説明

常用兼駐車ブレーキ装置

【課題】ネジ軸の重量増加を生じさせることなく、環状フランジ部の軸方向撓みに因るブレーキ力低下を抑制する。
【解決手段】常用兼駐車ブレーキ装置100は、シリンダ11と、シリンダ11のシリンダ内孔11aに組付けたピストン21と、ピストン21によって被制動回転体(40)に向けて押動されるブレーキライニング31aを備えると共に、螺合連結されたナット部材61及びネジ軸62と、これらを駆動可能な電気モータ71を備える。ネジ軸62は、一側部位に回転軸部62aを、他端部位にオネジ部62bを、中間部位に環状フランジ部62cを有する。環状フランジ部62cには、回転軸部62aの外径を小径とし、環状フランジ部62cの外径を大径とし、シリンダ11の底壁面11b2に対向するテーパー状係合面Saが形成され、シリンダ11の底壁面11b2には、係合面Saを回転可能に受承するテーパー状の受承面Sbが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のブレーキ装置として採用可能で、常用ブレーキとして使用可能であるとともに、駐車ブレーキとして使用可能であり、駐車ブレーキとして使用されるときには、液圧によるブレーキ力と電気モータの駆動力によるブレーキ力が共に得られて機械的に維持されるように構成した常用兼駐車ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の常用兼駐車ブレーキ装置は、例えば、下記の特許文献1に記載されている。下記の特許文献1に記載されている常用兼駐車ブレーキ装置は、有底筒状に形成されていてシリンダ内孔を有するシリンダと、このシリンダの前記シリンダ内孔に対してシリンダ軸線方向にて移動可能で液密的に組付けられていて、同シリンダ内に液圧室を形成するピストンと、このピストンが前記液圧室に供給されるブレーキ液によって押動されることにより押動されて被制動回転体に係合し、同被制動回転体を制動するブレーキライニングを備えるとともに、電気モータの駆動力によってブレーキ力が得られて機械的に維持されるようにするための構成(ナット部材、ネジ軸、電気モータ等)を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−519568号公報
【0004】
上記した特許文献1の常用兼駐車ブレーキ装置において、ナット部材は、前記液圧室内にて前記ピストンに対して同軸的に配置され、かつ、前記ピストンに対して回転不能に組付けられていて、ブレーキライニング側端部にて前記ピストンに当接・離間可能であり、軸心部にメネジ部を有している。ネジ軸は、前記ピストンに対して同軸的に配置されていて、前記シリンダの底壁に設けた挿通孔に組付けられ前記シリンダに対してシリンダ軸線回りに回転可能な回転軸部を一側部位に有し、前記ナット部材の前記メネジ部に螺合連結されるオネジ部を他端部位に有し、前記液圧室に露呈する前記シリンダの底壁面に対して回転可能に係合する環状フランジ部を中間部位に有しており、電気モータにより正逆両方向に回転駆動可能であり、前記シリンダに対してシリンダ軸線方向での移動を規制されている。
【0005】
上記した特許文献1の常用兼駐車ブレーキ装置においては、液圧室へのブレーキ液の給排により、ピストンをシリンダ軸線方向に進退させることが可能であり、液圧によるブレーキ力を得ることが可能である。また、電気モータにてネジ軸を正逆回転駆動することにより、ナット部材とピストンをシリンダ軸線方向に進退させることが可能であり、電気モータの駆動力によってブレーキ力を得ることが可能である。したがって、液圧によるブレーキ力と電気モータの駆動力によるブレーキ力を、常用ブレーキとして使用することが可能であるとともに、駐車ブレーキとして使用することが可能である。なお、電気モータの駆動力によってブレーキ力が得られた場合には、電気モータの駆動力が除去されても、電気モータからナット部材間において得られるセルフロック機能によって、ブレーキ力が維持されるように構成されている。
【発明の概要】
【0006】
ところで、上記した特許文献1の常用兼駐車ブレーキ装置においては、ネジ軸の中間部位に設けられている環状フランジ部がシリンダ軸線に対して直交する円板状であって、この環状フランジ部に形成されてシリンダの底壁面に対向する係合面と、シリンダの底壁面に形成されて係合面を回転可能に受承する受承面が、共にシリンダ軸線に対して直交する円環状である。このため、環状フランジ部の形状(円板状)を維持した状態では、環状フランジ部の剛性を十分に高めることができない場合がある。この場合には、液圧によるブレーキ力(軸力)と電気モータの駆動力によるブレーキ力(軸力)が共に得られる状態(高ブレーキ力が得られる状態)から、液圧と電気モータの駆動力が除去されてセルフロック状態となって、電気モータの駆動によってネジ軸に作用していた軸力に、液圧が分担していたピストンを押圧する軸力が加わることにより、環状フランジ部が必要以上に変形するおそれがあり、同変形に因りネジ軸に作用する軸力が必要以上に低下するおそれがある。なお、上記した構成において、環状フランジ部の板厚を増大すれば、環状フランジ部の剛性を十分に高めることができるものの、この場合には、ネジ軸の軸長増大に伴う車両搭載性の悪化や板厚増大に伴うネジ軸の重量増加等の新たな課題が生じるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、
有底筒状に形成されていてシリンダ内孔を有するシリンダと、
このシリンダの前記シリンダ内孔に対してシリンダ軸線方向にて移動可能で液密的に組付けられていて、同シリンダ内に液圧室を形成するピストンと、
このピストンが前記液圧室に供給されるブレーキ液によってシリンダ軸線方向に押動されることにより押動されて被制動回転体に係合し、同被制動回転体を制動するブレーキライニングを備えるとともに、
前記液圧室内にて前記ピストンに対して同軸的に配置されていて、前記ピストンに対して回転不能かつシリンダ軸線方向にて移動可能に組付けられ、ブレーキライニング側端部にて前記ピストンに当接・離間可能であり、軸心部にメネジ部を有するナット部材と、
前記ピストンに対して同軸的に配置されていて、前記シリンダの底壁に設けた挿通孔にシールリングを介して液密的に組付けられ前記シリンダに対してシリンダ軸線回りに回転可能な回転軸部を一側部位に有し、前記ナット部材の前記メネジ部に螺合連結されるオネジ部を他端部位に有し、前記液圧室に露呈する前記シリンダの底壁面に対して回転可能に係合する環状フランジ部を中間部位に有して、前記シリンダに対してシリンダ軸線方向での移動を規制されているネジ軸と、
前記シリンダに組付けられていて、前記ネジ軸を正逆両方向に回転駆動可能な電気モータを備えていて、
前記環状フランジ部には、前記回転軸部の外径を小径とし、前記環状フランジ部の外径を大径とし、前記シリンダの底壁面に対向するテーパー状の係合面が形成され、
前記シリンダの底壁面には、前記テーパー状の係合面のテーパー角と同一のテーパー角で形成されていて、前記テーパー状の係合面を(軸受を介してまたは直接)回転可能に受承するテーパー状の受承面が形成されている常用兼駐車ブレーキ装置に特徴がある。
【0008】
本発明による常用兼駐車ブレーキ装置においては、上記した特許文献1の常用兼駐車ブレーキ装置と同様に、液圧室へのブレーキ液の給排により、ピストンをシリンダ軸線方向に進退させることが可能であり、液圧によるブレーキ力を得ることが可能である。また、電気モータにてネジ軸を正逆回転駆動することにより、ナット部材とピストンをシリンダ軸線方向に進退させることが可能であり、電気モータの駆動力によってブレーキ力を得ることが可能である。したがって、液圧によるブレーキ力と電気モータの駆動力によるブレーキ力を、常用ブレーキとして使用することが可能であるとともに、駐車ブレーキとして使用することが可能である。なお、電気モータの駆動力によってブレーキ力が得られた場合には、電気モータの駆動力が除去されても、電気モータからナット部材間において得られるセルフロック機能によって、ブレーキ力が維持される。
【0009】
ところで、本発明による常用兼駐車ブレーキ装置においては、ネジ軸の環状フランジ部に形成されてシリンダの底壁面に対向する係合面と、シリンダの底壁面に形成されて係合面を回転可能に受承する受承面が、共にテーパー状である。しかも、テーパー状の係合面が、前記回転軸部の外径を小径とし、前記環状フランジ部の外径を大径として形成されている。このため、ネジ軸における環状フランジ部の外径を小さく抑えながら、ネジ軸の係合面にて所定量の荷重伝達面積を確保することができる。
【0010】
これにより、シリンダ軸線に対して直交する平面に所定量の荷重伝達面積を確保する場合(すなわち、係合面と受承面が共にシリンダ軸線に対して直交する円環状であり、環状フランジ部がシリンダ軸線に対して直交する環状平板形状である比較例)に比して、係合面での荷重中心をシリンダ軸心に近づけることができて、環状フランジ部に作用する軸方向荷重のモーメントアームを短くすることができる。このため、上記した比較例に比して、ピストンからネジ軸に作用する軸力(軸方向荷重)に対する環状フランジ部の軸方向撓み量(変形量)を減少させることができる。
【0011】
したがって、当該常用兼駐車ブレーキ装置を駐車ブレーキとして使用する際に、液圧によるブレーキ力(軸力)と電気モータの駆動力によるブレーキ力(軸力)が共に得られる状態(高ブレーキ力が得られる状態)から、液圧と電気モータの駆動力が除去されてセルフロック状態となって、電気モータの駆動によってネジ軸に作用していた軸力に、液圧が分担していたピストンを押圧する軸力が加わっても、環状フランジ部が必要以上に変形する(軸方向に撓む)ことがなく、ネジ軸に作用する軸力が必要以上に低下することはない。
【0012】
また、本発明では、環状フランジ部が円錐台形状であり、環状フランジ部が環状平板形状である比較例に比して、その軸長が増大するものの、その外径が減少するため、環状フランジ部(ネジ軸)の重量増加が生じないように設定することが可能である。この結果、新たな課題(ネジ軸の重量増加)を生じさせることなく、環状フランジ部の軸方向撓みに因るブレーキ力低下を抑制することができる。
【0013】
上記した本発明の実施に際して、前記シールリングは、前記挿通孔の軸方向中間部に同軸的に形成された環状溝に組付けられていることも可能である。この場合には、テーパー状の受承面とテーパー状の係合面が軸受を介することなく直接に接合する場合において、受承面の小径部を係合面の小径部と略同一径とすることができて、前記シールリングが前記挿通孔の液圧室側端部に同軸的に形成された環状溝に組付けられる場合(この場合には、受承面の小径部が係合面の小径部より所定量大径となる)に比して、環状フランジ部に作用する軸方向荷重のモーメントアームを短くすること(環状フランジ部の軸方向撓みに因るブレーキ力低下を抑制すること)ができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による常用兼駐車ブレーキ装置の一実施形態を示す平面図である。
【図2】図1に示した常用兼駐車ブレーキ装置のA−A線に沿った断面図である。
【図3】図2のB部拡大断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態を示す図3相当の断面図である。
【図5】テーパー状の受承面とテーパー状の係合面が軸受を介することなく直接に接合する場合の実施形態を示した図3相当の断面図であり、(a)はシールリングが組付けられる環状溝が挿通孔の軸方向中間部に同軸的に形成されている実施形態を示した図であり、(b)はシールリングが組付けられる環状溝が挿通孔の液室側端部に同軸的に形成されている実施形態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図3は本発明による常用兼駐車ブレーキ装置の一実施形態を示していて、この実施形態の常用兼駐車ブレーキ装置100は、可動キャリパ型ディスクブレーキに本発明を実施したものであり、可動キャリパ10に設けたシリンダ11と、このシリンダ11のシリンダ内孔11aに組付けたピストン21と、このピストン21によってディスクロータ40(図示省略の車輪と一体的に回転する被制動回転体)に向けてシリンダ軸線方向に押動されるインナパッド31と、可動キャリパ10に設けた反力アーム部12によってディスクロータ40に向けてシリンダ軸線方向に押動されるアウタパッド32を備えている。また、常用兼駐車ブレーキ装置100は、シリンダ11とピストン21等に対して組付けたナット部材61、ネジ軸62および電気モータ71を備えている。
【0016】
可動キャリパ10は、シリンダ11と反力アーム部12を有していて、マウンティング50にロータ軸方向(シリンダ軸線方向と略平行である)に沿って摺動可能に組付けられて支持されている。なお、マウンティング50は、周知のように、ディスクロータ40を跨ぐ形状に形成されていて、ディスクロータ40の内側に配置される内側部分51にてインナパッド31をロータ軸方向に沿って摺動可能に支持するとともに車体に組付けられるようになっており、また、ディスクロータ40の外側に配置される外側部分52にてアウタパッド32をロータ軸方向に沿って摺動可能に支持している。
【0017】
シリンダ11は、ディスクロータ40の内側に配置されていて、有底筒状に形成されており、ロータ軸方向に沿ったシリンダ内孔11aを有するとともに、底壁11bを有している。反力アーム部12は、ディスクロータ40の外側に配置されていて、ブリッジ部13を介してシリンダ11に連結されていて、アウタパッド32をディスクロータ40に向けてロータ軸方向に押動可能に構成されている。
【0018】
ピストン21は、可動キャリパ10のシリンダ11に形成したシリンダ内孔11aにピストンシール22を介してシリンダ軸線方向にて移動可能で液密的に組付けられていて、シリンダ11内にブレーキ液が満たされる液圧室Roを形成している。また、ピストン21は、シリンダ軸線回りに回転しないように構成されている。液圧室Roは、周知のように、ブレーキ液圧回路(図示省略した種々な形態のブレーキ液給排装置である)に接続されていて、ブレーキ液圧回路を通してブレーキ液が給排可能に構成されている。なお、ピストン21のロータ側端部とシリンダ11のロータ側端部間には、ダストシール23が組付けられている。
【0019】
インナパッド31は、ブレーキライニング31aと裏板31bによって構成されていて、ブレーキライニング31aにてディスクロータ40に対して係合・離脱可能であり、シリンダ11に組付けたピストン21によって、ディスクロータ40に向けてシリンダ軸線方向に押動されるように構成されている。一方、アウタパッド32は、ブレーキライニング32aと裏板32bによって構成されていて、ブレーキライニング32aにてディスクロータ40に対して係合・離脱可能であり、可動キャリパ10の反力アーム部12によって、ディスクロータ40に向けてシリンダ軸線方向に押動されるように構成されている。
【0020】
ナット部材61は、液圧室Ro内にてピストン21に対して同軸的に配置されていて、その外周に形成されてシリンダ軸線方向に延びる凹凸部にて、ピストン21の内周に形成されてシリンダ軸線方向に延びる凹凸部に嵌合されており、ピストン21に対して回転不能かつシリンダ軸線方向にて移動可能に組付けられている。また、ナット部材61は、ロータ側(ブレーキライニング側)端部にてピストン21に当接・離間可能であり、軸心部にメネジ部61aを有している。
【0021】
ネジ軸62は、ピストン21に対して同軸的に配置されていて、図3に示したように、一側部位(図2左方の内端部位)に回転軸部62aを有し、他端部位(図2右方の外端部位)にオネジ部62bを有し、中間部位に環状フランジ部62cを有している。回転軸部62aは、シリンダ11の底壁11bに設けた挿通孔11b1(図3参照)にシールリング63を介して液密的に組付けられていて、シリンダ11に対してシリンダ軸線回りに回転可能であり、図2に示したように、回転軸部62aのシリンダ外に突出した部位に組付けたクリップ64にて抜け止めされている(シリンダ11に対してシリンダ軸線方向での移動を規制されている)。オネジ部62bは、ナット部材61のメネジ部61aに螺合連結されている。環状フランジ部62cは、液圧室Roに露呈するシリンダ11の底壁面11b2に対してテーパー状の軸受65(ネジ軸62をシリンダ11に対して回転自在とする、例えば、ニードルベアリング)を介して回転可能に係合している。
【0022】
軸受65は、図3に示したように、ネジ軸62における環状フランジ部62cの外周に組付けられたテーパー状のインナーレース65aと、シリンダ11の底壁面11b2に組付けられたテーパー状のアウターレース65bを備えるとともに、インナーレース65aとアウターレース65b間に介装された回転体(例えば、ニードル)及びケージ(詳細は図示省略)等を備えている。
【0023】
電気モータ71は、シリンダ11に減速機72とともに組付けられていて、減速機72を介してネジ軸62を正逆両方向に回転駆動可能である。なお、電気モータ71の作動は電気制御装置(図示省略)によって制御されるように構成されている。減速機72は、電気モータ71の回転軸(図示省略)に連結された入力軸(図示省略)と、ネジ軸62の回転軸部62aに設けた内スプライン62a1(図3参照)にスプライン嵌合する出力軸72aを備えていて、電気モータ71の回転軸の回転をネジ軸62に減速して伝達可能に構成されている。
【0024】
ところで、この実施形態においては、図3にて拡大して示したように、ネジ軸62の環状フランジ部62cに、シリンダ11の底壁面11b2に対向するテーパー状の係合面Saが形成されている。テーパー状の係合面Saは、回転軸部62aの外径D1を小径とし、環状フランジ部62cの外径D2を大径としている。一方、シリンダ11の底壁面11b2に、テーパー状の係合面Saを軸受65を介して回転可能に受承するテーパー状の受承面Sbが形成されている。テーパー状の受承面Sbは、テーパー角がテーパー状の係合面Saのテーパー角と同一に形成されている。
【0025】
また、この実施形態においては、電気モータ71の正回転駆動力によってピストン21がディスクロータ40に向けてシリンダ軸線方向に押動されてブレーキ力が得られた場合には、電気モータ71の駆動力が除去されても、電気モータ71からナット部材61間において得られるセルフロック機能(シリンダ軸線方向に押動されたピストン21が戻されないようにする機能であり、ナット部材61とネジ軸62の螺合連結部、減速機72、電気モータ71等にて得られる回転抵抗によって得られる)によって、ブレーキ力が維持されるように構成されている。なお、電気モータ71の正回転駆動力によって得られたブレーキ力は、電気モータ71の逆回転駆動によって除去(解除)することが可能である。
【0026】
上記のように構成したこの実施形態の常用兼駐車ブレーキ装置100においては、液圧室Roへのブレーキ液の給排により、ピストン21をシリンダ軸線方向に進退させることが可能であり、液圧によるブレーキ力を得ることが可能である。また、電気モータ71にてネジ軸62を正逆回転駆動することにより、ナット部材61とピストン21をシリンダ軸線方向に進退させることが可能であり、電気モータ71の正回転駆動力によってブレーキ力を得ることが可能である。
【0027】
したがって、液圧によるブレーキ力と電気モータ71の駆動力によるブレーキ力を、常用ブレーキとして使用することが可能であるとともに、駐車ブレーキとして使用することが可能である。液圧によるブレーキ力と電気モータ71の駆動力によるブレーキ力が得られて、駐車ブレーキとして使用される場合には、液圧と電気モータ71の正回転駆動力が除去されても、電気モータ71からナット部材61間において得られるセルフロック機能によって、ブレーキ力が維持される。
【0028】
なお、常用兼駐車ブレーキ装置100を常用ブレーキとして使用する場合において、電気モータ71の駆動力によるブレーキ力が得られなくて、液圧によるブレーキ力のみが得られるように設定することも可能である。また、常用兼駐車ブレーキ装置100を駐車ブレーキとして使用する場合において、液圧によるブレーキ力が得られなくて、電気モータ71の駆動力によるブレーキ力のみが得られるように設定することも可能である。
【0029】
ところで、この実施形態の常用兼駐車ブレーキ装置100においては、ネジ軸62の環状フランジ部62cに形成されてシリンダ11の底壁面11b2に対向する係合面Saと、シリンダ11の底壁面11b2に形成されて係合面Saを回転可能に受承する受承面Sbが、共にテーパー状である。しかも、テーパー状の係合面Saが、回転軸部62aの外径D1を小径とし、環状フランジ部62cの外径D2を大径として形成されている。このため、ネジ軸62における環状フランジ部62cの外径D2を小さく抑えながら、係合面Saにて所定量の荷重伝達面積を確保することができる。
【0030】
これにより、シリンダ軸線Loに対して直交する平面に所定量の荷重伝達面積を確保する場合(すなわち、上記した係合面Saと受承面Sbに相当する係合面と受承面が共にシリンダ軸線に対して直交する円環状であり、環状フランジ部がシリンダ軸線に対して直交する環状平板形状である比較例)に比して、係合面Saでの荷重中心をシリンダ軸心(シリンダ軸線Lo)に近づけることができて、環状フランジ部62cに作用する軸方向荷重のモーメントアームを短くすることができる。このため、上記した比較例に比して、ピストン21からネジ軸62に作用する軸力(軸方向荷重)に対する環状フランジ部62cの軸方向撓み量(変形量)を減少させることができる。
【0031】
したがって、当該常用兼駐車ブレーキ装置100を駐車ブレーキとして使用する際に、液圧によるブレーキ力(軸力)と電気モータ71の駆動力によるブレーキ力(軸力)が共に得られる状態(高ブレーキ力が得られる状態)から、液圧と電気モータ71の駆動力が除去されてセルフロック状態となって、電気モータ71の駆動によってネジ軸62に作用していた軸力に、液圧が分担していたピストン21を押圧する軸力が加わっても、環状フランジ部62cが必要以上に変形する(軸方向に撓む)ことがなく、ネジ軸62に作用する軸力が必要以上に低下することはない。
【0032】
また、この実施形態では、環状フランジ部62cが円錐台形状であり、環状フランジ部が環状平板形状である比較例に比して、その軸長が増大するものの、その外径が減少するため、環状フランジ部62c(ネジ軸62)の重量増加が生じないように設定することが可能である。また、この実施形態では、軸受65がテーパー状の係合面Saとテーパー状の受承面Sbに沿ったテーパー状に形成されていて、軸受65の大部分が環状フランジ部62cの軸方向寸法内に収容されており、軸受65の配設に要する軸方向のスペースが実質的に不要であるため、その分の軸方向長さを短縮することが可能である。この結果、環状フランジ部62cの軸長増大に伴うネジ軸62の軸長増大が上記した軸受65の配設に因る軸長短縮によって相殺されて、ネジ軸62の軸長増大に伴う車両搭載性の悪化やネジ軸62の重量増加等の新たな課題を生じさせることなく、環状フランジ部62cの軸方向撓みに因るブレーキ力低下を抑制することができる。
【0033】
上記した実施形態においては、図3に示したように、シールリング63が挿通孔11b1の液圧室側端部に同軸的に形成された環状溝11b3に組付けられるように構成して実施したが、図4に示したように、シールリング63が挿通孔11b1の軸方向中間部に同軸的に形成された環状溝11b3に組付けられるように構成して実施することも可能である。
【0034】
また、上記した各実施形態においては、図3および図4に示したように、テーパー状の受承面Sbとテーパー状の係合面Saがテーパー状の軸受65を介して間接的に接合するように構成して実施したが、図5の(a)と(b)に示したように、テーパー状の受承面Sbとテーパー状の係合面Saが軸受65を介することなく直接に接合するように構成して実施することも可能である。
【0035】
図5の(a)に示した実施形態では、図4に示した実施形態と同様に、シールリング63が挿通孔11b1の軸方向中間部に同軸的に形成された環状溝11b3に組付けられている。一方、図5の(b)に示した実施形態では、図3に示した実施形態と同様に、シールリング63が挿通孔11b1の液圧室側端部に同軸的に形成された環状溝11b3に組付けられている。
【0036】
このため、図5の(a)に示した実施形態では、受承面Sbの小径部を係合面Saの小径部と略同一径とすることができて、図5の(b)に示した実施形態(この実施形態では、受承面Sbの小径部が係合面Saの小径部より所定量大径となる)に比して、環状フランジ部62cに作用する軸方向荷重のモーメントアームを短くすること(環状フランジ部62cの軸方向撓みに因るブレーキ力低下を抑制すること)ができる。
【0037】
また、上記した各実施形態においては、ネジ軸62の環状フランジ部62cに形成されるテーパー状の係合面Saと、シリンダ11の底壁面11b2に形成されるテーパー状の受承面Sbが、ピストン21側を大径とするテーパー形状に形成されるように構成して実施したが、本発明の実施に際しては、ネジ軸の環状フランジ部に形成されるテーパー状の係合面と、シリンダの底壁面に形成されるテーパー状の受承面が、ピストン側を小径とするテーパー形状に形成されるように構成して実施することも可能である。
【0038】
また、上記した各実施形態においては、本発明を可動キャリパ型ディスクブレーキに実施したが、本発明は、例えば、固定キャリパ型ディスクブレーキは勿論のこと、種々なドラムブレーキ(被制動回転体がブレーキドラムであるブレーキ)にも、上記した各実施形態と同様に、または、適宜変更して実施し得るものである。
【符号の説明】
【0039】
10…可動キャリパ、11…シリンダ、11a…シリンダ内孔、11b…シリンダの底壁、11b1…挿通孔、11b2…底壁面、11b3…環状溝、21…ピストン、31…インナパッド、31a…ブレーキライニング、40…ディスクロータ(被制動回転体)、50…マウンティング、61…ナット部材、61a…メネジ部、62…ネジ軸、62a…回転軸部、62b…オネジ部、62c…環状フランジ部、63…シールリング、65…軸受、71…電気モータ、72…減速機、100…常用兼駐車ブレーキ装置、Lo…シリンダ軸線、Ro…液圧室、Sa…係合面、Sb…受承面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状に形成されていてシリンダ内孔を有するシリンダと、
このシリンダの前記シリンダ内孔に対してシリンダ軸線方向にて移動可能で液密的に組付けられていて、同シリンダ内に液圧室を形成するピストンと、
このピストンが前記液圧室に供給されるブレーキ液によってシリンダ軸線方向に押動されることにより押動されて被制動回転体に係合し、同被制動回転体を制動するブレーキライニングを備えるとともに、
前記液圧室内にて前記ピストンに対して同軸的に配置されていて、前記ピストンに対して回転不能かつシリンダ軸線方向にて移動可能に組付けられ、ブレーキライニング側端部にて前記ピストンに当接・離間可能であり、軸心部にメネジ部を有するナット部材と、
前記ピストンに対して同軸的に配置されていて、前記シリンダの底壁に設けた挿通孔にシールリングを介して液密的に組付けられ前記シリンダに対してシリンダ軸線回りに回転可能な回転軸部を一側部位に有し、前記ナット部材の前記メネジ部に螺合連結されるオネジ部を他端部位に有し、前記液圧室に露呈する前記シリンダの底壁面に対して回転可能に係合する環状フランジ部を中間部位に有して、前記シリンダに対してシリンダ軸線方向での移動を規制されているネジ軸と、
前記シリンダに組付けられていて、前記ネジ軸を正逆両方向に回転駆動可能な電気モータを備えていて、
前記環状フランジ部には、前記回転軸部の外径を小径とし、前記環状フランジ部の外径を大径とし、前記シリンダの底壁面に対向するテーパー状の係合面が形成され、
前記シリンダの底壁面には、前記テーパー状の係合面のテーパー角と同一のテーパー角で形成されていて、前記テーパー状の係合面を回転可能に受承するテーパー状の受承面が形成されている常用兼駐車ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の常用兼駐車ブレーキ装置において、前記シールリングは、前記挿通孔の軸方向中間部に同軸的に形成された環状溝に組付けられていることを特徴とする常用兼駐車ブレーキ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−72513(P2013−72513A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212939(P2011−212939)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】