説明

常温硬化性の水性樹脂組成物

【構成】 (A)エポキシ樹脂20〜60重量部の存在下に、(B)a.芳香族不飽和化合物、b.α,β−不飽和モノカルボン酸のC1〜C12のアルキルエステル、c.α,β−不飽和モノカルボン酸のヒドロキシアルキルエステルを必須成分とするラジカル重合性モノマー40〜80重量部を乳化重合して得られた水性樹脂組成物であって、その水性樹脂組成物から得られるフィルムのガラス転移点(Tg)が10〜−40℃の範囲である常温硬化性の水性樹脂組成物。
【効果】 ラジカル重合性のカルボン酸成分を含有していないため、貯蔵中の変化もなく貯蔵後の接着力の低下がなく、また従来のエポキシ樹脂との組わせによるエマルジョンに比べ相溶性が良好であるためコンタクト性が良好であり、かつエポキシ樹脂による硬化もスムーズに進行するので溶剤系クロロプレン接着剤と同等性能を有する常温硬化性の水性樹脂組成物、が得られた。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は常温または加熱により乾燥させることによって粘着性を発揮し、かつ時間の経過に伴って非粘着性となる性質を与える組成物であり、詳しくは乾燥直後に高い接着力を与え、かつ常温でそのまま放置することにより高い耐熱性、耐水性、接着性を発揮する常温硬化性の水性樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来技術】近年、省資源、地球環境に優しい材料の開発が進められている。その中でも溶剤系クロロプレン接着剤の代替が積極的に行われている。このクロロプレン接着剤は、(1)溶剤乾燥直後の接着力(コンタクト性)が良好である、(2)養生後高結晶性のため接着力が高い、(3)耐熱性、耐水性が良好である、等の特徴を有している。このクロロプレン接着剤の水性化は、例えばクロロプレンゴムのエマルジョン化や、従来からある熱可塑性のアクリルエマルジョン、ウレタンエマルジョンの高性能化等が行われているが、コンタクト性と養生後の接着力と耐熱性、耐水性のバランスが図れず、いまだ満足しうるものはない。これに対して従来の熱可塑性エマルジョン単独ではなく、熱硬化性のエポキシ樹脂との組み合わせによりコンタクト性、養生後の接着力、耐熱性、耐水性のバランスを図る試みがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながらエポキシ樹脂のエマルジョンを単純にブレンドしただけでは、貯蔵中にエポキシ樹脂と残りの重合体成分とが分離したり、エポキシ樹脂エマルジョンを製造するときに使用される多量の乳化剤が耐水性に影響を及ぼすという欠点があった。これらに対し、例えば特開昭49−106586号公報ではエポキシ樹脂存在下で乳化重合を行い分離の問題を解決している。また、特開昭57−115418号公報ではエポキシ樹脂の末端を一部アクリロイル基とすることによりアクリルポリマーとの相溶性を改良し、貯蔵中の分離を防ぐとともに性能の向上を図っている。これらの改良により従来の課題はかなり解決されてきているものの、両先行技術で開示されている組成では、エマルジョンの貯蔵中にエポキシ樹脂のエポキシ基とポリマー中カルボン酸に由来するカルボキシル基との反応が進行し、貯蔵後の接着力が低下してしまう問題を含んでいた。
【0004】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するため、本発明者らは、エポキシ樹脂と特定モノマーから得られるポリマーとの組み合わせを選択するとともに、かつ乾燥後のフィルムのガラス転移点(以下「Tg」という。)に着目して本発明を完成するに至った。
【0005】すなわち、本発明は、(A)エポキシ樹脂20〜60重量部の存在下に、(B)a.芳香族不飽和化合物、b.α,β−不飽和モノカルボン酸のC1〜C12のアルキルエステル、c.α,β−不飽和モノカルボン酸のヒドロキシアルキルエステルを必須成分とするラジカル重合性モノマー40〜80重量部を乳化重合して得られた水性樹脂組成物であって、その水性樹脂組成物から得られるフィルムのTgが10〜−40℃の範囲である常温硬化性の水性樹脂組成物である。以下に本発明を詳細に説明する。
【0006】本発明で使用されるエポキシ樹脂とは、1分子中に1個以上のエポキシ基を有する化合物であり、例えばグリシジルエーテル類、グリシジルエステル類、グリシジルアミン類、線状脂肪族エポキサイド類、脂環族エポキサイドなどが挙げられる。
【0007】グリシジルエーテル類としては、芳香族グリシジルエーテル、脂肪族グリシジルエーテルが挙げられ、芳香族グリシジルエーテルとしては例えばビスフェノールのジグリシジルエーテル、フェノールノボラックのポリグリシジルエーテル、ビフェノールのジグリシジルエーテルが挙げられる。該ビスフェノールのジグリシジルエーテルとしては例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAなどのジグリシジルエーテルが挙げられ、フェノールノボラックのポリグリシジルエーテルとしては例えば、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ブロム化フェノールノボラックなどのポリグリシジルエーテルが挙げられ、ビフェノールのジグリシジルエーテルとしては例えば、ビフェノール、テトラメチルビフェノールのジグリシジルエーテルが挙げられる。
【0008】脂肪族グリシジルエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、テトラメチレングリコールなどのグリシジルエーテルが挙げられる。グリシジルエステル類としては、芳香族グリシジルエステル、脂環式グリシジルエステルなどが挙げられる。芳香族グリシジルエステルとしては例えば、フタル酸、テレフタル酸。イソフタル酸などのジグリシジルエステルが挙げられ、脂環式グリシジルエステルとしては、例えばヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ダイマー酸等のグリシジルエステルが挙げられる。
【0009】グリシジルアミン類としては例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルメタキシリレンジアミン、トリグリシジルアミノフェールなどが挙げられる。
【0010】線状脂肪族エポキサイド類としては例えば、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油などが挙げられ、脂環族エポキサイドとしては例えば、3,4エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチルカルボキシレート、3,4エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレートなどが挙げられる。
【0011】エポキシ樹脂は単独で使用してもよく2種類以上を組み合わせてもよい。好ましいエポキシ樹脂は耐熱性、耐水性の観点からグリシジルエーテル類であり、さらに好ましくはビスフェノールのジグリシジルエーテルであり、特にに好ましくはビフェノールA、ビフェノールFのジグリシジルエーテルである。エポキシ樹脂のエポキシ当量は100〜10000の範囲ものを用いることができ、常温硬化性、耐熱性、耐水性の観点から好ましくは150〜3000であり、さらに好ましくは170〜1000である。
【0012】本発明で使用するラジカル重合性モノマーは、a.芳香族不飽和化合物、b.α,β−不飽和モノカルボン酸のC1〜C12のアルキルエステル、およびc.α,β−不飽和モノカルボン酸のヒドロキシアルキルエステルを必須成分とするものであって、不飽和カルボン酸を含有しないものである。
【0013】芳香族不飽和化合物として例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどが挙げられる。α,β−不飽和モノカルボン酸のC1〜C12のアルキルエステルとしては例えば、アクリル酸またはメタクリル酸のC1〜C12のアルキルエステルが挙げられる。アクリル酸またはメタクリル酸のC1〜C12のアルキルエステルとしては例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレートなどが挙げられる。
【0014】α,β−不飽和モノカルボン酸のヒドロキシアルキルエステルとしては例えば、アクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステルが挙げられる。アクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステルとしては例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタアクリレート等が挙げられる。
【0015】本発明におけるラジカル重合性モノマーの組成とエポキシ樹脂との組み合わせにおいて、初めてコンタクト性と耐熱性との高度のバランスが図られる。芳香族不飽和化合物を用いない場合、本発明のTg範囲にあわせた場合でも高度のコンタクト性は得られない。α,β−不飽和モノカルボン酸のC1〜C12のアルキルエステルを用いない場合、Tgコントロールが容易でなくなるととともに、高度のコンタクト性が得られない。Cが13を越えるアルキルエステルを用いた場合、高度の耐熱性が得られない。また、アクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステルを用いない場合、水性樹脂組成物が不安定となり粒子の沈降・凝集が起こる。
【0016】ラジカル重合性モノマーのa.、b.、c.は各々単独で使用してもよく、また各々が2種以上の混合物であってもよい。ラジカル重合性モノマーで好ましいものは、芳香族不飽和化合物ではスチレンであり、α,β−不飽和モノカルボン酸のC1〜C12のアルキルエステルではエチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートであり、さらに好ましくはブチルアクリレートであり、α,β−不飽和モノカルボン酸のヒドロキシアルキルエステルでは2−ヒドロキシエチルメタクリレートである。
【0017】本発明必須成分のラジカル重合性モノマー以外のラジカル重合性モノマーも必要に応じて組み合わせててもよい。例えば、アミド基含有モノマーとして例えばアクリルアミド、メタクリルアミド;メチロール基含有モノマーとして例えばN−メチロールアクリルアミド、ジメチロールアクリルアミド;アルコキシメチル基含有モノマーとして例えばN−ブトキシメチルアクリルアミド、N−メチキシメチルアクリルアミド;エポキシ基含有モノマーとして例えばグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート;α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノまたはジエステルとして例えばマレイン酸モノまたはジブチル、フマル酸モノまたはジオクチル;ビニルエステルとして例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル;不飽和ニトリルとして例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル;オレフィンとして例えばブタジエン、イソプレン;塩素含有ビニルモノマーとして例えば塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロプレン;ジビニルモノマーとして例えばジビニルベンゼン、ポリオキシエチレンジアクリレート、ポリオキシエチレンジメタクリレートなどを挙げることができる。不飽和カルボン酸は含有してはならない。
【0018】本発明においてエポキシ樹脂とラジカル重合性モノマーとの比率は、エポキシ樹脂20〜60重量部に対してラジカル重合性モノマーが40〜80重量部であり、好ましくはエポキシ樹脂が25〜55重量部に対してラジカル重合性モノマーが45〜75重量部である。エポキシ樹脂が20重量部未満だと耐熱性、耐水性が不良であり、また60重量部をこえるとコンタクト性が不良となる。
【0019】本発明の水性樹脂組成物から得られるフィルムのTgは10〜−40℃の範囲であり、好ましくは0〜−30℃である。10℃を越えるとコンタクト性が不足し接着力が不良となり、−40℃未満で接着力が不足する。本発明から得られるフィルムは、ビニルポリマーと未硬化エポキシ樹脂とが相溶している状態が好ましい。すなわち、相溶することによりフィルムのTgがビニルポリマーの要因のみでなく、溶解しているエポキシ樹脂の量、分子量等にも左右される。例えば、ビニルポリマー自身のTgを高く設定したとしても、エポキシ樹脂添加量が多い場合はその可塑化効果により、フィルムのTgは低下する。その逆も有り得る。したがってラジカル重合性モノマーの組成比は、エポキシ樹脂相溶下でのフィルムのTgをどこに設定するかにより決定されるものである。ただし、コタンクト性、エポキシ樹脂硬化後の耐熱性、耐水性の面からみて、ラジカル重合性モノマーの最適範囲は存在する。
【0020】本発明の必須成分であるa.芳香族不飽和化合物、b.α,β−不飽和モノカルボン酸のC1〜C12のアルキルエステル、およびc.α,β−不飽和モノカルボン酸のヒドロキシアルキルエステルの組成比は、好ましくはa.芳香族不飽和化合物が20〜80重量%、b.α,β−不飽和モノカルボン酸のC1〜C12のアルキルエステルが20〜80重量%、c.α,β−不飽和モノカルボン酸のヒドロキシアルキルエステル0.1〜20重量%である。
【0021】本発明のTgは、示差走査熱量計を用い−100℃から昇温速度10℃/分で測定できる。得られたデータの変曲点をTgとし、変曲点が2つ以上ある場合は高温側の変曲点をTgとする。Tg測定に際して用いるサンプルは、水性樹脂組成物を常温または加熱により乾燥させたものでなければならない。但し加熱による乾燥する場合、過剰な加熱はTgの変化を伴うのでできるだけ速やかに行うことが必要である。
【0022】本発明における乳化重合は、従来公知の重合技術、すなわちラジカル重合性モノマー、ラジカル重合開始剤、水、界面活性剤の存在下によって行われる。本発明の場合、例えばエポキシ樹脂とラジカル重合性モノマーとを予め室温または加温下で十分に撹拌を行うことによって均一に溶解させ、これに界面活性剤、分散剤、保護コロイド等と水及びラジカル重合開始剤を加えて乳化分散液としたのち重合する方法が挙げられる。この方法以外にも例えば、エポキシ樹脂とラジカル重合性モノマーを別個に乳化分散させ重合に供する方法、エポキシ樹脂のみを乳化分散させラジカル重合性モノマーを直接重合させる方法等が挙げられ、また重合開始剤の添加方法も乳化分散液と一緒に添加させたり、別個に添加させたりもできる。乳化重合時にラジカル重合性モノマーとエポキシ樹脂とは反応しても、しなくてもよい。好ましくは反応しないほうがよい。
【0023】使用する界面活性剤としては、イオン性、非イオン性の界面活性剤があり、イオン性界面活性剤としてはアニオン性、カチオン性、両性が挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、例えば脂肪酸、高級アルコールの硫酸エステル塩、液体脂肪油の硫酸エステル塩、脂肪族アミンおよび脂肪族アマイドの硫酸塩、脂肪族アルコールのリン酸エステル、二塩基性脂肪酸エステルのスルホン酸塩、脂肪族アミドのスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩、ホルマリン縮合ナフタリンスルホン酸塩等が挙げられ、カチオン性界面活性剤としては例えば第一アミン塩、第二アミン塩、第三アミン塩、第四アンモニウム塩、ピリジニウム塩等が挙げられ、両性界面活性剤としては例えばカルボン酸塩型、硫酸エステル塩型、スルホン酸塩型、リン酸エステル塩等が挙げられる。
【0024】非イオン性界面活性剤としては例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等が挙げられる。また上記で挙げた非反応性の界面活性剤以外にも反応性の界面活性剤も使用することができる。反応性界面活性剤としては一分子中にラジカル重合性の官能基を有しかつスルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸塩基、スルホン酸エステル塩基から選ばれる一個以上の官能基を有するもの、または一分子中にラジカル重合性の官能基を有しかつポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン複合タイプのアルキルエーテルまたはアルコールを有するものである。これらの界面活性剤は一種でも、また2種以上と組み合わせてしようしてもよい。分散剤、保護コロイドとしては例えばポリリン酸塩、ポリアクリル酸塩、無水マレイイン酸コポリマー塩、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルアルコール等が挙げられる。
【0025】重合開始剤としては、水溶性、油溶性の重合開始剤が使用できる。水溶性の重合開始剤としては例えば、過硫酸塩、過酸化物、水溶性のアゾビス化合物、過酸化物−還元剤のレドックス系等が挙げられ、過硫酸塩としては例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリム、等が挙げられ、過酸化物としては例えば過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシマレイン酸、コハク酸パーオキシドが挙げられ、水溶性アゾビス化合物としては例えば2,2’−アゾビス(N−ヒドロキシエチルイソブチルアミド)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩化水素、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等が挙げられ、過酸化物−還元剤のレドックス系としては例えば、先の過酸化物に亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム、第一銅塩、第一鉄塩等の還元剤の添加が挙げられる。
【0026】油溶性の重合開始剤としては例えば、過酸化物、油溶性のアゾビス化合物等が挙げられ、過酸化物としては例えばベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等が挙げられ、油溶性のアゾビス化合物としては例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等が挙げられる。
【0027】本発明の重合では、必要に応じてリン酸水素ナトリウムや炭酸水素ナトリウム等のpH調整剤、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンや低分子ハロゲン化合物等の分子量調整剤、可塑剤、有機溶剤等を乳化重合の前・中・後に添加することができる。重合温度は、例えば0〜100℃の範囲であり、特に30〜90℃範囲が好ましく、不活性雰囲気中、常圧下または必要に応じて加圧下で行われる。
【0028】本発明の水性樹脂組成物はそのまま用いてもよいが、含有しているエポキシ樹脂を硬化させるために必要に応じて硬化剤を配合してもよい。硬化剤としては例えば、ポリアミン系、酸無水物系、フェノール樹脂、ポリメルカプタン、ルイス酸錯体等が挙げられる。ポリアミン系硬化剤としては脂肪族ポリアミン、脂環族ポリアミン、芳香族ポリアミン、ポリアミド、第三級アミンが挙げられ、脂肪族ポリアミンとしては例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンおよびこれらの変性体等が挙げられる。
【0029】脂環族ポリアミンとしては例えば、イソホロンジアミン、メンタンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、ジアミノジシクロヘキシルメタンやこれらの変性体等が挙げられる。芳香族ポリアミンとしては例えば、m−キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホンやこれらの変性体等が挙げられる。ポリアミドとしては例えばダイマー酸等のジカルボン酸と先のポリアミンとの縮合物が挙げられる。第三級アミンとしては例えば、ジメチルベンジルアミン、2,4,6−トリスジメチルアミノメチルフェノール等の第三級アミノ基含有化合物やこれらの変性体や、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールなどのイミダゾール化合物やこれらの変性体等が挙げられる。
【0030】その他ポリアミンとしてはジシアンジミド、アジピン酸ジヒドラジッド等が挙げられる。酸無水物としては例えば、1官能性として無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸やこれらの変性体が挙げられ、2官能性として無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸やこれらの変性体が挙げられる。フェノール樹脂としては例えば、ノボラック型のフェノール樹脂、レゾール型のフェノール樹脂等が挙げられる、ポリメルカプタンとしては例えば、チオグリコール酸と多価アルコールとの縮合物やポリサルファイド等が挙げられる。ルイス酸錯体としては例えば三フッ化ホウ素のアミン錯体などが挙げられる。これらの硬化剤は一種または二種以上と組み合わせてもよい。好ましくはポリアミン系硬化剤である。
【0031】ポリアミン系硬化剤の添加量は、含有しているエポキシ基と当量であることが好ましい。本発明の水性樹脂組成物を用いた場合、配合量が多いポリアミン系硬化剤であっても、コンタクト性が損なわれることはない。 本発明の水性樹脂組成物を硬化剤を用いて硬化させるとき、例えば接着剤として応用する場合被着体に塗布する前に両者を混合してもよく、また一方の被着体に本発明の水性樹脂組成物を塗布し、もう一方の被着体に硬化剤を塗布し、該両被着体の塗布面を重ね合わせて混合する方法も用いることができる。特に後者の方法は可使時間の延長をはかることができる利点がある。
【0032】本発明の水性樹脂組成物の硬化は常温または加熱により水を揮散した後、常温で硬化を進めてもよく、また加熱により硬化を進めてもよい。また、水を揮散せずに被着体を張り合わせ、常温または加熱により硬化を進めてもよい。
【0033】本発明の水性樹脂組成物には必要に応じてタッキファイヤー、ゴム成分を添加してもよい。タッキファイヤーとしては例えば、ロジン系、ロジン誘導体系、テルペン樹脂系、テルペン誘導体系等の天然系タッキファイヤーや、石油樹脂系、スチレン樹脂系、クマロンインデン樹脂系、フェノール樹脂系、キシレン樹脂系等の合成系タッキファイヤー等が挙げられる。これらのタッキファイヤーは水分散または水溶液の形で加えることが好ましい。ゴム成分としては例えば、液状ニトリルゴム、シリコンゴム等が挙げられる。また、硬化性能をさらに向上させるためにメラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などのアミノ樹脂を添加してもよい。また、殺菌剤、防腐剤、消泡剤、可塑剤、pH調整剤等を添加してもよい。
【0034】本発明の水性樹脂組成物は、接着剤、粘着剤はもとより、塗料、印刷インキ、ガスバリヤ性包装材料、加工紙、繊維加工剤、建築材料などに使用することができる。接着剤としては例えば、木材、合板、パーティクルボード、石膏ボード、鉄、アルミ等の金属、プラスチックフィルム、プラスチックフォーム、プラスチックの不織布、皮革、木綿、麻等の布、ガラス繊維、ガラス布、FRP等の接着が挙げられる。粘着剤分野としては例えばテープ、ラベル、壁紙、床材等が挙げられ、塗料分野としては例えばコンクリート、木材、金属、フロアポリッシュ等が挙げられ、繊維加工剤としては例えば不織布、カーペット、電気植毛布、積層布、タイヤコード等が挙げられ、建築材料としては例えばシーリング材、ラテックスセメント、防水材等が挙げられる。
【0035】
【実施例】以下に本発明の実施例を説明する。なお、特に指定のない限り部は重量基準とする。
(実施例1〜11)
(1)エマルションの調整表1に示すラジカル重合性モノマーとエポキシ樹脂の混合物100部に、エマルゲン950(花王(株)製 ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)の25%水溶液8部、レベノールWZ(花王(株)製 ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム)の25%水溶液4部、過硫酸アンモニウム0.2部、蒸留水43部を添加し、ホモミキサーで撹拌を行いプレ乳化物を作製した。別に撹拌機付きフラスコに蒸留水40部、エマルゲン950の25%水溶液2部を仕込み、80℃に昇温し、過硫酸アンモニウム0.1部を水5部に溶解したものを添加する。これに、前記プレ乳化物を4時間かけて連続滴下する。その後過硫酸アンモニウム0.05部を水5部に溶解したものを添加し、同温度で1時間重合を続けた。その後30℃以下まで冷却し、25%濃度のアンモニア水でpHを7に調整して固形分50%のエマルションを得た。重合後の粘度、およびエマルション乾燥後のTgを表1に併せて示す。
【0036】(比較例1〜6)表2に示すラジカル重合性モノマーとエポキシ樹脂の混合物を実施例と同様の方法で乳化重合を行い、エマルションを得た。重合後の粘度、およびエマルション乾燥後のTgを表2に併せて示す。
(2)評価方法および評価結果イ.硬化剤との配合実施例例1〜12、比較例1〜6で得たエマルションに市販の硬化剤アンカミン2075(A.C.I.ジャパンリミッテド製 変性脂環式ポリアミン 添加量エポキシ樹脂に対して40phr)、アンカミン1769(A.C.I.ジャパンリミッテド製 変性脂肪族ポリアミン 添加量エポキシ樹脂に対して25phr)、2−メチルイミダゾール(添加量エポキシ樹脂に対して5phr)を表3、表4に示す割合で撹拌混合し配合品を得た。
ロ.接着性能の評価上記配合品を下記に示す方法で、接着性能の評価を行った。その結果を表5〜6に示す。
【0037】■塗布・接着増粘剤で配合品の粘度を5000cpsに調整した後、ワイヤーバー#75を用いて合板および1インチ幅の9号キャンバスに塗布し、20℃で20分乾燥させる。その後配合品が乾燥した面を張り合わせ、4.5kgのローラーを2回往復させた。
【0038】■初期接着強さ張り合わせた後20℃で1時間放置したサンプルを用い、テンシロン引っ張り試験機で180°ハクリ強さを測定した。2.0kg/inch以上を合格と判定する。引っ張り速度は50mm/minとした。
【0039】■養生後接着強さ張り合わせた後20℃で7日放置したサンプルを用い、テンシロン引っ張り試験機で180°ハクリ強さを測定した。4.0kg/inch以上を合格と判定する。引っ張り速度は50mm/minとした。
【0040】■耐熱性張り合わせた後20℃で7日放置したサンプルを、60℃雰囲気下で200gの重りを90°方向に引っ張り、24時間放置後に重りが落下しなければ合格とし、落下の場合不合格と判定した。重りはキャンバス側に付けた。
【0041】ハ.貯蔵安定性評価エマルションのみを50℃のオーブンに2週間放置し、放置後の初期接着強さを測定した。放置前後の初期接着強さの変化率が80%以上を合格と判定する。表7に結果を示す
【0042】
【表1】


【0043】
【表2】


【0044】
【表3】


【0045】
【表4】


【0046】
【表5】


【0047】
【表6】


【0048】
【表7】


【0049】
【発明の効果】本発明から得られる常温硬化性の水性樹脂組成物は、ラジカル重合性のカルボン酸成分を含有していないため、表7の結果から貯蔵中の変化もなく貯蔵後の接着力の低下がなく、また表5の結果から従来のエポキシ樹脂との組わせによるエマルジョンに比べ相溶性が良好であるためコンタクト性が良好であり、かつエポキシ樹脂による硬化もスムーズに進行するので溶剤系クロロプレン接着剤と同等性能を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)エポキシ樹脂20〜60重量部の存在下に、(B)a.芳香族不飽和化合物、b.α,β−不飽和モノカルボン酸のC1〜C12のアルキルエステル、c.α,β−不飽和モノカルボン酸のヒドロキシアルキルエステルを必須成分とするラジカル重合性モノマー40〜80重量部を乳化重合して得られた水性樹脂組成物であって、その水性樹脂組成物から得られるフィルムのガラス転移点(Tg)が10〜−40℃の範囲である常温硬化性の水性樹脂組成物。