説明

常温絶縁型超電導ケーブル、およびその製造方法

【課題】過大な異常時電流に対して劣化し難くい常温絶縁型超電導ケーブルを提供する。
【解決手段】フォーマ11の外周に超電導導体層12を形成してなる導体部10、およびその導体部10を内部に収納する断熱管13を有する低温導電部1と、断熱管13の外周を取り囲む常温側電気絶縁層23を有する常温被覆部2と、を備える常温絶縁型超電導ケーブル100である。この超電導ケーブル100の常温被覆部2は、常温側電気絶縁層23の内側で、かつ断熱管13の外側に配置され、異常時電流を分担する常電導の分流導体22を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体部を断熱管内に収納してなる低温導電部と、その低温導電部の外周を取り囲む常温側電気絶縁層を有する常温被覆部と、を備える常温絶縁型超電導ケーブル、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導ケーブルでは、一般にフォーマの外周上に超電導導体層を有する導体部を二重の金属管で構成される断熱管内に収納してなる構成を備える。このような超電導ケーブルにおいて、超電導ケーブルを外部から電気的に絶縁する構成には以下の二つが挙げられる。一つ目の構成は、超電導導体層の上に電気絶縁層を備えた導体部が上記断熱管に収納され、導体部に備わる当該電気絶縁層も冷媒により冷却される低温絶縁型の構成である。二つ目の構成は、フォーマと超電導導体層を備える低温導電部が上記断熱管に収納され、かつその断熱管の上に電気絶縁層が形成されており、当該電気絶縁層が冷媒により冷却されない常温絶縁型の構成である(例えば、非特許文献1を参照)。特に、後者の常温絶縁型超電導ケーブルは、既存の常電導ケーブルの絶縁材料および構造が適用できるという利点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】『Experimental 35kV/121MVA Superconducting Cable System Installed at Puji Substation in Southern China Power Grid』 Transactions on Electrical and Electronic Engineering 1巻1号8−13ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した低温絶縁型、および常温絶縁型超電導ケーブルでは、短絡電流に代表される過大な異常時電流が発生した際、超電導導体層の劣化の可能性や冷媒の温度管理の面で課題があった。
【0005】
異常時電流が発生し、その異常時電流が超電導導体層の臨界電流値を超えると、超電導導体層が常電導状態に転移する。その場合、異常時電流は超電導導体層とフォーマに流れる。そのとき、超電導導体層に流れる電流が大きい場合、フォーマの温度上昇が大きい場合に、超電導導体層の温度が上昇し劣化する恐れがある。仮に超電導導体層が劣化を免れたとしても、フォーマと超電導導体の金属部分に流れる膨大な電流により、これらフォーマと金属部分が急激に発熱して、冷媒の温度を上昇させる。冷媒の温度が上昇するほど、冷媒を再度、運用温度以下に冷却するまでの時間が長くなるので、異常時電流の発生から通常の送電に復帰する時間が長くなる。この復帰時間を所定の時間内にするためには、フォーマの断面積を大きくする(抵抗を小さくする)ことで温度上昇を低減させる必要があり、これがケーブルサイズを大きくさせる問題点でもあった。加えて、液体冷媒の一部がガス化してガス溜りが形成されると冷媒循環面への影響も懸念される。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、過大な異常時電流に対して超電導導体層の温度上昇を抑制することで、劣化し難い常温絶縁型超電導ケーブルとその製造方法、並びに超電導ケーブル線路を提供することにある。
【0007】
また、本発明の別の目的は、冷媒の温度上昇を抑制し、異常時電流の発生から通常の送電に復帰する時間を短縮することができる常温絶縁型超電導ケーブルとその製造方法、並びに超電導ケーブル線路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明常温絶縁型超電導ケーブルは、フォーマの外周に超電導導体層を形成してなる導体部、およびその導体部を内部に収納して、導体部を極低温に維持する断熱管を有する低温導電部と、断熱管の外周を取り囲む常温側電気絶縁層を有する常温被覆部と、を備える。そして、本発明常温絶縁型超電導ケーブルは、当該超電導ケーブルに備わる常温被覆部が、常温側電気絶縁層の内側で、かつ断熱管の外側に配置され、異常時電流を分担する常電導の分流導体を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明超電導ケーブル線路は、上述した本発明常温絶縁型超電導ケーブルを用いたことを特徴とする。超電導ケーブル線路は、少なくとも本発明常温絶縁型超電導ケーブルと、冷媒を所定温度に冷却し、その冷却した冷媒を当該ケーブルに送り出す冷却機構と、当該ケーブルに流通された冷媒を、冷却機構に戻すリターン管と、を備える。
【0010】
上記本発明常温絶縁型超電導ケーブル、および超電導ケーブル線路の構成によれば、常温被覆部に異常時電流を分担する分流導体を備えることにより、低温導電部における異常時電流の量を低減することができる。その結果、低温導電部における冷媒温度の上昇を抑制できるし、過大な電流による超電導導体層の劣化を抑制できる。特に、冷媒温度の上昇を抑制することで、超電導送電に適した温度に冷媒温度を復旧させることが容易になるし、冷媒を液体冷媒としたときの冷媒温度の上昇による液体冷媒のガス化を抑制できる。
【0011】
本発明常温絶縁型超電導ケーブルには、低温導電部と常温被覆部とが独立した『分離型』の構成と、低温導電部の一部と常温被覆部とが一体化された『一部一体型』の構成とに分けることができる。『分離型』の構成はさらに、分流導体を低温導電部の側に設けた構成Xと、分流導体を常温被覆部の側に設けた構成Yと、に分けることができる。構成Xの場合、断熱管の外周に分流導体を形成し、構成Yの場合、常温側電気絶縁層の直下に分流導体を形成する。
【0012】
分離型の本発明常温絶縁型超電導ケーブルとして、さらに常温側電気絶縁層を内周側から支持するパイプ状構造物を有することが好ましい。その場合、パイプ状構造物の内部に前記低温導電部が収納される。ここで、上記構成Xの場合、低温導電部の断熱管の外周に分流導体を形成し、常温被覆部の側にパイプ状構造物を設けて、パイプ状構造物で常温側電気絶縁層を支持する。また、上記構成Yの場合、パイプ状構造物の外周に分流導体を形成し、その分流導体の外周に常温側電気絶縁層を形成する。
【0013】
分離型の超電導ケーブルによれば、布設後の使用に伴い低温導電部が損傷した場合、低温導電部のみを交換することができる。また、分離型の超電導ケーブルによれば、低温導電部における導体部のみを交換することも可能である。
【0014】
一方、一部一体型の本発明常温絶縁型超電導ケーブルでは、断熱管の直上に前記分流導体が形成されている構成が挙げられる。
【0015】
上記一部一体型の超電導ケーブルによれば、布設後の使用に伴って、超電導導体層を備える導体部が損傷した場合、導体部のみを交換することができる。さらに一部一体型の超電導ケーブルによれば、断熱管の上に直接常温被覆部が形成され、両者の間に隙間を設けないため、超電導ケーブルの外径寸法を小さくすることができる。
【0016】
本発明常温絶縁型超電導ケーブルの一形態として、分流導体は銅で構成されていることが好ましい。
【0017】
銅の電気抵抗値は、種々の金属・合金の中でも低いため、分流導体として好適である。異常時電流の発生時、超電導導体層とフォーマと分流導体に異常時電流は分流するが、フォーマに流れる電流を小さくし、分流導体に流れる電流を大きくすることが望まれる。そのためには常電導導体である分流導体の抵抗値を小さくすることが有効であり、当該抵抗値を小さくするためには銅が好ましい。分流導体に流れる電流を大きくすると、その分だけフォーマの断面積を小さくすることができ、その結果として超電導ケーブルの寸法を小さくすることもできる。
【0018】
次に、上述した本発明常温絶縁型超電導ケーブルの構成に応じた本発明常温絶縁型超電導ケーブルの製造方法を説明する。
【0019】
まず、低温導電部と常温被覆部とが別体で、かつ分流導体が常温被覆部の側にある分離型の常温絶縁型超電導ケーブルを作製する場合、その常温絶縁型超電導ケーブルの製造方法は、次の工程A〜Cを備える構成とすると良い。
(工程A)低温導電部を作製する。
(工程B)異常時電流を分担する分流導体と、分流導体の外周に形成される常温側電気絶縁層と、を有する常温被覆部を作製する。この常温被覆部の内径は、低温導電部の外径よりも大きくする。
(工程C)工程Aで作製した低温導電部を、工程Bで作製した常温被覆部の内部に挿入する。
【0020】
なお、低温導電部を作製する工程Aは、さらに、導体部を作製する工程と、断熱管を作製する工程と、断熱管の内部に導体部を挿入し、これらを一体化して低温導電部を作製する工程と、に分けても良い。この場合、順番に矛盾が生じない範囲で工程の順番を任意に入れ替えても良い。例えば、導体部の作製→断熱管の作製→工程Bの常温被覆部の作製→常温被覆部の内部に断熱管を挿入→断熱管の内部に導体部を挿入→完成、としても良い。
【0021】
低温導電部と常温被覆部とを個別に作製し、その後、常温被覆部の内部に低温導電部を挿入して超電導ケーブルを作製する場合、超電導ケーブルの歩留りを向上させることができる。これは、低温導電部と常温被覆部とをそれぞれ検品し、不具合のない低温導電部と常温被覆部とを組み合わせて超電導ケーブルを作製できるからである。これに対して、上記本発明の製造方法と異なり、超電導ケーブルの中心側から順次超電導ケーブルを作製していく従来の製造方法の場合、超電導ケーブルが出来上がった段階で低温導電部と常温被覆部のいずれかに不具合があれば、超電導ケーブル全体を作り直さなければならないし、低温導電部の外周に常温被覆部を形成する過程で低温導電部に損傷を与えてしまう可能性もある。
【0022】
次に、低温導電部と常温被覆部とが別体で、かつ分流導体が低温導電部の側にある分離型の常温絶縁型超電導ケーブルを作製する場合、その常温絶縁型超電導ケーブルの製造方法は、次の工程A´〜C´を備える構成とすると良い。
(工程A´)導体部と、その導体部の外周を覆う断熱管と、その断熱管の上に形成され、異常時電流を分担する分流導体と、を備える低温導電部を作製する。
(工程B´)低温導電部の外径よりも大きな内径を有するパイプ状構造物と、その外周に形成される常温側電気絶縁層を有する常温被覆部を作製する。
(工程C´)工程A´で作製した低温導電部を、工程B´で作製した常温被覆部の内部に挿入する。
【0023】
なお、低温導電部を作製する工程A´は、さらに、導体部を作製する工程と、分流導体付き断熱管を作製する工程と、分流導体付き断熱管の内部に導体部を挿入し、これらを一体化して低温導電部を作製する工程と、に分けても良い。この場合も、順番に矛盾が生じない範囲で工程の順番を任意に入れ替えても良い。例えば、導体部の作製→分流導体付き断熱管の作製→工程B´の常温被覆部の作製→常温被覆部の内部に分流導体付き断熱管を挿入→分流導体付き断熱管の内部に導体部を挿入→完成、としても良い。
【0024】
低温導電部と常温被覆部とを個別に作製し、その後、これらを一体化させる分離型の超電導ケーブルを作製する場合も、超電導ケーブルの歩留りを向上させることができる。その理由は、前述の工程A〜Cを備える分離型の超電導ケーブルの製造方法で歩留りが向上する理由と同様である。
【0025】
最後に、低温導電部の断熱管が常温被覆部と一体に形成された一部一体型の常温絶縁型超電導ケーブルを作製する場合、その常温絶縁型超電導ケーブルは、次の工程α〜γを備える構成とすると良い。
(工程α)導体部を作製する。
(工程β)断熱管と、この断熱管の上に形成され、異常時電流を分担する常電導の分流導体と、この分流導体の外周に形成される常温被覆部と、を備える被覆部付き断熱管を作製する。
(工程γ)工程αで作製した導体部を、工程βで作製した被覆部付き断熱管の内部に挿入する。
【0026】
導体部と被覆部付き断熱管とを個別に作製し、その後、被覆部付き断熱管の内部に導体部を挿入して一部一体型の超電導ケーブルを作製する場合も、超電導ケーブルの歩留りを向上させることができる。その理由は、前述の工程A〜Cを備える分離型の超電導ケーブルの製造方法で歩留りが向上する理由と同様である。
【発明の効果】
【0027】
本発明常温絶縁型超電導ケーブルは異常時電流により劣化し難いため、本発明常温絶縁型超電導ケーブルを使用すれば、安定して運用することができる超電導ケーブル線路を構築できる。また、本発明常温絶縁型超電導ケーブルによれば、異常時電流による冷媒の温度上昇を抑制できるため、超電導ケーブル線路の運用の際に異常時電流が発生しても、早期に復旧させることができる超電導ケーブル線路を構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(A)は実施形態1に記載される常温絶縁型超電導ケーブルの概略横断面図、(B)はその組立前の状態を示す横断面図である。
【図2】(A)は実施形態2に記載される常温絶縁型超電導ケーブルの概略横断面図、(B)はその組立前の状態を示す横断面図である。
【図3】(A)は実施形態3に記載される常温絶縁型超電導ケーブルの概略横断面図、(B)はその組立前の状態を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面に基づいて、本発明常温絶縁型超電導ケーブルの実施形態を説明する。図において同一符号は、同一名称物を示す。
【0030】
<実施形態1>
≪全体構成≫
図1(A)に示す分離型の常温絶縁型超電導ケーブル100は、個別に作製された低温導電部1と、その低温導電部1を内部に収納するパイプ状の常温被覆部2と、を組み合わせることで形成される。この常温絶縁型超電導ケーブル100の最も特徴とするところは、常温被覆部2に分流導体22が形成されていることである。以下、各構成を順次詳細に説明する。
【0031】
≪低温導電部≫
低温導電部1は、断熱管13の内部に、導体部10が収納されてなる長尺体である。
【0032】
[導体部]
導体部10は、代表的には、中心から順にフォーマ11、超電導導体層12、保護層(図示せず)を備える。フォーマ11は、超電導導体層12の支持体に利用される部材であり、例えば、図1に示すようなパイプ状の中空体をフォーマ11として利用できる。中空体のフォーマ11は、その内部を冷媒131の流路として利用することができる。フォーマ11の形状としては、中空体の他、中実体を利用することもできる。一方、フォーマ11の材質も特に限定されない。単に超電導導体層12の支持体としてフォーマ11を利用するのであれば、フォーマ11は樹脂などの非導電性材料から構成しても良いし、フォーマ11に異常時電流の分流路としての機能も持たせるのであれば、銅やアルミニウムなどの常電導の金属材料から構成しても良い。これらのことを考慮してフォーマ11の具体的な構成を例示すると、中空体のフォーマ11としては例えば、金属材料からなるパイプを挙げることができるし、中実体のフォーマ11としては例えば、エナメルなどの絶縁被覆を備える複数の金属線を撚り合わせたものを挙げることができる。
【0033】
次に、超電導導体層12としては、例えば、酸化物超電導体を備えるテープ状線材が好適に利用できる。テープ状線材は、例えば、Bi2223系超電導テープ線(Ag−MnやAgなどの安定化金属中に酸化物超電導体からなるフィラメントが配されたシース線)、RE123系薄膜線材(RE:希土類元素、例えばY、Ho、Nd、Sm、Gdなど。金属基板に酸化物超電導相が成膜された積層線材)が挙げられる。超電導導体層12は、上記テープ状線材を螺旋状に巻回して形成した単層構造又は多層構造が挙げられる。
【0034】
図示しない保護層は、上記超電導導体層12を保護し、断熱管13との絶縁を確保するためのものであり、クラフト紙などを巻回することで形成できる。
【0035】
[断熱管]
上記導体部10を収納する断熱管13は、導体部10を内部に収納する内管14と、内管14を内部に収納する外管15と、を備える。内管14は、その内部に、超電導導体層12を超電導状態に維持するための冷媒131(代表的には、液体窒素や液体ヘリウム、ヘリウムガスなど)が充填され、冷媒流路として機能する。この内管14と、内管14の外周に設けられる外管15とで断熱管13を構成することで、外部からの侵入熱などにより冷媒131の温度が上昇することを抑制する。内管14と外管15との間は真空引きされ、それによって真空断熱層が形成されている。その他、内管14と外管15との間にスーパーインシュレーションといった断熱材や、内管14と外管14とを離隔させるスペーサを配置すると、断熱管13の断熱性を高められる。なお、本実施形態では、断熱管として二重管構造の断熱管を利用しているが、三重管以上の断熱管を利用しても良い。
【0036】
内管14及び外管15の構成材料は、ステンレス鋼、アルミニウムやその合金などの金属が挙げられる。上記金属は、耐食性に優れることから、種々の流体の保持や輸送を行う断熱管13の構成材料に適する。両管14,15の材質を異ならせてもよい。また、両管14,15はいずれも、その全長に亘ってコルゲート加工が施されたコルゲート管としたり、アルミニウムやその合金などの比較的柔らかく可撓性を有する材質からなるストレート管としたりすることで屈曲可能となる。このように可撓性を有する断熱管13を採用することで、搬送時や布設時に超電導ケーブル100を曲げ易くすることができる。さらに、コルゲート管で断熱管13を形成することで、断熱管13が冷媒131に冷却されて熱収縮する際に変形することで熱応力を緩和できる。
【0037】
≪常温被覆部≫
常温被覆部2は、パイプ状構造物21と、パイプ状構造物21の外周に形成される分流導体22と、分流導体22のさらに外周に形成される常温側電気絶縁層23と、を備える。
【0038】
[パイプ状構造物]
パイプ状構造物21は、その外周面に形成される分流導体22や常温側電気絶縁層23を保形する部材であって、最も重要な特性は高強度であることである。また、超電導ケーブル100に所定の可撓性を持たせるために、パイプ状構造物21も所定の可撓性を有することが求められる。これらの点を考慮して、パイプ状構造物21としては、アルミニウムのストレートパイプや、SUSのコルゲートパイプなどを利用することができる。その他、パイプ状構造物21は、樹脂などの非導電材料でできていても良い。ここで、このパイプ状構造物21が導電材料であれば、それ自身も分流導体22の機能の一部を分担できる。
【0039】
[分流導体]
分流導体22は、異常時電流が生じたときに、その異常時電流を分担する常電導導体である。この分流導体22は、超電導ケーブル線路の長手方向の接続部(超電導ケーブル100の中間接続部や終端接続部など)で超電導導体層12、およびフォーマ11に接続されている。そのため、分流導体22と、超電導導体層12およびフォーマ11と、で異常時電流を分担できるようになっている。
【0040】
分流導体22は、異常時電流を分担する役割を担う観点から、パイプ状構造物21よりも高導電性の金属材料、つまり電気抵抗値が低い銅やアルミニウム、銀などの金属材料から構成される。特に、銅は、銀に次ぐ高い導電率を有し、銀よりも格段に安価である点で、分流導体22として好適である。
【0041】
上記分流導体22は、銅撚り線で構成されるセグメント導体など既存常電導ケーブルの導体に準じた部材をパイプ状構造物21上に巻回することで形成することができる。
【0042】
上記分流導体22の断面積は、超電導ケーブル線路の運用上、どの程度の異常時電流が発生し得るか、その発生した異常時電流を分流導体22にどの程度負担させるかによって適宜選択すれば良い。例えば、上述した低温導電部1のフォーマ11を非導電性材料で構成する場合、異常時電流の大部分を分流導体22に流せるように分流導体22の断面積を決定し、分流導体22と超電導導体層12の金属成分とで異常時電流を分担させることで、超電導導体層12を保護する。また、当該フォーマ11を導電性材料とし、異常時電流を分流導体22と超電導導体層12の金属成分に分担させるだけでなく、フォーマ11にも分担させる構成であれば、分流導体22に十分な異常時電流を流せるように分流導体22の断面積を決定すれば良い。また、銅素線を素線絶縁線とすることで交流抵抗を低減した分流導体とすることも有効である。
【0043】
[常温側電気絶縁層]
常温側電気絶縁層23は、超電導ケーブル100を外部環境から電気的に絶縁する層である。この常温側電気絶縁層23には、常電導ケーブルで実績がある電気絶縁強度に優れる材料、代表的にはCVケーブルに利用される架橋ポリエチレン(XLPE)などを利用できる。架橋ポリエチレンなどの絶縁性樹脂であれば、パイプ状構造物21に分流導体22を形成した筒状部材の外周に絶縁性樹脂を押し出すだけで常温側電気絶縁層23を容易に形成できる。その他、常温側電気絶縁層23には、OFケーブルにおける絶縁層と同様の構成を採用することができる。例えば、分流導体22の外周にテープ状のクラフト紙や半合成紙を多層に巻回し、その絶縁層に合成油などの絶縁油を含浸させることで常温側電気絶縁層23を形成することができる。
【0044】
[その他の構成]
常温側電気絶縁層23の外周には、代表的には、銅やアルミニウムなどの常電導材料から構成された外側遮蔽層(図示せず)が設けられる。外側遮蔽層は、絶縁層23の外側の電位を与えるもので、従来の電力ケーブルと同様に常電導材料を利用できる。そのため、常温絶縁型超電導ケーブル100は製造性に優れる。また、外側遮蔽層の外周には、所定の絶縁特性を有し、外側遮蔽層を保護する防食層(図示せず)が設けられている。
【0045】
≪常温絶縁型超電導ケーブルの効果≫
実施形態1の超電導ケーブル100の構成であれば、異常時電流が発生したときに、その異常時電流を分流導体22に分担させることができる。そのため、超電導導体層12に過剰な電流が流れることによる温度上昇により超電導導体層12が劣化することを回避できる。また、異常時電流を分担する分流導体22が、常温被覆部2に設けられていることから、分流導体22で生じるジュール熱により低温導電部1の冷媒131が熱せられることがない。そのため、冷媒131が熱せられてガス化することを抑制できるし、冷媒131を運用可能な温度まで冷却するための時間を短くすることもできるので、異常時電流の発生から短時間で超電導ケーブル線路を通常運転に復帰させることができる。
【0046】
≪常温絶縁型超電導ケーブルの製造方法≫
以上説明した超電導ケーブル100は、図1(B)に示すように、次の工程A〜Cにより作製することができる。なお、工程Aと工程Bの順序は入れ替え可能である。
【0047】
[工程A]
工程Aでは、低温導電部1を作製する。低温導電部1は、導体部10を作製し、その導体部10の外周に、順次内管14、外管15を形成することで作製することができる。その他、導体部10と断熱管13とを別個に作製し、断熱管13の内管14内に導体部10を挿入することで、低温導電部1を作製しても良い。
【0048】
[工程B]
工程Bでは、上記低温導電部1とは別に、常温被覆部2を作製する。まずパイプ状構造物21を用意し、その外周に、例えば銅線で構成されるセグメント導体を巻回して分流導体22を形成する。次いで、分流導体22の外周に、例えば押出などにより絶縁性樹脂を被覆し、常温側電気絶縁層23を形成する。常温側電気絶縁層23は、クラフト紙やPPLP(住友電気工業の登録商標)を巻回することで形成しても良い。
【0049】
ここで、低温導電部1の長さと、常温被覆部2の長さとは、同じである必要はない。例えば、低温導電部1を常温被覆部2よりも長くしてもかまわない。その場合、低温導電部1の両端部が常温被覆部2から露出するので、複数の超電導ケーブル100を接続して超電導ケーブル線路を構築する際、隣接する低温導電部1同士の接続を容易に行える。
【0050】
[工程C]
工程Aで作製した低温導電部1を、工程Bで作製した常温被覆部2の内部に挿入する。低温導電部1を常温被覆部2に挿入する際は、低温導電部1のフォーマ11や断熱管13の部分を引っ張ると良い。その際、低温導電部1にテンションメンバを取り付けておき、そのテンションメンバに張力を分担させても良い。そうすることで、張力による低温導電部1(特に、超電導導体層12)の損傷や、断熱管13の伸縮による断熱性能への影響を防止できる。
【0051】
<変形例>
実施形態1の構成において、パイプ状構造物21を省略することもできる。その場合、分流導体22を銅などの金属材料からなるパイプで構成し、そのパイプ状の分流導体22の外周に常温側電気絶縁層23を形成すると良い。但し、パイプ状構造物21を省略する場合、パイプ状の分流導体22に十分な厚みを持たせて、当該分流導体22の強度を十分に確保する必要がある。
【0052】
<実施形態2>
実施形態2では、低温導電部1の一部(具体的には、断熱管13)と、常温被覆部2とを一体化した被覆部付き断熱管3を作製し、その被覆部付き断熱管3に後から導体部10を挿入することで作製した一部一体型の超電導ケーブル200を、図2に基づいて説明する。以下、製造方法の点から本実施形態の超電導ケーブル200を説明する。
【0053】
≪常温絶縁型超電導ケーブルの作製方法≫
超電導ケーブル200は、図2(B)に示すように、次の工程α〜γにより作製することができる。なお、工程αと工程βの順序は入れ替え可能である。
【0054】
[工程α]
工程αでは、導体部10を作製する。導体部10は、フォーマ11の外周に超電導線材を巻回するなどして作製することができる。超電導線材を巻回して形成した超電導導体層12の外周には、所定の絶縁特性を有し、超電導導体層12を保護する保護層を形成することが好ましい。
【0055】
[工程β]
工程βでは、導体部10とは別に、断熱管13の外周に常温被覆部2を一体化した被覆部付き断熱管3を作製する。まず断熱管13を用意し、その外周に分流導体22を形成する。次いで、分流導体22の外周に、例えば押出などにより絶縁性樹脂を被覆し、常温側電気絶縁層23を形成する。なお、常温側電気絶縁層23は、クラフト紙やPPLP(住友電気工業の登録商標)を巻回することで形成することもできる。
【0056】
ここで、本実施形態においても、導体部10の長さは、被覆部付き断熱管3の長さと同じである必要はない。例えば、導体部10を被覆部付き断熱管3よりも長くしてもかまわない。その場合、導体部10の両端部が被覆部付き断熱管3から露出するので、複数の超電導ケーブル200を接続して超電導ケーブル線路を構築する際、隣接する導体部10同士の接続を容易に行える。
【0057】
[工程γ]
工程αで作製した導体部10を、工程βで作製した被覆部付き断熱管3の内部に挿入する。導体部10を被覆部付き断熱管3に挿入する際は、導体部10のフォーマ11の部分を引っ張ると良い。もちろん、導体部10にテンションメンバを取り付けておき、そのテンションメンバに張力を分担させ、導体部10(特に、超電導導体層12)の損傷を防止しても良い。
【0058】
≪常温絶縁型超電導ケーブル≫
図2(A)に示すように、以上説明した製造方法により作製された超電導ケーブル200でも、実施形態1と同様に、常温側電気絶縁層23の内側で、かつ断熱管13の外側に分流導体22が形成されている。そのため、本実施形態の超電導ケーブル200も、実施形態1の超電導ケーブル100と同様の理由により、実施形態1と同様の効果を奏する。
【0059】
また、実施形態2の超電導ケーブル200では、断熱管13の外周に直接常温被覆部2が形成されているため、当該超電導ケーブル200の外径を、実施形態1の超電導ケーブル100よりも小さくすることができる。
【0060】
<実施形態3>
実施形態3では、実施形態1で説明した低温導電部1と常温絶縁部2とを別個に作製する分離型の超電導ケーブルの別形態を説明する。具体的には、低温導電部1をさらに導体部10と断熱管13とに分け、かつ分流導体22を断熱管13の外管15の外周に形成した。以下、図3に基づいて、製造方法の点から本実施形態の超電導ケーブル300を説明する。
【0061】
≪常温絶縁型超電導ケーブルの作製方法≫
超電導ケーブル300は、図3(B)に示すように、次の工程A´〜C´により作製することができる。
【0062】
[工程A´]
工程A´では、導体部10を作製すると共に、この導体部10とは別に、断熱管13の外周に分流導体22を一体化した分流導体付き断熱管13´を作製する。この分流導体付き断熱管13´は、まず断熱管13を用意し、その外周に分流導体22を形成することで作製する。そして、分流導体付き断熱管13´の内部に、導体部10を挿入して、低温導電部1を作製する。
【0063】
[工程B´]
工程B´では、低温導電部1の外径よりも大きな内径を有するパイプ状構造物21を用意し、その外周に常温側電気絶縁層23を形成することで常温被覆部2を作製する。
【0064】
[工程C´]
工程C´では、工程B´で作製した常温被覆部2の内部に、工程A´で作製した低温導電部1を挿入する。
【0065】
なお、工程A´において、導体部10と分流導体付き断熱管13´を作製した際、それらを一体化させずに置いておき、常温被覆部2の内部に分流導体付き断熱管13´を挿入した後、その断熱管13´の内部に導体部10を挿入しても良い。
【0066】
ここで、本実施形態においても、導体部10と分流導体付き断熱管13´と常温被覆部2の長さは、同じである必要はない。例えば、導体部10の長さ>分流導体付き断熱管13´の長さ>常温被覆部2の長さ、としてもかまわない。そうすることで、複数の超電導ケーブル300を接続し易くなる。
【0067】
≪常温絶縁型超電導ケーブル≫
図3(A)に示すように、以上説明した製造方法により作製された超電導ケーブル300でも、実施形態1と同様に、常温側電気絶縁層23の内側で、かつ断熱管13の外側に分流導体22が形成されている。そのため、本実施形態の超電導ケーブル300も、実施形態1の超電導ケーブル100と同様の理由により、実施形態1と同様の効果を奏する。
【0068】
なお、本発明の実施形態は、上述した実施形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することが可能である。例えば、実施形態では説明を省略したが、常温側電気絶縁層23の内周部と外周部の各々に内部半導電層と外部半導電層を形成するのが一般的である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明常温絶縁型超電導ケーブルは、大電流送電網の形成に好適に利用することができる。また、本発明常温絶縁型超電導ケーブルの製造方法は、本発明常温絶縁型超電導ケーブルの製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
100,200,300 常温絶縁型超電導ケーブル
1 低温導電部
10 導体部 11 フォーマ 12 超電導導体層
13 断熱管 14 内管 15 外管 131 冷媒
2 常温被覆部
21 パイプ状構造物
22 分流導体
23 常温側電気絶縁層
3 被覆部付き断熱管
13´ 分流導体付き断熱管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォーマの外周に超電導導体層を形成してなる導体部、およびその導体部を内部に収納して、導体部を極低温に維持する断熱管を有する低温導電部と、
前記断熱管の外周を取り囲む常温側電気絶縁層を有する常温被覆部と、
を備える常温絶縁型超電導ケーブルであって、
前記常温被覆部は、前記常温側電気絶縁層の内側で、かつ前記断熱管の外側に配置され、異常時電流を分担する常電導の分流導体を備えることを特徴とする常温絶縁型超電導ケーブル。
【請求項2】
さらに、常温側電気絶縁層を内周側から支持するパイプ状構造物を有し、
前記パイプ状構造物の内部に前記低温導電部が収納されていることを特徴とする請求項1に記載の常温絶縁型超電導ケーブル。
【請求項3】
前記断熱管の直上に前記分流導体が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の常温絶縁型超電導ケーブル。
【請求項4】
前記分流導体は銅で構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の常温絶縁型超電導ケーブル。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の常温絶縁型超電導ケーブルを用いた超電導ケーブル線路。
【請求項6】
フォーマの外周に超電導導体層を形成してなる導体部、およびその導体部を内部に収納して、導体部を極低温に維持する断熱管を有する低温導電部と、
前記断熱管の外周を取り囲む常温側電気絶縁層を有する常温被覆部と、
を備える常温絶縁型超電導ケーブルを製造するための常温絶縁型超電導ケーブルの製造方法であって、
前記低温導電部を作製する工程Aと、
異常時電流を分担する分流導体と、分流導体の外周に形成される常温側電気絶縁層と、を有し、前記低温導電部の外径よりも大きな内径を有する筒状の常温被覆部を作製する工程Bと、
前記工程Aで作製した低温導電部を、前記工程Bで作製した常温被覆部の内部に挿入する工程Cと、
を備えることを特徴とする常温絶縁型超電導ケーブルの製造方法。
【請求項7】
フォーマの外周に超電導導体層を形成してなる導体部、およびその導体部を内部に収納して、導体部を極低温に維持する断熱管を有する低温導電部と、
前記断熱管の外周を取り囲む常温側電気絶縁層を有する常温被覆部と、
を備える常温絶縁型超電導ケーブルを製造するための常温絶縁型超電導ケーブルの製造方法であって、
前記導体部と、その導体部の外周を覆う前記断熱管と、その断熱管の上に形成され、異常時電流を分担する分流導体と、を備える低温導電部を作製する工程A´と、
前記低温導電部の外径よりも大きな内径を有するパイプ状構造物と、その外周に形成される前記常温側電気絶縁層を有する常温被覆部を作製する工程B´と、
工程A´で作製した低温導電部を、工程B´で作製した常温被覆部の内部に挿入する工程C´と、
を備えることを特徴とする常温絶縁型超電導ケーブルの製造方法。
【請求項8】
フォーマの外周に超電導導体層を形成してなる導体部、およびその導体部を内部に収納して、導体部を極低温に維持する断熱管を有する低温導電部と、
前記断熱管の外周を取り囲む常温側電気絶縁層を有する常温被覆部と、
を備える常温絶縁型超電導ケーブルを製造するための常温絶縁型超電導ケーブルの製造方法であって、
前記導体部を作製する工程αと、
前記断熱管と、この断熱管の上に形成され、異常時電流を分担する常電導の分流導体と、この分流導体の外周に形成される前記常温被覆部と、を備える被覆部付き断熱管を作製する工程βと、
前記工程αで作製した導体部を、前記工程βで作製した被覆部付き断熱管の内部に挿入する工程γと、
を備えることを特徴とする常温絶縁型超電導ケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−174403(P2012−174403A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33150(P2011−33150)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】