試験片を引き上げて塗面を目視により以下の基準で評価し、表3及び表4示した。
◎:フクレなし
○:微細で部分的なフクレ
×:全面的なフクレ、又は塗膜の溶出

【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0045】
表3及び表4の結果から明らかなように、常温で架橋する本発明の水性合成樹脂分散組成物は、硬化後の塗膜が耐溶剤性に優れ、耐水性、耐熱性に優れた皮膜を形成することから、塗料、インキ、接着剤、コーティング剤等の幅広い分野において利用可能である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボニル基含有不飽和単量体と、不飽和カルボン酸化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体との共重合体であって、ガラス転移温度が−20℃〜+50℃である重合体樹脂の水分散液に、架橋剤として下記一般式で示される四級化キトサンを添加してなる常温架橋型水性合成樹脂分散組成物。
【化1】

〔式中、Rは低級アルキル基、Xはハロゲンイオンを表し、m及びnは正の整数を表す。〕
【請求項2】
前記重合体樹脂の水分散液は、カルボニル基含有不飽和単量体と、不飽和カルボン酸化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体とを乳化重合することによって調製されていることを特徴とする請求項1記載の常温架橋型水性合成樹脂分散組成物。
【請求項3】
前記重合体樹脂の水分散液は、カルボニル基含有不飽和単量体と、不飽和カルボン酸化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体とに加えて、両単量体成分と共重合可能なその他の単量体とを乳化重合することによって調製されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の常温架橋型水性合成樹脂分散組成物。
【請求項4】
前記四級化キトサンは、溶媒中でハロゲン化アルキルを四級化剤としてのキトサンと反応させることによって製造されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の常温架橋型水性合成樹脂分散組成物。
【請求項5】
前記ハロゲン化アルキルは、沃化アルキルであることを特徴とする請求項4記載の常温架橋型水性合成樹脂分散組成物。
【請求項6】
前記四級化キトサンは、沃化アルキルをキトサンと反応させて沃素イオンを対イオンとする沃素型四級化キトサンを調製し、次いで得られる反応溶液中に塩化ナトリウム又は臭化ナトリウムを添加して沃素イオンを塩素イオン又は臭素イオンとを置換させて調製されている、塩素イオンを対イオンとする塩素型四級化キトサン又は臭素イオンを対イオンとする臭素型四級化キトサンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の常温架橋型水性合成樹脂分散組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の常温架橋型水性合成樹脂分散組成物を含有する常温架橋型水性塗料。


【公開番号】特開2007−131731(P2007−131731A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325873(P2005−325873)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(591137086)恒和化学工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】