説明

常温硬化型塗料、その塗装方法および塗装物

【課題】 下塗り、中塗り、上塗り塗料を兼ねて、1回の塗装で優れた塗膜性能を得る。
【解決手段】 塗装物の金属材1に対して、前処理を実施して塗装に適する表面状態とし、アルキド樹脂ワニス60〜70重量%と、防錆顔料1.0〜2.0重量%と、上塗り着色顔料19.5重量%とを含有する常温硬化型塗料を1回塗装し、塗膜2を得ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた塗膜を形成する常温硬化型塗料、その塗料の塗装方法および塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、交通機器や産業機器などを構成する金属材に対して、前処理実施後、合成樹脂系下塗り塗料を塗装し、百数十℃に加熱した乾燥炉内で乾燥後、表面の凸凹をサンドペーパで研磨し、同様の合成樹脂系上塗り塗料を塗装していた。また、必要に応じ、同様の合成樹脂系中塗り塗料を塗装し、乾燥炉内で乾燥後、上塗り塗料を塗装していた。(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−245598号公報 (第2〜3ページ、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の従来の合成樹脂系塗料の塗装方法においては、次のような問題がある。
金属材の前処理後、下塗り塗料、中塗り塗料、上塗り塗料のそれぞれを各工程で塗装しているが、下塗り塗料、中塗り塗料の塗装後には、乾燥が必要であった。乾燥には、常温放置や乾燥炉内での加熱がある。
【0004】
しかしながら、各塗装工程での塗膜の乾燥が所定の硬化レベルまで達していないと、次工程での塗膜形成によって空気が遮断され、前工程での塗膜が未硬化状態となり接着性低下など品質低下が生じる可能性があった。このため、各工程でのリードタイムが長時間となっていた。
【0005】
また、下塗り塗料や中塗り塗料の乾燥後のサンドペーパによる研磨においては、平坦部のような単純な形状部では良好な研磨を行うことができるものの、複雑な形状部や狭い部分では充分な研磨を行うことが困難であった。研磨が不十分であると、次工程での塗膜の形成が困難となる。
【0006】
これらのことから、加熱による乾燥を必要とせず、1回の塗装で優れた塗膜性能を発揮し、塗装作業を短時間とすることのできる塗料が望まれていた。
【0007】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、1回の塗装で優れた塗膜性能を発揮する常温硬化型塗料とその塗装方法および塗装物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の常温硬化型塗料は、アルキド樹脂ワニス60〜70重量%と、防錆顔料1.0〜2.0重量%と、上塗り着色顔料19.5重量%とを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、下塗り塗料、中塗り塗料、上塗り塗料の全ての機能を有する常温硬化型塗料で塗装を行うので、1回の塗装により、初期物性のみならず、長期間に亘っても優れた塗膜性能が得られ、塗装作業を短時間とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0011】
本発明の実施例に係る常温硬化型塗料を図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施例に係る金属材への塗装系を示す断面図である。
【0012】
図1に示すように、交通機器や産業機器を構成する酸洗鋼板や冷延鋼板(SPCC)のような金属材1の表面には、常温硬化型塗料を1回の塗装で形成させた塗膜2が設けられている。
【0013】
以下、この塗装方法を説明する。
【0014】
先ず、金属材1の表面を前処理し、塗装に適する表面状態にする。前処理には、脱脂後、リン酸亜鉛被膜を設ける化学的処理や、砂を吹き付けるサンドブラスト処理の機械的処理などがあり、いずれの処理でもよい。
【0015】
次に、表1に示す常温硬化型塗料を、例えばスプレー塗装し、40〜100μmの厚さの塗膜2を形成し、常温で硬化させる。
【表1】

【0016】
ここで、アルキド樹脂ワニスは、塗膜2の付着力を得るものであり、かっこ内に示した範囲内において強固な付着力を得ることができる。この範囲外となると、後述する各試験で良好な結果が得られなくなる。また、防錆顔料は、防錆効果を得るものであり、かっこ内に示した範囲内において優れた防錆効果を得ることができる。この範囲外で防錆顔料の添加が多過ぎると、色および光沢度が不安定となり、少な過ぎると優れた防錆効果が得られなくなる。即ち、表1に示した配合条件により、強固な付着力と優れた防錆効果とを得ることができる。
【0017】
防錆顔料は、リン酸アルミニウムとリン酸亜鉛とを1:1で混合したものであるが、リン酸アルミニウム:リン酸亜鉛=0.4〜0.6:0.6〜0:4の比率で変化させても優れた防錆効果を得ることができる。また、リン酸アルミニウムとリン酸亜鉛との少なくともひとつを用いても防錆効果を得ることができる。
【0018】
表1の常温硬化型塗料で40〜100μmの厚さに形成させた塗膜2について、以下のような試験を行った。
【0019】
1.初期物性試験(塗装後、常温放置で1週間経過後)
1−1硬度:JIS K 5600 鉛筆引っかき試験
1−2付着力:ASTM 3359(碁盤目またはクロスカット+粘着テープ試験)
2.耐久性試験
2−1塩水噴霧試験:JIS Z2371 塩水噴霧試験750時間実施後の外観判定および2次物性試験
2−2耐湿試験:JIS K 5600 耐湿試験(50℃、95%RH)300時間実施後の外観判定および2次物性試験
2−3亜硫酸ガス試験:20ppm、40℃、90%RH、500時間実施後の外観判定および2次物性試験
2−4塩素ガス試験:1ppm、40℃、90%RH、500時間実施後の外観判定および2次物性試験
2−5耐候性試験:JIS K 5600 促進耐候性試験(サンシャインカーボンアーク灯式)300時間実施後の外観判定、初期状態に対する色差ΔE、光沢度保持率、および2次物性試験
【0020】
これらの試験結果を表2に示す。
【表2】

【0021】
表2から、常温硬化型塗料による塗膜2は、優れた塗膜性能(耐久性能)を有することがわかる。ここで、耐候性試験の色差においては、色差ΔE=0.5以内であり、また、光沢度においては、60度鏡面光沢度の測定でバラツキが10以内であり、厳しい管理がされるものに適するようになる。例えば、色外観の要求の高い受配電設備のような重電機器に適するものとなる。また、優れた塩水噴霧特性を有するので、例えば海岸地域を走行する交通機器に対しても適するものとなる。
【0022】
更に、この常温硬化型塗料は、下塗り塗料、中塗り塗料、上塗り塗料の全ての機能を備えていることから、1回の塗装でよく、塗装作業を短時間とすることができる。また、一般のアルキド樹脂塗装系の単独機能として、既存の塗装工程の塗装物にも使用することができる。
【0023】
上記実施例の常温硬化型塗料によれば、下塗り塗料、中塗り塗料、上塗り塗料の全ての機能を有しているので、1回の塗装で優れた塗膜2を得ることができ、初期物性のみならず、長期間に亘っても優れた塗膜性能が得られ、塗装作業を短時間とすることができる。
【0024】
なお、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施することができる。上記実施例では、交通機器や産業機器への塗装ついて説明したが、一般の構造物に対してもアルキド樹脂よりなる常温硬化型塗料を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例に係る金属材への塗装系を示す断面図。
【符号の説明】
【0026】
1 金属材
2 塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキド樹脂ワニス60〜70重量%と、
防錆顔料1.0〜2.0重量%と、
上塗り着色顔料19.5重量%とを含有することを特徴とする常温硬化型塗料。
【請求項2】
前記防錆顔料は、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛のうち少なくともひとつを含むことを特徴とする請求項1に記載の常温硬化型塗料。
【請求項3】
前記防錆顔料は、リン酸アルミニウムとリン酸亜鉛との比率が1:1であることを特徴とする請求項1に記載の常温硬化型塗料。
【請求項4】
前記請求項1乃至前記請求項3のいずれか1項に記載の常温硬化型塗料を、下塗り、中塗り、上塗りのいずれかの工程で金属材に塗装することを特徴とする常温硬化型塗料の塗装方法。
【請求項5】
前記請求項1乃至前記請求項3のいずれか1項に記載の常温硬化型塗料を、金属材に塗装することを特徴とする常温硬化型塗料の塗装物。

【図1】
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【公開番号】特開2007−314633(P2007−314633A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−144126(P2006−144126)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】