説明

幅可変ノズルおよびそれを用いたテンターオーブン

【課題】樹脂フィルムの加熱または冷却効率が高く、かつ樹脂フィルム幅方向の熱伝達率の均一性が良好で、テンターオーブンに用いて好適な幅可変ノズルを提供する。
【解決手段】樹脂フィルムの製造に使用するエア噴出ノズルの加熱または冷却効率を上げるためには、樹脂フィルムに吹き付けるエアの流速を上げる必要がある。単純に回転数を上げるなどにより風量を上げるとファンの消費電力が増加する。そこで、テンターオーブン内のクリップレール間に設置可能で、フィルム幅変更にも対応可能な幅可変機能を持ったノズルを設置することで、ノズルをフィルムに近づけ、エア流速を上げ、熱伝達率を上げることができる。しかし一方で、今までノズル−フィルム間で緩和されていたムラが、ノズルとフィルムが近づくことによって、ノズル形状による熱伝達率ムラが顕著になることが分かった。そこで、ノズル−フィルム間が狭くても、熱伝達率を均一にできるノズル先端部に連結リブを持った幅可変ノズルを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムの加熱または冷却に用いるエア噴出ノズルおよびそれを用いたテンターオーブンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸ポリエステルフィルムなどの樹脂フィルムの製造方法としては、口金からシート状に吐出してキャストドラム上で冷却固化した未延伸フィルムを、縦延伸機で樹脂フィルムの搬送方向に延伸した後、テンターオーブン内で樹脂フィルムの幅方向に延伸する逐次二軸延伸法や、前記未延伸フィルムをテンターオーブン内で樹脂フィルムの搬送方向と樹脂フィルムの幅方向とに延伸する同時二軸延伸法などが知られている。
【0003】
これらの製造方法に用いられるテンターオーブンは、樹脂フィルム表面と対向する面にエア噴出口を設けたエア噴出ノズルが、樹脂フィルムの搬送方向に複数配置されている。熱交換器によって所望の温度に制御された空気は、ファンによって各エア噴出ノズルに送り込まれ、噴出口から樹脂フィルム表面に向かって吹き付けられる。吹き付けられた空気は、ファンによってテンターオーブン内の吸引口から回収され、再使用される。
【0004】
一般にテンターオーブンは、樹脂フィルムの搬送方向に予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱固定ゾーンや冷却ゾーンなど複数のゾーンに区分されており、少なくともゾーン毎に空気の温度を設定できるように構成される。クリップによって両端を把持されて搬送される樹脂フィルムは、予熱ゾーンで延伸に適した温度まで加熱され、延伸ゾーンで少なくとも幅方向に延伸された後、熱固定ゾーンや冷却ゾーンなどで熱処理や冷却処理される。
【0005】
このようにして製造される樹脂フィルムの特性は、テンターオーブンの各ゾーンを通過する際に受ける熱履歴に影響される。したがって、幅方向に均一な特性を有する樹脂フィルムを得るためには、エア噴出ノズルから噴出する空気と樹脂フィルムとの熱交換を幅方向に均一化することが求められる。エア噴出ノズルの一つであるスリットノズルでは、その均一性を実現するためスリット間隙を一定に保つ構造が必要とされている。
【0006】
また、このテンターオーブンでは、樹脂フィルムの加熱に大量のエネルギーを消費しており、フィルム製造プロセスの省エネには、このテンターオーブンのエネルギー消費量の削減が不可欠である。テンターオーブン内でのフィルムの加熱は、空気と樹脂フィルムの熱交換によって行われ、一般に熱伝達率を上げるためには、エアの流速を上げることが必要となってくるが、流速を上げるために、単純にファンの風量を上げてしまうと消費電力が増加し、さらに風量増加に伴い圧力損失が増加し、吐出圧力も上げなければならず、省エネの観点からファンの風量アップを用いることはできない。また、テンターオーブンに投入するフィルムに随伴してテンターオーブン内に流入する外気の影響も大きく、外気は温度が低くその加熱にエネルギーを必要とするため、テンター内への外気の流入を抑えることも樹脂フィルムの製造プロセスの省エネには重要である。
そこで、通常100mm以上ある樹脂フィルムとエア噴出ノズルの距離を近接させれば、熱伝達率をあげることができると考えられる。しかし、通常、樹脂フィルムとエア噴出ノズルは、設計段階で可能な限り近づけるよう設計されており、そこから更に近接させることは困難であることが多い。そこで、テンター内の装置の位置関係をみると、フィルムを把持し、搬送させるためのクリップの走行レールが、フィルム品種によってさまざまなフィルムの延伸倍率に対応するためフィルムの幅方向に可動できるよう、上下のエア噴出ノズル間にレールが配置されている。そこで、レールの内側にエア噴出ノズルを設置することができれば、フィルムとエア噴出ノズルを更に近接させることは可能である。前述のレールのフィルム幅方向の移動に対応できるように、エア噴出ノズルもレールの移動と同じようにその幅を変えることができれば、近接させることが可能である。このような幅が変わるエア噴出ノズルは、特許文献1の幅可変ノズルとして提案されている。しかし、参考文献1の幅可変ノズルは、乾燥が目的であり、樹脂フィルムに必要な熱伝達率の均一性を考慮して製作されておらず、この構造をそのまま適用するだけでは、熱伝達率ムラによる厚みムラの増大等によって、製品としての品質を持った樹脂フィルムを製造することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭63−33068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、エア噴出ノズルと樹脂フィルムの距離を小さくし、熱伝達率を向上させ、かつ、近接化に伴う熱伝達率のムラを抑制する、テンターオーブンに用いて好適な幅可変ノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するために、本発明は、以下の構成を採用する。
1)一方向に搬送される樹脂フィルムに、空気を吹き付けるエア噴出ノズルにおいて、エア噴出ノズルのエア噴出口の長さがフィルム搬送方向に対して直角水平方向に変更できるよう、少なくとも2つ以上の可動ノズルで構成される幅可変ノズルであって、前記可動ノズルのエア噴出口がスリット形状を成し、かつ、スリットを形成する2つのリップを側板以外の位置で連結する連結リブを少なくとも1つ以上有することを特徴とする幅可変ノズル。
2)前記連結リブが、エア噴出口である可動ノズル先端部で取り付けられていることを特徴とする前記1)に記載の幅可変ノズル。
3)前記連結リブと2つのリップが1枚の板状部材で製作されていることを特徴とする前記1)または2)に記載の幅可変ノズル。
4)前記幅可変ノズルが、幅可変ノズルにエアを供給するプレナム上を移動できる2つの可動ノズルと、プレナムに取り付けられ固定された固定ノズルとからなる幅可変ノズルであることを特徴とする前記1)〜3)のいずれかに記載の幅可変ノズル。
5)前記幅可変ノズルの連結リブにおいて、連結リブの幅が2mm以下、かつ、鉛直方向の連結リブの厚みが2mm以下であることを特徴とする前記1)〜4)のいずれかに記載の幅可変ノズル。
6)前記連結リブが複数ある場合において、隣り合う連結リブ間の距離が10mm以上であることを特徴とする前記1)〜5)に記載の幅可変ノズル。
7)前記1)〜6)のいずれかに記載の幅可変ノズルが、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱固定ゾーン、及び冷却ゾーンから選ばれる少なくとも1つのゾーンに配置されたことを特徴とするテンターオーブン。
8)前記テンターオーブンにおいて、前記1)〜6)のいずれかに記載の幅可変ノズルが複数設置され、該複数のノズル中の各連結リブの幅方向の取り付け位置が、リップに平行な方向の位置座標に投影したときに、同一座標上に重ならないように取り付けられたことを特徴とする前記7)に記載のテンターオーブン。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂フィルムと幅可変ノズルを近接することにより、従来ノズルより熱伝達率が高く、かつ、熱伝達率ムラの小さい、テンターオーブンに用いた場合に好適な幅可変ノズルを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)は、本発明の幅可変ノズルの概略図である。(b)は、図1(a)のP部拡大図で、連結リブの一の形態を示す図である。
【図2】ノズルの加工方法(a)1枚の平板から製作する方法、(b)2枚のリップから製作する方法を示す図である。
【図3】幅可変ノズルの(a)狭幅時の形態、(b)拡幅時の形態を示す図である
【図4】本発明における幅可変ノズルとプレナムの断面図である。
【図5】プレナムの一つの形態を示す図である
【図6】プレナムの(a)水平断面、(b)エア供給口付近の鉛直幅方向の断面、(c)エア供給口から離れた位置での鉛直幅方向の断面を示す図である。
【図7】本発明の幅可変ノズルを備えたテンターオーブンの断面図である。
【図8】可動ノズルとクリップレールの連結方法のひとつを示す図である。
【図9】テンターを上から見た場合のテンター外略図である。
【図10】テンターを横から見た場合のテンター外略図である。
【図11】本発明の幅可変ノズルの図1と別の形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態を、溶融製膜法による二軸延伸樹脂フィルムの製造工程に適用した場合を例にとって、図を参照しながら説明する。
【0013】
本発明は、一方向に搬送される樹脂フィルムに、空気を吹き付けるエア噴出ノズルにおいて、エア噴出ノズルのエア噴出口の長さがフィルム搬送方向に対して直角水平方向に変更できるよう、少なくとも2つ以上の可動ノズルで構成される幅可変ノズルであって、前記可動ノズルのエア噴出口がスリット形状を成し、かつ、スリットを形成する2つのリップを側板以外の位置で連結する連結リブを少なくとも1つ以上有することを特徴とする幅可変ノズルである。ここで「直角水平方向」とは、フィルム搬送方向に対して直角な平面上の水平方向のことである。また、「可動ノズルのエア噴出口」とは、可動ノズルの、可動ノズル外にエアを噴出する開口部のことである。また、「スリットを形成する2つのリップ」とは、可動ノズルのエア噴出口を形成し、搬送方向に並ぶ2つの平板のことである。
【0014】
また、本発明は、前記連結リブが、エア噴出口である可動ノズル先端部で取り付けられていることを特徴とする上記記載の幅可変ノズルである。ここで、可動ノズル先端部とは、ノズルを形成するリップにおいて、エア噴出口の縁の部分のことである(図1の番号15)。
【0015】
図1は、本発明の実施形態からなる幅可変ノズル1の一例を示すものである。幅可変ノズル1は、(必須ではない)固定ノズル2と、2つの可動ノズル3で構成され、プレナム4と接続される。プレナム4は、幅可変ノズル1にエアを供給するためのものであり、固定ノズル2と接続面11で図示しないフランジ等により締結され、可動ノズル3は、接続面11を幅方向に移動するため、図示しないスライドレール等によってプレナム4と接続されている。
【0016】
続いて、固定ノズル2、可動ノズル3およびプレナム4のそれぞれの構造について説明する。
【0017】
はじめに、固定ノズル2は、図2の(a)で示すように2つの平板をスリット幅20が一定となるように、一枚の平板21を、エア噴出口6が形成されるように連結リブ5を残してレーザー加工等でくり抜いて製作され、その後、その連結リブ5の根本を支点にして所定の角度で曲げ加工を行ったものである。ここで、寸法精度の高いレーザー加工を用いることで、平板にスリット幅20の均一なエア噴出口6を設けることができ、また、同時にこの連結リブ5が、外力からスリット幅を維持する役目を果たし、曲げ加工後でも均一なスリット幅20を維持することができる。
【0018】
次に、可動ノズル3は、固定ノズル2と同様にレーザー加工と曲げ加工を行った後、図1のように可動ノズル3の片方の端部を側板7で塞いだものである。幅可変ノズルへ供給されたエアを樹脂フィルムに効率的に当てるため、幅可変ノズル1の幅方向の端部となる可動ノズルの片方の端部を塞ぎ、エアをサイドから横に噴き出さないようにする必要があるからである。(これは、連結リブと2つのリップが1枚の板状部材で製作されている例である。)
また、図3の(a)のように、幅可変ノズル1の幅が狭い場合、可動ノズル3に遮蔽板8を取り付け、プレナム4から幅可変ノズル1へ空気を供給するエア流出口10の外側部分を遮蔽板8で塞ぎ、エア洩れを防止し、無駄なエアを流さないようにしている。
ここで、可動ノズル3に連結リブがない場合、リップ同士を連結する側板7のない方の端部(開放端部)では、補強部材がないため、そのスリット間隙を維持することができず、噴き出しエアの風速が不均一になり、必要な熱伝達率の均一性が得られなかったり、可動ノズル3が移動した場合に、固定ノズル2と干渉し発塵しフィルムに付着したりし、必要な樹脂フィルムの品質を得ることが出来なくなるおそれがある。
また、固定ノズル2または可動ノズル3の製作は、特に1枚の平板での製作に限定されるものではなく、図2の(b)のように、平板22aと平板22bを用いて、予め2枚の平板の先端で形成するスリットの幅が均一になるように位置決めしておき、平板22aと平板22bの溶接箇所および連結リブの開先形状を工夫し、溶接時の入熱を最小限にするなど適切な溶接手順を踏むことで、溶接により製作することも可能であるが、溶接時の入熱が大きくなるとリップが変形し、固定ノズル2と可動ノズル3が干渉し発塵したり、可動ノズル3が移動できなくなったりすることが考えられ、また、溶接による製作は、レーザー加工法と比較してコスト高や製作時間がかかるなどのデメリットがあるため、レーザー加工法による製作がより好ましい。
【0019】
次に、プレナム4について説明する。プレナム4は、図5に示すような形状をしており、エア供給口フランジ52に接続されるエアダクトからプレナム側面のエア供給口51aにエアを送り込み、後述するプレナム内部のスリットを通り、エア流出口10からその上部にある幅可変ノズル1へエアを供給する装置である。プレナムの構造は、幅可変ノズル1のスリットから噴き出すエアの風速が均一なるように作られており、図5のA−A´断面である図6の(a)に示すように、一方のエア流入口51aから他方のエア流入口51bへ徐々にエア流路断面積が小さくなるように、プレナムを上から見て、斜めに仕切り板61を配置した構造となっている。また、図5のB−B´断面とC−C´断面を見ると、それぞれ図6の(b)、(c)のような断面形状となっており、エア供給口51aから奥に行くにしたがって、エア流路断面65が小さくなっている。また、図6の(b)のように仕切り板61上部に水平仕切り板62を入れ、水平仕切り板62の両端部に垂直方向に折り返し部63を設けた構造となっており、この部分をプレナム4の内部スリット64と呼んでいる。このプレナムの奥に行くにしたがってエア流路断面65が徐々に小さくなり、かつ、内部スリット64をエアが通過することで、幅可変ノズル1の幅方向の風速の均一性を得ることができる。
【0020】
次に、幅可変ノズルの可動ノズルの幅方向への移動機構について説明する。
図1のように、固定ノズル2と可動ノズル3とを組み合わせ、可動ノズル3が移動することでノズル幅を変える。そのため、可動ノズル3は、幅方向に移動させる必要があり、その移動機構を図4に示す。図4は、幅可変ノズル1とプレナム4の幅方向の断面図である。固定ノズル2は、フランジ41とボルト43によって、プレナム4に締結、固定されている。この固定ノズル2の内側に、可動ノズル3を収め、また、幅方向に移動させるため、可動ノズル3は、プレナム4に取り付けたスライドレール42に取り付けられている。こうすることで、可動ノズル3は、プレナム4上を幅方向にスライドレール(ガイドレールともいう)42に沿って移動することができ、幅可変ノズルの幅可変機能を実現できる。ここで、図4では、固定ノズルの内部に可動ノズルが収まる構造となっているが、固定ノズル2の外側に可動ノズル3を配置しても良く、また、可動ノズル3の移動機構はスライドレール42に限らず、車輪を用いた移動機構など幅方向に移動できるものであれば良く、特にスライドレールに限定するものではない。
【0021】
また、図11に、2つの可動ノズルで構成される幅可変ノズルの別の形態を示す。幅可変ノズル1aは、プレナム4に図示しないスライドレール等によって接続された2つの可動ノズル3a、3bからなり、可動ノズル3aもしくは3bが幅方向に移動することで、ノズルの幅を変更できるようになっている。この場合、ノズル噴き出し部形状が、左右のノズルでノズル高さが異なる等不均一になるため、後述するテンター内のエアの流れが左右で非対称になり、均一な熱伝達率を実現が難しくなり、図1で示すような左右対称な実施形態がより好ましいが、テンター内のエアの流れの熱伝達率に対する影響が小さい場合などは、図11のように2つの可動ノズルからなる幅可変ノズルであっても良い。可動ノズルは幅方向均一性の点から2つ以上であればよい。上限は特に限定されないが、幅方向均一性、コストの点から2つでよい。
【0022】
次に、幅可変ノズルの熱伝達率の均一性について説明する。ここで熱伝達率の均一性については、熱伝達率の最大値と最小値の差が概ね20%以内であることが望ましいが、フィルム品種によってはそれより大きくても良く、特に限定されるものではない。
【0023】
固定ノズル2および可動ノズル3で構成される幅可変ノズル1の幅方向の熱伝達率を均一にするには、そのスリットから噴き出る風速を均一にすることが重要である。幅可変ノズル1の構造上、固定ノズル2と可動ノズル3の断面形状を全く同じにすることはできないが、風速を均一にするには断面形状を可能な限り同じにすることが求められる。この断面形状の内、まず、エアが噴出するそれぞれのスリット幅を同じにすることが求められる。また、固定ノズル2の内側に可動ノズル3が収納される構造であり、それぞれのリップが接触しないこと、長時間の運転による重力や外力によるノズルの変形を考慮すると、ノズル断面形状を維持するための補強部材が必要となる。この補強部材の位置は、可動ノズル3が固定ノズル2に収納される構造であり、スリットノズル先端部以外の場所に連結リブを設置した場合、連結リブと可動ノズルが干渉し、幅可変できないため、少なくとも固定ノズル2にはその先端部にしか補強部材は設置できない。また、可動ノズル3と固定ノズル2の形状は可能な限り同じにしたいため、可動ノズル3の補強部材も可動ノズル先端部であることが好ましい。よって、補強部材である連結リブはこれらを考慮したものであり、この補強部材は、本発明における連結リブ(スリットノズル先端部で2つのリップを連結するという機能を有する)によって実現でき、したがって、可動ノズル先端部に設置する連結リブによって、幅可変ノズルの熱伝達率の均一性を実現し、かつ、樹脂フィルムの品質に影響を与えるリップ同士の接触による発塵を防止することができる。
【0024】
ここで、前述の連結リブの構造について説明する。
【0025】
前述の連結リブによって、スリット幅を均一にでき、幅可変ノズルの熱伝達率の均一性を実現することができるが、一方でその連結リブによって、連結リブ周辺を通るエアの流れが乱され、熱伝達率ムラを発生させることも判明した。そこで、連結リブの形状は、連結リブの幅が2mm以下で、かつ、鉛直方向の連結リブの厚みが2mm以下であることが好ましい。この範囲を超えると、熱伝達率ムラが大きくなり、樹脂フィルムの厚みムラなどの品質が悪化する可能性があり、リブの形状については、生産しようとする樹脂フィルムに対して最適な形状を検討することが望ましい。ここで、連結リブ幅とは、図1(b)で示すように連結リブの幅方向の寸法であり、連結リブ高さとは鉛直方向の寸法のことである。なお、本図では直方体形状をしているが、丸棒のような形状でも良く、特に直方体形状に限定されるものではない。連結リブ幅または高さが測定する位置によって変化するような形状の場合、連結リブ幅12は、その幅の内の最も小さい幅寸法であり、連結リブ高さ13は、その高さの最も小さい高さ寸法のこととする。
【0026】
また、連結リブの設置位置についても、隣り合う2つの連結リブの距離が近いと、そのリブの間を流れるエアの流量が減少し、熱伝達率ムラが大きくなるため、隣り合う2つの連結リブの距離は、少なくとも10mm以上であることが好ましい。10mm以上であれば、連結リブ間を流れるエア流量減少による影響は小さく、樹脂フィルムの品質に対する実害はほとんどない。上限はノズルリップの剛性にもよるので、特に限定されないが、およそ1000mm以下である。ここで、隣り合う2つのリブの距離とは、図1(b)に示すように、近接リブ幅の中央間の距離の事を言う。連結リブの製作加工を簡便にするため、これを等ピッチにすることが多く、その場合は連結リブピッチに相当する。
【0027】
次に、前述の幅可変ノズル1およびプレナム4を使用したテンターについて説明する。幅可変ノズル1およびプレナム4は、樹脂フィルム73を幅方向のみ、あるいは、幅方向と搬送方向同時に延伸または単に熱処理するため、図7で示すように炉壁71で囲まれた高温の炉内で、クリップレール72内にフィルム73を挟むように上下に設置される。循環ファン74から送り出されたエアは、吐出ダクト76を通って、プレナム4に供給される。プレナム4に供給されたエアは、プレナム内部を通り、幅可変ノズル1に供給され、その先端にあるスリットから樹脂フィルム73に吹き付けられる。吹き付けられたエアは、吸引ノズル75で吸引され、吸引ダクト77を通り、フィルターを備えたヒータ78で加熱され、循環ファン74に運ばれる。上記の工程を繰り返し、エアを循環、加熱し、樹脂フィルム73を加熱する。
【0028】
次に、実際にテンター内に幅可変ノズル1を設置した場合の幅可変機構について説明する。製造する樹脂フィルムの幅に応じて、クリップレール42を幅方向に移動させるが、幅可変ノズル1もその幅に応じてノズル幅を変えなければならず、可動ノズル3を幅方向に動かす必要がある。この時、図8で示すように、可動ノズル3をクリップレール42の動きと連動して動かせるように、可動ノズル3とクリップレール42を、可動ノズルに固定され長穴の開いた連結部材81と、クリップレールに固定された棒状連結部材82を図7のように組み合わせると、クリップレール42が幅方向に移動すると、それに追従して可動ノズル3を動かすことができる。クリップレール42に固定された棒状連結部材82は、樹脂フィルム製造時は加熱されレールが伸び、また、レール幅変更等により搬送方向(MD方向ともいう)に移動するため、可動ノズル3とクリップレール42を単純に接続すると、幅可変ノズルが損傷する。そこで、連結部材81の穴の形状をレール移動量に応じた長穴形状にするなどのMD方向の移動を考慮した設計が必要となる。ただし、可動ノズル3とクリップレール42を連結させずとも、可動ノズル駆動源を設置することも可能である。この時はクリップレールの動きと同期させるなど幅可変ノズル1とクリップレール42の干渉による損傷を避ける機能が必要となる。
【0029】
次に、テンター全体の構造について説明する。図9はテンター全体を上から見た概略図である。テンター入口で把持された樹脂フィルムは、予熱ゾーン91で所定の温度まで昇温した後、延伸ゾーン92でクリップレール72の幅が徐々に拡がり、樹脂フィルム73が幅方向に延伸される。次に熱固定ゾーン93を通り、冷却ゾーン94で冷却され、樹脂フィルムが出来上がる。図10で示すように、本発明の幅可変ノズル1をテンターで使用する幅可変ノズルとして使用することで、通常の幅可変ノズルより熱伝達率が向上し、通常より少ない風量で樹脂フィルム73を所定の温度まで昇温または冷却することができ、また、本発明の幅可変ノズルの連結リブにより、熱伝達率のムラも品質に対して実害のない形状にすることができた。
【0030】
ここで、幅可変ノズルを設置するゾーンは、予熱ゾーン91、延伸ゾーン92、熱固定ゾーン93および冷却ゾーン94のいずれでも良く、省エネの観点から見れば、テンターのすべてのゾーンに設置することが望ましいが、そのコスト対効果を吟味し、いずれかひとつのゾーンであっても良い。
【0031】
また、複数の幅可変ノズルをテンター内に設置する場合は、前述の連結リブの位置を幅可変ノズル毎に変え、該複数のノズル中の各連結リブの幅方向の取り付け位置が、リップに平行な方向の位置座標に投影したときに、同一座標上に重ならないように取り付けることが望ましい。これは、複数ある幅可変ノズルの連結リブの位置がリップに平行な方向の位置座標に投影したときに、同一座標上に重なると、テンターを通過する樹脂フィルム73に対して、その位置で熱伝達率ムラが大きくなり、加熱ムラが発生し、樹脂フィルムの品質が悪化するためである。
【符号の説明】
【0032】
1、1a 幅可変ノズル
2 固定ノズル
3、3a、3b 可動ノズル
4 プレナム
5 連結リブ
6 エア噴出口
7 側板
8 エア遮蔽板
10 エア流出口
11 接続面
12 連結リブ幅
13 連結リブ高さ
14 隣り合う2つのリブの距離
15 可動ノズル先端部
20 スリット幅
21 平板
22a、22b リップ
31 仕切り板
32 水平仕切り板
33 折り返し部
41 フランジ
42 ガイドレール
43 ボルト
51a、51b エア供給口
52 エア供給口フランジ
61 仕切り板
62 水平仕切り板
63 折り返し
64 内部スリット
65 エア流路断面
71 炉壁
72 クリップレール
73 樹脂フィルム
74 循環ファン
75 吸引ノズル
76 吐出ダクト
77 吸引ダクト
78 フィルター兼エアヒータ
81 可動ノズル側連結部材
82 クリップレール側棒状連結部材
91 予熱ゾーン
92 延伸ゾーン
93 熱固定ゾーン
94 冷却ゾーン
95 フィルム幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に搬送される樹脂フィルムに、空気を吹き付けるエア噴出ノズルにおいて、エア噴出ノズルのエア噴出口の長さがフィルム搬送方向に対して直角水平方向に変更できるよう、少なくとも2つ以上の可動ノズルで構成される幅可変ノズルであって、前記可動ノズルのエア噴出口がスリット形状をなし、かつ、スリットを形成する2つのリップを側板以外の位置で連結する連結リブを少なくとも1つ以上有することを特徴とする幅可変ノズル。
【請求項2】
前記連結リブが、エア噴出口である可動ノズル先端部で取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の幅可変ノズル。
【請求項3】
前記連結リブと2つのリップが1枚の板状部材で製作されていることを特徴とする請求項1または2に記載の幅可変ノズル。
【請求項4】
前記幅可変ノズルが、幅可変ノズルにエアを供給するプレナム上を移動できる2つ以上の可動ノズルと、プレナムに取り付けられ固定された固定ノズルとからなる幅可変ノズルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の幅可変ノズル。
【請求項5】
前記幅可変ノズルの連結リブにおいて、連結リブの幅が2mm以下、かつ、鉛直方向の連結リブの厚みが2mm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の幅可変ノズル。
【請求項6】
前記連結リブが複数ある場合において、隣り合う連結リブ間の距離が10mm以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の幅可変ノズル。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の幅可変ノズルが、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱固定ゾーン、及び冷却ゾーンから選ばれる少なくとも1つのゾーンに配置されたことを特徴とするテンターオーブン。
【請求項8】
前記テンターオーブンにおいて、請求項1〜6のいずれかに記載の幅可変ノズルが複数設置され、該複数のノズル中の各連結リブの幅方向の取り付け位置が、リップに平行な方向の位置座標に投影したときに、同一座標上に重ならないように取り付けられたことを特徴とする請求項7に記載のテンターオーブン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−211731(P2012−211731A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77711(P2011−77711)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】