説明

常磁性を有する水溶性高分岐ポリマー

【課題】充分な緩和能力を持つとともに、金属イオンの解離がなく生体安全性に優れ、適度な水溶性及び脂溶性を有し、広い臓器分布及び臓器への取り込み効果を有することで、幅広いターゲット臓器及び疾患の造影が可能な、新規なMRI造影剤に使用可能な高分岐ポリマーを提供すること。
【解決手段】同一分子内にアルキレンオキシド基及び2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、同一分子内に常磁性を発現する部分及び1個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーAに対して5乃至200モル%量の重合開始剤Cの存在下で重合させることにより得られる高分岐ポリマー、並びに該ポリマーを含むMRI造影剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常磁性を有する新規な高分岐ポリマーと、そのMRI造影剤応用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、臨床現場において使用されている磁気共鳴画像(MRI)法とは、水のプロトンの信号を画像化する技術であり、生体内に存在するプロトンの位置情報と周囲のコントラストを2次元で濃淡表示する技術である。プロトンの位置情報は、核磁気共鳴(NMR)内の静磁場を意図的に歪める傾斜磁場を用いることによって得られ、コントラストは水や脂質などのプロトンのNMR情報として得られるスピン密度、緩和時間、拡散速度、化学シフト、位相などによって決定される。特に緩和時間は、観測されるスピンを含む水分子と周辺分子の間の相対的な配置や運動によって変化し、周囲の組織の状態をよく反映することから、種々の診断において広く用いられている。
このMRI法に用いられるMRI造影剤は、生体組織中の水の緩和時間を変化させることにより、その分布量が異なる組織間にコントラストを付加する。すなわち造影剤は水プロトンの緩和時間の変化を通し間接的に検出される。
【0003】
上記MRI造影剤としては、ガドリニウムやマンガンを含有するT1緩和造影剤や、酸
化鉄を用いたT2緩和造影剤が用いられており、これらの金属イオンと水プロトンの相互
作用により縦横の緩和が促進される。なお、これらの金属イオンは有毒である傾向があるため、生体組織が吸収する能力を低減させるために、実際には配位子によってキレート化されているものが使用される。しかしながら、このキレート化は金属イオンが有している緩和能力をも減少させ、造影剤としての効果を低減させることにもつながっている。そこで、分子サイズに応じた回転相関時間の増大による緩和能上昇効果(常磁性体緩和促進効果)を利用した造影剤(特許文献1)、超常磁性体の酸化鉄ナノ粒子をポリマーで複合化し平均粒子径が26nm程度のガン細胞選択性を有する造影剤(非特許文献1)、ポリマー主鎖構造からスペーサーアームを付与した巨大分子造影剤(特許文献2)などが報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来より広く使用されているMRI造影剤であるGd−DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)錯体は、水溶性を示す低分子化合物であるため、血流に乗って臓器・組織に広く分布できる。
しかしながらGd−DTPAは脂溶性が低いために肝臓などの臓器にはほとんど取り込まれず、また低分子化合物であることから、ガン細胞の造影については感度が低く、ターゲット臓器及び疾患によっては造影に限界がある。
【0005】
このように、これまで提案された造影剤にあっては、その緩和能力、生体安全性、ターゲット臓器及び疾患の全てにおいて満足できるものではなく、さらなる性能の向上が望まれていた。
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであって、すなわち、充分な緩和能力を持つとともに、金属イオンの解離がなく生体安全性に優れ、適度な水溶性及び脂溶性を有し、広い臓器分布及び臓器への取り込み効果を有することで、幅広いターゲット臓器及び疾患の造影が可能な、新規なMRI造影剤に使用可能な高分岐ポリマーの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリアルキレングリコ
ールジ(メタ)アクリル構造を主骨格とする高分岐ポリマーに常磁性を発現する部分を導入した高分岐ポリマーが、水溶性及び脂溶性のバランスに優れ、大きな常磁性体緩和促進効果を発現して高い緩和能を有する新規なMRI造影剤として有用であることを見いだし、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、第1観点として、同一分子内にアルキレンオキシド基及び2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、同一分子内に常磁性を発現する部分及び1個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーAに対して5乃至200モル%量の重合開始剤Cの存在下で重合させることにより得られる高分岐ポリマーに関する。
第2観点として、前記モノマーAがポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートである、第1観点に記載の高分岐ポリマーに関する。
第3観点として、前記モノマーAに対して1乃至100モル%量の前記モノマーBを用いることにより得られる、第1観点又は第2観点に記載の高分岐ポリマーに関する。
第4観点として、前記モノマーBの常磁性を発現する部分がキレート錯体である、第1観点乃至第3観点のうちいずれか一項に記載の高分岐ポリマーに関する。
第5観点として、前記キレート錯体がポルフィリン化合物を配位子とするキレート錯体である、第4観点に記載の高分岐ポリマーに関する。
第6観点として、前記モノマーBが式[1]で表される化合物である、第1観点乃至第3観点のうちいずれか一項に記載の高分岐ポリマーに関する。
【化1】

[式中、R1、R2、R4、R5、R7、R8、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至6のアルキル基(このアルキル基は、ホルミル基、アミノ基、ヒドロキシル基又は−COOR13(ここでR13は、水素原子又は炭素原子数1乃至6のアルキル基を表す。)で置換されていてもよい)、又は炭素原子数2乃至6のアルケニル基を表し、R3、R6、R9及びR12は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至6のアル
キル基(このアルキル基は、ホルミル基、アミノ基、ヒドロキシル基又は−COOR14(ここでR14は、水素原子又は炭素原子数1乃至6のアルキル基を表す。)で置換されていてもよい)、又はフェニル基(このフェニル基は、ホルミル基、アミノ基、ヒドロキシル基、−COOR15(ここでR15は、水素原子又は炭素原子数1乃至6のアルキル基を表す。)、又はスルホ基で置換されていてもよい)を表し、Mは、常磁性を有する原子価2乃至5の金属原子を表す。なお、R1、R2、R4、R5、R7、R8、R10及びR11の少なくとも1つは、炭素原子数2乃至6のアルケニル基を表す。]
第7観点として、前記Mが、マンガン(III)、鉄(III)、コバルト(III)及び銅(II)からなる群から選ばれる少なくとも1つである、第6観点に記載の高分岐ポリマーに関する。
第8観点として、前記モノマーBが、マンガン(III)プロトポルフィリン錯体である、第7観点に記載の高分岐ポリマーに関する。
第9観点として、同一分子内にアルキレンオキシド基及び2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、同一分子内に常磁性を発現する部分及び1個以上のラジカ
ル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーAに対して5乃至200モル%量の重合開始剤Cの存在下で重合させることを特徴とする、常磁性を発現する部分を有する高分岐ポリマーの製造方法に関する。
第10観点として、前記モノマーAがポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートであり、前記モノマーBが、中心金属として常磁性を有する原子価2乃至5の金属原子を有するところのプロトポルフィリン錯体である、第9観点に記載の高分岐ポリマーの製造方法に関する。
第11観点として、前記常磁性を有する原子価2乃至5の金属原子がマンガン(III)である、第10観点に記載の高分岐ポリマーの製造方法に関する。
第12観点として、第1観点乃至第8観点のうちいずれか一項に記載の高分岐ポリマーを含むMRI造影剤に関する。
第13観点として、第1観点乃至第8観点のうちいずれか一項に記載の高分岐ポリマーを体内に投与することを特徴とする、MRI造影方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の常磁性を有する高分岐ポリマーは、非イオン性の水溶性ポリマーであり、大きな常磁性体緩和促進効果により高い緩和能を有する新規なMRI用造影剤として利用可能である。
また、上記高分岐ポリマーを用いた本発明のMRI造影剤は、従来のMRI造影剤と同等以上の感度を有し、また幅広い臓器の造影が可能であり、特に従来のMRI造影剤であるGd−DTPAが苦手としていた肝臓の造影において、高いMRI造影効果が得られる。
さらに、本発明のMRI造影剤は、高分岐ポリマー粒子の大きさが5〜500nm程度と従来のMRI造影剤と比べて比較的大きいため、ガン細胞に対する選択的な造影剤としての応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施例1で調製した化合物1及び高分岐ポリマー1、並びにプロトポルフィリンIXのUVスペクトルを示す図である。
【図2】図2は、MRIファントム画像撮影に用いた試料の配置を示す図である。
【図3】図3は、MRI装置を用い、反復時間:Tiを変化させて測定した、高分岐ポリマー含有生理食塩水(0.001、0.01、0.1、1.0、2.0mM)並びに対照物質(蒸留水、生理食塩水、Gd−DTPA1mM生理食塩水溶液)のファントムのT1強調画像である。
【図4】図4は、MRI装置を用い、エコー時間:Teを変化させて測定した高分岐ポリマー含有生理食塩水(0.001、0.01、0.1、1.0、2.0mM)並びに対照物質(蒸留水、生理食塩水、Gd−DTPA1mM生理食塩水溶液)のファントムのT2強調画像である。
【図5】図5は、MRI装置を用いて測定した、高分岐ポリマー1を投与したマウスのT1W1画像である。
【図6】図6は、高分岐ポリマー1投与群とコントロール群の、各臓器のマンガン量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、同一分子内にアルキレンオキシド基及び2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、同一分子内に常磁性を発現する部分及び1個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーAに対して5乃至200モル%量の重合開始剤Cの存在下で重合させることにより得られる高分岐ポリマーである。また本発明の高分岐ポリマーは、いわゆる開始剤断片組込み型高分岐ポリマーであり、その末端に重合に使用した重合開始剤Cの断片を有している。
【0011】
[モノマーA]
本発明で用いる同一分子内にアルキレンオキシド基及び2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAとしては、例えば同一分子内にアルキレンオキシド基と、ビニル基又は(メタ)アクリル基の何れか一方又は双方を2個以上有することが好ましく、アルキレンオキシド基を有するジビニル化合物又はジ(メタ)アクリレート化合物であることがより好ましい。特に好ましいものとして、アルキレンオキシド基を有するジ(メタ)アクリレート化合物、すなわちポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。なお本発明では、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの両方をいう。例えばポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートとは、ポリアルキレングリコールジアクリレートとポリアルキレングリコールジメタクリレートの双方を表す。
上記ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートとしては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられ、中でもポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましい。
これらポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートにおけるアルキレンオキシド基の付加モル数は、1乃至200モル、好ましくは5乃至100モル、より好ましくは10乃至20モルである。
【0012】
[モノマーB]
本発明で用いる同一分子内に常磁性を発現する部分及び1個以上のラジカル重合性二重結合とを有するモノマーBにおいて、常磁性を発現する部分としては、常磁性金属と、ジエチレントリアミン五酢酸誘導体やポルフィリン誘導体等の配位子とからなるキレート錯体、或いは、ニトロキシル基等の有機ラジカル構造を分子内に有する化合物(例えば特許文献3参照)などが挙げられる。
【0013】
好ましくは、モノマーBは下記式[1]で表される化合物である。
【化2】

上記式中、R1、R2、R4、R5、R7、R8、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至6のアルキル基(このアルキル基は、ホルミル基、アミノ基、ヒドロキシル基又は−COOR13(ここでR13は、水素原子又は炭素原子数1乃至6のアルキル基を表す。)で置換されていてもよい)、又は炭素原子数2乃至6のアルケニル基を表す。
3、R6、R9及びR12は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至6のアル
キル基(このアルキル基は、ホルミル基、アミノ基、ヒドロキシル基又は−COOR14(ここでR14は、水素原子又は炭素原子数1乃至6のアルキル基を表す。)で置換されていてもよい)、又はフェニル基(このフェニル基は、ホルミル基、アミノ基、ヒドロキシル基、−COOR15(ここでR15は、水素原子又は炭素原子数1乃至6のアルキル基を表す。)、又はスルホ基で置換されていてもよい)を表す。
またMは、常磁性を有する原子価2乃至5の金属原子を表す。
なお、R1、R2、R4、R5、R7、R8、R10及びR11の少なくとも1つは、炭素原子数2乃至6のアルケニル基を表す。
【0014】
ここで上記R1乃至R12の定義における炭素原子数1乃至6のアルキル基、並びにR13
乃至R15の定義における炭素原子数1乃6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
また、R1、R2、R4、R5、R7、R8、R10及びR11の定義における炭素原子数2乃至6のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、3−ブテニル基、4−ペンテニル基、5−ヘキセニル基等が得られる。
【0015】
したがって、R1、R2、R4、R5、R7、R8、R10及びR11の具体例としては、水素原子、メチル基、ホルミルメチル基、カルボキシメチル基、エトキシカルボニルメチル基、アミノメチル基、ヒドロキシメチル基、エチル基、2−ホルミルエチル基、2−カルボキシエチル基、1−(メトキシカルボニル)エチル基、2−アミノエチル基、2−ヒドロキシエチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、3−アミノプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、ビニル基、アリル基等が挙げられ、好ましくは水素原子、メチル基、カルボキシメチル基、エチル基、2−カルボキシエチル基、ビニル基が挙げられる。
また、R3、R6、R9及びR12の具体例としては、水素原子、メチル基、ホルミルメチ
ル基、カルボキシメチル基、エトキシカルボニルメチル基、アミノメチル基、ヒドロキシメチル基、エチル基、2−ホルミルエチル基、2−カルボキシエチル基、1−(メトキシカルボニル)エチル基、2−アミノエチル基、2−ヒドロキシエチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、3−アミノプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、フェニル基、o−トルイル基、m−トルイル基、p−トルイル基、p−ホルミルフェニル基、p−カルボキシフェニル基、m−エトキシカルボニルフェニル基、p−アミノフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、p−スルホフェニル基等が挙げられ、好ましくは水素原子、メチル基、フェニル基、p−カルボキシフェニル基、p−スルホフェニル基が挙げられる。
【0016】
上記式[1]におけるM(常磁性を有する原子価2乃至5の金属原子)は、具体的には、マグネシウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、スズ、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀及び鉛からなる群から選択される原子価2の金属原子、又は酸素原子、ハロゲン原子、アシル基、ニトロ基又はシアノ基を対アニオンとして有してもよい原子価3乃至5の金属原子である。
【0017】
2価の金属原子の具体例としては、マグネシウム(II)、カルシウム(II)、鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル(II)、銅(II)、亜鉛(II)、ルテニウム(II)、パラジウム(II)、スズ(II)、オスミウム(II)、イリジウム(II)、白金(II)、鉛(II)等が挙げられ、好ましくは亜鉛(II)、ルテニウム(II)、パラジウム(II)、スズ(II)、オスミウム(II)、イリジウム(II)、白金(II)が挙げられる。
3価の金属原子の具体例としては、アルミニウム(III)、鉄(III)、マンガン(III)、コバルト(III)、ロジウム(III)、インジウム(III)、アンチモン(III)、ビスマス(III)等が挙げられ、好ましくはロジウム(III)が挙げられる。
4価の金属原子の具体例としては、ゲルマニウム(IV)、スズ(IV)等が挙げられ、好ましくはスズ(IV)が挙げられる。
5価の金属原子の具体例としては、モリブデン(V)、アンチモン(V)、ビスマス(V)等が挙げられる。
これらの中でもMは、マンガン(III)、鉄(III)、コバルト(III)又は銅(II)であることが好ましく、マンガン(III)であることが最も好ましい。
【0018】
Mが原子価3乃至5の金属原子の際に有していても良い対アニオンとしては、ハロゲン原子及びアシル基が好ましい。
また金属Mと対アニオンの好ましい組合せとしては、例えば、マンガン(III)−ハロゲン原子、マンガン(III)−アセチル基、鉄(III)−ハロゲン原子、鉄(III)−アセチル基、コバルト(III)−ハロゲン原子、コバルト(III)−アセチル基等が挙げられ、マンガン(III)−ハロゲン原子、マンガン(III)−アセチル基がより好ましい。
【0019】
上記式[1]で表される化合物の中でも、モノマーBはマンガン(III)プロトポルフィリン錯体であることが最も好ましい。
【0020】
上記モノマーBは、前記モノマーAに対して、1乃至100モル%の量で使用され、好ましくは2乃至90モル%、より好ましくは5乃至50モル%の量で使用される。
【0021】
[重合開始剤C]
本発明における重合開始剤Cとしては、好ましくはアゾ系重合開始剤が用いられる。
アゾ系重合開始剤としては、例えば以下の(1)〜(5)に示す化合物を挙げることができる。
(1)アゾニトリル化合物:
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等;
(2)アゾアミド化合物:
2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)等;
(3)環状アゾアミジン化合物:
2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジスルフェートジヒドレート、2,2’−アゾビス[2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン]ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス[2−(2−イミ
ダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2'−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−
2−メチルプロパン)ジヒドロクロリド等;
(4)アゾアミジン化合物:
2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]テトラヒドレート等;
(5)その他:
2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリン酸、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)等。
【0022】
得られる高分岐ポリマーへの水溶性付与の観点から、上記アゾ系重合開始剤の中でも好ましいものは、(1)アゾニトリル化合物、(2)アゾアミド化合物、(4)アゾアミジン化合物であり、特に2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)が好ましい。
【0023】
上記重合開始剤Cは、前記モノマーAに対して、5乃至200モル%の量で使用され、好ましくは20乃至200モル%、より好ましくは50乃至200モル%の量で使用される。
【0024】
<高分岐ポリマーの製造方法>
本発明の高分岐ポリマーは、前述のモノマーAとモノマーBとを、モノマーAに対して所定量の重合開始剤Cの存在下で重合させることにより得られ、該重合方法としては公知の方法、例えば溶液重合、分散重合、沈殿重合、及び塊状重合等が挙げられ、中でも溶液重合又は沈殿重合が好ましい。特に分子量制御の点から、有機溶媒中での溶液重合によって反応を実施することが好ましい。
【0025】
このとき用いられる有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ヘキサン、n−ヘプタン、ミネラルスピリット、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素系溶媒;塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、メチレンジクロライド、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、オルトジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系又はエステルエーテル系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ−n−ブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン等の複素環式化合物系溶媒、並びにこれらの2種以上の混合溶媒が挙げられる。
【0026】
これらのうち好ましいのは、芳香族炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、アミド系溶媒等であり、特に好ましいものはベンゼン、トルエン、キシレン、オルトジクロロベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等であり、その中でもn−プロパノール、n−ブタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンがより好ましい。
【0027】
本発明の重合反応を有機溶剤の存在下で行う場合、前記モノマーAに対する前記有機溶媒の質量は、通常5乃至120質量部であり、好ましくは10乃至110質量部であり、
30乃至100質量部がより好ましい。
【0028】
重合反応は常圧、加圧密閉下、又は減圧下で行われ、装置及び操作の簡便さから常圧下で行うのが好ましい。また、N2等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
重合温度は、反応混合物の沸点以下であれば任意であるが、重合効率と分子量調節の点から、好ましくは50℃以上200℃以下であり、さらに好ましくは80℃以上150℃以下であり、80℃以上130℃以下がより好ましい。
反応時間は、反応温度や、モノマーA、モノマーB及び重合開始剤Cの種類及び割合、重合溶媒種等によって変動するものであるため一概には規定できないが、好ましくは30分以上720分以下、より好ましくは40分以上540分以下である。
【0029】
本発明の高分岐ポリマーのゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量(Mw)は、1,000乃至400,000、好ましくは2,000乃至200,000である。
また該高分岐ポリマーの1次粒子の平均粒子径(動的光散乱法による)は、好ましくは1nm以上500nm以下、さらに好ましくは5nm以上200nm以下である。
【0030】
[MRI造影剤]
本発明の常磁性を有する高分岐ポリマーは、種々の分野への応用が期待されるが、中でも常磁性部位を高密度に担持できる性質や大きさから、高い常磁性体緩和促進効果とガン細胞選択性などを有することが期待され、MRI造影剤として有用である。
すなわち、本発明の常磁性を有する高分岐ポリマーを含むMRI造影剤もまた本発明の対象である。
本発明のMRI造影剤は、通常注射用蒸留水、生理食塩水、リンゲル液等の溶媒に分散、懸濁又は溶解等の状態で用いられ、さらに必要に応じて、薬理学的に許容され得る担体、賦形剤等の添加剤を含めることができる。
本発明の上記MRI造影剤は、細胞などに適用し得るほか、血管(静脈、動脈)内投与、経口投与、直腸内投与、腟内投与、リンパ管内投与、関節内投与等によって生体内に投与することができ、好ましくは、水剤、乳剤又は懸濁液等の形態で静脈内投与や経口投与によって投与する。
上記MRI造影剤に含められ得る添加剤としては、その投与形態、投与経路等によっても異なるが、具体的には、注射剤の場合には緩衝剤、抗菌剤、安定化剤、溶解補助剤、賦形剤等が単独又は組み合わせて用いられ、経口投与剤(具体的には水剤、シロップ剤、乳剤、懸濁液等)の場合、着色剤、保存剤、安定化剤、懸濁化剤、乳化剤、粘稠剤、甘味剤、芳香剤等が単独又は組み合わせて用いられる。各種添加剤は、通常当分野で用いられるものが使用される。
【0031】
本発明の上記MRI造影剤は、従来のMRI用造影剤に準じて投与、造影することができる。また上記MRI造影剤は、ヒト以外にも各種動物用の造影剤としても好適に用いることができ、その投与形態、投与経路、投与量等は対象となる動物の体重や状態によって適宜選択する。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例において、試料の調製及び物性の分析に用いた装置及び条件は、以下の通りである。
【0033】
(1)GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)
装置:東ソー(株)製 HLC−8220GPC
カラム:Shodex SB−803HQ、SB−804HQ
カラム温度:40℃
溶媒:10mM LiBr添加DMF
検出器:RI
(2)動的光散乱光度計(粒径測定)
装置:大塚電子(株)製 FDLS−3000
(3)UV分光光度計(吸光度測定)
装置:(株)島津製作所製 UV−3600
(4)MRIファントム試験/MRI造影試験
装置:Varian社製 UNITY INOVA 4.7T
グラジエントコイル(10gauss/cm)
Rapid社製、ラット&マウス用ボリュームコイル(トランスミッション用)
MRIパルス系列(送受信用)
a)r1測定(反転回復スピンエコー法)
TR/TE=4000/10
FOV 10×5cm
Slice Thickness=3mm
NEX 1
回復時間(TI)=0.0001、0.001、0.025、0.012、0.061、0.3、1.5秒
Scan Time 60分
b)r2測定(スピンエコー法)
TR/TE=4000/可変
FOV 10×5cm
Slice Thickness=3mm
NEX 1
TE=0.01、0.02、0.03、0.05、0.08、0.13、0.2秒
Scan Time 60分
c)2D−SEMS(T1W1)画像測定
マウス全身:
TR/TE=300/15
FOV 12×6cm,Matrix 256×128
NEX 6(scan 4分00秒)
Sagittal 2mm×13slices, gap 0mm
マウス下腹部:
TR/TE=300/15
FOV 4×4cm, Matrix 256×256
NEX 4(scan 5分20秒)
Trans 1.5mm×11slices, gap 0mm
(5)ICP−MS(マンガン量分析)
装置:Agilent社製 7500cs
【0034】
また、略記号は以下の意味を表す。
AMBN:2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)
PEGDMA:ポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート(アルドリッチ社製、Mn=750)
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド
IPE:ジイソプロピルエーテル
【0035】
[実施例1]常磁性を有する高分岐ポリマー1の合成
(手順1:化合物1の合成)
プロトポルフィリンIX[アルドリッチ社製]563mg(1.0mmol)、及び酢酸マンガン四水和物[和光純薬工業(株)製]2.45g(10mmol)をDMF20mLに加え、3時間加熱撹拌した。UVスペクトルにより反応の収束を確認した後、反応溶媒を留去し、残渣を水で洗浄することにより、下記式で表される化合物1を650mg得た(収率96%)。得られた化合物1並びにプロトポルフィリンIXのUVスペクトルを図1に示す。
【0036】
【化3】

【0037】
(手順2:高分岐ポリマー1の合成)
500mLの反応フラスコに、(手順1)に従って合成した化合物1 1.82g(2.7mmol)及びDMF250gを仕込み、攪拌しながら5分間窒素を流し込み、内温が100℃になるまで加熱した。
別の200mLの反応フラスコに、PEGDMA20.0g(27mmol)、AMBN2.60g(13.5mmol)及びDMF25gを仕込み、攪拌しながら5分間窒素を流し込み窒素置換を行った。
前述の500mL反応フラスコ中の100℃に加熱してある溶液中に、PEGDMA、及びAMBNが仕込まれた前記200mLの反応フラスコから、滴下ポンプを用いて、内容物を30分間かけて滴下した。滴下終了後、そのまま100℃で1時間熟成させた。
次に、この反応液を濃縮後、DMF80gに溶解させた。この溶液をIPE/DMF混合液(質量比9:1)1,800gに添加してポリマーを再沈殿させた。上澄み液をデカンテーションで除去し、得られた残渣を再度同様の操作によりに再沈殿させた。再度上澄み液をデカンテーションし、得られた残渣を水に加え、RC透析チューブ[スペクトラム・ラボラトリーズ社製、商品名;Spectra/Por、分画分子量;3.5kダルトン]を用いて7日間透析操作を行った。透析終了後、溶液を濃縮し得られた残渣を真空乾燥して、油状物の目的物(高分岐ポリマー1)を4.8g得た。
【0038】
得られた目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは12,200、分散度:Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)は2.1であった。また、該高分岐ポリマーの数平均粒子径は4.7nm、マンガン含有量は0.90質量%であった。得られた高分岐ポリマー1のUVスペクトルを図1にあわせて示す。
【0039】
[実施例2]急性毒性試験
<評価方法>
高分岐ポリマー1のマウスにおける静脈内投与による急性毒性試験を実施した。
試験には日本チャールス・リバー(株)より購入した投与時5.5週齢のCrlj:CD1(ICR)雄マウスを供試し、1群5匹とした。処理群は高分岐ポリマー1の質量が10、20及び40mg/頭となるように設定した。また、溶媒は生理食塩水を使用し、0.1mL/頭の容量にて投与した。対照群には生理食塩水のみを投与した。投与後2日間にわたり死亡時期と症状の観察、体重測定を行い、血液生化学検査、臓器重量測定、肉眼病理検査及び組織病理検査を実施した。
<結果>
処理群、対象群の何れの群でも死亡は認められなかった。
処理群(投与群)では、投与30分以内に自発運動の減少及び腹臥位が認められたが、投与1時間後には消失していた。同様に、投与3時間後及び6時間後には着色尿が認められたが、投与1日後には消失していた。
また、体重変化、臓器重量、血液生化学検査、肉眼病理検査については、何れの群でも著変は認められなかった。さらに、組織病理検査においても、何れの群でも検体投与に起因したと考えられる変化は認められなかった。
以上より、高分岐ポリマー1のマウスにおける静脈内投与による半数致死量:LD50は>40mg/頭であることが判明した。
【0040】
[実施例3]MRIファントムによるT1及びT2緩和時間測定及びファントム画像
高分岐ポリマー1を、生理食塩水[(株)大塚製薬工場製、製品名:大塚生食注]にて0.001、0.01、0.1、1.0、2.0mMにそれぞれ希釈した。調製した希釈液各々の0.9mLを1.5mlチューブに入れ、MRI測定用ファントムとした。対照物質として、蒸留水、生理食塩水、及びGd−DTPA[バイエル薬品(株)製、製品名:マグネビスト]1mM生理食塩水溶液(MV1と略記する)を用いた。なお図2に後述するMRIファントム画像撮影(図3及び図4参照)における試料の配置を示した。
各濃度での高分岐ポリマー1のT1及びT2緩和時間測定データを表1(a)並びに表1(b)に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
上記結果より、T1の緩和能:r1(mM-1-1)(縦軸1/T1、横軸T1プロットの傾
き)及びT2の緩和能:r2(mM-1-1)(縦軸1/T2、横軸T2プロットの傾き)を算
出したところ、r1=5.93(標準偏差:2)、r2=21.3(標準偏差:4)であった。
これは、現在市販のMRI造影剤であるGd−DTPA(マグネビスト)の緩和能(r1:約3〜4、r2:約4〜5)と比較していずれも大きな値であり、本発明の高分岐ポリマー1がMRI造影剤として従来品よりも高感度であるとする結果となった。
【0043】
また、各試料のMRIファントム画像を図3及び図4に示す。図3は反復時間:Tiを変化させて測定した各試料のT1強調画像、図4はエコー時間:Teを変化させて測定し
た各試料のT2強調画像である。
特に濃度1.0mMの試料において、充分に臨床応用可能な程度の造影画像が得られた。
【0044】
[実施例4]マウスを用いたMRI造影試験(全身)
酸素/笑気混合ガス(体積比3:1)にイソフルラン1乃至2体積%を混合した。この混合ガスをマウス(実施例2で使用したものと同種の雄マウス)に自発呼吸にて吸引させ、麻酔処置を行なった。続いて、マウス尾静脈より、実施例1で合成した高分岐ポリマー1の22mM生理食塩水溶液0.175mL/頭を投与(高分岐ポリマー1換算で0.1mmol/kg)し、T1W1画像の測定を行なった。結果を図5に示す。図5に示すように、T1W1画像における全身信号強度変化より、投与直後から全身の臓器が造影され、中でも下腹部(肝臓、脾臓など)の強度変化が大きく、投与直後から明らかな造影効果が認められた。
【0045】
[実施例5]マウスを用いたMRI造影試験(下腹部;肝臓、脾臓)
酸素/笑気混合ガス(体積比3:1)にイソフルラン1乃至2体積%を混合した。この混合ガスをマウス(実施例2で使用したものと同種の雄マウス)に自発呼吸にて吸引させ、麻酔処置を行なった。続いて、マウス尾静脈より、実施例1で合成した高分岐ポリマー1の22mM生理食塩水溶液0.175mL/頭を投与(高分岐ポリマー1換算で0.1mmol/kg)し、T1W1画像の測定を行ない、肝臓及び脾臓での信号強度変化を測定した。また、対照例として、Gd−DTPA[バイエル薬品(株)製、製品名:マグネビスト]1mM生理食塩水溶液を23.5倍希釈した溶液0.175mL/頭を投与(Gd−DTPA換算で0.1mmol/kg)し、同様に測定した。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2に示すように、Gd−DTPA投与マウスでは、脾臓においては、投与前の信号強度に対し、投与直後から信号強度の大幅な増強がみられたものの、特に肝臓において、小さな信号強度の上昇しかみられなかった。
これに対し、高分岐ポリマー1投与群においては、肝臓及び脾臓何れの造影においても、投与前の信号強度に対し、投与直後から信号強度の大幅な増強が認められた。
【0048】
[実施例6]マウス各臓器への高分岐ポリマー1の取り込み確認試験
高分岐ポリマー1投与直後の臓器を取り出し、各臓器中のマンガン量を測定することで、高分岐ポリマー1の各臓器への取り込み量を測定した。
<臓器の取り出し>
試験には日本チャールス・リバー(株)より購入した投与時5.5週齢のCrlj:CD1(ICR)雄マウスを供試し、1群3匹とした。処理群は高分岐ポリマー1の質量が16mg/頭となるように設定した。また、溶媒は生理食塩水を使用し、0.175mL/頭の容量にて尾静脈より投与した。対照群には生理食塩水のみを投与した。
投与15分後、エーテル麻酔下で開腹し、腹大動脈より血液サンプルを採取した。腹大動脈より放血により致死させた後、直ちに各臓器(脳、肺、心臓、膵臓、肝臓、脾臓、腎
臓、膀胱、骨格筋(左大腿部)、脂肪組織(精巣周囲))を摘出した。摘出した各臓器は、速やかに生理食塩水で洗浄し、重量を測定した後、液体窒素中で急速凍結させた。また、先に採取した血液については、ヘパリンで抗凝固処理を行い、全血を凍結させた。
<臓器中のマンガンの定量分析>
石英皿に凍結保存した各臓器10乃至500mgをホットプレート・電気炉(およそ590℃)で加熱分解した後、0.1M硝酸溶液4gで回収した。この溶液を適宜希釈し、ICP−MSを用いてマンガン量の測定を行った。
<結果>
結果を図6に示す。コントロール群に比べ、高分岐ポリマー1投与群では、各臓器でマンガン量が多くなっており、各臓器へ高分岐ポリマー1が取り込まれていることが示唆された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0049】
【特許文献1】米国特許第4,822,594号明細書
【特許文献2】特表1997−500365号公報
【特許文献3】国際公開第2009/054455号パンフレット
【非特許文献】
【0050】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,2007,129(42),12739−12745

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一分子内にアルキレンオキシド基及び2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、同一分子内に常磁性を発現する部分及び1個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーAに対して5乃至200モル%量の重合開始剤Cの存在下で重合させることにより得られる高分岐ポリマー。
【請求項2】
前記モノマーAがポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートである、請求項1に記載の高分岐ポリマー。
【請求項3】
前記モノマーAに対して1乃至100モル%量の前記モノマーBを用いることにより得られる、請求項1又は請求項2に記載の高分岐ポリマー。
【請求項4】
前記モノマーBの常磁性を発現する部分がキレート錯体である、請求項1乃至請求項3のうちいずれか一項に記載の高分岐ポリマー。
【請求項5】
前記キレート錯体がポルフィリン化合物を配位子とするキレート錯体である、請求項4に記載の高分岐ポリマー。
【請求項6】
前記モノマーBが式[1]で表される化合物である、請求項1乃至請求項3のうちいずれか一項に記載の高分岐ポリマー。
【化1】

[式中、R1、R2、R4、R5、R7、R8、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至6のアルキル基(このアルキル基は、ホルミル基、アミノ基、ヒドロキシル基又は−COOR13(ここでR13は、水素原子又は炭素原子数1乃至6のアルキル基を表す。)で置換されていてもよい)、又は炭素原子数2乃至6のアルケニル基を表し、R3、R6、R9及びR12は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至6のアル
キル基(このアルキル基は、ホルミル基、アミノ基、ヒドロキシル基又は−COOR14(ここでR14は、水素原子又は炭素原子数1乃至6のアルキル基を表す。)で置換されていてもよい)、又はフェニル基(このフェニル基は、ホルミル基、アミノ基、ヒドロキシル基、−COOR15(ここでR15は、水素原子又は炭素原子数1乃至6のアルキル基を表す。)、又はスルホ基で置換されていてもよい)を表し、Mは、常磁性を有する原子価2乃至5の金属原子を表す。なお、R1、R2、R4、R5、R7、R8、R10及びR11の少なくとも1つは、炭素原子数2乃至6のアルケニル基を表す。]
【請求項7】
前記Mが、マンガン(III)、鉄(III)、コバルト(III)及び銅(II)からなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項6に記載の高分岐ポリマー。
【請求項8】
前記モノマーBが、マンガン(III)プロトポルフィリン錯体である、請求項7に記載の高分岐ポリマー。
【請求項9】
同一分子内にアルキレンオキシド基及び2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、同一分子内に常磁性を発現する部分及び1個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーAに対して5乃至200モル%量の重合開始剤Cの存在下で重合させることを特徴とする、常磁性を発現する部分を有する高分岐ポリマーの製造方法。
【請求項10】
前記モノマーAがポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートであり、前記モノマーBが、中心金属として常磁性を有する原子価2乃至5の金属原子を有するところのプロトポルフィリン錯体である、請求項9に記載の高分岐ポリマーの製造方法。
【請求項11】
前記常磁性を有する原子価2乃至5の金属原子がマンガン(III)である、請求項10に記載の高分岐ポリマーの製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至請求項8のうちいずれか一項に記載の高分岐ポリマーを含むMRI造影剤。
【請求項13】
請求項1乃至請求項8のうちいずれか一項に記載の高分岐ポリマーを体内に投与することを特徴とする、MRI造影方法。

【図1】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−107164(P2012−107164A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258958(P2010−258958)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】