説明

常磁性ガーネット単結晶及びその製造方法

【課題】高品質で大型のTGG結晶を、安価に且つ容易に製造できるようにする。
【解決手段】GGG結晶又はSGGG結晶からなる基板上に、LPE法で育成したTGG結晶である。前記TGG結晶は、組成Tb3 x Ga5-x 12で表され、MがSc、Inから選ばれる少なくとも1種の3価元素であって、基板がGGGの場合には0.1≦x≦0.5を満たし、基板がSGGGの場合は0.9≦x≦1.65を満たしており、且つ前記基板と育成したTGG結晶の垂直方向の格子定数差を±0.02Å以下とする。必要なガーネット原料と、PbO及びB2 3 をフラックスとする融液の表面に、基板の片面を接触させ、850〜980℃でTGG結晶をLPE成長させる。融液中に、SiO2 、GeO2 、TiO2 から選ばれる1種以上の酸化物、あるいはCeO2 が含まれていてもよい。必要に応じて、育成したTGG結晶を還元処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常磁性ガーネット単結晶及びその製造方法に関し、更に詳しく述べると、LPE法(液相エピタキシャル法)により育成したTGG(テルビウム・ガリウム・ガーネット)を主成分とする常磁性ガーネット単結晶及びその製造方法に関するものである。この技術は、特にファラデー回転子などに用いる光学用単結晶材料の製造に有用である。
【背景技術】
【0002】
TGG結晶は、低光損失、高熱伝導率、高ダメージ閾値、高ベルデ定数の光学用結晶として知られており、主に400nm〜1100nm用光アイソレータなどのファラデー素子として利用されている。
【0003】
TGG結晶の一般的な製造方法としては、坩堝中で溶融した原料に種結晶をつけて回転させながら引き上げるチョクラルスキー法(CZ法)が知られている。しかし、溶融液からの育成では、育成温度が1100℃以上の高温になり、主成分であるガリウムの蒸散が激しく、育成方向の組成変動が大きくなり、そのため結晶の捩れ、割れなどが発生する。このような理由で、従来技術では直径1インチ程度の結晶を得るのが限度であった。しかも、得られた結晶にはコアと呼ばれる不均一な部分が生じており、それらを除いた部分からファラデー素子を切り出すために、結晶中の利用可能領域が制限され、ファラデー素子材の収量が少なくなる欠点があった。そのため市販のTGG結晶は高価なものになっており、そのTGG結晶を用いた光アイソレータも高価なものになり、それが普及を妨げる要因となっている。
【0004】
最近、TGG結晶で2価、4価の陽イオンを置換することにより、結晶性を改善することが試みられている(特許文献1参照)。それによれば、従来技術に比べて大型のTGG結晶が製造できるとされているが、それでも直径60mm程度に止まっている。
【0005】
このような改良にも関わらず、上記のようなCZ法によるTGG結晶の製造では、直径60mm程度よりも大型の単結晶の育成は困難である。また、育成温度が高く、育成方向の組成変動が生じ易いなどの問題がある。
【0006】
なお、単結晶の他の育成方法としてLPE法があるが、現状では光学用として良好な特性を持つTGG結晶の製造手法は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−221035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、高品質で大型のTGG結晶を、安価に且つ容易に製造できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、GGG結晶からなる基板上に、LPE法で育成したTGG結晶であって、前記TGG結晶は、組成Tb3 x Ga5-x 12で表され、前記MがSc、Inから選ばれる少なくとも1種の3価元素であって0.1≦x≦0.5を満たしており、且つ前記基板のGGG結晶と育成したTGG結晶の垂直方向の格子定数差が±0.02Å以下となっていることを特徴とする常磁性ガーネット単結晶である。
【0010】
また本発明は、SGGG結晶からなる基板上に、LPE法で育成したTGG結晶であって、前記TGG結晶は、組成Tb3 x Ga5-x 12で表され、前記MがSc、Inから選ばれる少なくとも1種の3価元素であって0.9≦x≦1.65を満たしており、且つ前記基板のSGGG結晶と育成したTGG結晶の垂直方向の格子定数差が±0.02Å以下となっていることを特徴とする常磁性ガーネット単結晶である。
【0011】
更に本発明は、上記の常磁性ガーネット単結晶を製造する方法であって、Tb4 7 、Ga2 3 、及びM2 3 (但し、MはSc、Inから選ばれる少なくとも1種)をガーネット原料、PbO及びB2 3 をフラックスとした融液の表面に、前記基板の片面を接触させ、850〜980℃でTGG結晶をLPE成長させる常磁性ガーネット単結晶の製造方法である。ここで前記融液中に、SiO2 、GeO2 、TiO2 から選ばれる1種以上の酸化物が含まれており、その重量濃度の合計が0.5wt%以下であるように調整されていてもよい。あるいは前記融液中にCeO2 が含まれており、その重量濃度が0.2wt%以下であるように調整されていてもよい。
【0012】
また本発明は、これらの常磁性ガーネット単結晶の製造方法によりLPE成長させたTGG結晶を、水素0.5〜6vol%を含む窒素との混合雰囲気下、450〜800℃で還元処理する常磁性ガーネット単結晶の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る常磁性ガーネット単結晶の製造方法は、GGG基板またはSGGG基板を用いてLPE法により育成する方法であるから、直径3インチ(76mm程度)の大型で平板状のTGG結晶が得られる。本発明方法では、フラックスを用いた融液からTGG結晶を育成するので、育成温度を1000℃未満に下げることができるため結晶成分のガリウム蒸散を抑えることができ、高品位の均質なTGG結晶が得られる。
【0014】
本発明で基板として用いるGGG結晶はYIG育成用基板として、またSGGG結晶はビスマス置換ガーネット結晶育成基板として使われており、入手が容易で安価であり、且つ3インチの大型基板が市販されている。それらの上にTGG結晶をLPE法によって育成するので、直径3インチの大型結晶が得られ、且つ結晶形状が板状であるため、切断や研磨が容易である。そのため、加工費まで含めたトータルコストを低く抑えることができる。これによって、光アイソレータ用ファラデー回転子に有用な安価なTGG結晶チップが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】透過率スペクトルの還元温度依存性を示すグラフ。
【図2】波長532nmの透過率と還元温度との関係を示すグラフ。
【図3】波長532nmの透過率と還元処理時の水素濃度との関係を示すグラフ。
【図4】CeO2添加融液から育成したTGG結晶の透過スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、GGG結晶またはSGGG結晶からなる基板上に、LPE法で育成したTGG結晶であって、前記TGG結晶は、組成Tb3 x Ga5-x 12で表され、前記MがSc、Inから選ばれる少なくとも1種の3価元素である。基板がGGG結晶の場合には、前記xが0.1≦x≦0.5を満たし、且つ前記基板のGGG結晶と育成したTGG結晶の垂直方向の格子定数差が±0.02Å以下となるようにする。そこで、MがSc単独の場合は前記x量を0.15≦x≦0.5とし、MがIn単独の場合は前記x量を0.1≦x≦0.4とする。また基板がSGGG結晶の場合には、前記xが0.9≦x≦1.65を満たし、且つ前記基板のSGGG結晶と育成したTGG結晶の垂直方向の格子定数差が±0.02Å以下となるようにする。そこで、MがSc単独の場合は前記x量を1.25≦x≦1.65とし、MがIn単独の場合は前記x量を0.9≦x≦1.25とする。
【0017】
GGG結晶はYIG育成用基板として、SGGG結晶はビスマス置換ガーネット結晶育成基板として使われており、入手が容易で安価であり、しかも3インチの大型基板が市販されている。そのため、それらの上にLPE法によりTGG結晶を育成することで3インチの大型結晶が得られることになる。また、育成した結晶形状は平板状であるため、切断や研磨が容易であり、加工費まで含めたトータルコストを抑えることができる。
【0018】
ここで問題となるのは、それらGGG結晶あるいはSGGG結晶からなる基板とTGG結晶とは格子定数が異なるということである。TGG(Tb3 Ga5 12)結晶の格子定数は12.34Åであり、GGG結晶の格子定数は12.38Å、SGGG結晶の格子定数は12.496±0.003Åである。このように、TGG結晶の格子定数は基板に比べて小さく、そのままではクラックや欠陥が生じて、膜厚数百ミクロン以上の良質な結晶は育成できない。そのため本発明では、イオン半径の大きな元素を置換して格子をマッチングさせる。
【0019】
TGG結晶が属するガーネット構造には、酸素配位数が8{C}、6[a]、4(d)の三つのサイトがある。ファラデー効果を有するTb3+はCサイトに配置されている。そのため、イオン半径の大きな元素をCサイトのTb3+と置換して格子定数を合わせることは好ましくない。これに対しGa3+は、a,dサイトに配置されている。aサイト(6配位)に配置しているGa3+のイオン半径は0.62Åである。そこで、Sc3+及び/又はIn3+を置換して格子定数を大きくし、基板とマッチングさせることを試みた。因みに、Sc3+のイオン半径は0.745Å、In3+のイオン半径は0.80Åである。
【0020】
本発明者が鋭意検討した結果、基板であるGGG結晶あるいはSGGG結晶とTGG結晶膜の垂直方向の格子定数差が±0.02Å以内であれば、膜厚200μm以上の良質な結晶が得られることが判明した。そこで、上記のように、基板がGGG結晶の場合には、前記xが0.1≦x≦0.5を満たすようにし、基板がSGGG結晶の場合には、前記xが0.9≦x≦1.65を満たすようにして、上記格子定数差が±0.02Å以内となるように基板とTGG結晶の格子をマッチングさせている。より好ましくは、上記格子定数差が±0.01Å以内となるように基板とTGG結晶の格子をマッチングさせることである。そのためには、例えば基板がGGG結晶の場合は、前記xが0.25≦x≦0.42を満たすようにする。これらの数値範囲は、後述する実施例についての実験結果から導き出されたものである。
【0021】
このような常磁性ガーネット単結晶の製造は、Tb4 7 、Ga2 3 、及びM2 3 (但し、MはSc、Inから選ばれる少なくとも1種)をガーネット原料とし、PbO及びB2 3 をフラックスとした融液(メルト)の表面に、前記基板の片面を接触させ、850〜980℃でTGG結晶をLPE成長させる。これによって、GGG結晶またはSGGG結晶からなる基板上に、LPE法により大型(例えば直径3インチ)の平板状のTGG結晶を容易に育成できる。この方法は、フラックスを用いた融液からTGG結晶を育成するので、育成温度を1000℃未満に下げることができるため結晶成分のガリウム蒸散を抑えることができ、高品位の均質な単結晶が得られる。しかも大型の平板状TGG結晶が得られるので、それを切断、研磨することにより、容易に安価なチップに加工することができる。
【0022】
ところが、このようにして育成したTGG結晶には着色が見られた。吸収スペクトルを測定したところ、波長1000nm未満において吸収が生じていた。この場合でも、波長1000nm以上で使用する用途では問題はなく、例えば、TGG結晶の応用製品である光アイソレータの用途を想定した場合、発振波長が1064nmであるNd:YAGレーザー光源の反射戻り光対策用などには使用できる。しかし、波長1000nm以下の吸収を低減して使用可能な波長範囲を広げることができれば、更に用途が広がる。
【0023】
まず、着色除去対策について種々試みた結果、TGG結晶を育成した後、還元処理を実施することによって吸収を低減できることが判明した。因みに酸化処理では更に吸収が大きくなった。
【0024】
そこで、適切な条件を見出すため、還元処理について詳細に検討した。還元雰囲気を窒素ベースの水素2.7vol%含有雰囲気、還元時間を6時間に固定し、温度を変えてTGG結晶を還元処理した。還元処理前、還元温度450℃、700℃での各吸収スペクトルを図1に示す。また、波長532nmにおける透過率の還元温度依存性を図2に示す。なお、試料はLPE法により、3インチサイズのGGG基板上に育成したTGG結晶である。このTGG結晶は、基板との格子定数を合わせるためにガリウムの一部をスカンジウムに置換したTb3 (ScGa)5 12で表される結晶であり、育成膜厚は2.4mmである。それを3mm角に切断し、基板を除去して3mm角の両面を鏡面に仕上げた。仕上げ膜厚は2.32mmである。そして、3mm角の面に垂直に光を入射して、透過スペクトルを測定している。
【0025】
還元温度が400℃以下では透過率は殆ど変わらなかった。しかし、450℃以上では顕著な透過率の向上が見られた。また、800℃では僅かに膜表面の荒れが見られ、透過率が少し低下した。この程度であれば問題ないが、800℃を超える温度では、更に荒れが進行するため好ましくない。これにより、還元温度は450℃以上800℃以下が適当である。
【0026】
更に、還元雰囲気依存性を検討した結果を図3に示す。今度は還元温度を700℃、還元時間を6時間に固定し、窒素中の水素濃度と532nmにおける透過率の関係を調査した。その結果、水素濃度が0.5vol%未満では透過率の向上が小さく、また、6vol%を超えると透過率の低下が見られた。このことから、水素濃度は0.5vol%以上6vol%以下が好ましい。
【0027】
還元処理によって吸収が低減した原因は、3価と4価が安定なテルビウムのTb4+がTb3+に還元されたためと考えられ、吸収要因はTb4+であると推察された。だとすれば、Tb4+が結晶中に取り込まれることを妨げることによっても、吸収を低減することが可能と考えられる。そもそもTb4+は、電荷補償効果によりPb2+とセットで結晶中に取り込まれるものと推測される。何故なら、ガーネット結晶の陽イオンは3価において、酸素の陰イオンと静電的バランスが採れるからである。ここで、Pb2+はフラックスとして必須の元素であり、その一部が結晶中に取り込まれることは不可避である。ならば、Pb2+とセットで取り込まれる4価の陽イオンを故意にメルト(融液)中に仕込めば、そのイオンとPb2+がセットで結晶中に取り込まれ、Tb4+の混入を抑制できると考えられた。
【0028】
そこで着色防止対策として、融液中に4価の陽イオンとしてCe4+、Si4+、Ge4+、Ti4+を添加してTGG結晶を育成したところ着色が低減した。例えば、上記Tb3 (ScGa)5 12を作製した原料にCeO2 を0.2wt%添加し、GGG基板上にTb3 (ScGa)5 12結晶を育成して、透過率スペクトルを測定した結果を図3に示す。なお、試料は厚さ2.32mmであり、光入出射面に反射防止膜は施されていない。図3より、透過率が向上したことが分かる。ここでCeO2 添加量を0.6wt%に増加したところ、メルトに溶け込まない不溶物が浮遊した(後述する比較例13参照)。浮遊物は欠陥原因となる可能性があり、多すぎる添加は好ましくない。
【0029】
SiO2 を添加した場合も、CeO2 と同様に、添加することにより波長532nmにおける透過率が向上した。しかし、添加SiO2 濃度が0.5wt%で成長速度の低下が見られ、3wt%では膜が育成されなかった。これより、SiO2 の添加量は0.5wt%以下が好ましい。GeO2 とTiO2 においても、SiO2 と同様の効果が見られた。このような手法は、還元処理が不要となるため、波長1000nm以下で用いるファラデー素子のコストダウンを図るのに有効である。
【0030】
以上のように、Tb3 Ga5 12をベース組成とし、それに格子定数の大きなScやInを置換し、GGG基板やSGGG基板との垂直方向の格子定数差を±0.02Å以下にすることにより、LPE法により高品質なTGG結晶を作製できた。また、作製されたTGG結晶を水素濃度0.5〜6vol%を含む窒素雰囲気下、450〜800℃で還元することにより、ほぼ無色にすることができた。更に、予め4価の陽イオンとなる化合物をメルト中に加えておくことにより、As-grownのTGG結晶の可視光域吸収を低減できた。
【実施例】
【0031】
<実施例1〜5>
Tb4 7 、Sc2 3 、及びGa2 3 をガーネット原料とし、PbOとB2 3 をフラックスとする出発原料を白金坩堝に入れ、縦型の抵抗加熱炉中で、1100℃で5時間加熱溶融し、その後、同じ1100℃で1時間攪拌した。次いで880℃に降温し、格子定数が12.38ÅのGGG基板(Gd3 Ga5 12)の小片を40rpmで回転させながら2分間浸して引き上げ、炉から取り出した。続いて、直径3インチ、厚み500μmのGGG基板を炉に入れ、片面を白金坩堝内メルト液面に浸し、40rpmで回転させた。所定時間経過後、メルト液面より10mm引き上げて切り離し、そのまま炉の中で室温まで冷却した。その後、GGG基板を炉から取り出し酸洗浄した。
【0032】
GGG小片、及び3インチGGG基板には、その(111)面上に組成がTb3 Scx Ga5-x 12で表されるガーネット結晶が成長していた。この作業を、主に出発原料のSc2 3 濃度を変えて繰り返し行った。実施例1から5に向かって、Sc2 3 濃度を高くしている。
【0033】
GGG小片を用いて、X線回折法により育成したTGG結晶とGGG結晶の育成面垂直方向の格子定数差Δa(TGG結晶格子定数−GGG結晶格子定数)を測定した。また、3インチGGG基板付TGG結晶は、3mm角に切断し、研磨によりGGG基板を削除して両面を鏡面加工し、3mm角チップとした。この3mm角チップの面に垂直方向に光を通し、透過率(波長532nmと1064nm)、ベルデ定数(1064nm)と消光比(1064nm)を測定した。また、3mm角チップを用いて、EPMA(電子線マイクロアナライザ)により、組成分析した。
【0034】
表1に、育成時間、育成膜厚、育成面垂直方向の格子定数差、育成されたガーネット結晶の欠陥、亀裂の検査結果を示す。また表2に、3mm角チップの加工後の膜厚、光透過率、ベルデ定数、消光比の測定結果を示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
これらの結果から、育成したTGG結晶は、いずれも格子定数差が±0.02Å以内に収まっており、欠陥及び亀裂が少なく、良好であった。また、波長1064nmにおける透過率は80%を超えており、ベルデ定数は0.12min/(Oe・cm)、消光比40dBであり、いずれも良好であった。
【0038】
<比較例1〜3>
実施例1〜5と同様に、LPE法によりTGG結晶の育成を行った。比較例1は出発原料にSc2 3 を含まないものである。また、比較例2は実施例1よりもSc2 3 濃度が低く、比較例3は実施例5よりもSc2 3 濃度が高い。検査結果を前記表1に実施例1〜5と併せて示す。比較例1〜3では、育成されたTGG結晶とGGG基板の格子定数差はいずれも、±0.02Åを超えており、育成した結晶には欠陥や亀裂が多数認められた。
【0039】
<実施例6〜8>
出発原料がTb4 7 、In2 3 、Ga2 3 、PbO、B2 3 である以外は実施例1〜5と同様の手法でTGG結晶を育成した。育成したTGG結晶の検査結果を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
いずれも格子定数差は±0.02Å以内であり、欠陥あるいは亀裂の少ない良好なTGG結晶が得られた。また、波長1064nmにおける光学特性も、透過率は80%を超えており、ベルデ定数は0.12min/(Oe・cm)、消光比40dBであって、いずれも良好であった。
【0042】
<比較例4〜5>
実施例6〜8と同様に、LPE法によるTGG結晶の育成を行った。比較例4は実施例6よりもIn2 3 濃度が低く、比較例5は実施例8よりもIn2 3 濃度が高い。検査結果を前記表3に実施例6〜8と併せて示す。いずれも、育成されたTGG結晶とGGG基板の格子定数差は±0.02Åを超えており、育成された結晶には欠陥や亀裂が多数認められた。
【0043】
<実施例9〜11>
出発原料がTb4 7 、Sc2 3 、In2 3 、Ga2 3 、PbO、B2 3 である以外は実施例1〜5と同様の手法によってTGG結晶を育成した。つまり、Sc2 3 とIn2 3 の同時添加の例である。育成したTGG結晶の検査結果を表4に示す。いずれも格子定数差が±0.02Å以内であり、欠陥、亀裂の少ない良好なTGG結晶が得られた。また、波長1064nmにおける光学特性も、透過率は80%を超えており、ベルデ定数は0.12min/(Oe・cm)、消光比40dBであって、いずれも良好であった。
【0044】
【表4】

【0045】
これらの結果より、ScとInが同時に置換されていても、格子定数差が±0.02Å以内であれば良好な結晶が得られることが分かる。基板との格子定数差を±0.02Å以内にする場合、Sc(置換量y)とIn(置換量z)の合計置換量xの下限は、イオン半径の大きなInが主に置換される場合である。Inだけが置換される場合はInが0.1atoms/f.u.で格子定数差が−0.02Åとなることから、InとScの同時置換ではInが主に置換され、そこに僅かにScが置換された場合が、格子定数差の下限となり、両者の合計置換量xは0.1を僅かに上回るものになる。これとは反対に、ScとInの合計置換量xの上限は、イオン半径の小さいScが主に置換され、そこにInが僅かに置換された場合なので、両者の合計置換量は0.5を僅かに下回るものになる。
【0046】
<実施例12〜14>
Tb4 7 、Sc2 3 、Ga2 3 、PbO、B2 3 からなる出発原料を白金坩堝に入れ、縦型の抵抗加熱炉中で、1100℃で5時間加熱溶融し、その後、同じ1100℃で1時間攪拌した。次いで、960℃に降温し、格子定数が12.496ÅのSGGG基板[(CaGd)3 (MgZrGa)5 12]の小片を40rpmで回転させながら2分間浸し引き上げ、炉から取り出した。続いて、直径3インチ、厚み500μmのSGGG基板を炉に入れ、片面を白金坩堝内メルト液面に浸し、40rpmで回転させた。所定時間経過後、メルト液面より10mm引き上げて切り離し、そのまま炉の中で室温まで冷却した。その後、SGGG基板を炉から取り出し酸洗浄した。SGGG小片、及び3インチSGGG基板には、その(111)面上に組成がTb3 Scx Ga5-x 12で表されるTGG結晶が成長していた。この作業を、主に出発原料のSc2 3 濃度を変えて繰り返し行った。実施例12から14に向かって、Sc2 3 濃度が高くなっている。
【0047】
得られたTGG結晶について、実施例1〜5と同様に処理し、評価を行った。表5に、育成時間、育成膜厚、育成面垂直方向の格子定数差、育成されたガーネット結晶の欠陥、亀裂の検査結果を示す。育成したTGG結晶は、SGGG基板との格子定数差が±0.02Å以内であり、欠陥、亀裂が少なく、良好であった。また、波長1064nmにおける透過率は80%を超えており、ベルデ定数は0.12min/(Oe・cm)、消光比40dBであって、いずれも良好であった。
【0048】
【表5】

【0049】
<比較例6〜7>
実施例12〜14と同様に、LPE法によるTGG結晶の育成を行った。比較例6は実施例12よりもSc2 3 濃度が低く、比較例7は実施例14よりもSc2 3 濃度が高くなっている。これらの場合も、検査結果を前記表5に実施例12〜14と併せて示す。いずれも育成したTGG結晶とSGGG基板の格子定数差は±0.02Åを超えており、TGG結晶には欠陥や亀裂が多数生じていた。
【0050】
<実施例15〜17>
出発原料が、Tb4 7 、In2 3 、Ga2 3 、PbO、B2 3 である以外は実施例12〜14と同様である。育成したTGG結晶の検査結果を表6に示す。いずれも格子定数差が±0.02Å以内であり、欠陥や亀裂の少ない良好なTGG結晶が得られた。また、波長1064nmにおける光学特性も、透過率は80%を超えており、ベルデ定数は0.12min/(Oe・cm)、消光比40dBであって、いずれも良好であった。
【0051】
【表6】

【0052】
<比較例8〜9>
実施例12〜14と同様に、LPE法によるTGG結晶の育成を行った。比較例8は実施例15よりもIn2 3 濃度が低く、比較例9は実施例17よりもIn2 3 濃度が高くなっている。検査結果を前記表6に実施例15〜17と併せて示す。いずれも、育成されたガーネット結晶とSGGG基板の格子定数差は±0.02Åを超えており、育成された結晶には欠陥や亀裂が多数生じていた。
【0053】
<実施例18〜20>
出発原料が、Tb4 7 、Sc2 3 、In2 3 、Ga2 3 、PbO、B2 3 である以外は実施例12〜14と同様である。つまり、Sc2 3 とIn2 3 の同時添加の例である。育成したTGG結晶の検査結果を表7に示す。いずれの例も、格子定数差は±0.02Å以内であり、欠陥、亀裂の少ない良好なTGG結晶が得られた。また、波長1064nmにおける光学特性も、透過率は80%を超えており、ベルデ定数は0.12min/(Oe・cm)、消光比40dBであり、いずれも良好であった。
【0054】
【表7】

【0055】
この結果から、ScとInが同時に置換されていても、格子定数差が±0.02Å以内であれば良好なTGG結晶が得られることがわかる。基板との格子定数差を±0.02Å以内にする場合、Sc(置換量y)とIn(置換量z)の合計置換量xの下限はイオン半径の大きなInが主に置換される場合であり、Inだけが置換される場合はInが0.9atoms/f.u.で格子定数差が−0.02Åとなることから、InとScの同時置換では、Inが主に置換され、そこに僅かにScが置換された場合が、格子定数差の下限となり、両者の合計置換量は0.9を僅かに上回るものになる。これとは反対に、ScとInの合計置換量xの上限は、イオン半径の小さいScが主に置換され、そこにInが僅かに置換された場合なので、両者の合計置換量は1.65を僅かに下回るものになる。
【0056】
<実施例21〜24および比較例10>
実施例3で作製した3mm角チップを、水素含有量が2.7vol%の窒素雰囲気中で温度を変えて、6時間保持し還元処理した。還元処理後、波長532nmにおける透過率を測定した。結果を表8に示す。実施例21〜24では、波長532nmの透過率が向上した。特に還元温度が550〜800℃では波長532nmの透過率が大幅に向上した。これに対し、比較例10ではあまり変わらなかった。
【0057】
【表8】

【0058】
<実施例25〜27および比較例11〜12>
実施例3で作製した3mm角チップを、水素と窒素の混合ガス中で、混合ガス中の水素濃度を変えて、温度700℃、保持時間6時間で還元処理した。還元処理後、波長532nmにおける透過率を測定した。結果を表9に示す。実施例25〜27では、波長532nmの透過率が大きく向上した。これに対し、比較例11ではあまり変わらなかった。また、比較例12では、膜表面が荒れていた。このことから、水素濃度は0.5vol%以上6vol%以下が適当である。
【0059】
【表9】

【0060】
<実施例28>
実施例3を基にして、原料にCeO2 を添加した。即ち、Tb4 7 、Sc2 3 、Ga2 3 、PbO、B2 3 からなる出発原料にCeO2 を0.2wt%添加し、白金坩堝に入れ、縦型の抵抗加熱炉中で、1100℃で5時間加熱溶融し、その後、同じ1100℃で1時間攪拌した。次いで、880℃に降温し、格子定数が12.38ÅのGGG基板の小片を40rpmで回転させながら2分間浸し引き上げ炉から取り出した。続いて、直径3インチ、厚み500μmのGGG基板を炉に入れ、片面を白金内メルト液面に浸して40rpmで65時間回転させた。その後、メルト液面より10mm引き上げて切り離し、そのまま炉の中で室温まで冷却した。その後、GGG基板を炉から取り出し酸洗浄した。3インチGGG基板には、その(111)面上に組成がTb3 Sc0.35Ga4.6512で表されるガーネット結晶が2.4mm成長しており、亀裂や欠陥が無く、殆ど着色していないTGG結晶が得られた。
【0061】
GGG小片を用いて、X線回折法により育成したTGG結晶とGGG基板の育成面垂直方向の格子定数差Δaを測定したところ、格子定数差はゼロであった。3インチGGG基板付TGG結晶を3mm角に切断し、研磨によりGGG基板を削除して、3mm角面の両面を鏡面加工した。加工後の厚みは2.32mmであった。次に、3mm角面に垂直方向に光を通し、透過率を測定したところ、波長532nmの透過率は73%、波長1064nmの透過率は82%で良好であった。
【0062】
<比較例13>
添加CeO2 濃度が0.6wt%である以外は実施例29と同様にして結晶育成を行った。ところが、1100℃にしても不溶物があり、育成を断念した。
【0063】
<実施例29〜30>
実施例3を基にして、原料にSiO2 を添加した。即ち、Tb4 7 、Sc2 3 、Ga2 3 、PbO、B2 3 からなる出発原料にSiO2 を添加し、白金坩堝に入れ、縦型の抵抗加熱炉中、1100℃で5時間加熱溶融し、その後、同じ1100℃で1時間攪拌した。次に育成温度まで降温し、格子定数が12.38ÅのGGG基板の小片を40rpmで回転させながら2分間浸し引き上げ、炉から取り出した。ここで育成温度とは、GGG基板と育成したTGG結晶の格子定数が合う温度を指す。続いて、直径3インチ、厚み500μmのGGG基板を炉に入れ、片面を白金内メルト液面に浸し、40rpmで所定時間回転させた。その後、メルト液面より10mm引き上げて切り離し、そのまま炉の中で室温まで冷却した。その後、GGG基板を炉から取り出し酸洗浄した。3インチGGG基板には、その(111)面上に組成がTb3 Sc0.35Ga4.6512で表されるガーネット結晶が成長しており、亀裂や欠陥のないTGG結晶が得られた。検査結果を表10に示す。また、3インチGGG基板付TGG結晶を3mm角に切断し、研磨によりGGG基板を削除して3mm角面の両面を鏡面加工した。次に3mm角面に垂直方向に光を通し、透過率を測定したところ、表11に示すように、波長532nmの透過率が60%以上であり良好であった。
【0064】
【表10】

【0065】
【表11】

【0066】
<比較例14>
Tb4 7 、Sc2 3 、Ga2 3 、PbO、B2 3 からなる出発原料にSiO2 を3wt%添加し、白金坩堝に入れ、縦型の抵抗加熱炉中、1100℃で5時間加熱溶融し、その後、同じ1100℃で1時間攪拌した。次いで850℃まで降温し、格子定数が12.38ÅのGGG基板の小片を40rpmで回転させながら2分間浸し引き上げ、炉から取り出した。ところが、結晶は成長しておらず、GGG基板が一部溶融して薄くなっていた。このため、育成を断念した。
【符号の説明】
【0067】
a 還元処理無しでの曲線。
b 還元温度450℃での曲線。
c 還元温度700℃での曲線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GGG結晶からなる基板上に、LPE法で育成したTGG結晶であって、前記TGG結晶は、組成Tb3 x Ga5-x 12で表され、前記MがSc、Inから選ばれる少なくとも1種の3価元素であって0.1≦x≦0.5を満たしており、且つ前記基板のGGG結晶と育成したTGG結晶の垂直方向の格子定数差が±0.02Å以下となっていることを特徴とする常磁性ガーネット単結晶。
【請求項2】
SGGG結晶からなる基板上に、LPE法で育成したTGG結晶であって、前記TGG結晶は、組成Tb3 x Ga5-x 12で表され、前記MがSc、Inから選ばれる少なくとも1種の3価元素であって0.9≦x≦1.65を満たしており、且つ前記基板のSGGG結晶と育成したTGG結晶の垂直方向の格子定数差が±0.02Å以下となっていることを特徴とする常磁性ガーネット単結晶。
【請求項3】
請求項1又は2記載の常磁性ガーネット単結晶を製造する方法であって、Tb4 7 、Ga2 3 、及びM2 3 (但し、MはSc、Inから選ばれる少なくとも1種)をガーネット原料とし、PbO及びB2 3 をフラックスとする融液の表面に、前記基板の片面を接触させ、850〜980℃でTGG結晶をLPE成長させる常磁性ガーネット単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記融液中に、SiO2 、GeO2 、TiO2 から選ばれる1種以上の酸化物が含まれており、その重量濃度の合計が0.5wt%以下であるように調整されている請求項3記載の常磁性ガーネット単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記融液中に、CeO2 が含まれており、その重量濃度が0.2wt%以下であるように調整されている請求項3記載の常磁性ガーネット単結晶の製造方法。
【請求項6】
請求項3記載の常磁性ガーネット単結晶の製造方法によりLPE成長させたTGG結晶を、水素0.5〜6vol%を含む窒素との混合雰囲気下、450〜800℃で還元処理する常磁性ガーネット単結晶の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−254901(P2012−254901A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129224(P2011−129224)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】