説明

幕の収納構造

【課題】 幕を収納する際に、必要に応じて最終収納位置の手前で一旦止めてその位置を保持できるばかりでなく、その必要が無くなれば、止めた幕の保持を解除し、最終収納位置に簡単に移動させて収納できるようにする。
【解決手段】 舞台39の上方から吊下げ支持されたバトン31と、このバトン31に連結されたレール32と、このレール32に沿って移動可能に配置された複数のランナー33と、この複数のランナー33に吊下げられた幕34とから構成されるとともに、上記幕34が上記レール32の最終収納位置に折り畳まれた状態で収納される幕34の収納構造において、上記レール32の上記最終収納位置よりも手前の任意の位置に、作動時に上記ランナー33に設けた係止部材45の移動軌跡上に突出して当接することでこのランナー33の移動を阻止する移動阻止部材36を設けてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、舞台で使用される緞帳等の幕の収納構造に関し、特に、開いた幕の舞台袖部への収納構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
劇場等の舞台で使用される緞帳等の幕は、舞台の開演や終了、または、演出によって開閉されるが、その具体的な開閉構造としては、たとえば、特許文献1に開示の提案がある。
【0003】
すなわち、この特許文献1に開示されているところは、オペラカーテン等の吊物用開閉装置についてであるが、図7に示すように、オペラカーテンを構成する左右のカーテン部C1,C2は、舞台20の前面となる客席(図示せず)側の中央部で若干オーバーラップする状態にして、開閉可能に懸吊されている。
【0004】
このとき、図7中で符号21,22は、舞台20の前面上方で中央部において若干オーバーラップするように該中央部からそれぞれ左右方向に水平に延設された一対の筒状カーテンレールを示し、この筒状カーテンレール21,22の各底板中央部に長手方向に伸びるスリット21a,22aが形成されている。
【0005】
そして、各筒状カーテンレール21,22のスリット21a,22aにカーテン部C1,C2を吊下げるための吊下げレールランナー23が転子23aを介して連繋され、各筒状カーテンレール21,22の両端部にブラケット24aを介して滑車24が転動可能に取り付けられている。
【0006】
また、上記の左右一対の滑車24,24を経由後に回動ドラム26に少なくとも一巻きされた一組みのワイヤロープ25A,25Bの両端部が上記のレールランナー23のうちで先頭となる2個の吊下げランナー23(図中に符号23A,23Bで示す)に連結され、回動ドラム26をギヤードモータ(図示せず)によって往復回動することで、カーテン部C1,C2を開閉駆動し得るとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6‐229132公報(明細書中の段落0002,同0003,図2参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した特許文献1に開示の提案たるオペラカーテン等の吊物用開閉装置においては、特に問題がある訳ではないが、以下に示す課題が生じる場合がある。
【0009】
すなわち、舞台の開演とともに開かれて収納される緞帳等の幕が上記したオペラカーテンのように左右方向に開かれる場合には、一般に、舞台の終了までその両袖部に収納される。
【0010】
ところが、この舞台が開演されるホールが、たとえば、以下の構造を採用している場合、上記緞帳等の幕が舞台袖部に設けられた舞台袖部通路において、人等の移動を妨げる場合が想定される。
【0011】
具体的には、平面図たる図8に示すように、図中で右側となる最も客席側となる舞台の側面に奈落等へ通じる階段40を備えた階段室41を設けると共に、この階段室41から図中左側となる最も奥にある図示しない楽屋側へ上記舞台袖部通路43を通って移動するような構造とされている場合、ホールの幅等によっては、舞台の開演によって収納された緞帳等の幕34が上記舞台袖部通路43を遮断してしまう場合がある。
【0012】
この場合には、同じく平面図たる図9に示すように、上記舞台袖部通路43を遮断しない手前の位置において、緞帳等の幕34の収納が完了するようにレール部分32の長さを変更すれば良いのであるが、この手前の位置と近接した部分に、たとえば、舞台に使用する側面反射板47が回動可能に設けられている場合には、その側面反射板47を矢印Rで示すように作動させるとき、上記緞帳等の幕34に当って作動できない。
【0013】
したがって、この場合には、舞台が終了するまでの間、上記した手前の位置に緞帳等の幕34を一時的に置いておくことができない。
【0014】
この発明は、上記した事情を勘案して創案されたものであって、その目的とするところは、緞帳等の幕を収納する際に、必要に応じて最終収納位置の手前で一旦止めてその位置を保持することができるばかりでなく、その必要が無くなれば、止めた幕の保持を解除し、最終収納位置に簡単に移動させて収納することができる構造を備えた幕の収納構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記した目的を達成するために、この発明による幕の収納構造の構成を、舞台の上方から吊下げ支持されたバトンと、このバトンに連結されたレールと、このレールに沿って移動可能に配置された複数のランナーと、これらのランナーに吊下げられた幕とから構成されるとともに、上記幕が上記レールの最終収納位置に折り畳まれた状態で収納される幕の収納構造において、上記レールの上記最終収納位置よりも手前の任意の位置に、作動時に上記ランナーの移動軌跡上に突出して当接することでこのランナーの移動を阻止する移動阻止部材を設けてなるとする。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、移動阻止部材を作動させてこの移動阻止部材をランナーの移動軌跡上に配置することで、最終収納位置に向かって収納されようとしている幕をこの最終収納位置よりも手前の任意の位置に一旦止めておくことができるばかりでなく、その必要が無くなれば、移動阻止部材を上記ランナーの移動軌跡上から退避させることで、一旦止めた幕の移動を可能とするので、この幕を上記最終収納位置に簡単に移動させて収納することができる。
【0017】
したがって、この収納構造を、上記最終収納位置が舞台の舞台袖部通路上となるような多目的ホールに使用すれば、舞台袖部通路における人等の行き来をスムーズの行うことができるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明を具体化した実施の形態を示し、レール上に取り付けられた移動阻止部材の作動時の状態を示す一部破断側面図である。
【図2】図1における移動阻止部材の否作動時の状態を示す一部破断側面図である。
【図3】図1における正面図であって、移動阻止部材の作動状態を示す正面図である。
【図4】図3における移動阻止部材の否作動時の状態を示す正面図である。
【図5】この発明を具体化した舞台を示し、緞帳が最終収納位置に収納された状態を示す一部切欠平面図である。
【図6】図5の舞台において、緞帳が最終収納位置より手前の任意の位置に収納された状態を示す一部切欠平面図である。
【図7】従来技術を示すオペラカーテンの吊物用開閉装置を示す斜視図である。
【図8】従来技術の舞台を示す一部切欠平面図である。
【図9】図8に示す従来技術の舞台において、レール部分の長さを変更した状態を示す一部切欠平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、図示するところは、この発明の幕の収納構造が多目的ホールの舞台に使用する緞帳の収納構造に具体化されてなる。
【0020】
すなわち、図示する緞帳の収納構造は、図1および図3に示すように、舞台39(図5および図6参照)の上方から吊下げ支持されたバトン31(図3参照)と、このバトン31に連結されたレール32と、このレール32に沿って移動可能に配置された複数のランナー33(図1参照)と、これらのランナー33に吊下げられた幕としての緞帳34(図1参照)とから構成される。
【0021】
そして、この緞帳の収納構造にあっては、上記緞帳34が上記レール32の最終収納位置に折り畳まれた状態で収納されるもので、上記レール32の上記最終収納位置よりも手前の任意の位置に、作動時に上記ランナー33の移動軌跡上に突出して当接することでこのランナー33の移動を阻止する移動阻止部材36(図1参照)を有している。
【0022】
以下、上記多目的ホールの構造と併せてさらに詳述すると、図5および図6に示すように、この多目的ホール38は、各図中で右側たる最も客席側となる舞台39の一側面に奈落等へ通じる階段40を備えた階段室41が設けられると共に、この階段室41は、扉42を介して舞台袖部通路43に通じている。
【0023】
そして、この舞台袖部通路43は、舞台39の最も奥にある楽屋側(図示なし)へ通じており、上記奈落等とこの楽屋室との間の行き来は、上記階段40,階段室41および舞台袖部側通路43を経由して行われる。
【0024】
一方、上記バトン31に連結されたレール32は、この舞台39の最前列に配置されており、その端部は、舞台袖部通路43の上方まで延設されて舞台39の側壁39aに近接する状態に配置され、これによって、上記多目的ホール38では、上記舞台袖部通路43上が緞帳34の最終収納位置となっている。
【0025】
上記レール32は、図1および図2に示すように、本体32aと、この本体32aから下方に延設されて下端に左右一対のレール部32bを有する延長部32cとで形成されている。
【0026】
そして、このレール32は、図3および図4に示すように、ボルト37およびナット(図示せず)によりバトン31を挟持する挟持片35aと、上記本体32aに対してボルト37およびナット(図示せず)により固定された連結片35bとから構成された複数個の連結具35を介して連結固定されている。
【0027】
図1および図2に示すように、上記ランナー33は、断面コの字状をなす枠体33aと、この枠体33a内に回動可能に軸支されるとともに、上記左右一対のレール部32bをそれぞれ上下に挟むように配置された上下二対のローラ33bとを備えており、枠体33aの下面にはマスターランナー44を介して上記緞帳34が吊下げ支持されている。
【0028】
上記ランナー33のうち、最も端部側となるランナー33には、図1および図2に示すように、その枠体33aの舞台側側面に対して固定ボルト45cで固定された基部45aと、この基部45aの上部を上記舞台側に向かって略直角に折曲形成してなる腕部45bとから構成された係止部材45が取り付けられており、この腕部45bの移動軌跡上に後述するストッパピンが突出して当接することで、このランナー33の移動を阻止する。
【0029】
上記移動阻止部材36は、図5に示すように、上記手前の任意の位置としての上記舞台袖通路43と対向しない舞台39側に設けられると共に、その前方内側には側面反射板47が回動可能に設けられている。
【0030】
そして、移動阻止部材36は、図1乃至図4に示すように、上記本体32aにボルト37およびナットプレート37bにより固定されて舞台側に向かって延設された板状の連結板36aと、この連結板36aの先端に取り付けられて上下方向に向かって延設された板状の取付板36bと、この取付板36bに設けられたストッパピン操作部48とから構成されている。
【0031】
このストッパピン操作部48は、上記取付板36bにボルト37留めされた上側および下側ガイド板58a,58bを備えたコの字状をなすガイド金具58と、上記取付板36bの下端を客席側に屈曲形成してなる基板36cと、これら上下ガイド板58a,58bおよび基板36cを貫通するよう挿入配置された左右一対のストッパピン59と、下側ガイド板58bおよび基板36c間におけるストッパピン59の外周に配置されるとともに、その附勢力で常に上記ストッパピン59を上方へ押圧附勢するコイルスプリング60と、両ストッパピン59間に設けられるとともに、基板36cに穿設された固定孔36d(図1および図2参照)に挿入可能に配置されたプッシュキャッチ61(図3および図4参照)とを備えている。
【0032】
また、上記両ストッパピン59の下端にはこれらを連結する連結板62がナット62bにより固定されており、この連結板62の下面中央部には操作レバーを63備えた操作ひも64が取り付けられている。
【0033】
したがって、この操作レバー63を把持して下方に引っ張ると、上記両ストッパピン59がコイルスプリング60を圧縮させながら下降するとともに、プッシュキャッチ61が固定孔36d内に挿入されることで、図2および図4に示すように、待機位置に固定され、再度操作レバー63を下方に引っ張ることで上記プッシュキャッチ61が挿入孔36dから外れ、コイルスプリング60の附勢力によってストッパピン59が上昇して上側ガイド板58aを貫通した状態、すなわち、図1および図3に示すような作動位置に配置される。
【0034】
なお、図示はしないが、上記ランナー33は複数個がロープによって連結されるとともに、このロープがレール32の端部においてプーリーを介してバトン31上に配置された電動モータに巻回されており、この電動モータの駆動によって緞帳の開閉動作を行うリヤホールドランナー方式の電動式カーテンレール構造を採用している。
【0035】
上記のように構成された本実施の形態の作用を説明すると、たとえば、舞台の公演が開始され、緞帳34が開かれる場合には、上記電動モータを駆動させることで上記ロープを引っ張り、複数個のランナー33を上記レール32の最終収納位置へ向かって引き寄せることで、上記緞帳34を折り畳みながら収納する。
【0036】
このとき、上記移動阻止部材36を作動位置、すなわち、図1および図3に示すような上記ストッパピン59が上昇して上側ガイド板58aを貫通した状態にすると、このストッパピン59は、最も端部側のランナー33の上記腕部45bの移動軌跡上に突出することになるので、最終収納位置に向かって収納途中となる最も端部側のランナー33は、その腕部45bがストッパピン59に当接してこのランナー33の移動が阻止される。
【0037】
したがって、上記緞帳34は、図6に示すように、上記舞台袖通路43と対向しない舞台側に一時的に収納されることになるので、人等が上記舞台側通路43を通過する際、この緞帳34が邪魔にならない。
【0038】
また、この状態の緞帳34と近接した位置に設けられた側面反射板47を図6中、矢印Rで示す方向へ回動させて使用状態とする場合には、上記移動阻止部材36の操作レバー63を把持して下方に引っ張ると、上記両ストッパピン59がコイルスプリング60を圧縮させながら下降するとともに、プッシュキャッチ61が固定孔36d内に挿入されることで、図2,4に示すように、ストッパピン59が待機位置に固定される。
【0039】
すると、最も端部側のランナー33の上記腕部45bの移動軌跡上に突出していたストッパピン59がなくなるので、上記電動モータを駆動させれば、舞台袖通路43と対向しない舞台39内側に一時的に収納されていた緞帳34は図5に示す上記最終収納位置に収納される。
【0040】
したがって、上記側面反射板47を図5中、矢印Rで示す方向へ回動させれば、上記側面反射板47は緞帳34に当接することなく作動状態となる。
【0041】
以上、詳述したように、本実施の形態によれば、上記移動阻止部材36のストッパピン59を作動させて上記ランナー33の腕部45bの移動奇跡上に配置することで、最終収納位置に収納途中の緞帳34を、その最終収納位置よりも手前の任意の位置、すなわち、舞台袖部通路43に対抗しない舞台39内側に一旦止めておくことができるばかりでなく、その必要が無くなれば、ストッパピン59を下降させて上記腕部45bの移動奇跡から退避させることで、一旦止めた緞帳34の移動を可能とするから、最終収納位置に簡単に移動させて収納できる。
【0042】
また、上記移動阻止部材36の構成として、手動操作によって上記腕部45bの移動奇跡上にストッパピン59を配置したので、簡単な構成で容易に実施化が可能である。
【0043】
また、上記ストッパピン59を、左右一対としたので、これらストッパピン59間に腕部45bを配置させるようにストッパピン59を作動させれば、この一対のストッパピン59で上記緞帳34の移動を停止させる作用と、この停止状態を保持させる作用の両方を行える。
【0044】
なお、本実施の形態では、上記移動阻止部材36の構成を、左右一対のストッパピン59と、これらストッパピン59をコイルスプリング60の弾性力を利用して上下方向に移動可能としたが、この構成に限定されるものではなく、ストッパピン59は一個でも良く、また、ストッパピン59を上下動可能とする構成も、電動式や油圧式、空圧式等に任意の構成を採用できる。
【0045】
また、本実施の形態では、上記幕として緞帳34を使用したが、この構成に限定あされるのではなく、他の幕に具体化しても良いことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
多目的ホールの舞台に使用する緞帳の収納構造への具現化に向く。
【符号の説明】
【0047】
31 バトン
32 レール
33 ランナー
34 幕たる緞帳
36 移動阻止部材
39 舞台
43 舞台袖部通路
45 係止部材
45a 基部
45b 腕部
59 ストッパピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
舞台の上方から吊下げ支持されたバトンと、このバトンに連結されたレールと、このレールに沿って移動可能に配置された複数のランナーと、これらのランナーに吊下げられた幕とから構成されるとともに、上記幕が上記レールの最終収納位置に折り畳まれた状態で収納される幕の収納構造において、上記レールの上記最終収納位置よりも手前の任意の位置にその作動時に上記ランナーの移動軌跡上に突出して当接することでこのランナーの移動を阻止する移動阻止部材を設けたことを特徴とする幕の収納構造。
【請求項2】
上記最終収納位置が舞台の袖部に配置された舞台袖通路と対向する部分であり、上記手前の任意の位置は上記舞台袖通路と対向しない舞台側とされてなる請求項1に記載の幕の収納構造。
【請求項3】
上記複数のランナーのうち、最も端部側のランナーには係止部材が設けられ、この係止部材の移動軌跡上に上記移動阻止部材が突出して当接すしてなる請求項1に記載の幕の収納構造。
【請求項4】
上記係止部材がランナーに固定ボルトで固定された基部と、この基部を略直角に折曲形成してなる腕部とから構成されるとともに、この腕部の移動軌跡上に上記移動阻止部材が突出して当接してなる請求項3に記載の幕の収納構造。
【請求項5】
上記移動阻止部材が手動操作によって上記腕部の移動軌跡上に出没する一対のストッパピンを備えてなる請求項4に記載の幕の収納構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−274032(P2010−274032A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131937(P2009−131937)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(304039065)カヤバ システム マシナリー株式会社 (185)
【Fターム(参考)】